説明

無アルカリガラスの製造方法および無アルカリガラス板

【課題】フラットパネルディスプレイ用ガラス基板に適した泡の少ない無アルカリガラス製造方法を提供する。
【解決手段】以下の組成を母組成とし、質量百分率表示で、該母組成の総量100%に対し、SnOを0.01〜2.0%含むように原料を調製し、該原料を1500〜1650℃で加熱溶解した後、該溶融ガラスが1300〜1500℃にある状態で、該溶融ガラスと該白金部材との界面に発生する酸素泡を、該SnOのSnOへの酸化反応により吸収させる無アルカリガラスの製造方法。 質量百分率表示による組成: SiO:58.4〜66.0%、Al:15.3〜22.0%、B :5.0〜12.0%、MgO:0〜6.5%、CaO:0〜7.0%、SrO :4〜12.5%、BaO:0〜2.0%、 (MgO+CaO+SrO+BaO):9.0〜18.0%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡の少ない無アルカリガラスの製造方法、および該方法で製造した泡の少ない、フラットパネルディスプレイ用基板として好適な無アルカリガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ用基板ガラスは、アルカリ金属酸化物を含有するアルカリガラスと、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない無アルカリガラスに大別される。アルカリガラス基板は、プラズマ・ディスプレイ(PDP)、無機エレクトロ・ルミネッセンス・ディスプレイ、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)などに使用され、無アルカリガラス基板は、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロニクス・ルミネッセンス・ディスプレイ(OLED)などに使用される。
【0003】
そのうちのLCD用ガラス基板などは、表面に金属ないし金属酸化物の薄膜などが成膜されるため、以下に示す特性が要求される。
(1)実質的にアルカリ金属イオンを含まない無アルカリガラスであること(ガラス基板中のアルカリ金属酸化物が、アルカリ金属イオンとして薄膜中に拡散し、膜特性を劣化させることがあるので、その劣化防止のため)。
(2)高い歪点を有していること(薄膜トランジスタ(TFT)の形成工程で、ガラス基板が高温にさらされることによるガラス基板の変形、収縮を最小限に抑えるため)。
(3)TFT形成に用いる各種薬品に対して充分な化学的耐久性を有すること。特にSiOやSiNのエッチングに使用するバッファードフッ酸(フッ酸+フッ化アンモニウム;BHF)、ITO(スズがドープされたインジウム酸化物)のエッチングに用いる塩酸を含有する薬液、金属電極のエッチングに用いる各種の酸(硝酸、硫酸等)、またはアルカリ性のレジスト剥離液に対して耐久性があること。
(4)ガラス基板の内部および表面に、ディスプレイ表示に影響を及ぼす欠点(泡、脈理、インクルージョン、未溶解物、ピット、キズ等)をもたないこと。
【0004】
近年、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の面積が大きくなるにつれ、仮に同じ欠点密度を有するガラス基板であっても、ガラス基板1枚当たりの欠点数が多くなるため、歩留を大きく落とす問題が顕在化してきた。特に泡欠点が主な欠点として挙げられる。
【0005】
従来より、原料溶解時に発生する泡を低減するための清澄剤としてAs、Sbなどを無アルカリガラスに添加して、無アルカリガラスの泡を低減させる方法が採られてきた。しかし、AsおよびSb、特にAsは溶融ガラスから気泡を取り除くという点で、きわめて優れた清澄剤であるが、環境への負荷が大きいため、その使用の抑制が求められている。
【0006】
また、原料溶解時に発生する泡を低減するために、スズ酸化物を清澄剤としてガラス原料に添加し、ガラス中のSn2+/全Sn比(=Sn−レドックス)が酸化還元滴定により0.13以上となる条件下でガラス原料を溶解する方法が提案されている(特許文献1)。該方法は、SnOからSnOへの還元反応で生じる酸素ガスが溶融ガラス中の微小な泡とともに溶融ガラス表面に浮上させ脱泡させるものである。
また、ガラス原料にSnOを添加し、該ガラス原料を1350℃以上に加熱し、減圧下で脱泡する方法が提案されている(特許文献2)。該方法は、上記方法同様に、SnOの還元反応で生じる酸素ガスが、溶融ガラス中の微小な泡とともに減圧下で大きな気泡となって溶融ガラス表面に浮上させ脱泡させるものである。
【0007】
一方、近年、原料を溶解した後の、脱泡、攪拌、移送(流路管などによる溶融ガラスの搬送など)等の処理工程には、耐熱性に優れた白金が使用されるようになっているが、該白金と溶融ガラスとの界面から新たに酸素泡を生じさせるという問題がある。しかし、従来のガラス原料を溶解する際の泡の発生を抑制する方法では、溶解工程から後の処理工程、すなわち、溶融ガラス温度が、溶解工程におけるガラス温度より低くなる工程においては、SnOからSnOへの還元反応が起きにくくなる。また、白金界面に発生する泡は当初、白金表面に微小な泡として付着しており、従来のSnOからSnOへの還元反応で生じる酸素ガスとともに浮上させ脱泡することは困難である。特に、近年、ディスプレイ用基板ガラスに残存する泡の一層の削減を求められており、この白金界面泡の抑制が新たな重要な課題となっている。
【特許文献1】特開2004−75498号公報
【特許文献2】特開2000−239023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ガラス原料を溶解する際に溶融ガラスに含まれる泡の脱泡を行い、その後の白金部材と接触される条件下で、減圧脱泡、攪拌、または移送を行う処理工程において、溶融ガラスと白金部材(以下、白金ともいう。)との界面で発生する泡の脱泡も行って、泡の発生を効果的に抑制する無アルカリガラスの製造方法の提供、および泡の少ないフラットパネルディスプレイ用ガラス基板に適した無アルカリガラス板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々の実験を行った結果、得られるガラスが所定のSn−レドックスであり、所定のガラス原料を所定温度で溶解し、溶融ガラスに含まれる泡を、溶融ガラス中のSnOのSnOへの還元反応により発生する酸素泡とともに溶融ガラス表面に浮上させ、その後、処理工程において、溶融ガラスが、所定温度の状態で溶融ガラスと白金との界面に発生する酸素泡を、SnOのSnOへの酸化反応により吸収させることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
したがって、本発明は、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、以下の組成を母組成とするガラス原料を溶解し、溶融されたガラスを、白金部材と接触される条件下で、減圧脱泡、攪拌、または移送を行う処理工程を含む無アルカリガラスの製造方法であって、質量百分率表示で、該母組成の総量100%に対し、SnOを0.01〜2.0%含むように原料を調製し、該原料を1500〜1650℃で加熱溶解した後、溶融ガラスに含まれる泡を溶融ガラス中の該SnOのSnOへの還元反応により発生する酸素泡とともに溶融ガラス表面に浮上させた後、前記処理工程において、該溶融ガラスが1300〜1500℃にある状態で、該溶融ガラスと該白金部材との界面に発生する酸素泡を、該SnOのSnOへの酸化反応により吸収させる無アルカリガラスの製造方法である。
質量百分率表示による組成:
SiO:58.4〜66.0%、Al:15.3〜22.0%、B
:5.0〜12.0%、MgO:0〜6.5%、CaO:0〜7.0%、SrO
:4〜12.5%、BaO:0〜2.0%、
(MgO+CaO+SrO+BaO):9.0〜18.0%
【0011】
本発明の無アルカリガラスの製造方法は、前記減圧脱泡を160〜660torrの減圧下で行うことが好ましい。
【0012】
本発明の無アルカリガラスの製造方法は、前記溶融ガラスの粘度が10dPa・sのときの温度が1600℃以上であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記のいずれかに記載の方法で製造されたガラス板である。
【0014】
また、本発明は、
酸化物規準の質量百分率表示で、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、以下の組成を母組成とする無アルカリガラスであって、該母組成の総量100%に対し、SnOを0.15%以上、1%未満含有するフロートガラス板である。
質量百分率表示による組成:
SiO:58.4〜66.0%、Al:15.3〜22.0%、B:5.0〜12.0%、MgO:0〜6.5%、CaO:0〜7.0%、SrO:4〜12.5%、BaO:0〜2.0%、(MgO+CaO+SrO+BaO):9.0〜18.0%
【0015】
本発明のガラス板は、50〜350℃における熱膨張係数が25×10−7〜40×10−7/℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無アルカリガラスの製造方法は、ガラス原料を溶解する際の溶融ガラスに含まれる泡の脱泡を行い、さらに、その後の処理工程において、溶融ガラスと白金との界面に発生する酸素泡の脱泡を行うことができる。また、製造された無アルカリガラスは、線膨張係数が小さく、泡が極めて少ないので、液晶ディスプレイパネル用基板、フォトマスク基板等、かかる特性が要求される用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、質量百分率基準なる語を省略し、単に数量(%)のみを記載することがある。
本発明は、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、以下の組成を母組成とするガラス原料を溶解し、溶融されたガラスを、白金部材と接触される条件下で、減圧脱泡、攪拌、または移送を行う処理工程を含む無アルカリガラスの製造方法であって、質量百分率表示で、該母組成の総量100%に対し、SnOを0.01〜2.0%含むように原料を調製し、該原料を1500〜1650℃で加熱溶解した後、溶融ガラスに含まれる泡を溶融ガラス中の該SnOのSnOへの還元反応により発生する酸素泡とともに溶融ガラス表面に浮上させた後、前記処理工程において、該溶融ガラスが1300〜1500℃にある状態で、該溶融ガラスと該白金部材との界面に発生する酸素泡を、該SnOのSnOへの酸化反応により吸収させる無アルカリガラスの製造方法である。
質量百分率表示による組成:
SiO:58.4〜66.0%、Al:15.3〜22.0%、B
:5.0〜12.0%、MgO:0〜6.5%、CaO:0〜7.0%、SrO
:4〜12.5%、BaO:0〜2.0%、
(MgO+CaO+SrO+BaO):9.0〜18.0%
【0018】
前記ガラスの製造は、前記減圧脱泡において、160〜660torrの減圧下で脱泡を行うことが好ましく、200〜400torrの減圧下で行うことがより好ましい。
【0019】
本発明では、溶融ガラス中でSnOがSnOに容易に還元されるよう、1500〜1650℃、好ましくは1550〜1650℃で原料を溶解する。そのため、粘度が10
dPa・sとなる温度が1600℃以上になるように、ガラスの母組成が、SiOが58.4〜66.0%、Al が15.3〜22.0%、Bが5.0〜12.0%、MgOが0〜6.5%、CaOが0〜7.0%、SrOが4〜12.5%、およびBaOが0〜2.0%を含有し、(MgO+CaO+SrO+BaO)が9.0〜18.0%であるように調製する。
【0020】
また、本発明の無アルカリガラスは、
酸化物規準の質量百分率表示で、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、以下の組成を母組成とする無アルカリガラスであって、該母組成の総量100%に対し、SnOを0.15%以上、1%未満含有するフロートガラス板である。
質量百分率表示による組成:
SiO:58.4〜66.0%、Al:15.3〜22.0%、B:5.0〜12.0%、MgO:0〜6.5%、CaO:0〜7.0%、SrO:4〜12.5%、BaO:0〜2.0%、(MgO+CaO+SrO+BaO):9.0〜18.0%
【0021】
[SiO
本発明の無アルカリガラスにおいて、SiOはネットワークフォーマであり、必須である。SiOはガラスの密度を小さくする効果が大きいため含有量が多いことが好ましいが、SiOの含有量が多すぎるとガラスの溶解性が低下し、失透温度が上昇するので、66.0%以下である。一方、SiOの含有量が少なすぎると歪点が充分に上げることができないほか、化学的耐久性が悪化し、熱膨張係数が増大するので、58.4%以上である。好ましくは59.0〜65.0%であり、より好ましくは60.0〜64.0%である。
【0022】
[Al
本発明の無アルカリガラスにおいて、Alはガラスの分相性を抑制し、熱膨張係数を下げ、歪点を上げる成分である。該作用効果を発揮するためのAlの含有量は15.3%以上である。逆に、Alの含有量が多すぎるとガラスの溶解性が悪くなるので22.0%以下である。好ましくは15.8〜21.0%であり、より好ましくは
16.5%〜20.0%である。
【0023】
[B
本発明の無アルカリガラスにおいて、BはBHFによる白濁発生を防止し、高温での粘性を高くさせずに、熱膨張係数と密度の低下を達成する成分である。Bの含有量が少なすぎると耐BHF性が悪化するので、5.0%以上である。多すぎると耐酸性が悪くなるとともに、歪点が低くなるので、12.0%以下である。好ましくは6.0〜
11.5%であり、より好ましくは7.0〜11.0%である。
【0024】
[アルカリ土類金属酸化物]
本発明の無アルカリガラスにおいて、MgOはアルカリ土類金属酸化物の中では、熱膨張係数を低くするが、歪点を低下させないため、含有させることが好ましい成分である。MgOの含有量が多すぎると、BHFによる白濁やガラスの分相が生じやすくなるので、6.5%以下である。好ましくは1.0〜6.0%であり、より好ましくは2.0〜5.0%である。
【0025】
本発明の無アルカリガラスにおいて、CaOはガラスの溶解性を向上させる成分である。CaOの含有量が多すぎると、熱膨張係数を大きくし、失透温度を上げてしまうので、7.0%以下である。好ましくは1.0〜6.5%であり、より好ましくは2.0〜6.0%である。
また、CaOの含有量が7.0%超であると、原料が加熱によって溶融しガラス化する約1500℃付近よりも低い約1400℃付近から、SnO2の還元反応が起こる場合があり、ガラス化された時点で溶融ガラス内に多くの酸素泡(初期泡)が含まれる問題が生じる場合がある。
【0026】
本発明の無アルカリガラスにおいて、SrOはガラスの分相を制御し、BHFに対する白濁に対し比較的有効な成分である。SrOの含有量は4.0%以上であることが好ましい。SrOの含有量が多すぎると熱膨張係数が増大するので、12.5%以下である。好ましくは4.5〜11.0%であり、より好ましくは5.0〜10.0%である。
また、SrOの含有量が4%未満であると、原料が加熱によって溶融しガラス化する約1500℃付近よりも低い約1400℃付近から、SnO2の還元反応が起こり、ガラス化された時点で溶融ガラス内に多くの酸素泡(初期泡)が含まれる問題が生じる。
【0027】
本発明の無アルカリガラスにおいて、BaOはガラスの分相を抑制し、ガラスの溶解性を向上させ、失透温度を抑制する成分である。BaOの含有量が多すぎると、ガラスの密度が大きくなり、熱膨張係数を増大させる傾向が強い。密度をより小さくし、熱膨張係数を小さくするという観点からは、BaOの含有量を2.0%以下とし、不可避的に含有される含有量に止めることが好ましい。より好ましくは1.0%以下である。
【0028】
本発明の無アルカリガラスは、アルカリ土類金属酸化物(RO)の含有量の合量、すなわち(MgO+CaO+SrO+BaO)が少なすぎると、ガラスの溶解を困難にさせるので、9.0%以上である。逆に多すぎるとガラスの密度が大きくなるので、18.0%以下である。好ましくは9.5〜17.0%であり、より好ましくは10.0〜16.0%である。
【0029】
[SnO
本発明において、ガラス原料に添加されたSnOは、1500〜1650℃で加熱し溶解する際に、SnOに還元されて酸素泡を発生し、溶融ガラスに含まれる泡とともに溶融ガラス表面に浮上させた後、前記処理工程において、溶融ガラスが1300〜1500℃の状態にある状態で、溶融ガラスと白金との界面に発生した酸素をSnOが、
SnO+1/2・O→ SnO
なる酸化反応により吸収し、いわゆる白金界面泡の脱泡を行う。
【0030】
前記白金界面泡の脱泡効果は、溶融ガラス中のSn−レドックス[Sn2+/全Sn]が増大するにつれて増大する。そのため、得られるガラスのSn−レドックスは酸化還元滴定により0.3以上、好ましくは0.5以上である。また、Sn−レドックスはSn−メスバウアー分光の測定法により0.1以上である。一方、Sn−レドックスが大きすぎると、白金で構成された設備の腐食・劣化をもたらす恐れがあるため、Sn−レドックスは酸化還元滴定により0.8以下、好ましくは0.7以下である。また、Sn−レドックスはSn−メスバウアー分光の測定法により0.3以下である。
【0031】
本発明におけるSnOの添加量は無アルカリガラスの組成にもよるが、前記母組成の総量100%に対し0.01%以上であり、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上である。処理工程における脱泡をより安定して行うことができるという観点から、母組成の総量100%に対し、0.15%以上であるのがさらに好ましく、処理工程における脱泡をより安定して行うことができるという観点に加えて、原料を加熱溶解した際における脱泡をより安定して行うことができるということから、0.2%以上であるのが特に好ましい。一方、SnOの添加量が多すぎても、脱泡効果が飽和し、ガラスの特性に影響を与える恐れがあり、また、フロート法で板ガラスに成形する場合には、SnOがフロート成形域で還元されて、ガラス表面にSnが析出する恐れがあるため、母組成の総量100%に対し2.0%以下であり、好ましくは1.0%未満であり、より好ましくは0.6%以下である。
【0032】
ガラス表面のSnの析出を安定して抑制することができるという観点から、0.5%以下であるのがさらに好ましい。
【0033】
また、処理工程において減圧脱泡を行う場合、SnO2の含有量は、減圧脱泡の際のガラス欠点を抑制することができるという観点から、母組成の総量100%に対し、0.25%以下であるのが特に好ましい。
【0034】
このような理由から、フロート法で板ガラスを成形する場合に、安定したガラス品質を得るためには、SnO2の含有量は、母組成の総量100%に対し、0.15%以上、1%未満であるのが好ましく、0.15〜0.5%であるのがより好ましく、0.2〜0.5%であるのが更に好ましい。
更に、前記処理工程において減圧脱泡を行ない、フロート法で板ガラスを成形する場合に、安定したガラス品質を得るためには、SnO2の含有量は、母組成の総量100%に対し、0.15〜0.25%であるのがより好ましく、0.2〜0.25%であるのが特に好ましい。
本発明のガラス原料に添加される必須成分はSnOであるが、さらにSO、Fe、Cl、Fなどを原料に添加すると、ガラスの脱泡・清澄効果を促進・強化するため有効である。
【0035】
[SO
SOはガラス原料を加熱していく際に、分解して多量の泡を発生し、かつ、泡を大きくする成分である。SO3源は無アルカリである限り、どのような塩であってもよいが、通常は、アルカリ土類金属の硫酸塩として添加される。SOによる脱泡効果は、前記母組成の総量100%に対し、SOを0.01%以上添加することにより得られる。好ましい添加量は0.1%以上であり、より好ましい添加量は0.3%以上である。一方、SOの添加量が多すぎると、SOの分解による酸素泡の発生が過剰となるため、5.0%以下、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。
【0036】
[Fe
Feはガラス原料を溶解する際に、
Fe→2FeO+1/2・O
で示される還元反応により酸素泡を発生し、ガラス中の泡とともに溶融ガラス表面に浮上し脱泡する。前記母組成の総量100%に対し、Feを0.01%以上添加することにより、脱泡効果が得られるが、好ましい添加量は0.02%以上である。Feによる脱泡効果の飽和とガラスの着色が顕著になることを考慮して、2.0%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.1%以下である。
【0037】
[F、Cl]
FやClはガラス原料を溶解する際に、多量の泡を発生し、かつ、泡を大きくする成分であるが、SOやFeと併用することにより、その脱泡効果が飛躍的に増大する。FやClは通常、アルカリ土類金属のフッ化物や塩化物として添加される。それぞれの添加量は、前記母組成の総量100%に対し、0.01%以上、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上である。一方、FやClによる清澄効果の飽和とガラスの特性に影響を与える恐れがあるため、5.0%以下、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。
【0038】
本発明においては、SOおよび/またはFeならびにClおよび/またはFとして添加することが好ましい。該成分の添加量は、SOおよび/またはFe、ならびに、Clおよび/またはFを、前記母組成の総量100%に対し、合量で0.01%以上であることが好ましく、SOおよび/またはFeを合量で0.01%以上、ならびに、Clおよび/またはFを合量で0.01%以上であることが特に好ましい。
【0039】
[ガラスの製造方法]
本発明の無アルカリガラスは、例えば次の方法により製造される。前記した組成でガラス原料を調製した。得られたガラス原料を、ガラスの溶解槽に連続的に投入し、1500〜1650℃、好ましくは1550〜1650℃で加熱し溶解して、溶融ガラスに含まれる泡を、溶融ガラス中のSnOのSnOへの還元反応により発生する酸素泡とともに、溶融ガラス表面に浮上させ脱泡させた後、溶融ガラスを白金部材と接触される条件下で、減圧脱泡、攪拌、または移送を行う処理工程において、溶融ガラスが1300〜1500℃にある状態で、溶融ガラスと白金との界面に発生する酸素泡をSnOのSnOへの酸化反応により吸収させ脱泡させる。その後、成形工程において、フロート法等の板ガラス成形方法により所定の板厚に成形し、徐冷後、切断され、所望の大きさのガラス板が製造される。なお、得られるガラスの酸化還元滴定によるSn−レドックスは0.3〜0.8、好ましくは0.5〜0.7となる。また、Sn−メスバウアー分光の測定法によるSn−レドックスは0.1〜0.3となる。
【0040】
[圧力]
本発明の無アルカリガラスの製造において、溶融ガラスが置かれた絶対圧が低下すると、溶融ガラスに含まれる泡や白金界面に付着する泡が膨れ、溶融ガラス表面に浮上しやすくなる。そのため、本発明のガラスの製造は、減圧脱泡を実施することが好ましい。特に高粘性のガラス、すなわち、粘度が10dPa・sの時の温度が1600℃以上のガラスに適用するときは減圧脱泡を行うことが好ましい。具体的には、絶対圧が160〜660torr、より好ましくは200〜400torrである。なお、減圧下においても、本発明の溶融ガラスと白金との界面に発生する酸素泡を、SnOのSnOへの酸化反応により吸収させ脱泡される効果を低減させてしまうようなことがないことを、160〜760torrで確認した。
【0041】
本発明の無アルカリガラスのβ−OHは0.25〜0.6mm−1で、好ましくは0.3〜0.5mm−1である。β−OHが0.6mm−1超では、前記白金界面に泡が発生しやすくなる。β−OHは無アルカリガラス板の赤外線透過率を測定し、4000cm−1での赤外線透過率(I)と3570cm−1付近の極小赤外線透過率(I)と該ガラスの厚み(d)とから、次式にて求めた値であり、ガラス中の含水量の指標である。
β−OH=(1/d)log(I)/(I)
また、本発明の無アルカリガラスは、50〜350℃における熱膨張係数が、25×10−7〜40×10−7/℃であることが好ましい。
【実施例】
【0042】
表1は工業用ガラス原料として調製された成分について、また、表2は得られたガラスについて、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOの母組成の総量100%に対する各成分の含有割合を質量百分率表示したものである。
例1〜4及び例6は本発明の実施例、例5は比較例を示す。
表1に示した組成の原料を白金るつぼに入れ、1500〜1650℃で加熱し溶解した。その後、溶融ガラスをカーボン板上に流し板状にした。つぎに、それぞれの板状ガラス20gを白金るつぼに入れ、大気圧(760torr)で、1420℃で、4時間溶解した後、冷却し、表2に示したガラスを得た。
【0043】
得られたガラス板について、泡体積、Sn−レドックス、および各成分残存量を下記の方法により測定、分析した。それらの結果を、β−OH、熱膨張係数、および粘度が10dPa・sの時の温度とともに、表2に示した。
Sn−レドックスは、酸化還元滴定により溶融ガラス中のSn2+量を測定し、[Sn2+量/全Sn]で算出した値である。
泡体積は、白金るつぼの底に新たに発生・成長した泡の単位面積当たりの発生泡体積(cm/m)を測定した値である。泡体積は、カメラで直接撮影した泡半径から半球と仮定して求めた。該泡体積が小さいことは、SnOのSnOへの酸化反応による白金界面の酸素泡の吸収効果が大きいことを示す。
SnO、SO、Fe、FおよびClのガラス残存量は、蛍光X線分析装置を用いて測定した。
【0044】
例1〜4と例5とを対比したとき、ガラス原料のSnO添加量が増大するにつれて脱泡効果が増大することが明らかである。
なお、160〜660torr、特に200〜400torrの減圧下では、脱泡効果がさらに増大する。
また、例1〜4及び例6と例5とを対比したとき、ガラス原料のSnO2の添加量が0.15%以上である場合脱泡効果が増大し、0.25%以上の場合脱泡効果がより顕著なものとなる。
また、表1および表2により、原料におけるSnO2の添加割合と、得られたガラスおけるSnO2の含有割合はほぼ同じであった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
次に、溶融ガラスに含まれる泡数の評価について以下に説明する。
表3は工業用ガラス原料として調製された成分について、また、表4は得られたガラスについて、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOの母組成の総量100%に対する各成分の含有割合を質量百分率表示したものである。
例8、10が本発明の実施例、例7、9が比較例を示す。
表3に示す組成の原料(例7〜例10)をそれぞれ別の300ccの白金るつぼに入れ、1500℃の電気炉で30分間静置し溶解した後、表4に示す温度の電気炉に移し替え、表4に示す時間静置した。その後、760℃の電気炉に移し替え、2時間かけて560℃までガラスを徐冷し、さらに約10時間かけて室温までガラスを徐冷した。るつぼ上部中央のガラスをコアドリルで直径38mm、高さ35mmの円柱状ガラスにくり貫き、該円柱状ガラスの中心軸を含む厚さ2〜5mmのガラス板に切り出した。切り出し面両面を光学研磨加工(鏡面研磨仕上げ)した。るつぼのガラス上面から1〜10mmの間に相当する部位について、光学研磨加工面を実体顕微鏡で観察し、ガラス板中の直径50μm以上の泡数を計測し、その値をガラス板の体積で割り、泡数とした。結果を表4に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
表4に示す結果から明らかなように、例7、例8より、1500℃ではSnO2による泡数の減少の効果が多少見られる程度であるが、一方、例9、例10より、1590℃ではSnO2による泡数の減少の効果が顕著に見られた。
これは、1500℃から1590℃に溶融ガラス温度が上昇する過程で、溶融ガラスに含まれる泡が、SnO2のSnOへの還元反応により発生する酸素泡とともに、溶融ガラス表面に浮上、脱泡され、泡数の減少が顕著となったことを示している。
【0051】
次に、原料を溶解させる際の溶解温度と得られるガラスのSn−レドックスとの関係について以下に説明する。
表5は工業用ガラス原料として調製された成分について、また、表6は得られたガラスについて、SiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOの母組成の総量100%に対する各成分の含有割合を質量百分率表示したものである。例11は本発明の実施例、例12は比較例を示す。
表5に示した組成の原料を白金るつぼで1500℃の電気炉で30分間静置し溶融ガラスとした後、所定の温度(1500、1550、1590、1630、1710℃)の電気炉に移し替え、30分間静置した。その後、760℃の電気炉に移し替え、2時間かけて560℃までガラスを徐冷し、さらに約10時間かけて室温までガラスを徐冷した。
原料におけるSnOの添加割合と、得られたガラスにおけるSnOの含有割合はほぼ同じであった。
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
また、これらのガラスについて、Sn−メスバウアー分光の測定方法により、Sn−レドックスの値を測定した。それぞれのガラスについて、所定の溶解温度に対するSn−レドックスの値を示すグラフを図1に示す。
【0055】
ここで、Sn−メスバウアー分光の測定方法について説明する。
119mSnから119Snへのエネルギー遷移に伴って発生するγ線(23.8keV)をプローブにして、透過法(ガラス試料を透過したγ線を計測)により、試料中のSnの2価と4価の存在割合(Sn−レドックス)を測定した。具体的には、以下の通りである。
放射線源のγ線出射口、ガラス試料、Pdフィルター、気体増幅比例計数管(LND社製、型番45431)の受光部を300〜800mm長の直線上に配置した。
放射線源は、10mCiの119mSnを用い、光学系の軸方向に対して放射線源を運動させ、ドップラー効果によるγ線のエネルギー変化を起こさせた。放射線源の速度はトランスデューサー(東陽リサーチ社製)を用いて、光学系の軸方向に−10〜+10mm/秒の速度で振動するように調整した。
ガラス試料は、3〜7mmの厚さのガラス平板を用いた。
Pdフィルターは、気体増幅比例計数管によるγ線の計測精度を向上させるためのものであり、γ線がガラス試料に照射された際にガラス試料から発生する特性X線を除去する厚さ50μmのPd箔である。
気体増幅比例計数管は、受光したγ線を検出するものである。気体増幅比例計数管からのγ線量を示す電気信号を増幅装置(関西電子社製)で増幅して受光信号を検出した。マルチチャンネルアナライザー(Wissel社CMCA550)で上記の速度情報と連動させた。
気体増幅比例計数管からの検出信号を縦軸に、運動している放射線源の速度を横軸に表記することで、スペクトルが得られる(メスバウアー分光学の基礎と応用 45〜64頁 佐藤博敏・片田元己共著 学会出版)。評価可能な信号/雑音比が得られるまでに、積算時間は2日から16日を必要とした。
0mm/秒 付近に出現するピークがSnの4価の存在を示し、2.5mm/秒と4.5mm/秒 付近に出現する2つに分裂したピークが2価の存在を示す。それぞれのピーク面積に補正係数(Journal of Non-Crystaline Solids 337(2004年) 232-240頁 「The effect of alumina on the Sn2+/Sn4+ redox equilibrium and the incorporation of tin in Na2O/Al2O3/SiO2 melts」 Darja Benner,他共著)(Snの4価:0.22、Snの2価:0.49)を乗じたものの割合を計算し、2価のSn割合をSn−レドックス値とした。
【0056】
図1において、溶融温度が上昇するにつれてガラス中のSn2+が多くなっており、このことは溶融温度の上昇によって溶融ガラス中のSnO2のSnOへの還元反応が活発となっていることを示す。
【0057】
図1に示す例12は、原料が加熱され、約1400℃付近からSnO2のSnOへの還元反応が起こり始め、約1450℃付近(Sn−メスバウアー分光の測定法によるSn−レドックス約10%)から、SnO2のSnOへの還元反応が活性化するため、原料がガラス化する1500℃付近では、還元反応による酸素泡(初期泡)が、既に溶融ガラス内に多く発生することになる。
そして、原料がガラス化する1500℃付近で溶融ガラス内の泡と初期泡とが系内に共存して共存泡となり、このため、該共存泡を溶融ガラスから抜くために溶融ガラスを長時間溶解槽に滞在させなければならず、生産性が低下してしまうという問題を本発明者は見出した。
これに対して、図1に示す例11においては、約1450℃付近からSnO2のSnOへの還元反応が起こり始めるため1450〜1500℃では初期泡が多く発生していない。その後、原料がガラス化する約1500℃付近(Sn−メスバウアー分光の測定法によるSn−レドックス約10%)からSnO2のSnOへの還元反応が活性化するため、溶融ガラス内の泡を効果的に浮上させることができる。更に、表6より、例11は、例12よりも粘度が102dPa・sとなる温度が低いため、例11は泡も浮上しやすい。
したがって、本発明の無アルカリガラスの製造方法及び本発明の無アルカリガラスは、溶融ガラスを溶解槽に存在させる時間が短く、生産性においても優れる。
本発明の無アルカリガラスの製造方法及び本発明の無アルカリガラスは、泡をほとんど含まないため、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板に適している。
特に、フロート法で成形される本発明の無アルカリガラスのフロートガラス板は、泡が少なく、ガラス表面のSn析出が無いため、大面積で、更に薄板(例えば、0.3〜1.1mm)のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板に適している。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、原料を溶解させる際の溶解温度と得られるガラスのSn−レドックス(Sn−メスバウアー分光の測定法による)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、以下の組成を母組成とするガラス原料を溶解し、溶融されたガラスを、白金部材と接触される条件下で、減圧脱泡、攪拌、または移送を行う処理工程を含む無アルカリガラスの製造方法であって、質量百分率表示で、該母組成の総量100%に対し、SnOを0.01〜2.0%含むように原料を調製し、該原料を1500〜1650℃で加熱溶解した後、溶融ガラスに含まれる泡を溶融ガラス中の該SnOのSnOへの還元反応により発生する酸素泡とともに溶融ガラス表面に浮上させた後、前記処理工程において、該溶融ガラスが1300〜1500℃にある状態で、該溶融ガラスと該白金部材との界面に発生する酸素泡を、該SnOのSnOへの酸化反応により吸収させる無アルカリガラスの製造方法。
質量百分率表示による組成:
SiO:58.4〜66.0%、Al:15.3〜22.0%、B
:5.0〜12.0%、MgO:0〜6.5%、CaO:0〜7.0%、SrO
:4〜12.5%、BaO:0〜2.0%、
(MgO+CaO+SrO+BaO):9.0〜18.0%。
【請求項2】
前記減圧脱泡を160〜660torrの減圧下で行なう請求項1に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項3】
前記溶融ガラスの粘度が10dPa・sのときの温度が1600℃以上である請求項1または2に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で製造されたガラス板。
【請求項5】
酸化物規準の質量百分率表示で、アルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、以下の組成を母組成とする無アルカリガラスであって、該母組成の総量100%に対し、SnOを0.15%以上、1%未満含有するフロートガラス板。
質量百分率表示による組成:
SiO:58.4〜66.0%、Al:15.3〜22.0%、B:5.0〜12.0%、MgO:0〜6.5%、CaO:0〜7.0%、SrO:4〜12.5%、BaO:0〜2.0%、(MgO+CaO+SrO+BaO):9.0〜18.0%。
【請求項6】
前記ガラス板の50〜350℃における熱膨張係数が25×10−7〜40×10−7/℃である請求項4または5に記載のガラス板。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39324(P2007−39324A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185587(P2006−185587)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】