説明

炭酸ガスインジェクション用部材向けCr含有鋼管

【課題】耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた鋼管を提供する。
【解決手段】mass%で、C:0.05%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.10〜1.80%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:14.0〜18.0%、Cu:2.0%以下、Ni:2.5〜6.5%、Mo:0.5〜3.0%、Al:0.05%以下、N:0.15%以下、あるいはさらにNb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.20%以下、W:2.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、Cr+3.2Mo+1.6W+0.5Ni+0.3Cu+3N−20C≧22.5を満足するように調整して含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼管とする。なお、Caを含有してもよい。これにより、高圧炭酸ガス環境下における耐高圧炭酸ガス腐食性に優れる鋼管となり、炭酸ガスインジェクション用部材向けとして好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスインジェクション(炭酸ガス注入)用部材向け素材として好適な、Cr含有鋼管に係り、とくに180℃以下の温度で、かつ5〜100MPa(50超〜1000気圧)という高い分圧の超臨界圧炭酸ガスを含む厳しい腐食環境下での使用が可能な、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れたCr含有鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の炭酸ガスの増加が地球の温暖化に繋がるという考えから、地球環境の保全のために、炭酸ガス排出量の削減が叫ばれている。そして最近では、排出された炭酸ガスを、海洋や、使用済みの油井、岩塩の廃坑等の地中に注入し、貯留(貯蔵)することが検討されている。炭酸ガスの地中への注入は、単なる貯留(貯蔵)以外にも、原油の回収率向上や、石灰層からのメタンガス回収など、石油や天然ガスの回収のために利用が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、投棄二酸化炭素を熱源とする天然ガス採取方法が提案されている。特許文献1に記載された技術は、海底または永久凍土域に存在する天然ガスハイドレイト層に投棄二酸化炭素を圧入し、投棄二酸化炭素をガスハイドレイトとして固定するとともに、二酸化炭素の顕熱および潜熱により天然ガスハイドレイトから天然ガスを解離させて採取する方法である。
【0004】
地中への炭酸ガスの注入は、いずれにしろ、その目的から少なくとも1000mを超える深い位置までの注入を必要とすることが多く、炭酸ガスを高圧にして注入することになる。単純に乾燥した炭酸ガスを注入するだけであれば、たとえ高圧であっても腐食の問題は生じないが、操業条件の変化等により結露が生じる場合がある。このような場合には、高圧の炭酸ガスの存在により激しい炭酸ガス腐食が生じるという問題がある。
【0005】
通常、原油や天然ガスの採掘する坑井では、油井管として13Cr系鋼管が主として使用されている。しかし、このような坑井では、含まれる炭酸ガスの分圧で表示すれば、高々5MPa程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−25986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭酸ガスの地中への注入に際しては、10MPaを超える高圧の炭酸ガスが使用される。例えば現状で油井管として使用されている13Cr系鋼管を、炭酸ガス注入用の圧入管として利用すると、高圧の炭酸ガスによる圧入管の腐食が大きな問題となることが推察できる。またさらに、地中へ注入する炭酸ガスとしては、例えば発電所、プラントから発生するガスがある。これらのガスには、不純物として少量の酸素、SOX、NOが含まれる場合がある。不純物として含まれる酸素は、直接、腐食反応に寄与するが、とくに、炭酸ガスと共存すると、圧入管等の激しい腐食を引き起こす。また、不純物として含まれるSOX、NOは、水に溶けてpHを低下させ、圧入管等の腐食を促進することが考えられる。
【0008】
このようなことから、不純物として、上記したような酸素、SOX、NOを少量含み、高分圧の炭酸ガスを含む、ガス(気体)を地中にインジェクションする場合に、圧入管として、現状で油井管として使用されているような13Cr系鋼管を利用すると、孔食や激しい全面腐食が引き起こされることが推定される。このため、炭酸ガスインジェクション部材用として、不純物として酸素、SOX、NO等を含む高圧炭酸ガス環境下でも、耐腐食性、すなわち耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた鋼管が熱望されていた。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、温度が180℃以下で、高い炭酸ガス分圧の雰囲気中でも使用可能な、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた鋼管を提供することを目的とする。ここでいう「耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた」とは、温度が180℃以下で、炭酸ガス分圧が5MPa超え、好ましくは10MPa以上である高い炭酸ガス分圧を有し、さらに不純物として酸素、SOX、NOを少量含む、高圧炭酸ガス雰囲気中での耐腐食性に優れることを意味する。なお、ここでいう「高圧炭酸ガス雰囲気」は、炭酸ガスに加えて、mass%で0.2%以下の酸素、および、合計で0.2%以下のSOおよびNOを含み、さらに地中に岩塩等が存在することを考慮して、濃度:10〜120000mass ppm程度の塩素イオン[Cl]を含むものとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、13Cr系Cr含有鋼管の組成を基準として、高圧の炭酸ガスを含みかつ塩素イオン、さらに酸素、SOおよびNOを少量含む雰囲気下で、耐食性に及ぼす合金元素の種類およびその含有量について鋭意研究した。
その結果、Cr含有鋼管の組成を、C含有量が0.05mass%以下となる低C系で、Cr含有量を14.0%以上と高めとし、かつMo、Ni、Cuを必須含有させ、さらにCr,Ni,Mo,Cu,C,NあるいはさらにWの含有量を、特定の関係式を満足するように、調整することにより、炭酸ガス分圧が5MPa以上で、かつ不純物として酸素、SOおよびNOを含む、あるいはさらに塩素イオンを含む、非常に苛酷な高圧炭酸ガス腐食雰囲気下においてもなお、優れた耐腐食性(耐高圧炭酸ガス腐食性)を有し、炭酸ガスインジェクション用部材向け素材として好適な鋼管となることを見出した。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)mass%で、C:0.05%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.10〜1.80%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:14.0〜18.0%、Cu:2.0%以下、Ni:2.5〜6.5%、Mo:0.5〜3.0%、Al:0.05%以下、N:0.15%以下を、次(1)式
Cr+3.2Mo+1.6W+0.5Ni+0.3Cu+3N−20C ≧ 22.5 ‥‥(1)
(ここで、Cr、Mo 、W、Ni、Cu、N、C:各合金元素の含有量(mass%))
を満足するように調整して含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、炭酸ガス分圧:5MPa以上の炭酸ガスと、mass%で0.2%以下の酸素、および、合計で0.2%以下のSOおよびNOを含む、高圧炭酸ガス環境下における耐高圧炭酸ガス腐食性に優れることを特徴とする炭酸ガスインジェクション用部材向けCr含有鋼管。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.20%以下、W:2.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とするCr含有鋼管。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有する組成とすることを特徴とするCr含有鋼管。
(4)(1)ないし(3)のいずれかに記載のCr含有鋼管を使用してなる炭酸ガスインジェクション用部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度が180℃以下で、5MPa以上、好ましくは10MPa以上の高い炭酸ガス分圧と、さらに、0.2mass%以下の酸素、および、合計で0.2mass%以下のSOおよびNOを含む、あるいはさらに塩素イオン濃度が0〜120,000mass ppmを含む、高温の厳しい腐食雰囲気中でも使用可能な、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れたCr含有鋼管を、容易にしかも安価に製造でき産業上格段の効果を奏する。また、本発明になるCr含有鋼管は、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れ、炭酸ガスインジェクション(炭酸ガス圧入)用部材として好適であり、また本発明によれば、熱間加工性にも優れ、通常の製造工程を変更することなく、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた鋼管を製造できるという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明のCr含有鋼管の組成限定理由について説明する。なお、以下、mass%は、とくに断わらない限り単に%で記す。
C:0.05%以下
Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために本発明では、0.005%以上含有することが望ましいが、0.05%を超える含有は、Cr、Mo等と炭化物を形成し耐食性を低下させる。とくに、高温の使用雰囲気ではこの傾向が強くなる。このため、本発明ではCは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは、0.01〜0.04%である。
【0014】
Si:0.50%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.10%以上含有することが望ましいが、0.50%を超える含有は、耐炭酸ガス腐食性を低下させるとともに、熱間加工性をも低下させる。このため、Siは0.50%以下に限定した。なお、好ましくは0.35%以下である。
【0015】
Mn:0.10〜1.80%
Mnは、鋼の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために本発明では、0.10%以上含有する。一方、1.80%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.10〜1.80%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.20〜1.0%である。
P:0.03%以下
Pは、耐食性、とくに耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性をともに劣化させる元素であり、可能なかぎり低減することが望ましいが、極端な低減は製造コストの高騰を招く。このため、本発明では、工業的に実施可能な範囲でかつ安価で、しかも耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性、耐孔食性、耐硫化物応力腐食割れ性を劣化させない範囲である、0.03%をPの上限値とした。なお、好ましくは0.01%以下である。
【0016】
S:0.005%以下
Sは、熱間加工性を著しく低下させる元素であり、可能なかぎり低減することが望ましいが、0.005%以下に低減すれば通常工程での鋼管の製造が可能であることから、0.005%をSの上限値とした。なお、好ましくは0.003%以下である。
Cr:14.0〜18.0%
Crは、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、とくに耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性、耐孔食性を保持するために必要な元素である。このような効果を得るためには14.0%以上の含有を必要とする。一方、18.0%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、Crは14.0〜18.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは14.5〜17.5%である。
【0017】
Cu:2.0%以下
Cuは、保護皮膜を強固にして、鋼中への水素の侵入を抑制し、耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる元素である。上記した効果を確保するためには、0.05%以上含有することが望ましいが、2.0%を超えて含有すると、高温でCuSが結晶粒界に析出し、熱間加工性が低下する。このため、含有する場合には、Cuは2.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.5〜1.5%である。
【0018】
Ni:2.5〜6.5%
Niは、保護皮膜を強固にして、耐食性、とくに耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには、2.5%以上含有する必要がある。一方、6.5%を超えて含有すると、オーステナイトが安定化し、強度が低下する。このため、Niは2.5〜6.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは3.0〜6.5%である。
【0019】
Mo:0.5〜3.0%
Moは、耐食性、とくに耐孔食性を向上させる元素であり、高温、高塩素イオン環境下での耐食性向上に大きく寄与する。このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、3.0%を超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果を期待できなくなり経済的に不利となる。このため、Moは0.5〜3.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.0〜3.0%である。
【0020】
Al:0.05%以下
Alは、強力な脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、Alを0.005%以上含有することが望ましいが、0.05%を超えて含有すると、靭性が低下する場合がある。このため、Alは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは0.005〜0.03%である。
【0021】
N:0.15%以下
Nは、耐孔食性を著しく向上させる作用を有する元素であり、本発明では0.005%以上含有することが望ましい。一方、0.15%を超えて含有すると、種々の窒化物を形成し、靭性を低下させる。このため、Nは0.15%以下に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.07%である。
【0022】
上記した成分が基本の組成であるが、必要に応じて選択元素として、上記した基本組成に加えてさらに、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.20%以下、W:2.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0005〜0.01%を含有することができる。
Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.20%以下、W:2.5%以下の1種または2種以上
Nb、V、Ti、Wはいずれも、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じ1種または2種以上選択して含有できる。
【0023】
Nbは、鋼の強度を増加させ、さらに耐応力腐食割れ性を改善する作用を有する元素であり、このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.20%を超える含有は靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Nbは0.20%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.02〜0.12%である。
Vは、鋼の強度を増加させる作用を有するとともに、耐応力腐食割れ性を改善させる作用をも有する。このような効果を得るためには0.02%以上含有することが望ましいが、0.20%を超える含有は靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Vは0.20%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.02〜0.12%である。
【0024】
Tiは、鋼の強度を増加させ、さらに耐応力腐食割れ性を改善する作用を有する元素であり、このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.20%を超える含有は靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Tiは0.20%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.12%である。
Wは、鋼の強度を増加させ、さらにMoと同様に、耐食性、とくに耐孔食性を改善する作用を有する元素であり、とくにMoと共存させることにより、高塩素イオンの環境下で耐食性向上に大きな効果がある。このような効果を得るためには0.3%以上含有することが望ましいが、2.5%を超える含有は熱間加工性、靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Wは2.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.5〜2.0%である。
【0025】
Ca:0.0005〜0.01%
Caは、Sと結合して、SをCaSとして固定するとともに、硫化物系介在物の形態を球状化し、介在物の周辺のマトリックスの格子歪を減少させて、水素のトラップ能を低下させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.01%を超えて含有すると、CaOの増加を招き、耐炭酸ガス腐食性、耐孔食性が低下する。このため、含有する場合には、Caは0.0005〜0.01%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.001〜0.005%である。
【0026】
また、本発明では、Cr、Mo、W、Ni、Cu、N、Cの含有量を、上記した含有範囲でかつ、次(1)式
Cr+3.2Mo+1.6W+0.5Ni+0.3Cu+3N−20C ≧ 22.5 ‥‥(1)
(ここで、Cr、Mo 、W、Ni、Cu、N、C:各合金元素の含有量(mass%))
を満足するように調整する。なお、(1)式を計算するにあたり、選択元素であるWは、含有しない場合には(1)式中のW含有量を零として計算するものとする。
【0027】
酸素を含んだ高温高圧炭酸ガス雰囲気では、鋼材に孔食が発生しやすくなる。またさらに、環境中にSOおよびNOを含むと、環境中のpHが低下し、鋼材の腐食が促進される。このような環境下では、(1)式を満足するように、Cr、Mo、W、Ni、Cu、N、Cの含有量を調整することにより、孔食の発生や、激しい全面腐食の発生を防止することができる。上記した成分範囲を満足していても(1)式を満足できない場合には、耐高圧炭酸ガス腐食性が低下する。
【0028】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、O:0.006%以下が許容できる。
上記した組成を有するCr含有鋼管は、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れることから、高圧の炭酸ガスを注入する炭酸ガスインジェクション用部材として好適であり、炭酸ガスインジェクション用圧入管等に適用しても、激しい炭酸ガス腐食を生じることなく使用が可能となり、炭酸ガスインジェクション用部材の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0029】
本発明鋼管は、上記した組成を有すれば、継目無鋼管、溶接鋼管のいずれもが好適である。
つぎに、本発明鋼管の好ましい製造方法について説明する。
まず、上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊圧延等の常用の方法でスラブ、ビレット等の鋼素材とすることが好ましい。
【0030】
ついで、鋼素材を加熱し、常用の製造工程を用いて熱間加工して、さらに造管して所望の寸法を有する鋼管とする。継目無鋼管であれば、加熱された鋼素材を、常用の、マンネスマン−プラグミル方式あるいはマンネスマン−マンドレルミル方式の製造工程を用いて、熱間加工、造管して所望寸法の継目無鋼管とする。
得られた鋼管は、さらに焼戻処理、あるいは焼入れ−焼戻処理を施すことが好ましい。焼入れ処理は、800℃以上の温度に再加熱し、該温度に好ましくは5min以上保持したのち、空冷以上の冷却速度で、200℃以下、好ましくは室温まで冷却することが好ましい。焼入れ処理の加熱温度が800℃未満では、十分な焼入れ組織(マルテンサイト組織)とすることができないため、所望の強度を確保できない場合がある。
【0031】
また、焼戻処理は、Ac1変態点以下の温度に加熱し、冷却する処理とすることが好ましい。焼戻処理を行うことにより、所望の強度を確保できる。
なお、本発明の鋼管は、S、Si、Al、さらにはOを著しく低減した組成としているため、通常の製造工程を変更することなく製造できるという利点もある。
以下、さらに実施例に基づいて本発明について説明する。
【実施例】
【0032】
表1に示す組成の溶鋼を真空溶解炉で溶製し、さらに脱ガス処理を施したのち、100キロ鋼塊とした。ついで、これら鋼塊を加熱し、研究用モデルシームレス圧延機により、外径3.3 in.×肉厚0.5in.の継目無鋼管とした。
得られた鋼管から、試験用素材を切り出し、該試験用素材に、焼入れ焼戻処理を施した。なお、焼入れ処理は、900℃×20min加熱・保持した後、水冷(水焼入れ)する処理とし、焼戻処理は、600℃×30min加熱・保持したのち空冷する処理とした。
【0033】
得られた試験用素材から、試験片を採取し、腐食試験、引張試験を実施した。試験方法は次のとおりである。
(1)腐食試験
得られた試験用素材から、腐食試験片(大きさ:板厚3mm×25mm×50mm)を採取し、腐食試験を実施した。腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:10%NaCl水溶液(液温:150℃、炭酸ガス分圧:20MPa、酸素濃度:0.2mass%、SO:0.1mass%、NO:0.1mass%のガス雰囲気) 中に、腐食試験片を浸漬し、浸漬期間を2週間として実施した。腐食試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から計算した腐食速度を求めた。また、試験後の腐食試験片について倍率:10倍のルーペを用いて試験片表面の孔食発生の有無を観察した。なお、孔食が発生せず、腐食速度が0.127mm/y以下の場合を耐高圧炭酸ガス腐食性に優れるとした。
(2)引張試験
得られた試験用素材から、API 弧状引張試験片を採取し、引張試験を実施し引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
【0034】
得られた結果を表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
本発明例はいずれも、高温で、高い炭酸ガス分圧で不純物として酸素、SO、NOを含む腐食環境下においても、耐食性(耐高圧炭酸ガス腐食性)に優れた鋼管であり、炭酸ガスインジェクション用部材向けとして好適に使用しうることがわかる。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、腐食速度が大きく、また孔食も発生し耐食性が低下して、所望の耐高圧炭酸ガス腐食性を確保できていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
mass%で、
C:0.05%以下、 Si:0.50%以下、
Mn:0.10〜1.80%、 P:0.03%以下、
S:0.005%以下、 Cr:14.0〜18.0%、
Cu:2.0%以下、 Ni:2.5〜6.5%、
Mo:0.5〜3.0%、 Al:0.05%以下、
N:0.15%以下
を、下記(1)式を満足するように調整して含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、炭酸ガス分圧:5MPa以上の炭酸ガスと、mass%で0.2%以下の酸素、および、合計で0.2%以下のSOおよびNOを含む、高圧炭酸ガス環境下における耐高圧炭酸ガス腐食性に優れることを特徴とする炭酸ガスインジェクション用部材向けCr含有鋼管。

Cr+3.2Mo+1.6W+0.5Ni+0.3Cu+3N−20C ≧ 22.5 ‥‥(1)
ここで、Cr、Mo 、W、Ni、Cu、N、C:各合金元素の含有量(mass%)、
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.20%以下、W:2.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載のCr含有鋼管。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載のCr含有鋼管。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のCr含有鋼管を使用してなる炭酸ガスインジェクション用部材。

【公開番号】特開2011−252222(P2011−252222A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128752(P2010−128752)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】