説明

炭素繊維ヒーター線の製造方法、炭素繊維ヒーター線及び融雪用ヒーター

【課題】発熱線の基本である温度分布が均一であり、温度上昇の早い、小電力で高温発熱する炭素繊維ヒーター線の製造方法、炭素繊維ヒーター線及び融雪用ヒーターを提供することを目的とする。
【解決手段】炭素繊維束6をボビン21から引き出す工程と、前記引き出された炭素繊維束の表面に、エポキシオイル14を塗布する工程と、前記エポキシオイルが塗布された炭素繊維束に、皮膜を形成する工程と、前記皮膜が形成された炭素繊維束を冷却する工程からなることを特徴とする炭素繊維ヒーター線の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維ヒーター線の製造方法、炭素繊維ヒーター線及び融雪用ヒーターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維を発熱体として使用するヒーターが開発され、実用化されつつある。しかし、従来の発熱体は、発熱体の抵抗値を大きくするために、炭素繊維を細くしたり、又は炭素繊維の量を少なくしていた。この場合、各繊維がバラけるたり、断線が起こるという問題があった。
【0003】
かかる問題を解決するため、例えば特許文献1には、炭素繊維がバラけない炭素系発熱体、その炭素系発熱体を用いたヒーター、及びそのヒーターを備えた加熱装置に関する発明が開示されている。
【0004】
この従来のヒーターの概要を図7を用いて説明する。ヒーターは、発熱体51、放熱ブロック52及び内部リード線53をガラス管50に封入して形成される。
【0005】
ガラス管50は透明の石英ガラス(例えば、GE社製の#214又はダウコーニング社製バイコールガラス(品番#7190))の非晶質ガラスである。ガラス管の径は、振動しても発熱体51があたらない程度の大きさにする。実施の形態において、ガラス管のサイズは、直径10.5ミリである。
【0006】
発熱体51は、炭素繊維である長手方向に延びる複数の縦糸51aと幅方向に延びる一本の横糸51bとを平織りにして形成されている。この発熱体の製造方法について説明する。
【0007】
一本の横糸51bを複数の縦糸51aの上と下とを順にクロスするように織り合わせる(織り合わせステップ)。横糸51bは、複数の縦糸51aの幅方向の両端で折り返す。織り合わせた縦糸と横糸とに樹脂を薄く均一に添着する(添着ステップ)。織り合わした物(発熱部)を焼成して全体を一体化する(焼成ステップ)。焼成することにより、発熱体は炭化する。実施の形態の炭素系発熱体は、その長手方向の両端の間で切れ目無く連続する複数の糸のみで形成されている。
【0008】
上記した従来のヒーターは、横糸が少なくとも1回の折返しを有し、縦糸の上下をクロスするように織り合わせることにより、炭素繊維がバラけない炭素系発熱体を実現できるという有利な効果が得られる。しかし、このヒーターは炭素繊維の縦糸と横糸を織り合わせる必要があり、必ずしもその製造コストは安価なものではなかった。
【0009】
そこで、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維を用いた他のヒーターの製造方法が提案されている。
【0010】
この製造方法としては、ボビンから炭素繊維を引き出し、ガイドを通した後、シリコンゴムまたは塩化ビニールを電線加工押し出し成型機で被覆し、ヒーターとする製法が考えられる。
【特許文献1】特開2008−53247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したヒーターの製法では、特許文献1に開示されている製造方法に比較して安価に、かつ連続的に長尺のヒーターを製造することが可能になる。
【0012】
しかし、PAN系炭素繊維は、細くしかも破断伸びが小さいので取り扱いによっては破損したり毛羽となったりし、短くなった単繊維はフライや粉塵になり大気中に飛散し易い。また、連続した炭素繊維をボビンから引き出すとき、ガイドでこすると毛羽を生じて折損してフライになる。また、炭素繊維は導電性を有するのでフライや糸くずが電気系統の短絡の原因にもなっていた。図6に従来の炭素繊維ヒーター線の外観図を示す。
【0013】
従来の製造方法は、炭素繊維の上記の様な注意事項を考えずにシリコン、又は塩化ビニールで皮膜をかけていた。このような塩化ビニールで皮膜をかけた発熱線は2つの問題があった。
【0014】
一つは、皮膜を単繊維が皮膜を突き破り絶縁不良になることである。他の一つは単繊維がダイスに引き込まれる際、ガイドでこすり機械が止まってしまうことである。その結果、抵抗値には現れないが太い箇所と細い箇所ができて発熱試験をすると温度差ができる。
【0015】
従来技術に係る炭素繊維ヒーター線の製造方法は、撚りもかけず皮膜をかけるため、抵抗値測定試験では分からない問題、アスファルト乳剤等導電性のある接着剤を使用しなければ出ない漏電問題等が出ていたのが現状である。
【0016】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的は発熱線の基本である温度分布が均一であり、温度上昇の早い、小電力で高温発熱する炭素繊維ヒーター線の製造方法、炭素繊維ヒーター線及び融雪用ヒーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上述の目的を達成するため、以下(1)〜(4)の構成を備えるものである。
【0018】
(1)炭素繊維束をボビンから引き出す工程と、前記引き出された炭素繊維束の表面に、エポキシオイルを塗布する工程と、前記エポキシオイルが塗布された炭素繊維束に、皮膜を形成する工程と、前記皮膜が形成された炭素繊維束を冷却する工程からなることを特徴とする炭素繊維ヒーター線の製造方法。
【0019】
(2)前記エポキシオイルが、導電性と非可燃性を有するオイルであることを特徴とする前記(1)記載の炭素繊維ヒーター線の製造方法。
【0020】
(3)前記(1)又は(2)記載の製造方法で製造されたことを特徴とする炭素繊維ヒーター線。
【0021】
(4)金属製パイプと、該パイプの中心部に設置され、ガラスチューブで被覆された給電線と、前記金属パイプの内壁と前記ガラスチューブの間に、所定間隔を有して設置された複数の請求項1又は2記載の炭素繊維ヒーター線からなることを特徴とする融雪用ヒーター。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記構成を有することにより、温度分布が均一であり、小電力で発熱する炭素繊維ヒーター線の製造方法、炭素繊維ヒーター線及び融雪用ヒーターを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、実施例により詳しく説明する。
【実施例1】
【0024】
まず、炭素繊維ヒーター線の製造方法を、図1と図2を参照しながら説明する。
【0025】
製造工程の概略を図1に示す。まず、原料である炭素繊維束6が巻きつけられたボビン21から炭素繊維束を引き出す。本実施例では、PAN系炭素繊維を使用するものとする。PAN系炭素繊維は一本が7ミクロンと細い。これを12000本まとめた12K、24000本まとめた24Kの2種類が主に製造されている。これらを例えば3本撚り合わせた炭素繊維がボビンに巻かれているものとし、これをボビンから引き出す。
【0026】
この引き出された炭素繊維の束を治具に挿入する。この場合の導入口は、可能なかぎり炭素繊維が治具に引っかからないよう滑らかな導入形状(例えば、ロート形状)を有しているものとする。
【0027】
次に、この治具に導入された炭素繊維の束は、その表面にエポキシオイルが塗布される。この塗布は、炭素繊維の束が治具に導入された直後に行われるものとする。図において、14はエポキシオイル、4はオイル容器、5はポンプ、15は圧力調整弁、16はホースである。このように、エポキシオイルが塗布されることにより、炭素繊維がバラバラになることを防止することができ、この後皮膜が被覆された場合に、炭素繊維の毛羽がこの皮膜を貫通することを防ぐことができる。なお、エポキシオイルを塗布する前に、炭素繊維の束に撚りをかけてもよい。また、本実施例ではエポキシオイルを使用したが、導電性と所望の粘性がある、他の非可燃性オイルであれば他のオイルでも良い。なお、ここで言うエポキシオイルとはエマルジョンタイプのエポキシを言う。
【0028】
エポキシオイルを塗布された炭素繊維は、ダイス1に導入される。このダイス内では、炭素繊維束の外周に皮膜が被せられる。皮膜の材料13は、皮膜材料ポッパー3に溜められており、ヒーター12で加熱された後、スクリューコンベアー12によりダイス側に押し出される。押し出された皮膜材料は、ダイス内で炭素繊維束の外周を覆い炭素繊維ヒーター線を形成する。このように炭素繊維ヒーター線が形成されることにより、皮膜に炭素繊維が入ることのないヒーター線を得ることができる。
【0029】
この炭素繊維ヒーター線は、図1に示すように、ガイド8で支持されながら水槽7の冷却水により順次冷却され、巻取り機9に巻き取られる。
【0030】
以上述べたように、本実施例の炭素繊維ヒーター線の製造方法は非常に簡便な工程で構成されており、ヒーター線の高速の連続製造に適している。
【0031】
上記した方法で製造された炭素繊維ヒーター線と、従来のエポキシオイルを塗布していない炭素繊維ヒーター線の温度試験結果をそれぞれ図3、図4に示す。この試験に用いた炭素繊維ヒーターは、長さが1メートルで、12Kのものを3本撚った炭素繊維を使用した。この試験結果から、特に1.8Aにおいて非常な改善が見られることが分かる。これは、炭素繊維が毛羽等を生じることなくまとまり良く束ねられた状態で皮膜が被せられたためだと考えられる。また、ヒーターの軸方向の温度分布もほぼ均一なものであった。
【実施例2】
【0032】
本実施例では、実施例1の製造方法により製造された炭素繊維ヒーター線を用いた融雪用ヒーターについて述べる。
【0033】
本ヒーターの炭素繊維は、自動制御で温度を一定に保つ際、外乱(気温の変化)に非常に弱く、例えばこの炭素繊維ヒーター線をそのまま氷、雪の中に置いても発熱の効果はほとんどない。外乱から守るため配線管の中に入れ、またアスファルトの中に埋設する場合でも、ゴムで発熱線の半分を被いアスファルト表面に熱を伝え外乱から保護している。
【0034】
図5及び6を用いて、本実施例の融雪用ヒーターについて述べる。本ヒーターの基本構造を図5に示す。図5(a)はその外観図であり、(b)は断面図である。
【0035】
中心部には、ガラスチューブ18内に収納された給電線19、2本が設置されており、このガラスチューブの外側には炭素繊維ヒーター線17が3本周状に配置され、これらが金属製の配線管である金属製パイプ20で覆われているものとする。図示はしていないが、この融雪用ヒーターの軸方向の途中には、端子盤が必要個数配置されていてこの端子盤を介して給電線から炭素繊維ヒーター線に電力が供給される。この金属製パイプは、外部の温度変化から炭素繊維ヒーター線を保護する機能を有している。なお、長い炭素繊維ヒーターを設置する場合には、この炭素繊維を所定の長さに分割し、それぞれの炭素繊維に端子盤を介して給電線から給電する構成を有するものとする。このようにすることで、安定した発熱が可能となる。
【0036】
図6に本実施例の融雪用ヒーター線30の地表への設置例を示す。図のように地表の所定の範囲を融雪したい場合、ヒーター線を曲げて使用するがこの場合、図に示したRは200mm以上とすべきである。このRが小さいと、炭素繊維自体が破断してしまう恐れがあるからである。炭素繊維は元来脆いものであり、小さな半径で曲げると歪みが生じ、この状態で通電すると熱の発生が集中する箇所が生じ、その結果断線等の現象が起こる。なお、図中40は電源ボックスを示す。
【0037】
上記した融雪用ヒーターは、従来のヒーターに比較して、低電力でかつ安定して融雪する機能を有している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の炭素繊維ヒーター線の製造工程の全体を示す斜視図
【図2】実施例1の炭素繊維ヒーター線の製造工程のオイル塗布工程と皮膜形成工程の詳細を示す図
【図3】実施例1の炭素繊維ヒーター線の温度試験結果を示す図
【図4】従来の炭素繊維ヒーター線の温度試験結果を示す図
【図5】実施例2の融雪用ヒーターの構造を示す図
【図6】実施例2の融雪用ヒーターの設置例を示す図
【図7】従来の炭素繊維ヒーター線の例を示す図
【図8】従来の炭素繊維ヒーター線の他の例を示す図
【符号の説明】
【0039】
1 ダイス
2 治具
3 被覆材料ホッパー
4 オイル容器
5 ポンプ
6 炭素繊維束
7 水槽
8 ガイド
9 巻取り機
10 モータ
11 スクリューコンベアー
12 ヒーター
13 溶融した被覆材料
14 エポキシオイル
15 圧力調整弁
16 ホース
17 炭素繊維ヒーター線
18 ガラスチューブ
19 給電線
20 金属製パイプ
21 ボビン
30 融雪用ヒーター
40 電源ボックス
50 ガラス管
51 発熱体
51a 縦糸
51b 横糸
52 放熱ブロック
53 内部リード線
60 従来の炭素繊維ヒーター線
61 毛羽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維束をボビンから引き出す工程と、
前記引き出された炭素繊維束の表面に、エポキシオイルを塗布する工程と、
前記エポキシオイルが塗布された炭素繊維束に、皮膜を形成する工程と、
前記皮膜が形成された炭素繊維束を冷却する工程からなることを特徴とする炭素繊維ヒーター線の製造方法。
【請求項2】
前記エポキシオイルが、導電性と非可燃性を有するオイルであることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維ヒーター線の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法で製造されたことを特徴とする炭素繊維ヒーター線。
【請求項4】
金属製パイプと、
該パイプの中心部に設置され、ガラスチューブで被覆された給電線と、
前記金属パイプの内壁と前記ガラスチューブの間に、所定間隔を有して設置された複数の請求項1又は2記載の炭素繊維ヒーター線からなることを特徴とする融雪用ヒーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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