説明

潤滑油組成物

【課題】省燃費性を向上しつつ、金属疲労防止性や耐荷重性に優れる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)1種または2種以上の混合物からなる、40℃における動粘度が5〜15mm/sの鉱油系基油、および(B)1種または2種以上の混合物からなる、40℃における動粘度が3〜25mm/s、0℃における動粘度が10〜130mm/sのエステル系基油を含有し、(A)成分と(B)成分の混合基油の40℃における動粘度が18mm/s以下で、かつエステル系基油配合率が0.5〜80質量%であり、組成物の40℃における動粘度が4〜23mm/sである潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、詳しくは、優れた粘度温度特性及び低温流動性を有し、かつ優れた疲労防止性、耐荷重性を有する潤滑油組成物、特に自動変速機及び/又は無段変速機、並びに内燃機関に好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動変速機や手動変速機及び内燃機関に使用される潤滑油には、熱酸化安定性、耐摩耗性、疲労防止性等の各種耐久性向上や省燃費性向上のための粘度温度特性の向上、低温粘度低減、低温流動性の向上等の低温粘度特性の向上が要求されており、このような性能を向上させるために、基油に適宜、酸化防止剤、清浄分散剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤、シール膨潤剤、粘度指数向上剤、消泡剤、着色剤等の各種添加剤が配合された潤滑油が使用されている。
【0003】
最近の変速機・エンジン油には省燃費化や軽量小型化や高出力化が望まれており、さらに変速機においては組み合わされるエンジンの高出力化に伴い、動力伝達能力の向上が追求されている。そのため、これらに使用される潤滑油には、製品粘度や基油粘度を低減したうえで、高い潤滑性能を維持し、ベアリング、歯車等の表面における摩耗・疲労等を防止する性能が要求される。また、自動変速機や無段変速機は−10℃以下の寒冷地で使用されることが想定され、低温始動性の向上や低温時の燃費向上の目的で、より一層の低温性能の向上が求められている。一般的には、省燃費性を向上するためには、基油粘度を低減し、粘度指数向上剤を増量することにより、粘度温度特性を向上させる手法が取られるが、基油粘度の低減により、疲労防止性は悪化するため、省燃費性と摩耗防止性や疲労防止性をより高いレベルで両立できる潤滑油の開発が熱望されている。また、低温粘度特性の向上は、基油粘度を低減するか、製品粘度を低減することにより達成可能となる。しかしながら、基油粘度を低減することにより、摩耗防止性や疲労防止性は悪化することが知られており、低温粘度特性と摩耗防止性や疲労防止性を両立できる潤滑油の開発が熱望されている。
【0004】
こうした中、省燃費性や低温粘度特性と疲労防止性を両立させるために、低温性能のよい基油を用いることや、高粘度の基油を併用すること、さらにリン系極圧剤及び硫黄系極圧剤などを適量添加することが知られている(例えば特許文献1〜3)。
しかしながら、上記手法だけでは粘度温度特性および低温性能と疲労防止性、耐荷重性の両立が十分に図れておらず、これらの性能を両立させつつその他の諸性能についても問題ない性能を有する潤滑油組成物の開発が求められている。
【特許文献1】特開2004−262979号公報
【特許文献2】特開平11−286696号公報
【特許文献3】特表2003−514099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑み、優れた粘度温度特性及び低温性能を有するとともに、疲労防止性や耐荷重性に優れた潤滑油組成物、特に自動変速機及び/又は無段変速機に好適な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の潤滑油基油に特定の添加剤を含有する潤滑油組成物が粘度温度特性及び低温性能に優れ、摩耗防止性及び金属疲労寿命を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)1種または2種以上の混合物からなる、40℃における動粘度が5〜15mm/sの鉱油系基油、および(B)1種または2種以上の混合物からなる、40℃における動粘度が3〜25mm/s、0℃における動粘度が10〜130mm/sのエステル系基油を含有し、(A)成分と(B)成分の混合基油の40℃における動粘度が18mm/s以下で、かつエステル系基油配合率が0.5〜80質量%であり、組成物の40℃における動粘度が4〜23mm/sである潤滑油組成物である。
【0008】
また前記(B)エステル系基油は、モノエステルであることが好ましい。
【0009】
また前記(B)エステル系基油の粘度指数は170以上であることが好ましい。
【0010】
また本発明の潤滑油組成物は、(C)重量平均分子量7万以下のポリメタクリレート系粘度指数向上剤を含有することが好ましい。
【0011】
また本発明は、前記の潤滑油組成物からなる変速機油組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潤滑油組成物は、優れた粘度温度特性及び低温性能を有するとともに、金属疲労防止性、耐荷重性に優れる。従って、自動車、建設機械、農業機械等の自動変速機及び/又は無段変速機に特に好適であり、また、自動車、建設機械、農業機械等の手動変速機用、ディファレンシャルギヤ用の潤滑油としても好適に用いられる。その他、工業用ギヤ油、二輪車、四輪車等の自動車用、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン用の潤滑油、タービン油、圧縮機油等にも好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における(A)成分は、1種または2種以上の混合物からなる、40℃における動粘度が5〜15mm/sの鉱油系基油である。
(A)成分の40℃における動粘度は5〜15mm/sであることが必要であり、好ましく6mm/s以上であり、より好ましくは7mm/s以上であり、さらに好ましくは8mm/s以上であり、特に好ましくは9mm/s以上である。また、好ましくは13mm/s以下であり、より好ましくは12mm/s以下であり、さらに好ましくは11mm/s以下であり、特に好ましくは10mm/s以下である。(A)成分の40℃における動粘度が15mm/sを越える場合は、粘度温度特性及び低温粘度特性が悪化し、一方、5mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため金属疲労防止性、耐荷重性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0014】
(A)成分の100℃における動粘度については特に制限はないが、1〜5mm/sであることが好ましく、より好ましく1.5mm/s以上であり、さらに好ましくは2.0mm/s以上であり、特に好ましくは2.3mm/s以上であり、最も好ましくは2.5mm/s以上である。また、好ましくは4.0mm/s以下であり、より好ましくは3.5mm/s以下であり、さらに好ましくは3.3mm/s以下であり、特に好ましくは3.0mm/s以下である。(A)成分の100℃における動粘度が5mm/sを越える場合は、粘度温度特性及び低温粘度特性が悪化し、一方、1mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため金属疲労防止性、耐荷重性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0015】
(A)成分の流動点については特に制限はないが、−15℃以下であることが好ましく、より好ましくは−17.5℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以下であり、特に好ましくは−22.5℃以下であり、最も好ましくは−25℃以下である。また、その下限については特に制限はないが、低温粘度特性と脱ろう工程における経済性の点で、好ましくは−45℃以上であり、より好ましくは−40℃以上、さらに好ましくは−35℃以上、特に好ましくは−30℃以上である。(A)成分の流動点を−15℃以下とすることで、低温粘度特性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。なお、脱ろう工程としては溶剤脱ろう、接触脱ろうのいずれの工程を適用してもよいが、低温粘度特性をより改善できる点で接触脱ろう工程であることが特に好ましい。
【0016】
(A)成分の粘度指数については特に制限はないが、100以上であることが好ましく、より好ましくは105以上であり、さらに好ましくは110以上である。また、本発明の1つの態様として135以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは135以下、より好ましくは130以下、さらに好ましくは125以下、特に好ましくは120以下である。なお、前記(A)成分の粘度指数を100以上とすることで粘度温度特性及び低温粘度特性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。
【0017】
また、(A)成分の%Cについては特に制限はないが、70以上であることが好ましく、熱・酸化安定性と粘度温度特性をより高めることができる点で、より好ましくは72以上、さらに好ましくは73以上、特に好ましくは75以上であり、その上限については特に制限はなく、本発明の1つの態様として90以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れる点で好ましくは90以下であり、より好ましくは85以下である。
また、(A)成分の%Cについては特に制限はないが、5以下であることが好ましく、熱・酸化安定性と粘度温度特性を高めることができる点で、より好ましくは3以下であり、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。
また、(A)成分の%Cについては特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性をより高めることができる点で、好ましくは30以下、より好ましくは25以下であり、その下限については特に制限はなく、本発明の1つの態様として10未満でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性に優れる点で好ましくは10以上であり、より好ましくは15以上である。
なお、ここでいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率及びナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率をそれぞれ意味する。
【0018】
(A)成分の飽和分の含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性をより高めることができる点で、好ましくは90質量%以上、より好ましくは94質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
また、(A)成分の芳香族分の含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性と粘度温度特性をより高めることができる点で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
なお、本発明でいう飽和分及び芳香族分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0019】
(A)成分のアニリン点については特に制限はないが、低温粘度特性と疲労寿命に優れる潤滑油組成物を得ることができる点で90℃以上であることが好ましく、より好ましくは95℃以上、さらに好ましくは100℃以上であり、特に好ましくは103℃以上である。また、その上限については特に制限はなく、本発明の1つの態様として120℃以上でもよいが、添加剤やスラッジの溶解性により優れ、シール材への適合性により優れる点で好ましくは120℃以下であり、より好ましくは115℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0020】
(A)成分の硫黄分については特に制限はないが、好ましくは0.1質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下であることが望ましい。
(A)成分の窒素分については特に制限はないが、より熱・酸化安定性に優れる組成物を得ることができる点で、好ましくは5質量ppm以下であり、より好ましくは3質量ppm以下である。
【0021】
(A)成分のNOACK蒸発量については特に制限されないが、好ましくは2〜70質量%であり、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%、さらに好ましくは25〜50質量%である。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0022】
(A)成分は、1種の鉱油のみであっても、また2種以上の鉱油の混合物であってもよい。
【0023】
(A)成分は、上記性状を有する限りにおいてその製造法に特に制限はないが、具体的には、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油及び/又はこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種又は2種以上の混合油及び/又は当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油
【0024】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸又はアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0025】
更に、本発明にかかる潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)又は(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油
【0026】
上記(9)又は(10)の潤滑油基油を得るに際して、脱ろう工程としては、熱・酸化安定性と低温粘度特性をより高めることができ、潤滑油組成物の疲労防止性能をより高めることができる点で、接触脱ろう工程を含むことが特に好ましい。
また、上記(9)又は(10)の潤滑油基油を得るに際して、必要に応じて溶剤精製処理及び/又は水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0027】
上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒については特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)又は当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒及び水素化異性化触媒は、積層又は混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0028】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr−1、水素/油比50〜20000scf/bblとすることが好ましい。
【0029】
また、接触脱ろう(触媒脱ろう)の場合は、水素化分解・異性化生成油を、適当な脱ろう触媒の存在下、流動点を下げるのに有効な条件で水素と反応させる。接触脱ろうでは、分解/異性化生成物中の高沸点物質の一部を低沸点物質へと転化させ、その低沸点物質をより重い基油留分から分離し、基油留分を分留し、2種以上の潤滑油基油を得る。低沸点物質の分離は、目的の潤滑油基油を得る前に、あるいは分留中に行うことができる。
【0030】
脱ろう触媒としては、分解/異性化生成油の流動点を低下させることが可能なものであれば特に制限されないが、分解/異性化生成油から高収率で目的の潤滑油基油を得ることができるものが好ましい。このような脱ろう触媒としては、形状選択的分子篩(モレキュラーシーブ)が好ましく、具体的には、フェリエライト、モルデナイト、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−22(シータワン又はTONとも呼ばれる)、シリコアルミノホスフェート類(SAPO)などが挙げられる。これらのモレキュラーシーブは、触媒金属成分と組み合わせて使用することが好ましく、貴金属と組み合わせることがより好ましい。好ましい組合せとしては、例えば白金とH−モルデナイトとを複合化したものが挙げられる。
【0031】
脱ろう条件は特に制限されないが、温度は200〜500℃が好ましく、水素圧は10〜200バール(1MPa〜20MPa)がそれぞれ好ましい。また、フロースルー反応器の場合、H処理速度は0.1〜10kg/l/hrが好ましく、LHSVは0.1〜10h−1が好ましく、0.2〜2.0h−1がより好ましい。また、脱ろうは、分解/異性化生成油に含まれる、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下の、初留点が350〜400℃である物質をこの初留点未満の沸点を有する物質へと転換するように行うことが好ましい。
【0032】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分に加えて、(B)成分である40℃における動粘度が3〜25mm/s、0℃における動粘度が10〜130mm/sのエステル系基油を含有する。
【0033】
(B)成分の40℃における動粘度は3〜25mm/sであることが必要であり、好ましくは4mm/s以上であり、より好ましくは5mm/s以上であり、さらに好ましくは6mm/s以上であり、特に好ましくは7mm/s以上であり、最も好ましくは8mm/s以上である。また、その上限値は、好ましくは23mm/s以下であり、より好ましくは20mm/s以下であり、さらに好ましくは15mm/s以下であり、特に好ましくは12mm/s以下であり、最も好ましくは10mm/s以下である。(B)成分の40℃における動粘度が25mm/sを越える場合は、粘度温度特性及び低温粘度特性が悪化するため好ましくない。一方、その動粘度が3mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため金属疲労防止性、耐荷重性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0034】
(B)成分の0℃における動粘度は10〜130mm/sであることが必要であり、好ましくは15mm/s以上であり、より好ましくは20mm/s以上であり、さらに好ましくは25mm/s以上であり、特に好ましくは27mm/s以上であり、最も好ましくは29mm/s以上である。また、その上限値は、好ましくは120mm/s以下であり、より好ましくは100mm/s以下であり、さらに好ましくは80mm/s以下であり、特に好ましくは60mm/s以下であり、最も好ましくは40mm/s以下である。(B)成分の0℃における動粘度が130mm/sを越える場合は、粘度温度特性及び低温粘度特性が悪化するため好ましくない。一方、その動粘度が10mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため金属疲労防止性、耐荷重性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0035】
(B)成分の100℃における動粘度については特に制限はないが、その下限値は、好ましくは1.0mm/s以上であり、より好ましくは1.5mm/s以上であり、さらに好ましくは2.0mm/s以上であり、特に好ましくは2.3mm/s以上であり、最も好ましくは2.5mm/s以上である。また、その上限値は、好ましくは10mm/s以下であり、より好ましくは5mm/s以下であり、さらに好ましくは4mm/s以下であり、特に好ましくは3.5mm/s以下であり、最も好ましくは3.0mm/s以下である。(B)成分の100℃における動粘度が10mm/sを越える場合は、粘度温度特性及び低温粘度特性が悪化する傾向にあり、一方、その動粘度が1.0mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため金属疲労防止性、耐荷重性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0036】
(B)成分の粘度指数については特に制限はないが、その下限値は100以上であることが好ましく、より好ましくは120以上であり、さらに好ましくは140以上であり、特に好ましくは160以上であり、最も好ましくは170以上であり、特に最も好ましくは180以上である。また、本発明の1つの態様として220以上でもよいが、(A)成分との溶解性に優れる点で好ましくは220以下、より好ましくは210以下、さらに好ましくは200以下、特に好ましくは190以下である。なお、前記(B)成分の粘度指数を100以上とすることで粘度温度特性及び低温粘度特性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。
【0037】
(B)成分であるエステル系基油を構成するアルコールとしては1価アルコールでも多価アルコールでもよく、また、エステル系基油を構成する酸としては一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。また、エステル結合を含有する基油であれば、複合エステル化合物であってもよい。好ましくはモノエステルもしくはジエステルであり、モノエステルであることがより好ましい。
【0038】
1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状または分枝状のプロパノール、直鎖状または分枝状のブタノール、直鎖状または分枝状のペンタノール、直鎖状または分枝状のヘキサノール、直鎖状または分枝状のヘプタノール、直鎖状または分枝状のオクタノール、直鎖状または分枝状のノナノール、直鎖状または分枝状のデカノール、直鎖状または分枝状のウンデカノール、直鎖状または分枝状のドデカノール、直鎖状または分枝状のトリデカノール、直鎖状または分枝状のテトラデカノール、直鎖状または分枝状のペンタデカノール、直鎖状または分枝状のヘキサデカノール、直鎖状または分枝状のヘプタデカノール、直鎖状または分枝状のオクタデカノール、直鎖状または分枝状のノナデカノール、直鎖状または分枝状のイコサノール、直鎖状または分枝状のヘンイコサノール、直鎖状または分枝状のトリコサノール、直鎖状または分枝状のテトラコサノールおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0039】
多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10価の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトールおよびこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0040】
これらの多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコールおよびこれらの混合物等が好ましい。さらにエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、およびこれらの混合物等がより好ましい。これらの中でも、より高い熱・酸化安定性が得られることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびこれらの混合物等が最も好ましい。
【0041】
また、本発明において用いるエステルを構成する酸のうち、一塩基酸としては、通常炭素数2〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状または分枝状のブタン酸、直鎖状または分枝状のペンタン酸、直鎖状または分枝状のヘキサン酸、直鎖状または分枝状のヘプタン酸、直鎖状または分枝状のオクタン酸、直鎖状または分枝状のノナン酸、直鎖状または分枝状のデカン酸、直鎖状または分枝状のウンデカン酸、直鎖状または分枝状のドデカン酸、直鎖状または分枝状のトリデカン酸、直鎖状または分枝状のテトラデカン酸、直鎖状または分枝状のペンタデカン酸、直鎖状または分枝状のヘキサデカン酸、直鎖状または分枝状のヘプタデカン酸、直鎖状または分枝状のオクタデカン酸、直鎖状または分枝状のノナデカン酸、直鎖状または分枝状のイコサン酸、直鎖状または分枝状のヘンイコサン酸、直鎖状または分枝状のドコサン酸、直鎖状または分枝状のトリコサン酸、直鎖状または分枝状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状または分枝状のブテン酸、直鎖状または分枝状のペンテン酸、直鎖状または分枝状のヘキセン酸、直鎖状または分枝状のヘプテン酸、直鎖状または分枝状のオクテン酸、直鎖状または分枝状のノネン酸、直鎖状または分枝状のデセン酸、直鎖状または分枝状のウンデセン酸、直鎖状または分枝状のドデセン酸、直鎖状または分枝状のトリデセン酸、直鎖状または分枝状のテトラデセン酸、直鎖状または分枝状のペンタデセン酸、直鎖状または分枝状のヘキサデセン酸、直鎖状または分枝状のヘプタデセン酸、直鎖状または分枝状のオクタデセン酸、直鎖状または分枝状のノナデセン酸、直鎖状または分枝状のイコセン酸、直鎖状または分枝状のヘンイコセン酸、直鎖状または分枝状のドコセン酸、直鎖状または分枝状のトリコセン酸、直鎖状または分枝状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、およびこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、潤滑性および取扱性がより高められる点から、特に炭素数3〜20の飽和脂肪酸、炭素数3〜22の不飽和脂肪酸およびこれらの混合物が好ましく、炭素数4〜18の飽和脂肪酸、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸およびこれらの混合物がより好ましく、酸化安定性の点からは、炭素数4〜18の飽和脂肪酸が最も好ましい。
【0042】
多塩基酸としては炭素数2〜16の二塩基酸およびトリメリット酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状または分枝状のブタン二酸、直鎖状または分枝状のペンタン二酸、直鎖状または分枝状のヘキサン二酸、直鎖状または分枝状のヘプタン二酸、直鎖状または分枝状のオクタン二酸、直鎖状または分枝状のノナン二酸、直鎖状または分枝状のデカン二酸、直鎖状または分枝状のウンデカン二酸、直鎖状または分枝状のドデカン二酸、直鎖状または分枝状のトリデカン二酸、直鎖状または分枝状のテトラデカン二酸、直鎖状または分枝状のヘプタデカン二酸、直鎖状または分枝状のヘキサデカン二酸、直鎖状または分枝状のヘキセン二酸、直鎖状または分枝状のヘプテン二酸、直鎖状または分枝状のオクテン二酸、直鎖状または分枝状のノネン二酸、直鎖状または分枝状のデセン二酸、直鎖状または分枝状のウンデセン二酸、直鎖状または分枝状のドデセン二酸、直鎖状または分枝状のトリデセン二酸、直鎖状または分枝状のテトラデセン二酸、直鎖状または分枝状のヘプタデセン二酸、直鎖状または分枝状のヘキサデセン二酸およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0043】
エステルを形成するアルコールと酸との組み合わせは任意であって特に制限されないが、本発明で使用可能なエステルとしては、例えば下記のエステルを挙げることができ、これらのエステルは単独でもよく、また2種以上を組み合わせてもよい。
(a)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(b)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(c)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(d)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(e)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と多塩基酸との混合エステル
(f)多価アルコールと一塩基酸、多塩基酸との混合物との混合エステル
(g)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と一塩基酸、多塩基酸との混合エステル
【0044】
これらの中でも、金属疲労防止性に優れていることから、(a)一価アルコールと一塩基酸とのエステル、(b)多価アルコールと一塩基酸とのエステル、または(c)一価アルコールと多塩基酸とのエステルであることが好ましく、更に一価アルコールと一塩基酸のエステルまたは一価アルコールと二塩基酸のエステルがより好ましい。
【0045】
本発明において、アルコール成分として多価アルコールを用いた場合に得られるエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでもよく、水酸基の一部がエステル化されず水酸基のまま残存する部分エステルでもよい。また、酸成分として多塩基酸を用いた場合に得られる有機酸エステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでもよく、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0046】
本発明に用いられる(B)成分であるエステル系基油は上記したエステル化合物1種類のみから構成されるものであってもよいし、また2種以上の混合物から構成されるものであってもよい。
【0047】
エステル系基油の粘度指数については特に制限はないが、170以上であることが好ましく、より好ましく180以上であり、さらに好ましくは190以上である。また、その上限については特に制限はなく、(A)成分との混合安定性および貯蔵安定性を向上できる点で好ましくは300以下であり、より好ましくは250以下であり、さらに好ましくは230以下であり、特に好ましくは210以下である。
【0048】
(B)成分の密度については特に制限はないが、0.80g/cm以上であることが好ましく、より好ましく0.82g/cm以上であり、さらに好ましくは0.84g/cm以上であり、さらにより好ましくは0.85g/cm以上であり、特に好ましくは0.86g/cm以上であり、最も好ましくは0.87g/cm以上である。また、その上限については特に制限はなく、本発明の1つの態様として1.0g/cm以上でもよいが、(A)成分との溶解性に優れる点で好ましくは1.0g/cm以下であり、より好ましくは0.95g/cm以下であり、さらに好ましくは0.92g/cm以下であり、特に好ましくは0.90g/cm以下である。(B)成分の密度を0.80g/cm以上とすることで、粘度温度特性及び低温性能と摩耗防止性や疲労防止性を高いレベルで両立することができる。(B)成分の密度が0.80g/cm未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため金属疲労防止性、耐荷重性に劣り好ましくない。
【0049】
(B)成分の酸価については、その上限値に特に制限はないが、5mgKOH以下であることが好ましく、より好ましくは3mgKOH以下、さらに好ましくは2mgKOH以下、特に好ましくは1.5mgKOH以下、最も好ましくは1.0mgKOH以下である。また、本発明の1つの様態として0.2mgKOH以下でもよいが、製造における経済性の点で好ましくは0.2mgKOH以上、より好ましくは0.5mgKOH以上である。なお、前記(B)成分の酸価を5mgKOH以下とすることで酸化安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。
【0050】
本発明の潤滑油組成物における(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の混合基油を基準として、80質量%以下であることが必要であるが、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは13質量%以下、最も好ましくは11質量%以下である。また、下限としては、0.5質量%以上であることが必要であり、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは4質量%以上であり、特に好ましくは7質量%以上である。(B)成分の含有量を80質量%以下とすることで、酸化安定性を向上することができ、(B)成分の含有量を多くすることで、省燃費性と金属疲労防止性を向上することができる。(B)成分の含有量が0.5質量%未満の場合には、必要とする粘度温度特性、低温粘度特性および疲労防止性が得られないおそれがある。
【0051】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分および(B)成分を主成分として含有する限りにおいて、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油および/または合成系基油((A)成分および(B)成分を除く)を(A)成分および(B)成分とともに使用することができる。この場合、(A)成分および(B)成分の含有量は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは50〜99質量%であり、より好ましくは70〜97質量%、さらに好ましくは85〜95質量%である。
【0052】
鉱油系基油としては、(A)成分以外の鉱油系基油が挙げられる。
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
なお、これらの鉱油系基油および/または合成系基油としては、これらの中から選ばれる1種または2種以上の任意の混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0053】
本発明において用いられる潤滑油基油は、前記(A)成分および(B)成分からなる混合基油、あるいは、前記(A)成分および(B)成分の混合基油に、さらに前記鉱油系基油および/または合成系基油を含有する基油であるが、(A)成分および(B)成分からなる混合基油の40℃における動粘度は、18mm/s以下であることが必要であり、より好ましくは16mm/s以下、さらに好ましくは14mm/s以下、特に好ましくは12mm/s以下、最も好ましくは10mm/s以下である。また、混合基油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以上、より好ましくは5mm/s以上、さらに好ましくは7mm/s以上、特に好ましくは8mm/s以上に調整してなることが好ましい。
なお、本発明の潤滑油基油が、前記(A)成分および(B)成分の混合基油に、さらに前記鉱油系基油および/または合成系基油を含有する基油である場合においても、その潤滑油基油の40℃における動粘度が18mm/s以下であることが必要である。
【0054】
また、前記(A)成分および(B)成分からなる混合基油の100℃における動粘度については特に制限はないが、3.5mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは3.2mm/s以下、さらに好ましくは3.0mm/s以下、特に好ましくは2.9mm/s以下、最も好ましくは2.8mm/s以下である。また、混合基油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm/s以上、より好ましくは2mm/s以上、さらに好ましくは2.3mm/s以上、特に好ましくは2.5mm/s以上に調整してなることが好ましく、その粘度指数を好ましくは100以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは110以上、特に好ましくは115以上、最も好ましくは120以上とすることが望ましい。
【0055】
本発明の潤滑油組成物には、(C)成分として粘度指数向上剤を含有することが好ましい。粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステル1種又は2種以上のモノマーの(共)重合体であるいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素を含む極性モノマーを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。本発明においては、これらの粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種あるいは2種以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、低温粘度特性と疲労防止性能をより高めることができる点で、非分散型又は分散型ポリメタクリレートが好ましく、特に非分散型のポリメタクリレートが好ましい。
【0056】
(C)成分の重量平均分子量(Mw)については特に制限はないが、70,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは40,000以下、特に好ましくは30,000以下である。その下限は特に制限はなく、通常1,000以上であるが、粘度温度特性および低温性能に優れる点で、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、さらに好ましくは20,000以上である。(C)成分の重量平均分子量(Mw)が1,000未満の場合、粘度温度特性つまり省燃費性を十分高めることができないため好ましくない。また、(C)成分の重量平均分子量(Mw)が70,000を超える場合、せん断安定性に劣るため好ましくない。
本発明の潤滑油組成物における(C)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15質量%であり、組成物の粘度指数を高めるとともに、低温粘度特性と疲労防止性能を十分高めることができる。
【0057】
また、本発明の潤滑油組成物は、優れた粘度温度特性及び低温性能、疲労防止性や耐荷重性を損なわない限りにおいて、必要に応じて各種添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、特に制限されず、潤滑油の分野で従来使用される任意の添加剤を配合することができる。かかる潤滑油添加剤としては、具体的には、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤などが挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
金属系清浄剤としては、スルホネート系清浄剤、サリチレート系清浄剤およびフェネート系清浄剤等が挙げられ、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との正塩、塩基正塩、過塩基性塩のいずれをも配合することができる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。
摩擦調整剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
極圧剤、摩耗防止剤としては、潤滑油に用いられる任意の極圧剤・摩耗防止剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が0.1〜100mm/s未満のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0059】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、それぞれ0.1〜20質量%が好ましい。
【0060】
なお、本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は4〜23mm/sであることが必要であるが、上限値としては、好ましくは22mm/sであり、より好ましくは21.5mm/s、さらに好ましくは21.0mm/s、特に好ましくは20.5mm/s、最も好ましくは20mm/sである。また、下限値としては、好ましくは5mm/sであり、より好ましくは15mm/s、さらに好ましくは17mm/s、特に好ましくは18mm/s、最も好ましくは19mm/sである。40℃における動粘度が5mm/s未満の場合には、潤滑部位の油膜保持性および蒸発性に問題を生ずるおそれがあり、40℃における動粘度が23mm/sを超える場合には省燃費性に劣るおそれがある。
【0061】
なお、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度については特に制限はないが、上限値としては、好ましくは6.0mm/sであり、より好ましくは5.5mm/s、さらに好ましくは5.3mm/s、特に好ましくは5.2mm/s、最も好ましくは5.1mm/sである。また、下限値としては、好ましくは1.5mm/sであり、より好ましくは4.0mm/s、さらに好ましくは4.5mm/s、特に好ましくは4.8mm/s、最も好ましくは5.0mm/sである。100℃における動粘度が1.5mm/s未満の場合には潤滑部位の油膜保持性および蒸発性に問題を生ずるおそれがあり、100℃における動粘度が6.0mm/sを超える場合には省燃費性の不足をもたらすおそれがある。
【0062】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数については特に制限はないが、好ましくは160以上であり、より好ましくは180以上、さらに好ましくは190以上、特に好ましくは195以上である。
本発明の潤滑油組成物の−40℃におけるブルックフィールド(BF)粘度は、好ましくは15000mPa・s以下であり、より好ましくは10000mPa・s以下、さらに好ましくは8000mPa・s以下、特に好ましくは6000mPa・s以下、最も好ましくは5500mPa・s以下である。
ここで言うブルックフィールド粘度とは、ASTM D 2983により測定される値である。
【0063】
本発明の潤滑油組成物は、優れた摩耗防止性及び疲労防止性を有し、かつ優れた低温流動性を有する潤滑油組成物であり、自動変速機油及び/又は無段変速機油として特に好適である。
また、本発明の潤滑油組成物は、上記以外の変速機油としての性能にも優れており、自動車、建設機械、農業機械等の自動変速機用あるいは手動変速機用、ディファレンシャルギヤ用の潤滑油としても好適に用いられる。その他、摩耗防止性、疲労防止性及び低温粘度特性が要求される潤滑油、例えば、工業用ギヤ油、二輪車、四輪車等の自動車用、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン用の潤滑油、タービン油、圧縮機油等にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の内容を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1〜4および比較例1〜3)
表1に示すように、本発明の潤滑油組成物(実施例1〜4)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜3)をそれぞれ調製した。得られた組成物について、動粘度、低温粘度特性、疲労防止性、四球耐荷重性を測定し、その結果を同じく表1に併記した。
【0066】
表1に示した基油の内容は下記のとおりである。
基油A−1:鉱油[100℃動粘度:2.6mm/s、40℃動粘度:9.5mm/s、粘度指数:111、アニリン点:104℃、%C:75、%C:1、流動点:−27.5℃、S量:1質量ppm以下、N量:3質量ppm以下]
基油A−2:鉱油[100℃動粘度:4.1mm/s、40℃動粘度:18.7mm/s、粘度指数:120、アニリン点:112℃、%C:78、%C:1、流動点:−22.5℃、S量:2質量ppm、N量:3質量ppm以下]
基油A−3:鉱油[100℃動粘度:4.4mm/s、40℃動粘度:22.8mm/s、粘度指数:102、アニリン点:99℃、%C:66、%C:6、流動点:−15.0℃、S量:1300質量ppm、N量:6質量ppm]
基油A−4:鉱油[100℃動粘度:2.0mm/s、40℃動粘度:6.6mm/s、粘度指数:93、アニリン点:87℃、%C:61、%C:5.3、流動点:−25.0℃、S量:1000質量ppm、N量:3質量ppm以下]
エステル系基油B−1:モノエステル(C8アルコールと脂肪酸のモノエステル)[密度:0.87g/cm、100℃動粘度:2.68mm/s、40℃動粘度:8.2mm/s、0℃動粘度:30.8mm/s、粘度指数:182、流動点:−40℃、酸価:1.0mgKOH]
エステル系基油B−2:ポリオールエステル(ネオペンチルグリコールジエステル)[密度:0.90g/cm、100℃動粘度:5.9mm/s、40℃動粘度:24.0mm/s、0℃動粘度:127mm/s、粘度指数:206、流動点:−30℃、酸価:1.0mgKOH]
粘度指数向上剤C−1:重量平均分子量2万5千、非分散型ポリメタクリレート
粘度指数向上剤C−2:重量平均分子量2万、非分散型ポリメタクリレート
性能添加剤D−1:摩耗防止剤、摩擦調整剤、酸化防止剤等を含有する変速機油用添加剤パッケージ
【0067】
(1)低温粘度特性
ASTM D 2983に準拠し、各潤滑油組成物の−40℃におけるBF粘度を測定した。本試験においては、BF粘度の値が小さいものほど低温流動性に優れていることを意味する。
(2)疲労防止性
高温転がり疲労試験機を用いて、以下の試験条件でピッチング発生寿命を評価した。また、比較例1の試験結果を基準として、ピッチング発生寿命の比を算出した。本試験においては、疲労寿命比(L50比およびL10比)が大きいほど疲労防止性能に優れていることを意味する。
スラストニードルベアリング(面圧:1.9GPa、回転数:1410rpm、油温:120℃)
(3)高速四球耐荷重性
ASTM D 2596に準拠し、高速四球試験機を用い、各潤滑油組成物の1800回転における最大非焼付き荷重(LNSL)を測定した。本試験においては、最大非焼付き荷重が大きいほど耐荷重性に優れていることを意味する。
(4)酸化安定性
JIS K 2514 4.(内燃機関用潤滑油酸化安定度試験方法)に準拠して実施し、酸価増加およびペンタン不溶分を測定した。
【0068】
表1の結果から明らかな通り、本発明にかかる実施例1〜4の潤滑油組成物は、粘度温度特性、低温粘度特性、疲労防止性及び耐荷重性に優れていることがわかる。
一方、潤滑油基油として(B)成分を使用せず、組成物の40℃動粘度が規定値を外れる比較例1は、粘度温度特性、低温粘度特性及び疲労防止性に劣る。同様に(B)成分を使用しない比較例2も、疲労防止性や耐荷重性に劣り、低温粘度特性も不十分である。また、(A)成分を使用しない比較例3は、疲労防止性、耐荷重性及び低温粘度特性に劣る。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1種または2種以上の混合物からなる、40℃における動粘度が5〜15mm/sの鉱油系基油、および(B)1種または2種以上の混合物からなる、40℃における動粘度が3〜25mm/s、0℃における動粘度が10〜130mm/sのエステル系基油を含有し、(A)成分と(B)成分の混合基油の40℃における動粘度が18mm/s以下で、かつエステル系基油配合率が0.5〜80質量%であり、潤滑油組成物の40℃における動粘度が4〜23mm/sであることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(B)エステル系基油がモノエステルであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(B)エステル系基油の粘度指数が170以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
(C)重量平均分子量7万以下のポリメタクリレート系粘度指数向上剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物からなる変速機油組成物。

【公開番号】特開2009−249496(P2009−249496A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99105(P2008−99105)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】