説明

火災感知器

【課題】音源部と受波素子との間の監視空間における超音波の減衰量に基づいて火災の有無を判別する構成において、SN比を向上させた火災感知器を提供する。
【解決手段】超音波を送波可能な音源部1と、音源部1を制御する制御部と、音源部1から送波された超音波の音圧を検出する受波素子3と、受波素子3の出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部とを備える。信号処理部は、受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて音源部1と受波素子3との間の監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段と、煙濃度推定手段にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段とを有する。制御部は、音源部1と受波素子3との間の距離に基づく共振周波数の超音波を音源部1から送波させるように音源部1を制御し、音源部1と受波素子3との間で共振を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災感知器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、火災時などに発生する煙を感知する火災感知器として、散乱光式煙感知器(たとえば特許文献1参照)や、減光式煙感知器(たとえば特許文献2参照)が知られている。ここにおいて、散乱光式煙感知器は、発光ダイオード素子よりなる投光素子から監視空間に照射された光の煙粒子による散乱光をフォトダイオードよりなる受光素子で受光するように構成されたものであり、監視空間に煙粒子が存在すれば散乱光が生じることによって受光素子での受光量が増大するから、受光素子での受光量の増加量に基づいて煙粒子の存否を検知できる。一方、減光式煙感知器は、投光素子から照射された光を受光素子により直接受光するように構成されたものであり、投光素子と受光素子との間の監視空間に煙粒子が存在すれば受光素子の受光量が減少するから、受光素子での受光量の減光量に基づいて煙粒子の存否を検知できる。
【0003】
ところで、散乱光式煙感知器は、迷光対策としてラビリンス体を設ける必要があるので、空気の流れが少ない場合には、火災発生時に監視空間へ煙粒子が侵入するまでの時間が長くなり、応答性に問題があった。また、減光式煙感知器においては、火災が発生していないにもかかわらずバックグランド光の影響で発報してしまう(非火災報が発生してしまう)ことがあるという問題があった。また、分離型の減光式煙感知器は、投光素子と受光素子との光軸を高精度に軸合わせする必要があり、施工に手間がかかるという問題があった。
【特許文献1】特開2001−34862号公報
【特許文献2】特開昭61−33595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した光電式の火災感知器の問題点を解決するために、本願出願人は、超音波を用いて煙の存否を検知する火災感知器を提案している(図2参照)。
【0005】
この火災感知器は、超音波を送波可能な音源部1と、音源部1を制御する制御部2と音源部1から送波された超音波の音圧を検出する受波素子3と、受波素子3の出力に基づいて火災の有無を判別する信号処理部4とを備える。信号処理部4は、受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて音源部1と受波素子3との間の監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段41と、推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段42とを有する。すなわち、受波素子3の出力の減衰量は監視空間の煙濃度に略比例して増加するので、この減衰量に基づき煙濃度を推定することで、火災の有無を判断することができる。
【0006】
この超音波式の火災感知器では、光電式の火災感知器で問題となるバックグランド光の影響をなくすことができ、散乱光式煙感知器に必要なラビリンス体を不要とすることができて火災発生時に監視空間へ煙粒子が拡散しやすくなるから、散乱光式煙感知器に比べて応答性を向上でき、また、減光式煙感知器に比べて非火災報の低減が可能になる。
【0007】
ところで、上述した超音波式の火災感知器においては、煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量(つまり受波素子3での受波音圧の変化量)を極力大きくするために、音源部1への供給電力を音源部1が損傷しない範囲内で大きくし音源部1から送波される超音波の音圧を大きくすること等が考えられる。
【0008】
しかし、音源部1から送波される超音波の音圧を大きくしても、音源部1と受波素子3との間で超音波が拡散することによって、監視空間中の煙粒子の存否に関係なく受波素子3で受波される超音波の音圧は低下する。その結果、煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量は比較的小さくなり、SN比が小さくなるという問題がある。
【0009】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、音源部と受波素子との間の監視空間における超音波の減衰量に基づいて火災の有無を判別する構成において、SN比を向上させた火災感知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明では、超音波を送波可能な音源部と、音源部を制御する制御部と、音源部から送波された超音波の音圧を検出する受波素子と、受波素子の出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部とを備え、信号処理部は、受波素子の出力の基準値からの減衰量に基づいて音源部と受波素子との間の監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段と、煙濃度推定手段にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段とを有し、制御部は、音源部から送波され受波素子で受波される超音波の伝搬距離に基づく共振周波数の超音波を、少なくとも音源部から受波素子に超音波が伝搬するのに要する伝搬時間よりも長い送波時間に亘って連続的に音源部から送波させるように音源部を制御することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、制御部は、音源部から送波され受波素子で受波される超音波の伝搬距離に基づく共振周波数の超音波を、少なくとも音源部から受波素子に超音波が伝搬するのに要する伝搬時間よりも長い送波時間に亘って連続的に音源部から送波させるように音源部を制御するので、音源部と受波素子との間で共振が発生し超音波の音圧が増大する。したがって、監視空間中に煙粒子がない状態において受波素子で受波される超音波の音圧を高く維持でき、煙濃度の変化量に対する受波素子の出力の変化量が比較的大きくなり、SN比が向上するという利点がある。また、共振により音源部あるいは受波素子で反射した超音波においては、実効的な送波距離が反射の回数に応じて延長され、煙濃度の変化量に対する受波素子の出力の変化量がより一層大きくなる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記音源部が周波数の異なる複数種の超音波を送波可能であって、前記信号処理部が、前記監視空間に存在する浮遊粒子の種別および煙濃度に応じた前記音源部の出力周波数と前記受波素子の出力の基準値からの減衰量との関係データを記憶した記憶手段と、前記音源部から送波された各周波数の超音波ごとの前記受波素子の出力と記憶手段に記憶されている関係データとを用いて前記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定する粒子種別推定手段とを有し、前記煙濃度推定手段が、粒子種別推定手段にて推定された粒子が煙粒子のときに特定周波数の超音波に対する前記受波素子の出力の基準値からの減衰量に基づいて前記監視空間の煙濃度を推定することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、信号処理部では、粒子種別推定手段において、音源部から送波された各周波数の超音波ごとの受波素子の出力と記憶手段に記憶されている関係データとを用いて監視空間に浮遊している粒子の種別を推定し、粒子種別推定手段にて推定された粒子が煙粒子のときに、煙濃度推定手段において、特定周波数の超音波に対する受波素子の出力の基準値からの減衰量に基づいて監視空間の煙濃度を推定するので、粒子種別識別手段において監視空間に浮遊している粒子の種別を推定することで、たとえば煙粒子と湯気とを識別可能となるから、散乱光式煙感知器および減光式煙感知器に比べて湯気に起因した非火災報を低減することが可能となり、台所や浴室での使用にも適する。
【0014】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記記憶手段は、前記関係データとして前記音源部の出力周波数と前記受波素子の出力の基準値からの減衰量を基準値で除した減衰率との関係データを記憶していることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記音源部の出力周波数に応じて前記受波素子の出力の基準値が変動する場合でも、前記音源部の出力周波数と基準値の変動の影響が除去された減衰率との関係データを用いることにより、基準値の変動の影響を受けずに前記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定することができる。
【0016】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、前記音源部が前記複数種の超音波を送波可能な単一の音波発生素子からなり、前記制御部が音波発生素子から複数種の超音波が順次送波されるように前記音源部を制御することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、各種の超音波を送波可能な音波発生素子を複数個備える場合に比べて、音源部の小型化、低コスト化が可能となる。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明において、前記音源部が、発熱体部への通電に伴う発熱体部の温度変化により空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生するものであることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、音源部は平坦な周波数特性を有しており、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができる。
【0020】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記音源部が、ベース基板の一表面側に前記発熱体部が形成されるとともに、ベース基板の前記一表面側で前記発熱体部とベース基板との間に設けられて前記発熱体部とベース基板とを熱絶縁する多孔質層からなる熱絶縁層を有してなることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、熱絶縁層が多孔質層からなるので、熱絶縁層が非多孔質層からなる場合に比べて、熱絶縁層の断熱性が向上して発熱体部への入力電圧に対する超音波の音圧の比が高くなり、低消費電力化を図ることができる。
【0022】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかの発明において、前記音源部と前記受波素子とが同一面に並設されており、前記音源部および前記受波素子と対向する位置には、前記音源部から送波された超音波を前記受波素子に向けて反射する反射面が形成されていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、音源部から送波された超音波は受波素子に直接波として直接到達することがなく、少なくとも一回は反射面で反射されるので、音源部と受波素子との間で共振が生じやすくなる。
【0024】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかの発明において、前記音源部から送波され前記受波素子で受波される超音波の伝搬経路上には超音波を反射する反射面が形成されており、当該反射面が、前記音源部からの超音波を前記受波素子に集音する形に湾曲した凹型の曲面からなることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、反射面において音源部からの超音波を受波素子に集音するので、超音波の拡散による音圧の低下を抑制することができ、煙濃度の変化量に対する受波素子の出力の変化量が大きくなって、SN比が向上する。
【0026】
請求項9の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれかの発明において、前記制御部が、温度変化による音速の変化に応じて前記音源部から送波する超音波の周波数を補正する周波数補正手段を有することを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、温度変化による音速の変化に起因して音源部と受波素子との間の共振周波数が変動することがあっても、音源部から送波される超音波の周波数は周波数補正手段により変動後の音源部と受波素子との間の共振周波数に補正されるので、音源部と受波素子との間において確実に共振が発生し音源部から送波された超音波の音圧が増大することになる。
【0028】
請求項10の発明は、請求項9の発明において、前記周波数補正手段が、前記音源部が超音波を送波してから当該超音波が前記受波素子に受波されるまでの時間差に基づいて求まる音速を用いて周波数を補正することを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、周波数補正手段において、音源部が超音波を送波してから当該超音波が受波素子に受波されるまでの時間差に基づいても求まる音速を用いて周波数を補正するので、音速を求める手段を別途設ける場合に比べて構成を簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、音源部と受波素子との間で超音波の共振を発生させ当該超音波の音圧を増大することができるので、監視空間中に煙粒子がない状態において受波素子で受波される超音波の音圧を高く維持でき、煙濃度の変化量に対する受波素子の出力の変化量が比較的大きくなってSN比が向上し、また、超音波の実効的な送波距離が反射の回数に応じて延長されるので、煙濃度の変化量に対する受波素子の出力の変化量がより一層大きくなるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施形態1)
本実施形態の火災感知器は、図2に示すように、超音波を送波可能な音源部1と、音源部1を制御する制御部2と、音源部1から送波された超音波の音圧を検出する受波素子3と、受波素子3の出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部4とを備えている。ここにおいて、音源部1と受波素子3とは、図3に示すように、円盤状のプリント基板からなる回路基板5の一表面側において互いに離間して対向配置されており、回路基板5に制御部2および信号処理部4が設けられている。受波素子3の周辺には、音源部1以外で発生した超音波が受波素子3に入射するのを阻止する遮音板からなる遮音壁6が設けられている。また、回路基板5の上記一表面には、音源部1から送波された超音波の反射を防止する吸音層(図示せず)が設けられているので、音源部1から送波された超音波が回路基板5で反射して受波素子3に入射するのを防止することができて、反射波の干渉を防止することができ、特に、音源部1から送波させる超音波として連続波を用いる場合に有効である。
【0032】
本実施形態では、音源部1として、後述のように空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生させる音波発生素子を用いることで、圧電素子に比べて残響時間が短い超音波を送波するようにし、且つ、受波素子3として共振特性のQ値が圧電素子に比べて十分に小さく受波信号に含まれる残響成分の発生期間が短い静電容量型のマイクロホンを用いている。
【0033】
ここにおいて、音源部1は、図4に示すように、単結晶のp形のシリコン基板からなるベース基板11の一表面(図4における上面)側に多孔質シリコン層からなる熱絶縁層(断熱層)12が形成され、熱絶縁層12の表面側に発熱体部として金属薄膜からなる発熱体層13が形成され、ベース基板11の上記一表面側に発熱体層13と電気的に接続された一対のパッド14,14が形成されている。なお、ベース基板11の平面形状は矩形状であって、熱絶縁層12、発熱体層13それぞれの平面形状も矩形状に形成してある。また、ベース基板11の上記一表面側において熱絶縁層12が形成されていない部分の表面にはシリコン酸化膜からなる絶縁膜(図示せず)が形成されている。
【0034】
上述の音源部1では、発熱体層13の両端のパッド14,14間に通電して発熱体層13に急激な温度変化を生じさせると、発熱体層13に接触している空気(媒質)に急激な温度変化(熱衝撃)が生じる(つまり、発熱体層13に接触している空気に熱衝撃が与えられる)。したがって、発熱体層13に接触している空気は、発熱体層13の温度上昇時には膨張し発熱体層13の温度下降時には収縮するから、発熱体層13への通電を適宜に制御することによって空気中を伝搬する超音波を発生させることができる。要するに、音源部1を構成する音波発生素子は、発熱体層13への通電に伴う発熱体層13の急激な温度変化を媒質の膨張収縮に変換することにより媒質を伝搬する超音波を発生する。
【0035】
上述の音源部1は、ベース基板11としてp形のシリコン基板を用いており、熱絶縁層12を多孔度が略60〜略70%の多孔質シリコン層からなる多孔質層により構成しているので、ベース基板11として用いるシリコン基板の一部をフッ化水素水溶液とエタノールとの混合液からなる電解液中で陽極酸化処理することにより熱絶縁層12となる多孔質シリコン層を形成することができる(ここで、陽極酸化処理により形成された多孔質シリコン層は、結晶粒径がナノメータオーダの微結晶シリコンからなるナノ結晶シリコンを多数含んでいる)。多孔質シリコン層は、多孔度が高くなるにつれて熱伝導率および熱容量が小さくなるので、熱絶縁層12の熱伝導率および熱容量をベース基板11の熱伝導率および熱容量に比べて小さくし、熱絶縁層12の熱伝導率と熱容量との積をベース基板11の熱伝導率と熱容量との積に比べて十分に小さくすることにより、発熱体層13の温度変化を空気に効率よく伝達することができ発熱体層13と空気との間で効率的な熱交換が起こり、且つ、ベース基板11が熱絶縁層12からの熱を効率よく受け取って熱絶縁層12の熱を逃がすことができて発熱体層13からの熱が熱絶縁層12に蓄積されるのを防止することができる。なお、熱伝導率が148W/(m・K)、熱容量が1.63×10J/(m・K)の単結晶のシリコン基板を陽極酸化して形成される多孔度が60%の多孔質シリコン層は、熱伝導率が1W/(m・K)、熱容量が0.7×10J/(m・K)であることが知られている。本実施形態では、熱絶縁層12を多孔度が略70%の多孔質シリコン層により構成してあり、熱絶縁層12の熱伝導率が0.12W/(m・K)、熱容量が0.5×10J/(m・K)となっている。
【0036】
発熱体層13は、高融点金属の一種であるタングステンにより形成してあるが、発熱体層13の材料はタングステンに限らず、たとえば、タンタル、モリブデン、イリジウム、アルミニウムなどを採用してもよい。また、上述の音源部1では、ベース基板11の厚さを300〜700μm、熱絶縁層12の厚さを1〜10μm、発熱体層13の厚さを20〜100nm、各パッド14の厚さを0.5μmとしてあるが、これらの厚さは一例であって特に限定するものではない。また、ベース基板11の材料としてSiを採用しているが、ベース基板11の材料はSiに限らず、たとえば、Ge、SiC、GaP、GaAs、InPなどの陽極酸化処理による多孔質化が可能な他の半導体材料でもよく、いずれの場合にも、ベース基板11の一部を多孔質化することで形成した多孔質層を熱絶縁層12とすることができる。
【0037】
上述のように音源部1は、一対のパッド14,14を介した発熱体層13への通電に伴う発熱体層13の温度変化に伴って超音波を発生するものであり、発熱体層13へ与える駆動電圧波形あるいは駆動電流波形からなる駆動入力波形をたとえば周波数がf1の正弦波波形とした場合、理想的には、発熱体層13で生じる温度振動の周波数が駆動入力波形の周波数f1の2倍の周波数f2となり、駆動入力波形f1の略2倍の周波数の超音波を発生させることができる。すなわち、上述の音源部1は、圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する場合に比べて、平坦な周波数特性を有しており、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができる。また、上述の音源部1では、たとえば正弦波波形の半周期の孤立波を駆動入力波形として一対のパッド14,14間へ与えることによって、残響の少ない略1周期の単パルス状の超音波を発生させることも可能である。また、音源部1は、熱絶縁層12が多孔質層により構成されているので、熱絶縁層12が非多孔質層(たとえば、SiO膜など)からなる場合に比べて、熱絶縁層12の断熱性が向上して超音波発生効率が高くなり、低消費電力化を図れる。
【0038】
音源部1を制御する制御部2は、図示していないが、音源部1に駆動入力波形を与えて音源部1を駆動する駆動回路と、当該駆動回路を制御するマイクロコンピュータからなる制御回路とで構成されている。
【0039】
また、上述の受波素子3を構成する静電容量型のマイクロホンは、図5に示すように、シリコン基板に厚み方向に貫通する窓孔31aを設けることで形成された矩形枠状のフレーム31と、フレーム31の一表面側においてフレーム31の対向する2つの辺に跨る形で配置されるカンチレバー型の受圧部32とを備えている。ここにおいて、フレーム31の一表面側には熱酸化膜35と熱酸化膜35を覆うシリコン酸化膜36とシリコン酸化膜36を覆うシリコン窒化膜37とが形成されており、受圧部32の一端部がシリコン窒化膜37を介してフレーム31に支持され、他端部が上記シリコン基板の厚み方向においてシリコン窒化膜37に対向している。また、シリコン窒化膜37における受圧部32の他端部との対向面に金属薄膜(たとえば、クロム膜など)からなる固定電極33aが形成され、受圧部32の他端部におけるシリコン窒化膜37との対向面とは反対側に金属薄膜(たとえば、クロム膜など)からなる可動電極33bが形成されている。なお、フレーム31の他表面にはシリコン窒化膜38が形成されている。また、受圧部32は、上記各シリコン窒化膜37,38とは別工程で形成されるシリコン窒化膜により構成されている。
【0040】
図5に示した構成の静電容量型のマイクロホンからなる受波素子3では、固定電極33aと可動電極33bとを電極とするコンデンサが形成されるから、受圧部32が疎密波の圧力を受けることにより固定電極33aと可動電極33bとの間の距離が変化し、固定電極33aと可動電極33bとの間の静電容量が変化する。したがって、固定電極33aおよび可動電極33bに設けたパッド(図示せず)間に直流バイアス電圧を印加しておけば、パッドの間には超音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じるから、超音波の音圧を電気信号に変換することができる。
【0041】
ところで、信号処理部4は、受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて音源部1と受波素子3との間の監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段41と、煙濃度推定手段41にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段42と、音源部1が超音波を送波してから当該超音波が受波素子3に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求める音速検出手段43と、音速検出手段43で求めた音速に基づいて上記監視空間の温度を推定する温度推定手段44と、温度推定手段44で推定された温度と規定温度とを比較して火災の有無を判断する熱式判断手段45とを有している。信号処理部4は、マイクロコンピュータにより構成されており、上記各手段41〜45は、上記マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現されている。また、信号処理部4は、受波素子3の出力信号をアナログ−ディジタル変換するA/D変換器などが設けられている。
【0042】
煙濃度推定手段41は、音源部1からの超音波の音圧を検出する受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて煙濃度を推定するものであるが、音源部1から送波される超音波の周波数が一定であれば、上記減衰量は上記監視空間の煙濃度に略比例して増加するので、あらかじめ測定した煙濃度と減衰量との関係データに基づいて煙濃度と減衰量との関係式を求めて記憶しておけば、上記関係式を用いて減衰量から煙濃度を推定することができる。また、煙式判断手段42は、煙濃度推定手段41にて推定された煙濃度が上記閾値未満の場合には「火災無し」と判断する一方で、上記閾値以上の場合には「火災有り」と判断して火災感知信号を制御部2へ出力する。ここで、制御部2は、煙式判断手段42からの火災感知信号を受信すると、音源部1から可聴域の音波からなる警報音が発生するように音源部1への駆動入力波形を制御する。したがって、音源部1から警報音を発生させることができるので、警報音を出力するスピーカなどを別途に設ける必要がなく、火災感知器全体の小型化および低コスト化が可能となる。
【0043】
また、音速検出手段43は、音源部1と受波素子3との間の距離と上記時間差とを用いて音速を求める。また、温度推定手段44は、周知の大気中の音速と絶対温度との関係式を利用して音速から上記監視空間の温度を推定する。また、熱式判断手段45は、温度推定手段44にて推定された温度が上記規定温度未満の場合には「火災無し」と判断する一方で、上記規定温度以上の場合には「火災有り」と判断して火災感知信号を制御部2へ出力する。ここで、制御部2は、熱式判断手段45からの火災感知信号を受信した場合にも、音源部1から可聴域の音波からなる警報音が発生するように音源部1への駆動入力波形を制御する。
【0044】
ところで、本実施形態では図1に示すように音源部1と受波素子3との各対向面はそれぞれ超音波を反射する第1の反射面Re1と第2の反射面Re2とを形成している。ここでは、音源部1における受波素子3との対向面が第1の反射面Re1を形成し、受波素子3における音源部1との対向面が第2の反射面Re2を形成する。この構成により、音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路は、長手方向の両端面に第1および第2の各反射面Re1,Re2を有する気柱と同様に、固有の共振周波数を有する。つまり、音源部1と受波素子3との間の距離をLとするときに、L=(n/2)×λの関係(ただし、nは自然数)を満たす波長λに対応する周波数f(波の伝搬速度をcとしてf=c/λで表される)が音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路における共振周波数となる。したがって、L=(n/2)×λの関係を満たす超音波の連続波が音源部1から送波されると、当該超音波の少なくとも一部が第2の反射面Re2で反射されて反射波(図1中に破線で示す)となり、さらにこの反射波が第1の反射面Re2で反射されて反射波となり、これらの反射波が音源部1から送波される後続の超音波と同位相で重なって共振し、時間経過に応じて前記超音波の音圧が増大する。
【0045】
そこで、本実施形態は制御部2において、音源部1と受波素子3との間の距離Lに基づく超音波の伝搬経路に固有の共振周波数の超音波を音源部1から送波させるように音源部1を制御することにより、音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路で共振を生じさせ超音波の音圧を増大させるようにしてある。この場合、音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路で共振させるために、単パルス状の超音波ではなく、L/λを超える複数周期(以下、m周期という)の超音波を音源部1から送波させる必要があるので、制御部2は、m(>L/λ)周期の超音波の連続波を音源部1から送波させるように音源部1を制御する。言い換えると、音源部1から超音波を連続して送波させる送波時間t(つまりt=m×λ/c)が、音源部1と受波素子3との間を超音波が伝搬するのに要する時間t(つまりt=L/c)よりも大きくなる(つまりt>t)ように制御部2で音源部1を制御する。これにより、音源部1から送波された超音波は少なくとも第2の反射面Re2での反射波と重なって共振し、したがって音源部1と受波素子3との間における超音波の音圧の低下を抑制することができる。受波素子3は、音源部1と受波素子3との間で共振が生じて音圧が飽和したタイミングで超音波の音圧を検出する。通常、音源部1からの超音波の送波が終了した時点で超音波の音圧が飽和するので、一例として音源部1からの超音波の送波を終了するのと同時に受波素子3において超音波の音圧を検出することが考えられる。
【0046】
また、超音波の伝搬速度である音速cは媒質の絶対温度に応じて変化するので、上述した超音波の伝搬経路の共振周波数は常に一定ではなく、媒質の温度変化による音速変化に起因して変動する。そのため、音源部1から送波させる超音波の周波数を超音波の伝搬経路の共振周波数と正確に合わせるためには、音源部1から送波させる超音波の周波数を温度変化による音速変化に応じて補正する必要がある。そこで、本実施形態では、温度変化による音速の変化に応じて音源部1から送波させる超音波の周波数を補正する周波数補正手段(図示せず)を制御部2に有している。したがって、音速の変化に起因して超音波の伝搬経路の共振周波数が変動することがあっても、音源部1から送波される超音波の周波数は周波数補正手段により変動後の超音波の伝搬経路の共振周波数に補正されるので、音源部1と受波素子3との間において音源部1から送波された超音波により確実に共振を発生させることができる。また、この周波数補正手段は、上述した音速検出手段43において、音源部1が超音波を送波してから当該超音波が受波素子3に受波されるまでの時間差に基づいて求められた音速を用いて、音源部1から送波させる超音波の周波数を補正しており、結果的に、音速を求める手段を別途設ける場合に比べて構成を簡単にすることができる。
【0047】
以下に、本実施形態の具体例を挙げる。音速cが340m/s、音源部1と受波素子3との間の距離Lが34mmのとき、L=(n/2)×λの関係を満たすには、音源部1から送波させる超音波の周波数f(=c/λ)をたとえば105kHz(n=21)とすればよい。すなわち、105kHzは上記伝搬経路の共振周波数であり、この周波数の超音波を音源部1から送波させることにより、前記超音波の音圧が共振によって増大する。ここで、上述したようにm(>L/λ)周期の超音波の連続波を音源部1から送波させるように音源部1を制御する必要があるので、制御部2はたとえば105kHzの超音波を送波させる場合には少なくとも11周期程度の超音波を音源部1から連続的に送波させるように音源部1と制御する。105kHzの超音波を送波させる場合に105周期の超音波を音源部1から連続的に送波させれば、超音波が両反射板Re1,Re2間を5往復する間に反射波同士、あるいは反射波と音源部1からの直接波とが重なることにより音圧が大幅に増大する。この構成では、共振が発生して音圧が飽和したタイミングで受波素子3が検出する超音波の音圧は、共振周波数以外の単パルス状の超音波を送受波した場合の数十倍の音圧となる。
【0048】
なお、本実施形態では、煙式判断手段42や熱式判断手段45から出力される火災感知器信号を制御部2へ出力するようにしているが、制御部2に限らず、たとえば、外部の通報装置へ出力するようにしてもよい。
【0049】
以上説明した本実施形態の火災感知器では、煙濃度推定手段41において、受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて音源部1と受波素子3との間の監視空間の煙濃度を推定し、煙式判断手段42において、煙濃度推定手段41にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断するので、散乱光式煙感知器や減光式煙感知器のような光電式の火災感知器で問題となるバックグランド光の影響をなくすことができ、散乱光式煙感知器に必要なラビリンス体を不要とすることができて火災発生時に監視空間へ煙粒子が拡散しやすくなるから、散乱光式煙感知器に比べて応答性を向上でき、さらに、減光式煙感知器に比べて非火災報の低減が可能になる。
【0050】
また、本実施形態では、音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路で共振を発生させるようにしたことにより、音源部1と受波素子3との間で共振によって超音波の音圧が増大し、音源部1と受波素子3との間における超音波の音圧低下を抑制することができるので、監視空間中に煙粒子がない状態において受波素子3で受波される超音波の音圧を高く維持でき、煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量が比較的大きくなり、その結果、SN比が向上するという効果がある。さらにまた、共振により反射面Re1,Re2で反射した超音波においては、実効的な送波距離が反射の回数に応じて延長され、実質、超音波は音源部1と受波素子3との間の距離Lの数倍の送波距離を経て受波素子3に到達する。このことも煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量の増大に寄与しており、非共振の単パルス状の超音波が受波素子3で受波される場合に比較して超音波の減衰量は数倍に増大する。
【0051】
さらに、本実施形態の火災感知器では、音速検出手段43において、音源部1が超音波を送波してから当該超音波が受波素子3に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求め、温度推定手段44において、音速検出手段43で求めた音速に基づいて上記監視空間の温度を推定し、熱式判断手段45において、温度推定手段44で推定された温度と規定温度とを比較して火災の有無を判断するので、別途に温度検出素子を用いることなく火災発生時の温度上昇によっても火災を感知することが可能となり、火災をより確実に感知することが可能になる。
【0052】
(実施形態2)
本実施形態の火災感知器は、基本構成が実施形態1と略同じであり、反射面Re1,Re2での超音波の反射率を向上させるように図6に示す反射板7を設けた点が実施形態1の火災感知器と相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0053】
本実施形態では、図6に示すように板状であって互いに対向配置された一対の反射板7を備えており、音源部1および受波素子3は各反射板7の略中央部にそれぞれ配設されている。音源部1における受波素子3との対向面および受波素子3における音源部1との対向面は各反射板7の表面(他の反射板7との対向面)と面一になっており、各反射板7の表面はそれぞれ音源部1、受波素子3と共に反射面Re1,Re2を形成する。この構成によれば、音源部1と受波素子3との間の伝搬経路において超音波が拡散により広がったとしても、受波素子3あるいは音源部1の周囲の反射板7の反射面Re1,Re2で反射されることにより伝搬経路に戻されることになるので、超音波の拡散による音圧の低下を抑制することができ、煙濃度の変化量に対する受波素子の出力の変化量が大きくなって、SN比が向上する。
【0054】
また、本実施形態では平板状の反射板7を例示しているが、この構成に限らず、たとえば図7に示すようにたとえばパラボラ状に湾曲された反射板7を用いてもよい。この反射板7を用いれば、各反射面Re1,Re2をそれぞれ凹型の曲面とすることができ、これにより、音源部1からの超音波を各反射面Re1,Re2で反射する際に受波素子3に集音し、超音波の拡散による音圧の低下をより一層抑制することができる。図7の例では第1の反射面Re1で反射される超音波と第2の反射面Re2で反射される超音波との両方について拡散を抑えるように、両方の反射板7がパラボラ状に形成されているが、いずれか一方の反射板7をパラボラ状にするだけでも超音波の拡散を抑制することができる。
【0055】
さらにまた、図8に示すように一方の反射板7に音源部1および受波素子3を並べて配置して、当該一方の反射板7と音源部1と受波素子3とで第1の反射面Re1を形成し、他方の反射板7は単独で第2の反射面Re2を形成するようにしてもよい。この構成では、音源部1から送波された超音波は受波素子3に直接波として直接到達することがなく、少なくとも一回は第2の反射面Re2で反射されるので、音源部1と受波素子3との間で共振が生じやすくなる。ここにおいて、図9に示すように第2の反射面Re2を形成する側の反射板7としてパラボラ状のものを採用すれば、音源部1からの超音波を反射面Re2で反射する際に受波素子3に集音し、超音波の拡散による音圧の低下を一層抑制することができる。図7の例と同様に両方の反射板7をパラボラ状としてもよい。図8や図9の構成では、第1の反射面Re1を形成する音源部1から送波された超音波は上述のように第2の反射面Re2で反射され、第1の反射面Re1を形成する受波素子3で受波されるので、音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路は、長手方向の両端面に第1および第2の各反射面Re1,Re2を有する気柱と同様に、固有の共振周波数を有する。つまり、音源部1と受波素子3との間の距離をLとするときに、第1および第2の両反射面Re1,Re2の間の距離はL/2となるから、L/2=(n/2)×λの関係(ただし、nは自然数)を満たす波長λに対応する周波数fが音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路における共振周波数となる。
【0056】
なお、その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【0057】
(実施形態3)
本実施形態の火災感知器は、基本構成が実施形態1、2と略同じであり、図10に示すように制御部2および信号処理部4の構成が相違する。なお、実施形態1、2と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0058】
ところで、本願発明者らは、音源部1と受波素子3との間の監視空間の浮遊粒子の種別に応じて図11に示すように音源部1の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係が異なるという知見を得た。ここで、監視空間に浮遊粒子が存在しない状態で受波素子3にて受波される音圧(以下、基準音圧という)をI、減光式煙濃度計(減光式煙感知器)での評価でx%/mとなる濃度の浮遊粒子が監視空間に存在する状態で受波素子3にて受波される音圧をIとしたときに、(I−I)/Iで表される値を音圧の減衰率と定義し、特にx=1のときの減衰率を単位減衰率と定義する。ここにおいて、基準音圧Iと音圧Iとは、監視空間における浮遊粒子の有無を除いては同一の条件で検出されるものとする。図11中の「イ」は浮遊粒子が黒煙の煙粒子である場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒丸が測定データ)、「ロ」は浮遊粒子が白煙の煙粒子である場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒四角が測定データ)、「ハ」は浮遊粒子が湯気の粒子である場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒三角が測定データ)であり、ここに示す単位減衰率は、音源部1と受波素子3との間の距離を30cmに設定したときの各出力周波数ごとのデータである。また、図11における右端の各データは、出力周波数が82kHzのときのデータであり、出力周波数が82kHzのときのデータを1として各出力周波数の単位減衰率を規格化した結果を図12に示す。要するに、図12は、横軸が出力周波数、縦軸が相対的単位減衰率となっている。また、白煙の煙粒子のサイズは800nm程度、黒煙の煙粒子のサイズは200nm程度、湯気の粒子のサイズは数μm〜20μm程度である。
【0059】
上述の知見に基づいて、本実施形態では、制御部2が、音源部1から周波数の異なる複数種の超音波が順次送波されるように音源部1を制御するようにし、信号処理部4は、少なくとも受波素子3の基準出力(基準音圧に対する受波素子3の出力)、上記監視空間に存在する浮遊粒子の種別および浮遊粒子濃度に応じた音源部1の出力周波数と受波素子3の出力の相対的単位減衰率との関係データ(上述の図12より抽出されるデータ)、煙粒子に関して特定周波数(たとえば、82kHz)における単位減衰率(上述の図11より抽出されるデータ)を記憶した記憶手段48と、音源部1から送波された各周波数の超音波ごとの受波素子3の出力と記憶手段48に記憶されている関係データとを用いて上記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定する粒子種別推定手段46と、粒子種別推定手段46にて推定された粒子が煙粒子のときに特定周波数(たとえば、82kHz)の超音波に対する受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて上記監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段47と、煙濃度推定手段47にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段42とを有するようにしてある。
【0060】
以下に、本実施形態の火災感知器の動作例を図13のフローチャートを参照して説明する。まず、音源部1から複数種の超音波を順次送波させ各超音波に対する受波素子3の出力を信号処理部4で計測する(ステップS11)。粒子種別推定手段46は、各出力周波数ごとに受波素子3の出力と記憶手段48に記憶されている基準出力とから音圧の減衰率を求め(ステップS12)、出力周波数が82kHzでの音圧の減衰率に対する20kHzでの音圧の減衰率の比を算出する(ステップS13)。記憶手段48には、音源部1の出力周波数と受波素子3の出力の相対的単位減衰率との上記関係データとして、出力周波数が82kHzでの相対的単位減衰率に対する20kHzでの相対的単位減衰率の比(図12の場合、白煙が0、黒煙が0.2、湯気が0.5となる)が記憶されており、粒子種別推定手段46は、算出した減衰率の比を記憶手段48に記憶されている関係データと比較し、関係データの中で減衰率の比が最も近い種別の粒子を監視空間に浮遊している粒子と推定する(ステップS14)。ここで、推定された粒子が煙粒子であれば煙濃度推定手段47での処理に移行する(ステップS15)。ここにおいて、白煙の場合には図14に示すように減光式煙濃度計で計測される煙濃度と音圧の減衰率との関係は直線で示すことのできるデータであり、他の粒子においても同様であるから、煙濃度推定手段47は、推定された粒子種別について特定周波数(たとえば、82kHz)の超音波に対する受波素子3の出力の減衰率の記憶手段48に記憶されている単位減衰率に対する比を算出し、その比の値がyの場合に監視空間の煙濃度が減光式煙濃度計での評価における煙濃度y%/mに相当すると推定する(ステップS16)。煙式判断手段42は、ステップS16で推定された煙濃度と所定の閾値(たとえば、減光式煙濃度計での評価で10%/mとなる煙濃度)とを比較し、推定された煙濃度が上記閾値未満の場合には「火災無し」と判断する一方で、上記閾値以上の場合には「火災有り」と判断して火災感知信号を制御部2へ出力する。
【0061】
上述の例では、粒子種別推定手段46は出力周波数が82kHzのときの減衰率と20kHzのときの減衰率とを用いているが、これらの出力周波数の組み合わせに限定するものではなく、異なる組み合わせの出力周波数を用いてもよい。さらに、より多くの出力周波数に対する減衰率を用いてもよく、その場合は粒子種別の推定の確度を向上させることができる。また、本実施形態では、煙濃度推定手段47が特定周波数として1周波数を対象としているが、特定周波数として複数の周波数を対象とし、各特定周波数ごとに推定した煙濃度の平均値を求めるようにしてもよく、この場合、煙濃度の推定の確度が向上する。なお、信号処理部4は、マイクロコンピュータにより構成されており、粒子種別推定手段46、煙濃度推定手段47、煙式判断手段42は、上記マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現されている。また、信号処理部4は、受波素子3の出力信号をアナログ−ディジタル変換するA/D変換器などが設けられている。
【0062】
本実施形態では、音源部1として実施形態1にて説明した音波発生素子を1つ用いており、上述の制御部2は、音源部1へ与える駆動入力波形の周波数を順次変化させることにより、音源部1から周波数の異なる複数種の超音波を順次送波させる。ここにおいて、制御部2は、音源部1から送波させる超音波の周波数を所定の周波数範囲(たとえば、20kHz〜82kHz)の下限周波数(たとえば、20kHz)から上限周波数(たとえば、82kHz)まで変化させる。なお、本実施形態では、音源部1から周波数の異なる4種類の超音波が順次送波されるように制御部2が音源部1を制御するように構成してあるが、音源部1から送波させる超音波の周波数は4種類に限らず複数種類であればよく、たとえば、2種類とすれば、3種類以上の超音波を順次送波させる場合に比べて、制御部2および信号処理部4の負担を軽減できるとともに制御部2および信号処理部4の簡略化を図れる。本実施形態では、上述のように音源部1として実施形態1にて説明した音波発生素子を用いることで、順次送波する超音波をそれぞれ周波数の異なる超音波とすることができるので、音源部1として共振周波数の異なる複数の圧電素子を用いて各圧電素子から連続波の超音波を送波させる場合に比べて低コスト化を図れる。
【0063】
また、本実施形態においては、制御部2が、実施形態1、2と同様に音源部1と受波素子3との間の距離Lに基づく超音波の伝搬経路に固有の共振周波数であってm(>L/λ)周期の超音波の連続波を音源部1から送波させるように音源部1を制御することにより、音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路で共振を発生させ音源部1からの超音波の音圧を増大させるようにしてある。要するに、制御部2は、いずれも音源部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路に固有の共振周波数から選択され互いに周波数の異なる複数種(たとえば4種)の超音波を音源部1から送波させるように音源部1を制御する。
【0064】
なお、本実施形態では、音源部1の出力周波数と受波素子3の出力の相対的単位減衰率との関係データを記憶手段48に記憶した例を示したが、そもそも監視空間に存在する浮遊粒子の種別に応じて音源部1の出力周波数ごとに変化するのは受波素子3の出力の基準値からの減衰量(I−I)であるから、記憶手段48に記憶する上記関係データは、音源部1の出力周波数と受波素子3の出力の基準値からの減衰量との関係を示すデータであればよく、上述の相対的単位減衰率に代えて、たとえば、受波素子3の出力の基準値からの減衰量や、受波素子3の出力の基準値からの減衰量を基準値(I)で除しただけの減衰率、あるいは単位減衰率を採用した関係データを記憶手段48に記憶するようにしてもよい。
【0065】
以上説明した本実施形態の火災感知器では、粒子種別推定手段46において、音源部1から送波された各周波数の超音波ごとの受波素子3の出力と記憶手段48に記憶されている関係データとを用いて上記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定し、粒子種別推定手段46にて推定された粒子が煙粒子のときに、煙濃度推定手段47において、特定周波数の超音波に対する受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて上記監視空間の煙濃度を推定し、煙式判断手段42において、煙濃度推定手段47にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断するので、散乱光式煙感知器や減光式煙感知器のような光電式の火災感知器で問題となるバックグランド光の影響をなくすことができ、散乱光式煙感知器に必要なラビリンス体を不要とすることができて散乱光式煙感知器に比べて応答性を向上でき、また、減光式煙感知器に比べて非火災報の低減が可能になる。しかも、粒子種別推定手段46において上記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定することで煙粒子と湯気とを識別可能となるから、散乱光式煙感知器および減光式煙感知器に比べて湯気に起因した非火災報を低減することが可能となり、台所や浴室での使用にも適する。また、粒子種別推定手段46において白煙の煙粒子と黒煙の煙粒子とを識別可能となるから、火災の性状の識別に役立てることも可能となる。また、火災感知器を設置している室内の掃除や天井裏の電気工事などの際に浮遊する粉塵と煙粒子との識別も可能になるから、粉塵などに起因した非火災報を低減することも可能となる。
【0066】
ところで、本実施形態では音源部1を単一の音波発生素子により構成し、制御部2が音源部1へ与える駆動入力波形の周波数を順次変化させることにより、音源部1から周波数の異なる複数種の超音波を順次送波させるようにしているが、互いに出力周波数の異なる複数の音波発生素子で音源部1を構成してもよい。この場合には、各音波発生素子として圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する素子を用い、各音波発生素子をそれぞれの共振周波数で駆動することにより、音源部1から送波される超音波の音圧を高めてSN比の向上に寄与することができる。また、各音波発生素子を順次駆動して複数種の超音波を順次送波させるだけでなく、複数の音波発生素子を一斉に駆動して複数種の超音波を同時に送波させることも可能になる。
【0067】
また、各種の超音波に対してそれぞれ個別の受波素子3を設けるようにしてもよく、この場合には、各受波素子3として共振特性のQ値が比較的大きな圧電素子などを用い、各受波素子3をそれぞれの共振周波数の超音波の受波に用いることにより、受波素子3の感度を向上させることができる。さらに、複数の音波発生素子を一斉に駆動して複数種の超音波を同時に送波させれば、複数種の超音波の音圧の減衰量を同時に検出することができ、監視空間の経時的変化(たとえば浮遊粒子の濃度変化)の影響を受けることなく複数種の超音波について音圧の減衰量を検出して、浮遊粒子の種別や煙濃度を精度よく推定することができる。また、図8および図9のように音源部1と受波素子3とを同じ反射面Re1側に配置する場合には、音源部1を構成する音波発生素子を受波素子3に兼用することも考えられ、この場合、素子数の低減による低コスト化を図ることができる。
【0068】
なお、その他の構成および機能は実施形態1、2と同様であり、たとえば本実施形態の火災感知器においても、図2に示した実施形態1と同様、信号処理部4に、音速検出手段43、温度推定手段44、熱式判断手段45を設けてもよい。
【0069】
ところで、上記各実施形態では、音源部1と制御部2と受波素子3と信号処理部4とを1枚の回路基板5に設けて図示しない器体内に収納してあるが、音源部1と制御部2とを備えた音源側ユニットと、受波素子3と信号処理部4とを備えた受波側ユニットとを別体として互いに対向配置する分離型の火災報知機を構成するようにしてもよい。また、音源部1は上述の図3に示した構成の音波発生素子に限らず、たとえば、アルミニウム製の薄板を発熱体部として当該発熱体部への通電に伴う発熱体部の急激な温度変化による熱衝撃によって音波を発生させるものでもよい。
【0070】
さらにまた、信号処理部4は、定期的に、所定周波数(たとえば、上述の特定周波数と同じ82kHz)の超音波に対する受波素子3の出力に基づいて、音源部1の出力変動や受波素子3の感度変動がキャンセルされるように制御部2による音源部1の制御条件と受波素子3の出力の信号処理条件との少なくとも一方を変更するようにすれば、音源部1の出力変動や受波素子3の感度変動を定期的にキャンセルすることが可能となり、長期的な信頼性が高くなる。
【0071】
また、上記各実施形態において、制御部2が、音源部1から防虫効果のある周波数の超音波を送波させるようにすれば、上記監視空間に虫が侵入するのを防止することができ、虫に起因した非火災報を低減できる。ここで、制御部2は、煙濃度を推定するために音源部1から送波させる周波数の超音波とは別に、防虫効果のある周波数の超音波を定期的に送波させるようにしてもよいし、煙濃度を推定するために音源部1から送波する超音波の周波数を防虫効果のある周波数に設定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態1の要部を示す概略側面図である。
【図2】同上の構成を示すブロック図である。
【図3】同上の要部を示し、(a)は概略下面図、(b)は概略側面図である。
【図4】同上に用いる音波発生素子を示す概略断面図である。
【図5】同上に用いる受波素子を示し、(a)は一部破断した概略斜面図、(b)は概略断面図である。
【図6】本発明の実施形態2の要部を示す概略側面図である。
【図7】同上の他の例を示す概略側面図である。
【図8】同上のさらに他の例を示す概略側面図である。
【図9】同上のさらに他の例を示す概略側面図である。
【図10】本発明の実施形態3の構成を示すブロック図である。
【図11】同上の音源部の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す説明図である。
【図12】同上の音源部の出力周波数と相対的単位減衰率との関係を示す説明図である。
【図13】同上の動作例を示すフローチャートである。
【図14】同上の煙濃度と特定周波数の超音波の減衰率との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 音源部
2 制御部
3 受波素子
4 信号処理部
7 反射板
11 ベース基板
12 熱絶縁層
13 発熱体層(発熱体部)
41 煙濃度推定手段
42 煙式判断手段
46 粒子種別推定手段
47 煙濃度推定手段
48 記憶手段
Re1 第1の反射面
Re2 第2の反射面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送波可能な音源部と、音源部を制御する制御部と、音源部から送波された超音波の音圧を検出する受波素子と、受波素子の出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部とを備え、信号処理部は、受波素子の出力の基準値からの減衰量に基づいて音源部と受波素子との間の監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段と、煙濃度推定手段にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段とを有し、制御部は、音源部から送波され受波素子で受波される超音波の伝搬距離に基づく共振周波数の超音波を、少なくとも音源部から受波素子に超音波が伝搬するのに要する伝搬時間よりも長い送波時間に亘って連続的に音源部から送波させるように音源部を制御することを特徴とする火災感知器。
【請求項2】
前記音源部は周波数の異なる複数種の超音波を送波可能であって、前記信号処理部は、前記監視空間に存在する浮遊粒子の種別および煙濃度に応じた前記音源部の出力周波数と前記受波素子の出力の基準値からの減衰量との関係データを記憶した記憶手段と、前記音源部から送波された各周波数の超音波ごとの前記受波素子の出力と記憶手段に記憶されている関係データとを用いて前記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定する粒子種別推定手段とを有し、前記煙濃度推定手段は、粒子種別推定手段にて推定された粒子が煙粒子のときに特定周波数の超音波に対する前記受波素子の出力の基準値からの減衰量に基づいて前記監視空間の煙濃度を推定することを特徴とする請求項1記載の火災感知器。
【請求項3】
前記記憶手段は、前記関係データとして前記音源部の出力周波数と前記受波素子の出力の基準値からの減衰量を基準値で除した減衰率との関係データを記憶していることを特徴とする請求項2記載の火災感知器。
【請求項4】
前記音源部は前記複数種の超音波を送波可能な単一の音波発生素子からなり、前記制御部は音波発生素子から複数種の超音波が順次送波されるように前記音源部を制御することを特徴とする請求項2または請求項3記載の火災感知器。
【請求項5】
前記音源部は、発熱体部への通電に伴う発熱体部の温度変化により空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の火災感知器。
【請求項6】
前記音源部は、ベース基板の一表面側に前記発熱体部が形成されるとともに、ベース基板の前記一表面側で前記発熱体部とベース基板との間に設けられて前記発熱体部とベース基板とを熱絶縁する多孔質層からなる熱絶縁層を有してなることを特徴とする請求項5記載の火災感知器。
【請求項7】
前記音源部と前記受波素子とは同一面に並設されており、前記音源部および前記受波素子と対向する位置には、前記音源部から送波された超音波を前記受波素子に向けて反射する反射面が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の火災感知器。
【請求項8】
前記音源部から送波され前記受波素子で受波される超音波の伝搬経路上には超音波を反射する反射面が形成されており、当該反射面は、前記音源部からの超音波を前記受波素子に集音する形に湾曲した凹型の曲面からなることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の火災感知器。
【請求項9】
前記制御部は、温度変化による音速の変化に応じて前記音源部から送波する超音波の周波数を補正する周波数補正手段を有することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の火災感知器。
【請求項10】
前記周波数補正手段は、前記音源部が超音波を送波してから当該超音波が前記受波素子に受波されるまでの時間差に基づいて求まる音速を用いて周波数を補正することを特徴とする請求項9記載の火災感知器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−234019(P2008−234019A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69090(P2007−69090)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】