説明

潤滑油組成物

【課題】改良された酸化防止特性を有する潤滑油組成物を提供することにある。
【解決手段】(A) グループIII原料油を含む、過半量の潤滑粘度の油、(B) 少量の添加剤成分としての、線状又は星形ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含む粘度指数改良剤を含む潤滑油組成物であって、その潤滑油組成物が潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されていることを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車潤滑油組成物、更に特別にはバイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給されるガソリン(火花点火)及びディーゼル(圧縮点火)内燃エンジン、特にバイオディーゼル燃料で少なくとも一部燃料を供給される圧縮点火内燃エンジン及びバイオエタノール燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火内燃エンジン中の使用、クランクケース潤滑のための自動車潤滑油組成物(このような組成物はクランクケース潤滑剤と称される)に関する。
特に、専らではないが、本発明はバイオ燃料で燃料を供給されるエンジンの運転中に改良された酸化防止特性を示す、好ましくは低レベルのリンそしてまた低レベルの硫黄及び/又は硫酸塩灰分を有する、自動車潤滑油組成物、及び潤滑油組成物の酸化防止特性を改良するためのこのような組成物中の添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクケース潤滑剤は内燃エンジンにおける一般の潤滑のために使用される油であり、この場合、オイル・サンプが一般にエンジンのクランクシャフトの下に配置され、それに循環油が戻る。内燃エンジン、特にバイオ燃料で少なくとも一部燃料が供給されるエンジン中のクランクケース潤滑剤の汚染又は希釈が、関心事である。
バイオディーゼル燃料はエンジンへの燃料の噴射後に徐々に気化する低揮発性の成分を含む。典型的には、バイオディーゼルの燃焼されない部分及び得られる部分燃焼された分解生成物の一部がシリンダー壁の潤滑剤と混合されるようになり、オイル・サンプへと流し込まれ、それによりクランクケース潤滑剤を汚染する。汚染された潤滑剤中のバイオディーゼル燃料が、エンジンの潤滑中の極限条件のために、更なる分解生成物を生成するかもしれない。クランクケース潤滑剤中のバイオディーゼル燃料及びその分解生成物の存在が潤滑剤の酸化を促進することがわかった。更に、この問題が排出ガス後処理装置を再生するためにシリンダーへの燃料の後期の後噴射を使用するディーゼルエンジン(例えば、ライトデューティディーゼルエンジン、ミディアムデューティディーゼルエンジン及び乗用車ディーゼルエンジン)中でひどく悪化されることがわかった。
排出ガス後処理装置、例えば、ディーゼル粒状物フィルター(DPF)は、すすの付着を除去し、それらがエンジン性能に有害な作用を有することを防止するために周期的な再生を必要とする。DPFの再生を開始し、持続するための条件を生じる一つの方法はDPFに入る排出ガスの温度を上昇してすすを燃焼することを伴なう。ディーゼルエンジンが比較的低温で不十分に運転する際に、これは必要によりDPFの上流に配置された酸化触媒の使用と組み合わせて燃料を排出ガスに添加することにより達成し得る。ヘビーデューティディーゼル(HDD)エンジン、例えば、トラック中のこのようなエンジンは、典型的にはシリンダーの外部の排出システムへの直接の燃料の後期後噴射を使用し、一方、ライトデューティディーゼルエンジン及びミディアムデューティディーゼルエンジンは典型的には膨張ストローク中のシリンダーへの直接の燃料の後期後噴射を使用する。驚くことに、エンジンがシリンダーへの直接の燃料の後期後噴射を使用する場合に、潤滑剤の酸化がバイオディーゼルで少なくとも一部燃料を供給されるディーゼルエンジン中でかなり増大することがわかった。理論にすぎないが、潤滑剤のこの増大された酸化は一層露出されたシリンダー壁の潤滑剤により吸収され、それによりサンプ中の潤滑剤の汚染を増大する一層多いバイオディーゼルのためであると考えられる。
潤滑剤の酸化の同様の増大がまたクランクケース潤滑剤中のアルコールをベースとする燃料及びその分解生成物の存在のためにアルコールをベースとする燃料(例えば、バイオエタノール)で少なくとも一部燃料を供給される火花点火内燃エンジン中で生じることがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
潤滑剤の酸化は典型的には腐食性酸及び望ましくない増粘を生じ、それにより潤滑剤の有効寿命を短くする。それ故、改良された酸化防止特性を有する潤滑剤が同定されることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はバイオ燃料の存在下でかなり改良された酸化防止特性を示す潤滑油組成物が配合し得るという発見に基づいている。
第一の局面によれば、本発明は
(A) グループIII原料油を含む、過半量の潤滑粘度の油、
(B) 少量の添加剤成分としての、線状又は星形ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含む油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤
を含む潤滑油組成物を提供し、
その潤滑油組成物は潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されている。
本発明の潤滑油組成物はクランクケース潤滑剤であることが好ましい。
潤滑油組成物、特にグループIII原料油を含む組成物中の、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から、少なくとも一部、誘導し得る線状又は星形ポリマーを含む粘度指数改良剤の混入が、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される内燃エンジンの潤滑における、使用中に、潤滑剤の酸化防止特性を改良することが予期せずにわかった。特に、グループIII原料油を含む潤滑油組成物中のこのような粘度指数改良剤の混入は、使用中に、潤滑剤の低減された酸化に関する絶対的な信用を与え、かつ/又は潤滑剤の有効寿命を促進し得る。
【0005】
第二の局面によれば、本発明はエンジンを(A) グループIII原料油を含む、過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、線状又は星形ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含む油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤を含む潤滑油組成物で運転することを特徴とする、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑方法を提供する。
第三の局面によれば、本発明はエンジンの運転中の、潤滑油組成物の酸化を低減し、かつ/又は抑制するための、潤滑油組成物中の、少量の添加剤成分としての、線状又は星形ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含む油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤の、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑における、使用を提供する。潤滑油組成物はグループIII原料油を含む過半量の潤滑粘度の油を含むことが好ましい。
第四の局面によれば、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑において潤滑油組成物の酸化を低減及び/又は抑制する方法を提供し、その方法は過半量の潤滑粘度の油及び少量の添加剤成分としての、線状又は星形ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含む油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤を含む潤滑油組成物でエンジンを潤滑し、エンジンを運転することを含む。潤滑粘度の油はグループIII原料油を含むことが好ましい。
第五の局面によれば、本発明はエンジンの運転中の、潤滑油組成物の酸化を低減し、かつ/又は抑制するための、(A) グループIII原料油を含む、過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、線状又は星形ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含む油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤を含む潤滑油組成物の、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑における、使用を提供する。
第六の局面によれば、本発明は(A) グループIII原料油を含む、過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、線状又は星形ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含む油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤を含む潤滑油組成物を含むクランクケースを含む火花点火又は圧縮点火内燃エンジンを提供し、そのエンジンはバイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の第二の局面〜第六の局面に特定された潤滑油組成物は夫々独立に潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されていることが好ましい。
粘度指数改良剤は線状又は星形の、少なくとも部分水添された、ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含むことが好ましい。
火花点火内燃エンジンは少なくとも一部アルコールをベースとする燃料、特にエタノールをベースとする燃料、例えば、バイオエタノール燃料で燃料を供給されることが好ましい。
圧縮点火内燃エンジンは少なくとも一部バイオディーゼル燃料で燃料を供給されることが好ましい。
第二〜第六の局面のエンジンは圧縮点火内燃エンジンを含むことが好ましい。
本発明の夫々の局面のバイオ燃料はバイオディーゼルであることが好ましい。
この明細書中、下記の用語及び表現は、使用される場合には、以下の特有の意味を有する。
“活性成分”又は“(a.i.)”は希釈剤又は溶媒ではない添加剤物質を表す。
“アルコールをベースとする燃料”はアルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール、特にエタノールを含む燃料を表す。“アルコールをベースとする燃料”という用語は純粋なアルコールをベースとする燃料(即ち、純粋なエタノール)、そしてまた、例えば、アルコールと石油ガソリンの混合物を含むアルコールをベースとする燃料ブレンドを含む。
“エタノールをベースとする燃料”はエタノールを含む燃料を表し、それ以外は“アルコールをベースとする燃料”と同じように定義される。
【0007】
“バイオ燃料”は再生可能な生物源から製造される燃料を表し、本明細書に特定されたバイオディーゼル燃料及びバイオアルコール燃料を含む。本明細書に使用されるバイオ燃料という用語はまたアルコールの源にかかわらず、本明細書に特定された“アルコールをベースとする燃料”、例えば、エタノールをベースとする燃料“を含む(即ち、そのアルコールは再生可能な生物源及び/又は再生できない源、例えば、石油から誘導されてもよい)。“バイオ燃料”という用語は再生可能な源のみから誘導された燃料、例えば、バイオディーゼル燃料又はバイオアルコール燃料を意味することが好ましい。
“バイオディーゼル燃料”は長鎖脂肪酸の、少なくとも一種のアルキルエステル、典型的にはモノ-アルキルエステルを含む再生可能な生物源から誘導された燃料(例えば、天然油/脂肪、例えば、植物油又は動物脂肪から誘導し得る)を表す。“バイオディーゼル燃料”という用語は純粋なバイオディーゼル燃料(即ち、ASTM D6751-08 (USA)及びEN 14214(欧州)により特定されたB100)そしてまたバイオディーゼル燃料と別の燃料、例えば、石油ディーゼル燃料の混合物を含むバイオディーゼル燃料ブレンドを含む。
“バイオアルコール燃料”は再生可能な生物源(例えば、発酵された糖)から誘導されたアルコールを含む燃料を表し、それ以外は“アルコールをベースとする燃料”と同じように特定される。
“バイオエタノール燃料”は再生可能な生物源から誘導されたエタノールを含む燃料を表し、それ以外は“エタノールをベースとする燃料”と同じように特定される。“バイオエタノール燃料”という用語は純粋なバイオエタノール燃料(即ち、純粋なバイオエタノールE100)そしてまた、例えば、バイオエタノールと石油ガソリンの混合物を含むバイオエタノール燃料ブレンドを含む。
“石油ディーゼル燃料”は石油から製造されたディーゼル燃料を表す。
“バイオエタノール”は再生可能な生物源から誘導されたエタノールを表す。
“低温クランキングシミュレーター”(“CCS”)はクランクケース潤滑剤の低温クランキング特性の目安であり、ASTM D5293-92により測定される。
【0008】
“含む”又はあらゆる同義語は記述された特徴、工程、もしくは整数又は成分の存在を明記するが、一つ以上のその他の特徴、工程、整数、成分又はこれらの群の存在又は追加を排除しない。“からなる”もしくは“実質的にからなる”という表現又は同義語は“含む”又は同義語の範囲内に含まれてもよく、“実質的にからなる”はそれが適用される組成物の特性に実質的に影響しない物質の混入を許す。
“ヒドロカルビル”は水素原子と炭素原子を含み、かつ炭素原子を介して化合物の残部に直接結合されている化合物の化学基(即ち、置換基)を意味する。その基は炭素と水素以外の一種以上の原子を含んでもよいが、但し、それらがその基の実質的なヒドロカルビルの性質に影響しないことを条件とする。このような置換基として、以下のものが挙げられる。
1. 炭化水素置換基、即ち、脂肪族(例えば、アルキル又はアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル又はシクロアルケニル)置換基、芳香族置換、脂肪族置換及び脂環式置換芳香族核等だけでなく、環状置換基(その環はリガンドの別の部分により完成され、即ち、あらゆる二つの示された置換基が一緒に脂環式基を形成してもよい);
2. 置換炭化水素置換基、即ち、非炭化水素基(これは、本発明の状況では、置換基の主としてヒドロキシルの特性を変えない)を含むもの。当業者は好適な置換基(例えば、ハロ、特にクロロ及びフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ、等)を知っているであろう。
“ハロ”又は“ハロゲン”はフルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを含む。
本明細書に使用される“油溶性”もしくは “油分散性”という用語又は同義語は化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性であり、又はあらゆる比率で油中に懸濁し得ることを必ずしも示さない。しかしながら、これらはそれらが、例えば、油を使用する環境でそれらの意図される効果を与えるのに充分な程度に油に可溶性又は安定に分散性であることを意味する。更に、その他の添加剤の追加の混入はまた所望により高レベルの特別な添加剤の混入を許してもよい。
【0009】
“過半量”は組成物の50質量%を超える量を意味する。
“少量”は記述された添加剤に関して、また一種以上の添加剤の活性成分として算出して、組成物中に存在する全ての添加剤の合計質量に関して表して、組成物の50質量%未満を意味する。
“ppm”は潤滑油組成物の合計質量を基準として、百万当りの部数(質量基準)を意味する。
“せん断安定性指数”(“SSI”)はASTM D6278-98(Kurt-Orban(KO)又はDIN卓上試験として知られている)により測定される。SSIはクランクケース潤滑剤中の粘度指数改良剤として使用されるポリマーが使用中に増粘力を維持する能力を測定し、それは使用条件下の分解に対するポリマーの耐性を示す。
“KV100”はASTM D445により測定された100℃における動粘度を意味する。
“TBN”はASTM D2896により測定された全アルカリ価を意味する。
“リン含量”はASTM D5185により測定され、
“硫黄含量”はASTM D2622により測定され、また
“硫酸塩灰分”はASTM D874により測定される。
報告された全ての%は、特にことわらない限り、活性成分基準の質量%であり、即ち、キャリヤー又は希釈油に関するものではない。
また、使用される種々の成分(必須だけでなく、最適及び慣例の)が配合、貯蔵又は使用の条件下で反応し得ること及び本発明がまたあらゆるこのような反応の結果として得られ、又は得られた生成物を提供することが理解されるであろう。
更に、本明細書に示されたあらゆる上限及び下限の量、範囲及び比が独立に組み合わされてもよいことが理解される。
【0010】
適当な場合に、本発明の夫々及び全ての局面に関する本発明の特徴が、今、以下に更に詳しく記載される。
潤滑粘度の油(A)
潤滑粘度の油(しばしば“原料油”又は“ベースオイル”と称される)は潤滑剤の液体主成分であり、これに添加剤そしておそらくその他の油が、例えば、最終の潤滑剤(又は潤滑剤組成物)を生成するためにブレンドされる。ベースオイルは濃厚物をつくるだけでなく、それから潤滑油組成物をつくるのに有益であり、天然(植物、動物又は鉱物)及び合成の潤滑油並びにこれらの混合物から選ばれてもよい。
潤滑粘度の油はグループIII原料油を含む。原料油グループは米国石油協会(API)刊行物“エンジンオイルライセンシング及び認可システム”、工業サービス部門、第14編、1996年12月、補遺1、1998年12月に定義されている。典型的には、原料油は100℃で好ましくは3-12、更に好ましくは4-10、最も好ましくは4.5-8mm2/s(cSt)の粘度を有するであろう。
本発明における原料油及びベースオイルについての定義は米国石油協会(API)刊行物“エンジンオイルライセンシング及び認可システム”、工業サービス部門、第14編、1996年12月、補遺1、1998年12月に見られるものと同じである。前記刊行物は原料油を以下のとおりにカテゴリー化する。
a)グループI原料油は90%未満の飽和物及び/又は0.03%より多い硫黄を含み、表E-1に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
b)グループII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表E-1に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
c)グループIII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表E-1に明記された試験方法を使用して120以上の粘度指数を有する。
d)グループIV原料油はポリアルファオレフィン(PAO)である。
e)グループV原料油はグループI、II、III、又はIVに含まれない全てのその他の原料油を含む。
【0011】
表E-1:原料油に関する分析方法

【0012】
潤滑粘度の油は潤滑粘度の油の合計質量を基準として、10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上のグループIII原料油を含むことが好ましい。潤滑粘度の油は潤滑粘度の油の合計質量を基準として、50質量%より大きく、好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上のグループIII原料油を含むことが更に好ましい。潤滑粘度の油は実質的にグループIII原料油からなることが最も好ましい。或る実施態様において、潤滑粘度の油はグループIII原料油のみからなる。後者の場合、潤滑油組成物中に含まれる添加剤はグループIII原料油ではないキャリヤーオイルを含んでもよいことが知られている。
【0013】
潤滑油組成物中に含まれてもよい潤滑粘度のその他の油が以下に詳述される。
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油);液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶剤処理された潤滑鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油がまた有益なベースオイルである。
合成潤滑油として、炭化水素油、例えば、重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。
合成潤滑油の別の好適なクラスはジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のエステルを含む。これらのエステルの特別な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより生成された複雑なエステルが挙げられる。
合成油として有益なエステルとして、C5-C12モノカルボン酸及びポリオール、並びにポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールからつくられたものがまた挙げられる。
【0014】
未精製油、精製油及び再精製油が本発明の組成物中に使用し得る。未精製油は更に精製処理しないで天然又は合成源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油又はエステル化方法から直接得られ、更に処理しないで使用されるエステル油が未精製油であろう。精製油はそれらが一つ以上の性質を改良するために一つ以上の精製工程で更に処理された以外は未精製油と同様である。多くのこのような精製技術、例えば、蒸留、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、濾過及びパーコレーションが当業者に知られている。再精製油は既に商用された精製油に適用される精製油を得るのに使用される方法と同様の方法により得られる。このような再精製油はまた再生油又は再加工油として知られており、使用済み添加剤及び油分解生成物の認可のための技術によりしばしば更に加工される。
ベースオイルのその他の例は合成軽油(gas-to-liquid(“GTL”))ベースオイルであり、即ち、ベースオイルはフィッシャー-トロプッシュ触媒を使用して水素及び一酸化炭素を含む合成ガスからつくられたフィッシャー-トロプッシュ合成炭化水素から誘導されたオイルであってもよい。これらの炭化水素は典型的にはベースオイルとして有益であるために更なる加工を必要とする。例えば、それらは、当業界で知られている方法により、水素異性化されてもよく、ハイドロクラッキングされ、水素異性化されてもよく、脱蝋されてもよく、又は水素異性化され、脱蝋されてもよい。
【0015】
潤滑粘度の油はまたグループI、グループII、グループIVもしくはグループV原料油又は上記原料油のベースオイルブレンドを含んでもよい。
好ましくは、ノアク試験(ASTM D5880)により測定されるような、潤滑粘度の油又は油ブレンドの揮発度は、16%以下、好ましくは13.5%以下、好ましくは12%以下、更に好ましくは10%以下、最も好ましくは8%以下である。好ましくは、潤滑粘度の油の粘度指数(VI)は少なくとも95、好ましくは少なくとも110、更に好ましくは少なくとも120、更に好ましくは少なくとも125、最も好ましくは約130から140までである。
潤滑粘度の油は本明細書に特定された、少量の添加剤成分(B)及び、必要により、一種以上の補助添加剤、例えば、以下に記載されるものと組み合わせて、過半量で用意されて、潤滑油組成物を構成する。この調製は添加剤を油に直接添加することにより、又はそれらをそれらの濃厚物の形態で添加して添加剤を分散もしくは溶解することにより達成されてもよい。添加剤はその他の添加剤の添加の前、同時、又は後に当業者に知られているあらゆる方法により油に添加されてもよい。
好ましくは、潤滑粘度の油は潤滑油組成物の合計質量を基準として、55質量%より大きく、更に好ましくは60質量%より大きく、更に好ましくは65質量%より大きい量で存在する。好ましくは、潤滑粘度の油は潤滑油組成物の合計質量を基準として、98質量%未満、更に好ましくは95質量%未満、更に好ましくは90質量%未満の量で存在する。
【0016】
本発明の潤滑油組成物は油性キャリヤーとの混合の前後で化学的に同じに留まってもよく、また留まらなくてもよい特定成分を含む。本発明は混合前、もしくは混合後、又は混合の前及び後の両方で特定成分を含む組成物を含む。
濃厚物が潤滑油組成物をつくるのに使用される場合、それらは、例えば、濃厚物の質量部当り3〜100質量部、例えば、5〜40質量部の潤滑粘度の油で希釈されてもよい。
好ましくは、本発明の潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、リンの原子として表して、低レベルのリン、即ち、0.12質量%まで、好ましくは0.11質量%まで、更に好ましくは0.10質量%以下、更に好ましくは0.09質量%まで、更に好ましくは0.08質量%まで、更に好ましくは0.06質量%までのリンを含む。
典型的には、潤滑油組成物は低レベルの硫黄を含んでもよい。好ましくは、潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、硫黄の原子として表して、0.4質量%まで、更に好ましくは0.3質量%まで、最も好ましくは0.2質量%までの硫黄を含んでもよい。
典型的には、潤滑油組成物は低レベルの硫酸塩灰分を含んでもよい。好ましくは、潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、1.2質量%まで(1.2質量%を含む)、更に好ましくは1.1質量%まで、更に好ましくは1.0質量%まで、更に好ましくは0.8質量%までの硫酸塩灰分を含む。
好適には、潤滑油組成物は4〜15、好ましくは5〜12の全アルカリ価(TBN)を有してもよい。ヘビーデューティディーゼル(HDD)エンジン適用において、潤滑組成物のTBNは約4から12まで、例えば、6〜12の範囲である。乗用車ディーゼルエンジン潤滑油組成物(PCDO)及び火花点火エンジンのための乗用車モーターオイル(PCMO)では、潤滑組成物のTBNは約5.0から約12.0まで、例えば、約5.0から約11.0までの範囲である。
好ましくは、潤滑油組成物は粘度記述子SAE 20WX、SAE 15WX、SAE 10WX、SAE 5WX又はSAE 0WX(ここでXは20、30、40及び50のいずれか一つを表す)により同定されたマルチグレードである。異なる粘度グレードの特性がSAE J300分類に見られる。本発明の夫々の局面の実施態様において、その他の実施態様とは独立に、潤滑油組成物はSAE 10WX、SAE 5WX又はSAE 0WXの形態、好ましくはSAE 5WX又はSAE 0WXの形態であり、ここで、Xは20、30、40及び50のいずれか一つを表す。Xは20又は30であることが好ましい。
粘度指数改良剤(B)
添加剤成分Bは粘度指数改良剤(又は粘度改質剤)を含む。潤滑油組成物用の粘度指数改良剤は比較的少量で使用される場合に高温における潤滑油組成物の粘度を有利に増大し(高い増粘効率(TE)を有し)、低温エンジン始動に対する低減された潤滑油抵抗(“CCS”性能により測定される)を与え、使用中に機械的分解及び分子量の低下に抵抗する(高いせん断安定性指数(SSI)を有する)。また、粘度指数改良剤が潤滑油組成物中ですす分散特性を示すことが好ましい。これらの油溶性ポリマーは一般にベースオイル及びその他の成分と較べて高い分子量(Mn>50,000)のものである。クランクケース潤滑油組成物はエンジンオイルの粘度性能を改良するために、即ち、SAE 5W-30、10W-30及び10W-40の如きマルチグレードオイルを与えるために粘度指数改良剤を通常含む。
【0017】
本発明の実施に有益な粘度指数改良剤は線状又は星形ポリマー(これらは一種以上の共役ジエンモノマーの重合から、少なくとも一部、誘導し得る)を含む。線状ポリマー及び星形ポリマーは少なくとも部分的に、又は完全に水素化されることが好ましい。
共役ジエンモノマーは互いに共役して、一般に1,3関係で配置された二つの二重結合を含む。二つより多い二重結合を含む共役ジエンがまた“共役ジエンモノマー”の定義内と考えられ、但し、二重結合の少なくとも二つが互いに共役して配置されることを条件とする。粘度指数改良剤の生成に有益な好ましい共役ジエンモノマーとして、4個から20個までの炭素原子、好ましくは4〜12個の炭素原子を含む共役ジエン、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、4-メチルペンタ-1,3-ジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン及び4,5-ジエチル-1,3-オクタジエンが挙げられる。高度に好ましい共役ジエンモノマーとして、1,3-ブタジエン、イソプレン、又はこれらの混合物;特にイソプレンが挙げられる。粘度指数改良剤ポリマーの前駆体として使用し得る好ましいイソプレンモノマーは1,4-又は3,4-配置単位、及びこれらの混合物としてポリマーに組み込まれ得る。好ましくは、イソプレンの大半、例えば、約60質量%より大きく、更に好ましくは約80質量%より大きく、例えば、約80〜100質量%、最も好ましい約90質量%より大きく、例えば、約93質量%〜100質量%が1,4-単位としてポリマーに組み込まれる。粘度指数改良剤ポリマーの前駆体として使用し得る好ましいブタジエンモノマーは1,2-又は1,4-配置単位としてポリマーに組み込まれ得る。好ましくは、ブタジエンの少なくとも約70質量%、例えば、少なくとも約75質量%、更に好ましくは少なくとも約80質量%、例えば、少なくとも約85質量%、最も好ましくは少なくとも90質量%、例えば、95〜100質量%が1,4-単位としてポリマーに組み込まれる。
本発明の好ましい実施態様によれば、粘度指数改良剤が線状ポリマー、特に主としてビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロック及び主として前記一種以上の共役ジエンモノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロックを含む線状ジブロックコポリマーを含む。
有益なビニル芳香族炭化水素モノマーとして、8個から16個までの炭素原子を含むもの、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン、アルコキシ置換スチレン、ビニルナフタレン及びアルキル置換ビニルナフタレンが挙げられる。典型的には、アルキル置換基及びアルコキシ置換基が1〜6個の炭素原子を含む。高度に好ましいビニル芳香族炭化水素モノマーとして、スチレン、アルキル置換スチレン、アルコキシ置換スチレン、特に、スチレンが挙げられる。
【0018】
本発明の実施に有益な線状ジブロックコポリマーは下記の一般式により表し得る。
z−(B−A)y−Bx
式中、
Aは主としてビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導されるポリマーブロックであり、
Bは主として共役ジエンモノマーから誘導されるポリマーブロックであり、
x及びzは、独立に、0又は1に等しい数であり、かつ
yは1から約15までの範囲の全数である。
また、“線状ジブロックコポリマー”の定義に、下記の一般式により表されるテーパー線状ブロックコポリマーが含まれる。
A−A/B−B
式中、
Aは主としてビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導されるポリマーブロックであり、
Bは主として共役ジエンモノマーから誘導されるポリマーブロックであり、かつ
A/Bはビニル芳香族炭化水素モノマー及び共役ジオレフィンモノマーの両方から誘導されるテーパーセグメントである。
ポリマーブロック組成に関連して本明細書に使用される“主として”はそのポリマーブロック中の主成分である特定モノマー又はモノマー型がブロックの少なくとも85質量%の量で存在することを意味する。
【0019】
ジオレフィンで調製されたポリマーはエチレン性不飽和を含み、このようなポリマーは水素化されることが好ましい。ポリマーが水素化される場合、水素化は従来技術に知られている技術のいずれかを使用して達成されてもよい。例えば、水素化はエチレン性不飽和及び芳香族不飽和の両方が、例えば、米国特許第3,113,986号及び同第3,700,633号に教示された方法の如き方法を使用して変換(飽和)されるように達成されてもよく、又は水素化は、例えば、米国特許第3,634,595号、同第3,670,054号、同第3,700,633号及び再発行特許第27,145号に教示されたように、エチレン性不飽和のかなりの部分が変換され、一方、芳香族不飽和が殆ど又は全く変換されないように選択的に達成されてもよい。これらの方法のいずれかがまたエチレン性不飽和のみを含み、芳香族不飽和を含まないポリマーを水素化するのに使用し得る。好ましくは、線状ジブロックコポリマーが水素化され、初期のオレフィン性不飽和の少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも70質量%、更に好ましくは少なくとも90質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%が水素化される。
ブロックコポリマーは異なる分子量及び/又は異なるビニル芳香族含量を有する、先に開示された線状ポリマーの混合物だけでなく、異なる分子量及び/又は異なるビニル芳香族含量を有する線状ジブロックコポリマーの混合物を含んでもよい。2種以上の異なるポリマーの使用がレオロジー特性(生成物が配合されたエンジンオイルを製造するのに使用される場合に付与することが意図される)に応じて単一ポリマーより好ましいかもしれない。
線状ポリマー、特に線状ジブロックコポリマーは、200,000〜1,500,000の数平均分子量を有してもよい。350,000〜900,000の数平均分子量が好ましい。コポリマーのビニル芳香族含量の量はコポリマーの5質量%〜40質量%であることが好ましい。このようなコポリマーについて、85,000〜300,000の数平均分子量が許容し得る。本明細書に使用される“数平均分子量”という用語は水素化に続いて、ポリスチレン標準物質を用いてゲル透過クロマトグラフィー(“GPC”)により測定された数平均分子量を表す。
【0020】
有益なブロックコポリマーとして、塊、懸濁、溶液又は乳化で調製されたものが挙げられる。公知であるように、炭化水素ポリマーを製造するためのモノマーの重合は遊離基、陽イオン及び陰イオン開始剤又は重合触媒、例えば、チーグラー-ナッタに使用される遷移金属触媒及びメタロセン型(また“単一部位”と称される)触媒を使用して達成されてもよい。
線状ジブロックコポリマーはポリスチレンブロック及びイソプレン、ブタジエン、又はこれらの混合物から誘導されたブロックを有する少なくとも一種の線状ジブロックコポリマーであることが好ましい。線状ジブロックコポリマーは水添スチレン/ブタジエンジブロックコポリマー及び水添スチレン/イソプレンジブロックコポリマーから選ばれた少なくとも一種の線状ジブロックコポリマーであることが更に好ましい。ジブロックコポリマーはASTM D6278-98(Kurt-Orban(KO)又はDIN卓上試験として知られている)の操作に従って測定して、2%から50%まで、更に好ましくは5%から50%まで(30サイクル)のせん断安定性指数値を有することが好ましく、ジエンから誘導されたジブロックコポリマーのブロックがイソプレンから誘導された40質量%から90質量%までとブタジエンから誘導された10質量%から60質量%までを含む。
本発明のジブロックコポリマー成分は商用製品として入手し得る。市販のスチレン/水添イソプレン線状ジブロックコポリマーの例として、インフィネウムSV140TM、インフィネウムSV150TM、インフィネウムSV151TM及びインフィネウムSV160TM(Infineum USA L.P.及びInfineum UK Ltdから入手し得る);ルブリゾール(登録商標)7318(The Lubrizol Corporationから入手し得る);並びにセプトン1001TM及びセプトン1020TM(Septon Company of America(クラレグループ)から入手し得る)が挙げられる。好適なスチレン/1,3-ブタジエン水添ブロックコポリマーが商品名グリッソビスカルTMとしてBASFから販売されている。
【0021】
本発明の更に好ましい実施態様によれば、粘度指数改良剤が先に特定された一種以上の共役ジエンモノマーの重合から、少なくとも一部、誘導し得る少なくとも一種の星形の、少なくとも部分水素化された、ポリマーを含む。好適には、星形ポリマーが中央のコアーから延びるマルチプルアームを含み、そのアームが先に特定された一種以上の共役ジエンモノマー、そして必要により先に特定されたビニル芳香族炭化水素モノマーの重合から誘導される。
その星形ポリマーのアームが先に特定された単一共役ジエンモノマー、例えば、イソプレン又は1,3-ブタジエン、特にイソプレンの重合から実質的に誘導されたホモポリマーであってもよい。
また、その星形ポリマーのアームが先に特定された2種以上の共役ジエンモノマーの重合から実質的に誘導されたコポリマー、例えば、イソプレン及び1,3-ブタジエンコポリマー、又は本明細書に特定された一種以上の共役ジエンモノマー及び本明細書に特定されたビニル芳香族炭化水素モノマーの重合から実質的に誘導されたコポリマー、例えば、イソプレン-スチレンコポリマー、ブタジエン-スチレンコポリマー又はイソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマーであってもよい。
ポリマー組成に関して本明細書に使用される“実質的に誘導された”はそれが適用するポリマーの特性に実質的に影響しないその他の物質の組み込みを許す。好ましくは、“実質的に誘導された”は特定のモノマー及びコモノマー(コポリマーの場合)がポリマーの少なくとも90質量%、更に好ましくは95質量%、更に好ましくは99質量%より大きい量で存在することを意味する。
【0022】
星形ポリマーのアームはまたブロックコポリマー、好ましくは線状ブロックコポリマー、更に好ましくは線状ジブロックコポリマー、例えば、下記の一般式により表されるものであってもよい。
z−(B−A)y−Bx
式中、
Aは主としてビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導されるポリマーブロックであり、
Bは主として共役ジエンモノマーから誘導されるポリマーブロックであり、
x及びzは、独立に、0又は1に等しい数であり、かつ
yは1から約15までの範囲の全数である。
星形ポリマーのアームはテーパー線状ブロックコポリマー、例えば、下記の一般式により表されるものであってもよい。
A−A/B−B
式中、
Aは主としてビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導されるポリマーブロックであり、
Bは主として共役ジエンモノマーから誘導されるポリマーブロックであり、かつ
A/Bはビニル芳香族炭化水素モノマー及び共役ジオレフィンモノマーの両方から誘導されるテーパーセグメントである。
星形ポリマーのアームは水添イソプレン-ブタジエンコポリマー、水添スチレン-イソプレン-ブタジエンコポリマー、水添イソプレン-スチレンコポリマー又は水添ブタジエン-スチレンコポリマーを含むことが好ましい。
星形ポリマーのアームは本明細書に特定された線状ジブロックコポリマーを含むことが最も好ましい。線状ジブロックコポリマーは本明細書に特定された主としてビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロック及び本明細書に特定された主として一種以上の共役ジエンモノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロックを含むことが好ましい。ビニル芳香族炭化水素モノマーはスチレンを含むことが好ましい。一種以上の共役ジエンモノマーはイソプレン、ブタジエン又はこれらの混合物を含むことが好ましい。線状ジブロックコポリマーは少なくとも部分水素化されることが最も好ましい。
【0023】
好ましくは、線状ジブロックコポリマー中の主としてビニル芳香族炭化水素モノマー(例えば、スチレン)から誘導し得る少なくとも一つのブロックは線状ジブロックコポリマーの合計質量を基準として35質量%まで、更に好ましくは25質量%まで、最も好ましくは5〜25質量%の量で存在する。
好ましくは、主として一種以上の共役ジエンモノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロックは線状ジブロックコポリマーの合計質量を基準として65質量%より大きく、更に好ましくは75質量%以上、最も好ましくは75〜95質量%の量で存在する。
線状ジブロックコポリマーは少なくとも一つのポリスチレンブロック及びイソプレン、ブタジエン、又はこれらの混合物から誘導されたブロックを含むことが好ましい。高度に好ましい線状ジブロックコポリマーは水添スチレン/イソプレンジブロックコポリマー、水添スチレン/ブタジエンジブロックコポリマー及び水添スチレン/イソプレン-ブタジエンジブロックコポリマーから選ばれた少なくとも一種の線状ジブロックコポリマーを含む線状ジブロックコポリマーを含む。
線状ジブロックコポリマーが少なくとも一つのイソプレン-ブタジエンブロックを含む場合、そのブロックは主として70質量%から90質量%までのイソプレンモノマー及び30〜10質量%の1,3-ブタジエンモノマーから誘導されることが好ましい。
星形ポリマーのアームは典型的には70質量%から90質量%までのイソプレンモノマー及び30〜10質量%の1,3-ブタジエンモノマーから誘導されたコポリマーを含む。星形ポリマーのアームは先に特定されたビニル芳香族炭化水素モノマー、特にスチレンを更に含むことが更に好ましい。高度に好ましいコポリマーはイソプレンモノマー、1,3-ブタジエンモノマー及びビニル芳香族炭化水素モノマー、特にスチレンから誘導される。ビニル芳香族炭化水素モノマーはコポリマーの合計質量を基準として、35質量%まで、好ましくは25質量%までの量で存在してもよい。
【0024】
星形ポリマーのアームは陰イオン重合により形成されてリビングポリマーを生成することが好ましい。陰イオン重合は狭い分子量分布(Mw/Mn)、例えば、約1.2未満の分子量分布を有するコポリマーを与えることがわかった。
公知であり、例えば、米国特許第4,116,917号に開示されているように、リビングポリマーは陰イオン開始剤としての、アルカリ金属又はアルカリ金属炭化水素、例えば、ナトリウムナフタレンの存在下で共役ジエンモノマーの混合物の陰イオン溶液重合により調製されてもよい。好ましい開始剤はリチウム又はモノリチウム炭化水素である。好適なリチウム炭化水素として、不飽和化合物、例えば、アリルリチウム、メタリルリチウム;芳香族化合物、例えば、フェニルリチウム、トリルリチウム、キシリルリチウム及びナフチルリチウムそして特に、アルキルリチウム、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム、アミルリチウム、ヘキシルリチウム、2-エチルヘキシルリチウム及びn-ヘキサデシルリチウムが挙げられる。sec-ブチルリチウムが好ましい開始剤である。一種以上の開始剤が必要により追加のモノマーと一緒に、2段階以上で重合混合物に添加されてもよい。リビングポリマーはオレフィン性不飽和である。
リビングポリマーが生成される溶媒は不活性液体溶媒、例えば、炭化水素、例えば、脂肪族炭化水素、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2-エチルヘキサン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、又は芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼンである。シクロヘキサンが好ましい。炭化水素の混合物、例えば、潤滑油がまた使用されてもよい。
重合が行なわれる温度は広範囲内、例えば、約-50℃から約150℃まで、好ましくは約20℃から約80℃まで変化されてもよい。その反応は好適には不活性雰囲気、例えば、窒素中で行なわれ、必要により加圧下で、例えば、約0.5バールから約10バールまでの圧力で行なわれてもよい。
【0025】
リビングポリマーを調製するのに使用される開始剤の濃度はまた広範囲内で変化してもよく、リビングポリマーの所望の分子量により決められる。
星形ポリマーを生成するために、以上の方法により生成されたリビングポリマーが追加の反応工程で、ポリアルケニルカップリング剤と反応させられる。星形ポリマーを生成し得るポリアルケニルカップリング剤が多年にわたって知られており、例えば、米国特許第3,985,830号に記載されている。ポリアルケニルカップリング剤は通常少なくとも二つの非共役アルケニル基を有する化合物である。このような基は通常同じ又は異なる電子吸引部分、例えば、芳香族核に結合される。このような化合物はそのアルケニル基の少なくとも一部が異なるリビングポリマーと独立に反応することができるという性質を有し、この点で通常の共役ジエン重合モノマー、例えば、ブタジエン、イソプレン等とは異なる。純粋又は技術グレードのポリアルケニルカップリング剤が使用されてもよい。このような化合物は脂肪族、芳香族又は複素環であってもよい。脂肪族化合物の例として、ポリビニルアセチレン及びポリアリルアセチレン、ジアセチレン、ホスフェートだけでなく、ジメタクリレート、例えば、エチレンジメチルアクリレートが挙げられる。好適な複素環化合物の例として、ジビニルピリジン及びジビニルチオフェンが挙げられる。
好ましいカップリング剤はポリアルケニル芳香族化合物であり、ポリビニル芳香族化合物が最も好ましい。このような化合物の例として、芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、アントラセン、ナフタレン及びデュレンが挙げられ、これらは好ましくはこれらに直接結合される、少なくとも二つのアルケニル基で置換されている。特別な例として、ポリビニルベンゼン、例えば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン及びテトラビニルベンゼン;ジビニル、トリビニル及びテトラビニルオルト-、メタ-及びパラ-キシレン、ジビニルナフタレン、ジビニルエチルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソブテニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、及びジイソプロペニルビフェニルが挙げられる。好ましい芳香族化合物は式A-(CH=CH2)x(式中、Aは必要により置換されていてもよい芳香族核であり、かつxは少なくとも2の整数である)により表される化合物である。ジビニルベンゼン、特にメタ-ジビニルベンゼンが、最も好ましい芳香族化合物である。純粋又は技術グレードのジビニルベンゼン(その他のモノマー、例えば、スチレン及びエチルスチレンを含む)が使用されてもよい。カップリング剤は核のサイズを増大する少量の追加されたモノマー、例えば、スチレン又はアルキルスチレンと混合して使用されてもよい。このような場合、核はポリ(ジアルケニルカップリング剤/モノアルケニル芳香族化合物)核、例えば、ポリ(ジビニルベンゼン/モノアルケニル芳香族化合物)核と記載し得る。
【0026】
ポリアルケニルカップリング剤はモノマーの重合が実質的に完結した後にリビングポリマーに付加されるべきであり、即ち、その薬剤は実質的に全てのモノマーがリビングポリマーに変換された後にのみ付加されるべきである。
付加されるポリアルケニルカップリングの量は広範囲内で変化してもよいが、好ましくは、少なくとも0.5モルのカップリング剤が不飽和リビングポリマーの1モル当り使用される。リビングポリマー1モル当り約1モルから約15モルまで、好ましくは約1.5モルから約5モルまでの量が好ましい。2段階以上で付加し得る量は、通常リビングポリマーの少なくとも80質量%〜85質量%を星形ポリマーに変換するのに充分な量である。
カップリング反応はリビング重合反応と同じ溶媒中で行ない得る。カップリング反応は広範囲内、例えば、0℃から150℃まで、好ましくは約20℃から約120℃までの温度で行ない得る。その反応は不活性雰囲気、例えば、窒素のもとに、約0.5バールから約10バールまでの圧力下で行なわれてもよい。
こうして生成された星形ポリマーは架橋されたポリ(ポリアルケニルカップリング剤)の稠密な中心又は核及び核から外に延びる実質的に線状の不飽和ポリマーの幾つかのアームを特徴とする。アームの数はかなり変化してもよいが、典型的には約4〜25である。
【0027】
次いで得られる星形ポリマーがあらゆる好適な手段を使用して水素化し得る。水素化触媒、例えば、銅又はモリブデン化合物が使用されてもよい。貴金属、又は貴金属含有化合物を含む触媒が、また使用し得る。好ましい水素化触媒は周期律表のVIII族の非貴金属又は非貴金属含有化合物、即ち、鉄、コバルト、そして特にニッケルを含む。好ましい水素化触媒の特別な例として、ラネーニッケル及びニッケル/ケイソウ土が挙げられる。特に適した水素化触媒は金属ヒドロカルビル化合物をVIII族金属鉄、コバルト又はニッケルのいずれか一つの有機化合物(その後者の化合物は、例えば、英国特許第1,030,306号に記載されたように酸素原子を介して金属原子に結合されている少なくとも一種の有機化合物を含む)と反応させることにより得られた触媒である。アルミニウムトリアルキル(例えば、アルミニウムジエチル(Al(Et3))又はアルミニウムトリイソブチル)を有機酸のニッケル塩(例えば、ニッケルジイソプロピルサリチレート、ニッケルナフテネート、ニッケル2-エチルヘキサノエート、ニッケルジ-tret-ブチルベンゾエート、酸触媒の存在下の分子中に4個から20個までの炭素原子を有するオレフィンと一酸化炭素及び水の反応により得られた飽和モノカルボン酸のニッケル塩)又はニッケルエノレートもしくはフェノレート(例えば、ニッケルアセトニルアセトネート、ブチルアセトフェノンのニッケル塩)と反応させることにより得られた水素化触媒が好ましい。好適な水素化触媒は当業者に公知であり、以上のリストは排他的であることを決して意図していない。
星形ポリマーの水素化は好適には水素化反応中に不活性である溶媒中で、溶液中で行なわれる。飽和炭化水素及び飽和炭化水素の混合物が好適である。有利には、水素化溶媒は重合が行なわれる溶媒と同じである。好適には、初期のオレフィン性不飽和の少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも70質量%、更に好ましくは少なくとも90質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%が水素化される。
水素化された星形ポリマーはその後に溶媒(その中で、それが水素化される)からあらゆる都合の良い手段により、例えば、溶媒を蒸発させることにより固体形態で回収されてもよい。また、油、例えば、潤滑油が溶液に添加されてもよく、溶媒がこうして生成された混合物からストリッピングされて濃厚物を得てもよい。好適な濃厚物は約3質量%から約25質量%まで、好ましくは約5質量%から約15質量%までの水素化された星形ポリマーVI改良剤を含む。
【0028】
本発明の実施に有益な星形ポリマーは約10,000から700,000まで、好ましくは約30,000から500,000までの数平均分子量を有し得る。本明細書に使用される“数平均分子量”という用語は水素化に続いて、ポリスチレン標準物質を用いてゲル透過クロマトグラフィー(“GPC”)により測定された数平均分子量を表す。この方法を使用して星形ポリマーの数平均分子量を測定する場合、計算数平均分子量が星形ポリマーの三次元構造のために実際の分子量より小さいことに注目することが重要である。
一つの好ましい実施態様において、本発明の星形ポリマーは約75質量%から約90質量%までのイソプレン及び約10質量%から約25質量%までのブタジエンから誘導され、ブタジエン単位の80質量%より多くが組み込まれた1,4-付加生成物である。別の好ましい実施態様において、本発明の星形ポリマーが約30質量%から約80質量%までのブタジエンの1,2-組み込み、及び約20質量%から約70質量%までのブタジエンの1,4-組み込みから誘導された無定形ブタジエン単位を含む。別の好ましい実施態様において、星形ポリマーがイソプレン、ブタジエン、又はこれらの混合物から誘導され、更に約5質量%〜約35質量%のスチレン単位を含む。
典型的には、星形ポリマーは約1%から35%までのせん断安定性指数(SSI)(30サイクル)を有する。35以下のSSIを有する市販の星形ポリマーVI改良剤の例はインフィネウムSV200TM(Infineum USA L.P.及びInfineum UK Ltd.から入手し得る)である。35以下のSSIを有する市販の星形ポリマーVI改良剤のその他の例として、インフィネウムSV250TM、インフィネウムSV261TM及びインフィネウムSV270TM(またInfineum USA L.P.及びInfineum UK Ltd.から入手し得る)が挙げられる。
【0029】
典型的には、粘度指数改良剤は潤滑油組成物の質量を基準として0.01質量%から20質量%まで、好ましくは1質量%から15質量%までの量で用意されてもよい。
必要により、本発明の実施に使用されるVI改良剤の一つの型又は両方の型は分散能をVI改良剤に与える窒素含有官能基を備え得る。工業における一つの傾向は潤滑剤中にこのような“多機能性”VI改良剤を使用して分散剤の一部又は全部を置換することであった。窒素含有官能基は窒素又はヒドロキシル含有部分、好ましくは窒素含有部分をVI改良剤のポリマー主鎖にグラフトすることによりポリマーVI改良剤に付加し得る(官能化)。ポリマーへの窒素含有部分のグラフト方法は当業界で知られており、例えば、ニート、又は溶媒の存在下の、遊離基開始剤の存在下でポリマー及び窒素含有部分を接触させることを含む。遊離基開始剤は遊離基開始剤前駆体、例えば、過酸化水素をせん断(押出機中のように)又は加熱することにより生成されてもよい。
窒素含有グラフトモノマーの量は基質ポリマーの性質及びグラフトされたポリマーの必要とされる分散力のレベルに、或る程度、依存するであろう。星形ポリマー及び線状ポリマーの両方に分散特性を付与するために、グラフトされる窒素含有モノマーの量は好適にはグラフトされるポリマーの合計質量を基準として、約0.4質量%〜約2.2質量%、好ましくは約0.5質量%から約1.8質量%まで、最も好ましくは約0.6質量%から約1.2質量%までである。
ポリマー主鎖に窒素含有モノマーをグラフトする方法、及び好適な窒素含有グラフトモノマーが知られており、例えば、米国特許第5,141,996号、WO 98/13443、WO 99/21902、米国特許第4,146,489号、同第4,292,414号、及び同第4,506,056号に記載されている(また、J Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry, 26巻, 1189-1198 (1988); J. Polymer Science, Polymer Letters, 20巻, 481-486 (1982)及びJ. Polymer Science, Polymer Letters, 21巻, 23-30 (1983)(全てGaylord及びMehta著)並びにGaylord、Mehta及びMehta 著“無水マレイン酸及び/又は過酸化物との反応に関するエチレン-プロピレンコポリマーゴムの分解及び架橋”J. Applied Polymer Science, 33巻, 2549-2558 (1987)を参照のこと)。
【0030】
エンジン
本発明の潤滑油組成物はその組成物をエンジンに添加することにより、特に内燃エンジン、例えば、火花点火又は圧縮点火2ストローク又は4ストローク往復エンジン中の、機械エンジン構成部品を潤滑するのに使用されてもよい。エンジンは夫々ガソリン又は石油ディーゼルにより駆動されるように設計された通常のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであってもよい。また、エンジンはアルコールをベースとする燃料又はバイオディーゼル燃料により駆動されるように仕様上変更されてもよい。潤滑油組成物はクランクケース潤滑剤であることが好ましい。
潤滑油組成物は圧縮点火内燃エンジン(ディーゼルエンジン)、特にバイオディーゼル燃料で少なくとも一部燃料を供給される圧縮点火内燃エンジンの潤滑用であることが好ましい。このようなエンジンとして、乗用車ディーゼルエンジン及びヘビーデューティディーゼルエンジン、例えば、ロードトラックに見られるエンジンが挙げられる。潤滑油組成物は乗用車圧縮点火内燃エンジン(即ち、ライトデューティディーゼルエンジン)(これはバイオディーゼル燃料で少なくとも一部燃料を供給される)、特にシリンダーへの燃料の後期後噴射を使用するこのようなエンジンの潤滑用であることが更に好ましい。潤滑油組成物は上記エンジンのクランクケースの潤滑用であることが更に好ましい。
潤滑油組成物、例えば、クランクケース潤滑剤が、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑に使用される場合、そのエンジンの運転中の潤滑剤がバイオ燃料及びその分解生成物で汚染されるようになる。こうして本発明の好ましい局面によれば、本発明の潤滑油組成物が少なくとも0.3質量%、好ましくは少なくとも0.5質量%、更に好ましくは少なくとも1質量%、更に好ましくは少なくとも5質量%、更に好ましくは少なくとも10質量%、更に好ましくは少なくとも15質量%、更に好ましくは少なくとも20質量%のバイオ燃料及び/又はその分解生成物を含む。潤滑油組成物が50質量%までのバイオ燃料及び/又はその分解生成物を含んでもよいが、それが35質量%未満、更に好ましくは30質量%未満のバイオ燃料及び/又はその分解生成物を含むことが好ましい。
バイオ燃料は火花点火内燃エンジンの場合にはアルコールをベースとする燃料、好ましくはバイオアルコール燃料、特にバイオエタノール燃料を含む。
バイオ燃料は圧縮点火内燃エンジンの場合にはバイオディーゼルを含む。
【0031】
バイオ燃料
バイオ燃料として、再生可能な生物源から製造される燃料が挙げられ、また本明細書に特定されたバイオディーゼル燃料及び発酵された糖から誘導し得るバイオエタノール燃料が挙げられる。バイオ燃料という用語はまたアルコールの源にかかわらず、“アルコールをベースとする燃料”、例えば、“エタノールをベースとする燃料”を含む(即ち、アルコールが再生可能な生物源又は再生できない源、例えば、石油から誘導されてもよい)。
アルコールをベースとする燃料
アルコールをベースとする燃料は火花点火内燃エンジン中で使用される。アルコールをベースとする燃料はメタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールから選ばれた一種以上のアルコールを含んでもよい。アルコールは再生可能な生物源又は再生できない源、例えば、石油から誘導されてもよい。アルコールをベースとする燃料は100容積%の一種以上のアルコール(即ち、純粋なアルコール)を含んでもよい。また、アルコールをベースとする燃料はアルコールと石油ガソリンのブレンドを含んでもよく、好適なブレンドはアルコール及びガソリンブレンドの全容積を基準として、5、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、85、及び90容積%のアルコールを含む。
アルコールをベースとする燃料はエタノールをベースとする燃料を含むことが好ましい。アルコールをベースとする燃料はバイオアルコール燃料、特にバイオエタノール燃料を含むことが更に好ましい。
バイオエタノール燃料は再生可能な生物源から誘導されたエタノール(即ち、バイオエタノール)、好ましくは再生可能な生物源のみから誘導されたエタノールを含む。バイオエタノールは穀物、例えば、コーン、トウモロコシ、小麦、コード草及びモロコシ植物の糖発酵から誘導されてもよい。バイオエタノール燃料は100容積%のバイオエタノール(E100と表示される)を含んでもよく、また、バイオエタノール燃料はバイオエタノールと石油ガソリンのブレンドを含んでもよい。バイオエタノール燃料ブレンドは表示“Exx”(この場合、xxはバイオエタノール燃料ブレンドの合計容積を基準として、E100バイオエタノールの量(容積%)を表す)を有し得る。例えば、E10は10容積%のE100バイオエタノール燃料及び90容積%の石油ガソリンを含むバイオエタノール燃料ブレンドを表す。疑いの回避のために、“バイオエタノール燃料”という用語は純粋なバイオエタノール燃料(即ち、E100)及びバイオエタノール燃料と石油ガソリン燃料の混合物を含むバイオエタノール燃料ブレンドを含む。
典型的には、バイオエタノール燃料はE100、E95、E90、E85、E80、E75、E70、E65、E60、E55、E50、E45、E40、E35、E30、E25、E20、E15、E10、E8、E6又はE5を含む。高度に好ましいブレンドとして、E85 (ASTM D5798 (USA))、E10 (ASTM D4806 (USA))及びE5 (EN 228:2004 (欧州))が挙げられる。
【0032】
バイオディーゼル燃料
バイオディーゼル燃料は植物油又は動物脂肪から誘導し得る長鎖脂肪酸の少なくとも一種のアルキルエステル、典型的にはモノ-アルキルエステルを含む。バイオディーゼル燃料はこのような長鎖脂肪酸の一種以上のメチルエステル又はエチルエステル、特に一種以上のメチルエステルを含むことが好ましい。
長鎖脂肪酸は典型的には炭素原子、水素原子及び酸素原子を含む長鎖を含む。好ましくは、長鎖脂肪酸が10個から30個まで、更に好ましくは14〜26個、最も好ましくは16〜22個の炭素原子を含む。高度に好ましい脂肪酸として、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸が挙げられる。
バイオディーゼル燃料は一種以上の植物油及び動物脂肪、例えば、トウモロコシ油、カシュー油、エンバク油、ルピナス油、ケナフオイル、カレンデュラオイル、綿油、麻実油、大豆油、アマニ油、ヘーゼルナッツ油、トウダイグサ油、カボチャ実油、ヤシ油、ナタネ油、オリーブ油、牛脂油、ヒマワリ油、米油、ゴマ油又は藻類油のエステル化又はエステル交換から誘導されてもよい。好ましい植物油として、ヤシ油、ナタネ油及び大豆油が挙げられる。
【0033】
一般に、ASTM D6751-08規格(USA)仕様又はEN 14214規格(欧州)仕様を満足する純粋なバイオディーゼル燃料はB100と表示される。純粋なバイオディーゼル燃料は石油ディーゼル燃料と混合されて放出を低減し、エンジン性能を改良するバイオディーゼルブレンドを生成してもよい。このようなバイオディーゼルブレンドは表示“Bxx”(この場合、xxはバイオディーゼルブレンドの合計容積を基準として、B100バイオディーゼルの量(容積%)を表す)を与えられる。例えば、B10は10容積%のB100バイオディーゼル燃料及び90容積%の石油ディーゼル燃料を含むバイオディーゼルブレンドを表す。疑いの回避のために、“バイオディーゼル燃料”という用語は純粋なバイオディーゼル燃料(即ち、B100)及びバイオディーゼル燃料と石油ディーゼル燃料の混合物を含むバイオディーゼル燃料ブレンドを含む。
典型的には、バイオディーゼル燃料はB100、B95、B90、B85、B80、B75、B70、B65、B60、B55、B50、B45、B40、B35、B30、B25、B20、B15、B10、B8、B6、B5、B4、B3、B2又はB1を含む。好ましくは、バイオディーゼル燃料はB50表示以下、更に好ましくはB5〜B40、更に好ましくはB5〜B40、最も好ましくはB5〜B20を含む。
【0034】
補助添加剤
添加剤成分(B)と異なる、また存在してもよい補助添加剤が、代表的な有効量とともに、以下にリストされる。リストされた全ての値は活性成分質量%として記述される。
添加剤 質量% 質量%
(広い範囲) (好ましい範囲)
無灰分散剤 0.1-20 1-8
金属洗剤 0.1-15 0.2-9
摩擦改質剤 0-5 0-1.5
腐食抑制剤 0-5 0-1.5
金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート 0-10 0-4
酸化防止剤 0-5 0.01-3
流動点降下剤 0.01-5 0.01-1.5
消泡剤 0-5 0.001-0.15
補充耐磨耗剤 0-5 0-2
粘度改質剤(1) 0-6 0.01-4
鉱物又は合成ベースオイル 残部 残部
(1) 粘度改質剤はマルチグレードオイル中でのみ使用される。
典型的には添加剤又は夫々の添加剤をベースオイルにブレンドすることによりつくられた、最終潤滑油組成物は5質量%から25質量%まで、好ましくは5〜18質量%、典型的には7〜15質量%の補助添加剤を含んでもよく、残部は潤滑粘度の油である。
上記補助添加剤が以下のように更に詳しく説明される。当業界で知られているように、或る種の添加剤は多くの効果を与えることができ、例えば、単一添加剤が分散剤及び酸化抑制剤として作用し得る。
【0035】
分散剤はその主たる機能が固体及び液体の汚染物を懸濁して保持し、それによりそれらを不動態化し、エンジン付着物を減少すると同時にスラッジ付着物を減少する添加剤である。例えば、分散剤は潤滑剤の使用中に酸化から生じる油不溶性物質を懸濁して維持し、こうしてスラッジ凝集及びエンジンの金属部分上の沈殿又は付着を防止する。
分散剤は、上記のように、通常無灰であり、金属を含み、それ故、灰を形成する物質とは対照的に、燃焼時に灰を実質的に形成しない非金属有機物質である。それらは極性頭部を有する炭化水素長鎖を含み、その極性は、例えば、O原子、P原子、又はN原子の組み込みから誘導される。その炭化水素は、例えば、40〜500個の炭素原子を有する、油溶性を与える親油性基である。こうして、無灰分散剤は油溶性ポリマー主鎖を含んでもよい。
オレフィンポリマーの好ましいクラスは、ポリブテン、特に、例えば、C4製油所流の重合により調製し得るような、ポリイソブテン(PIB)又はポリ-n-ブテンにより構成される。
分散剤として、例えば、長鎖炭化水素置換カルボン酸の誘導体が挙げられ、例は高分子量ヒドロカルビル置換コハク酸の誘導体である。分散剤の注目に値するグループは、例えば、上記酸(又は誘導体)を窒素含有化合物、有利にはポリアルキレンポリアミン、例えば、ポリエチレンポリアミンと反応させることによりつくられた、炭化水素置換スクシンイミドにより構成される。ポリアルキレンポリアミンとアルケニル無水コハク酸の反応生成物、例えば、米国特許第3,202,678号、同第3,154,560号、同第3,172,892号、同第3,024,195号、同第3,024,237号、同第3,219,666号、及び同第3,216,936号に記載されたものが特に好ましく、それらはそれらの性質を改良するために、後処理、例えば、ホウ化(米国特許第3,087,936号及び同第3,254,025号に記載されたような)、フッ素化そしてオキシル化されてもよい。例えば、ホウ化はアシル窒素含有分散剤をホウ素酸化物、ホウ素ハロゲン化物、ホウ素酸及びホウ素酸のエステルから選ばれたホウ素化合物で処理することにより達成されてもよい。
潤滑油組成物は油溶性ホウ素含有化合物、特にホウ化分散剤を含むことが好ましい。ホウ化分散剤は無灰窒素含有ホウ化分散剤、例えば、ホウ化ポリアルケニルスクシンイミド、特にホウ化ポリイソブテニルスクシンイミドを含むことが好ましい。
【0036】
洗剤はエンジン中の、ピストン付着物、例えば、高温ワニス付着物及びラッカー付着物の生成を減少する添加剤である。それは通常酸中和特性を有し、微細な固体を懸濁して保つことができる。殆どの洗剤は金属“石鹸”をベースとし、これは酸性有機化合物の金属塩である。
洗剤は一般に長い疎水性尾部とともに極性頭部を含み、その極性頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は実質的に化学量論量の金属を含んでもよく、その場合にはそれらは通常又は中性の塩として通常記載され、典型的には0から80までの全アルカリ価即ちTBN(ASTM D2896により測定し得る)を有するであろう。多量の金属塩基が過剰の金属化合物、例えば、酸化物又は水酸化物と酸性ガス、例えば、二酸化炭素の反応により含まれる。得られる過塩基化(overbased)洗剤は金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として中和された洗剤を含む。このような過塩基化洗剤は150以上、典型的には250から500以上までのTBNを有してもよい。
使用し得る洗剤として、金属、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムの油溶性の中性また過塩基化されたスルホン酸塩、フェネート、硫化フェネート、チオホスホン酸塩、サリチル酸塩、及びナフテン酸塩並びにその他の油溶性カルボン酸塩が挙げられる。最も普通に使用される金属はカルシウム及びマグネシウムであり、これらは両方とも潤滑剤中に使用される洗剤中に、またカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムの混合物中に存在してもよい。
特に好ましい金属洗剤は50から450までのTBN、好ましくは50〜250のTBNを有する中性及び過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチル酸塩である。高度に好ましいサリチル酸塩として、アルカリ土類金属サリチル酸塩、特にサリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウム、特にサリチル酸カルシウムが挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチル酸塩洗剤が潤滑油組成物中の唯一の洗剤であることが好ましい。
【0037】
摩擦改質剤として、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、グリセリルモノ-オレエート;長鎖ポリカルボン酸とジオールのエステル、例えば、2量体化された不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;並びにアルコキシル化アルキル置換モノ-アミン、ジアミン及びアルキルエーテルアミン、例えば、エトキシル化牛脂アミン及びエトキシル化牛脂エーテルアミンが挙げられる。
その他の既知の摩擦改質剤は油溶性有機モリブデン化合物を含む。このような有機モリブデン摩擦改質剤はまた潤滑油組成物に酸化防止信用及び耐磨耗信用を与える。好適な油溶性有機モリブデン化合物はモリブデン-硫黄コアーを有する。例として、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、スルフィド、及びこれらの混合物が挙げられる。モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート及びアルキルチオキサンテートが特に好ましい。モリブデン化合物は2核又は3核である。
本発明の全ての局面に有益な好ましい有機モリブデン化合物の一つのクラスは式Mo3SkLnQzの3核モリブデン化合物及びこれらの混合物であり、式中、Lはその化合物を油に可溶性又は分散性にするのに充分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立に選ばれたリガンドであり、nは1から4までであり、kは4から7まで変化し、Qは中性電子供与性化合物、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルのグループから選ばれ、かつzは0から5までの範囲であり、非化学量論値を含む。少なくとも21個の合計炭素原子、例えば、少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が全てのリガンドの有機基中に存在すべきである。
モリブデン化合物は0.1〜2質量%の濃度で潤滑油組成物中に存在してもよく、又は少なくとも10ppm(質量基準)、例えば、50〜2,000ppmのモリブデン原子を与える。
モリブデン化合物からのモリブデンは潤滑油組成物の合計質量を基準として10ppmから1500ppmまで、例えば、20〜1000ppm、更に好ましくは30〜750ppmの量で存在することが好ましい。或る適用について、モリブデンが500ppmより大きい量で存在する。
【0038】
酸化防止剤は酸化抑制剤と時折称される。それらは酸化に対する組成物の耐性を増大し、過酸化物と化合し、変性してそれらを無害にすることにより、過酸化物を分解することにより、又は酸化触媒を不活性にすることにより作用し得る。酸化劣化は潤滑剤中のスラッジ、金属表面上のワニスのような付着物、及び増粘により証明し得る。
それらは遊離基脱除剤(例えば、立体障害フェノール、二級芳香族アミン、及び有機銅塩);ヒドロペルオキシド分解剤(例えば、有機硫黄添加剤及び有機リン添加剤);及び多機能剤(例えば、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(これらはまた耐磨耗添加剤として機能し得る)、及び有機モリブデン化合物(これらはまた摩擦改質剤及び耐磨耗添加剤として機能し得る))として分類し得る。
好適な酸化防止の例は銅含有酸化防止剤、硫黄含有酸化防止剤、芳香族アミン含有酸化防止剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、ジチオホスフェート誘導体、金属チオカルバメート、及びモリブデン含有化合物から選ばれる。好ましい酸化防止剤は芳香族アミン含有酸化防止剤、モリブデン含有化合物及びこれらの混合物、特に芳香族アミン含有酸化防止剤である。酸化防止剤が潤滑油組成物中に存在することが好ましい。
耐磨耗剤は摩擦及び過度の磨耗を減少し、通常硫黄もしくはリン又はその両方を含む化合物、例えば、多硫化物フィルムを関係する表面に付着することができる化合物をベースとする。金属がアルカリ金属又はアルカリ土類金属、或いはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、又は好ましくは、亜鉛であってもよいジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩が注目に値する。
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は既知の技術に従って最初に通常一種以上のアルコール又はフェノールとP2S5との反応により、ジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を生成し、次いで生成されたDDPAを金属化合物で中和することにより調製されてもよい。例えば、ジチオリン酸は一級アルコールと二級アルコールの混合物を反応させることによりつくられてもよい。また、一方のヒドロカルビル基が特性上完全に二級であり、かつ他方のヒドロカルビル基が特性上完全に一級である場合、多種のジチオリン酸が調製し得る。金属塩をつくるために、あらゆる塩基性又は中性亜鉛化合物が使用し得るが、酸化物、水酸化物及び炭酸塩が殆ど一般に使用される。市販の添加剤は中和反応中の過剰の塩基性金属化合物の使用のために過剰の金属を頻繁に含む。
好ましいジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩はジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩である亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(ZDDP)であり、下記の式により表し得る。
【0039】
【化1】

【0040】
式中、R1及びR2は1個から18個まで、好ましくは2〜12個の炭素原子を含み、かつアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルカリール基及び脂環式基の如き基を含む同じ又は異なるヒドロカルビル基であってもよい。2〜8個の炭素原子のアルキル基、特に一級アルキル基(即ち、R1及びR2が主として一級アルコールから誘導される)がR1基及びR2基として特に好ましい。こうして、これらの基は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであってもよい。油溶性を得るために、ジチオリン酸中の炭素原子の合計数(即ち、R1及びR2)は一般に約5個以上であろう。亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートは亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含むことが好ましい。
潤滑剤組成物は0.02〜0.10質量%、好ましくは0.02〜0.09質量%、好ましくは0.02〜0.08質量%、更に好ましくは0.02〜0.06質量%のリンを組成物に導入する量のジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩を含むことが好ましい。
潤滑油組成物に導入されるリンの量を0.10質量%以下に制限するために、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は潤滑油組成物の合計質量を基準として、1.1〜1.3質量%(a.i.)以下の量で潤滑油組成物に添加されることが好ましい。
無灰耐磨耗剤の例として、1,2,3-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、硫化脂肪酸エステル、及びジチオカルバメート誘導体が挙げられる。
【0041】
錆及び腐食抑制剤は表面を錆及び/又は腐食に対して保護するのに利用できる。錆抑制剤として、ノニオン性ポリオキシアルキレンポリオール及びこれらのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、チアジアゾール並びに陰イオン性アルキルスルホン酸が挙げられる。
流動点降下剤(それ以外に、潤滑油流動性改良剤として知られている)は、油が流れ、又は注入し得る最低温度を低下する。このような添加剤は公知である。これらの添加剤の典型例はC8-C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー及びポリアルキルメタクリレートである。
ポリシロキサン型の添加剤、例えば、シリコーンオイル又はポリジメチルシロキサンは発泡制御を与え得る。
少量の解乳化成分が使用されてもよい。好ましい解乳化成分がEP-A-330,522に記載されている。それはアルキレンオキサイドをビス-エポキシドと多価アルコールの反応により得られた付加物と反応させることにより得られる。解乳化剤は活性成分0.1質量%を超えないレベルで使用されるべきである。活性成分0.001〜0.05質量%の処理率が好都合である。
【0042】
粘度改質剤(又は粘度指数改良剤)は高温及び低温運転性を潤滑油に付与する。分散剤としてまた機能する粘度改質剤がまた知られており、無灰分散剤について上記されたように調製されてもよい。一般に、これらの分散剤粘度改質剤は官能化ポリマー(例えば、無水マレイン酸の如き活性モノマーで後グラフトされたエチレン-プロピレンのインターポリマー)であり、これらがその後に、例えば、アルコール又はアミンで誘導体化される。
潤滑剤は添加剤成分Bに加えて、通常の粘度改質剤を配合されてもよく、また配合されなくてもよく、また分散剤粘度改質剤を配合されてもよく、また配合されなくてもよい。粘度改質剤としての使用に適した化合物は一般に高分子量炭化水素ポリマー(ポリスチレンを含む)である。油溶性粘度改質ポリマーは一般に10,000から1,000,000まで、好ましくは20,000〜500,000の重量平均分子量を有し、これはゲル透過クロマトグラフィー又は光散乱により測定し得る。
添加剤はあらゆる便利な方法で潤滑粘度の油(また、ベースオイルとして知られている)に混入されてもよい。こうして、夫々の添加剤がそれを濃度の所望のレベルで油に分散又は溶解することにより油に直接添加し得る。このようなブレンドは周囲温度又は高温で起こり得る。典型的には、添加剤がベースオイルとの混合物として利用でき、その結果、その取扱が一層容易である。
多種の添加剤が使用される場合、添加剤及び希釈剤(これはベースオイルであってもよい)を含む一種以上の添加剤パッケージ(また、添加剤組成物又は濃厚物として知られている)を調製することが望ましいかもしれないが、必須ではなく、それにより、添加剤(粘度改質剤、多機能性粘度改質剤及び流動点降下剤を除く)がベースオイルに同時に添加されて潤滑油組成物を生成し得る。潤滑粘度の油への一種以上の添加剤パッケージの溶解は希釈剤又は溶媒により、また軽度の加熱と伴なわれた混合により促進されるかもしれないが、これは必須ではない。一種以上の添加剤パッケージが前もって決められた量の潤滑粘度の油と合わされる場合、一種以上の添加剤パッケージは最終配合物中の所望の濃度を与えるのに適当な量の一種以上の添加剤を含むように配合されるであろう。こうして、一種以上の洗剤がその他の望ましい添加剤と一緒に少量のベースオイル又はその他の相溶性溶媒(例えば、キャリヤーオイル又は希釈剤オイル)に添加されて添加剤パッケージの質量を基準として、(適当な比率の活性成分基準で)2.5質量%から90質量%まで、好ましくは5質量%から75質量%まで、最も好ましくは8質量%から60質量%までの添加剤を含む添加剤パッケージを生成し得る。最終配合物は典型的には5〜40質量%の一種以上の添加剤パッケージを含み、残部は潤滑粘度の油である。
【実施例】
【0043】
今、本発明が下記の実施例(これらは特許請求の範囲を限定することを意図していない)に特別に記載される。
酸化安定性:熱表面酸化試験
潤滑油組成物の酸化誘導時間(OIT)を圧力示差走査熱量計(PDSC)により測定する熱表面酸化試験を使用して、酸化安定性を測定する。
潤滑油組成物の測定サンプル(3mg)を圧力示差走査熱量計(Netzsch 204 HPDSC)の試験セルに入れ、セルをきれいな乾燥空気で7.0kg/cm2(100psi)に加圧する。次いで210℃の等温試験温度に達するまでセルを40℃/分の速度で加熱し、サンプルを最大240分にわたってこの温度に維持する。熱量計がOIT、即ち、サンプルが酸化するのに要した時間の値を示す。一層大きいOITはサンプルが一層小さいOITを有するサンプルよりも酸化に対して安定であることを示す。
特に明記しない限り、実施例に記載された添加剤の全てが潤滑剤添加剤会社、例えば、Infineum UK Ltd、Lubrizol Corporation及びAfton Chemicals Corporationから標準添加剤として入手し得る。
実施例
表1に詳述された、一連の5W-30マルチグレード潤滑油組成物(0.08%のP)を、グループIII原料油を過塩基化スルホン酸カルシウム洗剤(TBN 310)、過塩基化カルシウムフェネート洗剤(TBN 150)、非ホウ化ポリイソブチレン誘導分散剤、ZDDP及びアミン系酸化防止剤を含む既知の添加剤と混合することにより調製した。比較潤滑剤1はまたエチレン-プロピレンコポリマー粘度指数改良剤(Lubrizolから入手し得るLZ-7077TM)を含み、本発明の潤滑剤1はイソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマー星形ポリマー粘度指数改良剤(Infineum UK Ltdから入手し得るインフィネウムSV261TM)を含み、また本発明の潤滑剤2はイソプレン-スチレンブロックコポリマー粘度指数改良剤(Infineum UK Ltdから入手し得るインフィネウムSV151TM)を含んでいた。潤滑剤の夫々についての酸化誘導時間を(a)バイオディーゼル燃料の不在下、及び(b)10%B50バイオディーゼル燃料の存在下で測定した。結果をまた表1に詳述する。
結果は潤滑剤の夫々が潤滑油組成物中に使用された粘度指数改良剤の型にかかわらず、バイオディーゼル燃料の不在下で匹敵する酸化性能を示したことを示す。しかしながら、バイオディーゼル燃料の存在下で、酸化制御はエチレン-プロピレンコポリマー粘度指数改良剤と較べて一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導された粘度指数改良剤を含む潤滑剤(本発明の潤滑剤1及び2)につき有意に大きい。粘度指数改良剤技術の二つの型の間の性能差は約15%である。予想されたように、全ての潤滑剤についての酸化制御はバイオディーゼル燃料の不在に較べてバイオディーゼル燃料の存在下で低下した。
【0044】
表1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) グループIII原料油を含む、過半量の潤滑粘度の油、
(B) 少量の添加剤成分としての、線状又は星形ポリマー(これは、少なくとも一部、一種以上の共役ジエンモノマーの重合から誘導し得る)を含む油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤
を含む潤滑油組成物であって、
その潤滑油組成物が潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されていることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
一種以上の共役ジエンモノマーが1,3-ブタジエン、イソプレン、又はこれらの混合物を含む、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
粘度指数改良剤が少なくとも一種の星形の、少なくとも部分水素化されたポリマーを含む、請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
星形の、少なくとも部分水素化された、ポリマーが一つ以上のアームを含み、前記アームが単一の前記共役ジエンモノマーから誘導されたホモポリマー、前記共役ジエンモノマーの2種以上から誘導されたコポリマー、又は前記共役ジエンモノマーの一種以上及び主として少なくとも一種のビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導されたコポリマーを含む、請求項3記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
星形の、少なくとも部分水素化された、ポリマーの前記アームが70質量%から90質量%までのイソプレンモノマー及び30質量%から10質量%までの1,3-ブタジエンモノマーから誘導されたコポリマーを含む、請求項4記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
星形の、少なくとも部分水素化された、ポリマーの前記アームが実質的にイソプレンモノマー、1,3-ブタジエンモノマー及びビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導されたコポリマーを含む、請求項4記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記アームのコポリマーが35質量%まで、好ましくは25質量%までの、ビニル芳香族炭化水素モノマーを含む、請求項6記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
星形ポリマーが一つ以上のアームを含み、前記アームが主としてビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロック及び主として一種以上の共役ジエンモノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロックを含む少なくとも一種のジブロックコポリマーを含む線状ジブロックコポリマーを含む、請求項1から3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
線状ジブロックコポリマーが少なくともポリスチレンブロック及びイソプレン、ブタジエン又はこれらの混合物から誘導されたブロックを含む少なくとも一種のジブロックコポリマーである、請求項8記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
線状ジブロックコポリマーが水添スチレン/ブタジエンジブロックコポリマー、水添スチレン/イソプレンジブロックコポリマー及び水添スチレン/イソプレン-ブタジエンジブロックコポリマーからなる群から選ばれた少なくとも一種のジブロックコポリマーである、請求項9記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
ビニル芳香族炭化水素モノマーがスチレンを含む、請求項4又は6から8に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
星形の、少なくとも部分水素化された、ポリマーのアームがイソプレンモノマー又は1,3-ブタジエンモノマーから誘導されたホモポリマーを含む、請求項4記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
星形ポリマーがポリオレフィン結合剤から誘導されたコアーを含む、請求項1から12のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
粘度指数改良剤が主としてビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロック及び主として前記の一種以上の共役ジエンモノマーから誘導し得る少なくとも一つのブロックを含む線状ジブロックコポリマーを含む、請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
線状ジブロックコポリマーが少なくともポリスチレンブロック及びイソプレン、ブタジエン又はこれらの混合物から誘導されたブロックを含む少なくとも一種のジブロックコポリマーである、請求項14記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
線状ジブロックコポリマーが水添スチレン/ブタジエンジブロックコポリマー及び水添スチレン/イソプレンジブロックコポリマーからなる群から選ばれた少なくとも一種のジブロックコポリマーである、請求項15記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
無灰分散剤、金属洗剤、腐食抑制剤、酸化防止剤、流動点降下剤、耐磨耗剤、摩擦改質剤、解乳化剤、消泡剤及び粘度改質剤から選ばれた、添加剤成分(B)以外の、少量の一種以上の補助添加剤を更に含む、請求項1から16のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
エンジンを(A) グループIII原料油を含む、過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、請求項1から17のいずれか1項記載の油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤を含む潤滑油組成物で運転することを特徴とする、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑方法。
【請求項19】
エンジンの運転中の、潤滑油組成物の酸化を低減し、かつ/又は抑制するための、潤滑油組成物中の、少量の添加剤成分としての、請求項1から17のいずれか1項記載の油溶性又は油分散性の粘度指数改良剤の、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑における使用。

【公開番号】特開2011−174068(P2011−174068A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37181(P2011−37181)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】