説明

炭化水素油の水素化分解触媒用担体、該担体を用いた水素化分解触媒、及び該触媒を用いた炭化水素油の水素化分解方法

【課題】安定な触媒寿命を有し、長期間高い分解活性を示すゼオライト系水素化分解触媒を与える得る担体、それを用いた水素化分解触媒、及び該触媒を用いた芳香族分含有炭化水素油の水素化分解方法を提供すること。
【解決手段】フォージャサイト型ゼオライトにチタンを含有させた修飾ゼオライトを含み、該修飾ゼオライトが下記(a)〜(e)を満たすことを特徴とする炭化水素油の水素化分解触媒用担体、該担体を用いた水素化分解触媒、及び該触媒を用いた芳香族分含有炭化水素油の水素化分解方法。
(a)修飾ゼオライトにおけるチタンの含有量が金属酸化物換算で1〜17質量%、(b)修飾ゼオライト中に含まれるアルミニウムとケイ素との原子比Al/Siが0.14〜0.35、(c)格子定数が24.36〜24.48Å、(d)結晶化度が30〜95%、(e)比表面積が500〜850m/g。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油を水素化分解する際に用いるゼオライト系の担体、及びその担体を用いる炭化水素油の水素化分解触媒、並びにその触媒を用いて高品質なガソリン基材及び石油化学原料を製造する炭化水素油の水素化分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境規制の高まりから、水素化分解触媒は石油精製産業において高品質でクリーンな燃料を製造する機能性材料として広範に利用されている。その一方で採掘される原油が重質化に向かう中、水素化分解触媒を始めとする石油精製触媒に要求される性能も年々高まっている。一般に重質原油から得られた灯油、軽油留分は芳香族炭化水素化合物、窒素分の含有量が高いものが多く、それらが触媒上へのコーク質堆積を促進させ水素化分解触媒の活性劣化を引き起こすことが知られている。
また、重油等の需要の衰退による流動接触分解装置(FCC装置)、コーカー装置の処理量増加に伴って、そこから生成するLCO(接触分解装置循環油)、コーカー分解軽油の発生量も増加している。これらを水素化分解して他の有用なガソリン基材、石油化学原料等へ変換するニーズも高まっている。
このような状況下、近年、炭化水素油分解の活性成分であるゼオライトの物性、組成面での改良、ゼオライトへの金属等の添加など多くの検討が進められており、新規水素化分解触媒の開発成果が報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゼオライトにチタニアを含有させ、特定のアルミニウムとケイ素との原子比に調製したゼオライト担体に水素化活性金属を担持した触媒が開示されている。
また、特許文献2には、特定のアルミニウムとケイ素との原子比かつ細孔直径が50〜1000Åのメソポアを付与したゼオライト担体に水素化活性金属を担時した触媒が開示されている。さらに、特許文献3には、特定の格子定数および特定のアルミニウムとケイ素との原子比であり、かつ周期表第4族金属元素を含有させたゼオライト担体からなる触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3341011号公報
【特許文献2】特開2002−255537号公報
【特許文献3】特開2003−226519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、LCO等は芳香族化合物が多量に含まれており、触媒の活性劣化を引き起こすことが知られているが、従来、上記各特許文献のように、収率向上、目的生成物の選択性向上等の触媒の改良が試みられているものの、触媒寿命に関する取組みがほとんど行われていないのが現状である。また、活性劣化を抑制するためには、高い温度、高い水素分圧で反応させる必要があり、オフガス等の副生成物や水素消費量の増加及び高価な高圧設備を必要とする等の課題が存在する。
重質原油から得られた灯油や、軽油留分もしくはLCO、コーカー軽油を経時的に安定に水素化分解することが可能となれば、原料油種の制約が緩和され、製油所の精製工程の効率化につながるとともに、需給バランスに見合った燃料油等の各種製品の生産が可能となる。
このような状況下、本発明は、安定な触媒寿命を有し、長期間にわたって高い分解活性を示すゼオライト系水素化分解触媒を与える得る担体、及びその担体を用いた水素化分解触媒を提供するとともに、その触媒を用いた、芳香族炭化水素化合物を含有する炭化水素油の水素化分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、フォージャサイト型ゼオライトにチタンを含有させ、特定の物性を有する修飾ゼオライトを主成分として含む担体を用いた触媒が、芳香族を含有する原料油の水素化分解活性に優れ、また触媒寿命も長いことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の水素化分解触媒用の担体、その担体を用いた水素化分解触媒、及びその水素化分解触媒を用いた水素化分解方法が提供される。
(1)フォージャサイト型ゼオライトにチタンを含有させた修飾ゼオライトを含み、該修飾ゼオライトが下記(a)〜(e)を満たすことを特徴とする炭化水素油の水素化分解触媒用担体。
(a)修飾ゼオライトにおけるチタンの含有量が金属酸化物換算で1〜17質量%
(b)修飾ゼオライト中に含まれるアルミニウムとケイ素との原子比Al/Siが0.14〜0.35
(c)格子定数が24.36〜24.48Å
(d)結晶化度が30〜95%
(e)比表面積が500〜850m/g。
(2)上記(1)に記載の担体に長周期型周期律表第8族金属及び第6族金属から選択された少なくとも1種を触媒基準・金属酸化物換算で0.5〜30質量%含有させてなることを特徴とする炭化水素油の水素化分解触媒。
(3)上記(2)に記載の水素化分解触媒を用い、沸点範囲が120〜380℃で、かつ、30〜100質量%の芳香族炭化水素化合物を含む炭化水素油を原料油とすることを特徴とする炭化水素油の水素化分解方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る水素化分解触媒用担体を用いた触媒は、触媒寿命が長く、かつ高い水素化分解活性を有し、芳香族炭化水素化合物の含有量の高い原料油を水素化分解処理することが可能となり、処理できる原料油種が増大し、製油所の精製工程の効率性向上に寄与する。また、得られる生成油は、オクタン価の高い高品質なガソリン留分であり、かつキシレン等の石油化学原料も含まれており、技術的意義の高いものである。
本発明に係る担体を用いた触媒がかかる優れた性能を有するのは、本発明に係る担体が、Al/Si原子比(アルミニウム原子とケイ素原子の比)を、後記のように、従来の修飾ゼオライトの担体とは異なった一定範囲に調節した修飾ゼオライトであることに主として起因するものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
〔水素化分解触媒用担体〕
本発明に係る炭化水素油の水素化分解触媒用担体(以下、本発明に係る担体とも言う。)は、フォージャサイト型ゼオライトにチタンを含有させた修飾ゼオライトを主成分とする。
ここでフォージャサイト型ゼオライトとは、Xゼオライト、Yゼオライト、超安定化Yゼオライト(Ultra Stable Y;USY)などが含まれる。本発明では、修飾ゼオライトの原料として用いるフォージャサイト型ゼオライトにはUSYゼオライトが好ましい。原料に用いるUSYゼオライトのAl/Si原子比は、特に限定されるものではないが、一般に0.2〜0.5のものが用いられる。
また、フォージャサイト型ゼオライトのカチオンは水素イオンやアンモニウムイオンであることが好ましく、特に水素イオンが有効である。一方、ナトリウムイオンは、少ない方が好ましく、NaOに換算して0.7質量%以下、好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。
【0010】
本発明における修飾ゼオライトは、上記のようなフォージャサイト型ゼオライトにチタンを含有させたものである。本発明においては、ジルコニウム、ハフニウムを含有させることもできるが、好適にはチタンが用いられる。この修飾ゼオライト担体におけるチタンの含有量は、修飾ゼオライト基準・金属酸化物換算で、すなわちTiOに換算して1〜17質量%、好ましくは1〜10質量%である。
チタンの含有量を1質量%以上とすることにより、後述する水素化活性金属を担体上に高分散に担持することが可能となり、得られる触媒の水素化分解活性及び触媒寿命を維持することができる。また、チタンの含有量が17質量%以下であれば、ゼオライト表面のチタン被覆による比表面積の低下を抑制し、結果として得られる触媒の水素化分解活性を維持することができる。
【0011】
また、本発明における修飾ゼオライトは、Al/Si原子比が0.14〜0.35、好ましくは0.15〜0.30である。Al/Si原子比は、チタンの塩を含む酸性水溶液をフォージャサイト型ゼオライトと接触させる際に、その接触条件を制御することにより原料フォージャサイト型ゼオライトを適度に脱アルミニウムして調節することができる。本発明では、修飾ゼオライトのAl/Si原子比を0.14以上とすることにより、修飾ゼオライト中のアルミニウムが過度に脱離するのを抑制し、同時に、ゼオライト構造が破壊し結晶化度及び比表面積が低下するのも抑制し、結果として水素化分解活性及び触媒寿命を維持できる触媒を与え得る担体が得られる。また、Al/Si原子比を0.35以下とすることにより、修飾ゼオライトの脱アルミニウム化の進行の減少に伴ってゼオライト中のチタンの含有量が減少するのを抑制し、結果として触媒寿命を維持することができる触媒を与え得る担体が得られる。
【0012】
本発明における修飾ゼオライトは、上記のようにAl/Si原子比が0.14〜0.35の範囲であるとともに、格子定数が24.36Å以上、24.48Å以下の範囲にあるものである。この下限として、好ましくは24.37Å以上である。また、この上限として、好ましくは24.47Å以下である。格子定数を24.36Å以上とすることにより、ゼオライト構造が損なわれて触媒性能が低下することを抑制し、また、24.48Å以下とすることにより、格子定数が大き過ぎて触媒性能維持の効果が飽和気味となることを回避して、効果的に触媒性能を維持することができる。
修飾ゼオライトの格子定数は、X線回折分析(XRD分析)によって測定できる。この測定方法についてはASTM D3942−97に記載されており、本発明においては、この方法に準拠した測定により格子定数を決定するものとする。
【0013】
また、本発明における修飾ゼオライトは、結晶化度が30%以上、95%以下、好ましくは40%以上である。修飾ゼオライトの結晶化度はXRD分析によって測定できる。この測定方法についてはASTM D3906−97に記載されており、本発明においては、この方法に準拠した測定により結晶化度を決定するものとする。この方法では、基準とするフォージャサイトに対する相対値として結晶化度が求められる。
結晶化度は、ゼオライトに起因する分解活性の指標として重要であり、この数値が大きい程、ゼオライト構造が保持されている割合が高くなり、水素イオンで置換した時のゼオライトの分解活性が向上する。結晶化度30%以上とすることにより、ゼオライト構造の崩壊による触媒性能の低下を抑制することができる。結晶化度は高いほど好ましいが、チタンをゼオライトに修飾させる際にゼオライト構造の一部が損なわれるため、結晶化度は通常30〜95%の範囲である。
【0014】
また、本発明における修飾ゼオライトは、比表面積が500〜850m/g、好ましくは600〜850m/gである。比表面積を上記範囲とすることにより、経時的安定性に優れ、かつ水素化分解能の高い触媒にすることが可能となる。また、比表面積が500m/g以上であれば、後述する水素化活性金属を十分な分散性をもって担持しやすくなる。なお、上記比表面積は窒素吸着法(BET法)にて測定し得る値である。
【0015】
〔水素化分解触媒用担体の製造方法〕
次に、本発明に係る担体の製造方法について詳述する。
本発明の担体の主成分である修飾ゼオライトは、フォージャサイト型ゼオライトにチタンを含有させて得ることができる。チタンを含有させる方法としては、例えば、チタンの塩を含む酸性水溶液を、上述したフォージャサイト型ゼオライトと接触させる方法が挙げられる。これにより、チタン含有フォージャサイト型ゼオライト、すなわち修飾ゼオライトを得ることができる。この際、チタンの塩としては、無機酸もしくは有機酸の塩を用いることができ、無機酸の塩を用いる場合は硫酸塩、硝酸塩、塩化物等を、有機酸の塩を用いる場合は酢酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩等を用いることができる。
【0016】
チタンの塩を含む酸性水溶液とフォージャサイト型ゼオライトとを接触させる際の酸性水溶液中のチタンの濃度は、接触させる時の温度、時間によって決定されるが、例えば、30℃、4時間の処理条件で行う場合、0.001〜0.025モル/L、好ましくは0.01〜0.02モル/Lが選択される。また、この際の水溶液のpHは、1.3〜3.0、好ましくは1.5〜2.5に調節される。
【0017】
フォージャサイト型ゼオライトにチタンを含有させるために、フォージャサイト型ゼオライトにチタンの塩を含む酸性水溶液を接触させるに当たっては、攪拌状態で行っても良く、静置状態でも原料フォージャサイト型ゼオライトがチタンの塩を含む酸性水溶液に均一に分散されていれば特に支障はない。前記条件下での原料フォージャサイト型ゼオライトとチタンの塩を含む酸性水溶液との接触により、原料ゼオライトに含有するアルミニウムが所望のように脱離するとともに、チタンが所望のようにゼオライト中に取り込まれる。
【0018】
チタンの塩を含む酸性水溶液と原料フォージャサイト型ゼオライトとの接触後は、ゼオライトと水溶液を濾過もしくは遠心分離により固液分離することができる。この分離により得られたゼオライトの固形物は、水を用いて洗浄した後、乾燥、焼成を行うことが好ましい。
この際、固形物の洗浄は、30〜70℃に加温した水を用いると洗浄効果が高くなり好ましい。また、乾燥は、一般に、20〜150℃、好ましくは50〜140℃で、空気または窒素気流中に行われる。焼成は、一般に、400〜700℃、好ましくは450〜650℃で、空気気流中1〜10時間程度で行われるが、焼成条件は得られる修飾ゼオライトを担体にする触媒の使用条件を考慮して適宜選択される。
このようにして、修飾ゼオライトを得ることができる。
【0019】
本発明に係る担体は、上記した修飾ゼオライトそのものであってもよいし、修飾ゼオライトにバインダーを加えて成型したものであってもよい。バインダーを加えて成型して用いる場合には、上記のチタンの塩を含む酸性水溶液と原料フォージャサイト型ゼオライトとの接触後に固液分離して得られた固形物を、水を用いて洗浄した後にバインダーを加えて成型し、その成型物を上記と同様の条件で乾燥、焼成することができる。この際、バインダーとしては、アルミナ、シリカアルミナ、シリカ、ジルコニア、ボリア、アルミナボリア等が挙げられ、好ましくはアルミナ、シリカアルミナ、シリカ、ボリア、アルミナボリアが挙げられる。上記アルミナは、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、アルミナ水和物等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、中でもγ−アルミナが好ましい。バインダーの含有量は担体全体に対して10〜70質量%、好ましくは15〜65質量%である。バインダーの含有量が多すぎると、触媒の性能を十分に発揮することができず、また含有量が少なすぎると触媒の物理的強度が低下する傾向になるので、その目的に応じて含有量を選択する。
【0020】
〔水素化分解触媒〕
本発明に係る水素化分解触媒は、前述した本発明に係る水素化分解触媒用担体に、長周期型周期律表第8族金属及び第6族金属から選択された少なくとも1種の水素化活性金属を含有させてなるものである。
【0021】
含有させる水素化活性金属の内、第8族金属としては、鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金から選択され、第6族金属としては、クロム、モリブデン、タングステンから選択される。これらの金属の内、通常、好ましくはニッケル、コバルト、モリブデンから選択される。
【0022】
水素化活性金属を担体に含有させる方法は、特に限定されないが、例えば水素化活性金属の塩を含む溶液を担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども適用できる。
例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定し、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法であるが、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属含有量や担体の物性に応じて適宜選択される。
【0023】
水素化活性金属の含有量は、触媒基準・金属酸化物換算で0.5〜30質量%である。水素化活性金属の担持量が0.5質量%以上であれば、水素化活性金属に起因する効果を発現させるのに十分であり、また、30質量%以下であれば、水素化活性金属の含浸(担持)工程で水素化活性金属化合物の凝集が生じず、水素化活性金属の分散性が良くなり、水素化分解活性の向上がみられる。
【0024】
上記水素化活性金属の含有量は、貴金属と卑金属とで望ましい範囲が多少異なる場合がある。貴金属の場合の望ましい範囲は、下限値が触媒基準・金属酸化物換算で0.5質量%、好ましくは0.7質量%であり、上限値が触媒基準・金属酸化物換算で5質量%、好ましくは3質量%である。また、卑金属の場合の望ましい範囲は、下限値が触媒基準・金属酸化物換算で0.5質量%、好ましくは1質量%であり、上限値が触媒基準・金属酸化物換算で30質量%、好ましくは20質量%である。
【0025】
活性金属を担体に含有させた後の処理は、乾燥、焼成を行うことが好ましい。
乾燥は、一般に、20〜150℃、好ましくは50〜120℃で、空気または窒素気流中にて行われる。焼成は、一般に、400〜700℃、好ましくは450〜650℃で、空気気流中1〜10時間程度で行われるが、焼成条件は得られる触媒の使用条件を考慮して適宜選択される。
【0026】
〔炭化水素油の水素化分解方法〕
本発明に係る水素化分解触媒は、各種炭化水素油原料の水素化分解に適用することが可能であるが、特に芳香族炭化水素化合物の含有量が高い灯油留分または軽油留分の水素化分解に有利に用いることができる。特に沸点範囲が120〜380℃で、かつ、少なくとも30質量%の芳香族炭化水素化合物を含む炭化水素油の水素化分解において、運転条件を過酷にすることなく、ガソリン基材またはベンゼン、トルエン、キシレン等の石油化学原料を長時間にわたって安定的に得ることができる。
【0027】
沸点範囲が上記沸点範囲内で、芳香族炭化水素化合物を30質量%以上含む炭化水素油留分であれば、その製造由来を問うことなく、本発明の水素化分解触媒を用いて有利に水素化分解することができる。沸点範囲が380℃を超える原料を用いると、触媒上の堆積コーク量が増大し分解活性劣化を引き起こし好ましくない。なお蒸留性状はJIS K 2254に記載されている方法で算出することが可能である。
【0028】
また、本発明で言う芳香族炭化水素化合物とは、単環芳香族炭化水素化合物または多環芳香族炭化水素化合物を指し、両者が混合されていてもかまわない。芳香族炭化水素化合物の種類としては特に制限はないが、単環芳香族炭化水素化合物であれば、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、プロピルベンゼン、エチルメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、インダン、メチルインダン類が含まれ、多環芳香族炭化水素化合物であれば、ナフタレン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等のナフタレン類、アントラセン類、フェナントレン類が含まれる。
【0029】
本発明の触媒を用いると、炭化水素油原料の芳香族炭化水素化合物の含有量が30質量%以上であっても、経時的に安定な水素化分解活性を示す。原料中の芳香族炭化水素化合物の含有量が高いほど、得られるガソリン留分の芳香族炭化水素化合物の含有量が増大する。一般に、芳香族炭化水素化合物はオクタン価が高く、発熱量が大きい点でガソリン基材として優れている。また、こうして得られたガソリン基材中には、ベンゼン、トルエン、キシレン等を含むため、それらをそれぞれ抽出して化学工業原料として用いることが可能である。
【0030】
従って、本発明の触媒を用いる本発明に係る炭化水素油の水素化分解方法における炭化水素油原料の芳香族炭化水素化合物の含有量としては、30〜100質量%、好ましくは40〜100質量%である。芳香族炭化水素化合物以外のものとしてパラフィン、ナフテン、オレフィン類などの炭化水素化合物、チオフェン、ベンゾチオフェン類などの硫黄化合物が存在してもかまわない。
【0031】
本発明の水素化分解方法の原料の具体例としては、流動接触分解装置(FCC装置)で得られるLCO、コーカー装置で得られるコーカー分解軽油、接触改質装置から得られるボトム油、減圧軽油脱硫装置もしくは常圧残油脱硫装置から発生する分解軽質油等が挙げられる。
【0032】
本発明の触媒を用いて水素化分解を行うには、通常、330〜450℃、好ましくは350〜440℃の反応温度、及び3MPa〜16MPa、好ましくは4MPa〜12MPaの水素分圧下の反応条件が選択される。また、その際の触媒と炭化水素油原料を接触させる方法は、固定床流通式、流動床式、移動床式等種々の方法を採用できるが、操作の容易性を考慮すれば、固定床流通式で行うのが好ましい。
【0033】
流通式反応装置で実施する場合、通常、水素/炭化水素比は100〜10000Nm/KL、好ましくは200〜5000Nm/KL、さらに好ましくは300〜3000Nm/KLである。また、その時の液空間速度(LHSV;Liquid Hourly Space Velocity)は0.05〜10h−1、好ましくは0.1〜5h−1、さらに好ましくは0.2〜3h−1である。
【0034】
水素化分解により得られるガソリン留分の代表的な性状は、その収率が45〜65%、キシレン収率が4〜8%、ガソリン留分のリサーチ法オクタン価(RON)が87〜93、硫黄分が10質量ppm以下である。
【0035】
原料の水素化分解を行うに当たり、本発明の水素化分解触媒は、単独で用いることも可能であるが、炭化水素油原料中に硫黄分を含有している場合には、硫黄分を低減させるために前工程もしくは後工程に脱硫処理工程を設けることも可能である。その場合には市販のCoMoアルミナ、NiMoアルミナ系触媒等の脱硫触媒を用いることが可能である。脱硫触媒の水素化活性金属量並びに充填比率等は特に限定されるものではないが、得られる生成油の用途により、適宜選択される。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0037】
〔修飾ゼオライトの調製例〕
実施例1
原料ゼオライトとして、Si/Al原子比0.33のUSYゼオライト粉末(平均粒子径3.5μm、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子の87%)を用いた。
イオン交換水2.5L及び30質量%硫酸チタン(IV)水溶液7mL(調製後のチタン濃度:0.005モル/L)を3Lのガラス製フラスコに入れた。これを30℃に加温し、前記USYゼオライトの60gを攪拌しながら投入した。この時の水溶液のpHは2.2であった。4時間攪拌を行った後、スラリーを濾過分離し、固形分を50℃の加温水3Lを用いて洗浄を行った。
得られたゼオライトケーキを120℃で3時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(250mL/min)で500℃にて3時間焼成し、修飾ゼオライトAを得た。修飾ゼオライトAの組成及び物性を表1に示す。表1に示す物性値の測定方法及び分析機器を以下に示す。
【0038】
〔組成分析〕
触媒の組成は、プラズマ発光分光分析装置(ICP):Thermo ELECTRON CORPORATION社製 “IRIS Advantage”を用いて測定した。
〔格子定数、結晶化度の測定〕
粉末X線回折分析装置((株)リガク製、Ultima IV)を用いて、X線源CuKα、出力40kV、40mAの条件で測定した。格子定数は、ASTM D3942−97に準拠した方法で算出した。結晶化度は、ASTM D3906−97に準拠した方法で算出した。
〔比表面積(SA)の測定〕
比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した。窒素吸着装置は、日本ベル株式会社製の表面積測定装置(BELSORP−mini)を使用した。
【0039】
実施例2
30質量%硫酸チタン(IV)水溶液15mL(調製後のチタン濃度:0.01モル/L)を用いた以外は実施例1と同様な手法で修飾ゼオライトを調製し、修飾ゼオライトBを得た。USYゼオライトを投入した時の水溶液のpHは1.9であった。修飾ゼオライトBの組成及び物性を表1に示す。
【0040】
実施例3
30質量%硫酸チタン(IV)水溶液29mL(調製後のチタン濃度:0.02モル/L)を用いた以外は実施例1と同様な手法で修飾ゼオライトを調製し、修飾ゼオライトCを得た。USYゼオライトを投入した時の水溶液のpHは1.8であった。修飾ゼオライトCの組成及び物性を表1に示す。
【0041】
比較例1
30質量%硫酸チタン(IV)水溶液44mL(調製後のチタン濃度:0.03モル/L)を用いた以外は実施例1と同様な手法で修飾ゼオライトを調製し、比較修飾ゼオライトaを得た。USYゼオライトを投入した時の水溶液のpHは1.4であった。比較修飾ゼオライトaの組成及び物性を表1に示す。
【0042】
比較例2
30質量%硫酸チタン(IV)水溶液3mL(調製後のチタン濃度:0.002モル/L)を用いた以外は実施例1と同様な手法で修飾ゼオライトを調製し、比較修飾ゼオライトbを得た。USYゼオライトを投入した時の水溶液のpHは2.7であった。比較修飾ゼオライトbの組成及び物性を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
〔水素化分解触媒の調製例〕
実施例4
実施例1で得られた修飾ゼオライトA30.1gにベーマイト40.0gと水36.0gを加え、1時間混練した。この混練物を押出し成型機により、直径1.6mmのシリンダーの形状に押出し、ついで120℃で2時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(250mL/min)で550℃にて2時間焼成し成型物を得た。この成型物20gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながらモリブデン酸六アンモニウム四水和物1.3gを含む含浸溶液をフラスコ中に注入した。含浸した試料は120℃で2時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(250mL/min)で550℃にて2時間焼成し、触媒Aを得た。触媒Aの組成を表2に示す。
【0045】
実施例5
実施例2で得られた修飾ゼオライトBを用いた以外は実施例4と同様の方法で触媒Bを得た。触媒Bの組成を表2に示す。
【0046】
実施例6
実施例3で得られた修飾ゼオライトCを用いた以外は実施例4と同様の方法で触媒Cを得た。触媒Cの組成を表2に示す。
【0047】
実施例7
実施例3で得られた修飾ゼオライトC30.1gにベーマイト40.0gと水36.0gを加え、1時間混練した。この混練物を押出し成型機により、直径1.6mmのシリンダーの形状に押出し、ついで120℃で2時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(250mL/min)で550℃にて2時間焼成し成型物を得た。この成型物20gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながらモリブデン酸六アンモニウム四水和物1.0g及び硝酸ニッケル(II)六水和物0.8gを含む含浸溶液をフラスコ中に注入した。含浸した試料は120℃で2時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(250mL/min)で550℃にて2時間焼成し、触媒Dを得た。触媒Dの組成を表2に示す。
【0048】
比較例3
比較例1で得られた比較修飾ゼオライトaを用いた以外は実施例4と同様の方法で比較触媒aを得た。比較触媒aの組成を表2に示す。
【0049】
比較例4
比較例2で得られた比較修飾ゼオライトbを用いた以外は実施例4と同様の方法で比較触媒bを得た。比較触媒bの組成を表2に示す。
【0050】
比較例5
実施例1で用いたのと同様の原料ゼオライトを30.1g用い、それにベーマイト40.0gと水36.0gを加え、1時間混練した。この混練物を押出し成型機により、直径1.6mmのシリンダーの形状に押出し、ついで120℃で2時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(250mL/min)で550℃にて2時間焼成し成型物を得た。この成型物20gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながらモリブデン酸六アンモニウム四水和物1.0g及び硝酸ニッケル(II)六水和物0.8gを含む含浸溶液をフラスコ中に注入した。含浸した試料は120℃で2時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(250mL/min)で550℃にて2時間焼成し、比較触媒cを得た。比較触媒cの組成を表2に示す。
【0051】
実施例8
モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.6g及び硝酸ニッケル(II)六水和物0.5gを含む含浸溶液を用いた以外は実施例7と同様の方法で触媒Eを得た。触媒Eの組成を表2に示す。
【0052】
実施例9
モリブデン酸六アンモニウム四水和物2.2g及び硝酸ニッケル(II)六水和物1.8gを含む含浸溶液を用いた以外は実施例7と同様の方法で触媒Fを得た。触媒Fの組成を表2に示す。
【0053】
実施例10
モリブデン酸六アンモニウム四水和物5.0g及び硝酸ニッケル(II)六水和物4.0gを含む含浸溶液を用いた以外は実施例7と同様の方法で触媒Gを得た。触媒Gの組成を表2に示す。
【0054】
実施例11
モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.61g及び炭酸コバルト(II)六水和物0.52gを含む含浸溶液を用いた以外は実施例7と同様の方法で触媒Hを得た。触媒Hの組成を表2に示す。
【0055】
比較例6
モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.05gを含む含浸溶液を用いた以外は実施例7と同様の方法で比較触媒dを得た。比較触媒dの組成を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
〔接触分解装置循環油(LCO)の水素化分解処理〕
実施例12
上記の実施例4〜11及び比較例3〜6で調製した触媒A、B、C、D、E、F、G、H、a、b、c、dを用い、以下の要領にて、下記原料油の水素化分解処理を行った。
まず、上記触媒を高圧流通式反応装置(内径15mm)に20mL充填し、その上部に前段触媒として脱硫触媒(CoMoアルミナ)を20mL充填し、固定床式触媒層を形成した。次に、反応温度に加熱した原料油と水素含有ガスとの混合流体を、反応装置の上部より導入して、下記の水素化処理条件で水素化分解反応を進行させ、生成油とガスの混合流体を、反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。
【0058】
原料油:
油種 ;接触分解装置循環油(LCO)
芳香族炭化水素化合物成分 ;56.9質量%
密度(15/4℃) ;0.8935
硫黄成分 ;0.15質量%
窒素成分 ;0.03質量%
蒸留性状 ;初留点が163℃、10%点が198℃、
30%点が229℃、50%点が305℃、
70%点が310℃、90%点が342℃、
終点が369℃
【0059】
水素化処理条件:
反応温度 ;410℃
圧力(水素分圧) ;7.0MPa
液空間速度(LHSV) ;1.0hr−1
前段の脱硫触媒以降の水素化分解処理条件
水素/炭化水素比 ;600Nm/KL
【0060】
なお、上記原料油(LCO)の蒸留性状はJIS K 2254に準拠して、その芳香族分は石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフィー法)に準拠して測定した値である。
【0061】
水素化分解反応結果について、以下の方法で解析した。
反応開始後20日目及び50日目の生成油を回収し、それぞれの生成油からバッチ式蒸留装置(釜容量500mL)によりガソリン留分(沸点範囲30〜180℃)を回収し、その重量を測定して、下式によりガソリン留分収率を求め、その値を表3に示す。
ガソリン留分収率(質量%)=(蒸留分離により得られたガソリン留分収量(質量基準))/(反応装置に投入した炭化水素原料油の投入量(質量基準))×100
【0062】
また、下記表3に示した生成油から回収したガソリン留分のRONはJIS K 2280に準拠して、その硫黄分はJIS K 2541に準拠して測定した値である。また、キシレン留分収率は、ガソリン留分のキシレン留分含有量をFID付ガスクロマトグラフィーにて求めて、下式により算出した値である。ここで、キシレン留分とはエチルベンゼン、m−、p−、o−キシレンと定義する。
キシレン留分収率(質量%)=(蒸留分離により得られたガソリン留分収量(質量基準))×(キシレン留分含有割合)/(反応装置に投入した炭化水素原料油の投入量(質量基準))×100
【0063】
【表3】

【0064】
表3から明らかなように、本発明の触媒A〜Hを用いれば、経時的に安定に、かつ高収率でガソリン留分およびキシレン留分が得られる。さらに、実施例のように芳香族炭化水素化合物含有量の高い石油系炭化水素油を原料として用いると、オクタン価88以上、かつ硫黄分10質量ppm以下のガソリン留分が得られるとともに、石油化学原料であるキシレン留分も生成してくることが判る。
なお、比較例6(比較触媒d)は、本発明に係る担体の要件は満たすが、本発明に係る触媒の要件(水素化活性金属の含有量の要件)を逸脱するので比較例としたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォージャサイト型ゼオライトにチタンを含有させた修飾ゼオライトを含み、該修飾ゼオライトが下記(a)〜(e)を満たすことを特徴とする炭化水素油の水素化分解触媒用担体。
(a)修飾ゼオライトにおけるチタンの含有量が金属酸化物換算で1〜17質量%
(b)修飾ゼオライト中に含まれるアルミニウムとケイ素との原子比Al/Siが0.14〜0.35
(c)格子定数が24.36〜24.48Å
(d)結晶化度が30〜95%
(e)比表面積が500〜850m/g。
【請求項2】
請求項1に記載の担体に長周期型周期律表第8族金属及び第6族金属から選択された少なくとも1種を触媒基準・金属酸化物換算で0.5〜30質量%含有させてなることを特徴とする炭化水素油の水素化分解触媒。
【請求項3】
請求項2に記載の水素化分解触媒を用い、沸点範囲が120〜380℃で、かつ、30〜100質量%の芳香族炭化水素化合物を含む炭化水素油を原料油とすることを特徴とする炭化水素油の水素化分解方法。

【公開番号】特開2011−41911(P2011−41911A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192087(P2009−192087)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】