説明

炭化物の製造方法及び炭化物

【課題】 コーンコブのポーラスな状態をできるだけ保持できるようにして焼成し、比表面積を大きくして吸着性能を十分に発揮させることができるようにするとともに、大きさの均一化を図って種々の用途に適用させ易くし、汎用性の向上を図る。
【解決手段】 コーンコブCを所定の粒状に細分化してコーンコブCの粒状物を生成する細分化工程(1)と、細分化工程で細分化された粒状物を大きさの範囲が夫々異なる粒状物の複数の集団S1,S2,S3に分別する分別工程(2)と、分別工程で分別された複数の集団S1,S2,S3のうち少なくとも何れか1つの集団S1,S2,S3の粒状物を該粒状物の形状を可及的に保持しながら1000℃以下の温度で焼成して炭化する炭化工程(3)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーンコブを焼成して炭化した炭化物を製造する炭化物の製造方法及びコーンコブを焼成して炭化した炭化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の炭化物としては、例えば、特許文献1(特開平11−302672号公報)に記載されたものが知られている。
この炭化物は、きのこの廃培地にコーンコブを配合し、この廃培地を回転乾燥機中で回転させながら、90〜95℃の温度で約2時間乾燥し、更に、常温で約8時間自然乾燥し、含水率を約20%にする。この乾燥した廃培地を窯内に入れ、空気量を制限しつつ350〜450℃で炭化を開始し、700〜800℃に達したときに加熱を止め常温まで冷却し、粒状の炭化物を得る。その後、この炭化物に澱粉のりを10重量%加え均一に混合し、型に入れ、常温で約3日間自然乾燥し、約30cm3 の立方体状にする。
【0003】
このように製造された炭化物は、燃料を初めとして、床材、天井材、防音材、防湿材などの建築資材の炭化ボード、空調、水処理、脱臭などにおけるフイルターなどに使用するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−302672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の炭化物にあっては、きのこの廃培地にコーンコブを配合して焼成しているので、炭化過程で粒状物の形状が崩れ易く、また、澱粉のりを加えて型に入れて成形することもあって、必ずしも、コーンコブ特有の微細空隙の多いポーラスな状態を十分に生かしきれていないという問題があった。
また、きのこの廃培地にコーンコブを配合して焼成しているので、その粒状物の大きさが一定範囲になく、それだけ、用途が燃料や比較的硬質の建築資材やフィルターなどの狭い範囲に限定され、吸着材などへの活用が図りにくくなっており、汎用性に劣るという問題もあった。
【0006】
本発明は、この点に鑑みて為されたもので、コーンコブのポーラスな状態をできるだけ保持できるようにして焼成し、比表面積を大きくして吸着性能を十分に発揮させることができるようにするとともに、大きさの均一化を図って種々の用途に適用させ易くし、汎用性の向上を図った炭化物の製造方法及び炭化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するため本発明は、コーンコブを焼成して炭化した炭化物を製造する炭化物の製造方法において、コーンコブを所定の粒状に細分化してコーンコブの粒状物を生成する細分化工程と、該細分化工程で細分化された粒状物を大きさの範囲が夫々異なる粒状物の複数の集団に分別する分別工程と、該分別工程で分別された複数の集団のうち少なくとも何れか1つの集団の粒状物を該粒状物の形状を可及的に保持しながら1000℃以下の温度で焼成して炭化する炭化工程とを備えた構成としている。
【0008】
これにより、炭化工程で、粒状物はその形状が可及的に保持されながら焼成されるので、細分化されたコーンコブの形が崩れないでそのまま炭化させられる。そのため、コーンコブ特有の微細空隙が保持された状態で炭化されるのでポーラスな状態を保持することができ、それだけ、比表面積を大きくすることができ、吸着性能を十分に発揮させることができるようになる。また、分別工程で粒状物の大きさの範囲が夫々異なる複数の集団に分別されるので、焼成されて炭化された炭化物の大きさがある程度均一化される。そのため、用途に応じた大きさの炭化物を得ることができ、種々の用途に適用させ易くなり、汎用性が向上させられる。
【0009】
また、コーンコブは、700℃以上の温度で炭化すると、比表面積が急激に向上し、吸着機能を高める構造の炭化物となる(図5)。これは、コーンコブはリグニンの含有量が少ないために、熱分解されやすいヘミセルロース、セルロースが中心となった組成構造になっていることから1000℃以下の炭化温度で炭化しても、結果的に比表面積の大きい炭化物となりやすい。また、炭化前の物理構造そのものが繊細な多孔質体であることも比表面積を大きくする要因となっている。
【0010】
さらに、コーンコブの炭化温度に対する特性として、1000℃以下で炭化しても高い比表面積が得られるばかりではなく、高温度に比較してむしろ低い温度である700℃未満で炭化したほうが結晶性の高い炭化物になりやすく、広範囲の炭化温度で、高い吸着性能を持つ炭化物を得ることができる。その理由は、コーンコブがチャフ、木質部、髄の三層構造を持ち、それぞれから得られる炭化物の結晶性が非常に高いためである。このような結晶性の高い炭化物は、イオン性吸着物との疎水的相互作用が強くなるため、他の炭化物よりも吸着性能が高くなる。
【0011】
このようにコーンコブの炭化物は、他の炭化物と比較して極めて高性能な吸着性能を示す。即ち、他の炭化物では、下記のような問題点をかかえている。
(1)1000℃以下で焼成する黒炭技術だけでは吸着能を高める比表面積が十分確保できない。
(2)「黒炭」の表面は負の官能基を有しているため、陽性イオンの吸着には有利であるが、陰イオン性の吸着剤としては適さない。
(3)仮に「活性炭」のような機能を持たせる「木炭」を製造しようとすると、炭化温度1000℃以上に高め、なおかつ比表面積を多くするための賦活(ふかつ)処理をしなければならず、そのためには工業用焼成炉などの高度な設備を準備する必要がある。
そのため、従来の製炭技術だけで対応しようとしても経済的にはあわない。このように、従来の黒炭を上回る吸着特性を有し、かつ「活性炭」と同等の機能を有する新たな黒炭を作ることは容易ではない。本発明に係る炭化物においては、これらの問題点を解決できるのである。
【0012】
そして、必要に応じ、上記細分化工程で、粒状物の最大幅Dが、D≦50mmになるように細分化する構成としている。すなわちこの範囲の大きさが一番炭化効率がよく、一方50mm以上であると、炭化にむらができ易く、取り扱いも煩雑になる。
【0013】
また、必要に応じ、上記分別工程で、粒状物の最大幅Dが、D>12mmの大粒集団,12≦D≦5の中粒集団,D<5mmの小粒集団に分別する構成としている。この場合、大粒集団を焼成して炭化した炭化物は、約5mm〜12mmの大きさになり、中粒集団を焼成して炭化した炭化物は、約3mm〜8mmの大きさになり、小粒集団を焼成して炭化した炭化物は、約3mm以下の大きさになり、夫々、種々の用途に適用させ易くなる。
【0014】
更に、必要に応じ、上記炭化工程で、炭化温度を500℃〜900℃にした構成としている。上述もしたように、コーンコブの炭化物は1000℃以下の炭化温度においても、通常のナラ、スギを炭化したものと比較して数倍高い比表面積をとり得るが、500℃に満たないと、比表面積が不十分になる。700℃以上の炭化条件ではより高い比表面積となり、800℃の炭化温度で比較すると、コーンコブの炭化物が約5倍の比表面積をとるようになる。なお、高温で炭化したほうが高い比表面積となりうるが、900℃を超えると、経済効果に劣る。
【0015】
この場合、上記炭化工程で、炭化温度を600℃以上700℃未満にしたことが結晶性の高い炭化物を得るためには有効である。
後述の試験結果から、炭化温度500℃から700℃に上がるにつれて炭化物のグラファイト化のピークが大きくなっているのに対し、800℃から1000℃の炭化温度で得られた炭化物にはそのピークは見られない。コーンコブの炭化物の場合は低温で炭化してもグラファイト化を示すピークが明確にでており、この範囲で有効になる。
【0016】
また、上記目的を達成するため本発明は、コーンコブを焼成して炭化した炭化物において、コーンコブを所定の粒状に細分化した粒状物を該粒状物の形状を保持しながら1000℃以下の温度で焼成して炭化した構成としている。
【0017】
これにより、上記と同様の作用,効果を奏する。即ち、粒状物はその形状が可及的に保持されながら焼成されるので、細分化されたコーンコブの形が崩れないでそのまま炭化させられる。そのため、コーンコブ特有の微細空隙が保持された状態で炭化されるのでポーラスな状態を保持することができ、それだけ、比表面積を大きくすることができ、吸着性能を十分に発揮させることができるようになる。
【0018】
そして、必要に応じ、上記炭化温度を500℃〜900℃にした構成としている。この場合、炭化温度を600℃以上700℃未満にしたことが有効である。上述したと同様の作用,効果を奏する。
【0019】
また、必要に応じ、上記細分化した粒状物の最大幅Dが、D≦50mmである構成としている。この場合、上記粒状物は、該粒状物の最大幅Dが、D>12mmの大粒集団,12≦D≦5の中粒集団,D<5mmの小粒集団の何れかの集団である構成としている。上述したと同様の作用,効果を奏する。
【0020】
そして、必要に応じ、上記大粒集団の粒状物を炭化した炭化物であって、堆肥に混合される構成としている。
また、必要に応じ、上記中粒集団の粒状物を炭化した炭化物であって、家畜の敷床に混合される構成としている。
更に、必要に応じ、上記小粒集団の粒状物を炭化した炭化物であって、茸の菌床に混合される構成としている。
更にまた、必要に応じ、上記小粒集団の粒状物を炭化した炭化物であって、ガス吸着剤として木粉等に混合される構成としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の炭化物の製造方法及び炭化物によれば、粒状物はその形状が可及的に保持されながら焼成されるので、細分化されたコーンコブの形が崩れないでそのまま炭化させられる。そのため、コーンコブ特有の微細空隙が保持された状態で炭化されるのでポーラスな状態を保持することができ、それだけ、比表面積を大きくすることができ、吸着性能を十分に発揮させることができるようになる。
【0022】
また、本発明の炭化物の製造方法においては、分別工程で粒状物の大きさの範囲が夫々異なる複数の集団に分別されるので、焼成されて炭化された炭化物の大きさをある程度均一化することができる。そのため、用途に応じた大きさの炭化物を得ることができ、種々の用途に適用させ易くなり、汎用性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る炭化物の製造方法及び炭化物について詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、本発明の実施の形態に係る炭化物の製造方法は、コーンコブCを焼成して炭化した炭化物を製造する炭化物の製造方法であって、細分化工程(1)と、分別工程(2)と、炭化工程(3)とを備えて構成されている。以下、各工程について説明する。
【0024】
(1)細分化工程
図1に示すように、コーンコブCを所定の粒状に細分化してコーンコブCの粒状物を生成する。コーンコブCは、とうもろこしの実を機械で取り除いた芯であり、このコーンコブCはサイロ等で一次保管されている。また、用いるコーンコブCは、予め乾燥されており、例えば、含水率Qが約8質量%になっている。含水率Qは、6質量%≦Q≦10質量%が望ましい。
細分化は、周知の破砕機を用いて、粒状物の最大幅Dが、D≦50mmになるように細分化する。
【0025】
(2)分別工程
細分化工程で細分化された粒状物を大きさの範囲が夫々異なる粒状物の複数の集団に分別する。例えば、周知の篩を用いて、粒状物の最大幅Dが、D>12mmの大粒集団S1,12≦D≦5の中粒集団S2,D<5mmの小粒集団S3の三種類に分別する。
【0026】
(3)炭化工程
分別工程で分別された複数の集団のうち少なくとも何れか1つの集団の粒状物を粒状物の形状を可及的に保持しながら1000℃以下の温度で焼成して炭化して本発明の実施の形態に係る炭化物Tを得る。実施の形態では、大粒集団S1,中粒集団S2,小粒集団S3の三種類の集団について、それぞれを分別して炭化処理を行なう。炭化工程では、炭化温度を500℃〜900℃にしているが、望ましくは、600℃以上700℃未満にしている。
【0027】
図3及び図4に示すように、大粒集団S1、中粒集団S2または小粒集団S3においては、所謂「ねてるま式炭化装置」の炭化炉1で炭化を行なう。この炭化炉1は、コーンコブCの粒状物を、下側から加熱された金属製の加熱板2上において炭化する。加熱板2は、断面山形に形成され、着火皿3を有した枠体4に支持されている。また、加熱板2は、下端2a側がヒンジ5を介して開閉可能になっており、下端2a側を開いて着火皿3に火種を入れる。火種に着火して、コーンコブCの粒状物を加熱板2に載せる。着火から炭化されるまで約15時間を要し、その間、完全燃焼を避けるために適宜、切り返しをして蒸し焼きにする。炭化温度は600℃〜700℃未満まで高温になり完全に炭化できる。炭化後は消化しさらに水をかけて温度を下げる。加えた水分は自然に蒸発する。
【0028】
このようにして、大粒集団S1を焼成して炭化した炭化物Tは、約5mm〜12mmの大きさになり、中粒集団S2を焼成して炭化した炭化物Tは、約3mm〜8mmの大きさになり、小粒集団S3を焼成して炭化した炭化物Tは、約3mm以下の大きさになる。
【0029】
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る炭化物Tによれば、コーンコブCの粒状物はその形状が可及的に保持されながら焼成されるので、細分化されたコーンコブCの形が崩れないでそのまま炭化させられる。そのため、コーンコブ特有の微細空隙が保持された状態で炭化されるのでポーラスな状態を保持することができ、それだけ、比表面積を大きくすることができ、吸着性能を十分に発揮させることができるようになる。
【0030】
また、分別工程で粒状物の大きさの範囲が夫々異なる複数の集団に分別されるので、焼成されて炭化された炭化物Tの大きさをある程度均一化することができる。そのため、用途に応じた大きさの炭化物Tを得ることができ、種々の用途に適用させ易くなり、汎用性を大幅に向上させることができる。
【0031】
具体的には、例えば、大粒集団S1の粒状物を炭化した炭化物Tは、堆肥に混合される。これにより、堆肥が完熟し易くなり、品質が向上させられる。また、畜舎などの施設のガス吸着剤や汚水液の水質浄化および農業地域の土壌改良剤としても有用である。
【0032】
また、例えば、中粒集団S2の粒状物を炭化した炭化物Tは、家畜の敷床に混合される。コーンコブCの炭化物Tを畜舎の敷床用素材として使った場合、排泄物のアンモニア吸収、水分吸収がよい。さらにこの敷床は堆肥化がはやく品質もよい。コーンコブCの炭化物Tの多孔質体が水分やガスの吸着に有利にはたらく。また、直径5mm〜12mmの粒状になっているために、畜舎の敷床で使った場合の水分吸収が非常によく、またメソ孔(2〜50nm)の多い多孔質体であることから堆肥を作る場合に多くの微生物を担持することができ、結果的に完熟堆肥を短期間でつくることができる。
【0033】
更に、例えば、小粒集団S3の粒状物を炭化した炭化物Tは、茸の菌床に混合される。すなわち菌床の改良剤として有効的に働く。さらに比重が軽いことから、春先の残雪に散布する融雪剤としても有用であり、使用後はそのまま農地に残留して土壌改良剤としての役も果たす。更にまた、小粒集団S3の粒状物を炭化した炭化物であって、ガス吸着剤として木粉等に混合される。
その他、各炭化物Tにおいて、畜舎内のガス吸着剤として用いるために、単独あるいは木酢液と混合したり、木粉や他の活性炭などと混ぜ合わせて、アンモニア臭を除去する使用方法も有用である。また、飼料中に混合することも有用である。
【0034】
[実験例]
次に、実験例について示す。コーンコブCを炭化しその物理特性を検証することにより、コーンコブCからの炭化物Tの有効性について検討を加える。
【0035】
1.実験方法
1−1.実験材料
中国産輸入コーンコブCを使用した。含水率Qは、Q=8質量%であった。
【0036】
1−2.炭化方法
コーンコブCそのもの、あるいはコーンコブCを構成するチャフ、髄、木質部を電気炉(株式会社デンケン製卓上真空ガス置換炉KDF75型)に入れて炭化を行った。炭化は窒素気流中(1.5dm3/min)で行い、昇温速度400℃/hで炭化反応温度まで上昇させ、炭化温度到達後その温度を30min保持し、その後自然放冷した。炭化温度条件は500、600、700、800、900、1000℃である。実験例では、炭化物Tは粉末状とした。
【0037】
2.各種測定
1)比表面積
迅速表面積測定装置(柴田科学器械工業株式会社製SA-1100型)を用い、窒素吸着のBET一点法により比表面積を求めた。
結果を図5に示す。この結果から、通常のナラ、スギを炭化したものと比較してコーンコブCから得られた炭化物Tの比表面積は、非常に高い値を示し、特に700℃以上の炭化条件では大きな差が見られた。すなわち800℃の炭化温度で比較すると、コーンコブCの炭化物Tが約5倍の比表面積をとった。このことから、コーンコブCの炭化物Tは1000℃以下の炭化温度においても、通常の黒炭よりも数倍高い比表面積をとり得ることが分かった。比表面積が大きいことは、すなわち物質の吸着サイトが多くあることであり、吸着能が高いことが予想される。
【0038】
2)X線回折(XRD)
木炭の結晶性は粉末X線回折装置(理学電気株式会社製RINT2200型)においてCuKα線を用いグラファイト部分のピークを求めて評価した。
結果を図6に示す。炭化温度500℃から700℃に上がるにつれて炭化物Tのグラファイト化のピークが大きくなっているのに対し、800℃から1000℃の炭化温度で得られた炭化物Tにはそのピークは見られない(図3中の▼)。
通常の黒炭の場合、高温で炭化したものほど結晶性が高くなり、わずかではあるがグラファイト化の傾向が伺える。しかしコーンコブCの炭化物Tの場合は低温で炭化してもグラファイト化を示すピークが明確にでていることから、従来の炭化工程は異なった炭化が生じているものと考えられる。このことは、コーンコブCの炭化物Tの大きな特徴である。
【0039】
3)染料吸着
得られた木炭を100メッシュ以下に粉砕し、105℃、24h乾燥した後、染料吸着実験を以下の方法で行った。染料は、図7(a)に示す陽イオン性染料のメチレンブルーと、図7(b)に示す陰イオン性染料のオレンジIIの二種類の染料を用いた。染料の吸着実験は初濃度200μmol/dm3のメチレンブルー水溶液またはオレンジII水溶液25cm3を入れた100cm3三角フラスコに粉体状の木炭試料を添加し、軽く振とうした後24h、常温で静置して行った。静置後、溶液を2,000rpmで20min遠心分離し、液相中の染料濃度を吸光光度計(株式会社日立製作所製U-2000型ダブルビーム分光光度計)で定量し、染料の吸着量を次式により算出した。
【0040】
染料吸着量(μmol/g)={初濃度(μmol/dm3)−吸着後濃度(μmol/dm3)}÷木炭の重量(g)
【0041】
メチレンブルーの結果を図8に示す。カチオン性の染料であるメチレンブルーは木炭と化学的吸着をしやすいので、比較的よく吸着する。しかし、図8に示されるように通常の黒炭でも800℃以上の炭化温度でなければ、染料の吸着が生じない。一方、コーンコブCの炭化物Tの場合は800℃以下の炭化温度においても約50%の染料吸着が見られ高い吸着性能があることが分かった。
【0042】
また、オレンジIIの結果を図9に示す。アニオン染料であるオレンジIIの場合(図5)も800℃の炭化物Tで比較すると、9倍以上の染料の吸着特性を示し、コーンコブCの炭化物Tの吸着能力が高いことが分かった。
【0043】
4)吸湿量
各種条件で得られた炭化物Tを絶乾状態から湿度65%、温度25℃の恒温恒湿室に設置し、経時的な重量変化から吸湿特性を求めた。
結果を図10に示す。いずれの炭化温度においても、コーンコブCの炭化物Tはスギ木炭に比べて高い吸湿量を示している。このことから、コーンコブCから得られた炭化物Tにはより高い吸湿特性があることが分かった。
【0044】
3.結論
以上の実験から以下のことが言える。
1)コーンコブCの炭化物Tは黒炭と比較して非常に大きな比表面積を持つ傾向にある。
2)コーンコブCからは800℃以下の低温炭化条件でも結晶性の高い炭化物Tが得られることから、広範囲な炭化温度条件において、吸着性能の高い木炭を得ることができる。
3)吸湿性能が他の黒炭と比較して非常に高い傾向にある。
【0045】
尚、炭化物Tの用途は上述したものに限定されるものではなく、適宜変更して差支えないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
近年、農業分野から排出される産業廃棄物は、主成分が木材と同質のセルロース系であることから、土壌に還元できる循環型産業を形成する上でも、「炭化物」の期待はますます大きくなっている。具体的には比表面積の値の大きい「活性炭」のような多孔質体の炭化物Tが求められている。コーンコブCはおが粉に代わる茸の菌床として大量に輸入されており、従来は、数回使用した後に焼却処分されているが、本発明の炭化物Tは、使用済み、あるいは未使用のコーンコブCの利用を図り、「活性炭」と同等の吸着能を有する新たな機能性炭化物Tにすることができる。即ち、本発明の炭化物Tは、イオン性染料の吸着、環境ホルモンの一種であるBPAの吸着にすぐれ、吸湿性能も高く、各所に有効利用を図ることができる。例えば、高い吸着性能を生かした応用例として畜舎の敷床への活用化があり、これにより、畜舎のアンモニア臭を減少させ、堆肥化時間も短縮でき、極めて有用になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係る炭化物の製造方法を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る炭化物の製造方法を示すとともに、本発明の実施の形態に係る炭化物を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る炭化物の製造方法において、使用する炭化炉の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る炭化物の製造方法において、使用する炭化炉の一例の要部を示す分解斜視図である。
【図5】本発明の実験例に係り、炭化温度と比表面積の関係を示すグラフ図である。
【図6】本発明の実験例に係り、各炭化温度におけるコーンコブ炭化物のXRD図である。
【図7】本発明の染料吸着実験例に係り、用いた染料の化学式を示す図であり、(a)はメチレンブルー、(b)はオレンジIIを示す。
【図8】本発明の実験例に係り、炭化温度とメチレンブルーの吸着率の関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明の実験例に係り、炭化温度とオレンジIIの吸着率の関係を示すグラフ図である。
【図10】本発明の実験例に係り、炭化温度と吸湿率の関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0048】
C コーンコブ
T 炭化物
(1)細分化工程
(2)分別工程
(3)炭化工程
S1 大粒集団
S2 中粒集団
S3 小粒集団
1 炭化炉
2 加熱板
3 着火皿
4 枠体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンコブを焼成して炭化した炭化物を製造する炭化物の製造方法において、
コーンコブを所定の粒状に細分化してコーンコブの粒状物を生成する細分化工程と、該細分化工程で細分化された粒状物を大きさの範囲が夫々異なる粒状物の複数の集団に分別する分別工程と、該分別工程で分別された複数の集団のうち少なくとも何れか1つの集団の粒状物を該粒状物の形状を可及的に保持しながら1000℃以下の温度で焼成して炭化する炭化工程とを備えたことを特徴とする炭化物の製造方法。
【請求項2】
上記細分化工程で、粒状物の最大幅Dが、D≦50mmになるように細分化することを特徴とする請求項1記載の炭化物の製造方法。
【請求項3】
上記分別工程で、粒状物の最大幅Dが、D>12mmの大粒集団,12≦D≦5の中粒集団,D<5mmの小粒集団に分別することを特徴とする請求項2記載の炭化物の製造方法。
【請求項4】
上記炭化工程で、炭化温度を500℃〜900℃にしたことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の炭化物の製造方法。
【請求項5】
上記炭化工程で、炭化温度を600℃以上700℃未満にしたことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の炭化物の製造方法。
【請求項6】
コーンコブを焼成して炭化した炭化物において、
コーンコブを所定の粒状に細分化した粒状物を該粒状物の形状を可及的に保持しながら1000℃以下の温度で焼成して炭化したことを特徴とする炭化物。
【請求項7】
上記炭化温度を500℃〜900℃にしたことを特徴とする請求項6記載の炭化物。
【請求項8】
上記炭化温度を600℃以上700℃未満にしたことを特徴とする請求項6記載の炭化物。
【請求項9】
上記細分化した粒状物の最大幅Dが、D≦50mmであることを特徴とする請求項6乃至8何れかに記載の炭化物。
【請求項10】
上記粒状物は、該粒状物の最大幅Dが、D>12mmの大粒集団,12≦D≦5の中粒集団,D<5mmの小粒集団の何れかの集団であることを特徴とする請求項9記載の炭化物。
【請求項11】
上記大粒集団の粒状物を炭化した炭化物であって、堆肥に混合されることを特徴とする請求項10記載の炭化物。
【請求項12】
上記中粒集団の粒状物を炭化した炭化物であって、家畜の敷床に混合されることを特徴とする請求項10記載の炭化物。
【請求項13】
上記小粒集団の粒状物を炭化した炭化物であって、茸の菌床に混合されることを特徴とする請求項10記載の炭化物。
【請求項14】
上記小粒集団の粒状物を炭化した炭化物であって、ガス吸着剤として木粉等に混合されることを特徴とする請求項10記載の炭化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−81332(P2008−81332A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260453(P2006−260453)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(390025793)岩手県 (38)
【出願人】(506324574)環境ファーム株式会社 (1)
【出願人】(502447918)
【Fターム(参考)】