説明

潤滑油組成物

【課題】バイオ燃料で燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンを潤滑するのに使用された場合に高められた酸化安定性を示す潤滑油組成物の提供。
【解決手段】(A) 過半量の潤滑粘度の油、(B) 少量の添加剤としての油溶性ポリマー添加剤成分 (B) を含む潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車潤滑油組成物、更に特別にはバイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給されるガソリン(火花点火)及びディーゼル(圧縮点火)内燃エンジン、特にバイオディーゼル燃料で少なくとも一部燃料を供給される圧縮点火内燃エンジン及びバイオエタノール燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火内燃エンジン中の使用、クランクケース潤滑のための自動車潤滑油組成物(このような組成物はクランクケース潤滑剤と称される)に関する。
特に、専らではないが、本発明はバイオ燃料で燃料を供給されるエンジンの作動中に改良された酸化防止特性を示す、好ましくは低レベルのリンそしてまた低レベルの硫黄及び/又は硫酸塩灰分を有する、自動車潤滑油組成物、及び潤滑油組成物の酸化防止特性を改良するためのこのような組成物中の添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクケース潤滑剤は内燃エンジンにおける一般の潤滑のために使用される油であり、この場合、オイル・サンプが一般にエンジンのクランクシャフトの下に配置され、それに循環油が戻る。内燃エンジン、特にバイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給されるエンジン中のクランクケース潤滑剤の汚染又は希釈が、関心事である。
バイオディーゼル燃料はエンジンへの燃料の噴射後に徐々に気化する低揮発性の成分を含む。典型的には、バイオディーゼルの燃焼されない部分及び得られる部分燃焼された分解生成物の一部がシリンダー壁の潤滑剤と混合されるようになり、オイル・サンプへと流し込まれ、それによりクランクケース潤滑剤を汚染する。汚染された潤滑剤中のバイオディーゼル燃料が、エンジンの潤滑中の極限条件のために、更なる分解生成物を生成するかもしれない。クランクケース潤滑剤中のバイオディーゼル燃料及びその分解生成物の存在が潤滑剤の酸化を促進することがわかった。更に、この問題が排出ガス後処理装置を再生するためにシリンダーへの燃料の後期の後噴射を使用するディーゼルエンジン(例えば、ライトデューティディーゼルエンジン、ミディアムデューティディーゼルエンジン及び乗用車ディーゼルエンジン)中でひどく悪化されることがわかった。
排出ガス後処理装置、例えば、ディーゼル粒状物フィルター(DPF)は、すすの付着を除去し、それらがエンジン性能に有害な作用を有することを防止するために周期的な再生を必要とする。DPFの再生を開始し、持続するための条件を生じる一つの方法はDPFに入る排出ガスの温度を上昇してすすを燃焼することを伴なう。ディーゼルエンジンが比較的低温で不十分に作動する際に、これは必要によりDPFの上流に配置された酸化触媒の使用と組み合わせて燃料を排出ガスに添加することにより達成し得る。ヘビーデューティディーゼル(HDD)エンジン、例えば、トラック中のこのようなエンジンは、典型的にはシリンダーの外部の排出システムへの直接の燃料の後期後噴射を使用し、一方、ライトデューティディーゼルエンジン及びミディアムデューティディーゼルエンジンは典型的には膨張ストローク中のシリンダーへの直接の燃料の後期後噴射を使用する。驚くことに、エンジンがシリンダーへの直接の燃料の後期後噴射を使用する場合に、潤滑剤の酸化がバイオディーゼルで少なくとも一部燃料を供給されるディーゼルエンジン中でかなり増大することがわかった。理論にすぎないが、潤滑剤のこの増大された酸化は一層露出されたシリンダー壁の潤滑剤により吸収され、それによりサンプ中の潤滑剤の汚染を増大する一層多いバイオディーゼルのためであると考えられる。
潤滑剤の酸化の同様の増大がまたクランクケース潤滑剤中のアルコールをベースとする燃料及びその分解生成物の存在のためにアルコールをベースとする燃料(例えば、バイオエタノール)で少なくとも一部燃料を供給される火花点火内燃エンジン中で生じることがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
潤滑剤の酸化は典型的には腐食性酸及び望ましくない増粘を生じ、それにより潤滑剤の有効寿命を短くする。それ故、改良された酸化防止特性を有する潤滑剤が同定されることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はバイオ燃料の存在下でかなり改良された酸化防止特性を示す潤滑油組成物が配合し得るという発見に基づいている。
第一の局面によれば、本発明は
(A) 過半量の潤滑粘度の油、
(B) アシル化剤、アルキル化剤又はアリール化剤の少なくとも一種と、一般式I:
【化1】

【0005】
(式中、
夫々のArは独立にアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ハロ及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれた0〜3個の置換基を有する芳香族部分を表し、
夫々のLは独立に炭素-炭素単結合又は結合基を含む結合部分であり、
夫々のYは独立に-OR1 又は式H(O(CR2R3)n)yX-の部分を表し、式中、夫々のR1 は独立にC1 〜C30 アルキル基又はアリール基を表し、夫々のXは独立に (CR4R5)z、O及びSからなる群から選ばれ、夫々のR2、R3、R4 及びR5 は独立にH、C1 〜C6 アルキル又はアリールを表し、zは1〜10であり、nはXが(CR4R5)z である場合に0〜10であり、但し、nが0である場合にはyが1であることを条件とし、nはXがO又はSである場合に2〜10であり、かつyは1〜30であり、夫々のaは独立に0〜3であり、但し、少なくとも一つのAr部分が式H(O(CR2R3)n)yX-の少なくとも一つの基Yを有することを条件とし、かつmは1〜100である)
との化合物の反応により得られる、少量の添加剤としての油溶性又は油分散性の添加剤成分(B)
を含む潤滑油組成物を提供し、
その潤滑油組成物は潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されている。
本発明の潤滑油組成物はクランクケース潤滑剤であることが好ましい。
潤滑油組成物、特にグループIII原料油を含む潤滑油組成物中の、本明細書に特定された、油溶性添加剤成分(B) の混入は、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される内燃エンジンの潤滑中の、使用中の、潤滑剤の酸化防止特性を改良することが予期せずにわかった。特に、潤滑油組成物中のこのような油溶性添加剤成分(B) の混入は、使用中に、潤滑剤の減少された酸化に関する確たる信用を与え、かつ/又は潤滑剤の有効寿命を促進し得る。
第二の局面によれば、本発明はエンジンを(A) 過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、本発明の第一の局面に従って特定された、油溶性又は油分散性の添加剤成分(B) を含む潤滑油組成物で作動することを特徴とする、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑方法を提供する。
第三の局面によれば、本発明はエンジンの作動中の、潤滑油組成物の酸化を低減し、かつ/又は抑制するための、潤滑油組成物中の、少量の添加剤成分としての、本発明の第一の局面に従って特定された、油溶性又は油分散性の添加剤成分(B) の、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑における、使用を提供する。
【0006】
第四の局面によれば、本発明はバイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑において潤滑油組成物の酸化を低減及び/又は抑制する方法を提供し、その方法は(A) 過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、本発明の第一の局面に従って特定された、油溶性又は油分散性の添加剤成分(B) を含む潤滑油組成物でエンジンを潤滑することを含む。
第五の局面によれば、本発明はエンジンの作動中の、潤滑油組成物の酸化を低減し、かつ/又は抑制するための、(A) 過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、本発明の第一の局面に従って特定された、油溶性又は油分散性の添加剤成分(B) を含む潤滑油組成物の、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑における、使用を提供する。
第六の局面によれば、本発明は(A) 過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、本発明の第一の局面に従って特定された、油溶性又は油分散性の添加剤成分(B) を含む潤滑油組成物を含むクランクケースを含む火花点火又は圧縮点火内燃エンジンを提供し、そのエンジンはバイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される。
本発明の第七の局面によれば、本発明は
(A) 過半量の潤滑粘度の油、
(B) 一般式II:
【化2】

【0007】
(式中、
夫々のY’は独立に-OR1 又は式Z(O(CR2R3)n)yX-の部分を表し、夫々のZは独立にH、アシル基、ポリアシル基、ラクトンエステル基、酸エステル基、アルキル基又はアリール基を表し、かつAr、L、X、R1、R2、R3、m、n、y及びa、並びに存在する場合のR4、R5、及びzは一般式(I) の化合物について定義されたのと同じであり、但し、少なくとも一つのAr部分が式Z(O(CR2R3)n)yX-(式中、ZはHではない)の少なくとも一つの置換基Y’を有することを条件とする)
により表される、少量の添加剤としての油溶性又は油分散性の添加剤成分(B)
を含む潤滑油組成物を提供し、
その潤滑油組成物は潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第二の局面〜第六の局面に特定された潤滑油組成物は夫々独立に潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されていることが好ましい。
本発明の第一の局面及び第七の局面の潤滑油組成物並びに本発明の第二の局面〜第六の局面に特定された潤滑油組成物は夫々独立にグループIII 原料油を含む過半量の潤滑粘度の油を含むことが好ましい。
火花点火内燃エンジンは少なくとも一部アルコールをベースとする燃料、特にエタノールをベースとする燃料、例えば、バイオエタノール燃料で燃料を供給されることが好ましい。
圧縮点火内燃エンジンは少なくとも一部バイオディーゼル燃料で燃料を供給されることが好ましい。
本発明の第二〜第六の局面に特定されたエンジンは圧縮点火内燃エンジンを含むことが好ましい。
本発明の夫々の局面のバイオ燃料はバイオディーゼルであることが好ましい。
この明細書中、下記の用語及び表現は、使用される場合には、以下に示される意味を有する。
“活性成分”又は“(a.i.)”は希釈剤又は溶媒ではない添加剤物質を表す。
“アルコールをベースとする燃料”はアルコール(アルコールの源を問わない)、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール、特にエタノールを含む燃料を表す。“アルコールをベースとする燃料”という用語は純粋なアルコールをベースとする燃料(即ち、純粋なエタノール)、そしてまた、例えば、アルコールと石油ガソリンの混合物を含むアルコールをベースとする燃料ブレンドを含む。
“エタノールをベースとする燃料”はエタノールを含む燃料を表し、それ以外は“アルコールをベースとする燃料”と同じように定義される。
【0009】
“バイオ燃料”は本明細書に特定されたバイオディーゼル燃料、バイオアルコール燃料及びアルコールをベースとする燃料(即ち、石油ガソリンのみ又は石油ディーゼル燃料のみからならない燃料)を表す。バイオ燃料は本明細書に特定されたバイオディーゼル燃料、バイオアルコール燃料及びエタノール燃料を含むことが好ましい。“バイオ燃料”という用語は再生可能な生物源から少なくとも一部誘導された燃料、例えば、バイオディーゼル燃料又はバイオアルコール燃料を意味することが更に好ましい。バイオ燃料は本明細書に特定された本明細書に特定されたバイオディーゼル又はバイオエタノール、特にバイオディーゼルを含むことが更に一層好ましい。
“バイオ燃料分解生成物”はラジカル自動酸化反応メカニズムにより生成されることが知られており、ケトン、カルボン酸、アルデヒド及びエステルを含む。
“バイオディーゼル燃料”は長鎖脂肪酸の、少なくとも一種のアルキルエステル、典型的にはモノ-アルキルエステルを含む再生可能な生物源から少なくとも一部誘導された燃料(例えば、天然油/脂肪、例えば、植物油又は動物脂肪から誘導し得る)を表す。“バイオディーゼル燃料”という用語は純粋なバイオディーゼル燃料(即ち、ASTM D6751-08 (USA)及びEN 14214(欧州)により特定されたB100)そしてまたバイオディーゼル燃料と別の燃料、例えば、石油ディーゼル燃料の混合物を含むバイオディーゼル燃料ブレンドを含む。
“バイオアルコール燃料”は再生可能な生物源(例えば、発酵された糖)から誘導されたアルコールを含む燃料を表し、それ以外は“アルコールをベースとする燃料”と同じように特定される。
“バイオエタノール燃料”は再生可能な生物源から誘導されたエタノールを含む燃料を表し、それ以外は“エタノールをベースとする燃料”と同じように特定される。“バイオエタノール燃料”という用語は純粋なバイオエタノール燃料(即ち、純粋なバイオエタノールE100)そしてまた、例えば、バイオエタノールと石油ガソリンの混合物を含むバイオエタノール燃料ブレンドを含む。
“石油ガソリン”は石油から製造されたガソリン燃料を表す。
“石油ディーゼル燃料”は石油から製造されたディーゼル燃料を表す。
“バイオエタノール”は再生可能な生物源から誘導されたエタノールを表す。
【0010】
“含む”又はあらゆる同義語は記述された特徴、工程、もしくは整数又は成分の存在を明記するが、一つ以上のその他の特徴、工程、整数、成分又はこれらの群の存在又は追加を排除しない。“からなる”もしくは“実質的にからなる”という表現又は同義語は“含む”又は同義語の範囲内に含まれてもよく、“実質的にからなる”はそれが適用される組成物の特性に実質的に影響しない物質の混入を許す。
“ヒドロカルビル”は水素原子と炭素原子を含み、かつ炭素原子を介して化合物の残部に直接結合されている化合物の化学基(即ち、置換基)を意味する。その基は炭素と水素以外の一種以上の原子を含んでもよいが、但し、それらがその基の実質的なヒドロカルビルの性質に影響しないことを条件とする。このような置換基として、以下のものが挙げられる。
1. 炭化水素置換基、即ち、脂肪族(例えば、アルキル又はアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル又はシクロアルケニル)置換基、芳香族置換、脂肪族置換及び脂環式置換芳香族核等だけでなく、環状置換基(その環はリガンドの別の部分により完成され、即ち、あらゆる二つの示された置換基が一緒に脂環式基を形成してもよい);
2. 置換炭化水素置換基、即ち、非炭化水素基(これは、本発明の状況では、置換基の主としてヒドロカルビルの特性を変えない)を含むもの。当業者は好適な基(例えば、ハロ、特にクロロ及びフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ、等)を知っているであろう。
【0011】
“ハロ”又は“ハロゲン”はフルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを含む。
“多環式炭素環式芳香族部分”は二つ以上の芳香族縮合環を含む芳香族部分それ自体を意味し、夫々の芳香族環が炭素原子のみを含み、二つ以上の環が隣接炭素原子を共有することにより一緒に縮合されている。
“多環式複素環式芳香族部分”は一つ以上の芳香族環中に少なくとも一つのヘテロ原子を含む本明細書に特定された多環式炭素環式芳香族部分を意味する。
本明細書に使用される“油溶性”もしくは “油分散性”という用語又は同義語は化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性であり、又はあらゆる比率で油中に懸濁し得ることを必ずしも示さない。しかしながら、これらはそれらが、例えば、油を使用する環境でそれらの意図される効果を与えるのに充分な程度に油に可溶性又は安定に分散性であることを意味する。更に、その他の添加剤の追加の混入はまた所望により高レベルの特別な添加剤の混入を許してもよい。
“過半量(major amount)”は組成物の50質量%を超える量を意味する。
“少量(minor amount)”は記述された添加剤に関して、また一種以上の添加剤の活性成分として算出して、組成物中に存在する全ての添加剤の合計質量に関して表して、組成物の50質量%未満を意味する。
“ppm”は潤滑油組成物の合計質量を基準として、百万当りの部数(質量基準)を意味する。
“KV100”はASTM D445により測定された100℃における動粘度を意味する。
“TBN”はASTM D2896により測定された全アルカリ価を意味する。
“リン含量”はASTM D5185により測定され、
“硫黄含量”はASTM D2622により測定され、また
“硫酸塩灰分”はASTM D874により測定される。
報告された全ての%は、特にことわらない限り、活性成分基準の質量%であり、即ち、キャリヤー又は希釈油に関するものではない。
また、使用される種々の成分(必須だけでなく、最適及び慣例の)が配合、貯蔵又は使用の条件下で反応し得ること及び本発明がまたあらゆるこのような反応の結果として得られ、又は得られた生成物を提供することが理解されるであろう。
更に、本明細書に示されたあらゆる上限及び下限の量、範囲及び比が独立に組み合わされてもよいことが理解される。
【0012】
発明の詳細な説明
適当な場合に、本発明の夫々及び全ての局面に関する本発明の特徴が、今、以下に更に詳しく記載される。
潤滑粘度の油(A)
潤滑粘度の油(しばしば“原料油”又は“ベースオイル”と称される)は潤滑剤の液体主成分であり、これに添加剤そしておそらくその他の油が、例えば、最終の潤滑剤(又は潤滑剤組成物)を生成するためにブレンドされる。ベースオイルは濃厚物をつくるだけでなく、それから潤滑油組成物をつくるのに有益であり、天然(植物、動物又は鉱物)及び合成の潤滑油並びにこれらの混合物から選ばれてもよい。
原料油グループは米国石油協会(API)刊行物“エンジンオイルライセンシング及び認可システム”、工業サービス部門、第14編、1996年12月、補遺1、1998年12月に定義されている。典型的には、原料油は100℃で好ましくは3-12、更に好ましくは4-10、最も好ましくは4.5-8mm2/s(cSt)の粘度を有するであろう。
本発明における原料油及びベースオイルについての定義は米国石油協会(API)刊行物“エンジンオイルライセンシング及び認可システム”、工業サービス部門、第14編、1996年12月、補遺1、1998年12月に見られるものと同じである。前記刊行物は原料油を以下のとおりにカテゴリー化する。
a)グループI原料油は90%未満の飽和物及び/又は0.03%より多い硫黄を含み、表E-1に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
b)グループII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表E-1に明記された試験方法を使用して80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
c)グループIII原料油は90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、表E-1に明記された試験方法を使用して120以上の粘度指数を有する。
d)グループIV原料油はポリアルファオレフィン(PAO)である。
e)グループV原料油はグループI、II、III、又はIVに含まれない全てのその他の原料油を含む。
表E-1:原料油に関する分析方法
【0013】
【表1】

【0014】
本発明の好ましい局面によれば、潤滑粘度の油はグループIII 原料油を含む。潤滑粘度の油は潤滑粘度の油の合計質量を基準として、10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上のグループIII原料油を含むことが好ましい。潤滑粘度の油は潤滑粘度の油の合計質量を基準として、50質量%より大きく、好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上のグループIII原料油を含むことが更に好ましい。潤滑粘度の油は実質的にグループIII原料油からなることが最も好ましい。或る実施態様において、潤滑粘度の油はグループIII原料油のみからなる。後者の場合、潤滑油組成物中に含まれる添加剤はグループIII原料油ではないキャリヤーオイルを含んでもよいことが知られている。
【0015】
潤滑油組成物中に含まれてもよい潤滑粘度のその他の油が以下に詳述される。
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油);液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶剤処理された潤滑鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油がまた有益なベースオイルである。
合成潤滑油として、炭化水素油、例えば、重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。
合成潤滑油の別の好適なクラスはジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のエステルを含む。これらのエステルの特別な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより生成された複雑なエステルが挙げられる。
合成油として有益なエステルとして、C5-C12モノカルボン酸及びポリオール、並びにポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールからつくられたものがまた挙げられる。
【0016】
未精製油、精製油及び再精製油が本発明の組成物中に使用し得る。未精製油は更に精製処理しないで天然又は合成源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油又はエステル化方法から直接得られ、更に処理しないで使用されるエステル油が未精製油であろう。精製油はそれらが一つ以上の性質を改良するために一つ以上の精製工程で更に処理された以外は未精製油と同様である。多くのこのような精製技術、例えば、蒸留、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、濾過及びパーコレーションが当業者に知られている。再精製油は既に商用された精製油に適用される精製油を得るのに使用される方法と同様の方法により得られる。このような再精製油はまた再生油又は再加工油として知られており、使用済み添加剤及び油分解生成物の認可のための技術によりしばしば更に加工される。
ベースオイルのその他の例は合成軽油(gas-to-liquid(“GTL”))ベースオイルであり、即ち、ベースオイルはフィッシャー-トロプッシュ触媒を使用して水素及び一酸化炭素を含む合成ガスからつくられたフィッシャー-トロプッシュ合成炭化水素から誘導されたオイルであってもよい。これらの炭化水素は典型的にはベースオイルとして有益であるために更なる加工を必要とする。例えば、それらは、当業界で知られている方法により、水素異性化されてもよく、ハイドロクラッキングされ、水素異性化されてもよく、脱蝋されてもよく、又は水素異性化され、脱蝋されてもよい。
【0017】
潤滑粘度の油はまたグループI、グループII、グループIVもしくはグループV原料油又は上記原料油のベースオイルブレンドを含んでもよい。
好ましくは、ノアク試験(ASTM D5880)により測定されるような、潤滑粘度の油又は油ブレンドの揮発度は、16%以下、好ましくは13.5%以下、好ましくは12%以下、更に好ましくは10%以下、最も好ましくは8%以下である。好ましくは、潤滑粘度の油の粘度指数(VI)は少なくとも95、好ましくは少なくとも110、更に好ましくは少なくとも120、更に好ましくは少なくとも125、最も好ましくは約130から140までである。
潤滑粘度の油は本明細書に特定された、少量の添加剤成分(B)及び、必要により、一種以上の補助添加剤、例えば、以下に記載されるものと組み合わせて、過半量で用意されて、潤滑油組成物を構成する。この調製は添加剤を油に直接添加することにより、又はそれらをそれらの濃厚物の形態で添加して添加剤を分散もしくは溶解することにより達成されてもよい。添加剤はその他の添加剤の添加の前、同時、又は後に当業者に知られているあらゆる方法により油に添加されてもよい。
好ましくは、潤滑粘度の油は潤滑油組成物の合計質量を基準として、55質量%より大きく、更に好ましくは60質量%より大きく、更に好ましくは65質量%より大きい量で存在する。好ましくは、潤滑粘度の油は潤滑油組成物の合計質量を基準として、98質量%未満、更に好ましくは95質量%未満、更に好ましくは90質量%未満の量で存在する。
【0018】
本発明の潤滑油組成物は油性キャリヤーとの混合の前後で化学的に同じに留まってもよく、また留まらなくてもよい特定成分を含む。本発明は混合前、もしくは混合後、又は混合の前及び後の両方で特定成分を含む組成物を含む。
濃厚物が潤滑油組成物をつくるのに使用される場合、それらは、例えば、濃厚物の質量部当り3〜100質量部、例えば、5〜40質量部の潤滑粘度の油で希釈されてもよい。
好ましくは、本発明の潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、リンの原子として表して、低レベルのリン、即ち、0.12質量%まで、好ましくは0.11質量%まで、更に好ましくは0.10質量%以下、更に好ましくは0.09質量%まで、更に好ましくは0.08質量%まで、更に好ましくは0.06質量%までのリンを含む。
典型的には、潤滑油組成物は低レベルの硫黄を含んでもよい。好ましくは、潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、硫黄の原子として表して、0.4質量%まで、更に好ましくは0.3質量%まで、最も好ましくは0.2質量%までの硫黄を含んでもよい。
典型的には、潤滑油組成物は低レベルの硫酸塩灰分を含んでもよい。好ましくは、潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、1.2質量%まで(1.2質量%を含む)、更に好ましくは1.1質量%まで、更に好ましくは1.0質量%まで、更に好ましくは0.8質量%までの硫酸塩灰分を含む。
好適には、潤滑油組成物は4〜15、好ましくは5〜12の全アルカリ価(TBN)を有してもよい。ヘビーデューティディーゼル(HDD)エンジン適用において、潤滑組成物のTBNは約4から12まで、例えば、6〜12の範囲である。乗用車ディーゼルエンジン潤滑油組成物(PCDO)及び火花点火エンジンのための乗用車モーターオイル(PCMO)では、潤滑組成物のTBNは約5.0から約12.0まで、例えば、約5.0から約11.0までの範囲である。
好ましくは、潤滑油組成物は粘度記述子SAE 20WX、SAE 15WX、SAE 10WX、SAE 5WX又はSAE 0WX(ここでXは20、30、40及び50のいずれか一つを表す)により同定されたマルチグレードである。異なる粘度グレードの特性がSAE J300分類に見られる。本発明の夫々の局面の実施態様において、その他の実施態様とは独立に、潤滑油組成物はSAE 10WX、SAE 5WX又はSAE 0WXの形態、好ましくはSAE 5WX又はSAE 0WXの形態であり、ここで、Xは20、30、40及び50のいずれか一つを表す。Xは20又は30であることが好ましい。
油溶性添加剤成分 (B)
油溶性又は油分散性の添加剤成分(B) はアシル化剤、アルキル化剤又はアリール化剤の少なくとも一種と、一般式I:
【化3】

【0019】
(式中、
夫々のArは独立にアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ハロ及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれた0〜3個の置換基を有する芳香族部分を表し、
夫々のLは独立に炭素-炭素単結合又は結合基を含む結合部分であり、
夫々のYは独立に-OR1 又は式H(O(CR2R3)n)yX-の部分を表し、式中、夫々のR1 は独立にC1 〜C30 アルキル基又はアリール基を表し、夫々のXは独立に (CR4R5)z、O及びSからなる群から選ばれ、夫々のR2、R3、R4 及びR5 は独立にH、C1 〜C6 アルキル又はアリールを表し、zは1〜10であり、nはXが(CR4R5)z である場合に0〜10であり、但し、nが0である場合にはyが1であることを条件とし、nはXがO又はSである場合に2〜10であり、かつyは1〜30であり、夫々のaは独立に0〜3であり、但し、少なくとも一つのAr部分が式H(O(CR2R3)n)yX-の少なくとも一つの基Yを有することを条件とし、かつmは1〜100である)
との化合物の反応から得られる。
【0020】
油溶性添加剤成分(B) は石油燃料、即ち、石油ディーゼル燃料又はガソリンで燃料を供給される圧縮点火及び火花点火内燃エンジンの潤滑における、使用中に、潤滑油組成物中のすす分散剤として機能することが知られている。油溶性添加剤成分(B) 及び式Iの化合物は通常の化学操作、例えば、米国公開特許出願2006/0189492A 及び2008/194438A に開示された操作により合成されてもよい。
式Iの夫々のArが独立に表し得る芳香族部分として、単核炭素環式芳香族部分(例えば、フェニル)、多核炭素環式芳香族部分、単核複素環式芳香族部分、又は多核複素環式芳香族部分が挙げられる。
多核炭素環式芳香族部分として、(i) 多環式炭素環式芳香族部分、即ち、二つ以上の芳香族縮合環を含む芳香族部分(夫々の芳香族環が炭素原子のみを含み、二つ以上の環が隣接炭素原子を共有することにより一緒に縮合されている)、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ベンズアントラセン、ジベンズアントラセン、クリセン、ピレン、ベンズピレン及びコロネン並びにこれらの二量体以上の同族体、(ii)結合された単核芳香族部分、例えば、ビフェニル、並びに(iii) 結合された多環式炭素環式芳香族部分、例えば、ビナフタレンが挙げられる。
夫々のArが独立に表し得る複素環部分として、N、O及びSから選ばれた少なくとも1個のヘテロ原子を含む一つ以上の芳香族環を含む化合物が挙げられる。単核(即ち、単環式)複素環式芳香族部分として、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、及びピリミジンが挙げられる。多核複素環式芳香族部分として、(i) 多環式複素環式芳香族部分、即ち、二つ以上の縮合芳香族環を含み、かつその環の少なくとも一つがN、O及びSから選ばれた少なくとも1個のヘテロ原子を含む芳香族部分、例えば、キノリン、イソキノリン、カルバゾール、シノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン及びフェナントロリン、(ii)結合された単核複素環式芳香族部分、例えば、ビピリジル、並びに(iii) 結合された多環式複素環式芳香族部分が挙げられる。
【0021】
式Iの化合物中の夫々のArは独立に多核炭素環式芳香族部分又は多核複素環式芳香族部分を表すことが好ましい。式Iの化合物中の夫々のArは独立に多環式炭素環式芳香族部分又は多環式複素環式芳香族部分を表すことが更に好ましい。式Iの化合物中の夫々のArは独立に多環式炭素環式芳香族部分、特にナフタレンを表すことが最も好ましい。
本発明の好ましい実施態様によれば、式Iの化合物中の夫々のArが同じである。式Iの化合物中の夫々のArがナフタレンを表すことが最も好ましい。
式Iの化合物中の夫々の芳香族部分(Ar)は独立に未置換(基Y及び末端基を除いて)であってもよく、又は基Yに加えて、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ハロ及びこれらの組み合わせから選ばれた1〜3個の置換基で置換されていてもよい。式Iの化合物中の夫々のArは基Y及び末端基を除いて、置換されていないことが好ましい。
夫々の結合基(L) は同じ又は異なっていてもよく、隣接部分Arの炭素原子間の炭素-炭素単結合、又は結合基であってもよい。夫々の結合部分(L) は独立に本明細書に特定された結合基を表すことが好ましい。好適な結合基として、アルキレン結合、エーテル結合、ジアシル結合、エーテル-アシル結合、アミノ結合、アミド結合、カルボアミド結合、ウレタン結合、及び硫黄結合が挙げられる。好ましい結合基はアルキレン結合、例えば、-CH3CHC(CH3)2-、又はC(CH3)2-; ジアシル結合、例えば、-COCO- 又は-CO(CH2)4CO-; 及び硫黄結合、例えば、-S1又は-Sxである。更に好ましい結合基はアルキレン結合、最も好ましくは-CH2である。夫々の結合基(L) は同じ結合基、特にアルキレン結合、特に-CH2を表すことが最も好ましい。
【0022】
式Iの化合物中の夫々のYは独立に-OR1 又は式H(O(CR2R3)n)yX-の部分を表し、式中、夫々のR1 は独立にC1 〜C30 アルキル基又はアリール基を表し、夫々のXは独立に (CR4R5)z、O及びSからなる群から選ばれ、夫々のR2、R3、R4 及びR5 は独立にH、C1 〜C6 アルキル又はアリールを表し、zは1〜10であり、nはXが(CR4R5)z である場合に0〜10であり、但し、nが0である場合にはyが1であることを条件とし、nはXがO又はSである場合に2〜10であり、かつyは1〜30であり、但し、少なくとも一つのAr部分が式H(O(CR2R3)n)yX-の少なくとも一つの基Yを有して少なくとも一種のアシル化剤、アルキル化剤又はアリール化剤との反応を可能にすることを条件とする。
夫々のYが独立に表し得る部分-OR1の夫々のR1は独立にC1 〜C10 アルキル基、特にC1 〜C4 アルキル基 (即ち、メチル、エチル、プロピル又はブチル) 、特にメチル基を表すことが好ましい。
夫々のYが独立に表し得る部分-OR1の夫々のR1は同じ又は異なっていてもよい。夫々のYが独立に表し得る部分-OR1の夫々のR1は、同じであることが更に好ましい。夫々のYが独立に表し得る部分-OR1の夫々のR1は、メチル基を表すことが最も好ましい。
夫々のR2、R3、R4 及びR5 は独立にH又はC1 〜C6 アルキル基 (即ち、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシル) 、特に水素を表すことが好ましい。夫々のR2、R3、R4 及びR5 は同じ又は異なっていてもよい。夫々のR2 及びR3 が同じであることが好ましく、夫々のR2 及びR3 が水素を表すことが更に好ましい。夫々のR4 及びR5 が同じであることが好ましく、夫々のR4 及びR5 が水素を表すことが更に好ましい。
夫々のXは独立に (CH2)z、O又はS、更に好ましくはO又はS、特にOを表すことが好ましい。Zは、存在する場合には、1〜6を表すことが好ましい。夫々のXは同じ又は異なっていてもよい。夫々のXは同じであることが好ましく、夫々のXは酸素を表すことが更に好ましい。
【0023】
式H(O(CR2R3)n)yX- の部分中の夫々のyは独立に1〜6、特に1を表すことが好ましい。式H(O(CR2R3)n)yX- の部分中の夫々のyは同じであることが更に好ましい。
式H(O(CR2R3)n)yX- の部分中の夫々のnはXがO又はSを表す場合には独立に2〜6を表すことが好ましく、夫々のnが2を表すことが更に好ましい。式H(O(CR2R3)n)yX- の部分中の夫々のnはXがO又はSを表す場合には同じであることが最も好ましい。
式Iの化合物中の夫々のaは独立に1〜3、特に1を表すことが好ましい。式Iの化合物中の夫々のaは同じであることが更に好ましい。式Iの化合物中の夫々のaは1を表すことが最も好ましい。
式Iの化合物中のmは2〜25であることが好ましい。
式Iの高度に好ましい化合物として、夫々のYが独立に式H(O(CR2R3)n)yX- (式中、R2、R3、n、y及びXは本明細書に定義されたとおりである)、更に好ましくはH(O(CR2R3)2)yO- (式中、yが1〜6である)の部分であり、最も好ましくは夫々のYがHOCH2CH2O-である化合物が挙げられる。夫々のYが同じであることが好ましい。好適には、式Iのこのような好ましい化合物はArがナフタレンを表す場合には2-(2-ナフトキシ)-エタノールから誘導されてもよい。
また、式Iの高度に好ましい化合物として、少なくとも一つのAr部分が本明細書に特定された、式-OR1の少なくとも一つの基Yを有する化合物、及び少なくとも一つのAr部分が式H(O(CR2R3)n)yX-(式中、R2、R3、n、y及びXが本明細書に定義されたとおりである)の少なくとも一つの基Yを有する化合物が挙げられる。Y単位の2モル%から約98モル%まで、好ましくは約40モル%から約60モル%まで、例えば、約65モル%から約75モル%までが夫々独立にH(O(CR2R3)n)yX-(式中、R2、R3、n、y及びXが本明細書に定義されたとおりである)、更に好ましくはH(O(CR2R3)2)yO-(式中、yが1〜6である)、最も好ましくはHOCH2CH2O-を表し、かつY単位の約98モル%から2モル%まで、好ましくは約60モル%から40モル%まで、例えば、約35モル%から約25モル%までが夫々独立に本明細書で特定された、-OR1、更に好ましくは-OCH3 を表すことが好ましい。H(O(CR2R3)n)yX- を表す夫々のY単位が同じであることが好ましい。-OR1 を表す夫々のY単位が同じであることが好ましい。好適には、式(I) のこのような好ましい化合物は、Arがナフタレンを表す場合に、約65モル%から約75モル%までの2-(2-ナフトキシ)-エタノール及び約35モル%から約25モル%までの2-メトキシナフタレンから誘導されてもよい。
【0024】
式Iの化合物の生成方法は当業者に明らかであるべきである。ナフトールの如き、ヒドロキシル芳香族化合物がアルキレンカーボネート(例えば、エチレンカーボネート)と反応させられて式AR-(Y)aの化合物を得ることができる。そのヒドロキシル芳香族化合物及びアルキレンカーボネートが水酸化ナトリウム水溶液の如き塩基触媒の存在下で、約25℃から約300℃までの温度、好ましくは約50℃から約200℃までの温度で反応させられることが好ましい。その反応中に、水が共沸蒸留又はその他の通常の手段により反応混合物から除去されてもよい。得られる中間体生成物の分離が所望される場合、その反応の完結(CO2 発生の停止により示される)後に、反応生成物が集められ、冷却されて固化し得る。また、ナフトールの如きヒドロキシル芳香族化合物が同様の条件下でエポキシド、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド又はスチレンオキサイドと反応させられて1個以上のオキシ-アルキレン基をとり込み得る。
式Iの化合物を生成するために、得られる中間体化合物Ar-(Y)a が更にポリハロゲン化(好ましくはジハロゲン化)炭化水素(例えば、1,4-ジクロロブタン、2,2-ジクロロプロパン等)、又はジ-もしくはポリ-オレフィン(例えば、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン等)と反応させられてアルキレン結合基を有する式Iの化合物を得てもよい。部分Ar-(Y)a とケトン又はアルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、アセトン、ベンゾフェノン、アセトフェノン等)の反応がアルキレン結合化合物を与える。アシル結合化合物は部分Ar-(Y)a をジ酸又は酸無水物(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、無水コハク酸等)と反応させることにより生成し得る。スルフィド結合、ポリスルフィド結合、スルフィニル結合及びスルホニル結合は部分Ar-(Y)a と好適な二官能性硫化剤(例えば、一塩化硫黄、二塩化硫黄、塩化チオニル(SOCl2) 、塩化スルフリル(SO2Cl2) 等)の反応により得られてもよい。アルキレンエーテル結合を有する式Iの化合物を得るために、部分Ar-(Y)aがジビニルエーテルと反応させられる。Lが直接の炭素-炭素結合である式Iの化合物は、例えば、P. Kovacicら, J. Polymer Science: Polymer Chem. Ed., 21, 457 (1983) により記載されたように、塩化アルミニウムと塩化第一銅の混合物を使用して酸化カップリング重合により生成されてもよい。また、このような化合物は、例えば、“セシウム/ナノポーラス(Nanoporous) カーボン触媒による接触ベンゼンカップリング”, M.G. Stevens, K.M. Sellers, S. Subramoney 及びH.C. Foley, Chemical Communications, 2679-2680 (1988)に記載されたように、部分Ar-(Y)a とアルカリ金属を反応させることにより生成されてもよい。
【0025】
アルキレン結合基、更に好ましくはメチレン結合基を有する、式(I) の好ましい化合物を生成するために、Ar-(Y)a 反応混合物中に残っている塩基が酸、好ましくは過剰の酸(例えば、スルホン酸)で中和され、好ましくは残留酸の存在下で、アルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドと反応させられて式(I) のアルキレン、好ましくはメチレン橋かけされた化合物を得ることができる。式Iの化合物の重合度は2から約101まで(1から約100までのmの値に相当する)、好ましくは約2から約50まで、最も好ましくは約2から約25までの範囲である。
式(I) の高度に好ましい化合物を得るために、ナフチルオキシエタノール単独又はナフチルオキシエタノールと2-メトキシナフタレンの混合物が、好ましくは油溶性スルホン酸及び固体酸触媒から選ばれた、酸触媒の存在下でホルムアルデヒドと反応させられる。ナフトキシエタノールが塩基触媒の存在下のヒドロキシル-ナフタレン化合物の反応の生成物であることが好ましい。残っている塩基がホルムアルデヒドの導入の前に過剰の酸で中和されることが好ましい。
式Iの化合物をアシル化剤、アルキル化剤及びアリール化剤の少なくとも一種と反応させることにより生成された油溶性添加剤成分(B) は一般式IIにより表し得る。
【0026】
【化4】

【0027】
式中、
夫々のY’は独立に-OR1 又は式Z(O(CR2R3)n)yX-の部分を表し、夫々のZは独立にH、アシル基、ポリアシル基、ラクトンエステル基、酸エステル基、アルキル基又はアリール基を表し、かつAr、L、X、R1、R2、R3、n、y及びa、並びに存在する場合のR4、R5、及びzは一般式(I) の化合物について定義されたのと同じであり、但し、少なくとも一つのAr部分が式Z(O(CR2R3)n)yX-(式中、ZはHではない)の少なくとも一つの置換基Y’を有することを条件とし、かつmは1〜100である。
好適なアシル化剤として、ヒドロカルビル炭酸、ヒドロカルビル炭酸ハライド、ヒドロカルビルスルホン酸及びヒドロカルビルスルホン酸ハライド、ヒドロカルビルリン酸及びヒドロカルビルリン酸ハライド、ヒドロカルビルイソシアネート及びヒドロカルビルコハク酸アシル化剤が挙げられる。好ましいアシル化剤として、ビスエステル、エステル酸及び/又はエステルラクトン置換基を与えるポリアシル化剤が挙げられる。好ましいアシル化剤はC8 以上のヒドロカルビルイソシアネート、例えば、ドデシルイソシアネート及びヘキサドデシルイソシアネート並びにC8 以上のヒドロカルビルアシル化剤、更に好ましくはポリブテニルコハク酸アシル化剤、例えば、ポリブテニル、又はポリイソブテニル無水コハク酸(PIBSA) である。好ましくは、ヒドロカルビルコハク酸アシル化剤は約100から5000まで、好ましくは約200から約3000まで、更に好ましくは約450から約2500までの数平均分子量
【数1】

を有するポリアルケンから誘導されるであろう。好ましくは、ヒドロカルビルイソシアネートアシル化剤は約100から5000まで、好ましくは約200から約3000まで、更に好ましくは約200から約2000までの数平均分子量
【数2】

を有するポリアルケンから誘導されるであろう。
【0028】
アシル化剤は当業者に知られている通常の方法、例えば、塩素補助方法、熱グラフト方法及びラジカルグラフト方法により調製し得る。アシル化剤は一官能性又は多官能性であってもよい。好ましくは、アシル化剤は1.3未満の官能価を有し、この場合、官能価(F)は下記の式に従って決定される。
【数3】

式中、SAP はケン化価(即ち、ASTM D94に従って測定される、アシル基含有反応生成物1グラム中の酸基の完全中和に消費されるKOH のミリグラム数の価であり、
【数4】

は出発ポリアルケンの数平均分子量であり、A.I.はアシル基含有反応生成物の活性成分%であり(残りは未反応ポリアルケン、アシル化剤及び希釈剤である)、かつMWはアシル基の分子量である(例えば、無水コハク酸について98)。
好適なアルキル化剤として、C8 〜C30 アルカンアルコール、好ましくはC8 〜C18 アルカンアルコールが挙げられる。好適なアリール化剤として、C8 〜C30 、好ましくはC8 〜C18 アルカン置換アリールモノ-又はポリヒドロキシドが挙げられる。
【0029】
式(I) の化合物並びにアシル化剤、アルキル化剤及び/又はアリール化剤のモル量は基Yの全部、又は一部のみ、例えば、25%以上、50%以上又は75%以上が基Y’に変換されるように調節し得る。式(I) の化合物がヒドロキシ及び/又はアルキルヒドロキシ置換基を有し、このような化合物がアシル化基と反応させられる場合には、このようなヒドロキシ及び/又はアルキルヒドロキシ置換基の全部又は一部がアシルオキシ基又はアシルオキシアルキル基に変換されることが可能である。式(I) の化合物がヒドロキシ及び/又はアルキルヒドロキシ置換基を有し、このような化合物がアリール化基と反応させられる場合には、このようなヒドロキシ及び/又はアルキルヒドロキシ置換基の全部又は一部がアリールオキシ基又はアリールオキシアルキル基に変換されることが可能である。それ故、アシルオキシ基、アシルオキシアルキル基、アリールオキシ基及び/又はアリールオキシアルキル基で置換された式(II)の化合物は油溶性添加剤成分 (B)の範囲内と考えられる。Zがアシル化基である式(II)の化合物の塩形態(これらの塩は塩基(例えば、添加剤パッケージ又は配合潤滑剤中で、金属洗剤との相互作用のために生じ得るような)による中和から生じる)がまた油溶性添加剤成分 (B)の範囲内であると考えられる。
油溶性添加剤成分 (B)はアシル化剤と式Iの化合物の反応により生成されることが好ましい。アシル化剤が(i) ヒドロカルビルコハク酸アシル化剤(例えば、ポリアルキルコハク酸アシル化剤又はポリアルケニルコハク酸アシル化剤)、好ましくは約100から5000まで、好ましくは約200から約3000まで、更に好ましくは約450から約2500までの数平均分子量
【数5】

を有する、ポリアルケンから誘導された、ポリブテニルコハク酸アシル化剤(例えば、ポリブテニル又はポリイソブテニル無水コハク酸(PIBSA))、及び(ii)約100から5000まで、好ましくは約200から約3000まで、更に好ましくは約200から約2000までの数平均分子量
【数6】

を有するポリアルキレンから誘導されたヒドロカルビルイソシアネートアシル化剤の群から選ばれることが更に好ましい。
【0030】
従って、式IIの化合物中の夫々のZは、式Iの化合物と反応させられたアシル化剤のモル比に応じて、独立にH、アシル基、ポリアシル基、ラクトンエステル基又は酸エステル基を表すことが好ましい。夫々のZは独立にHを表し、又は(i) 本明細書に特定されたヒドロカルビルコハク酸アシル化剤、又は(ii)本明細書で特定されたヒドロカルビルイソシアネートアシル化剤の群から選ばれたアシル化剤から誘導し得ることが更に好ましい。
【0031】
従って、式IIの化合物中の夫々のY’は独立に-OR1 又はZ(O(CR2R3)n)yX- (式中、夫々のZが独立にH、アシル基、ポリアシル基、ラクトンエステル基又は酸エステル基を表す)を表すことが好ましい。夫々のZがHを表し、又は(i) 本明細書で特定されたヒドロカルビルコハク酸アシル化剤、又は(ii)本明細書で特定されたヒドロカルビルイソシアネートアシル化剤の群から選ばれたアシル化剤から誘導し得ることが好ましい。
式IIの高度に好ましい化合物として、夫々のY’が独立に式Z(O(CR2R3)n)yX-(式中、Z、R2、R3、n、y及びXが本明細書に定義されたとおりである)、更に好ましくはZ(O(CR2R3)2)yO- (式中、yが1〜6である(好ましくはyが1である))の部分であり、最も好ましくは夫々のY’がZOCH2CH2O-である化合物が挙げられる。夫々のZが同じであることが好ましい。夫々のY’基が同じであることが更に好ましい。
また、式IIの高度に好ましい化合物として、少なくとも一つのAr部分が本明細書で特定された式-OR1 の少なくとも一つの基Y’を有する化合物、及び少なくとも一つのAr部分が式Z(O(CR2R3)n)yX-(式中、Z、R2、R3、n、y及びXが本明細書に定義されたとおりである)の少なくとも一つの基Y’を有する化合物が挙げられる。Y’単位の2モル%〜約98モル%、好ましくは約40モル%から約60モル%まで、例えば、約65モル%から約75モル%までが夫々独立に本明細書で特定されたZ(O(CR2R3)n)yX- 、更に好ましくはZ(O(CR2R3)2)yO-(式中、yが1〜6である(好ましくはyが1である))、最も好ましくはZOCH2CH2O-を表し、かつY’単位の約98モル%から2モル%まで、好ましくは約60モル%から40モル%まで、例えば、約35モル%から約25モル%までが夫々独立に本明細書で特定された-OR1、更に好ましくは-OCH3を表すことが好ましい。Z(O(CR2R3)n)yX- を表す夫々のY’単位が同じであることが好ましい。-OR1 を表す夫々のY’単位が同じであることが好ましい。夫々のZが同じであることが好ましい。
式(II)の化合物の一つの好ましいクラスは式(III) の化合物を含む。
【0032】
【化5】

【0033】
式中、一つ以上のY’が基Z(O(CR2)n)yX- (式中、Zが式IVのラクトンエステル、式Vの酸エステル、又はこれらの組み合わせから誘導される)である。
【化6】

【0034】
式中、R6、R7、R8、R9、R10 、R11 及びR12 は独立にH、アルキル並びに200個までの炭素原子を含むポリアルキル及びポリアルケニルから選ばれ、かつZ”は式VIのビスアシルである。
【化7】

【0035】
式中、R13 及びR14 は独立にH、アルキル、並びに300個までの炭素原子を含むポリアルキル及びポリアルケニルから選ばれ、mは0〜100であり、かつp及びsは夫々独立に約0〜約25であり、但し、p < m; s < m; かつp + s > 1であることを条件とする。
式(III) の好ましい化合物はY’単位の約2モル%から約98モル%までがZ(O(CR2R3)2)yO-(式中、Zがアシル基であり、かつyが1〜6である(好ましくはyが1である))であり、かつY’単位の約98モル%から2モル%までが-OR1である化合物、例えば、Arがナフタレンであり、Y’単位の約2モル%から約98モル%までがZOCH2CH2O-であり、Y’単位の約98モル%から2モル%までが-OCH3であり、かつLがCH2である式(III) の化合物である。Arがナフタレンであり、Y’単位の約40モル%から約60モル%までがZOCH2CH2O-であり、かつY’単位の約60モル%から40モル%までが-OCH3であり、mが約2から約25までであり、pが1から約10までであり、かつsが約1から約10までである式(III) の化合物が特に好ましい。基Zがポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸アシル化剤から誘導されることが好ましく、これは約100から約5000までの数平均分子量を有するポリアルケン、又はヒドロキシルイソシアネートから誘導される。
式(II)の化合物は式(I) の前駆体から式(I) の前駆体を、好ましくは液体酸触媒、例えば、スルホン酸、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸もしくはポリリン酸又は固体酸触媒、例えば、アンバーリスト-15、アンバーリスト-36、ゼオライト、鉱酸クレーもしくはタングステンポリリン酸の存在下で、約0℃から約300℃まで、好ましくは約50℃から約250℃までの温度でアシル化剤と反応させることにより誘導し得る。上記条件下で、好ましいポリブテニルコハク酸アシル化剤が式(I) の化合物とジエステル、酸エステル又はラクトンエステルを生成し得る。
式(II)の化合物は式(I) の前駆体から式(I) の前駆体を、好ましくはトリフェニルホスフィン及びジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)、液体酸触媒、例えば、スルホン酸、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸もしくはポリリン酸又は固体酸触媒、例えば、アンバーリスト-15、アンバーリスト-36、ゼオライト、鉱酸クレーもしくはタングステンポリリン酸の存在下で、約0℃から約300℃まで、好ましくは約50℃から約250℃までの温度でアルキル化剤又はアリール化剤と反応させることにより誘導し得る。
【0036】
一つの好ましい実施態様において、式(II)の化合物が好ましくは酸触媒(好ましくは油溶性液体酸触媒又は固体酸触媒)の存在下の、メチレン橋かけナフトキシエタノール及び2-メトキシナフタレン化合物の混合物と、好ましくは約300から約5000までの数平均分子量を有するポリブテンから誘導された、ポリアルキルコハク酸アシル化剤及びポリアルケニルコハク酸アシル化剤から選ばれたアシル化剤の反応生成物である。コハク酸アシル化部分の合計モル数対ナフチル部分の合計モル数の比は約1.10から約0.5までであることが好ましい。メチレン橋かけナフトキシエタノール化合物及び2-メトキシナフタレン化合物は(i) ヒドロキシル-ナフタレン化合物及びエチレンカーボネートを塩基触媒の存在下で反応させてナフトキシエタノールを生成し、(ii)その塩基を過剰の酸で中和して中間体を得、そして(iii) その中間体を残留酸の存在下で2-メトキシナフタレン及びホルムアルデヒドと反応させる方法の生成物であることが好ましい。
油溶性添加剤成分 (B)は潤滑油組成物の合計質量を基準として潤滑組成物の0.005〜15質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%の量で存在することが好ましい。
エンジン
本発明の潤滑油組成物はその組成物をエンジンに添加することにより、特に内燃エンジン、例えば、火花点火又は圧縮点火2ストローク又は4ストローク往復エンジン中の、機械エンジン構成部品を潤滑するのに使用されてもよい。エンジンは夫々ガソリン又は石油ディーゼルにより駆動されるように設計された通常のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであってもよい。また、エンジンはアルコールをベースとする燃料又はバイオディーゼル燃料により駆動されるように仕様上変更されてもよい。潤滑油組成物はクランクケース潤滑剤であることが好ましい。
潤滑油組成物は圧縮点火内燃エンジン(ディーゼルエンジン)、特にバイオディーゼル燃料で少なくとも一部燃料を供給される圧縮点火内燃エンジンの潤滑用であることが好ましい。このようなエンジンとして、乗用車ディーゼルエンジン及びヘビーデューティディーゼルエンジン、例えば、ロードトラックに見られるエンジンが挙げられる。潤滑油組成物は乗用車圧縮点火内燃エンジン(即ち、ライトデューティディーゼルエンジン)(これはバイオディーゼル燃料で少なくとも一部燃料を供給される)、特にシリンダーへの燃料の後期後噴射を使用するこのようなエンジンの潤滑用であることが更に好ましい。潤滑油組成物は上記エンジンのクランクケースの潤滑用であることが更に好ましい。
潤滑油組成物、例えば、クランクケース潤滑剤が、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑に使用される場合、そのエンジンの作動中の潤滑剤がバイオ燃料及びその分解生成物で汚染されるようになる。こうして本発明の好ましい局面によれば、本発明の潤滑油組成物が少なくとも0.3質量%、好ましくは少なくとも0.5質量%、更に好ましくは少なくとも1質量%、更に好ましくは少なくとも5質量%、更に好ましくは少なくとも10質量%、更に好ましくは少なくとも15質量%、更に好ましくは少なくとも20質量%のバイオ燃料及び/又はその分解生成物を含む。潤滑油組成物が50質量%までのバイオ燃料及び/又はその分解生成物を含んでもよいが、それが35質量%未満、更に好ましくは30質量%未満のバイオ燃料及び/又はその分解生成物を含むことが好ましい。
バイオ燃料は火花点火内燃エンジンの場合にはアルコールをベースとする燃料、好ましくはバイオアルコール燃料、特にバイオエタノール燃料を含む。
バイオ燃料は圧縮点火内燃エンジンの場合にはバイオディーゼルを含む。
【0037】
バイオ燃料
バイオ燃料は本明細書で特定されたバイオディーゼル燃料、バイオアルコール燃料及びアルコールをベースとする燃料を意味する。バイオ燃料として、再生可能な生物源から製造される燃料、例えば、本明細書に特定されたバイオディーゼル燃料及び発酵された糖から誘導し得るバイオエタノール燃料が挙げられる。バイオ燃料という用語はまたアルコールの源にかかわらず、“アルコールをベースとする燃料”、例えば、“エタノールをベースとする燃料”を含む(即ち、アルコールが再生可能な生物源又は再生できない源、例えば、石油から誘導されてもよい)。
【0038】
アルコールをベースとする燃料
アルコールをベースとする燃料は火花点火内燃エンジン中で使用される。アルコールをベースとする燃料はメタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールから選ばれた一種以上のアルコールを含んでもよい。アルコールは再生可能な生物源又は再生できない源、例えば、石油から誘導されてもよい。アルコールをベースとする燃料は100容積%の一種以上のアルコール(即ち、純粋なアルコール)を含んでもよい。また、アルコールをベースとする燃料はアルコールと石油ガソリンのブレンドを含んでもよく、好適なブレンドはアルコール及びガソリンブレンドの全容積を基準として、5、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、85、及び90容積%のアルコールを含む。
アルコールをベースとする燃料はエタノールをベースとする燃料を含むことが好ましい。アルコールをベースとする燃料はバイオアルコール燃料、特にバイオエタノール燃料を含むことが更に好ましい。
バイオエタノール燃料は再生可能な生物源から誘導されたエタノール(即ち、バイオエタノール)、好ましくは再生可能な生物源のみから誘導されたエタノールを含む。バイオエタノールは穀物、例えば、コーン、トウモロコシ、小麦、コード草及びモロコシ植物の糖発酵から誘導されてもよい。バイオエタノール燃料は100容積%のバイオエタノール(E100と表示される)を含んでもよく、また、バイオエタノール燃料はバイオエタノールと石油ガソリンのブレンドを含んでもよい。バイオエタノール燃料ブレンドは表示“Exx”(この場合、xxはバイオエタノール燃料ブレンドの合計容積を基準として、E100バイオエタノールの量(容積%)を表す)を有し得る。例えば、E10は10容積%のE100バイオエタノール燃料及び90容積%の石油ガソリンを含むバイオエタノール燃料ブレンドを表す。疑いの回避のために、“バイオエタノール燃料”という用語は純粋なバイオエタノール燃料(即ち、E100)及びバイオエタノール燃料と石油ガソリン燃料の混合物を含むバイオエタノール燃料ブレンドを含む。
典型的には、バイオエタノール燃料はE100、E95、E90、E85、E80、E75、E70、E65、E60、E55、E50、E45、E40、E35、E30、E25、E20、E15、E10、E8、E6又はE5を含む。高度に好ましいブレンドとして、E85 (ASTM D5798 (USA))、E10 (ASTM D4806 (USA))及びE5 (EN 228:2004 (欧州))が挙げられる。
【0039】
バイオディーゼル燃料
バイオディーゼル燃料は植物油又は動物脂肪から誘導し得る長鎖脂肪酸の少なくとも一種のアルキルエステル、典型的にはモノ-アルキルエステルを含む。バイオディーゼル燃料はこのような長鎖脂肪酸の一種以上のメチルエステル又はエチルエステル、特に一種以上のメチルエステルを含むことが好ましい。
長鎖脂肪酸は典型的には炭素原子、水素原子及び酸素原子を含む長鎖を含む。好ましくは、長鎖脂肪酸が10個から30個まで、更に好ましくは14〜26個、最も好ましくは16〜22個の炭素原子を含む。高度に好ましい脂肪酸として、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸が挙げられる。
バイオディーゼル燃料は一種以上の植物油及び動物脂肪、例えば、トウモロコシ油、カシュー油、エンバク油、ルピナス油、ケナフオイル、カレンデュラオイル、綿油、麻実油、大豆油、アマニ油、ヘーゼルナッツ油、トウダイグサ油、カボチャ実油、ヤシ油、ナタネ油、オリーブ油、牛脂油、ヒマワリ油、米油、ゴマ油又は藻類油のエステル化又はエステル交換から誘導されてもよい。好ましい植物油として、ヤシ油、ナタネ油及び大豆油が挙げられる。
一般に、ASTM D6751-08規格(USA)仕様又はEN 14214規格(欧州)仕様を満足する純粋なバイオディーゼル燃料はB100と表示される。純粋なバイオディーゼル燃料は石油ディーゼル燃料と混合されて放出を低減し、エンジン性能を改良するバイオディーゼルブレンドを生成してもよい。このようなバイオディーゼルブレンドは表示“Bxx”(この場合、xxはバイオディーゼルブレンドの合計容積を基準として、B100バイオディーゼルの量(容積%)を表す)を与えられる。例えば、B10は10容積%のB100バイオディーゼル燃料及び90容積%の石油ディーゼル燃料を含むバイオディーゼルブレンドを表す。疑いの回避のために、“バイオディーゼル燃料”という用語は純粋なバイオディーゼル燃料(即ち、B100)及びバイオディーゼル燃料と石油ディーゼル燃料の混合物を含むバイオディーゼル燃料ブレンドを含む。
典型的には、バイオディーゼル燃料はB100、B95、B90、B85、B80、B75、B70、B65、B60、B55、B50、B45、B40、B35、B30、B25、B20、B15、B10、B8、B6、B5、B4、B3、B2又はB1を含む。好ましくは、バイオディーゼル燃料はB50表示以下、更に好ましくはB5〜B40、更に好ましくはB5〜B40、最も好ましくはB5〜B20を含む。
【0040】
補助添加剤
潤滑油組成物は無灰分散剤、金属洗剤、腐食抑制剤、酸化防止剤、流動点降下剤、耐磨耗剤、摩擦改質剤、解乳化剤、消泡剤及び粘度改質剤から選ばれた、添加剤成分(B) 以外の、少量の一種以上の補助添加剤を更に含むことが好ましい。
添加剤成分(B)と異なる、また存在してもよい補助添加剤が、代表的な有効量とともに、以下にリストされる。リストされた全ての値は活性成分質量%として記述される。
添加剤 質量% 質量%
(広い範囲) (好ましい範囲)
無灰分散剤 0.1-20 1-8
金属洗剤 0.1-15 0.2-9
摩擦改質剤 0-5 0-1.5
腐食抑制剤 0-5 0-1.5
金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート 0-10 0-4
酸化防止剤 0-5 0.01-3
流動点降下剤 0.01-5 0.01-1.5
消泡剤 0-5 0.001-0.15
補充耐磨耗剤 0-5 0-2
粘度改質剤(1) 0-6 0.01-4
鉱物又は合成ベースオイル 残部 残部
(1) 粘度改質剤はマルチグレードオイル中でのみ使用される。
典型的には添加剤又は夫々の添加剤をベースオイルにブレンドすることによりつくられた、最終潤滑油組成物は5質量%から25質量%まで、好ましくは5〜18質量%、典型的には7〜15質量%の補助添加剤を含んでもよく、残部は潤滑粘度の油である。
上記補助添加剤が以下のように更に詳しく説明される。当業界で知られているように、或る種の添加剤は多くの効果を与えることができ、例えば、単一添加剤が分散剤及び酸化抑制剤として作用し得る。
【0041】
分散剤はその主たる機能が固体及び液体の汚染物を懸濁して保持し、それによりそれらを不動態化し、エンジン付着物を減少すると同時にスラッジ付着物を減少する添加剤である。例えば、分散剤は潤滑剤の使用中に酸化から生じる油不溶性物質を懸濁して維持し、こうしてスラッジ凝集及びエンジンの金属部分上の沈殿又は付着を防止する。
分散剤は、上記のように、通常“無灰”であり、金属を含み、それ故、灰を形成する物質とは対照的に、燃焼時に灰を実質的に形成しない非金属有機物質である。それらは極性頭部を有する長い炭化水素長鎖を含み、その極性は、例えば、O原子、P原子、又はN原子の組み込みから誘導される。その炭化水素は、例えば、40〜500個の炭素原子を有する、油溶性を与える親油性基である。こうして、無灰分散剤は油溶性ポリマー主鎖を含んでもよい。
オレフィンポリマーの好ましいクラスは、ポリブテン、特に、例えば、C4製油所流の重合により調製し得るような、ポリイソブテン(PIB)又はポリ-n-ブテンにより構成される。
分散剤として、例えば、長鎖炭化水素置換カルボン酸の誘導体が挙げられ、例は高分子量ヒドロカルビル置換コハク酸の誘導体である。分散剤の注目に値するグループは、例えば、上記酸(又は誘導体)を窒素含有化合物、有利にはポリアルキレンポリアミン、例えば、ポリエチレンポリアミンと反応させることによりつくられた、炭化水素置換スクシンイミドにより構成される。ポリアルキレンポリアミンとアルケニル無水コハク酸の反応生成物、例えば、米国特許第3,202,678号、同第3,154,560号、同第3,172,892号、同第3,024,195号、同第3,024,237号、同第3,219,666号、及び同第3,216,936号に記載されたものが特に好ましく、それらはそれらの性質を改良するために、後処理、例えば、ホウ化(米国特許第3,087,936号及び同第3,254,025号に記載されたような)、フッ素化そしてオキシル化されてもよい。例えば、ホウ化はアシル窒素含有分散剤をホウ素酸化物、ホウ素ハロゲン化物、ホウ素酸及びホウ素酸のエステルから選ばれたホウ素化合物で処理することにより達成されてもよい。
潤滑油組成物は油溶性ホウ素含有化合物、特にホウ化分散剤を含むことが好ましい。ホウ化分散剤は無灰窒素含有ホウ化分散剤、例えば、ホウ化ポリアルケニルスクシンイミド、特にホウ化ポリイソブテニルスクシンイミドを含むことが好ましい。
【0042】
洗剤はエンジン中の、ピストン付着物、例えば、高温ワニス付着物及びラッカー付着物の生成を減少する添加剤である。それは通常酸中和特性を有し、微細な固体を懸濁して保つことができる。殆どの洗剤は金属“石鹸”をベースとし、これは酸性有機化合物の金属塩である。
洗剤は一般に長い疎水性尾部とともに極性頭部を含み、その極性頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は実質的に化学量論量の金属を含んでもよく、その場合にはそれらは通常又は中性の塩として通常記載され、典型的には0から80までの全アルカリ価即ちTBN(ASTM D2896により測定し得る)を有するであろう。多量の金属塩基が過剰の金属化合物、例えば、酸化物又は水酸化物と酸性ガス、例えば、二酸化炭素の反応により含まれる。得られる過塩基化(overbased)洗剤は金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として中和された洗剤を含む。このような過塩基化洗剤は150以上、典型的には250から500以上までのTBNを有してもよい。
使用し得る洗剤として、金属、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムの油溶性の中性また過塩基化されたスルホン酸塩、フェネート、硫化フェネート、チオホスホン酸塩、サリチル酸塩、及びナフテン酸塩並びにその他の油溶性カルボン酸塩が挙げられる。最も普通に使用される金属はカルシウム及びマグネシウムであり、これらは両方とも潤滑剤中に使用される洗剤中に、またカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムの混合物中に存在してもよい。
特に好ましい金属洗剤は50から450までのTBN、好ましくは50〜250のTBNを有する中性及び過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチル酸塩である。高度に好ましいサリチル酸塩として、アルカリ土類金属サリチル酸塩、特にサリチル酸マグネシウム及びサリチル酸カルシウム、特にサリチル酸カルシウムが挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチル酸塩洗剤が潤滑油組成物中の唯一の洗剤であることが好ましい。
【0043】
摩擦改質剤として、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、グリセリルモノ-オレエート;長鎖ポリカルボン酸とジオールのエステル、例えば、2量体化された不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;並びにアルコキシル化アルキル置換モノ-アミン、ジアミン及びアルキルエーテルアミン、例えば、エトキシル化牛脂アミン及びエトキシル化牛脂エーテルアミンが挙げられる。
その他の既知の摩擦改質剤は油溶性有機モリブデン化合物を含む。このような有機モリブデン摩擦改質剤はまた潤滑油組成物に酸化防止信用及び耐磨耗信用を与える。好適な油溶性有機モリブデン化合物はモリブデン-硫黄コアーを有する。例として、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、スルフィド、及びこれらの混合物が挙げられる。モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート及びアルキルチオキサンテートが特に好ましい。モリブデン化合物は2核又は3核である。
本発明の全ての局面に有益な好ましい有機モリブデン化合物の一つのクラスは式Mo3SkLnQzの3核モリブデン化合物及びこれらの混合物であり、式中、Lはその化合物を油に可溶性又は分散性にするのに充分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立に選ばれたリガンドであり、nは1から4までであり、kは4から7まで変化し、Qは中性電子供与性化合物、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルのグループから選ばれ、かつzは0から5までの範囲であり、非化学量論値を含む。少なくとも21個の合計炭素原子、例えば、少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が全てのリガンドの有機基中に存在すべきである。
モリブデン化合物は0.1〜2質量%の濃度で潤滑油組成物中に存在してもよく、又は少なくとも10ppm(質量基準)、例えば、50〜2,000ppmのモリブデン原子を与える。
モリブデン化合物からのモリブデンは潤滑油組成物の合計質量を基準として10ppmから1500ppmまで、例えば、20〜1000ppm、更に好ましくは30〜750ppmの量で存在することが好ましい。或る適用について、モリブデンが500ppmより大きい量で存在する。
【0044】
酸化防止剤は酸化抑制剤と時折称される。それらは酸化に対する組成物の耐性を増大し、過酸化物と化合し、変性してそれらを無害にすることにより、過酸化物を分解することにより、又は酸化触媒を不活性にすることにより作用し得る。酸化劣化は潤滑剤中のスラッジ、金属表面上のワニスのような付着物、及び増粘により証明し得る。
それらは遊離基脱除剤(例えば、立体障害フェノール、二級芳香族アミン、及び有機銅塩);ヒドロペルオキシド分解剤(例えば、有機硫黄添加剤及び有機リン添加剤);及び多機能剤(例えば、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(これらはまた耐磨耗添加剤として機能し得る)、及び有機モリブデン化合物(これらはまた摩擦改質剤及び耐磨耗添加剤として機能し得る))として分類し得る。
好適な酸化防止の例は銅含有酸化防止剤、硫黄含有酸化防止剤、芳香族アミン含有酸化防止剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、ジチオホスフェート誘導体、金属チオカルバメート、及びモリブデン含有化合物から選ばれる。好ましい酸化防止剤は芳香族アミン含有酸化防止剤、モリブデン含有化合物及びこれらの混合物、特に芳香族アミン含有酸化防止剤である。酸化防止剤が潤滑油組成物中に存在することが好ましい。
耐磨耗剤は摩擦及び過度の磨耗を減少し、通常硫黄もしくはリン又はその両方を含む化合物、例えば、多硫化物フィルムを関係する表面に付着することができる化合物をベースとする。金属がアルカリ金属又はアルカリ土類金属、或いはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、又は好ましくは、亜鉛であってもよいジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩が注目に値する。
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は既知の技術に従って最初に通常一種以上のアルコール又はフェノールとP2S5との反応により、ジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を生成し、次いで生成されたDDPAを金属化合物で中和することにより調製されてもよい。例えば、ジチオリン酸は一級アルコールと二級アルコールの混合物を反応させることによりつくられてもよい。また、一方のヒドロカルビル基が特性上完全に二級であり、かつ他方のヒドロカルビル基が特性上完全に一級である場合、多種のジチオリン酸が調製し得る。金属塩をつくるために、あらゆる塩基性又は中性金属化合物が使用し得るが、酸化物、水酸化物及び炭酸塩が殆ど一般に使用される。市販の添加剤は中和反応中の過剰の塩基性金属化合物の使用のために過剰の金属を頻繁に含む。
好ましいジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩はジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩である亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(ZDDP)であり、下記の式により表し得る。
【0045】
【化8】

【0046】
式中、R1及びR2は1個から18個まで、好ましくは2〜12個の炭素原子を含み、かつアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルカリール基及び脂環式基の如き基を含む同じ又は異なるヒドロカルビル基であってもよい。2〜8個の炭素原子のアルキル基、特に一級アルキル基(即ち、R1及びR2が主として一級アルコールから誘導される)がR1基及びR2基として特に好ましい。こうして、これらの基は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであってもよい。油溶性を得るために、ジチオリン酸中の炭素原子の合計数(即ち、R1及びR2)は一般に約5個以上であろう。亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェートは亜鉛ジアルキルジチオホスフェートを含むことが好ましい。
潤滑剤組成物は0.02〜0.10質量%、好ましくは0.02〜0.09質量%、好ましくは0.02〜0.08質量%、更に好ましくは0.02〜0.06質量%のリンを組成物に導入する量のジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩を含むことが好ましい。
潤滑油組成物に導入されるリンの量を0.10質量%以下に制限するために、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は潤滑油組成物の合計質量を基準として、1.1〜1.3質量%(a.i.)以下の量で潤滑油組成物に添加されることが好ましい。
無灰耐磨耗剤の例として、1,2,3-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、硫化脂肪酸エステル、及びジチオカルバメート誘導体が挙げられる。
【0047】
錆及び腐食抑制剤は表面を錆及び/又は腐食に対して保護するのに利用できる。錆抑制剤として、ノニオン性ポリオキシアルキレンポリオール及びこれらのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、チアジアゾール並びに陰イオン性アルキルスルホン酸が挙げられる。
流動点降下剤(それ以外に、潤滑油流動性改良剤として知られている)は、油が流れ、又は注入し得る最低温度を低下する。このような添加剤は公知である。これらの添加剤の典型例はC8-C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー及びポリアルキルメタクリレートである。
ポリシロキサン型の添加剤、例えば、シリコーンオイル又はポリジメチルシロキサンは発泡制御を与え得る。
少量の解乳化成分が使用されてもよい。好ましい解乳化成分がEP-A-330,522に記載されている。それはアルキレンオキサイドをビス-エポキシドと多価アルコールの反応により得られた付加物と反応させることにより得られる。解乳化剤は活性成分0.1質量%を超えないレベルで使用されるべきである。活性成分0.001〜0.05質量%の処理率が好都合である。
【0048】
粘度改質剤(又は粘度指数改良剤)は高温及び低温作動性を潤滑油に付与する。分散剤としてまた機能する粘度改質剤がまた知られており、無灰分散剤について上記されたように調製されてもよい。一般に、これらの分散剤粘度改質剤は官能化ポリマー(例えば、無水マレイン酸の如き活性モノマーで後グラフトされたエチレン-プロピレンのインターポリマー)であり、これらがその後に、例えば、アルコール又はアミンで誘導体化される。
潤滑剤は通常の粘度改質剤を配合されてもよく、また配合されなくてもよく、また分散剤粘度改質剤を配合されてもよく、また配合されなくてもよい。粘度改質剤としての使用に適した化合物は一般に高分子量炭化水素ポリマー(ポリスチレンを含む)である。油溶性粘度改質ポリマーは一般に10,000から1,000,000まで、好ましくは20,000〜500,000の重量平均分子量を有し、これはゲル透過クロマトグラフィー又は光散乱により測定し得る。
添加剤はあらゆる便利な方法で潤滑粘度の油(また、ベースオイルとして知られている)に混入されてもよい。こうして、夫々の添加剤がそれを濃度の所望のレベルで油に分散又は溶解することにより油に直接添加し得る。このようなブレンドは周囲温度又は高温で起こり得る。典型的には、添加剤がベースオイルとの混合物として利用でき、その結果、その取扱が一層容易である。
多種の添加剤が使用される場合、添加剤及び希釈剤(これはベースオイルであってもよい)を含む一種以上の添加剤パッケージ(また、添加剤組成物又は濃厚物として知られている)を調製することが望ましいかもしれないが、必須ではなく、それにより、添加剤(粘度改質剤、多機能性粘度改質剤及び流動点降下剤を除く)がベースオイルに同時に添加されて潤滑油組成物を生成し得る。潤滑粘度の油への一種以上の添加剤パッケージの溶解は希釈剤又は溶媒により、また軽度の加熱と伴なわれた混合により促進されるかもしれないが、これは必須ではない。一種以上の添加剤パッケージが前もって決められた量の潤滑粘度の油と合わされる場合、一種以上の添加剤パッケージは典型的には最終配合物中の所望の濃度を与えるのに適当な量の一種以上の添加剤を含むように配合されるであろう。こうして、一種以上の洗剤がその他の望ましい添加剤と一緒に少量のベースオイル又はその他の相溶性溶媒(例えば、キャリヤーオイル又は希釈剤オイル)に添加されて添加剤パッケージの質量を基準として、(適当な比率の活性成分基準で)2.5質量%から90質量%まで、好ましくは5質量%から75質量%まで、最も好ましくは8質量%から60質量%までの添加剤を含む添加剤パッケージを生成し得る。最終配合物は典型的には5〜40質量%の一種以上の添加剤パッケージを含み、残部は潤滑粘度の油である。
【実施例】
【0049】
今、本発明が下記の実施例(これらは特許請求の範囲を限定することを意図していない)に特別に記載される。
酸化安定性:熱表面酸化試験
潤滑油組成物の酸化誘導時間(OIT)を圧力示差走査熱量計(PDSC)により測定する熱表面酸化試験を使用して、酸化安定性を測定する。
潤滑油組成物の測定サンプル(3mg)を圧力示差走査熱量計(Netzsch 204 HPDSC)の試験セルに入れ、セルをきれいな乾燥空気で7.0kg/cm2(100psi)に加圧する。次いで210℃の等温試験温度に達するまでセルを40℃/分の速度で加熱し、サンプルを最大240分にわたってこの温度に維持する。熱量計がOIT、即ち、サンプルが酸化するのに要した時間の値を示す。一層大きいOITはサンプルが一層小さいOITを有するサンプルよりも酸化に対して安定であることを示す。
特に明記しない限り、実施例に記載された添加剤の全てが潤滑剤添加剤会社、例えば、Infineum UK Ltd、Lubrizol Corporation及びAfton Chemicals Corporationから標準添加剤として入手し得る。
実施例
【0050】
表1に詳述された、一連の5W-30マルチグレード潤滑油組成物(0.08%のP)を、グループIII原料油を過塩基化スルホン酸カルシウム洗剤(TBN 310)、過塩基化カルシウムフェネート洗剤(TBN 150)、非ホウ化ポリイソブチレン誘導分散剤、ZDDP、アミン系酸化防止剤及び粘度改質剤濃厚物(インフィネウムSV201TM)を含む既知の添加剤と混合することにより調製した。比較潤滑剤1は本明細書で特定された油溶性添加剤成分(B) を含まず、一方、潤滑剤1は2-(2-ナフトキシ)-アルコール、アルデヒド及びアシル化剤の反応から誘導された油溶性添加剤成分B(Infineum UK Ltdから入手し得るインフィネウムC9290TM−3質量%(これは1.2質量%活性成分に相当する))を含んでいた。夫々の潤滑剤についての酸化誘導時間を(a)バイオディーゼル燃料の不在下、及び(b)10%B50バイオディーゼル燃料の存在下で測定した。結果をまた表1に詳述する。
表1
【0051】
【表2】

【0052】
結果は潤滑剤(比較潤滑剤1及び潤滑剤1)の夫々が、添加剤成分Bが潤滑油組成物中に存在するか否かにかかわらず、バイオディーゼル燃料の不在下で匹敵する酸化性能を示したことを示す。しかしながら、バイオディーゼル燃料の存在下で、酸化制御は油溶性添加剤成分Bを含まない潤滑剤(比較潤滑剤1)と較べて油溶性添加剤成分Bを含む潤滑剤(潤滑剤1)につき有意に大きい。予想されたように、全ての潤滑剤についての酸化制御はバイオディーゼル燃料の不在に較べてバイオディーゼル燃料の存在下で低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 過半量の潤滑粘度の油、
(B) アシル化剤、アルキル化剤又はアリール化剤の少なくとも一種と、一般式I:
【化1】

(式中、
夫々のArは独立にアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ハロ及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれた0〜3個の置換基を有する芳香族部分を表し、
夫々のLは独立に炭素−炭素単結合又は結合基を含む結合部分であり、
夫々のYは独立に−OR1 又は式H(O(CR2R3)n)yX-の部分を表し、式中、夫々のR1 は独立にC1 〜C30 アルキル基又はアリール基を表し、夫々のXは独立に (CR4R5)z、O及びSからなる群から選ばれ、夫々のR2、R3、R4 及びR5 は独立にH、C1 〜C6 アルキル又はアリールを表し、zは1〜10であり、nはXが(CR4R5)z である場合に0〜10であり、但し、nが0である場合にはyが1であることを条件とし、nはXがO又はSである場合に2〜10であり、かつyは1〜30であり、夫々のaは独立に0〜3であり、但し、少なくとも一つのAr部分が式H(O(CR2R3)n)yX-の少なくとも一つの基Yを有することを条件とし、かつmは1〜100である)
との化合物の反応により得られる、少量の添加剤としての油溶性又は油分散性の添加剤成分(B)
を含む潤滑油組成物であって、
潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されていることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
式Iの化合物中の夫々のArが独立に多環式炭素環式芳香族部分を表し、好ましくは夫々のArがナフタレンを表す、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
式Iの化合物中の夫々のLが独立に結合基、好ましくはC1 〜C6 アルキレン結合基、特に-CH2-を表す、請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
式Iの化合物中の夫々のXがOを表す、請求項1から3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
式Iの化合物中の夫々のR2 及びR3 が同じであり、好ましくは夫々のR2 及びR3 がHを表す、請求項1から4のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
式Iの化合物中の夫々のnが独立に2〜5を表し、好ましくは夫々のnが2である、請求項1から5のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
式Iの化合物中の夫々のyが独立に1〜6を表す、請求項1から6のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
式Iの化合物中の夫々のaが独立に1〜3を表す、請求項1から7のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
式Iの化合物中の夫々のYが独立に式H(O(CR2R3)n)yX-の部分であり、好ましくは夫々のYがHOCH2CH2O-を表す、請求項1から8のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
式Iの化合物中の夫々のR1 が独立にC1 〜C10 アルキルを表し、好ましくは夫々のR1 がメチルを表す、請求項1から8のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
式Iの化合物中の少なくとも一つのAr部分が式-OR1の少なくとも一つの基Yを有し、式Iの化合物中のY基の40モル%〜60モル%が夫々独立に請求項1から10のいずれか1項記載のH(O(CR2R3)n)yX-を表し、かつ式Iの化合物中のY基の60モル%〜40モル%が夫々独立に請求項1から10のいずれか1項記載の-OR1 を表す、請求項10記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
油溶性又は油分散性添加剤成分(B) がアシル化剤、好ましくは(i) 100〜5000のMn を有するポリアルケンから誘導されたヒドロカルビルコハク酸アシル化剤、及び(ii)100〜5000のMnを有するポリアルケンから誘導されたヒドロカルビルイソシアネートの群から選ばれたアシル化剤と、請求項1から11のいずれか1項記載の式Iの化合物との反応により得られる、請求項1から11のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
(A) 過半量の潤滑粘度の油、
(B) 一般式II:
【化2】

(式中、
夫々のY’は独立に-OR1 又は式Z(O(CR2R3)n)yX-の部分を表し、夫々のZは独立にH、アシル基、ポリアシル基、ラクトンエステル基、酸エステル基、アルキル基又はアリール基を表し、かつAr、L、X、R1、R2、R3、m、n、y及びaは請求項1から8のいずれか1項記載の一般式(I) の化合物について定義されたのと同じであり、但し、少なくとも一つのAr部分が式Z(O(CR2R3)n)yX-(式中、ZはHではない)の少なくとも一つの置換基Y’を有することを条件とする)
により表される、少量の添加剤としての油溶性又は油分散性の添加剤成分(B)
を含む潤滑油組成物であって、
潤滑油組成物の合計質量を基準として、少なくとも0.3質量%のバイオ燃料又はその分解生成物及びこれらの混合物で汚染されていることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項14】
式IIの化合物中の夫々のY’が独立に式Z(O(CR2R3)n)yX-の部分であり、好ましくは夫々のY’がZOCH2CH2O-を表す、請求項13記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
式IIの化合物中の夫々のR1 が独立にC1 〜C10 アルキルを表し、好ましくは夫々のR1 がメチルを表す、請求項13記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
式IIの化合物中の少なくとも一つのAr部分が式-OR1の少なくとも一つの基Y’を有する、請求項15記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
式IIの化合物中のY’基の40モル%〜60モル%が夫々独立にZ(O(CR2R3)n)yX- を表し、かつ式IIの化合物中のY’基の60モル%〜40モル%が夫々独立に-OR1を表す、請求項16記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
夫々のZが独立にH、アシル基、ポリアシル基、ラクトンエステル基又は酸エステル基を表す、請求項13から17のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項19】
油溶性又は油分散性添加剤成分Bが潤滑油組成物の合計質量を基準として、0.1〜5質量%の量で存在する、請求項1から18のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
(A) 過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、請求項1から19のいずれか1項記載の油溶性又は油分散性の添加剤成分(B) を含む潤滑油組成物でエンジンを作動することを特徴とする、バイオ燃料で少なくとも一部燃料を供給される火花点火又は圧縮点火内燃エンジンの潤滑方法。
【請求項21】
エンジンの作動中の潤滑油組成物の酸化を低減かつ/又は抑制するための、潤滑油組成物中の、少量の、請求項1から19のいずれか1項記載の油溶性又は油分散性の添加剤成分(B)の、バイオ燃料で燃料を供給される火花点火又は圧縮点火エンジンの潤滑における使用。

【公開番号】特開2011−214005(P2011−214005A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−93469(P2011−93469)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】