説明

潤滑油組成物及びそれを用いた含浸軸受

【課題】低温領域から高温領域に渡って潤滑性に優れるとともに、蒸発減量の少ない潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】炭素数が9〜12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8〜13の一級アルコールとから構成されるエステルを基油として、SP値(溶解度指数)が9.2以上、質量平均分子量が1×10〜1×10である(メタ)アクリル酸アルキル重合体を組成物全量基準で0.5〜10質量%含有し、100℃粘度が9.3〜11.5mm/sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物及びそれを用いた含浸軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車電装機器や、家電・OA事務機器向けの軸受として、金属粉末を焼結して成形したいわゆる含浸軸受が多く用いられている。含浸軸受は、耐久性や剛性に優れ、また、従来の玉軸受に比べ、生産コストも低く抑えられる利点がある。
このような含浸軸受は、金属粉の混合、成形、焼結、サイジング等の各工程を経て、用途、性能に応じた潤滑油を含浸装置にて真空含油して製造される。含浸する潤滑油としては、従来から、鉱物油系、ポリαオレフィン(PAO)、アルキル化ジフェニルエーテル、脂肪酸エステル、フッ素化油、シリコーン油などが知られている。これらの基油に、酸化防止剤、防錆剤、摩耗防止剤などの様々な添加剤を配合したものが使用されている。
【0003】
含浸軸受用潤滑油への要求性能としては、適切な粘度特性、潤滑性、長期安定性、耐揮発性、材料適合性(金属、樹脂など)などに優れることが挙げられる。
一方、近年の技術は、ますます高度化、高速化、小型軽量化しており、使用条件もより厳しくなっている。例えば、最近の自動車では、電動モータが多く使用されるようになっており、モータの軸受として含浸軸受が採用される例が増えている。その場合、自動車用の電動モータは、北欧・北米等のような寒冷地では、−40℃で駆動することが要求されるとともに、エンジンルーム内では、雰囲気温度が高くなるため、120℃での耐久性(粘度変化のないこと、蒸発減量が少ないこと)も求められている。すなわち、低温領域から高温領域まで安定して使用できる含浸軸受及びその含浸軸受用の潤滑油が求められている。
【0004】
含浸軸受用潤滑油に対するこのような要求に対し、現状では、エステル系の軸受油を高温用、低温用で使い分けているのが一般的である。また、主鎖構造の異なる2種類のパーフルオロエーテル油を混合することで、流体特性に相乗効果をもたらし、始動性、高温での潤滑維持、低温での流動性を改善する試みもある(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特公平3―69394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、含浸軸受は、いったん潤滑油を封入すると無給油で使用することが一般的であり、潤滑油を高温用、低温用で使い分けるためには、軸受自体を交換せざるを得ないため、極めて不便である。
また、特許文献1は、焼結含浸軸受に使用する観点からの発明ではなく、またこれによっては、流体特性を改善させるだけで、含浸軸受に必要な特性である耐摩耗性、摩擦係数、防錆性、拡散性を改善するものではない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、特に含浸軸受用として、低温領域から高温領域まで優れた性能を維持できる潤滑油組成物、およびその潤滑油組成物を用いた含浸軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、炭素数が9〜12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8〜13の一級アルコールとから構成されるエステルを基油として、SP値(溶解度指数)が9.2以上、質量平均分子量が1×10〜1×10である(メタ)アクリル酸アルキル重合体を組成物全量基準で0.5〜10質量%含有し、100℃粘度が9.3〜11.5mm/sであることを特徴とする。
【0009】
ここで、(メタ)アクリル酸アルキル重合体としては、モノマー単位がアクリル酸アルキル、あるいは、メタクリル酸アルキルであればよく、例えば、アクリル酸アルキルーメタクリル酸アルキル共重合体のような共重合体も含まれる。
この本発明によれば、基油として、炭素数が9〜12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8〜13の一級アルコールとから構成されるエステルを用いているため、例えば、含浸軸受用潤滑油組成物の基油として用いたときに、低温時における駆動性がよく、高温時においても蒸発減量が少ない。
また、粘度指数向上剤として、SP値(溶解度指数)が9.2以上で、質量平均分子量が1×10〜1×10である(メタ)アクリル酸アルキル重合体を組成物全量基準で1〜10質量%含有しているため、基油である上述のエステルに対する溶解性に優れる。この質量平均分子量は2×10〜5×10であることが好ましい。
さらに、組成物の100℃粘度が9.3〜11.5mm/sであるため、低温領域から高温領域まで粘度変化が少なく安定した潤滑効果を発揮できる。
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、酸化防止剤、摩擦調整剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、消泡剤、増稠剤、及び帯電防止剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤を含有することが好ましい。
本発明の潤滑油組成物によれば、上述した添加剤を少なくとも一種含有しているため、潤滑油として使用した場合に、経年劣化が少なく、潤滑油特性により優れる等、各々の添加剤に応じた効果を享受することができる。特に、含浸軸受用の潤滑油は、入れ替えが困難であり、このような添加剤が添加されていることが好ましい。
【0011】
本発明では、前記酸化防止剤が、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
本発明において、酸化防止剤が、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種であると、潤滑油組成物に対する酸化防止効果をより効果的に発揮することができる。
【0012】
本発明では、前記摩擦調整剤が、リン酸エステル類、そのアミン塩、及び硫黄系極圧剤から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
本発明において、摩擦調整剤が、リン酸エステル類、そのアミン塩、及び硫黄系極圧剤から選ばれる少なくとも一種であると、潤滑油組成物に対して潤滑特性を好適に制御することができる。
【0013】
本発明の含浸軸受は、上述の潤滑油組成物を用いたことを特徴とする。
本発明によれば、含浸軸受が上述の潤滑油組成物を含浸させているため、低温領域から高温領域に渡って優れた潤滑性能を維持できる。また、高温での蒸発減量も少なく、耐久性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における基油としては、炭素数が9〜12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8〜13の一級アルコールとから構成されるエステルが用いられる。
炭素数が9〜12の二塩基酸としては、例えば、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等を用いることができる。
二塩基酸の炭素数が8以下であると、高い粘度指数が得られず、温度の変化による粘度の変化が大きくなる。また、炭素数が13以上であると、流動点が高くなり、低温特性が悪化する。
側鎖を有する炭素数が8〜13の一級アルコールとしては、2エチルヘキサノール、3,3,5−トリメチルヘキサノール、ジメチルオクタノール、イソトリデカノール等を用いることができる。
一級アルコールの炭素数が7以下であると、高い粘度指数が得られず、温度の変化による粘度の変化が大きくなる。また、炭素数が14以上であると、流動点が高くなり、低温特性が悪化する。
【0015】
ここで、上述のエステルの炭素数(二塩基酸と一級アルコール双方の炭素数の総和)は、25〜38であるが、26〜36であることが好ましく、28〜34であることがより好ましい。総炭素数が25より少ないと、潤滑油組成物となったときに蒸発減量が多くなり、含浸軸受として用いたときに耐久性が劣る。一方、上述のエステルの総炭素数が38より多いと、基油の粘度が高くなりすぎて、低温時において、含浸軸受に対する回転軸の駆動性が悪くなる。なお、蒸発減量は、JIS K 2540に準拠して測定することができる。
本発明においては、基油として、前記したエステルを一種用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、本発明の組成物においては、基油に添加される粘度指数向上剤として、SP値(溶解度指数)が9.2以上、質量平均分子量が1×10〜1×10、好ましくは、2×10〜5×10である(メタ)アクリル酸アルキル重合体が用いられる。
SP値が9.2未満であると、粘度指数向上効果が劣る。SP値は、好ましくは9.3以上である。ちなみに、基油が鉱油であると、SP値が9.2以上の高分子(重合体、ポリマー)は溶解しないが、本発明で用いられる基油は上述のような特定のエステルであり、
高SP値の(メタ)アクリル酸アルキル重合体に対する溶解性に優れる。
この(メタ)アクリル酸アルキル重合体は、質量平均分子量が1×10未満であると、粘度指数向上効果が低い。また、質量平均分子量が1×10を超えると、組成物が高粘度となり取り扱いにくくなる。
ここで、(メタ)アクリル酸アルキル重合体としては、モノマー単位がアクリル酸アルキル、あるいは、メタクリル酸アルキルであればよく、例えば、アクリル酸アルキルーメタクリル酸アルキル共重合体のような共重合体も含まれる。
【0017】
上述の粘度指数向上剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で0.5〜10質量%、好ましくは、1〜5質量%である。この含有量が0.5質量%未満では、粘度指数向上効果が低く、また、含有量が10質量%を超えても、粘度指数向上効果はそれほど向上せず、むしろ組成物の粘度自体が高くなりすぎ、潤滑性を阻害する。
【0018】
さらに、本発明の潤滑油組成物は、100℃粘度が9.3〜11.5mm/sである。100℃粘度が9.3mm/s未満では、高温時に潤滑油膜がうまく形成できず潤滑性が十分ではない。また、100℃粘度が11.5mm/sを超えると、低温時における粘度が高くなりすぎ、やはり潤滑性を阻害する。
なお、本発明のSP値は、Fedors法[Poym.Eng.Sci.14(2)152,(1974)]によって算出される値である。また、粘度指数は、JIS K 2283に準拠して測定することができる。
【0019】
本発明の潤滑油組成物は、炭素数が9〜12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8〜13の一級アルコールとから構成されるエステルを基油として、SP値(溶解度指数)が9.2以上、質量平均分子量が1×10〜1×10である(メタ)アクリル酸アルキル重合体を組成物全量基準で0.5〜10質量%含有し、100℃粘度が9.3〜11.5mm/sであるので、低温領域から高温領域にいたるまで粘度変化が少なく、また、蒸発減量も少ない。
それ故、各種の焼結金属からなる含浸軸受に含浸させて含浸軸受ユニットとして好適に使用できる。
【0020】
このような含浸軸受ユニットは各種の軸受に使用されるが、例えば、自動車電装品用モータのモーター軸受やキャプスタン軸受に適用することができる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物においては、必要により、さらに、酸化防止剤、摩擦調整剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、消泡剤、増稠剤、および帯電防止剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0022】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系を挙げることができ、なかでもジアルキルジフェニルアミン系のものが好ましい。上記のアミン系酸化防止剤は一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンなどの高分子型フェノール系を挙げることができる。上記のフェノール系酸化防止剤は一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
硫黄系酸化防止剤としては、フェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル))プロピオネート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−メチルアミノ)フェノールなどが挙げられる。上記の硫黄系酸化防止剤は一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、上記各系の酸化防止剤を二種以上組み合わせて使用してもよい。
これら酸化防止剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲であり、0.03〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0025】
摩擦調整剤は、一般に油性剤又は極圧剤として用いられているものを使用することができ、特にリン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩及び硫黄系極圧剤が挙げられる。
リン酸エステルとしては、下記の一般式(I)〜(V)で表されるリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルを包含する。
【0026】
【化1】

【0027】
上記一般式(I)〜(V)において、R1〜R3は炭素数4〜30のアルキル基又はアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基又はアルキルアリール基及び炭素数7〜30のアラルキル基を示し、R1〜R3は同一でも異なっていてもよい。
リン酸エステルとしては、アリールホスフェート、アルキルホスフェート、アルキルアリールホスフェート、アラルキルホスフェート、アルケニルホスフェートなどがあり、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどを挙げることができる。
【0028】
酸性リン酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェートなどを挙げることができる。
【0029】
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイトなどを挙げることができる。
【0030】
酸性亜リン酸エステルとしては、例えば、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイトなどを挙げることができる。以上のリン酸エステル類の中で、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェートが好適である。
【0031】
さらに、これらとアミン塩を形成するアミン類としては、例えば一般式(VI)
R4nNH3−n ・・・(VI)
(式中、R4は、炭素数3〜30のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基もしくはアラルキル基又は炭素数2〜30のヒドロキシアルキル基を示し、nは1、2又は3を示す。また、R4が複数ある場合、複数のR4は同一でも異なっていてもよい。)
で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン又はトリ置換アミンが挙げられる。上記一般式(VI)におけるR4のうちの炭素数3〜30のアルキル基もしくはアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0032】
モノ置換アミンの例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミンなどを挙げることができ、ジ置換アミンの例としては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノールなどを挙げることができ、トリ置換アミンの例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンなどを挙げることができる。
【0033】
硫黄系極圧剤としては、分子内に硫黄原子を有し、潤滑油基油に溶解又は均一に分散して、極圧性や優れた摩擦特性を発揮しうるものであればよい。このようなものとしては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、チオリン酸エステル(チオフォスファイト、チオフォスフェート)、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。ここで、硫化油脂は硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5〜30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などを挙げることができる。硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルなどを挙げることができる。
【0034】
硫化オレフィンとしては、例えば、下記の一般式(VII)
R5−Sa−R6 ・・・(VII)
(式中、R5は炭素数2〜15のアルケアルケニル基、R6は炭素数2〜15のアルキル基又はアルケニル基を示し、aは1〜8の整数を示す。)
で表される化合物などを挙げることができる。この化合物は、炭素数2〜15のオレフィン又はその二〜四量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られ、該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましい。
【0035】
ジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、下記の一般式(VIII)
R7−Sb−R8 ・・・(VIII)
(式中、R7及びR8は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基又は環状アルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、bは1〜8の整数を示す。)
で表される化合物である。ここで、R7及びR8がアルキル基の場合、硫化アルキルと称される。
【0036】
上記一般式(VIII)におけるR7及びR8は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
【0037】
このジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、ジベンジルポリサルファイド、各種ジノニルポリサルファイド、各種ジドデシルポリサルファイド、各種ジブチルポリサルファイド、各種ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを好ましく挙げることができる。
チアジアゾール化合物としては、例えば、下記一般式(IX)
【0038】
【化2】

【0039】
(式中、R9及びR10は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、c及びdは、それぞれ0〜8の整数を示す。)
で表される1,3,4−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール化合物、1,4,5−チアジアゾールなどが好ましく用いられる。
このチアジアゾール化合物としては、例えば、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3,−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾールなどを好ましく挙げることができる。
【0040】
チオリン酸エステルとしては、アルキルトリチオフォスファイト、アリール又はアルキルアリールチオフォスフェート、ジラウリルジチオリン酸亜鉛などが挙げられ、特にラウリルトリチオフォスファイト、トリフェニルチオフォスフェートが好ましい。
アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、下記一般式(X)
【0041】
【化3】

【0042】
(式中、R11〜R14は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基を示し、eは1〜8の整数を示す。)
で表される化合物を挙げることができる。
このアルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、ビス(ジメチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジアミルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジオクチルチオカルバモイル)ジスルフィドなどを好ましく挙げることができる。
【0043】
さらに、チオカーバメート化合物としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛を、チオテルペン化合物としては、例えば、五硫化リンとピネンの反応物を、ジアルキルチオジプロピオネート化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどを挙げることができる。これらの中で、極圧性、摩擦特性、熱的酸化安定性などの点から、チアジアゾール化合物、ベンジルサルファイドが好適である。
【0044】
以上の摩擦調整剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲であり、0.05〜5質量%の範囲がより好ましい。配合量が0.01質量%未満の場合は、他成分との相乗効果による摩擦特性の向上効果が不十分な場合があり、配合量が10質量%を超えても、配合量に相当する効果の向上がみられない場合がある。
【0045】
清浄分散剤としては、例えば、金属スルホネート、金属フェネート、金属サリチレート、金属ホスホネート、コハク酸イミドなど挙げることができる。
これら清浄分散剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲であり、0.1〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0046】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、没食子酸エステル系の化合物等が使用可能である。
これら金属不活性化剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜0.4質量%であり、0.01〜0.2質量%の範囲がより好ましい。
【0047】
消泡剤としては、液状シリコーンが適しており、例えば、メチルシリコーン,フルオロシリコーン,ポリアクリレートが使用可能である。
これら消泡剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.0005〜0.01質量%である。
【0048】
増稠剤としては、金属セッケンが好ましく、例えば、12−ヒドロステアリン酸Li金属塩、12−ヒドロステアリン酸Ca金属塩、12−ヒドロステアリン酸Na金属塩又は下記一般式(XI)で示すものが挙げられる。
(R−COO) M ・・・(XI)
(M は、Na,Mg,Al,K,Ca,Li,Ti,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn等の元素であり、Rは、炭素数4〜30のアルキル基、アルキルアリール基、アルケニル基、アラルキル基を示す。fは1〜3の整数である。)
式(XI)において、M がMg,Al又はZnであるものが好ましい。
これら増ちょう剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%であり、0.1〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0049】
帯電防止剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、および両性界面活性剤などが挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩等がある。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などの四級アンモニウム塩等がある。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのエーテルや、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどのエステル、脂肪酸アルカノールアミドのようなアミドが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン系としてアルキルベタインなどが挙げられる。これら帯電防止剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%である。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
[実施例1〜4及び比較例1〜5]
(1)潤滑油組成物の調製
基油として、表1に示す性状の各エステルを用い、また、粘度指数向上剤として、表2に示す性状の各ポリマーを用いて、実施例・比較例の潤滑油組成物を調整した。表3、表4には各潤滑油組成物の構成を示すと共に、性状(各種粘度、粘度指数、及び蒸発減量)も併せて示した。
ちなみに、エステルA、エステルBは本発明で使用される基油に該当するがエステルCは、アルコール部分が一級アルコールではないので本発明の基油ではない。
ポリマー1、2はいずれもアルキルメタクリレート−MMA共重合体であるが、セバシン酸ジイソドデシル(DIDS)の20質量%溶液として入手したもの(三洋化成工業(株)製)を用い、基油と混合して潤滑油組成物を調製した。
また、ポリマー3は、ポリアルキルメタクリレートであるが、鉱油の47質量%溶液として入手したもの(三洋化成工業(株)製 サンルーブ1502)を用いて潤滑油組成物を調製した。ポリマー4は、オレフィンコポリマー(三井化学(株)製 ルーカントHC600)を単体として用いて潤滑油組成物を調製した。
【0051】
なお、実施例・比較例の各潤滑油組成物にはいずれも、下記の汎用添加剤が合計2.31質量%づつ添加されている。
酸化防止剤A:オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート 0.5質量%
酸化防止剤B:4,4−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
0.5質量%
極圧剤 :トリキシレニルホスフェート 1.0質量%
油性剤 :ECA10489(インフィニアム社製) 0.3質量%
耐電防止剤 :1H−ベンゾトリアゾール 0.01質量%
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
(2)結果
実施例1〜4の潤滑油組成物は、いずれも本発明の構成要件を満たしており、粘度(BF粘度 −40℃、40℃粘度、100℃粘度)および粘度指数からわかるように、低温領域から高温領域まで粘度変化が少なく、また150℃における蒸発減量も少ないため含浸軸受用潤滑油としての性能に極めて優れている。
一方、比較例1では、100℃粘度が高く、潤滑特性に劣る。比較例2では、基油として用いたエステルが二塩基酸と一級アルコールとから構成されておらず、粘度指数も低いため、低温における組成物の粘度(BF粘度 ―40℃)が高く、例えば、含浸軸受用潤滑油として用いたときに、低温時における回転軸の駆動力が高くなる。比較例3では、粘度指数向上剤として用いたポリマー3はポリアクリルメタクリレートであるが、そのSP値が低く、粘度指数も低いため、低温における組成物の粘度(BF粘度 ―40℃)が高く、比較例2と同様の不具合がある。また、蒸発減量も比較的多い。比較例4も比較例3と同様に粘度指数向上剤として用いたポリマー3を用いており、同様の不具合がある。また、蒸発減量が非常に多く、含浸軸受用潤滑油として用いた場合に耐久性に問題がある。比較例5では、粘度指数向上剤として汎用されているオレフィンコポリマーを用いているが、粘度指数向上効果が低く、低温時における粘度がやや高すぎる。
【0057】
なお、市販の含浸軸受用潤滑油を参考例1,2として表3に示した。参考例1の潤滑油では、低温時の粘度は問題ないものの蒸発減量が多く、耐久性に問題がある。参考例2の潤滑油は、蒸発減量は少なく、高温時の粘度も問題ないが、低温時の粘度が高すぎて、低温時における回転軸の駆動性に問題がある。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の潤滑油組成物は、含浸軸受用潤滑油として低温領域から高温領域まで好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が9〜12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8〜13の一級アルコールとから構成されるエステルを基油として、
SP値(溶解度指数)が9.2以上、質量平均分子量が1×10〜1×10である(メタ)アクリル酸アルキル重合体を組成物全量基準で0.5〜10質量%含有し、
100℃粘度が9.3〜11.5mm/sであることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油組成物において、
酸化防止剤、摩擦調整剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、消泡剤、増稠剤、及び帯電防止剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の潤滑油組成物において、
前記酸化防止剤が、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の潤滑油組成物において、
前記摩擦調整剤が、リン酸エステル類、そのアミン塩、及び硫黄系極圧剤から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の潤滑油組成物を用いたことを特徴とする含浸軸受。

【公開番号】特開2007−46009(P2007−46009A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234487(P2005−234487)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】