説明

無塵紙

【課題】発塵及びバキューム搬送時の重送トラブルが生じず、しかも製造コストがほとんど変わらない無塵紙とする。
【解決手段】3層以上の多層抄きとし、中層に繊維状PVAを混抄する。そして、多層全体のJIS P 8117に基づく透気度を、150〜500秒とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無塵紙に関するものである。特に、LSI等の半導体素子を装着する電子回路用リードフレームを重ね合わせる際の合紙として利用するに好適な無塵紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の無塵紙は、リードフレームと擦れた際や、コアのパターンに打ち抜かれる際に、発塵しないこと、無塵紙をバキューム搬送しようとした際に、その下に重ねられた無塵紙又はリードフレームが一緒に吸引(搬送)されてしまう重送トラブルが生じないこと、が要求される。
【0003】
これらの要求を満たす無塵紙としては、現在、例えば、樹脂エマルジョンを含浸させた含浸紙を、2枚以上貼り合わせたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この無塵紙は、樹脂エマルジョンを含浸させてパルプ繊維を固めることにより発塵を抑え、また、含浸紙2枚以上を貼り合せて透気度を調節することにより、バキューム搬送時の重送トラブルを防止している。
【0004】
しかしながら、この無塵紙は、樹脂エマルジョンの含浸工程を必要とするうえに、得られた含浸紙を貼り合せる工程をも必要とするため、製造コストが高くなる。
【特許文献1】特開2003−211614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主たる課題は、発塵及びバキューム搬送時の重送トラブルが生じず、しかも製造コストが高くならない無塵紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
3層以上の多層抄きとされ、中層の少なくともいずれか1層は、繊維状PVAが混抄され、多層全体のJIS P 8117に基づく透気度が、150〜500秒とされた、ことを特徴とする無塵紙。
【0007】
〔請求項2記載の発明〕
少なくともいずれか一方表面のJIS P 8119に基づく平滑度が、2〜30秒とされた、請求項1記載の無塵紙。
【0008】
〔請求項3記載の発明〕
各中層の繊維状PVAの配合率が、1〜10質量%とされた、請求項1又は請求項2記載の無塵紙。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、発塵及びバキューム搬送時の重送トラブルが生じず、発塵量を減少させしかも製造コストがほとんど変わらない無塵紙となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
〔原料パルプ〕
本無塵紙の原料となるパルプは、特に限定されない。例えば、木材パルプ、非木材パルプ、合成パルプ、古紙パルプ、などから、より具体的には、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ブリーチケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプ(MP)、化学的機械パルプ(CGP)、半化学的パルプ(SCP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP)、ソーダパルプ(AP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)等の化学的パルプ(CP)、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)等を原料とする合成パルプ、脱墨パルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)等の古紙パルプ、かすパルプ(TP)、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、ラミー等を原料とするぼろパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、ケナフパルプ等の茎稈パルプ、靭皮パルプ等の補助パルプなどから、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。
【0011】
ただし、LBKPとNBKPとでは、NBKPの方が長繊維の割合が多く、発塵量が多くなるので、NBKPよりは、LBKPを使用する方が好ましい。特に、原料パルプ全体の80質量%以上がLBKPであると、著しく発塵量が減少する。
【0012】
また、原料パルプとして、漂白パルプを使用する場合は、無塩素漂白化学パルプであるECFパルプを使用するのが好ましい。無塩素漂白化学パルプとは、分子状塩素(Cl2)を使用せずに製造した化学パルプであり、ECF(Elementary Chlorine Free)パルプとは、分子状塩素(Cl2)を使用せず、二酸化塩素(ClO2)で漂白して製造したパルプである。ECFパルプは、金属腐食性の強い塩素イオンの含有量が少ないため、銅などからなるリードフレームの腐食が防止される。また、塩素イオンの含有量が少ないと、低温焼却によってもダイオキシン類等の有機塩素化合物が生成される危険が少ないとの利点もある。さらに、リードフレームの腐食を防止するという観点からは、塩素イオンのほか、ナトリウムイオン等のあらゆるイオンが少ない方がよいため、JIS P 8133に基づく冷水抽出pHが、6以上となるようにするのが、好ましい。もっとも、冷水抽出pHが高すぎ強アルカリ領域であると、リードフレームの溶解が生じるおそれがあるため、冷水抽出pHは、14以下となるようにするのが、好ましい。
【0013】
なお、一般的である酸性の抄紙工程で硫酸バンドを使用し、薬品の歩留まりを向上させる方法があるが、この抄紙方法での紙のpHを測定すると約4付近となり硫酸イオンの影響で銅の腐食の原因となってしまうため、中性領域での抄紙が望ましい。
【0014】
〔抄紙〕
原料パルプは、公知の抄紙工程、例えば、ワイヤパート、プレスパート、ドライヤパート、サイズプレス、カレンダパートなどを経て、無塵紙とする。
ただし、本抄紙は、3層、4層、5層又はそれ以上の多層抄きとし、また、中層、すなわち、表面に位置する層以外の層の少なくともいずれか1つの層には、繊維状PVAを混抄し、多層全体のJIS P 8117に基づく透気度が、150〜500秒となるようにするのが好ましく、200〜400秒となるようにするのがより好ましく、250〜300秒となるようにするのが特に好ましい。中層の少なくともいずれか1つの層に、繊維状PVAを混抄しておくと、この繊維状PVAが、例えば、ドライヤパート等で熱を受けて、フィルム状の層となるため、透気度が高くなる。この透気度が、150秒以上となるようにすると、バキューム搬送時の重送トラブルが減少する。この重送トラブルの減少は、樹脂の含浸や含浸紙の貼り合わせ等によるものではなく、繊維状PVAの混抄によるものなので、工程増加によって製造コストが高くなるという問題も生じない。また、繊維状PVAの混抄によると、後述するように、発塵低減という効果も得られる利点がある。
【0015】
本無塵紙においては、繊維状PVAの配合量を多くし、透気度を高くしておけば、それに応じて重送トラブルも減少する。ただし、繊維状PVAの配合量を増やし過ぎると、紙の特性である吸湿性が低下し、本無塵紙とリードフレームとの間に結露が発生して、リードフレームの腐食が生じるおそれがあるため、繊維状PVAの配合は、透気度が500秒以下となるようにするのが好ましい。そして、この際には、本無塵紙の少なくともいずれか一方の表面、好ましくは両方の表面のJIS P 8119に基づく平滑度を、2〜30秒とするのが好ましい。平滑度を30秒以下としておけば、無塵紙をリードフレームと積層するために、バキューム搬送する際に、空気が無塵紙を通り抜けたとしても、無塵紙とその下に重ねられた無塵紙又はリードフレームとの間に、空気の抜け道が形成されることになるため、無塵紙が2枚重なって、あるいはリードフレームが一緒に搬送(重送)されることがなくなる。
【0016】
本無塵紙表面の平滑度の調節は、例えば、原料パルプの種類やフリーネスの調整、プレスロールやカレンダロールの圧力調整などによることができるほか、エンボス加工等を施すことによることもできる。
【0017】
さらに、本無塵紙においては、全ての中層に繊維状PVAを混抄し、かつ各中層における繊維状PVAの配合率(対各中層比)を、1〜10質量%とするのが好ましい。繊維状PVAの配合率を、1質量%以上とすることにより、発塵防止効果が得られる。他方、繊維状PVAの配合率を、10質量%以下とすることにより、吸湿性が著しく低下するのを回避することができる。
【0018】
なお、繊維状PVAは、中層だけではなく、表面層にも混抄することが考えられるが、繊維状PVAを、表面層に混抄すると、ドライヤパート等において、繊維状PVAがドライヤロール等に付着するおそれがあるため、中層だけに混抄するのが、好ましい。
【0019】
本無塵紙の発塵量は、繊維状PVAの混抄によるほか、紙力増強剤の添加によっても、低減させることができる。発塵量低減のために使用することができる紙力増強剤の種類は、特に限定されない。ただし、リードフレームの腐食防止という観点からは、pH4〜8の中性領域で効果を発揮し、乾燥紙力の向上、濾水性の向上による抄速のアップなどのメリットがある共重合系紙力増強剤を使用するのが好ましい。
【0020】
〔その他〕
本無塵紙の原料パルプには、例えば、分散剤、苛性ソーダ、アンモニア水等のpH調整剤、消泡剤、防腐剤、染料、離型剤、耐水化剤、流動変性剤、歩留まり向上剤などの適宜の薬品を添加することができる。
【実施例1】
【0021】
次に、本発明の実施例について、説明する。なお、以下の実施例においては、特に説明ない限り、「部」及び「%」とは、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味し、「kg/t」とは、パルプトンあたりの量(kg)を意味する。
【0022】
円網多層抄紙機にて、表面層、中層(3層)及び裏面(表面)層の5層構造で抄き合わせた。この表裏両面に、PVA(日本合成化学株式会社製、ゴーセノールN300)を、塗工量が片面あたり1.5g/m2(両面合計3.0g/m2)となるように、カレンダー塗工して、試験片(無塵紙)を得た。
各層の原料を、表1に示すように、変化させ、得られた各試験片について、JIS P 8117に基づく透気度、JIS P 8119に基づく平滑度、発塵量、及び重送トラブルの有無を、調べた。
【0023】
【表1】

【0024】
(1)各層は、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)を400mlに調節した。
(2)共重合系紙力増強剤として、星光PMC社製DS−4356を使用した。
(3)繊維状PVAは、原料パルプ100質量部あたりの内添量である。
(4)発塵量の試験は、SEMI規格G67−0996に基づいて行った。100μm以上の塵の個数が0〜10個の場合を◎、11〜20個の場合を○、21個以上の場合を×とした。
(5)重送トラブルの試験は、実際にバキューム搬送を行い、その際の試験片の重送の有無を調べる方法によった。重送が全く発生しなかった場合を◎、2枚目がくっつく傾向がみられたが、問題なく搬送できた場合を○、重送が発生した場合を△、重送が頻繁に発生した場合を×とした。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、例えば、LSI等の半導体素子を装着する電子回路用リードフレームやシャドウマスク等の金属薄板を重ね合わせる際の合紙として、適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の多層抄きとされ、中層の少なくともいずれか1層は、繊維状PVAが混抄され、多層全体のJIS P 8117に基づく透気度が、150〜500秒とされた、ことを特徴とする無塵紙。
【請求項2】
少なくともいずれか一方表面のJIS P 8119に基づく平滑度が、2〜30秒とされた、請求項1記載の無塵紙。
【請求項3】
各中層の繊維状PVAの配合率が、1〜10質量%とされた、請求項1又は請求項2記載の無塵紙。

【公開番号】特開2006−77339(P2006−77339A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260619(P2004−260619)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】