説明

炊飯器

【課題】予熱工程中に内鍋を加振しても、炊飯終了時の炊飯面の凹凸を抑制し、見栄えがよくておいしいご飯が提供できる炊飯器を得る。また、炊飯器の寿命到達まで予熱工程中に加振ができる炊飯器を得る。
【解決手段】制御装置12は、炊飯の予熱工程において加振装置6を駆動して内鍋7を加振させ、その加振期間を予熱工程内の所定期間とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は炊飯器に関し、特に炊飯中に内鍋を加振する加振期間に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の炊飯器としては、例えば「上記外鍋2の底部の中央部に開口部11が設けられ、該開口部11に上記内鍋3内の調理物に振動を与える振動発生装置12が設けられている。この振動発生装置12は、調理物である水に振動を与えこの水を攪拌(混ぜ合わせる)するためのものであり、例えば超音波により水を振動させる超音波振動発生機で形成されている。」(例えば特許文献1参照)というものが提案されている。
また、例えば「前記底部材49の内面中央部には、超音波発振器12が固定板63により固定されており、該超音波発振器12により発生した振動を前記内鍋4の底面に伝達する振動伝達器64が付設されている。この超音波発振器12は、例えば炊飯時における吸水工程において作動されることとなっている。」(例えば特許文献2参照)というものが提案されている。
【0003】
【特許文献1】実開平5−80414号公報(段落番号0012、図1)
【特許文献2】特許第3376921号公報(段落番号0015、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、炊飯器での炊飯工程は予熱工程、沸騰工程、及び蒸らし工程を順次経て炊飯を行う。おいしいご飯を炊くためには、予熱工程中に内鍋内に入れられた米や水の温度の均一化を図ることが必要であることが知られている。従来より内鍋内に入れられた米や水の温度の均一化を図るため、超音波振動子を用いた高周波の加振装置で内鍋を加振(振動を与えること)する方法が用いられていた(例えば特許文献1,2参照)。また、低コスト化を図るため、一般に市販されている偏芯モータを用いた低周波の加振装置で加振を行う方法も用いられていた。
【0005】
ここで、ご飯のおいしさの要素には味や甘さ、歯ごたえ等いくつかあるが、見栄えもその一つである。例えば同じ料理でも、きれいに盛り付けられた料理の方が、雑然としたものよりもおいしそうに見え、実際においしく感じられることが多い。ご飯も同様に、味もさることながら、おいしそうに見える見栄えも重要である。
しかしながら、従来の予熱工程中に内鍋を加振する炊飯器では、炊飯終了時に炊飯面の凹凸が増大し、炊きあがったご飯の見栄えが悪いという問題があった。さらに、低コスト化を図るための偏芯モータを用いた加振装置においては寿命が数百時間と短く、加振装置の寿命到達後(故障後)は予熱工程中に加振ができなくなるという問題があった。
【0006】
この発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、第1の目的は、予熱工程中に内鍋を加振しても、炊飯終了時の炊飯面の凹凸を抑制し、見栄えがよくておいしいご飯が提供できる炊飯器を得ることである。また、第2の目的は、炊飯器の寿命到達まで予熱工程中に加振ができる炊飯器を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る炊飯器は、調理物を収納する内鍋と、該内鍋を着脱自在に収納可能な炊飯器本体と、炊飯や保温のために前記内鍋を加熱する加熱手段と、前記内鍋の温度を検出する温度検出手段と、前記内鍋を加振する加振手段と、前記加熱手段及び前記加振手段を制御する制御手段とを備えた炊飯器において、前記制御手段は、炊飯の予熱工程において前記加振手段を駆動して内鍋を加振させ、その加振期間を少なくとも前記予熱工程内の所定期間とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る炊飯器においては、加振期間を予熱工程内の所定期間としているので、炊飯終了時の炊飯面の凹凸を抑制し、見栄えがよくておいしいご飯を提供することができる。また、加振期間が短いので加振手段である加振装置の寿命到達が遅くなり、炊飯器の寿命到達まで加振装置を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態
図1は、この発明の実施の形態に係る炊飯器の全体構成を示す縦断面図である。上部が開口された炊飯器本体1内に、コイルベース2が固着されている。コイルベース2の外壁部には、本発明の加熱手段に相当する電磁誘導加熱用の加熱コイル3が設けられている。加熱コイル3は、コイルベース2の下面及びコイルベース2の下面から側面に向かうコーナー部に設けられており、高周波電流が供給されるようになっている。コイルベース2の底部中央には孔が形成され、この孔に貫通して本発明の温度検出手段に相当する温度センサ4が設けられている。
【0010】
コイルベース2内には、内鍋5が着脱自在に収納されるようになっており、内鍋5が収納時には、内鍋5の底面略中央部に温度センサ4が接触するようになっている。また、コイルベース2の側面には、本発明の加振手段に相当する加振装置6が設けられている。本実施形態では、偏芯モータを用いた低周波による加振装置6を設けている。
【0011】
炊飯器に用いられる加振装置として、低周波では、携帯電話やゲーム機コントローラなどに用いられている偏芯モータを用いたものが知られている。また、超音波では、超音波振動子を用いたものが知られている。超音波振動子を用いた加振装置は、素子のコストや駆動するための電源部にコストがかかるという問題点がある。偏芯モータを用いた加振装置は、超音波振動子を用いる場合と比べ偏芯モータや電源部を低コストにでき、また小さな電力で大きな振幅が得られる利点がある。ところが、偏芯モータを用いた低周波加振装置の場合、偏芯モータの寿命が短いという問題点がある。一般的に、偏芯モータの寿命は数百時間とされており、炊飯器の寿命を10年間として設計した場合、偏芯モータの寿命が持たないと考えられる。しかしながら、同じ性能が得られるのであれば、より低コストで製造できる偏芯モータを用いた低周波加振装置のほうが消費者にも安価で炊飯器を提供できる。したがって、本実施形態では低周波による加振装置6の問題点を克服して、炊飯器に搭載することとした。
【0012】
なお、本実施形態ではコイルベース2の側面に加振装置6を設けたが、これに限らず内鍋5を加振できる場所であれば良い。例えばコイルベース2に穴を開けて内鍋5に直接接するようにしても良いし、別の部位に取り付けてもかまわない。また、加振装置6も偏芯モータを用いた加振装置に限らない。超音波振動子を用いた加振装置でももちろんよい。
【0013】
内鍋5の上部開口は、内蓋7により覆われている。内蓋7はこれを覆う外蓋8と着脱可能に連結され、外蓋8は炊飯器本体1に開閉自在にヒンジ結合されるようになっている。内蓋7及び外蓋8には、これらを貫通する蒸気口が設けられ、この蒸気口に炊飯時に蒸気とともに御粘が吹出すのを防止する弁体9が取り付けられている。
【0014】
炊飯器本体1の上部には、外蓋7に覆われない位置に操作パネル10が設けられており、操作パネル10の下方には、制御基板11が設けられている。この制御基板11には、本発明の制御手段に相当する制御装置12が備えられている。
【0015】
炊飯を行いたい場合は、所定量の米を内鍋5内に入れ、次いで米量に応じた水を入れる。その後、内鍋5をコイルベース2内に収納し、外蓋8を閉める。そして、操作パネル10の炊飯スイッチ(図示せず)を押せば、炊飯が開始される。制御装置12では、操作パネル10の炊飯スイッチが押されると、制御装置12に搭載されているマイコン(図示せず)に登録されている制御プログラムに従って炊飯処理を行う。制御装置12は、加熱コイル3に高周波電流を通電し、高周波磁界を発生させ、加熱コイル3と内鍋5の加熱コイル対向面を励磁させ、内鍋5底面に渦電流を誘起する。これにより、この渦電流と内鍋5の持つ抵抗によりジュール熱を生じ、内鍋5の底面が発熱して加熱が行われる。また、加振装置6に通電して内鍋5側面を加振することで、内鍋5に入れられた米と水を撹拌する。制御装置12は、温度センサ4によって計測された内鍋5底面温度と制御装置12に搭載されているマイコンに組み込まれた時間測定手段(図示せず)の情報をもとに、制御プログラムに従って加熱コイル3への高周波電流の通電のオンオフ等の調整を行い、内鍋5の温度を制御する。また、加振装置6への通電のオンオフ等の調整を行い、加振のオンオフを制御する。
【0016】
次に炊飯工程について説明する。炊飯スイッチ(図示せず)が押され炊飯が開始されると、予熱工程、沸騰工程、及び蒸らし工程を順次経て炊飯は終了する。予熱工程は約15分から20分程度の時間を要する。内鍋5内の水温を60℃程度まで上げて、その後内鍋5内の水温を一定に制御する工程である。米に水を吸わせる作用、及び糖化酵素の働きを活性化させ糖度を増加させる作用がある。沸騰工程は、内鍋5内の水温を上げて水を沸騰状態にし、内鍋5内の水がなくなるまで沸騰を継続させる工程である。米のでんぷんをアルファ化させる作用がある。内鍋5内の水がなくなると、それまで水の蒸発潜熱で消費されていた熱が内鍋5の温度を上昇させることに使われるようになり、急激に内鍋5の温度が上昇する。これをドライアップと呼び、鍋底の温度センサ4でこの温度上昇をとらえて沸騰工程を終了とし、以降蒸らし工程に入る。そして10分から15分程度蒸らした後、炊飯を終了する。各工程では内鍋5の温度が最適な値となるよう、制御装置12により制御されている。
【0017】
沸騰工程ででんぷんをアルファ化させおいしいご飯とするためには、米の芯まで十分に水が含水していることが重要である。沸騰工程に入ってしまうと、米表面が糊化するため米内への吸水は難しくなる。そのため、予熱工程で米の芯まで十分に吸水させることが重要である。つまり予熱工程の吸水具合によりおいしさが異なってくることとなる。
【0018】
また、予熱工程中において、内鍋5内に入れられた米や水の温度ムラもご飯のおいしさに関与する要素である。予熱工程中の糖化酵素の働きにより、ご飯のおいしさの一要素である糖が生成されるが、この糖化酵素が最も活性化する温度帯域は概40℃から60℃、特に活性化する温度は55℃から60℃とされており、また、60℃を超えると糖化酵素が失活するとされている。内鍋5内に入れられた米や水の温度ムラが大きいと、内鍋5内の場所によって糖化酵素が活性化する温度帯域にとどまる時間が異なる。その結果、内鍋5内の場所によってご飯の甘さが異なったりすることがある。つまり、予熱工程中において、内鍋5内に入れられた米や水の温度ムラを極力抑えることで、糖化酵素が十分に働きおいしいご飯を炊くことができる。
【0019】
このように、予熱工程での米の含水率向上及び内鍋5内に入れられた米や水の温度ムラの抑制が、おいしいご飯を炊くために重要な要素となっていることがわかる。従来から、これらを改善させるには、予熱工程で内鍋5を加振して内鍋5に入れられた米と水を撹拌することで効果が得られるとされている。しかし、予熱工程のどの期間での加振が最も効果的であるかといったことについては明らかにされていなかった。
また、予熱工程において内鍋5を加振して内鍋5に入れられた米と水を撹拌することで、炊飯終了時に炊飯面の凹凸が増大し、炊きあがったご飯の見栄えが悪いという問題があった。
【0020】
図2は炊飯終了時の内鍋5内の炊飯面高さを示す図であり、(a)は炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面高さ、(b)は炊飯工程の全工程で加振した時の炊飯面高さ、及び(c)は予熱工程のみ加振した時の炊飯面高さを示す。また、図3も炊飯終了時の内鍋5内の炊飯面高さを示す図であり、(a)は予熱工程時間を3等分した前半のみ加振した時の炊飯面高さ、(b)は予熱工程時間を3等分した中盤のみ加振した時の炊飯面高さ、及び(c)は予熱工程時間を3等分した後半のみ加振した時の炊飯面高さを示す。縦軸は内鍋5の底面から炊飯面までの高さを示しており、横軸は内鍋5の直径方向の位置を示している。横軸の0は内鍋5の中心、R10は内鍋5の中心から右に10mm、及びL10は左に10mmの位置を示している。また、図2(b)、(c)及び図3には、炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面高さ(図2(a))の測定結果も重ねて示す。炊飯時間はそれぞれ約45分で、そのうち予熱工程は約15分、加振周波数は45Hzで炊飯を行った。したがって、予熱工程の前半は炊飯開始から5分まで、中盤は炊飯開始後5分から10分の間、後半は炊飯開始後10分から15分の間となっている。
【0021】
炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面高さ(図2(a))に比べ、炊飯工程の全工程で加振した時の炊飯面高さ(図2(b))では炊飯面の凸凹が大きく見栄えが悪い結果となった。予熱工程のみ加振した時の炊飯面高さ(図2(c))も同様に、炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面高さ(図2(a))に比べ炊飯面の凸凹が大きく見栄えが悪い結果となった。図3に示す予熱工程前半(a)、中盤(b)、及び後半(c)のみに加振した炊飯面の凸凹は、炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面の凸凹(図2(a))に比べ若干の増加にとどまった。
【0022】
図2及び図3に示した各測定結果における炊飯面高さのばらつき具合を表すため、各測定結果の標準偏差σを求め、この大きさで炊飯面の凸凹具合を比較した。図4は、予熱工程における加振期間と炊飯面高さのばらつきとの関係図である。炊飯工程で加振をせず炊飯した時(加振無し)の標準偏差σに比べ、炊飯工程の全工程で加振した時(全工程加振)の標準偏差σは顕著に数値が大きいことがわかる。つまり炊飯面の凹凸が大きいことがわかる。また、予熱工程の15分のみ加振した時(予熱工程のみ加振)の標準偏差σも、炊飯工程の全工程で加振した時(全工程加振)の標準偏差σよりは数値は小さいものの、炊飯工程で加振をせず炊飯した時(加振無し)の標準偏差σに比べて数値は大きくなっている。これに対し、予熱工程の前半、中盤、及び後半の各5分間のみ加振した時の標準偏差σは、炊飯工程で加振をせず炊飯した時(加振無し)の標準偏差σに比べて若干の数値の増加にとどまった。つまり、加振期間を短くすることで、炊飯面の凸凹を抑制し、見栄えの良いご飯を炊き上げることができる。
【0023】
図5は炊飯終了時の内鍋5内の炊飯面高さを示す図であり、(a)は炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面高さ、(b)は炊飯工程の全工程で超音波加振装置を用いて加振した時の炊飯面高さを示す。図5(b)には、炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面高さ(図2(a))の測定結果も重ねて示す。縦軸は内鍋5の底面から炊飯面までの高さを示しており、横軸は内鍋5の直径方向の位置を示している。炊飯時間はそれぞれ約45分で、そのうち予熱工程は約15分で炊飯を行った。また、図5に示した各測定結果における炊飯面のばらつき具合を表すため、各測定結果の標準偏差σを求め、この大きさで炊飯面高さの凸凹具合を比較した。図6は、超音波加振装置を用いた加振の有無と炊飯面のばらつきとの関係図である。超音波加振装置を用いて加振した場合の標準偏差σも、炊飯工程で加振をせず炊飯した時(加振無し)の標準偏差σに比べて数値は大きくなっている。つまり、炊飯面の形状に悪影響を与えることがわかる。したがって、炊飯中に長時間加振すると、低周波加振装置を用いた場合も超音波加振装置を用いた場合も、炊飯面の凸凹が増大し、見栄えが悪くおいしく見えない炊飯結果となることがわかる。
【0024】
図7は、予熱工程における加振期間と米の含水率との関係図である。この図は、加振期間を限定して加振した時における予熱工程終了時の米の含水率を測定した結果を示している。なお、加振周波数は45Hz、予熱工程は14分間で測定を行った。横軸の「0−1」と記されている箇所は、炊飯開始(0分)から1分までの間だけ加振し、その後は加振せず予熱工程を実行した時の予熱工程終了時の含水率を示している。横軸の「1−2」と記されている箇所は、炊飯開始(0分)から1分後までは加振せず、その後加振を開始し炊飯開始から2分後まで加振し、以降加振せずに予熱工程を実行し、予熱工程終了時の含水率を測定した結果を示している。その他も同様の記載である。また、横軸最右欄の「無し」の箇所は、予熱工程14分の間に全く加振をしなかった場合の含水率を示している。予熱工程中全く加振しなかった場合の米の含水率は27.2%であった。なお、本実施形態では、加振周波数45Hz、予熱工程は14分間の例で説明しているが、共にこれに限ったものでは無いことは言うまでも無い。
【0025】
図7より、各加振期間において、予熱工程中のわずか1分間の加振でも、加振せずに予熱工程を実行した時に比べて含水率が向上していることがわかる。また、特に6分から8分の間に加振した時が特異的に含水率が向上している、次いで8分から10分の間に加振したものも顕著に含水率が向上している。4分から6分や他の部位でも振動無しに比べれば含水率が向上している。この結果から、予熱工程を前半と後半に分けた場合は、後半に加振すれば特に米の含水率が向上することがわかる。前半と中盤と後半の3つに分けた場合は、中盤に加振すれば特に米の含水率が向上することがわかる。また、時間で細かく区切って考えた場合は、炊飯開始後6分から10分の間の4分間程度、特に炊飯開始後6分から8分の2分間程度に加振すれば米の含水率が向上することがわかる。また、炊飯開始後6分から8分の2分間のうち、2分よりも短い時間(例えば1分間)だけ加振した場合でも、2分間の加振に比べれば効果は半分程度に落ちるが、それでも他の時間帯に加振するよりも十分な効果が得られることがわかる。また、他の部位においても、1分間の加振でも加振無しに比べれば含水率が向上することもわかる。
【0026】
なお、これらの加振は断続的に加振することも効果的であり、断続加振の場合は、加振総時間を増やすことなく加振を行う期間を加振停止時間分だけ伸ばすことができ、より効果的である。以上より、予熱工程の中盤、又は炊飯開始後6分から10分程度までの間の4〜5分間に加振期間を限定して加振することで、米の含水率が向上しておいしいご飯を炊くことができる。また、このような5分程度以下の短時間の加振であれば、図3及び図4で示したように炊飯面の凸凹も抑制され、見栄えのよいご飯を炊くことができる。
【0027】
また、予熱工程中の1分間の加振でも、特に予熱工程中盤では十分に含水率向上に効果があることがわかる。さらに予熱工程の他の部位でも、効果は小さいが1分間の加振でも加振無しに比べれば効果があることがわかる。時間が短ければそれだけ米面の凸凹が抑制でき、より見栄えの良いご飯を炊くことができる。見栄えそのものは、化学的なおいしさにはつながらないが、おいしそう、と見えることで、味覚には表れないおいしさにつながり、総合的においしいご飯を提供できることとなる。
【0028】
なお、本実施形態では予熱工程の中盤で加振を与えることの効果を述べてきたが、予熱工程の最初から加振することも効果的である。予熱工程の最初から、すなわち炊飯開始直後から加振を与えることで、使用者に安心感を与えることができる。予熱工程の途中から加振が始まると、びっくりする場合が考えられるが、炊飯開始ボタンを押すと、加振が行われるので安心である。その後途中で加振を停止すれば、含水率が加振無しの場合に比べて高く、しかも炊き上がりの凸凹も抑制したおいしいご飯が提供できる。なお、炊飯開始直後から加振する場合、一般に炊飯開始直後に行われる初期水温検知や負荷量検知、鍋の有無検知を行う工程では加振を止めておいても良い。その場合は各検知精度が向上して、後の制御をより正確に実行できるので、よりおいしいご飯を炊くことができる。
【0029】
図8は、加振せず予熱工程を実行した時の内鍋5の温度履歴図である。この図は、加振せず予熱工程を実行した時の、内鍋5底面の温度を測定した温度センサ4の温度履歴を示したもので、ほぼ内鍋5内の米や水の温度を捕らえていると考えてよい。加振して予熱工程を実行した時の内鍋5の温度特性もほぼこの温度履歴に等しかった。
【0030】
図8より、米の含水率が向上し始める炊飯開始後約4分で内鍋5底面の温度は約40℃に達していることがわかる。つまり、内鍋5底面の温度が約40℃から60℃の温度区間で加振すれば、米の含水率が向上することがわかる。これは、米表面が水温により軟らかくなり吸水しやすい状態になったところで加振することにより、効率的に吸水が促進するものと考えられる。また図7及び図8より、特にこの約40℃から60℃の温度区間の4〜5分間、さらに絞りこめば約1分間に加振することで、米の含水率が向上することがわかる。この間で断続的に加振することも効果的である。したがって、この内鍋5底面の温度が約40℃から60℃にある期間、特にこの期間内の4〜5分間、さらに絞り込めば約1分間に加振期間を限定して加振することで、米の含水率が向上しておいしいご飯を炊くことができる。また、5分以下の短時間の加振であれば、図3及び図4で示したように炊飯面の凸凹も抑制され、見栄えのよいご飯を炊くことができる。
【0031】
ここで、炊飯器の寿命を10年とし、1年365日、毎日一日2回炊飯を行ったと考えると、毎回4分間加振を行うには加振装置6の寿命は500時間必要である。毎回2分間加振を行う場合は250時間、毎回1分間加振を行う場合は125時間の寿命を要する。例えば、加振装置6の寿命が300時間であれば、2分間の加振を上記の米の含水率が向上する加振期間にすることで、含水率が十分に向上し、米面の凸凹を抑制した見栄えのよいおいしいご飯が炊飯器の寿命到達まで提供できる。
【0032】
また、例えば加振装置の寿命が100時間であれば、1分弱の加振を上記の米の含水率が向上する加振期間にすることで、含水率が十分に向上し、米面の凸凹を抑制した見栄えのよいおいしいご飯が炊飯器の寿命到達まで提供できる。加振は連続的にしても良いし、例えば10秒加振10秒停止のような断続的にしても良い。寿命300時間の加振装置でも、これを複数個(例えば2個)設置し炊飯毎に交互にどちらか一つを使用することで、トータルとして加振装置の寿命を延ばすことも可能である。
【0033】
図9は、米と水の入った内鍋5をコイルベース2内に収納して外蓋8を閉めた状態における、加振装置6の加振周波数と内鍋5の振幅の関係を示した図である。加振周波数の微妙な違いによって、内鍋5には小さい共振点が複数存在することがわかる。また、ごく狭い加振周波数帯域の中でも内鍋5の振幅が強いところと弱いところが存在することがわかる。例えば、40Hz台の加振周波数で加振するならば、内鍋5の共振点である42Hzや45Hzで加振することにより、内鍋5に振動をより大きく伝えることができることがわかる。したがって、加振装置の小型化や低パワー化、低コスト化が実現できる。さらには、炊飯器の小型化、低コスト化が実現出来る。なお、この内鍋5共振点は炊飯器の形状が変わると異なるため、予め内鍋5共振点を測定して、それに合わせて加振周波数を決めるとよい。または、加振周波数に合わせるように、炊飯器の設計を行っても良い。
【0034】
このように構成された炊飯器においては、加振装置6による内鍋5への加振期間を選択的に限定しているので、炊飯終了時の炊飯面の凹凸を抑制し、見栄えがよくておいしいご飯を提供することができる。また、炊飯器の寿命到達まで加振装置6を使用することができる。なお、加振期間は予熱工程に加え、他の工程でも行ってももちろん良い。例えば、さらに沸騰工程で加振すればかき混ぜ効果の増大が、蒸らし工程や保温時に加振を加えれば内蓋7等への露付き抑制などの効果が得られ、有効である。これらの場合も、総合的に加振装置の寿命と効果具合を勘案してそれぞれの加振期間を決定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施の形態に係る炊飯器の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】炊飯終了時の内鍋5内の炊飯面高さを示す図であり、(a)は炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面高さ、(b)は炊飯工程の全工程で加振した時の炊飯面高さ、及び(c)は予熱工程のみ加振した時の炊飯面高さを示す図である。
【図3】炊飯終了時の内鍋5内の炊飯面高さを示す図であり、(a)は予熱工程時間を3等分した前半のみ加振した時の炊飯面高さ、(b)は予熱工程時間を3等分した中盤のみ加振した時の炊飯面高さ、及び(c)は予熱工程時間を3等分した後半のみ加振した時の炊飯面高さを示す図である。
【図4】予熱工程における加振期間と炊飯面高さのばらつきとの関係図である。
【図5】炊飯終了時の内鍋5内の炊飯面高さを示す図であり、(a)は炊飯工程で加振をせず炊飯した時の炊飯面高さ、(b)は炊飯工程の全工程で超音波加振装置を用いて加振した時の炊飯面高さを示す図である。
【図6】超音波加振装置を用いた加振の有無と炊飯面高さのばらつきとの関係図である。
【図7】予熱工程における加振期間と米の含水率との関係図である。
【図8】予熱工程を実行した時の内鍋5の温度履歴図である。
【図9】米と水の入った内鍋5をコイルベース2内に載置して外蓋8を閉めた状態における、加振装置6の加振周波数と内鍋5の振幅の関係を示した図である。
【符号の説明】
【0036】
1 炊飯器本体、2 コイルベース、3 加熱コイル、4 温度センサ、5 内鍋、6 加振装置、7 内蓋、8 外蓋、9 弁体、10 操作パネル、11 制御基板、12 制御装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理物を収納する内鍋と、
該内鍋を着脱自在に収納可能な炊飯器本体と、
炊飯や保温のために前記内鍋を加熱する加熱手段と、
前記内鍋の温度を検出する温度検出手段と、
前記内鍋を加振する加振手段と、
前記加熱手段及び前記加振手段を制御する制御手段とを備えた炊飯器において、
前記制御手段は、
炊飯の予熱工程において前記加振手段を駆動して内鍋を加振させ、
その加振期間を少なくとも前記予熱工程内の所定期間としたことを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
前記所定期間には、少なくとも前記予熱工程の中盤を含むことを特徴とした請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記所定期間には、少なくとも前記内鍋の温度が概40℃〜60℃にある期間を含むことを特徴とした請求項1又は請求項2のいずれかに記載の炊飯器。
【請求項4】
前記所定期間は、加振時間を少なくとも1分以上とすることを特徴とした請求項1〜請求項3のいずれかに記載の炊飯器。
【請求項5】
前記所定期間は、予熱工程開始時から始まることを特徴とした請求項1〜請求項4のいずれかに記載の炊飯器。
【請求項6】
前記加振手段の加振周波数は、
前記調理物の収納された前記内鍋が前記炊飯器本体に収納された状態において複数存在する前記内鍋の共振点又はその近傍の周波数であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−220796(P2008−220796A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66034(P2007−66034)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】