説明

灯器、交通信号灯器、及び灯器の反射防止ユニット

【課題】アンテナ設置用の支柱を不要とでき、かつ、道路の美観を損なうことのない新たな灯器、交通信号灯器及び反射防止ユニットを提供する。
【解決手段】交通信号灯器は、側端面からの入射光を面状に出射する導光板310、及びその導光板の側端面に配置される発光体303を有する光学ユニット104と、パッチ素子305及びグランド素子306が光学ユニット104内に設けられ、パッチ素子305が導光板310よりも後方に配置され、グランド素子306がパッチ素子305よりも後方に配置されたパッチアンテナ106とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灯器、交通信号灯器、及び灯器の反射防止ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全の促進や交通事故の防止を目的として、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)が提案されている。このITSでは、道路に通信装置(インフラ装置)が設置されており、この通信装置のアンテナから発せられた情報を、道路を走行する車両の車載機が受信し、この情報を活用することにより、車両の走行についての安全性を向上させることができる(特許文献1参照)。
【0003】
このような路車間通信を無線によって行う場合、無線通信の見通しを確保する観点から、歩道等に設置した支柱から車道側にアームを張り出し、このアーム上に通信装置のアンテナを取り付けている。また、前記アームを設けなくても見通しが確保できる場合、前記支柱にアンテナを取り付けることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記通信装置のアンテナを道路に設置するために、アンテナ専用の支柱を新たに設けることは経済的でなく、また、道路の美観の点でも好ましくない。
そこで、道路には車両感知器や光ビーコンのヘッド等が設置されているため、これらを取り付けている支柱やアームにアンテナを併設することが考えられる。しかし、この場合においても、美観の点で好ましくない。
【0006】
そこで、アンテナ設置用の支柱を不要とでき、かつ、道路等の美観を損なうことのない新たな技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点から提供される灯器は、側端面からの入射光を面状に出射する導光板、及び導光板の側端面に配置される発光体を有する光学ユニットと、パッチ素子及びグランド素子が光学ユニット内に設けられ、パッチ素子が導光板よりも後方に配置され、グランド素子がパッチ素子よりも後方に配置されたパッチアンテナとを備える。
この灯器では、パッチアンテナが光学ユニット内に格納されているため、パッチアンテナを目立たなくすることができ、またアンテナ設置専用の支柱を不要とすることができる。
【0008】
さらに、基板がパッチアンテナによる電波の送受信の妨げにならないようにするには、グランド素子及びパッチ素子が、特にパッチ素子が基板よりも前方に設けられているのが好ましい。また、このパッチアンテナが所望の性能を発揮するには、パッチ素子とグランド素子との間に所定の間隔を設ける必要がある。
【0009】
しかし、基板上に配置される発光体は、前記間隔よりも、前後方向の長さが短いことから、発光体の前端よりもパッチ素子が前方に位置することとなる。この結果、パッチ素子が発光体からの灯光を妨げることになることがある。灯器の前方など特定方向では灯器外から灯光を良好に視認するようパッチ素子を設けても、他の方向でも灯光を妨げないように光路を設けることが難しい。
【0010】
一方、パッチ素子が発光体からの灯光の妨げとならないように、パッチ素子を発光体の前端よりも後方に配置すると、発光体の前後方向の長さが短いために、基板よりも前方に設けられているグランド素子とパッチ素子との間の前後方向の間隔を小さい値でしか設定できず、パッチアンテナは所望の性能を発揮することができなくなる恐れがある。
【0011】
そこで、この灯器では、導光板を用いてパッチ素子の前方で面状の灯光を形成している。パッチ素子よりも前方で面状の灯光を形成するので、パッチ素子が灯光を妨げず、所望の配光特性を得ることができる。さらに導光板の後方にパッチ素子を配置し、導光板の側端面に発光体を設けている。例えば光学ユニットの中央にパッチアンテナを配置し、光学ユニットの内縁に沿って発光体を配置する。これにより、パッチアンテナの前方を避けて発光体を配置するので、発光体の基板がパッチアンテナによる電波の送受信の妨げにならないようにすることができる。しかも、発光体の長さ等の構成により、パッチ素子とグランド素子との間隔が制限されないので、必要な間隔を設ける設計上の自由度を確保することができ、パッチアンテナに所望の性能を発揮させることが可能となる。
【0012】
本発明の他の観点から提供される灯器は、発光体、前面に配置される可視光透過性のカバー部材、及び前記発光体の後方に配置され前記発光体からの灯光を前記カバー部材の方向へ反射する反射板を有する光学ユニットと、パッチ素子及びグランド素子が前記カバー部材と前記反射板との間に設けられ、前記パッチ素子が前記グランド素子よりも前方に配置されたパッチアンテナとを備える。
この灯器でも、パッチアンテナが光学ユニット内に格納されているため、パッチアンテナを目立たなくすることができ、またアンテナ設置専用の支柱を不要とすることができる。さらに、この灯器でも、発光体の長さ等の構成により、パッチ素子とグランド素子との間隔が制限されないので、必要な間隔を設ける設計上の自由度を確保することができ、パッチアンテナに所望の性能を発揮させることが可能となる。また発光体と反射板との位置関係や反射板の形状等を適宜定めることで灯光の配光を調整することができ、その結果、所望の配光特性が得られる。
【0013】
本発明のさらに他の観点では、側端面からの入射光を面状に出射する導光板、及び前記導光板の側端面に配置される発光体を有する光学ユニットと、パッチ素子及びグランド素子が前記光学ユニット内に設けられ、前記パッチ素子が前記導光板よりも後方に配置され、前記グランド素子が前記パッチ素子よりも後方に配置されたパッチアンテナとを備える交通信号灯器を提供する。
【0014】
この交通信号灯器では、パッチアンテナが光学ユニット内に格納されているため、パッチアンテナを目立たなくすることができ、またアンテナ設置専用の支柱を不要とすることができる。しかも、上述のように交通信号灯器に要求される配光特性を実現しつつ、パッチアンテナに所望の性能を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アンテナ設置用の支柱を不要とでき、かつ、道路等の美観を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係る交通信号灯器の全体構成を示す図である。
【図2】交通信号灯器に求められる配光特性の一例を示す図である。
【図3】光学ユニットの外観の一例を示す斜視図である。
【図4】誘電体の比誘電率と、パッチ素子の外形及びパッチ素子の位置等との関係を示した図表である。
【図5】アンテナを内蔵した光学ユニットの一例の断面図である。
【図6】光学ユニットの別の例に係る断面図である。
【図7】さらに別の例に係る光学ユニットの断面を模式的に示す図である。
【図8】さらに別の例に係る光学ユニットの断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態では、本発明は発光体として複数の発光ダイオードを有する光学ユニットを備えた交通信号灯器として具体化されている。
【0018】
図1は本実施の形態に係る交通信号灯器の全体構成を示す図である。この交通信号灯器101は、道路に設置される車両用の灯器である。この信号灯器101は、歩道等の路側に設けられた支柱102に取り付けられている。支柱102の上部には、アーム103が車道側に張り出されて設けられている。信号灯器101は、車道を走行する車両から視認されるよう、そのアーム103の先端部に取り付けられている。
【0019】
信号灯器101は、複数(図例では三つ)の光学ユニット104と、これら光学ユニット104を組み込んでいる筐体105とを有している。三つの光学ユニット104は、光源として、複数の発光ダイオード(以下LEDという)をそれぞれ格納し、赤、黄、青の灯光色を有している。さらに本実施の形態においては、各灯光色の光学ユニット104が路車間通信用のパッチアンテナ106を格納する。光学ユニット104内にパッチアンテナ106を格納することで、アンテナ専用の支柱が必要なくなり、それによって道路の美観が損なわれない。なお、信号灯器101の設置構造は図示しているもの以外であってもよく、支柱102及びアーム103の形態が異なっていてもよい。また信号灯器101は歩道橋に架設されたものであってもよい。
【0020】
支柱102には制御装置107も取り付けられている。この実施の形態において制御装置107は、各光学ユニット104の点灯等を制御するほか、パッチアンテナ106による無線通信の制御も行う。制御装置107は、同軸ケーブル108により光学ユニット104内のパッチアンテナ106と接続されている。また、制御装置107と光学ユニット104との間にはLEDの駆動電流を流すための灯器線も敷設されている。しかしながら、信号灯器101の現示制御と無線通信制御との両方を制御装置107で行う必要はなく、両制御を別個の装置で行ってもよい。また制御装置は信号灯器101の筐体105に内蔵させてもよい。
【0021】
図2は交通信号灯器に求められる配光特性の一例を示す図である。交通信号灯器の灯光は、遠方にある車両からだけでなく、交差点を通過しようとする直近の車両からも十分に視認される必要がある。このため交通信号灯器の光学ユニットには、正面方向へ比較的高い光度が求められるだけでなく、ある程度の光度が斜め下方へも求められる。この例では、中心線上で288cdと比較的高い光度が求められているのに加えて、垂直下方33°でも3.6cdの光度が求められている。
【0022】
図3A及びBはアンテナを内蔵した光学ユニットの一例を説明する断面図である。光学ユニット104は、カバー部材301及び収容部材302を備えている。カバー部材301は、可視光透過性を有するガラス又は樹脂製の部材であり、光学ユニット104の前面を覆う。光学ユニット104は、このカバー部材301を介して灯光を出射する。収容部材302は、鋼板、アルミ又は合成樹脂材により形成された皿状の部材であり、底部(底壁)302aとその底壁302aの周縁から立設した側部(側壁)302bとを有している。この収容部材302の開口内周にカバー部材301が着脱可能に取り付けられる。光学ユニット104は、カバー部材301及び収容部材302により囲まれた空間内に、パッチアンテナ106や、光源となるLED303、そのLEDを実装する基板304などを収容する。
【0023】
パッチアンテナ106は、パッチ素子305及びグランド素子306を有している。この実施の形態において、パッチ素子305及びグランド素子306はいずれも、カバー部材301の底部に配置された支持板307に取り付けられている。支持板307は絶縁材(不導体)からなる合成樹脂材により形成された板材である。パッチ素子305は、例えば図示しないがボルト及びナットよりなる締結具によって、その支持板307の後面に取り付けることができる。グランド素子306は、支持板307の後面に形成されたボス部にネジによって固定される。これによって、グランド素子306はパッチ素子305より灯器の後方に配置され、パッチ素子305とグランド素子306との間には所望の間隔が確保される。
【0024】
パッチ素子305及びグランド素子306は円形平板状に形成することができ、ここではグランド素子306の輪郭形状がパッチ素子305よりも大きくなっている。グランド素子305の平面形状は円形に限られるものではなく、矩形などの他の形状であってもよい。しかしながら、光学ユニット104が正面視において円形である場合、グランド素子306も円形とするのが好ましい。すなわち、光学ユニット104とグランド素子306とで輪郭形状を同じ(相似形)にするのが好ましい。これは、グランド素子306の輪郭形状を矩形とする場合よりも円形とする場合の方が、グランド素子306の面積を大きくする(最大とする)ことができるためである。また、グランド素子306の面積をパッチ素子305よりも(ある程度)大きくすることにより、グランド素子306(バック方向)への電波の放射を少なくすることができる。すなわち、効率良く電波を前方へ発することができる。また、パッチ素子305の平面形状も、矩形などの他の形状であってもよい。
【0025】
パッチ素子305とグランド素子306との間には、比誘電率が空気よりも大きい誘電体(誘電部材)が介在してもいてもよく、又は誘電体を省略して空気が介在していてもよい。パッチ素子305とグランド素子306との間の全部又は一部に、誘電体を挿入してもよい。誘電体は、例えば樹脂製又はセラミックス製の板部材である。樹脂製の場合、フッ素樹脂、ポリエチレン、ガラスエポキシ、FRP、ポリアセタール、ABS樹脂、又はポリエチレンテレフタラートを誘電体に用いることができる。
【0026】
パッチ素子305及びグランド素子306は網目構造やメッシュ構造にすることもできる。メッシュ構造の場合、パッチ素子305及びグランド素子306を導線によって(導線を編んで)形成する。
【0027】
複数のLED303及び基板304は、このようなパッチアンテナ106の正面を避けて配置されている。この実施の形態において、各LED303及び基板304は、カバー部材301の内壁面(内縁)に沿って円環状に配置されている。その円環の内径は、パッチアンテナ106の径(グランド素子306の径)よりも大きくなっている。パッチアンテナ106からすれば、LED303の基板304は導体板となる。しかしながら、光学ユニット104の中央にあるパッチアンテナ106の正面を避けて基板304が配置されているので、パッチアンテナ106による電波の送受信が基板304により妨げられない。また、LED303及び基板304を円環状に配置することで、パッチ素子305とグランド素子306との間隔がLED303や基板304により制限を受けない。したがって、光学ユニット104内においても、パッチアンテナ106が所望の性能を発揮するのに必要な間隔を容易に確保することができる。
【0028】
パッチアンテナ106を格納した信号灯器を、路車間で無線通信を行う高度道路交通システム(ITS)に利用する場合、パッチアンテナ106の使用周波数は700MHz帯周波数(715MHz〜725MHz)に設定される。このアンテナ性能(帯域特性、VSWR特性)をパッチアンテナに備えさせるためには、パッチ素子305とグランド素子306との前後方向の間隔を広く設定する必要がある。例えば、パッチ素子305を正方形としその一辺を170mm程度とし、被誘電率が空気よりも大きい誘電体をパッチ素子305とグランド素子306との間に設けると、パッチ素子305とグランド素子306との前後方向の間隔は、およそ20mm〜40mmに設定される。なお、この間隔は、誘電体の有無、及び、誘電体の種類に応じて設定される。このようにパッチ素子305とグランド素子305とを700MHz帯周波数で使用するには、前記間隔として比較的大きな値を確保する必要がある。しかしながら、上述のように複数のLED303及び基板304を円環状に配置することによって、パッチ素子305とグランド素子306との間隔がLED303及び基板304により制限されなくなる。このため、パッチアンテナ105を光学ユニット104内に格納した信号灯器をITSに利用する場合でも、パッチ素子305とグランド素子306との間隔に灯光上の制限がなくなり、パッチアンテナ106に所望の性能を発揮させることが容易になる。
【0029】
図3Bに示すようにパッチアンテナ106は同軸ケーブル108を介して制御装置と接続される。同軸ケーブル108は、内導体108a、絶縁体108b、外導体108c及び被覆部108dを有している。内導体108aがパッチ素子305に接続され、外導体108cがグランド素子306に接続される。同軸ケーブル108は、収容部材302の底面302aに設けられた取付部308を介して光学ユニット104内に引き込まれる。
【0030】
光学ユニット104において、LED303は砲弾型のモールドを有しており、その光軸は、光学ユニット104の中心軸上に向けて基板304に取り付けられている。基板304は、カバー部材301の内壁面に沿って設けられた支持部材309に取り付けられている。支持部材309は、基板304の実装面の裏面と接する平面支持部309aと、基板304の側端面と接する端面支持部309bとを一体的に形成したものである。基板304は、平面支持部309a及び端面支持部309bにネジや接着剤等により固定される。端面支持部309bはLED303や基板304を前方から隠す庇にもなっている。LED303内の反射鏡や基板の前面に対して西日や朝日等の太陽光が入射するのを制限することにより、反射鏡や基板による反射で信号灯器がみづらくなったり、点灯していない信号灯器が点灯しているように見える「擬似点灯」が生じたりするのを防止するためである。さらにLED303を庇で隠すことで直接LED303に太陽光が当たらなくなるので、LED303の劣化を防止でき、その結果LED303を長寿命化することができる。
【0031】
LED303の二本のリード線は基板304に挿通され、基板304背面に設けられた配線パターンに接続される。その配線パターン及び上述の灯器線を介してLED303に駆動電流が供給され、LED303が発光する。LED303の砲弾型のモールドはレンズを形成しており、LED303は指向性の灯光を光学ユニット104の中心軸方向に向けて発する。なお、複数のLED303は上述のように円環状に配置することができる。しかしながら、例えば多角形の輪郭のように配置してもよい。
【0032】
各LED303の光軸方向には導光板310が配置されている。LED303からの灯光はこの導光板310に入射する。導光板310は側端面310aからの入射光を信号灯器の前方へ面状に出射する。この実施の形態において導光板310はお椀状に形成されており、その凸面が前方に向けられている。しかしながら、導光板310の形状は円形平板状などその他の形状であってもよい。
【0033】
導光板310は、パッチ素子305よりも前方に配置される。導光板310には絶縁部材(不導体)、例えばアクリル板が用いられる。このため、パッチアンテナ106による電波の送受信を導光板310は阻害しない。導光板310のパッチ素子305側の面には、例えば白色の反射シート310bが貼られる。LED303からの光は、導光板310の反射シート310bと出射面310cとの間で反射しながら導光板310内を進行する。反射シート310bはその光を散乱反射する。その結果、入射角が全反射角より小さくなった成分が出射面310cから出射する。これにより出射面310cから均一に灯光が放射される。出射面310cから出射した灯光は、カバー部材301を介して光学ユニット104外へ出る。この灯光が視認される。
【0034】
以上のように導光板310よりも後方にパッチアンテナ106を配置しておけば、灯光の配光特性は、光学ユニット104に内蔵されるパッチアンテナ106の構成に制限されない。したがって、光学ユニット104にパッチアンテナ106を内蔵しても、信号灯器の配光特性に対して高い自由度が得られる。その結果、例えば図2に示したように、光学ユニット104の中心軸方向に比較的高い光度が求められると同時に、斜め下方向にも一定の光度が求められるような交通信号灯器に適した配光特性を実現することが可能となる。
【0035】
さらに本実施の形態における信号灯器では、パッチ素子305とグランド素子306とを前後方向に対向して配置している。このため、信号灯器の前方へパッチアンテナ106の指向性を与えることができる。これにより光学ユニット104の中心軸とパッチアンテナ106の指向性とが略一致する。信号灯器は車両に対して見通しが良い位置に設置されることから、アンテナ指向性によって、車両の車載機等との間で良好な通信状態が得られる。したがって、信号灯器の光学ユニット104に組み込んだパッチアンテナ106を、路車間で無線通信を行うITSに容易に活用することができる。
【0036】
図4はグランド素子とパッチ素子との間に配置される誘電体の比誘電率εrと、パッチ素子の外形及びパッチ素子の位置等との関係を示した図表である。この表は、720MHz帯で使用される信号灯器をモデル化してシミュレーションを行なった結果を示している。このモデル化にあたり、パッチ素子及びグランド素子を円形とし、LED、LED挿通用の孔及び反射防止部材は、素子外形及び素子の位置に関しての影響が小さいため、省略している。また、同軸ケーブルの入力部を、パッチ素子の中央上端から下方へ1mm下の位置としている。
【0037】
図4において、素子外形は、正方形としたグランド素子及びパッチ素子の一辺の長さを示しており、素子高さは、グランド素子とパッチ素子との前後方向の間隔の値を示している。比誘電率εrが1である場合、つまり、グランド素子とパッチ素子との間が空気である場合、素子外形は170.5mmであり、素子高さは25.0mmであるのに対し、比誘電率εrが空気よりも大きい誘電体が介在している場合、素子外形は小さくなり、素子高さは大きくなる。
【0038】
このように、グランド素子とパッチ素子との間に、比誘電率εrが空気よりも大きい誘電体が設けられていることにより、パッチ素子(パッチアンテナ)の大きさを小さくすることができる。これは、素子内の波長短縮率が大きくなるためであると考えられる。このように、パッチアンテナを小さくすることができるため、光学ユニット内に、別のアンテナを更に格納することができる。別のアンテナとしては、例えば、携帯電話やITS路路間通信用の周波数帯(例えば2.4GHz帯等)で使用されるものであってもよい。
【0039】
また、灯器に格納するパッチアンテナ用の誘電体の比誘電率εrは、下限が2(2以上)であるのが好ましい。また、比誘電率εrは、上限が5(5以下)であるものが好ましい。具体的には、フッ素樹脂、ポリエチレン、ガラスエポキシ、FRP、ポリアセタール、ABS樹脂、又は、ポリエチレンテレフタラートとするのが、価格面、加工性の面で好ましい。
【0040】
図5は光学ユニットの別の例に係る断面図である。図3の例では、光学ユニット104において、支持板307の後方にパッチアンテナ106を設けていたが、パッチアンテナ106の配置はこれに限られるものではない。図5の例のように、支持板307を用いず、収容部材302の底面302aにパッチアンテナ106を取り付けるようにしてもよい。この場合、導光板310に反射シートを設けず、導光板310のパッチアンテナ106側の面から漏れた光をパッチアンテナ106等で反射するようにしてもよいし、パッチ素子305を導光板310の裏面側に貼り付けておき、導光板310を進む光をパッチ素子305で反射させるようにしても良い。なお、この例では、パッチ素子305とグランド素子306との間に誘電体501を設けている。
【0041】
図6はさらに別の例に係る光学ユニットの断面を模式的に示す図である。この例に係る光学ユニット104は、導光板を用いずに、反射板601を用いることでLED303からの灯光を信号灯器の前方へ発する。この光学ユニット104において、LED303は、後方に向けられている。反射板601は、LED303よりも後方に配置されLED303からの灯光をカバー部材301の方向へ反射する。ここでは、反射板601がお椀状に形成されており、その内面を信号灯器の前方に向けて配置されている。LED303と反射板601の位置関係や反射板601の形状等を適宜定めることで、灯光の配光を調整することができる。このため、光学ユニット104内にパッチアンテナ106を設けても、図2に示したような信号灯器に必要な配光特性を得ることができる。
【0042】
この光学ユニット104において、パッチ素子305及びグランド素子306は、カバー部材301と反射板601との間に配置されている。ここでは、グランド素子306の後方にLED303を配置している。パッチ素子305及びグランド素子306の間隔はLED303の全長等の構成により制限を受けないので、必要な間隔を設ける設計上の自由度を確保することができ、その結果、パッチアンテナ106に所望の性能を発揮させることが可能となる。しかも、反射板601を用いることで、パッチ素子305の前方を避けてLED303を配置する構成を容易に採用することができ、LED303の基板がパッチアンテナ106による電波の送受信の妨げにならないようにすることができる。なお、パッチアンテナ106にある部分の光量を確保するために、パッチ素子305及びグランド素子306は網目構造やメッシュ構造にすることができる。
【0043】
図7はさらに別の例に係る光学ユニットの断面を模式的に示す図である。この例に係る光学ユニット104も、LED303からの灯光を反射することで灯器の前方へ出射する。この例に係る光学ユニット104は、LED303からの灯光を反射するのに専用の反射板を用いる代わりに、パッチアンテナ106のグランド素子306を反射板として利用する。さらに、この例では、LED303を後方に向けることで、LED303よりも後方の反射板に灯光を入射させず、前方に向けたLED303からの光を後方へ反射させることで、反射板となるグランド素子306に灯光を入射させている。ここでは、パッチアンテナ106のパッチ素子305を使って、前方に向けたLED303からの光を後方へ拡散反射している。このようにLED303の前方で灯光を一旦拡散反射させることで、図5の例と較べて必要なLED303の個数を減らすことができる。
【0044】
図8はさらに別の例に係る光学ユニットの断面を模式的に示す図である。この例に係る光学ユニット104は、LED303からの灯光をパッチ素子305により反射することで灯器の前方へ出射する。パッチ素子305には、電波の送受信性能に影響を与えない範囲で灯光を散乱し易いように加工を行ってもよい。この場合も、LED303の全長等の構成に制限されず、パッチアンテナ106に所望の性能を発揮させることができ、またLED303の基板がパッチアンテナ106による電波の送受信を妨げることがない。また、パッチアンテナ106の前方でLED303の灯光を反射させて灯器の前方へ出射させるので、パッチアンテナ106により灯光が妨げられることがなく、所望の配光特性を得ることができる。
【0045】
以上のような本実施の形態における信号灯器では、パッチアンテナは光学ユニット内に格納されたものとなる。これにより、アンテナを目立たなくして信号灯器に設置することができ、道路の美観を損なうことがない。そして、アンテナが光学ユニット内に格納されることから、アンテナ設置用の専用の支柱を不要とすることができる。また、アンテナの前方を避けて基板が配置されるため、基板がアンテナによる電波の送受信の妨げになるのを避けることができる。
【0046】
また、パッチアンテナを700MHz帯周波数(715MHz〜725MHz)で使用するためには、パッチ素子とグランド素子との前後方向の間隔が、所定の値(例えば20mm〜40mm)に設定される。このようなパッチアンテナを光学ユニットに格納する場合であっても、本実施の形態によれば、LEDからの灯光の配光を導光板や反射板により得ることができる。したがって、パッチアンテナを700MHz帯周波数で通信するためのアンテナとして容易に機能させることができる。
【0047】
上述した実施の形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。
【0048】
図3、図4等のようにパッチ素子とグランド素子とは平行に配置されていてもよいが、アンテナ指向性を調整するために、グランド素子及びパッチ素子の一方又は双方が、光学ユニット内において傾いて配置されていてもよい。またパッチ素子とグランド素子の間にLEDを設けてもよい。
【0049】
また、上述の実施の形態では、各灯光色の光学ユニットにパッチアンテナを内蔵したが、一部の灯光色の光学ユニットにパッチアンテナを内蔵するようにしてもよい。複数又は全ての灯色の光学ユニットにパッチアンテナを内蔵する場合には、ダイバーシチアンテナとして利用してもよいし、ゲインを向上させたり指向性を変化させたりするためにアレーアンテナとして利用してもよい。
【0050】
また、信号灯器は車両用以外にも、歩行者用のものであってもよい。また、信号灯器が有する発光体はLED以外に電球や有機EL素子であってもよい。また、この発明は、信号灯器以外に道路の照明用の照明灯器であってもよい。この場合、発光体として水銀灯やナトリウムランプがある。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る灯器及び反射防止ユニットは、アンテナ設置用の支柱を不要とでき、かつ、道路の美観を損なうことがなく、車両用や歩行者用の信号灯器や照明用の照明灯器、その他の灯器、及びそれらに用いられる反射防止ユニットに有用である。
【符号の説明】
【0052】
101 交通信号灯器
102 支柱
103 アーム
104 光学ユニット
105 筐体
106 パッチアンテナ
107 制御装置
108 同軸ケーブル
301 カバー部材
302 収容部材
302a 収容部材の底部
302b 収容部材の側部
303 LED
304 基板
305 パッチ素子
306 グランド素子
307 支持板
308 取付部
309 LED基板の支持部材
310 導光板
501 誘電体
601 反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側端面からの入射光を面状に出射する導光板、及び前記導光板の側端面に配置される発光体を有する光学ユニットと、
パッチ素子及びグランド素子が前記光学ユニット内に設けられ、前記パッチ素子が前記導光板よりも後方に配置され、前記グランド素子が前記パッチ素子よりも後方に配置されたパッチアンテナと
を備える灯器。
【請求項2】
前記発光体が、前記光学ユニットの内縁に沿って配置され、
前記パッチアンテナが、前記光学ユニットの中央部に配置された請求項1記載の灯器。
【請求項3】
発光体、前面に配置される可視光透過性のカバー部材、及び前記発光体の後方に配置され前記発光体からの灯光を前記カバー部材の方向へ反射する反射板を有する光学ユニットと、
パッチ素子及びグランド素子が前記カバー部材と前記反射板との間に設けられ、前記パッチ素子が前記グランド素子よりも前方に配置されたパッチアンテナと
を備える灯器。
【請求項4】
側端面からの入射光を面状に出射する導光板、及び前記導光板の側端面に配置される発光体を有する光学ユニットと、
パッチ素子及びグランド素子が前記光学ユニット内に設けられ、前記パッチ素子が前記導光板よりも後方に配置され、前記グランド素子が前記パッチ素子よりも後方に配置されたパッチアンテナと
を備える交通信号灯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−176233(P2010−176233A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16056(P2009−16056)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】