炭素繊維および炭素膜、ならびにそれらの作製方法
本発明の様々な実施形態は、改善された炭素繊維および炭素膜、ならびに炭素繊維および炭素膜を作製する方法を提供する。本明細書中に開示される炭素繊維および炭素膜は、通常、アクリロニトリル含有ポリマーから形成される。この炭素繊維および/または炭素膜は、アクリロニトリル含有ポリマー、ならびに炭素ナノチューブ、グラファイトシートまたはその両方を含む複合体からも形成することができる。本明細書中に記載される繊維および膜は、その繊維または膜に対する所望の用途に応じて、高強度、高弾性、高電気伝導率、高熱伝導度または光透過性のうちの1つ以上を示すように作られうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年1月30日出願の米国仮特許出願番号60/887,175(その全体は、以下に完全に説明するのと同様に、本明細書中に参照によって組み込まれる)の利益を主張する。
【0002】
連邦支援の研究に関する声明
本発明は、助成金番号FA9550−06−1−0122およびFA9550−07−1−0233(この両方は、空軍科学研究局(Air Force Office of
Scientific Research)によって授与されたものである)のもと米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明の一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明の様々な実施形態は、概して、炭素繊維および炭素膜、ならびにより詳細には、アクリロニトリル含有ポリマーから形成される炭素繊維および炭素膜、ならびに炭素繊維および炭素膜の作製方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
アクリロニトリルを含有するポリマーは、織物、絨毯および炭素繊維などに応用される繊維に使用される重要な工業用ポリマーである。ポリアクリロニトリルコポリマーから作製される高性能アクリル繊維は、1つにはポリアクリロニトリル系炭素繊維が良好な伸張性および圧縮特性を示すという理由で、現在、炭素繊維用のすぐれた前駆体である。さらに、ポリアクリロニトリル系炭素繊維の炭素収率は、かなり高い場合がある。
【0005】
CNTは、各層における黒鉛構造および整列が理想的であることから、ひときわすぐれた工学的特性(例えば、高い引張強度、高弾性ならびに高熱伝導率および高電気伝導率)および軽重量が得られるので、究極の炭素繊維であると考えられる。しかしながら、これらの特性をより大きな構造に移すことは、困難であった。他の材料へのCNTの組み込みにおける初期の問題点は、ナノチューブを分散させることができないことに原因があった。炭素ナノチューブの分散に関連するこれらの問題は、非常に一般的な溶媒への不溶性、およびそれらが一緒になってCNT束になり、ファンデルワールス力によって共に堅固に保持される傾向が大きな原因である。
【0006】
近年、ナノチューブ含有ポリマー複合体、および特に、単層炭素ナノチューブ(SWNT)(ここで、SWNTは、その複合体において十分に分散される)を含む炭素繊維を作製する方法が開発されてきた。例えば、米国特許第6,852,410号(その全内容は、以下に完全に説明するのと同様に、本明細書中に参照によって組み込まれる)は、そのような方法を開示している。これらの方法は、他の改善点の中でも、高い引張係数および引張強度を複合繊維に与える。しかしながら、新しい応用法が開拓され続けると、それに伴って材料を改善していく必要もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、高い引張係数および引張強度を示す新規な炭素繊維および炭素膜が必要とされている。また、炭素繊維および炭素膜を作製する新しい方法も必要とされている。そのような材料および方法の提供こそが、本発明の様々な実施形態が対象にしているもので
ある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
簡単な要旨
本発明の様々な実施形態は、炭素繊維および炭素膜、ならびに炭素繊維および炭素膜を作製する方法に関する。高強度で高弾性な繊維および膜は、種々の用途において有用であり、その用途としては、材料の補強(例えば、タイヤコードおよびセメントにおいて)、航空機の部品、高性能の乗物(例えば、フォーミュラワンレース用自動車およびオートバイ)用の本体パネル、スポーツ用品(例えば、自転車、ゴルフクラブ、テニスラケットおよびスキー板)および要求の厳しい他の機械的用途が挙げられるが、これらに限定されない。これらの炭素膜および炭素繊維は、その電気伝導性および熱伝導性のおかげで、電子デバイス、燃料電池、電気化学キャパシタなどにおける用途も見出すことができる。
【0009】
大まかに説明すると、本発明の様々な実施形態の炭素繊維を作製する方法は、アクリロニトリル含有ポリマーをゲル押出し(gel−extruding)することにより、ポリマー繊維前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー繊維を形成せしめる工程、および該延伸ポリマー繊維を安定化せしめる工程を包含する。安定化工程は、張力をかけて、および/または酸化環境において、および/または約36時間以下にわたり摂氏約200度〜摂氏約400度において、達成することができる。
【0010】
上記方法は、安定化させたポリマー繊維を炭化する工程も包含しうる。炭化工程は、張力をかけて、および/または不活性な環境において、および/または約2時間以下にわたり摂氏約500度〜摂氏約1800度において、達成することができる。さらに上記方法は、炭化されたポリマー繊維を黒鉛化する工程も含みうる。黒鉛化工程は、張力をかけて、および/または窒素非含有の不活性な環境において、および/または約1時間以下にわたり摂氏約1800度〜摂氏約2800度において、達成することができる。
【0011】
延伸した後、該延伸ポリマー繊維は、約100ナノメートル〜約100マイクロメートルの平均直径を有しうる。最終的な炭素繊維は、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を有しうる。
【0012】
本発明の様々な他の実施形態は、炭素ナノチューブ(CNT)を含む炭素繊維または炭素膜を作製する方法に関する。これらの方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程、該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維または膜を形成せしめる工程、および該延伸ポリマー−CNT繊維または膜を安定化せしめる工程を包含する。これらの方法は、該安定化させたポリマー−CNT繊維もしくは膜を炭化する工程、および/または炭化されたポリマー−CNT繊維もしくは膜を黒鉛化する工程も含みうる。そのような方法によって、CNTを含まない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも50%高い電気伝導率を示す炭素繊維または炭素膜を作製することができる。
【0013】
特定の実施形態において、CNTとしては、単層ナノチューブ、2層ナノチューブ、3層ナノチューブ、または前述の種類のCNTのうちの2つ以上を有する組み合わせが挙げられうる。いくつかの実施形態において、CNTは、約0.5ナノメートル〜約100ナノメートルの平均直径を有する。他の実施形態において、CNTは、約10ナノメートル以下の平均直径を有する。CNTはまた、約10ナノメートル以上の平均長も有しうる。CNTは、ドープの総重量に基づいて、ドープの約0.001重量パーセント〜約40重
量パーセントを占めうる。同様に、CNTは、炭素繊維または炭素膜の総重量に基づいて、最終的な炭素繊維または炭素膜の約0.001重量パーセント〜80約重量パーセントを構成しうる。
【0014】
いくつかの実施形態において、最終的な炭素繊維または炭素膜におけるCNTは、剥離している。炭素繊維または炭素膜は、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛(crystallized graphitic)領域を有しうる。いくつかの実施形態において、結晶化黒鉛領域は、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている。
【0015】
CNTを含む炭素繊維または炭素膜を作製する他の方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程、該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維または膜を形成せしめる工程、該延伸ポリマー−CNT繊維または膜を安定化せしめる工程、および各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を有する炭素繊維を作製するために、該安定化させた繊維または膜を炭化する工程を包含しうる。そのような方法は、炭化されたポリマー−CNT繊維または膜を黒鉛化する工程も包含しうる。
【0016】
CNTを含む炭素繊維または炭素膜を作製する他の方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程(該ポリマー−CNTドープは、ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む)、該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維または膜を形成せしめる工程、該延伸ポリマー−CNT繊維または膜を安定化せしめる工程、およびCNTなしで作製された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも0.5GPa大きい引張強度を有する炭素繊維または炭素膜を作製するのに有効な、安定化させた繊維を炭化する工程を包含しうる。該炭素繊維または炭素膜は、CNTなしで作製された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも50GPa大きい引張係数を有しうる。そのような方法は、炭化されたポリマー−CNT繊維または膜を黒鉛化する工程も包含しうる。
【0017】
CNTを含む炭素繊維を作製するさらに他の方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程(該ポリマー−CNTドープは、ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む)、該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程、延伸ポリマー−CNT繊維を、大気中で張力をかけて安定化せしめる工程、およびCNTなしで作製された炭素繊維よりも少なくとも0.7GPa大きい引張強度および少なくとも77GPa大きい引張係数を有する炭素繊維を作製するのに有効な、安定化させた繊維を不活性な環境において張力をかけて炭化する工程を包含する。これらの方法は、炭化されたポリマー−CNT繊維を黒鉛化する工程も包含しうる。
【0018】
CNTを含む炭素繊維を作製するさらに他の方法において、この方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程(該ポリマー−CNTドープは、ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む)、該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することに
より、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程、該延伸ポリマー−CNT繊維を、大気中で張力をかけて安定化せしめる工程、および約10マイクロメートル以下の平均直径を有する炭素繊維を作製するのに有効な、安定化させた繊維を不活性な環境において張力をかけて炭化する工程を包含する。これらの方法は、炭化されたポリマー−CNT繊維を黒鉛化する工程も含みうる。
【0019】
本発明の様々な他の実施形態は、グラファイトシートを含む炭素繊維または炭素膜を作製する方法に関する。これらの方法は、グラファイトシートをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−グラファイトシートドープを形成せしめる工程、該ポリマー−グラファイトシートドープを押出しして、ポリマー−グラファイトシート繊維前駆体または膜前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−グラファイトシート繊維前駆体または膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−グラファイトシート繊維または膜を形成せしめる工程、および該延伸ポリマー−グラファイトシート繊維または膜を安定化せしめる工程を包含する。これらの方法は、安定化させたポリマー−グラファイトシート繊維もしくは膜を炭化する工程および/または炭化されたポリマー−グラファイトシート繊維もしくは膜を黒鉛化する工程も包含しうる。
【0020】
本発明の様々な他の実施形態は、炭素繊維または炭素膜に関する。該炭素繊維または炭素膜は、CNTおよびアクリロニトリル含有ポリマーから形成されうる。これらの炭素繊維は、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を有し、炭素膜は、約25ナノメートル〜約250マイクロメートルの平均厚を有する。該炭素繊維または炭素膜において、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域が見られる。いくつかの実施形態において、結晶化黒鉛領域は、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている。上記炭素繊維または炭素膜は、剥離したCNTを有しうる。上記炭素繊維または炭素膜は、CNTを含んでいない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を示しうる。いくつかの実施形態では、上記繊維または膜は、その特定の寸法に応じて光透過性でありうる。
【0021】
本炭素繊維または炭素膜は、CNTなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約0.5GPa大きい引張強度を有しうる。いくつかの実施形態において、本炭素繊維の引張強度は、CNTなしで形成された炭素繊維よりも少なくとも0.7GPa大きい。本炭素繊維または炭素膜は、CNTなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約50GPa大きい引張係数を有しうる。いくつかの実施形態において、本炭素繊維の引張係数は、CNTなしで形成された炭素繊維よりも少なくとも77GPa大きい。他の実施形態において、本炭素繊維は、CNTなしで作製された炭素繊維よりも少なくとも1.2GPa大きい引張強度および少なくとも148GPa大きい引張係数を有する。
【0022】
本発明の様々な他の実施形態は、炭素繊維または炭素膜に関する。該炭素繊維または炭素膜は、グラファイトシートおよびアクリロニトリル含有ポリマーから形成されうる。これらの炭素繊維は、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を有し、炭素膜は、約25ナノメートル〜約250マイクロメートルの平均厚を有する。本炭素繊維または炭素膜において、グラファイトシートから放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域が見られる。いくつかの実施形態において、結晶化黒鉛領域は、各グラファイトシートから放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている。本炭素繊維または炭素膜は、剥離したグラファイトシートを有しうる。本炭素繊維または炭素膜は、グラファイトシートを含まない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を示しうる。いくつかの実施形態では、上記繊維または膜は、その特定の寸法に応じて光透過性でありうる。
【0023】
本発明の実施形態の他の態様および特徴は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を検討することによって当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1(a)】図1(a)は、本発明のいくつかの実施形態に従って炭素繊維または炭素膜を作製するための方法を説明するプロセスの流れ図である。
【図1(b)】図1(b)は、本発明のいくつかの実施形態に従って炭素繊維または炭素膜を作製するための方法を説明するプロセスの流れ図である。
【図2】図2は、1wt%のCNTサンプルについて、様々な延伸比のPAN/CNT繊維におけるUV−Visスペクトルおよび炭素ナノチューブの配向の略図を含む。
【図3】図3は、偏光子と繊維軸との角度が0°および90°であるときの延伸PAN/CNT(1wt%)繊維についてのGバンドラマンスペクトルを含む。
【図4】図4は、安定化および炭化中に、ゲル紡糸されたPAN/CNT繊維に応力または張力をかけるための装置の略図である。
【図5】図5(a)〜(d)は、大きい直径の(a)安定化されたPANおよび(b)安定化されたPAN/CNT(99/1)繊維、ならびに(c)炭化PANおよび(d)炭化PAN/CNT(99/1)繊維についての走査型電子顕微鏡(SEM)像を含む。
【図6】図6は、(b)PAN/CNT系の炭素繊維構造の略図、ならびに(a)および(c)〜(f)炭化PAN/CNT(99/1)繊維の様々な領域および(g)炭化PANの高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)像を含む。
【図7(a)】図7(a)は、炭化PAN繊維についての、安定化および炭化中に適用された応力の関数としての、785nmレーザを用いたときのラマンスペクトルを含む。
【図7(b)】図7(b)は、炭化PAN/CNT(99/1)繊維についての、安定化および炭化中に適用された応力の関数としての、785nmレーザを用いたときのラマンスペクトルを含む。
【図8】図8は、785nmレーザを用いたときの、ゲル押出しされたPAN/CNT(99/1)繊維前駆体のGバンドラマンスペクトルを含む。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
ここでは、図面を参照しながら(いくつかの図において、類似の参照番号は類似の部分を表す)、本発明の例示的な実施形態を詳細に説明する。この説明全体を通して、特定の値またはパラメータを有する様々な構成要素が確認されうるが、これらのものは、例示的な実施形態として提供されるものである。実際に、多くの同等のパラメータ、サイズ、範囲および/または値が実施されうるので、それらの例示的な実施形態は、本発明の様々な態様および概念を限定しない。「第1」、「第2」など、「1次」、「2次」などの用語は、いかなる順序、数量または重要性も示さず、1つのエレメントを別のものと識別するために用いられる。さらに、「a」、「an」および「the」なる用語は、数量の限定を示さず、言及されるものの「少なくとも1つ」の存在を示す。
【0026】
本明細書中に開示される炭素繊維および炭素膜は、アクリロニトリル含有ポリマーから形成される。さらに、該炭素繊維および/または炭素膜は、必要に応じて、アクリロニトリル含有ポリマーおよび炭素ナノチューブ(CNT)を含む複合体から形成されうる。他の実施形態において、炭素繊維および/または膜は、必要に応じて、アクリロニトリル含有ポリマーおよび個別のグラファイトシートを含む複合体から形成されうる。CNTおよび/またはグラファイトシートを炭素繊維前駆体および/または膜前駆体に組み込むことによって、以下で詳細に説明されるような多くの有益な特性を示す炭素繊維および/また
は炭素膜が生じる。
【0027】
アクリロニトリル含有ポリマーは、アクリロニトリルモノマーおよび別の(すなわち、少なくとも1つの他の)モノマーを含むコポリマーを包含しうる。したがって、「コポリマー」なる用語は、ターポリマーおよび3つ以上の異なるモノマーを有する他のポリマーも包含する。アクリロニトリル含有ポリマーの例としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(アクリロニトリル−メチルアクリレート)、ポリ(アクリロニトリル−メタクリル酸)、ポリ(アクリロニトリル−アクリル酸)、ポリ(アクリロニトリル−イタコン酸)、ポリ(アクリロニトリル−メチルメタクリレート)、ポリ(アクリロニトリル−イタコン酸−メチルアクリレート)、ポリ(アクリロニトリル−メタクリル酸−メチルアクリレート)、ポリ(アクリロニトリル−ビニルピリジン)、ポリ(アクリロニトリル−塩化ビニル)、ポリ(アクリロニトリル−酢酸ビニル)およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
アクリロニトリルコポリマー中のコモノマー成分の相対量、ならびにアクリロニトリル含有ポリマーの分子量は、本繊維または膜の所望の特性に左右される。様々な量が用いられうるが、好ましくは、アクリロニトリルモノマーの組み込みは、アクリロニトリル含有ポリマー全体の総重量に基づいて、約85重量パーセント(wt%)より多い。また、他の範囲を用いることもできるが、アクリロニトリル含有ポリマーの好ましい分子量の範囲は、約50,000グラム/モル(g/モル)〜約2,000,000g/モルであり、100,000g/モル〜約500,000g/モルが、さらに好ましい。
【0029】
上記炭素ナノチューブは、任意の種類の炭素ナノチューブであってよく、それらとしては、単層ナノチューブ(SWNT)、2層ナノチューブ(DWNT)、3層ナノチューブ(TWNT)、多層炭素ナノチューブ(MWNT)など、または前述の種類の炭素ナノチューブのうちの2つ以上を含む組み合わせ(例えば、SWNTとDWNTとの混合物、DWNTとTWNTとの混合物、SWNTとDWNTとTWNTとの混合物など)が挙げられる。上記CNTは、管状のナノチューブであってもよいし、潰れたナノチューブであってもよい。
【0030】
上記炭素ナノチューブは、任意の公知の手段によって作製することができ、その手段としては、高温、高圧の一酸化炭素からの気相合成、炭素含有供給原料および金属触媒粒子を用いた触媒蒸着法、レーザアブレーション、アーク法、または炭素ナノチューブを合成するための他の任意の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
合成から得られたCNTは、一般に粉末の形態であるが、絨毯状、森林状、真珠状または類似の配置の形態で使用することもできる。上記ナノチューブの平均直径は、約0.5ナノメートル(nm)〜約100nmであり、約0.5nm〜約25nmが好ましい。いくつかの実施形態において、約10nm以下の平均直径を有するナノチューブを使用することが望ましい。上記ナノチューブの平均長は、約10ナノメートル以上でありうる。例えば、ミリメートル単位の長さまたはさらにセンチメートル単位の長さを有するナノチューブを使用することもできよう。
【0032】
CNTサンプル中の不純物によって悪影響が引き起こされる可能性を最小限にするために、少なくとも95パーセント(%)、好ましくは少なくとも99%の純度を有することがCNTにとって望ましい。したがって、CNTを必要に応じて精製することにより、無定形炭素などの非ナノチューブ炭素および金属触媒残渣を除去することができる。
【0033】
精製は、任意の公知の手段によって行うことができる。炭素ナノチューブの精製についての手順は、本開示が属する分野の当業者に周知である。必要に応じて精製されたCNT
は、乾燥させてもよい。同様に、乾燥に関する手順も、本開示が属する分野の当業者に周知である。
【0034】
さらに、上記CNTは、必要に応じて、その末端および/または側面において官能基を用いて誘導体化することができる。これらの官能基としては、アルキル;アシル;アリール;アラルキル;ハロゲン;置換または非置換チオール;置換または非置換アミノ;ヒドロキシル;OR’(ここで、R’は、アルキル、アシル、アリール、アラルキル、置換または非置換アミノ、置換または非置換チオールおよびハロゲンを含みうる);または必要に応じて1つ以上のヘテロ原子が割り込んでいて、1つ以上の=Oもしく=S、ヒドロキシル、アミノアルキル基、アミノ酸またはペプチドで必要に応じて置換されている、直鎖状あるいは環状の炭素鎖が挙げられうる。置換の程度は、本開示が属する分野の当業者に理解されるように、所望の化学効果を達成するように適合させることができる。1つの例として、上記アルキル、アシル、アリール、アラルキル基における炭素原子の数は、1〜約30の範囲でありうる。
【0035】
上記CNTは、必要に応じて、その骨格に非炭素の元素を含むこともできる。炭素繊維または炭素膜の特定の用途に応じて、例えば、ホウ素、窒素、硫黄、ケイ素などの元素が、CNTの骨格に含まれうる。
【0036】
同様に、任意の公知の合成手段からグラファイトシートを作製することができる。グラファイトシートの平均幅は、約0.5ナノメートル(nm)〜約100nmであってよく、約0.5nm〜約25nmが好ましい。いくつかの実施形態において、約10nm以下の平均幅を有するグラファイトシートを使用することが望ましい。グラファイトシートの平均長は、約10ナノメートル以上でありうる。例えば、ミリメートル単位の長さまたはさらにセンチメートル単位の長さを有するグラファイトシートを使用することもできよう。
【0037】
上記CNTと類似の様式において、黒鉛サンプル中の不純物によって悪影響が引き起こされる可能性を最小限にするために、望ましくは、グラファイトシートを精製する。炭素ナノチューブとまさしく同様に、グラファイトシートを誘導体化することができ、そして/またはそのフレームワーク内に非炭素元素を含めることができる。任意の誘導体化およびフレームワーク内への非炭素元素の組み込みは、炭素繊維または炭素膜におけるグラファイトシートの凝集を最小限にするために行われうる。
【0038】
ここで、図1(a)および(b)を参照していくが、そこには本発明のいくつかの実施形態に従ってそのような炭素繊維または炭素膜を製造するための、総称的に100と表記されたプロセスが示されている。詳細には、図1(a)は、CNTを含まないアクリロニトリル含有ポリマーから炭素繊維または炭素膜を製造するためのプロセスを図示している。プロセス100は110から開始され、ここで、アクリロニトリル含有ポリマーをゲル押出しすることにより、ポリマー繊維前駆体またはポリマー膜前駆体を形成せしめ、次いで115においてそれを延伸することにより、それぞれ延伸ポリマー繊維または延伸ポリマー膜を形成せしめる。120において、該延伸ポリマー繊維または延伸ポリマー膜を熱的に安定化せしめる。125および130において、安定化させたポリマー繊維または安定化させたポリマー膜を、それぞれ必要に応じて炭化し、必要に応じて黒鉛化することにより、最終的な炭素繊維または炭素膜を形成せしめる。例示的な実施形態において、ゲル押出し工程110、延伸工程115、安定化工程120、炭化工程125および黒鉛化工程130のうちの1つ以上が、バッチプロセスではなく連続プロセスである。
【0039】
図1(b)は、アクリロニトリル含有ポリマーならびにCNTおよび/またはグラファイトシートを含む複合体から炭素繊維または炭素膜を製造するためのプロセスを図示して
いる。図1(b)に示されるプロセスは、CNTだけについて言及しているが、このプロセスではCNTの代わりに、またはCNTに加えて、グラファイトシートを用いることもできると理解されるべきである。したがって、例えば、安定化工程120について言及するとき、延伸ポリマー−CNT繊維もしくは膜、延伸ポリマー−グラファイトシート繊維もしくは膜、または延伸ポリマー−CNT/グラファイトシート繊維もしくは膜もまた、この図に示され、以下で説明されるプロセス条件下において安定化120されうる。
【0040】
図1(b)に示されるプロセス100は105から開始され、ここで、CNT(合成されたままのもの、精製されたもの、または誘導体化されたもののいずれでもよい)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる。次に、110において、ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体またはポリマー−CNT膜前駆体を形成せしめ、次いで115においてそれを延伸することにより、それぞれ延伸ポリマー−CNT繊維または延伸ポリマー−CNT膜を形成せしめる。同様に、120において、その延伸ポリマー−CNT繊維または延伸ポリマー−CNT膜を熱的に安定化せしめる。125および130において、安定化させたポリマー−CNT繊維または安定化させたポリマー−CNT膜を、それぞれ必要に応じて炭化および黒鉛化することにより、最終的な炭素繊維または炭素膜を形成せしめる。図1(a)に示されるプロセスとまさしく同様に、例示的な実施形態では、接触工程105、押出し工程110、延伸工程115、安定化工程120、炭化工程125および黒鉛化工程130のうちの1つ以上が、連続プロセス工程である。
【0041】
本明細書中以後、図1(b)に図示されているプロセスを参照して、様々なプロセス工程を説明していく。しかしながら、接触工程105を除いて、以下で説明される工程は、以下に提供される詳細およびパラメータから逸脱しない限り、図1(a)に示されるプロセス(すなわち、CNTおよび/またはグラファイトシートを含んでいないアクリロニトリル含有ポリマーを用いて炭素繊維または炭素膜を作製するためのプロセス)に対して等しく適用することができることが理解されよう。したがって、例えば、延伸ポリマー−CNT繊維または膜を安定化せしめる工程120について言及するとき、延伸ポリマー(CNTおよび/またはグラファイトシートを含んでいない)繊維または膜もまた、以下に記載されるパラメータによって包含される一般的な条件下において安定化120されうる。CNTの量、比などに関するあらゆる言及は、図1(b)に図示されるプロセスだけに言及していることが同様に理解されるだろう。簡潔にするために(すなわち、CNTに対して記載されるプロセス工程、条件、量、比などがグラファイトシートについて再度記載されるという文言の反復を最小限にするために)、CNTに対するすべての言及は、CNTの代わりとして用いるかCNTと併せて用いるかに関係なく、グラファイトシートを包含するよう意図されていると拡大して理解されるべきである。
【0042】
接触工程105を実施するために、CNT(および/または拡大してグラファイトシート)をまず溶媒に分散させた後、アクリロニトリル含有ポリマーを加えることができる。あるいは、CNTおよびアクリロニトリル含有ポリマーを同時に(すなわち段階的ではなく)溶媒中で混合してもよい。別の選択肢では、アクリロニトリル含有ポリマーをまず溶媒に分散させた後、CNTを加えることができ、それを乾燥させるか、または同じ溶媒もしくは異なる溶媒に同様に分散させることができる。さらに別の選択肢では、融液中でCNTをアクリロニトリル含有ポリマーと合わせることができる。さらに別の選択肢では、モノマーの段階のアクリロニトリル含有ポリマーに、またはアクリロニトリル含有ポリマーを生じる重合中のいずれかの時点で、乾燥CNTまたは溶液中のCNTを加えることができる。
【0043】
溶媒は、望ましくは、CNTとアクリロニトリル含有ポリマーの両方を可溶化することができるものである。ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルアセトアミド(D
MAc)は、ポリアクリロニトリルポリマーおよびコポリマーを懸濁または可溶化するために用いることができる例示的な溶媒である。ポリアクリロニトリルポリマーおよびコポリマーを懸濁するために用いることができる有機溶媒の他の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸エチレン、ジオキサノン、クロロアセトニトリル、ジメチルスルホン、炭酸プロピレン、マロノニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル、ガンマ−ブチロラクトン、無水酢酸、ε−カプロラクタム、ビス(2−シアノエチル)エーテル、ビス(4−シアノブチル)スルホン、クロロアセトニトリル/水、クロロアセトニトリル、シアノ酢酸、リン酸ジメチル、テトラメチレンスルホキシド、グルタロニトリル、スクシノニトリル、N−ホルミルヘキサメチレンイミン、2−ヒドロキシエチルメチルスルホン、N−メチル−β−シアノエチルホルムアミド、メチレンジチオシアナート、N−メチル−α,α,α,−トリフルオロアセトアミド、1−メチル−2−ピリドン、3,4−ニトロフェノール、ニトロメタン/水(94:6)、N−ニトロソピペリジン、2−オキサゾリドン、1,3,3,5−テトラシアノペンタン、1,1,1−トリクロロ−3−ニトロ−2−プロパンおよびp−フェノール−スルホン酸が挙げられるが、これらに限定されない。無機溶媒の例としては、水性の濃酸(例えば、濃硝酸(約69.5wt%HNO3)、濃硫酸(約96wt%H2SO4)など);および濃塩溶液(例えば、塩化亜鉛、臭化リチウム、チオシアン酸ナトリウムなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
上記溶媒にナノチューブおよび/またはアクリロニトリル含有ポリマーを分散させるための混合手法または混合手段としては、超音波処理(例えば、バスソニケータまたはプローブソニケータを用いる)、均質化(例えば、バイオホモジナイザを用いる)、機械的撹拌(例えば、磁気撹拌子を用いる)、高剪断混合手法、押出し(例えば、単軸または多軸押出し)などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、溶媒へのCNTおよび/またはアクリロニトリル含有ポリマーの分散を促すために熱を加えることができる。一般に、熱は、溶媒の沸点に至るまで加えることができる。
【0045】
混合時間は、様々なパラメータに左右され、そのパラメータとしては、溶媒、混合物の温度、ナノチューブおよび/またはアクリロニトリル含有ポリマーの濃度、ならびに混合手法が挙げられるが、これらに限定されない。混合時間は、一般に均質な懸濁液または分散液を調製するのに必要な時間である。
【0046】
選択された溶媒にCNTおよび/またはアクリロニトリル含有ポリマーを分散させることにより、懸濁液を形成せしめた後、その溶媒の一部を必要に応じて除去してもよい。溶媒の除去は、任意の公知の手段(例えば、加熱、減圧、周囲環境での溶媒蒸発など)によって行うことができる。懸濁液中での溶媒の濃度を調節するために必要な時間および温度は、様々なパラメータに左右され、そのパラメータとしては、用いられる特定の溶媒、除去される溶媒の量、および溶媒の性質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
特定の溶媒中のアクリロニトリル含有ポリマー濃度は、様々な因子に左右され、その因子の1つは、アクリロニトリル含有ポリマーの分子量である。ポリマー溶液の濃度は、繊維または膜の選択された押出し手法に資する粘度をもたらすように選択される。一般に、ポリマー溶液の調製に関して、ポリマー分子量とポリマー濃度とは、逆相関する。換言すれば、ポリマーの分子量が大きいほど、所望の粘度を得るために必要なポリマーの濃度は低くなる。例としては、最大約25wt%の溶液は、約50,000g/モル程度の分子量を有するアクリロニトリル含有ポリマーを用いてDMFまたはDMAc中に調製され、最大約15wt%ポリマーの溶液は、約250,000g/モルの分子量を有するアクリロニトリル含有ポリマーを用いて調製され、最大約5wt%の溶液は、約1,000,000g/モルの分子量を有するアクリロニトリル含有ポリマーを用いて調製されうる。溶液の濃度は、他の変数の中でも、特定のポリマー組成、特定の溶媒および溶液温度にも左右されうる。
【0048】
アクリロニトリル含有ポリマーをナノチューブ−溶媒懸濁液に加えた後、それを均質化することにより、「ドープ」とも呼ばれる光学的に均質なポリマー−CNT溶液または懸濁液が形成される。このアクリロニトリル含有ポリマーは、すべてを一度に加えてもよいし、連続した様式で徐々に加えてもよいし、段階的に加えてもよく、それによって、概して均質な溶液が作製される。光学的に均質な溶液を調製するためのポリマーの混合は、機械的撹拌、超音波処理、均質化、高剪断混合、押出しまたはそれらの組み合わせなどの任意の手法を用いて行うことができる。
【0049】
同様に、CNTおよびアクリロニトリル含有ポリマーを同時に溶媒と混合するとき、3つの成分が混合されることによって、光学的に均質なポリマー−CNTドープが形成される。光学的に均質な溶液を調製するためのナノチューブおよびポリマーの混合は、機械的撹拌、超音波処理、均質化、高剪断混合、押出しまたはそれらの組み合わせなどの任意の手法を用いて行うことができる。
【0050】
本ナノチューブは、通常、上記ドープの約0.001wt%〜約40wt%を構成し、約0.01wt%〜約5wt%が、好ましい。
【0051】
概して均質なポリマー−CNTドープを調製した後、該ドープをポリマー−CNT繊維または膜に押出しする110。本明細書中で使用されるとき、「押出しする」なる用語は、延伸可能な膜を作製するために用いられる押出し手法だけでなく、延伸可能な繊維を作製するために用いられる紡糸手法も総称的に包含すると意図されている。押出し工程110は、延伸可能な繊維または膜を作製する任意の手段を用いて達成することができる。延伸可能な繊維または膜の作製に適した手法の例としては、ゲル押出し(ゲル紡糸を包含する)、湿式押出(湿式紡糸を包含する)、乾式押出(乾式紡糸を包含する)、乾湿式(dry−jet wet)押出(乾湿式紡糸を包含する)、静電押出(electroextruding)(静電紡糸を包含する)、溶融押出(溶融紡糸を包含する)などが挙げられるが、これらに限定されない。膜を押出しするとき、スリット形のダイを用いる。ポリマーを紡糸口金またはダイから押出しした後、それぞれ繊維または膜を、用いられる特定の押出し手法にふさわしい様式で延伸する115。
【0052】
例示的な実施形態において、ドープを押出しするために用いられる手法は、ゲル押出しである。ポリマー濃度、溶媒濃度、ゲル化媒質およびゲル化時間を変更することにより、本開示が属する分野の当業者によって容易に理解されるような、延伸繊維または膜の所望の特性をもたらすことができる。
【0053】
延伸ポリマー−CNT前駆体繊維は、約100nm〜約100マイクロメートル(μm)の平均直径を有し、約200nm〜約15μmが好ましい。同じように、延伸ポリマー−CNT膜前駆体は、約50nm〜約500μmの平均厚を有し、約100nm〜約100μmが好ましい。延伸ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体において、CNTは、管状であってもよいし、平らでも潰れていてもよい。いくつかの実施形態において、特に、約15nm以下の平均直径を有するCNTを用いるとき、平らかまたは潰れたCNTは、約0.5nm〜約100nmの幅を有するグラファイトシートになるように、解きほぐされていないか、またはほどかれていなくてもよい。
【0054】
延伸工程115の後、延伸ポリマー−CNT繊維または膜は、熱的に安定化される120。安定化120は、通常、熱処理を包含し、ここで、必要に応じて、延伸ポリマー−CNT繊維または膜に応力または張力がかけられうる。熱処理は、酸化性雰囲気において行われる。この酸化性安定化120の間に、アクリロニトリル含有ポリマーは、高い密度を有するポリマーをもたらす化学変化を経る。いくつかの実施形態において、安定化プロセ
スは、アクリロニトリル含有ポリマーの環化を引き起こすと考えられており、それによって「ラダーポリマー」と呼ばれるものが生じる。さらに、いくらかの水素放出および/または酸素吸収が起きうる。
【0055】
一般に、安定化工程120は、約200℃〜約400℃の大気中で行われ、最大36時間継続され、約30秒〜約24時間が好ましい。正確な温度および継続時間は、アクリロニトリル含有ポリマーの組成および延伸ポリマー−CNT繊維の直径または膜の厚さに部分的に左右される。いくつかの実施形態において、熱処理は、多段階の熱処理でありうる。
【0056】
次に、安定化させた繊維または膜を炭化する125。炭化125は、通常、安定化温度よりも高い温度の不活性な環境(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)における熱処理を包含する。この工程は、安定化させた繊維または膜に張力または応力をかけて行うことができる。炭化125の間、安定化させた繊維または膜の炭素含有量は(例えば、90wt%超に)増加し、3次元の炭素構造が形成されうる。これは、一般に熱分解を介して生じる。
【0057】
通常、炭化工程125は、約500℃〜約1800℃で行われる。さらに、継続時間は、最大約2時間であり、約1ミリ秒〜約60分が好ましい。正確な温度および継続時間は、アクリロニトリル含有ポリマーの組成および複合体に存在するCNTの濃度に部分的に左右されうる。例えば、より高い炭化温度を用いると、高い弾性を得ることができる。いくつかの実施形態において、熱処理は、多段階の熱処理でありうる。
【0058】
炭化125の後、繊維または膜を任意の黒鉛化工程130に供してもよい。黒鉛化130は、通常、炭化温度よりも高い温度の不活性な環境における熱処理を包含する。窒素は、炭素と反応して窒化物を形成するので、黒鉛化工程130では窒素を用いない。この工程は、張力または応力をかけて、炭化された繊維または膜を用いて行うことができる。
【0059】
通常、黒鉛化工程130は、約1800℃〜約2800℃で行われる。継続時間は、最大約1時間であり、約1ミリ秒〜約15分が好ましい。正確な温度および継続時間もまた、アクリロニトリル含有ポリマーの組成およびその複合体に存在するCNTの濃度に部分的に左右される。いくつかの実施形態において、熱処理は、多段階の熱処理でありうる。
【0060】
ここでは、CNTおよび/またはグラファイトシートを含む生じた炭素繊維および炭素膜について言及する。先に述べたように、簡潔にするため、および文言の反復を最小限にするために、CNTに対するすべての言及は、CNTの代わりとして用いるかCNTと併せて用いるかに関係なく、グラファイトシートを包含するよう意図されていると拡大して理解されるべきである。いくつかの状況において、明確にするために、最初の説明ではグラファイトシートに対して類似の条件/特性について言及することがあるが、本文の残りの部分では繰り返さない。
【0061】
最終的な炭素繊維は、通常、約50nm〜約50μmの横断面の平均寸法(すなわち、直径)を有し、約100nm〜約10μmが好ましい。最終的な炭素膜は、通常、約25nm〜約250μmの横断面の平均寸法(すなわち、厚さ)を有し、約50nm〜約150μmが好ましい。また、この膜の幅については特に制限はない。繊維または膜の特定の寸法に応じて、膜または繊維は、光透過性でありうる。CNTは、約0.001wt%〜約80wt%の範囲で最終的なポリマー−CNT繊維または膜に存在し、約0.01wt%〜約5wt%が好ましい。
【0062】
例示的な実施形態において、最終的な炭素繊維または炭素膜におけるCNTは、剥離し
ている。すなわち、CNTは、通常、CNTの大きな束またはロープの形態では見られない。そして、グラファイトシートは、通常、積み重ねられたシートの形態では見られない。より詳細には、これらの実施形態において、最終的な炭素繊維または炭素膜におけるCNT(および/またはグラファイトシート)は、個別のナノチューブ(および/またはシート)としてか、または1塊あたり平均10個未満のナノチューブ(および/またはシート)の塊(および/または積み重ね)として存在する。いくつかの実施形態において、その塊は、平均して5個未満のナノチューブである。他の実施形態において、平均3個未満のナノチューブの塊が観察された。理論に拘束するつもりはないが、ナノチューブの剥離は、様々な方法で行われると考えられる。ナノチューブの濃度が上がると、最終的な炭素繊維または炭素膜において形成される束が大きくなることが見出されている。したがって、CNTの剥離は、より低濃度のナノチューブを用いて達成することができる。さらに、延伸工程115中の規則的な延伸または連続した延伸は、CNTのよりよい剥離をもたらすと考えられている。例としては、接触工程105中に、希薄な分散液(例えば、300ミリリットルの溶媒中の、10ミリグラムの直径の小さいCNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと混合した後、延伸工程115中に規則的に延伸することによって、個別に、または平均3個未満のナノチューブの塊の形態のいずれかで存在するCNTを有する炭素繊維を作製することができる。
【0063】
本明細書中に開示されるプロセスの有利な特徴において、黒鉛化工程130は、必要がない。実際のところ、黒鉛化工程がなくても、アクリロニトリル含有ポリマーにCNTが存在することによって、炭化工程125の低温で黒鉛化が誘導される。詳細には、炭化後に、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル(nm)〜約50nm広がっている結晶化黒鉛領域を観察することができる。グラファイトシートに関しては、結晶化黒鉛領域は、各シートの表面から一直線に約0.34ナノメートル(nm)〜約50nm広がりうる。より一般的には、結晶化黒鉛領域は、各CNT(および/またはグラファイトシート)の壁(および/または表面)から放射状に(および/または一直線に)約1nm〜約30nm広がっている。さらに詳細には、結晶化黒鉛領域は、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2nm広がっている。別の言い方をすれば、ポリマー−ナノチューブ混合物中に1wt%のCNTが存在することによって、CNT付近において最大約30%のポリマーの反応性に影響があった。これらの結果は、本発明のプロセスの炭化工程125が低温であることを考えると、かなり驚くべきことである。
【0064】
さらに、安定化、炭化および任意の黒鉛化の工程のうちの1つ以上の間に繊維または膜に対して張力をかけることも、CNTを取り囲む黒鉛領域の結晶化に寄与すると考えられている。したがって、例示的な実施形態において、これらの工程の各々の間に、張力が繊維または膜にかけられる。
【0065】
本明細書中に開示されるプロセスの別の有利な特徴において、延伸繊維または膜の安定化および炭化(および必要に応じて黒鉛化)によって、高い引張係数および引張強度を有する炭素繊維または炭素膜が作製される。一般に、同じ手順を用いて作製されたがいかなるCNTも含んでいない炭素繊維または炭素膜と比べて、少なくとも0.5ギガパスカル(GPa)の引張強度の増加および少なくとも50GPaの引張係数の増加が、ポリマー−ナノチューブ混合物中に約1wt%のCNTを加えることによって達成されうる。繊維または膜について、3GPaまでの引張強度の改善またはそれ以上の改善および200GPaまでの引張係数の改善またはそれ以上の改善が、ポリマー−ナノチューブ混合物中に約1wt%のCNTを加えることによって達成されうる(この場合もまた、同じ手順を用いて作製されたがいななるCNTも含まない炭素繊維または炭素膜と比べて)。1つの繊維の例では、0.7GPa(0.4N/tex)の引張強度の増加および77GPa(43N/tex)の引張係数の増加が、約1wt%のCNTを有し、かつ約13μmの平均繊維直径を有するポリアクリロニトリル系炭素繊維について達成された。別の繊維の例で
は、1.2GPa(0.7N/tex)の引張強度の増加および148GPa(82N/tex)の引張係数の増加が、約1wt%のCNTを有し、かつ約6μmの平均繊維直径を有するポリアクリロニトリル系炭素繊維について達成された。
【0066】
最終的な炭素繊維または炭素膜は、約10GPaまでの引張強度またはそれ以上の引張強度、および約750GPaまでの引張係数またはそれ以上の引張係数を有しうる。例えば、ゲル押出しによってPANおよびCNTから作製された、炭化された炭素繊維は、黒鉛化工程を行わずに、約6GPaの引張強度および約600GPaの引張係数を示しうる。さらに、引張強度よりも高い圧縮強度を有する炭素繊維または炭素膜を得ることも可能である。
【0067】
本発明の炭素繊維または炭素膜において観察される別の改善点としては、改善された電気伝導率が挙げられる。本明細書中に記載されるプロセスを用いて作製された炭素繊維または炭素膜の電気伝導率は、CNTを含んでいない炭素繊維または炭素膜と比べて、少なくとも約25パーセント高い場合がある。1つの例において、伝導率は、50パーセント超上昇した。さらに、いくつかの実施形態において、CNTを含んでいない炭素繊維または炭素膜の2倍、5倍またはさらには10倍を超える伝導率を達成することができる。
【0068】
本発明の様々な実施形態を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例1】
【0069】
実施例
実施例1:ゲル紡糸されたPAN/CNT複合繊維における剥離および配向したCNT
本実施例では、様々なレベルのCNTを有するゲル紡糸されたPAN/CNT繊維を作製し、特徴付けた。
【0070】
2.5×105g/molの粘度平均分子量を有するPANのポリ(アクリロニトリル−コ−アクリル酸メチル)コポリマーをJapan Exlan Company,Ltd.から入手した。そのPANコポリマーを、1H NMRを用いて特徴付けしたところ、約6.7mol%のアクリル酸メチルを含んでいた。約2nmの平均直径を有する単層炭素ナノチューブと2層炭素ナノチューブとの混合物をCarbon Nanotechnologies,Inc.(Houston,TX)から入手した。大気中での熱重量分析(TGA)に基づくと、本研究に用いられたCNTは、1wt%未満の金属不純物を含んでいた。明視野透過型電子顕微鏡検査から、CNT束の直径が100nmであることが明らかになった。Sigma−Aldrich,Co.製のジメチルホルムアミド(DMF)を、受け取ったまま用いた。
【0071】
室温での24時間にわたるバス超音波処理(Branson 3510R−MT,100W,42kHz)によって、CNTをDMFに40mg/Lの濃度で分散させた。PAN(15g)を真空中、100℃で乾燥させ、80℃のDMF(100mL)に溶解した。光学的に均質なCNT/DMF分散液をPAN/DMF溶液に加えた。過剰量の溶媒を、撹拌しながら80℃における真空蒸留によって蒸発させることにより、所望の溶液濃度(15gの固体(PANC+CNT)/100mLの溶媒)を得た。同様に、ポリマーに対して0、0.5および1wt%のCNT濃度が得られるように他の溶液を調製した。そのPAN/DMFおよびPAN/CNT/DMF溶液を、110℃において直径が500μmの1穴紡糸口金を用いて、−50℃に維持されたメタノール浴中に31.4m/分で紡糸した。紡糸口金とメタノール浴とのエアギャップは、約2cmであった。紡糸したままの繊維を100m/分で巻き取り、メタノール浴(−20〜−40℃に維持されている)中に1週間浸漬することにより、確実にゲル化させた。結果として、紡糸したままの繊維の延伸比は、3.2であった。そのゲル繊維を、グリセロール浴中で160℃において
さらに延伸させた(7〜16の延伸比)後、エタノールで洗浄し、40℃で3日間真空乾燥させた。総延伸比(紡糸延伸比に後の延伸比を乗することによって決定される)は、51であった。
【0072】
Leitz偏光顕微鏡を用いて、光学顕微鏡検査を行った。SEE1100顕微分光計を用いて、溶液および様々な繊維におけるUV−visスペクトルを得た。25mmのゲージ長および0.25mm/sのクロスヘッド速度でRSAIII固体分析計(Rheometric Scientific,Co.)を用いて、単一フィラメントの引張特性を測定した。各サンプルについて、15本のフィラメントを検査した。25mmのゲージ長を用い、10本のフィラメントの束に対して1℃/分の加熱速度で、0.1、1および10HzにおいてRSAIIIを用いて動的機械試験も行った。偏光子と分析計とが互いに平行に備えられた(vvモード)、785nm励起レーザを使用するKaiser Optical System製のHoloprobe Research 785 Raman Microscopeを用いて、後方散乱配置でラマンスペクトルを得た。偏光方向から0、5、10、20、30、40、50、60、70、80、85および90°の繊維軸を用いてスペクトルを得た。様々な偏光角におけるタンジェンシャルバンド(tangential band)(約1590cm−1)のピーク強度から、複合繊維におけるCNTの配向度を決定した。Rigaku R−axis IV++検出システムを用いて、Rigaku Micromax−007(λ=1.5418Å)におけるマルチフィラメント束に対するWAXDパターンを得た。その回折パターンを、AreaMax V.1.00およびMDI Jade6.1を用いて解析した。2θが約17°における回折ピークの方位角走査から、PAN分子の配向度を決定した。統合走査(integrated scan)およびデコンボリューションされたピークの面積を用いて、結晶化度を決定した。ベースライン減算のために、直線を2θ=10〜50°に延ばした。Scherrer方程式(κ=0.9)を用いて、2θが約17°における赤道線ピークからPAN結晶サイズも決定した。金でコーティングしたサンプルについて、繊維の引張破壊表面を走査型電子顕微鏡検査(18kVで操作するLEO1530SEM)によって観察した。Hitachi HF−2000(200kVで操作)を用いて、透過型電子顕微鏡検査による研究を行った。TEM試料を調製するために、1wt%CNTを含むPAN/CNT複合繊維(延伸比51)をDMF中にて150℃で30分間加熱した。潰れた微小繊維をレース状炭素TEMグリッド上に回収した。蒸着アルミニウム標準(cat#80044,EMS,Co.)を用いて、TEMビームアライメントおよび無非点収差補正(stigmation correction)を行った。
【0073】
PANおよびPAN/CNT(1wt%)繊維についてのWAXD写真、ならびに統合走査像および赤道線2θ走査像を得た。いくつかの延伸比におけるコントロールPAN繊維および完全に延伸された複合繊維についてのX線研究から、様々な構造パラメータを測定した。2θが約17および30°における赤道線ピークは、延伸比が大きくなるにつれてより大きい角度にシフトし、その結果、引き延ばすにつれてPAN分子の横方向の寸法が小さくなるように、充填が密になる。完全に延伸された繊維の赤道面間隔d(equatorial d−spacing)は、CNTが組み込まれるとさらに小さくなった。紡糸したままのPANサンプルについてのこれらの2つの赤道面間隔dの比(1.705)は、六方充填に対する値(3の平方根、すなわち1.732である)よりも有意に小さい。延伸すると、この比は、コントロールPANならびにPAN/CNT複合体の両方において、1.732の六方充填値に近づく。延伸比の関数としての、ゲル紡糸されたコントロールPANについての間隔dの縮小は、予想通りであった。
【0074】
延伸比が大きくなると、平面ジグザグ状配列は増加する可能性があるが、結晶中のらせん状配列は減少する。この立体配座の差は、子午線ピークから観察された。通常、PANの子午線ピークは、それぞれ平面ジグザグ状配列およびらせん状配列を生じる、2θ=3
6および40°の2ピークにデコンボリューションされうる。コントロールPANおよび本研究におけるPAN/CNT複合体は、2つのピークを現わさなかった。しかしながら、延伸比が大きくなるにつれ、ならびにCNTが組み込まれると、より小さい角度にピーク位置がシフトしたことから、平面ジグザグ状配列が増加する傾向が示唆される。延伸比が大きくなると、結晶化度、配向度および結晶サイズも大きくなった。複合繊維は、同じ延伸比(延伸比51)のコントロール繊維よりも、わずかに高い結晶化度、ポリマー配向度および多少小さい結晶サイズを示した。引張破壊された繊維表面の走査型電子顕微鏡像は、コントロールと複合繊維の両方が微小繊維状の構造を呈することを示している。PAN/CNT(1wt%)繊維の明視野高分解能透過型電子顕微鏡像は、整列および剥離したCNTを示している。PAN結晶格子(0.52nm間隔)もCNT近傍で観察することができる。
【0075】
剥離したSWNTは、van Hove遷移を示すが、CNT束においてはこれらの遷移は抑制される。DMFを蒸発させる前の希薄なPAN/CNT/DMF溶液は、van
Hove遷移を示したことから、溶液中でのCNT剥離が示唆される。しかしながら、紡糸したままのゲル繊維は、van Hove遷移を示さなかったことから、処理中にCNTが再凝集したことが示唆される。32という中間の延伸比を有する複合繊維は、これらの遷移も示さなかった。しかしながら、完全に延伸された複合繊維(延伸比51)もvan Hove遷移を示したことから、CNTの剥離が延伸中に生じたことが示唆される。CNTの剥離プロセスの概略図も図2に示す。
【0076】
繊維軸に対して平行および垂直の偏光での、約1592cm−1におけるGバンド強度比を、上記複合体およびCNT繊維におけるCNT配向度の基準とする。偏光子と繊維軸との角度が0および90°であるときのGバンドラマンスペクトルを図3に示し、そこからPAN/CNT複合繊維(1wt%CNT、延伸比51)についてのラマンGバンド比を測定したところ、この特定のサンプルについては42であった。これは、より高い比を達成することができないということを言っているのではない。
【0077】
繊維の引張特性も得た。1wt%のCNTを加えると、室温での係数は、6.6GPa(PANに対する22.1GPaからPAN/CNTに対する28.7GPaに)上昇した。複合繊維におけるPANの係数が、ゲル紡糸されたコントロールのPANにおける係数と同じであると仮定して、配向因子が0.915である完全に剥離したCNTを含むPAN/CNT複合体の係数をプロットした。CNT配向度が理想的なものであると仮定して複合繊維の係数を計算し、観察された係数の値もプロットした。観察された複合繊維の係数は、予測された仮定の理想的なCNT配向度と同じであった。しかしながら、観察されたCNTの配向を考慮に入れると、実験から得られた係数は、予測値よりも高いことがわかる。このことは、CNTが組み込まれたPANマトリックスの係数の変化を示唆している。これは、複合繊維ではPANの結晶化度および配向度がわずかに高くなることと一致する。
【実施例2】
【0078】
実施例2:安定化および炭化されたゲル紡糸PANおよびPAN/CNT複合繊維
本実施例では、平均直径が2nmの単層炭素ナノチューブと2層炭素ナノチューブとの様々なレベルの混合物を有する、安定化および炭化された、ゲル紡糸PAN/CNT繊維を作製し、特徴付けた。先の実施例1に記載したように、ゲル紡糸によって、PANおよびPAN/CNT複合繊維を処理した。
【0079】
安定化のために、ゲル紡糸された繊維を、図4に示されるように2つの炭素鋼ブロックの間に固定し、石英の棒の上に引っ掛けた。様々な応力レベル(0.025、0.017、0.009および0.006N/tex、ここで、応力は、前駆体繊維の線密度に基づ
く)で、箱形炉(Lindberg,51668−HR Box Furnace1200C,Blue M Electric)内で大気中で安定化を行った。その繊維を、大気中で1℃/分の加熱速度で室温から285℃に加熱し、285℃で10時間保持した後、1℃/分の加熱速度で330℃まで加熱し、330℃で3時間保持した。安定化された繊維を数時間かけて室温まで冷却した。続いて、安定化されたPANおよびPAN/CNT繊維を、5℃/分の速度で室温から加熱し、様々な応力レベル(0.025、0.017、0.009および0.006N/tex)で1100℃で5分間保持することによって、アルゴン中で炭化させた。最初の研究において、前駆体繊維の直径は、約20〜約23μmであったが、最終的には、約12〜約13μmの直径の炭素繊維(大直径繊維とも呼ばれる)が得られた。繊維の直径を小さくするにつれ、高い引張強度を得ることができるので、約12μmの直径を有するPANおよびPAN/CNT(99/1)繊維もゲル紡糸した。これらの繊維から、直径が約6μmの炭素繊維(小直径繊維とも呼ばれる)が得られた。
【0080】
ゲル紡糸されたPANおよびPAN/CNT(99/1)繊維の引張特性および構造パラメータを表1に列挙した。示されるように、PAN/CNT前駆体繊維は、コントロールのPAN繊維よりも適度に高い結晶方位および結晶化度、ならびに小さい結晶サイズを示す。複合繊維におけるCNT配向度(fCNT)は、ラマンGバンドを用いて0.904であると決定された。
【0081】
【表1】
【0082】
大気下のPANおよびPAN/CNT繊維のDSCサーモグラムから、安定化中に放出された複合繊維中の熱は、コントロール繊維の熱より小さいことが明らかになった。このことは、CNTが存在することによって、PANの安定化反応が妨げられることを示唆している。結果として、比較的長い時間の安定化を行った。CNTは、PANと良好な相互作用を有する。結果として、CNT近傍のPANは、DMFに不溶になる。このDSC研究から、PAN−CNT相互作用の結果として、CNT近傍のPANが、CNTを含んでいないPANよりも熱安定性が高いことが示唆される。これにより、コントロールPANと比べてPAN/CNT繊維に対する安定化熱が低いことが説明される。PANは、3回目の加熱サイクル中には発熱を示さないが、PAN/CNT(99/1)繊維は、依然と
して約30J/gの安定化反応熱を示す。このことから、PAN/CNTの安定化がなおも継続していることが示唆される一方で、PANの安定化は、3回目の加熱サイクル中には(DSCでは)観察できなかった。
【0083】
応力有りおよび無しで安定化された繊維の赤外スペクトルを得た。応力無しでの安定化は、30分間にわたって熱重量分析器(TGA)において大気中で行った。様々なニトリル基の化学構造を以下に示す。
【0084】
【化1】
【0085】
共役ニトリル基(b)は、PANを脱水素することによって生成させることができ、β−アミノニトリル基(c)は、環化反応の終結に起因して形成されうる。環化の終結は、4〜5個のPAN繰り返し単位ごとに生じると考えられており、それは、らせん立体配座の結果である。ゆえに、繊維における平面ジグザグ状の立体配座が多くなると、環化の終結の間隙が大きくなると予想される。鎖の切断は、環化終結中に生じうる。理論に拘束するつもりはないが、それゆえ、繊維に含まれる平面ジグザグ状立体配座が多くなると、鎖の切断が生じる頻度は低くなり、したがって欠陥も少なくなり、最終的には生じる炭素繊維の引張強度に影響を及ぼしうると考えられている。PAN/CNTゲル繊維は、PAN繊維よりも多くの平面ジグザグ状配列を有する。この違いが、安定化に影響を及ぼしうる。様々な種類のニトリル基のピーク位置は公知であるので、ピーク位置を変化させずに、かつ、ピークの幅および強度を変化させることによって、ニトリルスペクトルを一致させた。応力をかけながら安定化されたPAN/CNTには、同じ条件下で安定化されたコントロールPANよりも多くの未反応ニトリル基(a)が存在し、また、応力を大きくすると、FTIRピークの相対面積によって判断した場合に、未反応基の量が増加した。したがって、CNTならびに応力が存在すると、安定化反応が妨げられるように思われるであろう。応力をかけながら炉内で安定化されたPAN/CNTサンプルは、同じ条件下で安定化されたコントロールPANよりも共役ニトリルが有意に多く、β−アミノニトリルが有意に少ないことを示した。PAN/CNTの安定化された構造は、主に共役ニトリルを含むが、PANでは主にβ−アミノニトリルである。このことはさらに、CNTがPAN分子を拘束するので、先に述べたように環化の程度が高くなることを示唆しているとみられる。
【0086】
相間領域に存在するPAN分子は、マトリックスに存在するものよりも配向度が高い。
図5に示されるように、PAN/CNT複合繊維は、安定化および炭化の後でさえも、微小繊維状の構造を示す。炭化された複合繊維は、脆性である炭素マトリックス内に埋め込まれたナノフィブリルを含む。ナノフィブリルは、十分に発達した黒鉛構造に取り囲まれたCNTを含んでいると考えられている。相間領域に存在する炭化されているときのPAN分子は、十分に規則正しい黒鉛を形成するが、この炭化温度でのPANマトリックスは、大部分が不規則炭素または無定形炭素である。この結果は、図6に図示されている。
【0087】
図7(a)に示される、炭化されたPAN繊維のラマンスペクトルは、強いディスオーダーバンド(約1300cm−1)を示し、安定化および炭化中の応力を上げると、黒鉛Gバンド(約1580cm−1)に対する肩を示し始める。一方、炭化されたPAN/CNT繊維は、小さい応力で安定化および炭化されたときでさえ、図7(b)のラマンスペクトルに示されるような異なるGバンドを示す。応力が大きくなるにつれてGバンドの強度が大きくなることから、応力が黒鉛化を誘導したことが確認される。ラマン観察結果は、炭化されたPANについてはそれほど秩序のない炭素、および炭化されたPAN/CNTについては十分に秩序のある炭素を示す高分解能透過型電子顕微鏡観察と一致する。また、炭化されたPAN/CNT繊維におけるGバンドはCNTに起因しないことも留意すべきである。CNTは、共鳴のおかげで、図8に示されるような非常に強い強度のGバンドをもたらす。安定化および炭化された繊維では、安定化および炭化されたPANの生成物によってレーザが吸収され、CNTのスペクトルが打ち消される。
【0088】
PAN系繊維は、典型的には、炭化後に不規則炭素をもたらす。黒鉛構造を成長させるために、典型的には、典型的な炭化工程よりも高い温度でPAN系繊維を加熱処理する。例えば、黒鉛構造を成長させるために、PAN系繊維を約2500〜約3000℃で加熱処理することができる。1100℃という比較的低い炭化温度でのPAN/CNTにおける黒鉛構造の成長(ラマンGバンドおよび高分解能透過型電子顕微鏡によって証明される)は、CNTが存在することによって、PANの安定化が影響を受けるだけでなく、比較的低い炭化温度でより多くの黒鉛構造がもたらされることを示唆する。
【0089】
前駆体、安定化された繊維および炭化された繊維についてのWAXDパターンおよび統合走査像を得た。安定化および炭化されたPAN/CNT繊維では、それぞれのコントロール繊維よりも高い配向度および大きい結晶サイズが観察された。安定化および炭化中に適用される応力が大きくなるにつれて、配向度および結晶サイズも増大した。
【0090】
表2のデータに示されるように、安定化されたPAN/CNT繊維の引張係数は、安定化されたPAN繊維よりも約26%高かったが、この2つの繊維の引張強度および破壊に至る歪み(strain to failure)は、ほとんど同程度であった。安定化中の応力が大きいほど、係数および引張強度が大きかった。安定化中に適用される応力が大きいほど、繊維の収縮は、小さくなる。所与の応力下では、PANよりもPAN/CNTにおいて小さい収縮が観察される。その収縮データは、安定化の前後における繊維の長さの測定に基づくものである。
【0091】
【表2】
【0092】
表3のデータによって示唆されるように、炭化されたPAN/CNT繊維は、同じ条件下で処理されたコントロールPAN繊維よりも大きい引張強度および引張係数を示す。1wt%CNTを加えることにより、小直径炭素繊維については、引張強度が64%増加し、係数が49%増加した。炭化されたPANよりも炭化されたPAN/CNTの係数が実質的に大きいのは、配向度および黒鉛の秩序がより高いことが原因である。比較のため、市販の炭素繊維の引張特性も表3に列挙する。示されるように、炭化された小直径PAN/CNT(99/1)繊維の引張係数は、PAN系T300およびIM8繊維よりも大きい。試験的なPAN/CNT繊維の引張強度および引張係数は、プロセスを最適化することによってさらに改善することができる。
【0093】
【表3】
【0094】
本実施例では、ゲル紡糸されたPANおよびPAN/CNT複合繊維を、様々な応力を用いて、安定化および炭化した。DSCにより、PANよりも酸化的安定化を受けたPAN/CNT繊維において有意に低い発熱が示され、このことから、CNTが存在することによって、PANの反応性が妨げられることが示唆される。赤外分光法により、応力を受けながら長時間安定化された後でさえも、PAN/CNT繊維は、同等に安定化されたPANよりも多くの未反応ニトリルを含んでいたことが示された。安定化されたPAN/CNTの構造は、主に共役ニトリルから構成されているとみられたが、安定化されたPANでは、主にβ−アミノニトリルから構成されているとみられた。安定化および炭化されたPAN/CNTにおいて微小繊維状構造が観察された一方で、対応するPAN繊維は、脆性破壊を示した。CNTのすぐ近くにおいて炭化されたPANは、延性である一方で、炭素ナノチューブからより遠くで炭化されているか、または炭素ナノチューブを含まないPANは、脆性である。炭化されたPAN/CNT繊維は、同様の条件下で炭化されたPANよりも、配向性がわずかに高く、黒鉛間隔dが小さく、結晶サイズが大きい。応力をかけて1100℃で炭化されたPAN/CNTは、黒鉛構造の発達を示す(ラマン顕微鏡および高分解能透過型電子顕微鏡によって証明されるように)が、炭化されたPANは、不規則炭素の存在だけを示した。1wt%のCNTを含んでいる小直径の炭化されたPAN/CNT繊維は、対応する炭化されたPANよりも64%大きい引張強度および49%大きい引張係数を示した。
【実施例3】
【0095】
実施例3:ゲル紡糸されたPAN/MWNT(99/1)繊維からの炭素繊維の作製
本実施例では、1wt%MWNTを有する、ゲル紡糸されたPAN/多層炭素ナノチュ
ーブ(MWNT)繊維を作製し、特徴付けた。MWNTは、約20nmの平均直径を有していた。MWNTを用いることを除いて、先の実施例1に記載したものと同様に、PANおよびPAN/NT複合繊維をゲル紡糸によって処理した。紡糸速度、延伸比などのわずかな変動が許された。
【0096】
260分間にわたって室温から約285℃に温度を上昇させ、約285℃で約4時間加熱する工程と、その後の約45分間にわたって約330℃にさらに上昇させ、次いで330℃で約2時間加熱する工程とからなる2工程の加熱プロファイルを用いて、前駆体繊維を大気下で安定化させた。安定化された繊維を約5分間、アルゴン下、約1200℃において炭化した。約10μm〜約12μmであったその前駆体繊維の直径に基づいて、安定化工程および炭化工程中に繊維に適用された応力は、約0.006N/texであった。
【0097】
得られた炭素繊維の機械的特性を測定した。PAN/MWNT(99/1)系炭素繊維の線密度は、約0.044texであった。引張強度および引張係数は、それぞれ約1.67N/texおよび約201N/texであった。最後に、破壊に至る歪みは、約0.85%と測定された。
【0098】
本明細書中に開示される特定の調合、プロセス工程および材料は、多少変更してもよいので、本発明の実施形態は、そのような調合、プロセス工程および材料に限定されない。さらに、本明細書中で使用される用語は、例示的な実施形態のみを説明する目的で使用され、本発明の様々な実施形態の範囲は、添付の請求項およびそれらの等価物によってのみ限定されるので、それらの用語は、限定の意図はない。用いられる特定の材料に応じて、例えば、温度、応力および時間パラメータを変更してもよい。
【0099】
ゆえに、例示的な実施形態を特に参照して本開示の実施形態を詳細に説明してきたが、当業者は、添付の請求項に定義されているような本開示の範囲内で変更および改変を行うことができることを理解するだろう。したがって、本発明の様々な実施形態の範囲は、先に記述した実施形態に限定されるべきではなく、以下の請求項およびすべての等価物によってのみ定義されるべきである。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年1月30日出願の米国仮特許出願番号60/887,175(その全体は、以下に完全に説明するのと同様に、本明細書中に参照によって組み込まれる)の利益を主張する。
【0002】
連邦支援の研究に関する声明
本発明は、助成金番号FA9550−06−1−0122およびFA9550−07−1−0233(この両方は、空軍科学研究局(Air Force Office of
Scientific Research)によって授与されたものである)のもと米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明の一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明の様々な実施形態は、概して、炭素繊維および炭素膜、ならびにより詳細には、アクリロニトリル含有ポリマーから形成される炭素繊維および炭素膜、ならびに炭素繊維および炭素膜の作製方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
アクリロニトリルを含有するポリマーは、織物、絨毯および炭素繊維などに応用される繊維に使用される重要な工業用ポリマーである。ポリアクリロニトリルコポリマーから作製される高性能アクリル繊維は、1つにはポリアクリロニトリル系炭素繊維が良好な伸張性および圧縮特性を示すという理由で、現在、炭素繊維用のすぐれた前駆体である。さらに、ポリアクリロニトリル系炭素繊維の炭素収率は、かなり高い場合がある。
【0005】
CNTは、各層における黒鉛構造および整列が理想的であることから、ひときわすぐれた工学的特性(例えば、高い引張強度、高弾性ならびに高熱伝導率および高電気伝導率)および軽重量が得られるので、究極の炭素繊維であると考えられる。しかしながら、これらの特性をより大きな構造に移すことは、困難であった。他の材料へのCNTの組み込みにおける初期の問題点は、ナノチューブを分散させることができないことに原因があった。炭素ナノチューブの分散に関連するこれらの問題は、非常に一般的な溶媒への不溶性、およびそれらが一緒になってCNT束になり、ファンデルワールス力によって共に堅固に保持される傾向が大きな原因である。
【0006】
近年、ナノチューブ含有ポリマー複合体、および特に、単層炭素ナノチューブ(SWNT)(ここで、SWNTは、その複合体において十分に分散される)を含む炭素繊維を作製する方法が開発されてきた。例えば、米国特許第6,852,410号(その全内容は、以下に完全に説明するのと同様に、本明細書中に参照によって組み込まれる)は、そのような方法を開示している。これらの方法は、他の改善点の中でも、高い引張係数および引張強度を複合繊維に与える。しかしながら、新しい応用法が開拓され続けると、それに伴って材料を改善していく必要もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、高い引張係数および引張強度を示す新規な炭素繊維および炭素膜が必要とされている。また、炭素繊維および炭素膜を作製する新しい方法も必要とされている。そのような材料および方法の提供こそが、本発明の様々な実施形態が対象にしているもので
ある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
簡単な要旨
本発明の様々な実施形態は、炭素繊維および炭素膜、ならびに炭素繊維および炭素膜を作製する方法に関する。高強度で高弾性な繊維および膜は、種々の用途において有用であり、その用途としては、材料の補強(例えば、タイヤコードおよびセメントにおいて)、航空機の部品、高性能の乗物(例えば、フォーミュラワンレース用自動車およびオートバイ)用の本体パネル、スポーツ用品(例えば、自転車、ゴルフクラブ、テニスラケットおよびスキー板)および要求の厳しい他の機械的用途が挙げられるが、これらに限定されない。これらの炭素膜および炭素繊維は、その電気伝導性および熱伝導性のおかげで、電子デバイス、燃料電池、電気化学キャパシタなどにおける用途も見出すことができる。
【0009】
大まかに説明すると、本発明の様々な実施形態の炭素繊維を作製する方法は、アクリロニトリル含有ポリマーをゲル押出し(gel−extruding)することにより、ポリマー繊維前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー繊維を形成せしめる工程、および該延伸ポリマー繊維を安定化せしめる工程を包含する。安定化工程は、張力をかけて、および/または酸化環境において、および/または約36時間以下にわたり摂氏約200度〜摂氏約400度において、達成することができる。
【0010】
上記方法は、安定化させたポリマー繊維を炭化する工程も包含しうる。炭化工程は、張力をかけて、および/または不活性な環境において、および/または約2時間以下にわたり摂氏約500度〜摂氏約1800度において、達成することができる。さらに上記方法は、炭化されたポリマー繊維を黒鉛化する工程も含みうる。黒鉛化工程は、張力をかけて、および/または窒素非含有の不活性な環境において、および/または約1時間以下にわたり摂氏約1800度〜摂氏約2800度において、達成することができる。
【0011】
延伸した後、該延伸ポリマー繊維は、約100ナノメートル〜約100マイクロメートルの平均直径を有しうる。最終的な炭素繊維は、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を有しうる。
【0012】
本発明の様々な他の実施形態は、炭素ナノチューブ(CNT)を含む炭素繊維または炭素膜を作製する方法に関する。これらの方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程、該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維または膜を形成せしめる工程、および該延伸ポリマー−CNT繊維または膜を安定化せしめる工程を包含する。これらの方法は、該安定化させたポリマー−CNT繊維もしくは膜を炭化する工程、および/または炭化されたポリマー−CNT繊維もしくは膜を黒鉛化する工程も含みうる。そのような方法によって、CNTを含まない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも50%高い電気伝導率を示す炭素繊維または炭素膜を作製することができる。
【0013】
特定の実施形態において、CNTとしては、単層ナノチューブ、2層ナノチューブ、3層ナノチューブ、または前述の種類のCNTのうちの2つ以上を有する組み合わせが挙げられうる。いくつかの実施形態において、CNTは、約0.5ナノメートル〜約100ナノメートルの平均直径を有する。他の実施形態において、CNTは、約10ナノメートル以下の平均直径を有する。CNTはまた、約10ナノメートル以上の平均長も有しうる。CNTは、ドープの総重量に基づいて、ドープの約0.001重量パーセント〜約40重
量パーセントを占めうる。同様に、CNTは、炭素繊維または炭素膜の総重量に基づいて、最終的な炭素繊維または炭素膜の約0.001重量パーセント〜80約重量パーセントを構成しうる。
【0014】
いくつかの実施形態において、最終的な炭素繊維または炭素膜におけるCNTは、剥離している。炭素繊維または炭素膜は、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛(crystallized graphitic)領域を有しうる。いくつかの実施形態において、結晶化黒鉛領域は、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている。
【0015】
CNTを含む炭素繊維または炭素膜を作製する他の方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程、該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維または膜を形成せしめる工程、該延伸ポリマー−CNT繊維または膜を安定化せしめる工程、および各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を有する炭素繊維を作製するために、該安定化させた繊維または膜を炭化する工程を包含しうる。そのような方法は、炭化されたポリマー−CNT繊維または膜を黒鉛化する工程も包含しうる。
【0016】
CNTを含む炭素繊維または炭素膜を作製する他の方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程(該ポリマー−CNTドープは、ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む)、該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維または膜を形成せしめる工程、該延伸ポリマー−CNT繊維または膜を安定化せしめる工程、およびCNTなしで作製された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも0.5GPa大きい引張強度を有する炭素繊維または炭素膜を作製するのに有効な、安定化させた繊維を炭化する工程を包含しうる。該炭素繊維または炭素膜は、CNTなしで作製された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも50GPa大きい引張係数を有しうる。そのような方法は、炭化されたポリマー−CNT繊維または膜を黒鉛化する工程も包含しうる。
【0017】
CNTを含む炭素繊維を作製するさらに他の方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程(該ポリマー−CNTドープは、ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む)、該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程、延伸ポリマー−CNT繊維を、大気中で張力をかけて安定化せしめる工程、およびCNTなしで作製された炭素繊維よりも少なくとも0.7GPa大きい引張強度および少なくとも77GPa大きい引張係数を有する炭素繊維を作製するのに有効な、安定化させた繊維を不活性な環境において張力をかけて炭化する工程を包含する。これらの方法は、炭化されたポリマー−CNT繊維を黒鉛化する工程も包含しうる。
【0018】
CNTを含む炭素繊維を作製するさらに他の方法において、この方法は、CNTをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程(該ポリマー−CNTドープは、ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む)、該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することに
より、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程、該延伸ポリマー−CNT繊維を、大気中で張力をかけて安定化せしめる工程、および約10マイクロメートル以下の平均直径を有する炭素繊維を作製するのに有効な、安定化させた繊維を不活性な環境において張力をかけて炭化する工程を包含する。これらの方法は、炭化されたポリマー−CNT繊維を黒鉛化する工程も含みうる。
【0019】
本発明の様々な他の実施形態は、グラファイトシートを含む炭素繊維または炭素膜を作製する方法に関する。これらの方法は、グラファイトシートをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−グラファイトシートドープを形成せしめる工程、該ポリマー−グラファイトシートドープを押出しして、ポリマー−グラファイトシート繊維前駆体または膜前駆体を形成せしめる工程、該ポリマー−グラファイトシート繊維前駆体または膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−グラファイトシート繊維または膜を形成せしめる工程、および該延伸ポリマー−グラファイトシート繊維または膜を安定化せしめる工程を包含する。これらの方法は、安定化させたポリマー−グラファイトシート繊維もしくは膜を炭化する工程および/または炭化されたポリマー−グラファイトシート繊維もしくは膜を黒鉛化する工程も包含しうる。
【0020】
本発明の様々な他の実施形態は、炭素繊維または炭素膜に関する。該炭素繊維または炭素膜は、CNTおよびアクリロニトリル含有ポリマーから形成されうる。これらの炭素繊維は、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を有し、炭素膜は、約25ナノメートル〜約250マイクロメートルの平均厚を有する。該炭素繊維または炭素膜において、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域が見られる。いくつかの実施形態において、結晶化黒鉛領域は、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている。上記炭素繊維または炭素膜は、剥離したCNTを有しうる。上記炭素繊維または炭素膜は、CNTを含んでいない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を示しうる。いくつかの実施形態では、上記繊維または膜は、その特定の寸法に応じて光透過性でありうる。
【0021】
本炭素繊維または炭素膜は、CNTなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約0.5GPa大きい引張強度を有しうる。いくつかの実施形態において、本炭素繊維の引張強度は、CNTなしで形成された炭素繊維よりも少なくとも0.7GPa大きい。本炭素繊維または炭素膜は、CNTなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約50GPa大きい引張係数を有しうる。いくつかの実施形態において、本炭素繊維の引張係数は、CNTなしで形成された炭素繊維よりも少なくとも77GPa大きい。他の実施形態において、本炭素繊維は、CNTなしで作製された炭素繊維よりも少なくとも1.2GPa大きい引張強度および少なくとも148GPa大きい引張係数を有する。
【0022】
本発明の様々な他の実施形態は、炭素繊維または炭素膜に関する。該炭素繊維または炭素膜は、グラファイトシートおよびアクリロニトリル含有ポリマーから形成されうる。これらの炭素繊維は、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を有し、炭素膜は、約25ナノメートル〜約250マイクロメートルの平均厚を有する。本炭素繊維または炭素膜において、グラファイトシートから放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域が見られる。いくつかの実施形態において、結晶化黒鉛領域は、各グラファイトシートから放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている。本炭素繊維または炭素膜は、剥離したグラファイトシートを有しうる。本炭素繊維または炭素膜は、グラファイトシートを含まない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を示しうる。いくつかの実施形態では、上記繊維または膜は、その特定の寸法に応じて光透過性でありうる。
【0023】
本発明の実施形態の他の態様および特徴は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を検討することによって当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1(a)】図1(a)は、本発明のいくつかの実施形態に従って炭素繊維または炭素膜を作製するための方法を説明するプロセスの流れ図である。
【図1(b)】図1(b)は、本発明のいくつかの実施形態に従って炭素繊維または炭素膜を作製するための方法を説明するプロセスの流れ図である。
【図2】図2は、1wt%のCNTサンプルについて、様々な延伸比のPAN/CNT繊維におけるUV−Visスペクトルおよび炭素ナノチューブの配向の略図を含む。
【図3】図3は、偏光子と繊維軸との角度が0°および90°であるときの延伸PAN/CNT(1wt%)繊維についてのGバンドラマンスペクトルを含む。
【図4】図4は、安定化および炭化中に、ゲル紡糸されたPAN/CNT繊維に応力または張力をかけるための装置の略図である。
【図5】図5(a)〜(d)は、大きい直径の(a)安定化されたPANおよび(b)安定化されたPAN/CNT(99/1)繊維、ならびに(c)炭化PANおよび(d)炭化PAN/CNT(99/1)繊維についての走査型電子顕微鏡(SEM)像を含む。
【図6】図6は、(b)PAN/CNT系の炭素繊維構造の略図、ならびに(a)および(c)〜(f)炭化PAN/CNT(99/1)繊維の様々な領域および(g)炭化PANの高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)像を含む。
【図7(a)】図7(a)は、炭化PAN繊維についての、安定化および炭化中に適用された応力の関数としての、785nmレーザを用いたときのラマンスペクトルを含む。
【図7(b)】図7(b)は、炭化PAN/CNT(99/1)繊維についての、安定化および炭化中に適用された応力の関数としての、785nmレーザを用いたときのラマンスペクトルを含む。
【図8】図8は、785nmレーザを用いたときの、ゲル押出しされたPAN/CNT(99/1)繊維前駆体のGバンドラマンスペクトルを含む。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
ここでは、図面を参照しながら(いくつかの図において、類似の参照番号は類似の部分を表す)、本発明の例示的な実施形態を詳細に説明する。この説明全体を通して、特定の値またはパラメータを有する様々な構成要素が確認されうるが、これらのものは、例示的な実施形態として提供されるものである。実際に、多くの同等のパラメータ、サイズ、範囲および/または値が実施されうるので、それらの例示的な実施形態は、本発明の様々な態様および概念を限定しない。「第1」、「第2」など、「1次」、「2次」などの用語は、いかなる順序、数量または重要性も示さず、1つのエレメントを別のものと識別するために用いられる。さらに、「a」、「an」および「the」なる用語は、数量の限定を示さず、言及されるものの「少なくとも1つ」の存在を示す。
【0026】
本明細書中に開示される炭素繊維および炭素膜は、アクリロニトリル含有ポリマーから形成される。さらに、該炭素繊維および/または炭素膜は、必要に応じて、アクリロニトリル含有ポリマーおよび炭素ナノチューブ(CNT)を含む複合体から形成されうる。他の実施形態において、炭素繊維および/または膜は、必要に応じて、アクリロニトリル含有ポリマーおよび個別のグラファイトシートを含む複合体から形成されうる。CNTおよび/またはグラファイトシートを炭素繊維前駆体および/または膜前駆体に組み込むことによって、以下で詳細に説明されるような多くの有益な特性を示す炭素繊維および/また
は炭素膜が生じる。
【0027】
アクリロニトリル含有ポリマーは、アクリロニトリルモノマーおよび別の(すなわち、少なくとも1つの他の)モノマーを含むコポリマーを包含しうる。したがって、「コポリマー」なる用語は、ターポリマーおよび3つ以上の異なるモノマーを有する他のポリマーも包含する。アクリロニトリル含有ポリマーの例としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(アクリロニトリル−メチルアクリレート)、ポリ(アクリロニトリル−メタクリル酸)、ポリ(アクリロニトリル−アクリル酸)、ポリ(アクリロニトリル−イタコン酸)、ポリ(アクリロニトリル−メチルメタクリレート)、ポリ(アクリロニトリル−イタコン酸−メチルアクリレート)、ポリ(アクリロニトリル−メタクリル酸−メチルアクリレート)、ポリ(アクリロニトリル−ビニルピリジン)、ポリ(アクリロニトリル−塩化ビニル)、ポリ(アクリロニトリル−酢酸ビニル)およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
アクリロニトリルコポリマー中のコモノマー成分の相対量、ならびにアクリロニトリル含有ポリマーの分子量は、本繊維または膜の所望の特性に左右される。様々な量が用いられうるが、好ましくは、アクリロニトリルモノマーの組み込みは、アクリロニトリル含有ポリマー全体の総重量に基づいて、約85重量パーセント(wt%)より多い。また、他の範囲を用いることもできるが、アクリロニトリル含有ポリマーの好ましい分子量の範囲は、約50,000グラム/モル(g/モル)〜約2,000,000g/モルであり、100,000g/モル〜約500,000g/モルが、さらに好ましい。
【0029】
上記炭素ナノチューブは、任意の種類の炭素ナノチューブであってよく、それらとしては、単層ナノチューブ(SWNT)、2層ナノチューブ(DWNT)、3層ナノチューブ(TWNT)、多層炭素ナノチューブ(MWNT)など、または前述の種類の炭素ナノチューブのうちの2つ以上を含む組み合わせ(例えば、SWNTとDWNTとの混合物、DWNTとTWNTとの混合物、SWNTとDWNTとTWNTとの混合物など)が挙げられる。上記CNTは、管状のナノチューブであってもよいし、潰れたナノチューブであってもよい。
【0030】
上記炭素ナノチューブは、任意の公知の手段によって作製することができ、その手段としては、高温、高圧の一酸化炭素からの気相合成、炭素含有供給原料および金属触媒粒子を用いた触媒蒸着法、レーザアブレーション、アーク法、または炭素ナノチューブを合成するための他の任意の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
合成から得られたCNTは、一般に粉末の形態であるが、絨毯状、森林状、真珠状または類似の配置の形態で使用することもできる。上記ナノチューブの平均直径は、約0.5ナノメートル(nm)〜約100nmであり、約0.5nm〜約25nmが好ましい。いくつかの実施形態において、約10nm以下の平均直径を有するナノチューブを使用することが望ましい。上記ナノチューブの平均長は、約10ナノメートル以上でありうる。例えば、ミリメートル単位の長さまたはさらにセンチメートル単位の長さを有するナノチューブを使用することもできよう。
【0032】
CNTサンプル中の不純物によって悪影響が引き起こされる可能性を最小限にするために、少なくとも95パーセント(%)、好ましくは少なくとも99%の純度を有することがCNTにとって望ましい。したがって、CNTを必要に応じて精製することにより、無定形炭素などの非ナノチューブ炭素および金属触媒残渣を除去することができる。
【0033】
精製は、任意の公知の手段によって行うことができる。炭素ナノチューブの精製についての手順は、本開示が属する分野の当業者に周知である。必要に応じて精製されたCNT
は、乾燥させてもよい。同様に、乾燥に関する手順も、本開示が属する分野の当業者に周知である。
【0034】
さらに、上記CNTは、必要に応じて、その末端および/または側面において官能基を用いて誘導体化することができる。これらの官能基としては、アルキル;アシル;アリール;アラルキル;ハロゲン;置換または非置換チオール;置換または非置換アミノ;ヒドロキシル;OR’(ここで、R’は、アルキル、アシル、アリール、アラルキル、置換または非置換アミノ、置換または非置換チオールおよびハロゲンを含みうる);または必要に応じて1つ以上のヘテロ原子が割り込んでいて、1つ以上の=Oもしく=S、ヒドロキシル、アミノアルキル基、アミノ酸またはペプチドで必要に応じて置換されている、直鎖状あるいは環状の炭素鎖が挙げられうる。置換の程度は、本開示が属する分野の当業者に理解されるように、所望の化学効果を達成するように適合させることができる。1つの例として、上記アルキル、アシル、アリール、アラルキル基における炭素原子の数は、1〜約30の範囲でありうる。
【0035】
上記CNTは、必要に応じて、その骨格に非炭素の元素を含むこともできる。炭素繊維または炭素膜の特定の用途に応じて、例えば、ホウ素、窒素、硫黄、ケイ素などの元素が、CNTの骨格に含まれうる。
【0036】
同様に、任意の公知の合成手段からグラファイトシートを作製することができる。グラファイトシートの平均幅は、約0.5ナノメートル(nm)〜約100nmであってよく、約0.5nm〜約25nmが好ましい。いくつかの実施形態において、約10nm以下の平均幅を有するグラファイトシートを使用することが望ましい。グラファイトシートの平均長は、約10ナノメートル以上でありうる。例えば、ミリメートル単位の長さまたはさらにセンチメートル単位の長さを有するグラファイトシートを使用することもできよう。
【0037】
上記CNTと類似の様式において、黒鉛サンプル中の不純物によって悪影響が引き起こされる可能性を最小限にするために、望ましくは、グラファイトシートを精製する。炭素ナノチューブとまさしく同様に、グラファイトシートを誘導体化することができ、そして/またはそのフレームワーク内に非炭素元素を含めることができる。任意の誘導体化およびフレームワーク内への非炭素元素の組み込みは、炭素繊維または炭素膜におけるグラファイトシートの凝集を最小限にするために行われうる。
【0038】
ここで、図1(a)および(b)を参照していくが、そこには本発明のいくつかの実施形態に従ってそのような炭素繊維または炭素膜を製造するための、総称的に100と表記されたプロセスが示されている。詳細には、図1(a)は、CNTを含まないアクリロニトリル含有ポリマーから炭素繊維または炭素膜を製造するためのプロセスを図示している。プロセス100は110から開始され、ここで、アクリロニトリル含有ポリマーをゲル押出しすることにより、ポリマー繊維前駆体またはポリマー膜前駆体を形成せしめ、次いで115においてそれを延伸することにより、それぞれ延伸ポリマー繊維または延伸ポリマー膜を形成せしめる。120において、該延伸ポリマー繊維または延伸ポリマー膜を熱的に安定化せしめる。125および130において、安定化させたポリマー繊維または安定化させたポリマー膜を、それぞれ必要に応じて炭化し、必要に応じて黒鉛化することにより、最終的な炭素繊維または炭素膜を形成せしめる。例示的な実施形態において、ゲル押出し工程110、延伸工程115、安定化工程120、炭化工程125および黒鉛化工程130のうちの1つ以上が、バッチプロセスではなく連続プロセスである。
【0039】
図1(b)は、アクリロニトリル含有ポリマーならびにCNTおよび/またはグラファイトシートを含む複合体から炭素繊維または炭素膜を製造するためのプロセスを図示して
いる。図1(b)に示されるプロセスは、CNTだけについて言及しているが、このプロセスではCNTの代わりに、またはCNTに加えて、グラファイトシートを用いることもできると理解されるべきである。したがって、例えば、安定化工程120について言及するとき、延伸ポリマー−CNT繊維もしくは膜、延伸ポリマー−グラファイトシート繊維もしくは膜、または延伸ポリマー−CNT/グラファイトシート繊維もしくは膜もまた、この図に示され、以下で説明されるプロセス条件下において安定化120されうる。
【0040】
図1(b)に示されるプロセス100は105から開始され、ここで、CNT(合成されたままのもの、精製されたもの、または誘導体化されたもののいずれでもよい)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる。次に、110において、ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体またはポリマー−CNT膜前駆体を形成せしめ、次いで115においてそれを延伸することにより、それぞれ延伸ポリマー−CNT繊維または延伸ポリマー−CNT膜を形成せしめる。同様に、120において、その延伸ポリマー−CNT繊維または延伸ポリマー−CNT膜を熱的に安定化せしめる。125および130において、安定化させたポリマー−CNT繊維または安定化させたポリマー−CNT膜を、それぞれ必要に応じて炭化および黒鉛化することにより、最終的な炭素繊維または炭素膜を形成せしめる。図1(a)に示されるプロセスとまさしく同様に、例示的な実施形態では、接触工程105、押出し工程110、延伸工程115、安定化工程120、炭化工程125および黒鉛化工程130のうちの1つ以上が、連続プロセス工程である。
【0041】
本明細書中以後、図1(b)に図示されているプロセスを参照して、様々なプロセス工程を説明していく。しかしながら、接触工程105を除いて、以下で説明される工程は、以下に提供される詳細およびパラメータから逸脱しない限り、図1(a)に示されるプロセス(すなわち、CNTおよび/またはグラファイトシートを含んでいないアクリロニトリル含有ポリマーを用いて炭素繊維または炭素膜を作製するためのプロセス)に対して等しく適用することができることが理解されよう。したがって、例えば、延伸ポリマー−CNT繊維または膜を安定化せしめる工程120について言及するとき、延伸ポリマー(CNTおよび/またはグラファイトシートを含んでいない)繊維または膜もまた、以下に記載されるパラメータによって包含される一般的な条件下において安定化120されうる。CNTの量、比などに関するあらゆる言及は、図1(b)に図示されるプロセスだけに言及していることが同様に理解されるだろう。簡潔にするために(すなわち、CNTに対して記載されるプロセス工程、条件、量、比などがグラファイトシートについて再度記載されるという文言の反復を最小限にするために)、CNTに対するすべての言及は、CNTの代わりとして用いるかCNTと併せて用いるかに関係なく、グラファイトシートを包含するよう意図されていると拡大して理解されるべきである。
【0042】
接触工程105を実施するために、CNT(および/または拡大してグラファイトシート)をまず溶媒に分散させた後、アクリロニトリル含有ポリマーを加えることができる。あるいは、CNTおよびアクリロニトリル含有ポリマーを同時に(すなわち段階的ではなく)溶媒中で混合してもよい。別の選択肢では、アクリロニトリル含有ポリマーをまず溶媒に分散させた後、CNTを加えることができ、それを乾燥させるか、または同じ溶媒もしくは異なる溶媒に同様に分散させることができる。さらに別の選択肢では、融液中でCNTをアクリロニトリル含有ポリマーと合わせることができる。さらに別の選択肢では、モノマーの段階のアクリロニトリル含有ポリマーに、またはアクリロニトリル含有ポリマーを生じる重合中のいずれかの時点で、乾燥CNTまたは溶液中のCNTを加えることができる。
【0043】
溶媒は、望ましくは、CNTとアクリロニトリル含有ポリマーの両方を可溶化することができるものである。ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルアセトアミド(D
MAc)は、ポリアクリロニトリルポリマーおよびコポリマーを懸濁または可溶化するために用いることができる例示的な溶媒である。ポリアクリロニトリルポリマーおよびコポリマーを懸濁するために用いることができる有機溶媒の他の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸エチレン、ジオキサノン、クロロアセトニトリル、ジメチルスルホン、炭酸プロピレン、マロノニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル、ガンマ−ブチロラクトン、無水酢酸、ε−カプロラクタム、ビス(2−シアノエチル)エーテル、ビス(4−シアノブチル)スルホン、クロロアセトニトリル/水、クロロアセトニトリル、シアノ酢酸、リン酸ジメチル、テトラメチレンスルホキシド、グルタロニトリル、スクシノニトリル、N−ホルミルヘキサメチレンイミン、2−ヒドロキシエチルメチルスルホン、N−メチル−β−シアノエチルホルムアミド、メチレンジチオシアナート、N−メチル−α,α,α,−トリフルオロアセトアミド、1−メチル−2−ピリドン、3,4−ニトロフェノール、ニトロメタン/水(94:6)、N−ニトロソピペリジン、2−オキサゾリドン、1,3,3,5−テトラシアノペンタン、1,1,1−トリクロロ−3−ニトロ−2−プロパンおよびp−フェノール−スルホン酸が挙げられるが、これらに限定されない。無機溶媒の例としては、水性の濃酸(例えば、濃硝酸(約69.5wt%HNO3)、濃硫酸(約96wt%H2SO4)など);および濃塩溶液(例えば、塩化亜鉛、臭化リチウム、チオシアン酸ナトリウムなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
上記溶媒にナノチューブおよび/またはアクリロニトリル含有ポリマーを分散させるための混合手法または混合手段としては、超音波処理(例えば、バスソニケータまたはプローブソニケータを用いる)、均質化(例えば、バイオホモジナイザを用いる)、機械的撹拌(例えば、磁気撹拌子を用いる)、高剪断混合手法、押出し(例えば、単軸または多軸押出し)などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、溶媒へのCNTおよび/またはアクリロニトリル含有ポリマーの分散を促すために熱を加えることができる。一般に、熱は、溶媒の沸点に至るまで加えることができる。
【0045】
混合時間は、様々なパラメータに左右され、そのパラメータとしては、溶媒、混合物の温度、ナノチューブおよび/またはアクリロニトリル含有ポリマーの濃度、ならびに混合手法が挙げられるが、これらに限定されない。混合時間は、一般に均質な懸濁液または分散液を調製するのに必要な時間である。
【0046】
選択された溶媒にCNTおよび/またはアクリロニトリル含有ポリマーを分散させることにより、懸濁液を形成せしめた後、その溶媒の一部を必要に応じて除去してもよい。溶媒の除去は、任意の公知の手段(例えば、加熱、減圧、周囲環境での溶媒蒸発など)によって行うことができる。懸濁液中での溶媒の濃度を調節するために必要な時間および温度は、様々なパラメータに左右され、そのパラメータとしては、用いられる特定の溶媒、除去される溶媒の量、および溶媒の性質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
特定の溶媒中のアクリロニトリル含有ポリマー濃度は、様々な因子に左右され、その因子の1つは、アクリロニトリル含有ポリマーの分子量である。ポリマー溶液の濃度は、繊維または膜の選択された押出し手法に資する粘度をもたらすように選択される。一般に、ポリマー溶液の調製に関して、ポリマー分子量とポリマー濃度とは、逆相関する。換言すれば、ポリマーの分子量が大きいほど、所望の粘度を得るために必要なポリマーの濃度は低くなる。例としては、最大約25wt%の溶液は、約50,000g/モル程度の分子量を有するアクリロニトリル含有ポリマーを用いてDMFまたはDMAc中に調製され、最大約15wt%ポリマーの溶液は、約250,000g/モルの分子量を有するアクリロニトリル含有ポリマーを用いて調製され、最大約5wt%の溶液は、約1,000,000g/モルの分子量を有するアクリロニトリル含有ポリマーを用いて調製されうる。溶液の濃度は、他の変数の中でも、特定のポリマー組成、特定の溶媒および溶液温度にも左右されうる。
【0048】
アクリロニトリル含有ポリマーをナノチューブ−溶媒懸濁液に加えた後、それを均質化することにより、「ドープ」とも呼ばれる光学的に均質なポリマー−CNT溶液または懸濁液が形成される。このアクリロニトリル含有ポリマーは、すべてを一度に加えてもよいし、連続した様式で徐々に加えてもよいし、段階的に加えてもよく、それによって、概して均質な溶液が作製される。光学的に均質な溶液を調製するためのポリマーの混合は、機械的撹拌、超音波処理、均質化、高剪断混合、押出しまたはそれらの組み合わせなどの任意の手法を用いて行うことができる。
【0049】
同様に、CNTおよびアクリロニトリル含有ポリマーを同時に溶媒と混合するとき、3つの成分が混合されることによって、光学的に均質なポリマー−CNTドープが形成される。光学的に均質な溶液を調製するためのナノチューブおよびポリマーの混合は、機械的撹拌、超音波処理、均質化、高剪断混合、押出しまたはそれらの組み合わせなどの任意の手法を用いて行うことができる。
【0050】
本ナノチューブは、通常、上記ドープの約0.001wt%〜約40wt%を構成し、約0.01wt%〜約5wt%が、好ましい。
【0051】
概して均質なポリマー−CNTドープを調製した後、該ドープをポリマー−CNT繊維または膜に押出しする110。本明細書中で使用されるとき、「押出しする」なる用語は、延伸可能な膜を作製するために用いられる押出し手法だけでなく、延伸可能な繊維を作製するために用いられる紡糸手法も総称的に包含すると意図されている。押出し工程110は、延伸可能な繊維または膜を作製する任意の手段を用いて達成することができる。延伸可能な繊維または膜の作製に適した手法の例としては、ゲル押出し(ゲル紡糸を包含する)、湿式押出(湿式紡糸を包含する)、乾式押出(乾式紡糸を包含する)、乾湿式(dry−jet wet)押出(乾湿式紡糸を包含する)、静電押出(electroextruding)(静電紡糸を包含する)、溶融押出(溶融紡糸を包含する)などが挙げられるが、これらに限定されない。膜を押出しするとき、スリット形のダイを用いる。ポリマーを紡糸口金またはダイから押出しした後、それぞれ繊維または膜を、用いられる特定の押出し手法にふさわしい様式で延伸する115。
【0052】
例示的な実施形態において、ドープを押出しするために用いられる手法は、ゲル押出しである。ポリマー濃度、溶媒濃度、ゲル化媒質およびゲル化時間を変更することにより、本開示が属する分野の当業者によって容易に理解されるような、延伸繊維または膜の所望の特性をもたらすことができる。
【0053】
延伸ポリマー−CNT前駆体繊維は、約100nm〜約100マイクロメートル(μm)の平均直径を有し、約200nm〜約15μmが好ましい。同じように、延伸ポリマー−CNT膜前駆体は、約50nm〜約500μmの平均厚を有し、約100nm〜約100μmが好ましい。延伸ポリマー−CNT繊維前駆体または膜前駆体において、CNTは、管状であってもよいし、平らでも潰れていてもよい。いくつかの実施形態において、特に、約15nm以下の平均直径を有するCNTを用いるとき、平らかまたは潰れたCNTは、約0.5nm〜約100nmの幅を有するグラファイトシートになるように、解きほぐされていないか、またはほどかれていなくてもよい。
【0054】
延伸工程115の後、延伸ポリマー−CNT繊維または膜は、熱的に安定化される120。安定化120は、通常、熱処理を包含し、ここで、必要に応じて、延伸ポリマー−CNT繊維または膜に応力または張力がかけられうる。熱処理は、酸化性雰囲気において行われる。この酸化性安定化120の間に、アクリロニトリル含有ポリマーは、高い密度を有するポリマーをもたらす化学変化を経る。いくつかの実施形態において、安定化プロセ
スは、アクリロニトリル含有ポリマーの環化を引き起こすと考えられており、それによって「ラダーポリマー」と呼ばれるものが生じる。さらに、いくらかの水素放出および/または酸素吸収が起きうる。
【0055】
一般に、安定化工程120は、約200℃〜約400℃の大気中で行われ、最大36時間継続され、約30秒〜約24時間が好ましい。正確な温度および継続時間は、アクリロニトリル含有ポリマーの組成および延伸ポリマー−CNT繊維の直径または膜の厚さに部分的に左右される。いくつかの実施形態において、熱処理は、多段階の熱処理でありうる。
【0056】
次に、安定化させた繊維または膜を炭化する125。炭化125は、通常、安定化温度よりも高い温度の不活性な環境(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)における熱処理を包含する。この工程は、安定化させた繊維または膜に張力または応力をかけて行うことができる。炭化125の間、安定化させた繊維または膜の炭素含有量は(例えば、90wt%超に)増加し、3次元の炭素構造が形成されうる。これは、一般に熱分解を介して生じる。
【0057】
通常、炭化工程125は、約500℃〜約1800℃で行われる。さらに、継続時間は、最大約2時間であり、約1ミリ秒〜約60分が好ましい。正確な温度および継続時間は、アクリロニトリル含有ポリマーの組成および複合体に存在するCNTの濃度に部分的に左右されうる。例えば、より高い炭化温度を用いると、高い弾性を得ることができる。いくつかの実施形態において、熱処理は、多段階の熱処理でありうる。
【0058】
炭化125の後、繊維または膜を任意の黒鉛化工程130に供してもよい。黒鉛化130は、通常、炭化温度よりも高い温度の不活性な環境における熱処理を包含する。窒素は、炭素と反応して窒化物を形成するので、黒鉛化工程130では窒素を用いない。この工程は、張力または応力をかけて、炭化された繊維または膜を用いて行うことができる。
【0059】
通常、黒鉛化工程130は、約1800℃〜約2800℃で行われる。継続時間は、最大約1時間であり、約1ミリ秒〜約15分が好ましい。正確な温度および継続時間もまた、アクリロニトリル含有ポリマーの組成およびその複合体に存在するCNTの濃度に部分的に左右される。いくつかの実施形態において、熱処理は、多段階の熱処理でありうる。
【0060】
ここでは、CNTおよび/またはグラファイトシートを含む生じた炭素繊維および炭素膜について言及する。先に述べたように、簡潔にするため、および文言の反復を最小限にするために、CNTに対するすべての言及は、CNTの代わりとして用いるかCNTと併せて用いるかに関係なく、グラファイトシートを包含するよう意図されていると拡大して理解されるべきである。いくつかの状況において、明確にするために、最初の説明ではグラファイトシートに対して類似の条件/特性について言及することがあるが、本文の残りの部分では繰り返さない。
【0061】
最終的な炭素繊維は、通常、約50nm〜約50μmの横断面の平均寸法(すなわち、直径)を有し、約100nm〜約10μmが好ましい。最終的な炭素膜は、通常、約25nm〜約250μmの横断面の平均寸法(すなわち、厚さ)を有し、約50nm〜約150μmが好ましい。また、この膜の幅については特に制限はない。繊維または膜の特定の寸法に応じて、膜または繊維は、光透過性でありうる。CNTは、約0.001wt%〜約80wt%の範囲で最終的なポリマー−CNT繊維または膜に存在し、約0.01wt%〜約5wt%が好ましい。
【0062】
例示的な実施形態において、最終的な炭素繊維または炭素膜におけるCNTは、剥離し
ている。すなわち、CNTは、通常、CNTの大きな束またはロープの形態では見られない。そして、グラファイトシートは、通常、積み重ねられたシートの形態では見られない。より詳細には、これらの実施形態において、最終的な炭素繊維または炭素膜におけるCNT(および/またはグラファイトシート)は、個別のナノチューブ(および/またはシート)としてか、または1塊あたり平均10個未満のナノチューブ(および/またはシート)の塊(および/または積み重ね)として存在する。いくつかの実施形態において、その塊は、平均して5個未満のナノチューブである。他の実施形態において、平均3個未満のナノチューブの塊が観察された。理論に拘束するつもりはないが、ナノチューブの剥離は、様々な方法で行われると考えられる。ナノチューブの濃度が上がると、最終的な炭素繊維または炭素膜において形成される束が大きくなることが見出されている。したがって、CNTの剥離は、より低濃度のナノチューブを用いて達成することができる。さらに、延伸工程115中の規則的な延伸または連続した延伸は、CNTのよりよい剥離をもたらすと考えられている。例としては、接触工程105中に、希薄な分散液(例えば、300ミリリットルの溶媒中の、10ミリグラムの直径の小さいCNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと混合した後、延伸工程115中に規則的に延伸することによって、個別に、または平均3個未満のナノチューブの塊の形態のいずれかで存在するCNTを有する炭素繊維を作製することができる。
【0063】
本明細書中に開示されるプロセスの有利な特徴において、黒鉛化工程130は、必要がない。実際のところ、黒鉛化工程がなくても、アクリロニトリル含有ポリマーにCNTが存在することによって、炭化工程125の低温で黒鉛化が誘導される。詳細には、炭化後に、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル(nm)〜約50nm広がっている結晶化黒鉛領域を観察することができる。グラファイトシートに関しては、結晶化黒鉛領域は、各シートの表面から一直線に約0.34ナノメートル(nm)〜約50nm広がりうる。より一般的には、結晶化黒鉛領域は、各CNT(および/またはグラファイトシート)の壁(および/または表面)から放射状に(および/または一直線に)約1nm〜約30nm広がっている。さらに詳細には、結晶化黒鉛領域は、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2nm広がっている。別の言い方をすれば、ポリマー−ナノチューブ混合物中に1wt%のCNTが存在することによって、CNT付近において最大約30%のポリマーの反応性に影響があった。これらの結果は、本発明のプロセスの炭化工程125が低温であることを考えると、かなり驚くべきことである。
【0064】
さらに、安定化、炭化および任意の黒鉛化の工程のうちの1つ以上の間に繊維または膜に対して張力をかけることも、CNTを取り囲む黒鉛領域の結晶化に寄与すると考えられている。したがって、例示的な実施形態において、これらの工程の各々の間に、張力が繊維または膜にかけられる。
【0065】
本明細書中に開示されるプロセスの別の有利な特徴において、延伸繊維または膜の安定化および炭化(および必要に応じて黒鉛化)によって、高い引張係数および引張強度を有する炭素繊維または炭素膜が作製される。一般に、同じ手順を用いて作製されたがいかなるCNTも含んでいない炭素繊維または炭素膜と比べて、少なくとも0.5ギガパスカル(GPa)の引張強度の増加および少なくとも50GPaの引張係数の増加が、ポリマー−ナノチューブ混合物中に約1wt%のCNTを加えることによって達成されうる。繊維または膜について、3GPaまでの引張強度の改善またはそれ以上の改善および200GPaまでの引張係数の改善またはそれ以上の改善が、ポリマー−ナノチューブ混合物中に約1wt%のCNTを加えることによって達成されうる(この場合もまた、同じ手順を用いて作製されたがいななるCNTも含まない炭素繊維または炭素膜と比べて)。1つの繊維の例では、0.7GPa(0.4N/tex)の引張強度の増加および77GPa(43N/tex)の引張係数の増加が、約1wt%のCNTを有し、かつ約13μmの平均繊維直径を有するポリアクリロニトリル系炭素繊維について達成された。別の繊維の例で
は、1.2GPa(0.7N/tex)の引張強度の増加および148GPa(82N/tex)の引張係数の増加が、約1wt%のCNTを有し、かつ約6μmの平均繊維直径を有するポリアクリロニトリル系炭素繊維について達成された。
【0066】
最終的な炭素繊維または炭素膜は、約10GPaまでの引張強度またはそれ以上の引張強度、および約750GPaまでの引張係数またはそれ以上の引張係数を有しうる。例えば、ゲル押出しによってPANおよびCNTから作製された、炭化された炭素繊維は、黒鉛化工程を行わずに、約6GPaの引張強度および約600GPaの引張係数を示しうる。さらに、引張強度よりも高い圧縮強度を有する炭素繊維または炭素膜を得ることも可能である。
【0067】
本発明の炭素繊維または炭素膜において観察される別の改善点としては、改善された電気伝導率が挙げられる。本明細書中に記載されるプロセスを用いて作製された炭素繊維または炭素膜の電気伝導率は、CNTを含んでいない炭素繊維または炭素膜と比べて、少なくとも約25パーセント高い場合がある。1つの例において、伝導率は、50パーセント超上昇した。さらに、いくつかの実施形態において、CNTを含んでいない炭素繊維または炭素膜の2倍、5倍またはさらには10倍を超える伝導率を達成することができる。
【0068】
本発明の様々な実施形態を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例1】
【0069】
実施例
実施例1:ゲル紡糸されたPAN/CNT複合繊維における剥離および配向したCNT
本実施例では、様々なレベルのCNTを有するゲル紡糸されたPAN/CNT繊維を作製し、特徴付けた。
【0070】
2.5×105g/molの粘度平均分子量を有するPANのポリ(アクリロニトリル−コ−アクリル酸メチル)コポリマーをJapan Exlan Company,Ltd.から入手した。そのPANコポリマーを、1H NMRを用いて特徴付けしたところ、約6.7mol%のアクリル酸メチルを含んでいた。約2nmの平均直径を有する単層炭素ナノチューブと2層炭素ナノチューブとの混合物をCarbon Nanotechnologies,Inc.(Houston,TX)から入手した。大気中での熱重量分析(TGA)に基づくと、本研究に用いられたCNTは、1wt%未満の金属不純物を含んでいた。明視野透過型電子顕微鏡検査から、CNT束の直径が100nmであることが明らかになった。Sigma−Aldrich,Co.製のジメチルホルムアミド(DMF)を、受け取ったまま用いた。
【0071】
室温での24時間にわたるバス超音波処理(Branson 3510R−MT,100W,42kHz)によって、CNTをDMFに40mg/Lの濃度で分散させた。PAN(15g)を真空中、100℃で乾燥させ、80℃のDMF(100mL)に溶解した。光学的に均質なCNT/DMF分散液をPAN/DMF溶液に加えた。過剰量の溶媒を、撹拌しながら80℃における真空蒸留によって蒸発させることにより、所望の溶液濃度(15gの固体(PANC+CNT)/100mLの溶媒)を得た。同様に、ポリマーに対して0、0.5および1wt%のCNT濃度が得られるように他の溶液を調製した。そのPAN/DMFおよびPAN/CNT/DMF溶液を、110℃において直径が500μmの1穴紡糸口金を用いて、−50℃に維持されたメタノール浴中に31.4m/分で紡糸した。紡糸口金とメタノール浴とのエアギャップは、約2cmであった。紡糸したままの繊維を100m/分で巻き取り、メタノール浴(−20〜−40℃に維持されている)中に1週間浸漬することにより、確実にゲル化させた。結果として、紡糸したままの繊維の延伸比は、3.2であった。そのゲル繊維を、グリセロール浴中で160℃において
さらに延伸させた(7〜16の延伸比)後、エタノールで洗浄し、40℃で3日間真空乾燥させた。総延伸比(紡糸延伸比に後の延伸比を乗することによって決定される)は、51であった。
【0072】
Leitz偏光顕微鏡を用いて、光学顕微鏡検査を行った。SEE1100顕微分光計を用いて、溶液および様々な繊維におけるUV−visスペクトルを得た。25mmのゲージ長および0.25mm/sのクロスヘッド速度でRSAIII固体分析計(Rheometric Scientific,Co.)を用いて、単一フィラメントの引張特性を測定した。各サンプルについて、15本のフィラメントを検査した。25mmのゲージ長を用い、10本のフィラメントの束に対して1℃/分の加熱速度で、0.1、1および10HzにおいてRSAIIIを用いて動的機械試験も行った。偏光子と分析計とが互いに平行に備えられた(vvモード)、785nm励起レーザを使用するKaiser Optical System製のHoloprobe Research 785 Raman Microscopeを用いて、後方散乱配置でラマンスペクトルを得た。偏光方向から0、5、10、20、30、40、50、60、70、80、85および90°の繊維軸を用いてスペクトルを得た。様々な偏光角におけるタンジェンシャルバンド(tangential band)(約1590cm−1)のピーク強度から、複合繊維におけるCNTの配向度を決定した。Rigaku R−axis IV++検出システムを用いて、Rigaku Micromax−007(λ=1.5418Å)におけるマルチフィラメント束に対するWAXDパターンを得た。その回折パターンを、AreaMax V.1.00およびMDI Jade6.1を用いて解析した。2θが約17°における回折ピークの方位角走査から、PAN分子の配向度を決定した。統合走査(integrated scan)およびデコンボリューションされたピークの面積を用いて、結晶化度を決定した。ベースライン減算のために、直線を2θ=10〜50°に延ばした。Scherrer方程式(κ=0.9)を用いて、2θが約17°における赤道線ピークからPAN結晶サイズも決定した。金でコーティングしたサンプルについて、繊維の引張破壊表面を走査型電子顕微鏡検査(18kVで操作するLEO1530SEM)によって観察した。Hitachi HF−2000(200kVで操作)を用いて、透過型電子顕微鏡検査による研究を行った。TEM試料を調製するために、1wt%CNTを含むPAN/CNT複合繊維(延伸比51)をDMF中にて150℃で30分間加熱した。潰れた微小繊維をレース状炭素TEMグリッド上に回収した。蒸着アルミニウム標準(cat#80044,EMS,Co.)を用いて、TEMビームアライメントおよび無非点収差補正(stigmation correction)を行った。
【0073】
PANおよびPAN/CNT(1wt%)繊維についてのWAXD写真、ならびに統合走査像および赤道線2θ走査像を得た。いくつかの延伸比におけるコントロールPAN繊維および完全に延伸された複合繊維についてのX線研究から、様々な構造パラメータを測定した。2θが約17および30°における赤道線ピークは、延伸比が大きくなるにつれてより大きい角度にシフトし、その結果、引き延ばすにつれてPAN分子の横方向の寸法が小さくなるように、充填が密になる。完全に延伸された繊維の赤道面間隔d(equatorial d−spacing)は、CNTが組み込まれるとさらに小さくなった。紡糸したままのPANサンプルについてのこれらの2つの赤道面間隔dの比(1.705)は、六方充填に対する値(3の平方根、すなわち1.732である)よりも有意に小さい。延伸すると、この比は、コントロールPANならびにPAN/CNT複合体の両方において、1.732の六方充填値に近づく。延伸比の関数としての、ゲル紡糸されたコントロールPANについての間隔dの縮小は、予想通りであった。
【0074】
延伸比が大きくなると、平面ジグザグ状配列は増加する可能性があるが、結晶中のらせん状配列は減少する。この立体配座の差は、子午線ピークから観察された。通常、PANの子午線ピークは、それぞれ平面ジグザグ状配列およびらせん状配列を生じる、2θ=3
6および40°の2ピークにデコンボリューションされうる。コントロールPANおよび本研究におけるPAN/CNT複合体は、2つのピークを現わさなかった。しかしながら、延伸比が大きくなるにつれ、ならびにCNTが組み込まれると、より小さい角度にピーク位置がシフトしたことから、平面ジグザグ状配列が増加する傾向が示唆される。延伸比が大きくなると、結晶化度、配向度および結晶サイズも大きくなった。複合繊維は、同じ延伸比(延伸比51)のコントロール繊維よりも、わずかに高い結晶化度、ポリマー配向度および多少小さい結晶サイズを示した。引張破壊された繊維表面の走査型電子顕微鏡像は、コントロールと複合繊維の両方が微小繊維状の構造を呈することを示している。PAN/CNT(1wt%)繊維の明視野高分解能透過型電子顕微鏡像は、整列および剥離したCNTを示している。PAN結晶格子(0.52nm間隔)もCNT近傍で観察することができる。
【0075】
剥離したSWNTは、van Hove遷移を示すが、CNT束においてはこれらの遷移は抑制される。DMFを蒸発させる前の希薄なPAN/CNT/DMF溶液は、van
Hove遷移を示したことから、溶液中でのCNT剥離が示唆される。しかしながら、紡糸したままのゲル繊維は、van Hove遷移を示さなかったことから、処理中にCNTが再凝集したことが示唆される。32という中間の延伸比を有する複合繊維は、これらの遷移も示さなかった。しかしながら、完全に延伸された複合繊維(延伸比51)もvan Hove遷移を示したことから、CNTの剥離が延伸中に生じたことが示唆される。CNTの剥離プロセスの概略図も図2に示す。
【0076】
繊維軸に対して平行および垂直の偏光での、約1592cm−1におけるGバンド強度比を、上記複合体およびCNT繊維におけるCNT配向度の基準とする。偏光子と繊維軸との角度が0および90°であるときのGバンドラマンスペクトルを図3に示し、そこからPAN/CNT複合繊維(1wt%CNT、延伸比51)についてのラマンGバンド比を測定したところ、この特定のサンプルについては42であった。これは、より高い比を達成することができないということを言っているのではない。
【0077】
繊維の引張特性も得た。1wt%のCNTを加えると、室温での係数は、6.6GPa(PANに対する22.1GPaからPAN/CNTに対する28.7GPaに)上昇した。複合繊維におけるPANの係数が、ゲル紡糸されたコントロールのPANにおける係数と同じであると仮定して、配向因子が0.915である完全に剥離したCNTを含むPAN/CNT複合体の係数をプロットした。CNT配向度が理想的なものであると仮定して複合繊維の係数を計算し、観察された係数の値もプロットした。観察された複合繊維の係数は、予測された仮定の理想的なCNT配向度と同じであった。しかしながら、観察されたCNTの配向を考慮に入れると、実験から得られた係数は、予測値よりも高いことがわかる。このことは、CNTが組み込まれたPANマトリックスの係数の変化を示唆している。これは、複合繊維ではPANの結晶化度および配向度がわずかに高くなることと一致する。
【実施例2】
【0078】
実施例2:安定化および炭化されたゲル紡糸PANおよびPAN/CNT複合繊維
本実施例では、平均直径が2nmの単層炭素ナノチューブと2層炭素ナノチューブとの様々なレベルの混合物を有する、安定化および炭化された、ゲル紡糸PAN/CNT繊維を作製し、特徴付けた。先の実施例1に記載したように、ゲル紡糸によって、PANおよびPAN/CNT複合繊維を処理した。
【0079】
安定化のために、ゲル紡糸された繊維を、図4に示されるように2つの炭素鋼ブロックの間に固定し、石英の棒の上に引っ掛けた。様々な応力レベル(0.025、0.017、0.009および0.006N/tex、ここで、応力は、前駆体繊維の線密度に基づ
く)で、箱形炉(Lindberg,51668−HR Box Furnace1200C,Blue M Electric)内で大気中で安定化を行った。その繊維を、大気中で1℃/分の加熱速度で室温から285℃に加熱し、285℃で10時間保持した後、1℃/分の加熱速度で330℃まで加熱し、330℃で3時間保持した。安定化された繊維を数時間かけて室温まで冷却した。続いて、安定化されたPANおよびPAN/CNT繊維を、5℃/分の速度で室温から加熱し、様々な応力レベル(0.025、0.017、0.009および0.006N/tex)で1100℃で5分間保持することによって、アルゴン中で炭化させた。最初の研究において、前駆体繊維の直径は、約20〜約23μmであったが、最終的には、約12〜約13μmの直径の炭素繊維(大直径繊維とも呼ばれる)が得られた。繊維の直径を小さくするにつれ、高い引張強度を得ることができるので、約12μmの直径を有するPANおよびPAN/CNT(99/1)繊維もゲル紡糸した。これらの繊維から、直径が約6μmの炭素繊維(小直径繊維とも呼ばれる)が得られた。
【0080】
ゲル紡糸されたPANおよびPAN/CNT(99/1)繊維の引張特性および構造パラメータを表1に列挙した。示されるように、PAN/CNT前駆体繊維は、コントロールのPAN繊維よりも適度に高い結晶方位および結晶化度、ならびに小さい結晶サイズを示す。複合繊維におけるCNT配向度(fCNT)は、ラマンGバンドを用いて0.904であると決定された。
【0081】
【表1】
【0082】
大気下のPANおよびPAN/CNT繊維のDSCサーモグラムから、安定化中に放出された複合繊維中の熱は、コントロール繊維の熱より小さいことが明らかになった。このことは、CNTが存在することによって、PANの安定化反応が妨げられることを示唆している。結果として、比較的長い時間の安定化を行った。CNTは、PANと良好な相互作用を有する。結果として、CNT近傍のPANは、DMFに不溶になる。このDSC研究から、PAN−CNT相互作用の結果として、CNT近傍のPANが、CNTを含んでいないPANよりも熱安定性が高いことが示唆される。これにより、コントロールPANと比べてPAN/CNT繊維に対する安定化熱が低いことが説明される。PANは、3回目の加熱サイクル中には発熱を示さないが、PAN/CNT(99/1)繊維は、依然と
して約30J/gの安定化反応熱を示す。このことから、PAN/CNTの安定化がなおも継続していることが示唆される一方で、PANの安定化は、3回目の加熱サイクル中には(DSCでは)観察できなかった。
【0083】
応力有りおよび無しで安定化された繊維の赤外スペクトルを得た。応力無しでの安定化は、30分間にわたって熱重量分析器(TGA)において大気中で行った。様々なニトリル基の化学構造を以下に示す。
【0084】
【化1】
【0085】
共役ニトリル基(b)は、PANを脱水素することによって生成させることができ、β−アミノニトリル基(c)は、環化反応の終結に起因して形成されうる。環化の終結は、4〜5個のPAN繰り返し単位ごとに生じると考えられており、それは、らせん立体配座の結果である。ゆえに、繊維における平面ジグザグ状の立体配座が多くなると、環化の終結の間隙が大きくなると予想される。鎖の切断は、環化終結中に生じうる。理論に拘束するつもりはないが、それゆえ、繊維に含まれる平面ジグザグ状立体配座が多くなると、鎖の切断が生じる頻度は低くなり、したがって欠陥も少なくなり、最終的には生じる炭素繊維の引張強度に影響を及ぼしうると考えられている。PAN/CNTゲル繊維は、PAN繊維よりも多くの平面ジグザグ状配列を有する。この違いが、安定化に影響を及ぼしうる。様々な種類のニトリル基のピーク位置は公知であるので、ピーク位置を変化させずに、かつ、ピークの幅および強度を変化させることによって、ニトリルスペクトルを一致させた。応力をかけながら安定化されたPAN/CNTには、同じ条件下で安定化されたコントロールPANよりも多くの未反応ニトリル基(a)が存在し、また、応力を大きくすると、FTIRピークの相対面積によって判断した場合に、未反応基の量が増加した。したがって、CNTならびに応力が存在すると、安定化反応が妨げられるように思われるであろう。応力をかけながら炉内で安定化されたPAN/CNTサンプルは、同じ条件下で安定化されたコントロールPANよりも共役ニトリルが有意に多く、β−アミノニトリルが有意に少ないことを示した。PAN/CNTの安定化された構造は、主に共役ニトリルを含むが、PANでは主にβ−アミノニトリルである。このことはさらに、CNTがPAN分子を拘束するので、先に述べたように環化の程度が高くなることを示唆しているとみられる。
【0086】
相間領域に存在するPAN分子は、マトリックスに存在するものよりも配向度が高い。
図5に示されるように、PAN/CNT複合繊維は、安定化および炭化の後でさえも、微小繊維状の構造を示す。炭化された複合繊維は、脆性である炭素マトリックス内に埋め込まれたナノフィブリルを含む。ナノフィブリルは、十分に発達した黒鉛構造に取り囲まれたCNTを含んでいると考えられている。相間領域に存在する炭化されているときのPAN分子は、十分に規則正しい黒鉛を形成するが、この炭化温度でのPANマトリックスは、大部分が不規則炭素または無定形炭素である。この結果は、図6に図示されている。
【0087】
図7(a)に示される、炭化されたPAN繊維のラマンスペクトルは、強いディスオーダーバンド(約1300cm−1)を示し、安定化および炭化中の応力を上げると、黒鉛Gバンド(約1580cm−1)に対する肩を示し始める。一方、炭化されたPAN/CNT繊維は、小さい応力で安定化および炭化されたときでさえ、図7(b)のラマンスペクトルに示されるような異なるGバンドを示す。応力が大きくなるにつれてGバンドの強度が大きくなることから、応力が黒鉛化を誘導したことが確認される。ラマン観察結果は、炭化されたPANについてはそれほど秩序のない炭素、および炭化されたPAN/CNTについては十分に秩序のある炭素を示す高分解能透過型電子顕微鏡観察と一致する。また、炭化されたPAN/CNT繊維におけるGバンドはCNTに起因しないことも留意すべきである。CNTは、共鳴のおかげで、図8に示されるような非常に強い強度のGバンドをもたらす。安定化および炭化された繊維では、安定化および炭化されたPANの生成物によってレーザが吸収され、CNTのスペクトルが打ち消される。
【0088】
PAN系繊維は、典型的には、炭化後に不規則炭素をもたらす。黒鉛構造を成長させるために、典型的には、典型的な炭化工程よりも高い温度でPAN系繊維を加熱処理する。例えば、黒鉛構造を成長させるために、PAN系繊維を約2500〜約3000℃で加熱処理することができる。1100℃という比較的低い炭化温度でのPAN/CNTにおける黒鉛構造の成長(ラマンGバンドおよび高分解能透過型電子顕微鏡によって証明される)は、CNTが存在することによって、PANの安定化が影響を受けるだけでなく、比較的低い炭化温度でより多くの黒鉛構造がもたらされることを示唆する。
【0089】
前駆体、安定化された繊維および炭化された繊維についてのWAXDパターンおよび統合走査像を得た。安定化および炭化されたPAN/CNT繊維では、それぞれのコントロール繊維よりも高い配向度および大きい結晶サイズが観察された。安定化および炭化中に適用される応力が大きくなるにつれて、配向度および結晶サイズも増大した。
【0090】
表2のデータに示されるように、安定化されたPAN/CNT繊維の引張係数は、安定化されたPAN繊維よりも約26%高かったが、この2つの繊維の引張強度および破壊に至る歪み(strain to failure)は、ほとんど同程度であった。安定化中の応力が大きいほど、係数および引張強度が大きかった。安定化中に適用される応力が大きいほど、繊維の収縮は、小さくなる。所与の応力下では、PANよりもPAN/CNTにおいて小さい収縮が観察される。その収縮データは、安定化の前後における繊維の長さの測定に基づくものである。
【0091】
【表2】
【0092】
表3のデータによって示唆されるように、炭化されたPAN/CNT繊維は、同じ条件下で処理されたコントロールPAN繊維よりも大きい引張強度および引張係数を示す。1wt%CNTを加えることにより、小直径炭素繊維については、引張強度が64%増加し、係数が49%増加した。炭化されたPANよりも炭化されたPAN/CNTの係数が実質的に大きいのは、配向度および黒鉛の秩序がより高いことが原因である。比較のため、市販の炭素繊維の引張特性も表3に列挙する。示されるように、炭化された小直径PAN/CNT(99/1)繊維の引張係数は、PAN系T300およびIM8繊維よりも大きい。試験的なPAN/CNT繊維の引張強度および引張係数は、プロセスを最適化することによってさらに改善することができる。
【0093】
【表3】
【0094】
本実施例では、ゲル紡糸されたPANおよびPAN/CNT複合繊維を、様々な応力を用いて、安定化および炭化した。DSCにより、PANよりも酸化的安定化を受けたPAN/CNT繊維において有意に低い発熱が示され、このことから、CNTが存在することによって、PANの反応性が妨げられることが示唆される。赤外分光法により、応力を受けながら長時間安定化された後でさえも、PAN/CNT繊維は、同等に安定化されたPANよりも多くの未反応ニトリルを含んでいたことが示された。安定化されたPAN/CNTの構造は、主に共役ニトリルから構成されているとみられたが、安定化されたPANでは、主にβ−アミノニトリルから構成されているとみられた。安定化および炭化されたPAN/CNTにおいて微小繊維状構造が観察された一方で、対応するPAN繊維は、脆性破壊を示した。CNTのすぐ近くにおいて炭化されたPANは、延性である一方で、炭素ナノチューブからより遠くで炭化されているか、または炭素ナノチューブを含まないPANは、脆性である。炭化されたPAN/CNT繊維は、同様の条件下で炭化されたPANよりも、配向性がわずかに高く、黒鉛間隔dが小さく、結晶サイズが大きい。応力をかけて1100℃で炭化されたPAN/CNTは、黒鉛構造の発達を示す(ラマン顕微鏡および高分解能透過型電子顕微鏡によって証明されるように)が、炭化されたPANは、不規則炭素の存在だけを示した。1wt%のCNTを含んでいる小直径の炭化されたPAN/CNT繊維は、対応する炭化されたPANよりも64%大きい引張強度および49%大きい引張係数を示した。
【実施例3】
【0095】
実施例3:ゲル紡糸されたPAN/MWNT(99/1)繊維からの炭素繊維の作製
本実施例では、1wt%MWNTを有する、ゲル紡糸されたPAN/多層炭素ナノチュ
ーブ(MWNT)繊維を作製し、特徴付けた。MWNTは、約20nmの平均直径を有していた。MWNTを用いることを除いて、先の実施例1に記載したものと同様に、PANおよびPAN/NT複合繊維をゲル紡糸によって処理した。紡糸速度、延伸比などのわずかな変動が許された。
【0096】
260分間にわたって室温から約285℃に温度を上昇させ、約285℃で約4時間加熱する工程と、その後の約45分間にわたって約330℃にさらに上昇させ、次いで330℃で約2時間加熱する工程とからなる2工程の加熱プロファイルを用いて、前駆体繊維を大気下で安定化させた。安定化された繊維を約5分間、アルゴン下、約1200℃において炭化した。約10μm〜約12μmであったその前駆体繊維の直径に基づいて、安定化工程および炭化工程中に繊維に適用された応力は、約0.006N/texであった。
【0097】
得られた炭素繊維の機械的特性を測定した。PAN/MWNT(99/1)系炭素繊維の線密度は、約0.044texであった。引張強度および引張係数は、それぞれ約1.67N/texおよび約201N/texであった。最後に、破壊に至る歪みは、約0.85%と測定された。
【0098】
本明細書中に開示される特定の調合、プロセス工程および材料は、多少変更してもよいので、本発明の実施形態は、そのような調合、プロセス工程および材料に限定されない。さらに、本明細書中で使用される用語は、例示的な実施形態のみを説明する目的で使用され、本発明の様々な実施形態の範囲は、添付の請求項およびそれらの等価物によってのみ限定されるので、それらの用語は、限定の意図はない。用いられる特定の材料に応じて、例えば、温度、応力および時間パラメータを変更してもよい。
【0099】
ゆえに、例示的な実施形態を特に参照して本開示の実施形態を詳細に説明してきたが、当業者は、添付の請求項に定義されているような本開示の範囲内で変更および改変を行うことができることを理解するだろう。したがって、本発明の様々な実施形態の範囲は、先に記述した実施形態に限定されるべきではなく、以下の請求項およびすべての等価物によってのみ定義されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を作製する方法であって、
アクリロニトリル含有ポリマーをゲル押出しすることにより、ポリマー繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー繊維を形成せしめる工程;および
該延伸ポリマー繊維を安定化せしめる工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記安定化させたポリマー繊維を炭化する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭化されたポリマー繊維を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記延伸ポリマー繊維が、約100ナノメートル〜約100マイクロメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー繊維を、張力をかけて安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー繊維を、酸化環境において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー繊維を、約36時間以下にわたり摂氏約200度〜摂氏約400度において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー繊維を、張力をかけて炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー繊維を、不活性な環境において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー繊維を、約2時間以下にわたり摂氏約500度〜摂氏約1800度において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー繊維を、張力をかけて黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー繊維を、窒素非含有の不活性な環境において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー繊維を、約1時間以下にわたり摂氏約1800度〜摂氏約2800度において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記炭素繊維が、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を
有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前述の請求項のいずれかに記載の方法によって作製される、炭素繊維。
【請求項16】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;および
該延伸ポリマー−CNT繊維を安定化せしめる工程
を包含する、方法。
【請求項17】
前記安定化させたポリマー−CNT繊維を炭化する工程をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記炭化されたポリマー−CNT繊維を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記CNTが、単層ナノチューブ、2層ナノチューブ、3層ナノチューブ、または前述の種類のCNTのうちの2つ以上を含む組み合わせからなる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記CNTが、約0.5ナノメートル〜約100ナノメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記CNTが、約10ナノメートル以下の平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記CNTが、約10ナノメートル以上の平均長を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記CNTが、前記ドープの総重量に基づいて、前記ドープの約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記延伸ポリマー−CNT繊維が、約100ナノメートル〜約100マイクロメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT繊維を、張力をかけて安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT繊維を、酸化環境において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT繊維を、約36時間以下にわたり摂氏約200度〜摂氏約400度において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT繊維を、張力をかけて炭化する工
程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT繊維を、不活性な環境において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT繊維を、約2時間以下にわたり摂氏約500度〜摂氏約1800度において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT繊維を、張力をかけて黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT繊維を、窒素非含有の不活性な環境において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT繊維を、約1時間以下にわたり摂氏約1800度〜摂氏約2800度において、黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記炭素繊維が、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記CNTが、前記炭素繊維の総重量に基づいて、前記炭素繊維の約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記炭素繊維において前記CNTが剥離している、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記炭素繊維が、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記結晶化黒鉛領域が、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記炭素繊維が、CNTを含まない炭素繊維よりも少なくとも25%高い電気伝導率を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
炭素膜を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT膜前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT膜を形成せしめる工程;および
該延伸ポリマー−CNT膜を安定化せしめる工程
を包含する、方法。
【請求項41】
前記安定化させたポリマー−CNT膜を炭化する工程をさらに包含する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記炭化されたポリマー−CNT膜を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記CNTが、単層ナノチューブ、2層ナノチューブ、3層ナノチューブ、または前述の種類のCNTのうちの2つ以上を含む組み合わせからなる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
前記CNTが、約0.5ナノメートル〜約100ナノメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
前記CNTが、約10ナノメートル以下の平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
前記CNTが、約10ナノメートル以上の平均長を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
前記CNTが、前記ドープの総重量に基づいて、前記ドープの約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
前記延伸ポリマー−CNT膜が、約50ナノメートル〜約500マイクロメートルの平均厚を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT膜を、張力をかけて安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT膜を、酸化環境において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT膜を、約36時間以下にわたり摂氏約200度〜摂氏約400度において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT膜を、張力をかけて炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT膜を、不活性な環境において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT膜を、約2時間以下にわたり、摂氏約500度〜摂氏約1800度において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT膜を、張力をかけて黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT繊維または膜を、窒素非含有の不活性な環境において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT膜を、約1時間以下にわたり、摂氏約1800度〜摂氏約2800度において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項の
いずれかに記載の方法。
【請求項58】
前記炭素膜が、約25ナノメートル〜約250マイクロメートルの平均厚を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記CNTが、前記炭素膜の総重量に基づいて、前記炭素膜の約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項60】
前記炭素膜において前記CNTが剥離している、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項61】
前記炭素膜が、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項62】
前記結晶化黒鉛領域が、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
前記炭素膜が、CNTを含んでいない炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT繊維を安定化せしめる工程;および
各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を有する炭素繊維を作製するのに有効な、該安定化させた繊維を炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項65】
前記炭化されたポリマー−CNT繊維を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
炭素膜を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT膜前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT膜を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT膜を安定化せしめる工程;および
各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を有する炭素膜を作製するのに有効な、該安定化させた膜を炭化する工程を包含する、方法。
【請求項67】
前記炭化されたポリマー−CNT膜を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程であって、ここで、該ポリマー−CNTドープは、該アクリロニトリル含有ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む、工程;
該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT繊維を安定化せしめる工程;および
該CNTなしで作製された炭素繊維よりも少なくとも0.5GPa大きい引張強度および少なくとも50GPa大きい引張係数を有する炭素繊維を作製するのに有効な、該安定化させた繊維を炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項69】
前記炭化されたポリマー−CNT繊維または膜を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
炭素膜を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程であって、ここで、該ポリマー−CNTドープは、該アクリロニトリル含有ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む、工程;
該ポリマー−CNTドープを押出しして、ポリマー−CNT膜前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT膜を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT膜を安定化せしめる工程;および
該CNTなしで作製された炭素膜よりも、少なくとも0.5GPa大きい引張強度および少なくとも50GPa大きい引張係数を有する炭素膜を作製するのに有効な、該安定化させた膜を炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項71】
前記炭化されたポリマー−CNT膜を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
炭素ナノチューブ(CNT)およびアクリロニトリル含有ポリマーから形成される炭素繊維または炭素膜であって、
約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法;および
各CNTの壁から放射状に約0.34〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域
を備える、炭素繊維または炭素膜。
【請求項73】
前記結晶化黒鉛領域が、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている、請求項72に記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項74】
前記CNTが、単層ナノチューブ、2層ナノチューブ、3層ナノチューブ、または前述の種類のナノチューブのうちの2つ以上を含む組み合わせからなる、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項75】
前記CNTが、約0.5ナノメートル〜約100ナノメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項76】
前記CNTが、約10ナノメートル以下の平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項77】
前記CNTが、約10ナノメートル以上の平均長を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項78】
前記CNTが、炭素繊維または炭素膜の総重量に基づいて、炭素繊維または炭素膜の約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項79】
前記炭素繊維または炭素膜におけるCNTが剥離している、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項80】
前記炭素繊維または炭素膜が、CNTを含んでいない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項81】
前記炭素繊維または炭素膜が、CNTなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約0.5GPa大きい引張強度を備える、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項82】
前記炭素繊維または炭素膜が、CNTなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約50GPa大きい引張係数を備える、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項83】
前記炭素繊維または炭素膜が光透過性である、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項84】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程であって、ここで、該ポリマー−CNTドープは、該アクリロニトリル含有ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む、工程;
該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT繊維を、大気中で張力をかけて安定化せしめる工程;および
該CNTなしで作製された炭素繊維よりも少なくとも0.7GPa大きい引張強度および少なくとも77GPa大きい引張係数を有する炭素繊維を作製するのに有効な、該安定せしめた繊維を不活性な環境において張力をかけて炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項85】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程であって、ここで、該ポリマー−CNTド
ープは、該アクリロニトリル含有ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む、工程;
該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT繊維を、大気中で張力をかけて安定化せしめる工程;および
約10マイクロメートル以下の平均直径を有する炭素繊維を作製するのに有効な、該安定化させた繊維を不活性な環境において張力をかけて炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項86】
炭素ナノチューブ(CNT)およびアクリロニトリル含有ポリマーから形成された炭素繊維であって、
約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法;および
該CNTなしで形成された炭素繊維よりも少なくとも0.7GPa大きい引張強度および少なくとも77GPa大きい引張係数
を備える、炭素繊維。
【請求項87】
CNTなしで作製された炭素繊維よりも、前記炭素繊維の引張強度が、少なくとも1.2GPa大きく、前記炭素繊維の引張係数が、少なくとも148GPa大きい、請求項86に記載の炭素繊維。
【請求項88】
炭素繊維を作製する方法であって、
グラファイトシートをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−グラファイトシートドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−グラファイトシートドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−グラファイトシート繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−グラファイトシート繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−グラファイトシート繊維を形成せしめる工程;および
該延伸ポリマー−グラファイトシート繊維を安定化せしめる工程
を包含する、方法。
【請求項89】
前記安定化させたポリマー−グラファイトシート繊維を炭化する工程をさらに包含する、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記炭化されたポリマー−グラファイトシート繊維を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
グラファイトシートおよびアクリロニトリル含有ポリマーから形成される炭素繊維または炭素膜であって、
約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法;および
各グラファイトシートの表面から約0.34〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域
を備える、炭素繊維または炭素膜。
【請求項92】
前記結晶化黒鉛領域が、各グラファイトシートの表面から少なくとも約2ナノメートル広がっている、請求項91に記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項93】
前記炭素繊維または炭素膜におけるグラファイトシートが剥離している、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項94】
前記炭素繊維または炭素膜が、グラファイトシートを含まない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項95】
前記炭素繊維または炭素膜が、グラファイトシートなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約0.5GPa大きい引張強度を備える、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項96】
前記炭素繊維または炭素膜が、グラファイトシートなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約50GPa大きい引張係数を備える、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項1】
炭素繊維を作製する方法であって、
アクリロニトリル含有ポリマーをゲル押出しすることにより、ポリマー繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー繊維を形成せしめる工程;および
該延伸ポリマー繊維を安定化せしめる工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記安定化させたポリマー繊維を炭化する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭化されたポリマー繊維を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記延伸ポリマー繊維が、約100ナノメートル〜約100マイクロメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー繊維を、張力をかけて安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー繊維を、酸化環境において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー繊維を、約36時間以下にわたり摂氏約200度〜摂氏約400度において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー繊維を、張力をかけて炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー繊維を、不活性な環境において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー繊維を、約2時間以下にわたり摂氏約500度〜摂氏約1800度において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー繊維を、張力をかけて黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー繊維を、窒素非含有の不活性な環境において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー繊維を、約1時間以下にわたり摂氏約1800度〜摂氏約2800度において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記炭素繊維が、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を
有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前述の請求項のいずれかに記載の方法によって作製される、炭素繊維。
【請求項16】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;および
該延伸ポリマー−CNT繊維を安定化せしめる工程
を包含する、方法。
【請求項17】
前記安定化させたポリマー−CNT繊維を炭化する工程をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記炭化されたポリマー−CNT繊維を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記CNTが、単層ナノチューブ、2層ナノチューブ、3層ナノチューブ、または前述の種類のCNTのうちの2つ以上を含む組み合わせからなる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記CNTが、約0.5ナノメートル〜約100ナノメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記CNTが、約10ナノメートル以下の平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記CNTが、約10ナノメートル以上の平均長を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記CNTが、前記ドープの総重量に基づいて、前記ドープの約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記延伸ポリマー−CNT繊維が、約100ナノメートル〜約100マイクロメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT繊維を、張力をかけて安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT繊維を、酸化環境において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT繊維を、約36時間以下にわたり摂氏約200度〜摂氏約400度において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT繊維を、張力をかけて炭化する工
程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT繊維を、不活性な環境において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT繊維を、約2時間以下にわたり摂氏約500度〜摂氏約1800度において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT繊維を、張力をかけて黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT繊維を、窒素非含有の不活性な環境において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT繊維を、約1時間以下にわたり摂氏約1800度〜摂氏約2800度において、黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記炭素繊維が、約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記CNTが、前記炭素繊維の総重量に基づいて、前記炭素繊維の約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記炭素繊維において前記CNTが剥離している、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記炭素繊維が、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記結晶化黒鉛領域が、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記炭素繊維が、CNTを含まない炭素繊維よりも少なくとも25%高い電気伝導率を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
炭素膜を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT膜前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT膜を形成せしめる工程;および
該延伸ポリマー−CNT膜を安定化せしめる工程
を包含する、方法。
【請求項41】
前記安定化させたポリマー−CNT膜を炭化する工程をさらに包含する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記炭化されたポリマー−CNT膜を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記CNTが、単層ナノチューブ、2層ナノチューブ、3層ナノチューブ、または前述の種類のCNTのうちの2つ以上を含む組み合わせからなる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
前記CNTが、約0.5ナノメートル〜約100ナノメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
前記CNTが、約10ナノメートル以下の平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
前記CNTが、約10ナノメートル以上の平均長を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
前記CNTが、前記ドープの総重量に基づいて、前記ドープの約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
前記延伸ポリマー−CNT膜が、約50ナノメートル〜約500マイクロメートルの平均厚を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT膜を、張力をかけて安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT膜を、酸化環境において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記安定化工程が、前記延伸ポリマー−CNT膜を、約36時間以下にわたり摂氏約200度〜摂氏約400度において安定化せしめる工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT膜を、張力をかけて炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT膜を、不活性な環境において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記炭化工程が、前記安定化させたポリマー−CNT膜を、約2時間以下にわたり、摂氏約500度〜摂氏約1800度において炭化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT膜を、張力をかけて黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT繊維または膜を、窒素非含有の不活性な環境において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
前記黒鉛化工程が、前記炭化されたポリマー−CNT膜を、約1時間以下にわたり、摂氏約1800度〜摂氏約2800度において黒鉛化する工程を包含する、前述の請求項の
いずれかに記載の方法。
【請求項58】
前記炭素膜が、約25ナノメートル〜約250マイクロメートルの平均厚を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記CNTが、前記炭素膜の総重量に基づいて、前記炭素膜の約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項60】
前記炭素膜において前記CNTが剥離している、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項61】
前記炭素膜が、各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を含む、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項62】
前記結晶化黒鉛領域が、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
前記炭素膜が、CNTを含んでいない炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を有する、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT繊維を安定化せしめる工程;および
各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を有する炭素繊維を作製するのに有効な、該安定化させた繊維を炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項65】
前記炭化されたポリマー−CNT繊維を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
炭素膜を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT膜前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT膜を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT膜を安定化せしめる工程;および
各CNTの壁から放射状に約0.34ナノメートル〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域を有する炭素膜を作製するのに有効な、該安定化させた膜を炭化する工程を包含する、方法。
【請求項67】
前記炭化されたポリマー−CNT膜を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程であって、ここで、該ポリマー−CNTドープは、該アクリロニトリル含有ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む、工程;
該ポリマー−CNTドープを押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT繊維を安定化せしめる工程;および
該CNTなしで作製された炭素繊維よりも少なくとも0.5GPa大きい引張強度および少なくとも50GPa大きい引張係数を有する炭素繊維を作製するのに有効な、該安定化させた繊維を炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項69】
前記炭化されたポリマー−CNT繊維または膜を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
炭素膜を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程であって、ここで、該ポリマー−CNTドープは、該アクリロニトリル含有ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む、工程;
該ポリマー−CNTドープを押出しして、ポリマー−CNT膜前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT膜前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT膜を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT膜を安定化せしめる工程;および
該CNTなしで作製された炭素膜よりも、少なくとも0.5GPa大きい引張強度および少なくとも50GPa大きい引張係数を有する炭素膜を作製するのに有効な、該安定化させた膜を炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項71】
前記炭化されたポリマー−CNT膜を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
炭素ナノチューブ(CNT)およびアクリロニトリル含有ポリマーから形成される炭素繊維または炭素膜であって、
約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法;および
各CNTの壁から放射状に約0.34〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域
を備える、炭素繊維または炭素膜。
【請求項73】
前記結晶化黒鉛領域が、各CNTの壁から放射状に少なくとも約2ナノメートル広がっている、請求項72に記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項74】
前記CNTが、単層ナノチューブ、2層ナノチューブ、3層ナノチューブ、または前述の種類のナノチューブのうちの2つ以上を含む組み合わせからなる、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項75】
前記CNTが、約0.5ナノメートル〜約100ナノメートルの平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項76】
前記CNTが、約10ナノメートル以下の平均直径を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項77】
前記CNTが、約10ナノメートル以上の平均長を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項78】
前記CNTが、炭素繊維または炭素膜の総重量に基づいて、炭素繊維または炭素膜の約0.001重量パーセント〜約80重量パーセントを構成する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項79】
前記炭素繊維または炭素膜におけるCNTが剥離している、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項80】
前記炭素繊維または炭素膜が、CNTを含んでいない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項81】
前記炭素繊維または炭素膜が、CNTなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約0.5GPa大きい引張強度を備える、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項82】
前記炭素繊維または炭素膜が、CNTなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約50GPa大きい引張係数を備える、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項83】
前記炭素繊維または炭素膜が光透過性である、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項84】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程であって、ここで、該ポリマー−CNTドープは、該アクリロニトリル含有ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む、工程;
該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT繊維を、大気中で張力をかけて安定化せしめる工程;および
該CNTなしで作製された炭素繊維よりも少なくとも0.7GPa大きい引張強度および少なくとも77GPa大きい引張係数を有する炭素繊維を作製するのに有効な、該安定せしめた繊維を不活性な環境において張力をかけて炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項85】
炭素繊維を作製する方法であって、
炭素ナノチューブ(CNT)をアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−CNTドープを形成せしめる工程であって、ここで、該ポリマー−CNTド
ープは、該アクリロニトリル含有ポリマーの重量に基づいて約1重量パーセントのCNTを含む、工程;
該ポリマー−CNTドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−CNT繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−CNT繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−CNT繊維を形成せしめる工程;
該延伸ポリマー−CNT繊維を、大気中で張力をかけて安定化せしめる工程;および
約10マイクロメートル以下の平均直径を有する炭素繊維を作製するのに有効な、該安定化させた繊維を不活性な環境において張力をかけて炭化する工程
を包含する、方法。
【請求項86】
炭素ナノチューブ(CNT)およびアクリロニトリル含有ポリマーから形成された炭素繊維であって、
約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法;および
該CNTなしで形成された炭素繊維よりも少なくとも0.7GPa大きい引張強度および少なくとも77GPa大きい引張係数
を備える、炭素繊維。
【請求項87】
CNTなしで作製された炭素繊維よりも、前記炭素繊維の引張強度が、少なくとも1.2GPa大きく、前記炭素繊維の引張係数が、少なくとも148GPa大きい、請求項86に記載の炭素繊維。
【請求項88】
炭素繊維を作製する方法であって、
グラファイトシートをアクリロニトリル含有ポリマーと接触させることにより、ポリマー−グラファイトシートドープを形成せしめる工程;
該ポリマー−グラファイトシートドープをゲル押出しすることにより、ポリマー−グラファイトシート繊維前駆体を形成せしめる工程;
該ポリマー−グラファイトシート繊維前駆体を延伸することにより、延伸ポリマー−グラファイトシート繊維を形成せしめる工程;および
該延伸ポリマー−グラファイトシート繊維を安定化せしめる工程
を包含する、方法。
【請求項89】
前記安定化させたポリマー−グラファイトシート繊維を炭化する工程をさらに包含する、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記炭化されたポリマー−グラファイトシート繊維を黒鉛化する工程をさらに包含する、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
グラファイトシートおよびアクリロニトリル含有ポリマーから形成される炭素繊維または炭素膜であって、
約50ナノメートル〜約50マイクロメートルの横断面の平均寸法;および
各グラファイトシートの表面から約0.34〜約50ナノメートル広がっている結晶化黒鉛領域
を備える、炭素繊維または炭素膜。
【請求項92】
前記結晶化黒鉛領域が、各グラファイトシートの表面から少なくとも約2ナノメートル広がっている、請求項91に記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項93】
前記炭素繊維または炭素膜におけるグラファイトシートが剥離している、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項94】
前記炭素繊維または炭素膜が、グラファイトシートを含まない炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも25%高い電気伝導率を有する、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項95】
前記炭素繊維または炭素膜が、グラファイトシートなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約0.5GPa大きい引張強度を備える、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【請求項96】
前記炭素繊維または炭素膜が、グラファイトシートなしで形成された炭素繊維または炭素膜よりも少なくとも約50GPa大きい引張係数を備える、前述の請求項のいずれかに記載の炭素繊維または炭素膜。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図5(d)】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図6】
【図1(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図5(d)】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図6】
【公表番号】特表2010−530929(P2010−530929A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548420(P2009−548420)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/052471
【国際公開番号】WO2008/112349
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(500020357)ジョージア テック リサーチ コーポレイション (39)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/052471
【国際公開番号】WO2008/112349
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(500020357)ジョージア テック リサーチ コーポレイション (39)
【Fターム(参考)】
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