説明

無機ナノ粒子分散液及びその製造方法、並びに複合組成物

【課題】無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒を、第2の分散媒に置換する溶媒置換を、無機ナノ粒子が凝集したり分散液がゲル化したりすることなく、最終的に第2の分散媒のみに簡便かつ効率よく行うことができる無機ナノ粒子分散液の製造方法、及び該製造方法により製造された無機ナノ粒子分散液、並びに複合組成物の提供。
【解決手段】無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒を、第2の分散媒に置換する際に、該第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さい第3の分散媒を介在させることを特徴とする無機ナノ粒子分散液の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒を、第2の分散媒に容易に溶媒置換できる無機ナノ粒子分散液及び無機ナノ粒子分散液の製造方法、並びに複合組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ナノ粒子分散液は、一般的に、高濃度の分散液を得るために原料化合物の溶解度を高くしたい要望などから、溶解しやすい分散媒を用いて製造される。
しかし、このようにして製造された無機ナノ粒子分散液を、ポリマー等のマトリックス剤中に均一に分散させて膜やコンポジットを形成するためには、マトリックス剤が溶解する溶媒中に無機ナノ粒子を分散させる必要がある。
このため、最初に調製した無機ナノ粒子分散液の溶媒とマトリックス剤を溶解する溶媒との相溶性が低い場合が多く、溶媒置換する時に無機ナノ粒子が凝集したり、ゲル化を起こすことがある。
例えば特許文献1では、水に5質量%以上溶解する有機溶媒に分散したシリカゾルについて提案されている。この提案には、第2の分散液に使用する分散媒として、溶解度パラメータ(SP値)が9以上で23.4以下の有機溶媒が好ましい記載されている。しかし、この提案では、第2の分散媒のSP値が9以上で23.4以下が好ましいと示しているに過ぎず、溶媒間の相溶性について言及していない。更に、水への溶解度が5質量%以上の水溶性有機溶媒に限定している。
また、特許文献2では、シランカップリング剤で修飾された無機酸化物コロイドについて提案されている。この提案には、分散媒のSP値とシランカップリング剤の原子団である鎖状高分子化合物のSP値との差が1以上5以下であれば、シランカップリング剤が選択的に効率よく粒子表面に析出できるため好ましいと記載されている。しかし、この提案では、SP値はシランカップリング剤の適度な析出を行うための値として用いているに過ぎず、溶媒置換については全く言及されていない。
【0003】
したがって無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させる第1の分散媒を、第2の分散媒に置換する溶媒置換を、無機ナノ粒子が凝集したり分散液がゲル化したりすることなく、最終的に第2の分散媒のみに簡便かつ効率よく行うことができる無機ナノ粒子分散液の製造方法、及び該製造方法により製造された無機ナノ粒子分散液の提供が望まれているのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開2005−298226号公報
【特許文献2】特開平5−269365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒を、第2の分散媒に置換する溶媒置換を、無機ナノ粒子が凝集したり分散液がゲル化したりすることなく、最終的に第2の分散媒のみに簡便かつ効率よく行うことができる無機ナノ粒子分散液の製造方法、及び該製造方法により製造された安定かつ高透明な無機ナノ粒子分散液、並びに複合組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒を、第2の分散媒に置換する際に、該第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さい第3の分散媒を介在させることを特徴とする無機ナノ粒子分散液の製造方法である。
<2> 第2の分散媒が、無機ナノ粒子をマトリックス剤中に分散させるための溶媒である前記<1>に記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法である。
<3> 第1の分散媒が水であり、第2の分散媒が有機溶媒である前記<1>から<2>のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法である。
<4> 第1の分散媒がアルコール類を40体積%以下含む水であり、第2の分散媒が有機溶媒である前記<1>から<2>のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法である。
<5> 第1の分散媒が水を10体積%以下含む炭素数3以下のアルコール類であり、第2の分散媒が疎水性有機溶媒である前記<1>から<2>のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法である。
<6> 第3の分散媒が炭素数2以上のアルコール類である前記<1>から<5>のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法である。
<7> 第3の分散媒が複数種用いられ、第2の分散媒を添加する直前に用いる第3の分散媒が第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さい前記<1>から<6>のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法である。
<8> 無機ナノ粒子が、金属、合金、金属酸化物、及び金属複合酸化物のいずれかである前記<1>から<7>のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法により製造されたことを特徴とする無機ナノ粒子分散液である。
<10> 前記<9>に記載の無機ナノ粒子分散液、及びマトリックス剤を含有することを特徴とする複合組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒を、第2の分散媒に置換する溶媒置換を、無機ナノ粒子が凝集したり分散液がゲル化したりすることなく、最終的に第2の分散媒のみに簡便かつ効率よく行うことができる無機ナノ粒子分散液の製造方法、及び該製造方法により製造された安定かつ高透明な無機ナノ粒子分散液、並びに複合組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(無機ナノ粒子分散液及び無機ナノ粒子分散液の製造方法)
本発明の無機ナノ粒子分散液の製造方法は、無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒を、第2の分散媒に置換する際に、該第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さい第3の分散媒を介在させる。
本発明の無機ナノ粒子分散液は、本発明の無機ナノ粒子分散液の製造方法により製造される。
以下、本発明における無機ナノ粒子分散液の製造方法の説明を通じて本発明の無機ナノ粒子分散液の詳細についても明らかにする。
【0009】
前記無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒とは、無機ナノ粒子分散液を調製するのに用いられる分散媒を意味する。
前記第1の分散媒としては、例えば水、アルコール類を40体積%以下含む水、水を10体積%以下含む炭素数3以下のアルコール類、などが挙げられる。
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換等が含まれる。したがって、前記水には、精製水、イオン交換水等も含まれる。
前記アルコール類を40体積%以下含む水におけるアルコール類としては、例えばエタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、メタノール、1−ブタノール、tert.−ブチルアルコールなどが挙げられる。
前記水を10体積%以下含む炭素数3以下のアルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、などが挙げられる。
【0010】
前記無機ナノ粒子をマトリックス剤中に分散させるための第2の分散媒とは、無機ナノ粒子をマトリックス剤中に均一に分散させるための該マトリックス剤が溶解可能な溶媒を意味する。
前記第2の分散媒に用いる有機溶媒としては、親水性有機溶媒、疎水性有機溶媒、など各種の有機溶媒を用いることができる。
前記親水性有機溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、アセチルアセトン、アセトン、アニリン、アリルアルコール、エタノールアミン、エチレングリコール、1−オクタノール、グリセリン、p−クロロトルエン、シクロヘキサノール、ジメチルスルホキサイド、トリエタノールアミン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記疎水性有機溶媒とは、極性又は非極性を問わず、水の溶解度が2g/100g以下である有機溶媒を意味し、例えばシクロへキサン、ヘキサン、ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、イソオクタン、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサン、トルエン、n−ヘキサノールなどが挙げられる。
【0011】
これらの中でも、(1)第1の分散媒が水であり、第2の分散媒が有機溶媒である態様、(2)第1の分散媒がアルコール類を40体積%以下含む水であり、第2の分散媒が有機溶媒である態様、(3)第1の分散媒が水を10体積%以下含む炭素数3以下のアルコール類であり、第2の分散媒が疎水性有機溶媒である態様が特に好ましい。
【0012】
前記第3の分散媒としては、前記第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さいものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば炭素数2以上のアルコール類であることが好ましい。前記炭素数2以上のアルコール類としては、例えばエタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、イソプロパノール、tert.−ブチルアルコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記第3の分散媒が複数種用いられる場合には、第2の分散媒を添加する直前に用いる第3の分散媒が第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さいことが好ましく、すべての第3の分散媒が第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さいことがより好ましい。
前記第2の分散媒と前記第3の分散媒との溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値は3以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.0〜0が更に好ましい。前記溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が、3を超えると、凝集やゲル化が起きやすく、溶媒置換が困難となることがある。
ここで、前記分散媒の溶解度パラメータ値(SP値)は、以下のようにして求めることができる。
【数1】

ただし、前記数式中、ΔHは分散媒のモル蒸発熱、Vは分散媒のモル体積、Rは気体定数、Tは絶対温度(°K)を表す。単位は(cal/cm1/2である。
ΔHは、「化学便覧改訂5版 基礎編II」丸善株式会社(2004)から引用し、化学便覧に無いものは、インターネット(google)による物質検索か、又は下記式により概算値で求めることができる。
ΔH=−2950+23.7Tb+0.020Tb (ただし、Tbは分散媒の沸点(°K)を表す)
Vは、(分散媒の分子量)/(分散媒の密度)から求めることができる。分散媒の分子量及び分散媒の密度は、「化学大辞典」共立出版株式会社(1964)から引用することができる。
【0013】
前記第2の分散媒の沸点は前記第1の分散媒の沸点より10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。
前記第2の分散媒の沸点は、介在させる前記第3の分散媒の沸点より5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。
【0014】
本発明の無機ナノ粒子の製造方法に用いる無機ナノ粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば金属、合金、金属酸化物、及び金属複合酸化物のいずれかであることが好ましい。
前記金属としては、例えば周期律表の4族から11族の元素で構成される単一金属、2種以上の合金が挙げられる。
前記金属酸化物としては、例えばZnO、GeO、TiO、ZrO、HfO、SiO、Sn、Mn、Ga、Mo、In、Sb、Ta、V、Y、Nbなどが挙げられる。
前記複合金属酸化物としては、例えばチタンとジルコニウムの複合酸化物、チタンとジルコニウムとハフニウムの複合酸化物、チタンとバリウムの複合酸化物、チタンとケイ素の複合酸化物、チタンとジルコニウムとケイ素の複合酸化物、チタンと錫の複合酸化物、チタンとジルコニウムと錫の複合酸化物などが挙げられる。
【0015】
前記無機ナノ粒子の製造方法としては、特に制限はなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、単一金属及び合金に関する液相合成法として、沈殿法で分類すると、(1)1級アルコールを用いるアルコール還元法、(2)2級、3級、2価又は3価のアルコールを用いるポリオール還元法、(3)熱分解法、(4)超音波分解法、(5)強力還元剤還元法、などを利用することができる。
また、反応系で分類すると、(6)高分子存在法、(7)高沸点溶媒法、(8)正常ミセル法、(9)逆ミセル法、などを利用することができる。
一方、金属酸化物及び複合金属酸化物に関しては、金属塩又は金属アルコキシドを原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の無機ナノ微粒子を得ることができる。金属酸化物の合成方法としては、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、又はラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0016】
前記金属塩としては、例えば、所望の金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩などが挙げられる。前記有機酸塩としては、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、などが挙げられる。また、金属アルコキシドとしては所望の金属のメトキシド、エトキシド、プロポキシド、又はブトキシド等が挙げられる。
【0017】
特にゾル生成法により金属酸化物ナノ粒子を合成する場合においては、例えば四塩化チタンを原料として用いる酸化チタンナノ粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合又は解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。
【0018】
前記無機ナノ粒子の数平均粒子径は、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に該数平均粒子径が大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、複合組成物の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機ナノの数平均粒子径としては、1nm〜20nmが好ましく、1nm〜10nmが更に好ましく、1nm〜7nmが特に好ましい。
ここで、前記数平均粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)の画像から粒子径を測定し統計学的に処理することで測定できる。
【0019】
前記無機ナノ粒子の屈折率は、22℃で589nmの波長において1.9〜3.0であることが好ましく、2.0〜2.8がより好ましく、2.2〜2.7が更に好ましい。前記屈折率が、3.0を超えると、樹脂との屈折率差が大きくなりレイリー散乱を抑制するのが難しくなることがあり、1.9未満であると、本来の目的である高屈折率化の効果が十分得られないことがある。
【0020】
前記微粒子の屈折率は、例えば樹脂と複合化した複合物を透明フィルムとして、アッベ屈折計(例えば、アタゴ株式会社製、「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率とから換算する方法、あるいは濃度の異なる金属酸化物微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。
【0021】
本発明の無機ナノ粒子分散液の製造方法によれば、無機ナノ粒子の凝集や分散液のゲル化が起こらない、安定かつ透明性の高い無機ナノ粒子分散液が効率よく製造できる。
また、本発明によれば、安価な原材料を用いて製造した無機ナノ粒子分散液を、比較的少量の溶媒により、溶媒置換できる。また、凝集の少ない最終分散液とすることが可能であるため、均一かつ透明度の高い膜及びコンポジットなどの製造が可能となる。例えば各種成形体、有機無機コンポジット材料、塗料、印刷用無機顔料インク、導電性膜や電磁シールド等の機能性膜用塗布液などに用いることができる。これらの中でも、以下の本発明の複合組成物に特に好適に用いられる。
【0022】
(複合組成物)
本発明の複合組成物は、本発明の前記無機ナノ粒子分散液、及びマトリックス剤を含有してなり、添加剤、可塑剤、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0023】
<マトリックス剤>
前記マトリックス剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱可塑性樹脂が好適である。
【0024】
前記熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)で表される単位構造を少なくとも一つ有している。また、前記熱可塑性樹脂は、側鎖にカルボキシル基を有するランダム共重合体であることが好ましい。ポリマーの種類としては、ビニルモノマーの重合によって得られるビニルポリマー、ポリエーテル、開環メタセシス重合ポリマー及び縮合ポリマー(ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンなど)など従来公知のポリマーのいずれからでも選択可能であるが、ビニルポリマー、開環メタセシス重合ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステルが好ましく、製造適性の点からビニルポリマーがより好ましい。
【0025】
−一般式(1)で表される単位構造−
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)で表される単位構造を少なくとも一つ有している。
【化1】

【0026】
前記一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアシルオキシ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアリールチオ基、置換もしくは無置換のアミノ基、又はシアノ基を表す。
【0027】
前記熱可塑性樹脂には、1分子中に一般式(1)で表される単位構造が1種のみ存在していてもよいし、複数種存在していてもよい。また、一般式(1)で表される特定種の単位構造は、分子中に連続してブロック状に存在していてもよいし、ランダムに存在していてもよい。
【0028】
前記一般式(1)で表される単位構造は、下記一般式(2)で表されるモノマーを重合させることにより形成することができる。
【化2】

ただし、前記一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアシルオキシ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアリールチオ基、置換もしくは無置換のアミノ基、又は、シアノ基を表す。
【0029】
以下に、前記一般式(2)で表されるモノマーの具体例をA−1〜A−30として挙げるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
前記熱可塑性樹脂は、前記一般式(1)で表される単位構造を1質量%〜70質量%含むものであることが好ましく、3質量%〜70質量%含むものであることがより好ましく、5質量%〜50質量%含むものであることが更に好ましく、7質量%〜30質量%含むものであることが特に好ましい。ここでいう一般式(1)で表される構造単位を1質量%〜70質量%含む熱可塑性樹脂とは、重合することによって一般式(1)で表される構造を与えうるモノマー(一般式(2)で表されるモノマー)を、モノマー混合物中にモノマー総量の1質量%〜70質量%で存在させて重合することにより得られる熱可塑性樹脂をいう。
【0033】
−共重合可能なモノマー−
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、重合することによって前記一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーとともに、他のモノマーを共重合させることにより製造することができる。そのような他のモノマーとして、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience(1975)Chapter 2 Page1〜483に記載のものなどを用いることができる。
【0034】
具体的には、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類、及びモノアルキルエステル類から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
【0035】
前記熱可塑性樹脂は、上記の共重合することができるモノマーに由来する構造単位を30質量%〜99質量%含むものであることが好ましく、30質量%〜97質量%含むものであることがより好ましく、50質量%〜95質量%含むものであることが更に好ましく、70質量%〜93質量%含むものであることが特に好ましい。前記熱可塑性樹脂は、特に芳香族基を有するビニルモノマーに由来する単位構造を20質量%〜99質量%含むものであることが好ましく、30質量%〜97質量%含むものであることがより好ましく、40質量%〜93質量%含むものであることが特に好ましい。
【0036】
前記共重合することができるモノマーとして、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーを用いることが好ましい。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基として、例えば以下の構造を有する官能基を挙げることができる。
【0037】
【化5】

ただし、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアルキニル基、置換又は無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子又は基、−SO3H又はその塩、−OSO3H又はその塩、−CO2H又はその塩、−OH又はその塩、−Si(OR17n18n[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアルキニル基、置換又は無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子又は基を表し、nは1〜3の整数を表す。]である。
【0038】
無機粒子と化学結合を形成しうる官能基を熱可塑性樹脂中に導入するには、該官能基もしくはその前駆体を有する重合性モノマーを用いて重合反応を行う方法や、樹脂を反応剤と反応させて該官能基もしくはその前駆体を導入する方法を挙げることができる。官能基導入量の制御の容易さから、該官能基もしくはその前駆体を有する重合モノマーを用いて重合反応を行って樹脂を得る方法を採用することが好ましい。
【0039】
重合反応によって樹脂を得る場合、無機粒子と化学結合を形成しうる官能基を有するモノマーとして、ジオール化合物やジチオール化合物、ジカルボン酸化合物など、本発明で用いる他のモノマーと重合反応できるモノマーを採用することができる。
【0040】
前記熱可塑性樹脂は、前記官能基を有するビニルモノマーに由来する構造単位を0.1質量%〜5質量%含むことが好ましく、0.3質量%〜3質量%含むことがより好ましく、0.4質量%〜2.5質量%含むことが更に好ましい。また、前記熱可塑性樹脂において、上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。
【0041】
重合することによって前記一般式(1)で表される単位構造を形成することができるモノマーとともに共重合することができるモノマーとしては、例えば以下のものが挙げられるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。なお、以下においてnは1以上の整数を表す。
【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
前記熱可塑性樹脂の数平均分子量は、10,000〜200,000であることが好ましく、20,000〜200,000であることがより好ましく、50,000〜200,000であることが更に好ましい。
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性と成型性の観点から80℃〜400℃であることが好ましく、100℃〜380℃であることがより好ましく、100℃〜300℃であることが更に好ましい。
【0045】
前記熱可塑性樹脂の屈折率は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、有機無機複合材料が高屈折率を必要とする光学部品に用いられる場合には、熱可塑性樹脂は高屈折率特性を持つことが好ましい。この場合、用いられる熱可塑性樹脂の屈折率は22℃、589nmの波長において1.55以上であることが好ましく、1.57以上であることがより好ましく、1.58以上であることが更に好ましい。
【0046】
−添加剤−
本発明においては、前記熱可塑性樹脂及び無機ナノ粒子以外に均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合してもよい。例えば、表面処理剤、可塑化剤、帯電防止剤、分散剤、離型剤等を挙げることができる。また前記熱可塑性樹脂以外に前記官能基を有さない樹脂を添加してもよく、このような樹脂の種類に特に制限はないが、前記熱可塑性樹脂と同様の光学物性、熱物性、分子量を有するものが好ましい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子及び熱可塑性樹脂を足し合わせた量に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0047】
−可塑剤−
本発明における熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、複合組成物の成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、前記複合組成物の成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。前記可塑剤を添加する場合の添加量は、複合組成物の総量の1質量%〜50質量%であることが好ましく、2質量%〜30質量%であることがより好ましく、3質量%〜20質量%であることが特に好ましい。
本発明で使用できる可塑剤は樹脂との相溶性、耐候性、可塑化効果などトータルで考える必要があり、最適な可塑剤は他の材料に依存するため一概には言えないが、屈折率の観点からは芳香環を有するものが好ましく、代表的な例として下記一般式(3)で表される化合物が好ましい。
【化8】

ただし、前記一般式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に置換基を表す。Lはオキシ基もしくはメチレン基を表す。aは0もしくは1を表す。m1及びm2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。
【0048】
また、下記一般式(4)〜(6)のいずれかで表される化合物も可塑剤として好ましい。
【化9】

ただし、前記一般式(4)〜(6)において、R3、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に置換基を表す。Z1、Z2、Z3及びZ4は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。m3、m4及びm6は、それぞれ独立に0〜4の整数を表す。m5及びm7はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。b1、b2及びb3は、それぞれ独立に2以上の整数を表す。
【0049】
更に、下記一般式(7)で表される化合物も可塑剤として好ましい。
【化10】

ただし、前記一般式(7)中、Ra、Rb及びRcは、それぞれ独立に置換基を表す。A1はオキシ基もしくはメチレン基を表す。A2はオキシ基、置換もしくは無置換のアルキレン基、カルボニル基、置換もしくは無置換のイミノ基、又はこれら2以上の基からなる基を表す。n1及びn2は、それぞれ独立に0〜5の整数を表す。n3は0〜4の整数を表す。p、q、及びrは、それぞれ独立に0もしくは1を表す。ただし、qが0の時、rは0である。
【0050】
<成形体>
本発明の前記複合組成物を成形することにより、成形体を製造することができる。
本発明の無機微粒子分散液と熱可塑性樹脂溶液を混合して複合組成物を調製した場合、溶液状態のままキャスト成形して透明成形体を得ることができる。この方法によれば、極めて簡便かつ迅速に低コストで成形体を製造することができる。また、得られる成形体の透明性は極めて高い。従来の複合組成物を用いて成形する場合は、白濁のおそれがあるために乾燥速度を遅くして時間をかけて乾燥しなければならないことが少なくなかったが、本発明の複合組成物を用いて成形する場合は、白濁のおそれが無いために迅速に乾燥させることが可能である。時間をかけずに乾燥しても透明な成形体が得られることから、本発明によれば製造効率を上げ、製造コストを抑えることができる。
【0051】
成形体は、上記のキャスト成形以外の方法でも製造することができる。例えば、溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により、本発明の複合組成物から溶媒を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の公知の手法によって成形することもできる。この際、粉状の複合組成物を直接加熱溶融あるいは圧縮などによりレンズ等の成形体に加工することもできるが、いったん押し出し法などの手法で、一定の重さ、形状を有するプリフォーム(前駆体)を作成した後、該プリフォームを圧縮成形で変形させてレンズ等の光学部品を作成することもできる。この場合目的の形状を効率的に作成するために、プリフォームに適当な曲率をもたせることもできる。
また、前記複合組成物をマスターバッチとして他の樹脂に混合して用いてもよい。
【0052】
得られた成形体では、前記複合組成物の説明で前記した屈折率、光学特性を示すものが有用である。
前記成形体は、最大0.1mm以上の厚みを有する高屈折率の光学部品に対して特に有用であり、好ましくは0.1mm〜5mmの厚みを有する光学部品への適用であり、特に好ましくは1mm〜3mmの厚みを有する透明部品への適用である。
【0053】
前記成形体を利用した光学部品は、前記複合組成物の優れた光学特性を利用した光学部品であれば特に限定はないが、例えば、レンズ基材や、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)に使用することも可能である。かかる光学部品を備えた機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。かかる光学機能装置における前記パッシブ光学部品としては、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル、フィルム、光導波路、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
−無機ナノ粒子分散液(a)の作製−
pH0.5の酸性条件下において、SnOを10mol%及びZrOを17mol%含むTiO粒子の5質量%ナノ粒子水分散液を製造した。この分散液中にはエタノール約5体積%及びイソプロパノール約7体積%を含有している。更に、分散液中の副生塩及び残存原料物質を電気透析により電気伝導度100μS/cm以下になるまで除去した。
次に、上記の分散液の主たる分散媒である水(第1の分散媒)から、以下に示す方法で有機溶媒への溶媒置換を行った。
第2の分散媒としてN,N−ジメチルアセトアミド、分散剤としてp−プロピル安息香酸、介在させる第3の分散媒として1−プロパノールを選択した。
1−プロパノール300mlにp−プロピル安息香酸を1g溶解し、これを攪拌しながら上記分散液100mlをゆっくり添加した。この液を55℃、100hPa〜80hPaの条件で、液量が約100mlになるまで減圧蒸留(1回目)を行った。次に、攪拌しながら、1−プロパノール100mlを追添した後、再度55℃、100hPa〜80hPaの条件で100mlになるまで減圧蒸留(2回目)を行った。その後、攪拌しながらN,N−ジメチルアセトアミドを100ml添加して、再々度55℃、80hPa〜50hPaの条件、更に、60℃、50hPaの条件で100mlになるまで減圧蒸留(3回目)を行った。
以上により、N,N−ジメチルアセトアミドのみを分散媒とした透明で安定なTiOナノ粒子分散液(a)を得た。
【0056】
(実施例2)
−無機ナノ粒子分散液(b)の作製−
実施例1の第2の分散媒を酢酸ブチルに、介在させる第3の分散媒を1回目の減圧蒸留において1−プロパノールに、2回目の減圧蒸留において1−ブタノールに変更し、3回目の減圧蒸留を55℃、80〜50hPaの条件にした以外は、実施例1と同様にして、酢酸ブチルのみを分散媒とした透明で安定なTiOナノ粒子分散液(b)を得た。
【0057】
(実施例3)
−無機ナノ粒子分散液(c)の作製−
室温で、酢酸亜鉛の水溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウムの水溶液を添加した後、過熱熟成してZnOの5質量%ナノ粒子水分散液を得た。これに分散剤として酢酸を添加し、電気伝導度100μS/cm以下になるまで、電気透析により副生塩及び残存原料を除去した。
次に、上記の分散液の分散媒である水(第1の分散媒)から、以下に示す方法で有機溶媒への溶媒置換を行った。
第2の分散媒としてシクロヘキサノール、分散剤として酢酸、介在させる第3の分散媒として1−プロパノールを選択した。
1−プロパノール300mlに酢酸を0.5ml溶解し、これを攪拌しながら上記分散液100mlをゆっくり添加した。この液を55℃、100hPa〜80hPaの条件で、液量が約100mlになるまで減圧蒸留(1回目)を行った。次に、攪拌しながら、1−プロパノール100mlを追添した後、再度55℃、100hPa〜80hPaの条件で100mlになるまで減圧蒸留(2回目)を行った。その後、攪拌しながらN,N−ジメチルアセトアミドを100ml添加して、再々度55℃、80hPa〜50hPaの条件、更に、60℃、50hPaの条件で100mlになるまで減圧蒸留(3回目)を行った。
以上により、シクロヘキサノールのみを分散媒とした透明で安定なZnOナノ粒子分散液(c)を得た。
【0058】
(実施例4)
−無機ナノ粒子分散液(d)の作製−
以下に示す逆ミセル法により、Ptナノ粒子分散液を製造した。
塩化白金酸カリウム(KPtCl)(和光純薬株式会社製)5.32gをHO 240mlに溶解した金属塩水溶液に、エーロゾルOT(東京化成株式会社製)100gをデカン(和光純薬株式会社製)800mlに溶解したアルカン溶液を添加、混合して逆ミセル溶液(A)を調製した。
次いで、NaBH(和光純薬株式会社製)2.42gをHO 240mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT(東京化成株式会社製)100gをデカン(和光純薬株式会社製)800mlに溶解したアルカン溶液を添加、混合して逆ミセル溶液(B)を調製した。
(B)を高速攪拌しながら、(A)を素早く添加し、10分間後にメルカプトエタノール(和光純薬株式会社製)1mlを添加して、40℃で2時間熟成した。
冷却後、水/エタノール(1:1)の混合溶媒を添加して、相分離させ、ナノ粒子を含む水相部分を取り出して、限外ろ過でエタノールを追添しながら、副生塩及び残存原料を除去した。最終電気伝導度が100μS/cm以下で総量が50mlになるようにして、水を約8体積%含むエタノール分散媒に分散した5質量%のPtナノ粒子分散液を製造した。
次に、上記の分散液の分散媒である水を約8体積%含むエタノール分散媒(第1の分散媒)から、以下に示す方法で疎水性有機溶媒への溶媒置換を行った。
第2の分散媒としてシクロヘキサン、分散剤として1−オクタンチオール、介在させる第3の分散媒として1−ブタノール及び1−ヘキサノールを選択した。
1−ブタノール300mlに1−オクタンチオールを0.5ml溶解し、これを攪拌しながら上記分散液50mlをゆっくり添加した。この液を60℃、80〜60hPaの条件で、液量が約50mlになるまで減圧蒸留(1回目)を行った。次に、攪拌しながら、1−ヘキサノール100mlを追添した後、再度60℃、80〜40hPaの条件で50mlになるまで減圧蒸留(2回目)を行った。その後、攪拌しながらシクロヘキサンを50ml添加して、再々度60℃、60〜20hPaの条件で50mlになるまで減圧蒸留(3回目)を行った。
以上により、シクロヘキサンのみを分散媒とした透明で安定なPtナノ粒子分散液(d)を得た。
【0059】
(実施例5)
−無機ナノ粒子分散液(e)の作製−
実施例4の塩化白金酸カリウム(KPtCl)(和光純薬株式会社製)を過塩素酸銀(AgClO・HO)(和光純薬株式会社製)4.18g、及び塩化パラジウム(PdCl)(和光純薬株式会社製)1.31gに変更した以外は、実施例4と同様にして、透過率の高い安定なAgPd(Pd約20mol%)の5質量%ナノ粒子分散液(e)50mlを得た。
【0060】
(実施例6)
−無機ナノ粒子分散液(f)の作製−
実施例1において、介在させる第3の分散媒をエタノールに変更した以外は、実施例1と同様にして、N,N−ジメチルアセトアミドのみを分散媒とした透明で安定なTiOナノ粒子分散液(f)を得た。
【0061】
(比較例1)
−無機ナノ粒子分散液(g)の作製−
実施例1に対し、介在させる第3の分散媒をなくして減圧蒸留を行い溶媒置換した。途中でゲル化とナノ粒子の凝集が起こり、途中ゲル化とナノ粒子の凝集を生じたが、そのまま続け、第2の分散媒に置換したTiOナノ粒子分散液を得た。この分散液は一部ゲルを有する少し白濁した分散液(g)となった。
【0062】
(比較例2)
−無機ナノ粒子分散液(h)の作製−
実施例2に対し、介在させる第3の分散媒をエタノール(和光純薬株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様に行った。途中ゲル化とナノ粒子の凝集を生じたが、そのまま続け、第2の分散媒に置換したTiOナノ粒子分散液を得た。この分散液は一部ゲルを有する白濁した無機ナノ粒子分散液(h)が得られた。
【0063】
(比較例3)
−無機ナノ粒子分散液(i)の作製−
実施例4に対し、介在させる第3の分散媒をメタノール(和光純薬株式会社製)のみに変更した以外は、実施例4と同様に行った。途中で相分離とゲル化が起こり、第2の分散媒への溶媒置換はほとんどできなかった。以上により、無機ナノ粒子分散液(i)が得られた。
【0064】
以上の実施例1〜6及び比較例1〜3で用いた第2の溶解度パラメータ値(SP値)、第3の分散媒種と溶解度パラメータ値(SP値)、及び無機ナノ粒子分散液(a)〜(i)の透過率を以下のようにして求めた。結果を表1に示す。
【0065】
<溶解度パラメータの求め方>
ここで、前記分散媒の溶解度パラメータ値(SP値)は、以下のようにして求めた。
【数2】

ただし、前記数式中、ΔHは分散媒のモル蒸発熱、Vは分散媒のモル体積、Rは気体定数、Tは絶対温度(°K)を表す。単位は(cal/cm1/2である。
ΔHは、「化学便覧改訂5版 基礎編II」丸善株式会社(2004)から引用し、化学便覧に無いものは、インターネット(google)による物質検索か、又は下記式により概算値を求めた。
ΔH=−2950+23.7Tb+0.020Tb (ただし、Tbは分散媒の沸点(°K)を表す)
Vは、(分散媒の分子量)/(分散媒の密度)から求めた。分散媒の分子量及び分散媒の密度は、「化学大辞典」共立出版株式会社(1964)から引用した。
【0066】
<無機ナノ粒子分散液の透過率>
無機ナノ粒子分散液の透過率は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計(U−3310)で測定して求めた。
【0067】
【表1】

表1の結果から、本発明の無機ナノ粒子分散液の製造方法により製造された無機ナノ粒子分散液は透明であり、透過率が高く、安定なものであることが分かった。
【0068】
(実施例7)
実施例1、2及び6で作製したナノ粒子分散液を用いて、以下の方法で複合組成物を作製し、更に成形体を作製した。
ポリ(p−クロロスチレン)78.5%、ポリアクリロニトリル20%及びポリアクリル酢酸1.5%からなる共重合体の樹脂(屈折率1.59)5gをN,N−ジメチルアセトアミド50mlに溶解したものを2つ調製し、それぞれに実施例1及び6のTiOナノ粒子分散液(a)及び(f)を80ml(粒子4g相当)添加後、攪拌混合して、均一で透明な複合組成物(1)及び(2)を得た。また、同じ樹脂5gを酢酸ブチル50mlに溶解し、実施例のTiOナノ粒子分散液(b)を80ml(粒子4g相当)添加後、攪拌混合して、均一で透明な複合組成物(3)を得た。
次に、これらの複合組成物(1)、(2)及び(3)を乾固し、粉砕した後、それぞれ0.25gを180℃でプレスして、直径8mmで1mm厚の成形体を得た。
得られた各成形体は、いずれも無色透明で屈折率が1.67と高い成形体であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の無機ナノ粒子分散液の製造方法により製造された無機ナノ粒子分散液、及び複合組成物は、安定かつ透明性が高いので、例えば各種成形体、有機無機コンポジット材料、塗料、印刷用無機顔料インク、導電性膜、電磁シールド等の機能性膜用塗布液、などに適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ナノ粒子を無機ナノ粒子分散液中に分散させている第1の分散媒を、第2の分散媒に置換する際に、該第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さい第3の分散媒を介在させることを特徴とする無機ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
第2の分散媒が、無機ナノ粒子をマトリックス剤中に分散させるための溶媒である請求項1に記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
第1の分散媒が水であり、第2の分散媒が有機溶媒である請求項1から2のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
第1の分散媒がアルコール類を40体積%以下含む水であり、第2の分散媒が有機溶媒である請求項1から2のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
第1の分散媒が水を10体積%以下含む炭素数3以下のアルコール類であり、第2の分散媒が疎水性有機溶媒である請求項1から2のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
第3の分散媒が炭素数2以上のアルコール類である請求項1から5のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
第3の分散媒が複数種用いられ、第2の分散媒を添加する直前に用いる第3の分散媒が第2の分散媒に対して、溶解度パラメータ値(SP値)の差の絶対値が3より小さい請求項1から6のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
無機ナノ粒子が、金属、合金、金属酸化物、及び金属複合酸化物のいずれかである請求項1から7のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の無機ナノ粒子分散液の製造方法により製造されたことを特徴とする無機ナノ粒子分散液。
【請求項10】
請求項9に記載の無機ナノ粒子分散液、及びマトリックス剤を含有することを特徴とする複合組成物。

【公開番号】特開2010−42369(P2010−42369A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209220(P2008−209220)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】