説明

炭素質中空成形体およびその製法

【課題】ガラス状炭素からなる継目なしの中央拡径中空成形体を提供すると共に、その有用な製造方法を提供すること。
【解決手段】中央部が拡径した中空形状を有する継目なしの炭素質中空成形体であって、その製法は、外型と熱溶融性中子との間に形成されるキャビティ内に液状の熱硬化性樹脂を注入し、中央部が拡径した中空形状で継目なしの熱硬化樹脂成形体を得る注型成形工程、該注型成形工程の後に、中子を構成する熱溶融性素材を加熱して溶融流出させる中子流出工程、得られた熱硬化性樹脂成形体を炭素化する炭素化工程、含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス状炭素のみからなり、中央部が拡径した中空形状で継目を有しない新規な炭素質中空成形体とその製法に関し、この炭素質中空成形体は、例えば高温の腐食環境下で使用される充填材や伝熱媒体、あるいは誘電加熱などに用いる発熱体、更には耐熱・耐食性の各種容器や反応器などとして利用できる。
【背景技術】
【0002】
ガラス状炭素とは、例えばフェノール系樹脂などの熱硬化性樹脂を非酸化性雰囲気下に高温で熱処理して炭素化することにより得られる物質であり、炭素でありながら、黒鉛とは異なって微粉化し難く、不純物含量も少なくて化学的に安定である等の特性を有していることから、高温条件や腐食性環境下で使用する部品として様々の分野に利用されている。こうしたガラス状炭素製品の形状は、通常、板状や円筒(パイプ)状、カップ状(坩堝など)などである。
【0003】
他方、高温・腐食性環境下で使用される充填材や伝熱媒体、誘電加熱用発熱体あるいは反応器などとして、中空球状のセラミックやガラス部品等が利用されている。これらの用途においても、ガラス状炭素は優れた特性を発揮すると考えられるが、実際には、ガラス状炭素製の中空成形体は殆ど実用化されていない。その最大の理由は、ガラス状炭素からなる中空成形体の製造が困難であるためと思われる。
【0004】
製造が困難である理由は幾つかあるが、最大の理由は、ガラス状炭素の前駆体である熱硬化樹脂を炭素化する過程で熱分解によりガスが発生するため、一般に肉厚で5mm以上のガラス状炭素成形体は得られ難いことである。そこで、まず大き目のガラス状炭素成形体を製造し、これを中ぐりして中空成形体に仕上げることも考えられるが、工業生産を考えると現実性を欠く。
【0005】
他の方法として、ガラス状炭素を半球状(お椀状)に加工し、これを2個1組で接合一体化することにより中空球状体を製造する方法が考えられる。しかしガラス状炭素は化学的に不活性であることから、満足のいく接合強度が得られ難く、しかも接合部の耐熱性や耐食性が不足気味になることも多い。
【0006】
この他、前駆体である熱硬化性樹脂の段階で半球状の成形体とし、これを接合して中空球体としてから炭素化する方法を採用すれば、上記の様な接合欠陥などのないガラス状炭素質の中空成形体が得られると思われる。例えば、熱硬化性樹脂で半球状(お椀状)の成形体を製造し、これを2個1組で接合一体化することにより中空球状成形体とした後に炭素化する方法である。しかしこの方法は、工程数が2段階となるため生産性が悪く、しかも、十分な寸法精度が得られ難い、本体部と同レベルの継目強度が得られ難い、継目から微粉が発生し易い、といった問題がある。
【0007】
他方、本出願人は、ガラス状炭素製のパイプおよびその製法として特許文献1に開示の技術を先に提案している。この発明は、パイプの内面形状に成形した熱溶融性材料からなるロッドを中子として使用し、該中子の外周に粉末状の熱硬化性樹脂材料をパイプ状に充填し、該熱硬化性樹脂材料を、中子を構成する熱溶融性材料の溶融温度未満の温度に加熱して硬化させ、その後に、該熱溶融性材料の溶融温度以上に加熱して中子を溶融流出させ、残った熱硬化樹脂パイプを焼成してガラス状炭素製パイプとする方法であり、継目なしのガラス状炭素製パイプを製造する方法としては有用な方法である。
【0008】
そこで本発明者らはこの技術を活用し、中央部が拡径した継目なし中空成形体(代表的には球状中空成形体)の製造を試みたところ、次の様な問題に遭遇した。その1つは、ガラス状炭素製球状中空体の前駆体である熱硬化樹脂製球状中空成形体を得るには、球状内周壁を有する外型の内部に、該外型と接することなく球状の中子を同芯状に、しかも樹脂粉末の充填乃至硬化過程で移動することのないよう確実に位置決め固定しなければならないが、これを工業的に確実かつ再現性よく遂行することが難しいことである。また、仮に外型内に中子を精度よく位置決め固定できたとしても、熱硬化性樹脂が完全に硬化するまでの過程で熱硬化樹脂成形体が硬化収縮を起こして割れることがあり、希望する寸法形状の球状中空体を得ることは難しかった。
【0009】
この様に前記特許文献1は、継目なしでパイプ状のガラス状炭素質成形体を製造する方法としては有用であるが、この方法では、ガラス状炭素質からなる継目なし球状中空体を製造することはできず、その実現には更なる工夫が必要となる。また該特許文献1以外の公知文献では、本件出願人の知る限り、継目なしのガラス状炭素質製球状中空成形体を製造した例は見当たらない。
【特許文献1】特開平11−322428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、これまで提供されたことのない継目なしのガラス状炭素質球状中空成形体を提供すると共に、その有用な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することのできた本発明の中空成形体は、ガラス状炭素のみからなり、中央部が拡径した中空形状を有する継目なしの炭素質中空成形体からなるところに特徴を有している。
【0012】
また、本発明の製造方法は、上記炭素質中空成形体を製造するための有用な方法として位置付けられるもので、外型と熱溶融性素材からなる中子との間に形成されるキャビティ内に液状の熱硬化性樹脂を注入し、中央部が拡径した中空形状で継目を有しない熱硬化樹脂成形体を得る注型成形工程、該注型成形工程の後に、中子を構成する熱溶融性素材を加熱して溶融流出させる中子流出工程、得られた熱硬化樹脂成形体を炭素化する炭素化工程、を含むところに特徴を有している。
【0013】
上記製法を実施する際に、前記中子の構成素材として軟化点が70℃以上、200℃以下の熱溶融性素材を使用すれば、注型成形工程から中子流出工程を効率よく遂行しつつ、寸法や品質の安定した炭素質中空成形体を効率よく製造できるので好ましい。
【0014】
特に、前記注型成形工程で、外型内に中子を位置決めするために用いるスペーサの素材として、前記熱硬化性樹脂と同質の熱硬化性樹脂で成形したスペーサを使用し、該スペーサを注型成形体と合体させたままで脱型してから炭素化を行う方法を採用すれば、設計通りの肉厚を有する中空成形体をより簡単に製造できるので好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭素質中空成形体は、上記の様に、ガラス状炭素のみを構成素材とし、中央部が拡径した中空形状で継目のない一体成形体であり、寸法精度が高くて接合による強度上の弱点がなく、継目からの内容物の漏洩や微粉発生などの問題を生じる余地もないので、ガラス状炭素本来の特徴である優れた耐熱・耐食性、伝熱・導電性を生かし、高温・高腐食性環境での使用に耐える充填材や伝熱・発熱媒体、更には高温反応容器などとして幅広く有効に活用できる。そして本発明の製造方法によれば、こうした形状特性を有するガラス状炭素からなる中空成形体を、工業的に容易にしかも安定して効率よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、中央部が拡径した中空部を有する中空成形体とは、中空球体の如く底部や頂部中央部に較べて中央部の内径が大きくなっており、成形時に特定形状の中子を使用したのでは、中央部がアンダーカットとなって中子を取り出すことができなくなる形状の中空成形体を意味し、最も一般的な形状は中空球体である。しかしその他、中空卵形体、中空長球体、不定形球殻体などであってもよく、それらの頂部や側壁などに1個以上の開口部が形成された容器や反応器なども含まれる。以下、本明細書ではこれらの中空成形体を“中央拡径中空成形体”ということがある。
【0017】
この様な中央拡径中空成形体は内部にアンダーカット部が存在するため、従来技術では中子の取出しが困難で一体成形ができず、そのため、前述した如く2つ割りなど複数割り形状の成形体を成形し、これらを接合一体化して1つの中空成形体に仕上げる方法が採用されてきた。しかしこの様な方法では、接合作業を含めて工程が煩雑で生産性が低く且つ寸法精度に問題があるばかりか、継目部の接合不良による製品欠陥が生じることは先に説明した通りである。現に、ガラス状炭素のみを構成素材とする中央拡径中空成形体で継目を有しないものは提案されていない。
【0018】
ところが本発明では、追って詳述する如く、ガラス状炭素の前駆体となる熱硬化性樹脂からなる中空成形体を成形する際に、アンダーカット部が存在する中子であっても、成形後にこの中子を成形体内部から簡単に抜き出す(脱型する)ことができ、それにより熱硬化樹脂からなる継目なしの中央拡径中空成形体が簡単に得られること、そしてこの中空成形体を常法で炭素化処理してやれば、ガラス状炭素のみからなる継目なしの中央拡径中空成形体が容易に得られることを知った。
【0019】
なお前掲の特許文献1には、熱溶融性素材からなるロッドを中子として用いてパイプを製造する方法が開示されている。ところがこの方法は、アンダーカット部が存在しないパイプの製造技術であって、本発明者らが意図する様な中央拡径中空成形体の製造までは意図していない。このことは、特許文献1の本文記載や図2などの図示例を含めて成形品はパイプのみであり、中子にしても、ロッド状のものしか示されていないことから明白である。
【0020】
従って本願に係る第1の発明は、上記特許文献1を含めて、これまでは製造されたことのないガラス状炭素のみからなる継目なしの中央拡径中空成形体そのものにあり、第2の発明は、こうした継目なし中央拡径中空成形体を工業的に効率よく製造することのできる方法である。
【0021】
即ち本発明の中央拡径中空成形体は、素材がガラス状炭素のみからなり、中空内部にアンダーカット部が存在するにも拘らず継目のない一体成形体であり、具体的な形状は、中空球状体が最も代表的なものであるが、これ以外にも、中空卵形体や中空縦長若しくは横長楕円体、不定形球状殻体、更には頂部側などが縮径された坩堝状容器や反応器など、更には上下方向に縮径した開口部を有する異型管状物などが包含され、それら外殻には1個又は2個以上の開口部を有するものであってもよい。これらの中央拡径中空成形体は、ガラス状炭素本来の特性を活かして、前述した如く高温・腐食環境下で用いられる充填材や伝熱媒体、超音波や高周波を利用した発熱体、更には耐熱容器や耐熱・耐食反応容器などとして有効に活用できる。
【0022】
次に本発明の製法は、上記中央拡径中空成形体を製造する有用な方法であって、基本構成は、中子を熱溶融性素材で形成することで、ガラス状炭素の前駆体となる熱硬化性樹脂の成形硬化時点では中子として成形体の内面側を規制する機能を果たし、キュアリング工程では溶融して成形体外部へ流出することで、成形体の内部にアンダーカット部が存在する場合でも支障なく脱型(流出)可能とし、その結果として継目なしの中央拡径中空成形体を製造可能にする。
【0023】
本発明において、中子を構成する熱溶融性素材としては、軟化点が70℃以上で200℃以下、より好ましくは90℃以上で150℃以下のものを使用することが望ましい。
【0024】
ちなみに、ガラス状炭素の前駆体となる熱硬化性樹脂は、種類によって様々の硬化温度を有しているが、殆どの場合、熱硬化開示温度は60℃程度以上であるので、中子素材の軟化温度が70℃未満の低温では注型成形工程で中子が変形し、内面側規制作用を失う恐れがあるからである。注型成形による熱硬化性樹脂のより一般的な硬化温度は80℃程度以上であることから、より好ましくは90℃以上の軟化温度の中子素材を使用するのがよい。なお注型成形に当っては、一気に100℃以上の温度に加熱すると、成形体内部に泡が生じたり亀裂を生じたりすることがあるので、通常は室温でキャビティ内へ液状樹脂を注入した後、徐々に昇温して硬化を徐々に進めるのがよい。
【0025】
一方、中子素材の好ましい軟化温度は200℃程度以下である。ちなみに、ガラス状炭素の製造工程では、熱硬化樹脂成形体を炭素化する前に、不活性雰囲気中もしくは空気中で成形体を200℃前後に加熱して樹脂を完全硬化(これを一般に“キュアリング”という)させるのが一般的であり、このキュアリング工程で中子が確実に溶融して成形体外へ流出させるには、中子素材の軟化温度を200℃以下にするのが好ましいからである。
【0026】
尚、熱硬化性樹脂のキュアリング工程では樹脂が少なからず収縮するので、中子が溶融する前にこの収縮が進むと、硬化樹脂成形体が割れたり亀裂を生じたりする恐れがある。従ってこうした問題を回避するには、樹脂成形体が硬化収縮を起こす前に溶融を開始することが望ましく、そのためには中子素材の軟化温度を180℃程度以下、より好ましくは160℃程度以下にするのがよい。
【0027】
こうした要件に合致する中子素材としては、次の様な熱溶融性素材が挙げられる。例えばポリスチレンやポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂、あるいは固形パラフィン(いわゆる“蝋”)、低融点金属(半田合金など)である。これらの中でも特に好ましいのは、低コストで且つ最終製品となるガラス状炭素成形体の内部に残渣が残らないポリスチレンやポリエチレンである。
【0028】
また中子は中空であることが望ましい。その理由は、熱硬化樹脂成形体が硬化収縮を起こす過程で中子も同時に収縮し、成形体にかかる応力(引張応力)を緩和する作用が期待できるからである。
【0029】
ガラス状炭素の原料としては、液状の熱硬化性樹脂が使用される。具体例としては、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられるが、それらの中でも、ガラス状炭素の強度や炭素収率などの観点から特に好ましいのはフェノール系樹脂である。フェノール系樹脂としては、レゾール型、ノボラック型の如何を問わず熱硬化性のものが使用され、用途によっては、フェノールの一部をクレゾールやキシレノール、ナフトールなどで置換したものであっても構わない。
【0030】
本発明で使用する上記液状熱硬化性樹脂は、硬化時における成形収縮率が3%以下のものが好ましく、より好ましくは2%未満のものである。ちなみに、成形収縮率が3%を超えると、中子の種類にもよるが、中子が軟化溶融するまでに熱硬化性樹脂の収縮によって成形体が割れをおこす恐れがあるからである。成形収縮率は小さければ小さいほど成形時の割れは起こり難くなるので、成形収縮率に下限は存在しない。
【0031】
尚ここで言う成形収縮率とは、下記の様に定義する。即ち、幅10mm、深さ10mm、長さ100mmの矩形溝を有するステンレス製金型に、液状熱硬化性樹脂を約5mmの深さまで充填し、80℃で72時間保持して硬化させた後、室温まで冷却してから成形体を脱型する。この成形体の長さ(L)と金型の長さ(L:100mm)から、下記式によって求められる変化率を成形収縮率とする。
変化率=(L−L)/L×100(%)
【0032】
成形収縮率が上記好適要件を満たす液状熱硬化性樹脂は、市販の樹脂から適宜選択して採用すればよい。また、市販樹脂の成形収縮率が大き過ぎる場合は、例えば1)加熱して硬化反応を進める、2)触媒の存在下で加熱して硬化反応を進める、3)液状樹脂に含まれる水や溶剤などの希釈成分を除去する、等によって成形収縮率を調整することも有効である。
【0033】
液状硬化性樹脂を用いた成形は、注型成形法によって行なわれる。所定の型内に液状樹脂を注ぎ込み、加熱あるいは紫外線照射などの手段で硬化させる方法である。この方法は、原料樹脂の充填に圧力を必要としないので中子が変形し難く、熱溶融性素材からなる中子を用いた成形に適しているからである。ちなみに、圧縮を伴うプレス成形では中子が変形してしまう。
【0034】
尚、金型内に熱溶融性素材からなる中子を保持する方法は特に制限されず、公知の方法、例えば成形体の開口部に相当する部分に中子を吊り下げる機構を設ける方法などを採用しても勿論構わないが、次に示す様な方法は、生産効率や品質を高める上で特に有効である。即ち、分割構造の外型(金型)の内空部中心に、それよりも小径の中子を成形体厚みに対応する隙間を空けて保持するため、該隙間と同じ厚さのスペーサを使用し、且つこのスペーサは、用いる液状熱硬化性樹脂と同質の素材からなる硬化成形体とする。形状は特に制限されないが、一般的なのはリング状、短冊状、ドーナツ状などである。
【0035】
この様なスペーサを使用すれば、注型成形工程でこのスペーサは注型成形体と一体化するので、該スペーサを取り除くことなくこれが一体化した注型成形体として脱型し、引き続いて炭素化処理することで、注型成形材料と共にガラス状炭素に変えればよい。この方法では、スペーサを中央拡径中空成形体の一部として合体させることが基本であるが、特に制限はない。
【0036】
注型成形後は、成形体を金型から脱型し、該成形体の適所に抜き穴を穿ってから逆様にし、中子形成素材の溶融温度以上に加熱して中子を溶融流出させることにより、ガラス状炭素の前駆体となる熱硬化樹脂製の中央拡径中空成形体を得る。そして、これを通常の方法で炭素化処理すれば、ガラス状炭素からなる継目なしの中央拡径中空成形体を得ることができる。炭素化条件は特に制限されないが、通常は不活性雰囲気中で1000℃以上の高温、一般的には1000〜2500℃で熱処理する方法が採用される。
【0037】
図1は、本発明を実施する際の代表的な工程説明図であり、2分割構造の金型1内に、図示していないスペーサを介して熱溶融性素材からなる中空構造の中子2を固定する。そして、金型1と中子2の間に形成される隙間(キャビティ)内に、金型頂部に設けた注入口3から液状熱硬化性樹脂を注入する。次いで所定温度に加熱して熱硬化性樹脂を硬化させた後、金型1から中子2と共に熱硬化樹脂成形体4を脱型する。その後、成形体4の適所に抜き穴5を穿ち、該抜き穴5を下方にして全体を中子構成素材の軟化流動温度以上に加熱することにより、中子2を溶融流出させると共に成形体4のキュアリングを進める。かくして得られる熱硬化樹脂成形体を不活性雰囲気下に加熱して炭素化すると、本発明の目的物であるガラス状炭素のみからなる継目なしの中央拡径中空成形体6が得られる。
【0038】
図2は、中子の位置決めに使用するスペーサの一例を示す断面説明図であり、熱硬化性樹脂からなる2個のリング状スペーサ7,7によって中空の中子2を金型1の内部中心部に位置決めした状態を示している。そして、この様なスペーサ7,7を用いて得られる熱硬化樹脂成形体、ひいてはこれを炭素化処理することによって得られるガラス状炭素成形体6の中には、該リング状スペーサ7,7が完全に一体化した状態で取り込まれることになる。
【実施例】
【0039】
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実験例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0040】
実験例
前記図1に示した工程図に準拠して下記の成形実験を行う。
【0041】
金型としては、内径30mmの球状キャビティを有し、上方に内径10mmの樹脂注入口が開口されたステンレス製金型(2つ割り)を用い、中子としては表1に示す種々の材質からなる外径25mm、肉厚1mmの中空球を用いて、これをステンレス製金型内の中心部に、後述するフェノール樹脂製のスペーサ(厚さ;2.5mm、外径;10mm、内径;6mmのリング状)を用いて芯合せをして固定する。
【0042】
尚、注型用の原料樹脂液は次の様にして調製する。即ち、市販の液状フェノール樹脂(群栄化学社製の商品名「PL−4804」に、触媒としてヘキサメチレンテトラミン:0.1質量%を加え、65℃で所定時間(表1に示す硬化時間)予備反応させて原料樹脂液とする。
【0043】
この原料樹脂液を、前記ステンレス製金型と中子の間にできる隙間(キャビティー)内に注入し、70℃で48時間保持して熱硬化させた後、金型から中子と共に脱型する。
【0044】
得られる球状のフェノール樹脂成形体に直径5mmの抜き穴をあけ、天地を逆様にして200℃で10時間加熱することにより、中子を構成する熱溶融性素材を溶融させて外部へ流出させると共に、キャビティ内のフェノール樹脂をキュアリングさせる。この加熱処理で、中子を構成する熱溶融性は全て溶融して外部へ流出し、中空球状のフェノール樹脂硬化成形体が得られる。
【0045】
上記方法に準拠し、中子を構成する熱溶融性素材の種類や軟化点、フェノール樹脂の硬化時間などを下記の様に種々変えて実験を行った。結果を表1に一括して示す。
【0046】
実験例1
中子素材として軟化点が約110℃のポリスチレン(Acros Organics社製の品番「17889−1A」)を使用し、フェノール樹脂の硬化時間を1時間とした以外は上記の条件で実験を行った。この実験で用いたフェノール樹脂の成形収縮率は5.5%であり、収縮率が大き過ぎるため注型成形体に割れが発生した。
【0047】
実験例2
中子素材として軟化点が約110℃のポリスチレン(同前)を使用し、フェノール樹脂の硬化時間を2時間とした以外は上記の条件で実験を行った。この実験で用いたフェノール樹脂の成形収縮率は3.5%であり、やはり収縮率が大き過ぎるため注型成形体をキュアリングする際には割れが発生した。
【0048】
実験例3
中子素材として軟化点が約110℃のポリスチレン(同前)を使用し、フェノール樹脂の硬化時間を2.5時間とした以外は上記の条件で実験を行った。この実験で用いたフェノール樹脂の成形収縮率は2.9%であり、注型成形体およびキュアリング体のいずれにも割れは観察できなかった。
【0049】
実験例4
中子素材として軟化点が約110℃のポリスチレン(同前)を使用し、フェノール樹脂の硬化時間を3時間とした以外は上記の条件で実験を行った。この実験で用いたフェノール樹脂の成形収縮率は1.9%であり、注型成形体およびキュアリング体のいずれにも割れは観察できなかった。
【0050】
実験例5
中子素材として軟化点が68〜70℃の固形パラフィン(関東化学社製の品番「32513−02」)を使用した以外は、上記実験例4と同じ条件で実験を行った。用いたフェノール樹脂の成形収縮率は上記と同様に1.9%であり、注型成形体およびキュアリング体のいずれにも割れば観察できなかった。
【0051】
実験例6
中子素材として軟化点が64〜66℃の固形パラフィン(関東化学社製の品番「32511−02」)を使用した以外は、上記実験例4と同じ条件で実験を行ったところ、中子を構成する樹脂の軟化点が低過ぎるため、注型成形時に中子が変形し、希望通りの内面形状の中空成形体を得ることができなかった。
【0052】
実験例7
中子素材として軟化点が130〜145℃のポリエチレン(Acros Organics社製の品番「17850−1A」)を使用した以外は、前記実験例4と同じ条件で実験を行った。その結果、フェノール樹脂硬化成形体およびキュアリング体のいずれにも割れは観察できなかった。
【0053】
実験例8
中子素材として軟化点が約190℃のポリカーボネート(Acros Organics社製の品番「17831−1A」)を使用した以外は、上記実験例7と同じ条件で実験を行った。その結果、フェノール樹脂硬化成形体およびキュアリング体のいずれにも割れは観察できなかった。
【0054】
実験例9
中子素材として軟化点が約220℃のナイロン−66(Acros Organics社製の品番「17792−1A」)を使用した以外は、上記実験例8と同じ条件で実験を行った。その結果、中子の軟化点が高過ぎるためか、フェノール樹脂硬化成形体をキュアリングする過程で、中子が溶融流出する前に成形体に割れが生じた。
【0055】
[ガラス状炭素製中空球状成形体の製造]
前記実験例4,5,7,8で得た各キュアリング体を電気炉内へ装入し、窒素ガス雰囲気下に1000℃で5時間熱処理して炭素化させた。得られた炭素化物は、外径が25mm、肉厚が2mmで、割れなどの欠陥のない継目なしの中空球状のガラス質炭素製成形体であった。
【0056】
【表1】

【0057】
実験例10
前記実験例4で用いたのと同じフェノール樹脂を用いて厚さ2mmの板状硬化成形体を作製し、この成形体から外径24mm、内径21mm、厚さ2mmのリング状成形体を切り出し、スペーサとして使用する。尚このスペーサには内外周の一部に凹部を形成し、注型用樹脂を注入する際の流路とした。
【0058】
前記実験例4で用いたのと同じ、軟化点が約110℃のポリスチレン製中空中子(肉厚1mm)を使用し、上記で得た2個のスペーサを用いてステンレス製金型内に該ポリスチレン製中空中子を芯合せして位置決め固定する(図3参照)。
【0059】
次いで、金型の頂部に開口した注入孔から上記と同じ液状フェノール樹脂を注入し、70℃で20時間保持して熱硬化させた後、硬化成形体を金型から取り出す。その後、硬化成形体に直径5mmの抜き穴を開け、天地を逆様にして200℃で10時間加熱することによりキュアリングさせた。この加熱により、中子を構成するポリスチレンは成形体の外部へほぼ完全に流出すると共に、スペーサはフェノール樹脂硬化成形体と完全に一体化した。
【0060】
得られた中空球状のフェノール樹脂硬化成形体を電気炉内へ装入し、窒素ガス雰囲気下に1000℃で5時間熱処理して炭素化すると、外径が25mm、肉厚が2mmで、割れなどの欠陥のない継目なしの中空球状のガラス状炭素成形体が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の製法を例示する概略工程説明図である。
【図2】本発明を実施する際に好ましく採用されるスペーサとその配置例を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 分割金型
2 熱溶融性中子
3 注入孔
4 熱硬化性樹脂
5 抜き穴
6 ガラス状炭素中空成形体
7 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス状炭素のみからなり、中央部が拡径した中空形状を有し、継目を有しないことを特徴とする炭素質中空成形体。
【請求項2】
上記請求項1に記載の中空成形体を製造する方法であって、外型と熱溶融性素材からなる中子との間に形成されるキャビティ内に液状の熱硬化性樹脂を注入し、中央部が拡径した中空形状で継目を有しない熱硬化樹脂成形体を得る注型成形工程、該注型成形工程の後に、中子を構成する熱溶融性素材を加熱して溶融流出させる中子流出工程、得られた熱硬化樹脂成形体を炭素化する炭素化工程、を含むことを特徴とする請求項1に記載の炭素質中空成形体の製法。
【請求項3】
前記中子の構成素材として軟化点が70℃以上、200℃以下の熱溶融性素材を使用する請求項2に記載の製法。
【請求項4】
前記注型成形工程で、外型内に中子を位置決めするために用いるスペーサの素材として、前記熱硬化性樹脂と同質の熱硬化性樹脂で成形したスペーサを使用し、該スペーサを注型成形体と合体させたままで炭素化を行う、請求項2または3に記載の製法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−210858(P2007−210858A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34340(P2006−34340)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】