説明

濾過器及び薬剤注入機

【課題】漏れ出した注入剤を含む濁水を現場で処理する。
【解決手段】地山5に沿って設けられ、上部に地山5から漏れ出す濁水7が流入する開口11bを有し下部に排水口11cが設けられた容器11と、容器11に充填された濾過材13と、を備える濾過器10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山に注入した注入剤を含む濁水を濾過する濾過器及び濾過器を備える薬剤注入機に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルにおいて、地山強度不足によるトンネル掘削断面の変形や、湧水に伴う地山崩壊を防ぐために、トンネルの切羽等において地山にセメント系固結剤等の注入剤を注入する薬液注入工法がとられることがある。
【0003】
地山に薬液を注入するには、薬液を噴射する噴射孔が設けられた注入ロッドを地山に刺し込み、ロッドを介して地山内に注入剤を噴射する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−29002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、注入剤を地山に注入した注入孔から、注入剤が地下水とともに濁水となって漏れ出すことがある。このような場合、処理プラントで濁水を処理することになる。しかし、濁水を処理プラントまで移送する配管が、濁水に含まれるセメント微粒分等の懸濁物質により目詰まりし、交換頻度が高くなるという問題があった。
【0005】
また、処理プラントにおいては、懸濁物質を沈降分離するシックナーと、沈降したスラリーを貯留する貯泥槽との間の配管内において懸濁物質が固まるという問題や、スラリーの加圧濾過を行うフィルタープレス脱水機の濾布が懸濁物質により目詰まりを起こすという問題があった。このため、配管内の清掃や濾布の交換等のメンテナンスが必要となり、コストが上昇するとともに、メンテナンスのために処理プラントを停止させることで工程が遅延するという問題があった。さらに、強アルカリのセメント微粒子を中和するための薬剤(炭酸ガス、塩酸または硫酸)の量が多くなり、コストが上昇するという問題もあった。
【0006】
本発明の課題は、漏れ出した注入剤を含む濁水を現場で処理することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、地山に沿って設けられ、上部に地山から漏れ出す濁水が流入する開口を有し下部に排水口が設けられた容器と、前記容器に充填された濾過材と、を備えることを特徴とする濾過器である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の濾過器であって、前記濾過材の上部に、前記開口より前記容器内に流入する濁水を前記濾過材に分散させる分散材をさらに備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の濾過器であって、前記濾過材の上部に、濁水の衝撃を吸収する緩衝材をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の濾過器であって、前記開口の地山側の縁部には、地山に沿って流れる濁水を開口内に誘導する誘導材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の濾過器と、地山に挿入されて注入剤を地山に注入する注入ロッドと、前記濾過器を保持し、前記注入ロッドの地山への挿入部の下方に前記濾過器を配置させるアームと、を備えることを特徴とする薬剤注入機である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、漏れ出した注入剤を含む濁水を現場で処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0014】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態に係る濾過器10が適用されるトンネル1の切羽2部を示す模式図である。図1に示すように、トンネル1の切羽2から湧水6が生じており、トンネル1の下部に土嚢4を積んで湧水6を図示しない配管に案内し、図示しない処理プラントまで移送している。
【0015】
図1において、湧水6が生じているトンネル1の切羽2にセメント系固結剤等の注入剤を地山5に注入する薬剤注入機20が配置されている。薬剤注入機20は注入ロッド21を有しており、切羽2に注入ロッド21を挿入して注入剤を地山5に注入する。
【0016】
切羽2の注入ロッド21が挿入された注入孔3から、注入剤が地下水とともに濁水7となって漏れ出すことがある。本実施の形態では、この漏れ出した濁水7から注入剤を除去する濾過器10を切羽2に設けている。
【0017】
図2は濾過器10を示す斜視図であり、図3は濾過器10の平面図、図4は図3のIV−IV矢視断面図である。濾過器10は、図2〜図4に示すように、容器11と、密着材12と、濾過材13と、緩衝材15と、を備え、注入孔3の下部に配置される。
【0018】
容器11は半円筒形の側壁11aを有し、上部に開口11bを有するとともに、底部に排水口11cを有する。側壁11aの平坦な部分が切羽2に沿って配置され、その上端部が密着材12により切羽2と密着されている。このため、切羽2に沿って流れる濁水7を容器11内に流入させることができる。
密着材12としては、例えばゴム等の弾性材を用いることができる。
【0019】
容器11内には、濾過材13が充填されている。濾過材13は濁水7中に含まれる固結材を捕捉するものである。濾過材13としては、例えば砂、伐採根、伐採材、または伐採根や伐採材を炭化処理した炭等を用いることができる。
【0020】
濾過材13の上部には、分散材14が載置されている。分散材14は、多くの貫通孔14aが設けられた板材であり、容器11内に落ちる濁水7により濾過材13が掘削されるのを防止するとともに、貫通孔14aから濁水を濾過材13全体に分散させる役割を果たす。これにより濾過の片寄りを防止し濾過材13による濾過を効率的に行うことができる。
分散材14としては、例えばアクリル板等を用いることができる。
【0021】
分散材14の上部には、緩衝材15が配置されている。緩衝材15はスポンジ状であり、切羽2の注入孔3から噴き出した濁水7が容器11内に落ちたときの衝撃を吸収し、濁水7が濾過材13に直接当たるのを防ぎ濾過材13の洗掘や濁水の飛散を抑える役割を果たす。緩衝材15としては、例えばウレタン製のスポンジ等を用いることができる。
【0022】
濾過器10を切羽2に固定するには、例えば図5に示すように、切羽2の注入孔3よりも下部にロックボルトや鉄筋等のアンカー31を複数本打ち込み、次いで複数のアンカー31間にH鋼等の支持材32を渡し、支持材32の上に濾過器10を載置する方法がある。
【0023】
また、切羽2の注入孔3よりも上部にロックボルトや鉄筋等のアンカー31を打ち込み、アンカー31からワイヤー等の吊下材33で濾過器10を吊り下げることで、濾過器10を切羽2の注入孔3の下部に固定してもよい。
【0024】
あるいは、図6に示すように、切羽2の注入孔3よりも上部にロックボルトや鉄筋等のアンカー31を複数本打ち込み、次いで複数のアンカー31間にH鋼等の支持材32を渡し、支持材32からワイヤー等の吊下材33で濾過器10を吊り下げることで、濾過器10を切羽2の注入孔3の下部に固定することができる。
【0025】
次に、濾過器10による濁水7の濾過について説明する。
まず、切羽2の注入孔3から噴き出す濁水7が容器11内に落ちる。あるいは、切羽2に沿って流れ落ち、密着材12により切羽2に密着された容器11内に流入する。
【0026】
容器11内に入った濁水7は、緩衝材15により衝撃を吸収された後、濾過材13による濾過を効率的に行うため、分散材14の貫通孔14aを通って濾過材13全体に分散される。
その後、濁水7は濾過材13を通過する過程で注入剤が捕捉される。濁水7から注入剤が除去された処理水8は、排水口11cより排出される。
【0027】
排出された処理水8は、その後、湧水6とともに図示しない配管により案内され、図示しない処理プラントまで移送される。なお、濾過器10で処理された処理水8中にも僅かに注入剤が含まれていると考えられるが、そのほとんどが除去されているため、濁水7を処理プラントまで移送する配管の目詰まりをなくすことができる。
【0028】
また、処理プラントにおいても、シックナーや、シックナーと貯泥槽との間の配管内において注入剤が固まることや、フィルタープレス脱水機の濾布の目詰まりを減らすことができるため、メンテナンスコストを低減することができる。さらに、中和剤の量を減らし、コストを低減することができる。
【0029】
〔変形例〕
図7は本発明の変形例に係る濾過器110及び薬剤注入機120を示す模式図である。上記実施形態においては、濾過器10を切羽2に固定したが、本変形例においては、図7に示すように、先端に濾過器110を取り付けられたアーム122を薬剤注入機120に設け、アーム122を動かすことで切羽2の濁水7が漏れ出す場所の下部に濾過器110を配置させている。
【0030】
本実施形態においては、濾過器110を薬剤注入機120のアーム122に設けて可動式とすることで、切羽2に固定する作業が不要となり、より早期に濁水7の処理を開始することができる。
【0031】
すなわち、薬剤注入機120を駆動して地山5に注入剤を注入するために、注入ロッド121を切羽2に挿入すると、切羽2に注入孔3が形成される。そこで、薬剤注入機120のアーム122を動作させて濾過器110を注入孔3の下部に配置させることで、注入孔3から漏出する濁水7を濾過器110で受け止めることができる。
【0032】
〔第2実施形態〕
図8は本発明の第2実施形態に係る濾過器210を示す斜視図であり、図9は図8のIX−IX矢視断面図である。本実施形態に係る濾過器210は、容器211と、誘導材212と、濾過材213と、分散材214と、緩衝材215と、を備え、トンネル1の切羽2の下部に設置されている。
【0033】
容器211は、トンネル1の左右方向に長尺な矩形状の箱であり、左右方向の幅は切羽2の幅にほぼ等しい。
容器211の切羽2と反対側の下部には排水口211cが設けられている。
【0034】
誘導材212は、釘212a等により切羽2に取り付けられ、切羽2に沿って流れる濁水7を容器11内に誘導する。誘導材212としては、例えばゴムシート等を用いることができる。
濾過材213、分散材214、緩衝材215については、第1実施形態の濾過材13、分散材14、緩衝材15と同様であるので、説明を割愛する。
【0035】
本実施形態においても、濾過器210で濁水7を濾過することで注入剤を除去することができる。また、濾過器210をトンネル1の切羽2の下部に設置するため、濾過器210を切羽2に固定する作業が不要となり、より早期に濁水7の処理を開始することができる。さらに、容器211の左右方向の幅が切羽2の幅にほぼ等しいため、濁水7の切羽2から流出する位置によらず、濁水7を処理することができる。
【0036】
なお、以上の実施形態においては、切羽2から濁水が漏れ出した場合に説明したが、本発明はこれに限らず、注入剤を注入した地山から濁水が漏れ出す位置であれば、濾過器を設ける位置は任意である。例えば既設トンネルの覆工に注入孔を設けてトンネル背面に注入剤を注入した場合には、注入孔の下部の覆工に沿ってトンネルの内側に濾過器を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明が適用されるトンネル1の切羽2近傍を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る濾過器10を示す斜視図である。
【図3】濾過器10の平面図である。
【図4】図3のIV−IV矢視断面図である。
【図5】濾過器10を切羽2に固定する方法を示す断面図である。
【図6】濾過器10を切羽2に固定する方法を示す断面図である。
【図7】本発明の変形例に係る濾過器110及び薬剤注入機120を示す模式図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る濾過器210を示す斜視図である。
【図9】図8のIX−IX矢視断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 トンネル
2 切羽
3 注入孔
4 土嚢
5 地山
6 湧水
7 濁水
8 処理水
10,110,210 濾過器
11,211 容器
11a 側壁
11b 開口
11c,211c 排水口
13,213 濾過材
14,214 分散材
15,215 緩衝材
20,120 薬剤注入機
21,121 注入ロッド
122 アーム
212 誘導材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に沿って設けられ、上部に地山から漏れ出す濁水が流入する開口を有し下部に排水口が設けられた容器と、
前記容器に充填された濾過材と、を備えることを特徴とする濾過器。
【請求項2】
前記濾過材の上部に、前記開口より前記容器内に流入する濁水を前記濾過材に分散させる分散材をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の濾過器。
【請求項3】
前記濾過材の上部に、濁水の衝撃を吸収する緩衝材をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の濾過器。
【請求項4】
前記開口の地山側の縁部には、地山に沿って流れる濁水を開口内に誘導する誘導材が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の濾過器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の濾過器と、
地山に挿入されて注入剤を地山に注入する注入ロッドと、
前記濾過器を保持し、前記注入ロッドの地山への挿入部の下方に前記濾過器を配置させるアームと、を備えることを特徴とする薬剤注入機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−240359(P2008−240359A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82364(P2007−82364)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【Fターム(参考)】