説明

炭化品の製造方法及び装置

【課題】下水汚泥に代表される有機性廃棄物を原料として、ク溶性リン酸の含有率が高くしかもタール分の少ない炭化品を工業的に製造できる技術を提供する。
【解決手段】下水汚泥などの有機性廃棄物をロータリーキルンなどの炭化装置1により700℃以下の温度で炭化処理したうえ、炭化装置1の後段に接続された内圧が−0.5kPa〜+0.5kPaのスクリュー搬送式の筒状加熱装置2に導入する。その内部には水蒸気や燃焼排ガスまたは窒素等の不活性ガスが炭化品の進行方向とは逆方向に流され、炭化品は250〜700℃に加熱されながらタール分をガス側に移行させる。得られた炭化品はク溶性リン酸の含有率が10%程度と高く、しかも植物の生育を阻害するタール分をまったく含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥などの有機性廃棄物を原料として、植物の育成に適したリン酸肥料の原料を製造することができる炭化品の製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理設備の普及に伴い、下水汚泥の発生量は年々増加している。下水汚泥の処理法として従来は焼却が中心であったが、最近では特許文献1,2に示されるように、下水汚泥を炭化処理することにより汚泥中の可燃分を燃料等として有効利用する方法が開発されている。このほか、下水汚泥等には多量のリンが含まれることに着目し、炭化品をリン酸肥料の原料として活用する方法も検討されている。
【0003】
植物肥料としては、ク溶性リン酸(クエン酸可溶性リン酸)が5%以上含まれることが求められる。このためには汚泥の炭化処理温度を700℃以下の範囲とすることが必要であり、これよりも高温で炭化させるとリンが結晶化してしまい、植物の生育に有効なク溶性リン酸が減少してしまう。ところが、700℃以下の低温で炭化処理を行うと、植物の生育を阻害するタール分を十分に取り除くことができなくなる。
【0004】
一方、タール分を含まない炭化物を得るためには700〜800℃での炭化処理が必要である。ところがこのような温度域で炭化処理を行うと、タール分を揮発蒸発させることはできるもののク溶性リン酸が減少してしまう。従って、これまでのところク溶性リン酸の含有率が高くしかもタール分の少ない炭化品は製造が困難であった。
【特許文献1】特開2004−256329号公報
【特許文献2】特開2004−277464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、下水汚泥に代表される有機性廃棄物を原料として、ク溶性リン酸の含有率が高くしかもタール分の少ない炭化品を工業的に製造できる炭化品の製造方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の炭化品の製造方法は、有機性廃棄物を炭化装置により700℃以下の温度で炭化処理したうえ、炭化装置の後段に接続された内圧が−0.5kPa〜+0.5kPaの筒状加熱装置に導入し、250〜700℃に加熱しながらキャリアガスを炭化品の進行方向とは逆方向に流し、タール分を除去することを特徴とするものである。キャリアガスとしては、水蒸気、低酸素ガス、不活性ガスの何れかを使用することが好ましい。有機性廃棄物としては下水汚泥が代表的なものであるが、生ゴミや剪定枝などのバイオマス原料を混合したものでもよく、リンを含む有機性廃棄物、例えば畜産廃棄物や食品工場廃棄物などであってもよい。
【0007】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の炭化品の製造装置は、有機性廃棄物を700℃以下の温度で炭化処理する炭化装置の後段に、内圧が−0.5kPa〜+0.5kPaに維持され、その内部で炭化品を250〜700℃に加熱するスクリュー搬送式の筒状加熱装置を接続するとともに、この筒状加熱装置の出口側に、キャリアガスを炭化品の進行方向とは逆方向に供給する接続口を設けたことを特徴とするものである。炭化装置としてはロータリーキルンが使用でき、筒状加熱装置の熱源としては、炭化装置の加熱排気、または炭化装置から得られる可燃性ガスを燃焼した廃熱を利用することができる。外気の浸入を防止するために、搬送用スクリューの軸をシールして、筒状加熱装置内に外気の侵入を防止するシール機構を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機性廃棄物を700℃以下の温度で炭化処理することによりク溶性リン酸の含有率を高めつつ、その後段に設けたスクリュー搬送式の筒状加熱装置において
炭化品を250〜700℃に加熱しつつ、キャリアガスを炭化品の進行方向とは逆方向に流し、タール分をキャリアガスの流れに同伴させて取り除く。この結果、タール分による植物の生育阻害のおそれが無く、ク溶性リン酸の含有率が高い炭化品を安定して製造することができる。この炭化品はク溶性リン酸肥料の原料としてのみならず、不快なタール臭のない炭化製品を得ることも可能で、リン酸肥料の原料以外の利用用途にも有効である。
【0009】
装置内部で可燃性ガスや可燃性の炭化品が生成されるこの種の装置においては、外気の吸引による爆発を防止するために筒状加熱装置の内圧を大気圧よりもかなり高圧にするのが普通である。しかし本発明では、筒状加熱装置の内圧をゲージ圧で−0.5kPa〜+0.5kPaという大気圧近傍の圧力としたので、炭化品へのタール分の再付着が抑制され、タール分の除去が効率的に行われる。
【0010】
また本発明では搬送用スクリューの軸をシールして、筒状加熱装置内への外気の侵入を防止するシール機構を設けたので、上記のような圧力にしても安全であり、特にキャリアガスと同種のガスをシール部に供給するようにすれば、より安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明に用いる装置構成の一例を示す図であり、炭化装置1と筒状加熱装置2とを垂直管3により接続した形態のものである。炭化装置1は外熱式のロータリーキルンであり、炉本体の外周に加熱用のジャケット4が設けられており、図示しない熱風炉等で発生させた熱風をジャケット4に供給することにより、その内部温度は700℃以下、より好ましくは500〜550℃に維持されている。また炭化装置1の内部は当然ながら低酸素雰囲気に維持されている。
【0012】
下水汚泥等の有機性廃棄物は投入ホッパ5から炭化装置1の内部に投入され、700℃以下の比較的低温で炭化処理される。有機性廃棄物中に含有されている有機物は低酸素雰囲気中で熱分解され、可燃性の乾留ガスと水分を揮発させ炭化される。発生した乾留ガスと水蒸気は炭化装置1の後端部から抜き出され、排ガス処理装置6により除塵・洗浄・乾留ガスの二次燃焼等を行った後、煙突7から放出される。もちろん、この乾留ガスを二次燃焼させずに燃料ガスとして回収することも可能である。
【0013】
このように有機性廃棄物は700℃以下の比較的低温で炭化処理されるため、炭化装置1の後端に達した炭化品はク溶性リン酸を豊富に含むが、またタール分も含む。本実施形態では、この炭化品は炭化装置1の後端下部に設けられた垂直管3を通じ、筒状加熱装置2の入口に落下する。
【0014】
筒状加熱装置2は細長い筒状本体8の内部に搬送用スクリュー9を設置したもので、モータ10によって搬送用スクリュー9を回転させることにより、炭化品を撹拌しながら出口側に送る。筒状本体8の長さは1〜10m程度、内径は100〜2000mm程度とする。また搬送用スクリュー9の回転速度は1〜20min−1程度とし、毎分5〜30cmの速度で炭化品を移送する。筒状本体8の外周にはヒータまたはバーナ等の加熱手段11、もしくは、炭化装置1の加熱排気、または炭化装置1から得られる可燃性ガスを燃焼した廃熱を利用するものが設置されており、内部を250〜700℃に加熱している。この温度が250℃未満ではタール分の除去を十分に行えず、700℃を超えるとク溶性リン酸が減少する。
【0015】
出口側の接続口12から、キャリアガスを出口側から入口側に向かって流す。キャリアガスとしては、水蒸気、低酸素ガス、不活性ガスの何れかを使用することができる。低酸素ガスは例えば燃焼排ガスであり、不活性ガスは例えば窒素である。その流量は0.1〜1000L/分とする。水蒸気は、炭化品へ熱を伝える熱伝達性が優れるためタール分を効率良く短時間で揮発飛散させることができる。
【0016】
炭化品はこの筒状加熱装置2の内部を15〜120分程度の時間をかけて緩やかに移動しながら250〜700℃に加熱され、筒状加熱装置2の出口側から排出されるが、その間に炭化品の進行方向とは逆方向に流れるキャリアガスに同伴し、タール分は揮発除去される。キャリアガスを炭化品と逆方向に流したのは、キャリアガス側に移動したタール分が炭化品に再付着することを防止するためである。このようにしてタール分が除去された炭化品は筒状加熱装置2の出口側から排出され、タール分を含んだキャリアガスは筒状加熱装置2の入口側の垂直管3を通じて炭化装置1の後端部に入り、乾留ガスとともに抜き出される。
【0017】
この種の装置においては、外気の吸引による爆発を防止するために、筒状加熱装置2の内圧を大気圧よりもかなり高圧にするのが普通である。しかし本発明では前記したように、筒状加熱装置2の内圧をゲージ圧で−0.5kPa〜+0.5kPaという大気圧近傍の圧力とする。このような微負圧〜微正圧とすることにより、炭化品からのタール分の揮発が抑制されず、後記する実施例のデータに示すように、タール分の除去が効率的に行われる。
【0018】
このように外気の吸引を防ぎ、筒状加熱装置2の内部を−0.5kPa〜+0.5kPaに維持するには、搬送用スクリュー9の軸9aと筒状加熱装置2の筒状本体8とをシールするシール機構15を設けることが好ましい。図2に示されるように、シール機構15は主に、搬送用スクリューの軸9aをシールするリング状のパッキン15aと、このパッキン15aを保持する本体部材15bと、気体供給管15dとから構成されている。
【0019】
パッキン15aは、搬送用スクリュー9の軸9aの軸方向にある一定の間隔をおいて、軸9aの外表面に密着して、2個取り付けられている。本体部材15bは、筒状本体8に隣接して配置され、2個のパッキン15aの、搬送用スクリュー9の軸9aの軸方向の動きを規制し、パッキン15aの外周を包囲して、パッキン15aを保持している。2個のパッキン15aの間には、搬送用スクリュー9の軸9aの全周にわたって空隙15cが形成されている。この空隙15cに気体を供給する気体供給管15dが接続されている。
【0020】
気体供給管15dにはキャリアガスが供給され、軸9aの空隙15cに露出している部分の全周を、キャリアガスでパージし、筒状加熱装置2内に外気が侵入することを確実に防止している。従って、筒状本体8の内圧が微負圧であっても筒状本体8内部には、空気が混入して、高温の乾留ガスと接触して爆発する危険性がない。なお、筒状本体8の内部圧力を微正圧にした場合にも、上記のようなシール機構15を設けることが好ましい。
【0021】
このように本発明によれば、有機性廃棄物を原料としてク溶性リン酸の含有率が高くしかもタール分の少ない炭化品を工業的に製造することができる。以下に実施例を示す。
【実施例】
【0022】
下水処理場のベルトプレス脱水機から排出される下水脱水汚泥(含水率74%)を500〜550℃で予備乾燥させた乾燥汚泥(含水率10%)の汚泥サンプルを製造した。これを実施形態において説明した炭化装置に供給し、炭化温度を500℃、550℃、600℃に変えて処理した。なおこの温度は炭化装置1と筒状加熱装置2とも同一とし、内圧はともに0kPa(大気圧)とした。使用した筒状加熱装置2の内径は500mm、長さ4mであり、キャリアガスとして水蒸気及び窒素ガスを炭化品とは逆方向に流した。炭化装置1内の滞留時間は60分、筒状加熱装置2内の滞留時間は20分である。
【0023】
得られた炭化品につき、ク溶性リン酸の含有率とタール分を測定した。なおタール分の測定は、日本肥糧株式会社が作成し公表している「下水汚泥炭化物中のタール分簡易測定法」に基づき、炭化品をエタノールと接触させてタール分を抽出し、分光光度計で200〜800nmの吸光度を測定する方法で行った。評価は0から5までの数値で示されるが、植物肥料としては0.5以下であることが要求されるものである。その結果を表1に示す。なお表1には比較のため、筒状加熱装置を使用しない場合のデータも示した。
【0024】
【表1】

【0025】
このデータに示されるように、本発明によればク溶性リン酸の濃度が高くタール分を含有しない炭化品を得ることができた。しかし、炭化装置のみを用いた従来法では植物肥料として要求されるタール分0.5以下の基準を満足できなかった。また、水蒸気の場合は、窒素ガスの場合に比べて、タール除去時間は1/3程度の短時間で処理が可能であることが確認できた。
【0026】
図3に、炭化温度とク溶性リン酸濃度の関係のグラフを示す。図3のグラフから明らかなように、炭化処理温度が500℃〜700℃にて、ク溶性リン酸濃度が最も濃縮された炭化品を得ることができる。
【0027】
次に、炭化炉及び筒状加熱装置の温度条件及び炉内圧を変化させた場合の、タール分簡易測定の結果を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表1のRUN1、RUN2の結果より、筒状加熱装置の加熱温度が150℃、200℃の場合には、炭化品に含まれるタール分の除去が不十分であり、筒状加熱装置の加熱温度が280℃の場合は、炭化品に含まれるタール分の除去が十分となる。このため、筒状加熱装置の加熱温度を250℃以上にする。
【0030】
表1のRUN5とRUN6の結果より、炭化装置及び筒状加熱装置の内部が本発明範囲を超える正圧の場合には、エタノールにて抽出されるタール分が多く、炭化品に含まれるタール分の残量が多い。これは、炭化装置内に投入された有機性廃棄物は、水分が蒸発した後、乾留ガスが発生するが、炭化装置や筒状加熱装置内の圧力が高い場合には、有機性廃棄物が炭化して炭化品となった表面に、乾留ガス中のタール分が付着・凝固してしまうからである。従って、炭化装置や筒状加熱装置の内圧を、RUN3,RUN4に示すように本発明範囲内とすることにより、タール分が十分に除去された炭化品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態を示す装置構成図である。
【図2】シール機構の詳細図である。
【図3】炭化温度とク溶性リン酸濃度の関係を示すグラフを示す。
【符号の説明】
【0032】
1 炭化装置
2 筒状加熱装置
3 垂直管
4 ジャケット
5 投入ホッパ
6 排ガス処理装置
7 煙突
8 筒状本体
9 搬送用スクリュー
9a 軸
10 モータ
11 加熱手段
12 出口側の接続口
15 シール機構
15a パッキン
15b 本体部材
15c 空隙
15d 気体供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を炭化装置により700℃以下の温度で炭化処理したうえ、炭化装置の後段に接続された内圧が−0.5kPa〜+0.5kPaの筒状加熱装置に導入し、250〜700℃に加熱しながらキャリアガスを炭化品の進行方向とは逆方向に流し、タール分を除去することを特徴とする炭化品の製造方法。
【請求項2】
キャリアガスとして、水蒸気、低酸素ガス、不活性ガスの何れかを使用することを特徴とする請求項1に記載の炭化品の製造方法。
【請求項3】
有機性廃棄物が下水汚泥を主としたもの、又は、下水汚泥に生ゴミや剪定枝などのバイオマス原料を混合したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化品の製造方法。
【請求項4】
有機性廃棄物を700℃以下の温度で炭化処理する炭化装置の後段に、内圧が−0.5kPa〜+0.5kPaに維持され、その内部で炭化品を250〜700℃に加熱するスクリュー搬送式の筒状加熱装置を接続するとともに、この筒状加熱装置の出口側に、キャリアガスを炭化品の進行方向とは逆方向に供給する接続口を設けたことを特徴とする炭化品の製造装置。
【請求項5】
炭化装置がロータリーキルンであることを特徴とする請求項4に記載の炭化品の製造装置。
【請求項6】
筒状加熱装置の熱源は、炭化装置の加熱排気、または炭化装置から得られる可燃性ガスを燃焼した廃熱を利用するものであることを特徴とする請求項4に記載の炭化品の製造装置。
【請求項7】
搬送用スクリューの軸をシールして、筒状加熱装置内に外気の侵入を防止するシール機構を設けたことを特徴とする請求項4に記載の炭化品の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−119740(P2007−119740A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258190(P2006−258190)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】