説明

無アルカリガラス基板、並びにその製造方法及び製造装置

【課題】製品である液晶パネルの歩留まりを向上することができる無アルカリガラス基板を提供すること。
【解決手段】液晶パネル用の無アルカリガラス基板において、フッ酸(HF):5.3質量%、フッ化アンモニウム(NHF):35.8質量%、残部:水からなるバッファードフッ酸の溶液中に25℃、20分間浸漬した後のヘイズ値が7.0%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルに用いられる無アルカリガラス基板、並びにその製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル用のガラス基板には、通常、アルカリ金属酸化物を実質的に含まない無アルカリガラス基板が用いられる。ガラス基板上には、フォトリソグラフィ技術やエッチング技術を用いて種々のパターンが形成される。例えば、薄膜トランジスタ(TFT)やカラーフィルター(CF)が形成される。
【0003】
このような液晶パネルの製造工程において、ガラス基板をバッファードフッ酸(BHF)でエッチング処理することがある。その際、溶液中のアンモニウムイオンがガラスと反応して、ガラス表面を白濁化することがある。
【0004】
そこで、近年、ガラス表面の白濁化を防止するため、マグネシウム酸化物を実質的に含まない無アルカリガラス基板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−58421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、無アルカリガラス基板のガラス組成について言及があるが、無アルカリガラス基板の製造方法について説明がない。
【0007】
無アルカリガラス基板の製造方法としては、例えばフロート法が知られている。フロート法は、フロートバス内の溶融錫上に溶融ガラスを流出して帯板状のガラスリボンに成形し、成形したガラスリボンを徐冷炉内に搬送し、徐冷した後に切断して所定の大きさのガラス基板を製造する方法である。
【0008】
フロートバス内には、通常、溶融錫の酸化を防止するため、窒素及び水素を含む還元性ガスが供給される。水素は、フロートバス内に混入した酸素と反応して水になる性質があるので、フロートバス内の雰囲気中の酸素濃度を低下させる役割を果たす。
【0009】
フロートバス内に供給された還元性ガスは、ガラスリボン搬入口を介して、徐冷炉内に流入する。また、徐冷炉内には、ガラスリボン搬出口の他、意図しない炉内と炉外を連通する隙間(例えば、炉壁に設けられる開口部の内周と該開口部に挿通されるロールの外周との間の隙間)を介して外部から空気が流入する。これらの空気の流入量と還元性ガスの流入量とのバランスによって、徐冷炉内の雰囲気中の酸素濃度が決まる。
【0010】
徐冷炉内の雰囲気中の酸素濃度がガラスリボン搬入口付近で高過ぎると、液晶パネルの製造工程でのバッファードフッ酸によるエッチング処理時に、ガラス表面が白濁化する傾向がある。ガラス基板が白濁化すると、製品である液晶パネルの歩留まりが低下する。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、製品である液晶パネルの歩留まりを向上することができる無アルカリガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を解決するため、本発明の無アルカリガラス基板は、
液晶パネルに用いられる無アルカリガラス基板において、
フッ酸(HF):5.3質量%、フッ化アンモニウム(NHF):35.8質量%、残部:水からなるバッファードフッ酸の溶液中に25℃、20分間浸漬した後のヘイズ値が7.0%以下である。
【0013】
また、本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、
溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形する成形工程と、
成形した前記ガラスリボンを徐冷炉内に搬送し、徐冷する徐冷工程とを有し、
前記徐冷工程では、前記徐冷炉内にて750〜500℃の前記ガラスリボンが曝される雰囲気中の酸素濃度を3.0体積%以下とする。
【0014】
また、本発明の無アルカリガラス基板の製造装置は、
溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形する成形炉と、
成形した前記ガラスリボンを徐冷する徐冷炉とを備え、
前記徐冷炉内にて750〜500℃の前記ガラスリボンが曝される雰囲気中の酸素濃度が3.0体積%以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製品である液晶パネルの歩留まりを向上することができる無アルカリガラス基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態における無アルカリガラス基板の製造方法の工程図である。
【図2】本発明の一実施形態における無アルカリガラス基板の製造装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0018】
液晶パネル用のガラス基板には、通常、アルカリ金属酸化物を実質的に含まない無アルカリガラス基板が用いられる。ガラス基板上には、フォトリソグラフィ技術やエッチング技術を用いて種々のパターンが形成される。例えば、薄膜トランジスタ(TFT)やカラーフィルター(CF)が形成される。このような液晶パネルの製造工程において、ガラス基板をバッファードフッ酸(BHF)でエッチング処理することがある。
【0019】
本実施形態の無アルカリガラス基板は、フッ酸(HF):5.3質量%、フッ化アンモニウム(NHF):35.8質量%、残部:水からなるバッファードフッ酸の溶液中に25℃、20分間浸漬した後のヘイズ値が7.0%以下(好ましくは5.0%以下、より好ましくは1.0%以下)である。
【0020】
ここで、ヘイズ値とは濁度を表す値であり、ランプにより照射され、試料中を透過した全透過率Tと、試料中で散乱された光の透過率Sにより、ヘイズ値H=S/T×100として求められる。これらはJIS K 7136に規定されており、市販のヘイズメータにより測定可能である。
【0021】
本実施形態の無アルカリガラス基板は、液晶パネルの製造工程でのバッファードフッ酸によるエッチング処理時に白濁化し難いので、製品である液晶パネルの歩留まりを向上することができる。
【0022】
無アルカリガラス基板のガラス組成は、一般的なものであって良い。例えば、ガラス組成は、SiO:50〜66質量%、Al:10.5〜22質量%、B:0〜12質量%、MgO:0〜8質量%、CaO:0〜14.5質量%、SrO:0〜24質量%、BaO:0〜13.5質量%であって、且つ、MgO+CaO+SrO+BaO:9〜29.5質量%であって良い。
【0023】
無アルカリガラス基板の厚さは、薄型化及び/又は軽量化の観点から、通常、0.8mm以下であり、好ましくは0.3mm以下であり、さらに好ましくは0.15mm以下である。0.8mmを超える場合、薄型化及び/又は軽量化の要求を満たせない。0.3mm以下の場合、無アルカリガラス基板に良好なフレキシブル性を与えることが可能である。0.15mm以下の場合、無アルカリガラス基板をロール状に巻き取ることが可能である。また、無アルカリガラス基板の厚さは、無アルカリガラス基板の製造が容易であること、無アルカリガラス基板の取り扱いが容易であること等の理由から、0.04mm以上であることが好ましい。
【0024】
図1に、本実施形態の無アルカリガラス基板の製造方法の工程図を示す。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の無アルカリガラス基板の製造方法は、溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形する成形工程(ステップS10)と、成形したガラスリボンを徐冷炉内に搬送し徐冷する徐冷工程(ステップS12)とを備える。
【0026】
成形工程(ステップS10)では、溶融ガラスをフロートバス内の溶融錫上に流出して帯板状のガラスリボンに成形する。また、成形工程では、溶融錫の酸化を防止するため、フロートバス内に窒素及び水素を含む還元性ガスを供給する。
【0027】
徐冷工程(ステップS12)では、徐冷炉内にて750〜500℃のガラスリボンが曝される雰囲気中の酸素濃度Dを3.0体積%以下(好ましくは2.0体積%以下、より好ましくは1.0体積%以下)とする。なお、酸素濃度Dの調節方法については、後述する。
【0028】
図2に、本実施形態の無アルカリガラス基板の製造装置の要部断面図を示す。
【0029】
図2に示すように、本実施形態の無アルカリガラス基板の製造装置は、溶融ガラス10を帯板状のガラスリボン10Aに成形する成形炉(フロートバス)20と、成形したガラスリボン10Aを徐冷する徐冷炉30とを備える。フロートバス20と徐冷炉30とは接続されており、接続部分にてフロートバス20内と徐冷炉30内とが連通している。徐冷炉30内は、ガラスリボン搬出口34にて大気に開放されている。
【0030】
フロートバス20は、フロートバス20内の溶融錫22上に溶融ガラス10を流出して帯板状のガラスリボン10Aに成形する。フロートバス20内には、溶融錫22の酸化を防止するため、窒素及び水素を含む還元性ガスが供給される。水素は、フロートバス20内に混入した酸素と反応して水になる性質があるので、フロートバス20内の雰囲気中の酸素濃度を低下させる役割を果たす。
【0031】
徐冷炉30は、成形したガラスリボン10Aを徐冷炉30内に搬送する搬送手段40を備える。
【0032】
搬送手段40は、徐冷炉30内に搬送したガラスリボン10Aをガラスリボン搬入口32からガラスリボン搬出口34に搬送する。搬送手段40は、例えば図2に示すように、電動モータ等により回転駆動されるロール42等により構成されて良い。この場合、ガラスリボン10Aは、ロール42上を搬送される。ロール42は、徐冷炉30の炉壁36に設けられた開口部38から炉内に挿入され、ガラスリボン10Aの搬送方向(図2中、矢印A方向)に沿って配列されている。尚、複数のロール42の一部は、従動的に回転するロールであっても良い。
【0033】
本実施形態では、徐冷炉30内にて750〜500℃のガラスリボン10Aが曝される雰囲気中の酸素濃度Dを3.0体積%以下(好ましくは2.0体積%以下、より好ましくは1.0体積%以下)とする。酸素濃度Dの調節は、意図しない炉外と炉内とを連通する隙間を変化させることにより実現される。意図しない炉外と炉内とを連通する隙間としては、例えば、炉壁36に設けられる開口部38の内周と該開口部38に挿通されるロール42の外周との間の隙間、炉壁36を構成する煉瓦ブロック同士の隙間などがある。
【0034】
ところで、徐冷炉30内の雰囲気中の酸素濃度がガラスリボン搬入口32付近で高過ぎると、液晶パネルの製造工程でのバッファードフッ酸によるエッチング処理時に、ガラス表面が白濁化する傾向がある。ガラス基板が白濁化すると、製品である液晶パネルの歩留まりが低下する。
【0035】
本実施形態では、徐冷炉30内にて750〜500℃のガラスリボン10Aが曝される雰囲気中の酸素濃度Dを3.0体積%以下とするので、バッファードフッ酸によるエッチング処理時にガラス表面が白濁化し難い無アルカリガラス基板を得ることができる。なお、徐冷炉30内にてガラスリボン10Aが750〜500℃となる領域は、徐冷炉30内のガラスリボン搬入口32付近の領域である。
【0036】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0037】
例えば、上述した実施形態において、フロート法による無アルカリガラス基板の製造方法及び製造装置について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明をフュージョン法による無アルカリガラス基板の製造方法及び製造装置に適用しても良い。この場合、成形炉は、断面くさび状の成形体の両側面に沿って溶融ガラスを流下し成形体の下縁部直下で合流して一体化し、下方に引き延ばして帯板状のガラスリボンに成形する。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0039】
(試験例1〜8)
試験例1〜8では、図2に示す製造装置を用いてガラスリボンを徐冷した後、ガラスリボンの幅方向中央部から試験片を切り出した。これらの試験片の形状は、いずれも、長さ100mm、幅40mm、厚さ0.7mmとした。また、これらの試験片のガラス組成は、いずれも、市販の無アルカリガラス基板(旭硝子社製、AN100)と同一組成とした。
【0040】
(徐冷炉内の雰囲気中の酸素濃度)
試験例1〜8では、徐冷炉の炉壁に設けられる開口部の内周と該開口部に挿通されるロールの外周との間の隙間をスペーサによって徐々に狭くする手法を用いて、徐冷炉内にて750〜500℃のガラスリボンが曝される雰囲気中の酸素濃度Dを調節した。該酸素濃度Dとして、750〜500℃のガラスリボンの上方10mmの位置の酸素濃度を酸素濃度計(HORIBA社製、NZ3000)により測定した。測定点のピッチは、ガラスリボンの幅方向に平行な方向について100mmとし、ガラスリボンの長手方向に平行な方向についてガラスリボンの幅方向中央温度が50℃変わる距離とした。尚、ガラスリボンの温度分布は、赤外線温度計(NEC/AVIO社製、TH9100)により測定した。
【0041】
(ヘイズ値)
試験片をフッ酸(HF):5.3質量%、フッ化アンモニウム(NHF):35.8質量%、残部:水からなるバッファードフッ酸の溶液中に25℃、20分間浸漬し、洗浄した後、ヘイズ値Hをヘイズメータ(スガ試験機社製、HZ−2)により評価した。
【0042】
酸素濃度Dの測定結果及びヘイズ値Hの評価結果を、表1及び表2に示す。なお、表1及び表2には、各試験例1〜8における酸素濃度Dの測定値のうち最大値のみを示す。試験例1〜3は、本発明の実施例であり、試験例4〜8は、本発明の比較例である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

表1〜表2から、酸素濃度Dが3.0体積%以下の場合、ヘイズ値Hが7.0%以下になることが分かる。また、酸素濃度Dが2.0体積%以下の場合、ヘイズ値Hが5.0%以下になることが分かる。さらに、酸素濃度Dが1.0体積%以下の場合、ヘイズ値Hが1.0%以下になることが分かる。
【符号の説明】
【0045】
10 溶融ガラス
10A ガラスリボン
20 成形炉(フロートバス)
22 溶融錫
30 徐冷炉
36 炉壁
38 開口部
40 搬送手段
42 ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶パネルに用いられる無アルカリガラス基板において、
フッ酸(HF):5.3質量%、フッ化アンモニウム(NHF):35.8質量%、残部:水からなるバッファードフッ酸の溶液中に25℃、20分間浸漬した後のヘイズ値が7.0%以下である無アルカリガラス基板。
【請求項2】
溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形し、成形した前記ガラスリボンを徐冷炉内に搬送し、徐冷してなるものであって、
前記徐冷炉内にて750〜500℃の前記ガラスリボンが曝される雰囲気中の酸素濃度を3.0体積%以下とした請求項1に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項3】
請求項1に記載の無アルカリガラス基板の製造方法であって、
溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形する成形工程と、
成形した前記ガラスリボンを徐冷炉内に搬送し、徐冷する徐冷工程とを有し、
前記徐冷工程では、前記徐冷炉内にて750〜500℃の前記ガラスリボンが曝される雰囲気中の酸素濃度を3.0体積%以下とする無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程では、前記溶融ガラスをフロートバス内の溶融錫上に流出して帯板状の前記ガラスリボンに成形すると共に、前記フロートバス内に窒素及び水素を含む還元性ガスを供給し、
前記徐冷工程では、前記徐冷炉の炉壁に設けられる開口部の内周と該開口部に挿通されるロールの外周との間の隙間を調節することにより、前記酸素濃度を3.0体積%以下とする請求項3に記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の無アルカリガラス基板の製造装置であって、
溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形する成形炉と、
成形した前記ガラスリボンを徐冷する徐冷炉とを備え、
前記徐冷炉内にて750〜500℃の前記ガラスリボンが曝される雰囲気中の酸素濃度が3.0体積%以下である無アルカリガラス基板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−157234(P2011−157234A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20750(P2010−20750)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】