説明

炭素繊維フェルト及びその製造方法

【課題】断熱材、成形断熱材材料としての使用に好適なハンドリング性の良いピッチ系炭素繊維フェルトを提供すること。また生産性の高い製造方法を提供すること。
【解決手段】原料がメソフェーズピッチであるピッチ系炭素繊維前駆体を捕集し、連続してクロスラップしたものを、不融化、炭化処理、およびフェルト化処理することによって得られる、厚み方向の層間剥離強度が0.25N/5cm片以上であるピッチ系炭素繊維フェルト及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は断熱材、成形断熱材材料としての使用に好適なピッチ系炭素繊維フェルトに関する。さらには生産性が高く、かつハンドリング性が良いピッチ系炭素繊維フェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化炉、半導体単結晶成長炉、真空蒸着炉、セラミック焼結炉等の500℃以上の高温処理を行う工業炉には、炭素繊維フェルトまたは炭素繊維成形体が断熱材として使用されている。炭素繊維製断熱材は、優れた耐熱性、断熱性、耐久性、高強度を保持しており、高温域で長期使用可能な断熱材として、なお需要が高まっている。
【0003】
炭素繊維フェルトの製造方法は一般に次の3種類のものが知られている。1つ目はトウ状の炭素繊維を捲縮、カット、開繊、カード等の処理を行い、次いでニードルパンチ等のフェルト化処理を行うものである。この方法は生産プロセスが複雑であり、加工コストが高い他、炭素繊維は硬くて脆い材料であるために、各工程で繊維折損が起こり、歩留まりが悪いという欠点がある。
【0004】
2つ目は炭素繊維の前駆体となるレーヨン繊維、フェノール繊維、アクリルニトリル繊維等の有機繊維またはそれらの耐炎化繊維を捲縮、カット、開繊、カード等の処理を行い、次いでニードルパンチ等のフェルト化処理を行い、最後に炭化処理を施す方法である。この方法は繊維伸度の高い状態でフェルト化処理を行うために、フェルト化処理時の繊維折損が起こり難いという長所があるが、1つ目の方法を同様、生産プロセスが複雑であり加工コストが高い、また、フェルト状の炭素繊維前駆体を炭化処理するために、大きな熱収縮が起こり、目付量等の物性斑が発生し易い、製造中にフェルトが切断し易いという欠点がある。
【0005】
3つ目は特許文献1のように、メルトブロー法により炭素繊維前駆体を捕集し、クロスラップしたものを不融化、炭化、フェルト化と連続的に処理するものである。この方法は、生産プロセスがシンプルで加工コストが安い、各工程での繊維折損がなく歩留まりがよい、クロスラップ積層間のズレ易さを利用することにより、炭化処理時の熱収縮に起因するフェルト切断を緩和するという長所がある。
【0006】
ただし一方で、クロスラップ積層間の交絡処理が困難であり、層間剥離強度が弱いという欠点がある。特許文献1ではニードルパンチ法によりフェルト化処理を施しており、繊維折損を防止するためのパンチ数を規定しているが、当該パンチ数の規定のみでは、繊維折損は防止できても、層間剥離強度は小さく、ハンドリング性は好ましくなかった。
【特許文献1】特開平5−195396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハンドリング性の良い炭素繊維フェルトを生産性良く製造することはこれまで困難であった。本発明の目的は、断熱材、成形断熱材材料としての使用に好適なピッチ系炭素繊維フェルトを提供するところにある。さらには生産性が高く、かつハンドリング性が良いピッチ系炭素繊維フェルトの製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、生産性が高く、かつ、ハンドリング性が良いピッチ系炭素繊維フェルトを製造する方法について検討したところ、不融化、炭化及びフェルト化処理時の条件を一定の範囲で実施することで、目的を達成することを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、ピッチを紡糸して得たピッチ系炭素繊維前駆体を捕集し、連続してクロスラップしたウェブを、不融化、炭化、およびフェルト化処理することによって得られる炭素繊維フェルトでおいて、厚み方向の層間剥離強度が0.25N/5cm片以上であるピッチ系炭素繊維フェルトを提供することを目的とする。
さらに本発明は、上記の厚み方向の層間剥離強度に優れるピッチ系炭素繊維フェルトを生産性良く製造する方法も包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトは、層間剥離強度が大きいために、断熱材、成形断熱材材料として使用する際のハンドリング性、加工性が良い。
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトを得る方法は、メルトブロー法を用いたプロセスであり、生産性が高く、好適に層間剥離強度が大きいピッチ系炭素繊維フェルトを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について順次に説明していく。
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトは、ピッチを紡糸して得たピッチ系炭素繊維前駆体を捕集し、連続してクロスラップしたウェブを、不融化、炭化、及びフェルト化処理することによって得られる炭素繊維フェルトであって、層間剥離強度が0.25N/5cm片以上であることを特徴とする。層間剥離強度は、より好ましくは0.35N/5cm片である。層間剥離強度が0.25N/5cm片より小さいと、クロスラップを施した積層間の交絡が十分ではなく、加工時に層間剥離を起こし、ハンドリング性が悪くなるばかりではなく、物性斑の発生原因にもなる。ここで、層間剥離強度とはピッチ系炭素繊維フェルトの厚み方向の交絡強度を示すものである。フェルトの厚み方向中間位置で層方向と平行に刃物で切り込みを入れ、その両端を引張試験機で100mm/minの速度で引っ張ったときの最大強度より求める。
【0012】
従来、メルトブロー法で紡糸したピッチ系炭素繊維を捕集し、クロスラップする方法で生産性が高くなることが分かっていたが、クロスラップ積層間を交絡させることが困難であった。これはクロスラップする単層ウェブは紡糸後の捕集時に強く交絡しているために、積層したものにニードルパンチ処理等のフェルト化処理を施しても、炭素繊維が厚み方向に移行し難いことに起因する。さらに炭素繊維は硬く脆いため、単純にパンチ数を多くするだけでは繊維折損が起こるだけで、逆に強度低下、歩留まり低下が起こってしまう。従ってパンチ数を多くすることなく交絡させるために、ニードルの形状を最適化する必要がある。
【0013】
またピッチ系不融化繊維ウェブを炭化しピッチ系炭素繊維ウェブとする際に熱収縮が起こるため、連続プロセスで製造すると、ピッチ系炭素繊維ウェブが炭化工程内で引っ張られるために、炭素繊維がウェブ内で張った状態となる。さらにはピッチ系炭素繊維ウェブが引き裂かれることもしばしばある。炭素繊維がウェブ内で張った状態にあると、ニードルパンチ等のフェルト化処理が施され難く、繊維折損の原因となり、層間剥離強度は低下してしまう。従って、炭化処理時の熱収縮の緩和措置が必要であり、本発明では不融化工程と炭化工程での搬送速度比を熱収縮に対して最適化することで緩和している。
【0014】
本発明では、層間剥離強度を向上させるために、不融化処理時のピッチ系不融化繊維ウェブの搬送速度V1と炭化処理時のピッチ系炭素繊維ウェブの搬送速度V2との比V1/V2が1.01〜1.10であり、かつ、フェルト化処理がニードルパンチ法であって、使用するニードルのバーブ深さが0.15mm以上であり、処理時のパンチ数を15〜100回/cmとすることで層間剥離強度0.25N/5cm片以上を達成した。
【0015】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトは、光学顕微鏡で観測した平均繊維径が10〜20μmであることが好ましい。平均繊維径が10μmを下回る場合、空隙部が細分化されるために、成形加工時の樹脂含浸性が良くないことがある。逆に平均繊維径が20μmを超えると、空隙部が巨大化されるために、輻射熱の支配が強まる高温域での熱伝導率が大きくなるために断熱性が低下することがある。平均繊維径のより好ましい範囲は12〜18μmである。
【0016】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトおよびフェルト化処理に供するピッチ系炭素繊維ウェブの目付量は、250〜1000g/mであることが好ましい。目付量は用途に応じて調整できるが、安定に連続生産するためには250〜1000g/mが最適である。目付量が250g/mより小さいと、ピッチ系炭素繊維ウェブが薄いために、フェルト化処理によるウェブ破断や皺が発生することがある。逆に目付量が1000g/mより大きいと、厚みが大きいために、不融化処理時にピッチ系不融化繊維ウェブの除熱がスムーズに行われず、繊維同士の融着等が発生することがある。目付量のより好ましい範囲は400〜700g/mである。
【0017】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトの製造に使用するピッチは、メソフェーズ率90%以上のメソフェーズピッチであることが好ましい。メソフェーズピッチは特に耐熱性、耐酸化性の面で優れており、断熱材、成形断熱材としての使用に好適である。メソフェーズ率のより好ましい範囲は95%以上、更に好ましくは100%である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認出来る。
【0018】
以下本発明のピッチ系炭素繊維フェルトの好ましい製造方法について述べる。
(1)ピッチからピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを製造する工程
本発明で用いられるピッチ系炭素繊維フェルトの原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、上記したように、特にピッチがメソフェーズ率90%以上のメソフェーズピッチが好ましい。更に、原料ピッチの軟化点としては、230℃以上340℃以下が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低いと、少なくとも軟化点未満の低い温度で不融化処理する必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超えると、ピッチが熱分解を引き起こし易くなり、発生したガスで糸に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃以上320℃以下、更に好ましくは260℃以上310℃以下である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることが出来る。原料ピッチは、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせる原料ピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230℃以上340℃以下であることが好ましい。
【0019】
本発明では、ピッチをメルトブロー法で紡糸することによって、ピッチ系炭素繊維前駆体を得る。ピッチ系炭素繊維前駆体を形成する紡糸ノズルの形状はどのようなものであっても良い。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。
【0020】
紡糸時のノズルの温度、メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度、ノズルからブローされる風量、風の温度等についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる条件、即ち、メソフェーズピッチのノズル孔での溶融粘度が1〜100Pa・sの範囲にあれば良い。
【0021】
ノズルを通過するピッチの溶融粘度が1Pa・s未満の場合、溶融粘度が低すぎて糸形状を維持することが出来ず好ましくない。一方、ピッチの溶融粘度が100Pa・sを超える場合、ピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造を形成してしまい、強度低下を招くため好ましくない。ピッチに付与するせん断力を適切な範囲にせしめ、かつ繊維形状を維持するためには、ノズルを通過するピッチの溶融粘度を制御する必要がある。このため、ピッチの溶融粘度を1〜100Pa・sの範囲にするのが好ましく、更には3〜30Pa・sの範囲にすることが好ましく、5〜25Pa・sの範囲にすることが更に好ましい。
【0022】
本発明のピッチ系炭素繊維フェルトは、平均繊維径が10〜20μmであることが好ましいが、ピッチ系炭素繊維フェルトの平均繊維径の制御は、ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更することで調整可能である。ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜20000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0023】
ピッチ系炭素繊維前駆体は、金網等のベルトに捕集されピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとなる。捕集したピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは連続的にクロスラッパーへ送られ、多層状に積層する。クロスラッパーによりピッチ系炭素繊維前駆体ウェブが折り畳まれ積層することで、生産性を上げることができる。また、メルトブロー法に加えクロスラッパー処理をすることで、従来のような捲縮、カット、開繊、カード処理を施すことなくウェブ化できるために、繊維折損による歩留まり低下もない。さらに、クロスラッパーの速度調整により任意の目付量に調整できる。本発明のピッチ系炭素繊維ウェブの目付量は、安定に連続生産するために250〜1000g/mであることが好ましい。目付量のより好ましい範囲は400〜700g/mである。
【0024】
(2)ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブの不融化工程
このようにして得られたピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは、公知の方法で不融化処理し、ピッチ系不融化繊維ウェブにする。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、本発明では生産性を考慮し、連続処理とする。不融化処理は150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜340℃である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜9℃/分である。
【0025】
(3)ピッチ系不融化繊維ウェブの炭化工程
ピッチ系不融化繊維ウェブは、600〜2000℃の温度で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で炭化処理され、ピッチ系炭素繊維ウェブになる。炭化処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、本発明では生産性を考慮し、連続処理とする。
【0026】
また、本発明では上記したように、不融化処理時のピッチ系不融化繊維ウェブの搬送速度V1と炭化処理時のピッチ系炭素繊維ウェブの搬送速度V2との比V1/V2が1.01〜1.10とする。V1/V2が1.01より小さいと、ピッチ系炭素繊維ウェブの熱収縮に対して余裕代がないために引き裂かれ現象が起こる。逆に1.10より大きいと、ピッチ系炭素繊維ウェブの熱収縮に対して余裕代が大きすぎるために炭化工程内で弛みが発生し、目付斑が発生するとともに、工程通過性が悪くなる。V1/V2のより好ましい範囲は1.02〜1.07である。
【0027】
(4)ピッチ系炭素繊維ウェブのフェルト化方法
ついでピッチ系炭素繊維ウェブをフェルト化する。フェルト化方法にはケミカルボンド法、サーマルボンド法等も挙げられるが、炭素繊維の性質、後加工性を考慮すると、ニードルパンチ法が好ましい。好ましいニードルパンチ条件は、上記したように、使用するニードルのバーブ深さが0.15mm以上であり、かつ、処理時のパンチ数を15〜100回/cmとする。
【0028】
バーブ深さが0.15mmより小さいと、パンチ数15〜100回/cmの範囲では交絡が少なく、十分な層間剥離強度が得られない。またパンチ数が15回/cmより小さいと、バーブ深さが0.15mm以上であっても、交絡が少なく、十分な層間剥離強度が得られない。逆に100回/cmより大きいと、繊維折損が多く起こり、強度低下、歩留まり低下が起こってしまう。バーブ深さのより好ましい範囲は0.20mm以上、パンチ数のより好ましい範囲は15〜50回/cmである。
なおバーブ深さとは図1で示すとおりニードルのバーブと呼ばれる切込みの深さである。またバーブ部はキックアップと呼ばれる突起も有している。
【0029】
フェルト化処理するピッチ系炭素繊維ウェブの目付量、厚み等に合わせてニードルのキックアップ高さ、バーブ数、隣接バーブ間隔、ニードル深度は適宜選択される。キックアップ高さは0〜0.15mmの範囲から適宜選択できる。キックアップ高さが0.15mmより大きいと、繊維折損が多く起こり、強度低下、歩留まり低下が起こることがある。またバーブ数は3〜18個の範囲から適宜選択できる。バーブ数が3個より少ないと、交絡が少なく、十分な層間剥離強度が得られないことがある。逆に18個より多いと、繊維折損が多く起こり、強度低下、歩留まり低下が起こってしまうことがある。隣接バーブ間隔は0.3〜3mmの範囲から適宜選択できる。なお、本発明での隣接バーブ間隔とは、ブレードの異列間隣接を含めたものをいう。隣接バーブ間隔が0.3mmより小さいと、繊維折損が多く起こり、強度低下、歩留まり低下が起こってしまうことがある。逆に3mmより大きいと、交絡が少なく、十分な層間剥離強度が得られないことがある。ニードル深度は0〜20mmの範囲から適宜選択できる。ニードル深度は、フェルトに対して、ニードルをどれくらい深く突き刺すかを示したものであり、ニードルパンチした際のベッドプレートとニードル先端から最短の距離にあるバーブ(通称第一バーブ)との距離で表す。ニードル深度が0mmより小さいと、交絡が少なく、十分な層間剥離強度が得られないことがある。逆に20mmより大きいと、繊維折損が多く起こり、強度低下、歩留まり低下が起こってしまうことがある。
図1および図2にて、にキックアップ高さ、ニードル深度、隣接バーブ間隔について模式的に示す。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
以下に本発明で使用した測定方法について説明する。
(1)ピッチ系炭素繊維フェルトの層間剥離強度:
ピッチ系炭素繊維フェルトから幅方向に左、中、右各2点の計6点から幅5cm×長さ10cmのサンプルを抜き取り、サンプルの厚み方向中間位置で層方向と平行に刃物で切り込みを入れ、その両端を引張試験機で100mm/minの速度で引っ張ったときの最大強度の平均値から求めた。
(2)ピッチ系炭素繊維フェルトの平均繊維径:
ピッチ系炭素繊維フェルトから炭素繊維を任意に60本抜き出し、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて測定し、その平均値から求めた。
(3)ピッチ系炭素繊維フェルトの目付量:
ピッチ系炭素繊維フェルトから幅方向に左中右各2点の計6点からA4サイズのサンプルを抜き取り、各々の重量を測定し、その平均値から求めた。
【0031】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が288℃であった。340℃で溶融した粘度10Pa・sのピッチを、直径0.2mmφの孔の口金を使用し、スリットから350℃に加熱した空気を毎分11000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して、ピッチ系炭素繊維前駆体を作製し、多孔ベルト上に捕集し、さらにクロスラッパーで目付量が450g/m付近となるように調整し、ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを得た。
【0032】
このウェブを空気中で190℃から340℃まで平均昇温速度7℃/分で昇温して不融化処理を施し、次いで連続的に、窒素雰囲気中800℃で炭化処理を施し、ピッチ系炭素繊維ウェブを得た。このとき、不融化処理時のピッチ系不融化繊維ウェブの搬送速度V1と炭化処理時のピッチ系炭素繊維ウェブの搬送速度V2との比V1/V2は1.03とした。次いで、ピッチ系炭素繊維ウェブをキックアップ高さ0.05mm、バーブ数9個、隣接バーブ間隔3mm、バーブ深さ0.25mmのニードルを用い、パンチ数20回/cm、ニードル深度10mmでニードルパンチ処理を施し、ピッチ系炭素繊維フェルトを得た。
得られたピッチ系炭素繊維フェルトの層間剥離強度は0.45N/5cm片であり、平均繊維径は12.5μmであり、目付量は445g/mであった。
【0033】
[実施例2]
平均繊維径調整のために、紡糸時のスリットからの加熱空気速度を毎分15000mとした以外は、実施例1と同様の方法でピッチ系炭素繊維フェルトを作成した。
得られたピッチ系炭素繊維フェルトの層間剥離強度は0.31N/5cm片であり、平均繊維径は9.1μmであり、目付量は456g/mであった。
【0034】
[実施例3]
目付量が200g/m付近となるように、クロスラッパーの調整を実施した以外は、実施例1と同様の方法でピッチ系炭素繊維フェルトを作成した。
得られたピッチ系炭素繊維フェルトの層間剥離強度は0.33N/5cm片であり、平均繊維径は12.5μmであり、目付量は194g/mであった。得られたピッチ系炭素繊維フェルトの一部に皺が発生した。
【0035】
[比較例1]
炭化処理までは実施例1と同様の方法でピッチ系炭素繊維ウェブを作成し、得られたピッチ系炭素繊維ウェブをバーブ深さ0.07mm、パンチ数50回/cmでニードルパンチ処理を施し、ピッチ系炭素繊維フェルトを得た。
得られたピッチ系炭素繊維フェルトの層間剥離強度は0.09N/5cm片であり、平均繊維径は12.4μmであり、目付量は444g/mであった。得られた層間剥離強度は実施例1に比べ極端に小さく、手で持つだけで積層間の剥離が発生した。
【0036】
[比較例2]
炭化処理までは実施例1と同様の方法でピッチ系炭素繊維ウェブを作成し、得られたピッチ系炭素繊維ウェブをバーブ深さ0.25mm、パンチ数10回/cmでニードルパンチ処理を施し、ピッチ系炭素繊維フェルトを得た。
得られたピッチ系炭素繊維フェルトの層間剥離強度は0.10N/5cm片であり、平均繊維径は12.7μmであり、目付量は459g/mであった。得られた層間剥離強度は実施例1に比べ極端に小さく、手で持つだけで積層間の剥離が発生した。
【0037】
[比較例3]
不融化処理時のピッチ系不融化繊維ウェブの搬送速度V1と炭化処理時のピッチ系炭素繊維ウェブの搬送速度V2との比V1/V2を1.00とした以外は、実施例1と同様の方法でピッチ系炭素繊維フェルトを得た。
得られたピッチ系炭素繊維フェルトの層間剥離強度は0.05N/5cm片であり、平均繊維径は12.7μmであり、目付量は449g/mであった。得られた層間剥離強度は実施例1に比べ極端に小さく、手で持つだけで積層間の剥離が発生した。また、ピッチ系炭素繊維フェルトの一部に破断がみられた。
【0038】
[比較例4]
特開平5−195396号の実施例2と同様の方法でピッチ系炭素繊維フェルトを作成した。すなわち、軟化点285℃、光学的異方性分率98%の石油系ピッチを原料とし、幅3mmのスリットの中に直径0.15mmの紡糸孔を一列に1500個有する口金を用い、スリットから加熱空気を噴出させて、溶融ピッチを牽引してピッチ繊維ウェブを製造した。ピッチの吐出量1500g/分,ピッチ温度345℃,加熱空気温度360℃,加熱空気圧力0.5kg/cm2 Gであった。紡出された繊維を、捕集部分が20メッシュのステンレス鋼製金網で出来たベルトの背面から吸引しつつ、ベルト上に捕集した。この時の気流の速度は32m/秒であり、捕集したピッチ繊維ウェブの目付けは50g/m2 であり、平均繊維径は10μm、平均繊維長は約15cmであった。このピッチ繊維ウェブを水平式クロスラッパーにより目付けが600g/m2 になるように、切断工程を経ることなく連続的にクロスラップさせ、空気雰囲気中で室温から320℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化処理を行った。引き続き、ベルト下面から上方へ風速1.0m/秒の条件で窒素を通気させながら、1000℃まで昇温して炭化処理した後、パンチ密度10パンチ/cm2 のニードルパンチ,両端の耳部カットを行い、炭素繊維フェルトを得た。その際、ニードルパンチ処理時のバーブ深さについては規定がないので、0.07mm、0.15mm、0.25mmで実施した。
【0039】
得られたピッチ系炭素繊維フェルトの層間剥離強度はバーブ深さ0.07mmで0.08N/5cm片、0.15mmで0.11N/5cm片、0.25mmで0.15N/5cm片であり、何れも0.25N/5cm片には到達しなかった。平均繊維径は9.2μmであり、目付量は553g/mであった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ニードルのバーブ部の模式図
【図2】ニードルの模式図
【符号の説明】
【0041】
1 バーブ深さ
2 キックアップ高さ
3 フェルト
4 ニードル
5 ベッドプレート
6 先端から最短の距離にあるバーブ(第1バーブ)
7 ニードル深度
8 隣接バーブ間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチを紡糸して得たピッチ系炭素繊維前駆体を捕集し、連続してクロスラップしたウェブを、不融化、炭化、及びフェルト化処理することによって得られる炭素繊維フェルトであって、厚み方向の層間剥離強度が0.25N/5cm片以上であることを特徴とするピッチ系炭素繊維フェルト。
【請求項2】
平均繊維径が10〜20μmであり、目付量が250〜1000g/mである請求項1に記載のピッチ系炭素繊維フェルト。
【請求項3】
ピッチがメソフェーズ率90%以上のメソフェーズピッチである請求項1または2に記載のピッチ系炭素繊維フェルト。
【請求項4】
ピッチをメルトブロー法で紡糸して、ピッチ系炭素繊維前駆体を捕集し、連続してクロスラップし、不融化処理した後、炭化処理し、フェルト化処理するピッチ系炭素繊維フェルトの製造方法において、
不融化工程と炭化工程が連続工程であり、不融化処理時のピッチ系不融化繊維ウェブの搬送速度V1と炭化処理時のピッチ系炭素繊維ウェブの搬送速度V2との比V1/V2が1.01〜1.10であり、かつ
フェルト化処理がニードルパンチ法であって、使用するニードルのバーブ深さが0.15mm以上であり、処理時のパンチ数が15〜100回/cmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維フェルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−59573(P2010−59573A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225922(P2008−225922)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】