説明

無堰多孔板塔およびこれを用いた易重合性化合物の蒸留方法

【課題】 (メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性化合物を蒸留する際に一般に用いられている無堰多孔板塔は、分離精製される液が飛沫となって蒸気に含まれ、その結果 蒸留塔の留出液に分離精製されるべき成分が留出してきて、分離性能が低下するという問題があった。
【解決手段】 無堰多孔板塔の塔頂部より取り出した留出液の一部を還流液として該塔に戻す際に、該還流液の供給位置より下部であって塔頂部に近く、原料供給段より上部の多孔板1段の間隔の1/2以上に相当する箇所に、無堰多孔板の代わりに充填物を設置することを特徴とする無堰多孔板塔を用いて、易重合性化合物を蒸留することにより、飛沫同伴を抑制し、かつ、重合物が生成するのを抑制、防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無堰多孔板を有する無堰多孔板塔、および該無堰多孔板塔を用いて易重合性化合物または易重合性化合物含有液(以下、単に「易重合性化合物等」と表現する)の蒸留を行う方法に関するものである。
詳しくは、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性化合物等を、重合物の生成を効果的に防止し、かつ重合物、原料中に含まれているスラッジ類の蓄積を抑制して、長期にわたり安定して蒸留することができるようにした、無堰多孔板を有する無堰多孔板塔、および該無堰多孔板塔を用いた蒸留方法に関するものである。
なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸をいい、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルをいう。
【背景技術】
【0002】
従来より、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルなどの易重合性化合物等を工業的に蒸留する際は、構造の単純さと洗浄の容易性から無堰多孔板塔が広く用いられている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
一方で、無堰多孔板塔は、分離精製される液が飛沫となって蒸気に含まれ、その結果、蒸留塔の留出液に分離精製されるべき成分が留出してきて分離性能が悪化する飛沫同伴という現象が起こりやすいという問題点があった。
【0003】
飛沫同伴は、運転圧力を低下させる(減圧下で蒸留をおこなう)、あるいは、蒸発量を増して蒸気量が増加する等の運転条件の変更をおこなうと、蒸留塔内の蒸気線速度が増加するのに伴い増加する。
飛沫同伴の増加により分離性能が低下し運転困難となった場合は、運転圧力を増加させる、あるいは、蒸発量を減少させなければならず、所定の蒸留塔能力および分離能力が得られないという新たな問題点が生じる。
【0004】
一方で、特許文献4に示されている充填物からなる充填塔にて易重合性化合物等を蒸留する場合には、非特許文献1に示されているように多孔板を用いる場合より、飛沫同伴の少ないことが知られている。しかし、充填物内で重合物が生成した場合の重合物の除去や洗浄性に問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−300903号公報
【特許文献2】特開2003−33601号公報
【特許文献3】特開2005−232008号公報
【特許文献4】特開2003−176253号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】長浜邦雄監修、「高純度化技術体系 第2巻分離技術」、フジ・テクノシステム、1997年2月21日、初版第1刷発行、153頁および163頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した技術はいずれも、飛沫同伴による分離の悪化や重合防止等の面において、工業的な規模から見て改善の余地を残すものである。
そこで、本発明の目的は、易重合性化合物等を蒸留する際に重合物の生成を防止することができ、かつ飛沫同伴を抑制できる。安価な蒸留方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記問題点に鑑み、上記目的を達成すべく比較的安価な無堰多孔板塔を用いる蒸留方法につき鋭意研究を重ねた結果、還流液の供給位置より下の塔頂部付近で、原料供給段より上部の多孔板に充填物を設置することで飛沫同伴を抑制し、かつ、易重合性化合物などを蒸留した際、重合物が生成するのを抑制または防止することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に記載の通りである。
(1) 無堰多孔板を複数段棚段状に設置した蒸留塔であって、該蒸留塔の塔頂部より取出した留出液の一部を還流液として該蒸留塔に戻す際に、該還流液の供給位置より下部であって塔頂部に近く、原料供給段より上部の多孔板1段の間隔の1/2以上に相当する箇所に、無堰多孔板の代わりに充填物を設置することを特徴とする無堰多孔板塔。
(2) 無堰多孔板を充填物の押えに使用することを特徴とする(1)に記載の無堰多孔板塔。
(3) 充填物が、ラシヒリング、ポールリング、インタロックサドル、カスケードミニリングから選ばれた一種以上の不規則充填物である(1)または(2)に記載の無堰多孔板塔。
(4) 無堰多孔板が等間隔に設置されている場合であって、設置間隔の0.5〜3倍の充填高さに充填物が充填されている(1)〜(3)のいずれか1項に記載の無堰多孔板塔。
(5) 無堰多孔板が、平板に貫通孔を複数有するものであって、孔径[mm]が4〜25、ピッチ比(P/d)が1.5〜4である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の無堰多孔板塔。
(6) (1)〜(5)のいずれか1項に記載の無堰多孔板塔を用いて、易重合性化合物または易重合性化合物含有液を蒸留することを特徴とする易重合性化合物の蒸留方法。
(7) (6)に記載する易重合性化合物が(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする易重合性化合物の蒸留方法。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明にあっては、塔頂部の一部に充填物を設置した無堰多孔板塔を用いて易重合性化合物等を蒸留することにより、かかる飛沫同伴量を従来の方法と比較して大幅に減少させることができる。
また、本発明の蒸留においては、重合物やスラッジを実質含まない還流液が主な降下液となり、かつ、還流液を該塔に戻す際に、適切な重合防止剤を添加することにより、該塔内で重合物が生成するのを効果的に抑制、防止することができる。
このため、連続運転の場合でも、操業を中止して、人為的あるいは化学的にこれら重合物を除去する回数を低減することが可能である。
【0011】
請求項2に記載の発明にあっては、請求項1に記載の無堰多孔板塔において、前記無堰多孔板塔の塔頂部の無堰多孔板の下段に充填物を設置することを特徴とするものであり、塔頂部の無堰多孔板が、充填物の移動を防ぐ効果を有し、蒸留の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる無堰多孔板の孔の配列が正三角形配列の場合の無堰多孔板の様子を模式的に示した概略図である。
【図2】本発明にかかる塔内に充填物を有した無堰多孔板塔の実施例の概略図である。
【図3】従来から用いられている無堰多孔板塔の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態につき、図面を用いて詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、例示以外についても本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。
【0014】
本発明にかかる無堰多孔板の実施態様として、孔の配列が三角形配列の場合の無堰多孔板の概略図が図1である。本発明にかかる無堰多孔板には、複数個の実質的に均一な孔径d[mm]を持つ孔が、下記の条件を満たすように、相互に実質的に等間隔P(ピッチ:隣どうしの孔の中心と中心との距離の中で一番短い長さのこと)[mm]で正三角形、正方形または二等辺三角形配列になるように設けられている。
【0015】
本発明にかかる無堰多孔板は、孔径d[mm]が4〜25、ピッチ比(P/d)が1.5〜4であることが好ましい。
また、開孔比(孔の開口面積の総合計[mm2]/多孔板塔の断面積[mm2])は5〜35%であることがより好ましい。
【0016】
本発明にかかる無堰多孔板は、無堰多孔板の端部にまで気液を有効に流動させて無堰多孔板上の液体の滞留部分を少なくするため、無堰多孔板の固定部分を考慮して、できる限り外側まで孔を配置することが望ましい。
【0017】
本発明にかかる無堰多孔板は、1枚のもの、あるいは、複数枚に分割されたものを組み合わせたものを使うこともできる。無堰多孔板を塔本体に固定するサポートリングはトレイを固定できるように幅が20〜100mmのものが採用される。
【0018】
本発明にかかる無堰多孔板の孔の形状は、特に制限されるものではないが、円形、楕円形、三角形、四角形、その他の多角形など任意の形態を採用できる。
一般的なレーザーカッター、パンチングプレスやドリルなどを用いて簡単に所定の孔径の孔を形成することから、好ましい形状は円形である。孔を加工する際に生じる縁部分の反りなどによる突起やバリは、除去することが好ましい。
【0019】
本発明にかかる無堰多孔板の板厚は、通常2〜8mm、好ましくは2〜4mmの範囲内である。
板厚が2mm未満では、強度的な問題から多くの補強が必要であり、多孔板のたわみや振動により、無堰多孔板上に液勾配が生じる等の問題が起こる。
また、板厚が8mmを超えると、孔開けが困難になり、多孔板の1枚あたりの重量が重くなり、取扱いが不便になるばかりでなく、製作費・材料費とも割高となり、経済的でない。
【0020】
本発明にかかる無堰多孔板塔の無堰多孔板は、複数段を棚段状に設置する。その設置間隔H[mm]は、150〜915、より好ましくは200〜400の範囲内である。
この設置間隔が150未満では、飛沫同伴が急激に起こりやすくなる。一方、この設置間隔が915より長くなると飛沫同伴は減少するが、無堰多孔板塔の全体の高さが大きくなり、建設費が増加するために経済的ではない。
なお、無堰多孔板は、等間隔に設置しても、棚毎または複数の棚の途中から異間隔で設置してもよいが、蒸留効率と塔のメンテナンスのしやすさ、製作費・材料費の点から等間隔に設置されていることが好ましい。
【0021】
かかる無堰多孔板は、平板に孔を複数有する平板式無堰多孔板でも、断面形状が波型で孔を複数有する波板式無堰多孔板でもよい。また、波板式の場合における波の形状は、正弦波のような曲線でも、パルス波のような直線斜面状でもよい。平板式無堰多孔板と波板式無堰多孔板を適宜組み合わせて用いても良い。
本発明においては、構造の単純さと作製のしやすさ、メンテナンスの容易さから平板式無堰多孔板が好ましい。
【0022】
無堰多孔板の材質は、取り扱う易重合性化合物および含有される化合物に対する耐食性、耐久性、等の液特性等から適宜選択すればよい。例えば、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS317L、SUS327、ハステロイ等が例示される。
【0023】
本発明の無堰多孔板塔には、前述したように無堰多孔板を複数段設置する。段数は重合性化合物等の蒸留効率や分離効率によって適宜選択できる。すなわち、要求される分離性能、蒸留塔の形式、取り扱い物質の物性を基に、経験則あるいは蒸留計算のシミュレータ等により決定される。一般的に、好ましい段数は、4〜60段である。
【0024】
本発明にかかる充填物は、不規則充填物および規則充填物のどちらも採用することが可能である。
不規則充填物には、ラシヒリング、ポールリング、インタロックサドル、カスケードミニリング、フレキシリング、ヘリパックなどに代表される不規則充填物が利用できる。
一方、規則充填物には、MCパック、スルーザーパッキング、エスフロー、テクノパックなどに代表される規則充填物が利用できる。
充填物の種類により、飛沫同伴の防止性能に違いはあるもの、蒸留塔の運転条件を考慮して適宜充填物を用いることで、無堰多孔板と比べて良好な飛沫同伴の防止性能を得ることができる。
かかる充填物の材質は、無堰多孔板と同様にステンレスやハステロイ、セラミック、ガラス等適宜用いることができる。
易重合性化合物の重合の起こりやすさと、起こった場合のメンテナンスのし易さから、不規則充填物を用いるのが好ましい。好ましい不規則充填物としては、ラシヒリング、ポールリング、インタロックサドル、カスケードミニリングから選択された一種以上であり、さらに好ましくは、ラシヒリング、ポールリング、カスケードミニリングから選択された一種以上である。
【0025】
本発明にかかる充填物の充填高さとしては、無堰多孔板塔の無堰多孔板の設置間隔Hの0.5倍以上である。好ましくは、設置間隔の0.5〜3倍である。この範囲であれば、驚くべきことに長時間、例えば3か月間の長期に渡る運転において、充填物層で重合等が生じないか、または運転に支障があるほど発生しない。
設置間隔が0.5倍未満の場合、飛沫同伴の抑制の点で十分な効果を得ることができない。3倍を超える場合には、万一、重合等が発生した際に、除去等に手間がかかり実用的でない。
なお、充填高さが整数倍でない場合は、充填物の上部に空間がある場合であり、充填物が流動しやすく、かつ充填物に偏りが生じたり、充填物が破損する危険性があるため、充填物押え(ホールドダウンプレート、ホールドダウングリッド)を設置する。
【0026】
本発明において充填物が落下することを防止する充填物サポートは、一般的にグレーチング型やノートン型のものが使用される。
不規則充填物が上昇蒸気により、動くことを防ぐために用いられる充填物押えは、一般的に用いられるグレーチング型のものが使用されるが、無堰多孔板を使用することが可能である。
無堰多孔板で蒸留塔を設計、建設し、運転を開始してから飛沫同伴が顕著であることが判明し、蒸留塔を改造する場合には、該無堰多孔板の開孔比が使用可能範囲である場合には、該無堰多孔板をホールドダウンプレートとして転利用することは好ましい方法である。
また、充填物の直上に無堰多孔板を設置することで、液分散が良くなり、充填物用の液ディストリビュータを設置することが不要となる利点がある。
【0027】
次に、上記無堰多孔板による蒸留方法について図2および図3を用いて説明する。
無堰多孔板塔201には、塔の中段部を含めて組成の異なる蒸留原料207および重合防止剤等が適宜供給される。なお、図2および図3は供給が中段部のみの例である。
塔頂から抜き出された塔頂蒸気210は、コンデンサー204に接続され、蒸気を凝縮させた後に留出液受槽205に受け、それから留出液208と還流液209に振り分けられ、塔頂部近傍より還流液209として無堰多孔板塔201に戻される。
一方、塔底部より抜き出された塔底液213はリボイラー206に接続され、一部を蒸発させて、無堰多孔板塔201に蒸気212として戻される。残りの液は缶出液211として系外に抜き出される。
【0028】
本発明にかかる充填物は図2の例によれば、充填物の落下を防止する充填物サポート216を取り付けて充填物を充填する。そして、図2の7段目の無堰多孔板は充填物が動くことを防止するホールドダウングリッドとして機能する。
該充填物サポートは、例えば図3の7段目に相当するトレイサポートの上に取り付ければよい。その際は、図3の8段目に相当する無堰多孔板は充填物が動くことを防止するホールドダウングリッドとして機能する。
【0029】
本発明にかかる蒸留方法は、特に易重合性化合物ないしは易重合性化合物含有液の蒸留に好適に用いられるものである。
これは、本発明の無堰多孔板塔が蒸留の際に分離性能に優れる装置構成であり、かつ蒸留時に重合物の生成防止効果に優れる装置構成でもあるためである。
易重合性化合物等を蒸留する上で特に顕著な効果を発揮し得る。
【0030】
本発明にかかる蒸留には、上記易重合性化合物の精製操作、共沸脱水操作、放散操作、溶剤分離操作および吸収操作が包含される。
具体的には、粗製の易重合性化合物を蒸留して精製する操作、易重合性化合物含有液から高沸点の触媒成分、易分解成分やポリマー、スラッジ等所定の化合物を分離除去するための蒸留操作などが含まれる。
この場合は特に、飛沫同伴の削減による操業上の有利な効果をもたらす。なぜなら、同伴する物質には、触媒成分や易分解成分や、重合による閉塞を促進するポリマーやスラッジが含まれており、後工程にて分解反応を促進させるからである。また飛沫同伴は分離性能を低下させるからである。
【0031】
本発明にかかる易重合性化合物の代表例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸およびそれらのアルキルエステルもしくはシクロアルキルエステル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等の多官能の(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
本発明の蒸留に用いられる易重合性化合物としては、重合性が大きく、また飛沫同伴しやすい点から、アクリル酸またはアクリル酸エステルを選択した場合に効果が大きく、好ましい。
【0032】
本発明に用いられる重合防止剤としては、重合性液体の取扱いの際に一般的に用いられているフェノチアジン等の芳香族アミン化合物、ハイドロキノンおよびメトキシハイドロキノン等のフェノール類化合物、炭酸銅、塩化銅等の銅系化合物、ニトロソ化合物、チオ尿素化合物等が挙げられる。
また、重合防止剤として窒素希釈酸素や空気も広く用いられる。重合性液体内に溶存する酸素もまた、重合防止の大きな効果を有する。
【0033】
本発明における易重合性化合物含有液は、例えば易重合性化合物が液状物に溶解したものである。かかる液状物としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルイソブチルケトン等の水との共沸溶剤、酢酸エステル類、アルコール類、水、その混合物が例示される。
エステル交換反応で目的の(メタ)アクリル酸エステルを製造する場合には、原料成分である(メタ)アクリル酸エステルやアルコールも液状物に含めて良い。
【0034】
以下、本発明について実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0035】
○実施例1
無堰多孔板塔として、図2に示す全段数7段、濃縮部3段、供給段を含めた回収部4段、6段目と7段目の間にノートン型充填物サポートに不規則充填物を7段目の多孔板の下まで1段分にわたり空間を作らないように充填して使用した。該塔には、コンデンサーおよびリボイラーが設置されている。
易重合性化合物であるアクリル酸ジメチルアミノエチル(以下「DA」と表現する)62重量%およびアクリル酸イソブチル(以下「IBA」と表現する)15重量%、ジメチルアミノエタノール(以下「DMAE」と表現する)10重量%、触媒成分10重量%、マイケル付加物・ポリマー・スラッジ等のガスクロマトグラフ未検出分3重量%からなる蒸留原料を、3,600kg/時間で、該無堰多孔板塔に供給し、塔頂からDA66重量%、IBA20重量%、DMAE14%を含む留出液を2,600kg/時間で得た。
一方、還流液は260kg/時間で、還流液中の重合防止剤濃度が50ppmとなるように調整した。留出液中の触媒成分を分析した結果、検出限界以下であった。
引き続き、その留出液中のDMAEおよびIBAを蒸留にて除去した結果、純分99.9重量%のDAを得ることができた。
引き続き4カ月の運転をおこなったが、圧力の上昇や純分の低下は認められなかった。
なお、蒸留塔の構造に関する条件は以下のようになっている。
無堰多孔板の孔の配列:正三角形配列
孔径d:8mm
ピッチP:15.2mm
ピッチ比(P/d):1.9
開孔比:14%
板厚:3mm
塔径:1,100mm
塔頂圧力:4.0kPa
塔頂温度:75℃
段間隔:350mm
不規則充填物:カスケードミニリング(2P)
【0036】
○比較例1
実施例1と同様の条件で図3に示す全段8段から無堰多孔板塔にて蒸留を行った。その結果、留出液中の触媒成分の濃度は20ppmであった。
実施例1と同様に、その留出液を用いてDMAEおよびIBAを蒸留にて除去しようとしたが、分解が発生し、DA純分が99.8重量%以上とすることはできなかった。
【0037】
○比較例2
実施例1と同じ条件で全てをカスケードミニリング(2P)による不規則充填に交換した充填物塔にて蒸留を行った。その結果、留出液中の触媒成分は検出限界以下となったが、回収部の差圧が次第に大きくなり、2ヶ月の運転で停止して、蒸留塔を洗浄しなければならなくなった。
【0038】
○実施例2
無堰多孔板塔としては図2に記載したものであるが、全段数30段、濃縮部20段、供給段を含めた回収部10段、塔底から数えて30段目と27段目の間にノートン型充填物サポートに不規則充填物を30段目の多孔板の下まで3段分にわたり空間を作らないように充填して使用した。
該塔には、コンデンサーおよびリボイラーが設置されている。
易重合性化合物をアクリル酸n−ブチル(以下「BA」と表現する)95.5重量%およびブトキシプロピオン酸2.6重量%、ポリマー・スラッジ等のガスクロマトグラフ未検出分1.9重量%からなる蒸留原料を3,700kg/時間で、無堰多孔板塔に供給した。塔頂より留出を3,000kg/時間で回収し、純分99.9重量%のBAを得ることができた。
回収した留分のうちで還流液として800kg/時間を該多孔板塔に供給した。この際、重合防止剤として、メトキシハイドロキノン10ppmを還流液に添加した。
この状態を4か月継続したが、圧力の上昇や純分の低下は認められなかった。
なお、蒸留塔の構造に関する条件は以下のようになっている。
無堰多孔板の孔の配列:正三角形配列
孔径d:4mm
ピッチP:8mm
ピッチ比(P/d):2.0
開孔比:12%
板厚:3mm
塔径:1,300mm
塔頂圧力:5.4kPa
塔頂温度:70℃
段間隔:300mm
不規則充填物:ラシヒリング 1−1/2インチ
【0039】
○比較例3
実施例2と同じ条件であるが、全てをラシヒリング 1−1/2インチによる不規則充填物に交換した充填物塔にて蒸留を行った。その結果、回収部の差圧が次第に大きくなり、1ヶ月の運転で停止して洗浄をしなければならなくなった。
【0040】
○実施例3
無堰多孔板塔としては図2に記載したものであるが、全段数30段、濃縮部15段、供給段を含めた回収部15段、塔底から数えて30段目と29段目の間にノートン型充填物サポートに不規則充填物を30段目の多孔板の下まで1段分にわたり空間を作らないように充填して使用した。
該塔には、コンデンサーおよびリボイラーが設置されている。
易重合性液体として、アクリル酸55重量%、酢酸2重量%を含むアクリル酸水溶液を用い、共沸溶剤としてトルエンを用いて、無堰多孔板塔で脱水蒸留をおこなった。
初めにトルエンを供給し、該塔を安定させた後、15段目のトレイにアクリル酸水溶液を1,000kg/時間で、30段目のトレイにトルエンを3,000kg/時間でそれぞれ供給した。
塔頂圧力は14.0kPaであり、重合防止剤としてハイドロキノンおよびフェノチアジンを、塔内の降下液中のハイドロキノン濃度が600ppm、フェノチアジン濃度が400ppmになるように調整しながら添加した。
塔頂部から留出した留出液は、デカンタで水分を分離した後、全量を還流液として無堰多孔体塔に戻した。
塔頂部の圧力を15kPa、塔底部の液の温度を82℃とし、連続して運転しところ、塔底かの缶出液は、アクリル酸が80%、水0.6%、トルエン15%となっており、脱水蒸留されていた。
運転を4か月間継続したが、圧力の上昇や純分の低下は認められなかった。
なお、蒸留塔の構造に関する条件は以下のようになっている。
無堰多孔板の孔の配列:正三角形配列
孔径d:15mm
ピッチP:32mm
ピッチ比(P/d):2.1
開孔比:10%
板厚:3mm
塔径:1,300mm
段間隔:300mm
不規則充填物:ポールリング 38.1×38.1×0.8(径×高さ×板厚、mm)
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の蒸留方法によれば、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルのような易重合性化合物の蒸留において、分離性能に優れるとともに、蒸留時での重合物の生成防止効果に優れるため、高品位の製品が長時間にわたり、安定して製造できる。
【符号の説明】
【0042】
101…無堰多孔板
102…孔
201…無堰多孔板塔
202…濃縮部
203…回収部
204…コンデンサー
205…留出液受槽
206…リボイラー
207…蒸留原料液
208…留出液
209…還流液
210…塔頂蒸気
211…缶出液
212…塔底戻り蒸気
213…塔底液
214…無堰多孔板
215…充填物
216…充填物サポート



【特許請求の範囲】
【請求項1】
無堰多孔板を複数段棚段状に設置した蒸留塔であって、該蒸留塔の塔頂部より取出した留出液の一部を還流液として該蒸留塔に戻す際に、該還流液の供給位置より下部であって塔頂部に近く、原料供給段より上部の多孔板1段の間隔の1/2以上に相当する箇所に、無堰多孔板の代わりに充填物を設置することを特徴とする無堰多孔板塔。
【請求項2】
無堰多孔板を充填物の押えに使用することを特徴とする請求項1に記載の無堰多孔板塔。
【請求項3】
充填物が、ラシヒリング、ポールリング、インタロックサドル、カスケードミニリングから選ばれた一種以上の不規則充填物である請求項1または2に記載の無堰多孔板塔。
【請求項4】
無堰多孔板が等間隔に設置されている場合であって、設置間隔の0.5〜3倍の充填高さに充填物が充填されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の無堰多孔板塔。
【請求項5】
無堰多孔板が、平板に貫通孔を複数有するものであって、孔径[mm]が4〜25、ピッチ比(P/d)が1.5〜4である請求項1〜4のいずれか1項に記載の無堰多孔板塔。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の無堰多孔板塔を用いて、易重合性化合物または易重合性化合物含有液を蒸留することを特徴とする易重合性化合物の蒸留方法。
【請求項7】
請求項6に記載する易重合性化合物が(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする易重合性化合物の蒸留方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43116(P2013−43116A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182080(P2011−182080)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】