説明

炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒を使用するオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法

【課題】触媒の分離回収が容易なオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】パラジウム化合物と溶融塩が担持されている触媒と塩基の存在下、芳香族化合物(1)とオレフィン化合物(2)を反応させるオレフィン基置換芳香族化合物(3)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒を使用するオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法に関する。更に詳しく述べるならば、炭素−炭素結合反応に使用したとき、反応生成物の分離及び回収が容易で、繰り返し使用において高い触媒活性を保持することができる新規な炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒を使用して、オレフィン基置換芳香族化合物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒としては、各種のII価または0価のパラジウム化合物を用いることが知られている。触媒の存在状態により、パラジウムが溶液に溶解した形で存在する均一系触媒と、反応系中に、パラジウムを含む触媒が反応原料や反応生成物などと不均一系をなす状態にある不均一系触媒(多くの場合、固体として存在するので、固体触媒)に分類される。PdCl2、Pd(OAc)2などのパラジウム(II)塩、[PdCl2(PPh32]、及び[PdCl2(PhCN)2]などのパラジウム(II)錯体、並びに[Pd(PPh34]などのパラジウム(0)錯体などが炭素−炭素結合生成反応用の均一系触媒として使用できることが知られている。また、パラジウム(0)/金属、あるいはパラジウム/炭素などのようにパラジウムを不活性な多孔質担体に担持させた固体触媒も炭素−炭素結合生成反応に使用できることも知られている。
【0003】
具体的には、前記のパラジウム化合物あるいはパラジウム金属(担体に担持された形態も含む)は、炭素−炭素結合形成用触媒として知られており、この炭素−炭素結合生成反応は、芳香族ハロゲン化物などのように、脱離し易い官能基を有する芳香族化合物と、少なくとも1個のビニルプロトンを有するオレフィンとを反応させて、オレフィン基置換芳香族化合物を合成する反応(Heck反応;米国特許3922299号、特許文献1など)、芳香族ハロゲン化物などのように脱離し易い官能基を有する芳香族化合物と、アセチレン化合物を反応させてアセチレン基置換芳香族化合物を合成する反応、芳香族ハロゲン化物の二量化反応、及び有機ハロゲン化物と有機金属化合物(Grignard試薬;有機ホウ素化合物;有機亜鉛化合物;有機錫化合物など)との反応などを包含する。
【0004】
前記の炭素−炭素結合生成反応に均一系パラジウム触媒を使用した場合は、触媒の分離回収や再利用が難しいという問題点があり、また、固体(不均一系)パラジウム触媒を使用した場合は、均一系触媒に比較して、触媒活性が低い場合があるなどの問題点があった。
【0005】
前記のHeck反応は古くから知られているが、工業的にはほとんど利用されていない。その理由としては、以下の事項が挙げられる。すなわちパラジウム触媒の種類によっては、反応の進行と共にパラジウムブラック(金属)が析出して活性が低下すること、触媒活性が維持されているときは反応液が均一であるため、触媒の分離回収や再利用し難いこと、活性の低下を抑制するために、ホスフィン類を配位させたパラジウム錯体触媒を使用したり、反応系にホスフィン類を添加する場合が多いが、この場合にはホスフィン類は毒性を有するため、環境への負荷が増大するということ、などである。
【0006】
特開2002−20396号公報(特許文献2)には、Pd/N−複素環族錯体を無機あるいはポリマー担体に固定化した触媒、及びアリールアミンの製造への使用が開示されている。しかし、このようなPd/N−複素環族錯体の製造には、煩雑な工程を必要とするという問題点があった。
【0007】
また、代表的な固体パラジウム触媒として、パラジウム炭素触媒をHeck反応に使用した最近の例としては、下記の刊行物が挙げられる。
特開平10−251202号公報(特許文献3)の実施例8には、超臨界フルオロホルム(約8.6MPa、80℃)中において、トリエチルアミン及びパラジウム炭素触媒存在下に、ヨードベンゼンとアクリル酸エチルを反応させてケイ皮酸エチルを合成する例が開示されている。しかしこの方法には、高圧を必要とするため、高圧反応設備を必要とするという難点があった。
【0008】
特開2002−265394号公報(特許文献4)には、イオン性液体中において、パラジウム炭素触媒の存在下に、芳香族ハロゲン化物などと、ビニル化合物とを反応させることを特徴とする不飽和基含有芳香族化合物の製造方法が開示されている。しかし、この方法は触媒の分離回収が容易で再利用もできる点において優れているが、高価なイオン性液体を大量に使用すること、炭化水素溶剤などでの煩雑な抽出工程を必要とすること、及び抽出効率が低いことなどの問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3922299号
【特許文献2】特開2002−20396号公報
【特許文献3】特開平10−251202号公報
【特許文献4】特開2002−265394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は炭素−炭素結合を生成するための反応において高い触媒活性を示し、それを液相反応に利用した場合、反応終了後の触媒の分離、回収が容易であり、繰返し利用しても触媒活性の低下が少なく、製造が容易な炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒を用いて芳香族化合物とオレフィン化合物とを反応させて、目的のオレフィン基含有芳香族化合物を高収率かつ安価に製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法は、触媒及び塩基の存在下に、下記一般式(1):
【化1】

〔ただし、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、あるいは−OSO2CF3基を表し、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、ホルミル基、−CH(OR9)(OR10)、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアロイル基、−CO21基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、イミノ基、-NHCOR11、メルカプト基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、−SO212基、−SOR13基、或は−SO32基を表し、前記R9及びR10は、それぞれ互いに独立に1乃至4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、前記R11、R12及びR13はそれぞれ互いに独立に、置換基を有していてもよいアルキル基あるいはアリール基を表し、前記M1及びM2は、それぞれ互いに独立に水素原子あるいは金属原子を表し、但し、前記R4、R5、R6、R7及びR8は、これらの互いに隣接する2個からなる少なくとも1対が、互いに連結して、置換基を有していてもよい炭素環状基またはヘテロ環状基を形成していてもよい〕
で表される芳香族化合物と、下記一般式(2):
【化2】

〔ただし、R1、R2及びR3は、それぞれ互いに独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、アロイル基、−CO23、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、シアノ基、1級又は2級アミド基、或は-NHCOR14基を表し、R14は置換基を有していてもよいアルキル基あるいはアリール基を表し、M3は水素原子あるいは金属原子を表す〕
で表されるオレフィン化合物を反応させて、下記一般式(3):
【化3】

〔ただし、R1〜R8は、それぞれ前記のとおりである。〕
で表されるオレフィン基置換芳香族化合物を製造するに際し、
前記触媒として、不活性な多孔質金属酸化物からなる担体と、
この担体に担持されているパラジウム化合物からなるパラジウム触媒であって、前記担体に、前記パラジウム化合物の質量の1〜20質量倍の、150℃以下の融点を有する溶融塩が、さらに担持されている炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒を使用することを特徴とするものである。
本発明のオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法において、前記一般式(1)の芳香族化合物と、前記一般式(2)のオレフィン化合物との反応が、水の存在下において行われてもよい。
本発明のオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法において前記溶融塩が水に不溶であることが好ましい。
本発明のオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法において前記溶融塩の融点が常温以下であることが好ましい。
本発明のオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法において前記の不活性な多孔質金属酸化物からなる担体が、アミノ置換シラン化合物により前処理されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法に用いられる炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒は、実用上十分高い触媒活性を有し、またそれを液相反応に利用した場合、反応終了後の触媒の分離、回収が容易であり、かつそれを繰返し利用しても触媒活性の低下が少ないという特徴を有している。また、本発明方法において、前記パラジウム触媒を炭素−炭素結合生成反応、特にHeck反応に使用すると、目的化合物を高い生産効率で、かつ経済的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、本発明方法において、不活性な金属酸化物多孔質担体と、それに担持されたパラジウム化合物及び特定の溶融塩から構成される触媒が、炭素−炭素結合生成反応に使用されたとき、触媒活性が高く、反応終了後の触媒の分離、回収が容易であり、かつ繰返し利用しても触媒活性の低下が少ないなどの特徴を有することを見出し、本発明を完成するに至った。下記炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒を用いる本発明方法について説明する。
【0014】
本発明方法用触媒に含まれるパラジウム化合物としては、各種のII価または0価パラジウム化合物を使用することができる。具体的には、PdCl2、PdBr2、PdI2、Pd(OAc)2、Pd(NO32、PdSO4、Pd(CN)2などのパラジウム(II)塩;[Pd(CH3COCHCOCH32]、[PdCl2(PPh32]、及び[PdCl2(PhCN)2]などのパラジウム(II)錯体;並びに[Pd(PPh34]、及びPd2(PhCH=CHCOCH=Ph)3などのパラジウム(0)錯体などが例示できる。好ましくはパラジウム(II)塩が用いられ、特に好ましくはPd(OAc)2が用いられる。(上記化学式中(OAc)は酢酸残基を共し、(PPh3)はトリフェニルホスフィン配位子を表し、Phはフェニル基を表す。)
【0015】
本発明方法用触媒に含まれる溶融塩は、各種の有機カチオンと有機又は無機アニオンからなり、融点が150℃以下の溶融塩から選ばれる。このような溶融塩は、テトラブチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロミド(これを[hdtbp]Brと記す)、1−ブチルピリジニウムナイトレート(これを[bpy]NO3と記す)、1−ヘキシルピリジニウムクロライド(これを[hpy]Clと記す)、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロボレート(これを[hpy]BF4と記す)、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート(これを[hpy][PF6]と記す)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムナイトレート(これを[emim]NO3と記す)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド(これを[bmim]Brと記す)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(これを[bmim][BF4]と記す)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(これを[bmim][PF6]と記す)、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(これを[hmim][BF4]と記す)、及び1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(これを[hmim][PF6]と記す)などを包含する。本発明方法用触媒を前記した炭素−炭素結合生成反応に使用する場合、反応で生成する塩は水により抽出あるいは洗い流すことにより除去されるので、前記溶融塩は水に実質的に不溶であることが好ましい。水に実質的に不溶である溶融塩としては、[hpy]BF4、[hpy][PF6]、[bmim][PF6]、及び[hmim][PF6]などを例示することができる。本発明方法用触媒に用いられる溶融塩は、その融点が常温以下(35℃以下)の溶融塩(イオン性液体)から選ばれることが、特に好ましい。すなわち[bmim][PF6]、[hmim][PF6]、及び[hpy]BF4などが好ましく用いられる。このような溶融塩は、触媒調製時に溶媒に溶解し易いなど取扱が容易であるという利点を有する。
【0016】
本発明方法用触媒に含まれる不活性な金属酸化物多孔質担体としては、一般的に使用される各種従来の触媒担体を使用できる。すなわち多孔質担体としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの第II族酸化物、アルミナ、酸化ホウ素、酸化セリウムなどの第III 族酸化物、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの第IV族酸化物、アルミノケイ酸塩などの複合酸化物などの1種以上からなる担体を用いることができる。担体が有する細孔の平均細孔径には格別の制限はないが、3nm〜1mmであることが好ましく、この細孔のBET表面積は0.1〜1500m2/gであることが好ましく、より好ましくは100〜1200m2/gである。担体の形状は、粉末、ペレット、球状、押出成型品など通常のものでよく、担体粒子のサイズに格別の制限はないが、その外径は約0.1μm乃至6mm程度であることが好ましい。また、本発明方法用触媒に含まれる不活性な金属酸化物多孔質担体としては、前記の多孔質担体を、下記一般式(4):
9SiR103-nn (4)
〔ただし、R9は炭素数1〜10のアミノ置換炭化水素基を表し、R10は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Yは炭素数1〜5のアルコキシ基、塩素原子または臭素原子を表し、nは1〜3の整数を表す。〕
で表されるアミノ置換シラン化合物により前処理されたものも使用できる。式(4)の化合物として、具体的には、H2N(CH22Si(OCH33、H2N(CH22Si(OC253、(C252N(CH22Si(OCH33、(CH3)HN(CH22Si(OC253、H2N(CH23Si(OCH33、(C252N(CH23Si(OCH33、H2N(CH22NH(CH22Si(OCH33、H2N(CH22NH(CH22Si(CH3)(OCH32、C65HN(CH22Si(OCH33、H2N(CH22NH(CH22SiCl3などが例示できる。
【0017】
本発明方法用炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒は、前記のパラジウム化合物及び溶融塩を含む触媒成分を溶媒に溶解させ、得られた溶液に、前記の金属酸化物多孔質担体を懸濁して攪拌することにより、パラジウム化合物及び溶融塩を、担体中に含浸し、固体触媒を分離除去することにより担体に触媒成分が担持されている触媒を製造することができる。
前記のアミノ置換シラン化合物により処理された多孔質金属酸化物担体を製造するには、アミノ置換シラン化合物を適当な溶媒に溶解して得られた溶液を、多孔質金属酸化物担体に担持させ、これを加熱するなどの一般的な方法〔例えば、Synlett,873(2003)に記載の方法〕を用いることができる。
本発明方法用触媒中に固定化されるパラジウム化合物の量は、得られる触媒1gに対し通常、0.01〜0.8mmol/gであることが好ましく、より好ましくは0.04〜0.4mmol/gである。
本発明方法用触媒中に固定化される溶融塩の量は、当該触媒の存在下で行われる反応条件下において、パラジウム化合物を溶解するのに十分な量であればよく、通常、溶融塩の固定量はパラジウム化合物の質量に対して1〜20質量倍である。
【0018】
本発明方法用触媒を調製する際に、パラジウム化合物及び溶融塩を溶解するために用いられる溶媒の種類については、パラジウム化合物及び溶融塩(イオン性液体)と反応せずに、これらを溶解するものである限り、格別の制限はないが、好ましくはエーテル類、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの非プロトン性極性溶媒を使用することが好ましい。より好ましくは、テトラヒドロフラン(これをTHFと記す)、エチレングリコールジメチルエーテル、及びアセトニトリルが用いられる。溶媒の使用量は、パラジウム化合物及び溶融塩を十分に溶解できる量である限り特に制限はないが、通常はパラジウム化合物の質量に対してその2〜100質量倍である。通常、溶解処理は常温で行われるが、溶解を促進するために加熱してもよい。
パラジウム及び溶融塩を担体に含浸した触媒から、溶媒を減圧下に留去するなど通常の方法により分離除去する。さらに、使用する炭素−炭素結合生成反応の種類に応じ、必要があれば、減圧下において乾燥する。
【0019】
次に、本発明方法用触媒を、前記一般式(1)で表される芳香族化合物と、前記一般式(2)で表されるオレフィン化合物との反応により前記一般式(3)で表されるオレフィン基含有芳香族化合物を製造する際に使用する方法について説明する。
本発明方法用触媒、及び塩基の存在下に、前記一般式(1)で表される芳香族化合物と前記一般式(2)で表されるオレフィン化合物とを反応させる。
前記芳香族化合物を表す前記一般式(1)中、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、あるいは−OSO2CF3基を表し、好ましくはヨウ素原子又は臭素原子を表し、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、ホルミル基、−CH(OR9)(OR10)、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアロイル基、−CO21基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、イミノ基、-NHCOR11、メルカプト基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、−SO212基、−SOR13基、或は−SO32基を表し、好ましくは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基を表し、前記R9及びR10は、それぞれ互いに独立に1乃至4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、前記R11、R12及びR13はそれぞれ互いに独立に、置換基を有していてもよいアルキル基あるいはアリール基を表し、前記M1及びM2は、それぞれ互いに独立に水素原子あるいは金属原子を表し、但し、前記R4、R5、R6、R7及びR8は、これらの互いに隣接する2個からなる少なくとも1対が、互いに連結して、置換基を有していてもよい炭素環状基またはヘテロ環状基を形成していてもよいものである。
【0020】
一般式(1)で表される芳香族化合物としては、ヨードベンゼン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、トリフルオロメタンスルホン酸フェニル、4−メチルヨードベンゼン、4−ヨードブロモベンゼン、4−ヨードアセトフェノン、4−ヨードアニソール、2−ヨードベンズアルデヒド、4−ブロモニトロベンゼン、3−ブロモベンゾニトリル、4−ブロモ安息香酸メチル、4−ブロモアニソール、4−クロロニトロベンゼン、3−クロロ安息香酸、及び2−クロロ安息香酸メチルなどが例示できる。
【0021】
オレフィン化合物を表す一般式(2)中、R1、R2及びR3は、それぞれ互いに独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアロイル基、−CO23、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、シアノ基、1級又は2級アミド基、或は-NHCOR14基を表し、好ましくは水素原子、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアシル基を表し、R14は置換基を有していてもよいアルキル基あるいはアリール基を表し、M3は水素原子あるいは金属原子を表す。
【0022】
一般式(2)のオレフィン化合物を例示すれば、スチレン、シクロヘキセン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸tert−ブチル、アクリロニトリル、ビニルメチルケトン、酢酸ビニル、4−ビニルピリジン、シクロヘキシルビニルエーテルなどがある。前記一般式(2)で表されるオレフィンの使用量は、前記一般式(1)で表される芳香族化合物のモル量に対して1.0乃至1.5モル倍であることが好ましい。
【0023】
上記方法により得られるオレフィン基置換芳香族化合物を表す一般式(3)において、R1〜R8は、前記のとおりである。一般式(3)の化合物を例示すると、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸シクロヘキシル、4−ニトロケイ皮酸エチル、ケイ皮ニトリル、2−メチルケイ皮ニトリル、ケイ皮アミド、4−アセチルケイ皮酸エチル、4−ニトロケイ皮酸メチル、4−メトキシケイ皮酸シクロヘキシル、スチルベン、4−フェニル−3−ブテン−2−オンなどがある。
【0024】
上記反応に用いられる塩基としては、好ましくは1級、2級または3級アミン、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または塩類が使用できる。このような塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、及びトリブチルアミンなどのアミン類、或は炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸カリウムなどのアルカリ塩が例示できる。塩基の添加量としては、前記一般式(1)で表される芳香族化合物のモル量に対して1.0乃至2.5モル倍であることが好ましい。
【0025】
前記一般式(1)の化合物と一般式(2)の化合物との反応に溶媒を使用する場合、本発明方法用触媒を繰返して有効に利用するためには、反応溶媒は触媒を構成している溶融塩を実質的に溶解しないものであることが好ましく、このような溶媒としては脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が使用でき、具体的にはヘキサン、ヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、デカン、ドデカン、トルエン、キシレンなどが例示できる。好ましい溶融塩である水に実質的に不溶である溶融塩を使用する場合は、反応溶媒として水も使用できる。反応溶媒の添加量としては、前記一般式(1)で表される芳香族化合物の質量に対して2乃至20質量倍であることが適当である。但し、前記一般式(1)の化合物と一般式(2)の化合物との反応は無溶媒でも実施できる。また、本発明方法用触媒を繰返して利用するためには、前記一般式(1)で表される芳香族化合物、及び前記一般式(2)で表されるオレフィンが、触媒に含まれる溶融塩成分を実質的に溶解しないことが必要である。
【0026】
上記反応の反応温度は、通常、30乃至200℃の範囲内にあり、かつ本発明方法用触媒に含まれる溶融塩の融点以上の温度であることが好ましく、より好ましくは、40乃至170℃である。
【0027】
上記反応は、窒素ガスなどの不活性なガス雰囲気内で実施されることが好ましい。
上記反応は常圧でも或は加圧下でも実施できる。
上記反応の反応時間は、通常、1乃至24時間である。
【0028】
反応終了後、前記触媒をろ過などにより容易に分離回収することができる。触媒分離後の反応液からは、必要に応じて抽出、蒸留、再結晶あるいはクロマトグラフィーなどの一般的な方法により、前記一般式(3)で表されるオレフィン基含有芳香族化合物を反応混合液から分離精製することができる。
分離回収された本発明方法用触媒は、繰返して炭素−炭素結合反応に利用できる。これを数回反応に利用すると、反応で副生する塩が触媒中に取込まれ、そのために、触媒活性が低下する。このような活性が低下した触媒は、副生する塩が水に不溶でない限り、水洗することにより再活性化することができる。また、副生する塩が水に可溶である場合は、反応時に水を添加することによっても、前記触媒の活性低下を低減することができる。
【0029】
本発明方法用触媒は、上述のようにHeck反応に使用できるだけではなく、芳香族ハロゲン化物とアセチレン化合物との反応、有機ハロゲン化物と有機金属化合物(Grignard試薬、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物、有機錫化合物などを包含する)との反応などのように炭素−炭素結合を生成させる反応、さらに、酸化反応又はカルボニル化反応などに使用することができる。
【0030】
実施例
次に、本発明を下記実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
製造例1
【0031】
触媒Aの調製
試験管に10mlのTHFと、1gの[bmim][PF6]と、及び690mgのPd(OAc)2とを入れ、30℃にて攪拌して前記触媒成分を溶解した。この溶液に10gのシリカ(中性、球状担体、粒子径;40〜50μm、比表面積;600〜700m2)を懸濁し、この懸濁液を30℃で90分間攪拌して、シリカ粒子に、前記[bmim][PF6]及びPd(OAc)2を含浸させた。得られた懸濁液から触媒成分とそれを含浸している担体とを含む触媒粒子を分離し、減圧下にTHFを留去し、得られた触媒をジエチルエーテルで洗浄し、減圧下において常温で乾燥した。それによって、流動性が高いパラジウム触媒Aを得た。触媒中のPd(OAc)2の担持量は、触媒1gに対し0.22mmolであり、[bmim][PF6]の担持量は、パラジウム化合物の質量に対し、9質量倍であった。
製造例2
【0032】
触媒Bの調製
窒素ガス雰囲気下、シリカ担体JRC−SIO−8(触媒学会の参照触媒の型番、円筒状、直径3mm×長さ3〜4mm、比表面積:290m2/g)5.01gに、3−N,N−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン1.89ml(7.5mmol)、トルエン38mlを混合し、24時間加熱還流した。得られた混合物を室温に冷却後、溶媒を減圧留去した。得られたシリカゲルをジエチルエーテルで洗浄後、減圧下乾燥させて、前記3−N,N−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランで処理したシリカ担体5.8gを得た。燃焼分析より、その窒素の担持量は0.71mmol/gであることを確認した。
試験管に、20mlのTHFと、498mgの[bmim][PF6]、及び59mgのPd(OAc)2とからなる触媒成分を入れ、室温にて撹拌して、前記触媒成分を溶解した。この溶液に、前記アミノ化シラン化合物で処理したシリカ担体5.03gを混合し、室温で4時間撹拌して、[bmim][PF6]及びPd(OAc)2からなる触媒成分を、シリカ担体に含浸させた。得られた懸濁液から、触媒成分とそれを担持している担体とを含む触媒粒子を分離し、減圧下にTHFを留去し、得られた触媒をジエチルエーテルで洗浄し、減圧下において常温で乾燥し、触媒B5.58gを得た。触媒中のPd(OAc)2の担持量は、触媒1gに対し0.043mmolであった。
実施例1
【0033】
オレフィン基含有芳香族化合物の製造
窒素雰囲気下、試験管中において、製造例1で調製したパラジウム触媒455mg(Pd(OAc)2として0.1mmol)を、ドデカン2ml中に懸濁させた。この懸濁液にヨードベンゼン115μl(1mmol)、アクリル酸シクロヘキシル190μl(1.2mmol)及びトリブチルアミン475μl(2mmol)を順次に加え、この混合反応液を150℃に加熱し、この温度において15時間撹拌した。得られた混合反応液を室温に冷却後、上澄み液をシリカゲルカラムに通し、ドデカンを除去した。得られた生成物は、ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒を用いて、前記カラムから留出させた。前記混合溶媒を減圧留去後、得られた生成物を中圧液体クロマトグラフィーにより精製し(酢酸エチル:ヘキサン=1:20混合溶媒)、trans−ケイ皮酸シクロヘキシル228mg(収率96%)を得た。その同定試験結果を下記に示す。
trans−ケイ皮酸シクロヘキシル(無色油状物質):
1−NMR (200MHz,TMS,CDCl3,d) 1.36〜1.55(m,6H),1.75〜1.97(m,4H), 4.84〜4.97(m,1H),6.45(d,J 16.0Hz, 1H),7.30〜7.39(m,3H),7.53〜7.55(m,2H),7.69(d,J 16.0Hz, 1H)
実施例2〜12
【0034】
実施例2〜11の各々において、製造例1に記載の触媒を用い、実施例12において製造例2に記載の触媒を用いて、実施例1と同様にして、下記式4に示す反応により、表1に記載のRa基及びX基を有する芳香族化合物とRb基を有するオレフィン化合物とを反応させて炭素−炭素結合生成物を調製し、これを分離精製した。ただし、反応条件を表1に示す条件に変更した。芳香族化合物の反応消失はGLCにより確認した。
【化4】

【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、反応性が低い電子供与性基により置換されている芳香族化合物においても、本発明の触媒の使用により、収率好く炭素−炭素結合生成物を得ることができた。
実施例13〜15
【0037】
触媒の回収・再使用試験
実施例13において、実施例1の反応終了後、混合反応液からドデカン層を分別し、その中に含まれている残存触媒を使用して、実施例1の操作を同様な条件で繰返した。また、実施例14、15において、実施例10、12で使用した触媒についても、同様に回収し再使用試験を行った。その結果を表2に示す。
実施例1の回収・再使用触媒では、繰返し4回目で収率が89%まで低下したので、この触媒を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、これを上記反応に再使用したところ、収率は93%まで回復した。水溶媒中で反応した実施例10の回収・再使用触媒ではPdが担体から溶出し、再使用できなかった。しかし、アミノ化シラン化合物で処理した担体を使用した触媒Bを水溶媒中で反応した実施例12からの回収・再使用触媒では、繰返し使用することが可能になった。
【0038】
【表2】

〔比較例〕
【0039】
実施例1と同様の反応によりtrans−ケイ皮酸シクロヘキシルを製造した。但し、製造例1に記載のパラジウム触媒の代りに10質量%パラジウム炭素触媒107mgを用い、反応時間を8時間に変更した。trans−ケイ皮酸シクロヘキシルの収量は133mgであり収率は56%であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明方法において用いられる炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒は、触媒活性が実用上十分に高く、またそれを液相反応に使用した場合、反応終了後の、混合反応液から触媒を分離、回収することが容易であり、かつ繰返し利用しても活性の低下が少ないという利点を有する。本発明のパラジウム触媒を使用して炭素−炭素結合生成反応を実施することにより、医薬品原料、農薬原料、機能性ポリマー原料などの目的物質を、高い生産効率で、かつ経済的に製造することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒及び塩基の存在下に、下記一般式(1):
【化1】

〔ただし、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、あるいは−OSO2CF3基を表し、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、ホルミル基、−CH(OR9)(OR10)、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアロイル基、−CO21基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、イミノ基、-NHCOR11、メルカプト基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、−SO212基、−SOR13基、或は−SO32基を表し、前記R9及びR10は、それぞれ互いに独立に1乃至4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、前記R11、R12及びR13はそれぞれ互いに独立に、置換基を有していてもよいアルキル基あるいはアリール基を表し、前記M1及びM2は、それぞれ互いに独立に水素原子あるいは金属原子を表し、但し、前記R4、R5、R6、R7及びR8は、これらの互いに隣接する2個からなる少なくとも1対が、互いに連結して、置換基を有していてもよい炭素環状基またはヘテロ環状基を形成していてもよい〕
により表される芳香族化合物と、下記一般式(2):
【化2】

〔ただし、R1、R2及びR3は、それぞれ互いに独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、アロイル基、−CO23、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、シアノ基、1級又は2級アミド基、或は-NHCOR14基を表し、R14は置換基を有していてもよいアルキル基あるいはアリール基を表し、M3は水素原子あるいは金属原子を表す〕
により表されるオレフィン化合物を反応させて、下記一般式(3):
【化3】

〔ただし、R1〜R8は、それぞれ前記のとおりである。〕
により表されるオレフィン基置換芳香族化合物を製造するに際し、
前記触媒として、不活性な多孔質金属酸化物からなる担体と、この担体に担持されているパラジウム化合物からなるパラジウム触媒であって、前記担体に、前記パラジウム化合物の質量の1〜20質量倍の、150℃以下の融点を有する溶融塩が、さらに担持されている炭素−炭素結合生成反応用パラジウム触媒を使用することを特徴とする、オレフィン基置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)の芳香族化合物と、前記一般式(2)のオレフィン化合物との反応が、水の存在下において行われる、請求項1に記載のオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
前記溶融塩が水に不溶である、請求項1又は2に記載のオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
前記溶融塩の融点が常温以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
前記の不活性な多孔質金属酸化物からなる担体が、アミノ置換シラン化合物により前処理されたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のオレフィン基置換芳香族化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−215629(P2010−215629A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90643(P2010−90643)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【分割の表示】特願2004−237305(P2004−237305)の分割
【原出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(390003001)川研ファインケミカル株式会社 (48)
【Fターム(参考)】