炭素濃度測定方法
【課題】シリコンの炭素濃度を高精度、短時間かつ低コストで測定することが可能な炭素濃度測定方法を提供する。
【解決手段】シリコンの炭素濃度を測定する方法であって、シリコンを酸に溶解して溶液を作製する工程と、溶液をフィルタにより濾過する工程と、フィルタ上の残渣について測色する工程と、測色する工程により得られた測色値から炭素濃度を算出する工程と、を含む、炭素濃度測定方法である。
【解決手段】シリコンの炭素濃度を測定する方法であって、シリコンを酸に溶解して溶液を作製する工程と、溶液をフィルタにより濾過する工程と、フィルタ上の残渣について測色する工程と、測色する工程により得られた測色値から炭素濃度を算出する工程と、を含む、炭素濃度測定方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、シリコンは太陽電池用材料として広く採用されている。シリコンの精製方法を大きく分類すると、化学法と、冶金法と、に分けることができる。
【0003】
化学法は、塩素系ガスを用いた気相成長により高純度ポリシリコンを精製する方法である。一方、冶金法は、珪石を還元して得た金属級シリコンから、天然に由来して混入した不純物を徐々に低濃度化し、最終的には太陽電池級シリコンまで精製する方法である。
【0004】
冶金法においては、一般に、III族元素、V族元素および金属元素の低濃度化を以下のようにして行なっている。
(i)III族元素(主にボロン、アルミニウム)は、スラグを添加してシリコン中の不純物を酸化するとともに、スラグ中への分配比率の差を利用して低濃度化されている。
(ii)V族元素は、真空蒸発法により、蒸気圧力差を利用して低濃度化されている。
(iii)金属元素は、一方向凝固や回転偏析法などにより、偏析係数の差を利用して低濃度化されている。
【0005】
たとえば特許文献1には、冶金法によるシリコンの精製方法の一例が開示されている。特許文献1に開示されたシリコンの精製方法においては、まず第1ステップにおいて、精製添加剤を含む溶融シリコンを保持し、精製添加剤とともに、軸を回転させて攪拌混合し、攪拌部の先端より精製ガスを吹き込む。これにより、精製添加剤の酸化ケイ素(SiO2)がボロンを酸化して除去する。
【0006】
次に、第2ステップにおいて、減圧下で溶融シリコンの攪拌を行なうことによって、リンの他、カルシウム、ナトリウムおよびアルミニウム等が揮発して系外に排出される。
【0007】
さらに、第3ステップにおいて、溶融シリコン中に中空回転軸の下端の析出用基体を浸漬させ、偏析凝固によって金属不純物を排除しつつ析出用基体の外表面に晶出させることで太陽電池級シリコンにまで精製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−255417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、冶金法によって精製されたシリコン中には、化学法によって精製されたシリコン中には見られないミクロな異物が存在することが見出された。そして、このミクロな異物は、主にSiC(炭化ケイ素)結晶であることが判明した。
【0010】
そして、本発明者は、冶金法によって精製されたシリコン中における主にSiC結晶からなるミクロな異物の濃度が判明さえすれば、精製されたシリコンの品質向上や品質管理に役立てることができると考えた。
【0011】
精製されたシリコン中の従来の炭素濃度測定方法の一例を示すと、まず、株式会社堀場
製作所製の炭素濃度測定機器(EMIAシリーズの920)を用い、粉砕されたシリコンを0.2g程度秤量し、アルゴンガスベースのガスに酸素ガスを流しながら燃焼雰囲気を形成し、ニッケル製ルツボ内に助燃材とともに秤量されたシリコンを燃焼させる。次に、COおよびCO2という形になった炭素をIR(Infrared spectroscopic analysis)で観測し、赤外光の吸収度合いから炭素濃度を算出するという方法(以下、「燃焼法」という。)を用いている。実際の炭素濃度測定の検量線に用いるのは鉄鋼材標準サンプルを用いる。
【0012】
この燃焼法における技術的課題としては、以下の3点(a)〜(c)が考えられる。
(a)炭素濃度が測定されるサンプルの重量がたったの0.2g程度であるということ(株式会社堀場製作所製のEMIAシリーズの920よりも大量のサンプルを扱う炭素濃度測定機器は現在のところ存在しない。)。サンプルが少量であるということは、サンプル中に炭素濃度の偏りがあった場合に、平均的な炭素濃度の正確な情報を知ることができないという問題がある。
(b)平均的な炭素濃度の正確な情報を知るために測定サンプル数を増やす必要がある等の理由により、炭素濃度の測定に時間がかかること。
(c)炭素濃度測定機器の導入費用が高いこと。炭素濃度測定機器を導入するためには約3000万円を超える費用が必要となる。
【0013】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、シリコンの炭素濃度を高精度、短時間かつ低コストで測定することが可能な炭素濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、シリコンの炭素濃度を測定する方法であって、シリコンを酸に溶解して溶液を作製する工程と、溶液をフィルタにより濾過する工程と、フィルタ上の残渣について測色する工程と、測色する工程により得られた測色値から炭素濃度を算出する工程と、を含む、炭素濃度測定方法である。
【0015】
ここで、本発明の炭素濃度測定方法は、原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、1つ以上の精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取する工程と、を含み、試料シリコンから選択された少なくとも1つが炭素濃度が測定されるシリコンであってもよい。
【0016】
また、本発明の炭素濃度測定方法は、同一ロットの原料シリコンを複数の精製単位に分ける工程と、精製単位の1つの原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、1つ以上の精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取する工程と、を含み、試料シリコンから選択された少なくとも1つが炭素濃度が測定されるシリコンであってもよい。
【0017】
また、本発明の炭素濃度測定方法において、炭素は、シリコン中に炭化ケイ素として含まれていることが好ましい。
【0018】
また、本発明の炭素濃度測定方法において、炭素濃度を算出する工程においては、燃焼法によって測定された炭素濃度と測色値との関係から炭素濃度を算出することが好ましい。
【0019】
また、本発明の炭素濃度測定方法において、測色値は、フィルタ上の残渣の測定値L*、a*およびb*と、フィルタの測定値L*0、a*0およびb*0と、の差である、△L*=L*−L*0、△a*=a*−a*0および△b*=b*−b*0からなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましい。
【0020】
また、本発明の炭素濃度測定方法において、測色値は、フィルタ上の残渣の三刺激値X、YおよびZと、フィルタの三刺激値X0、Y0およびZ0と、の差である、△X=X−X0、△Y=Y−Y0および△Z=Z−Z0からなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリコンの炭素濃度を高精度、短時間かつ低コストで測定することが可能な炭素濃度測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態の炭素濃度測定方法のフローチャートである。
【図2】本実施の形態の炭素濃度測定方法の前工程の一例のフローチャートである。
【図3】本実施の形態の炭素濃度測定方法の前工程の他の一例のフローチャートである。
【図4】本実施例の炭素濃度測定方法のフローチャートである。
【図5】濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの低倍率(20倍)の光学顕微鏡写真である。
【図6】濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの高倍率(200倍)の光学顕微鏡写真である。
【図7】濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタ上に残った残渣の拡大写真である。
【図8】励起光として波長460〜490nm(2.70〜2.53eV)の青色光を用いたときの図7に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真である。
【図9】励起光として波長330〜385nm(3.75〜3.22eV)の紫外光を用いたときの図7に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真である。
【図10】精製工程によって精製したシリコンの酸溶液を濾過したディスミックフィルタの内部の濾過フィルタ上の残渣の拡大写真である。
【図11】励起光として波長460〜490nm(2.70〜2.53eV)の青色光を用いたときの図10に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真である。
【図12】励起光として波長330〜385nm(3.75〜3.22eV)の紫外光を用いたときの図10に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真である。
【図13】濾過フィルタ上の残渣の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【図14】図13の破線で取り囲まれた領域の電子顕微鏡写真の拡大写真である。
【図15】図14の破線で取り囲まれた領域の電子顕微鏡写真の拡大写真である。
【図16】(a)〜(d)は第1の異物のEPMAチャートであり、(e)〜(h)は第2の異物のEPMAチャートである。
【図17】脱B工程後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示す図である。
【図18】脱B工程後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す図である。
【図19】脱B工程および脱P工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示す図である。
【図20】脱B工程および脱P工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す図である。
【図21】脱B工程、脱P工程および脱M工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示す図である。
【図22】脱B工程、脱P工程および脱M工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す図である。
【図23】各精製工程によって精製したシリコンを測定試料とし、濾過フィルタ上の残渣の反射スペクトルを測定した図である。
【図24】SiC結晶の結晶種割合と基礎吸収端との関係を示す図である。
【図25】測色値△L*と炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図26】測色値△a*と炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図27】測色値△b*と炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図28】測色値△Xと炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図29】測色値△Yと炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図30】測色値△Zと炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に、本実施の形態の炭素濃度測定方法のフローチャートを示す。まず、ステップS1aにおいて、シリコンを酸に溶解して溶液を作製する工程を行なう。これにより、主にSiC微結晶からなる異物が酸に溶解せずに溶液中に残存することになる。
【0024】
シリコンは、特に限定されないが、たとえば、珪石を還元して得た公称純度99.5%の金属級シリコンなどを用いることができる。金属級シリコンに含まれる代表的な不純物とその濃度は、ボロン18ppm、リン27ppm、アルミニウム1800ppm、カルシウム180ppm、鉄1500ppmおよびチタン120ppmなどを含んでいる。
【0025】
また、シリコンとしては、上記以外にも、たとえば、一方向凝固により精製した後のやや高純度のシリコン、脱リン(以下、「脱P」という。)工程後のシリコン、および高純度シリコンと低純度シリコンとを混合したシリコンなどを用いることができる。
【0026】
酸としては、たとえば、硝酸とフッ化水素酸との混合液などを用いることができる。また、たとえば、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトースおよびマルトースからなる群から選択された少なくとも1種が酸に添加されていてもよい。
【0027】
次に、ステップS2aにおいて、溶液(シリコンを酸に溶解した溶液)をフィルタにより濾過する工程を行なう。これにより、フィルタ上には、酸に溶解しない異物(主にSiC微結晶からなる異物)が残渣として残る。
【0028】
フィルタにより濾過する工程としては、たとえば、強制濾過方式および/または自然落下濾過方式による濾過工程を適用することができる。フィルタとしては、たとえば、強制濾過方式および/または自然落下濾過方式に適用可能なフィルタを用いることができるが、なかでも強制濾過方式に適用可能なフィルタを用いることが好ましい。フィルタとして強制濾過方式に適用可能なフィルタを用いた場合には、フィルタの孔径を極端に小さくすることが可能であるため、より多くの異物をフィルタ上の残渣として回収できる傾向にある。また、強制濾過方式を用いた場合には、自然落下濾過方式を用いた場合と比べて、短時間で濾過を行なうことができるとともに、フィルタが目詰まりしたときの対応も容易となる。強制濾過方式に適用可能なフィルタとしては、たとえば、親水性のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなるADVANTEC東洋社製のHP045AN(孔径0.45μm)あるいはHP020AN(孔径0.20μm)などを用いることができる。なお、これらのフィルタは、現状のフィルタでは最も目が小さいものである。
【0029】
次に、ステップS3aにおいて、フィルタ上の残渣について測色する工程が行なわれる。これにより、フィルタ上の残渣の量に応じた測色値を得ることができる。
【0030】
測色は、たとえば、白および黒の校正板を用いて測色計の校正を行ない、ブランクとして濾過に用いたフィルタ自体を測色計で測色した後、残渣が残っているフィルタを測色計測色する。これにより、フィルタ上の残渣の測定値L*、a*、b*およびフィルタの測定値L*0、a*0、b*0ならびに/またはフィルタ上の残渣の三刺激値X、Y、Zおよびフィルタの三刺激値X0、Y0、Z0が得られる。そして、これらの値から、以下の(A)および/または(B)の測色値を得ることができる。
(A)△L*=L*−L*0、△a*=a*−a*0および△b*=b*−b*0からなる群から選択された少なくとも1つ。△L*、△a*および△b*は、フィルタ上の残渣の測定値L*、a*およびb*と、フィルタの測定値L*0、a*0およびb*0と、のそれぞれの差である。
(B)△X=X−X0、△Y=Y−Y0および△Z=Z−Z0からなる群から選択された少なくとも1つ。△X、△Yおよび△Zは、フィルタ上の残渣の三刺激値X、YおよびZと、フィルタの三刺激値X0、Y0およびZ0と、のそれぞれの差である。
【0031】
なお、測定値L*、a*、b*に基づく表色系は、ハンターL*a*b*表色系である。また、三刺激値X、Y、Zに基づく表色系は、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)が1931年に採択したXYZ表色系である。
【0032】
測色計としては、たとえば、日本電色工業(株)製のNF−333、コニカミノルタホールディングス(株)製のKONICA MINOLTA CM−700d、KONICA MINOLTA CM−3600d、または(株)トプコン製のTOPCON SR−3ARなどを用いることができる。
【0033】
その後、ステップS4aにおいて、測色する工程により得られた測色値から炭素濃度を算出する工程が行なわれる。これにより、シリコン中の炭素濃度を求めることができる。
【0034】
ここで、測色値から炭素濃度を算出する工程は、たとえば、予め測定されたシリコン中の炭素濃度と、シリコン中の炭素濃度に対応する測色値と、の関係を調査しておき、その関係に基づいて、上記の測色する工程により得られた測色値からシリコン中の炭素濃度を算出することにより行なうことができる。なお、シリコン中の炭素濃度と測色値との関係は、たとえば、関係式(必要に応じて検量線を作成)などによって表わすことができる。
【0035】
本実施の形態の炭素濃度測定方法によれば、以下の3点(I)〜(III)の効果が得られる。
(I)炭素濃度が測定されるシリコンの重量を増やすことができる。たとえば、粉砕されたシリコンを1.0g秤量し、その秤量されたサンプル10個をそれぞれ同時に酸に溶解した後にフィルタで濾過する。そして、フィルタ上の残渣を測色計で測色して測色値を得て、その測色値に基づいてシリコン中の炭素濃度を求めることにより、従来の燃焼法と比べて、シリコン中の平均的な炭素濃度をより高精度に求めることができる。
(II)従来の燃焼法と比べて、炭素濃度の測定にかかる時間を短縮することができる。従来の燃焼法においては、たとえば、10個のサンプルを測定するのに最低10時間かかり、高精度に測定するためには、同じサンプルを2回測定して、平均化するという作業が必要となるため、最低20時間は必要となる。一方、本実施の形態の炭素濃度測定方法によれば、10個のサンプルを用いて、燃焼法と同程度の高精度で測定するには、4時間程度必要となります。また、燃焼法においては、測定機器のクリーニングが必要となり、そのために3時間必要となる。一方、本実施の形態の炭素濃度測定方法においては、測色計が消耗していくことがないため、メンテナンスフリーで炭素濃度の測定が可能となる。したがって、従来の燃焼法では、炭素濃度の測定に最低23時間必要であるのに対して、本実施の形態の炭素濃度測定方法においては、たったの4時間程度で炭素濃度の測定を行なう
ことができるため、大幅な時間短縮が可能となる。
(III)従来の燃焼法と比べて、炭素濃度測定機器の導入費用を低く抑えることができる。従来の燃焼法においては、上述したように約3000万円を超える費用が必要となる。一方、本実施の形態の炭素濃度測定方法においては、測色計と、酸処理ができるドラフトと、があれば良いため、酸処理ができるドラフトが従来から設置されている場合には、その設置費用は必要がない。また、測色計は約100〜150万円程度で購入することができる。
【0036】
したがって、本実施の形態の炭素濃度測定方法によれば、シリコンの炭素濃度を、高精度、短時間かつ低コストで測定することができる。
【0037】
なお、本実施の形態の炭素濃度測定方法は、ステップS1aの前に、原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、1つ以上の精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取する工程と、を含んでいてもよい。そして、この場合には、試料シリコンから選択された少なくとも1つが炭素濃度が測定されるシリコンとされる。これにより、各精製工程を経て得られたシリコン中の炭素濃度の測定が可能となる。
【0038】
図2に、本実施の形態の炭素濃度測定方法の前工程の一例のフローチャートを示す。まず、ステップS1bにおいて、たとえば不純物を含む金属級シリコン等の原料シリコンを精製して不純物を除去する第1の精製工程が行なわれる。ここで、第1の精製工程としては、たとえば、原料シリコンを溶融した溶融シリコンにスラグを添加し、ボロンを酸化することによって除去する脱ボロン(以下、「脱B」という。)工程が挙げられる。
【0039】
次に、ステップS2bにおいて、第1の精製工程で精製されたシリコンを精製して不純物を除去する第2の精製工程が行なわれる。ここで、第2の精製工程としては、たとえば、第1の精製工程後のシリコンを溶融して溶融シリコンとし、減圧下で溶融シリコンを攪拌することによって蒸気圧力差を利用してリンを除去する脱P工程が挙げられる。
【0040】
次に、ステップS3bにおいて、第2の精製工程で精製されたシリコンを精製して不純物を除去する第3の精製工程が行なわれる。ここで、第3の精製工程としては、たとえば、第2の精製工程で精製されたシリコンを溶融して溶融シリコンとし、回転軸の下端に設けられた析出用基体を溶融シリコンに浸漬させ、析出用基体上にシリコンを析出させて、偏析係数の差を利用して鉄などの金属(メタル)を除去する脱メタル(以下、「脱M」という。)工程が挙げられる。
【0041】
ここで、第1の精製工程の前、第1の精製工程と第2の精製工程との間、第2の精製工程と第3の精製工程との間、および第3の精製工程の後のそれぞれのタイミングで、試料シリコンを採取することによって第1〜第4の試料シリコンを得る。そして、第1〜第4の試料シリコンから選択された少なくとも1つを炭素濃度が測定されるシリコンとすることができる。
【0042】
本実施の形態の炭素濃度測定方法のステップS1aの前工程は、1以上の精製工程(シリコンから不純物を除去する工程)を含んでいればよく、なかでも、脱B工程、脱P工程および脱M工程からなる群から選択された少なくとも1つの工程を含んでいることが好ましい。
【0043】
また、第1の精製工程の前、第1の精製工程と第2の精製工程との間、第2の精製工程と第3の精製工程との間、および第3の精製工程の後の少なくとも1つに、少なくとも1つの他の精製工程が含まれていてもよい。
【0044】
なお、上記において、脱B工程および脱P工程は、たとえば、それぞれ別々の坩堝を有する別々の装置で行なうことができ、脱B工程終了時に溶融シリコンを一旦固化して脱B工程用の装置から取り出した後、固化したシリコンを脱P工程用の装置に入れて再度加熱して溶融することにより行なうことができる。
【0045】
また、金属級シリコンは、いわゆる「ロット」(同一の製造ラインで同一の製造年月日に生産された生産品のこと)で管理されることがあり、同一ロット内での品質のばらつきは、他のロット間のばらつきに比べて小さいとされている。
【0046】
そこで、本実施の形態の炭素濃度測定方法のステップS1aの前工程は、同一ロットの原料シリコンを複数の精製単位に分ける工程と、精製単位の1つの原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、1つ以上の精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取することによって試料シリコンを得る工程と、を含んでいてもよい。そして、この場合には、試料シリコンから選択された少なくとも1つが炭素濃度が測定されるシリコンとされる。これにより、同一ロットの原料シリコン中の炭素濃度の測定が可能となる。
【0047】
図3に、本実施の形態の炭素濃度測定方法の前工程の他の一例のフローチャートを示す。図3に示すように、この場合には、第1の精製工程S1bの前に、ステップS1cにおいて、同一ロットの原料シリコンを複数の精製単位に分ける工程が行なわれる。そして、精製単位の1つの原料シリコンが、ステップS1bにおいて、第1の精製工程により精製されることになる。以下の工程は上記と同様である。
【実施例】
【0048】
図4に、本実施例の炭素濃度測定方法のフローチャートを示す。まず、ステップS1dにおいて、シリコンを1.0g秤量してPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ビーカーに収容した。
【0049】
次に、ステップS2dにおいて、PTFEビーカーに硝酸濃度が60質量%の硝酸を30ml注入した。ここで、硝酸としては、関東化学(株)製の原子吸光分析用を使用した。
【0050】
次に、ステップS3dにおいて、PTFEビーカーにマンニトール水溶液を0.3ml注入した。ここで、マンニトールとしては、キシダ化学(株)製の特級[000−47582]を使用した。なお、マンニトールは、ICP(Inductively Coupled Plasma)分光分析による金属不純物の濃度測定を行なうために添加した。
【0051】
次に、ステップS4dにおいて、PTFEビーカーにフッ化水素濃度が50質量%のフッ酸を8ml注入した。ここで、フッ酸としては、関東化学(株)製のウルトラピュア―100を使用した。
【0052】
次に、ステップS5dにおいて、フッ酸の注入後のPTFEビーカー内の反応が落ち着くのを待った。
【0053】
次に、ステップS6dにおいて、PTFEビーカーにフッ化水素濃度が50質量%のフッ酸を8ml注入した。ここでも、フッ酸としては、関東化学(株)製のウルトラピュア―100を使用した。
【0054】
次に、ステップS7dにおいて、PTFEビーカー中の酸をホットプレートで加熱して
蒸発させた。これにより、PTFEビーカー中のシリコンをSiF4ガスとして蒸発させ、酸に溶解しなかったSiC系異物やグラファイト系異物をPTFEビーカー中に残した。
【0055】
次に、ステップS8dにおいて、PTFEビーカー中の酸の液球の直径が0.5mm以下となった時点でPTFEビーカーをホットプレートから外した。これにより、PTFEビーカー中から酸を完全に蒸発させず、異物がPTFEビーカーの内部にこびり付くのを抑制した。
【0056】
次に、ステップS9dにおいて、PTFEビーカーに内部標準液添加液を2ml注入した。ここで、内部標準液添加液としては、硝酸濃度が1質量%の希硝酸を用いた。
【0057】
次に、ステップS10dにおいて、PTFEビーカー中の液をディスミックフィルタで強制濾過した。ここで、強制濾過には、10mlのシリンジと、直径13mmのルアーロックディスミックフィルタと、を使用した。ディスミックフィルタの内部の濾過フィルタとしては、ADVANTEC東洋社製のHP045AN(孔径0.45μm)およびHP020AN(孔径0.20μm)をそれぞれ使用した。また、濾過液はICP分光分析による金属不純物の濃度測定のサンプルとして回収した。
【0058】
次に、ステップS11dにおいて、ディスミックフィルタの水分を除去するために、シリンジよりディスミックフィルタに空気を注入した。ここで、シリンジによる空気の注入は2〜3回行なった。
【0059】
次に、ステップS12dにおいて、ディスミックフィルタを作業ばさみで切り取り、ディスミックフィルタの内部の濾過フィルタを取り出した。
【0060】
図5に濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの低倍率(20倍)の光学顕微鏡写真を示し、図6に濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの高倍率(200倍)の光学顕微鏡写真を示す。
【0061】
図5および図6に示すように、濾過フィルタの濾過部には異物が溜まっていることが確認でき、濾過フィルタの表面にはいくらか濃淡があるように見える。しかしながら、測色計による測色は、直径8mm程度の円領域について行なわれるため、濾過フィルタ全体としては平均化された測定となっていることが確認された。
【0062】
図7に濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタ上の残渣の拡大写真を示す。図7に示すように、濾過フィルタ上の残渣としては、固形異物や線状異物が観察された。
【0063】
図8および図9に、それぞれ、図7に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真を示す。図8は、励起光として波長460〜490nm(2.70〜2.53eV)の青色光を用いたときの蛍光顕微鏡写真であり、図9は励起光として波長330〜385nm(3.75〜3.22eV)の紫外光を用いたときの蛍光顕微鏡写真である。
【0064】
図8において観察される蛍光は、エネルギバンドギャップを考えると、3C−SiCに起因するものであると考えられる。
【0065】
また、図9において観察される蛍光は、エネルギバンドギャップを考えると、2H−SiCおよび4H−SiCに起因するものであると考えられる。
【0066】
また、参考として、図10に、精製工程によって精製したシリコンの酸溶液を濾過したディスミックフィルタの内部の濾過フィルタ上の残渣の拡大写真を示す。図10に示すように、精製工程によって精製したシリコンを用いた場合には、濾過フィルタ上に存在する異物はほとんど見られなかった。
【0067】
また、図11および図12に、それぞれ、図10に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真を示す。図11は、励起光として波長460〜490nm(2.70〜2.53eV)の青色光を用いたときの蛍光顕微鏡写真であり、図12は励起光として波長330〜385nm(3.75〜3.22eV)の紫外光を用いたときの蛍光顕微鏡写真である。
【0068】
図11および図12においても、それぞれ、蛍光が確認されていることから、精製工程によってシリコンを精製した場合でも、3C−SiC、2H−SiCおよび4H−SiCからなる異物が存在することが確認された。
【0069】
以上の結果から、濾過フィルタ上の残渣は、主にSiC結晶からなる異物であり、シリコン中の炭素はシリコンとの化合物である炭化ケイ素として含まれていることが確認された。
【0070】
図13〜図15に、それぞれ、濾過フィルタ上の残渣の表面を観察した電子顕微鏡写真を示す。図14は図13の破線で取り囲まれた領域の電子顕微鏡写真の拡大写真であり、図15は図14の破線で取り囲まれた領域の電子顕微鏡写真の拡大写真である。
【0071】
図13〜図15に示すように、残渣中の異物は、非常にきれいな結晶面を含む結晶構造を有することが確認された。この観察からも、異物はSiC結晶の粒子であることが確認された。
【0072】
さらに、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて異なる2つの場所にそれぞれ存在する、第1の異物の組成と、第2の異物の組成とを測定した。図16(a)〜(d)に第1の異物のEPMAチャートを示し、図16(e)〜(h)に第2の異物のEPMAチャートを示す。また、これらのEPMAチャートから算出した、第1の異物の組成と、第2の異物の組成と、を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、第1の異物はSiCが主成分であり、第2の異物はSiCとSiNとの混晶にOとFeとがそれぞれ不純物として存在することが確認された。なお、EPMAチャートには、InおよびAu等のピークも確認されたが、これらの金属は電子顕微鏡観察を行ないやすくするためのチャージアップ防止膜として蒸着したものであるため、第1の異物の組成および第2の異物の組成の算出には用いなかった。また、電子顕微鏡観察
には、日本電子(株)製のJCM−5000NeoScopeを用いた。
【0075】
図17に、脱B工程後のシリコンを測定試料とし、ステップS1d〜ステップS9dを経た後に、ステップS9dにおいて注入されたPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示し、図18に、その異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す。
【0076】
また、図19に、脱B工程および脱P工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料とし、ステップS1d〜ステップS9dを経た後に、ステップS9dにおいて注入されたPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示し、図20に、その異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す。
【0077】
さらに、図21に、脱B工程、脱P工程および脱M工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料とし、ステップS1d〜ステップS9dを経た後に、ステップS9dにおいて注入されたPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示し、図22に、その異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す。
【0078】
図17、図19および図21において、横軸は異物の粒子直径(μm)を示しており、縦軸は内部標準液添加液1ml当たりの異物の個数(個/ml)を示している。図18、図20および図22において、横軸は異物の粒子直径(μm)を示しており、縦軸は異物全体の体積に対するそれぞれの粒子直径の異物が占める体積の比率(体積比率(%))を示している。
【0079】
なお、図17〜図22に示す関係は、PTFEビーカー中の内部標準液添加液2mlを電解液に加え、ベックマンコールターという液中のパーティクルカウンターで20μm径のアパチャーを用いて測定した。また、異物はSiC結晶である。
【0080】
図17〜図22に示すように、粒子直径が0.45μm未満の異物は、1ml当たりの異物の個数(個/ml)および体積比率(%)のいずれの観点から見ても異物全体の1%も存在しないことから、孔径が0.45μm以下の濾過フィルタを用いた場合には、異物をほぼ回収することができることが確認された。
【0081】
図23に、各精製工程によって精製したシリコンを測定試料とし、ステップS1d〜ステップS12dを経た後に、ステップS12dにおいて、ディスミックフィルタを作業ばさみで切り取り、ディスミックフィルタの内部から取り出した濾過フィルタ上の残渣の反射スペクトルを測定した図である。図23の二点鎖線が脱B工程を経た後のシリコン(脱Bサンプル)を測定試料としたときの反射スペクトルであり、一点鎖線が脱B工程および脱P工程をこの順序で経た後のシリコン(脱Pサンプル)を測定試料としたときの反射スペクトルであり、破線が脱B工程、脱P工程および脱M工程をこの順序で経た後のシリコン(脱Mサンプル)を測定試料としたときの反射スペクトルである。また、図23の実線が濾過に用いなかった濾過フィルタ(ブランク)の反射スペクトルである。なお、図23の横軸が反射光の波長(nm)を示し、縦軸が反射スペクトルの強度(a.u.)を示す。また、反射スペクトルの測定には、(株)日立ハイテクノロジーズ社製のU−4100紫外光測定システムを用いた。
【0082】
図23の反射スペクトルの測定は以下のように行なった。まず、ブランクとして、濾過に用いなかった濾過フィルタの反射スペクトルを測定した。次に、脱Bサンプル、脱Pサンプルおよび脱Mサンプルのそれぞれの濾過フィルタの反射スペクトルを測定した。
【0083】
図23に示すように、脱Mサンプルおよび脱Bサンプルについては明確な吸収端を観察することができないが、脱Pサンプルについては波長392nm(図23の矢印の箇所)に基礎吸収端が観察された。この基礎吸収端は、SiC結晶の異なる結晶種(ポリタイプ)の吸収の重なり合いで生じていると考えられる。そのため、結晶種割合と、基礎吸収端波長と、の関係について調査した。その結果を図24に示す。図24の横軸がSiC結晶の結晶種割合を示し、縦軸が基礎吸収端(nm)を示している。なお、図24の横軸の結晶種割合は、4H−SiCの結晶構造と、6H−SiCの結晶構造との割合を示しており、図24の横軸の数値が増加するにしたがって、4H−SiCの結晶構造の割合が増加する。
【0084】
図24に示すように、基礎吸収端392nmに対応する結晶種割合は36であったため、4H−SiCの結晶構造と、6H−SiCの結晶構造との割合は、4H−SiC:6H−SiC=36:64であった。このように、濾過フィルタ上の残渣の反射スペクトルを測定して基礎吸収端を求め、図24に示す結果を用いることによって、SiC結晶からなる異物の結晶種割合を求めることができる。
【0085】
次に、ステップS13dにおいて、ブランクとして、濾過に用いなかった濾過フィルタの測色を行なった。これにより、濾過に用いなかった濾過フィルタのハンターL*a*b*表色系であるL*0、a*0およびb*0と、三刺激値X0、Y0およびZ0と、を求めた。
【0086】
次に、ステップS14dにおいて、濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの測色を行なった。これにより、濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタのハンターL*a*b*表色系であるL*、a*およびb*と、三刺激値X、YおよびZと、を求めた。
【0087】
なお、ステップS13dおよびステップS14dにおける濾過フィルタの測色は、白および黒の校正板を用いて測色計の校正を行ない、濾過に用いなかった濾過フィルタの測色を行なった後に濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの測色を行なった。なお、測色計としては、日本電色工業(株)製のNF−333およびコニカミノルタホールディングス(株)製のKONICA MINOLTA CM−700dをそれぞれ用いた。
【0088】
次に、ステップS15dにおいて、上記の測色から測色値を求めた。ここで、測色値としては、濾過に用いた濾過フィルタ上の残渣のL*、a*およびb*と、濾過に用いなかった濾過フィルタのL*0、a*0およびb*0と、のそれぞれの差である△L*=L*−L*0、△a*=a*−a*0および△b*=b*−b*0を求めるとともに、濾過に用いた濾過フィルタ上の残渣の三刺激値X、YおよびZと、濾過に用いなかった濾過フィルタの三刺激値X0、Y0およびZ0と、のそれぞれの差である△X=X−X0、△Y=Y−Y0および△Z=Z−Z0を求めた。
【0089】
次に、ステップS16dにおいて、上記の測色値から炭素濃度を求めた。ここで、炭素濃度は、図25〜図30に示す検量線を用いて求めた。図25〜図30において、横軸は測色値△L*、△a*、△b*、△X、△Yおよび△Zをそれぞれ示し、縦軸は炭素濃度(ppm)を示している。
【0090】
すなわち、炭素濃度を測定するシリコンについて、ステップS1d〜ステップS15dを経ることによって測色値(△L*、△a*、△b*、△X、△Yおよび△Z)の少なくとも1つを求め、図25〜図30の破線で表わされる直線の式から、シリコン中の炭素濃度
を算出した。
【0091】
図25〜図30に示される測色値と炭素濃度との関係は、同一ロットのシリコンのサンプルを2つに分け、一方のサンプルについては従来の燃焼法によってシリコン中の炭素濃度を求め、他方のサンプルについてはステップS1d〜ステップS15dを経ることによって測色値△L*、△a*、△b*、△X、△Yおよび△Zをそれぞれ求めることによって得たものである。
【0092】
以上のように、シリコンを酸に溶解し、シリコンを酸に溶解した後の溶液をフィルタを用いて濾過した後、フィルタ上の残渣を測色することによって、シリコン中の炭素濃度を測定することができる。
【0093】
上述のように、シリコンを酸に溶解した後の溶液をフィルタを用いて濾過し、フィルタ上の残渣を測色して炭素濃度を算出することによって、炭素濃度が測定されるシリコンの重量を増やすことができるために従来の燃焼法よりも炭素濃度の測定精度を上げることができるとともに、炭素濃度の測定時間を大幅に短縮することができ、さらには炭素濃度測定機器の導入費用を低く抑えることができる。
【0094】
また、フィルタを用いた濾過を行なった後の濾過液は、ICP分光分析によるシリコン中の金属不純物濃度の測定に使用することができる。したがって、本発明においては、シリコン中の金属不純物濃度の測定と、シリコン中の炭素濃度の測定と、を一連の工程として(別々の測定サンプルを必要とすることなく)行なうことができるという利点を有する。
【0095】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、シリコンの炭素濃度測定方法に利用することができ、特に、太陽電池に使用するシリコンの炭素濃度測定方法に好適に利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、シリコンは太陽電池用材料として広く採用されている。シリコンの精製方法を大きく分類すると、化学法と、冶金法と、に分けることができる。
【0003】
化学法は、塩素系ガスを用いた気相成長により高純度ポリシリコンを精製する方法である。一方、冶金法は、珪石を還元して得た金属級シリコンから、天然に由来して混入した不純物を徐々に低濃度化し、最終的には太陽電池級シリコンまで精製する方法である。
【0004】
冶金法においては、一般に、III族元素、V族元素および金属元素の低濃度化を以下のようにして行なっている。
(i)III族元素(主にボロン、アルミニウム)は、スラグを添加してシリコン中の不純物を酸化するとともに、スラグ中への分配比率の差を利用して低濃度化されている。
(ii)V族元素は、真空蒸発法により、蒸気圧力差を利用して低濃度化されている。
(iii)金属元素は、一方向凝固や回転偏析法などにより、偏析係数の差を利用して低濃度化されている。
【0005】
たとえば特許文献1には、冶金法によるシリコンの精製方法の一例が開示されている。特許文献1に開示されたシリコンの精製方法においては、まず第1ステップにおいて、精製添加剤を含む溶融シリコンを保持し、精製添加剤とともに、軸を回転させて攪拌混合し、攪拌部の先端より精製ガスを吹き込む。これにより、精製添加剤の酸化ケイ素(SiO2)がボロンを酸化して除去する。
【0006】
次に、第2ステップにおいて、減圧下で溶融シリコンの攪拌を行なうことによって、リンの他、カルシウム、ナトリウムおよびアルミニウム等が揮発して系外に排出される。
【0007】
さらに、第3ステップにおいて、溶融シリコン中に中空回転軸の下端の析出用基体を浸漬させ、偏析凝固によって金属不純物を排除しつつ析出用基体の外表面に晶出させることで太陽電池級シリコンにまで精製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−255417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、冶金法によって精製されたシリコン中には、化学法によって精製されたシリコン中には見られないミクロな異物が存在することが見出された。そして、このミクロな異物は、主にSiC(炭化ケイ素)結晶であることが判明した。
【0010】
そして、本発明者は、冶金法によって精製されたシリコン中における主にSiC結晶からなるミクロな異物の濃度が判明さえすれば、精製されたシリコンの品質向上や品質管理に役立てることができると考えた。
【0011】
精製されたシリコン中の従来の炭素濃度測定方法の一例を示すと、まず、株式会社堀場
製作所製の炭素濃度測定機器(EMIAシリーズの920)を用い、粉砕されたシリコンを0.2g程度秤量し、アルゴンガスベースのガスに酸素ガスを流しながら燃焼雰囲気を形成し、ニッケル製ルツボ内に助燃材とともに秤量されたシリコンを燃焼させる。次に、COおよびCO2という形になった炭素をIR(Infrared spectroscopic analysis)で観測し、赤外光の吸収度合いから炭素濃度を算出するという方法(以下、「燃焼法」という。)を用いている。実際の炭素濃度測定の検量線に用いるのは鉄鋼材標準サンプルを用いる。
【0012】
この燃焼法における技術的課題としては、以下の3点(a)〜(c)が考えられる。
(a)炭素濃度が測定されるサンプルの重量がたったの0.2g程度であるということ(株式会社堀場製作所製のEMIAシリーズの920よりも大量のサンプルを扱う炭素濃度測定機器は現在のところ存在しない。)。サンプルが少量であるということは、サンプル中に炭素濃度の偏りがあった場合に、平均的な炭素濃度の正確な情報を知ることができないという問題がある。
(b)平均的な炭素濃度の正確な情報を知るために測定サンプル数を増やす必要がある等の理由により、炭素濃度の測定に時間がかかること。
(c)炭素濃度測定機器の導入費用が高いこと。炭素濃度測定機器を導入するためには約3000万円を超える費用が必要となる。
【0013】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、シリコンの炭素濃度を高精度、短時間かつ低コストで測定することが可能な炭素濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、シリコンの炭素濃度を測定する方法であって、シリコンを酸に溶解して溶液を作製する工程と、溶液をフィルタにより濾過する工程と、フィルタ上の残渣について測色する工程と、測色する工程により得られた測色値から炭素濃度を算出する工程と、を含む、炭素濃度測定方法である。
【0015】
ここで、本発明の炭素濃度測定方法は、原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、1つ以上の精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取する工程と、を含み、試料シリコンから選択された少なくとも1つが炭素濃度が測定されるシリコンであってもよい。
【0016】
また、本発明の炭素濃度測定方法は、同一ロットの原料シリコンを複数の精製単位に分ける工程と、精製単位の1つの原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、1つ以上の精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取する工程と、を含み、試料シリコンから選択された少なくとも1つが炭素濃度が測定されるシリコンであってもよい。
【0017】
また、本発明の炭素濃度測定方法において、炭素は、シリコン中に炭化ケイ素として含まれていることが好ましい。
【0018】
また、本発明の炭素濃度測定方法において、炭素濃度を算出する工程においては、燃焼法によって測定された炭素濃度と測色値との関係から炭素濃度を算出することが好ましい。
【0019】
また、本発明の炭素濃度測定方法において、測色値は、フィルタ上の残渣の測定値L*、a*およびb*と、フィルタの測定値L*0、a*0およびb*0と、の差である、△L*=L*−L*0、△a*=a*−a*0および△b*=b*−b*0からなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましい。
【0020】
また、本発明の炭素濃度測定方法において、測色値は、フィルタ上の残渣の三刺激値X、YおよびZと、フィルタの三刺激値X0、Y0およびZ0と、の差である、△X=X−X0、△Y=Y−Y0および△Z=Z−Z0からなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリコンの炭素濃度を高精度、短時間かつ低コストで測定することが可能な炭素濃度測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態の炭素濃度測定方法のフローチャートである。
【図2】本実施の形態の炭素濃度測定方法の前工程の一例のフローチャートである。
【図3】本実施の形態の炭素濃度測定方法の前工程の他の一例のフローチャートである。
【図4】本実施例の炭素濃度測定方法のフローチャートである。
【図5】濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの低倍率(20倍)の光学顕微鏡写真である。
【図6】濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの高倍率(200倍)の光学顕微鏡写真である。
【図7】濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタ上に残った残渣の拡大写真である。
【図8】励起光として波長460〜490nm(2.70〜2.53eV)の青色光を用いたときの図7に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真である。
【図9】励起光として波長330〜385nm(3.75〜3.22eV)の紫外光を用いたときの図7に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真である。
【図10】精製工程によって精製したシリコンの酸溶液を濾過したディスミックフィルタの内部の濾過フィルタ上の残渣の拡大写真である。
【図11】励起光として波長460〜490nm(2.70〜2.53eV)の青色光を用いたときの図10に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真である。
【図12】励起光として波長330〜385nm(3.75〜3.22eV)の紫外光を用いたときの図10に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真である。
【図13】濾過フィルタ上の残渣の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【図14】図13の破線で取り囲まれた領域の電子顕微鏡写真の拡大写真である。
【図15】図14の破線で取り囲まれた領域の電子顕微鏡写真の拡大写真である。
【図16】(a)〜(d)は第1の異物のEPMAチャートであり、(e)〜(h)は第2の異物のEPMAチャートである。
【図17】脱B工程後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示す図である。
【図18】脱B工程後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す図である。
【図19】脱B工程および脱P工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示す図である。
【図20】脱B工程および脱P工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す図である。
【図21】脱B工程、脱P工程および脱M工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示す図である。
【図22】脱B工程、脱P工程および脱M工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料としたときのPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す図である。
【図23】各精製工程によって精製したシリコンを測定試料とし、濾過フィルタ上の残渣の反射スペクトルを測定した図である。
【図24】SiC結晶の結晶種割合と基礎吸収端との関係を示す図である。
【図25】測色値△L*と炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図26】測色値△a*と炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図27】測色値△b*と炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図28】測色値△Xと炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図29】測色値△Yと炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【図30】測色値△Zと炭素濃度(ppm)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に、本実施の形態の炭素濃度測定方法のフローチャートを示す。まず、ステップS1aにおいて、シリコンを酸に溶解して溶液を作製する工程を行なう。これにより、主にSiC微結晶からなる異物が酸に溶解せずに溶液中に残存することになる。
【0024】
シリコンは、特に限定されないが、たとえば、珪石を還元して得た公称純度99.5%の金属級シリコンなどを用いることができる。金属級シリコンに含まれる代表的な不純物とその濃度は、ボロン18ppm、リン27ppm、アルミニウム1800ppm、カルシウム180ppm、鉄1500ppmおよびチタン120ppmなどを含んでいる。
【0025】
また、シリコンとしては、上記以外にも、たとえば、一方向凝固により精製した後のやや高純度のシリコン、脱リン(以下、「脱P」という。)工程後のシリコン、および高純度シリコンと低純度シリコンとを混合したシリコンなどを用いることができる。
【0026】
酸としては、たとえば、硝酸とフッ化水素酸との混合液などを用いることができる。また、たとえば、マンニトール、キシリトール、グルコース、フルクトースおよびマルトースからなる群から選択された少なくとも1種が酸に添加されていてもよい。
【0027】
次に、ステップS2aにおいて、溶液(シリコンを酸に溶解した溶液)をフィルタにより濾過する工程を行なう。これにより、フィルタ上には、酸に溶解しない異物(主にSiC微結晶からなる異物)が残渣として残る。
【0028】
フィルタにより濾過する工程としては、たとえば、強制濾過方式および/または自然落下濾過方式による濾過工程を適用することができる。フィルタとしては、たとえば、強制濾過方式および/または自然落下濾過方式に適用可能なフィルタを用いることができるが、なかでも強制濾過方式に適用可能なフィルタを用いることが好ましい。フィルタとして強制濾過方式に適用可能なフィルタを用いた場合には、フィルタの孔径を極端に小さくすることが可能であるため、より多くの異物をフィルタ上の残渣として回収できる傾向にある。また、強制濾過方式を用いた場合には、自然落下濾過方式を用いた場合と比べて、短時間で濾過を行なうことができるとともに、フィルタが目詰まりしたときの対応も容易となる。強制濾過方式に適用可能なフィルタとしては、たとえば、親水性のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなるADVANTEC東洋社製のHP045AN(孔径0.45μm)あるいはHP020AN(孔径0.20μm)などを用いることができる。なお、これらのフィルタは、現状のフィルタでは最も目が小さいものである。
【0029】
次に、ステップS3aにおいて、フィルタ上の残渣について測色する工程が行なわれる。これにより、フィルタ上の残渣の量に応じた測色値を得ることができる。
【0030】
測色は、たとえば、白および黒の校正板を用いて測色計の校正を行ない、ブランクとして濾過に用いたフィルタ自体を測色計で測色した後、残渣が残っているフィルタを測色計測色する。これにより、フィルタ上の残渣の測定値L*、a*、b*およびフィルタの測定値L*0、a*0、b*0ならびに/またはフィルタ上の残渣の三刺激値X、Y、Zおよびフィルタの三刺激値X0、Y0、Z0が得られる。そして、これらの値から、以下の(A)および/または(B)の測色値を得ることができる。
(A)△L*=L*−L*0、△a*=a*−a*0および△b*=b*−b*0からなる群から選択された少なくとも1つ。△L*、△a*および△b*は、フィルタ上の残渣の測定値L*、a*およびb*と、フィルタの測定値L*0、a*0およびb*0と、のそれぞれの差である。
(B)△X=X−X0、△Y=Y−Y0および△Z=Z−Z0からなる群から選択された少なくとも1つ。△X、△Yおよび△Zは、フィルタ上の残渣の三刺激値X、YおよびZと、フィルタの三刺激値X0、Y0およびZ0と、のそれぞれの差である。
【0031】
なお、測定値L*、a*、b*に基づく表色系は、ハンターL*a*b*表色系である。また、三刺激値X、Y、Zに基づく表色系は、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)が1931年に採択したXYZ表色系である。
【0032】
測色計としては、たとえば、日本電色工業(株)製のNF−333、コニカミノルタホールディングス(株)製のKONICA MINOLTA CM−700d、KONICA MINOLTA CM−3600d、または(株)トプコン製のTOPCON SR−3ARなどを用いることができる。
【0033】
その後、ステップS4aにおいて、測色する工程により得られた測色値から炭素濃度を算出する工程が行なわれる。これにより、シリコン中の炭素濃度を求めることができる。
【0034】
ここで、測色値から炭素濃度を算出する工程は、たとえば、予め測定されたシリコン中の炭素濃度と、シリコン中の炭素濃度に対応する測色値と、の関係を調査しておき、その関係に基づいて、上記の測色する工程により得られた測色値からシリコン中の炭素濃度を算出することにより行なうことができる。なお、シリコン中の炭素濃度と測色値との関係は、たとえば、関係式(必要に応じて検量線を作成)などによって表わすことができる。
【0035】
本実施の形態の炭素濃度測定方法によれば、以下の3点(I)〜(III)の効果が得られる。
(I)炭素濃度が測定されるシリコンの重量を増やすことができる。たとえば、粉砕されたシリコンを1.0g秤量し、その秤量されたサンプル10個をそれぞれ同時に酸に溶解した後にフィルタで濾過する。そして、フィルタ上の残渣を測色計で測色して測色値を得て、その測色値に基づいてシリコン中の炭素濃度を求めることにより、従来の燃焼法と比べて、シリコン中の平均的な炭素濃度をより高精度に求めることができる。
(II)従来の燃焼法と比べて、炭素濃度の測定にかかる時間を短縮することができる。従来の燃焼法においては、たとえば、10個のサンプルを測定するのに最低10時間かかり、高精度に測定するためには、同じサンプルを2回測定して、平均化するという作業が必要となるため、最低20時間は必要となる。一方、本実施の形態の炭素濃度測定方法によれば、10個のサンプルを用いて、燃焼法と同程度の高精度で測定するには、4時間程度必要となります。また、燃焼法においては、測定機器のクリーニングが必要となり、そのために3時間必要となる。一方、本実施の形態の炭素濃度測定方法においては、測色計が消耗していくことがないため、メンテナンスフリーで炭素濃度の測定が可能となる。したがって、従来の燃焼法では、炭素濃度の測定に最低23時間必要であるのに対して、本実施の形態の炭素濃度測定方法においては、たったの4時間程度で炭素濃度の測定を行なう
ことができるため、大幅な時間短縮が可能となる。
(III)従来の燃焼法と比べて、炭素濃度測定機器の導入費用を低く抑えることができる。従来の燃焼法においては、上述したように約3000万円を超える費用が必要となる。一方、本実施の形態の炭素濃度測定方法においては、測色計と、酸処理ができるドラフトと、があれば良いため、酸処理ができるドラフトが従来から設置されている場合には、その設置費用は必要がない。また、測色計は約100〜150万円程度で購入することができる。
【0036】
したがって、本実施の形態の炭素濃度測定方法によれば、シリコンの炭素濃度を、高精度、短時間かつ低コストで測定することができる。
【0037】
なお、本実施の形態の炭素濃度測定方法は、ステップS1aの前に、原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、1つ以上の精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取する工程と、を含んでいてもよい。そして、この場合には、試料シリコンから選択された少なくとも1つが炭素濃度が測定されるシリコンとされる。これにより、各精製工程を経て得られたシリコン中の炭素濃度の測定が可能となる。
【0038】
図2に、本実施の形態の炭素濃度測定方法の前工程の一例のフローチャートを示す。まず、ステップS1bにおいて、たとえば不純物を含む金属級シリコン等の原料シリコンを精製して不純物を除去する第1の精製工程が行なわれる。ここで、第1の精製工程としては、たとえば、原料シリコンを溶融した溶融シリコンにスラグを添加し、ボロンを酸化することによって除去する脱ボロン(以下、「脱B」という。)工程が挙げられる。
【0039】
次に、ステップS2bにおいて、第1の精製工程で精製されたシリコンを精製して不純物を除去する第2の精製工程が行なわれる。ここで、第2の精製工程としては、たとえば、第1の精製工程後のシリコンを溶融して溶融シリコンとし、減圧下で溶融シリコンを攪拌することによって蒸気圧力差を利用してリンを除去する脱P工程が挙げられる。
【0040】
次に、ステップS3bにおいて、第2の精製工程で精製されたシリコンを精製して不純物を除去する第3の精製工程が行なわれる。ここで、第3の精製工程としては、たとえば、第2の精製工程で精製されたシリコンを溶融して溶融シリコンとし、回転軸の下端に設けられた析出用基体を溶融シリコンに浸漬させ、析出用基体上にシリコンを析出させて、偏析係数の差を利用して鉄などの金属(メタル)を除去する脱メタル(以下、「脱M」という。)工程が挙げられる。
【0041】
ここで、第1の精製工程の前、第1の精製工程と第2の精製工程との間、第2の精製工程と第3の精製工程との間、および第3の精製工程の後のそれぞれのタイミングで、試料シリコンを採取することによって第1〜第4の試料シリコンを得る。そして、第1〜第4の試料シリコンから選択された少なくとも1つを炭素濃度が測定されるシリコンとすることができる。
【0042】
本実施の形態の炭素濃度測定方法のステップS1aの前工程は、1以上の精製工程(シリコンから不純物を除去する工程)を含んでいればよく、なかでも、脱B工程、脱P工程および脱M工程からなる群から選択された少なくとも1つの工程を含んでいることが好ましい。
【0043】
また、第1の精製工程の前、第1の精製工程と第2の精製工程との間、第2の精製工程と第3の精製工程との間、および第3の精製工程の後の少なくとも1つに、少なくとも1つの他の精製工程が含まれていてもよい。
【0044】
なお、上記において、脱B工程および脱P工程は、たとえば、それぞれ別々の坩堝を有する別々の装置で行なうことができ、脱B工程終了時に溶融シリコンを一旦固化して脱B工程用の装置から取り出した後、固化したシリコンを脱P工程用の装置に入れて再度加熱して溶融することにより行なうことができる。
【0045】
また、金属級シリコンは、いわゆる「ロット」(同一の製造ラインで同一の製造年月日に生産された生産品のこと)で管理されることがあり、同一ロット内での品質のばらつきは、他のロット間のばらつきに比べて小さいとされている。
【0046】
そこで、本実施の形態の炭素濃度測定方法のステップS1aの前工程は、同一ロットの原料シリコンを複数の精製単位に分ける工程と、精製単位の1つの原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、1つ以上の精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取することによって試料シリコンを得る工程と、を含んでいてもよい。そして、この場合には、試料シリコンから選択された少なくとも1つが炭素濃度が測定されるシリコンとされる。これにより、同一ロットの原料シリコン中の炭素濃度の測定が可能となる。
【0047】
図3に、本実施の形態の炭素濃度測定方法の前工程の他の一例のフローチャートを示す。図3に示すように、この場合には、第1の精製工程S1bの前に、ステップS1cにおいて、同一ロットの原料シリコンを複数の精製単位に分ける工程が行なわれる。そして、精製単位の1つの原料シリコンが、ステップS1bにおいて、第1の精製工程により精製されることになる。以下の工程は上記と同様である。
【実施例】
【0048】
図4に、本実施例の炭素濃度測定方法のフローチャートを示す。まず、ステップS1dにおいて、シリコンを1.0g秤量してPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ビーカーに収容した。
【0049】
次に、ステップS2dにおいて、PTFEビーカーに硝酸濃度が60質量%の硝酸を30ml注入した。ここで、硝酸としては、関東化学(株)製の原子吸光分析用を使用した。
【0050】
次に、ステップS3dにおいて、PTFEビーカーにマンニトール水溶液を0.3ml注入した。ここで、マンニトールとしては、キシダ化学(株)製の特級[000−47582]を使用した。なお、マンニトールは、ICP(Inductively Coupled Plasma)分光分析による金属不純物の濃度測定を行なうために添加した。
【0051】
次に、ステップS4dにおいて、PTFEビーカーにフッ化水素濃度が50質量%のフッ酸を8ml注入した。ここで、フッ酸としては、関東化学(株)製のウルトラピュア―100を使用した。
【0052】
次に、ステップS5dにおいて、フッ酸の注入後のPTFEビーカー内の反応が落ち着くのを待った。
【0053】
次に、ステップS6dにおいて、PTFEビーカーにフッ化水素濃度が50質量%のフッ酸を8ml注入した。ここでも、フッ酸としては、関東化学(株)製のウルトラピュア―100を使用した。
【0054】
次に、ステップS7dにおいて、PTFEビーカー中の酸をホットプレートで加熱して
蒸発させた。これにより、PTFEビーカー中のシリコンをSiF4ガスとして蒸発させ、酸に溶解しなかったSiC系異物やグラファイト系異物をPTFEビーカー中に残した。
【0055】
次に、ステップS8dにおいて、PTFEビーカー中の酸の液球の直径が0.5mm以下となった時点でPTFEビーカーをホットプレートから外した。これにより、PTFEビーカー中から酸を完全に蒸発させず、異物がPTFEビーカーの内部にこびり付くのを抑制した。
【0056】
次に、ステップS9dにおいて、PTFEビーカーに内部標準液添加液を2ml注入した。ここで、内部標準液添加液としては、硝酸濃度が1質量%の希硝酸を用いた。
【0057】
次に、ステップS10dにおいて、PTFEビーカー中の液をディスミックフィルタで強制濾過した。ここで、強制濾過には、10mlのシリンジと、直径13mmのルアーロックディスミックフィルタと、を使用した。ディスミックフィルタの内部の濾過フィルタとしては、ADVANTEC東洋社製のHP045AN(孔径0.45μm)およびHP020AN(孔径0.20μm)をそれぞれ使用した。また、濾過液はICP分光分析による金属不純物の濃度測定のサンプルとして回収した。
【0058】
次に、ステップS11dにおいて、ディスミックフィルタの水分を除去するために、シリンジよりディスミックフィルタに空気を注入した。ここで、シリンジによる空気の注入は2〜3回行なった。
【0059】
次に、ステップS12dにおいて、ディスミックフィルタを作業ばさみで切り取り、ディスミックフィルタの内部の濾過フィルタを取り出した。
【0060】
図5に濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの低倍率(20倍)の光学顕微鏡写真を示し、図6に濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの高倍率(200倍)の光学顕微鏡写真を示す。
【0061】
図5および図6に示すように、濾過フィルタの濾過部には異物が溜まっていることが確認でき、濾過フィルタの表面にはいくらか濃淡があるように見える。しかしながら、測色計による測色は、直径8mm程度の円領域について行なわれるため、濾過フィルタ全体としては平均化された測定となっていることが確認された。
【0062】
図7に濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタ上の残渣の拡大写真を示す。図7に示すように、濾過フィルタ上の残渣としては、固形異物や線状異物が観察された。
【0063】
図8および図9に、それぞれ、図7に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真を示す。図8は、励起光として波長460〜490nm(2.70〜2.53eV)の青色光を用いたときの蛍光顕微鏡写真であり、図9は励起光として波長330〜385nm(3.75〜3.22eV)の紫外光を用いたときの蛍光顕微鏡写真である。
【0064】
図8において観察される蛍光は、エネルギバンドギャップを考えると、3C−SiCに起因するものであると考えられる。
【0065】
また、図9において観察される蛍光は、エネルギバンドギャップを考えると、2H−SiCおよび4H−SiCに起因するものであると考えられる。
【0066】
また、参考として、図10に、精製工程によって精製したシリコンの酸溶液を濾過したディスミックフィルタの内部の濾過フィルタ上の残渣の拡大写真を示す。図10に示すように、精製工程によって精製したシリコンを用いた場合には、濾過フィルタ上に存在する異物はほとんど見られなかった。
【0067】
また、図11および図12に、それぞれ、図10に示す濾過フィルタ上の残渣の蛍光顕微鏡写真を示す。図11は、励起光として波長460〜490nm(2.70〜2.53eV)の青色光を用いたときの蛍光顕微鏡写真であり、図12は励起光として波長330〜385nm(3.75〜3.22eV)の紫外光を用いたときの蛍光顕微鏡写真である。
【0068】
図11および図12においても、それぞれ、蛍光が確認されていることから、精製工程によってシリコンを精製した場合でも、3C−SiC、2H−SiCおよび4H−SiCからなる異物が存在することが確認された。
【0069】
以上の結果から、濾過フィルタ上の残渣は、主にSiC結晶からなる異物であり、シリコン中の炭素はシリコンとの化合物である炭化ケイ素として含まれていることが確認された。
【0070】
図13〜図15に、それぞれ、濾過フィルタ上の残渣の表面を観察した電子顕微鏡写真を示す。図14は図13の破線で取り囲まれた領域の電子顕微鏡写真の拡大写真であり、図15は図14の破線で取り囲まれた領域の電子顕微鏡写真の拡大写真である。
【0071】
図13〜図15に示すように、残渣中の異物は、非常にきれいな結晶面を含む結晶構造を有することが確認された。この観察からも、異物はSiC結晶の粒子であることが確認された。
【0072】
さらに、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて異なる2つの場所にそれぞれ存在する、第1の異物の組成と、第2の異物の組成とを測定した。図16(a)〜(d)に第1の異物のEPMAチャートを示し、図16(e)〜(h)に第2の異物のEPMAチャートを示す。また、これらのEPMAチャートから算出した、第1の異物の組成と、第2の異物の組成と、を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、第1の異物はSiCが主成分であり、第2の異物はSiCとSiNとの混晶にOとFeとがそれぞれ不純物として存在することが確認された。なお、EPMAチャートには、InおよびAu等のピークも確認されたが、これらの金属は電子顕微鏡観察を行ないやすくするためのチャージアップ防止膜として蒸着したものであるため、第1の異物の組成および第2の異物の組成の算出には用いなかった。また、電子顕微鏡観察
には、日本電子(株)製のJCM−5000NeoScopeを用いた。
【0075】
図17に、脱B工程後のシリコンを測定試料とし、ステップS1d〜ステップS9dを経た後に、ステップS9dにおいて注入されたPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示し、図18に、その異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す。
【0076】
また、図19に、脱B工程および脱P工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料とし、ステップS1d〜ステップS9dを経た後に、ステップS9dにおいて注入されたPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示し、図20に、その異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す。
【0077】
さらに、図21に、脱B工程、脱P工程および脱M工程をこの順序で経た後のシリコンを測定試料とし、ステップS1d〜ステップS9dを経た後に、ステップS9dにおいて注入されたPTFEビーカー中の内部標準液添加液中の異物の粒子直径(μm)と個数(個/ml)との関係を示し、図22に、その異物の粒子直径(μm)と体積比率(%)との関係を示す。
【0078】
図17、図19および図21において、横軸は異物の粒子直径(μm)を示しており、縦軸は内部標準液添加液1ml当たりの異物の個数(個/ml)を示している。図18、図20および図22において、横軸は異物の粒子直径(μm)を示しており、縦軸は異物全体の体積に対するそれぞれの粒子直径の異物が占める体積の比率(体積比率(%))を示している。
【0079】
なお、図17〜図22に示す関係は、PTFEビーカー中の内部標準液添加液2mlを電解液に加え、ベックマンコールターという液中のパーティクルカウンターで20μm径のアパチャーを用いて測定した。また、異物はSiC結晶である。
【0080】
図17〜図22に示すように、粒子直径が0.45μm未満の異物は、1ml当たりの異物の個数(個/ml)および体積比率(%)のいずれの観点から見ても異物全体の1%も存在しないことから、孔径が0.45μm以下の濾過フィルタを用いた場合には、異物をほぼ回収することができることが確認された。
【0081】
図23に、各精製工程によって精製したシリコンを測定試料とし、ステップS1d〜ステップS12dを経た後に、ステップS12dにおいて、ディスミックフィルタを作業ばさみで切り取り、ディスミックフィルタの内部から取り出した濾過フィルタ上の残渣の反射スペクトルを測定した図である。図23の二点鎖線が脱B工程を経た後のシリコン(脱Bサンプル)を測定試料としたときの反射スペクトルであり、一点鎖線が脱B工程および脱P工程をこの順序で経た後のシリコン(脱Pサンプル)を測定試料としたときの反射スペクトルであり、破線が脱B工程、脱P工程および脱M工程をこの順序で経た後のシリコン(脱Mサンプル)を測定試料としたときの反射スペクトルである。また、図23の実線が濾過に用いなかった濾過フィルタ(ブランク)の反射スペクトルである。なお、図23の横軸が反射光の波長(nm)を示し、縦軸が反射スペクトルの強度(a.u.)を示す。また、反射スペクトルの測定には、(株)日立ハイテクノロジーズ社製のU−4100紫外光測定システムを用いた。
【0082】
図23の反射スペクトルの測定は以下のように行なった。まず、ブランクとして、濾過に用いなかった濾過フィルタの反射スペクトルを測定した。次に、脱Bサンプル、脱Pサンプルおよび脱Mサンプルのそれぞれの濾過フィルタの反射スペクトルを測定した。
【0083】
図23に示すように、脱Mサンプルおよび脱Bサンプルについては明確な吸収端を観察することができないが、脱Pサンプルについては波長392nm(図23の矢印の箇所)に基礎吸収端が観察された。この基礎吸収端は、SiC結晶の異なる結晶種(ポリタイプ)の吸収の重なり合いで生じていると考えられる。そのため、結晶種割合と、基礎吸収端波長と、の関係について調査した。その結果を図24に示す。図24の横軸がSiC結晶の結晶種割合を示し、縦軸が基礎吸収端(nm)を示している。なお、図24の横軸の結晶種割合は、4H−SiCの結晶構造と、6H−SiCの結晶構造との割合を示しており、図24の横軸の数値が増加するにしたがって、4H−SiCの結晶構造の割合が増加する。
【0084】
図24に示すように、基礎吸収端392nmに対応する結晶種割合は36であったため、4H−SiCの結晶構造と、6H−SiCの結晶構造との割合は、4H−SiC:6H−SiC=36:64であった。このように、濾過フィルタ上の残渣の反射スペクトルを測定して基礎吸収端を求め、図24に示す結果を用いることによって、SiC結晶からなる異物の結晶種割合を求めることができる。
【0085】
次に、ステップS13dにおいて、ブランクとして、濾過に用いなかった濾過フィルタの測色を行なった。これにより、濾過に用いなかった濾過フィルタのハンターL*a*b*表色系であるL*0、a*0およびb*0と、三刺激値X0、Y0およびZ0と、を求めた。
【0086】
次に、ステップS14dにおいて、濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの測色を行なった。これにより、濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタのハンターL*a*b*表色系であるL*、a*およびb*と、三刺激値X、YおよびZと、を求めた。
【0087】
なお、ステップS13dおよびステップS14dにおける濾過フィルタの測色は、白および黒の校正板を用いて測色計の校正を行ない、濾過に用いなかった濾過フィルタの測色を行なった後に濾過に用いたディスミックフィルタの内部の濾過フィルタの測色を行なった。なお、測色計としては、日本電色工業(株)製のNF−333およびコニカミノルタホールディングス(株)製のKONICA MINOLTA CM−700dをそれぞれ用いた。
【0088】
次に、ステップS15dにおいて、上記の測色から測色値を求めた。ここで、測色値としては、濾過に用いた濾過フィルタ上の残渣のL*、a*およびb*と、濾過に用いなかった濾過フィルタのL*0、a*0およびb*0と、のそれぞれの差である△L*=L*−L*0、△a*=a*−a*0および△b*=b*−b*0を求めるとともに、濾過に用いた濾過フィルタ上の残渣の三刺激値X、YおよびZと、濾過に用いなかった濾過フィルタの三刺激値X0、Y0およびZ0と、のそれぞれの差である△X=X−X0、△Y=Y−Y0および△Z=Z−Z0を求めた。
【0089】
次に、ステップS16dにおいて、上記の測色値から炭素濃度を求めた。ここで、炭素濃度は、図25〜図30に示す検量線を用いて求めた。図25〜図30において、横軸は測色値△L*、△a*、△b*、△X、△Yおよび△Zをそれぞれ示し、縦軸は炭素濃度(ppm)を示している。
【0090】
すなわち、炭素濃度を測定するシリコンについて、ステップS1d〜ステップS15dを経ることによって測色値(△L*、△a*、△b*、△X、△Yおよび△Z)の少なくとも1つを求め、図25〜図30の破線で表わされる直線の式から、シリコン中の炭素濃度
を算出した。
【0091】
図25〜図30に示される測色値と炭素濃度との関係は、同一ロットのシリコンのサンプルを2つに分け、一方のサンプルについては従来の燃焼法によってシリコン中の炭素濃度を求め、他方のサンプルについてはステップS1d〜ステップS15dを経ることによって測色値△L*、△a*、△b*、△X、△Yおよび△Zをそれぞれ求めることによって得たものである。
【0092】
以上のように、シリコンを酸に溶解し、シリコンを酸に溶解した後の溶液をフィルタを用いて濾過した後、フィルタ上の残渣を測色することによって、シリコン中の炭素濃度を測定することができる。
【0093】
上述のように、シリコンを酸に溶解した後の溶液をフィルタを用いて濾過し、フィルタ上の残渣を測色して炭素濃度を算出することによって、炭素濃度が測定されるシリコンの重量を増やすことができるために従来の燃焼法よりも炭素濃度の測定精度を上げることができるとともに、炭素濃度の測定時間を大幅に短縮することができ、さらには炭素濃度測定機器の導入費用を低く抑えることができる。
【0094】
また、フィルタを用いた濾過を行なった後の濾過液は、ICP分光分析によるシリコン中の金属不純物濃度の測定に使用することができる。したがって、本発明においては、シリコン中の金属不純物濃度の測定と、シリコン中の炭素濃度の測定と、を一連の工程として(別々の測定サンプルを必要とすることなく)行なうことができるという利点を有する。
【0095】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、シリコンの炭素濃度測定方法に利用することができ、特に、太陽電池に使用するシリコンの炭素濃度測定方法に好適に利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンの炭素濃度を測定する方法であって、
シリコンを酸に溶解して溶液を作製する工程と、
前記溶液をフィルタにより濾過する工程と、
前記フィルタ上の残渣について測色する工程と、
前記測色する工程により得られた測色値から炭素濃度を算出する工程と、
を含む、炭素濃度測定方法。
【請求項2】
原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、
前記1つ以上の前記精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングでそれぞれ試料シリコンを採取することによって試料シリコンを得る工程と、を含み、
前記試料シリコンから選択された少なくとも1つが、前記炭素濃度が測定される前記シリコンである、請求項1に記載の炭素濃度測定方法。
【請求項3】
同一ロットの原料シリコンを複数の精製単位に分ける工程と、
前記精製単位の1つの原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、
前記1つ以上の前記精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取することによって試料シリコンを得る工程と、を含み、
前記試料シリコンから選択された少なくとも1つが、前記炭素濃度が測定される前記シリコンである、請求項1に記載の炭素濃度測定方法。
【請求項4】
前記炭素は、前記シリコン中に炭化ケイ素として含まれている、請求項1から3のいずれかに記載の炭素濃度測定方法。
【請求項5】
前記炭素濃度を算出する工程においては、燃焼法によって測定された炭素濃度と、前記測色値と、の関係から、前記炭素濃度を算出する、請求項1から4のいずれかに記載の炭素濃度測定方法。
【請求項6】
前記測色値は、前記フィルタ上の前記残渣の測定値L*、a*およびb*と、前記フィルタの測定値L*0、a*0およびb*0と、の差である、△L*=L*−L*0、△a*=a*−a*0および△b*=b*−b*0からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項1から5のいずれかに記載の炭素濃度測定方法。
【請求項7】
前記測色値は、前記フィルタ上の前記残渣の三刺激値X、YおよびZと、前記フィルタの三刺激値X0、Y0およびZ0と、の差である、△X=X−X0、△Y=Y−Y0および△Z=Z−Z0からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項1から5のいずれかに記載の炭素濃度測定方法。
【請求項1】
シリコンの炭素濃度を測定する方法であって、
シリコンを酸に溶解して溶液を作製する工程と、
前記溶液をフィルタにより濾過する工程と、
前記フィルタ上の残渣について測色する工程と、
前記測色する工程により得られた測色値から炭素濃度を算出する工程と、
を含む、炭素濃度測定方法。
【請求項2】
原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、
前記1つ以上の前記精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングでそれぞれ試料シリコンを採取することによって試料シリコンを得る工程と、を含み、
前記試料シリコンから選択された少なくとも1つが、前記炭素濃度が測定される前記シリコンである、請求項1に記載の炭素濃度測定方法。
【請求項3】
同一ロットの原料シリコンを複数の精製単位に分ける工程と、
前記精製単位の1つの原料シリコンを精製する1つ以上の精製工程と、
前記1つ以上の前記精製工程のそれぞれの前後のうち少なくとも1つのタイミングで試料シリコンを採取することによって試料シリコンを得る工程と、を含み、
前記試料シリコンから選択された少なくとも1つが、前記炭素濃度が測定される前記シリコンである、請求項1に記載の炭素濃度測定方法。
【請求項4】
前記炭素は、前記シリコン中に炭化ケイ素として含まれている、請求項1から3のいずれかに記載の炭素濃度測定方法。
【請求項5】
前記炭素濃度を算出する工程においては、燃焼法によって測定された炭素濃度と、前記測色値と、の関係から、前記炭素濃度を算出する、請求項1から4のいずれかに記載の炭素濃度測定方法。
【請求項6】
前記測色値は、前記フィルタ上の前記残渣の測定値L*、a*およびb*と、前記フィルタの測定値L*0、a*0およびb*0と、の差である、△L*=L*−L*0、△a*=a*−a*0および△b*=b*−b*0からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項1から5のいずれかに記載の炭素濃度測定方法。
【請求項7】
前記測色値は、前記フィルタ上の前記残渣の三刺激値X、YおよびZと、前記フィルタの三刺激値X0、Y0およびZ0と、の差である、△X=X−X0、△Y=Y−Y0および△Z=Z−Z0からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項1から5のいずれかに記載の炭素濃度測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図5】
【図6】
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【図15】
【公開番号】特開2012−63157(P2012−63157A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205587(P2010−205587)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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