説明

無機物質微多孔体の製造方法

【課題】
無機物質はその表面を利用して電極物質、触媒物質、吸着物質などに使用されており、要求される性質は比表面積が大きいことである。今までの技術でも比表面積が50m/gを超える微粒子を得ることができたが、この微粒子はきわめて凝集しやすく、実用的な使用は難しかった。本発明の課題は、比表面積が10m/g以上と大きく、かつ凝集しにくい無機物質を製造することである。
【解決手段】 親水性高分子化合物を無機物質と共に、粉砕、攪拌混合、混練および圧延から選ばれた少なくとも一種の機械的処理を行うことにより、まず親水性高分子化合物と無機物質とからなる複合体を調製する。次に当該複合体から親水性高分子化合物を、加熱分解以外の方法、例えば親水性高分子化合物の溶媒による溶出、薬品による高分子化合物の分解、酵素分解、放射線分解、電子線分解、光分解などにより除去して、無機物質の微多孔体を製造し上記課題を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種電池やコンデンサー等の電子・電気部品に関わる電極物質、様々な化学反応に関わる触媒物質、水処理用の吸着物質などに用いられる無機物質微多孔体を調製するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機物質に関して、その機能の向上、拡大を目的として、微粒化を狙った検討が長年に亘って実施されてきた。これら物質の微粒子化技術としては、気相法、液相法および固相法が知れている。気相法は、イオンや原子から過飽和蒸気に対する化学反応を通して、均一核生成および成長過程を経るものであり、集積量を制御すれば、原理的に任意の大きさの粒子を作成できる。気相法として、気相化学析出法(CVD法)、電気炉法、化学炎法、プラズマ法が知られているが、電気炉法以外では、シャープな粒径分布で1μm以下の粒径に容易に調製でき、高純度のものが調製できる等の特徴がある。しかし、粒子径が1μm以下の微粒子でさえ多孔質ではなく、形状が球形であることもあり、平均粒径70〜300nmの真球形状の金属粒子(例えば、純銀粒子、(株)レアメタリック製、(株)ニラコ製等)の比表面積を後述する方法で測定したところ、比表面積は2m/g程度しかなかった。これらの方法で最も粒子径の小さいものは、比表面積が50m/gに達するものもないわけではないが、極めて凝集しやすいため、実質的な表面積はさほど大きくないのが現状である。また、これらの方法は、大量生産には向かない上、コストも高くなる。酸化チタン、酸化ケイ素、アルミナ超微粒子の製造で実用化されている電気炉法は最も安価であるが、この方法でも管壁への不均一核生成による析出が優勢になり、収率が落ちる欠点がある他、比表面積もそれほど大きくない。
【0003】
液相法には、化学的方法として、共沈法、均一沈殿法(高純度酸化物セラミックス)、化合物沈殿法、金属アルコキシド法、水熱合成法が知られている。この方法によると、乾燥時の粒子凝集を避ける等の方策に特段の配慮を必要とする。物理的方法として、目的溶液を、噴霧乾燥・造粒する方法、溶液燃焼法、凍結乾燥法、エマルジョン乾燥法等が知られている。この方法では、せいぜいサブミクロンオーダーの多孔質ではない粒子しか作成できず、コスト的にも有利とはいえない。
【0004】
固相法は、目的物を物理的に粉砕する方法であり、最も単純で、大量に処理でき、安価な方法である。ローラミル法では、石灰石等のやわらかい物質を用いた時、分級と組み合わせサブミクロン粒子の作成が可能であるが、多孔性のものは得られない。高速回転ミル、容器駆動媒体ミル、媒体攪拌ミル、ジェットミルでは、せいぜい1−数μmの非多孔性粒子しか作成できない。
【0005】
本発明に最も近い技術は特許文献1に記載のものである。これは、高分子化合物を無機物質と共に、粉砕、攪拌混合、混練または圧延を行うことによって得られる複合体を、高分子化合物の分解温度以上で加熱し、高分子化合物を分解除去することによって無機物質の微多孔体を得る方法である。しかし高分子化合物を加熱分解する際、無機物質の一部が焼結してしまい、十分に比表面積を高くできない欠点がある。いわゆる無機物質の焼結は一般的には溶融温度の90%程度といわれており、高分子化合物の分解温度よりはるかに高い温度ではあるが、微粒子の場合、融点自体も低くなることが報告されており、焼結温度もこれにあわせて低下してもおかしくはない。例えば非特許文献1では金の融点の粒子径依存性が示されており、いわゆるバルクでの金の融点は1064℃なのに対し粒子径2nmでは室温程度まで低下することが報告されている。したがって本発明の関連技術である特許文献1に記載の方法、すなわち、高分子化合物を加熱分解して除去する方法では、高分子の分解温度で無機物質が焼結することは原理的にも十分ありうることである。特許文献1では高分子化合物としてセルロースが、無機物質として銅が用いられ、銅の融点(1085℃)よりはるかに低い600℃でセルロースの分解除去が行われているが、当該文献の走査型電子顕微鏡写真により銅が焼結により連結している様子が示されている。以上のように、従来技術では、十分に比表面積が大きく、かつ凝集しにくい無機物質は得られていない。
【特許文献1】特開2003−301114号公報
【非特許文献1】Ph.Buffat and J−P.Borel,Physical Review A,Vol.13,No.6,2287−2298(1976).
【発明の開示】

【発明が解決しようする課題】
【0006】
無機物質の微粒子はその表面を利用して電極物質、触媒物質、吸着物質などに使用されており、要求される性質として最も重要なのは比表面積が大きいことである。今までの技術で微粒子化された無機物質の比表面積はせいぜい10m/g程度であった。特殊な方法で得られた無機物質微粒子では50m/gを超える比表面積を持つものもあったが、これはきわめて凝集しやすく、例えばカーボンナノホーンなどを使って強制的に分散させる必要があるなど、実用的な使用はきわめて難しかった。本発明の課題は、比表面積が10m/g以上と大きく、かつ凝集しにくい無機物質を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、親水性高分子化合物を無機物質と共に、粉砕、攪拌混合、混練および圧延から選ばれた少なくとも一種の機械的処理を行うことにより、親水性高分子化合物と無機物質とからなる複合体を調製し、当該複合体から親水性高分子化合物を、加熱分解以外の方法、例えば親水性高分子化合物の溶媒による溶出、薬品による高分子化合物の分解、酵素分解、放射線分解、電子線分解、光分解などにより除去して、無機物質の微多孔体を製造する方法である。以下本発明を詳細に説明する。
【0008】
親水性高分子化合物としては、具体的にはセルロースやプルランなどの多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどがあげられる。又は溶解度パラメーターとして18(J/m1/2以上、若しくは表面自由エネルギーとして35mNm−1以上の高分子化合物があげられる。溶解度パラメーター、表面自由エネルギーの上限は問わない。ちなみに、一般的に知られている高分子化合物としては、溶解度パラメーター、表面自由エネルギーともに最も高いものはセルロースである。高分子化合物が親水性なほど高分子化合物は無機物質とより細かく複合化するが、これは高分子化合物と無機物質と親和性が増すためと推測される。そしてより細かく複合化されれば、最終的に得られる無機物質微多孔体の比表面積はより大きいものとなる。例えば親水性高分子化合物がセルロースで、無機物質が銅の場合、本方法では銅がセルロースにナノメートルレベルで複合化し、得られた銅の無機微多孔体は10m/g以上の比表面積を持つ。無機物の性質を表わす指標は様々なものがあるが、本方法による無機微多孔体の適用対象である電極物質、触媒、吸着物質などの要求特性を考慮し、ここでは比表面積を用いるものとする。一方溶解度パラメーターも表面自由エネルギーもそれぞれ18(J/m1/2未満、35mNm−1未満のポリスチレンを用いると、得られる無機物質微多孔体の比表面積は10m/gに満たないものであった。
【0009】
本発明に用いる無機物質は、元素周期律表のランタノイドおよびアクチノイドを除く金属又は非金属、それらの酸化物、窒化物、炭素化物、若しくはこれらの混合物は好ましい。中でも、IA属のルビジウム、セシウム、IB属の銅、銀、金、IIA属のマグネシウム、カルシウム、バリウム、IIB属の亜鉛、IIIA属のスカンジウム、イット リウム、IIIB族のホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、IVA属のチタン、ジルコニウム、IVB属の珪素、ガリウム、錫、鉛、VA属のバナジウム、ニオブ、タンタル、VB族のリン、砒素、アンチモン、ビスマス、VIA属のクロム、モリブデン、タングステン、VIB属の硫黄、セレン、テルル、VIIA属のマンガン、テクネチウム、レニウム、VIII属の鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金がより好ましい。これらは、単独または2種以上混合した状態でも利用して、何ら、さしつかえない。用途に応じて、元素種および酸化物等の化学形態種を選択すればよい。
【0010】
本発明に関わる複合体は、親水性高分子化合物と無機物質とを、粉砕、攪拌混合、混練および圧延から選ばれた少なくとも一種の機械的処理により混合することにより得られる。機械的処理の目的は、衝撃力、せん断力、摩擦力、圧縮力等の多様な力で、破壊、凝着、変形の繰り返しを親水性高分子化合物と無機物質に加えて複合体を調製することにある。具体的な機械的処理は、回転ボールミル、振動型ボールミル、遊星ボールミル等の媒体型の粉砕機、バンバリーミキサー等の攪拌羽根型の混合機を用いた処理、プレス(圧延)機での繰り返し処理等である。これらの処理を組み合わせてもよい。好ましい機械的処理はこれらのボールミルが高加速度型ボールミルの場合である。機械的処理の条件は、処理機械の種類、親水性高分子化合物および無機物質の種類等によって大幅に異なるため限定されないが、親水性高分子化合物が結晶性のものである場合は、結晶領域と非晶領域の割合である結晶化度が10%以上低下するまで機械的処理を行うことが好ましく、30%以上低下するまで機械的処理を行うことがより好ましい。具体的には、結晶化度60%の親水性高分子化合物の場合、結晶化度が50%になるまで機械的処理を行うことが好ましく、30%になるまで機械的処理を行うことがより好ましい。これは結晶が破壊されるほどの強い機械的な刺激によって始めて、本発明に関わる複合体が調製できることを示している。またセルロースのように機械的処理により特定結晶面((1−10)面)が壁解してゆく親水性高分子化合物の場合は、特定結晶面間に無機物質が複合化してゆく、いわゆるナノコンポジットのような複合化メカニズムをとっているものと推定される。結晶化度は、公知の方法である粉末法により求めることができる。親水性高分子化合物が非晶性の高分子化合物の場合は機械的処理により得られる複合体中の無機物質の大きさが1μm以下になるように実施する。これは原子間力顕微鏡(AFM)の表面電位測定モードにより観察できる。また、同程度の密度を持つ結晶性の親水性高分子化合物の結晶化度が10%以上、より好ましくは30%以上低下する条件を目処に、非晶性の親水性高分子化合物と無機物質の機械的処理をおこなってもよい。機械的処理中における無機物の割合は親水性高分子化合物を無機物の全体重量に対し40重量%以上、99重量%未満である。機械的処理は、乾燥状態でもよいが、特定の液体が存在する状態で行ってもよい。
【0011】
この場合特定の液体とは、親水性高分子化合物に可塑性を付与する液体である。具体的には、親水性高分子化合物の動的粘弾性測定または熱刺激電流測定において、主分散の緩和ピーク温度を、当該の液体の存在によって、乾燥状態のそれより50℃以上低下させうる溶液である。例えば、乾燥状態のセルロースを動的粘弾性測定(tanδ−温度曲線測定)または熱刺激電流測定(熱刺激電流−温度曲線測定)すると、それぞれ200〜300℃、50〜200℃に主分散による緩和ピークが観察される。これらの緩和ピーク温度は乾燥状態での温度に対し、例えば特定の液体としてエタノールを存在させると、50℃以上低下し、動的粘弾性測定では50〜150℃に、熱刺激電流測定では−10〜100℃に観察されるようになる。このことは、セルロース分子主鎖の運動性が増し、セルロースに可塑性が付与されたことを示している。この他、特定の液体として、液体の溶解度パラメーターと親水性高分子化合物の溶解度パラメーターの差が、15(J/m1/2未満のものを使用することができる。一般的には溶質と溶媒の溶解度パラメーターの差が小さいほど、溶質は溶媒に溶けやすくなるといわれている。特定の液体の例としては、水、アルコール、アルキレングリコール、低級脂肪酸、低重合度ポリアルキレングリコール、グリセロール、芳香族カルボン酸、フェノール系化合物等である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等、アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等が挙げられる。低級脂肪酸としては、炭素数9以下のものであり、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。低重合度ポリアルキレングリコールとしては、重合度20以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。芳香族カルボン酸としては、安息香酸、アミノ安息香酸、ベンゼンジカルボン酸等、フェノール系化合物としては、フェノール、アミノフェノール、ジヒドロキシベンゼン等が挙げられる。これらの中で好ましいものは、水およびグリコールである。液体は、単独でもよいが、2種以上の混合系でもよい。特定の液体の量は特に限定するものではないが、おおむね親水性高分子化合物に対し、5から100重量%の範囲である。
【0012】
以上のようにして調製された複合体中の、無機物質微多孔体の分散の状態は、原子間力顕微鏡(AFM)の表面電位測定モードにより観察される。これらの観察から、本発明に関わる複合体では、無機物質微多孔体を構成する微粒子が1μm以下のオーダーで、親水性高分子化合物と空隙が無く密着した状態で存在している。より精密に複合化したものでは、0.5μm以下のオーダーで無機物質の微粒子が存在している。次にこの複合体から親水性高分子化合物を除去して無機物質微多孔体を調製する。親水性高分子化合物の除去方法として、好ましくないものは加熱分解して当該高分子化合物を除去することである。なぜなら、加熱分解温度が無機物質の融点、および一般的に認知されている焼結温度よりはるかに低い場合でも、本発明に関する複合体中の無機物質のように、そのサイズがナノメートルレベルの場合、現実的には焼結現象が起こり、比表面積の大幅な低下が起こるからである。そこで親水性高分子化合物の除去方法は加熱分解以外の方法が用いられる。除去方法は親水性高分子化合物の溶媒を用いるもの、酸化分解、アルカリ分解、酸加水分解、酵素分解、放射線分解、電子線分解、光分解などの加熱分解以外の分解を用いるものなどがある。当然これらの方法を組み合わせておこなってもよい。ただしこれらは、無機物質の溶解や分解をともなうものは避けなければならない。
【0013】
親水性高分子化合物がプルラン、可溶性でんぷんなどの水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどでは、溶媒として水が使うことにより、本発明に関わる複合体から親水性高分子化合物を除去することができる。親水性高分子化合物がセルロースの場合は銅アンモニア溶液、DMAc/塩化リチウム溶液などのセルロースの溶媒が、あるいは酵素分解としては、セルラーゼが使用できる。酸化分解、アルカリ分解、酸加水分解に使用できる薬品は親水性高分子化合物、無機物質の種類により異なり限定できるのもではなく、例えば、過酸化物、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸など、及びこれら混合物が有効に用いられる。放射線分解としては、コバルト60などから照射されるγ線などが、電子線分解としては、各種電子線照射機を用いた電子線照射が使用できる。
【発明の効果】
【0014】
無機物質は、その表面を利用する電極物質、触媒物質、吸着物質などに使用されており、要求される性質として重要なのは比表面積が大きいことである。本発明により比表面積が10m/g以上の無機物質微多孔体を得ることができる。もうひとつ重要なのは無機物質が凝集しにくいことである。今までも、特殊な方法で得られた無機物質微粒子では50m/gを超える比表面積を持つものもあったが、これはきわめて凝集しやすく、使用にあたっては例えばカーボンナノホーンなどを使って強制的に分散させる必要があった。本発明により得られた無機物質微多孔体はきわめて凝集しにくく、本来有する比表面積を有効に活用できる。これは本発明の機械的処理により破壊、変形、凝着の繰り返しを、親水性高分子化合物と無機物質にあたえる過程で、無機物質微多孔体を構成する微粒子同士がその一部で接合し、多孔構造になっているためと考えられる。すなわち本発明による無機物質微多孔体の粒径は、通常、1〜300μm、空孔率は、通常、10〜95%であり、形状は、通常、長軸/短軸比1〜10の楕円状不定形である。また無機物質微多孔体を構成する微粒子の大きさは概ねナノメートルオーダーからサブミクロン程度である。以上のように本発明の効果は、比表面積が10m/g以上と大きく、凝集しにくく、その使用にあたって分散性の良い無機物質微多孔体を調製することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお本発明における、結晶化度、原子間力顕微鏡(AFM)観察および比表面積測定法を次に示す。(1)結晶化度:親水性高分子化合物をハサミなどの衝撃力をともなわない方法で、50メッシュ以下程度に細片化する。これは親水性高分子化合物の配向の影響(軸配向や面配向など)を低減するためである。次にシンチレーションカウンター付のX線回折装置(リガク(株)社製、RINT2000)でX線回折を測定し、各結晶面の回折ピークをローレンツー−ガウシアン近似で各ピークを分離し、その積分強度の和と非晶性高分子化合物の回折積分強度の比から結晶化度を求めた。(2)AFM観察:デジタルインスツルメント社製原子間力顕微鏡、Nano Scope IV D3100を使用し、表面電位顕微鏡モードSPoMで観察した。(3)比表面積測定:カンタクロム(株)製オートソーブ−を用い、窒素により測定した。比表面積はBET法により算出した。
【実施例】
【0016】
以下には、本発明の実施例、比較例をまとめて記載する。
【0017】
[実施例1]
セルロース(CF−11,Whatman International Ltd.)を、水分率30質量%(乾燥質量に対する水の分量)に調製し、密閉容器に1昼夜以上静置した。次に、乾燥質量換算で10gと銅粉末((株)高純度化学研究所製、粒径200メッシュパス)10gを、密閉型の高加速度型ボールミル(型式P5、フリッチュジャパン製、遊星型ボールミル)に入れ、回転速度300rpmで3時間機械的処理をおこなった。機械的処理中の過度の温度上昇を避けるため、20分間運転し、その後20分間静置するという間欠運転をおこなった。ここでいう3時間の機械的処理というのは、運転時間の合計である。粉砕には直径20mmのジルコニアビーズを使用した(この時のビーズの加速度は12Gである)。この機械的処理によって、セルロースの結晶化度は元の資料の90%から15%に低下した。また得られた複合体を、表面電位顕微鏡モードSPoMでAFM観察した。これを図1に示す。ここで図1の長辺は3μmの長さを表わす。黒い部分が銅を示し、白い部分がセルロースを示している。図1から銅が、概ねナノメートルオーダーからサブミクロン程度の大きさでセルロースマトリックス中に分散していることがわかる。得られた複合体を、セルラーゼによりセルロースを分解して除去した。セルラーゼによる分解処理はpH4.5の酢酸緩衝液(0.1N酢酸:0.1N酢酸ナトリウム=10:7v/v)中で、40℃、1週間、90rpmで振とうさせながら行った。セルラーゼはアクレモニ

1とする。得られた銅の無機微多孔体の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。図2では長辺は3μmの長さを表わしている。図2から、無機微多孔体を構成する銅の微粒子が概ねナノメートルオーダーからサブミクロン程度の大きさで、その一部が接合した状態で存在していることがわかる。ここで、無機微多孔体本体の大きさは、10μmから100μmの範囲で存在していた。この大きさであると、その工業的使用時において、凝集せずにきわめて容易に分散可能である。また、この無機微多孔体の比表面積は19m/gであった。
【0018】
[比較例1]
実施例1とまったく同じ機械的処理を行いセルロースと銅の複合体を得た。得られた複合体を空気存在下で600℃、30分焼成し、セルロースを加熱分解して除去した。この焼成物も多孔体であったが、比表面積は8m/gにとどまった。これは複合体中に存在している、概ねナノメートルオーダーからサブミクロン程度の大きさの銅微粒子が、600℃の温度で焼結したため比表面積が低下したものと考えられる。600℃はバルクの銅の融点よりはるかに低い温度であるが、ナノメートルレベルの大きさの超微粒子では、このような焼結は十分ありえることである。
【0019】
[実施例2]
プルラン(PF20、株式会社、林原商事)乾燥質量換算で10g(水分率9質量%)と銅粉末((株)高純度化学研究所製、粒径200メッシュパス)10gを、密閉型の高加速度型ボールミル(型式P5、フリッチュジャパン製、遊星型ボールミル)に入れ、回転速度300rpmで3時間粉砕混合した。粉砕には直径20mmのジルコニアビーズを使用した(この時のビーズの加速度は12Gである)。得られた複合体を、表面電位顕微鏡モードSPoMでAFM観察したところ、銅は、概ねナノメートルオーダーからサブミクロン程度の大きさでプルランマトリックス中に分散していた。この複合体からプルランを水洗により除去した。得られた銅の無機微多孔体の比表面積を測定したところ13m/gであった。セルロースに比べてやや比表面積が低いのは、プルランがセルロースより親水性が低いためと考えられる。またこの無機微多孔体本体の大きさは概ね10μmから100μm程であった。
【0020】
[比較例2、3、4]
高分子化合物として、ポリスチレン(乾燥状態)を使用し、実施例1とまったく同じ機械的処理を行いポリスチレンと銅の複合体を得た。この複合体をAFM観察したが、銅は1μm以上の大きさであった。当該ボールミルの回転数を350rpm(時間3時間)に上げても(比較例3)、また機械的処理時間を10時間(回転数300rpm)に延ばしても(比較例4)AFM観察による銅の大きさは1μm未満にはならなかった。これはポリスチレンの溶解度パラメーターが18(J/m1/2未満、表面自由エネルギーが35mNm−1未満であり、ポリスチレンが親水性でないためである。比較例4の機械的処理により得られた複合体をアセトンで処理しポリスチレンを除去して比表面積を測定したが、3m/gにとどまった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】セルロースと銅を機械的処理して得られた複合体のAFM(表面電位顕微鏡モード)写真である。
【図2】銅の無機微多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性高分子化合物を無機物質と共に、粉砕、攪拌混合、混練および圧延から選ばれた少なくとも一種の機械的処理を行うことにより、親水性高分子化合物と無機物質とからなる複合体を調製し、当該複合体から親水性高分子化合物を除去して、無機物質の微多孔体を製造する方法である。
【請求項2】
親水性高分子化合物が、セルロースやプルランなどの多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、又は溶解度パラメーターが18(J/m1/2以上若しくは表面自由エネルギーが35mNm−1以上の高分子化合物であることを特徴とする、請求項1記載の無機物質微多孔体の製造方法。
【請求項3】
無機物質が、元素周期律表のランタノイドおよびアクチノイドを除く金属又は非金属、又はこれらの酸化物、窒化物、炭素化物、又はそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1記載の無機物質微多孔体の製造方法。
【請求項4】
当該複合体から親水性高分子化合物を除去する方法が、親水性高分子化合物の溶媒を用いるもの又は、親水性高分子化合物の加熱分解以外、すなわち酸化分解、アルカリ分解、酸加水分解、酵素分解、放射線分解、電子線分解、光分解等の分解を用いるものであることを特徴とする、請求項1記載の無機物質微多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−280606(P2008−280606A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150949(P2007−150949)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(505005740)
【出願人】(505128223)
【Fターム(参考)】