説明

炊飯器

【課題】従来の炊飯器の構成では、投入する蒸気の温度は任意に設定できるものではないため、使用者に対し蒸らし工程と保温工程において蒸気を投入することによって、炊き立てと保温したご飯の両方とも美味しいご飯を提供することが困難であった。
【解決手段】炊飯直後のご飯と保温ご飯の両方ともに美味しさを最大限引き出すために、蒸らし工程と保温工程において投入する蒸気の温度を任意に設定し、かつ保温状態に応じて蒸気の温度をきめ細かく設定して投入することで、蒸らし工程ではご飯の余分な水分を蒸発させながらご飯の糊化を促進させ、保温工程では乾燥を防ぎながら炊き立てのようなご飯に仕上げ、鍋全体のご飯を美味しくする炊飯器を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過熱蒸気を用いた炊飯器、特にご飯の美味しさ向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な家庭用の炊飯器においては、鍋底部に配置した、鍋内の米と水を加熱するための鍋加熱手段が主な加熱手段である。ご飯をおいしく炊くためには、米の澱粉を十分に糊化させることが重要である。特に、蒸らし工程において高温で米を加熱することで澱粉の糊化が進み、ご飯の甘み及び香りが増す。しかし、蒸らし工程には水がほぼ無くなった状態であるため、鍋加熱手段による追い炊き加熱を継続すると、鍋底付近のご飯が焦げてしまうため、加熱を弱めざるを得なかった。また、保温工程において使用者がスイッチを操作して加熱を指示すると、電磁誘導加熱コイル等で構成している加熱手段によって、内鍋を加熱しているが、ご飯に熱のみを加えているので、ご飯に含まれる水分が蒸発して、ご飯が乾燥するという課題を有していた。
【0003】
例えば、図8に示すように、鍋加熱手段による加熱に加えて、鍋上方から高温の蒸気を鍋内に噴射し米飯及び水の加熱を行う炊飯器がある(特開2003−144308号公報)。
【0004】
図8において、91は炊飯器本体、92は炊飯器本体91に着脱自在に内装される鍋、93は鍋92の上面を開閉自在に覆う蓋である。94は鍋を加熱する鍋加熱手段である。95は本体91に内装される蒸気発生手段であり、水タンク96と水タンク加熱手段97とを有する。水タンク96内の水は水タンク加熱手段97によって加熱され、沸騰する。水タンク96で発生した水蒸気は、蒸気管98を通って蒸気孔99から鍋92に供給される。以上のように、上層のご飯を乾燥させることなく、鍋92内に温度の高い蒸気を蒸らし時に供給して糊化を促進させるので、鍋内全体にわたってご飯の食味を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−144308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の炊飯器の構成では、投入する蒸気の温度は任意に設定できるものではないため、蒸らし工程と保温工程において蒸気を投入することによって、炊き立てと保温したご飯の両方とも美味しいご飯を提供することが困難であった。
【0007】
例えば、保温工程において使用者がスイッチを操作して加熱を指示すると、電磁誘導加熱コイル等で構成している加熱手段によって鍋を加熱するとともに、ご飯の乾燥を防ぐために同時に蒸気を投入する炊飯器も開発されているが、保温ご飯の温度に応じて蒸気の温度を可変できないため、保温状態によってはベチャついたり硬くなったりするという課題を有していた。
【0008】
すなわち、蒸らし工程ではご飯表面に水分が余分に存在しており、この水分を程よく蒸発させながらご飯が乾燥しない程度に加熱し続けることで米の糊化を促進させ美味しいご飯に仕上げることができる。よって、ご飯表面の余分な水分を蒸発させるために高い温度の過熱蒸気(例えば200℃)を投入することで、ご飯表面の余分な水分が蒸発する際に
蒸発潜熱をご飯から奪うことにより、一時的にご飯の温度が低下する現象を抑制することができる。これによって、ご飯の温度を100℃以上の高温に維持しつつご飯の余分な水分を蒸発させることができる。
【0009】
また、保温工程ではご飯の水分が最適な量(一般的には含水率60%〜65%)にあるか少ない場合もあるため、蒸らし工程において投入する蒸気の温度(例えば200℃)と同等の場合には、ご飯の温度は素早く炊き立ての100℃近くに上昇させることができるが、一方で乾燥が進みすぎてご飯が黄変し劣化する要因となる。従って、保温工程で投入する蒸気の温度は、少なくとも蒸らし工程で投入する蒸気の温度より低い方が望ましい。
【0010】
本発明は、炊飯直後のご飯と保温ご飯の両方ともに美味しさを最大限引き出すために、蒸らし工程と保温工程において投入する蒸気の温度を任意に設定し、かつ保温状態に応じて蒸気の温度をきめ細かく設定して投入し、鍋全体のご飯を美味しく再加熱する炊飯器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明の炊飯器は、上面が開口した本体と、前記本体内に着脱自在に収納される鍋と、前記本体を開閉自在に覆う蓋と、前記鍋を加熱する加熱手段と、蒸気を発生する蒸気発生手段と、前記蒸気発生手段から発生した蒸気の温度を上昇させ前記鍋内に投入する蒸気過熱手段とを備え、炊飯工程と保温工程において、前記蒸気発生手段と蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際の蒸気の温度を任意に設定できるようにした炊飯器とする。
【0012】
これによれば、蒸らし工程でご飯全体を100℃以上に維持して糊化を促進させることができるとともに、保温工程で保温状態に応じて蒸気の温度をきめ細かく設定して投入し、鍋全体のご飯を美味しく再加熱することができる。よって、ご飯に含まれる水分が蒸発してご飯が乾燥することもなく、蒸気を投入することで保温状態によってベチャついたり硬くなったりするということもない。
【0013】
よって、炊飯直後のご飯と保温ご飯の両方ともに美味しさを最大限引き出すことができ、鍋全体のご飯を美味しくする炊飯器を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炊飯器は、炊飯直後のご飯と保温ご飯の両方ともに美味しさを最大限引き出すために、蒸らし工程と保温工程において投入する蒸気の温度を任意に設定し、かつ保温状態に応じて蒸気の温度をきめ細かく設定して投入することで、蒸らし工程ではご飯の余分な水分を蒸発させながらご飯の糊化を促進させ、保温工程では乾燥を防ぎながら炊き立てのようなご飯に仕上げ、鍋全体のご飯を美味しくする炊飯器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における炊飯器の断面図
【図2】本実施の形態1の蒸気過熱部拡大断面図
【図3】蒸らし工程における表層付近のご飯の温度を従来の炊飯器と比較したグラフ
【図4】蒸らし工程における表層付近のご飯の含水率を示したグラフ
【図5】再加熱工程における鍋上部付近のご飯温度を保温時間別に従来例との比較を示したグラフ
【図6】再加熱工程における鍋上部付近のご飯の含水率を保温時間別に従来例との比較を示したグラフ
【図7】本発明の実施の形態2における炊飯器の断面図
【図8】従来の炊飯器の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、上面が開口した本体と、前記本体内に着脱自在に収納される鍋と、前記本体を開閉自在に覆う蓋と、前記鍋を加熱する加熱手段と、蒸気を発生する蒸気発生手段と、前記蒸気発生手段から発生した蒸気の温度を上昇させ前記鍋内に投入する蒸気過熱手段とを備え、炊飯工程と保温工程において、前記蒸気発生手段と蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際の蒸気の温度を任意に設定できるようにした炊飯器とすることで、炊飯直後のご飯と保温ご飯の両方ともに美味しさを最大限引き出すことができ、鍋全体のご飯を美味しくする炊飯器を提供することができる。
【0017】
すなわち、蒸らし工程でご飯全体を100℃以上に維持して糊化を促進させることができるとともに、保温工程で保温状態に応じて蒸気の温度をきめ細かく設定して投入し、鍋全体のご飯を美味しく再加熱することができる。よって、ご飯に含まれる水分が蒸発してご飯が乾燥することもなく、蒸気を投入することで保温状態によってはベチャついたり硬くなったりするということもない。
【0018】
第2の発明は、特に第1の発明における炊飯工程は、時間順に前炊き工程、炊き上げ工程、沸騰維持工程、蒸らし工程からなり、前記蒸気発生手段と蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際の蒸気の温度は、前記蒸らし工程よりも保温工程の方が低い温度になるようにした炊飯器とすることにより、炊飯直後のご飯と保温ご飯の両方ともに美味しさを最大限引き出すことができ、鍋全体のご飯を美味しくする炊飯器を提供することができる。
【0019】
すなわち、蒸らし工程ではご飯表面に水分が余分に存在しており、この水分を程よく蒸発させながらご飯が乾燥しない程度に加熱し続けることで米の糊化を促進させ美味しいご飯に仕上げることができる。よって、ご飯表面の余分な水分を蒸発させるために高い温度の過熱蒸気(例えば200℃)を投入することで、ご飯表面の余分な水分が蒸発する際に蒸発潜熱をご飯から奪うことにより、一時的にご飯の温度が低下する現象を抑制することができる。これによって、ご飯の温度を100℃以上の高温に維持しつつご飯の余分な水分を蒸発させることができる。
【0020】
また、保温工程ではご飯の水分が最適な量(一般的には含水率60%〜65%)にあるか少ない場合もあるため、蒸らし工程において投入する蒸気の温度(例えば200℃)と同等の場合には、ご飯の温度は素早く炊き立ての100℃近くに上昇させることができるが、一方で乾燥が進みすぎてご飯が黄変し劣化する要因となる。保温工程で蒸気を投入する場合には、その目的がご飯の温度上昇および水分量を最適値に保持するか加えるかであるため、蒸らし工程で投入する蒸気と役割が異なる。従って、保温工程で投入する蒸気の温度は、少なくとも蒸らし工程で投入する蒸気の温度より低い方が望ましい。
【0021】
第3の発明は、特に第1または2の発明における使用者の指示により保温中のご飯を前記加熱手段により加熱する再加熱工程において、前記蒸気発生手段と蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際の蒸気の温度を、保温時間が長くなるに従って低くなるようにした炊飯器とすることにより、保温工程で保温状態に応じて蒸気の温度をきめ細かく設定して投入し、鍋全体のご飯を美味しく再加熱することができる。
【0022】
すなわち、保温工程では保温時間が長くなるに従ってご飯の水分が次第に少なくなるため、保温時間に応じて投入する蒸気の温度を最適化する必要がある。保温時間が短い場合には、ご飯の水分が最適な量(一般的には含水率60%〜65%)にあるかやや少ない程度であり、比較的高い温度の過熱蒸気(例えば160℃)を鍋内に投入することで、ご飯からの水分蒸発を抑制しながら素早くご飯温度を上昇させることができる。また、保温時
間が長い場合には、ご飯の水分が少なくなっており、比較的低い温度の過熱蒸気(例えば130℃)を鍋内に投入することで、ご飯を湿潤させ含水率を最適な量にするとともに、素早くご飯温度を上昇させることができる。
【0023】
よって、ご飯に含まれる水分が蒸発してご飯が乾燥することもなく、蒸気を投入することで保温状態によってベチャついたり硬くなったりするということもない。
【0024】
第4の発明は、特に第1〜3の発明における蓋に内装され前記鍋を覆う加熱板を有し、前記加熱板を加熱する加熱板加熱手段と、加熱板の温度を検知する加熱板温度検知手段とを有し、使用者の指示により保温中のご飯を前記加熱手段により加熱する再加熱工程において、前記蒸気発生手段と蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際に、前記加熱板温度検知手段の出力に基づき前記加熱板加熱手段により加熱板を一定温度に保持するようにした炊飯器とすることにより、加熱板温度検知手段の出力に基づき加熱板を加熱するので、鍋内に投入された蒸気が加熱板に結露することを防止することができる。よって、結露した水がご飯表面に滴下することでご飯の美味しさを損なうことが無い。
【0025】
第5の発明は、特に第4の発明における鍋側面部を加熱する鍋側面加熱手段を有し、使用者の指示により保温中のご飯を前記加熱手段により加熱する再加熱工程において、前記蒸気発生手段と蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際に、前記加熱板温度検知手段の出力に基づき鍋側面部を加熱するようにした炊飯器とすることにより、加熱板温度検知手段の出力に基づき加熱板に加えて鍋側面をも加熱するので、鍋内に投入された蒸気の加熱板や鍋側面への結露を防止することができる。よって、結露した水がご飯表面や側面に滴下することでご飯の美味しさを損なうことが無い。
【0026】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における炊飯器の断面図を示したものである。図2は、本実施の形態1の蒸気過熱部拡大断面図と蒸気の流れを示したものである。
【0027】
実施の形態1の炊飯器は、大気圧でご飯を炊く炊飯器である。図1において、1は炊飯器の本体を示し、着脱自在の鍋2を内装する。本体1には、その上面を覆う蓋3が開閉自在に設置されている。
【0028】
本体1は、鍋2を誘導加熱する鍋加熱手段4(誘導加熱コイルである)、鍋2の温度を検知する鍋温度検知手段5、蒸気を発生する蒸気発生手段6及び制御手段7を有する。
【0029】
蓋3は、蓋カバー8、蒸気発生手段6が発生した蒸気を鍋2の内部に供給するための蒸気経路9、加熱板10、加熱板加熱手段11、加熱板温度検知手段12、蒸気筒13及び蒸気過熱手段14を有する。
【0030】
加熱板10は、蓋3の下面を構成する蓋カバー8に着脱可能に取り付けられる。蓋3を閉めた状態において、鍋2と加熱板10との隙間は、加熱板10に取り付けられたループ状のパッキン15(第1のパッキン)で封止される。加熱板加熱手段11は、蓋カバー8に取り付けられ、加熱板10を誘導加熱する誘導加熱コイルである。加熱板温度検知手段12は、加熱板10の温度を検知する。蒸気筒13は、鍋2内の不要な蒸気を排出する。
【0031】
蒸気発生手段6は、水タンク16と水タンク加熱手段17とを有する。水タンク加熱手段17は、水タンク16を誘導加熱する誘導加熱コイルである。水タンク16の外側に、水タンク16の温度を検知する水タンク温度検知手段18が圧接される。
【0032】
蓋3を閉めた状態において、発生した蒸気を鍋2に供給する蒸気経路9が水タンク16
の上方に位置する。蒸気経路9と水タンク16との間の隙間は、蒸気経路9に取り付けられているループ状のパッキン19(第2のパッキン)で封止されている。蒸気経路9の途中の蓋3の内部には、蒸気過熱手段14を有し、蒸気過熱手段14は吸気口20と、排気口21と、ヒータ22と、蒸気流路23と、ヒータ22と蒸気流路23とを収納するケース24からなる。蒸気流路23は、ヒータ22の周りに金属薄板を螺旋状に巻かれたフィン25と、フィン25の外周に巻かれた金属薄板26と、ヒータ22とで形成される。また、金属薄板26とケース24の間にはセラミックペーパーからなる断熱材27(第1の断熱材)が設けられている。ケース24の表面には、表面温度を検知するケース温度検知手段28が取り付けられ、ケース24を覆うようにセラミックファイバーからなる断熱材29で断熱されている。吸気口20は水タンク16に近い側に配設される。
【0033】
蓋を閉めた状態において水タンク16と鍋2とは蒸気経路9を通じてのみ連通する。水タンク16で発生した蒸気は、蒸気経路9を通って鍋2内に投入され、余分の蒸気は蒸気筒13を通じて外部に排出される。蒸気経路9を加熱する加熱手段(例えば誘導加熱コイル)を更に設けても良い。
【0034】
蒸気筒13には蒸気口30と蒸気排出経路31とを有し、蓋3の天面には蓋蒸気口32が設けられている。
【0035】
制御手段7は、回路基板(図示しない)に搭載されたマイクロコンピュータを有する。制御手段7(マイクロコンピュータ)はソフトウエアにより、ユーザが操作パネル(
図示しない)を介して入力する操作指令、鍋温度検知手段5、水タンク温度検知手段18、加熱板温度検知手段12およびケース温度検知手段28から入力される信号に基づき、あらかじめマイクロコンピュータに記憶された炊飯プログラムにより、鍋2、加熱板10、水タンク16、蒸気流路23の加熱制御を行う。制御手段7は、鍋加熱手段4、水タンク加熱手段17、加熱板加熱手段11、ヒータ22の加熱量を、各加熱手段の通電率及び/又は通電量によって制御する。
【0036】
以上のように構成された本発明の実施の形態1の炊飯器の炊飯工程における動作を、蒸気発生手段6と蒸気過熱手段14の動作に着目して説明する。
【0037】
ユーザが、炊飯を行う米とその米量に対応する水とを鍋2に入れ、本体1に内装する。更に、水タンク16に所定量の水を入れ、本体1に内装する。ユーザが炊飯開始スイッチ(図示しない)を操作すると炊飯工程が実施される。
【0038】
炊飯工程は、時間順に前炊き、炊き上げ、沸騰維持、蒸らしに大分される。前炊き工程において、鍋2の温度が米の吸水に適した温度になるように鍋加熱手段4を制御し、鍋内の米と水とを加熱する。次に、炊き上げ工程において、鍋2の温度が所定値(100℃)になるまで鍋加熱手段4によって鍋2を所定の熱量で加熱する。この時の温度上昇速度によって、炊飯量を判定する。沸騰維持工程において、鍋2の水が無くなり、鍋2の温度が100℃を超えた所定値になるまで、鍋加熱手段4及び加熱板加熱手段11に通電し、米と水を加熱する。最後に蒸らし工程において、一定時間の間に複数回、炊飯量に応じた鍋加熱手段4及び加熱板加熱手段11による加熱(追い炊き)と加熱の停止(休止)を繰り返す。蒸らし工程(追い炊き時と休止時)において、蒸気発生手段6から発生した蒸気を蒸気過熱手段14で過熱し鍋2内へ過熱蒸気を供給する。
【0039】
前炊き工程では、炊き上げ工程及び沸騰維持工程に比べ各加熱手段への通電量が少なく、炊飯器全体の消費電力が小さい。実施の形態1の炊飯器は、前炊き工程において水タンク加熱手段17に通電し、水タンク16内の水を予熱する。
【0040】
実施の形態1の炊飯器の、蒸らし工程における動作を説明する。
【0041】
むらし工程においては、ご飯が中心まで糊化するように、ご飯が乾燥したりこげたりしない温度で、ご飯を高温の状態に保つことが大切である。よって、より短時間で鍋2内を過熱蒸気で満たすことが、ご飯の糊化を促進する上で重要であり、いかにすばやくかつ長時間高温の蒸気中にご飯をさらすかがご飯の糊化に影響する。
【0042】
沸騰維持工程終了後、鍋加熱手段4及び加熱板加熱手段11による加熱を停止し、水タンク加熱手段17に通電する。水タンク16内の水は予熱されているので、速やかに沸騰して蒸気経路9に蒸気が導入される。ヒータ22は、沸騰維持工程終了間際に通電され、蒸気流路23をケース温度検知手段28から得られる値をもとに所定の温度に予熱する。これによって、吸気口20から導入された蒸気は蒸気流路23を通過する際に温度が上昇し、排気口21から排気される蒸気の温度は100℃以上に上昇する。
【0043】
蒸らし工程ではご飯表面に水分が余分に存在しており、この水分を程よく蒸発させながらご飯が乾燥しない程度に加熱し続けることで米の糊化を促進させ美味しいご飯に仕上げることができる。よって、ご飯表面の余分な水分を蒸発させるために高い温度の過熱蒸気(例えば200℃)を投入することで、ご飯表面の余分な水分が蒸発する際に蒸発潜熱をご飯から奪うことにより、一時的にご飯の温度が低下する現象を抑制することができる。これによって、ご飯の温度を100℃以上の高温に維持しつつご飯の余分な水分を蒸発させることができる。
【0044】
図3は蒸らし工程における表層付近のご飯の温度を従来の炊飯器と比較したグラフである。本実施の形態1の炊飯器では過熱蒸気の温度は200℃であり、蒸気量は10gとした。従来の炊飯器では過熱蒸気の温度は130℃であり、蒸気量は20gとした。図3に示すように、本実施の形態1の炊飯器では表層付近のご飯の温度は100℃以上を維持しているのに対し、従来の炊飯器では徐々に温度が低下し100℃を下回っていることが分かる。
【0045】
また、図4は蒸らし工程における表層付近のご飯の含水率を示したグラフである。図4に示すように、本実施の形態1の炊飯器では表層付近のご飯の含水率は63%付近で推移していることが分かる。
【0046】
よって、蒸らし工程において過熱蒸気を鍋内に投入することによりご飯全体を100℃以上に維持して糊化を促進させることができるとともに、ご飯の余分な水分を蒸発させることができる。
【0047】
ユーザは、炊飯開始前に炊飯器の操作パネル(図示しない)を操作し、炊飯する米の銘柄を制御手段7に指定できる。制御手段7は指定された銘柄が、柔らかく炊ける性質の米(魚沼産コシヒカリ、宮城産ササニシキなど)か、標準的な性質の米(一般のコシヒカリ、ササニシキ、夏場の魚沼産コシヒカリ、新米のきらら397など)か、硬く炊ける性質の米(きらら397、夏場のコシヒカリ、ササニシキなど)か判断し、蒸らし工程における高温蒸気の投入時間と温度とを制御する。高温蒸気の投入時間は、水タンク加熱手段17の通電率及び/又は通電量によって制御する。高温蒸気の温度は、ヒータ22の通電率及び/又は通電量によって制御する。
【0048】
制御手段7は蒸らし工程において、米が、柔らかく炊ける性質の米の場合180℃の高温蒸気を1分間鍋2に供給し、標準的な性質の米の場合200℃の高温蒸気を2分間鍋2に供給し、硬く炊ける性質の米の場合220℃の高温蒸気を3分間鍋2に供給する。実施の形態1の炊飯器は、米の性質に合わせて最適な炊飯を行うことができる。
【0049】
炊飯工程終了後は、保温工程に移行し、鍋内の温度を70℃に近づけるように鍋加熱手段4及び加熱板加熱手段11への通電を制御する。ユーザが再加熱スイッチ(図示しない)を操作すると再加熱工程が開始され、制御手段7は水タンク加熱手段17とヒータ22とを駆動し、蒸らし工程と同様に過熱蒸気を発生させる。そして、高温蒸気が鍋2内に供給される。炊飯工程終了後、再加熱スイッチが操作されるまではご飯は乾燥していくが、過熱蒸気による再加熱を行うことで、ご飯の水分量は炊飯工程終了時と同程度まで増加する。更に、保温中に発生する不快なにおいが過熱蒸気による加熱で低減する。
【0050】
保温工程ではご飯の水分が最適な量(一般的には含水率60%〜65%)にあるか少ない場合もあるため、蒸らし工程において投入する蒸気の温度(例えば200℃)と同等の場合には、ご飯の温度は素早く炊き立ての100℃近くに上昇させることができるが、一方で乾燥が進みすぎてご飯が黄変し劣化する要因となる。保温工程で蒸気を投入する場合には、その目的がご飯の温度上昇および水分量を最適値に保持するか加えるかであるため、蒸らし工程で投入する蒸気と役割が異なる。従って、保温工程で投入する蒸気の温度は、少なくとも蒸らし工程で投入する蒸気の温度より低い方が望ましい。
【0051】
さらには、保温時間に応じて投入する蒸気の温度を最適化する必要がある。保温時間が短い場合には、ご飯の水分が最適な量(一般的には含水率60%〜65%)にあるかやや少ない程度であり、比較的高い温度の過熱蒸気(例えば160℃)を鍋内に投入することで、ご飯からの水分蒸発を抑制しながら素早くご飯温度を上昇させることができる。また、保温時間が長い場合には、ご飯の水分が少なくなっており、比較的低い温度の過熱蒸気(例えば130℃)を鍋内に投入することで、ご飯を湿潤させ含水率を最適な量にするとともに、素早くご飯温度を上昇させることができる。
【0052】
図5は再加熱工程における鍋上部付近のご飯温度を保温時間別に従来例との比較を示したグラフである。保温時間が30分の場合には160℃の過熱蒸気を10g投入し、保温時間が90分の場合には130℃の過熱蒸気を20g投入した。図5に示すように、本実施の形態1の炊飯器ではご飯上部の温度は90℃以上に達しているのに対し、従来の炊飯器では初期の温度からあまり上昇していないことが分かる。
【0053】
また、図6は再加熱工程における鍋上部付近のご飯の含水率を保温時間別に従来例との比較を示したグラフである。図6に示すように、本実施の形態1の炊飯器では鍋上部付近のご飯の含水率は60%を上回るまでに回復していることが分かる。一方、過熱蒸気を投入しない従来の炊飯器では鍋2を加熱することで、ご飯の含まれる水分が蒸発して含水率が低下している。
【0054】
本実施の形態1の炊飯器では、再加熱工程で過熱蒸気を投入することによりご飯が黄変したり劣化したりすることなく、保温中に発生する不快なにおい(有機酸類など)が過熱蒸気による加熱で低減していた。
【0055】
よって、ご飯に含まれる水分が蒸発してご飯が乾燥することもなく、蒸気を投入することで保温状態によってベチャついたり硬くなったりするということもなく、味と香りと食感ともに優れたご飯とすることができる。
【0056】
また、再加熱工程において、加熱板温度検知手段12の出力に基づき加熱板加熱手段11により加熱板10を一定温度(例えば105℃)に保持することにより、鍋2内に投入された蒸気が加熱板10に結露することを防止することができる。よって、結露した水がご飯表面に滴下することでご飯の美味しさを損なうことが無い。
【0057】
また、再加熱工程において鍋加熱手段4にも通電し所定の加熱量で鍋2を加熱することにより、ご飯は下からも加熱されることでご飯全体が素早く温度上昇し、ご飯全体が炊き立てのような熱々のご飯を提供することが出来る。
【0058】
実施の形態1の炊飯器は、蒸らし工程及び保温工程において高温蒸気を鍋2内に供給したが、他の工程で高温蒸気を鍋2内に供給しても良い。前炊き工程及び炊き上げ工程において高温蒸気を鍋2内に供給すれば、鍋2内の温度を短時間で上げることができる。沸騰維持工程において高温蒸気を鍋2内に供給すれば、おねばに蒸気が当たるので、吹きこぼれを防止できる。
【0059】
水タンク16を、鍋2と一体に形成しても良い。水タンク16を鍋2と一体化した場合、使用者が手入れする部品の点数を低減できる。更に、鍋に米と水とを入れる時に同時に水タンクに給水できるので、ユーザの炊飯準備動作を簡略化できる。
【0060】
(実施の形態2)
図7を用いて本発明の実施の形態2の炊飯器を説明する。図7は、本発明の実施の形態2の炊飯器の断面図である。
【0061】
実施の形態2の炊飯器は、実施の形態1の炊飯器の鍋2を側面から加熱する鍋側面加熱手段40を有する構成に変更したものである。その他の構成は実施の形態1の炊飯器と同等であるので、共通の部分には同一の符号を用いその説明を省略する。
【0062】
使用者が米と水を鍋2に、所定量の水を水タンク16に入れ、本体1にセットした後、炊飯器の電源を入れ、炊飯開始ボタン(図示せず)を押すと炊飯工程が開始されてから保温工程に移行し、鍋2内のご飯温度を約70℃に保持するまでは実施の形態1と同じである。
【0063】
使用者の指示により保温中のご飯を加熱する再加熱工程において、蒸気発生手段6と蒸気過熱手段14とを動作させ鍋内に過熱蒸気を投入する際に、加熱板温度検知手段12の出力に基づき鍋側面加熱手段40に通電し鍋側面部を加熱することにより、加熱板温度検知手段12の出力に基づき加熱板10に加えて鍋2側面をも加熱するので、鍋2内に投入された蒸気の加熱板や鍋側面への結露を防止することができる。よって、結露した水がご飯表面や側面に滴下することでご飯の美味しさを損なうことが無い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明の炊飯器は、炊飯直後のご飯と保温ご飯の両方ともに美味しさを最大限引き出すために、蒸らし工程と保温工程において投入する蒸気の温度を任意に設定し、かつ保温状態に応じて蒸気の温度をきめ細かく設定して投入することで、蒸らし工程ではご飯の余分な水分を蒸発させながらご飯の糊化を促進させ、保温工程では乾燥を防ぎながら炊き立てのようなご飯に仕上げ、鍋全体のご飯を美味しくする炊飯器を提供することができる。よって米を調理する加熱調理機器として有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 本体
2 鍋
3 蓋
4 鍋加熱手段
5 鍋温度検知手段
6 蒸気発生手段
7 制御手段
8 蓋カバー
9 蒸気経路
10 加熱板
11 加熱板加熱手段
12 加熱板温度検知手段
13 蒸気筒
14 蒸気過熱手段
15 パッキン(第1のパッキン)
16 水タンク
17 水タンク加熱手段
18 水タンク温度検知手段
19 パッキン(第2のパッキン)
20 吸気口
21 排気口
22 ヒータ
23 蒸気流路
24 ケース
25 フィン
26 金属薄板
27 断熱材(第1の断熱材)
28 ケース温度検知手段
29 断熱材(第2の断熱材)
30 蒸気口
31 蒸気排出経路
32 蓋蒸気口
40 鍋側面加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開口した本体と、前記本体内に着脱自在に収納される鍋と、前記本体を開閉自在に覆う蓋と、前記鍋を加熱する加熱手段と、蒸気を発生する蒸気発生手段と、前記蒸気発生手段から発生した蒸気の温度を上昇させ前記鍋内に投入する蒸気過熱手段と、を備え、
炊飯工程と保温工程において、前記蒸気発生手段と前記蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際の蒸気の温度を任意に設定できるようにした炊飯器。
【請求項2】
炊飯工程は、時間順に前炊き工程、炊き上げ工程、沸騰維持工程、蒸らし工程からなり、前記蒸気発生手段と蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際の蒸気の温度は、前記蒸らし工程よりも保温工程の方が低い温度になるようにした請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
使用者の指示により保温中のご飯を前記加熱手段により加熱する再加熱工程において、前記蒸気発生手段と前記蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際の蒸気の温度を、保温時間が長くなるに従って低くなるようにした請求項1または2に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記蓋に内装され前記鍋を覆う加熱板を有し、前記加熱板を加熱する加熱板加熱手段と、加熱板の温度を検知する加熱板温度検知手段とを有し、使用者の指示により保温中のご飯を前記加熱手段により加熱する再加熱工程において、前記蒸気発生手段と前記蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際に、前記加熱板温度検知手段の出力に基づき前記加熱板加熱手段により加熱板を一定温度に保持するようにした請求項1〜3のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項5】
鍋側面部を加熱する鍋側面加熱手段を有し、使用者の指示により保温中のご飯を前記加熱手段により加熱する再加熱工程において、前記蒸気発生手段と前記蒸気過熱手段とを動作させ鍋内に蒸気を投入する際に、前記加熱板温度検知手段の出力に基づき鍋側面部を加熱するようにした請求項4に記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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