説明

無機EL用青色発光体の作製方法、無機EL用青色発光体、および発光装置

【課題】電界励起の場合において青色発光を示す発光体(青色発光体)、すなわち無機EL素子に適用可能な青色発光体を作製し、その発光輝度の変化に対する色度座標への影響を低減させることを目的とする。また、無機EL素子を有する発光装置の再現性の向上や、輝度の変化に影響を受け難い安定な表示を可能にすることを目的とする。
【解決手段】無機EL用青色発光体の作製において、硫化物発光体、および希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS:但し、Mは希土類金属)を少なくとも混合し、得られた混合物を600℃以上1000℃以下で焼成することにより硫化物発光体の一部に希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を含めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機EL用青色発光体の作製方法、および無機EL用青色発光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence)を面光源(バックライト)や、画像表示装置(ディスプレイ)に応用する為の開発が進められており、EL材料やEL素子の構成が数多く検討されてきた。
【0003】
EL素子は、大きく分けて、無機EL素子と有機EL素子とが挙げられるが、主に有機EL材料を用いて形成され、直流駆動を用いるのが有機EL素子であり、主に無機EL材料を用いて形成され、交流駆動であるのが無機EL素子と位置づけられている。
【0004】
無機EL素子に用いる無機EL材料としては、青色発光を示す発光体である、BaAlを含む発光体が知られており、これは、BaAlで表される母体材料に発光中心となるユーロピウム(Eu)を添加することにより、得られる発光体(BaAl:Eu)である(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
その他にもZnSを有する発光体が知られている(例えば、特許文献1参照)。ZnSを有する発光体のうち、銅(Cu)を添加して得られる発光体(ZnS:Cu)の発光は、450nmから550nmの波長領域でブロードな発光ピークが得られる青緑色発光であることが知られている。
【0006】
また、ZnSに銀(Ag)を添加して得られる発光体(ZnS:Ag)(例えば、非特許文献2参照)の発光は、銅(Cu)を添加して得られる発光体(ZnS:Cu)の発光よりも、短波長でシャープな発光ピークが得られる青色発光であることが知られている。
【0007】
そのため、銀(Ag)を添加して得られる発光体(ZnS:Ag)は、色純度の良さから無機EL素子に適用する上で非常に有望視されるが、銀(Ag)を添加して得られる発光体(ZnS:Ag)は、紫外線励起や電子線励起の場合では強度の発光を示すが、電界励起の場合ではほとんど発光を示さないため、無機EL素子に用いる青色発光体として用いることができないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Noboru Miura et al,J.Appl.Phys.Vol.38,L1291〜L1292(1999)
【非特許文献2】Su−Hua Yang and Meiso Yokoyama,J.Appl.Phys.Vol.41,L5609〜L5613(2002)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−157759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の一態様は、電界励起の場合において青色発光を示す発光体(青色発光体)、すなわち無機EL素子に適用可能な青色発光体を作製し、その発光輝度の変化に対する色度座標への影響を低減させることを目的とする。また、無機EL素子を有する発光装置の再現性の向上や、輝度の変化に影響を受け難い安定な表示を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様である無機EL用青色発光体の作製方法によれば、硫化物発光体、および希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS:但し、Mは希土類金属)を少なくとも混合し、得られた混合物を600℃以上1000℃以下で焼成することにより硫化物発光体の一部に希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を含めることができる。
【0012】
また、上記構成において、硫化物発光体、および希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS:但し、Mは希土類金属)に添加剤を加えて混合する構成も本発明に含めることとする。
【0013】
また、上記構成において、硫化物発光体は、ZnS:Ag,Cl、ZnS:Au,Cl、CdS:Ag,Cl、CdS:Au,Cl、CaS:Ag,Cl、CaS:Au,Clから選ばれるいずれか一であることを特徴とする。
【0014】
また、上記構成において、添加剤は、酸性溶液に可溶な金属酸化物であり、具体的には、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ランタン(La)から選ばれるいずれか一であることを特徴とする。
【0015】
また、上記構成において、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)は、ランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaCuOS)、セリウム−銅オキシカルコゲナイド(CeCuOS)、スカンジウム−銅オキシカルコゲナイド(ScCuOS)、イットリウム−銅オキシカルコゲナイド(YCuOS)から選ばれるいずれか一であることを特徴とする。
【0016】
また、上記構成のうち、添加剤を加える場合には、添加剤の添加濃度が、前記硫化物発光体に対して、0.1wt%以上20wt%以下であることを特徴とする。
【0017】
なお、上記各構成において、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)の添加濃度は、硫化物発光体に対して、1wt%以上5wt%以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の別の一態様は、組成式ZnS:Ag,Clで示される硫化物発光体の一部に希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS:但し、Mは希土類金属)を含むことを特徴とする無機EL用青色発光体である。
【0019】
なお、上記構成における硫化物発光体は、波長400nm以上500nm以下の領域に発光ピークを有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の別の一態様は、一対の電極間に無機EL層を有する発光素子であって、無機EL層には、上述した無機EL用青色発光体を含むことを特徴とする発光素子である。
【0021】
なお、上記構成に加えて、一方の電極と無機EL層との間に誘電体層を少なくとも有する発光素子の構成も本発明に含めることとする。
【0022】
また、本発明の別の一態様は、上述した発光素子を用いて形成されたことを特徴とする発光装置である。
【0023】
なお、本発明には、無機EL素子を有する発光装置だけでなく、発光装置を有する電子機器も範疇に含めるものである。従って、本明細書中における発光装置とは、画像表示デバイス、発光デバイス、もしくは光源(照明装置含む)を指す。また、発光装置にコネクター、例えばFPC(Flexible printed circuit)もしくはTAB(Tape Automated Bonding)テープもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、または無機EL素子にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
【発明の効果】
【0024】
発光輝度の変化に伴う色度座標の変化が少ない無機EL用青色発光体を提供することができる。また、上記無機EL用青色発光体を用いて形成される無機EL素子を発光装置などに適用することにより、従来よりも再現性が良く、かつ輝度の変化に影響を受けることなく安定な表示が可能な発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】無機EL用青色発光体について説明する図。
【図2】無機EL素子について説明する図。
【図3】パッシブマトリクス型の発光装置について説明する図。
【図4】パッシブマトリクス型の発光装置について説明する図。
【図5】パッシブマトリクス型の発光装置について説明する図。
【図6】電子機器を示す図。
【図7】電子機器を示す図。
【図8】無機EL素子の周波数−輝度特性について示す図。
【図9】無機EL素子の電圧−輝度特性について示す図。
【図10】無機EL素子の発光輝度−色度座標(X座標、Y座標)特性について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の一態様について図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることが可能である。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様である無機EL用青色発光体の合成方法について説明する。
【0028】
なお、本実施の形態に示す無機EL用青色発光体は、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体であり、その合成方法としては、固相法を用いることができる。
【0029】
固相法を用いる場合には、図1(A)のフローに示すように原料となる硫化物発光体、添加剤および希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)をそれぞれ秤量し、混合した後、600℃以上1000℃以下、より好ましくは700℃以上800℃以下で焼成し、洗浄することにより、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を形成することができる。
【0030】
原料となる硫化物発光体は、母体材料、付活剤、および共付活剤で構成される。なお、母体材料は、硫化物であり、例えば、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、硫化カルシウム(CaS)、硫化イットリウム(Y)、硫化ガリウム(Ga)、硫化ストロンチウム(SrS)、硫化バリウム(BaS)等を用いることができる。その他にも硫化カルシウム−ガリウム(CaGa)、硫化ストロンチウム−ガリウム(SrGa)、硫化バリウム−ガリウム(BaGa)等の3元系の混晶を用いることもできる。
【0031】
また、付活剤としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等を用いることができる。なお、混合される付活剤の濃度は、母体材料に対して、0.01〜10wt%、より好ましくは0.1〜1wt%の範囲とする。
【0032】
また、共付活剤としては、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、アスタチン(At)などのハロゲン元素、または、アルミニウム(Al)等を用いることができる。その他、遷移金属や希土類金属とハロゲン元素とで構成される化合物を用いることもできる。なお、混合される共付活剤の濃度は、母体材料に対して、0.01〜10wt%、より好ましくは0.1〜1wt%の範囲とする。
【0033】
従って、原料となる硫化物発光体としては、例えばZnS:Ag,Cl、ZnS:Au,Cl、ZnS:Cu,Cl、CdS:Ag,Cl、CdS:Au,Cl、CdS:Cu,Cl、CaS:Ag,Cl、CaS:Au,Cl、CaS:Cu,Cl等を用いることができる。なお、本実施の形態において用いる硫化物発光体としては、上述した母体材料、付活剤、および共付活剤で構成された市販品を用いることもできる。また、本実施の形態において用いる硫化物発光体の粒径としては、5〜30μmとするのが好ましい。
【0034】
また、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS,但し、M=希土類金属)としては、例えば、ランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaCuOS)、セリウム−銅オキシカルコゲナイド(CeCuOS)、スカンジウム−銅オキシカルコゲナイド(ScCuOS)、イットリウム−銅オキシカルコゲナイド(YCuOS)等を用いることができる。なお、添加される希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)の濃度は、硫化物発光体に対して、1〜5wt%の範囲とする。
【0035】
また、上記の硫化物発光体には添加剤を添加することもでき、酸性溶液に可溶な金属酸化物を用いることができる。例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ランタン(La)等を用いることができる。なお、添加される添加剤の濃度は、硫化物発光体に対して、0.1〜20wt%の範囲とする。
【0036】
焼成後に得られる粉末が、無機EL素子用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体であり、その構造は、図1(B)に示すように硫化物発光体101の一部に希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)102を有する構造である。そして、この希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を洗浄することにより、発光体表面に付着した不純物等を除去できるので、純度の高い硫化物発光体を得ることができる。なお、ここで用いる洗浄方法としては、酢酸(CHCOOH)洗浄や塩酸(HCl)洗浄やキレート洗浄等が挙げられる。
【0037】
なお、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体としては、例えば、ZnS:Ag,Cl+MCuOS、ZnS:Au,Cl+MCuOS、ZnS:Cu,Cl+MCuOS、CdS:Ag,Cl+MCuOS、CdS:Au,Cl+MCuOS、CdS:Cu,Cl+MCuOS、CaS:Ag,Cl+MCuOS、CaS:Au,Cl+MCuOS、CaS:Cu,Cl+MCuOS等を用いることができる。なお、本明細書中では、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を上記の通り「(硫化物発光体の組成式+MCuOS)」と示すこととする。
【0038】
上記固相法は、他の方法に比べると比較的高温での焼成が必要となるが、簡単な方法であるため、生産性がよく量産向きであるといえる。
【0039】
以上により、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を形成することができる。なお、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体は、波長400nm以上500nm以下の領域に発光ピークを有し、従来より知られている無機EL用青色発光体よりも、青色の純度が高く、また、輝度の変化に伴う色純度の変化が小さい為、これを発光装置などに適用することにより、従来よりも再現性が良く、かつ輝度の変化に影響を受けることなく安定な表示が可能な発光装置を提供することができる。
【0040】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様である無機EL用青色発光体を用いて形成される分散型の無機EL素子について図2を用いて説明する。
【0041】
本実施の形態で示す無機EL素子は、基板201上に、第1の電極202、無機EL層203、及び第2の電極204が順次積層された素子構成を有する。なお、第1の電極202と無機EL層203の間や、無機EL層203と第2の電極204との間に誘電体として機能する誘電体層を設けることもできる。
【0042】
そして、第1の電極202と第2の電極204との間に所望の電圧を印加することにより、無機EL層203から発光が得られる。なお、ここで示す無機EL素子は、交流電源205により両電極間に交流電圧を印加する交流駆動により動作させることとする。
【0043】
図2に示す基板201には、絶縁表面を有する基板または絶縁基板を適用する。具体的には、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種ガラス基板、石英基板、セラミック基板又はサファイヤ基板等を用いることができる。
【0044】
また、第1の電極202および第2の電極204には、様々な金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。具体的には、例えば、インジウム錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素若しくは酸化珪素を含有したインジウム錫酸化物、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム等が挙げられる。この他、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)、およびこれらの金属を含む合金や窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。
【0045】
これらの材料は、通常スパッタリング法により成膜される。例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛は、酸化インジウムに対し1〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。また、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウムは、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5〜5wt%、酸化亜鉛を0.1〜1wt%含有したターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。その他、真空蒸着法を用いることができる。さらにゾル−ゲル法などを応用して、インクジェット法、スピンコート法などにより作製してもよい。
【0046】
また、第1の電極202および第2の電極204は、単層膜に限らず、積層膜で形成することもできる。なお、無機EL層203で発光する光を外部に取り出すため、第1の電極202または第2の電極204のいずれか一方、または両方が光を通過するように形成する。例えば、ITO等の透光性を有する導電材料を用いて形成するか、或いは、銀、アルミニウム等を数nm乃至数十nmの厚さとなるように形成する。また、膜厚を薄くした銀、アルミニウムなどの金属薄膜と、ITO等の透光性を有する導電材料を用いた薄膜との積層構造とすることもできる。
【0047】
第1の電極202と第2の電極204の間には、無機EL層203が形成される。無機EL層203においては、実施の形態1で説明した無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体の粒子が、バインダ中に分散された構造を有する。なお、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体としては、例えば、ZnS:Ag,Cl+MCuOS、ZnS:Au,Cl+MCuOS、ZnS:Cu,Cl+MCuOS、CdS:Ag,Cl+MCuOS、CdS:Au,Cl+MCuOS、CdS:Cu,Cl+MCuOS、CaS:Ag,Cl+MCuOS、CaS:Au,Cl+MCuOS、CaS:Cu,Cl+MCuOS等を用いることができる。なお、無機EL層203の形成において、上述した希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体と他の公知の材料(例えば発光色の異なる材料)などを組み合わせて用いることができる。
【0048】
また、無機EL層203に用いるバインダとは、無機EL層203において無機EL用青色発光体の粒子を分散させた状態で固定するための物質である。具体的には、有機絶縁材料または無機絶縁材料を用いることができる。また、有機絶縁材料及び無機絶縁材料の混合材料を用いることもできる。
【0049】
バインダとして用いる上記有機絶縁材料としては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。また、芳香族ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール(polybenzimidazole)などの耐熱性高分子又はシロキサン樹脂を用いることができる。なお、シロキサン樹脂とは、Si−O−Si結合を含む樹脂に相当する。シロキサンは、シリコン(Si)と酸素(O)との結合で骨格構造が構成される。また、置換基として、少なくとも水素を含む有機基(例えばアルキル基、芳香族炭化水素)が用いられる。または、置換基として、フルオロ基を用いてもよい。または置換基として、少なくとも水素を含む有機基と、フルオロ基とを用いてもよい。また、ポリビニルアルコールやポリビニルブチラールなどのビニル樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、オキサゾール樹脂(ポリベンゾオキサゾール樹脂)等を有機絶縁材料として用いてもよい。また、これらの樹脂に、チタン酸バリウム(BaTiO)やチタン酸ストロンチウム(SrTiO)などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。
【0050】
また、バインダとして用いる上記無機絶縁材料としては、酸化珪素、窒化珪素、酸素及び窒素を含む珪素、窒化アルミニウム、酸素及び窒素を含むアルミニウムまたは酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸鉛、酸化タンタル、タンタル酸バリウム、タンタル酸リチウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、その他の無機絶縁材料を含む物質から選ばれた材料を用いることができる。なお、有機絶縁材料に、誘電率の高い無機絶縁材料を含ませる(添加する)ことによって、無機EL用青色発光体及びバインダよりなる無機EL層の誘電率をより大きくする等の制御が可能となる。
【0051】
本実施の形態における無機EL層203の形成には、実施の形態1で示した無機EL用青色発光体、およびバインダを含む溶液を用い、液滴吐出法や、印刷法(スクリーン印刷やオフセット印刷など)、スピンコート法などの塗布法、ディッピング法、ディスペンサ法などにより形成する。従って、無機EL用青色発光体、およびバインダを含む溶液を形成する溶媒としては、バインダである材料を溶解させ、無機EL層の作製(各種ウエットプロセス)及び膜厚制御に適した粘度調整が可能な溶媒を適宜選択すればよい。例えば、バインダとしてシロキサン樹脂を用いる場合は、溶媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEAともいう)、3−メトシキ−3メチル−1−ブタノール(MMBともいう)等の有機溶媒を用いることができる。
【0052】
なお、無機EL層203の膜厚は、10〜1000nmの範囲が好ましい。また、無機EL層203において、無機EL用青色発光体は50wt%以上80wt%以下の割合で含有させるとよい。
【0053】
また、本実施の形態における無機EL素子は、図2(B)や図2(C)に示すように電極(第1の電極202、または第2の電極204)と無機EL層203との間に誘電体層を設ける構造としてもよい。なお、図2(B)は、第2の電極204と無機EL層203との間に誘電体層208が形成される構造(片側構造)であり、図2(C)は、図2(B)の構造に加えて、第1の電極202と無機EL層203との間に誘電体層209が形成された構造(両側構造)である。図2(B)の片側構造に関しては、第1の電極202と無機EL層203との間に誘電体層208が形成される構造としてもよい。
【0054】
なお、誘電体層(208、209)としては、絶縁耐圧が高く、緻密な膜質であり、誘電率が高いことが好ましい。例えば、酸化シリコン、酸化イットリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、窒化シリコン、酸化ジルコニウム等の絶縁材料を用いることができ、さらに、これらの混合膜又は2種以上の積層膜を用いることもできる。また、誘電体層の作製方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等により形成することができる。また、これらの絶縁材料の粒子をバインダ中に分散させることによって誘電体層を形成することもできる。なお、バインダ材料としては、先に説明した無機EL層に用いるバインダと同様な材料を用いることができる。また、誘電体層の膜厚は、10〜1000nmの範囲が好ましい。
【0055】
以上により、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を無機EL層に用いた無機EL素子を形成することができる。なお、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体は、従来より知られている無機EL用青色材料よりも、青色の純度が高く、また、輝度の変化に伴う色純度の変化が小さい為、これを用いて形成された無機EL素子も同様に青色の純度が高く、また、輝度の変化に伴う色純度の変化が小さい無機EL素子を形成することができる。
【0056】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、本発明の一態様である無機EL素子を用いて形成される発光装置として、パッシブマトリクス型の発光装置について、図3、図4を用いて説明する。
【0057】
パッシブマトリクス型(単純マトリクス型ともいう)の発光装置は、ストライプ状(帯状)に並列された複数の陽極と、ストライプ状に並列された複数の陰極とが互いに直交するように設けられており、その交差部に発光層が挟まれた構造となっている。従って、選択された(電圧が印加された)陽極と選択された陰極との交点にあたる画素が点灯することになる。
【0058】
図3(A)は、封止前における画素部の上面図を示す図であり、図3(A)中の鎖線A−A’で切断した断面図が図3(B)であり、鎖線B−B’で切断した断面図が図3(C)である。
【0059】
基板301上には、下地絶縁層として絶縁層304を形成する。なお、下地絶縁層が必要でなければ特に形成しなくともよい。絶縁層304上には、ストライプ状に複数の第1の電極313が等間隔で配置されている。また、第1の電極313上には、各画素に対応する開口部を有する隔壁314が設けられ、開口部を有する隔壁314は絶縁材料(感光性または非感光性の有機材料(ポリイミド、アクリル、ポリアミド、ポリイミドアミド、レジストまたはベンゾシクロブテン)、またはSOG膜(例えば、アルキル基を含むSiOx膜))で構成されている。なお、各画素に対応する開口部が発光領域321となる。
【0060】
開口部を有する隔壁314上に、第1の電極313と交差する互いに平行な複数の逆テーパ状の隔壁322が設けられる。逆テーパ状の隔壁322はフォトリソグラフィ法に従い、未露光部分がパターンとして残るポジ型感光性樹脂を用い、パターンの下部がより多くエッチングされるように露光量または現像時間を調節することによって形成する。
【0061】
また、平行な複数の逆テーパ状の隔壁322を形成した直後における斜視図を図4に示す。なお、図3と同一の部分には同一の符号を用いている。
【0062】
開口部を有する隔壁314及び逆テーパ状の隔壁322を合わせた高さは、無機EL層及び第2の電極をそれぞれ形成する膜の積層膜の膜厚より大きくなるように設定する。これにより、複数の領域に分離された無機EL層315と、第2の電極316とが形成される。なお、複数に分離された領域は、それぞれ電気的に独立している。
【0063】
第2の電極316は、第1の電極313と交差する方向に伸長する互いに平行なストライプ状の電極である。なお、逆テーパ状の隔壁322上にも無機EL層315及び第2の電極316を形成する膜の一部が形成されるが、無機EL層315、及び第2の電極316とは分断されている。なお、本実施の形態における無機EL層は、少なくとも実施の形態1で作製された無機EL用青色発光体を含むものである。例えば、バインダ中に無機EL用青色発光体が分散された構成とすることができる。なお、無機EL層315には、誘電体で形成された誘電体層や、発光体の発光効率を向上させる為の機能を有する各種機能層を設けても良い。
【0064】
発光装置は、全面に同じ発光色を発光する単色の発光装置としてもよいが、適宜色変換層などを設けることで、RGBカラー(或いはRGBWカラー)表示可能な発光装置、或いはエリアカラー表示可能な発光装置としてもよい。ここでは、無機EL層315は、隔壁314及び隔壁322により複数の領域に分離されている。したがって、分離された領域に合わせて赤色、緑色、青色に変換することができる色変換層を配列させることで、RGBカラー表示を行う発光装置とすることもできる。なお、色変換層は、発光層と光を取り出す側の基板との間に設ければよい。
【0065】
また、必要であれば、封止缶や封止のためのガラス基板などの封止材を用いて封止する。ここでは、封止基板としてガラス基板を用い、シール材などの接着材を用いて基板301と封止基板とを貼り合わせ、シール材などの接着材で囲まれた空間を密閉なものとしている。密閉された空間には、充填材や、乾燥した不活性ガスを充填する。また、発光装置の信頼性を向上させるために、基板と封止材との間に乾燥材などを封入してもよい。乾燥材によって微量な水分が除去され、十分乾燥される。また、乾燥材としては、酸化カルシウムや酸化バリウムなどのようなアルカリ土類金属の酸化物のような化学吸着によって水分を吸収する物質を用いることが可能である。なお、他の乾燥材として、ゼオライトやシリカゲル等の物理吸着によって水分を吸着する物質を用いてもよい。ただし、発光素子を覆って接する封止材が設けられ、十分に外気と遮断されている場合には、乾燥材は、特に設けなくともよい。
【0066】
次に、図3に示したパッシブマトリクス型の発光装置にFPCなどを実装した場合の上面図を図5に示す。
【0067】
図5において、画像表示を構成する画素部は、走査線群とデータ線群が互いに直交するように交差している。ここで、図3における第1の電極313が、図5の走査線503に相当し、図3における第2の電極316が、図5のデータ線502に相当し、逆テーパ状の隔壁322が隔壁504に相当する。データ線502と走査線503の間にはEL層が挟まれており、領域505で示される交差部が画素1つ分となる。
【0068】
なお、走査線503は配線端で接続配線508と電気的に接続され、接続配線508が入力端子507を介してFPC509bに接続される。また、データ線502は入力端子506を介してFPC509aに接続される。
【0069】
また、必要であれば、射出面に偏光板、又は円偏光板(楕円偏光板を含む)、位相差板(λ/4板、λ/2板)、カラーフィルタなどの光学フィルムを適宜設けてもよい。また、偏光板又は円偏光板に反射防止膜を設けてもよい。例えば、表面の凹凸により反射光を拡散し、映り込みを低減できるアンチグレア処理を施すことができる。
【0070】
なお、図5では、駆動回路を基板上に設けない例を示したが、本発明は特に限定されず、基板上に駆動回路を有するICチップを実装させてもよい。
【0071】
また、ICチップを実装させる場合、画素部の周辺(外側)の領域に、画素部へ各信号を伝送する駆動回路が形成されたデータ線側IC、走査線側ICをCOG方式によりそれぞれ実装する。COG方式以外の実装技術としてTCPやワイヤボンディング方式を用いて実装してもよい。TCPはTABテープにICを実装したものであり、TABテープを素子形成基板上の配線に接続してICを実装する。データ線側IC、および走査線側ICは、シリコン基板を用いたものであってもよいし、ガラス基板、石英基板もしくはプラスチック基板上にTFTで駆動回路を形成したものであってもよい。また、片側に一つのICを設けた例を説明しているが、片側に複数個に分割して設けても構わない。
【0072】
以上により形成されたパッシブマトリクス型の発光装置は、本発明の一態様である無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を無機EL層に用いた無機EL素子を用いて形成することができる。なお、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体は、従来より知られている無機EL用青色材料よりも、青色の純度が高く、また、輝度の変化に伴う色純度の変化が小さい為、これを用いて形成することにより、従来よりも再現性が良く、かつ輝度の変化に影響を受けることなく安定な表示が可能な発光装置を形成することができる。
【0073】
なお、本実施の形態3に示す構成は、実施の形態1または実施の形態2に示した構成を適宜組み合わせて用いることができることとする。
【0074】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である発光装置を用いて完成させた様々な電子機器について説明する。
【0075】
発光装置を適用した電子機器として、テレビジョン、ビデオカメラ、デジタルカメラ、ゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、ノート型コンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話、携帯型ゲーム機または電子書籍等)、記録媒体を備えた画像再生装置(具体的にはデジタルビデオディスク(DVD)等の記録媒体を再生し、その画像を表示しうる表示装置を備えた装置)、照明器具などが挙げられる。これらの電子機器の具体例を図6、図7に示す。
【0076】
図6(A)は表示装置であり、筐体8001、支持台8002、表示部8003、スピーカー部8004、ビデオ入力端子8005等を含む。ここでは、発光装置をその表示部8003に用いることにより作製される。なお、表示装置は、パーソナルコンピュータ用、TV放送受信用、広告表示用などの全ての情報表示用装置が含まれる。表示装置において、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を用いて形成される発光装置は、色純度の高い青色を表示することが可能であり、また、輝度の変化による青色の色度座標の変化がほとんどないため、本表示装置は、再現性が良く、かつ安定した表示が可能である。
【0077】
図6(B)はコンピュータであり、本体8101、筐体8102、表示部8103、キーボード8104、外部接続ポート8105、マウス8106等を含む。なお、コンピュータは、発光装置をその表示部8103に用いることにより作製される。コンピュータにおいて、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を用いて形成される発光装置は、色純度の高い青色を表示することが可能であり、また、輝度の変化による青色の色度座標の変化がほとんどないため、本コンピュータは、再現性が良く、かつ安定した表示が可能である。
【0078】
図6(C)はビデオカメラであり、本体8201、表示部8202、筐体8203、外部接続ポート8204、リモコン受信部8205、受像部8206、バッテリー8207、音声入力部8208、操作キー8209、接眼部8210等を含む。なお、ビデオカメラは、発光装置をその表示部8202に用いることにより作製される。ビデオカメラにおいて、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を用いて形成される発光装置は、色純度の高い青色を表示することが可能であり、また、輝度の変化による青色の色度座標の変化がほとんどないため、本ビデオカメラは、再現性が良く、かつ安定した表示が可能である。
【0079】
図6(D)は照明器具であり、照明部8301、傘8302、可変アーム8303、支柱8304、台8305、電源8306を含む。なお、照明器具は、発光装置を照明部8301に用いることにより作製される。なお、照明器具に図示した卓上型の照明器具の他、天井固定型の照明器具または壁掛け型の照明器具なども含まれる。照明器具において、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を用いて形成される発光装置は、輝度の変化による青色の色度座標の変化がほとんどないため、本照明器具は、安定した色度での照明が可能である。
【0080】
ここで、図6(E)は携帯電話であり、本体8401、筐体8402、表示部8403、音声入力部8404、音声出力部8405、操作キー8406、外部接続ポート8407、アンテナ8408等を含む。なお、携帯電話は、発光装置をその表示部8403に用いることにより作製される。携帯電話において、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を用いて形成される発光装置は、色純度の高い青色を表示することが可能であり、また、輝度の変化による青色の色度座標の変化がほとんどないため、本携帯電話は、再現性が良く、かつ安定した表示が可能である。
【0081】
また、図7も携帯電話であり、図7(A)が正面図、図7(B)が背面図、図7(C)が展開図である。本体701は、電話と携帯情報端末の双方の機能を備えており、コンピュータを内蔵し、音声通話以外にも様々なデータ処理が可能な所謂スマートフォンである。
【0082】
本体701は、筐体702及び筐体703の二つの筐体で構成されている。筐体702には、表示部704、スピーカー705、マイクロフォン706、操作キー707、ポインティングデバイス708、カメラ用レンズ709、外部接続端子710、イヤホン端子711等を備え、筐体703には、キーボード712、外部メモリスロット713、カメラ用レンズ714、ライト715等を備えている。また、アンテナは筐体702内部に内蔵されている。
【0083】
また、上記構成に加えて、非接触ICチップ、小型記録装置等を内蔵していてもよい。
【0084】
表示部704には、発光装置を組み込むことが可能であり、使用形態に応じて表示の方向が適宜変化する。表示部704と同一面上にカメラ用レンズ709を備えているため、テレビ電話が可能である。また、表示部704をファインダーとし、カメラ用レンズ714及びライト715で静止画及び動画の撮影が可能である。スピーカー705、及びマイクロフォン706は音声通話に限らず、テレビ電話、録音、再生等が可能である。
【0085】
操作キー707では、電話の発着信、電子メール等の簡単な情報入力、画面のスクロール、カーソル移動等が可能である。更に、重なり合った筐体702と筐体703(図7(A))は、スライドし、図7(C)のように展開し、携帯情報端末として使用できる。この場合、キーボード712、ポインティングデバイス708を用い円滑な操作が可能である。外部接続端子710はACアダプタ及びUSBケーブル等の各種ケーブルと接続可能であり、充電及びパーソナルコンピュータ等とのデータ通信が可能である。また、外部メモリスロット713に記録媒体を挿入し、より大量のデータ保存及び移動に対応できる。
【0086】
また、上記機能に加えて、赤外線通信機能、テレビ受信機能等を備えたものであってもよい。
【0087】
なお、上述した携帯電話は、発光装置をその表示部704に用いることにより作製される。携帯電話において、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有する硫化物発光体を用いて形成される発光装置は、色純度の高い青色を表示することが可能であり、また、輝度の変化による青色の色度座標の変化がほとんどないため、本携帯電話は、再現性が良く、かつ安定した表示が可能である。
【0088】
以上のようにして、本発明の一態様に係る発光装置を適用して電子機器や照明器具を得ることができる。したがって、これらの発光装置の適用範囲は極めて広く、あらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。
【0089】
なお、本実施の形態4に示す構成は、実施の形態1または実施の形態2に示した構成を適宜組み合わせて用いることができることとする。
【実施例1】
【0090】
本実施例では、無機EL用青色発光体として、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有するZnS:Ag,Clを合成し、それを用いて分散型の無機EL素子を形成し、素子特性について測定した結果を示す。
【0091】
まず、無機EL用青色発光体を作製するための原料となる硫化物発光体として、ZnS:Ag,Cl:2gをアルミナ坩堝に入れ、これに添加剤である酸化亜鉛(ZnO):0.2gと、希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)であるランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS):0.04gを加えて、750℃で4時間、窒素雰囲気中にて焼成することにより、ランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS)を有するZnS:Ag,Clの粉末を得る。なお、焼成は、大気中、もしくは真空中のいずれでも行うことができる。
【0092】
次に、ランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS)を有するZnS:Ag,Clの粉末を洗浄する。ここでは、塩酸(HCl)洗浄により酸化亜鉛(ZnO)を除去し、キレート洗浄によりZnS:Ag,Cl表面の余分な銅(Cu)を除去する。以上により、無機EL用青色発光体であるランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS)を有するZnS:Ag,Clが得られる。
【0093】
次に、ランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS)を有するZnS:Ag,Clを無機EL層に用いた無機EL素子を作製する。本実施例では、実施の形態2において、図2(B)で示した構造、すなわち、基板上に第1の電極、無機EL層、誘電体層、および第2の電極が順次積層された構造となるように作製する。
【0094】
なお、基板上に形成される第1の電極は、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)を用いて110nmの膜厚で形成し、無機EL層は、バインダであるN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させたシアノレジンに75%の割合でZnS:Ag,Clを分散させ、20μmの膜厚で形成する。また、誘電体層は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF):15gにチタン酸バリウム:10gとシアノレジン:2.5gを溶解させたものを塗布し、10μmの膜厚で形成する。さらに、第2の電極は、銀(Ag)を用いて50μmの膜厚で形成する。
【0095】
以上により作製された無機EL素子を無機EL素子1とし、その周波数−輝度特性を図8に示す。なお、測定条件としては、400[V]の交流電圧を無機EL素子1に印加し、周波数を0[Hz]〜50000[Hz]の範囲で変化させた時の無機EL素子1の発光輝度を測定した。また、図8において、縦軸は発光輝度[cd/m]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。この結果、無機EL用青色発光体であるランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS)を有するZnS:Ag,Cl(ZnS:Ag,Cl+LaOCuS)を無機EL層に用いた本実施例の無機EL素子1は、周波数が50[kHz]の時に最高輝度3059[cd/m]を示すことがわかる。従って、無機EL発光素子として十分な輝度が得られていることが分かる。
【0096】
また、上記無機EL素子1の電圧−輝度特性を図9に示す。なお、測定条件としては、50[kHz]の周波数で、無機EL素子に印加する交流電圧を0[V]〜400[V]の範囲で変化させた時の無機EL素子1の発光輝度を測定した。図9において、縦軸は発光輝度[cd/m]を示し、横軸は電圧[V]を示す。
【0097】
また、合成の際に添加剤として酸化マグネシウム(MgO)を用いたランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS)を有するZnS:Ag,Cl(ZnS:Ag,Cl+LaOCuS)により形成された無機EL素子を無機EL素子2とし、同様の方法で測定した結果を図9に示す。また、合成の際に添加剤を添加しなかったランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS)を有するZnS:Ag,Cl(ZnS:Ag,Cl+LaOCuS)により形成された無機EL素子を無機EL素子3として同様の方法で測定した結果を図9に示す。
【0098】
この結果、無機EL用青色発光体であるランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaOCuS)を有するZnS:Ag,Cl(ZnS:Ag,Cl+LaOCuS)を無機EL層に用いた本実施例の無機EL素子(無機EL素子1、無機EL素子2、無機EL素子3)は、いずれも1500[cd/m]を超える発光輝度が得られることが分かる。
【0099】
また、無機EL素子1の発光輝度−色度座標特性について、図10に示す。なお、測定条件としては、10[kHz]の周波数で、交流電圧を変化させながら無機EL素子に印加することにより、発光輝度を1[cd/m]〜1000[cd/m]の範囲で変化させた時の無機EL素子の色度座標として測定した。また、図10において、縦軸は色度座標(X座標、またはY座標)を示し、横軸は発光輝度[cd/m]を示す。なお、図10の縦軸に示す色度座標において、黒丸印でプロットされているのが上記無機EL素子で得られる発光の色度座標のX座標の値を示すものであり、また、黒三角印でプロットされているのが上記無機EL素子で得られる発光の色度座標のY座標の値を示すものである。
【0100】
一方、上記無機EL素子と同様の素子構成で従来の無機EL用発光体として知られているシルバニア813(オスラムシルバニア社製)を無機EL用青色発光体の代わりに無機EL層に用いた無機EL素子を比較素子として作製し、その発光輝度−色度座標特性について測定した結果を同様に図10に示す。なお、図10の縦軸に示す色度座標において、白丸印でプロットされているのが比較素子で得られる発光の色度座標のX座標の値を示すものであり、また、白三角印でプロットされているのが上記比較素子で得られる発光の色度座標のY座標の値を示すものである。
【0101】
なお、図10の結果から、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有するZnS:Ag,Clを用いた無機EL素子は、その発光輝度の変化に伴い、色度座標におけるX座標の最大値が0.149、X座標の最小値が0.147、また、Y座標の最大値が0.094、Y座標の最小値が0.087であった。従って、発光輝度の変化に伴い、色度座標におけるX座標の変化(Δ)は0.002、Y座標の変化(Δ)は0.007であることが分かる。これに対して、シルバニア813(オスラムシルバニア社製)を用いた比較素子は、その発光輝度の変化に伴い、色度座標におけるX座標の最大値が0.148、X座標の最小値が0.146、また、Y座標の最大値が0.117、Y座標の最小値が0.102であった。従って、発光輝度の変化に伴い、色度座標におけるX座標の変化(Δ)は0.002、Y座標の変化(Δ)は0.015であることが分かる。
【0102】
すなわち、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有するZnS:Ag,Clを用いた無機EL素子は、比較素子に比べ、発光輝度の変化に伴う色度座標の変化が、青色発光の発光色に大きく影響するY座標(Δ)で小さくなることが分かる。
【0103】
以上により、無機EL用青色発光体である希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を有するZnS:Ag,Clを用いた無機EL素子は、無機EL素子の発光輝度の変化に影響されることなく、純度の高い青色発光を示す素子であることが分かる。
【符号の説明】
【0104】
101 硫化物発光体
102 希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)
201 基板
202 第1の電極
203 無機EL層
204 第2の電極
205 交流電源
206 バインダ
207 無機EL用青色発光体(硫化物発光体+希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS))
208、209 誘電体層
301 基板
304 絶縁層
313 第1の電極
314 隔壁
315 無機EL層
316 第2の電極
321 発光領域
322 隔壁
501 基板
502 データ線
503 走査線
504 隔壁
505 領域
506 入力端子
507 入力端子
508 接続配線
509a、509b FPC
701 本体
702 筐体
703 筐体
704 表示部
705 スピーカー
706 マイクロフォン
707 操作キー
708 ポインティングデバイス
709 カメラ用レンズ
710 外部接続端子
711 イヤホン端子
712 キーボード
713 外部メモリスロット
714 カメラ用レンズ
715 ライト
8001 筐体
8002 支持台
8003 表示部
8004 スピーカー部
8005 ビデオ入力端子
8101 本体
8102 筐体
8103 表示部
8104 キーボード
8105 外部接続ポート
8106 マウス
8201 本体
8202 表示部
8203 筐体
8204 外部接続ポート
8205 リモコン受信部
8206 受像部
8207 バッテリー
8208 音声入力部
8209 操作キー
8210 接眼部
8301 照明部
8302 傘
8303 可変アーム
8304 支柱
8305 台
8306 電源
8401 本体
8402 筐体
8403 表示部
8404 音声入力部
8405 音声出力部
8406 操作キー
8407 外部接続ポート
8408 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物発光体、および希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS:但し、Mは希土類金属)を少なくとも混合し、
得られた混合物を600℃以上1000℃以下で焼成することにより前記硫化物発光体の一部に希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を含めることを特徴とする無機EL用青色発光体の作製方法。
【請求項2】
硫化物発光体、添加剤、および希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS:但し、Mは希土類金属)を混合し、
得られた混合物を600℃以上1000℃以下で焼成することにより前記硫化物発光体の一部に希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)を含めることを特徴とする無機EL用青色発光体の作製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記硫化物発光体は、ZnS:Ag,Cl、ZnS:Au,Cl、CdS:Ag,Cl、CdS:Au,Cl、CaS:Ag,Cl、CaS:Au,Clから選ばれるいずれか一であることを特徴とする無機EL用青色発光体の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記添加剤は、酸性溶液に可溶な金属酸化物であることを特徴とする無機EL用青色発光体の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記添加剤は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ランタン(La)から選ばれるいずれか一であることを特徴とする無機EL用青色発光体の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)は、ランタン−銅オキシカルコゲナイド(LaCuOS)、セリウム−銅オキシカルコゲナイド(CeCuOS)、スカンジウム−銅オキシカルコゲナイド(ScCuOS)、イットリウム−銅オキシカルコゲナイド(YCuOS)から選ばれるいずれか一であることを特徴とする無機EL用青色発光体の作製方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記添加剤の添加濃度は、前記硫化物発光体に対して、0.1wt%以上20wt%以下であることを特徴とする無機EL用青色発光体の作製方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一において、
前記希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS)の添加濃度は、前記硫化物発光体に対して、1wt%以上5wt%以下であることを特徴とする無機EL用青色発光体の作製方法。
【請求項9】
組成式ZnS:Ag,Clで示される硫化物発光体の一部に希土類−銅オキシカルコゲナイド(MCuOS:但し、Mは希土類金属)を含むことを特徴とする無機EL用青色発光体。
【請求項10】
請求項9において、
前記硫化物発光体は、波長400nm以上500nm以下の領域に発光ピークを有することを特徴とする無機EL用青色発光体。
【請求項11】
一対の電極間に無機EL層を有する発光素子であって、
前記無機EL層は、請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の無機EL用青色発光体を含むことを特徴とする発光素子。
【請求項12】
一対の電極間に無機EL層を有する発光素子であって、
一方の電極と前記無機EL層との間に誘電体層を少なくとも有し、
前記無機EL層は、請求項9または請求項10に記載の無機EL用青色発光体を含むことを特徴とする発光素子。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の発光素子を用いて形成されたことを特徴とする発光装置。
【請求項14】
請求項13に記載の発光装置を用いて形成されたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−221469(P2009−221469A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36231(P2009−36231)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】