説明

炭化ケイ素単結晶の製造装置及び製造方法

【課題】炭化ケイ素の単結晶原料の製造と、炭化ケイ素単結晶の成長とを、1台の装置を用いて連続して行うことができ、得られた単結晶原料や炭化ケイ素単結晶に不純物が混入する虞も無い炭化ケイ素単結晶の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素粉体または前駆体11を貯留する容器12と、炭化ケイ素粉体または前駆体11を加熱する高周波コイル14とを備え、炭化ケイ素粉体または前駆体11から炭化ケイ素の単結晶原料を生成する単結晶原料部3と、炭化ケイ素種結晶23を固定する種結晶支持部21と、種結晶支持部21を加熱する高周波コイル22とを備えた炭化ケイ素単結晶製造装置1において、まず、炭化ケイ素粉体または前駆体11を焼成して比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料を得た後、前記単結晶原料を昇華させ、炭化ケイ素種結晶23上に炭化ケイ素単結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素単結晶の製造装置及び製造方法に関し、さらに詳しくは、改良レーリー法にて炭化ケイ素単結晶を成長させる際に用いて好適な炭化ケイ素単結晶の製造装置及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化ケイ素単結晶を作製する方法としては、改良レーリー法がよく知られている。この改良レーリー法は、炭化ケイ素単結晶の製造装置内に温度勾配を設け、高温部にて昇華させた炭化ケイ素からなる単結晶原料を、種結晶を設置した低温部にて該種結晶に供給し、この種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させる方法である。単結晶原料を昇華させるためには、2200℃以上の温度が必要である(特許文献1〜4)。
【0003】
また、単結晶原料が安定した昇華速度を得るためには、粒子径が10μm以上であり不純物が混じらない高純度の炭化ケイ素粉体を使用する必要がある。
このような単結晶原料は、粗い粒子やブロック状の塊を粉砕して作製すると、不純物が混入するので好ましくない。そこで、化学反応により合成した10μm未満の微粉体を2000℃以上で熱処理して粒成長させることにより、得ている(特許文献5、6)。
なお、上記の熱処理には、微粉体の合成装置あるいは単結晶製造装置とは別の高温加熱装置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−74653号公報
【特許文献2】特開2008−74662号公報
【特許文献3】特許第3898278号公報
【特許文献4】特開2009−46367号公報
【特許文献5】特開2009−173501号公報
【特許文献6】特許第3934695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の改良レーリー法を適用した炭化ケイ素単結晶の製造装置では、炭化ケイ素の単結晶原料を微粉体の合成装置あるいは単結晶製造装置を用いて作製した後、高温加熱装置を用いて熱処理し粒成長させているので、単結晶原料製造と結晶成長とを、2000℃以上の温度にも耐え得る装置を用いて別々に行う必要があり、エネルギーの損失が大きいという問題点があった。
また、単結晶原料の製造と結晶成長とを、異なる装置を用いて別々に行う場合、単結晶原料の製造と結晶成長の間に高温加熱プロセスが必要となるので、この高温加熱プロセスにより、得られた単結晶原料や炭化ケイ素単結晶に不純物が混入する虞があるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、炭化ケイ素の単結晶原料の製造と、炭化ケイ素単結晶の成長とを、1台の装置を用いて連続して行うことができ、得られた単結晶原料や炭化ケイ素単結晶に不純物が混入する虞も無い炭化ケイ素単結晶の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、炭化ケイ素単結晶の製造装置を、炭化ケイ素の単結晶原料を作製する単結晶原料部と、炭化ケイ素種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させる結晶成長部とにより構成し、単結晶原料部にて生成された炭化ケイ素の単結晶原料を結晶成長部に供給し、この結晶成長部にて炭化ケイ素種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させることとすれば、単結晶原料の製造と、炭化ケイ素単結晶の成長とを、1台の装置を用いて連続して行うことができ、得られた単結晶原料や炭化ケイ素単結晶に不純物が混入する虞が無いことを知見し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明の炭化ケイ素単結晶の製造装置は、炭化ケイ素の粉体または前駆体から炭化ケイ素単結晶を得る炭化ケイ素単結晶の製造装置であって、
前記炭化ケイ素の粉体または前駆体を貯留する容器と、この容器内の前記炭化ケイ素の粉体または前駆体を加熱する第1の加熱手段とを備え、前記炭化ケイ素の粉体または前駆体を加熱することにより比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料を生成する単結晶原料部と、
下端部に炭化ケイ素種結晶を固定するとともに、上下方向に移動可能かつ上下方向の任意の位置に固定可能な種結晶支持部と、この種結晶支持部を加熱する第2の加熱手段とを備え、前記炭化ケイ素種結晶に前記単結晶原料を供給し、前記炭化ケイ素種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させる結晶成長部と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
前記単結晶原料部と前記結晶成長部との間に開閉機構を設け、この開閉機構を開閉することにより、前記単結晶原料部にて昇華する単結晶原料の前記結晶成長部への供給を制御することが好ましい。
【0010】
本発明の炭化ケイ素単結晶の製造方法は、炭化ケイ素の粉体または前駆体から炭化ケイ素単結晶を得る炭化ケイ素単結晶の製造方法であって、炭化ケイ素の粉体または前駆体を加圧により圧縮し、次いで、この圧縮した炭化ケイ素の粉体または前駆体を加熱することにより、比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料を生成し、次いで、この単結晶原料を炭化ケイ素種結晶に供給し、この炭化ケイ素種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させることを特徴とする。
【0011】
前記単結晶原料の比表面積を0.001m/g以上かつ0.1m/g以下とすることが好ましい。
加圧された前記炭化ケイ素の粉体または前駆体の密度を1g/cm以上とすることが好ましい。
前記単結晶原料を昇華させる領域の圧力を、前記炭化ケイ素単結晶を成長させる領域の圧力より低くすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭化ケイ素単結晶の製造装置によれば、炭化ケイ素の粉体または前駆体を貯留する容器と、この容器内の炭化ケイ素の粉体または前駆体を加熱する第1の加熱手段とを備えた単結晶原料部と、炭化ケイ素種結晶を固定する種結晶支持部と、この種結晶支持部を加熱する第2の加熱手段とを備えた結晶成長部と、を備えたので、単結晶原料部にて生成した比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料を結晶成長部に供給し、この結晶成長部にて炭化ケイ素種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させることとなり、よって、炭化ケイ素の単結晶原料の製造と、炭化ケイ素単結晶の成長とを、1台の装置を用いて連続して行うことができ、エネルギーの損失が少なく、製造工程の作業効率を向上させることができる。したがって、炭化ケイ素単結晶を、少ないエネルギーの損失で、短時間にて簡便に製造することができる。
また、単結晶原料を装置間で移動させる必要がないので、得られた単結晶料や炭化ケイ素単結晶に不純物が混入する虞も無い。
【0013】
本発明の炭化ケイ素単結晶の製造方法によれば、加圧により圧縮した炭化ケイ素の粉体または前駆体を加熱することにより、比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料を生成させ、次いで、この単結晶原料を炭化ケイ素種結晶に供給し、この炭化ケイ素種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させるので、炭化ケイ素の単結晶原料の製造と、炭化ケイ素単結晶の成長とを、連続して行うことができる。したがって、得られた単結晶原料や炭化ケイ素単結晶に不純物が混入する虞が無く、エネルギーの損失も少なく、原料製造工程及び炭化ケイ素単結晶成長工程の作業効率を向上させることができる。したがって、炭化ケイ素単結晶を、少ないエネルギーの損失で、短時間にて簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の炭化ケイ素単結晶の製造装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の炭化ケイ素単結晶の製造装置における結晶成長段階の動きを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の炭化ケイ素単結晶の製造装置及び製造方法を実施するための形態について、図面に基づき説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態の炭化ケイ素単結晶の製造装置を示す断面図であり、この炭化ケイ素単結晶製造装置1は、不活性雰囲気または還元性雰囲気の非酸化性雰囲気中にて炭化ケイ素の単結晶原料を製造する工程と、炭化ケイ素単結晶を成長させる工程とを2段階に分けて行う装置であり、単結晶原料の製造及び単結晶の成長の各領域を非酸化性雰囲気に保持する断熱材2と、単結晶原料部3と、単結晶原料部3の上方に設けられた結晶成長部4と、単結晶原料部3と結晶成長部4との間に設けられた開閉機構5とを備えている。
【0017】
単結晶原料部3は、炭化ケイ素の粉体または前駆体11を貯留する容器12と、この容器12を下側から支持する支柱13と、断熱材2の外側を巻回するように設けられ容器12内の炭化ケイ素の粉体または前駆体11を加熱する高周波コイル(第1の加熱手段)14とを備えている。
この単結晶原料部3では、容器12に、炭化ケイ素の粉体または前駆体11、あるいは炭化ケイ素の粉体または前駆体11を加圧成形して得られた成形体15を投入し、高周波電源から高周波コイル14に高周波電圧を印加することにより、炭化ケイ素の粉体または前駆体11、あるいは成形体15が加熱され、安定した昇華速度が得られるように比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料16が得られるようになっている。
【0018】
結晶成長部4は、上下方向に移動可能かつ上下方向の任意の位置に固定可能な棒状体からなる種結晶支持部21と、断熱材2の外側を巻回するように設けられ、この種結晶支持部21を加熱する高周波コイル(第2の加熱手段)22とを備えている。
種結晶支持部21の下端部21aには、炭化ケイ素種結晶23が固定され、この下端部21aの炭化ケイ素種結晶23より上方には、容器12を密閉するための円板状の蓋24が水平に設けられている。
この結晶成長部4では、種結晶支持部21の下端部21aに炭化ケイ素種結晶22を固定し、図2に示すように、この種結晶支持部21を下降させて蓋24を容器12の開口に密着させ、高周波コイル22により加熱された単結晶原料16を昇華させて炭化ケイ素種結晶22に供給し、この炭化ケイ素種結晶22を核として炭化ケイ素単結晶を成長させるようになっている。
【0019】
開閉機構5は、単結晶原料部3と結晶成長部4との間を開閉するもので、容器12の開口を塞ぐのに十分な面積を有する円板状の分離扉31と、この分離扉31を水平面内の一方向に移動するとともに該水平面内の一方向の任意の位置に固定することが可能な駆動装置32とを備えている。
この開閉機構5では、図1に示すように、駆動装置32を駆動させて分離扉31を容器12に向かって移動することにより容器12の開口を遮蔽し、また、図2に示すように、分離扉31を容器12から離間する方向に移動することにより容器12の開口を開放するようになっている。
【0020】
次に、この炭化ケイ素単結晶製造装置1を用いて炭化ケイ素単結晶を製造する方法について、図1及び図2に基づき説明する。
まず、図1に示す炭化ケイ素の粉体または前駆体11を用意する。
炭化ケイ素粉体としては、粒径が10μm以下の炭化ケイ素微粉体が好ましい。
また、炭化ケイ素前駆体としては、ケイ素元素を含むケイ素源及び炭素元素を含む炭素源の双方を含有する混合物または化合物であればよく、炭化ケイ素の製造に用いられる公知のケイ素源及び炭素源を適宜用いることができる。
【0021】
このようなケイ素源としては、固体状または液状のものが用いられる。
固体状のケイ素源としては、例えば、シリカゾル(コロイド状超微細シリカ含有液、内部に水酸基(−OH)やアルコキシル基を含む)、二酸化ケイ素(シリカゲル、微細シリカ、石英粉体)等が挙げられる。これらの固体状のケイ素源を炭素源と均一に混合させるためには、微細な粒子径の粉体を使用することが好ましい。
【0022】
また、液状のケイ素源としては、例えば、ケイ酸アルカリ水溶液を酸分解あるいは脱アルカリすることにより得られたもの、例えば、水ガラスの脱アルカリにより得られたケイ酸ポリマー;水酸基(−OH)を有する有機化合物とケイ酸とのエステル;テトラエトキシシラン(Si(OC)、テトラメトキシシラン(Si(OCH)等のアルコキシド;等からなる加水分解性ケイ酸化合物と、有機化合物または有機金属化合物とのエステル等が挙げられる。
【0023】
一方、上記の炭素源としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン等の固体の炭素、あるいは、液状でしかも加熱した際の残炭率が高い有機化合物、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等の樹脂のモノマーやプレポリマー等が好適に用いられる。
その他、セルロース、しょ糖、ピッチ、タール等も好適に用いられる。
このような炭化ケイ素の粉体または前駆体11は、得られる炭化ケイ素単結晶が必要な機能を有するためには、金属不純物が1ppm以下の高純度のものを使用することが好ましい。
【0024】
次いで、この炭化ケイ素の粉体または前駆体11を容器12に投入する。
ここで、この炭化ケイ素の粉体または前駆体11から効率よく単結晶原料16を得るためには、充填密度を高くすることが好ましく、例えば、この炭化ケイ素の粉体または前駆体11を加圧成形することにより圧縮し、所定の形状の成形体15とすることが好ましい。
なお、炭化ケイ素前駆体を用いる場合、この炭化ケイ素前駆体が反応して炭化ケイ素を生成する際に一酸化炭素を発生させる虞がある。この場合、単結晶原料部3に一酸化炭素を処理する装置を設けることが好ましい。
【0025】
この炭化ケイ素の粉体または前駆体11の充填密度、あるいは成形体15の密度は、1g/cm以上が好ましい。
ここで、充填密度または成形体密度を1g/cm以上とした理由は、密度を上記の範囲とすることで、粒子同士が十分に接触することができ、したがって、均一かつ効率的な粒成長を行うことができるからである。
なお、充填密度または成形体密度は、高いほど良いが、一般的には、理論密度の70%程度が上限である。
【0026】
次いで、駆動装置32を駆動させて分離扉31を容器12の開口に移動させ、容器12の開口を遮蔽する。そして、結晶成長部4内にアルゴン等の非酸化性ガスを導入することにより、単結晶原料部3内の圧力を結晶成長部4内の圧力より低くする。
これにより、炭化ケイ素の粉体または前駆体11、あるいは成形体15が昇華して比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料16とならずに、気体として結晶成長部4内に流入するのを防止することができる。
【0027】
次いで、高周波コイル14により容器12内の炭化ケイ素の粉体または前駆体11、あるいは成形体15を所定の昇温速度にて加熱し、所定の温度、例えば、2100℃以上かつ2500℃以下の範囲の温度にて、1分以上かつ6時間以下保持し、焼成する。
【0028】
ここで、昇温速度としては、特に制限は無いが、例えば、炭化ケイ素前駆体を用いる場合、炭化ケイ素前駆体が化学反応を起こして炭化ケイ素が生成する温度範囲(1600℃〜1800℃)では、0.1℃/分以上かつ10℃/分以下とすることが好ましい。
また、1000℃以下の温度領域にて炭化ケイ素前駆体からの揮発成分の量が多い場合には、1000℃以下の温度にて一旦予備焼成を行って揮発成分を取り除くことが好ましい。
【0029】
この焼成時の雰囲気は、炭化ケイ素が酸化されない雰囲気であることが必要であり、不活性雰囲気または還元性雰囲気である非酸化性雰囲気が好ましく、特にアルゴンガスまたは窒素ガスとすることが好ましい。
雰囲気圧力に制限は無いが、結晶成長部4の雰囲気圧力が単結晶原料部3の雰囲気圧力と比べて高くなるように、結晶成長部4から非酸化性ガスを導入し、単結晶原料部3を経由して装置外へ排出されるようにすることが好ましい。
なお、炭化ケイ素の粉体または前駆体11の充填密度が低い場合には、単結晶原料部3に炭化ケイ素の粉体または前駆体11を加圧する加圧機構を設け、この炭化ケイ素の粉体または前駆体11の充填密度を上げることが好ましい。
【0030】
以上により、比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料16が得られる。
この単結晶原料16は、次工程の結晶成長の際に安定した昇華速度を得るために、比表面積を0.001m/g以上かつ0.1m/g以下とする。
ここで、単結晶原料16の比表面積を規定した理由は、単結晶原料部3にて加熱して粒成長させているので、複数の粒子同士が接合して粒子間にネックと称される接合部が形成される等により粒子径で規定することが困難であるからであり、また、安定した昇華を制御しているのが粒子径ではなく、実質的には比表面積だからである。
【0031】
次いで、図2に示すように、高周波コイル22を用いて種結晶支持部21を加熱し、種結晶支持部21を所定の温度、例えば、2100℃以上かつ2500℃以下の範囲の温度とする。
次いで、駆動装置32を駆動させて分離扉31を容器12の開口から移動させ、容器12の開口を開放する。
次いで、種結晶支持部21を下降させて容器12の開口に接触させる。
【0032】
この場合、容器12内の比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料16が昇華し、種結晶支持部21の炭化ケイ素種結晶23を核として結晶成長する。これにより、炭化ケイ素種結晶23を核として高純度の炭化ケイ素単結晶を成長させることができる。
この炭化ケイ素単結晶を成長させる際の雰囲気圧力や温度勾配に特に制限は無く、公知の方法を適宜用いることができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の炭化ケイ素単結晶製造装置1によれば、単結晶原料部3にて生成した比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料16を結晶成長部4に供給し、この結晶成長部4にて炭化ケイ素種結晶23を核として炭化ケイ素単結晶を成長させることにより、炭化ケイ素単結晶の製造工程の作業効率を向上させることができる。したがって、炭化ケイ素単結晶を、短時間にて簡便に製造することができる。
また、単結晶原料16を装置間で移動させる必要がないので、単結晶原料16や得られた炭化ケイ素単結晶に不純物が混入する虞も無い。
【0034】
本実施形態の炭化ケイ素単結晶の製造方法によれば、炭化ケイ素の粉体または前駆体11、あるいは成形体15を加熱することにより、比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料16を生成させ、次いで、この単結晶原料16を炭化ケイ素種結晶23に供給し、この炭化ケイ素種結晶23を核として炭化ケイ素単結晶を成長させるので、炭化ケイ素の単結晶原料16の製造工程と、炭化ケイ素単結晶の結晶成長工程とを、連続して行うことができる。したがって、単結晶原料16や得られた炭化ケイ素単結晶に不純物が混入する虞が無く、各工程の作業効率を向上させることができ、炭化ケイ素単結晶を短時間にて簡便に製造することができる。
【0035】
なお、本実施形態の炭化ケイ素単結晶製造装置1では、単結晶原料部3と結晶成長部4との間に開閉機構5を設けた構成としたが、開閉機構5を設ける替わりに、単結晶原料部3に、上下方向に移動可能かつ上下方向の任意の位置に固定可能とする駆動機構を設け、この駆動機構を駆動させることにより、単結晶原料部3を結晶成長部4に対して上下方向に移動可能かつ上下方向の任意の位置に固定可能とする構成としてもよい。
この構成においても、単結晶原料部3と結晶成長部4との間に開閉機構5を設けた構成と全く同様の作用、効果を奏することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
「実施例1」
炭化ケイ素原料として、平均粒子径が1μm、金属不純物が1ppm以下の炭化ケイ素微粉体を用いた。
この炭化ケイ素微粉体を加圧成形して成形体密度を1.3g/cm3とした後、炭化ケイ素単結晶製造装置1の単結晶原料部3の容器12に投入した。
【0038】
次いで、結晶成長部4の種結晶支持部21を単結晶原料部3の容器12の上方15cmの位置に移動し、結晶成長部4と単結晶原料部3との間の分離扉31を閉鎖して単結晶原料部3を加熱した。
雰囲気ガスとしてアルゴンを結晶成長部4の上方から毎分10L(リットル)の速度で導入し、単結晶原料部3の下部から外方へ排出した。この単結晶原料部3の温度を2300℃、雰囲気圧力を760Torrとして2時間保持し、実施例1の単結晶原料を得た。
この単結晶原料と同様にして作製し、冷却後、取り出した単結晶原料の比表面積は0.01m/gであった。
【0039】
次いで、実施例1の単結晶原料を得た後、続けて炭化ケイ素単結晶の結晶成長を行った。
雰囲気圧力を760torrに保ったまま、結晶成長部4を2100℃まで加熱した後、結晶成長部4と単結晶原料部3との間の分離扉31を開き、結晶成長部4の種結晶支持部21を単結晶原料部3の容器12の上方5cmの位置に移動した。単結晶原料部3の温度を2350℃、雰囲気圧力を20Torrとして結晶成長を行った。6時間保持後、冷却し、結晶成長部4から種結晶支持部21を取り出したところ、欠陥の少ない高純度の炭化ケイ素単結晶が得られた。
【0040】
「実施例2」
炭化ケイ素原料として、二酸化ケイ素粉体とフェノール樹脂の混合物である炭化ケイ素前駆体を用いた。
この炭化ケイ素前駆体は、単結晶原料部3の容器12の容積と同一の大きさに成形、硬化したものを1000℃にて予備焼成を行った後、単結晶原料部3の容器12に投入した。
【0041】
次いで、結晶成長部4の種結晶支持部21を単結晶原料部3の容器12の上方15cmの位置に移動し、結晶成長部4と単結晶原料部3との間の分離扉31を閉鎖して単結晶原料部3を加熱した。
雰囲気ガスとしてアルゴンを結晶成長部4の上方から毎分10L(リットル)の速度で導入し、単結晶原料部3の下部から外方へ排出した。
この単結晶原料部3の1600℃から1800℃までの間の昇温速度を1℃/分として2300℃まで昇温した後、2時間保持し、実施例2の単結晶原料を得た。この間の雰囲気圧力を760Torrとした。
【0042】
この単結晶原料を得た後、続けて炭化ケイ素単結晶の結晶成長を行った。
雰囲気圧力を760torrに保ったまま、結晶成長部4を2100℃まで加熱した後、結晶成長部4と単結晶原料部3との間の分離扉31を開き、結晶成長部4の種結晶支持部21を単結晶原料部3の容器12の上方5cmの位置に移動した。単結晶原料部3の温度を2350℃、雰囲気圧力を20Torrとして結晶成長を行った。6時間保持後、冷却し、結晶成長部4から種結晶支持部21を取り出したところ、欠陥の少ない高純度の炭化ケイ素単結晶が得られた。
【符号の説明】
【0043】
1 炭化ケイ素単結晶製造装置
2 断熱材
3 単結晶原料部
4 結晶成長部
5 開閉機構
11 炭化ケイ素の粉体または前駆体
12 容器
13 支柱
14 高周波コイル(第1の加熱手段)
15 成形体
16 単結晶原料
21 種結晶支持部
21a 下端部
22 高周波コイル(第2の加熱手段)
23 炭化ケイ素種結晶
24 蓋
31 分離扉
32 駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素の粉体または前駆体から炭化ケイ素単結晶を得る炭化ケイ素単結晶の製造装置であって、
前記炭化ケイ素の粉体または前駆体を貯留する容器と、この容器内の前記炭化ケイ素の粉体または前駆体を加熱する第1の加熱手段とを備え、前記炭化ケイ素の粉体または前駆体を加熱することにより比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料を生成する単結晶原料部と、
下端部に炭化ケイ素種結晶を固定するとともに、上下方向に移動可能かつ上下方向の任意の位置に固定可能な種結晶支持部と、この種結晶支持部を加熱する第2の加熱手段とを備え、前記炭化ケイ素種結晶に前記単結晶原料を供給し、前記炭化ケイ素種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させる結晶成長部と、
を備えたことを特徴とする炭化ケイ素単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記単結晶原料部と前記結晶成長部との間に開閉機構を設け、
この開閉機構を開閉することにより、前記単結晶原料の前記結晶成長部への供給を制御することを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素単結晶の製造装置。
【請求項3】
炭化ケイ素の粉体または前駆体から炭化ケイ素単結晶を得る炭化ケイ素単結晶の製造方法であって、
炭化ケイ素の粉体または前駆体を加圧により圧縮し、次いで、この圧縮した炭化ケイ素の粉体または前駆体を加熱することにより、比表面積が制御された炭化ケイ素からなる単結晶原料を生成し、
次いで、この単結晶原料を炭化ケイ素種結晶に供給し、この炭化ケイ素種結晶を核として炭化ケイ素単結晶を成長させることを特徴とする炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記単結晶原料の比表面積を0.001m/g以上かつ0.1m/g以下とすることを特徴とする請求項3記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項5】
加圧された前記炭化ケイ素の粉体または前駆体の密度を1g/cm以上とすることを特徴とする請求項3または4記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記単結晶原料を生成する領域の圧力を、前記炭化ケイ素単結晶を成長させる領域の圧力より低くすることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1項記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−102204(P2011−102204A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257113(P2009−257113)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】