説明

潤滑剤組成物

【課題】成分の熱安定性、潤滑性能の長期安定性(摩擦疲労特性)、冶具への潤滑剤の接着性及び成分の人体への安全性に優れる潤滑剤の提供。
【解決手段】油相(O相)成分として基油成分、界面活性剤、固体超微粒子を混合してなる構成とし、水相(W相)側には水性塗料(AP)を含有させた、O/W型エマルションである潤滑剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤組成物に関する。さらに詳しくは、水性塗料を含む潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑性能に耐熱性を要求される器具として、ガスコンロ・ガスオーブン・ガスファーン・ガス温水機器等が代表例として挙げられる。例えば、ガスコンロの火災防止センサーの取り付け冶具の摺動・軸受・ギヤー等には、従来、油性タイプの二硫化モリブデン(以下MoS2と表すことがある)に接着剤としてポリブチルチタネート等を添加し溶剤と混合したものが潤滑剤として部材に塗布し固着させて用いられていた。
【0003】
また、油性タイプの潤滑剤に固体潤滑剤を分散した潤滑剤で処理して金属成形加工をおこなった場合、成形ロールやプレス金型に付着する潤滑油は、表面に処理した被膜によって耐食性や潤滑性は良好であるが、汚染や熱による着色が大きくて耐熱黄変色が悪く、耐熱性を要求される用途においては問題が発生する。この対策として、潤滑剤に、ポリエチレン系ワックス、テフロン、グラファイト、二硫化モリブデンなどをシリコーン変性アクリル樹脂に添加した水性樹脂組成物の水分散液を金属表面に塗布して乾燥することによって、被膜の耐熱黄変性や密着性を高く得ることができ、さらには、被膜の耐食性、乾燥性、耐指紋性などを改善できるとの検討がなされている(例えば、特開文献1参照)。
【0004】
また、摺動部材に使用される潤滑被膜形成用被覆剤として、耐油性および耐熱性に優れたポリイミド樹脂、エポキシ樹脂あるいはフェノール樹脂等のバインダー中に二硫化モリブデン、グラファイト微粉末あるいはカーボンファイバー等を分散させたものが使用されてきたが、環境保全に対する要請や人体への安全性に応える各分野で有機溶媒系から水系への転換が急務であるとして、親水性樹脂に硫化アンチモンと二硫化モリブデンを含む潤滑被膜形成により、優れたファレックス寿命が達成されることが開示されているが(例えば、特許文献2参照)、これらは固体潤滑剤は何れも熱安定性に乏しく、更には人体に対して毒性の疑いがあることから代替品が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−251128
【特許文献2】特開平9−272884
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の潤滑剤は、成分の熱安定性、潤滑性能の長期安定性(摩擦疲労特性)、部材への潤滑剤の接着性及び成分の人体への安全性等が課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来の潤滑剤の問題点を解消するために鋭意研究を行った結果、水性塗料を水中油型乳化物(以下、O/W型エマルションと表すことがある)に含有させたものを摩擦部位に塗布して熱風乾燥させることにより、摩擦部位に形成された潤滑被膜が、高い耐熱性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)O相(油相)側の成分として、少なくとも基油成分、界面活性剤成分、固体超微粒子を含み、W相(水相)側の成分として、少なくとも水性塗料を含むことを特徴とする、O/W型エマルションである潤滑剤組成物。
(2)固体超微粒子が、平均粒子径100nm以下のダイヤモンド質超微粒子、立方晶窒化ホウ素微粒子、又はウルツ鉱型窒化ホウ素超微粒子である(1)に記載の潤滑剤組成物。
(3)(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物を用いて、対象物に潤滑剤被膜を形成する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新しい潤滑剤組成物によれば、熱安定性の向上、潤滑性能の長期安定性(摩擦疲労特性)の向上、部材への高い接着性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の潤滑剤組成物および従来の潤滑剤組成物を用いた摩擦試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の潤滑剤組成物は、O/W型エマルションを基本構成とし、O相(油相)側の成分として、少なくとも基油成分、界面活性剤成分、固体超微粒子を含み、W相(水相)側の成分として、少なくとも水性塗料を含むことを特徴とする、潤滑剤組成物である。本発明の潤滑剤組成物は、O相側成分を混合し、そこに水で稀釈した水性塗料を徐々に添加することにより得られる。また、固体微粒子の濃度を高める目的には、油中水型(W/O)型エマルションが好ましい形態である。
【0011】
固体超微粒子としては、ダイヤモンド質超微粒子(界面活性剤で固体表面を処理したもので、以下、ND−10と呼ぶ)、ダイヤモンドより耐熱性の高い立方晶窒化ホウ素(ubic oron itride 以下CBNとも呼ぶ。)又はウルツ鉱型窒化ホウ素(urtzite−type oron itride 以下WBNとも呼ぶ。)超微粒子が好ましく、その他有機系、無機系の固体潤滑剤であっても構わない。
【0012】
本発明で使用するダイヤモンド質超微粒子やCBN、WBN超微粒子は、研磨能力を抑え優れた潤滑性能を発揚する目的で、平均粒子径(一次粒子径が一桁ナノの凝集粒子を含む)が100nm以下であることが好ましい。100nmを超える平均粒子径となると研磨による摩耗損傷が著しくなり摩擦部材の摩擦寿命が低下するからである。また、添加量については部材への付着量が潤滑性能と関係することから、少なくとも0.01から10wt%の範囲が望ましい。
【0013】
水性塗料としては加熱硬化型と常温硬化型とがある。前者にはスチレン‐ブタジエン系やアクリル酸エステル系が、後者には酢酸ビニル系等の水溶性タイプ(O/W型エマルション)が代表例で、水で稀釈された液状や粉末状でも使用でき、部材への強固な接着性が得られればこれに限定されない。
【0014】
本発明の潤滑剤組成物には、上記成分以外に、本発明の潤滑剤組成物の性能を逸脱しない範囲で、他の成分(油性剤・防錆剤・殺菌剤等の二次特性向上剤)を添加することはもちろん本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本発明の潤滑剤組成物を用いた摩擦部位への潤滑被膜の形成は、公知の方法により行うことができ、例えば、摩擦部位に本発明の潤滑剤組成物を塗布して熱風乾燥などをすることにより、乾燥被膜を形成することができる。
【実施例】
【0016】
1.本発明の潤滑剤組成物の作製
実施例における潤滑剤組成物の形態は、油相(O相)成分としては基油成分、界面活性剤、ダイヤモンド質超微粒子を混合してなる構成とし、水相(W相)側には水性塗料(AP)を含有させた、O/W型エマルションである。前記組成を記号を用いて、「O+ダイヤモンド質超微粒子/W+AP」と表し、以下、単にAP−DOと表す。AP−DOの作製方法を以下に説明する。
(1)AP−DO組成物の作製
配合例
(i)ソルビタンモノオレエート:20wt%
(ii)ポリオキシエチレン(エチレンオキシド:6mol)オレイルエーテル:9.4wt%
(iii)ND−10:15wt%
(iv)市販の水性アクリル系樹脂塗料の原液(AP)(有効成分が35wt%のもの):16wt%
(v)水:39.6wt%
*市販の水性アクリル系樹脂塗料(AP)には、日本ペイント株式会社製を使用した。
(2)作製手順
(i)から(iii)までの成分をよく混合・攪拌した中に、(iv)を徐々に添加し、最後に(v)の水を加え、有効成分濃度(AI)が50wt%のAP−DOが得られた。この時のダイヤモンド質超微粒子濃度は、1.5wt%である。なお、ダイヤモンド質超微粒子に代えてCBN又はWBN超微粒子を用いることができ、その場合の作製方法はダイヤモンド質微粒子の場合と同様である。
(3)(iii)のND−10(ダイヤモンド質超微粒子を含有する油分散基油)の作製
ダイヤモンド質超微粒子(10wt%)をポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩(3%)とポリオキシエチレン・脂肪酸エステル(3%)とを混合した2種の界面活性剤水溶液中で複合処理した後、水分を完全に除去して水分散用ダイヤモンド質超微粒子を作製する。
次に、n−パラフィン又(20wt%)中に油分散剤として高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル塩(6wt%)を添加して得られる油分散基油中に前記水分散用ダイヤモンド質超微粒子を添加し超音波を掛けて分散する。
最後に、n−パラフィン(58wt%)を加えて、ダイヤモンド質超微粒子の濃度が10wt%のダイヤモンド質超微粒子(平均粒子径が100nm以下)を含有する油分散基油(ND−10)を得た。ダイヤモンド質超微粒子代わりにCBN又はWBN超微粒子を用いる場合も、前記と同様に作製することができる。上記作製方法において、n−パラフィンの代わりにα−オレフィンを用いることもできる。
【0017】
2.潤滑性能評価試験
(1)試験方法
潤滑性能評価は曾田式振子摩擦試験機(荷重:2.96N)で摩擦疲労試験(10回繰返し試験)を行い、摩擦側測定温度が20℃及び100℃(高温度条件下)での熱安定性、潤滑性能の長期安定性(冶具への潤滑剤の接着性に対応)を調べた。
摩擦試験方法は、曾田式振子摩擦試験機のピンにAP−DO(有効成分50wt%液)を水で5倍稀釈して10wt%(このときのダイヤモンド質超微粒子の濃度は0.3wt%である)とした液をスプレーで塗布し、1分間ドライヤーで熱風乾燥したものをテストピースに用いた。
(2)試験結果
結果を図1に示す。AP−DOの潤滑性能は、測定温度が20℃(図中、AP−DO(20)で示す)及び100℃(図中、AP−DO(100))共に1回から10回まで安定した摩擦係数を示したことから、本発明の潤滑剤組成物による潤滑被覆膜は熱安定性及び長期潤滑安定性において共に優れていることが確認できた。
【0018】
3.比較試験
(1)従来の潤滑剤組成物
従来の潤滑剤組成物(スプレータイプの「乾燥被膜型潤滑剤」は東レ・ダウコーニング株式会社製を使用した。)として、油性タイプの二硫化モリブデン(MoS2)を用いた。
(2)試験方法および試験結果
試験方法は、前記2.と同じ方法で行った。結果を図1に示す。図1より、摩擦疲労試験回数の3回目辺りから急激に摩擦係数は上昇し長期潤滑安定性に乏しいことが分った。この挙動は、DTA(示差熱分析)での分解温度が100℃から硫黄が分解し始めており、摩擦疲労特性と一致していることが理解される。図中、MoS2(20)、MoS2(100)は、測定温度がそれぞれ20℃、100℃の結果を示す。
ダイヤモンド質超微粒子の代わりにダイヤモンドより耐熱性の高いCBN、WBN超微粒子を使用することで、潤滑性能のより高温化が図れることも確認できた(結果図示せず)。ダイヤモンド質超微粒子のDTA(示差熱分析)で熱特性は、500℃付近から発熱、吸熱の双方のピークが現れたが、CBN超微粒子は全くこのピークが無いことから、潤滑性能は少なくとも500℃以上でも優れることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の潤滑剤組成物は耐熱性、部材への潤滑剤の接着性、潤滑性能の長期安定性(摩擦疲労特性)に優れることから、これを潤滑性能に耐熱性を要求される部材に適用すれば、長期間にわたって器具の安全な使用が可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
O相(油相)側の成分として、少なくとも基油成分、界面活性剤成分、固体超微粒子を含み、W相(水相)側の成分として、少なくとも水性塗料を含むことを特徴とする、水中油(O/W)型エマルションである潤滑剤組成物。
【請求項2】
固体超微粒子が、平均粒子径100nm以下のダイヤモンド質超微粒子、立方晶窒化ホウ素微粒子、又はウルツ鉱型窒化ホウ素超微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物を用いて、対象物に潤滑剤被膜を形成する方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−84609(P2011−84609A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236852(P2009−236852)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(399007165)有限会社アプライドダイヤモンド (4)
【出願人】(508114801)株式会社日本油剤研究所 (4)
【Fターム(参考)】