説明

炭素材料およびその製造方法

【課題】所望の構造を有するグラフェン含有炭素粒子および該炭素粒子を主構成要素とする炭素材料を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】
グラフェン含有炭素粒子を主構成要素とする炭素材料の製造方法が提供される。その方法は、出発原料としての有機物と過酸化水素と水とを含む混合物を、温度300℃〜1000℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持することにより、前記有機材料から炭素粒子を生成させる工程を含む。また、その炭素粒子を、前記炭素粒子生成工程における保持温度よりも高温で加熱処理する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンを含む炭素粒子および該炭素粒子を主構成要素とする炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池や電気二重層キャパシタ等の構成材料として、グラフェン結晶を含む炭素粒子が用いられている。代表的なグラフェン含有炭素粒子として黒鉛粒子が例示される。グラフェンを含む炭素粒子に関する技術文献として、特許文献1,2および非特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−178819号公報
【特許文献2】特開2007−320841号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ki, Chul Park, Seong-Yun Kim, Hitoshi Yamazaki, Hiroshi Tomiyasu, Production of carbon soot in subcritical and supercritical water, 6th Conference on supercritical fluids and their applications, September 9-12, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、非水電解質二次電池の負極として、黒鉛結晶が放射状に配列した球状黒鉛を用いることが提案されている。しかし、この方法では、球状炭素を高温(典型的には2800℃〜3000℃)で焼成することにより黒鉛化するのでエネルギーコストがかさむ。また、特許文献1に記載の方法では、小粒径(例えば粒径1μm未満、すなわちサブミクロンオーダー)の炭素粒子を製造することは困難である。
【0006】
非特許文献1には、超臨界状態または亜臨界状態の水中において炭素源に過酸化水素を作用させることにより、グラフェンを含む炭素粒子を生成させる技術が記載されている。本発明は、この方法をさらに発展させて、所望の構造を有するグラフェン含有炭素粒子および該炭素粒子を主構成要素とする炭素材料を効率よく製造し得る方法を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、小粒径の炭素粒子であって該粒子に含まれるグラフェンの大部分が粒子表面に対して傾斜して配置された構造を有する炭素粒子および該炭素粒子を主構成要素とする炭素材料を提供することである。さらに他の目的は、かかる炭素材料を利用した非水電解質二次電池およびキャパシタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、グラフェンを含む炭素粒子を主構成要素(すなわち、50質量%以上を占める要素)とする炭素材料の製造方法が提供される。その方法は、出発原料としての有機物と過酸化水素と水とを含む混合物を、温度300℃〜1000℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持することにより炭素粒子を生成させる工程(炭素粒子生成工程)を含む。また、その炭素粒子を加熱処理する工程(加熱処理工程)を含み得る。このように、高温高圧条件で(典型的には、超臨界水または亜臨界水中で)上記有機物に過酸化水素(H)を作用させて炭素粒子を生成させ、その炭素粒子を加熱処理することにより、所望する構造のグラフェン含有炭素粒子を主構成要素とする炭素材料を効率的に製造することができる。前記加熱処理は、典型的には、前記炭素粒子生成工程における保持温度よりも高い温度で行われる。
【0008】
なお、以下の説明において、炭素粒子生成工程で得られた炭素粒子であって上記加熱処理が施されていないものを、加熱処理後の炭素粒子と区別するため、「原炭素粒子」ということがある。また、原炭素粒子に加熱処理を施してなる炭素粒子を、該加熱処理が施されていない炭素粒子と区別するため、「加熱後炭素粒子」ということがある。
【0009】
上記方法により製造される炭素材料は、上記加熱処理後の炭素粒子から実質的に構成される炭素材料であり得る。したがって本発明は、他の側面として、グラフェンを含む炭素粒子の製造方法を提供する。その方法は、出発原料としての有機物と過酸化水素と水とを含む混合物を、温度300℃〜1000℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持することにより、前記有機物から炭素粒子(原炭素粒子)を生成させる工程を包含する。また、その炭素粒子を加熱処理して加熱後炭素粒子を得る工程を含み得る。前記加熱処理は、典型的には、前記炭素粒子生成工程における保持温度よりも高い温度で行われる。
【0010】
ここに開示されるいずれかの方法において、上記出発原料として好ましく使用し得る有機物として、炭化水素が例示される。上記加熱処理を行う際の処理温度は、例えば600℃〜2000℃程度とすることができる。
【0011】
ここに開示される方法の好ましい一態様では、前記炭素粒子生成工程により、ラマンスペクトルにおけるDピークの強度(I)とGピークの強度(I)との比(I/I)が凡そ0.6以上の炭素粒子(原炭素粒子)を生成させる。このピーク強度比I/Iは、炭素粒子の結晶化度を表す指針となるパラメータであって、I/Iの値が大きいほどグラフェンの成長度合い(発達度)は低くなる傾向にあり、したがってグラフェン結晶のサイズは小さくなるものと考えられる。好ましくは、I/I値が凡そ0.65以上(例えば凡そ0.7以上)となる程度にグラフェンの成長度が抑えられた原炭素粒子に加熱処理を施す。これにより、粒子中に含まれるグラフェンの大部分が該粒子の表面に対して傾斜して配置された構造の炭素粒子(加熱後炭素粒子)を主構成要素とする炭素材料が効率よく製造され得る。このような炭素粒子は、構造上、該粒子のグラフェン間に物質(イオン等)が出入りしやすい。したがって、かかる炭素粒子を主構成要素とする炭素材料(上記炭素粒子から実質的に構成される炭素材料であり得る。)は、例えば、二次電池の活物質、電気二重層キャパシタの活物質等として有用なものとなり得る。
【0012】
上記炭素粒子生成工程において生成する炭素粒子のI/I値は、例えば、該工程における処理条件(温度、圧力など)を適切に設定することによって調節することができる。例えば、前記炭素粒子生成工程において前記混合物を温度300℃〜600℃かつ圧力22〜100MPaの条件下に保持することにより、I/I値が0.6以上(好ましくは0.65以上)の炭素粒子を効率よく生成させ得る。
【0013】
本発明によると、また、グラフェンを含む炭素粒子を主構成要素とする炭素材料が提供される。その炭素材料を構成する炭素粒子の平均粒径は凡そ1μm以下(典型的には1μm未満、好ましくは0.7μm以下)である。また、該炭素粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察において、粒子表面(他の粒子との界面であり得る。)から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち凡そ80%以上が、前記粒子表面に対して90°±75°(好ましくは90°±45°)の角度で配置されている。
【0014】
このような炭素粒子は、構造上、該粒子のグラフェン間に物質(イオン等)が出入りしやすい。したがって、かかる炭素粒子を主構成要素とする炭素材料(上記炭素粒子から実質的に構成される炭素材料であり得る。)は、例えば、二次電池(例えば、リチウムイオン電池その他の非水電解質二次電池)の活物質、電気二重層キャパシタの活物質、等として有用なものとなり得る。
【0015】
本発明によると、また、ここに開示されるいずれかの炭素材料(ここに開示されるいずれかの方法により製造された炭素材料であり得る。以下同じ。)を備えた二次電池が提供される。本発明によると、さらにまた、ここに開示されるいずれかの炭素材料を備えた電気二重層キャパシタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】例1により得られた炭素粒子A1の低倍率SEM像である。
【図1B】例1により得られた炭素粒子A1の高倍率SEM像である。
【図1C】例1により得られた炭素粒子A1の低倍率TEM像である。
【図1D】例1により得られた炭素粒子A1の高倍率TEM像である。
【図2A】例1により得られた炭素粒子B1の低倍率TEM像である。
【図2B】例1により得られた炭素粒子B1の高倍率TEM像である。
【図3A】例2により得られた炭素粒子A2の低倍率SEM像である。
【図3B】例2により得られた炭素粒子A2の高倍率SEM像である。
【図3C】例2により得られた炭素粒子A2の低倍率TEM像である。
【図3D】例2により得られた炭素粒子A2の高倍率TEM像である。
【図4A】例3により得られた炭素粒子A3の低倍率SEM像である。
【図4B】例3により得られた炭素粒子A3の高倍率SEM像である。
【図5A】例3により得られた炭素粒子A3の低倍率TEM像である。
【図5B】例3により得られた炭素粒子A3の高倍率TEM像である。
【図6】例1および例3に係る炭素材料をそれぞれ活物質に用いたキャパシタセルの質量当たり静電容量を示すグラフである。
【図7】例1および例3に係る炭素材料をそれぞれ活物質に用いたキャパシタセルの体積当たり静電容量を示すグラフである。
【図8】グラフェンの配置を説明するための模式的断面図である。
【図9】グラフェンの配置を説明するための模式的断面図である。
【図10】本発明に係るリチウムイオン電池の一構成例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
ここに開示される技術では、炭素粒子合成の出発原料として、炭素を含む化合物、すなわち有機物を使用する。好ましく使用される有機物として炭化水素が挙げられる。不飽和基を含むまたは含まない脂肪族炭化水素(例えばn−ヘキサン)、不飽和基を含むまたは含まない脂環式炭化水素、置換基を含むまたは含まない芳香族炭化水素(例えば、ベンゼンのような単環の芳香族炭化水素、ナフタレンやアントラセンのように縮合環を有する芳香族炭化水素)、等のいずれも使用可能である。実質的に一種類の化合物からなる有機物を使用してもよく、二種以上の化合物を含む有機物(例えば軽油)を使用してもよい。
【0019】
炭素粒子生成工程では、このような有機物を、過酸化水素および水とともに、温度300℃〜1000℃かつ圧力22MPa以上(例えば22〜100MPa)の条件下に保持する処理を行う。上記処理条件(温度および圧力)は、水の超臨界状態または亜臨界状態に相当する(水の臨界点は374℃、22.1MPaである。)。かかる処理により、超臨界水中または亜臨界水中で(換言すれば、超臨界水または亜臨界水反応場において)有機物に過酸化水素を作用させて、該有機物を炭素粒子に転換することができる。このように超臨界水中または亜臨界水中で炭素粒子を生成させるので、小粒径(例えば粒径1μm以下)の炭素粒子を生成させる場合であっても、その生成粒子が過度な凝集を起こし難い。したがって、上記炭素粒子生成工程は、例えば、平均粒径0.02μm〜1μm(好ましくは0.02μm〜0.7μm)程度の原炭素粒子を生じさせる態様でも好ましく実施され得る。
【0020】
炭素粒子生成工程において使用する過酸化水素(H)の量は、出発原料たる有機物の使用量に応じて、該有機物を完全に酸化分解する(例えば、出発原料として炭化水素を用いる場合、該炭化水素を二酸化炭素および水にまで酸化分解する)際に必要とされるモル数Mの1/2以下(典型的には1/2〜1/50、例えば1/5〜1/20)とすることが好ましい。このように過酸化水素の使用量を制限することにより、上記有機物を完全酸化ではなく部分酸化させて、炭素粒子の形成に寄与するラジカル種(例えば、重合反応によりグラフェンを形成するラジカル種)を効率よく生じさせることができる。
【0021】
このような炭素粒子生成工程により生成する炭素粒子(原炭素粒子)は、典型的にはグラフェンを含む。炭素粒子がグラフェンを含むことは、該炭素粒子を一般的なラマン分光分析装置で測定して得られたラマンスペクトルにおいて1340cm−1付近(Dバンド)のDピークおよび1600cm−1付近(Gバンド)のGピークがみられることにより把握され得る。また、炭素粒子に含まれるグラフェンの結晶サイズ(成長の度合い)は、上記ラマンスペクトルにおけるDピークの強度(I)およびGピークの強度(I)との比(I/I)から把握され得る。原炭素粒子のI/I値は、例えば凡そ0.95以下であり得る。通常は、I/I値が0.9以下の原炭素粒子が生成するように炭素粒子生成工程を行うことが好ましい。
【0022】
ここに開示される技術では、原炭素粒子に加熱処理を施して加熱後炭素粒子を得る。この加熱処理は、例えば、当該処理によってI/I値を0.1以上(典型的には0.2以上)上昇または下降させ得る処理条件(温度、時間等)で行うことができる。好ましい一態様では、I/I値を処理前よりも低下させるように(換言すれば、グラフェン結晶化を進行させるように)上記加熱処理を行う。例えば、処理前に比べてI/I値を0.1以上(好ましくは0.2以上)低下させるように加熱処理を行うことができる。加熱処理に伴うI/I値の低下幅の上限は特に限定されない。通常は、加熱後炭素粒子のI/I値が0.1以上(典型的には0.2以上)となるように加熱処理を行うことが適当である。
【0023】
ここに開示される技術では、原炭素粒子に上記加熱処理を施すことによって、グラフェンの配向を変化させ得る。かかる配向変化を生じさせるための加熱処理は、例えば、原炭素粒子のI/I値に対して、加熱後炭素粒子のI/I値が0.1以上(好ましくは0.2以上)高くなるような処理条件(温度、時間等)で行うことが適当である。例えば、処理温度としては1500℃未満(典型的には800℃以上1500℃未満、好ましくは900℃以上1300℃以下、例えば1000℃±50℃)、処理時間としては5分以上(好ましくは10分以上、例えば30分程度)が好ましい。処理時間の上限は特に限定されないが、生産性等の観点から、通常は24時間以内とすることが適当である。上記配向変化を生じさせるための加熱処理を行って得られた炭素粒子に対して、該炭素粒子のI/I値を低下させ得る処理条件(温度、時間等)での加熱処理をさらに施してもよい。このことによって、上記配向変化した炭素粒子のグラフェン成長度を増大させることができる。この場合において、グラフェン成長度を増大させるための加熱処理は、配向変化を生じさせるための加熱処理に比べて、より高い温度域で行うことが好ましい。
【0024】
加熱処理の温度は、例えば凡そ600℃〜3000℃の範囲から適宜選択することができる。好ましい一態様では、加熱処理温度を凡そ600℃〜2000℃(好ましくは800℃〜2000℃)の範囲から選択する。加熱処理温度が低すぎると、十分な処理効果(例えば、I/I値を低下させる効果、グラフェン結晶化を進行させる効果、グラフェンの配向を変化または調節する効果、等のうち少なくとも一つの効果)が得られ難くなったり、かかる効果を得るために要する処理時間が長くなって生産性が低下したりする場合がある。一方、加熱処理温度が高すぎると、処理対象たる炭素粒子が凝集する等の不都合が生じやすくなる。また、エネルギーコストの観点からも、過剰な高温での加熱処理は避けることが望ましい。ここに開示される技術は、上記加熱処理を凡そ1500℃未満(典型的には凡そ800℃以上1500℃未満、例えば1000℃程度)の温度で行う態様でも好ましく実施され得る。例えば、上記配向変化を生じさせるための加熱処理において、かかる処理温度を好ましく採用することができる。また、ここに開示される技術は、上記加熱処理を凡そ1500℃以上(典型的には凡そ1500℃以上2000℃以下、好ましくは1500℃以上1900℃以下)の温度で行う態様でも好ましく実施され得る。例えば、上記グラフェン成長度を増大させるための加熱処理において、かかる処理温度を好ましく採用することができる。
【0025】
ここに開示される技術では、上述のように、加熱処理温度として2000℃以下(より好ましくは1500℃以下)の温度をも好ましく採用することができる。このことは、該加熱処理によって、原炭素粒子(典型的には、超臨界水反応場で生成した炭素粒子)のグラフェン配向を変化または調節し得ることに起因する。また、このことは、該加熱処理によって炭素粒子が著しく凝集したり、一部の炭素粒子が他の粒子から炭素の供給を受けて非意図的に成長したりする事象を防止または抑制する上で有利である。したがって、ここに開示される技術は、例えば、平均粒径が凡そ1μm以下(典型的には凡そ0.02μm〜1μm、より好ましくは凡そ0.02μm〜0.7μm)の炭素粒子を主構成要素とする炭素材料の製造にも好ましく適用され得る。
【0026】
上記加熱処理は、不活性または還元性の雰囲気中で行うことができる。例えば、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガス、これらの混合ガス等の不活性ガス雰囲気中で加熱処理を行う態様を好ましく採用し得る。加熱処理時の雰囲気圧力は、常圧(大気圧)であってもよく、加圧または減圧であってもよい。操作の容易性や設備費等の観点から、通常は、常圧で加熱処理を行うことが好ましい。
【0027】
ここに開示される技術によると、粒子内のグラフェンが放射状に配向している炭素粒子、該粒子を主構成要素とする炭素材料、およびそれらの製造方法が提供され得る。ここで、「粒子内のグラフェンが放射状に配向している」とは、図8,9に示すように、炭素粒子60のTEM観察において、粒子表面60Aから10nm内側(点線で示した位置)の領域を構成するグラフェンのうち半分以上(例えば80%以上)が、粒子表面60Aとグラフェンの結晶面とのなす角が90°±45°となる姿勢で配置されていることをいう。以下、このようにグラフェンが主として放射状に配向している炭素粒子を「放射状配向炭素粒子」ということがある。また、以下の説明において、粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち半分以上(例えば80%以上)が該粒子表面に対して±15°未満の角度で配置されている炭素粒子を「同心円状配向炭素粒子」ということがある。そして、粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち半分以上(例えば80%以上)が該粒子表面に対して90°±75°の角度で配置されている炭素粒子を「傾斜状配向炭素粒子」ということがある。放射状配向炭素粒子は、傾斜状配向炭素粒子のなかでも粒子表面に対してより大きく傾いたグラフェンを多く含む炭素粒子に相当する。図9において、グラフェン62Aは粒子表面60Aに対して90°±45°の角度で配置されたグラフェンの例であり、グラフェン62Bは粒子表面60Aに対して±15°未満の角度で配置されたグラフェンの例である。
【0028】
上記放射状配向炭素粒子は、炭素粒子生成工程においてI/I値が0.65以上(好ましくは0.7以上、典型的には0.95以下)の炭素粒子を生成させ、その炭素粒子(原炭素粒子)に上記加熱処理を施すことによって好ましく製造され得る。したがって、上記放射状配向炭素粒子または該粒子を主構成要素とする炭素材料を製造する場合には、炭素粒子生成工程における処理条件(温度、圧力など)を、上記I/I値の原炭素粒子が効率よく得られるように設定することが好ましい。
【0029】
本発明者の知見によれば、炭素粒子生成工程における処理温度が低くなると、よりI/I値の大きな炭素粒子が生成する傾向にある。また、炭素粒子生成工程における処理圧力が低くなると、よりI/I値の大きな炭素粒子が生成する傾向にある。使用する有機物(出発原料)の種類等によっても異なり得るが、通常は、炭素粒子生成工程における処理条件を温度300℃〜600℃かつ圧力22〜100MPaの範囲とすることにより、I/I値が0.6以上の炭素粒子を効率よく生成させ得る。例えば、炭素原子数6〜20程度の炭化水素を出発原料に用いて炭素粒子を製造する場合に、炭素粒子生成工程における処理条件として上記処理条件を好ましく適用し得る。好ましい一態様では、上記処理条件のうち水が超臨界状態となる範囲(すなわち、374℃〜600℃かつ22.1〜100MPa)で炭素粒子生成工程を行う。かかる処理条件によると、より効率よく炭素粒子を生成させることができる。例えば、収率向上および反応時間短縮のうち少なくとも一方が実現され得る。このことは生産性の観点から好ましい。また、上記処理温度を500℃以下(例えば300℃〜500℃、好ましくは374℃〜500℃)としてもよい。かかる処理条件によると、I/I値が0.6以上(さらには0.7以上)の炭素粒子をより効率よく(例えば高収率で)生成させることができる。
【0030】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、I/I値が0.65以上(より好ましくは0.7以上)の原炭素粒子に上記加熱処理を施す。このことによって、グラファイトが放射状に配向した炭素粒子を主構成要素とする炭素材料(上記炭素粒子から実質的に構成される炭素材料であり得る。)が得られる。例えば、粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち凡そ70%以上(より好ましくは凡そ80%以上、例えば凡そ90%以上)が前記粒子表面に対して90°±75°の角度で配置された炭素粒子が製造され得る。
【0031】
なお、加熱処理前の炭素粒子(原炭素粒子)に含まれるグラファイトの配向は、傾斜状(例えば放射状)であってもよく、同心円状であってもよく、これらの配向が混在していてもよい。あるいは、TEMにおいて明瞭な配向が観察されない炭素粒子であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、I/I値が0.65以上(より好ましくは0.7以上)であって、TEM観察においてグラファイトの少なくとも一部が同心円状に配置された構造を示す原炭素粒子(概ね同心円状の構造がみてとれればよく、例えば、粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち同心円状に配置されたグラフェンの割合が半分未満であってもよい。)に上記加熱処理を施す態様で好ましく実施され得る。かかる加熱処理によって、グラフェン結晶化を促進する(例えば、I/I値を0.1以上低下させる)とともに、該グラフェンの配向を同心円状から放射状に変化させて、放射状炭素粒子を得ることができる。
【0032】
ここに開示される技術により提供される放射状配向炭素粒子は、該粒子の表面付近にあるグラフェンの大半が、粒子表面に対して45°以上傾いた姿勢で(典型的には、粒子の中央部から粒子表面に向かって放射状に)配置されている。このため、グラフェンが主として同心円状に配向した構成の炭素粒子に比べて、放射状配向炭素粒子では、グラフェンのエッジ(端)が粒子表面に多く露出している。かかる構造を有する放射状配向炭素粒子では、該粒子に含まれるグラフェン間への物質の出入りが容易である。例えば、上記グラフェン間にリチウムイオンが出入りしやすい。したがって、上記放射状配向炭素粒子または該粒子を主構成要素とする炭素材料は、例えば、出力特性のよいリチウムイオン電池を構築し得る活物質(典型的には負極活物質)として有用である。また、上記放射状炭素粒子は、上記グラフェンにイオンが吸脱離しやすい。したがって、上記放射状配向炭素粒子または該粒子を主構成要素とする炭素材料は、例えば、容量特性のよい電気二重層キャパシタを構築し得る活物質として有用である。
【0033】
ここに開示される技術によると、また、粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち半分以上(例えば80%以上)が該粒子表面に対して±15°未満の角度で配置された炭素粒子(すなわち同心円状配向炭素粒子)、該炭素粒子を主構成要素とする炭素材料、およびそれらの製造方法が提供され得る。好ましい一態様では、該炭素粒子の平均粒径が1μm以下(典型的には0.02μm〜0.7μm)である。ここに開示される同心円状配向炭素粒子の好ましい一態様では、該粒子のI/I値が0.65未満(より好ましくは0.55以下)である。かかるI/I値を示す同心円状配向炭素粒子は、例えば、出発原料としての有機物と過酸化水素と水とを含む混合物を、温度600℃〜1000℃かつ圧力22MPa以上(典型的には22.1〜100MPa)の条件下に保持して炭素粒子を生成させ、その炭素粒子を加熱処理することにより製造され得る。なお、炭素粒子生成工程における処理温度および処理圧力を高くすると、生成する炭素粒子の平均粒径はより小さくなる傾向にある。
【0034】
本発明者の知見によれば、炭素粒子生成工程における処理温度をより高くすると、よりI/I値の小さな炭素粒子が生成する傾向にある。また、炭素粒子生成工程における処理圧力をより高くすると、よりI/I値の小さな炭素粒子が生成する傾向にある。したがって、炭素粒子生成工程における処理温度および処理圧力を上記のように高めに設定することにより、I/I値の小さな(好ましくはI/I値が0.65未満の)炭素粒子を生成させることができる。この炭素粒子(原炭素粒子)は、TEM観察において、グラファイトの少なくとも一部が同心円状に配置された構造を示すものであり得る。この原炭素粒子の段階では、概ね同心円状の構造がみてとれればよく、例えば、粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち同心円状に配置されたグラフェンの割合が半分未満であってもよい。もちろん、原炭素粒子の表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち該粒子表面に対して±15°未満の角度で配置されたグラフェンの割合が半分以上であってもよい。
【0035】
かかる炭素粒子(原炭素粒子)を加熱処理することにより、同心円状の配置構造を維持または発達させつつグラフェン結晶化を進行させて、さらに低いI/I値(例えば0.5以下)を示す炭素粒子を製造することができる。この炭素粒子は、例えば、該炭素粒子(加熱後粒子)の表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち凡そ70%以上(より好ましくは凡そ80%以上、例えば凡そ90%以上)が該粒子表面に対して±15°未満の角度で同心円状配向炭素粒子であり得る。
【0036】
このような同心円状配向炭素粒子は、粒子表面に概ね沿う方向に広がるグラフェンの割合が多いことから、I/I値が低い(すなわち、グラフェン結晶化度の高い)粒子であっても、粒子表面にグラフェンのエッジがそれほど露出していない構造のものであり得る。このような構造の炭素粒子は、エッジが多く露出した炭素粒子に比べて、より高い化学的安定性を示す傾向にある。したがって、上記同心円状配向炭素粒子は、例えばリチウムイオン電池の負極活物質または電気二重層キャパシタの活物質として使用された場合、非水電解質(典型的には電解液)を分解する性質の弱い(すなわち、電解質分解性の低い)ものとなり得るので好ましい。
【0037】
ここに開示される技術によると、また、上記放射状配向炭素粒子と上記同心円状配向炭素粒子との中間的なグラファイト配置を有する炭素粒子、該粒子を主構成要素とする炭素材料、およびそれらの製造方法が提供され得る。かかる炭素粒子は、例えば、粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち半分以上(例えば80%以上)が該粒子表面に対して15°以上45°未満または135°を超えて165°以下の角度で傾斜して配置された炭素粒子(傾斜状配向炭素粒子に該当する。)、粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンが明瞭な配向を示さない炭素粒子、等であり得る。このような構造の炭素粒子は、例えば、I/I値が0.65以上(より好ましくは0.7以上)であってグラファイトが同心円状に配向した原炭素粒子に加熱処理を施すことにより、上記同心円状配向から放射状配向に変化する過程で生じ得る。したがって、かかる原炭素粒子に加熱処理を施す条件(温度、時間など)を調節することにより、上記中間的なグラファイト配置を有する炭素粒子を得ることができる。このような炭素粒子は、例えば、リチウムイオン電池の負極活物質として使用されて、低い電解質分解性と高い出力性能とをバランスよく実現し得る。また、電気二重層キャパシタの活物質として利用されて、低い電解質分解性と高い容量特性とをバランスよく実現し得る。
【0038】
以下、ここに開示される炭素材料を負極活物質に用いたリチウムイオン電池、および、該炭素材料を活物質に用いた電気二重層キャパシタの構成例につき説明するが、上記炭素材料の使用態様をこれらに限定する意図ではない。
【0039】
ここに開示されるリチウムイオン電池は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な電極活物質をそれぞれ有する正極および負極が非水電解質とともに容器に収容された形態を有する。上記負極は、ここに開示されるいずれかの炭素材料を活物質(負極活物質)として備える。例えば、上記炭素材料を、バインダおよび必要に応じて使用される導電材等とともに所望の形状(例えばペレット状)に成形するか、あるいは導電製部材(集電体)に付着させた形態の負極を好ましく採用することができる。上記バインダの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。なお、負極活物質として、ここに開示されるいずれかの炭素材料とともに、一般的なリチウムイオン電池の負極活物質として使用し得ることが知られている公知材料を使用してもよい。
【0040】
正極としては、適当な正極活物質を、バインダおよび必要に応じて使用される導電材等とともに所望の形状に成形するか、あるいは導電製部材(集電体)に付着させた形態のものを好ましく使用し得る。正極活物質としては、一般的なリチウムイオン電池の正極に用いられる層状構造の酸化物系活物質、スピネル構造の酸化物系活物質等を好ましく用いることができる。かかる活物質の代表例として、リチウムコバルト系酸化物、リチウムニッケル系酸化物、リチウムマンガン系酸化物等のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。導電材としては、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、グラファイト粉末等のカーボン材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末が例示される。バインダとしては、負極用のバインダと同様のもの等を使用することができる。
【0041】
正極と負極との間に介在される電解質としては、非水溶媒と、該溶媒に溶解可能なリチウム塩(支持電解質)とを含む液状電解質(電解液)を好ましく用いることができる。かかる液状電解質にポリマーが添加された固体状(ゲル状)の電解質であってもよい。上記非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般にリチウムイオン電池の電解質に使用し得るものとして知られている非水溶媒から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0042】
上記支持電解質としては、LiPF,LiBF,LiN(SOCF,LiN(SO,LiCFSO,LiCSO,LiC(SOCF,LiClO等の、リチウムイオン電池の電解液において支持電解質として機能し得ることが知られている各種のリチウム塩から選択される一種または二種以上を用いることができる。支持電解質(支持塩)の濃度は特に制限されず、例えば従来のリチウムイオン電池で使用される電解質と同様とすることができる。通常は、支持電解質を凡そ0.1mol/L〜5mol/L(例えば凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解質を好ましく使用することができる。
【0043】
上記正極および負極を電解質とともに適当な容器(金属または樹脂製の筐体、ラミネートフィルムからなる袋体等)に収容してリチウムイオン電池が構築される。ここに開示されるリチウムイオン電池の代表的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。セパレータとしては、一般的なリチウムイオン電池に用いられるセパレータと同様のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート、不織布等を用いることができる。なお、固体状の電解質を用いたリチウムイオン電池では、該電解質がセパレータを兼ねる構成としてもよい。リチウムイオン電池の形状(容器の外形)は特に限定されず、例えば、円筒型、角型、コイン型等の形状であり得る。
【0044】
本発明により提供されるリチウムイオン電池の一構成例を図10に示す。このリチウムイオン電池10は、正極12および負極14を具備する電極体11が、図示しない非水電解液とともに、該電極体を収容し得る形状の電池ケース15に収容された構成を有する。電極体11は、長尺シート状の正極集電体122上に正極合材層124を有する正極12と、長尺シート状の負極集電体(例えば電解銅箔)142の粗面上に所定厚さの鉄酸化物膜(活物質層)144が設けられた構成の負極14とを、二枚の長尺シート状セパレータ13とともに捲回することにより形成される。電池ケース15は、有底円筒状のケース本体152と、上記開口部を塞ぐ蓋体154とを備える。蓋体154およびケース本体152はいずれも金属製であって相互に絶縁されており、それぞれ正負極の集電体122,142と電気的に接続されている。すなわち、このリチウムイオン電池10では、蓋体154が正極端子、ケース本体152が負極端子を兼ねている。
【0045】
また、ここに開示される電気二重層キャパシタは、例えば、上記リチウムイオン電池の負極と同様に構成された一対(二つ)の電極を用意し、それらの電極を、電解質および必要に応じて使用されるセパレータとともに適当な容器に収容した構成を有する。容器およびセパレータとしては、リチウムイオン電池と同様のもの等を使用することができる。
【0046】
電気二重層キャパシタ用の電解質としては、非水溶媒と、該溶媒に溶解可能なリチウム塩(支持電解質)とを含む電解液を好ましく用いることができる。上記非水溶媒としては、リチウムイオン電池用と同様のもの等を使用することができる。支持電解質としては、第四級アンモニウムカチオンとアニオンとを組み合せた塩を好ましく用いることができる。かかる塩を構成するカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムカチオンのような脂肪族第四級アンモニウムカチオンが好ましい。例えば、それぞれ独立に炭素数1〜10(より好ましくは炭素数1〜4、さらに好ましくは炭素数1〜2)のアルキル基から選択される四つのアルキル基を有するテトラアルキルアンモニウムカチオンが好ましい。かかるカチオンの具体例としては、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、エチルトリメチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオン、ジエチルジメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。このようなカチオンと組み合わせるアニオンとしては、BF,PF,ClO,(CFSO,(CSO,CFSO等のアニオンを好ましく選択し得る。このようなカチオンとアニオンとを組み合わせにより構成される一種または二種以上の化合物(塩)を用いることができる。かかる化合物を、例えば0.3〜3mol/L(より好ましくは0.5〜2mol/L、さらに好ましくは0.7〜1.5mol/L)の濃度で含有する電解質が好ましい。例えば、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEABF)、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEMABF)等の脂肪族第四級アンモニウム塩をプロピレンカーボネート(PC)に溶解させた組成の電解質を好ましく使用することができる。
【0047】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0048】
<例1>
内容量10.8mLのニッケル合金(商品名:ハステロイC−22)から構成される超臨界水反応容器(耐圧硝子工業株式会社製)内に、出発材料(炭素源)としてのn−ヘキサン1.30g(15.1mmol)、Hの31%水溶液2.00g(18.2mmolのHを含む。この量は、上記分量のn−ヘキサンを完全に酸化分解する際に必要とされるモル数Mの約1/12に相当する。)および蒸留水3gを入れた。この反応容器内を昇温および昇圧させて、温度400℃、圧力71MPaの条件(水の超臨界条件)下に3時間保持した。反応容器内を室温および常圧に戻した後、該容器を開け、生成した炭素粒子A1(原炭素粒子)を回収して減圧乾燥させた。この炭素粒子A1の平均粒径は0.96μmであった。
【0049】
炭素粒子A1をラマン分光分析装置(Renishaw社製のRaman image microscope system 1000)で測定して得られたラマンスペクトルにつきDピークとGピークとの強度比(I/I)を求めた。その結果、炭素粒子A1のI/I値は0.79であった。
【0050】
炭素粒子A1を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製品、型式「JSM−7000F/IV」)および透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製品、型式「JEM2100F」)で観察して得られた像を図1A〜Dに示す。図1Aは低倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)像、図1Bは高倍率のSEM像、図1Cは低倍率の透過型電子顕微鏡(TEM)像、図1Dは高倍率のTEM像である。これらの図からわかるように、炭素粒子A1のグラフェン成長度はそれほど高くない。これは、上記で算出したI/I値が高い(0.79)ことと整合する結果である。また、グラフェンのサイズが小さいため明瞭ではないが、上記TEM観察において弱い同心円状の配向が認められた(図1D)。
【0051】
上記で得られた炭素粒子A1に対し、常圧のArガス雰囲気中において800℃以上1500℃未満(ここでは凡そ1000℃とした。)に30分間保持する加熱処理を施した。このようにして、上記加熱後の炭素粒子(炭素粒子B1)から実質的に構成される炭素材料を得た。この炭素粒子B1をTEMにて観察したところ、加熱処理前の粒子(炭素粒子A1)と比較して、粒子の外形(粒子の形状およびサイズ)に関する顕著な変化は認められなかった。
【0052】
炭素粒子B1の低倍率TEM像を図2Aに、高倍率TEM像を図2Bに示す。これらのTEM像から、炭素粒子A1とは異なり、炭素粒子B1ではグラフェンの大半が放射状に配向していることがわかる。炭素粒子B1のラマンスペクトルから求めたI/I値は1.05であり、加熱処理前の炭素粒子A1のI/I値(0.79)に比べて0.2以上大きくなっていた。このI/I値の上昇は、グラフェンの多結晶化に基づくグラフェン構造欠陥(エッジ部)の増大に由来するものと考えられる。炭素粒子B1が多結晶化していることは、グラフェンのX線回折ピークの半値幅からも確認された。すなわち、炭素粒子A1の半値幅が9.669であったのに対し、炭素粒子B1の半値幅は9.782であり、炭素粒子A1に比べて広幅化していた。このような多結晶化は、グラフェンの放射状配向を誘発する1000℃〜1500℃での加熱処理によって特に効果的に進行することから、グラフェンの放射状配向への変化は多結晶化を伴って起こるものと推察される。
【0053】
上記のように800℃以上1500℃未満(例えば凡そ1000℃)での加熱処理により得られた炭素粒子B1は、さらに1500℃以上(例えば1500℃〜2800℃)で加熱処理することにより、その処理温度に応じてグラフェンの成長度を増大させることができる。すなわち、上記で得られた炭素粒子B1(I/I値1.05)を1500℃で30分間加熱処理して得られた炭素粒子のラマンスペクトルから求めたI/I値は0.98であり、加熱処理温度を1900℃とすると0.79、2200℃では0.63、2500℃では0.34、2800℃では0.27と、処理温度の上昇に伴ってI/I値が減少することがわかった。この結果は、グラフェンの放射状配向を誘発する上記温度域(800℃以上1500℃未満、特に1000℃以上1500℃未満)よりも高い温度での加熱処理によってグラフェンの成長度を増大させ得ることを支持するものである。
【0054】
<例2>
例1と同じ反応容器に、n−ヘキサン1.30g、Hの31%水溶液2.00gおよび蒸留水3gを入れ、該反応容器内を温度500℃、圧力111MPaの条件(水の超臨界条件)下に3時間保持した。反応容器内を室温および常圧に戻した後、該容器を開け、生成した炭素粒子A2(原炭素粒子)を回収して減圧乾燥させた。炭素粒子A2の平均粒径は0.59μmであった。
【0055】
炭素粒子A2の低倍率SEM像を図3Aに、高倍率SEM像を図3Bに、低倍率TEM増を図3Cに、高倍率TEM像を図3Dに示す。炭素粒子A2は、炭素粒子A1に比べてグラフェンの成長度が明らかに高いことがわかる。また、炭素粒子A2が同心円状の配向を有することが認められる。炭素粒子A2のラマンスペクトルから求めたI/I値は0.64であった。この結果は、炭素粒子A2のグラフェン成長度が炭素粒子A1に比べて高いことを支持している。このように、超臨界処理の温度および圧力を高くすることにより、よりグラファイト化度(グラフェン成長度)の高い炭素粒子を生成できることが確認された。
【0056】
<例3>
例1と同じ反応容器に、ベンゼン1.17g(15.0mmol)、Hの31%水溶液2.00g(上記分量のベンゼンを完全に酸化分解する際に必要とされるモル数Mの約1/15に相当する量のHを含む。)および蒸留水3gを入れ、該反応容器内を温度400℃、圧力48MPaの条件(水の超臨界条件)下に3時間保持した。反応容器内を室温および常圧に戻した後、該容器を開け、生成した炭素粒子A3(原炭素粒子)を回収して減圧乾燥させた。このようにして、炭素粒子A3から実質的に構成される炭素材料を得た。炭素粒子A3の低倍率SEM像を図4Aに、高倍率SEM像を図4Bに、低倍率TEM像を図5Aに、高倍率TEM像を図5Bに示す。この炭素粒子A3の平均粒径は720μmであった。図5Bと、図1Dおよび図3Dとの比較からわかるように、炭素粒子A3のグラフェン成長度は、炭素粒子A1,A2のグラフェン成長度よりも低いことが認められる。炭素粒子A3のラマンスペクトルから求めたI/I値は0.88であり、炭素粒子A1のI/I値(0.79)および炭素粒子A2のI/I値(0.64)よりも大きかった。炭素粒子A3のI/I値がこのように大きいことは、TEM像から認められるグラフェン成長度の低さと整合していた。
【0057】
[キャパシタ性能評価]
例1で製造した炭素材料(グラフェンの配向が放射状に制御された炭素粒子B1から実質的に構成される。)と、バインダとしてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、95:5の質量比で混合した。この混合物40mgを9.8kNの圧力で3分間圧縮成形して、直径13mm、厚さ250μmのペレット状電極を二つ作製した。ニッポン高度紙工業株式会社製の多孔性セパレータを介して上記二つの電極を対向させ、さらにその両外側に集電体としてのグラッシーカーボンを配置した。これらの要素を電解液とともにステンレス製容器に組み込み、20kPaの圧力下に一晩放置して電解液を含浸させた。電解液としては、プロピレンカーボネートにテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEABF)を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを使用した。このようにして、例1に係る炭素材料を活物質に用いたキャパシタセルC1を作製した。
【0058】
炭素粒子B1に代えて、例3で製造した炭素材料(グラフェンの配向が同心円状に制御された炭素粒子A3から実質的に構成される。)を使用し、その他の点についてはキャパシタセルC1の作製と同様にして、例3に係る炭素材料を活物質とするキャパシタセルC2を作製した。
【0059】
キャパシタセルC1,C2の静電容量特性を以下のようにして評価した。すなわち、市販の充放電試験装置を用いて、25℃に維持されたグローブボックス内にてキャパシタセルC1,C2に2.5Vの電圧を印加して充電した後、1〜45mA/cmの定電流で放電して静電容量を求めた。それらの結果を図6および図7に示す。図6の縦軸は使用した活物質の質量当たりの容量であり、図7の縦軸は使用した活物質の体積当たりの容量である。図示するように、放射状の表面構造を有する炭素粒子B1は、炭素粒子A3に比べて、略4倍程度の高い静電容量を示すことが確認された。放射状の配向をもつ炭素粒子B1のグラフェン結晶化度(I/I値1.05)は、同心円状の配向をもつ炭素粒子A3の結晶化度(I/I値0.88)に比べて低いため、炭素粒子B1が上記の如く高い静電容量を示すことは、グラフェンの方向(配向)に依存するものと考えられる。ここで使用した炭素粒子は賦活処理(グラフェンにポアを形成する処理)が施されていないものであるが、炭素粒子の表面構造(グラフェンの配向)をさらに制御し、あるいは賦活を施すことにより、粒子表面にグラフェンのエッジが支配的に存在する放射状配向粒子の静電特性をさらに有利に発現させ得るものと予想される。
【0060】
<例4>
例1と同じ反応容器に、軽油1.28g、Hの31%水溶液2.00gおよび蒸留水3gを入れ、該反応容器内を温度400℃、圧力71MPaの条件(水の超臨界条件)下に3時間保持した。反応容器内を室温および常圧に戻した後、該容器を開け、生成した炭素粒子A4を回収して減圧乾燥させた。この炭素粒子A4の平均粒径は0.90μmであり、I/I値は0.85であった。また、この炭素粒子A4をTEMで観察したところ、弱い同心円状の配向が認められた。
【0061】
<例5>
例1と同じ反応容器に、n−ヘキサン1.30g、Hの31%水溶液2.00gおよび蒸留水3gを入れ、該反応容器内を温度330℃、圧力48MPaの条件(水の亜臨界条件)下に3時間保持した。反応容器内を室温および常圧に戻した後、該容器を開け、生成した炭素粒子A5を回収して減圧乾燥させた。この炭素粒子A5の平均粒径は0.38μmであり、I/I値は0.84であった。また、この炭素粒子A5をTEMで観察したところ、弱い同心円状の配向が認められた。
【0062】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10 リチウムイオン電池(二次電池)
11 電極体
12 正極
13 セパレータ
14 負極
60 炭素粒子
60A 粒子表面
62A グラフェン
62B グラフェン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンを含む炭素粒子を主構成要素とする炭素材料の製造方法であって:
出発原料としての有機物と過酸化水素と水とを含む混合物を、温度300℃〜1000℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持することにより、前記有機物から炭素粒子を生成させる工程;および、
その炭素粒子を加熱処理する工程、ここで、該加熱処理は、前記炭素粒子生成工程における保持温度よりも高温で行われる;
を包含する、炭素材料製造方法。
【請求項2】
前記有機物として炭化水素を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱処理を600℃〜2000℃で行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記炭素粒子生成工程により、ラマンスペクトルにおけるDピークの強度(I)とGピークの強度(I)との比(I/I)が0.6以上の炭素粒子を生成させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素粒子生成工程では、前記混合物を温度300℃〜600℃かつ圧力22〜100MPaの条件下に保持する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法により製造された炭素材料。
【請求項7】
グラフェンを含む炭素粒子を主構成要素とする炭素材料であって、
前記炭素粒子の平均粒径は0.7μm以下であり、該粒子の透過型電子顕微鏡観察において粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち80%以上が前記粒子表面に対して90°±75°の角度で配置されている、炭素材料。
【請求項8】
グラフェンを含む炭素粒子を主構成要素とする炭素材料であって、
前記炭素粒子の平均粒径は0.7μm以下であり、該粒子の透過型電子顕微鏡観察において粒子表面から10nm内側の領域を構成するグラフェンのうち80%以上が前記粒子表面に対して90°±45°の角度で配置されている、炭素材料。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか一項に記載の炭素材料を備える、二次電池。
【請求項10】
請求項6から8のいずれか一項に記載の炭素材料を備える、電気二重層キャパシタ。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2010−254513(P2010−254513A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105921(P2009−105921)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】