説明

炭素繊維シート及びその製造方法

【課題】強度が高く、ガス拡散電極を製造する際の取扱性が良好な炭素繊維シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一方向Xに配向した連続炭素繊維層2の両面に炭素繊維の短繊維からなるペーパー4a、4bが積層されてなり、嵩密度が0.30〜0.55g/cm3、炭素含有率が94質量%以上である炭素繊維シート100とする。この炭素繊維シート100は一方向に配向した連続酸化繊維からなる中間層又は一方向に配向した連続炭素繊維からなる中間層の両面に、酸化繊維の短繊維からなる原料ペーパー層又は炭素繊維の短繊維からなる原料ペーパー層を貼り合わせて積層シートを得、得られた積層シートを温度160〜270℃、圧力2.5〜25MPaで圧縮熱処理した後、1300〜2300℃で炭素化処理することによって容易に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガス拡散電極などの電極材、断熱材、耐熱材等に応用される炭素繊維シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料の用途として、固体高分子電解質型燃料電池用ガス拡散電極等の電極材がある。この燃料電池のアノード(酸化極)側は、発生する水素イオンにより強酸性雰囲気となるため、ガス拡散電極には化学的安定性が要求される。炭素繊維シート、多孔質炭素板(例えば特許文献1参照)のような炭素材料は、耐酸性が優れ、且つ、通電性の良好な材料であるため、電極材として多用されている。
【0003】
しかし、上記多孔質炭素板は、特許文献1に記載されているように強度が低く(曲げ強さで48〜70MPa)、ガス拡散電極を製造する際、取扱性に問題がある。
【0004】
また、上記炭素繊維シートには、織物タイプ、不織布タイプ及びペーパータイプなどがある。これら種々のタイプの炭素繊維シートのうちでも、電極材以外に、断熱材、耐熱材の用途にも適しているペーパータイプの炭素繊維シートへの期待が高まっている。
【0005】
一般に、ペーパータイプの炭素繊維シートは、数mm程度にカットされた短繊維を原料として製造されている。しかし、短繊維を原料とするペーパータイプの炭素繊維シートは、繊維が不連続であるため、上記多孔質炭素板と同様に強度が低く、その製造工程における取扱性、及び、製造後に電極材等に更に加工する際に問題がある。
【特許文献1】特開2004−311431号公報 (段落番号[0084])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、上記問題について鋭意検討しているうち、ペーパータイプの炭素繊維シートを、一方向連続炭素繊維からなる中間層とし、その両面に短繊維からなるペーパー層を積層したサンドイッチ構造とし、この構造にすれば、炭素繊維シートの製造時には、中間層の繊維方向を工程の進行方向と一致させることにより、工程の進行方向に沿って付加される引張り力に耐えられ、シートの切断等の工程トラブルが防止される。更に、得られる炭素繊維シートを電極材等に後加工する際にも、同様に工程方向の引張り力及び折曲げ力に耐えられる。
その結果、強度が高く、ガス拡散電極等を製造する際の取扱性が良好な炭素繊維シートが得られることを知得し本発明を完成するに到った。
【0007】
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した高強度の薄層炭素繊維シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0009】
[1] 一方向に配向した連続炭素繊維層の両面に炭素繊維の短繊維からなるペーパーが積層されてなる炭素繊維シートであって、嵩密度が0.30〜0.55g/cm3、炭素含有率が94質量%以上である炭素繊維シート。
【0010】
[2] 厚さが80〜250μmである[1]に記載の炭素繊維シート。
【0011】
[3] 長さ方向の曲げ強度が85MPa以上、表面平滑性が10μm以下、厚さが80〜250μm、かつ炭素含有率が94%以上である[1]に記載の炭素繊維シート。
【0012】
[4] 一方向に配向した連続酸化繊維からなる中間層又は一方向に配向した連続炭素繊維からなる中間層の両面に、酸化繊維の短繊維からなる原料ペーパー層又は炭素繊維の短繊維からなる原料ペーパー層を貼り合わせて積層シートを得、得られた積層シートを温度160〜270℃、圧力2.5〜25MPaで圧縮熱処理した後、1300〜2300℃で焼成することを特徴とする炭素繊維シートの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭素繊維シートは、その製造工程において工程の流れ方向に対する強度が高いので、その製造上の工程トラブルが低減する。更に、製造された本発明の炭素繊維シートは、一方向の引張り強度及び曲げ強度が高いので、固体高分子電解質型燃料電池用ガス拡散電極等を製造する際の取扱性が良好であり、前記ガス拡散電極などの電極材、断熱材、耐熱材の製造に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
[炭素繊維シート]
本発明の炭素繊維シートは、図1にその一例を示すように、一方向(図1においては矢印X方向)に配向した連続炭素繊維からなる繊維層2と、その両面に積層されたペーパーであって炭素繊維の短繊維からなるペーパー4a、4bとで構成される。嵩密度は0.30〜0.55g/cm3、炭素含有率は94質量%以上である。
【0016】
炭素繊維シートの炭素含有率が94質量%未満の場合、通電性が低下し、高温雰囲気下での強度劣化が生じ易い。
【0017】
炭素繊維シートの嵩密度が上記範囲から外れる場合、所期の長さ方向の曲げ強度が得られ難い。炭素繊維シートの長さ方向(連続繊維の配向方向Xと一致している方向)の曲げ強度は85MPa以上が好ましい。曲げ強度が85MPa未満の場合、固体高分子電解質型燃料電池用ガス拡散電極を製造する際の取扱性が低下する。
【0018】
炭素繊維シートの長さ方向(連続繊維の配向方向Xと一致している方向)の引張強度は80N/cm以上が好ましい。炭素繊維シートの長さ方向の曲げ弾性率は10GPa以上が好ましい。
【0019】
炭素繊維シートは、厚さが80〜250μmの薄層シートとすることが好ましい。炭素繊維シートの厚さが80μm未満の場合は、シート強度が低下し、所期の曲げ弾性率が得られ難い。炭素繊維シートの厚さが250μmを超える場合は、厚さ方向の通電性が低下する。また、シート表面の毛羽が増大する。
【0020】
炭素繊維シートの目付は30〜120g/m2が好ましい。炭素繊維シートの目付が30g/m2未満の場合は、シート強度が低下し、曲げ弾性率が低くなる。炭素繊維シートの目付が120g/m2超える場合は、上記厚さ範囲内の薄層シートが作製困難となる。
【0021】
炭素繊維シートの表面平滑性は10μm以下が好ましい。
【0022】
[炭素繊維シートの製造方法]
本発明の炭素繊維シートは、その物性が上記範囲内にあれば、その製造方法としては、特に限定されるものではない。
【0023】
図2は本発明の炭素繊維シートを製造する原料の積層シート200の構成の一例を示すものである。図2中、12は一方向に配向した連続酸化繊維からなる中間層、14a、14bは前記中間層12の両面に積層された原料ペーパー層である。
【0024】
この積層シート200を圧縮熱処理した後、焼成することにより、図1に示す本発明の炭素繊維シートが得られる。即ち、中間層12は焼成されて対応する図1の連続炭素繊維層2になる。原料ペーパー層14a、14bは焼成されて対応する図1中の対応するペーパー4a、4bになる。
【0025】
上記積層シートを温度160〜270℃、圧力2.5〜25MPaで圧縮熱処理した後、温度1300〜2300℃で炭素化処理することにより、本発明の炭素繊維シートを製造することができる。
【0026】
[繊維原料]
積層シートの中間層、ペーパーを構成する繊維原料としてはポリアクリロニトリル(PAN)系酸化繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系酸化繊維、ピッチ系炭素繊維など従来公知の何れの酸化繊維、炭素繊維でも用いることができる。なお、本例において用いられる酸化繊維とは、PAN、ピッチ系繊維等の前駆体繊維を耐炎化処理することによって得られる繊維のことである。
【0027】
上記酸化繊維、炭素繊維のうちでも、圧縮熱処理、炭素化処理を行う上では、強度、伸度の比較的高いPAN系酸化繊維、PAN系炭素繊維が最も好適である。
【0028】
例えば、PAN系酸化繊維を得るには、アクリロニトリル構造単位を主成分とし、イタコン酸、アクリル酸、アクリルエステル等のビニル単量体単位10モル%以内を含有する共重合体からなるPAN系繊維を空気中、高温で処理(耐炎化処理)する。
【0029】
この耐炎化処理によりPAN系繊維の環化反応を生じさせ、酸素結合量を増加させて不融化、難燃化させてPAN系酸化繊維が得られる。PAN系炭素繊維は、上記PAN系酸化繊維を不活性雰囲気下、更に高温で処理することによって得られる。
【0030】
[積層シート各層における繊維原料の構成組合せ]
積層シートの原料ペーパー層/中間層/原料ペーパー層の各層は、上記酸化繊維又は炭素繊維の繊維原料で構成される。その構成組合せとしては、
(a) 原料酸化繊維ペーパー層/酸化繊維中間層/原料酸化繊維ペーパー層
(b) 原料酸化繊維ペーパー層/炭素繊維中間層/原料酸化繊維ペーパー層
(c) 原料炭素繊維ペーパー層/酸化繊維中間層/原料炭素繊維ペーパー層
(d) 原料炭素繊維ペーパー層/炭素繊維中間層/原料炭素繊維ペーパー層
の4種類がある。これら何れかの構成組合せを用い、各層を貼り合わせて接着させることにより、積層シートを得る。
【0031】
[中間層]
積層シートの中間層は、一方向に配向した酸化繊維又は炭素繊維の連続繊維からなる繊維束にバインダーの樹脂を含浸させてシート状に形成する等により得られる。作製方法はホットメルト法、溶剤法等、公知の方法が適用できる。
【0032】
一方向樹脂含浸シートの繊維目付は焼成後のシート目付が10〜40g/m2となるように調整するのが好ましい。そのため、中間層が酸化繊維で形成されている場合、シート目付は18〜90g/m2が好ましい。中間層が炭素繊維で形成されている場合、シート目付は12〜60g/m2が好ましい。
【0033】
焼成後のシート目付が10g/m2より少ない場合は、最終的に得られる炭素繊維シートへの一方向層の補強効果が小さいので好ましくない。焼成後のシート目付が40g/m2より多い場合は、炭素繊維シートに対し90°方向の強度が低下するので好ましくない。
【0034】
使用する樹脂は焼成後の残炭率が10〜60質量%のものが接着性及び強度発現の点から好ましく、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。一方向樹脂含浸シート中の樹脂含有量は、好ましくは20〜50質量%、より好ましくは30〜40質量%である。
【0035】
[原料ペーパー層]
一方向層の両面に積層する原料ペーパー層は、酸化繊維若しくは炭素繊維の短繊維を用いて製造されている。短繊維のカット長は3〜20mmが好ましく、5〜10mmが更に好ましい。短繊維のカット長が20mmより長くなると繊維の分散性が悪くなり好ましくない。一方、短繊維のカット長が3mmより短くなると焼成後の炭素シートの強度が低下するので好ましくない。
【0036】
原料ペーパー層は、主原料の短繊維にバインダーの樹脂を含浸させる形態として、又は、主原料の短繊維とバインダーの有機繊維等とを混抄する形態として作製することができる。何れの形態の原料ペーパー層においても、バインダーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、アラミド、フェノール等の樹脂を繊維やフィブリル等の形態で単独又は混合したものが用いられる。
【0037】
一般に、使用する樹脂は焼成後の残炭率が5〜60質量%のものが接着性及び強度発現の点から好ましい。原料ペーパー層中の樹脂の合計含有量は、好ましくは8〜55質量%、より好ましくは10〜53質量%である。
【0038】
積層前の原料ペーパー層の目付、厚さについては、下記の範囲が好ましい。
【0039】
原料ペーパー層が酸化繊維を用いて形成されている場合、目付は25〜120g/m2が好ましい。原料ペーパー層の目付が25g/m2未満の場合は、原料ペーパー層の強度が低下する。原料ペーパー層の目付が120g/m2を超える場合は、積層時に所期厚さの薄層の積層シートが作製困難になる。
【0040】
原料ペーパー層が炭素繊維を用いて形成されている場合、目付は20〜80g/m2が好ましい。原料ペーパー層の目付が20g/m2未満の場合は、ペーパーの強度が低下する。原料ペーパー層の目付が80g/m2を超える場合は、積層時に所期厚さの薄層の積層シートが作製困難になる。
【0041】
積層前の原料ペーパー層の厚さは20〜200μmが好ましい。原料ペーパー層の厚さが20μm未満の場合は、原料ペーパー層の強度低下が低下する。原料ペーパー層の厚さが200μmを超える場合は、積層、炭素化後の炭素繊維シートの厚さが調整困難になる。
【0042】
[貼り合せ]
樹脂処理後の中間層とその両面に配される原料ペーパー層とを貼り合せることにより積層シートが得られる。
【0043】
[圧縮熱処理]
得られた積層シートは、圧縮熱処理される。一般には、カレンダーロールにて連続的に若しくは熱プレスにてバッチ的に行われる。
【0044】
原料ペーパー層の抄紙時に混合される繊維、樹脂及び中間層への含有予定の樹脂の熱的特性により、圧縮熱処理の最適条件は多少異なるが下記範囲にて行われる。
【0045】
圧縮熱処理の温度は、樹脂、繊維の軟化温度又はガラス転移温度以上が好ましいので、100〜350℃、好ましくは110〜250℃である。圧縮熱処理の温度が100℃未満の場合は、積層シートの賦形性向上、強度向上、及び薄層化等の効果が得られない。また、層間剥離が生ずる。圧縮熱処理の温度が350℃を超える場合は、積層シートの繊維性能が劣化する。また、蓄熱又は発火等のトラブルを生ずる危険性がある。
【0046】
圧縮熱処理の圧力は、0.5〜20MPa、好ましくは1〜15MPaである。圧縮熱処理の圧力が0.5MPa未満の場合は、積層シートの賦形性向上、強度向上、薄層化等の効果が得られない。圧縮熱処理の圧力が20MPaを超える場合は、繊維性能が劣化し、シート強度が低下する。
【0047】
上記圧縮熱処理により、目付70〜250g/m2、厚さ100〜300μmの積層シートを得ることができる。圧縮熱処理の目付が70g/m2未満の場合は、炭素化後のシートにおいて強度低下、折れ、皺等が発生しやすい。圧縮熱処理の目付が250g/m2を超える場合は、所期厚さの薄層の炭素繊維シートが作製困難になる。圧縮熱処理の厚さが100μm未満の場合は、炭素繊維シートの強度が低下する。圧縮熱処理の厚さが300μmを超える場合は、シートの厚さ方向の通電性が低下する。
【0048】
[炭素化処理]
圧縮熱処理後の積層シートは、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、温度1300〜2300℃で炭素化処理される。炭素化処理の温度が1300℃未満の場合は、炭素繊維シートの電気伝導性が低く、電池性能が低下する。炭素化処理の温度が2300℃を超える場合は、炭素繊維シートの強度が低下する。
【0049】
上記炭素化処理温度の保持時間は0.5〜10分が好ましい。
【0050】
炭素化処理時に積層シートに掛ける張力は20N/cm以下が好ましい。シートに掛ける張力が20N/cmを超える場合は、シートに伸びや切断を生じ易い。
【0051】
炭素化処理時、積層シートに接圧を掛けても掛けなくても良いが、掛ける場合1MPa以下が好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各物性の測定は次の方法によった。
【0053】
[原料ペーパー層、中間層、シートの目付]
100mm×100mmのペーパー、一方向層又はシートを120℃で1時間乾燥した後の質量値より算出した。
【0054】
[シートの厚さ]
直径5mmの円形圧板で厚さ方向に1.2Nの荷重(61.9kPa)を負荷したときの厚さを測定した。
【0055】
[シートの嵩密度]
上記シートの目付とシートの厚さとから算出した。
【0056】
[シートの炭素含有率]
CHNコーダー(カルボエルバ社製、EA1108、CHNS−0)によりシート中に含まれる炭素繊維と樹脂炭化分を炭素含有率として測定した。
【0057】
[シートの引張強度]
つかみ間隔100mmとし、試験速度30mm/minで引っ張ったときの破断荷重(N)を試験片幅(cm)で除し、強度(N/cm)とした。なお、ここで言う引張強度は、試験片の長さ方向と一方向層の繊維方向とを同じくした場合の数値を指す。
【0058】
[シートの曲げ強度]
JIS K 6911に準拠して、三点曲げ試験を実施した。試験片の寸法は幅10mmとした。また、加圧くさび及び支点の半径は3.2mmとし、支点間距離は16mmとした。なお、ここで言う曲げ強度は、一方向層の繊維方向を試験片の長さ方向と合わせて測定した場合の数値を指す。
【0059】
[シートの平面平滑性]
広視野コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック株式会社製 HD−100D−A)を用いて、炭素繊維シートを対物レンズ20倍にて観察し、算術平均荒さ(Ra:μm)を求めた。
【0060】
[シートの取扱性]
固体高分子電解質型燃料電池用ガス拡散電極を製造する際、シートに亀裂が生じなかったものを○、シートに亀裂が生じたものを×と評価した。
【0061】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
一方向に配向したPAN系酸化繊維又はPAN系炭素繊維の連続繊維からなる繊維束を主原料として、これにバインダーのエポキシ樹脂[ジャパン エポキシ レジン株式会社製Epikote 154(80質量部)とEpikote 152(20質量部)との混合樹脂、残炭率21質量%]を含浸させ、表1、2に示す樹脂含有率30質量%の中間層を作製した。但し、比較例1では中間層は作製していない。
【0062】
PAN系酸化繊維の短繊維(カット長6mm)又はPAN系炭素繊維の短繊維(カット長6mm)を主原料として、これにPVA繊維(ユニチカ株式会社製 ビニロンF、カット長5mm、残炭率12質量%)及びPET繊維(帝人ファイバー株式会社製、カット長5mm、残炭率23質量%)をそれぞれバインダーA、バインダーBとして混抄し、表1、2に示す上層原料ペーパー層、下層原料ペーパー層を作製した。
【0063】
一方向層の両面にそれぞれ上層原料ペーパー層、下層原料ペーパー層を配置させて積層シートを作製した。この積層シートを、表1、2に示すプレス温度、プレス圧力、プレス時間の条件で熱圧縮処理し、表1、2に示す物性の処理後の積層シートを得た。
【0064】
この処理後の積層シートを、窒素雰囲気下、2000℃で2分間焼成して表1、2に示す物性の炭素繊維シートを得た。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1、2に示すように、実施例1〜3においては良好な物性の炭素繊維シートが得られた。
【0068】
しかし、比較例1は一方向原料連続炭素繊維からなる中間層が積層シートにおいて欠落しているため、得られた炭素繊維シートは曲げ強度、引張強度等のシート強度が低く、ガス拡散電極製造時における取扱性に問題があった。
【0069】
比較例2は積層シートの圧縮熱処理時における温度及び圧力が低く、炭素繊維シートの嵩密度が低くなった。そのため、得られた炭素繊維シートは曲げ強度が低く、ガス拡散電極製造時における取扱性に問題があった。
【0070】
比較例3は積層シートの圧縮熱処理時における温度及び圧力が高く、炭素繊維シートの嵩密度が高くなった。そのため、得られた炭素繊維シートは曲げ強度、引張強度等のシート強度が低く、ガス拡散電極製造時における取扱性に問題があった。
【0071】
表1、2中、×で示す箇所が本発明の構成から逸脱している。
【0072】
なお、シートの平面平滑性は、実施例1〜3及び比較例1〜3の何れも10μm以下と良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の炭素繊維シートの一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の炭素繊維シートを製造する原料の積層シートの構成の一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
2 連続炭素繊維層
4a、4b 炭素繊維の短繊維からなるペーパー
12 連続原料繊維からなる中間層
14a、14b 原料繊維の短繊維からなる原料ペーパー層
100 炭素繊維シート
200 原料の積層シート
X 連続炭素繊維の配向方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に配向した連続炭素繊維層の両面に炭素繊維の短繊維からなるペーパーが積層されてなる炭素繊維シートであって、嵩密度が0.30〜0.55g/cm3、炭素含有率が94質量%以上である炭素繊維シート。
【請求項2】
厚さが80〜250μmである請求項1に記載の炭素繊維シート。
【請求項3】
長さ方向の曲げ強度が85MPa以上、表面平滑性が10μm以下、厚さが80〜250μm、かつ炭素含有率が94%以上である請求項1に記載の炭素繊維シート。
【請求項4】
一方向に配向した連続酸化繊維からなる中間層又は一方向に配向した連続炭素繊維からなる中間層の両面に、酸化繊維の短繊維からなる原料ペーパー層又は炭素繊維の短繊維からなる原料ペーパー層を貼り合わせて積層シートを得、得られた積層シートを温度160〜270℃、圧力2.5〜25MPaで圧縮熱処理した後、1300〜2300℃で焼成することを特徴とする炭素繊維シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−268735(P2007−268735A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94248(P2006−94248)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】