説明

潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット

【課題】この直動転がり案内ユニットは,転動体への潤滑剤の給油を方向転換路において行うため,転動体と接触する突出部を貯油板の成形密度より大きく構成し,潤滑寿命を延長し,確実に安定して長期に給油してメンテナンスフリーを達成する。
【解決手段】エンドキャップ4の方向転換路30に連通する連通孔37を形成し,エンドキャップ4に形成された凹部31に潤滑剤含浸の多孔質成形体から成る貯油板25を配設し,貯油板25と一体構造の突出部26の露出端面46を方向転換路30の連通孔37から露出させ,突出部26から転動体のローラ5に潤滑剤を給油する。例えば,貯油板25の多孔質成形体の成形密度を0.40〜0.60g/cm3に形成し,突出部26の多孔質成形体の成形密度を0.60〜0.70g/cm3に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,長尺な軌道レール及び該軌道レール上を転動体を介して相対移動するスライダから構成され,スライダに多孔質成形体の焼結樹脂部材から構成された潤滑供給部材を設けて潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,直動転がり案内ユニットは,長尺の軌道レール又は軌道軸に対してスライダを複数の転動体(ボール又はローラ)を介して摺動自在に構成したユニットであり,転動体は軌道レールとスライダとの間に形成される軌道路とスライダに設けられたリターン路と方向転換路からなる循環路を無限循環するものである。直動転がり案内ユニットについて,軌道レールとスライダとに形成された軌道路と該軌道路を転走する転動体との直接的な金属接触を防止して,直動転がり案内ユニットの定格寿命を達成するには,軌道路と転動体との間に潤滑剤を常時必要な量だけ供給して,両者間の潤滑を確保することが不可欠である。直動転がり案内ユニットにおいて,軌道路と転動体との間における潤滑の確保は,通常,潤滑剤の定期的な供給即ち給油によって行われている。しかしながら,近年,機械装置や設備等における潤滑メンテナンスのコスト削減のため,その構成部品となる直動転がり案内ユニットにも,長期間の潤滑メンテナンスフリーに対応できるものが求められている。
【0003】
そこで,本出願人は,従来の直動転がり案内ユニットの問題点を解決するため,先に直動転がり案内ユニットを開発して特許出願した。該直動転がり案内ユニットは,転動体への潤滑剤の供給即ち給油を方向転換路内において行い,潤滑供給手段の構成を単純化し,確実に安定して給油して潤滑メンテナンスフリーを達成するものである。該直動転がり案内ユニットは,エンドキャップの端面側から方向転換路に連通する連通孔を形成し,エンドキャップの端面に形成された凹部に潤滑剤含浸の多孔質成形体から成る貯油板を配設し,貯油板の突出部を連通孔に嵌入して突出部の端面が方向転換路の壁面の一部を形成して露出している。方向転換路を転走するローラは,貯油板の突出部に接触し,それによって,貯油板の突出部を通じてローラに潤滑剤が供給され,循環路を転走するローラが潤滑されるように構成されている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,本出願人は,基本仕様を変更することなく適用可能で且つ容易に取付け・取外しができる潤滑プレートを備えた直動案内ユニットを先に特許出願した。該直動案内ユニットは,潤滑プレートが,エンドキャップの端面に配置された間座とエンドシールとの間に配置されてケーシングに取り付けられ,少なくとも軌道レールの軌道溝に摺接して軌道レールに対して相対移動する。潤滑プレートは,潤滑油が含浸された多孔質構造を有する焼結樹脂部材から構成されている。焼結樹脂部材は,合成樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形して作製される。また,潤滑プレートは,軌道レールの両側面に対応する部分に二分割された密部分と粗部分から成る潤滑プレート部分から構成され,潤滑プレート部分は密部分と粗部分とをカバー等で緊締して構成されているものである(例えば,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−100951号公報
【特許文献2】特開平10−205534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に開示された直動転がり案内ユニットは,転動体への潤滑剤の供給即ち給油を方向転換路内において行うものであり,エンドキャップの方向転換路内を転走する転動体は,同じくエンドキャップ内に設けられて潤滑剤を含浸した潤滑体である貯油板の突出部に接触し,それによって貯油板の突出部を通じて転動体に潤滑剤が供給され,循環路を転走する転動体が潤滑されるように構成されている。しかしながら,上記直動転がり案内ユニットでは,運転初期に転動体と軌道面との転がり接触の潤滑に必要十分な量よりも多めの潤滑剤が転動体に供給される状態が続き,貯油板に含まれる潤滑剤が減少してある量まで減少すると,それ以降は潤滑剤が単位距離あたりほぼ一定の減少率に保たれている。その結果,貯油板に含浸された潤滑剤は,運転初期において消費スピードが早く,運転開始から単位走行距離あたりほぼ一定の減少となる理想的な状態に比べて減少が早く,その分だけ潤滑メンテナンスフリー期間も短くなってしまうという問題があった。
【0007】
近年,直動転がり案内ユニットは,それらが組み込まれる機械装置や設備における潤滑メンテナンス工数の削減のニーズや,省資源や環境負荷低減を目的とした潤滑剤の使用量を削減のための,より長期間の潤滑メンテナンスフリーに対応できるものが求められている。そこで,直動転がり案内ユニットについて,方向転換路内で転動体に直接潤滑剤を供給する場合において,潤滑体に如何に多量の潤滑剤を含浸保持させることができ,また,運転初期において多くなる傾向にある潤滑剤供給量を抑制し,潤滑剤を転動体に長期間にわたって適正量だけスムーズに的確に供給できる潤滑メンテナンスフリーの構造を開発することが望まれていた。
【0008】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,循環路を転走する転動体への給油をスライダに設けた方向転換路内において行うため,エンドキャップに配設する多孔質成形体で成る潤滑供給部材を貯油板とそれに一体構造の突出部とから構成し,エンドキャップに対して方向転換路に開口する連通孔を形成し,突出部を連通孔から方向転換路に露出させて方向転換路の壁面の一部を構成し,突出部の少なくとも一部の成形密度を貯油板の成形密度に比較して高めて,即ち,オープンポアのポア数及びポアサイズを制限して突出部から転動体への潤滑剤の供給を適量にコントロールすることによって,転動体に供給され易い運転初期の供給量を抑制し,潤滑剤の転動体への供給の潤滑メンテナンスフリーを実現しながら,潤滑寿命を更に延長することを図ったことを特徴とする潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は,長尺な軌道レール,前記軌道レールの長手方向に摺動自在なスライダ,及び前記軌道レールと前記スライダとの間に形成される軌道路を転走する転動体を有し,前記スライダは,前記軌道路に平行に伸びる前記転動体が転走するリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面に配設され且つ前記リターン路と前記軌道路を連通して前記転動体が転走する方向転換路が形成されたエンドキャップ,及び前記エンドキャップの端面に配設されたエンドシールを有しており,
前記エンドキャップには,潤滑剤を含浸した多孔質成形体から成る貯油板と,前記貯油板から突出し且つ前記方向転換路に開口する連通孔に嵌入して前記方向転換路を転走する前記転動体に接触する壁面を備えた潤滑剤を含浸するオープンポアを備えた多孔質成形体から成る突出部とから成る潤滑供給部材が配設されており,前記方向転換路を転走する前記転動体が前記突出部の前記壁面に接触して前記潤滑剤が前記転動体に供給されることから成る直動転がり案内ユニットにおいて,
前記貯油板と前記突出部とは前記多孔質成形体を構成する超高分子量の合成樹脂微粒子同士が融着して一体構造に形成されており,前記突出部における少なくとも一部の前記多孔質成形体を構成するポア数とポアサイズは,前記貯油板の前記多孔質成形体を構成するポア数とポアサイズに比較して前記潤滑剤の流れを制限する高密度層の成形密度に形成されていることを特徴とする潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニットに関する。
【0010】
また,この直動転がり案内ユニットにおいて,前記突出部は,前記方向転換路に露出する前記壁面に至る経路全面の少なくとも一部の層が前記高密度層の前記成形密度に形成されているものである。更に,前記突出部の前記高密度層を形成する前記多孔質成形体の前記成形密度は,0.60〜0.70g/cm3 であって,その他の前記潤滑供給部材の前記多孔質成形体の前記成形密度は,0.40〜0.60g/cm3 であることが好ましい。
【0011】
また,この直動転がり案内ユニットにおいて,前記貯油板は,前記エンドキャップの前記エンドシール側に形成された凹部に配設され,前記エンドキャップに形成された前記連通孔は,前記方向転換路の外周側壁面に形成されているものである。又は,前記貯油板は,前記エンドキャップの前記ケーシング側に形成された凹部に配設され,前記エンドキャップに形成された前記連通孔は,前記方向転換路の内周側壁面に形成されているものである。
【0012】
また,この直動転がり案内ユニットにおいて,前記突出部は,前記貯油板に形成された貯油板凹部又は貫通孔に嵌合して融着されているものである。或いは,前記貯油板は,貯油板凹部付近の前記多孔質成形体の断面積が狭くなった絞り部に形成されており,前記絞り部において前記貯油板から前記突出部に供給される前記潤滑剤の流量が絞られるものである。
【0013】
前記貯油板と前記突出部との前記多孔質成形体は,超高分子量ポリエチレン微粒子の球状粒子同士が互いに部分的に加熱融着して一体成形されて焼結されており,融着した部分を除く前記粒子間に空間が生じて連なって微細な前記オープンポアになって前記潤滑剤が含浸される構造になっており,前記多孔質成形体の単位体積あたりの質量である前記成形密度が高密度になれば,前記粒子間のスペースが狭くなって外部に連通する前記空間が減少するものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明による直動転がり案内ユニットは,上記のように構成されているので,貯油板と突出部とから成る潤滑供給部材から転動体への潤滑剤の供給量について転がり接触部分への潤滑剤供給を必要十分な量に抑制することができ,運転初期から安定した均一な供給量を実現することができ,更に,運転初期の潤滑剤の供給量を抑制でき,長期間走行後も潤滑供給部材の高い潤滑剤の残存率を維持することができ,その結果,潤滑寿命が延長され,更なる長期間の潤滑メンテナンスフリーを実現することができる。即ち,スライダは,具体的には,エンドキャップの端面に多孔質成形体から成る貯油板を配設し,貯油板に設けた突出部の端面をエンドキャップを貫通して方向転換路の壁面の一部に形成し,しかも貯油板が保形状態のオープンポアである互いに連通した多孔部を持つ多孔質成形体で構成されており,突出部の少なくとも一部の層の成形密度がその他の潤滑供給部材の成形密度よりも大きく形成されているので,オープンポアのポア数とポアサイズが少なくなって,突出部で潤滑剤の供給が適正な量に絞られ,極めて容易に安定して転動体に潤滑剤を供給することができ,転動体への潤滑剤の給油を潤滑メンテナンスフリーにして潤滑寿命を延長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明による直動転がり案内ユニットを断面部分を含んだ状態で示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面を示す断面図である。
【図3】図1のスライダに形成された循環路を示す断面説明図である。
【図4】図1のスライダからエンドシールを取り外した状態の一実施例を示す正面図である。
【図5】図4のエンドキャップの一実施例を示す正面図である。
【図6】図5のエンドキャップを示す下面図である。
【図7】図5のエンドキャップを示す背面図である。
【図8】図7のエンドキャップからスペーサを取り外したエンドキャップ本体を示す背面図である。
【図9】図8のエンドキャップ本体を示すB−B断面図である。
【図10】図8のエンドキャップ本体を示すC−C断面図である。
【図11】図4の貯油板を示す背面図である。
【図12】図11の貯油板を示す下面図である。
【図13】図11の貯油板のD−D断面を示し,(A)は突出部が貯油板の止まり穴に嵌合した状態で接合した断面図,及び(B)は突出部が貯油板の貫通孔に嵌合した状態で接合した断面図である。
【図14】図11の貯油板の別の実施例のD−D断面を示し,(A)は凹部が突出部と同じ形状で形成された断面図,(B)は凹部が突出部よりも大きな形状で形成され,貯油板と突出部の間になる部分の断面積を小さくして潤滑剤の流量を絞った断面図である。
【図15】図11の貯油板の更に別の実施例のD−D断面を示し,(A)は突出部のある断面全体に高密度層を形成した断面図,(B)は突出部の断面中央付近に高密度層を形成した断面図,(C)は突出部において転動体と接触する潤滑剤供給面となる側に高密度層を形成した断面図,及び(D)は突出部と貯油板が接合している部分に高密度層を形成した断面図である。
【図16】この発明による直動転がり案内ユニットの別の実施例を示し,エンドキャップのケーシング側の端面を示す正面図,左側に方向転換路を示す説明図である。
【図17】図16の多孔質成形体を示し,(A)は正面図,及び(B)は側面図である。
【図18】多孔質成形体の成形密度と潤滑剤の含浸率との相関関係を示すグラフである。
【図19】試料A,Bの貯油板と突出部との多孔質成形体の走行距離に対する潤滑剤の残量割合を示すグラフである。
【図20】試料B,Cの貯油板と突出部との多孔質成形体の走行距離に対する潤滑剤の減少量を示すグラフである。
【図21】試料A,B,Cの多孔質成形体の試験走行前の潤滑剤含浸量を示すグラフである。
【図22】貯油板(成形密度0.56g/cm3 )と突出部(成形密度0.65g/cm3 )とをそれぞれ加熱加圧成形して両者を接合させた接合部付近の断面を200倍で撮影したSEM画像である。
【図23】図22の突出部の転動体との接触面になる露出面即ち壁面を500倍で撮影したSEM画像である。
【図24】貯油板と突出部とを同時に加圧して加熱成形された貯油板(成形密度0.58g/cm3 )の断面を500倍で撮影したSEM画像である。
【図25】貯油板と突出部とを同時に加圧して加熱成形された突出部(成形密度0.66g/cm3 )の断面を500倍で撮影したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,図面を参照して,この発明による潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニットの実施例について説明する。この発明による直動転がり案内ユニットは,長尺な軌道レール1,軌道レール1の長手方向に摺動自在なスライダ2,並びに軌道レール1とスライダ2との間に形成された負荷軌道路である軌道路20,スライダ2に設けられた軌道路20に平行なリターン路10,及びスライダ2に設けられた軌道路20とリターン路10とを連通する方向転換路30から成る無限循環路即ち循環路49(図3)を循環する転動体を有するものである。この直動転がり案内ユニットは,幅方向両側面42の長手方向に沿って一対の軌道面11がそれぞれ形成された長尺状の軌道レール1,軌道レール1に両袖部50が跨架して軌道レール1の長手方向に転動体であるローラ5を介して摺動自在なスライダ2,並びに軌道レール1とスライダ2との間に形成された負荷軌道路である軌道路20,スライダ2に設けられたリターン路10,及び軌道路20とリターン路10とを連通する方向転換路30から成る循環路49を転走するローラ5を有している。スライダ2は,主として,軌道レール1の軌道面11に対向して袖部50にそれぞれ形成された一対の軌道面12を備えたケーシング3,ケーシング3の摺動方向両端面35に配設されて上下の軌道路20と上下のリターン路10とを連通する方向転換路30(30A,30B)が形成されたエンドキャップ4,エンドキャップ4の摺動方向外側の端面47に配置され且つ軌道レール1とスライダ2との隙間をシールするリップ部16を備えたエンドシール15,及び循環路49を転走する複数のローラ5を有している。図2に示すように,スライダ2の両袖部50には,一対の循環路49がそれぞれ形成されている。
【0017】
この直動転がり案内ユニットにおいて,一対の循環路49の内,一方のローラ5は,スライダ2の下方向負荷を受ける下側の軌道路20からケーシング3の上側のリターン路10に循環し,他方のローラ5は,スライダ2の上方向負荷を受ける上側の軌道路20からケーシング3の下側のリターン路10に循環するように構成されている。ローラ5は,その形状が円筒ころである場合には,軌道路20においてケーシング3とエンドキャップ4とに取り付けられた保持板13によってローラ5の端面40が保持されて円筒外周面の転動面39でそれぞれ転動するように組み込まれている。図3に示すように,一対の循環路49の内,一方の循環路49は,負荷路20,リターン路10,及び短円状の方向転換路30Bと長円状の方向転換路30Aで構成され,同様に,他方の循環路49は,一方の循環路49にたすき掛けに交差して構成されている。転動体である複数のローラ5は,図3に示すように,各ローラ5間にローラ5同士の接触を防止するためにセパレータ19が介在されている。
【0018】
また,この直動転がり案内ユニットは,ケーシング3とエンドキャップ4との下面に下面シール14が配置され,エンドキャップ4の端面にエンドシール15が接して配置され,シール構造に形成されている。エンドキャップ4には,潤滑剤を給油孔29及び給油溝32を通じて循環路49に潤滑剤を供給できるように給油孔29に形成した給油孔ねじ孔28にグリースニップル43(図1では側面)が取り付けられている。また,軌道レール1には,ベースに軌道レール1を固定するため,取付け用孔17が形成され,また,ケーシング3には,各種の物体を取り付けるため取付け用ねじ孔18が形成されている。また,エンドキャップ4には,その下面に下面シール14を固定するための取付け用フック27,及び四隅にケーシング3にエンドキャップ4を固定するためボルト44を通す取付け用孔22が取付用孔部21に形成されている。また,エンドキャップ4には,グリースニップル43等から供給された潤滑剤を通すため中央の給油孔部23に設けた給油孔29及び給油孔29と循環路49の方向転換路30とを連通する給油溝32が形成されている(図7)。
【0019】
また,リターン路10は,スライダ2を構成するケーシング3に形成された嵌挿孔9に嵌挿された長手状でなるスリーブ6の通し孔で形成されている。スリーブ6は,例えば,潤滑剤を含浸できる多孔質成形体でなる焼結樹脂で一体構造又は分割面41で分割されたパイプで形成されている。スリーブ6は,ケーシング3の嵌挿孔9に遊嵌状態に配設されており,ケーシング3の両端面35に配置されたエンドキャップ4の接続凸部33によってスライダ2に固定状態に取り付けられている。図6〜図8に示すように,エンドキャップ4は,方向転換路30の内周面52を形成するスペーサ7(7A,7B)と,方向転換路30の外周側壁面36を形成するエンドキャップ本体8とから構成されている。エンドキャップ4の背面において,エンドキャップ本体8に形成された嵌合凹部に,長円状の方向転換路30Aを形成するスペーサ7Aと,短円状の方向転換路30Bを形成するスペーサ7Bとが互いに交差状態に組み合わさってそれぞれ配設されている。そして,方向転換路30の外周側壁面36を形成するエンドキャップ本体8と,方向転換路30の内周側壁面52を形成するスペーサ7A,7Bとが共働して方向転換路30が形成されている。即ち,長円状の方向転換路30Aにはスペーサ7Aが対応し,また,短円状の方向転換路30Bにはスペーサ7Bが対応して,スペーサ7Aに交差してスペーサ7Bが嵌入した態様になっている。この直動転がり案内ユニットでは,スライダ2の袖部50に形成された一対の循環路49は,軌道路20,リターン路10,長円状の方向転換路30Aとスペーサ7Aとで形成された方向転換路30A,及び短円状の方向転換路30Bとスペーサ7Bとで形成された方向転換路30Bによってそれぞれ形成されることになる。
【0020】
図9と図10に示すように,エンドキャップ本体8には,リターン路10に接続する接続凸部33が形成されている。接続凸部33は,方向転換路30の外周側壁面36側に形成され,スペーサ7A,7Bと共働してリターン路10へと連通し,エンドキャップ4の方向転換路30とケーシング3のリターン路10とが滑らかに連通している。図7に示すように,エンドキャップ4の背面には,給油孔29から延びる油溝32が形成され,油溝32で形成される給油路は,方向転換路30,リターン路10,及び軌道路20の境部に開口し,潤滑剤を供給できるように構成されている。エンドキャップ4には,中央部及び側面部に給油孔29が形成され,必要以外の給油孔29には給油孔ねじ孔28及び/又は側面の給油孔ねじ孔34に埋栓を螺入して給油孔29を閉鎖している。また,エンドキャップ4は,ケーシング3に対して位置決めされ,エンドキャップ4の取付け用孔22に通じてボルト44でケーシング3に固定されるので,スリーブ6がエンドキャップ4の接続凸部33に当接することによってスリーブ6とエンドキャップ4とが位置合わせされ,ケーシング3のリターン路10とエンドキャップ4の接続凸部33とは合致するようになる。従って,スリーブ6とエンドキャップ4の接続凸部33とが端面同士が当接することによって,リターン路10と方向転換路30との断面矩形状の循環路49が段差無く接続されている。エンドキャップ4に形成された方向転換路30とケーシング3の嵌挿孔9に嵌合したスリーブ6に形成されたリターン路10とが段差無く連通することにより,ローラ5は,方向転換路30からリターン路10へ,及びリターン路10から方向転換路30へとスムーズに転動循環することができる。
【0021】
この発明による直動転がり案内ユニットは,特に,エンドキャップ4のエンドキャップ本体8には方向転換路30に開口する連通孔37が形成され,エンドキャップ本体8には潤滑剤を含浸した多孔質成形体から成る潤滑供給部材を構成する板状の形状の貯油板25が配設され,貯油板25には貯油板25から突出して連通孔37に嵌入して壁面の一部が方向転換路30に露出する突出部26が一体構造に固着されている。方向転換路30を転走する転動体のローラ5は,方向転換路30内に露出した突出部26の先端の壁面である露出面46に接触して,突出部26に含浸されている潤滑剤が供給されるものである。貯油板25の多孔質成形体に含浸された潤滑剤が突出部26の多孔質成形体に順次供給されるものである。また,貯油板25は,エンドキャップ本体8のエンドシール15側に枠部24(図4)で形成された凹部31に配設され,エンドキャップ本体8に形成された連通孔37は,方向転換路30の外周側壁面36に形成されている。この直動転がり案内ユニットは,特に,突出部26は,多孔質成形体における潤滑剤を通すオープンポアを構成するポア数とポアサイズの一部又は全部(即ち,少なくとも一部)が貯油板25のポア数とポアサイズに比較して制限されて高密度層の成形密度に形成されていることを特徴とする。特に,突出部26は,方向転換路30に露出する先端の壁面である露出面46に至る経路全面の少なくとも一部の層が,高密度層の成形密度に形成されているものである。
【0022】
貯油板25と突出部26とを構成する多孔質成形体は,その成形密度(g/cm3 )と潤滑剤の含浸率との相関は,図18に示すようになっている。含浸率は,多孔質成形体が含浸できる潤滑剤の割合を表すものとして,潤滑剤を含浸した多孔質成形体の体積と含浸された潤滑剤の体積比(%)とし,潤滑剤を通すオープンポアの空間率と同じものとする。多孔質成形体の成形密度を低くすると,多孔質成形体の内部に形成される連通した空孔部即ちオープンポアの空間体積(即ち,ポアサイズ)と数(即ち,ポア数)とが増加することになる。従って,多孔質成形体に吸収・保持される潤滑剤の量,即ち,含浸率が高くなる。多孔質成形体は,一般的には静置状態ではオープンポアの内部に潤滑剤を保持した状態である。しかしながら,ローラ5等の転動体が多孔質成形体の表面に接触しながら外力が加えられると,毛細管現象によって潤滑剤が外部に排出,例えば,転動体の表面に供給されるようになる。従って,多孔質成形体のオープンポアのポアサイズとポア数が増加することによって,成形密度を高めた多孔質成形体と比較して潤滑剤の排出量が多くなる。また,多孔質成形体の成形密度を高くすると,多孔質成形体の内部に形成される連通した空孔部即ちオープンポアの空間体積(即ち,ポアサイズ)と数(即ち,ポア数)とが減少することになる。従って,多孔質成形体に吸収・保持される潤滑剤の量,即ち,含浸率が低くなり,毛細管現象によって潤滑剤が外部に排出,例えば,転動体の表面に供給がされ難くなる。実測データによると,多孔質成形体の成形密度が0.49g/cm3 では,含浸率は約47%となり,成形密度が0.67g/cm3 では,含浸率は約31%となる。この直動転がり案内ユニットでは,貯油板25の多孔質成形体の成形密度が0.40〜0.60g/cm3 であるのに対し,突出部26を構成する多孔質成形体について前記方向転換路に露出する前記壁面に至る経路全面の少なくとも一部の層が高密度層の成形密度に形成され,その高密度層の成形密度が0.60〜0.70g/cm3 であり,高密度層以外の突出部26の多孔質成形体の成形密度が貯油板25と同じである。また,貯油板25の多孔質成形体に含浸された潤滑剤は,突出部26の多孔質成形体へと供給されるものである。また,多孔質成形体については,成形密度が0.70g/cm3 より増加するに従って,潤滑剤は含浸され難く,吸収され難くなる現象が発生し,0.75g/cm3 では表面が目潰しされた状態になり,外部に連通した空孔(ポア)が形成され難くなり,多孔質成形体の表面近傍の限られた一部分だけに潤滑剤が吸収され,含浸率も15%程度になり,0.75g/cm3 以上ではオープンポアが形成されず,潤滑剤も吸収されなくなる。また,成形密度が0.40g/cm3 より減少するに従って,ポアサイズが大きくなり過ぎ,ポア数が多くなり,潤滑剤が多孔質成形体に保持され難くなる。
【0023】
この直動転がり案内ユニットにおいて,突出部26の成形密度の高密度層は,図13の(A),(B)に示されるように,突出部26の予め決められた断面全体に形成されている。図13の(A)に示すように,突出部26が貯油板25の止まり穴である凹部48に嵌合した状態で融着して接合することができ,また,図13の(B)に示すように.突出部26が貯油板25の貫通孔45に嵌合した状態で融着して接合することができ,この場合には,貯油板25と突出部26とは,別々に成形されて互いに融着されている。又は,図14の(A),(B)に示されるように,突出部26は,貯油板25を突出側の反対側を凹部53が形成されるように加圧成形して突出させて形成されており,図14の(A)は凹部53が突出部26と同じ形状で形成され,図14の(B)は凹部53が突出部26よりも大きな形状で形成され,貯油板25と突出部26の間になる部分の断面積を小さくして潤滑剤の流量を絞った絞り部51に形成されており,例えば,突出部26は,貯油板25に融着した状態であり,貯油板25の板状の形状における厚さ方向の中間位置から突出部26の突出側に対向する側に偏って形成されている。この場合には,貯油板25と突出部26とは,金型を用いて同時に成形されて互いに融着されている。或いは,図15に示すように,潤滑供給部材を構成する貯油板25と突出部26とは,いずれも別々に成形されて互いに融着されているものである。図15の(A)は突出部26のある断面全体に貯油板25より成形密度が高密度層54に形成されている。図15の(B)は突出部26の断面中央付近の凹部に高密度層55が形成されている。図15の(C)は突出部26において転動体のローラ5と接触する潤滑剤供給面となる露出面46側に高密度層56が形成されている。図15の(D)は突出部26と貯油板25が接合する部分に高密度層57が形成されている。
【0024】
この直動転がり案内ユニットにおいて,貯油板25と突出部26との多孔質成形体は,合成樹脂微粒子である超高分子量ポリエチレン微粒子の球状粒子同士が互いに部分的に加熱融着して一体成形されて焼結されており,融着した部分を除く粒子間に空間が生じて連なって微細なオープンポアになって潤滑剤が含浸される構造になっており,多孔質成形体の単位体積あたりの質量である成形密度(g/cm3 )が高密度になれば,粒子間のスペースが狭くなって外部に連通する空間が減少するものである。ここで,合成樹脂微粒子としては,ポリエチレン,ポリプロピレン,四フッ化エチレン重合体等を挙げることができる。超高分子量のポリエチレン微粒子は,成形品を高精度に製作できる素材であり,成形された焼結樹脂部材は耐摩耗性に優れている。従って,焼結樹脂部材は,補強材によって補強をすることを要せず,しかも摩耗することなく,摩耗粉によって多孔質構造の目詰まりが生じないので,長期にわたって潤滑剤をローラ5及びローラ5を介して負荷軌道路20に供給することができる。超高分子量のポリエチレン微粒子は,例えば,細粒径が30μmで,粗粒径が250〜300μmの粉末でなり,加熱成形して焼結すると,多孔質構造は,空間率が,例えば,40〜50%のオープンポアからなる構造になる。
【0025】
次に,図16及び図17を参照して,この発明による直動転がり案内ユニットの別の実施例を説明する。この実施例では,上記実施例と本願発明の基本的な技術的思想と同様であるが,エンドキャップ4Aに対する貯油板25Aの形状及び配設において異なっている。エンドキャップ4A及び貯油板25Aの構造については,本出願人が先に出願した特願2010−10123に開示されているので,ここではそれらの詳細な説明は省略する。貯油板25Aは,エンドキャップ本体8Aのケーシング3側に枠部24Aで形成される凹部31Aに配設され,また,エンドキャップ本体8Aに形成された連通孔37Aは,方向転換路30を形成するスペーサ7A,7Bの内周側壁面52に形成されている。また,貯油板25Aには,突出部26Aとして方向転換路8の内周側壁面52を構成するスペーサ7に接触する突出部26Aが一体構造に構成されている。貯油板25Aには,連通孔37Aを通じて方向転換路30に露出する二股に伸びた突出部26Aが融着して形成されている。この点が先の実施例と特に異なっている構成である。突出部26Aは,貯油板25Aの一部である連係供給部38に融着され,連係供給部38を通じて貯油板25Aと一体構造に構成されており,潤滑剤が貯油板25Aから連係供給部38を通じて突出部26Aへと供給されるものである。
【0026】
次に,従来の多孔質成形体でなる貯油板の試料Aと試料Bとし,試料Bは多孔質成形体の成形密度を0.50〜0.60g/cm3 の範囲で平均密度を0.57g/cm3 に構成したものであり,試料Aは多孔質成形体の成形密度を0.60〜0.70g/cm3 の範囲で平均密度を0. 66g/cm3 に高密度化したものである。試料A,Bをそれぞれ内蔵した直動転がり案内ユニットを摺動走行させて,試料A,Bに含有されている潤滑剤のそれぞれの残量割合(%)を測定し,測定結果をそれぞれ図19に示し,また,潤滑剤の残量割合の試験の運転条件を表1に示した。
【0027】

【表1】

【0028】
図19から分かるように,試料Bは,試料Aに比べて運転開始から1, 000kmまでの潤滑剤の残量割合の低下が大きいことが分かった。多孔質成形体の潤滑剤の残量割合の傾向は,大きさやユニット長さが異なる仕様の製品でも同様であり,運転初期には潤滑剤の残量割合の減少が大きい。その後,10, 000km以降はほぼ一定の減少率で推移していることが別の試験で確認されている。潤滑剤を多量に含浸した試料Bでは,多孔質成形体に形成された外部と連通している空孔から転動体に対して潤滑剤が多めに供給され,試料Bの潤滑剤含浸量がある程度の保持量まで減少してからは,転動体と軌道面の転がり接触部分の潤滑に必要十分な量の潤滑剤が供給される緩やかな状態になっていた。これに対して,試料Aは,多孔質成形体の空孔のサイズが小さく,且つ空孔の数が減る効果により,運転開始直後から必要十分な量の供給量に抑制されている。また,試料Aの構造は,試料Bよりも多孔質成形体の空孔が小さく数も減っていることから,含浸可能な潤滑剤の含浸量は試料Bよりも小さくなる。
上記の試験結果を基に,潤滑剤の含浸量が大きい試料Bを貯油板25に構成し,高密度の試料Aを突出部26に構成することが好ましいことが分かった。即ち,試料Aの全体密度を高めた構造の場合と同じ供給量の傾向にするために,貯油板25の潤滑剤の外部への出口に相当する突出部26の密度だけを高めて,毛細管現象による転動体への潤滑剤供給量を適切に抑制することができることになる。その結果,必要な個所だけを高密度化して,貯油板25全体の潤滑剤含浸量の減少を最小限に留めて,効率的に潤滑寿命を延長することが可能であることが分かった。
【0029】
次に,本願発明品として貯油板本体部の多孔質成形体を成形密度の0.57g/cm3 で作製し且つ突出部の多孔質成形体を成形密度の0. 63〜0. 66g/cm3 の範囲で平均密度を0. 65g/cm3 の高密度に作製した。本願発明品を試料Cとして,試料Bと比較した走行距離に対する多孔質成形体からの潤滑剤の減少量を測定した。その結果を図20に示す。図20から,本願発明品である試料Cは,突出部のみを高密度に形成することによって,高密度化品である試料Aと略同一傾向が得られる。更に,試験走行前の試料A,B,Cの多孔質成形体の潤滑剤含浸量を図21に示す。図21から本願発明品である試料Cは,試験走行前の潤滑剤含浸量が試料Bと同程度で,試料Aよりも潤滑剤含浸量が大きいものになっている。従って,本願発明品である試料Cは,試料Aよりも潤滑剤含浸量が大きく,且つ,試料Bよりも潤滑剤含浸量の減少が抑えられることで,試料A,Bよりも直動転がり案内ユニットの潤滑寿命が延長可能になっている。
【0030】
次に,本願発明による第1実施形態及び第2実施形態として,貯油板断面に現れる多孔質成形体の構造を走査型電子顕微鏡で撮影した画像(以下,SEM画像)とその撮影個所を示すため,次のような処理をした。
本願発明による第1実施形態としては,貯油板と突出部とを別体として作製したものであり,突出部を金型で高密度化して加圧加熱成形して,残りの貯油板を成形する時に,突出部を金型に同時に組み込んで加圧加熱成形して貯油板と突出部とを一体構造に成形した。突出部と貯油板とは,成形密度が0.65g/cm3 と0.56g/cm3 と異なる状態で成形されたが,その接合面ではそれぞれを構成する粒子同士が融着して強固に接合された。貯油板の突出部付近を突出部形状長手方向に対して交差する方向で切断し,その切断面において,突出部の転動体の接触面と別体成形した突出部と貯油板の接合面位置をSEMにて撮影を行った。第1実施形態の貯油板と突出部との切断面を200倍の倍率で撮影したSEM画像を,図22に示す。
次に,第1実施形態の突出部の先端の壁面即ち露出面を500倍で撮影したSEM画像を,図23に示す。突出部の先端面は転動体に接触して潤滑剤を供給する箇所である。別体として高密度に加熱加圧成形された突出部は,貯油板全体の成形時に更に熱と圧力を加えて成形している。突出部表面を撮影したSEM画像で確認したところ,球状の粒子同士は融着していたが,融着した粒子同士の間には影のように見える空孔部分が十分に形成されており,多孔質構造はオープンポア構造と構成されており,再加熱による悪影響は認められなかった。即ち,各多孔質成形体は,融着状態,粒子密度,気孔率は,ほぼ変化無いと言えるレベルであった。
【0031】
また,本願発明による第2実施形態としては,貯油板と突出部とを同時に加熱加圧成形して貯油板と突出部との境界部分を融着させたものであり,突出部になる部分を貯油板になる部分より加圧したものであり,突出部の部分は成形密度が0. 66g/cm3 になるように高くし,貯油板の部分は成形密度が0. 58g/cm3 になるように低くしたものである。即ち,第2実施形態では,加圧加熱成形において本願発明では図示しない成形型の上型に圧縮代となる突起を設けることで,転動体に潤滑剤を供給する突出部先端の密度を,貯油板の断面中央部分や突出部の無い背面付近の密度よりも高めている。突出部と貯油板とは,密度が異なり,成形時に加えられる圧力が異なるが,球状の微粒子同士が融着し合い接合していることが画像より観察できた。また,粒子同士の間には影のように見える連通した空孔が形成されていた。多孔質成形体を高密度化した突出部では,貯油板よりも粒子同士が押し固められて成形されており,内部の連通した空孔部分が狭くなっている。その結果,第2実施形態は,第1実施形態と同様に連通した空孔部分の空間に保持された潤滑剤が毛細管現象によって突出部を介して転動体に供給される過程では,高密度化した多孔質成形体内部に成形される外部と連通した空孔のサイズが縮小して数を減らす効果によって,潤滑剤の通路となる連通空孔部分が狭くなり,同時に空孔の数も減らされて,潤滑剤の流れを制限する効果がある。貯油板及び突出部となる部分をそれぞれ切断して,それぞれの切断面を500倍の倍率で撮影した。貯油板のSEM画像を図24に示し,また,突出部のSEM画像を図25に示す。貯油板の材料として使用している超高分子量のポリエチレン微粒子は,細粒径が30μm〜40μm,粗粒径が250〜300μmの粉末で,SEM画像内に表示された20μmのスケールから粒径が分かる。両者とも粒子同士は加熱加圧成形で融着しており,突出部断面で粒子同士の間に連通した空孔が形成されていることが確認できた。高密度化した突出部の先端付近は成形密度0. 66g/cm3 であり,また,貯油板の中央付近は成形密度0. 58g/cm3 で成形されおり,多孔質構造は,空間率が40〜50%のオープンポア構造となっていた。両者を比較した場合,突出部先端付近は,成形密度を高めることで,融着した細粒同士の間に形成された空孔部分が狭くなっている。この結果,貯油板の空間に保持された潤滑剤が毛細管現象で突出部を介して転動体に供給される過程で,高密度化した多孔質成形体に成形される外部と連通した空孔のサイズを縮小して数を減らす効果によって,潤滑剤の通路となる連通空孔部分が狭くなり,空孔の数も減らされており,潤滑剤の流量を抑える効果があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明による直動転がり案内ユニットは,工作機械,各種組立装置,搬送機械,各種ロボット,半導体製造装置,精密機械,測定・検査装置,医療機器,マイクロマシン等の各種装置における摺動部に組み込んで利用され,潤滑メンテナンスフリー期間を更に延長して,転動体への良好な潤滑,循環路での転動体の滑らかな転走を発揮できる。
【符号の説明】
【0033】
1 軌道レール
2 スライダ
3 ケーシング
4,4A エンドキャップ
5 ローラ(転動体)
8,8A エンドキャップ本体
10 リターン路
15 エンドシール
20 軌道路
25,25A 貯油板
26,26A 突出部
30 方向転換路
30A 長円状の方向転換路
30B 短円状の方向転換路
31,31A 凹部
35 端面
36 外周側壁面
37,37A 連通孔
38 連係供給部
46 露出面(突出部の壁面)
49 循環路
51 絞り部
52 内周側壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な軌道レール,前記軌道レールの長手方向に摺動自在なスライダ,及び前記軌道レールと前記スライダとの間に形成される軌道路を転走する転動体を有し,前記スライダは,前記軌道路に平行に伸びる前記転動体が転走するリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面に配設され且つ前記リターン路と前記軌道路を連通して前記転動体が転走する方向転換路が形成されたエンドキャップ,及び前記エンドキャップの端面に配設されたエンドシールを有しており,前記エンドキャップには,潤滑剤を含浸した多孔質成形体から成る貯油板と,前記貯油板から突出し且つ前記方向転換路に開口する連通孔に嵌入して前記方向転換路を転走する前記転動体に接触する壁面を備えた潤滑剤を含浸するオープンポアを備えた多孔質成形体から成る突出部とから成る潤滑供給部材が配設されており,前記方向転換路を転走する前記転動体が前記突出部の前記壁面に接触して前記潤滑剤が前記転動体に供給されることから成る直動転がり案内ユニットにおいて,
前記貯油板と前記突出部とは前記多孔質成形体を構成する超高分子量の合成樹脂微粒子同士が融着して一体構造に形成されており,
前記突出部における少なくとも一部の前記多孔質成形体を構成するポア数とポアサイズは,前記貯油板の前記多孔質成形体を構成するポア数とポアサイズに比較して前記潤滑剤の流れを制限する高密度層の成形密度に形成されていることを特徴とする潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット。
【請求項2】
前記突出部は,前記方向転換路に露出する前記壁面に至る経路全面の少なくとも一部の層が前記高密度層の前記成形密度に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット。
【請求項3】
前記突出部の前記高密度層を形成する前記多孔質成形体の前記成形密度は,0.60〜0.70g/cm3 であって,その他の前記潤滑供給部材の前記多孔質成形体の前記成形密度は,0.40〜0.60g/cm3 であることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット。
【請求項4】
前記貯油板は,前記エンドキャップの前記エンドシール側に形成された凹部に配設され,前記エンドキャップに形成された前記連通孔は,前記方向転換路の外周側壁面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット。
【請求項5】
前記貯油板は,前記エンドキャップの前記ケーシング側に形成された凹部に配設され,前記エンドキャップに形成された前記連通孔は,前記方向転換路の内周側壁面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット。
【請求項6】
前記突出部は,前記貯油板に形成された貯油板凹部又は貫通孔に嵌合して融着されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット。
【請求項7】
前記貯油板は,貯油板凹部付近の前記多孔質成形体の断面積が狭くなった絞り部に形成されており,前記絞り部において前記貯油板から前記突出部に供給される前記潤滑剤の流量が絞られることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット。
【請求項8】
前記貯油板と前記突出部との前記多孔質成形体は,超高分子量ポリエチレン微粒子の球状粒子同士が互いに部分的に加熱融着して一体成形されて焼結されており,融着した部分を除く前記粒子間に空間が生じて連なって微細な前記オープンポアになって前記潤滑剤が含浸される構造になっており,前記多孔質成形体の単位体積あたりの質量である前記成形密度が高密度になれば,前記粒子間のスペースが狭くなって外部に連通する前記空間が減少することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑寿命を延長する直動転がり案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−154438(P2012−154438A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14765(P2011−14765)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】