説明

滑り止めマット裏面材とその製造法

【課題】
主に自動車内のフロアカーペット上に敷設する滑り止めマット用であり、カーペット上で滑らず且つ比較的軽量で吸音性が優れた滑り止めマット裏面材を提供する。
【解決手段】
繊度が30デシテックス以上である少なくとも1種の太径繊維10〜40%と、繊度が15デシテックス以下である少なくとも1種の細径繊維40〜90%とで構成され、細径繊維は密に絡合してパンチ面の反対側に偏在してマット表面が柔軟で嵩高であり、一方、太径繊維は絡合が少なくて主にパンチ面側に残存し、該パンチ面側を毛焼き処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車内のフロアカーペット上に敷設する滑り止めマットに用い、カーペット上で滑らず且つ比較的軽量で吸音性が優れた滑り止めマット裏面材とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロアカーペットは、一般に、タフトカーペットまたはニードルパンチの立毛カーペットからなり、該カーペットを自動車内部の床面全体に敷きつめて一体的に接着する(図8参照)。このフロアカーペットは、一旦、全面接着すると容易に貼り替えできないため、特に汚れやすい座席の下方に部分的に敷設する滑り止めマットがオプション品として販売されており、自動車用品としてかなりの販売実績を達成している。滑り止めマットは、通常、フロアカーペットと同様の素材である。
【0003】
この滑り止めマットは、その裏面が基布のジュートやラテックスのバッキングであるとフロアカーペット上で滑って危険であるため、該滑り止めマットには、フロアカーペット上で滑らないようにPVCやゴム製の小突起を裏面全体に塗布・形成する。この滑り止めマットは、その裏面全体に小突起が形成されていても、滑り止め性が万全とはいえず、雨水などでフロアカーペット表面が濡れると滑りやすくなる。このため、滑り止めマットについて、スパイク状に加工したPVCやゴム製シートをマット裏面に貼り合わせ、滑り止め性を高めていた。
【0004】
また、実用新案登録第3028700号は、本出願人が出願したものであり、所要の不織布は、カードラップに基布を介在させてロッキングニードルでニードルパンチし、パンチ裏面に毛足の長い毛羽を出す。ついで、パンチ裏面の毛羽を直炎で部分的に溶融することにより、塊状化した毛羽で不織布の滑り止め効果を得る。特開2002−4163号は、本出願人らが出願したものであり、繊維ウエブをレギュラーニードルで絡合させた後に、フォークニードルを用いて繊維を突出させる。次に、得たニードルパンチ不織布の表面から突出した繊維のみを切断するシャーリング処理を実施し、シャーリング処理した繊維の先端に樹脂塊を形成するように、ガス毛焼き機による直炎で熱処理する。また、特開2008−2009号は、混綿した繊維ラップに上下方向からニードルパンチ処理を施し、得たニードルパンチ不織布について、コード機によって畝状、格子目状またはジグザグ状にループ起毛部を突出形成する。次に、突出した起毛繊維の先端を溶融し、この溶融塊によって不織布表面の意匠性および滑り止め性が優れている。
【特許文献1】実用新案登録第3028700号公報
【特許文献2】特開2002−4163号公報
【特許文献3】特開2008−2009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
滑り止めマットについて、スパイク状に加工したPVCやゴム製シートをマット裏面に貼り合わせると、マット重量が大きくなりすぎるので好ましくない。実用新案登録第3028700号では、パンチ裏面に毛足の長い毛羽を出すために針深さの大きいニードルパンチを施こすことにより、パンチ裏面の毛羽の数は多くなっても、不織布自体の厚さは従来よりも薄くなってしまう。この結果として、得た不織布は、他のカーペット素材の裏面に接着して用いるものであっても、吸音性などについての改善が少なく、クッション性の点の良化も小さい。
【0006】
また、特開2002−4163号は、レギュラーニードルで絡合させた後にフォークニードルを用いて繊維を突出させるため、2度のニードルパンチ処理が必要であり、さらにシャーリング処理も実施しなければならない。このため、不織布の製造工程が増えてコスト高になるうえに、不織布自体の厚さも不十分であり、該不織布は他のカーペット素材の裏面に接着して用いるものであっても、吸音性およびクッション性についての良化が小さい。特開2008−2009号は、柄出し作業を必要とするから、一般のパンチカーペットと比較して作業工程が増えてコスト高になる。このニードルパンチ不織布は、ループ起毛部を畝状、格子目状またはジグザグ状に突出形成するので、不織布全面が滑り止め効果を有する場合と比べて不十分になりやすい。
【0007】
本発明は、従来の滑り止めマットに関する前記の問題点を改善するために提案されたものであり、比較的嵩高でクッション性が高く、さらに吸音性が優れている滑り止めマット裏面材とその製造法を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、自動車内部などのカーペット上に敷設すると、該カーペット表面で滑ることが少ない滑り止めマット裏面材とその製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る滑り止めマット裏面材は、繊度が30デシテックス以上である少なくとも1種の太径繊維10〜40%と、繊度が15デシテックス以下である少なくとも1種の細径繊維と40〜90%で構成するニードルパンチフェルトである。本発明のマット裏面材では、細径繊維は密に絡合してパンチ面の反対側に偏在してマット表面が柔軟で嵩高であり、一方、太径繊維は絡合が少なくてパンチ面側に残存し、該パンチ面側を毛焼き処理することにより、太径繊維の小塊状物をマット底面に形成している。
【0009】
本発明の滑り止めマット裏面材において、太径繊維および細径繊維がポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維および/またはアクリル繊維であると好ましい。
【0010】
本発明に係る滑り止めマット裏面材の製造法では、繊度が30デシテックス以上である太径繊維10〜40%と、繊度15がデシテックス以下である細径繊維40〜90%とを均一に混綿し、カーディングによってラップを形成して所定の厚みに積み重ねる。細番手のニードルを用いて針深さを浅く且つ針密度を高くニードルパンチすることにより、該ニードルのキックバーブで主に細径繊維を取り込んで密に絡合させ、該細径繊維をパンチ面と反対側に厚く偏在させるとともに、太径繊維を主にパンチ面側に残存させ、ついでパンチ面側を毛焼き処理することにより、マット底面であるパンチ面において、太径繊維の小塊状物を形成する。
【0011】
本発明のマット裏面材の製造法において、カードラップは、さらに低融点の熱融着性繊維を1〜20%含有していてもよい。細番手のニードルは、番手が#35〜50であると好ましい。また、細番手のニードルを用いて、針深さ3〜10mmおよび針密度70〜200本/cmでニードルパンチすると好ましい。
【0012】
マット裏面材の製造法において、細番手のニードルを用いてニードルパンチする前に、そのパンチ面よりも低い針密度で該パンチ面と同じ側または反対側から予備ニードルパンチを行ってもよい。この予備ニードルパンチは、針深さが5〜15mmおよび針密度が30〜120本/cmであると好ましい。
【0013】
本発明を図面に基づいて説明すると、本発明の滑り止めマット裏面材18(図5)は、図2または図6のように、カードラップ1をニードルパンチしてから毛焼き処理することによって製造する。カードラップ1は、繊度が30デシテックス以上である少なくとも1種の太径繊維2を10〜40%と、繊度が15デシテックス以下である少なくとも1種の細径繊維3を40〜90%含有することが必要である。
【0014】
この際に、繊度30デシテックス以上の太径繊維2が全量の10〜40%存在しないと、マット底面に小塊状物16(図5)をほぼ均一に形成することができず、マット裏面材18の滑り止め効果が低下する。一方、繊度15デシテックス以下の細径繊維3が全量の40〜90%存在しないと、マット裏面材18を柔軟で嵩高にすることができない。カードラップ1は、所定の厚みになるようにラップ複数枚を積み重ねることを要する。
【0015】
大径繊維2および細径繊維3は、同一または異なる少なくとも1種の原料繊維からなり、該原料繊維として、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維および/またはアクリル繊維などが例示できる。この原料繊維として、反毛(回収再生綿)も使用できる。この原料繊維のほかに、羊毛,木綿などの天然繊維,レーヨン繊維、アセテート繊維などの化学繊維を一部含んでいてもよい。耐久性とコストの点からは、反毛を含むポリエステル繊維が好ましい。
【0016】
所望に応じて、カードラップ1は、さらに低融点の熱融着性繊維を1〜20%含有してもよく、該繊維を熱処理時や毛焼き処理時に融着させ、毛抜けを防ぎ且つ生地に締まりを与えるようにフェルト素材10をセットすればよい。典型例として、カードラップ1は、4.4デシテックスの低融点ポリエステル繊維2%と、44デシテックスのポリエステル繊維30%と、3.3デシテックスのポリエステル繊維68%とで構成され、太径繊維2と細径繊維3との間に繊度に極端な差を与えることが望ましい。
【0017】
カードラップ1は、所定の厚みになるようにラップ複数枚を積み重ね、ついで図2に示すように、細番手のロッキングニードル5を用いてニードルパンチする。ニードル5は、公知のニードルマシンに多数本取り付け、針深さを浅く且つ針密度を高くすることを要する。ロッキングニードル5は、例えば、断面が三角形で9個のキックバーブ(逆とげ)であり、細番手のニードル5はキックバーブ(図示しない)が小さいので、太径繊維2よりも細径繊維3を優先的にキックバーブに取り込んで絡合させる。
【0018】
所望に応じて、図6に示すように、ニードル7による予備ニードルパンチ8を行うことができる。予備ニードルパンチ8のパンチ面は特に限定されず、ニードル5による実質ニードルパンチ6のパンチ面と同じ側から行うと、より片面に太径繊維2が配されて滑り止め効果が大きくなり、反対側から行うと、これによってフェルト生地の締まりが良くなる。予備ニードルパンチ8では、針深さを5〜15mmおよび針密度を30〜120本/cmに定めると好ましい。予備ニードルパンチ8は、ニードル5による実質ニードルパンチ6に比べて、針番手が多少小さく、針深さが多少深く且つ針密度が低いことにより、ラップ全体においてフェルト化があらかじめ多少進行する。この際に、ラップ内における太径繊維2は、ニードル7と絡むことが少なくて殆ど移動せず、細径繊維3がラップ上方10bまたは下方10aへ若干送られることになる。
【0019】
図2に示す実質ニードルパンチは、番手#35〜50のニードル5で針深さ3〜10mmおよび針密度70〜200本/cmで行うことが望ましい。このように針深さを浅く且つ針密度を高くニードルパンチすると、ニードル5のキックバーブに取り込んだ細径繊維3を絡合と同時にラップ下方10aへ送ってフェルト厚みを確保し、該ラップ下方において主に細径繊維3が絡合してフェルト化できる。一方、このニードルパンチにおいて、太径繊維2はニードル5との絡みが少なく、そのままラップ上方10bに残って偏在するので、フェルト表面12に硬くて緻密な小塊状物16(図5)を形成することが容易になる。
【0020】
得たフェルト素材10(図4)は、主として絡合した細径繊維3によって厚みが確保されており、ニードル5との絡みが少ない太径繊維2はフェルト表面12側に残存する。フェルト素材10中に低融点ポリエステル繊維を含む場合には、該フェルト素材10を150〜200℃で1〜3分間熱処理すると低融点ポリエステル繊維が融着し、生地に締まりを与えて毛抜けを防ぐようにセットできる。また、この熱処理を省略して、次の毛焼き処理で低融点ポリエステル繊維を融着させることも可能である。
【0021】
フェルト素材10(図4)の表面12は、滑り止め効果を高めるために、500〜1200℃で短時間加熱しておもに太径繊維2を部分的に溶融すればよい。この加熱手段としては、ガス毛焼き機14による直炎または遠赤外線加熱機などを用いる。この部分溶融は、フェルト表面12の繊維の収縮も含めて一様である必要はないが、少なくとも太径繊維2の一部を塊状化させて小塊状物16(図5)をほぼ均一に形成し、マット裏面材18の滑り止め効果を大きくすることを要する。
【0022】
滑り止めマット裏面材18は、通常、表面材19(図7)と貼り合わせた後に、適当な寸法に裁断し、図8に例示するように、滑り止めマット20として自動車21のフロアカーペット22の上に敷設できる。この際に、マット底面を粗面化していることにより、フロアカーペット22上で踏圧でマット20が移動したりずれたりすることを回避できる。また、滑り止めマット裏面材18は、そのままで滑り止めマットとして使用したり、通常のカーペット上に敷設することが多いラグカーペットや電熱カーペット用裏面材としても利用できる。
【0023】
用いる表面材19は、意匠性があって感触性が良好な素材であると好ましい。表面材19として、ニードルパンチカーペット、縦編みパイル,タフテッドカーペットやウィルトンカーペットなどのパイル素材、繊維マット、合成樹脂シート、クッションフロアシートなどが例示できる。
【0024】
滑り止めマット裏面材18は、比較的厚くてクッション性を有し、吸音性にも富んでいる。また、マット表面は細径繊維3が多くて感触性が良好であり、マット単体で使用することも可能である。裏面材18自体は比較的柔軟で屈曲しやすいので、フロアカーペット22にフィットさせやすく、コーナー部における皺発生を回避できる。しかも自動車21を廃棄して焼却処分する際に、マット裏面材18から公害源となる塩素ガスなどの有毒ガスも殆ど発生しない。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る滑り止めマット裏面材は、ニードルパンチフェルトにおいて細径繊維が密に絡合してパンチ面の反対側に偏在してマット表面が柔軟で嵩高であり、マット単体として使用することも可能である。本発明で得た滑り止めマットは、比較的嵩高でマット表面に細径繊維が偏在するので、自動車用として吸音性が良好であって、触感が良好であってクッション性にも富んでいる。この滑り止めマットは、ニードルパンチフェルトであるので洗濯可能であり、汚れた際には自動車から取り出して水洗いすればよく、廃棄処分の際に公害が発生しない。
【0026】
本発明の滑り止めマット裏面材では、太径繊維は絡合が少なくてパンチ面側に残存し、このパンチ面側を毛焼き処理すると、太径繊維の小塊状物をマット底面に形成できる。本発明のマット裏面材において、太径繊維は、マット底面に集まっているうえに、比較的硬くて変形することが少ないので、滑り止めマットの滑り止め効果は従来の同等品より勝っている。本発明で得た滑り止めマットは、自動車のフロアカーペットの上に敷設されると、マット裏側の硬い大径繊維の粗面化により、フロアカーペット上で踏圧でマットが移動したりずれたりせず、この際にフロアカーペット表面が濡れていても安全である。
【0027】
本発明のマット裏面材の製造法では、ニードルパンチ処理と同時に細径繊維と太径繊維を上下方向に分けて偏在させ、この偏在の際に特別な処置を必要としないから、従来のニードルパンチフェルト製造と実質的に同じ工程数である。本発明の裏面材の製造法は、既存の滑り止め不織布製造法と比べて、針深いニードルパンチを施したり、シャーリング処理や部分的起毛処理を必要としないから、製造工程や製造時間などの点で有利であり、生産コストも全体として相当に安価になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。この実施例では、図6に示すようにニードルパンチ処理を2回行っているけれども、実際にはニードルパンチ処理は1回だけでよい。
【0029】
図1に示すカードラップ1を得るため、太径繊維2と細径繊維3とを混綿する。実際には、繊度37デシテックスの白色レギュラーポリエステル繊維(太径繊維2)20重量%、繊度3.3デシテックスの黒色レギュラーポリエステル繊維(細径繊維3)38重量%、繊度6.6デシテックスの黒色レギュラーポリエステル繊維(細径繊維3)40重量%、繊度4.4デシテックスの低融点ポリエステル繊維2重量%を均一に混綿し、ついでカーディングを行い、ラップ複数枚を積み重ねて長寸のカードラップ1を得た。
【0030】
カードラップ1には、図2に示すように、細番手のロッキングニードル5を用いてニードルパンチ処理を施した。実際には、図6に示すように、長寸のカードラップ1をニードルマシンに送り込み、ニードル7による予備ニードルパンチ8を下方から行ってから、ニードル5による実質ニードルパンチ6を上方から行った。
【0031】
図6において、下方からの予備ニードルパンチ8では、針番手#36のニードル7を用いて、針深さ8mm、針密度60本/cmであった。予備ニードルパンチ8は、実質ニードルパンチ6と比べて針番手が多少小さく、針深さが多少深く且つ針密度が低いことにより、ラップ全体においてフェルト化があらかじめ多少進行した。この際に、太径繊維2は殆ど絡合せず、細径繊維3がラップ上方10bへ多少送られるだけである。
【0032】
次の実質ニードルパンチ6では、針番手#40のニードル5を用いて、針深さ5mm、針密度111本/cmであった。細番手のロッキングニードル5で針深さを浅く且つ針密度を高くニードルパンチすると、該ニードルはキックバーブが小さいので、太径繊維2よりも細径繊維3を優先的にキックバーブに取り込んでラップ上方10bから下方10aへ積極的に送り、ラップ下方10aにおいて主に細径繊維3を絡めてフェルト化させる。一方、このニードルパンチ6において、太径繊維2はニードル5との絡みが少なく、ラップ上方10bに残りがちである。
【0033】
このニードルパンチ処理により、厚さ4.8mm、目付600g/m、密度124kg/mのフェルト素材10(図3)を得た。フェルト素材10は、主として細径繊維3によって厚みが確保されており、ニードル5との絡みが少ない太径繊維2はフェルト表面12側に残存する。フェルト素材10は、150℃で3分間熱処理することで低融点ポリエステル繊維を融着させ、生地に締まりを与えるように該フェルト素材をセットした。
【0034】
ついで、図4に示すように、フェルト素材10の表面12について、ガス毛焼き機14による直炎で表面の太径繊維2を部分的に溶融した。この部分溶融により、図5に示すように、フェルト表面12の太径繊維2の一部が塊状化し、マット底面の全体に太径繊維2の小塊状物16が形成され、マット裏面材18の滑り止め効果が大きくなる。
【0035】
得た滑り止めマット裏面材18は、意匠性のある表面材19(図7)と貼り合わせた後に、適宜の寸法に裁断してから、周囲をミシンでオーバーロックして滑り止めマット20を作製した。マット裏面材18を適宜の自動車21(図8)のフロアカーペット22の上に敷設すると、該マットの底面を粗面化していることにより、フロアカーペット22上で踏圧で移動したりずれたりしない。また、滑り止めマット20は、廃棄処分の際に焼却しても有毒ガスが殆ど発生しない。
【0036】
比較例1
滑り止めマットを製造するため、繊度15デシテックスのポリエステル繊維100重量%からなるカードラップを用いる。このラップ全体を通常のロッキングニードルでニードルパンチングして、厚さ3mmのフェルトを得た。次にフォークニードルを用いて針密度60本/cmでパンチングしてパイルを立毛させた。
【0037】
次に、厚さ3mmの立毛フェルト素材の裏面全体に接着剤を塗布し、スパイク状に加工した厚さ1.5mmのポリ塩化ビニル製シートを貼り合わせる。得た滑り止めマットは、目付が1920g/mであった。
【0038】
比較例2
滑り止めマットを製造するため、繊度17デシテックスのポリエステル繊維100重量%からなるカードラップを用いる。このラップ全体を通常のロッキングニードルによって針密度50本/cmで針深くニードルパンチし、パンチ裏面に毛足の長い毛羽を出す。ついで、パンチ裏面の毛羽を直炎で部分的に溶融することにより、塊状化した毛羽を有するマットを得た。得たマットは、厚さ2.1mm、目付280g/m、密度133kg/mであった。
【0039】
比較例3
厚さ重視の滑り止めマットを製造するため、繊度17デシテックスのポリエステル繊維100重量%からなるカードラップを用いる。このラップ全体を通常のロッキングニードルによって針密度30本/cmで針深くニードルパンチし、パンチ裏面に毛足の長い毛羽を出す。ついで、パンチ裏面の毛羽を直炎で部分的に溶融することにより、塊状化した毛羽を有するマットを得た。得たマットは、厚さ2.8mm、目付420g/m、密度150kg/mであった。
【0040】
比較例4
目付の高い滑り止めマットを製造するため、繊度17デシテックスのポリエステル繊維100重量%からなる比較的厚いカードラップを用いる。このラップ全体を通常のロッキングニードルによって針密度80本/cmで針深くニードルパンチし、パンチ裏面に毛足の長い毛羽を出す。ついで、パンチ裏面の毛羽を直炎で部分的に溶融することにより、塊状化した毛羽を有するマットを得た。得たマットは、厚さ4.5mm、目付800g/m、密度178kg/mであった。
【0041】
実施例および比較例2〜4のマットについて滑り止め性能を試験するために、それぞれについて100×150mmに裁断したサンプルを作製した。被試験材料のフロアカーペットは、一般的なプレーン、ベロア、ディロアの3種類である。
【0042】
試験方法:各サンプルをフロアカーペットの上に静かに置き、さらに重さ1kg、表面積100×100mmの重りを載せる。プッシュフルゲージをサンプル穴に引っ掛け、水平方向に引っ張ってピーク値を読み取る。この引っ張り作業を3回繰り返し、その平均値を評価する。その結果は、次の表1の通りである。
【0043】
また、実施例および比較例2〜4のマットの吸音性能を比較して、合わせて表1に示す。吸音性能は、4206型インピーダンス測定管を用いたシステム(スペクトリス社製)を使用し、JIS A11405−1に準じて測定し、500、1000、2000、5000Hzのデータを比較した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、比較例1のマットは、実施例1の滑り止めマットに比べて同じ厚みで重量が3倍以上と重く、取扱い性などが著しく悪くなってしまう。また、実施例の滑り止めマットを比較例2,3のマットと比較すると、特殊用途であるベロア調のフロアカーペットに対しては同等であるが、それ以外については、実施例の滑り止めマットはより滑り止め効果が優れていた。吸音性能についても同等以上であった。
【0046】
さらに、実施例の滑り止めマットを比較例4のマットと比較すると、厚さや滑り止め性能はほぼ同等であっても、実施例の滑り止めマットは、いっそう軽量であり、且つ嵩高の繊維構造を有しているため、吸音性能がより優れている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明で用いるカードラップを示す概略側面図である。
【図2】カードラップをニードルパンチする状態を示す概略側面図である。
【図3】ニードルパンチ処理したフェルト素材を示す概略側面図である。
【図4】フェルト素材を毛焼き処理する状態を示す概略側面図である。
【図5】本発明に係る滑り止めマット裏面材を示す概略側面図である。
【図6】カードラップのニードルパンチ処理の一具体例を示す概略説明図である。
【図7】滑り止めマットの一例を示す概略断面図である。
【図8】滑り止めマットの使用例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 カードラップ
2 太径繊維
3 細径繊維
5 ロッキングニードル
6 ニードルパンチ
8 予備ニードルパンチ
10 フェルト素材
14 ガス毛焼き機
18 滑り止めマット裏面材
20 滑り止めマット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が30デシテックス以上である少なくとも1種の太径繊維10〜40%と、繊度が15デシテックス以下である少なくとも1種の細径繊維40〜90%とで構成するニードルパンチフェルトであって、細径繊維は密に絡合してパンチ面の反対側に偏在してマット表面が柔軟で嵩高であり、一方、太径繊維は絡合が少なくて主にパンチ面側に残存し、該パンチ面側を毛焼き処理することにより、太径繊維の小塊状物をマット底面に形成している滑り止めマット裏面材。
【請求項2】
太径繊維および細径繊維がポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維および/またはアクリル繊維である請求項1記載の滑り止めマット裏面材。
【請求項3】
繊度が30デシテックス以上である太径繊維10〜40%と、繊度が15デシテックス以下である細径繊維40〜90%とを均一に混綿し、カーディングによってカードラップを形成して所定の厚みに積み重ね、細番手のニードルを用いて針深さを浅く且つ針密度を高くニードルパンチすることにより、該ニードルのキックバーブで主に細径繊維を取り込んで密に絡合させ、該細径繊維をパンチ面と反対側に厚く偏在させるとともに、太径繊維を主にパンチ面側に残存させ、ついでパンチ面側を毛焼き処理することにより、マット底面であるパンチ面において、太径繊維の小塊状物を形成する滑り止めマット裏面材の製造法。
【請求項4】
カードラップは、さらに低融点の熱融着性繊維を1〜20%含有する請求項3記載の製造法。
【請求項5】
細番手のニードルは、番手が#35〜50である請求項3記載の製造法。
【請求項6】
細番手のニードルを用いて、針深さ3〜10mmおよび針密度70〜200本/cmでニードルパンチする請求項3または5記載の製造法。
【請求項7】
細番手のニードルを用いてニードルパンチする前に、そのパンチ面よりも低い針密度で該パンチ面と同じ側または反対側から予備ニードルパンチを行う請求項3記載の製造法。
【請求項8】
予備ニードルパンチは、針深さが5〜15mmおよび針密度が30〜120本/cmである請求項3または7記載の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−7190(P2010−7190A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165432(P2008−165432)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000136413)株式会社フジコー (26)
【Fターム(参考)】