説明

炭素繊維用サイズ剤とその水分散液、サイジング処理炭素繊維とこれを使用したシート状物、および炭素繊維強化複合材料

【課題】繊維長手方向の引張強度に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる炭素繊維用サイズ剤とその水分散液、サイジング処理炭素繊維とこれを使用したシート状物、および炭素繊維強化複合材料の提供。
【解決手段】2価フェノール類(A1)と、ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)とが反応した変性多価フェノール類をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂(A)を30質量%以上含む炭素繊維用サイズ剤とその水分散液、該炭素繊維用サイズ剤が付着したサイジング処理炭素繊維とこれを使用したシート状物、および炭素繊維強化複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各炭素繊維用サイズ剤とその水分散液、サイジング処理炭素繊維とこれを使用したシート状物、および炭素繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を強化材として用い、該炭素繊維とマトリクス樹脂により形成される炭素繊維強化複合材料(以下、「複合材料」という。)は、軽量でかつ強度および弾性率などに優れている。このような複合材料は、スポーツ・レジャー用品の構成部品や、車輌・航空宇宙用機材、エネルギー・土木建築用の産業資材等の材料として幅広い分野にわたってその用途開発が進められている。そのため、強化材としての炭素繊維に対する高性能化の要望は非常に強い。
特に、車輌・航空宇宙用途における構造材料や産業資材として適用される炭素繊維では、高強度化・高弾性率化を目的とする開発が進められている。このような構造材料や産業資材の用途の複合材料には、その繊維長手方向の引張強度を高いレベルで保有することが求められる。
【0003】
一方、炭素繊維は、それ自体は伸度が小さくかつ脆い性質を有するため、機械的摩擦等によって毛羽が発生しやすく、複合材料の製造工程において毛羽、糸切れが発生しやすい。そのため、毛羽発生抑制等を目的として、炭素繊維に各種サイズ剤を付与してサイジング処理を施す場合が多い。サイジング処理により炭素繊維に集束性が付与され、毛羽の発生を抑制できるとともに、耐屈曲性や耐擦過性をも改良できる。
【0004】
また、サイズ剤には、炭素繊維に集束性、耐屈曲性および耐擦過性を付与する性能に加えて、炭素繊維表面の形態や官能基等の表面特性に適合させて、複合材料に優れた機械強度を発現させる性能を備えることが求められる。
現在、複合材料のマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂を用いるのが一般的である。従って、サイズ剤としては、マトリクス樹脂の構造に近い芳香族化合物である、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂に代表されるエポキシ樹脂、ならびに変性エポキシ樹脂(例えば、特許文献1〜3)が主に用いられている。
また、複合材料における繊維長手方向の引張強度を良好に発現させる方法として、ダイマー酸型エポキシ樹脂を含有するサイズ剤(特許文献4)や、複数のエポキシ基を有する脂肪族エポキシ化合物からなるサイズ剤(特許文献5)を用いて、炭素繊維をサイジング処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−28074号公報
【特許文献2】特開平1−272867号公報
【特許文献3】特開昭57−171767号公報
【特許文献4】特開2004−149721号公報
【特許文献5】特開平7−279040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のサイズ剤の場合、炭素繊維に集束性、耐屈曲性および耐擦過性を付与する性能は備えるものの、複合材料の繊維長手方向の引張強度を向上させる効果は必ずしも満足できるものではなかった。従って、サイズ剤には引張強度の向上効果をさらに高めることが望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、繊維長手方向の引張強度に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる炭素繊維用サイズ剤とその水分散液、サイジング処理炭素繊維とこれを使用したシート状物、および炭素繊維強化複合材料の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炭素繊維用サイズ剤は、2価フェノール類(A1)と、ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)とが反応した変性多価フェノール類をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂(A)を30質量%以上含むことを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維サイジング用水分散液は、前記炭素繊維用サイズ剤が、界面活性剤により水中に分散したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明のサイジング処理炭素繊維は、炭素繊維の表面に、前記炭素繊維用サイズ剤が付着したことを特徴とする。
さらに、前記炭素繊維用サイズ剤の付着量が、炭素繊維の0.1〜5.0質量%であることが好ましい。
また、本発明のシート状物は、前記サイジング処理炭素繊維を使用したことを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維強化複合材料は、前記サイジング処理炭素繊維または前記シート状物を強化材として含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維長手方向の引張強度に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる炭素繊維用サイズ剤とその水分散液、サイジング処理炭素繊維とこれを使用したシート状物、および炭素繊維強化複合材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
[炭素繊維用サイズ剤]
本発明の炭素繊維用サイズ剤(以下、「サイズ剤」という。)は、2価フェノール類(A1)とジビニルエーテル類とが反応した変性多価フェノール類をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂(A)を30質量%以上含む。
【0012】
2価フェノール類(A1)としては、1分子中に2個の芳香族性水酸基を含有する芳香族系化合物であれば特に限定されないが、例えばジヒドロキシベンゼン類、ジヒドロキシナフタレン類、ビスフェノール類、ビスナフトール類、フェノール類(ナフトール類)/アルデヒド類重縮合物類、フェノール類(ナフトール類)/ジエン類重付加物類、フェノール類/アラルキル樹脂類との重縮合物類などが挙げられる。
【0013】
ジヒドロキシベンゼン類としては、例えばハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、およびこれらの1〜2個の置換基含有体などが挙げられる。
ジヒドロキシナフタレン類としては、例えば1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、およびこれらの置換基含有体などが挙げられる。
【0014】
ビスフェノール類としては、例えばビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(ビスフェノールAP)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、およびこれらの置換基含有体などが挙げられる。
【0015】
ビスナフトール類としては、例えばビス(2−ヒドロキシ−1−ナフチル)メタン、ビス(2−ヒドロキシ−1−ナフチル)プロパンなどが挙げられる。
フェノール類(ナフトール類)/アルデヒド類重縮合物類としては、例えばフェノール/ホルムアルデヒド重縮合物、オルソクレゾール/ホルムアルデヒド重縮合物、1−ナフトール/ホルムアルデヒド重縮合物、2−ナフトール/ホルムアルデヒド重縮合物、フェノール/アセトアルデヒド重縮合物、オルソクレゾール/アセトアルデヒド重縮合物、1−ナフトール/アセトアルデヒド重縮合物、2−ナフトール/アセトアルデヒド重縮合物、フェノール/サリチルアルデヒド重縮合物、オルソクレゾール/サリチルアルデヒド重縮合物、1−ナフトール/サリチルアルデヒド重縮合物、2−ナフトール/サリチルアルデヒド重縮合物、およびこれらの置換基含有体などが挙げられる。
【0016】
フェノール類(ナフトール類)/ジエン類重付加物類としては、例えばフェノール/ジシクロペンタジエン重付加物、フェノール/テトラヒドロインデン重付加物、フェノール/4−ビニルシクロヘキセン重付加物、フェノール/5−ビニルノボルナ−2−エン重付加物、フェノール/α−ピネン重付加物、フェノール/β−ピネン重付加物、フェノール/リモネン重付加物、オルソクレゾール/ジシクロペンタジエン重付加物、オルソクレゾール/テトラヒドロインデン重付加物、オルソクレゾール/4−ビニルシクロヘキセン重付加物、オルソクレゾール/5−ビニルノボルナ−2−エン重付加物、オルソクレゾール/α−ピネン重付加物、1−ナフトール/ジシクロペンタジエン重付加物、1−ナフトール/4−ビニルシクロヘキセン重付加物、1−ナフトール/5−ビニルノルボルナジエン重付加物、1−ナフトール/α−ピネン重付加物、1−ナフトール/β−ピネン重付加物、1−ナフトール/リモネン重付加物、オルソクレゾール/β−ピネン重付加物、オルソクレゾール/リモネン重付加物、およびこれらの置換基含有体などが挙げられる。
【0017】
フェノール類/アラルキル樹脂類との重縮合物類としては、例えばフェノール/p−キシレンジクロライド重縮合物、1−ナフトール/p−キシレンジクロライド重縮合物、2−ナフトール/p−キシレンジクロライド重縮合物、フェノール/ビスクロロメチルビフェニル重縮合物、オルトクレゾール/ビスクロロメチルビフェニル重縮合物、1−ナフトール/ビスクロロメチルビフェニル重縮合物、2−ナフトール/ビスクロロメチルビフェニル重縮合物、およびこれらの置換基含有体などが挙げられる。
【0018】
なお、上述した置換基含有体の置換基としては、例えばアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0019】
2価フェノール類(A1)は、接着性と屈曲性に優れる。特に2価フェノール類の中でも、靭性等の性能に優れることから、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類や、ジヒドロキシナフタレン類等が好ましい。
【0020】
ジビニルエーテル類は、1分子中に2個のビニルエーテル基を含有する化合物であり、具体的にはポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)である。
ポリアルキレングリコール骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)としては、例えばエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、テトラプロピレングリコールジビニルエーテル、ポリプロピレングリコールジビニルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジビニルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
シクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)としては、例えば1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリシクロデカンジオールジビニルエーテル、トリシクロデカンジメタノールジビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカンジメタノールジビニルエーテル、ペンタシクロペンタデカンジオールジビニルエーテルなどが挙げられる。
【0022】
ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)は、接着性と屈曲性に優れる。
なお、本発明においては、ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)に、アルキレン基を含有するジビニルエーテル類を組み合わせて用いてもよい。
アルキレン基を含有するジビニルエーテル類としては、例えばグリセロールジビニルエーテル、トリグリセロールジビニルエーテル、1、3−ブチレングリコールジビニルエーテル、1、4−ブタンジジオールジビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,9−ノナンジオールジビニルエーテル、1,10−デカンジオールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジビニルエーテルなどが挙げられる。
【0023】
エポキシ樹脂(A)は以下のようにして得られる。
まず、上述した2価フェノール(A1)と、ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)とをアセタール化反応させて、変性多価フェノール類を得る。この際、2価フェノール(A1)と、ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)の当量比は、反応生成物1分子中に少なくとも1個以上の芳香族性水酸基が残るような比率であれば、特に限定されないが、例えば2価フェノール(A1):ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)=95:5〜50:50程度で使用することが好適である。また、アセタール化反応には公知の触媒を使用できる。
ついで、変性多価フェノール類を公知の方法によりエピハロヒドリン類と反応させて(グリシジルエーテル化)、エポキシ樹脂(A)を得る。この際、エピハロヒドリン類の使用量は変性多価フェノール類のフェノール性水酸基に対して、0.3〜20モル当量が好ましい。また、グリシジルエーテル化反応には公知の触媒を使用できる。
【0024】
エポキシ樹脂(A)の具体例としては、2価フェノール(A1)としてビスフェノールAを、ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)としてポリアルキレングリコール骨格を含有するジビニルエーテルを用いて調製したエポキシ樹脂が好適である。該エポキシ樹脂は市販品として入手可能であり、例えばDIC株式会社製の「EXA−4850−150」、「EXA−4850−1000」等が挙げられる。
【0025】
ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)はエポキシ樹脂(A)に柔軟性を付与する、所謂ソフトセグメントとして機能し、2価フェノール(A1)はエポキシ樹脂(A)に剛直性を付与する所謂ハードセグメントとして機能する。さらに2価フェノール(A1)と、ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)との反応物(変性多価フェノール)をグリシジルエーテル化するので、芳香核に直接グリシジルオキシ基が結合する。従って、エポキシ樹脂(A)は、硬化物の靱性が極めて優れたものとなる。
【0026】
ところで、サイズ剤として一般的に用いられているエポキシ樹脂は、低分量タイプの液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂をエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドで変性して得られるジオール化合物を、グリシジルエーテル化した構造を有する場合が多い。このようなエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の骨格自体が柔軟になるものの、エポキシ基自体の活性に劣り、硬化時に靱性を発現するに十分な架橋が得られにくい。
【0027】
しかし、本発明に用いるエポキシ樹脂(A)は、グリシジルオキシ基が直接芳香核に結合しているので、エポキシ基の活性が高くなる。よって、樹脂自体が柔軟であるにも拘わらず、硬化時には適度な架橋を形成して優れた靱性を発現できる。さらに、ハードセグメントとして機能する2価フェノール(A1)が、架橋点となるエポキシ基に隣接することで架橋点における物理的な強度が高まり靱性が向上する。
従って、エポキシ樹脂(A)は、柔軟性と靭性とを兼備することとなる。その結果、当該エポキシ樹脂(A)を含む本発明のサイズ剤を用いてサイジング処理された炭素繊維(サイジング処理炭素繊維)とマトリクス樹脂との界面において、柔軟かつ強靭な層(界面樹脂層)が形成される。このような界面を有するサイジング処理炭素繊維とマトリクス樹脂により形成される炭素繊維強化複合材料は、引張荷重時に生じるクラックの進展が界面樹脂層にて抑制され、優れた引張強度を発揮できるものと考えられる。
【0028】
エポキシ樹脂(A)の含有量は、サイズ剤100質量%中、30質量%以上であり、35質量%以上が好ましい。また、92質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。エポキシ樹脂(A)の含有量が30質量%未満であると、上述した炭素繊維とマトリクス樹脂との界面への柔軟性および強靭性付与の効果が低減する。
【0029】
本発明サイズ剤は、本発明の効果を損なわない範囲内において、エポキシ樹脂(A)以外の他のエポキシ樹脂を含有してもよい。
他のエポキシ樹脂としては特に限定されず、種々のエポキシ樹脂を用いることができるが、例えばビスフェノール型、ジヒドロキベンゼン型、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂類、多価アルコールエーテル型エポキシ樹脂類、反応性希釈剤などが挙げられる。
【0030】
ビスフェノール型、ジヒドロキベンゼン型、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂類としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0031】
多価アルコールエーテル型エポキシ樹脂類としては、例えばネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
反応性希釈剤としては、例えばヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ブチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、高級アルコールグリシジルエーテル等の1価アルコールエーテル型エポキシ樹脂;フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等のモノ芳香族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0033】
また、他のエポキシ樹脂としては、上述したエポキシ樹脂以外にも、例えばビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0034】
これら他のエポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、他のエポキシ樹脂を含有する場合、その含有量は、サイズ剤100質量%中、5〜65質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましい。
【0035】
さらに、本発明のサイズ剤は、他のエポキシ樹脂にも、例えばエステル化合物、ウレタン化合物、ポリアミド化合物、ポリイミド化合物などを含有してもよい。
【0036】
<サイジング用水分散液>
本発明のサイズ剤は、炭素繊維に付着させる際には、所定量のエポキシ樹脂(A)、および必要に応じて他のエポキシ樹脂をアセトン等の有機溶剤や水に分散または溶解させてサイジング用溶液として用いることが好ましい。ただし、サイジング用溶液は、水に分散させたものの方が、有機溶剤に分散または溶解させたものに比べて良好な安定性を有するので取り扱いやすく、工業的により優れるので好ましい。
【0037】
本発明のサイズ剤として、所定量のエポキシ樹脂(A)、および必要に応じて他のエポキシ樹脂を水に分散させたサイジング用溶液を用いる場合には、分散媒として界面活性剤をサイズ剤に含有させるのが好ましい。以下、サイズ剤が界面活性剤により水中に分散したサイジング用溶液をサイジング用水分散液という。
【0038】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪族ノニオン、フェノール系ノニオンなどの界面活性剤を利用することができる。
脂肪族ノニオン系界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、グリセロールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなどが挙げられる。
フェノール系ノニオン界面活性剤としては、アルキルフェノール系ノニオン、多環フェノール系ノニオンなどが挙げられる。
【0039】
また、エチレンオキサイド付加物としては、ポリエチレンオキサイド鎖中の一部にプロピレンオキサイドユニットをランダムあるいはブロック状に具備させたタイプのものが好適である。
脂肪酸エチレンオキサイド付加物や多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物としては、モノエステルタイプ、ジエステルタイプ、トリエステルタイプ、テトラエステルタイプなどのノニオン系界面活性剤を使用できる。
【0040】
アニオン系界面活性剤としては、例えば硫酸エステル塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などを用いることができる。より優れた乳化能力を得るには、硫酸エステル塩が適している。
硫酸エステル塩としては、例えばアルキルベンゼンポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩や多環フェニルエーテルポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩などが挙げられる。さらに、アルキルベンゼンポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩や多環フェニルエーテルポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩におけるポリエチレンオキサイド鎖中の一部にプロピレンオキサイドユニットをランダムまたはブロック状に具備させたもの等を用いることもできる。
【0041】
また、界面活性剤としては市販品を用いることができる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば日本乳化剤株式会社製の「ニューコール707」、「ニューコール723」、「ニューコール707−F」などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば日本乳化剤株式会社製の「ニューコール707−SF」、「ニューコール723−SF」などが挙げられる。
【0042】
ところで、アセタール結合は、酸性領域下、あるいは数10ppm程度の金属(カリウム、ナトリウム、クロムなど)の存在下で容易に分解することが知られている。従って、酸性を示したり、金属を有したりする界面活性剤を分散媒として含有し、該界面活性剤により水に分散されたサイズ剤を炭素繊維に付与した場合、アセタール結合の分解にともなうサイズ剤の経時変化によりサイズ剤の色が変化したり、炭素繊維の集束性およびドレープ性が低下したり、炭素繊維強化複合材料の製造工程において開繊性や樹脂含浸性が低下したりしやすくなる。
なお、炭素繊維自体にも通常、金属成分は存在するが、その量は数ppmオーダーであり、本発明のサイズ剤を付与した場合でも、上記のようなサイズ剤の経時変化は生じにくい。
【0043】
以上のような観点から、界面活性剤としては、中性であり、かつナトリウム、カリウム、クロムなどの金属含有量が数ppm程度である界面活性剤を用いることが好ましい。このような界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤を用いるのが好適である。
【0044】
界面活性剤の含有量は、サイズ剤が水中に分散した水分散液の安定性を悪化させたり、サイズ剤のサイジング効果を低下させたりしない限りは、特に限定されるものではないが、目安としてサイズ剤100質量%中、8〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が8質量%未満であると、サイズ剤が水中に分散した水分散液の安定性が悪くなり、30質量%を超えると、サイズ剤のサイジング効果が低下する傾向にある。
【0045】
また、サイジング用水分散液のサイズ剤濃度(固形分濃度、すなわちサイジング用水分散液中の水以外の成分の濃度(以下、「濃度」という。))は、水が連続相として存在する濃度範囲であれば問題なく、通常10〜50質量%程度の濃度になるように調整する。サイジング用水分散液の調製段階で濃度を10質量%未満としても問題はないが、サイジング用水分散液中の水の占める割合が大きくなり、サイジング用水分散液の調製から使用(炭素繊維のサイジング処理)までの間の運搬・保管などの面で不経済となる場合がある。そのため、サイジング用水分散液を使用する(炭素繊維のサイジング処理する)に際して、所望のサイズ剤付着量となるように、サイジング用水分散液を0.1〜10質量%程度の低濃度水性液に希釈して、炭素繊維にサイズ剤を付着させる方法が一般的である。
【0046】
以上説明した本発明のサイズ剤は、上述した柔軟性と靭性とを兼備するエポキシ樹脂(A)を30質量%以上含有する。従って、本発明のサイズ剤を用いて炭素繊維をサイジング処理すると、サイジング処理された炭素繊維にマトリクス樹脂が含浸する際にこれらの界面に柔軟かつ強靭な界面樹脂層が形成され、該界面樹脂層により引張荷重時に生じるクラックの進展が抑制される。よって、本発明のサイズ剤によれば、繊維長手方向の引張強度に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0047】
[サイジング処理炭素繊維]
本発明のサイジング処理炭素繊維は、炭素繊維の表面に本発明のサイズ剤が付着してなるものである。
サイジング処理に用いる炭素繊維としては制限されず、ピッチ系、レーヨン系あるいはポリアクリロニトリル系などのいずれの原料物質から得られたものであってもよい。また、高強度タイプ(低弾性率炭素繊維)、中高弾性炭素繊維又は超高弾性炭素繊維のいずれでもよい。
【0048】
サイジング処理炭素繊維におけるサイズ剤の付着量は、炭素繊維の質量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.2〜3.0質量%であることがより好ましい。サイズ剤の付着量が0.1質量%以上であれば、炭素繊維表面全体をサイズ剤で覆いつくすことが容易になる。また、炭素繊維強化複合材料を製造する際にサイジング処理炭素繊維とマトリクス樹脂を混合させたときに、上述した界面樹脂層による柔軟性や靭性等の機能発現性が低下することを抑制できる。一方、サイズ剤の付着量が5.0質量%以下であれば、炭素繊維表面にサイズ剤が多く堆積しすぎてサイジング処理炭素繊維が硬くなることで、サイジング処理炭素繊維の取り扱い性が低下することを抑制できる。また、炭素繊維強化複合材料において、マトリクス樹脂から界面樹脂層を介してサイジング処理炭素繊維に伝わる応力の伝達に不具合が生じて機械的特性が低下することを抑制できる。
また、サイズ剤の付着量が上記範囲内であれば、炭素繊維の集束性や耐耐擦過性が優れたものになるとともに、マトリクス樹脂に対する濡れ性やマトリクス樹脂との間の界面接着力を十分に向上し、得られる炭素繊維強化複合材料に良好な力学的特性が備えられるようになる。
【0049】
サイズ剤の付着量は、以下のようにして求められる。
メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法(抽出時間:1時間)によりサイズ剤を抽出し、抽出前のサイジング処理炭素繊維の質量W、および抽出後のサイジング処理炭素繊維の質量Wをそれぞれ測定し、下記式(1)によりサイズ剤の付着量を求める。
サイズ剤の付着量(質量%)=(W−W)/W×100 ・・・(1)
【0050】
本発明のサイジング処理炭素繊維は、未処理の炭素繊維にローラー浸漬法、ローラー接触法等によって本発明のサイズ剤を塗布し、乾燥することで得られる。サイズ剤は、サイジング用水分散液として用いるのが好ましい。
なお、サイズ剤の付着量は、サイジング用水分散液のサイズ剤濃度やサイズ剤の塗布量(絞り量)を調節することで調整できる。
また、乾燥の際には、熱風、熱板、加熱ローラー、各種赤外線ヒーターなどを用いればよい。乾燥条件としては、120〜250℃の乾燥温度で、10秒〜10分間の乾燥時間が好ましく、150〜230℃の乾燥温度で、30秒〜4分間の乾燥時間がより好ましい。
【0051】
本発明のサイジング処理炭素繊維は、炭素繊維の表面に本発明のサイズ剤が付着しているので、その繊維長手方向の引張強度に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる。加えて、機械的摩擦などによる毛羽の発生等が少なくなり、かつマトリクス樹脂に対する濡れ性や接着性に優れたものになる。
【0052】
また、本発明のサイジング処理炭素繊維は、製織、切断等の工程通過性に優れており、例えば織布、一方向配列シート、不織布、マット等のシート状物に加工することが容易である。特に製織工程を経る場合には、通常は炭素繊維に擦過による毛羽立ちが発生し易いが、本発明のサイジング処理された炭素繊維は、炭素繊維の表面に付着しているサイズ剤によって、毛羽立ちが効果的に抑えられたものになる。
【0053】
[シート状物]
本発明のシート状物は、本発明のサイジング処理炭素繊維を使用したものであり、例えば織布、一方向配列シート、不織布、マット等からなるものである。
織布としてはその織り組織が特に限定されるものではなく、平織り、綾織り、朱子織り、或いはこれらの組織を変化させたものであってもよく、また、緯糸と経糸との両糸が共にサイジング処理された炭素繊維からなっていても、あるいは他の炭素繊維や炭素繊維以外の繊維との混織であってもよい。なお、炭素繊維以外の繊維としては、硝子繊維、チラノ繊維、SiC繊維などの無機繊維や、アラミド、ポリエステル、PP、ナイロン、ポリイミド、ビニロンなどの有機繊維が好適である。
【0054】
[炭素繊維強化複合材料]
本発明の炭素繊維強化複合材料(以下、「複合材料」という。)は、本発明のサイジング処理炭素繊維、または本発明のシート状物を強化材として含むものであり、マトリクス樹脂で含浸した強化材による一方向プリプレグ、クロスプリプレグ、トウプレグ、短繊維強化樹脂含浸シート、短繊維マット強化樹脂含浸シート等を硬化成形して得られる。
【0055】
強化材に含浸させるマトリクス樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ラジカル重合系樹脂であるアクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、さらにはフェノール樹脂等が好適である。
複合材料の製造方法としては、通常の方法を用いることができ、例えばホットメルト法、溶剤法、シラップ法、又はシートモールドコンパウンド(SMC)に用いられる増粘樹脂法などの方法などが挙げられる。
【0056】
本発明の複合材料は、強化材として本発明のサイズ剤を用いてサイジング処理が施された炭素繊維を使用するので、繊維長手方向の引張強度が優れている。また、サイジング処理炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性が良好であり、力学的特性を備えるとともに、製造の際に毛羽、糸切れ等の発生が少ない。
本発明の複合材料の用途は特に限定されないが、特に車輌・航空宇宙用途における構造材料や産業資材として好適である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例に用いた化合物、および各種測定方法、評価方法は以下の通りである。
【0058】
<サイズ剤成分>
サイズ剤の調製に用いた化合物を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
<サイジング用水分散液のサイズ剤濃度の測定>
アルミシャーレ(直径45mm、深さ10mm)にサイジング用水分散液を秤量し、105℃で2時間乾燥した。乾燥前のサイジング用水分散液の質量W、および乾燥後のサイジング用水分散液の質量Wをそれぞれ測定し、下記式(2)によりサイズ剤濃度を求めた。
サイズ剤濃度(質量%)=(W−W)/W×100 ・・・(2)
【0061】
<サイズ剤の付着量の測定>
メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法(抽出時間:1時間)によりサイズ剤を抽出した。抽出前のサイジング処理炭素繊維の質量W、および抽出後のサイジング処理炭素繊維の質量Wをそれぞれ測定し、上記式(1)によりサイズ剤の付着量を求めた。
【0062】
<サイズ剤の色の変化の評価>
アルミシャーレ(直径45mm、深さ10mm)にサイズ剤を秤量し、105℃で2時間加熱し、サイズ剤の色に変化を目視にて観察した。
【0063】
<サイジング処理炭素繊維の硬さの変化の評価>
サイジング処理直後および1ヶ月放置後のサイジング処理炭素繊維について、それぞれカンチレバー測定装置を用い、23±2℃、50±5%Rhの条件下でカンチレバー値を測定し、ドレープ性評価によって硬さの変化を評価した。
【0064】
<引張強度の測定>
以下に示す0°引張強度の測定方法により、複合材料の繊維長手方向の引張強度を評価した。
まず、一方向炭素繊維プリプレグを、炭素繊維束の向きを一方向に揃えて5枚積層し、オートクレーブを用いて加熱・加圧硬化(室温から180℃まで2時間かけて昇温させ、温度180℃、圧力0.6MPaで2時間保持した。)を行い、厚さ1mmの硬化板を作成した。
ついで、得られた硬化板から、長さ230mm、幅12.5mmの寸法で試験片を切り出した。該試験片について、ASTM−D3039に従い、引張り試験機(インストロン社製、「万能試験機5882型」)を用いて0°引張強度を測定した。測定条件は、引張り試験機のクロスヘッドスピードを1.27mm/分、n=5とした。
【0065】
[実施例1]
<サイズ剤およびサイジング用水分散液の調製>
表1に示した化合物を用い、表2に示す配合量に従って各化合物を混合し、サイズ剤を得た。該サイズ剤にイオン交換水を加え、ホモミキサーを用いた転送乳化によってサイジング用水分散液を得た。該サイジング用水分散液のサイズ剤濃度を測定したところ、2.2質量%であった。また、得られたサイズ剤の色の変化を確認したところ、樹脂の色(透明な黄色)に変化はなかった。
【0066】
<複合材料の製造>
(サイジング処理)
サイジング処理を行う炭素繊維として、炭素繊維束(三菱レイヨン株式会社製、「パイロフィルMR60H」、フィラメント数24000本、繊維径5μm)を用いた。
フリーローラーを有する浸漬槽内にサイジング用水分散液を満たし、該サイジング用水分散液に炭素繊維束を浸漬させた後、140℃の雰囲気下で10分間の乾燥処理を施し、得られたサイジング処理炭素繊維をボビンに巻き取った。該サイジング処理炭素繊維におけるサイズ剤の付着量を測定したところ、1.2質量%であった。また、硬さの変化を評価したところ、カンチレバー値はほとんど変化しなかった。
【0067】
(マトリクス樹脂の調製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、「JER828」)50質量部と、テトラグリシジル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、「JER604」)50質量部と、フェノキシ樹脂(東都化成株式会社製、「フェノトートYP−70」)10質量部と、4,4‘−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化工業株式会社製)32質量部とを混合し、マトリクス樹脂を調製した。
【0068】
(プリプレグの作製)
片側表面が離型処理されている離型紙に、マトリクス樹脂をロールコーターで単位面積あたり54g/mで均一に塗布し、樹脂担持シートとした。該樹脂担持シートの樹脂側の面に、サイジング処理炭素繊維を繊維目付が200g/mになるように一方向に引き揃えて貼り付けた。そして炭素繊維側の面に、上記と同様の単位面積あたり54g/mで均一にマトリクス樹脂を塗布して別途作製した樹脂担持シートの樹脂側の面を重ね合わせ、これらを温度100℃、線圧2kg/cmで加圧加熱して含浸させた。その後、片面の離型紙を剥離し、その面に保護フィルムを貼り付けることにより、一方向炭素繊維プリプレグ(複合材料)を作製した。該一方向炭素繊維プリプレグは、炭素繊維目付が200g/mであり、樹脂含有率が35質量%であった。また、引張強度を測定したところ、3270MPaと良好な強度を示した。
【0069】
[実施例2〜6]
各化合物の配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてサイズ剤およびサイジング用水分散液を調製し、該サイジング用水分散液を用いてサイジング処理を行い、複合材料を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
[比較例1〜4]
各化合物の配合量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてサイズ剤およびサイジング用水分散液を調製し、該サイジング用水分散液を用いてサイジング処理を行い、複合材料を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
表2から明らかなように、各実施例では、繊維長手方向の引張強度に優れた複合材料が得られた。特に、実施例1〜5の場合、サイズ剤の色や、サイジング処理炭素繊維の硬さに変化がなかった。
なお、実施例6の場合、界面活性剤として金属を有する界面活性剤を用いたため、サイズ剤の色が透明な黄色から濃い茶色に変化した。また、サイジング処理炭素繊維の硬さの変化を評価したところ、カンチレバー値が変化し、ドレープ性が低下した。
【0074】
一方、表3から明らかなように、各比較例では、サイズ剤の色や、サイジング処理炭素繊維の硬さに変化はなかったものの、得られた複合材料の繊維長手方向の引張強度は各実施例に比べて低く、満足できる値ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価フェノール類(A1)と、ポリアルキレングリコール骨格および/またはシクロアルカン骨格を含有するジビニルエーテル類(A2)とが反応した変性多価フェノール類をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂(A)を30質量%以上含む、炭素繊維用サイズ剤。
【請求項2】
請求項1に記載の炭素繊維用サイズ剤が、界面活性剤により水中に分散した、炭素繊維サイジング用水分散液。
【請求項3】
炭素繊維の表面に、請求項1に記載の炭素繊維用サイズ剤が付着した、サイジング処理炭素繊維。
【請求項4】
前記炭素繊維用サイズ剤の付着量が、炭素繊維の0.1〜5.0質量%である、請求項3に記載のサイジング処理炭素繊維。
【請求項5】
請求項3または4に記載のサイジング処理炭素繊維を使用した、シート状物。
【請求項6】
請求項3または4に記載のサイジング処理炭素繊維を強化材として含む、炭素繊維強化複合材料。
【請求項7】
請求項5に記載のシート状物を強化材として含む、炭素繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2011−1644(P2011−1644A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144581(P2009−144581)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】