説明

無機粒子含有組成物、それを用いた無機物層の形成方法及びプラズマディスプレイパネル

【課題】所望の無機体或いは無機物層を従来よりも低エネルギーで形成できるとともに有機化合物に起因する悪影響を低減することが可能で、溶媒添加量により組成物の粘度を大きく変化させず作業性、コストに有利な無機粒子含有組成物、それを用いた無機物層の形成方法及びプラズマディスプレイパネルの提供。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表わされる有機化合物と(B)有機溶剤と(C)無機粒子とを含む無機粒子含有組成物。一般式(1)


(一般式(1)中、Rは炭素数1〜10アルキレン基を示し、n+mは1〜3の整数を示し、同一分子中にRが2以上存在する場合、それぞれのRは同一でも異なっていても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子含有組成物、それを用いた無機物層の形成方法及びプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
平板ディスプレイの1つとして、プラズマ放電により発光する蛍光体の層を設けることによって多色表示を可能にしたプラズマディスプレイパネル(以下PDPと記す)が知られている。PDPは、ガラスからなる平板状の前面板と背面板とが互いに平行かつ対向して配設され、両者はその間に設けられたバリアリブにより一定の間隔に保持されており、前面板、背面板及びバリアリブに囲まれた空間で放電する構造になっている。このような空間には、表示のための電極、誘電体層、蛍光体層等が付設され、放電によって封入ガスから発生する紫外線によって蛍光体が発光させられ、この光を観察者が視認できるようになっている。
ところで、上述の電極、誘電体層、蛍光体層の作製は従来、以下のように行われている。まず、電極、誘電体又は蛍光体の材料として、金属若しくは金属酸化物の粒子、誘電体用ガラスフリット等のガラス粒子又は蛍光体粒子を有機高分子バインダと溶剤との混合物に分散させたスラリー液又はペーストをそれぞれ用意し、これをスクリーン印刷、ダイコーティング等の塗布方法によってガラス基板上に塗布し、その後塗膜を焼成することにより樹脂成分などの有機物を除去して電極、誘電体層又は蛍光体層が形成される(例えば、特許文献1を参照)。
また、塗布するための適度な粘性を有し、かつ比較的低い温度で有機物を消失できる、プラズマディスプレイパネルの電極、誘電体層または蛍光体層の製造に適したバインダー組成物の検討が行われている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−349349号公報
【特許文献2】特開2007−217603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法で用いられる有機高分子バインダは、良好な塗膜形成のためには有効であるが、以下の問題点を有している。すなわち、有機高分子バインダを分解させるためには、電気炉等で高温にする必要があり、多大なエネルギーを要する。また、有機高分子バインダを使用すると、分解生成物が電気炉内の壁に堆積する問題がある。更に、有機高分子バインダが分解中に炭化するなどして残存すると、気泡や膨れが発生したり、放電中に徐々に気化して放電特性に悪影響を及ぼしたりするなどの問題が生じることがある。
また、上記特許文献2記載の無機微粒子含有組成物は、所望の粘度を得るために、無機微粒子含有組成物作製時において、有機化合物及び有機溶剤の割合を厳密に調節する必要がある。組成物作製時に原料の割合を厳密に調節する必要がある原因は、上記特許文献1において選択される、300℃における加熱残分が0〜1%であり、所望の粘度を達成しうる有機化合物が、希釈溶媒の添加比率に対して敏感であり、溶媒添加量の相違が、最終的に得られる組成物の粘度を大きく左右してしまうためと推測される。このように、希釈溶媒の添加比率を厳密に制御することは、組成物の作製における計量等の操作が煩雑となりやすく、作製のコスト増大につながる可能性が高い。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、所望の無機体或いは無機物層を従来よりも低エネルギーで形成できるとともに有機化合物に起因する悪影響を低減することが可能で、溶媒添加量により組成物の粘度を大きく変化させず作業性、コストに有利な無機粒子含有組成物を提供することを目的とする。本発明は、また、かかる無機粒子含有組成物を用いる無機物層の形成方法、及び、かかる無機物層の形成方法によって形成された無機物層を備えるプラズマディスプレイを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明の第1の無機粒子含有組成物は、[1](A)下記一般式(1)で表わされる有機化合物と、(B)有機溶剤と、(C)無機粒子と、を含む無機粒子含有組成物であることを特徴とする。
【0006】
【化1】


(一般式(1)中、Rは炭素数1〜10アルキレン基を示し、n+mは1〜3の整数を示し、同一分子中にRが2以上存在する場合、それぞれのRは同一でも異なっていても良い。)
本発明の無機粒子含有組成物によれば、上記構成を有することにより、良好な塗膜を形成できるとともに、トリシクロデカン骨格を有する上記有機化合物(A)が比較的低温で除去可能であることから、塗膜を焼成するに際して有機化合物の含有量を従来よりも小さくすることができる。よって、本発明の無機粒子含有組成物によれば、従来よりも低エネルギーで所望の無機体或いは無機物層を形成でき、且つ、有機化合物に起因する悪影響を低減することが可能となる。また、電気炉内の壁に堆積する分解生成物の量を低減することも可能となる。
また、本発明は、[2]前記一般式(1)で表わされる有機化合物の含有量が、前記無機粒子含有組成物中に含まれる有機化合物全量に対して50〜95質量%であることを特徴とする。
本発明の無機粒子含有組成物は、プラズマディスプレイパネルの電極、誘電体層又は蛍光体層を形成するために用いられることが好ましい。
また、本発明は、[3]基板上に上記[1]又は[2]に記載の無機粒子含有組成物を塗工して無機粒子含有組成物層を設ける工程と、前記無機粒子含有組成物層を加熱する工程と、を備える無機物層の形成方法を提供する。
本発明の無機物層の形成方法によれば、無機粒子含有組成物を用いることにより、基板上に所望の無機物層を低エネルギーで形成することができる。また、本発明の無機物層の形成方法によれば、有機化合物に起因する悪影響が十分低減された無機物層を形成することが可能となる。
また、本発明は、[4]本発明の無機物層の形成方法においては、上記[3]に記載の基板が、プラズマディスプレイ用基板であり、上記無機粒子がガラス粒子であり、上記無機物層としてプラズマディスプレイ用誘電体層を形成することができる。
また、本発明は、[5]本発明の無機物層の形成方法においては、上記[3]に記載の基板が、プラズマディスプレイ用基板であり、上記無機粒子が蛍光体粒子であり、上記無機物層としてプラズマディスプレイ用蛍光体層を形成することができる。
本発明は、また、[6]上記[4]に記載の本発明の無機物層の形成方法により形成されたプラズマディスプレイ用誘電体層、又は、上記[5]に記載の本発明の無機物層の形成方法により形成されたプラズマディスプレイ用蛍光体層を備えるプラズマディスプレイを提供する。
また、本発明は、基板上に、無機粒子としてガラス粒子を含有する無機粒子含有組成物から形成される無機粒子含有組成物層を設ける工程と、無機粒子含有組成物層を焼成する工程とを備える無機層の形成方法により形成された誘電体層を提供できる。
また、本発明は、基板上に、無機粒子として金属粒子又は金属酸化物粒子を含有する無機粒子含有組成物から形成される無機粒子含有組成物層を設ける工程と、無機粒子含有組成物層を焼成する工程とを備える無機層の形成方法により形成された電極を提供できる。
また、本発明は、プラズマディスプレイパネル用背面基板上に、無機粒子として蛍光体粒子を含有する無機粒子含有組成物から形成される無機粒子含有組成物層を設ける工程と、無機粒子含有組成物層を焼成する工程とを備える無機層の形成方法により形成された蛍光体層を提供できる。
また、本発明は、本発明を用いた電極、誘電体層又は蛍光体層を備えるプラズマディスプレイパネルを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所望の無機体或いは無機物層を従来よりも低エネルギーで形成できるとともに有機化合物に起因する悪影響を低減することが可能な無機粒子含有組成物を提供することができる。また、本発明によれば、本発明の無機粒子含有組成物を用いる無機物層の形成方法、及び、本発明の無機物層の形成方法によって形成された無機物層を備えるプラズマディスプレイを提供することができる。また、本発明によれば、本発明の無機粒子含有組成物を用いることで、従来よりも低エネルギーで形成可能な電極、誘電体層及び蛍光体、並びに、これらの電極、誘電体層又は蛍光体を備えるプラズマディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る誘電体層の形成方法の一実施形態を説明するための模式断面図である。
【図2】本発明に係る蛍光体層の形成方法の一実施形態を説明するための模式断面図である。
【図3】本発明のプラズマディスプレイパネルを示す要部断面図である。
【図4】ビスヒドロキシメチルトリシクロデカン(以下DCPDと略す)と有機溶剤(B)とを混合した混合物の粘度と、有機溶剤(B)の添加量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0010】
<無機粒子含有組成物>
本発明の実施形態に係る無機粒子含有組成物は、(A)下記一般式(1)で表わされる有機化合物と、(B)有機溶剤と、(C)無機粒子と、を含む。
【0011】
【化2】

(一般式(1)中、Rは炭素数1〜10アルキレン基を示し、n+mは1〜3の整数を示し、同一分子中にRが2以上存在する場合、それぞれのRは同一でも異なっていても良い。)
上記一般式(1)で表わされる化合物としては、m=1、及びn=1のものがアルドリッチ社から商業的に入手可能である。
また、上記一般式(1)で表わされる有機化合物(A)は、300℃で10分間加熱したときの加熱残分が1質量%以下であるものが好ましい。なお、加熱環境は、大気中である。このような有機化合物(A)を用いた場合、焼成して得られる無機体において、有機化合物に起因する悪影響を更に低減することができる。
本実施形態の無機粒子含有組成物における有機化合物(A)の含有量は、無機粒子含有組成物全量を基準として20〜95質量%が好ましく、30〜90質量%がより好ましく、40〜90質量%が更により好ましく、40〜60質量%が最も好ましい。有機化合物(A)の含有量を上記範囲内とすることにより、範囲外の場合に比べて均一な塗膜を形成しやすくなるという効果が得られやすくなる。
また、本実施形態の無機粒子含有組成物における有機化合物(A)の含有量は、無機粒子含有組成物中に含まれる有機化合物全量を基準として50〜95質量であるが、55〜95質量%が好ましく、60〜90質量%がより好ましく、70〜90質量%が特に好ましい。有機化合物(A)の含有量を上記範囲内とすることにより、範囲外の場合に比べて均一な塗膜を形成しやすくなるという効果が得られやすくなる。
【0012】
無機粒子としては、形成する無機体或いは無機物層の用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、金属粒子、金属酸化物粒子、ガラス粒子、蛍光体粒子などが挙げられる。金属粒子としては、金粉、銀粉などが挙げられる。また、これら粒子に結着材として後述するガラス粒子を添加してもよい。金属酸化物粒子としては、酸化ルテニウム、酸化銅、酸化錫、ITOなどが挙げられる、また、これら粒子に結着材として後述するガラス粒子を添加してもよい。
金属粒子及び金属酸化物粒子の平均粒径は、0.01〜20μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。
【0013】
ガラス粒子は、低融点であることが好ましく、その軟化点が300〜600℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス粒子の軟化点が300℃未満であると、有機化合物(A)が完全に除去されない段階でガラス粒子が溶融し、これにより有機物が残留して着色などの問題が生じやすくなる傾向がある。一方、この軟化点が600℃を超えるとガラス基板に歪みなどが発生しやすくなる傾向がある。
【0014】
ガラス粒子としては、例えば、酸化鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素系(PbO−B−SiO系)、酸化鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム系(PbO−B−SiO−Al系)、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素系(ZnO−B−SiO系)、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム系(ZnO−B−SiO−Al系)、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素系(PbO−ZnO−B−SiO系)、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム系(PbO−ZnO−B−SiO−Al系)、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化ケイ素系(Bi−B−SiO系)、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム系(Bi−B−SiO−Al系)、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素系(Bi−ZnO−B−SiO系)、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム系(Bi−ZnO−B−SiO−Al系)等のガラス粒子が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
ガラス粒子の平均粒径は、0.01〜20μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。
【0015】
蛍光体粒子としては、金属酸化物を主体とする蛍光体が挙げられ、赤色発色の蛍光体としては、例えば、YS:Eu、Zn(PO:Mn、Y:Eu、YVO:Eu、(Y,Gd)BO:Eu等が挙げられる。青色発色の蛍光体としては、例えば、ZnS:Ag、ZnS:Ag,Al、ZnS:Ag,Ga,Al、ZnS:Ag,Cu,Ga,Cl、ZnS:AgIn、CaCl:Eu2+、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu2+、Sr10(POCl:Eu2+、BaMgAl1423:Eu2+、BaMgAl1626:Eu2+等が挙げられる。緑色発色の蛍光体としては、例えば、ZnS:Cu、ZnSiO:Mn、ZnS:CuZnSiO:Mn、GdS:Tb、YAl12:Ce、ZnS:Cu,Al、YS:Tb、ZnO:Zn、ZnS:Cu,AlIn、LaPO:Ce,Tb、BaO・6Al:Mn等が挙げられる。
【0016】
蛍光体粒子の平均粒径は、0.01〜20μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。
本実施形態の無機粒子含有組成物が、無機粒子として金属粒子又は金属酸化物粒子を含む場合、かかる無機粒子含有組成物は電極の形成に好適なものとなる。また、ガラス粒子を含む場合、かかる無機粒子含有組成物は誘電体層の形成に好適なものとなる。また、蛍光体粒子を含む場合、かかる無機粒子含有組成物は蛍光体層の形成に好適なものとなる。
【0017】
本実施形態の無機粒子含有組成物における無機粒子の含有量は、基板に対する塗工性を向上できる観点から、組成物全量を基準として5〜80質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、10〜60質量%が更により好ましく、30〜50質量%が最も好ましい。
本実施形態の無機粒子含有組成物に用いる(B)有機溶剤として、塗膜の平坦性の点で、沸点が150〜250℃の範囲にある有機溶剤を含むことが好ましい。なお、本明細書において溶剤の沸点は、大気圧下での値を指す。
沸点が150〜250℃の範囲にある溶剤としては、例えば、ホロン(沸点:198℃)、シクロヘキサノン(沸点:155℃)、メチルシクロヘキサノン(沸点:170℃)等のケトン系溶剤、メチルフェニルエーテル(沸点:153℃)、エチルフェニルエーテル(172℃)、メトキシトルエン(沸点:172℃)、ベンジルエチルエーテル(沸点:189℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点:160℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点:188℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:194℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:231℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:171℃)、エチレングリコールモノイソアミルエーテル(沸点:181℃)、ブチルカルビトール(沸点:231℃)等のエーテル系溶剤、1−ヘキサノール(沸点:157℃)、1−ヘプタノール(沸点:176℃)、2−ヘプタノール(沸点:160℃)、3−ヘプタノール(沸点:156℃)、1−オクタノール(沸点:195℃)、2−オクタノール(沸点:179℃)、2−エチル−1−ヘキサノール(沸点:184℃)、シクロヘキサノール(沸点:161℃)、1−メチルシクロヘキサノール(沸点:155℃)、2−メチルシクロヘキサノール(沸点:165℃)、3−メチルシクロヘキサノール(沸点:173℃)、4−メチルシクロヘキサノール(沸点:174℃)、フルフリルアルコール(沸点:170℃)、ベンジルアルコール((沸点:205℃)、エチレングリコール(沸点:198℃)、プロピレングリコール(沸点:187℃)、1,2−ブチレングリコール(沸点:191℃)、ヘキシレングリコール(沸点:197℃)、3−メチル−3−メトキシブタノール(沸点:174℃)、ブチルプロピレンジグルコール(沸点:231℃)等のアルコール系溶剤、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート(沸点:188℃)、エチレングリコールモノアセテート(沸点:182℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)等のアセテート系溶剤、プロピレンカーボネート(沸点:241℃)等の環状カーボネート系溶剤、γ−ブチロラクトン(沸点:204℃)等のラクトン系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン(沸点:202℃)等のピロリドン系溶剤、α−ピネン(沸点:156℃)、β−ピネン(沸点:161℃)、リモネン(沸点:177℃)、ターピネオール(沸点:217℃)、ジヒドロターピネオール(沸点:207℃)、ジヒドロターピニルアセテート(沸点:220℃)等のテルペン系溶剤、ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、ジメチルスルホキシド(沸点:189℃)などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、シクロヘキサノール、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート等の脂環式基と水酸基又はエステル基とを有する化合物が好ましく、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート等のテルペンアルコール又はテルペンエステル等のテンルペン系溶剤を含有させることがより好ましい。これにより、基板上に塗布された本発明の無機粒子含有組成物を乾燥したときに、基板面の温度分布に起因して発生する膜厚のばらつきなどのムラをより確実に低減することができる。
【0018】
ターピネオールは、ガムテレビン油から誘導された、下記式で示されるα−,β−,γ−ターピネオールの異性体混合物であり、「ターピネオールC」(日本テルペン化学株式会社製、商品名)が商業的に入手可能である。
【0019】
【化3】


ジヒドロターピネオールは、下記式で示される、ガムテレビン油から誘導されるターピネオールに水素添加した化合物であり、日本テルペン化学株式会社より商業的に入手可能である。
【0020】
【化4】


ジヒドロターピニルアセテートは、下記式で示される、ガムテレビン油から誘導されるターピネオールに水素添加及びエステル化した化合物であり、日本テルペン化学株式会社より商業的に入手可能である。
【0021】
【化5】

【0022】
乾燥後の塗膜にムラが発生するのを防止する観点から、本発明の無機粒子含有組成物における沸点が150〜250℃の範囲にある有機溶剤の含有量は、組成物に含まれる有機化合物全量(有機化合物(A)を含む)に対して3〜48質量%であることが好ましく、3〜43質量%であることがより好ましく、3〜38質量%であることが特に好ましく、8〜28質量%であることが最も好ましい。
【0023】
また、本実施形態の無機粒子含有組成物においては、塗膜の乾燥性を制御する目的で、沸点が50℃以上、150℃未満の有機溶剤を含有させてもよい。
沸点が50℃以上、150℃未満の有機溶剤としては、例えば、アルコール系有機溶剤(メタノール(沸点:64.7℃)、エタノール(沸点:78℃)、イソプロピルアルコール(沸点:82.4℃)、n−ブチルアルコール(沸点:117℃)等)、芳香族系有機溶剤(ベンゼン(沸点:80.1℃)、トルエン(沸点:110.6℃)、キシレン(沸点:144℃)等)、ケトン系溶剤(アセトン(沸点:56.5℃)、メチルエチルケトン(沸点:79.5℃)、メチルイソブチルケトン(沸点:116.2℃)等)、エーテル系溶剤(テトラヒドロフラン(沸点:66℃)、ジオキサン(沸点:101.1℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:124.5℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:135℃))、酢酸エチル(沸点:77.1℃)、シクロヘキサン(沸点:81℃)等が挙げられる。
【0024】
本実施形態の無機粒子含有組成物における有機溶剤の含有量は、特に制限されないが、有機化合物(A)と混合したときの混合物の25℃における粘度が500〜50000mPa・sとなるように設定することが好ましく、1000〜25000mPa・sとなるように設定することがより好ましく、1000〜10000mPa・sとなるように設定することが特に好ましく、更に、無機粒子含有組成物における粘度が後述する範囲となるように設定することが好ましい。
例えば、有機化合物(A)として一般式(1)で表されるトリシクロデカン骨格を有する有機化合物と無機粒子とからなる無機粒子含有組成物では、塗工可能な粘度に調整することは困難である。そこで、有機溶剤(B)を用いて粘度を調整することが好ましいが、粘度低下及び粘度低下率が大きい有機溶剤(B)は、添加量の僅かな違いによる粘度変化が大きいため、粘度制御を厳密に管理する必要があるので好ましくない。粘度制御の容易性の観点から、有機溶剤(B)の配合により無機粒子含有組成物の粘度を調整する場合は、添加量を増加しても、粘度低下及び粘度低下率が小さくなるものを選択することが好ましい。
【0025】
図4は、有機化合物(A)としてのビスヒドロキシメチルトリシクロデカン(DCPD)と有機溶剤(B)とを混合したときの混合物の25℃における粘度と、有機溶剤(B)の添加量との関係を示す図である。ここで、X軸の有機溶剤(B)の添加量とは、DCPDと上記有機溶剤(B)との混合物中の有機溶剤(B)の質量%を示す。また、図4中、TPOは、ターピネオール(沸点:217℃)、BCは、ブチルカルビトール(沸点:231℃)の有機溶剤(B)でり、MTPHは、イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン化学株式会社製、商品名:テルソルブMTPH)であり、DCPDとの比較するための有機化合物である。
MTPHと、TPO又はBCである有機溶剤(B)との混合系では、有機溶剤(B)の添加量の増加に伴う粘度低下率(図4におけるグラフの傾き)が大きい。それに対して、DCPDと、TPO又はBCである有機溶剤(B)との混合系では、有機溶剤(B)の添加量の増加に伴う粘度低下率は小さい。
このような傾向から、DCPDのようなトリシクロデカン骨格を有する有機化合物(A)を用いることが、粘度制御の容易性の点で好ましい。なお、本実施形態においては、有機溶剤(B)の複数種を組み合わせることにより、粘度制御の容易性と塗膜の乾燥性制御との両立を図ることも可能である。
本実施形態の無機粒子含有組成物が、上記有機溶剤(B)からなる群より選択される1種以上の有機溶剤を含む場合、係る有機溶剤の含有量は、組成物に含まれる有機化合物全量に対して3〜30質量%であることが好ましい。
本実施形態の無機粒子含有組成物は、25℃における粘度が1000〜100000mPa・sであることが好ましく、2000〜60000mPa・sであることがより好ましく、2500〜50000mPa・sであることが特に好ましい。無機粒子含有組成物の粘度が1000mPa・sより小さい場合は、無機粒子含有組成物の保存中に無機粒子が沈降しやすくなり、一方、粘度が100000mPa・sより大きい場合は、塗膜の平坦性が低下する傾向がある。
【0026】
また、本実施形態の無機粒子含有組成物中に含まれる有機化合物は、300℃で10分間加熱したときの加熱残分が1質量%以下であることが好ましい。
本実施形態の無機粒子含有組成物には、無機粒子含有組成物中に含まれる有機化合物の300℃で10分間加熱したときの加熱残分が1質量%以下となる範囲内であれば、必要に応じて、例えば、有機バインダ樹脂、染料、発色剤、可塑剤、顔料、重合禁止剤、表面改質剤、安定剤、密着性付与剤、熱硬化剤等を添加することができる。
但し、重量平均分子量が5000〜1000000の有機バインダ樹脂を添加した場合、無機粒子含有組成物中に含まれる有機化合物の300℃で10分間加熱したときの加熱残分を1質量%以下にするのは困難である。そのため、重量平均分子量が5000〜1000000の有機バインダ樹脂を添加する場合、その含有量は、無機粒子含有組成物中に含まれる有機化合物全量を基準として、0〜1質量%とすることが好ましく、0〜0.5質量%とすることがより好ましく、0質量%(すなわち添加しないこと)が特に好ましい。
【0027】
本実施形態の無機粒子含有組成物は、例えば、有機化合物(A)を上記有機溶剤(B)と混合し、次いで、上記無機粒子を添加し、これらを公知の混合手段により混合することにより調製することができる。
【0028】
<誘電体層及び蛍光体層の形成方法、誘電体層及び蛍光体層、並びにプラズマディスプレイパネル(PDP)>
次に、本発明の無機物層の形成方法の具体例として、誘電体層及び蛍光体層の形成方法の好適な実施形態について説明する。本実施形態に係る誘電体層の形成方法は、基板上に、無機粒子としてガラス粒子を含む上述の本発明の無機粒子含有組成物から形成される無機粒子含有組成物層を設ける工程と、その組成物層を加熱する工程とを有するものである。以下、PDP用前面基板を構成する前面ガラス基板上に誘電体層を形成する実施形態について図1を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の誘電体層の形成方法を説明するための模式断面図である。
図1(a)に示すように、表示電極52が設けられた前面ガラス基板40を用意する。
次に、図1(b)に示すように、前面ガラス基板40の表示電極52が設けられている側に本発明の無機粒子含有組成物を塗布し乾燥して、無機粒子含有組成物層1を形成する。本実施形態においては、無機粒子として上述した低融点のガラス粒子を含有する無機粒子含有組成物を用いることが好ましい。この場合の無機粒子含有組成物層1は、ガラス含有組成物層である。
【0029】
塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
乾燥温度としては、特に制限は無いが、60℃〜350℃が好ましく、100℃〜350℃がより好ましく、150℃〜300℃が特に好ましい。乾燥時間は1分間〜2時間程度とすることが好ましく、1分間〜1時間程度とすることが好ましい。なお、この加熱乾燥工程において、有機化合物は90質量%以上除去されることが好ましく、95質量%以上除去されることがより好ましく、99質量%以上除去されることが特に好ましい。乾燥工程において、有機化合物の残留物低減及び無機粒子の変色を抑制できる観点から、加熱雰囲気の酸素濃度を10体積%以下とすることが好ましく、0〜5体積%とすることがより好ましく、0〜3体積%とすることが特に好ましい。加熱機器内の酸素濃度は自然状態では大気中の酸素濃度と同等の約20体積%である。この酸素濃度を10体積%以下とする手段としては、加熱機器内を窒素、又はアルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスで置換すること、真空ポンプを用いることなどが挙げられ、その酸素濃度は可能なかぎり低い値であることが好ましい。酸素濃度の測定は、酸素濃度計により容易に行なうことができ、市販の酸素濃度計としては、酸素濃度計LC−750L(東レエンジニアリング株式会社製)等が挙げられる。
【0030】
次に、前面ガラス基板40上に設けられた無機粒子含有組成物層1を焼成して焼結体である誘電体層70を得る(図1(c)を参照)。焼成方法としては、例えば、電気炉中に基板と上記無機粒子含有組成物層との積層体を収容して加熱する方法、ホットプレート上に上述の積層体を載置して加熱する方法等が挙げられる。
焼成温度は、上記無機粒子含有組成物層が十分に焼結する温度であれば特に限定されないが、最高温度が300〜700℃であることが好ましく、300〜600℃であることがより好ましく、400℃〜600℃であることが特に好ましい。焼成時間は、5分間〜2時間程度が好ましい。また、焼成は大気中で実施されることが好ましい。
上記の焼成工程を経ることにより、無機粒子含有組成物層中の有機成分は揮発し、無機成分のみの誘電体層が形成されると考えられる。
本実施形態の誘電体層の形成方法によれば、本発明の無機粒子含有組成物から無機粒子含有組成物層1を形成し、これを乾燥することにより、焼成に際して無機粒子含有組成物層1に含まれる有機成分を従来よりも少なくできることから、より低エネルギーで焼成工程を完了して良好な誘電体層を形成することができ、また電気炉などへの分解生成物の堆積を十分低減することが可能となる。
本実施形態の誘電体層の形成方法により得られる基板上に誘電体層を備えた積層体は、PDP用前面基板(PDP用基板)として好適に用いることができる。
【0031】
次に、本発明に係る蛍光体層の形成方法の好適な実施形態について説明する。本実施形態に係る蛍光体層の形成方法は、基板上に、無機粒子として蛍光体粒子を含む上述の本発明の無機粒子含有組成物から形成される無機粒子含有組成物層を設ける工程と、その組成物層を加熱する工程とを有するものである。以下、PDP用背面ガラス基板上に蛍光体層を形成する実施形態について図2を参照しつつ説明する。図2は、本実施形態の蛍光体層の形成方法を説明するための模式断面図である。
【0032】
アドレス電極54が設けられた背面ガラス基板41を用意する。次に、背面ガラス基板41のアドレス電極54が設けられている側に背面誘電体層72を形成する。形成した誘電体層72上に、バリアリブ80を形成する(図2(a)を参照)。
隣り合うバリアリブ80の間隙に、無機粒子として蛍光体粒子を含む本発明に係る無機粒子含有組成物を塗布し、無機粒子含有組成物層1’を形成する(図2(b)を参照)。
塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、カーテンコート法、ディスペンサー塗布法等が挙げられる。
次に、無機粒子含有組成物層1’を乾燥し、焼成することにより無機物層としての蛍光体層90を形成する(図2(c)を参照)。
乾燥温度としては、特に制限は無いが、60〜200℃程度とすることが好ましく、乾燥時間は1分間〜1時間程度とすることが好ましい。
焼成方法としては、例えば、電気炉中に背面基板と上記無機粒子含有組成物層との積層体を収容して加熱する方法、ホットプレート上に上述の積層体を載置して加熱する方法等が挙げられる。
焼成温度は、上記無機粒子含有組成物層中の有機成分が完全に除去される温度であれば特に限定されないが、最高温度が300〜700℃であることが好ましく、300〜600℃であることがより好ましい。焼成時間は、5分間〜2時間程度が好ましい。また、焼成は大気中で実施されることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態の蛍光体層の形成方法においては、無機粒子含有組成物層1’の乾燥条件を、酸素濃度が10体積%以下、好ましくは0〜5体積%、より好ましくは0〜3体積%である雰囲気下、150〜350℃、好ましくは170〜300℃、より好ましくは200〜280℃での加熱とすることにより、有機化合物をほぼ全量除去することが可能である。この場合、焼成工程を省略することができ、工程が簡略化された蛍光体層の形成方法が実現可能となる。
本実施形態においては、不活性ガス雰囲気下で加熱することが好ましい。また、加熱温度は、150〜300℃程度とすることが好ましく、加熱時間は、1分間〜1時間程度とすることが好ましい。具体的な条件としては、例えば、250℃、30分間加熱する条件が挙げられる。
本実施形態の蛍光体層の形成方法によれば、焼成に際して無機粒子含有組成物層に含まれる有機化合物由来の不純物を従来よりも少なくできることから、有機化合物由来の不純物の残留による蛍光体層90の性能低下を抑制することができる。また、本実施形態の蛍光体層の形成方法によれば、焼成工程を省略することができ、工程が簡略化された蛍光体層の形成方法が実現可能となる。
本実施形態の蛍光体層の形成方法により得られる蛍光体層を備えた積層体は、PDP用背面基板(PDP用基板)200として好適に用いることができる。
【0034】
次に、本実施形態の方法により形成された誘電体層及び蛍光体層を備えたPDPの一実施形態について図3を参照しつつ説明する。
図3は、本発明によるPDPの一実施形態を示す部分斜視図である。図3に示すPDP300は、PDP用前面基板100と、PDP用背面基板200とで主として構成される。PDP用前面基板100は、積層体3と、積層体3における前面誘電体層70の表面を覆うように設けられた保護層71とで構成されている。積層体3は、主に前面ガラス基板40と帯状の表示電極52と前面誘電体層70とを順に積層して構成されている。前面誘電体層70は、本発明の無機粒子含有組成物から形成される無機粒子含有組成物層を加熱して得られるものである。PDP用背面基板200は、背面ガラス基板41と、背面ガラス基板41上に設けられた帯状のアドレス電極54と、背面ガラス基板41及びアドレス電極54上に設けられた背面誘電体層72と、背面誘電体層72上に設けられたバリアリブ80と、バリアリブ80の壁面及び背面誘電体層72の表面を覆うように形成された蛍光体層90とで主として構成されている。蛍光体層90は、本発明の無機粒子含有組成物から形成される無機粒子含有組成物層を加熱して得られるものである。そして、PDP用前面基板100とPDP用背面基板200とは、保護層71とバリアリブ80とが互いに密着するように貼り合わされて、蛍光体層90及び保護層71で囲まれた放電空間76が形成されている。なお、PDP300において、ガラス基板40、41、保護層71、背面誘電体層72、バリアリブ80、及び電極52、54等の構成部材は、従来公知の材料及び方法で形成することができる。背面誘電体層72は、本発明の無機物層の形成方法により形成されていてもよい。
【0035】
このように構成されるPDP300は、前面誘電体層70及び蛍光体層90が従来よりも低エネルギーで形成され、有機化合物に起因する悪影響が十分低減されているため、放電特性、製造コスト及び環境の点で優れたものである。
また、本実施形態においては、表示電極52を本発明の無機粒子含有組成物を用いて形成してもよい。この場合、基板40上に、無機粒子として上述した金属粒子又は金属酸化物粒子を含有する無機粒子含有組成物を塗布して無機粒子含有組成物層を形成し、これを乾燥し、焼成することにより電極を形成することができる。
塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、カーテンコート法等が挙げられる。乾燥温度としては、特に制限は無いが、60〜200℃程度とすることが好ましく、乾燥時間は1分間〜1時間程度とすることが好ましい。
焼成方法としては、例えば、電気炉中に基板と上記無機粒子含有組成物層との積層体を収容して加熱する方法、ホットプレート上に上述の積層体を載置して加熱する方法等が挙げられる。
焼成温度は、上記無機粒子含有組成物層が十分に焼結する温度であれば特に限定されないが、最高温度が300〜700℃であることが好ましく、300〜600℃であることがより好ましい。焼成時間は、5分間〜2時間程度が好ましい。また、焼成は大気中で実施されることが好ましい。
上記のように、電極、誘電体層又は蛍光体層が本発明の無機粒子含有組成物を用いて形成されたPDPを用いたプラズマディスプレイは、表示特性、製造コスト及び環境の点で優れたものとなる。特に、電極、誘電体層及び蛍光体層のすべてが本発明の無機粒子含有組成物を用いて形成された場合、表示特性、製造コスト及び環境の点で更に優れたものとなる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<無機粒子含有組成物の作製>
以下、実施例により本発明を説明する。
(実験例)
(A)有機化合物として、ビスヒドロキシメチルトリシクロデカン(以下DCPDと略す)、(B)有機溶媒としてテルピネオール(異性体混合物、日本テルペン化学株式会社製、商品名)(以下TPOと略す)、又は2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール(以下慣用名(ブチルカルビトール)より、BCと略す)、無機微粒子(C)として、蛍光体微粒子を混合して無機微粒子含有組成物溶を調整した。
【0037】
(実施例1〜6)
表2に示す質量部の比率で、DCPD、BC又はTPO、及び蛍光体微粒子(Zn2SiO4:Mn)をそれぞれ混合し、ビーズミルを用いて15分間混合、分散し、更に30μm角の開口部を有する濾布を通過させて濾過し、蛍光体微粒子含有樹脂組成物を調製した。
【0038】
(比較例1〜6)
実施例のDCPDに代えて下記一般式で表されるイソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン化学株式会社製、商品名:テルソルブMTPH)を用い、表2に示す質量部の比率で、BC又はTPO、及び蛍光体微粒子(Zn2SiO4:Mn)をそれぞれ混合し、ビーズミルを用いて15分間混合、分散し、更に30μm角の開口部を有する濾布を通過させて濾過し、蛍光体微粒子含有樹脂組成物を調製した。
【0039】
【化6】

【0040】
得られた蛍光体微粒子含有樹脂組成物の粘度を、比較すると、実施例1〜3の組成物は、添加溶媒の比率が5質量部下降した場合、粘度が167%上昇した。これに対し、比較例1〜3の組成物の粘度は、360%上昇した。また、実施例4〜6の組成物では、添加溶媒の比率が10質量部下降した場合、粘度は210%上昇した。これに対し、比較例4〜6の組成物の粘度は、287%上昇した。
上記結果の通り、(A)有機化合物に一般式(1)で示されるDCPDを使用した組成物では、それ以外の有機化合物であるMTPHを使用した組成物と比較して、希釈溶媒の比率の変化に対して、粘度の変化が穏やかであった。
【0041】
【表1】

(蛍光体微粒子含有組成物の組成(質量部))
【0042】
【表2】

(蛍光体微粒子含有組成物の組成(質量部))
【0043】
以上の結果から分かるように、本発明の無機微粒子含有樹脂組成物は、所望の粘度を得るための希釈溶剤の配合量に対して粘度の変化が穏やかで、組成物作製時の配合量の誤差に対する溶液粘度の裕度が広くなることが分かる。これにより、基板への無機微粒子含有溶液を塗布する工程での、塗布ムラ抑制、及び膜厚制御が容易となる。また、所望の無機体或いは無機物層を従来よりも低エネルギーで形成できるとともに有機化合物に起因する悪影響を低減でき、作業性、コストに有利な無機物層の形成方法、及び、かかる無機物層の形成方法によって形成された無機物層を備えるプラズマディスプレイを提供することができる。
【符号の説明】
【0044】
1、1’ 無機粒子含有組成物層
3 積層体
40 前面ガラス基板
41 背面ガラス基板
52 表示電極
54 アドレス電極
70 誘電体層(前面誘電体層)
71 保護層
72 背面誘電体層
76 放電空間
80 バリアリブ
90 蛍光体層
100 PDP用前面基板
200 PDP用背面基板(PDP用基板)
300 PDP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表わされる有機化合物と、
(B)有機溶剤と、
(C)無機粒子と、を含む無機粒子含有組成物。
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1〜10アルキレン基を示し、n+mは1〜3の整数を示し、同一分子中にRが2以上存在する場合、それぞれのRは同一でも異なっていても良い。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表わされる有機化合物の含有量が、前記無機粒子含有組成物中に含まれる有機化合物全量に対して50〜95質量%である、無機粒子含有組成物。
【請求項3】
基板上に、請求項1又は2に記載の無機粒子含有組成物を塗工して無機粒子含有組成物層を設ける工程と、
前記無機粒子含有組成物層を加熱する工程と、
を備える、無機物層の形成方法。
【請求項4】
前記基板が、プラズマディスプレイ用基板であり、前記無機粒子がガラス粒子であり、前記無機物層としてプラズマディスプレイ用誘電体層を形成する、請求項3に記載の無機物層の形成方法。
【請求項5】
前記基板が、プラズマディスプレイ用基板であり、前記無機粒子が蛍光体粒子であり、前記無機物層としてプラズマディスプレイ用蛍光体層を形成する、請求項3に記載の無機物層の形成方法。
【請求項6】
請求項4に記載の無機物層の形成方法により形成されたプラズマディスプレイ用誘電体層、又は、請求項5に記載の無機物層の形成方法により形成されたプラズマディスプレイ用蛍光体層を備える、プラズマディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−159370(P2010−159370A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3746(P2009−3746)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】