説明

炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法

【課題】 重質炭化水素の流動接触分解に使用して、残油(ボトム)分解能が高く、水素、ドライガスやコークの生成が少なく、オレフィン含有量の少ないガソリン生成に優れ、しかも耐熱安定性に優れた炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法の提供。
【解決手段】 (A)アルミナ水和物で被覆されたY型ゼオライトをリン酸イオン含有水溶液で処理して得られたリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトと、(B)結合剤として塩基性塩化アルミニウムを含有する無機酸化物マトリックス前駆体、との水性混合物を噴霧乾燥することを特徴とする炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法に関し、さらに詳しくは炭化水素、特に残渣油などの重質炭化水素の流動接触分解に使用して、高い分解活性を示し、水素、ドライガス(メタン、エタン)やコークの生成が少なく、オレフィン含有量の少ないガソリン生成に優れ、しかも耐熱安定性に優れた炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の炭化水素供給原料油の重質化に伴って、流動接触分解(FCC)装置での接触分解に際して流動接触分解用触媒組成物(FCC触媒)に付着するコーク量が多くなり、再生塔でのFCC触媒の再生温度が高くなっている。そのためFCC触媒には、重質炭化水素の流動接触分解に使用して高い分解活性を示し、水素、ドライガスやコークの生成が少なく、しかも耐熱安定性に優れたFCC触媒が要求されている。
一方、市販のガソリンに含まれるオレフィンの量は取り扱いの安全性の面から制限が課せられており、製油所によってはオレフィン含有量の少ないFCCガソリンを望まれるところがある。
この様な要望に応えて、種々の炭化水素流動接触分解用触媒組成物やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Y型フォージャサイトを、リン酸イオンを含有する水溶液で処理して、リンの含有量がPとして0.3〜15重量%であるリン含有Y型フォージャサイトを調製し、このリン含有Y型フォージャサイトを多孔性母材の前駆体の水懸濁液と混合し、この水性混合物を噴霧乾燥し、洗浄し、乾燥することを特徴とする炭化水素油の接触分解用触媒組成物の製造方法が記載されており、該触媒組成物は、炭化水素油の接触分解に使用して、高い分解活性を発揮するにも拘わらず、コークの生成が少なく、しかも熱安定性に優れていることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、NaY−ゼオライトをまずアンモニウム交換に附し、得られたアンモニウム交換されたゼオライトをアルミニウム交換に附し、アルミニウム交換されたゼオライトを水蒸気焼成に附し、そしてリン成分を水蒸気焼成されたゼオライトに取り込むことを特徴とする変性Y型ゼオライトを調製する方法および該アルミニウム交換されたリン含有Y−ゼオライトを含有するFCC触媒が記載されており、該FCC触媒は、アルミニウム交換されているか或いはリンを含んでいるかのいずれかのゼオライトを含有するFCC触媒に比べて、より少ないコーク形成およびCオレフィンへの改善された選択率を示すことが記載されている。
これらの触媒は、分解活性が高く、水素、コークの生成が少なくプロピレン(C=)/プロパン(C)比を低めるなどの一応の効果は有するものの、さらなる改善が望まれていた。
【0005】
一方、特許文献3には、重質炭化水素の接触分解に使用して優れた効果を示す、アルミナ水和物で被覆した超安定性Y型ゼオライトを使用した炭化水素接触分解用触媒組成物の製造方法が記載されており、該アルミナ水和物で被覆した超安定性Y型ゼオライトは、骨格外アルミナ(NFA)の含有量が2.0wt%以上で、結晶度が80%以上のY型ゼオライトを酸性水溶液中に懸濁し、次いで、該懸濁液とアルカリ水溶液とを系のpHが7.0〜9.5の範囲になる割合で混合して調製することが開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、炭化水素の接触分解触媒を含む触媒の製法が開示されており、結合剤としてアルミニウムクロルヒドロールを使用して耐摩耗性の触媒を製造する方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−197549号公報
【特許文献2】特表平8−508970号公報
【特許文献3】特開2001−212462号公報
【特許文献4】特開昭62−14947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、炭化水素、特に、ニッケルやバナジウムなどの金属汚染物質を含有する原油、減圧残渣油、常圧残渣油、水素化処理油、減圧軽油などの重質炭化水素の流動接触分解に使用して、残油(ボトム)分解能が高く、水素、ドライガスやコークの生成が少なく、オレフィン含有量の少ないガソリン生成に優れ、しかも耐熱安定性に優れた炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アルミナ水和物で被覆した超安定性Y型ゼオライトをリン酸イオン含有水溶液で処理したリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトと結合剤として塩基性塩化アルミニウムを使用して製造したFCC触媒は、前述の目的を達成することを見出し本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1は、(A)アルミナ水和物で被覆されたY型ゼオライトをリン酸イオン含有水溶液で処理して得られたリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトと、(B)結合剤として塩基性塩化アルミニウムを含有する無機酸化物マトリックス前駆体、との水性混合物を噴霧乾燥することを特徴とする炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法に関する。
本発明の第2は、前記リン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトのリン含有量がゼオライトとアルミナとリンの酸化物合計に対してPとして0.1〜20wt%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法で得られる炭化水素流動接触分解用触媒組成物は、FCC装置での再生塔の再生温度が高くても耐水熱安定性に優れており、残油(ボトム)分解能が高く、水素、ドライガスやコークの生成が少なく、オレフィン含有量の少ないガソリン生成に優れているので、オレフィン含有量の少ないFCCガソリンを望まれる製油所では好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法では、(A)アルミナ水和物で被覆されたY型ゼオライトをリン酸イオン含有水溶液で処理して得られたリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトを使用する。
該アルミナ水和物で被覆されたY型ゼオライトは、本出願人の出願にかかる特許文献3に記載の方法に従って調製される。即ち、骨格外アルミナ(NFA)の含有量が2.0wt%以上で、結晶度が80%以上のY型ゼオライトを酸性水溶液中に懸濁し、次いで、該懸濁液とアルカリ水溶液とを系のpHが7.0〜9.5の範囲になる割合で混合してアルミナ水和物被覆ゼオライトを調製する。前記Y型ゼオライトの骨格外アルミナ(NFA)の含有量は2.0〜17.0wt%の範囲にあることが好ましい。また、該Y型ゼオライトを被覆するアルミナ水和物のアルミナ量は、Alとして1〜20wt%(ゼオライトと被覆アルミナとの合計基準)の範囲にあることが好ましい。
【0012】
本発明でのリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトは、前述のアルミナ水和物被覆ゼオライトをリン酸イオン含有水溶液で処理して調製する。
リン酸イオン含有水溶液は、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、およびその他の水溶性リン酸塩等を、任意の濃度で水に溶解させて調製することができる。該リン酸イオン含有水溶液と前記アルミナ水和物被覆ゼオライトを接触させてリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトを調製する。該リン酸イオン含有水溶液と該アルミナ水和物被覆ゼオライトとの接触は、pH3〜8の範囲で常温から約100℃の温度で行うことができる。この処理で得られるリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトのリン含有量は、ゼオライトとアルミナとリンの酸化物合計に対してPとして0.1〜20wt%の範囲であることが好ましい。リン含有量が0.1wt%より少ない場合には、コーク生成の十分な抑制効果が得られないことがある。また、リン含有量が20wt%より多い場合には、ガソリン収率が低下することがある。リン含有量は、さらに好ましくは0.5〜15wt%の範囲である。
【0013】
本発明の製造方法では、(B)結合剤として塩基性塩化アルミニウムを含有する無機酸化物マトリックス前駆体を使用する。
塩基性塩化アルミニウム(Basic aluminumchloride)は、一般式[Al(OH)Cl6−n(ただし、0<n<6、m≦10)で示されるポリ塩化アルミニウムで、市販されている。特に、nの値が4〜5の高塩基性塩化アルミニウムは結合力が強いので好適に使用される。
本発明での無機酸化物マトリックス前駆体は、塩基性塩化アルミニウムを結合剤として含有する他は、通常のFCC触媒に慣用される無機酸化物マトリックス前駆体が使用可能である。該無機酸化物マトリックス前駆体は、最終触媒組成物の酸化物重量基準で、結合剤(バインダー)としての塩基性塩化アルミニウムに由来するアルミナが5〜30wt%、カオリンなどの粘土が20〜70wt%、アルミナ粒子や酸化マンガン粒子などのメタル捕捉剤が0.5〜20wt%の範囲で含有することが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法では、前述のリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトと、前述の結合剤として塩基性塩化アルミニウムを含有する無機酸化物マトリックス前駆体、との水性混合物を通常の方法で噴霧乾燥して微小球状粒子を得る。リン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトの混合割合は、ゼオライト(SiO−Al基準)とアルミナ(Al)とリン(P)の合計として最終触媒組成物の5〜50wt%の範囲になるようにすることが好ましい。得られた微小球状粒子は、通常の方法で洗浄、乾燥し、必要に応じて希土類成分が導入される。
なお、該触媒組成物の使用に際しては、通常の接触分解の反応条件が採用可能であり、FCC装置での再生塔の再生温度を高くすることも可能である。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0016】
実施例1
特開2001−212462号公報の実施例1に基づき、アルミナ水和物被覆超安定性Y型ゼオライトスラリーを調製した。
即ち格子定数24.57Åの超安定性Y型ゼオライト(USY)1650g(SiO−Al基準)を3350gの脱イオン水に攪拌しながら懸濁し60℃まで加温した。このゼオライト懸濁スラリーに25wt%濃度の硫酸を加えpHを2.8に調整した。別途、60℃に加温したAl濃度5wt%のアルミン酸ナトリウム溶液2850gを準備した。このアルミン酸ナトリウム溶液にpH2.8に調整した先のゼオライト懸濁スラリーを5分間で添加した。添加終了後の混合スラリーのpHは7.8であった。混合スラリーを1時間攪拌した後、減圧吸引式濾過器で固液分離し、60℃の脱イオン水を掛けて水洗浄し、残存しているNaイオンやSOイオン等の副生塩を除去してアルミナ水和物で被覆したUSYを調製した。該アルミナ水和物被覆USYを4000gの脱イオン水にスラリー化して、アルミナ水和物被覆USYスラリーを得た。
このアルミナ水和物被覆USYの25wt%スラリーに撹拌しながら、リン処理アルミナ水和物被覆USYゼオライト中リン含有量(Pとして)が5wt%となるように濃度85wt%のオルトリン酸を加えて、60℃で20分間撹拌した。このようにして、リン処理アルミナ水和物被覆USYスラリーを調製した。
一方、スティームジャケット付きの70Lタンクに純水33.7kgを計量し、塩化アルミニウム6水塩−1級試薬(関東化学社製)7245gを攪拌しながら95℃まで昇温した。この塩化アルミニウム溶液に家庭用の金属アルミ箔4050gを6時間かけて溶かした後、30℃まで冷却しAl濃度で20.5wt%、pH3.9の塩基性塩化アルミニウムスラリーを調製した。
前記塩基性塩化アルミニウムスラリーを最終組成物の重量基準でAl濃度が10wt%となるように秤量し、これに、カオリンと活性アルミナを最終触媒組成物の重量基準でそれぞれ65.5wt%、3wt%となるように加え、無機酸化物マトリックス前躯体を調製した。さらに、前記のリン処理アルミナ水和物被覆USYスラリーを前記の無機酸化物マトリックス前躯体にリン処理アルミナ水和物被覆USYの酸化物としての含有量が最終触媒組成物の重量基準で20wt%になるように加えて混合した。最後にメタルトラップ剤として二酸化マンガンを最終触媒組成物の重量基準で1.5wt%になるように加え、混合スラリーを得た。
この混合スラリーを噴霧乾燥して微小球状粒子を調製した後、NaO含有量が0.5wt%以下になるまで洗浄した後、塩化希土類水溶液に60℃で浸漬した後、乾燥して酸化物(RE)として2wt%の希土類成分を含有する触媒組成物Aを調製した。
【0017】
実施例2
実施例1に使用したと同様のアルミナ水和物被覆USYの25wt%スラリーに、撹拌しながら、リン処理アルミナ水和物被覆USYゼオライト中リン含有量(Pとして)が8wt%となるように濃度85wt%のオルトリン酸を加えて、60℃で20分間撹拌した。このようにして、リン処理アルミナ水和物被覆USYスラリーを調製した。
実施例1に使用したと同様の塩基性塩化アルミニウムスラリーを最終組成物の重量基準でAl濃度が10wt%となるように秤量し、カオリン、活性アルミナを最終触媒組成物の重量基準でそれぞれ65.5wt%、3wt%となるように塩基性塩化アルミニウムスラリーに加え無機酸化物マトリックス前躯体を調製した。さらに、前記のリン処理アルミナ水和物被覆USYスラリーを前記の無機酸化物マトリックス前駆体にリン処理アルミナ水和物被覆USYの酸化物としての含有量が最終触媒組成物の重量基準で20wt%になるように加えて混合した。最後にメタルトラップ剤として二酸化マンガンを最終触媒組成物の重量基準で1.5wt%になるように加え、混合スラリーを得た。
この混合スラリーを噴霧乾燥して微小球状粒子を調製した後、NaO含有量が0.5wt%以下になるまで洗浄した後、塩化希土類水溶液に60℃で浸漬した後、乾燥して酸化物(RE)として2wt%の希土類成分を含有する触媒組成物Bを調製した。
【0018】
実施例3
実施例1に使用したと同様のアルミナ水和物被覆USYの25wt%スラリーに、撹拌しながら、リン処理アルミナ水和物被覆USYゼオライト中リン含有量(Pとして)が15wt%となるようにオルトリン酸とリン酸一アンモニウム混合溶液(リン酸:リン酸一アンモニウム=7:3)を加えて、60℃で20分間撹拌した。このようにして、リン処理アルミナ水和物被覆USYスラリーを調製した。
実施例1に使用したと同様の塩基性塩化アルミニウムスラリーを最終組成物の重量基準でAl濃度が10wt%となるように秤量し、カオリン、活性アルミナを最終触媒組成物の重量基準でそれぞれ65.5wt%、3wt%となるように塩基性塩化アルミニウムスラリーに加え無機酸化物マトリックス前躯体を調製した。さらに、前記のリン処理アルミナ水和物被覆USYスラリーを前記の無機酸化物マトリックス前躯体にリン処理アルミナ水和物被覆USYの酸化物としての含有量が最終触媒組成物の重量基準で20wt%になるように加えて混合した。最後にメタルトラップ剤として二酸化マンガンを最終触媒組成物の重量基準で1.5wt%になるように加え、混合スラリーを得た。
この混合スラリーを噴霧乾燥して微小球状粒子を調製した後、NaO含有量が0.5wt%以下になるまで洗浄した後、塩化希土類水溶液に60℃で浸漬した後、乾燥して酸化物(RE)として2wt%の希土類成分を含有する触媒組成物Cを調製した。
【0019】
比較例1
実施例1に使用したと同様の塩基性塩化アルミニウムスラリーを最終組成物の重量基準でAl濃度が10wt%となるように秤量し、カオリン、活性アルミナを最終触媒組成物の重量基準でそれぞれ65.5wt%、3wt%となるように塩基性塩化アルミニウムスラリーに加え無機酸化物マトリックス前躯体を調製した。さらに、実施例1に使用したと同様のアルミナ水和物被覆USYの25wt%スラリーを前述の無機酸化物マトリックス前躯体にアルミナ水和物被覆USYの酸化物としての含有量が最終触媒組成物の重量基準で20wt%になるように加えて混合した。最後にメタルトラップ剤として二酸化マンガンを最終触媒組成物の重量基準で1.5wt%になるように加え、混合スラリーを得た。
この混合スラリーを噴霧乾燥して微小球状粒子を調製した後、NaO含有量が0.5wt%以下になるまで洗浄した後、塩化希土類水溶液に60℃で浸漬した後、乾燥して酸化物(RE)として2wt%の希土類成分を含有する触媒組成物Dを調製した。
【0020】
比較例2
実施例1に使用したと同様のアルミナ水和物被覆USYの25wt%スラリーに、撹拌しながら、リン処理アルミナ水和物被覆USYゼオライト中リン含有量(Pとして)が5wt%となるように濃度85wt%のオルトリン酸を加えて、60℃で20分間撹拌した。このようにして、リン処理アルミナ水和物被覆USYスラリーを得た。
SiO濃度17wt%の水ガラスに、濃度25wt%の硫酸を連続的に加えて、SiO濃度12.5wt%のシリカヒドロゾルを調製した。最終触媒組成物の重量基準でSiO濃度が20wt%となるようにこのシリカヒドロゾルを秤量し、カオリン、活性アルミナを最終触媒組成物の重量基準でそれぞれ55.5wt%、3wt%となるように該シリカヒドロゾルに加え無機酸化物マトリックス前躯体を調製した。さらに、前記のリン処理アルミナ水和物被覆USYスラリーを前述の無機酸化物マトリックス前躯体にリン処理アルミナ水和物被覆USYの酸化物としての含有量が最終触媒組成物の重量基準で20wt%になるように加えて混合した。最後にメタルトラップ剤として二酸化マンガンを最終触媒組成物の重量基準で1.5wt%になるように加え、混合スラリーを得た。
この混合スラリーを噴霧乾燥して微小球状粒子を調製した後、NaO含有量が0.5wt%以下になるまで洗浄した後、塩化希土類水溶液に60℃で浸漬した後、乾燥して酸化物(RE)として2wt%の希土類成分を含有する触媒組成物Eを調製した。
【0021】
比較例3
水素イオン交換された格子定数24.57Åの超安定性Y型ゼオライトの33wt%スラリーに、撹拌しながら、リン処理超安定性Y型ゼオライト中リン含有量(Pとして)が5wt%となるように濃度85wt%のオルトリン酸を加えて、60℃で20分間撹拌した。このようにして、リン処理超安定性Y型ゼオライトを得た。
実施例1に使用したと同様の塩基性塩化アルミニウムスラリーを最終組成物の重量基準でAl濃度が10wt%となるように秤量し、カオリン、活性アルミナを最終触媒組成物の重量基準でそれぞれ65.5wt%、3wt%となるように塩基性塩化アルミニウムスラリーに加え無機酸化物マトリックス前躯体を調製した。さらに、前記のリン処理超安定性Y型ゼオライトの33wt%スラリーを前記の無機酸化物マトリックス前躯体にリン処理超安定性Y型ゼオライトの酸化物としての含有量が最終触媒組成物の重量基準で20wt%になるように加えて混合した。最後にメタルトラップ剤として二酸化マンガンを最終触媒組成物の重量基準で1.5wt%になるように加え、混合スラリーを得た。
この混合スラリーを噴霧乾燥して微小球状粒子を調製した後、NaO含有量が0.5wt%以下になるまで洗浄した後、塩化希土類水溶液に60℃で浸漬した後、乾燥して酸化物(RE)として2wt%の希土類成分を含有する触媒組成物Fを調製した。
【0022】
実施例4(触媒使用例)
実施例および比較例で調製した触媒A,B,CおよびD,E,Fのそれぞれについて、反応試験装置ASTM MATを用い、同一原料油、同一反応条件下で接触分解反応試験を行なった。反応試験を行なう前に、それぞれの触媒は、最終組成物の重量基準で、ナフテン酸バナジウムをVとして4000wtppm、ナフテン酸ニッケルをNiOとして2000wtppmをともに含浸し、780℃で13時間100%スチーム雰囲気下で前処理をした。
接触分解反応条件は、以下の通りであった。
反応温度:510℃
原料油:脱硫常圧蒸留残さ油(DSAR)40wt%と脱硫減圧軽油(DSVGO)60wt%の混合油。
WHSV:40hr−1
触媒/油比:4wt%/wt%
反応結果を表1に結果を示す。
なお、表1の活性評価の項目は次の意味を表す。
転化率(wt%)=(A−B)/A×100
A:原料油の重量
B:生成油中の沸点216℃以上の留分の重量
ガソリン(wt%)=C/A×100
C:生成油中のガソリン(沸点範囲:C5〜216℃)の重量
LCO(wt%)=D/A×100
D:生成油中のLCO*1)(沸点範囲:216〜343℃)の重量
*1)ライトサイクルオイル
HCO(wt%)=E/A×100
E:生成油中のHCO*2)(沸点範囲:343℃−)の重量
*2)ヘビーサイクルオイル
コーク(wt%)=F/A×100
F:触媒混合物上に析出したコーク重量
K=分解率/(100−分解率)
K:速度定数
LPG Olefinicity=LPG(C3+C4)中のオレフィンの割合
ガソリン中のオレフィン含有量を示す指標としてLPG Olefin icityを表示した。
表1から分かるように、本発明の製造方法で得られる炭化水素流動接触分解用触媒組成物は、転化率が高くて、しかもガソリン収率が高く、水素、コークの生成量が少ない。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルミナ水和物で被覆されたY型ゼオライトをリン酸イオン含有水溶液で処理して得られたリン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトと、(B)結合剤として塩基性塩化アルミニウムを含有する無機酸化物マトリックス前駆体、との水性混合物を噴霧乾燥することを特徴とする炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法。
【請求項2】
前記リン処理アルミナ水和物被覆ゼオライトのリン含有量がゼオライトとアルミナとリンの酸化物合計に対してPとして0.1〜20wt%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の炭化水素流動接触分解用触媒組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−142273(P2006−142273A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368452(P2004−368452)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000190024)触媒化成工業株式会社 (458)
【Fターム(参考)】