説明

潤滑油漏れ防止機構

【課題】ガスタービン側壁の複数の分割面を介した入口ケーシング側から圧縮機側への潤滑油漏れを防止する。
【解決手段】複数の側壁部材の対向した分割面の少なくとも一方に対向面と大気開放エリアとを連通させる溝部を設け、この溝部が前記大気開放エリアと、タービン軸と側壁との間の径方向の隙間とを互いに連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はターボ機械、特にガスタービン側壁部における潤滑油漏れ防止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンには、入口ケーシングと圧縮室との間に、側壁と称されるタービン軸の軸受け部が設けられている。この側壁部はガスタービンの構造上、周方向に複数に分割されている。圧縮機内は入口ケーシングよりも低い負圧となっているため、ガスタービンの運転中に分割部が開いた場合、対向した分割面を介して入口ケーシング側から圧縮機フローパスエリアへの潤滑油漏れが避けられない。
【0003】
潤滑油が圧縮機翼面に付着して圧縮機効率の低下を引き起こすと共に、潤滑油の減少に伴う潤滑油の補充が必要になるため、潤滑油漏れ防止の手法が必要となっている。ラビリンス部からの潤滑油漏れを防止する手法としては、潤滑油ポンプの駆動と連動して、コンプレッサー側ラビリンス部とタービン側ラビリンス部に圧縮空気を外部より供給して、潤滑油の洩れを防止する切換機構を設けたガスタービンが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、タービン軸の一端にブロワ扇車を固着すると共にタービン軸の所要位置にスラストブッシュをタービン軸と一体的に回転し得るように嵌着し、タービン軸のブロワ扇車背面側とスラストブッシュとの間に、油切リングをタービン軸と一体的に回転し得るように嵌着し、油切リングの外周に太径部と細径部とを設けると共に油切リングのスラストブッシュ側端部に油切リングの太径部もしくは細径部の外径よりも径の大きい円盤状の突起を設け、油切リングの太径部と細径部とに空気抜室および空気抜室当板と接触するシールリングを装着した油切装置が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−87638号公報
【特許文献2】実公昭58−56338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術では側壁部に収容されたラビリンスシールからの潤滑油漏れは防止できるが、側壁部の分割面からの潤滑油漏れは防止できなかった。一方で、周囲の部材との干渉のため、側壁部材を一体に締結するボルトなどを設けることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明によるターボ機械は、タービンの圧縮室と入口ケーシングとの間に設けられた側壁において、該側壁は周方向に複数の側壁部材に分割されるとともに、高圧空気源に連通された第1の流路と大気に連通した第2の流路とが、それぞれ周方向に連続的に設けられ、タービン軸と前記側壁との間には径方向の隙間が設けられ、前記複数の側壁部材の対向面の少なくとも一方に、前記対向面が互いに離間することにより、前記対向面と前記第2の流路とを連通させる溝部を設け、該溝部は前記第2流路と前記径方向の隙間とを互いに連通させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明によるターボ機械は、前記第1の流路は、前記側壁内部の前記第2の流路の内周側に配置されており、前記溝部は前記側壁部材の対向面の双方にそれぞれ設けられている。
【0009】
さらに、本発明によるターボ機械は、前記第1の流路には、前記入口ケーシングの前記第1の流路と第2の流路との間の部分に周方向に沿って設けられた少なくとも1つの高圧空気導入孔から高圧空気が流入し、前記第2の流路には、前記入口ケーシングの前記第2の流路に隣接した部分に周方向に沿って設けられた少なくとも1つの大気導入孔から大気が流入する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、側壁部分割面を介した入口ケーシング側から圧縮機側への潤滑油漏れを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態によるガスタービンの側壁部の概略的な位置を示した部分断面図である。
【図2】従来技術によるガスタービンの側壁下半部の分割面を示した図である。
【図3】本発明の実施形態による側壁下半部を示した図である。
【図4】本発明の実施形態による側壁下半部の分割面およびその周囲の詳細を示した図である。
【図5】従来技術による潤滑油漏れ発生の機構を示した概略図である。
【図6】本発明の潤滑油漏れ防止の機構の実施例を示した概略図である。
【図7】本発明の潤滑油漏れ防止の機構の別の実施例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1から図6に基づいて本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1では本発明の実施形態による、ガスタービンにおける側壁部1の位置を概略的に示している。側壁部1は入口ケーシング2の圧縮機フローパスエリア4に隣接した位置において、入口ケーシング2に固定されている。
【0013】
図3に示したように、側壁1は全体として軸線Cを中心とした環状に形成されており、中央にはタービン軸(図示略)が貫通される開口部14が形成されている。側壁1は水平面で上下2つに分割されており、その分割面8は内周部が入口ケーシング1側に突出した略L字状をなしている。側壁の内周側には、複数のラビリンスシール6が側壁上半部および側壁下半部の中心軸方向に沿ってそれぞれ配置されており、タービン軸を伝わる油漏れを防止している。図3では側壁下半部のみが示されている。
【0014】
側壁1の突出部の内部には、第1の流路であるシール空気供給エリア10が側壁1の周方向に沿って形成されている。シール空気供給エリア10は側壁1の内部の全周に渡って連続的に形成された略長方形断面の流路であり、側壁1の入口ケーシング2との合わせ面に形成された高圧空気導入孔20を介して、側壁1の外部に通じている。同時に、シール空気供給エリア10は側壁1の分割面8において開放されている。
【0015】
図3および図4に示したように、シール空気供給エリア10には大気圧よりも高圧のシール空気が、高圧空気導入孔20を通して導入される。シール空気供給エリア10の内周側には、径方向に沿った複数の連通孔24が形成されており、これら複数の連通孔24は側壁1の周方向に沿って配置されている。これら複数の連通孔24はシール空気供給エリア10と側壁1とタービン軸5との間の径方向の隙間とを連通させている。
【0016】
図3に示したように、側壁1の入口ケーシング2との合わせ面13内には、第2の流路である大気開放エリア12が側壁1の周方向に沿って、シール空気供給エリア10の外周側に連続的に形成されている。この大気開放エリア12、分割面8および合わせ面13において開放されている。入口ケーシング2のフランジ部には、大気開放エリア12に隣接した位置に周方向に沿って複数の大気導入孔が形成されており、フランジ部が側壁1の合わせ面13に取り付けられることで略長方形断面の第2の流路が形成されると共に、大気開放エリア12が大気導入孔22を介して外気に通じている。
【0017】
大気開放エリア12の内周側には、径方向に沿った複数の連通孔16が形成されており、これら複数の連通孔16は側壁1の周方向に沿って配置されている。これら複数の連通孔16は大気開放エリア12と側壁1とタービン軸5との間の径方向の隙間とを連通させている。
【0018】
図3および図4に示したように、側壁1の分割面8には、側壁1とタービン軸との間に設けられた隙間と大気開放エリア12とを連通するように、大気開放エリア12から径方向に沿って溝18が形成されている。溝18は所定の幅および深さを持ってシール空気供給エリア10の圧縮機側に配置されており、シール空気供給エリア10とは離間されている。本実施形態においては、溝18は側壁下半部の分割面8に形成されているが、側壁上半部の分割面8に溝18が形成されてもよい。または、側壁下半部および側壁上半部の双方の分割面8に、溝18がそれぞれ形成されていてもよい(図7参照)。
【0019】
次に、本発明の作用効果について説明する。側壁上半部と側壁下半部とは、それぞれの分割面を互いに対向して合わせて組み合わせられることによって側壁1を構成している。側壁1の中央部は開口部14となっており、この開口部14を貫通するようにタービン軸5が配置されている。
【0020】
高圧のシール空気は、供給源(図示略)から高圧空気導入孔20を介してシール空気供給エリア10へと導入される。この高圧のシール空気は、シール空気供給エリア10の内周側に形成された複数の連通孔24を通ってタービン軸とラビリンスシール6との間の隙間へと流入する。これにより、タービン軸を伝わって入口ケーシング2から圧縮機フローパスエリア4へと流入する潤滑油の漏れを防止している。
【0021】
大気はタービンの機外から大気導入孔22を介して大気開放エリア12に導入される。導入された大気は、大気開放エリア12の内周側に形成された複数の連通孔16および分割面8に形成された溝18を通ってタービン軸5とラビリンスシール6との間の隙間へと流入する。これにより、タービン軸5を伝わって入口ケーシング2から圧縮機フローパスエリア4へと流入する潤滑油の漏れを防止している。
【0022】
タービン軸の入口ケーシング側にはタービン軸5の軸受け(図示略)が設けられており、この軸受けには潤滑油が供給されている。これによって、入口ケーシング2側は霧状潤滑油で充満している。
【0023】
入り口ケーシング2内の気圧は負圧となっている。また、圧縮機フローパスエリア4内の気圧は入口ケーシング2内の気圧よりもさらに低い負圧となっている。通常は、側壁1は対向した分割面8がそれぞれ密着するように合わせられているため、入口ケーシング2内の霧状潤滑油が圧縮機4内に流入することはない。
【0024】
タービンの回転に伴い、機械的振動や圧力の変動などの要因により、側壁上半部と側壁下半部との間に隙間が形成される場合がある。この場合、圧力差の関係により、入口ケーシング2内の霧状潤滑油が圧縮機フローパスエリア4内に流入しようとする(図5参照)。
【0025】
しかしながら、側壁上半部と側壁下半部との間に隙間が形成されると同時に、大気開放エリア12が開放される。これにより、大気開放エリア12および溝18に充満されていた大気は、圧力差の関係により入口ケーシング2内および圧縮機フローパスエリア4内に流出する(図6参照)。したがって、入口ケーシング2内と圧縮機フローパスエリア4内とは、流出する大気により分断されて、結果として入口ケーシング2内の霧状潤滑油は圧縮機内に流入することがない。
【0026】
次に、本発明の他の実施例を説明する。図7に示したように、溝18は側壁部材の対向面の一方に設けるようにしてもよい。側壁下半部に設ければ、溝18はドレンの役割も果たし、潤滑油が流入したとしても溝18により排出される。さらに加工部が少なくなり、加工コスト並びに加工時間を短縮できるという利点がある。
【0027】
上述の作用により、潤滑油がタービン翼に付着することが抑制されるため、圧縮機効率の低下を防止することができ、且つメンテナンスが容易になる。さらに、潤滑油の漏れを防止することで潤滑油の消費を抑制することができ、機械維持のためのコストダウンを実行できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、ガスタービンを含んだターボ機械の潤滑油の漏れ防止に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ・・・側壁
2 ・・・入口ケーシング
4 ・・・圧縮機フローパスエリア
5 ・・・タービン軸
6 ・・・ラビリンスシール
8 ・・・分割面
10 ・・・シール空気供給エリア
12 ・・・大気開放エリア
13 ・・・合わせ面
14 ・・・開口部
16 ・・・連通孔
18 ・・・溝
20 ・・・高圧空気導入孔
22 ・・・大気導入孔
24 ・・・連通孔
25 ・・・霧状潤滑油
C ・・・軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンの圧縮室と入口ケーシングとの間に設けられた側壁において、
該側壁は周方向に複数の側壁部材に分割されるとともに、
高圧空気源に連通された第1の流路と大気に連通した第2の流路とが、それぞれ周方向に連続的に設けられ、タービン軸と前記側壁との間には径方向の隙間が設けられ、
前記複数の側壁部材の対向した分割面の少なくとも一方に、前記対向面と前記第2の流路とを連通させる溝部を設け、該溝部は前記第2流路と前記径方向の隙間とを互いに連通させることを特徴とするターボ機械。
【請求項2】
前記第1の流路は、前記側壁内部の前記第2の流路の内周側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のターボ機械。
【請求項3】
前記溝部は前記側壁部材の対向した分割面の双方にそれぞれ設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載のターボ機械。
【請求項4】
前記第1の流路には、前記入口ケーシングの前記第1の流路と第2の流路との間の部分に周方向に沿って設けられた少なくとも1つの高圧空気導入孔から高圧空気が流入することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のターボ機械。
【請求項5】
前記第2の流路には、前記入口ケーシングの前記第2の流路に隣接した部分に周方向に沿って設けられた少なくとも1つの大気導入孔から大気が流入することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のターボ機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−249040(P2010−249040A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99836(P2009−99836)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】