説明

無方向性電磁鋼板およびその製造方法

【課題】L方向の磁気特性が優れ、L方向の磁気特性がC方向の磁気特性よりも優れ、さらに、L方向に重み付けを行ったL方向とC方向とを加重平均した磁気特性を全周方向の平均磁気特性により規格化した値が大きい無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.005%以下、Si:1.5%以上4.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、sol.Al:0.4%以上3.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、平均結晶粒径が40μm以上180μm以下である鋼組織を有し、B50L≧1.680、B50L/B50C≧1.035、および{(2×B50L+B50C)/3}/{(B50L+2×B50D+B50C)/4}≧1.025を満足する磁気特性を有し、板厚が0.10mm以上0.35mm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機など、主に高効率分割鉄心型モータの固定子(ステータ)鉄心に使用することが好適な無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスを削減する必要性から、自動車、家電製品等の分野では消費エネルギーの少ない製品が開発されている。例えば、自動車分野においては、ガソリンエンジンとモータとを組み合わせたハイブリッド駆動自動車、モータ駆動の電気自動車等の低燃費自動車がある。また、家電製品分野においては、年間電気消費量の少ない高効率エアコン、冷蔵庫等がある。これらに共通する技術はモータであり、モータの高効率化が重要な技術となっている。
【0003】
上記のようなモータは多極であるケースが多く、多極モータのモータ効率は固定子(ステータ)のティース部の磁気特性の影響を大きく受けることが知られている。従来のモータでは一体打抜き型の鉄心が固定子に採用されるケースが多かった。一体打抜きの場合、各々のティース部の方向は電磁鋼板の圧延方向に対して様々な方向をとることになる。このため、一体打抜き型の鉄心材料には全周方向の磁気特性が良好な無方向性電磁鋼板が求められてきた。
【0004】
一方、近年では、固定子には巻き線設計や歩留りの面で有利な分割鉄心が採用されるケースが増加している。分割鉄心の場合、ティース部の方向を電磁鋼板の磁気特性が良好な方向、例えば圧延方向(以下、「L方向」ともいう。)に一致させることが可能となる。
【0005】
L方向の磁気特性が優れた電磁鋼板として一方向性電磁鋼板が知られている。しかしながら、一方向性電磁鋼板は圧延直角方向(以下、「C方向」ともいう。)の磁気特性が極めて悪いため、C方向にも相当量の磁束が流れる分割鉄心用材料としては適していない。さらに、このような一方向性電磁鋼板を製造するには、高温長時間の2次再結晶焼鈍や脱炭焼鈍が可能な特殊な設備を要するため製造コストが高いという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献1および特許文献2には、一方向性電磁鋼板についてC方向の磁気特性が悪いという問題を解決するために、C方向の鉄損が低減された分割鉄心用の電磁鋼板に関する技術が開示されている。
また、特許文献3〜特許文献5には、分割鉄心用の無方向性電磁鋼板に関する技術が開示されている。
【0007】
また、従来、無方向性電磁鋼板の磁気特性を高める方法として2回冷延法が知られている(特許文献6〜特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−100025号公報
【特許文献2】特開2004−100026号公報
【特許文献3】特開2008−127600号公報
【特許文献4】特開2008−127608号公報
【特許文献5】特開2008−127612号公報
【特許文献6】特開昭51−151215号公報
【特許文献7】特開昭59−74225号公報
【特許文献8】特開平11−236618号公報
【特許文献9】特開2000−17330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、分割鉄心の場合、ティース部の方向を電磁鋼板の磁気特性が良好な方向、例えば圧延方向(L方向)に一致させることが可能となる。この場合、ティース部の方向に次いで相当量の磁束が流れるヨーク部の方向が圧延直角方向(C方向)に一致する。磁束は主にL方向とC方向に流れ、特にL方向に多く流れ、圧延方向に対して45°方向(以下、「D方向」ともいう。)にはあまり流れない。したがって、分割鉄心用材料には、L方向の磁気特性が優れ、L方向の磁気特性がC方向の磁気特性よりも優れる無方向性電磁鋼板が適している。さらに、L方向に重み付けを行ったL方向とC方向とを加重平均した磁気特性を全周方向の平均磁気特性により規格化した値が大きい無方向性電磁鋼板が適している。
【0010】
ところが、特許文献1および特許文献2に開示された電磁鋼板は、C方向の鉄損を低減することを指向するものの、C方向の磁束密度については低い方が好ましいとされており、C方向にも相当量の磁束が流れる分割鉄心用材料としては適していない。また、これらの電磁鋼板を製造するには、一方向性電磁鋼板と同様に、高温長時間の2次再結晶焼鈍や脱炭焼鈍が可能な特殊な設備を要するため、製造コストが嵩むという問題を有している。
【0011】
また、特許文献3〜特許文献5には、分割鉄心用の無方向性電磁鋼板が開示されているが、L方向とD方向の磁気特性の関係、または、C方向とD方向の磁気特性の関係にのみ着目しており、L方向とC方向の磁気特性の関係について検討されていないため、分割鉄心用の無方向性電磁鋼板として適しているとはいえない。
【0012】
また、特許文献6および特許文献7に開示された無方向性電磁鋼板の製造方法は、異方性を低減することを目的とするものであり、特許文献8および特許文献9に開示された無方向性電磁鋼板の製造方法は、L方向とC方向の単純な平均磁気特性を向上させることを目的とするものであり、いずれも全周方向の磁気特性が良好な無方向性電磁鋼板を得ることを目的としている。そのため、分割鉄心用の無方向性電磁鋼板として適しているとはいえない。
【0013】
このように、分割鉄心用の電磁鋼板には、L方向の磁気特性が優れ、L方向の磁気特性がC方向の磁気特性よりも優れ、さらに、L方向に重み付けを行ったL方向とC方向とを加重平均した磁気特性を全周方向の平均磁気特性により規格化した値が大きい無方向性電磁鋼板が適しているのであるが、従来技術においては斯かる観点から詳細な検討がなされていないのが実情である。
【0014】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題はエアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機など、主に高効率分割鉄心型モータの固定子(ステータ)鉄心に使用することが好適な、L方向の磁気特性が優れ、L方向の磁気特性がC方向の磁気特性よりも優れ、さらに、L方向に重み付けを行ったL方向とC方向とを加重平均した磁気特性を全周方向の平均磁気特性により規格化した値が大きい無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく、L方向、C方向およびD方向の磁気特性について詳細に調査した。その結果、L方向の磁気特性が優れ、L方向の磁気特性がC方向の磁気特性よりも優れ、さらに、L方向に重み付けを行ったL方向とC方向とを加重平均した磁気特性を全周方向の平均磁気特性により規格化した値が大きい無方向性電磁鋼板を得るには、磁気特性の異方性を大きくすることが有効であることを見出した。そして、斯かる磁気特性を得るには、2回冷延法を採用するとともに、冷間圧延に供する熱延鋼板の板厚、冷間圧延の圧下率、中間焼鈍条件および仕上焼鈍条件を適正化することが重要であることを見出した。このような新知見に基づく本発明の要旨は以下の通りである。
【0016】
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.005%以下、Si:1.5%以上4.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、sol.Al:0.4%以上3.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、平均結晶粒径が40μm以上180μm以下である鋼組織を有し、下記式(1)〜(3)を満足する磁気特性を有し、板厚が0.10mm以上0.35mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供する。
50L≧1.680 (1)
50L/B50C≧1.035 (2)
{(2×B50L+B50C)/3}/{(B50L+2×B50D+B50C)/4}
≧1.025 (3)
(ここで、
50L:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度(T)
50C:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延直角方向の磁束密度(T)
50D:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向に対して45°方向の磁束密度(T)
である。)
【0017】
また本発明は、下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
(A)上述の化学組成を有する板厚1.8mm以上3.5mm以下の熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率での冷間圧延を施す第1冷間圧延工程
(B)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程
(C)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.35mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程
(D)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、900℃以上1200℃以下の焼鈍温度で仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
【0018】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板に、700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する箱焼鈍による、または、900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上300秒間以下保持する連続焼鈍による、熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有していてもよい。磁気特性をさらに高めることができるからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る無方向性電磁鋼板により、分割鉄心型モータのモータ効率の向上が期待できる。また、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は特殊な設備を要しないため、製造コスト面でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例における第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の圧下率と磁気特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の無方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
【0022】
A.無方向性電磁鋼板
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.005%以下、Si:1.5%以上4.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、sol.Al:0.4%以上3.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、平均結晶粒径が40μm以上180μm以下である鋼組織を有し、上記式(1)〜(3)を満足する磁気特性を有し、板厚が0.10mm以上0.35mm以下であることを特徴とするものである。
【0023】
以下、本発明の無方向性電磁鋼板における各構成について詳細に説明する。
【0024】
(化学組成)
まず、鋼板の化学組成の限定理由について説明する。なお、各元素の含有量を示す「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味するものである。
【0025】
Cは、不純物として含有され、磁気特性を劣化させる元素である。このため、C含有量は0.005%以下とする。好ましくは、0.003%以下である。
【0026】
Siは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Si含有量は1.5%以上とする。好ましくは2.0%以上である。一方、Siを過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。このため、Si含有量は4.0%以下とする。好ましくは3.5%以下である。
【0027】
Alは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、sol.Al含有量は0.4%以上とする。好ましくは0.6%以上、さらに好ましくは0.8%以上である。一方、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。このため、sol.Al含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下である。
【0028】
Mnは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Mn含有量は0.05%以上とする。一方、Mn含有量が多くなると、MnはSiやAlに比べて合金コストが高いため、経済的に不利となる。このため、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下である。
【0029】
Pは、一般に不純物として含有される。本発明においてP含有量は0.04%以下とする。
【0030】
Sは、不純物として含有され、鋼中のMnと結合して微細なMnSを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。このため、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
【0031】
Nは、不純物として含有され、Alと結合して微細なAlNを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、磁気特性を劣化させる。このため、N含有量を0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
【0032】
(平均結晶粒径)
結晶粒径は大きくし過ぎても、小さくし過ぎても鉄損が劣化する。したがって、平均結晶粒径は40μm以上180μm以下とする。
なお、平均結晶粒径は、縦断面組織写真において、板厚方向および圧延方向について切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いればよい。この縦断面組織写真としては光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば50倍の倍率で撮影した写真を用いればよい。
【0033】
(磁気特性)
L方向の磁気特性が優れ、L方向の磁気特性がC方向の磁気特性よりも優れた磁気特性を有するものとして、本発明においては、下記式(1)および(2)を満足する磁気特性を有するものとする。
さらに、L方向に重み付けを行ったL方向とC方向とを加重平均した磁気特性を全周方向の平均磁気特性により規格化した値が大きくなるような異方性が大きい無方向性電磁鋼板とすることが重要である。そこで、本発明においては、L方向の磁気特性をC方向の磁気特性に対して2倍の重み付けを行った磁気特性を全周方向の平均磁気特性により規格化した値を指標として用い、下記式(3)を満足する磁気特性を有するものとする。
50L≧1.680 (1)
50L/B50C≧1.035 (2)
{(2×B50L+B50C)/3}/{(B50L+2×B50D+B50C)/4}
≧1.025 (3)
ここで、
50L:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度(T)
50C:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延直角方向の磁束密度(T)
50D:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向に対して45°方向の磁束密度(T)
である。
【0034】
(板厚)
エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機は高速回転域で使用されるため、鉄心材料である無方向性電磁鋼板は高周波域での鉄損が低いものが望ましい。高周波条件下での鉄損低減には板厚が薄い方が好ましい。したがって、板厚は0.35mm以下とする。好ましくは0.30mm以下である。一方、過度の薄肉化は鋼板やモータの生産性を著しく低下させる。したがって、板厚は0.10mm以上とする。好ましくは0.15mm以上である。
【0035】
(製造方法)
本発明の無方向性電磁鋼板は、後述する無方向性電磁鋼板の製造方法により製造することが好適である。
【0036】
B.無方向性電磁鋼板の製造方法
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする。
(A)上述の化学組成を有する板厚1.8mm以上3.5mm以下の熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率での冷間圧延を施す第1冷間圧延工程
(B)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程
(C)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.35mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程
(D)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、900℃以上1200℃以下の焼鈍温度で仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
【0037】
以下、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
【0038】
(第1冷間圧延工程)
第1冷間圧延工程においては、上述の化学組成を有する板厚1.8mm以上3.5mm以下の熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率での冷間圧延を施す。
【0039】
第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚が厚いほど良好な磁気特性が得られる。したがって、第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚は1.8mm以上とする。好ましくは2.0mm以上、さらに好ましくは2.2mm以上である。一方、第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚が過度に厚くなると冷間圧延の負荷が過大となり冷間圧延が困難となる場合がある。したがって、第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚は3.5mm以下とする。好ましくは3.3mm以下である。
【0040】
第1冷間圧延工程における圧下率が10%未満または75%超では、目的とする磁気特性を得ることができない場合がある。したがって、第1冷間圧延工程における圧下率は10%以上75%以下とする。さらに好ましくは15%以上75%以下である。
【0041】
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の他の条件は特に限定されるものではなく、熱延鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
熱延鋼板は、通常、熱間圧延の際に鋼板表面に生成したスケールを酸洗により除去してから冷間圧延に供される。後述するように熱延鋼板に熱延板焼鈍を施す場合には、熱延板焼鈍前あるいは熱延板焼鈍後のいずれかにおいて酸洗すればよい。
【0042】
(中間焼鈍工程)
中間焼鈍工程においては、上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す。
中間焼鈍工程における焼鈍温度(以下、「中間焼鈍温度」ともいう。)が700℃未満であったり、700℃以上の温度域に保持する時間が3時間未満であったりすると、中間焼鈍後の結晶粒が粗大化されないために、目的とする磁気特性を得ることができない場合がある。一方、中間焼鈍温度を900℃超とするには特殊な設備が必要となりコストの増加を招く。また、700℃以上の温度域に保持する時間を40時間超としても効果が飽和してしまうので、コスト的に不利となる。したがって、中間焼鈍は700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持するものとする。保持時間は5時間以上35時間以下とすることが好ましい。
中間焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0043】
(第2冷間圧延工程)
第2冷間圧延工程においては、上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.35mm以下の板厚とする。
第2冷間圧延工程における圧下率が50%未満または85%超であると、目的とする磁気特性を得ることができない場合がある。したがって、第2冷間圧延工程における圧下率は50%以上85%以下とする。下限については、54%以上が好ましい。さらに好ましくは58%以上である。上限については80%以下が好ましい。
また、上述の「A.無方向性電磁鋼板」の項に記載した理由により、第2冷間圧延後の板厚は0.10mm以上0.35mm以下とする。
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の他の条件は特に限定されるものではなく、鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
【0044】
(仕上焼鈍工程)
仕上焼鈍工程においては、上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、900℃以上1200℃以下の焼鈍温度で仕上焼鈍を施す。
仕上焼鈍における焼鈍温度(以下、「仕上焼鈍温度」ともいう。)が900℃未満では、粒成長不足により平均結晶粒径が40μm未満となって十分な磁気特性が得られない場合がある。一方、仕上焼鈍温度が1200℃超では、粒成長が過度に進行してしまい平均結晶粒径が180μm超となって十分な磁気特性が得られない場合がある。さらに、このような高温焼鈍には特殊な設備が必要になる場合があるためにコスト増加を招く恐れがある。したがって、仕上焼鈍温度は900℃以上1200℃以下とする。
仕上焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0045】
(熱延板焼鈍)
上記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板には、熱延板焼鈍を施してもよい。熱延板焼鈍を施すことにより、一層良好な磁気特性が得られる。
熱延板焼鈍は箱焼鈍および連続焼鈍のいずれによって行ってもよい。箱焼鈍により行う場合には、700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持することが好ましい。連続焼鈍により行う場合には、900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上300秒間以下保持することが好ましい。熱延板焼鈍は箱焼鈍でも連続焼鈍でも所望の磁気特性を得ることができるが、L方向の磁気特性を重視する場合には箱焼鈍が好ましい。
熱延板焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0046】
(熱間圧延工程)
上記冷間圧延工程に供する熱延鋼板は、上述の化学組成を有する鋼塊または鋼片(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施すことにより得ることができる。
熱間圧延においては、上記化学組成を有する鋼を、連続鋳造法あるいは鋼塊を分塊圧延する方法など一般的な方法によりスラブとし、加熱炉に装入して熱間圧延を施す。この際、スラブ温度が高い場合には加熱炉に装入しないで熱間圧延を行ってもよい。
熱間圧延での諸条件は特に規定しないが、仕上温度700℃以上、巻取温度300℃以上とするのが好ましい。
【0047】
(その他の工程)
上記仕上焼鈍工程後に、一般的な方法に従って、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁被膜を鋼板表面に塗布するコーティングを施してもよい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁被膜を塗布するものであっても構わない。また、コーティングは、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施すものであってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などを用いることができる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
下記表1に示す化学組成を有するスラブを仕上温度800℃、巻取温度550℃で熱間圧延を施して板厚1.6mm〜3.1mmの熱延鋼板とし、酸洗を施した。これらの酸洗鋼板について、一部を除いて熱延板焼鈍を施さずに中間焼鈍を挟む第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程によって仕上板厚0.20mm〜0.35mmの冷延鋼板とした。一部は、箱焼鈍または連続焼鈍による熱延板焼鈍を施して、この内の一部は種々の条件での中間焼鈍を挟む第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程によって仕上板厚の冷延鋼板とし、残りは1回の冷間圧延工程にて仕上板厚の冷延鋼板とした。これらの冷延鋼板に950℃以上1180℃以下の温度で10秒間保持する仕上焼鈍を施して、平均結晶粒径55μm〜162μmの無方向性電磁鋼板とした。
【0050】
これらの無方向性電磁鋼板について、磁化力5000A/mで磁化した際のL方向の磁束密度B50L、C方向の磁束密度B50C、D方向の磁束密度B50Dを測定した。そして、これらの磁気特性値が上記式(1)〜(3)を満足するか否かを確認した。
【0051】
この結果を製造条件と併せて下記表2に示す。また、図1に鋼板No.1〜10、19〜22の第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の圧下率と磁気特性との関係を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
鋼板No.1〜8は熱延鋼板の板厚、2回の冷間圧延の圧下率、中間焼鈍条件、仕上焼鈍条件、平均結晶粒径が所定の範囲内であるため、所望の磁気特性が得られた。また、鋼板No.9、10に示すように、熱延鋼板の板厚が厚いほど磁気特性が良好になる傾向があった。さらに、鋼板No.11、12に示すように、熱延板焼鈍を施しても所望の磁気特性を得ることができ、箱焼鈍による熱延板焼鈍を施した鋼板No.11の方が、連続焼鈍による熱延板焼鈍を施した鋼板No.12よりも磁気特性が良好であった。
一方、鋼板No.13〜15は2回冷延法ではないため、鋼板No.16は熱延鋼板の板厚が所定の範囲外であるため、鋼板No.17、18は中間焼鈍が連続焼鈍であるため、鋼板No.19、20は第1冷間圧延工程の圧下率が所定の範囲外であるため、鋼板No.21、22は第2冷間圧延工程の圧下率が所定の範囲外であるため、所望の磁気特性を得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.005%以下、Si:1.5%以上4.0%以下、Mn:0.05%以上3.0%以下、sol.Al:0.4%以上3.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
平均結晶粒径が40μm以上180μm以下である鋼組織を有し、
下記式(1)〜(3)を満足する磁気特性を有し、
板厚が0.10mm以上0.35mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
50L≧1.680 (1)
50L/B50C≧1.035 (2)
{(2×B50L+B50C)/3}/{(B50L+2×B50D+B50C)/4}
≧1.025 (3)
(ここで、
50L:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度(T)
50C:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延直角方向の磁束密度(T)
50D:磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向に対して45°方向の磁束密度(T)
である。)
【請求項2】
下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法:
(A)請求項1に記載された化学組成を有する板厚1.8mm以上3.5mm以下の熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率での冷間圧延を施す第1冷間圧延工程;
(B)前記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程;
(C)前記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.35mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程;および
(D)前記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、900℃以上1200℃以下の焼鈍温度で仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程。
【請求項3】
前記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板に、700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する箱焼鈍による、または、900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上300秒間以下保持する連続焼鈍による、熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有することを特徴とする請求項2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−36456(P2012−36456A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178258(P2010−178258)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】