説明

炭素繊維の凝集体

【課題】 樹脂等に少量添加するだけでも高い導電性や高い熱伝導性を付与することが可能な炭素繊維を提供する。
【解決手段】 チューブ構造を有し、外径dが2〜20nmであり、内径d0と外径dとの比(d0/d)が0.6〜0.9である非直線状の炭素繊維が、同じ方向に揃って伸張した凝集体。該凝集体は帯若しくはリボンのような形をしている。当該凝集体を、マトリクス材に配合し、混錬することによって、複合材料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維の凝集体に関する。より詳細に、本発明は、樹脂等に少量添加するだけでも高い導電性や高い熱伝導性を付与することが可能な、炭素繊維を高い効率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂からなるマトリクス材に、カーボンブラック、繊維状炭素などの炭素系フィラーや金属粉などの金属系フィラーなどを配合することによって、導電性または熱伝導性を有する樹脂複合材料が得られることが知られている。
導電性樹脂複合材料は、ESD(静電気放電)分野、電磁波遮蔽分野などでの使用が期待されている。ところが、従来の炭素系フィラーを配合してなる樹脂複合材料は、体積抵抗率1×106Ω・cm程度の導電性が得られるにすぎず、そのために帯電防止材料、ESD保護素子などの低い導電性でも対応可能な分野での使用に留まり、電磁波遮蔽材料などの高い導電性を求められる分野での実用にまでは至っていない。
【0003】
炭素系フィラーとしてカーボンナノチューブが知られている。カーボンナノチューブの製造方法としては、化学的気相成長法(以下、CVD法という。)が知られている。CVD法としては、有機金属錯体や金属塩などを気相反応系内で分解して触媒を生成させ若しくは触媒をコロイド状態で気相反応系に導入し、該触媒を用いてカーボンナノチューブを製造する方法(特許文献1〜3)と、触媒粒子を担体に担持して得られる担持型触媒を用いてカーボンナノチューブを製造する方法(特許文献7または非特許文献1参照)とが知られている。
前者の有機金属錯体などを使用する方法では、グラファイト層の欠陥が多い炭素繊維が得られやすい。そのため、得られた炭素繊維を高温で熱処理して黒鉛化しないと導電性フィラーとしての役割を果たさない。
後者の担持型触媒を使用する方法には、基板を用いる方法(基板法:特許文献4〜6参照)と粉末状担体を用いる方法とがある。基板法は、触媒が担持された基板上にカーボンナノチューブを生成させる方法である。基板法で、大量にカーボンナノチューブを製造するためには、基板を多数使用しなければならないので、製造効率が低い。また生成したカーボンナノチューブを基板から回収する必要があるので、工程数が多く、経済的でない。そのため、基板法は工業的な利用には未だ至っていない。
【0004】
一方、粉末状担体を用いる方法は、小さな容積でも、大きな表面積を確保できるので、製造効率が高い。粉末状担体として、アルミナ、マグネシア、シリカ、ゼオライトなどの比表面積の大きい微粉末が従来一般に用いられている。しかし、従来の粉末状担持型触媒を用いて得られるカーボンナノチューブを樹脂に少量添加しても所望の高い導電率を有する複合材料が得られなかった。高い導電性を有する複合材料を得るためにはカーボンナノチューブを樹脂に多量に配合することが必要である。しかし、カーボンナノチューブを多量に樹脂に配合すると、樹脂が本来有していた優れた特性を大幅に損なうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−73930号公報
【特許文献2】特開2003−171832号公報
【特許文献3】特開2005−225757号公報
【特許文献4】特開2007−268319号公報
【特許文献5】特開2008−169092号公報
【特許文献6】特開2001−62299号公報
【特許文献7】WO2007/074629
【特許文献8】特開2008−133177号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. B, 2004, 108, 18908.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、樹脂等に少量添加するだけでも高い導電性や高い熱伝導性を付与することが可能な炭素繊維を高い効率で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献8に、低比表面積の電融マグネシア担体を用いて炭素繊維を製造する試みが示されている。しかし、特許文献8に記載の方法に従って炭素繊維を製造しても得られる量は極わずかであり、工業的生産に適用するのは困難であった。
そこで、本発明者らは上記の課題を解決するために検討を重ねた。その結果、特定の結晶面が発達した粉末状担体に、触媒を含有するコロイドを含浸させて、触媒粒子を粉末状担体に担持させることによって得られる担持型触媒を用いると、樹脂等に少量添加するだけでも高い導電性や高い熱伝導性を付与することが可能な炭素繊維が高効率で得られることを見出した。また、この炭素繊維の好適なものは、特異な状態で凝集しているものであることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねたことによって完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
〔1〕X線回折において観測される最も強いピークの強度I1と2番目に強いピークの強度I2との比(I1/I2)が4以上である粉末状担体に、触媒を含有するコロイドを含浸させて、触媒粒子を粉末状担体に担持させることを含む方法で得られる担持型触媒と、 炭素原子含有化合物とを加熱帯域で接触させることを含む、炭素繊維の製造方法。
〔2〕前記粉末状担体がMgを含み且つX線回折において観測される最も強い強度I1を示すピークが(200)面に由来するものであり、2番目に強い強度I2を示すピークが(220)面に由来するものである〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記粉末状担体が酸化マグネシウムを含む〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記酸化マグネシウムが電融マグネシアである〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕前記触媒がFeを含む〔1〕に記載の製造方法。
〔6〕前記触媒を含有するコロイドがFe34コロイドである〔1〕に記載の製造方法。
〔7〕前記触媒を含有するコロイド中の触媒の粒子径が1〜100nmである〔1〕に記載の製造方法。
〔8〕前記担持型触媒は、触媒粒子の担持量(触媒金属元素のモル換算)が粉末状担体の表面積当り5×10-4mol/m2以下である〔1〕に記載の製造方法。
〔9〕前記炭素繊維がチューブ構造を有し、その内径d0と外径dの比(d0/d)が0.1〜0.9である〔1〕に記載の製造方法。
〔10〕前記炭素繊維がチューブ構造を有し、その外径dが1〜100nm、内径d0が0.1〜90nmである〔1〕に記載の製造方法。
〔11〕前記炭素繊維は、それぞれの繊維軸が相互に略平行になった状態で凝集している〔1〕に記載の製造方法。
〔12〕触媒を含有するコロイドが、 触媒源となる価数の異なる2種以上の金属ハロゲン化物と炭素原子数8以上の界面活性剤とを液媒体中で加熱処理し、次いで精製することを含む方法によって得られるものである、〔1〕に記載の製造方法。
〔13〕X線回折において観測される最も強いピークの強度I1と2番目に強いピークの強度I2との比(I1/I2)が4以上である粉末状担体に、触媒を含有するコロイドを含浸させて、触媒粒子を粉末状担体に担持させることを含む炭素繊維製造用担持型触媒の製造方法。
〔14〕触媒源となる価数の異なる2種以上の金属ハロゲン化物と、炭素原子数8以上の界面活性剤とを液媒体中で加熱処理し、次いで精製することを含む方法によって触媒を含有するコロイドを得ることをさらに含む〔13〕に記載の製造方法。
〔15〕粉末状担体に触媒を含有するコロイドを含浸させて触媒粒子を粉末状担体に担持させることが、触媒を含有するコロイドと粉末状担体とを混合し、該混合物を乾燥させることである〔14〕に記載の製造方法。
【0010】
〔16〕特定の結晶面が発達した粉末状担体に、触媒を含有するコロイドを含浸させて、触媒粒子を粉末状担体に担持させることを含む方法で得られる担持型触媒と、 炭素原子含有化合物とを加熱帯域で接触させることを含む、炭素繊維の製造方法。
〔17〕X線回折において観測される最も強いピークの強度I1と2番目に強いピークの強度I2との比(I1/I2)が、JCPDSに記載の最も強いピークの強度I1sと2番目に強いピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)の1.5倍以上である粉末状担体に、触媒を含有するコロイドを含浸させて、触媒粒子を粉末状担体に担持させることを含む方法で得られる担持型触媒と、 炭素原子含有化合物とを加熱帯域で接触させることを含む、炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、樹脂等に少量添加するだけでも高い導電性や高い熱伝導性を付与することが可能な炭素繊維を高い効率で得ることができる。
【0012】
本発明の製造方法によって得られる炭素繊維が、大きな導電性付与効果等を有する理由は明らかではないが、以下のように推定している。
導電性付与効果を高めるためには、アスペクト比を大きくすることと、マトリクス材中への分散性を向上させることが重要であると推論している。アスペクト比を向上させるひとつの方法は、繊維径を細くする方法である。そのためには、微細な粒子径の触媒粒子を調製し、高温下で炭素原子含有化合物と接触させている間も、微細な粒子を保持していることが重要である。微細な触媒前駆体粒子はコロイド法などの手法によって調整することが可能である。前述の特許文献1−3のように、触媒および触媒体化合物を気相に噴霧する方法では、高温で炭素含有化合物と接触するまでに、触媒粒子どうしの衝突凝集粗大化が進行する為、担体を用いるなどして、凝集を抑制することが、重要である。
【0013】
樹脂中への分散性に関しては、基板上に垂直配向した炭素繊維の方が、繊維どうしが絡み合った繊維よりも分散性が向上することが知られている。本発明の好ましい実施態様における製造方法で生成する炭素繊維の一例は、この繊維のように、垂直に配向しているわけではなく、凝集体として、湾曲して、くねくねとしているが、繊維軸の方向が各々の繊維でほぼ同じ方向に成長しているため、繊維どうしの絡まりあいの程度が低く、そのため、マトリクス材中へ添加させるときに、良好に分散するものと考えられる。
【0014】
下記の比較例で示すように、一般的に用いられている微細なマグネシア粉末を担体として用いた場合、特に結晶成長の乏しい軽質マグネシアなどを担体として用い場合には、繊維どうしが絡み合った分散性の悪い炭素繊維が生成しやすい。
これに対して、本発明の好ましい実施態様で使用する担体のように、結晶が特に異方性を持って(200)面が発達している場合、この(200)面上に炭素繊維が束状に繊維軸の方向をそろえて成長する。この傾向は特にコロイド溶液を用いて担持した触媒を使用した場合に顕著であり、一般的に用いられるような触媒前躯体の溶液を含浸させる方法ではこのような作用は少ない。溶液を用いたときは結晶表面よりもむしろ粒界や細孔一次粒子間に触媒粒子が生成しやすいが、コロイド溶液を用いたときはその粘性などの効果もあって結晶面に触媒粒子が生成しやすい。あるいは、コロイド溶液を用いて触媒を担持し、乾燥させる際に、結晶の特定面とのインタラクションによってコロイド粒子が比較的きれいに整列するためではないかと推定している。
【0015】
このように、コロイド溶液を用いて、触媒粒子を特定の結晶面が発達した担体に担持した触媒を用いることで、分散性が良く、微細な炭素繊維が生成するため、マトリクス材に少量添加するだけでも、導電性や機械特性などが大きく向上するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で製造した炭素繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で製造した炭素繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で製造した炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1で製造した炭素繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例1で製造した炭素繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の炭素繊維の製造方法は、担持型触媒と炭素原子含有化合物とを加熱帯域で接触させることを含むものである。
【0018】
本発明に用いられる担持型触媒は、粉末状担体に、触媒を含有するコロイドを含浸させて、触媒粒子を粉末状担体に担持させることを含む方法で得られるものである。
【0019】
「粉末状担体」
本発明における担持型触媒に用いられる粉末状担体は、特定の結晶面が発達したものであることが好ましい。
このような特定の結晶面が発達しているかどうかは、例えば、(等方的な)粉末のX線回折データと対比することによって判定できる。(等方的な)粉末のX線回折データはJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)などに掲載されている。JCPDSによれば、例えば、マグネシアは(200)面に由来するピークの強度I1sと(220)面に由来するピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)が2.6(No.45−946)である。アルミナは(104)面に由来するピークの強度I1sと(116)面に由来するピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)が1.1(No.1212−46)であり、(113)面に由来するピークの強度I1sと(116)面に由来するピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)が1.3(10−173)である。カルシアは(200)面に由来するピークの強度I1sと(111)面に由来するピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)が2.5(48−1467)〜2.7(37−1497)である。なお、カッコ内の数字はJCPDSカードナンバーである。I1sはJCPDSに記載のピークの内で最も強いピークの強度を示し、I2sはJCPDSに記載のピークの内で2番目に強いピークの強度を示す。
【0020】
これに対して、本発明に用いられる粉末状担体は、粉末X線回折において観測される最も強いピークの強度I1と2番目に強いピークの強度I2との比(I1/I2)が、上記JCPDSに記載の最も強いピークの強度I1sと2番目に強いピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)よりも大きいもの、好ましくはJCPDSに記載の最も強いピークの強度I1sと2番目に強いピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)の1.5倍以上のもの、より好ましくはJCPDSに記載の最も強いピークの強度I1sと2番目に強いピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)の2倍以上のものである。なお、I1は実測されたピークの内で最も強いピークの強度を示し、I2は実測されたピークの内で2番目に強いピークの強度を示す。粉末X線回折において観測される最も強いピークの強度I1と2番目に強いピークの強度I2との比(I1/I2)としては、例えば、マグネシアの(200)面に由来するピークの強度I1と(220)面に由来するピーク強度I2との比(I1/I2);アルミナの(104)面に由来するピークの強度I1と(116)面に由来するピーク強度I2との比(I1/I2);アルミナの(113)面に由来するピークの強度I1と(116)面に由来するピーク強度I2との比(I1/I2);カルシアの(200)面に由来するピークの強度I1と(111)面に由来するピーク強度I2との比(I1/I2)などが挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる粉末状担体の一実施形態は、粉末X線回折において観測される最も強いピークの強度I1と2番目に強いピークの強度I2との比(I1/I2)が、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。該ピーク強度比(I1/I2)が小さすぎると所望の導電性または熱伝導性が得られ難くなる傾向がある。
【0022】
当該粉末状担体がMgを含むものであるとき、X線回折において観測される最も強い強度I1を示すピークは(200)面に由来するものであることが好ましく、2番目に強い強度I2を示すピークが(220)面に由来するものであることが好ましい。
【0023】
当該粉末状担体は、それを構成する化学種によっては限定されない。例えば、化学種として、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、シリカ、カルシアなどの酸化物; 窒化アルミニウムなどの窒化物;を挙げることができる。これら化学種の中でも、酸化マグネシウムが好ましく、電融マグネシア、すなわち電気溶融法によって製造されるマグネシアがより好ましい。
【0024】
当該粉末状担体は、その粒子径が、好ましくは1〜5000μm、より好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは40〜200μmである。粉末状担体の粒子径は篩わけによって確認することができる。
当該粉末状担体は、その比表面積が、当該分野で一般的に使用されていたものよりも小さいことが好ましい。具体的には、粉末状担体の比表面積は、好ましくは1〜10m2/g、より好ましくは1.5〜3m2/gである。
また、当該粉末状担体は、その嵩密度(JIS Z−2512(タップ密度測定方法)に準拠して測定)が、好ましくは0.8〜3g/cm3、より好ましくは1〜2.5g/cm3である。
【0025】
当該粉末状担体を得る方法は特に限定されない。例えば、電気溶融法で得ることができる。また、市販されている粉末状担体の中から入手することができる。
【0026】
「触媒を含有するコロイド(以下、「触媒コロイド」と表記することがある。)」
担持型触媒の調製のために用いられる触媒コロイドは、微細な触媒を液媒体中に分散させてなるものである。触媒コロイド中の触媒の粒子径は、特に限定されないが、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜50nm、さらに好ましくは1〜20nmである。なお、触媒コロイド中の触媒の粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される画像から求められる平均径である。
触媒コロイドに含まれる触媒粒子の濃度は、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。濃度が高すぎると触媒コロイドの粘度が高くなるので、粉末状担体への担持を行うときの取扱いが不便になる傾向がある。濃度が低すぎると所望の担持量にするための手数が増える傾向がある。
【0027】
触媒コロイドは、その調製法によって特に限定されない。例えば、界面活性剤が存在する液媒体中で金属カルボニルなどを熱分解することによって微細な金属微粒子が分散されたコロイドを調製する方法や、界面活性剤が存在する液媒体に金属触媒源と水素化ホウ素ナトリウムや水素化ホウ素リチウムなどの還元剤とを反応させることによって金属微粒子が分散されたコロイドを調製する方法や、金属触媒源が溶解された極性溶媒を界面活性剤の存在下で非極性溶媒に置換することによって金属微粒子が分散されたコロイドを調製する方法(マイクロエマルション法)などを挙げることができる。
【0028】
本発明において、触媒コロイドは、界面活性剤の存在下で触媒源となる価数の異なる2種以上の金属ハロゲン化物から調製することが好ましい。より詳細には、触媒コロイドは、触媒源となる価数の異なる2種以上の金属ハロゲン化物と、炭素数8以上の界面活性剤とを液媒体中で加熱処理し、次いで精製することを含む方法で得ることが好ましい。加熱温度の上限は、好ましくは液媒体の沸点より10℃低い温度、より好ましくは液媒体の沸点より20℃低い温度である。このような調製方法によれば、低温、具体的には100℃以下での調製条件で、触媒コロイドを得ることができるので、製造コストを低く抑えることができる。
【0029】
触媒コロイドの調製において用いられる界面活性剤は、特に限定されないが、触媒粒子の凝集を抑制し、粒子径分布の狭い触媒粒子の調製に貢献できるものが好ましい。具体的には、炭素原子数8以上の界面活性剤が好ましい。
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を用いることができる。陰イオン性界面活性剤の例としては、カルボン酸塩型界面活性剤、スルホン酸塩型界面活性剤、硫酸エステル塩型界面活性剤、燐酸エステル塩型界面活性剤などを挙げることができる。陽イオン性界面活性剤の例としては、第4級アンモニウム塩型界面活性剤、アミン塩型界面活性剤などを挙げることができる。非イオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール脂肪酸エステル型界面活性剤、高級アルコール型界面活性剤などを挙げることができる。
【0030】
これらのうち、陰イオン性界面活性剤の一種である高級脂肪酸のアルカリ金属塩が好ましい。高級脂肪酸のアルカリ金属塩の中では、炭素原子数8〜22の長鎖アルキル基を有する高級脂肪酸のアルカリ金属塩が好ましく、炭素原子数12〜20の長鎖アルキル基を有する高級脂肪酸のアルカリ金属塩がより好ましい。具体的には、カプリル酸ナトリウム、カプリル酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルチミン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノール酸ナトリウム、リノール酸カリウムなどを挙げることができる。また、高級脂肪酸のアルカリ金属塩の代わりにまたは高級脂肪酸のアルカリ金属塩と一緒に、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの遊離脂肪酸とアルカリ性物質とを組み合わせて使用してもよい。触媒コロイド調製時における界面活性剤の濃度は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0031】
触媒コロイドの調製に用いられる液媒体は、触媒粒子を均一に分散させることが可能であれば特に限定されない。例えば、水や、アルコール、ケトン、エステル、炭化水素などの有機溶媒などを挙げることができる。触媒粒子の分散性が良好という観点から、極性の低い有機溶媒が好ましい。極性の低い有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルムなどを挙げることができる。また触媒の乾燥工程を考慮すると、液媒体は、沸点が、好ましくは150℃以下、より好ましくは20℃〜80℃、さらに好ましくは30℃〜80℃、特に好ましくは40℃〜80℃である。このような沸点を有するものとしては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチルなどを挙げることができる。さらに、触媒担体への濡れやすさという観点から、低粘度の溶媒が好ましい。低粘度溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ジエチルエーテルなどを挙げることができる。よって、これらの条件を兼ね備えた液媒体としてはヘキサンを挙げることができる。
【0032】
触媒コロイドの調製に用いられる触媒源は、炭素繊維の成長を促進する物質である限り、特に制限されない。この触媒源としては、例えば、IUPACが1990年に勧告した18族型元素周期表でいう3〜12族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を挙げることができる。これらのうち、3、5、6、8、9および10族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素が好ましく、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、チタニウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金および希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素が特に好ましい。また、これらの触媒として作用する金属元素を含有する化合物(触媒前駆体)としては、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物などの無機塩類、酢酸塩などの有機塩、アセチルアセトン錯体などの有機錯体、有機金属化合物などを挙げることができる。これらのうち、反応性や反応後に残存しにくく精製が容易という観点からハロゲン化物が好ましい。
【0033】
これらの触媒源を2種以上使用することにより、反応活性を調節することができる。触媒源の組み合わせにおいて、好ましくは価数の異なる2種以上の金属化合物、より好ましくは価数の異なる2種以上の金属ハロゲン化物を選択することができる。好適な触媒源の組み合わせの例は、特開2008−174442号公報などに開示されている。具体的には、Fe、CoおよびNiから選択される元素とTi、VおよびCrから選択される元素とMoおよびWから選択される元素とを組み合わせたものを好適なものとして挙げることができる。
【0034】
触媒コロイドは、精製によって、触媒担体への担持およびカーボンナノチューブの合成において好ましくない余剰の界面活性剤などが除去されたものが好ましい。
精製の方法は、特に限定されない。例えば、ウルトラフィルター膜による物理的な精製法、デカンテーションによる精製法などを挙げることができる。
より具体的な精製法の一形態として次のようなものを挙げることができる。先ず上記の調製法で得られた触媒コロイドに適当量の極性溶媒を添加して混ぜ合わせる。その後、重力または遠心力によって触媒沈殿層と上澄み液層とに分離する。分取された上澄み液にさらに適当量の極性溶媒を添加して、重力または遠心力によって触媒沈殿層と上澄み液層とに分離する。この操作を、複数回、好ましくは2〜3回繰り返す。上記操作で分離された触媒沈殿層を一つにまとめ、次いで液媒体を添加し分散させる。これらの操作によって、余剰の界面活性剤などが除去された触媒コロイドが得られる。
【0035】
「担持方法」
次に、本発明の製造方法では、前記の粉末状担体に、前記の触媒コロイドを含浸させて、触媒粒子を粉末状担体に担持させる。
含浸させる手順は、特に制限されない。例えば、粉末状担体に当該担体の吸液量相当分の量の触媒コロイドを滴下し、次いで乾燥させてもよいし;触媒コロイドと粉末状担体とを所定量で混ぜ合わせて、次いでその混合物を乾燥させてもよい。また、滴下若しくは混合の工程と乾燥の工程とを所定の担持量に至るまで繰り返し行っても構わない。乾燥については使用した液媒体が揮発するのに十分な条件であればよく、液媒体の沸点温度程度にまで加熱して乾燥させてもよい。
【0036】
触媒粒子の担持量は、特に限定されないが、担持量が多すぎると、担持された触媒粒子が凝集しやすくなり、炭素繊維の生産性が低下し、得られた炭素繊維に担持型触媒由来の不純物が多く含まれやすくなるので、該炭素繊維を樹脂等に配合したときに該不純物が導電性などの特性に影響を及ぼす傾向がある。一方で担持量が少なすぎると、炭素繊維生成反応の進行が遅くなり、生産性が低下する傾向がある。好適な触媒粒子の担持量(触媒金属元素のモル換算)は、用いられる粉末状担体や触媒コロイドの種類、担持方法などによって異なるが、粉末状担体の表面積当りに、好ましくは5×10-4mol/m2以下、より好ましくは1×10-6mol/m2以上5×10-4mol/m2以下、さらに好ましくは1×10-6mol/m2以上3×10-4mol/m2以下、さらにより好ましくは1×10-6mol/m2以上1×10-4mol/m2以下、特に好ましくは1×10-6mol/m2以上1×10-5mol/m2以下である。
【0037】
「還元処理」
本発明に係る担持型触媒に炭素原子含有化合物を接触させる前に、当該担持型触媒に還元性ガスを接触させて、担体に担持された触媒粒子を還元させてもよい。還元性ガスとしては、水素を含有するガスなどを挙げることができる。ただし、この還元処理を過度に行うと所期の効果が得られ難くなることがある。したがって、本発明においては、還元処理の時間は極力短くする方が好ましい。
【0038】
また、本発明に係る担持型触媒に炭素原子含有化合物と接触させる前に、当該担持型触媒を加熱帯域に過度に長時間滞留させると所期の効果が得られ難くなることがある。したがって、担持型触媒を反応炉中に載置して次いで昇温させる場合には、昇温速度を速くし、所定温度に到達後は直ちに炭素原子含有化合物と接触させるのが好ましい。また、反応炉を所定温度に昇温後に、担持型触媒および炭素原子含有化合物を反応炉に同時に供給するのが好ましい。
【0039】
「炭素原子含有化合物」
本発明に用いられる炭素原子含有化合物は、炭素繊維の炭素源となるものであれば特に限定されない。この炭素原子含有化合物としては、CCl4、CHCl3、CH2Cl2、CH3Cl、CO、CO2、CS2などの化合物全般が使用可能である。特に有用性の高い化合物としては、CO、CO2、脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素を挙げることができる。また、窒素、リン、酸素、硫黄、弗素、塩素、臭素、沃素などの元素を含んだ炭素原子含有化合物を挙げることができる。
【0040】
好ましい炭素原子含有化合物の具体例としては、CO、CO2などの無機ガス;メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどのアルカン類;エチレン、プロピレン、ブタジエンなどのアルケン類;アセチレンなどのアルキン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレンなどの単環式芳香族炭化水素;インデン、ナフタリン、アントラセン、フェナントレンなどの縮合環を有する多環式化合物;シクロプロパン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどのシクロパラフィン類;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィン類;ステロイドなどの縮合環を有する脂環式炭化水素化合物を挙げることができる。
【0041】
また、これらの炭化水素に酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲンなどが含まれる誘導体、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどの含酸素原子化合物;メチルチオール、メチルエチルスルフィド、ジメチルチオケトンなどの含硫黄原子脂肪族化合物;フェニルチオール、ジフェニルスルフィドなどの含硫黄原子芳香族化合物;ピリジン、キノリン、ベンゾチオフェン、チオフェンなどの含硫黄または含窒素原子複素環式化合物;クロロホルム、四塩化炭素、クロルエタン、トリクロルエチレンなどのハロゲン化炭化水素を挙げることができる。
【0042】
さらに、天然ガス、ガソリン、灯油、重油、クレオソート油、ケロシン、テレピン油、樟脳油、松根油、ギヤー油、シリンダ油などの炭素原子含有化合物を含む組成物を挙げることができる。これらは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、CO、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレンまたはこれらの任意組合せからなる混合物が好ましい。
【0043】
前述の担持型触媒と前述の炭素原子含有化合物とを加熱帯域で接触させるために、キャリアーガスを用いることができる。このキャリアーガスは、前述の炭素原子含有化合物と同伴させて加熱帯域に導入することが好ましい。キャリアーガスとしては水素、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、またはこれらの混合ガスなどを挙げることができる。炭素原子含有化合物が二酸化炭素以外のものである場合はキャリアガスとして二酸化炭素を用いることができる。ただし、空気などの酸素分子(O2)を含有するガスは適さない。
【0044】
キャリアーガスとして水素を含有するガスが好ましい。該ガスにおける水素の含有量は、好ましくは1体積%以上、より好ましくは30体積%以上、さらに好ましくは85体積%以上である。水素を含有するガスに共存させることができるガスとしては窒素などを挙げることができる。キャリアーガスとして水素を含有するガスを加熱帯域に導入すると、酸化状態にあった担体に担持された触媒粒子が還元されて担持型触媒を活性化させることができる。
【0045】
炭素原子含有化合物は、常温で液体、固体のものは、加熱気化させてから加熱帯域に導入するのが好ましい。炭素原子含有化合物ガスの供給量は、使用する担持型触媒、炭素原子含有化合物、反応条件によって異なるので、一義的には決められないが、(炭素原子含有化合物ガス流量)/(キャリアーガス流量+炭素原子含有化合物ガス流量)の体積基準百分率として、好ましくは10〜90体積%、より好ましくは30〜70体積%である。例えば、炭素原子含有化合物がエチレンの場合は、30〜90体積%の範囲が好ましい。
【0046】
加熱帯域における温度は、使用する炭素原子含有化合物などの種類によって異なるが、好ましくは400〜1100℃、より好ましくは500〜800℃、さらに好ましくは700〜800℃である。温度が低すぎたり高すぎたりすると、炭素繊維の生成量が低下する傾向がある。また、高温になると、非導電性の物質が副生し、それが炭素繊維表面に付着する傾向がある。このような炭素繊維は、フィラー用途に適さない場合がある。
【0047】
本発明の製造方法によって得られる好ましい炭素繊維は、繊維の中心部に空洞を有するもの、いわゆるチューブ構造のものである。チューブ構造の炭素繊維は、空洞が繊維長手方向に繋がって連続していてもよいし、空洞が途中で塞がって不連続になっていてもよい。また、本発明の製造方法によって得られる好ましい炭素繊維は、グラフェン面が繊維軸に対して略平行に伸張しているものである。なお、本発明において、略平行とは、繊維軸に対するグラフェン面の傾きが約±15度以内のことをいう。グラフェン層を1層だけ有する炭素繊維、いわゆるシングルウォールカーボンナノチューブは表面エネルギーが高く、樹脂等への分散性が比較的に低いので、導電性付与の効果が小さい傾向がある。導電性付与を目的とする場合には、炭素繊維は、グラフェン層を2層有する炭素繊維、いわゆるダブルウォールカーボンナノチューブやグラフェン層を3層以上有する炭素繊維、いわゆるマルチウォールカーボンナノチューブが好ましく、マルチウォールカーボンナノチューブが特に好ましい。
【0048】
本発明の製造方法によって得られる炭素繊維は、導電性付与効果が高いという観点から、その繊維径が細い方が好ましい。繊維径dの上限は、好ましくは100nm、より好ましくは50nm、特に好ましくは20nmである。ただし、細すぎると樹脂等への分散性が低下傾向になるので、繊維径dの下限は好ましくは1nm、より好ましくは2nm、さらに好ましくは4nmである。したがって、分散性と導電性付与効果とを考慮した場合には、繊維径dは2〜20nmが好ましく、4〜20nmがより好ましい。
炭素繊維がチューブ構造のものである場合、空洞部の内径d0は特に限定されないが、好ましくは0.1〜90nmである。また、内径d0と繊維径(外径)dとの比(d0/d)は特に限定されないが、好ましくは0.1〜0.9、より好ましくは0.3〜0.9、さらに好ましくは0.6〜0.9である。なお、繊維径dおよび空洞部内径d0は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察される画像に基づいて測定される平均外径および平均内径である。
【0049】
本発明に係る好ましい実施形態の炭素繊維は、従来技術にみられるような直線状のものと異なり、くねくねと湾曲しているのが特徴である。このことにより複合材料とした場合に、従来の直線状炭素繊維に比べて、マトリクス材との密着性が増し、界面強度が高くなるので、複合材料の機械特性の低下を抑えることができる。
また、本発明の好ましい実施形態の炭素繊維は、繊維自体はくねくねと湾曲しているがそれぞれの繊維は同じ方向に揃って伸張していて、凝集体として帯若しくはリボンのような形をしている(図1、図2参照)。その結果、本発明に係る炭素繊維はそれぞれの繊維軸が相互に略平行になった状態で凝集しているので、繊維どうしの絡み合いの程度が低く、良好な分散性を与えることができると考えられる。
一方、一般的な高比表面積の触媒担体を使用して得られる炭素繊維は、不定形の物質が混在し、繊維自体は直線的で大きく湾曲していることに加えて、繊維どうしがランダムな方向に成長しているために無定形の凝集塊若しくはほぼ球形の凝集塊になっていて、繊維どうしが非常に強固に絡み合って解しがたい凝集体となる(図4、図5参照)。そのため、樹脂複合材料への導電性付与効果が小さい傾向がある。
【0050】
本発明に係る炭素繊維を、マトリクス材に配合し、混練することによって、複合材料にすることができる。複合材料に含有させる炭素繊維の量は、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましいは0.5〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。炭素繊維の含有量が少なすぎると、複合材料に十分な導電性、熱伝導性を付与する効果が小さい。炭素繊維の含有量が多すぎるとマトリクス材の特性が損なわれる傾向がある。
【0051】
複合材料に用いることができるマトリクス材は特に限定されないが、樹脂が好ましい。マトリクス材となる樹脂として、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれも用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、ポリアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリスルホン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などを挙げることができる。
熱可塑性樹脂としては、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂などを挙げることができる。
【0052】
本発明に係る炭素繊維が配合された複合材料は、耐衝撃性と共に、導電性や帯電防止性が要求される製品、例えばOA機器、電子機器、導電性包装用部品、導電性摺動用部材、導電性熱伝導性部材、帯電防止性包装用部品、静電塗装が適用される自動車部品などの成形材料として好適である。これら製品を製造する際には、従来から知られている成形法によることができる。成形法としては、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、トランスファー成形法などを挙げることができる。
また、本発明に係る炭素繊維は、各種電極材料に使用することができる。例えば、特許第3960973号、特許第3722965号、特許第3618492号、特許第4031009号に開示された方法に基づいて各種電極材料に本発明に係る炭素繊維を複合化し、導電性、電極強度、電池特性などを改善させることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものではない。
【0054】
[試薬]
使用した試薬は以下の通りである。
塩化鉄(III)六水和物(純正化学社製特級試薬)
塩化鉄(II)四水和物(和光純薬工業社製特級試薬)
オレイン酸ナトリウム(和光純薬工業社製試薬)
電融マグネシアKMAO(タテホ化学工業社製)
マグネシア500A(宇部マテリアルズ社製)
マグネシア (キシダ化学社製)
焼結マグネシアRA(タテホ化学工業社製)
電融マグネシアKMAOH−F(タテホ化学工業社製)
【0055】
[BET比表面積]
比表面積は、ユアサアイオニクス社製NOVA1000を用いて液体窒素温度下(77K)における窒素ガス吸着量を求め、BET法で算出した。
【0056】
[嵩密度]
嵩密度は、JIS Z−2512(タップ密度測定方法)に準拠して測定した。
【0057】
[X線回折]
ガラス製試料板の試料ホルダーに粉末状担体を少しずつ加えてはガラスで押さえ、試料ホルダーに均一にしかも試料面が試料板と同一になるようにして粉末X線回折用試料を調製した。X線回折装置X-ray Diffractometer Rigaku Geigerflex (リガク社製)を使用し、X線源としてCuKα1を使用し、出力40kV−30mA、スキャンスピード2°/分、測定範囲20°〜80°にて測定した。最も強いピーク(1stピーク)の強度I1と2番目に強いピーク(2ndピーク)の強度I2との比(I1/I2)を求めた。
【0058】
実施例1
[触媒コロイドの調製]
窒素雰囲気下にて、エタノール4ml、蒸留水3mlおよびトルエン7mlの混合溶液に、塩化鉄(III)六水和物0.36gおよび塩化鉄(II)四水和物0.13gを溶解させた。この溶液を攪拌しながら、オレイン酸ナトリウム1.62gを加えて、74℃のオイルバスにて4時間還流した。室温まで冷却し、次いでエタノール20mLを加えて遠心分離(5,000rpm×10分間)を行って固液を分離させた。液体分を分取し、残った固体分をヘキサン20mLに分散させた。
この分散液にエタノール10mLを加えた。その後、遠心分離(5,000rpm×10分間)を行って固液を分離させた。液体分を分取し、残った固体分をヘキサン10mLに分散させた。
【0059】
分取された液体分にエタノール5mLを加えて遠心分離(5,000rpm×10分間)を行って固液を分離させた。液体分を分取し、固体分をヘキサンに分散させた。この操作をさらに一回行った。
【0060】
上記操作で得られた固体分のヘキサン分散液を一つにまとめて触媒コロイドとして使用した。触媒コロイド中の触媒粒子は、透過電子顕微鏡(TEM)観察による粒子径が4〜6nmであった。また、X線回折によって触媒粒子はFe34であることが確認された。
【0061】
[担持型触媒の調製]
電融マグネシアKMAOを粒子径20−45μmに篩い分けした。これを粉末状担体Aとして用いた。該担体の特性を表1に示す。
該粉末状担体Aに、該担体の吸液量相当分の前記触媒コロイドを滴下した。その後、室温で乾燥させて、担持型触媒を得た。該担持型触媒は、粉末状担体の単位表面積あたりのFe担持量が2.7×10-5mol/m2であった。
【0062】
[炭素繊維の合成]
内径3.2cm、長さ1mの石英管の中央部に長さ約40cmの横型反応炉を設置し、それに担持型触媒を載せた石英ボートを配設した、これに、窒素ガスを500ml/分で流通させた。
前記石英管を電気炉内に設置して、20分間かけて700℃まで昇温させた。その後、直ちに、流通させていた窒素ガスを止め、エチレンと水素との混合ガス(エチレン濃度50体積%)を500ml/分で流通させて30分間反応させて炭素繊維を生成させた。流通ガスを窒素ガスに切り替え、室温まで冷却した。生成した凝集状態の炭素繊維を回収した。図1および図2に生成した炭素繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。図2に示すように炭素繊維自体はくねくねと湾曲した形状をしていた。図1または図2に示すように炭素繊維どうしが繊維軸に沿って略平行に並んでいる状態の凝集体になっていて、凝集体として帯若しくはリボンのような形をしたものが含まれていた。図3に生成した炭素繊維の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。得られた炭素繊維はチューブ構造を成していた。繊維径(外径d)は6nm、内径d0は4nmで、外径/内径の比が1.5であった。この反応に使用した担持型触媒中のFe1gあたりに39gの炭素繊維が生成した。
【0063】
実施例2
電融マグネシアKMAOを粒子径45−150μmに篩い分けした。これを粉末状担体Bとして用いた。該担体の特性を表1に示す。
粉末状担体Aを粉末状担体Bに変え、粉末状担体の単位表面積あたりのFe担持量を5.7×10-6mol/m2に変えた以外は実施例1と同じ手法で担持型触媒を調製し、炭素繊維を製造した。
実施例1で得られた炭素繊維と同様な炭素繊維が生成した。実施例2で得られた炭素繊維は、炭素繊維自体はくねくねと湾曲した形状をしているが、炭素繊維どうしは繊維軸に沿って略平行に並んでいる状態の凝集体になっていて、凝集体として帯若しくはリボンのような形をしたものが含まれていた。この反応に使用した担持型触媒中のFe1gあたりに384gの炭素繊維が生成した。
【0064】
【表1】

【0065】
比較例1
マグネシア500Aを粉末状担体Cとして用いた。該担体の特性を表1に示す。
硝酸鉄9水和物を吸液量相当のメタノールに溶解させて触媒溶液を調製した。
粉末状担体Aを粉末状担体Cに変え、触媒コロイドを触媒溶液に変えた以外は実施例1と同じ手法で担持型触媒を調製し、炭素繊維を製造した。
図4および図5に生成した炭素繊維のSEM写真を示す。図5に示すように繊維自体は直線的で大きく湾曲していることに加えて、繊維どうしがランダムな方向に成長していて解きほぐすことが困難な状態の凝集体であった。また図4に示すように、凝集体の外観は不定形な塊状になっていた。この反応に使用した担持型触媒中のFe1gあたりに10gの炭素繊維が生成した。
【0066】
比較例2
触媒コロイドを比較例1で調製した触媒溶液に変えた以外は実施例1と同じ手法で担持型触媒を調製し、炭素繊維を製造した。
比較例1で得られた炭素繊維と同様な炭素繊維が生成した。比較例2で得られた炭素繊維は、不定形の物質が混在し、繊維自体は直線的で大きく湾曲していることに加えて、繊維どうしがランダムな方向に成長している解きほぐすことが困難な状態の凝集体であった。この反応に使用した担持型触媒中のFe1gあたりに25gの炭素繊維が生成した。
【0067】
比較例3
キシダ化学社製マグネシアを粉末状担体Dとして用いた。該担体の特性を表1に示す。
粉末状担体Aを粉末状担体Dに変えた以外は、実施例1と同じ手法で担持型触媒を調製し、炭素繊維を製造した。
比較例1で得られた炭素繊維と同様な炭素繊維が生成した。比較例3で得られた炭素繊維は、不定形の物質が混在し、繊維自体は直線的で大きく湾曲していることに加えて、繊維どうしがランダムな方向に成長している解きほぐすことが困難な状態の凝集体であった。この反応に使用した担持型触媒中のFe1gあたりに33gの炭素繊維が生成した。
【0068】
比較例4
焼結マグネシアRA(タテホ化学工業社製)を粉末状担体Eとして用いた。該担体の特性を表1に示す。
粉末状担体Aを粉末状担体Eに変えた以外は、実施例1と同じ手法で担持型触媒を調製し、炭素繊維を製造した。
比較例1で得られた炭素繊維と同様な炭素繊維が生成した。比較例4で得られた炭素繊維は、不定形の物質が混在し、繊維自体は直線的で大きく湾曲していることに加えて、繊維どうしがランダムな方向に成長している解きほぐすことが困難な状態の凝集体であった。この反応に使用した担持型触媒中のFe1gあたりに13gの炭素繊維が生成した。
【0069】
比較例5
電融マグネシアKMAOH−F(タテホ化学工業社製)を粉末状担体Fとして用いた。該担体の特性を表1に示す。
粉末状担体Aを粉末状担体Fに変えた以外は、実施例1と同じ手法で担持型触媒を調製し、炭素繊維を製造した。
比較例1で得られた炭素繊維と同様な炭素繊維が生成した。比較例5で得られた炭素繊維は、不定形の物質が混在し、繊維自体は直線的で大きく湾曲していることに加えて、繊維どうしがランダムな方向に成長している解きほぐすことが困難な状態の凝集体であった。この反応に使用した担持型触媒中のFe1gあたりに1gの炭素繊維が生成した。
【0070】
実施例1、比較例1および3で得られた炭素繊維1質量部およびシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン社製 ゼオノア1420R)9質量部をラボプラストミル(東洋精機製作所製 30C150型)を用いて、270℃、80rpm、10分間の条件で混練して複合材料を得た。この複合材料を280℃、50MPa、60秒間の条件で熱プレスし、100mm×100mm×2mmの平板を作製した。
前記平板について、抵抗率計(三菱化学社製 ロレスタGPおよびハイレスタUP)を用いて体積抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
これらの結果から、特定の結晶面が発達した粉末状担体、例えば、X線回折において観測される最も強いピークの強度I1と2番目に強いピークの強度I2との比(I1/I2)が4以上である粉末状担体や、X線回折において観測される最も強いピークの強度I1と2番目に強いピークの強度I2との比(I1/I2)がJCPDSに最も強いピークの強度I1sと2番目に強いピークの強度I2sとの比(I1s/I2s)の1.5倍以上である粉末状担体に、触媒を含有するコロイドを含浸させて、触媒粒子を粉末状担体に担持させることを含む方法で得られる担持型触媒と、 炭素原子含有化合物とを加熱帯域で接触させると、樹脂等に少量添加するだけでも高い導電性や高い熱伝導性を付与することが可能な炭素繊維が高効率で得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ構造を有し、外径dが2〜20nmであり、内径d0と外径dとの比(d0/d)が0.6〜0.9である非直線状の炭素繊維が、同じ方向に揃って伸張した凝集体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−52282(P2012−52282A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233045(P2011−233045)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2011−527092(P2011−527092)の分割
【原出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】