説明

炭酸ガス分離膜

【課題】CO2透過係数及びCO2/H2透過係数比に優れる炭酸ガス分離膜を提供する。
【解決手段】イオン液体とイオン液体を担持する多孔質支持体とを含む液膜が二つの封止膜によって挟まれた構造を有し、イオン液体が特定のイミダゾリウムカチオン、第4級アンモニウムカチオン及び第4級ホスホニウムカチオンから選ばれる少なくとも一種のカチオンと、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、プロリン、2−アミノ酪酸、2−アミノイソ酪酸、2−アミノシクロペンタンカルボン酸及び4−アミノ酪酸から選ばれる少なくとも一種のアミノ酸のアミノカルボン酸アニオンとの組合せからなる、炭酸ガス分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と炭酸ガスを主とする混合ガスから炭酸ガスを選択的に回収するために用いることができる炭酸ガス分離膜の製造方法および利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は将来のエネルギー媒体として期待され、製造、貯蔵・輸送、利用など広い技術分野において活発な研究開発が行われている。水素をエネルギー媒体として用いる利点としては、高いエネルギー利用効率の他、燃焼後の排出物が水だけであることが挙げられる。
【0003】
現状一次エネルギーの約80%は石油、石炭、天然ガスなど化石燃料で占められ、今後再生可能エネルギーの利用増などにより漸減するにしてもその割合は高いまま推移すると予想されている。従って水素の製造において、一次エネルギー源として化石燃料を原料とするルートの重要性は当面下がることはないと言える。
【0004】
しかし、化石燃料のように炭素を含有する燃料を用いて水素を製造する場合、炭酸ガスが排出される。
【0005】
地球温暖化を防止する上で炭酸ガスの排出削減は喫緊の課題と言われている。このような状況の中で、化石燃料から水素を製造する際に副生する炭酸ガスを分離・回収する技術は炭酸ガス排出削減と水素社会の早期実現を両立させるものとして重要であると考えられている。
【0006】
消費エネルギーが小さい炭酸ガス分離技術として、膜分離技術が知られている。特に、水素と二酸化炭素との分離に適した膜として、促進輸送膜が知られている。
【0007】
特許文献1には促進輸送膜を用いて炭酸ガスおよび水素が含まれるガスから炭酸ガスを分離する方法が記載されている。
【0008】
特許文献2にはCO2透過型メンブレンリアクターに適用可能な促進輸送膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−54710号公報
【特許文献2】特開2008−36463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、二酸化炭素をさらに選択的に分離するために、よりいっそう二酸化炭素/水素透過係数比αが高い分離膜が求められている。
【0011】
本発明の目的は、良好な炭酸ガス透過係数を有しつつ、二酸化炭素/水素透過係数比αが改善された炭酸ガス分離膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により、
水素ガスと炭酸ガスを含む混合ガスから、炭酸ガスを分離するための炭酸ガス分離膜であって、
イオン液体と該イオン液体を担持する多孔質支持体とを含む液膜が、二つの封止膜によって挟まれた構造を有し、
前記イオン液体が、
式Iで表されるイミダゾリウムカチオン、式IIで表される第4級アンモニウムカチオンおよび式IIIで表される第4級ホスホニウムカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種のカチオンと、
【0013】
【化1】

【0014】
(ここで、R1およびR3はそれぞれ独立して、いずれも炭素数1〜6であって直鎖状または分岐数が1もしくは2の分岐状の、アルキル基、アミノアルキル基、アリル基、ヒドロキシアルキル基、アミノヒドロキシアルキル基またはエーテル基を表し、
2はHまたは炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0015】
【化2】

【0016】
(ここで、R4、R5、R6およびR7はそれぞれ独立して、いずれも炭素数1〜6であって直鎖状または分岐数が1もしくは2の分岐状の、アルキル基、アミノアルキル基、アリル基、ヒドロキシアルキル基、アミノヒドロキシアルキル基またはエーテル基を表す。)
【0017】
【化3】

【0018】
(ここで、R8、R9、R10およびR11はそれぞれ独立して、いずれも炭素数1〜6であって直鎖状または分岐数が1もしくは2の分岐状の、アルキル基、アミノアルキル基、アリル基、ヒドロキシアルキル基、アミノヒドロキシアルキル基またはエーテル基を表す。)
グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、プロリン、
2−アミノ酪酸、2−アミノイソ酪酸、2−アミノシクロペンタンカルボン酸、および
4−アミノ酪酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のアミノ酸のアミノカルボン酸アニオンと
の組合せからなる
炭酸ガス分離膜が提供される。
【0019】
前記イミダゾリウムカチオンが、式IV〜式VIIでそれぞれ表されるカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
【0020】
【化4】

【0021】
(ここでR2はHまたはメチル基を表す。)
【0022】
【化5】

【0023】
(ここでR2はHまたはメチル基を表す。)
【0024】
【化6】

【0025】
(ここでR2はHまたはメチル基を表し、nは1または2である。)
【0026】
【化7】

【0027】
(ここでR2はHまたはメチル基を表し、nは1または2である。)
前記第4級ホスホニウムカチオンが、式VIIIおよび式IXでそれぞれ表されるカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種である
【0028】
【化8】

【0029】
(ここでBuはn−ブチル基を表す。)
【0030】
【化9】

【0031】
(ここでEtはエチル基を表す。)
ことが好ましい。
【0032】
前記封止膜が、ポリジメチルシロキサン膜、ポリトリメチルシリルプロピン膜、ポリジフェニルアセチレン膜、ポリテトラフルオロエチレン膜またはセラミックス膜であることが好ましい。
【0033】
前記多孔質支持体が、ポリフッ化ビニリデン膜、銀メンブレンフィルター、ポリテトラフルオロエチレン膜、ガラス繊維ろ紙またはセラミックス膜であることが好ましい。
【0034】
前記液膜が、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリジフェニルアセチレンおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも一種の高分子化合物と前記イオン液体とからなるゲルが多孔質支持体に担持された液膜であることが好ましい。
【0035】
供給ガスの温度27℃、供給ガスの炭酸ガス分圧0.0049MPa、供給ガスの全圧0.1MPa、透過側の全圧0.003MPa、供給ガスの相対湿度80%のとき、水素透過係数に対する炭酸ガス透過係数の比αが250以上であり、かつ炭酸ガス透過係数が1.0×10-10mol−CO2×m/m2/s/kPa以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、良好な炭酸ガス透過係数を有しつつ、二酸化炭素/水素透過係数比αが改善された炭酸ガス分離膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の炭酸ガス分離膜の一例を示す模式図である。
【図2】炭酸ガス分離膜評価装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
特に断らない限り本明細書では圧力は絶対圧力を意味し、ガス組成に係る%は水蒸気を除外して計算したモル%を意味する。
【0039】
本発明の炭酸ガス分離膜においては、液膜が、アニオンにアミノ酸由来のアミノカルボン酸アニオンを用いたイオン液体を含む。このようなイオン液体を多孔質支持体に含浸・担持させることにより、液膜を調製することができる。
【0040】
本発明の炭酸ガス分離膜は、促進輸送膜の一種である。
【0041】
本発明の炭酸ガス分離膜は、例えば、含炭素燃料から製造した水素および二酸化炭素を含む混合ガスから炭酸ガスを主成分とするガスを得るために好適に用いることができる。
【0042】
本発明の炭酸ガス分離膜の一形態の概略を図1に示す。炭酸ガス分離膜は、液膜1と、二つの封止膜2−1および2−2を有する。液膜は、封止膜2−1と封止膜2−2とによって挟まれる。
【0043】
液膜は、多孔質支持体1aとイオン液体1bとを有し、イオン液体は多孔質支持体に担持される。
【0044】
〔イオン液体〕
イオン液体はカチオンとアニオンとの組合せからなる化合物である。
【0045】
カチオンには、式Iで表されるイミダゾリウムカチオン、式IIで表される第4級アンモニウムカチオンおよび式IIIで表される第4級ホスホニウムカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種のカチオンを用いる。
【0046】
アニオンには、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、プロリン(以上天然のL−α−アミノ酸として知られるアミノ酸);
2−アミノ酪酸、2−アミノイソ酪酸、2−アミノシクロペンタンカルボン酸(以上非天然のα−アミノ酸として知られるアミノ酸);および
4−アミノ酪酸(その他のアミノ酸)
から選ばれる少なくとも一種のアミノ酸のアミノカルボン酸アニオンを用いる。
【0047】
耐熱性の観点から好ましくは、イミダゾリウムカチオンが式IV〜式VIIでそれぞれ表されるカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、第4級ホスホニウムカチオンが、式VIIIおよび式IXでそれぞれ表されるカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0048】
なお、膜の耐熱性としては、5%熱重量減少温度が150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。5%熱重量減少温度は、試料を120℃で6時間乾燥させた後、熱重量測定装置(島津製作所製、商品名:TGA−50)で50℃から5℃/分で昇温したときに、初期質量の5質量%だけ質量が減少したときの温度である。
【0049】
〔封止膜〕
封止膜としては炭酸ガス分離用の促進輸送膜の分野で公知の封止膜の中から適宜選んで使用できる。
【0050】
封止膜2は液膜1のイオン液体1bが外部に漏れ出さないために用いているものであり、耐熱性かつ疎水性であることが好ましい。
【0051】
また封止膜がCO2を通しやすいことが好ましく、CO2透過係数が1.0×10-6mol−CO2×m/m2/s/kPa以上であることが望ましい。
【0052】
このような耐熱性・疎水性およびCO2透過性能の観点から、封止膜が、ポリジメチルシロキサン膜、ポリトリメチルシリルプロピン膜、ポリジフェニルアセチレン膜、疎水性ポリテトラフルオロエチレン膜およびセラミックス膜のいずれかであることが好ましい。
【0053】
〔多孔質支持体〕
多孔質支持体としては、炭酸ガス分離用の促進輸送膜の分野で公知の多孔質支持体の中から適宜選んで使用できる。
【0054】
多孔質支持体1aは、イオン液体1bを孔内部に保持し液膜を形成するために用いるものであり、耐熱性かつ親水性であり、厚さ35μm以上150μm以下、空隙率が30%から70%であることが好ましく、細孔径が0.1μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0055】
そのため耐熱性・親水性・厚さ・開孔率・細孔径の観点から、多孔質支持体が、ポリフッ化ビニリデン膜、銀メンブレンフィルター、親水性ポリテトラフルオロエチレン膜、ガラス繊維ろ紙、セラミックス膜のいずれかであることが好ましい。
【0056】
細孔径の測定方法としてはバブルポイント法による測定が知られている。
【0057】
〔膜の利用条件と性能〕
膜の分離性能の観点から、炭酸ガス分離膜に供給するガスの全圧は0.1MPa以上2MPa以下が好ましい。透過側のガス全圧は供給ガスの炭酸ガス分圧よりも低く、0.001MPa以上1.5MPa以下が好ましく、より好ましくは0.001MPa〜0.1MPaの範囲が好ましい。さらに分離性能を向上させるためには、供給ガス温度20℃以上200℃以下、供給ガス中の炭酸ガス分圧0.0049MPa以上1.5MPa以下、供給ガスの相対湿度50%以上100%以下、が好ましい。
【0058】
本発明により、これらを満たす供給ガスの温度が27℃、供給ガスの炭酸ガス分圧が0.0049MPa、供給ガスの全圧が0.1MPa、透過ガスの全圧が0.003MPa、供給ガスの相対湿度が80%の条件下で、炭酸ガス透過係数が1.0×10-10mol−CO2×m/m2/s/kPa以上であり、水素透過係数に対する炭酸ガス透過係数の比αが250以上である炭酸ガス分離膜を得ることができる。
【0059】
〔イオン液体の合成〕
イオン液体は、公知の方法によって合成することができ、例えばOhno et al.,J.Am.Chem.Soc.,2005,127,2398−2399に記載の方法を利用して合成することができる。
【0060】
アミノ酸をアニオンとするイオン液体の代表的な合成法として、実施例1に例示する方法が収率の観点から好ましい。
【0061】
〔液膜の調製〕
イオン液体を多孔質支持体に含浸させ液膜1を作成することができる。イオン液体は液体のまま多孔質支持体に担持されてもよいが、イオン液体をゲル化して用いることもできる。液膜として、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリジフェニルアセチレンおよび疎水性ポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも一種の高分子化合物と前記イオン液体とからなるゲルが多孔質支持体に担持された液膜を用いることもできる。
【0062】
このようにゲル膜化することによって、封止膜がなくてもイオン液体をゲル膜中に保持することができるため封止膜を必要とせず、膜全体の厚さを低減することによりガス透過量を増やすことができる。
【0063】
どのような素材を用いる場合にも炭酸ガス分離膜の形状には特に制限はなく、板状、筒状、中空糸状など任意の形状を選択することができる。
【0064】
〔膜性能〕
本発明では、アニオンに特定のアミノ酸のアミノカルボン酸アニオンを有するイオン液体が、優れたCO2分離能をもたらしている。
【0065】
CO2および水素の透過係数の算出方法としては、JISに規定される試験方法(K7126−1またはK7126−2)を用いることができる。試験装置として例えば(株)ラウンドサイエンス製フロー式ガス透過率測定装置(RGP−3000型)を用いることができる。
【0066】
ここで、前記炭酸ガスと水素の透過係数比αは次式で定義されるものである。
【0067】
【数1】

【0068】
ただし、各成分の透過係数は、各成分のガスの透過速度をQ、供給側圧力(分圧)をp1、透過側圧力(分圧)をp2、膜面積をA、膜厚をLとした時、次式で定義されるものである。
【0069】
【数2】

【0070】
〔炭酸ガス分離膜の利用形態〕
以下、炭酸ガス分離膜の利用形態について説明する。
【0071】
炭酸ガス分離膜を用いれば、高純度の炭酸ガスを回収することができる。回収された炭酸ガス富化ガスは、このまま地中に注入するなどして貯留することもできるが、好ましくは、炭酸ガス液化工程にて処理され液化炭酸ガスが生産される。従って炭酸ガス富化ガスの炭酸ガス濃度は炭酸ガス液化工程の順調な操業が容易になるように高めることが好ましく、その濃度は好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。炭酸ガス濃度が70%以上の場合、液化工程に際して必要なエネルギーを小さくすることができ、また、回収される液化炭酸ガスの割合を高くすることができる。
【0072】
また炭酸ガス分離膜を用いれば、含炭素燃料から水蒸気改質反応およびシフト反応を経て生成した水素と炭酸ガスを主とする混合ガスを原料ガスとして膜分離装置の供給ガス側に供給し、透過ガス側より高純度炭酸ガスを得るとともに、非透過ガス側から水素が富化されたガスを得ることが可能になる。このように、炭酸ガス分離膜は水素製造のために使用することができる。
【0073】
炭酸ガス分離膜を利用すれば、化石燃料類等の含炭素燃料を原料として、高純度水素の製造と並行して貯留に適した形態の炭酸ガスを製造するに際し、消費エネルギーを抑えることができる。また水素収率を向上させることができる。したがって、高純度水素の製造と炭酸ガス回収とを効率的に行うことが可能となる。しかも比較的簡易な装置で水素製造および炭酸ガス回収を行うことが可能となり、システムコストの上昇を抑えることもできる。従って本発明は水素社会の実現および地球温暖化の防止のために貢献するものである。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0075】
〔イオン液体合成方法〕
イオン液体Aは以下のとおり合成した。
セリン1.2g(11.42mmol、TCI製)をイオン交換水9.2gに溶解させ、その中に炭酸水素エチルメチルイミダゾリウム(アルドリッチ製、濃度48.2質量%溶液(CH3OH:H2O=2:3)4.32g(12.09mmol))を滴下する。14.5時間攪拌を行い、翌日真空減圧加熱乾燥することで、オイル状の液体を得た。同定は上記文献(Ohno et al.)に従い1H−NMRで行った(収率98%)。
【0076】
なお、イオン液体B、C、Dはそれぞれこの方法を応用して合成した。
〔評価方法〕
各実施例および比較例において、膜の評価は以下の方法で行った。これらの例では円盤状の炭酸ガス分離膜を用いた。
【0077】
使用した評価装置の概略を図2に示す。炭酸ガス分離膜14を評価用のセル13に取り付けた。このセルは、評価ガスライン12から混合ガス11を供給し、非透過ガスライン17から非透過ガス19が排出され、透過ガスライン18から透過ガス20が排出されるように構成されている。非透過ガスラインには非透過ガス圧力表示計15が接続され、透過ガスラインには透過ガス圧力表示計16が接続されている。サンプリングバルブ21を切り替えることにより、サンプリングライン22を経て透過ガスをガス組成分析計23に導くことができるようになっている。
【0078】
評価ガス11として水素/CO2/H2O=95/5/2.9(水素/CO2=95/5(モル比)、相対湿度80%)混合ガスを、ガス流量102.9ml/分で、評価ガスライン12に供給した。このとき、非透過ガスの圧力(P1、全圧)を0.1MPaに、透過ガス20の圧力(P2、全圧)を0.003MPaに設定し、供給ガスおよび炭酸ガス分離膜の温度を27℃に設定した。評価ガスの温度は炭酸ガス分離膜の温度と同じにした。透過ガスのCO2濃度をガス組成分析装置にて分析した。
【0079】
〔実施例1〕
膜厚100μm、直径47mm、細孔径0.1μmのPVDFフィルター(ミリポア製、商品名:VVLP04700)を多孔質支持体(円盤状)として、これを合成したイオン液体A中に浸して多孔質支持体にイオン液体を含浸させ、液膜を得た。
【0080】
膜厚100μm、直径47mmのポリジメチルシロキサン(アズワン社製。商品名:シリコンフィルム6−9085−02)を封止膜として上記液膜の両面にそれぞれ設け、促進輸送膜を得た。
【0081】
このようにして得た炭酸ガス分離膜を、前述の評価方法に従って評価した。その結果を表1に示す。
【0082】
ここでイオン液体Aは1−エチル−3−メチルイミダゾリウム 2−アミノ−3−ヒドロキシプロピオネートであり、下記に示す構造を有する。ここではアニオンがセリンのアミノカルボン酸アニオンである。
【0083】
【化10】

【0084】
〔実施例2〕
封止膜として、膜厚70μm、直径47mmのポリテトラフルオロエチレン膜(アドバンテック社製。商品名:T010A047A)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして炭酸ガス分離膜を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0085】
〔実施例3〕
イオン液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウム 2−アミノプロピオネート(下に示すイオン液体B)を用いたこと以外は実施例1と同様にして炭酸ガス分離膜を作成し、評価した。結果を表1に示す。ここではアニオンが、アラニンのアミノカルボン酸アニオンである。
【0086】
【化11】

【0087】
〔実施例4〕
イオン液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウム 2−ピロリジンカルボキシレート(下に示すイオン液体C)を用いたこと以外は実施例1と同様にして炭酸ガス分離膜を作成し、評価した。結果を表1に示す。ここではアニオンがプロリンのアミノカルボン酸アニオンである。
【0088】
【化12】

【0089】
〔実施例5〕
イオン液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウム 2,6−ジアミノヘキサネート(下に示すイオン液体D)を用いたこと以外は実施例1と同様にして炭酸ガス分離膜を作成し、評価した。結果を表1に示す。ここではアニオンがリシンのアミノカルボン酸アニオンである。
【0090】
【化13】

【0091】
〔実施例6〕
封止膜として、膜厚20μm、直径47mmのポリトリメチルシリルプロピン膜(原料化合物はNARD社合成。一般的に知られているソルベントキャスト法により発明者等が製膜)を用いた。また、イオン液体としてテトラブチルホスホニウム 2−アミノ−3−ヒドロキシプロピオネート(下に示すイオン液体E、NARD社合成。ただし、Buはn−ブチル基を表す)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして炭酸ガス分離膜を作成し、評価した。結果を表1に示す。ここではアニオンがセリンのアミノカルボン酸アニオンである。
【0092】
【化14】

【0093】
〔実施例7〕
封止膜として、膜厚20μm、直径47mmのポリトリメチルシリルプロピン膜(原料化合物はNARD社合成。一般的に知られているソルベントキャスト法により発明者等が製膜。)を用いた。また、イオン液体として1−エチル−2、3−ジメチルイミダゾリウム 2−アミノ−3−ヒドロキシプロピオネート(下に示すイオン液体F)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして炭酸ガス分離膜を作成し、評価した。結果を表1に示す。ここではアニオンがセリンのアミノカルボン酸アニオンである。
【0094】
【化15】

【0095】
イオン液体Fは以下に示す方法で合成した。
1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム メチルカルボナート(アルドリッチ製、濃度50質量%溶液(CH3OH:H2O=2:3)2.8g(7.0mmol)はかりとり、L−セリン0.7g(7.0mmol)を少しずつ加え、室温で24時間攪拌した。その後100℃、減圧下で5時間反応させることにより、イオン液体Fが1.5g(92%収率)得られた。
【0096】
〔比較例1〕
イオン液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ブロミド(下に示すイオン液体Y、関東化学社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして炭酸ガス分離膜を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0097】
【化16】

【0098】
〔比較例2〕
イオン液体として1−アリル−3−メチルイミダゾリウム ビストリフルオロメチルスルホニルイミド(下に示すイオン液体Z、関東化学製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして炭酸ガス分離膜を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0099】
【化17】

【0100】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、例えば、製油所の水素製造装置やIGCCで得られる、二酸化炭素と水素を含む混合ガス中の二酸化炭素を濃縮する際に好適に用いられる。濃縮した二酸化炭素は、例えば圧縮液化して地中に隔離することが考えられる。
【符号の説明】
【0102】
1 液膜
1a 多孔質支持体
1b イオン液体
2 封止膜
11 評価ガス
12 評価ガスライン
13 セル
14 炭酸ガス分離膜(円盤状)
15 非透過ガス圧力表示計
16 透過ガス圧力表示計
17 非透過ガスライン
18 透過ガスライン
19 非透過ガス
20 透過ガス
21 サンプリングバルブ
22 サンプリングライン
23 ガス組成分析計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスと炭酸ガスを含む混合ガスから、炭酸ガスを分離するための炭酸ガス分離膜であって、
イオン液体と該イオン液体を担持する多孔質支持体とを含む液膜が、二つの封止膜によって挟まれた構造を有し、
前記イオン液体が、
式Iで表されるイミダゾリウムカチオン、式IIで表される第4級アンモニウムカチオンおよび式IIIで表される第4級ホスホニウムカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種のカチオンと、
【化1】

(ここで、R1およびR3はそれぞれ独立して、いずれも炭素数1〜6であって直鎖状または分岐数が1もしくは2の分岐状の、アルキル基、アミノアルキル基、アリル基、ヒドロキシアルキル基、アミノヒドロキシアルキル基またはエーテル基を表し、
2はHまたは炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【化2】

(ここで、R4、R5、R6およびR7はそれぞれ独立して、いずれも炭素数1〜6であって直鎖状または分岐数が1もしくは2の分岐状の、アルキル基、アミノアルキル基、アリル基、ヒドロキシアルキル基、アミノヒドロキシアルキル基またはエーテル基を表す。)
【化3】

(ここで、R8、R9、R10およびR11はそれぞれ独立して、いずれも炭素数1〜6であって直鎖状または分岐数が1もしくは2の分岐状の、アルキル基、アミノアルキル基、アリル基、ヒドロキシアルキル基、アミノヒドロキシアルキル基またはエーテル基を表す。)
グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、プロリン、
2−アミノ酪酸、2−アミノイソ酪酸、2−アミノシクロペンタンカルボン酸、および
4−アミノ酪酸からなる群から選ばれる少なくとも一種のアミノ酸のアミノカルボン酸アニオンと
の組合せからなる
炭酸ガス分離膜。
【請求項2】
前記イミダゾリウムカチオンが、式IV〜式VIIでそれぞれ表されるカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
【化4】

(ここでR2はHまたはメチル基を表す。)
【化5】

(ここでR2はHまたはメチル基を表す。)
【化6】

(ここでR2はHまたはメチル基を表し、nは1または2である。)
【化7】

(ここでR2はHまたはメチル基を表し、nは1または2である。)
前記第4級ホスホニウムカチオンが、式VIIIおよび式IXでそれぞれ表されるカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一種である
【化8】

(ここでBuはn−ブチル基を表す。)
【化9】

(ここでEtはエチル基を表す。)
請求項1記載の炭酸ガス分離膜。
【請求項3】
前記封止膜が、ポリジメチルシロキサン膜、ポリトリメチルシリルプロピン膜、ポリジフェニルアセチレン膜、ポリテトラフルオロエチレン膜またはセラミックス膜である請求項1または2記載の炭酸ガス分離膜。
【請求項4】
前記多孔質支持体が、ポリフッ化ビニリデン膜、銀メンブレンフィルター、ポリテトラフルオロエチレン膜、ガラス繊維ろ紙またはセラミックス膜である請求項1〜3の何れか一項記載の炭酸ガス分離膜。
【請求項5】
前記液膜が、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリジフェニルアセチレンおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも一種の高分子化合物と前記イオン液体とからなるゲルが多孔質支持体に担持された液膜である請求項1〜4の何れか一項記載の炭酸ガス分離膜。
【請求項6】
供給ガスの温度27℃、供給ガスの炭酸ガス分圧0.0049MPa、供給ガスの全圧0.1MPa、透過側の全圧0.003MPa、供給ガスの相対湿度80%のとき、水素透過係数に対する炭酸ガス透過係数の比αが250以上であり、かつ炭酸ガス透過係数が1.0×10-10mol−CO2×m/m2/s/kPa以上である請求項1〜5の何れか一項記載の炭酸ガス分離膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−214324(P2010−214324A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66014(P2009−66014)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】