説明

無機複合硬化物およびその製造方法

【課題】産業廃棄物である廃石膏、高炉スラグ、フライアッシュを、建材として使用できる程度の強度を有した硬化体を、エネルギー抑制効果が高くしかも安価に製造できるようにする。
【解決手段】廃石膏、高炉スラグ、フライアッシュの粉末混合物に水を添加してペースト状にしたものに、焼成ドロマイト(CaO・MgO)を刺激剤として1〜3%を添加し、養生温度を40〜60℃として養生することで、ポルトランドセメントを刺激剤として用いた場合よりも硬く、建材としてこのまま利用することができる硬化物を簡単に得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の新築時や解体時等に排出される廃石膏の微粉末を用いて製造することができる無機複合硬化物およびその製造方法の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築物には石膏ボードが多量に採用されており、このような石膏ボードの廃材は、建築物の解体時には勿論であるが、新築時や修復時においても端材として多量に排出される。そしてこのように多量に排出された廃石膏ボードについて、単純に埋め立てに用いることは、埋め立て処分場の逼迫という立場からは勿論のこと、石膏資源の枯渇化の観点からしても好ましくなく、このようなことから廃石膏ボードの有効利用化を図ることが要求されている。
ところで廃石膏ボードを構成している廃石膏は二水物(二水石膏)であり、そこでこの二水石膏を加熱する等して脱水処理をして無水石膏に再生することが提唱されるが、再生石膏は、採掘した消石灰から製造した生石膏に比して性能が悪いという問題があるだけでなく、エネルギー価格の高騰もあって再生するに必要なエネルギー消費が高価になることも考えられて現実性に乏しい。
これに対し、廃石膏を石炭灰と消石灰と混合して硬化させることで硬化物を製造することが提唱されている(例えば特許文献1)が、このものは圧縮強度が弱いという問題があるだけでなく、消石灰という工業的にも有用な資源を用いなければならず、資源的な観点からも問題がある。
これに対し、石膏廃棄物粉末を二酸化珪素、アルミナ、そして水酸化カルシウムと混合して水和硬化性組成物を製造することが知られている(例えば特許文献2)。ところが前記水和硬化性組成物を製造する際に、二酸化珪素やアルミナという貴重な資源が必要であるという問題があるだけでなく、100℃以上という高温での反応が必要になってエネルギー的な面でも問題がある。
そこで廃石膏、フライアッシュ、そして高炉スラグという産業廃棄物同志を混合し、混合物の硬化を促す刺激剤として普通ポルトランドセメントを使用し、これによって建材として利用できる強度を備えた硬化体を製造できることを提唱した(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭56−149367号公報
【特許文献2】特開2003−286067号公報
【非特許文献1】日本建築仕上学会論文報告集,FINEX,Vol.18,No.106,第13巻,第1号 1−6頁,2006年5月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで前記刺激剤として用いられる普通ポルトランドセメントは、自らが硬化材であり、そのため、添加量を増大させるほど硬化機能が高くなっていくことは当然であり、このような硬化物を刺激剤として用いることなく、しかも少量添加で硬度アップした無機複合硬化物を製造することが要求され、ここに本発明が解決せんとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、石膏、スラグ、フライアッシュの粉末混合物に水を添加してペースト状にしたものに、酸化マグネシウムと酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムとの混合物を刺激剤として0.5〜3重量%を添加し、養生温度を40〜60℃として養生して得られることを特徴とする無機複合硬化物である。
請求項2の発明は、刺激剤はドロマイトの焼成物または消化物であることを特徴とする請求項1記載の無機複合硬化物である。
請求項3の発明は、石膏は廃石膏であることを特徴とする請求項1または2記載の無機複合硬化物である。
請求項4の発明は、石膏、スラグ、フライアッシュの粉末混合物に水を添加してペースト状にしたものに、酸化マグネシウムと酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムとの混合物を刺激剤として0.5〜3%を添加し、養生温度を40〜60℃として養生して得ることを特徴とする無機複合硬化物の製造方法である。
請求項5の発明は、刺激剤はドロマイトの焼成物または消化物であることを特徴とする請求項4記載の無機複合硬化物の製造方法である。
請求項6の発明は、石膏は廃石膏であることを特徴とする請求項4または5記載の無機複合硬化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1または4の発明とすることにより、産業廃棄物として生成される石膏、スラグ、フライアッシュという成分を有効に利用し、しかもこれら混合物を硬化するための刺激剤として酸化マグネシウムと酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムとの混合物を用いることで、低温養生によりポルトランドセメントを用いた場合よりも高い硬度の無機複合硬化物を生産できることになる。
請求項2または5の発明とすることにより、刺激剤が入手しやすいドロマイトからできることになって、エネルギー抑制効果が高い無機複合硬化物を容易に生産できることになる。
請求項3または6の発明とすることにより、廃石膏を用いてのエネルギー抑制効果が高い無機複合硬化物を安価に生産できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、廃石膏を再生することなくそのままの形態、つまり二水物石膏のままで再利用を図るものであり、その場合に混和(混合)する物質についても産業廃棄物、具体的には石炭火力発電所で発生するフライアッシュ、鉄鋼製造工程において副産物として生産される高炉スラグ等のスラグを用いるものであり、これらのものを原料とし、そして100℃以上の高温処理することなく無機複合硬化体を作成するものであり、その場合に用いる刺激剤についても、ポルトランドセメントのような自ら硬化性を有した産業生産物でなく、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)または水酸化カルシウム(Ca(OH))との混合物を刺激剤として用いるが、このような刺激剤は、各化合物を混合したものであってもよく、さらには天然鉱物として採取されるドロマイト(CaCO・MgCO)の焼成物(軽焼物)、消化物(カルシウムについては水酸化物になっているが、マグネシウムについては全てが水酸化物となりきらず、水酸化物と酸化物との混合物になっている)であってもよい。
【0007】
本発明は、酸化マグネシウムと酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムとの混合物を刺激剤とすることで建材として利用できるまでの強度を有した硬化体にすることを見出し、しかもその場合において、高炉スラグに代表されるスラグは潜在的な水硬性を有し、硬化物を得るのに適しているといえる。しかしながらこのものに廃石膏を用いた場合、硬化体の初期の硬化(強度発現)の遅延が予想されるが、この遅延は建材として利用する硬化体の生産性に悪影響を及ぼす、つまり歩留まりが悪くなるため、如何にして強度発現を促すか、ということについて鋭意検討し、本発明を完成した。
【0008】
廃石膏としては、廃石膏のみであることが好ましいが、現実には表面に紙が貼着された廃石膏ボードとして供給される場合が多く、このものから紙を完全に取り除くことは手間隙がかかることになって生産性の点で問題があり、そこで紙が多少付着していて問題なく硬化体を生産できることについても合わせて検討した。
【0009】
この場合において、前記非特許文献1に記載される研究の過程で、石膏、高炉スラグ、フライアッシュの混合割合と硬化体の強度との関係について、図1に示すグラフ図において破線で囲んだ範囲が好ましいことが確認されている。そこでその略中央点となるところとして、重量比でフライアッシュ:高炉スラグ:市販石膏=20:60:20に調合したものについて、水/粉体比で0.4となるように調合してペースト状のものを作成し、このものに、刺激剤として、前述した普通ポルトランドセメントの他に、生石灰、焼成ドロマイト(CaO・MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、酸化マグネシウム(MgO)、大谷石、ゼオライト(Na、K、Ca)を選択し、これらについて添加率(重量%)を調整しながら添加し、20℃にて養生したものについて生成物の初期(材齢7日)の強度測定をした。その結果を図2のグラフ図に示す。これによると、刺激剤を無添加のもの、水酸化マグネシウム、大谷石、ゼオライト(Na、K、Ca)は何れも硬化が発現しなかったが、普通ポルトランドセメント、焼成ドロマイト、酸化マグネシウム、生石灰を刺激剤として添加したものは硬化が発現した。この場合において、焼成ドロマイトは、普通ポルトランドセメント、生石灰、酸化マグネシウムを越えて優れた硬化が発現しているのが確認され、そして焼成ドロマイトの添加量としては、0.5〜3%程度が好適であるのが確認され、本発明を完成した。
【0010】
焼成ドロマイト、生石灰、酸化マグネシウム、普通ポルトランドセメントが刺激剤として有効な理由について検討したところ、pHが関係があるのではないかと推論し、そこで圧縮強度とpHとの関係を図3のグラフ図に示す。これによると、pHが12以下になる大谷石、ゼオライト(Na、K、Ca)は刺激剤としては不適である一方、pHが12以上になる生石灰、焼成ドロマイト、ポルトランドセメントは刺激剤として好ましいといえる。
【0011】
そこで次に、刺激剤として好ましい焼成ドロマイトを採用し、養生温度と廃石膏置換率との関係について検討した。フライアッシュ、高炉スラグ、石膏および焼成ドロマイトの添加割合については前述した割合を用い、養生温度を20℃、40℃、60℃、80℃とした場合において、廃石膏の市販石膏に対する置換率を0、20、50、100%としたものについて、材齢4日と28日のものの生成物の圧縮強度を測定した。その結果を図4のグラフ図に示す。
材齢4日のものについて着目すると、廃石膏の置換率が増大するに伴い圧縮強度が低下していることが確認される。これは廃石膏の添加量が多くなることで強度発現が遅延していることを意味し、この強度発現の遅延は養生温度が高くなるにつれ改善していることが確認されるが、80℃になると低下している。このことから、廃石膏を使用する場合に、養生温度は40℃〜60℃程度が好ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フライアッシュ、高炉スラグ、石膏の混合割合において硬化体の強度が出る範囲を示したグラフ図である。
【図2】刺激剤の種類とその添加率を変化させた場合における硬化物の材齢7日の圧縮強度との関係を示すグラフ図である。
【図3】刺激剤のpHと硬化物の圧縮強度との関係を示すグラフ図である。
【図4】養生温度と廃石膏置換率とを変化させた場合における硬化物の圧縮強度の関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏、スラグ、フライアッシュの粉末混合物に水を添加してペースト状にしたものに、酸化マグネシウムと酸化カルシウムあるいは水酸化カルシウムとの混合物を刺激剤として0.5〜3重量%を添加し、養生温度を40〜60℃として養生して得られることを特徴とする無機複合硬化物。
【請求項2】
刺激剤はドロマイトの焼成物または消化物であることを特徴とする請求項1記載の無機複合硬化物。
【請求項3】
石膏は廃石膏であることを特徴とする請求項1または2記載の無機複合硬化物。
【請求項4】
石膏、スラグ、フライアッシュの粉末混合物に水を添加してペースト状にしたものに、酸化マグネシウムと酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムとの混合物を刺激剤として0.5〜3%を添加し、養生温度を40〜60℃として養生して得ることを特徴とする無機複合硬化物の製造方法。
【請求項5】
刺激剤はドロマイトの焼成物または消化物であることを特徴とする請求項4記載の無機複合硬化物の製造方法。
【請求項6】
石膏は廃石膏であることを特徴とする請求項4または5記載の無機複合硬化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−247642(P2008−247642A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88573(P2007−88573)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(591100563)栃木県 (33)
【出願人】(507101864)
【出願人】(000160407)吉澤石灰工業株式会社 (38)
【出願人】(507102414)株式会社安住 (1)
【Fターム(参考)】