説明

炎症誘発性サイトカインを抑制するための試薬、方法およびシステム

本発明は、TNF−α、IL−1、IL−6および他の炎症誘発性サイトカインのいずれかを標的とする低分子干渉RNA(siRNA)分子を用いた、対象における炎症および疼痛を治療するための試薬、方法およびシステムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、TNF−α、IL−1、IL−6および他の炎症誘発性サイトカインを標的とした低分子干渉RNA(siRNA)を、椎間板もしくは関節内またはその付近に送達するための埋め込み型デポ剤(implant depot)を用いた、疼痛および炎症の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
炎症誘発性サイトカインは、ミクログリアなどの活性化免疫細胞によって主に産生され、そして、炎症反応の増幅に関与する。これらには、IL−1、IL−6、TNF−□およびTGF−βが含まれる。ほんの一例として、腫瘍壊死因子α(TNF−α)は、感染または傷害に続く炎症カスケードにおいて初期に出現する。それは、単球、マクロファージおよびTリンパ球によって産生される。TNF−αは、単球、滑膜マクロファージ、線維芽細胞、軟骨細胞および内皮細胞に対してその主な効果を発揮し、そして、炎症誘発性サイトカインおよびケモカイン合成を刺激する。それは、顆粒球を活性化し、そして、MHCクラスII発現を増加させる。それは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の分泌を促進し、軟骨基質の分解へと導く。それは炎症カスケードを開始させ、そして炎症もしくは傷害組織にごく近接して増加することが見いだされているため、TNF−α阻害は、疼痛療法の標的である。TNF−α前駆体は、原形質膜上に発現し、次いで、細胞外ドメインにて切断される。三量体形成が、生物学的活性に必要とされる。TNF−αは、二つの受容体(TNFR)を介して作用する:I型受容体(p60、p55、CD120a)はほとんどの細胞型上に構成的に発現し、そして、II型受容体(p80、p75、CD120b)は誘導性である。一般的なTNF−α阻害剤は、主に、TNF−αとその受容体との結合を阻害するように作用する。現在、TNF阻害剤には、二つの主要な種類がある:1)TNF−αとその二つの細胞結合型シグナル伝達受容体(p55およびp75)との結合を妨げる、TNF−αに対するモノクローナル抗体、および、2)イムノグロブリン(Ig)Fcフラグメントに連結させることによって二量体を形成する、単量体可溶型のp55またはp75TNFR。これらのIgは、高親和性でTNF−αに結合し、そして、それがその細胞結合型受容体に結合することを妨げる。
【0003】
したがって、TNF阻害剤は、関節リウマチなどの、疼痛を生じ得る整形外科および神経筋疾患または傷害への治療的使用のために、開発された。現在用いられているTNF阻害剤は、一般には、静脈内注入および皮下注射により全身投与されるが、しかし、高用量および全身投与に伴う抗TNF療法の副作用があり、該副作用はこれらの療法には一般的である。このような副作用は、患者において組織を介して標的部位に移動するはずの薬剤の量が限られることを含み、該方法は患者の需要に応えるには不十分であって、抗TNF療法は一般には長期間必要とされることから、反復注射が必要な可能性が高く、そして、注射部位疼痛および反応が、抗TNF剤によって現れる場合がある。
【0004】
要約すれば、炎症反応は、異物を除去しようと試みる患者の領域に移動するマクロファージによる異化性サイトカインの産生によって、媒介される。炎症カスケードの目的は、損傷した組織の治癒を促進することであるが、しかし、ひとたび組織が治癒しても、炎症過程は必ずしも終わらない。抑制が効かないまま、この進行中の炎症は、周辺組織の分解および付随する慢性疼痛をもたらす可能性がある。炎症およびそれに付随する疼痛は、患者の治療に対する広大な満たされない領域を含んでなる。多数の抗炎症剤が、現在、市場にあるが、しかしながら、バイオックス(登録商標)および複数の他の薬物の使用中止から分かるように、より強力な薬剤の全身投与は、関連する健康リスクをもたらしてきた。
【0005】
したがって、前述の化合物の全身投与以外で、炎症に対する新規組成物および治療方法の需要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、炎症誘発性サイトカインの細胞レベルを調節するための試薬、方法およびシステムを提供することにより、前述の需要を満たす。出願人は、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する低分子干渉RNA(siRNA)分子が、サイトカインの発現を阻害するのに有効であることを発見したことによって、炎症およびそれに付随する疼痛を治療するための手段を提供する。
【0007】
したがって、本発明の一側面は、椎間板もしくは関節にsiRNA分子を送達するための埋め込み型デポ剤(implant depot)の使用を、提供する。本発明のsiRNA分子は、細胞において炎症誘発性サイトカインの発現を阻害可能な炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する。本発明の別の側面は、炎症および疼痛を低減させるためにsiRNA分子を椎間板内またはその付近に送達するための、埋め込み型デポ剤の使用に関する。本発明のさらに別の側面は、生分解性デポ剤インプラント(depot implant)を伴うかまたは伴わない、ペプチド導入ドメインを連結させた、TNFα、IL1、IL6および他の炎症誘発性サイトカインならびに炎症を標的とするsiRNA分子の設計に関する。
【0008】
本発明の別の側面は、細胞における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害可能な炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応するsiRNA分子をコードする、少なくとも一つのDNA配列であって、宿主細胞において前記siRNA分子の発現を導くことが可能な遺伝子制御エレメントに機能可能なように連結されている前記DNA配列を含んでなる、発現ベクターに関する。
【0009】
本発明の別の側面は、骨細胞における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害するための方法であって、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する少なくとも一つのsiRNA分子を、前記骨細胞内に導入することを含んでなる方法に関する。
【0010】
本発明の別の側面は、炎症を患う対象を治療するための方法であって、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する少なくとも一つのsiRNA分子を、前記対象に導入することを含んでなる方法に関する。
【0011】
本発明の別の側面は、炎症を患う患者を治療するためのシステムであって、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する少なくとも一つのsiRNA分子、および、前記siRNAを患者の所望の組織へ導入するための手段を含んでなる、前記システムに関する。
【0012】
さらなる側面において、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する少なくとも一つのsiRNA分子を、注射、ポンプまたはデポ剤を用いて所望の組織内に導入することが可能である。
【0013】
本発明の実施に際して、siRNAのデポ剤インプラントを、対象における標的部位またはその付近に埋め込む。このような部位の非限定的な例には、炎症を起こした神経、滑膜関節または脊髄部位、特に、脊椎椎間板腔、脊柱管または周辺の軟組織などの脊椎椎間板部位が含まれる。
【0014】
本発明の別の実施態様では、siRNAのデポ剤インプラントを膝関節に配置することによって、siRNAを膝関節の滑液に溶出させる。本発明のさらなる実施態様は、薬物デポ剤インプラントを患者の肩、腰、他の関節または脊椎に配置することを、提供する。
【0015】
一実施態様において、1またはそれより多くのsiRNA分子の標的送達システムは、好都合には、カテーテルである。別の実施態様において、標的送達システムは、シリンジである。
【0016】
本発明の一方法において、標的送達システムは、カテーテルの挿入によって標的部位もしくはその付近に局所投与される薬物デポ剤インプラントシステムを含んでなり、ここで、当該カテーテルは近位端および遠位端を有し、遠位端は、siRNAをin situにて送達するための開口部を有し、近位端は、液体により医薬送達ポンプに連結している。例えば、カテーテルの近位端は、siRNA分子を、標的部位の10cm以内、より具体的には標的部位の5cm以内に送達してもよい。
【0017】
本発明のインプラントの使用において、siRNA分子は、TNF−α、IL−1、IL−6および他の炎症誘発性サイトカインを介した炎症を阻害してもよい。
さらに提供されるのは、哺乳動物対象において鎮痛剤を提供するためのシステムであって、それを必要とする対象において標的部位に少なくとも一つのsiRNAの制御的かつ指向性送達を供するためのデポ剤を含んでなるシステムであって、標的部位における炎症を減少させる少なくとも一つのsiRNA分子を含んでなる有効量の組成物を含んでなる前記システムである。別の実施態様において、siRNA分子は、放出制御型医薬組成物をさらに含んでなる。該システムは、2またはそれより多くのsiRNA分子をさらに含んでなることが可能である。さらに別の実施態様では、デポ剤よりもむしろカテーテルが供される。この実施態様では、カテーテルは、近位端および遠位端を有し、ここで、遠位端は、医薬品をin situにて送達するための開口部を有し、近位端は、液体により医薬ポンプに連結している。別の実施態様において、カテーテルの遠位端は、siRNA分子を、標的部位の約10cm以内またはより近部に送達する。別の実施態様において、カテーテルは、siRNA分子を、標的部位の約5cm以内またはより近部に送達する。このシステムでは、少なくとも一つのsiRNA分子が、TNF−αを介した炎症を阻害してもよい。該システムは、治療有効量の少なくとも一つの骨誘導因子をさらに含んでなってもよい。適切な骨誘導因子には、これに限定されないが、骨形成タンパク質、増殖分化因子またはその生物学的活性フラグメントもしくはバリアント、LIM石灰化タンパク質またはその生物学的活性フラグメントもしくはバリアント、あるいはそれらの組み合わせが含まれる。一実施態様において、本発明のシステムは、放出制御医薬キャリアーを含んでなるデポ剤を使用する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
本発明の原理の理解を促す目的で、好ましい実施態様に対して述べることとし、そして、それを説明するために特定の言語を用いることとする。それでもなお、それによって本発明の範囲を制限することは意図されず、本明細書に例示されるものなどの、本発明の変更およびさらなる修飾、ならびに本発明の原理のさらなる応用が、通常、本発明が関係する分野の当業者が標準的に思いつくであろうように企図されることが、理解されよう。
【0019】
本発明の理解を助けるために、以下の非限定的な定義を提供する:
「遺伝子」の語は、ポリペプチドまたはその前駆体の産生に必要な制御配列およびコード配列を含んでなるDNA配列を指す。ポリペプチドは、完全長のコード配列(ゲノムDNAまたはcDNAのいずれか)によって、または、所望の活性が保持されるのであればコード配列の任意の一部分によって、コードされることが可能である。ある側面において、「遺伝子」の語は、ポリペプチドまたはその前駆体を直接的にコードするmRNA配列またはその一部分も指す。
【0020】
「トランスフェクション」の語は、細胞による外来DNAの取り込みを指す。外因性(すなわち、外来)DNAが細胞膜内に導入されているとき、細胞は「トランスフェクト」されている。トランスフェクションは、一過性(すなわち、導入されたDNAが染色体外に留まり、そして細胞分割されるうちに減少していく)であってもよく、あるいは、安定性(すなわち、導入されたDNAが、細胞ゲノムに組み込まれるか、または安定なエピソームエレメントとして維持される)であり得る。
【0021】
「コトランスフェクション」は、2またはそれより多くのベクターの所与の細胞への同時もしくは順次のトランスフェクションを指す。
「プロモーターエレメント」または「プロモーター」の語は、細胞中のRNAポリメラーゼと(例えば、直接、または他のプロモーター結合タンパク質もしくは物質を介して)結合し、そしてコード配列の転写を開始することが可能な、DNA調節領域を指す。プロモーター配列は、一般に、その3’末端において転写開始部位と結びついており、そして、任意のレベルで転写を開始させるのに必要な最小数の塩基またはエレメントを含むよう、上流(5’方向)に伸びている。プロモーター配列内には、転写開始部位(好都合には、例えば、ヌクレアーゼS1を用いたマッピングにより定義される)、ならびにRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が認められてもよい。プロモーターは、エンハンサーおよびリプレッサー配列を含む他の発現制御配列と、機能可能なように関連していてもよい。
【0022】
「機能可能な組み合わせで」、「機能可能な順序で」または「機能可能なように連結されている」の語は、所与の遺伝子の転写および/または所望のタンパク質分子の合成を導くことが可能な核酸分子が産生されるような様式の、核酸配列の連関を指す。該語はまた、機能性タンパク質が産生されるような様式の、アミノ酸配列の連関も指す。
【0023】
「ベクター」の語は、遺伝子配列を標的細胞に移入可能な核酸集合体を指す(例えば、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、粒子状キャリアーおよびリポソーム)。「発現ベクター」の語は、細胞において目的の配列もしくは遺伝子の発現を導くことが可能なプロモーターを含有する、核酸集合体を指す。ベクターは、典型的には、ベクターによりトランスフェクトされた細胞を選択するための選択マーカーをコードする核酸配列を含有する。一般に、「ベクターコンストラクト」、「発現ベクター」および「遺伝子移入ベクター」は、目的の遺伝子の発現を導くことが可能で、かつ遺伝子配列を標的細胞に移入させることが可能な、任意の核酸コンストラクトを指す。このように、該語には、クローニングおよび発現媒体、ならびにウイルスベクターが含まれる。
【0024】
「抗体」の語は、全抗体、ポリクローナルおよびモノクローナル双方、またはそのフラグメント(例えば、F(ab)、Fab、FV、VHまたはVKフラグメント)、一本鎖抗体、多量体単一特異性抗体またはそのフラグメント、あるいは、二重もしくは多重特異性抗体またはそのフラグメントを指す。該語には、ヒト化およびキメラ抗体も含まれる。
【0025】
疾患の「治療(treating)」または「治療(treatment)」は、プロトコールを実行することを指し、疾患の徴候または症状を軽減するために1またはそれより多くの薬物を患者(ヒトまたはその他)に投与することを含んでもよい。軽減は、疾患の徴候または症状が現れる前にも行うことができ、ならびにそれらが現れた後でも行い得る。このように、疾患の「治療(treating)」または「治療(treatment)」には、疾患の「防止(preventing)」または「防止(prevention)」が含まれる。加えて、「治療(treating)」または「治療(treatment)」は、徴候または症状の完全な軽減を必要とせず、治癒を必要とせず、そして、患者にわずかな効果を有するプロトコールを特に含む。
【0026】
「患者」の語は、治療を施すことが可能な生物系を指す。生物系には、例えば、個々の細胞、細胞集団(例えば、細胞培養)、器官、組織または多細胞生物が含まれることが可能である。患者は、ヒト患者または非ヒト患者を指すことが可能である。
【0027】
本発明は、任意の医学的状態または手順に伴う炎症を低減させるための有利な戦略を提供する。ほんの一例として開示されるのは、移植手順に伴う炎症反応を低減させるための化合物および方法である。
【0028】
本発明のすべての側面において、抗炎症剤の局所的送達は、全身薬の負の副作用の大部分を未然に防ぐか、または少なくとも最小化するであろう。siRNA分子の局所送達は、低用量を用い、かつ全身性副作用のリスクを最小化しつつも、目的とする標的部位において高濃度を達成するために用いることが可能である。加えて、これらの剤を生分解性デポ剤インプラントへ組み入れることによって、長期間緩和するための薬剤放出の長期化が可能となるであろう。本発明の側面は、薬剤の局所放出のためのデポ剤として作用するであろう生分解性材料へのこれらのsiRNA分子の組み入れを、供する。
【0029】
本発明の側面は、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応するsiRNA分子を用いて、細胞における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害するための、試薬、方法およびシステムを提供する。出願人は、炎症誘発性サイトカインのmRNAを標的とするsiRNA分子が、炎症誘発性サイトカインの発現を阻害するのに有効であることを発見したことによって、対象において炎症を治療するための改善された方法を提供する。本発明の方法は、分子生物学分野における通例の技術を利用して行うことが可能である。一般的な分子生物学の方法について開示している基本書には、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual(第3版、2001年)およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology(1994年)が含まれる。本発明に関連するより専門的な書には、Sohail, Gene Silencing by RNA Interference: Technology and Application(2004年)が含まれる。
【0030】
本発明の一側面は、細胞における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害可能な、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応するsiRNA分子を提供する。siRNAは、RNA干渉(RNAi)として公知の、相補的な標的mRNAの配列特異的分解を引き起こす、典型的には短い(19〜29ヌクレオチド)二本鎖RNA分子である(Bass, Nature 411:428(2001年))。したがって、いくつかの実施態様において、siRNA分子は、センス鎖とアンチセンス鎖を含んでなる二本鎖構造を含んでなり、ここで、アンチセンス鎖は、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に相補的なヌクレオチド配列を含んでなり、かつ、センス鎖は、前記アンチセンス領域のヌクレオチド配列の少なくとも一部分に相補的なヌクレオチド配列を含んでなり、そして、センス鎖とアンチセンス鎖は約19〜29ヌクレオチドをそれぞれ含んでなる。
【0031】
任意の炎症誘発性サイトカインの核酸配列は、本発明のsiRNA分子による標的となることが可能である。種々の種に由来する炎症誘発性サイトカインをコードする核酸配列は、ジェンバンクにより公開されており、ヒト(NM 000600)、マウス(NM 031168)、ラット(NM 012589)、ニワトリ(NM 204628)、イヌ(NM 001003301)、ブタ(NM 214399)およびウサギ(NM 001082064)が含まれる。好ましくは、標的とする炎症誘発性サイトカイン核酸配列は、哺乳動物のもの、より好ましくはヒトである。
【0032】
炎症誘発性サイトカインを標的とするsiRNA分子を、当該技術分野において周知の基準に基づき設計することが可能である(例えば、Elbashirら、EMBO J. 20:6877(2001年))。例えば、標的mRNAの標的セグメントは、好ましくは、AA(最も好ましい)、TA、GAまたはCAで始まるべきであり;siRNA分子のGC比率は、好ましくは45〜55%であるべきであり;siRNA分子は、好ましくは、3個の同じヌクレオチドを連続して含有すべきでなく;siRNA分子は、好ましくは、7個の混合G/Cを連続して含有すべきでなく;siRNA分子は、好ましくは、各3’末端に2個のヌクレオチドのオーバーハング(好ましくは、TT)を含んでなるべきであり;標的セグメントは、好ましくは、標的mRNAのORF(オープンリーディングフレーム)領域内にあるべきであり、そして、好ましくは、開始ATG後少なくとも75bp、およびストップコドン前少なくとも75bpであるべきであり;そして、標的セグメントは、好ましくは、他のコード配列と相同性の16〜17を超える連続塩基対を含有すべきでない。
【0033】
これらの基準の一部またはすべてに基づき、好ましい炎症誘発性サイトカインのsiRNA標的配列が、ヒト炎症誘発性サイトカインmRNA(ジェンバンクアクセッション番号NM 000600)、マウス炎症誘発性サイトカインmRNA(ジェンバンクアクセッション番号NM 031168)およびラット炎症誘発性サイトカインmRNA(ジェンバンクアクセッション番号NM 012589)において同定されており、そして、それぞれ配列番号1〜9、10〜11および12〜13に記載されている。炎症誘発性サイトカインを標的とする他のsiRNA分子を、前述の基準または他の公知の基準を用いて、当業者が設計することは可能である(例えば、Gilmoreら、J. Drug Targeting 12:315(2004年);Reynoldsら、Nature Biotechnol. 22:326(2004年);Ui-Teiら、Nucleic Acids Res. 32:936(2004年))。このような基準は、siRNA分子の設計および最適化に有用な種々のウェブベースのプログラムフォーマットにおいて利用可能である(例えば、ダーマコン社のsiDESIGN Center、インビトロジェン社のBLOCK-iT RNAi Designer;ウィスター・インスティチュート社のsiRNA Selector;ホワイトヘッド・インスティチュート社のsiRNA Selection Program;インテグレーテッドDNAテクノロジーズ社のsiRNA Design;アンビオン社のsiRNA Target Finder;および、ジェンスクリプト社のsiRNA Target Finder)。
【0034】
炎症誘発性サイトカインを標的とするsiRNA分子を、二つの相補的な一本鎖RNA分子(その一方が、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に一致する)を一緒にアニーリングすることによるか(例えば、米国特許第6,506,559)、あるいは、必要とされる二本鎖部分を作り出すために折り畳まれるショートヘアピン型RNA(shRNA)分子の使用によって(Yuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6047(2002年))、in vitroで作り出すことが可能である。このような一本鎖RNA分子を、化学的に合成するか(例えば、Elbashirら、Nature 411:494(2001年))、またはDNA鋳型を用いたin vitro転写によって作り出すことが可能である(例えば、Yuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6047(2002年))。化学合成する場合、生物学的安定性を向上させるために、化学修飾をsiRNA分子に導入することが可能である。このような修飾には、ホスホロチオエート結合、フッ素誘導体化ヌクレオチド、デオキシヌクレオチド・オーバーハング、2'-O-メチル化、2'-O-アリル化、およびロックト核酸(LNA)置換が含まれる(DorsetおよびTuschl、Nat. Rev. Drug Discov. 3:318(2004年);Gilmoreら、J. Drug Targeting 12:315(2004年))。
【0035】
炎症誘発性サイトカインを標的とするsiRNA分子を、炎症誘発性サイトカインの発現を阻害するために細胞内に導入することが可能である。したがって、本発明の別の側面は、細胞における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害するための方法であって、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する少なくとも一つのsiRNA分子を細胞内に導入することを含んでなる方法を、提供する。任意の細胞を標的とすることが可能ではあるが、siRNA分子を導入する細胞は、好ましくは骨細胞(bone cell)、より好ましくは、骨細胞(osteocyte)、軟骨細胞、線維輪細胞または髄核細胞である。いくつかの実施態様において、骨細胞(bone cell)は、炎症を患う患者、好ましくはヒト患者由来である。
【0036】
本明細書において作製されたsiRNA分子を、電気穿孔、リン酸カルシウム共沈、マイクロインジェクション、リポフェクション、ポリフェクションおよび細胞透過性ペプチド(CPP)との複合体化を含む、当該技術分野において周知の技術を用いて、in vitroまたはex vivoで細胞内に導入することが可能である。siRNA分子はまた、裸のsiRNA分子もしくは生分解性ポリマー微小球内に封入したsiRNA分子を用いた、組織の滑膜関節への直接送達、あるいは血流中もしくは鼻腔内への全身送達によって、in vivoでも細胞内に導入可能である(Gilmoreら、J. Drug Targeting 12:315(2004年))。
【0037】
あるいは、炎症誘発性サイトカインを標的とするsiRNA分子を、センスおよびアンチセンスsiRNA配列をコードする発現ベクターからの内因性の産生によって、in vivoで細胞内に導入することが可能である。したがって、本発明の別の側面は、細胞における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害可能な炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応するsiRNA分子をコードする、少なくとも一つのDNA配列であって、細胞においてsiRNA分子の発現を導くことが可能な遺伝子制御エレメントに機能可能なように連結されている前記DNA配列を含んでなる、発現ベクターを提供する。発現ベクターは、上述の方法のいずれかを用いて、細胞内に移入可能である。
【0038】
遺伝子制御エレメントには、転写プロモーターが含まれ、そしてさらに、mRNA発現レベルを上昇させるための転写エンハンサー、適切なリボソーム結合部位をコードする配列、および転写を終結させる配列が含まれてもよい。適切な真核生物プロモーターには、構成的RNAポリメラーゼIIプロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40初期プロモーター領域、ラウス肉腫ウイルス(RSV)の長い3’末端反復に含有されるプロモーター、ヘルペスチミジンキナーゼ(TK)プロモーターおよびニワトリβ−アクチンプロモータ)、組織特異的RNAポリメラーゼIIプロモーター、ならびにRNAポリメラーゼIIIプロモーター(例えば、U6、H1、7SKおよび7SL)が含まれる。
【0039】
いくつかの実施態様において、siRNA分子のセンス鎖とアンチセンス鎖は、異なる発現ベクターによってコードされる(すなわち、コトランスフェクトされる)(例えば、Yuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6047(2002年))。他の実施態様において、siRNA分子のセンス鎖とアンチセンス鎖は、同じ発現ベクターによってコードされる。センス鎖とアンチセンス鎖は、一方向性転写または双方向性転写のいずれかを用いて、単一の発現ベクターから別々に発現させることが可能である(例えば、Wangら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:5103(2003年);Tranら、BMC Biotechnol. 3:21(2003年))。あるいは、センス鎖とアンチセンス鎖を、ショートヘアピン型RNA(shRNA)分子(例えば、Artsら、Genome Res. 13:2325(2003年))またはロングヘアピン型RNA分子(例えば、Paddisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:1443(2002年))のいずれかとしての、単一のヘアピン型RNA分子の形で、単一の発現ベクターから一緒に発現させることが可能である。
【0040】
多数の発現ベクターを、細胞においてsiRNA分子を発現させるために用いることが可能ではあるが(DorsettおよびTuschl、Nat. Rev. Drug Discov. 3:318(2004年))、ウイルス発現ベクターが好ましい(例えば、アルファウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV))(WilliamsおよびKoch、Annu. Rev. Physiol. 66:49(2004年);del MonteおよびHajjar、J. Physiol. 546.1:49(2003年))。アデノウイルスおよびAAVのベクターは、ともに、哺乳動物細胞内にトランスジーン(炎症誘発性サイトカインに向けたトランスジーンを含む)を送達するのに有効であることが示されている(例えば、Iwanagaら、J. Clin. Invest. 113:727(2004年);Sethら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:16683(2004年);Championら、Circulation 108:2790(2003年);Liら、Gene Ther. 10:1807(2003年);Vassalliら、Int. J. Cardiol. 90:229(2003年);del Monteら、Circulation 105:904(2002年);Hoshijimaら、Nat. Med. 8:864(2002年);Eizemaら、Circulation 101:2193(2000年);Miyamotoら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:793(2000年);Heら、Circulation 100:974(1999年)
)。最近の報告により、マウスおよびハムスター細胞において1年以上遺伝子発現を持続させるためのAAVベクターの使用が、示された(Liら、Gene Ther. 10:1807(2003年);Vassalliら、Int. J. Cardiol. 90:229(2003年))。特に、AAVセロタイプ6に基づく発現ベクターは、筋細胞へ効率的に形質導入することが示されている(例えば、Blankinshipら、Mol. Ther. 10:671(2004年))。本発明はまた、炎症誘発性サイトカインsiRNAの送達に向けたコクサッキーウイルスの使用も提供する。
【0041】
炎症誘発性サイトカインsiRNA分子の細胞への導入後、炎症誘発性サイトカイン遺伝子産物レベルの変化を、所望により測定することが可能である。炎症誘発性サイトカイン遺伝子産物には、例えば、炎症誘発性サイトカインmRNAおよび炎症誘発性サイトカインポリペプチドが含まれ、そして、双方を、当該技術分野において周知の方法を用いて測定することが可能である。例えば、炎症誘発性サイトカインmRNAを、直接検出し、そして、例えばノーザンハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーション、ドットおよびスロットブロット、またはオリゴヌクレオチドアレイを用いて定量することが可能であり、あるいは、検出および定量前に、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写PCR(RT−PCR)、PCR−酵素結合免疫吸着測定法(PCR−ELISA)またはリガーゼ連鎖反応(LCR)を用いて増幅することが可能である。
【0042】
炎症誘発性サイトカインポリペプチド(またはそのフラグメント)を、例えば酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫沈降法、免疫蛍光法およびウエスタンブロット法などの、種々の周知の免疫アッセイを用いて、検出および定量することが可能である。免疫アッセイにおける使用のための抗炎症誘発性サイトカイン抗体(好ましくは、抗ヒト炎症誘発性サイトカイン)は、例えば、EMDバイオサイエンシズ社(サンディエゴ、カリフォルニア州)、アップステート社(シャーロッツビル、バージニア州)、アブカム社(ケンブリッジ、マサチューセッツ州)、アフィニティ・バイオリエージェント社(ゴールデン、コロラド州)およびノーバス・バイオロジカルズ社(リトルトン、コロラド州)から市販されており、あるいは、当業者に周知の方法によって作製されてもよい。
【0043】
炎症誘発性サイトカインの細胞発現を阻害するためのsiRNA分子の使用は、対象における炎症治療のための方法としての有用性が見いだされる。したがって、本発明の別の側面は、炎症を患う患者を治療するための方法であって、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する少なくとも一つのsiRNA分子を前記患者に導入することを含んでなる方法を、提供する。このような炎症の治療方法を、炎症誘発性サイトカインを標的とするsiRNA分子の組織への送達を供するシステムを用いて、行うことが可能である。したがって、本発明の別の側面は、炎症を患う患者を治療するためのシステムであって、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する少なくとも一つのsiRNA分子、およびsiRNA分子を患者の組織内に導入するための手段を含んでなるシステムを、提供する。好ましい実施態様において、患者はヒトである。
【0044】
例えば、カテーテル、シリンジまたはデポ剤インプラントなどの、組織遺伝子送達のための多数の周知の方法が、存在する。好ましい送達システムには、デポ剤インプラントが含まれる。本発明のデポ剤インプラントは、例えば対象の滑膜関節、脊椎椎間板、脊柱管または組織などの対象の所望の部位において、埋め込みおよび保持を容易にするための物理的構造;ならびに、該部位へsiRNA分子を標的化送達するための濃度勾配を供するsiRNA分子を、含んでなる。本発明のインプラントは、インプラントから約1cm〜約5cmの距離に、siRNA分子の最適な薬物濃度勾配を供する。本発明のインプラントは、対象へsiRNA分子を送達するための挿入カニューレをさらに含んでなってもよい。
【0045】
本発明の別の側面は、siRNA分子を対象の滑膜関節、椎間板腔、脊柱管、または脊柱管周囲の軟組織へ送達するための方法であって、対象の滑膜関節、椎間板腔、脊柱管、または脊柱管周囲の軟組織内に、微小球を含んでなる薬物デポ剤インプラントを挿入することを含んでなる方法を提供し、ここで、該微小球は、薬剤を対象へ標的化送達するための濃度勾配を供するsiRNA分子を含んでなり、該微小球は、滑膜関節、椎間板腔、脊柱管、または脊柱管周囲の軟組織内に注射される。
【0046】
本発明の別の側面は、siRNA分子を対象の滑膜関節、椎間板腔、脊柱管、または脊柱管周囲の軟組織へ送達するための方法であって、対象の滑膜関節、椎間板腔、脊柱管、または脊柱管周囲の軟組織内に、粘性ゲル、およびsiRNA分子の詰め込まれた微小球を含んでなる薬物デポ剤インプラントを挿入することを含んでなる方法を、提供する。ゲルと微小球との組み合わせは、対象の滑膜関節、椎間板腔、脊柱管、または脊柱管周囲の軟組織内に配置される。本発明の一実施態様において、ゲルは、組織と接触して硬化する、スプレー可能もしくは注射可能な粘着性ゲルである。
【0047】
当業者は、炎症誘発性サイトカインsiRNA標的配列を、キャリアーに載せて、かつ/または持続放出型処方物内に含めて送達してもよいことを、理解するであろう。
持続放出型処方物:
本発明の別の実施態様において、炎症誘発性サイトカインsiRNA標的配列、および所望により、添加剤が、持続放出型処方物内に提示されてもよい。適切な持続放出型処方物には、これに限定されないが、カプセル、微小球、粒子、ゲル、コーティング、マトリクス、ウェーハ、丸薬または他の医薬送達組成物が含まれる。このような持続放出型処方物の例については、例えば、米国特許第6,953,593、第6,946,146、第6,656,508、第6,541,033、第6,451,346に、これまでに記載されており、該出願の内容は、参照によって本明細書に援用される。持続放出型処方物の多くの製造方法が、当該技術分野において公知であり、そして、参照により本明細書に援用されるRemington's Pharmaceutical Sciences(第18版;マック・パブリッシング・カンパニー、イートン、ペンシルバニア州、1990年)に開示されている。
【0048】
一般には、炎症誘発性サイトカインsiRNA標的配列を、固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスに封入することが可能である。マトリクスは、フィルムまたはマイクロカプセルへと成形可能である。このようなマトリックスの例には、これに限定されないが、ポリエステル類、L-グルタミン酸とガンマエチル-L-グルタメートのコポリマー(Sidmanら(1983年)、Biopolymers 22:547-556)、ポリ乳酸類(米国特許第3,773,919およびEP 58,481)、ポリ乳酸-コ-グリコリドなどのポリ乳酸ポリグリコール酸(PLGA)(例えば、米国特許第4,767,628および第5,654,008を参照されたい)、ヒドロゲル類(例えば、Langerら(1981年) J. Biomed. Mater. Res. 15:167-277;Langer(1982年) Chem. Tech. 12:98-105を参照されたい)、非分解性エチレン酢酸ビニル(例えば、エチレン酢酸ビニルディスクおよびポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル))、ルプロンデポ(商標)などの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、ポリ-D-(−)-3-ヒドロキシ酪酸(EP 133,988)、ヒアルロン酸ジェル(例えば、米国特許第4,636,524を参照されたい)、アルギニン酸懸濁液、ポリオルトエステル類(POE)等が含まれる。
【0049】
適切なマイクロカプセルには、コアセルベーション技術または界面重合によって製造される、ヒドロキシメチルセルロースもしくはゼラチンのマイクロカプセルおよびポリメチル・メタクリレートマイクロカプセルも含まれることが可能である。タンパク質をPLGA微小球に封入する、「Method for Producing Sustained-release Formulations」と題するPTC公開WO 99/24061を参照されたい。該出願は、参照によって本明細書に援用される。加えて、リポソームおよびアルブミン微小球のようなマイクロエマルジョンまたはコロイド薬物送達システムもまた用いてよい。Remington's Pharmaceutical Sciences(第18版;マック・パブリッシング・カンパニーCo.、イートン、ペンシルバニア州、1990年)を参照されたい。他の好ましい持続放出型組成物は、投与部位に炎症誘発性サイトカインsiRNA標的配列を保持するために、生体接着性物質を使用する。
【0050】
持続放出型処方物は、急速でない放出を提供する可能性のある、生分解性ポリマーを含んでなってもよい。持続放出型処方物に適した生分解性ポリマーの非限定的な例には、例えば米国特許第6,991,654および米国特許出願第20050187631に記載されるように、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PG)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)のポリエチレングリコール(PEG)複合体、ポリオルトエステル類、ポリアスピリン類、ポリホスファゲン類、コラーゲン、デンプン、キトサン類、ゼラチン、アルギン酸塩、デキストラン類、ビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、PVA−g−PLGA、PEGT−PBTコポリマー(ポリアクティブ)、メタクリル酸塩、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、PEO−PPO−PEO(プルロニクス)、PEO−PPO−PAAコポリマー類、PLGA−PEO−PLGA、ポリオルトエステル類(POE)、またはそれらの任意の組み合わせが含まれ、該出願のそれぞれは、その全体が参照によって本明細書に援用される。
【0051】
当業者は、異なる組み合わせの持続放出型処方物もまた本発明に適していることを、理解するであろう。例えば、当業者は、少なくとも一つの炎症誘発性サイトカインsiRNA標的配列を、ゲルと、少なくとも一つの炎症誘発性サイトカインsiRNA標的配列の詰め込まれた微小球との組み合わせとして、処方物化してもよく、ゲルと微小球との組み合わせは、骨欠損内に配置される。
【0052】
本発明の実施に際して、投与は、局所性かつ持続性である。例えば、キャリアー、持続放出型処方物、および炎症誘発性サイトカインsiRNA標的配列の総量に応じて、当業者は、約1日〜約6ヶ月の範囲の所望の期間に活性材料を放出することになる組み合わせを、選択することが可能である。
【0053】
炎症誘発性サイトカイン阻害の予期せぬ毒性効果を防ぐために、療法では、低用量で開始し、そして結果を評価することによって用量設定を行い、続いて、必要に応じて追加の送達を行うことが可能である。
【0054】
本発明の試薬、方法およびシステムはまた、対象の多くの器官への適用にも有用である。
本発明の方法に記載の具体的な実施態様を、これから、以下の実施例において記載していくこととする。本明細書では、本発明を、特定の実施態様に準拠して記載しているが、これらの実施態様は本発明の原理および用途の一例に過ぎないことが、理解されよう。したがって、多数の修飾が、例示的な実施態様に対して行われてもよく、かつ、他の構成が、以下の特許請求の範囲に定義される本発明の精神および範囲を逸脱することなく考案されてもよいことが、理解されよう。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
炎症誘発性サイトカインIL−6 siRNAの標的配列
以下の炎症誘発性サイトカインsiRNA標的配列を、ヒト炎症誘発性サイトカインIL−6のmRNA(ジェンバンクアクセッション番号NM 000600)のオープンリーディングフレームに基づき同定した。IL−6標的配列は、以前に同定された(Kettner-BuhrowおよびKracht(2005年11月)、Suppression Of Stable Cytokine mRNAs using siRNA Oligonucleotides, www.mwg-biotech.com)。
【0056】
ヒト炎症誘発性サイトカインIL−6標的配列1:
5’−TTTATACCAATAAACGGCATTT−3’(配列番号1)
ヒト炎症誘発性サイトカインIL−6標的配列2:
5’−CCAGTGCCTCTTTGCTGCTT−3’(配列番号2)
(実施例2)
炎症誘発性サイトカインIL−6発現の阻害
ヒト炎症誘発性サイトカインIL−6標的配列1(配列番号1)を標的とするsiRNA二本鎖を、MWGバイオテック社が商業的に作製した(Kettner-BuhrowおよびKracht、2006年、Suppression of Stable Cytokine mRNAs Using siRNA Oligonucleotides, www.MWG-Biotech.com)。以下のオリゴヌクレオチドを、IL−6 siRNA二本鎖を作出するために用いた:
オリゴ1:5’−AAATGCCGTTTATTGGTATAAA−3’(配列番号3);および、
オリゴ2:5’−AAGCAGCAAAGAGGCACTGG−3’(配列番号4)。
【0057】
培養KB細胞(3x10)/6穴に、種々の濃度のsiRNA(25〜200nM)またはトランスフェクション試薬のみ(0nM)を、製造業者の推奨する方法にしたがってjetSI(商標)−ENDOを用いて、トランスフェクトした。24時間後に、全RNAをトランスフェクトされた細胞から回収し、そして、細胞における炎症誘発性サイトカインIL−6のmRNA量を、IL−6オリゴ1および2(それぞれ、配列番号3および4)のmRNA発現についてのRT−PCRを用いて測定した。トランスフェクトされていない細胞と比較した、処理細胞における炎症誘発性サイトカインIL−6のmRNA相対量を、アガロースゲル電気泳動にかけたRT−PCR産物の対応するエチジウムブロマイド染色バンドの相対強度を比較することにより、測定した。結果は、IL−6 siRNAのKB細胞へのトランスフェクションにより、25nM siRNAをトランスフェクトされた細胞においておよそ50%、トランスフェクトしなかった対照細胞と比較して、炎症誘発性サイトカインIL−6の低減を生じることを示した。これらのデータは、炎症誘発性サイトカインIL−6を標的とするsiRNAのKB細胞へのトランスフェクションによって、KB細胞で発現する炎症誘発性サイトカインIL−6量の低減が生じることを、明確に示している。
【0058】
(実施例3)
炎症誘発性サイトカインTNF−α発現の阻害
マウスにおける抗TNF siRNAの腹腔内注射により、腹腔TNF−αレベルが低減する(ただし、IL−1αレベルは低減せず、特異性が示される)こともまた示された。siRNA分子を、TNF□ mRNAの異なる部位を標的とするよう選択し、そして、一本鎖(センスまたはアンチセンス)または二本鎖siRNA(同じ部位に対するセンスおよびアンチセンス)のいずれかとして注射した。
【0059】
ds−siRNA配列のセンス鎖は、以下のとおりであった:
部位1:5’−GUGCCUAUGUCUCAGCCUCUU−3’(配列番号5)
部位2:5’−GAUCAUCUUCUCAAAAUUCUU−3’(配列番号6)
部位3:5’−GACAACCAACUAGUGGUGCUU−3’(配列番号7)
部位4:5’−GGAGAAAGUCAACCUCCUCUU−3’(配列番号8)
部位5:5’−GGCCUUCCUACCUUCAGACUU−3’(配列番号9)
ds−siRNAコンストラクトは、一本鎖コンストラクトよりも効率的であった。二本鎖siRNAの標的部位3(配列番号7)の投与を含んでなる治療が、最も効率的であった。
【0060】
さらに、ds−siRNAは、致死用量のLPSの注射(siRNA送達後18時間)からも保護した(Sorensenら(2003年) J. Mol. Biol. 4:327(4):761-6)。重要なことに、マウスにおける致死用量のリポポリサッカライド注射後の敗血症の発症は、抗TNF□ siRNAで動物を前処理することによって有意に阻害され、そのセンス配列は以下のとおりであった:
5’−GACAACCAACUAGUGGUGCdTdT−3’(配列番号10);および、
5’−GUGCCUAUGUCUCAGCCUCdTdT−3’(配列番号11)。
【0061】
まとめると、これらの結果は、合成siRNAが医薬物としてin vivoで機能可能なことを示している。
(実施例4)
デポ剤インプラント
ある特定の用途において、本発明は、デポ剤インプラントを企図する。以下、「棒状」の語は、縦軸を伴う任意の形状を示すことが意図される−すなわち、ある方向がもう一方の方向よりも長く;縦軸の横断面の形状は任意の形状であってもよいが、しかし好ましくは、楕円形または円形である。インプラントは、生分解性材料から作られた棒状(もしくは弾丸状)の本体を含んでなる。非生分解性の本体は、単独での、または生分解性ポリマーに組み入れられた治療剤で満たされる、多孔質の中空チャンバーであることが可能である。それがその内容物を放出した後に、それを回収可能であることが、それを非生分解性とするためには望ましい場合がある。あるいは、非生分解性の本体は、内容物を細孔、ポートまたはカニューレから押し出す、小ポンプであることが可能である。本体に適した生分解性材料の非限定的な例には、ポリオルトエステル類(POE)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)ポリサッカライド類(セイバーテクノロジー)、ポリカプララクトン、ポリフマレート、チロシンポリカーボネート等が含まれる。本体は固体であり、そして、siRNA分子は、本体を形成する材料全体に分散している。siRNA分子の分散は、本体全体に均等であってもよい。あるいは、siRNA分子の濃度は、本体の縦中心線からの距離に応じて、または、縦中心線に沿った距離に応じて、変化してもよい。本体の生分解性材料が組織内で分解するにつれて、siRNA分子が放出される。1またはそれより多くのsiRNA分子を保有し、かつsiRNA分子の放出を制御するために、適切な持続放出型材料を、本体に用いてもよい。例えば、微小球を、治療剤を被包するために用いてもよく;次いで、治療剤を含有する微小球を本体に分散させる。埋め込み物は、約1mm〜約6mmの幅および約5mm〜約20mmの長さを有してもよい。器具に対する適切な長さおよび幅の選択は、標的とする埋め込み部位に応じて決まることとなり、かつ、当業者に周知である。
【0062】
特許出版物および非特許出版物の双方である、本明細書に引用されたすべての出版物は、本発明に関わる当業者の水準を示唆している。すべてのこれらの出版物は、個々の出版物が、それぞれ、参照によって援用されていることを具体的かつ個々に示されたのと同程度に、十分に、参照によって本明細書に援用される。
【0063】
本明細書では、本発明を、特定の実施態様に準拠して記載しているが、これらの実施態様は本発明の原理および用途の一例に過ぎないことが、理解されよう。したがって、多数の修飾が、例示的な実施態様に対して行われてもよく、かつ、他の構成が、以下の特許請求の範囲に定義される本発明の精神および範囲を逸脱することなく考案されてもよいことが、理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体;
細胞における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害可能な炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応するsiRNA分子;
を含んでなるデポ剤インプラント(depot implant)であって、siRNA分子が本体内に配置され;かつ、本体がsiRNA分子を溶出可能である、前記デポ剤インプラント。
【請求項2】
炎症誘発性サイトカインが、TNF−α、IL−1およびIL−6からなる群より選択される、請求項1に記載のデポ剤。
【請求項3】
siRNA分子が、センス鎖とアンチセンス鎖を含んでなる二本鎖構造を含んでなり、ここで、前記アンチセンス鎖は、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に相補的なヌクレオチド配列を含んでなり、かつ、前記センス鎖は、前記アンチセンス領域のヌクレオチド配列の少なくとも一部分に相補的なヌクレオチド配列を含んでなり、そして、前記センス鎖と前記アンチセンス鎖は約19〜約29ヌクレオチドをそれぞれ含んでなる、請求項1に記載のデポ剤。
【請求項4】
本体が、空洞を定義するシェルを含んでなり、siRNA分子が空洞内に配置され、さらに、シェルが、siRNA分子に対して少なくとも部分的に透過性である、請求項1に記載のデポ剤インプラント。
【請求項5】
本体;
細胞における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害可能な炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応するsiRNA分子をコードする、少なくとも1つのDNA配列であって、宿主細胞において前記siRNA分子の発現を導くことが可能な遺伝子制御エレメントに機能可能なように連結されている前記DNA配列を含んでなる、発現ベクター;
を含んでなるデポ剤インプラントであって、発現ベクターが本体内に配置され;かつ、本体が発現ベクターを溶出可能である、前記デポ剤インプラント。
【請求項6】
siRNA分子が、ヘアピン型RNA分子の形状にて発現する、請求項5に記載のデポ剤。
【請求項7】
発現ベクターがウイルスベクターである、請求項5に記載のデポ剤。
【請求項8】
ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項5に記載のデポ剤。
【請求項9】
ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項7に記載のデポ剤。
【請求項10】
ウイルスベクターがコクサッキーウイルスベクターである、請求項7に記載のデポ剤。
【請求項11】
炎症誘発性サイトカインが、TNF−α、IL−1およびIL−6からなる群より選択される、請求項5に記載のデポ剤。
【請求項12】
炎症を患う患者を治療するためのシステムであって、炎症誘発性サイトカイン核酸配列の少なくとも一部分に対応する少なくとも一つのsiRNA分子、および前記siRNA分子を患者の細胞へ導入するための手段を含んでなる、前記システム。
【請求項13】
手段が、インプラント、またはポンプおよびカテーテルを含んでなる、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
siRNA分子が、ウイルスベクターからの発現により導入される、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
ウイルスベクターがコクサッキーウイルスベクターである、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
患者がヒトである、請求項12に記載のシステム。
【請求項19】
炎症誘発性サイトカインが、TNF−α、IL−1およびIL−6からなる群より選択される、請求項12に記載のシステム。
【請求項20】
患者における炎症誘発性サイトカインの発現を阻害するための薬剤の製造における、請求項1〜11に記載のデポ剤インプラントの使用。
【請求項21】
患者における炎症の治療のための薬剤の製造における、請求項1〜11に記載のデポ剤インプラントの使用。

【公表番号】特表2009−545614(P2009−545614A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523003(P2009−523003)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【国際出願番号】PCT/US2007/074798
【国際公開番号】WO2008/019254
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(506298792)ウォーソー・オーソペディック・インコーポレーテッド (366)
【Fターム(参考)】