説明

無線センサ装置

【課題】主に近距離にある対象物を測定対象とする場合に、他の無線通信システムに与える妨害と他の無線通信システムから受ける妨害の双方を低減できる無線センサ装置を提供すること。
【解決手段】この無線センサ装置は、送信周波数が所定周期で連続的に増加及び減少するように周波数拡散された高周波送信信号を生成してアンテナと15から放射すると共に、対象物からの反射波を受信して周波数拡散された高周波受信信号をアンテナ15出力する。ミキサ回路16に高周波送信信号と、それに対する高周波受信信号とを入力し、ミキサ回路16が双方の周波数が一致したところで位相検波器として動作してDCビート信号を出力するので、そのDCビート信号をローパスフィルタ17で抽出し、DCビート信号の変動から対象物Mの動きを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線波を用いて対象物の動き又は対象物までの距離を検出するための無線センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発振回路から出力される高周波信号をアンテナに供給して無線波を放射し、対象物からの反射波を受信して電気的な受信信号に変換し、受信信号を分析して対象物の動き又は対象物までの距離を検出するモーションセンサ又は距離検出センサ(以下、センサ装置と呼称する)がある(例えば、特許文献1参照)。物体に電波を当てると反射波の周波数が放射電波の周波数から僅かにずれる原理(ドップラー効果)を利用したもので、そのずれ(ドップラーシフト)の大きさから物体の動き又は速度を測定できる。また、電波は大気中を光速で伝搬するので、反射波の遅延量(位相変化)から対象物までの距離を測定できる。
【0003】
図6はドップラーレーダの原理図(一例)である。RF発生器1から所定周波数の連続波からなる送信信号を出力し、送受信アンテナ2に送信信号を供給して無線波を放射させる。対象物で反射した反射波を送受信アンテナ2で受信する。ミキサ3に送信信号の一部と受信信号とを入力して混合する。このとき、対象物が移動している場合、ドップラー現象により受信信号の周波数が送信信号の周波数からシフトする。ミキサ3は送信信号の周波数と受信信号の周波数の差を中間周波数(IF)として検出する。すなわち、対象物が動いていれば、反射波の周波数が変化するのでミキサ3からドップラーシフトに対応したIF信号が出力され、対象物が停止していれば、反射波の周波数が変化しないのでミキサ3からDC信号のみが出力される。ミキサ3の出力信号をLPF4に通してIF信号、DC信号を取り出し、信号処理回路5で分析することにより対象物の動きの有無を判定できる。また、パルスドップラーレーダやディジタル変調ドップラーレーダの場合送信信号を放射した送信時刻と、反射波を受信した受信時刻とから、対象物との間を往復した無線波の遅延時間を測定し、その遅延時間から対象物までの距離を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−182109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記無線センサ装置は、主に近距離(例えば、数10m未満)にある対象物を測定対象とするが、他の無線通信システムに割り当てられている周波数帯の一部を使用することが想定される。現在、比較的狭いサービスエリアを対象とする無線通信システムとして、無線LAN、WiMAX等がある。
【0006】
したがって、周波数帯が一部共通し又は近接する他の無線通信システムに妨害を与えることがなく、また他の無線通信システムから妨害を受けることがない無線センサ装置の開発が望まれる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、他の無線通信システムに与える妨害と他の無線通信システムから受ける妨害の双方を低減できる無線センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線センサ装置は、送信周波数が所定周期で連続的に増加及び減少するように周波数拡散された高周波送信信号を生成する送信信号生成手段と、前記送信信号生成手段で生成された高周波送信信号を放射する送信アンテナと、前記送信アンテナから放射された高周波送信信号を受けた対象物からの反射波を受信して周波数拡散された高周波受信信号を出力する受信アンテナと、前記送信アンテナへ入力した前記高周波送信信号の一部が第1の周波数拡散高周波信号として入力すると共に、前記受信アンテナから出力された前記高周波受信信号が第2の周波数拡散高周波信号として入力し、前記第1の周波数拡散高周波信号と前記第2の周波数拡散高周波信号の周波数が一致したところで位相検波器として動作してDCビート信号を出力するミキサ回路と、前記ミキサ回路の出力信号から前記DCビート信号を抽出するDC成分抽出回路と、を具備したことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、送信周波数が所定周期で連続的に増加及び減少するように周波数拡散された高周波送信信号が送信アンテナから放射されると共に、対象物からの反射波が受信アンテナで受信され、高周波送信信号である第1の周波数拡散高周波信号と高周波受信信号である第2の周波数拡散高周波信号とがミキサ回路へ入力される。第1の周波数拡散高周波信号と第2の周波数拡散高周波信号の周波数が一致したところで位相検波器として動作したミキサ回路から出力されたDCビート信号がDC成分抽出回路で取り出される。このように、高周波送信信号と高周波受信信号とが交差するポイントにおいて、高周波送信信号と高周波受信信号の混合成分を検波すれば、無線センサ装置から対象物との間を往復する信号の往復遅延(往復距離)に関する情報を含んでいる残留位相を検出でき、対象物の位置変化があれば残留位相も変化するので、検出した残留位相から対象物の動きを検出できる。また、周波数が所定周期で連続的に増加及び減少するように周波数拡散された高周波送信信号と高周波受信信号とは確実に交差するので、信号の往復遅延(往復距離)に関する情報を含んでいる残留位相を容易に検出できる。また、高周波送信信号を送信周波数が所定周期で連続的に増加及び減少するように周波数拡散するので、高周波送信信号の周波数帯を使用帯域とする既存通信システムに影響を与えることが低減し、無線送信が行える。
【0010】
また本発明は、上記無線センサ装置において、前記DC成分抽出回路で抽出された前記DCビート信号に基づいて前記対象物までの距離を検出することを特徴とする。
DC成分抽出回路で抽出された前記DCビート信号に含まれた残留位相情報には無線センサ装置から対象物との間を往復する信号の往復遅延(往復距離)に関する情報が含まれているので、DCビート信号から対象物までの距離を検出することができる。
【0011】
また本発明は、上記無線センサ装置において、前記DC成分抽出回路で抽出された前記DCビート信号の変動に基づいて前記対象物の動きを検出することを特徴とする。
DC成分抽出回路で抽出された前記DCビート信号に含まれた残留位相情報には無線センサ装置から対象物との間を往復する信号の往復遅延(往復距離)に関する情報が含まれ、対象物が移動すれば残留位相が変化するので、DCビート信号が変動すれば対象物が動いていると判断することができる。
【0012】
また本発明は、上記無線センサ装置において、前記送信信号生成手段は、前記高周波送信信号の周波数が、直線的に増加及び減少して三角波形状の変化を繰り返すことを特徴とする。
【0013】
三角波の高周波送信信号と同じ三角波の高周波受信信号とは、確実に同一周波数において交差するので、この2つの信号を第1及び第2の周波数拡散高周波信号としてミキサ回路へ入力すれば、高周波送信信号と高周波受信信号とが交差するポイントにおいて、高周波送信信号と高周波受信信号の混合成分を検波でき、残留位相を確実に検出できる。
【0014】
また本発明は、上記無線センサ装置において、前記送信信号生成手段は、前記高周波送信信号の周波数が、曲線状に増加及び減少を繰り返すことを特徴とする。
【0015】
周波数が曲線的に増減する信号であっても、確実に同一周波数において交差するので、この2つの信号を第1及び第2の周波数拡散高周波信号としてミキサ回路へ入力すれば、高周波送信信号と高周波受信信号とが交差するポイントにおいて、高周波送信信号と高周波受信信号の混合成分を検波でき、残留位相を確実に検出できる。
【0016】
上記無線センサ装置において、前記送信信号生成手段は、所要の高周波送信信号と同一周期で電圧が増加及び減少を繰り返す電圧制御信号を生成する周波数拡散制御回路と、前記周波数拡散制御回路から出力された電圧制御信号が印加され当該電圧制御信号に応じて発振周波数が変化する発振回路と、を具備して構成できる。
【0017】
上記無線センサ装置において、前記発振回路は、印加電圧に応じて容量が変化し変化後の容量で発振周波数が決まる可変容量素子を有し、前記可変容量素子に前記電圧制御信号を印加して発振周波数を変化させる構成としても良い。
【0018】
上記無線センサ装置において、前記発振回路は、発振素子としてトランジスタを有し、前記トランジスタのベースに前記電圧制御信号を印加して発振周波数を変化させる構成としても良い。
【0019】
上記無線センサ装置において、前記送信アンテナと前記受信アンテナとを1つのアンテナで共用した構成とすることもできる。
【0020】
上記無線センサ装置において、前記高周波送信信号は、2400MHz〜2483.5MHzの中の周波数である。
【0021】
本発明によれば、高周波送信信号を送信周波数が所定周期で連続的に増加及び減少するように周波数拡散するので、2.45GHz付近を使用帯域とする既存通信システムに影響を与えることが少なく、無線送信が行える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、主に近距離にある対象物を測定対象とする場合に、他の無線通信システムに与える妨害と他の無線通信システムから受ける妨害の双方を低減できる無線センサ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る無線センサ装置の機能ブロック図
【図2】図1に示す無線センサ装置の回路構成図
【図3】(a)アンテナから放射される高周波送信信号の周波数波形図、(b)反射波を受信したアンテナから出力される高周波受信信号の周波数波形図
【図4】ミキサ回路の入出力を模式的に示した図
【図5】ミキサにおいて混合される高周波送信信号と高周波受信信号を重ねて示した周波数波形図
【図6】ドップラーレーダの原理図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施の形態に係る無線センサ装置は、周波数が三角波状に変化して周波数拡散された高周波送信信号をアンテナから放射し、対象物から反射した反射波をアンテナで受信して周波数拡散された高周波受信信号を出力し、三角波状に周波数拡散された高周波送信信号及び高周波受信信号をミキサへ入力して混合し、両者の周波数が一致するところで出力されるDC成分(DCビート)を取り出して対象物までの距離検出及び対象物の動き検出を行う。
【0025】
以下、本実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本実施の形態に係る無線センサ装置の機能ブロック図である。
本実施の形態に係る無線センサ装置は、使用周波数帯(例えば、2.4GHz)を中心とした周波数レンジ内で所定周期(例えば、2μs)にて周波数を連続的に変化させて周波数拡散した高周波送信信号を生成する送信信号生成手段10を備える。送信信号生成手段10は、周波数制御回路11及びRF発振器12で構成される。周波数制御回路11は、高周波送信信号の周波数変化に対応して三角波状に電圧変化を繰り返す制御電圧信号を生成する。RF発振器12は、周波数制御回路11から供給される制御電圧信号によって発振周波数が制御され、発振信号出力として周波数が三角波状に変化して周波数拡散された高周波送信信号を出力する。RF発振器12の出力端子にバッファアンプ13、バンドパスフィルタ14が直列に接続されている。バッファアンプ13は、RF発振器12から出力される高周波送信信号を放射可能なレベルまで増幅する。バンドパスフィルタ14は、RF発振器12から出力される高周波送信信号の周波数変化範囲(三角波状に変化する範囲)を通過帯域として設定される。送受信アンテナ15は、送信側から入力する送信信号を無線波として大気中に放射する。バンドパスフィルタ14の出力端子はアンテナ15の給電部に接続される。バンドパスフィルタ14はアンテナ15の給電部に対して方向性結合器を介して接続しても良いし、直接接続しても良い。アンテナ15は、周波数が三角波形状に変化する高周波送信信号を放射する。アンテナ15は、高周波送信信号の放射方向を任意の方向(対象物が存在する検出エリア)に向けられる指向性アンテナを用いることができるが、仕様(用途、精度)によっては無指向性アンテナであっても良い。また、本実施の形態では、アンテナ15で送信アンテナと受信アンテナを共用するが、送信アンテナと受信アンテナを別々に設けても良い。
【0026】
本実施の形態に係る無線センサ装置は、受信側の構成要素としてミキサ回路16を備える。ミキサ回路16には、送信側から周波数が三角波形状に変化する高周波送信信号が第1の入力信号として入力され、受信側となるアンテナ15から周波数が三角波形状に変化する高周波受信信号が第2の入力信号として入力される。ミキサ回路16は、第1の入力信号と第2の入力信号とを混合して周波数変換された信号を出力するが、第1の入力信号と第2の入力信号の周波数が一致している場合は位相検波器として機能する。すなわち、第1の入力信号と第2の入力信号の周波数が一致している場合、第1の入力信号と第2の入力信号の位相差に応じたDCビート(DC信号)を出力する。
【0027】
ミキサ回路16の出力段にはローパスフィルタ(LPF)17が接続されている。ローパスフィルタ17に、低周波成分(例えば100Hz以下)を取り出すように通過帯域特性を設定することで、DC抽出回路として機能させている。第1の入力信号と第2の入力信号の周波数が異なっている間は、ミキサ回路16から周波数変換されて種々の周波数(高周波及び中間周波数)の信号が出力されるが、これらの信号はローパスフィルタ17で抑制される。そして、第1の入力信号と第2の入力信号の周波数が一致している時にミキサ回路16から出力されるDCビートをローパスフィルタ17で取り出している。
【0028】
ローパスフィルタ17の出力段には低周波増幅回路18が接続されている。低周波増幅回路18は、ローパスフィルタ17で抽出されたDCビートを後段回路で処理可能なレベルに増幅する。後段信号処理回路19は、CPU、メモリ及びCPUで実行されるプログラム等で構成され、ミキサ回路16から出力される低周波成分(DC成分を含む)を分析して対象物Mの動き、対象物Mまでの距離を検出する機能を備える。
なお、送信側及び受信側の構成要素で電力を必要とする構成要素(11,12,13,18,19)には電源回路20から、電源供給されている。
【0029】
図2は上記無線センサ装置の回路構成例を示す図である。尚、図2に示す回路構成は上記各構成要素を実現するための一例であり、本発明は図2に示す回路構成に限定されない。
【0030】
周波数制御回路11は、任意波形を生成可能なファンクションジェネレータで構成されている。本実施の形態ではファンクションジェネレータで振幅が周期的に増減を繰り返す電圧信号を生成する。以下の説明では三角波が繰り返される電圧信号を生成する。
【0031】
RF発振器12は、周波数制御回路11で生成された三角波の電圧信号が制御電圧信号として印加される共振回路部12aと、この共振回路部12aで生成された共振周波数にて発振する発振回路部12bとを有する。
【0032】
共振回路部12aは、可変容量素子としてのバラクタダイオード21とインダクタ22とを有するLC並列共振回路を構成しており、バラクタダイオード21のカソードに三角波の制御電圧信号が印加される。共振回路部12aでは、バラクタダイオード21の容量変化に追従して共振周波数が三角波状に変化する。
【0033】
発振回路部12bは、発振素子としてのトランジスタ23、分圧器としてのコンデンサ24,25、エミッタバイアス抵抗26、ベースバイアス用分圧抵抗27,28を備え、トランジスタ23のエミッタが分圧用コンデンサ24,25の中間接続点に結合され、トランジスタ23のコレクタ−ベース間が共振回路部12aのインダクタ22及びコンデンサ29を介して結合されている。電源回路20から供給される駆動電源Vccはトランジスタ23のコレクタに印加されると共に、分圧抵抗24,25で分圧されてトランジスタ23のベースに印加される。エミッタバイアス抵抗26は高周波阻止用のインダクタ30を介して接地されている。
【0034】
以上のように構成されたRF発振器12では、共振回路部12aの共振周波数でトランジスタ23の発振周波数が決まるので、共振回路部12aの共振周波数が三角波を描くように変化しれば発振周波数も三角波を描くように変化する。発振回路部12bで発生させた発振信号はトランジスタ23のエミッタから高周波送信信号として取り出される。
【0035】
なお、図2に示すRF発振器12は、発振回路部12bの発振周波数を、可変容量素子(21)を備えた共振回路部12aで制御しているが、共振回路部12aを設けずに、三角波形状の制御電圧信号を直接にトランジスタ23のベースに印加するように構成しても良い。トランジスタ23のPN接合部の容量が、ベースに印加される制御電圧信号によって変化し、発振周波数が制御電圧信号の電圧変化に追従して変化する。
【0036】
バッファアンプ13は、高周波増幅素子としてトランジスタ40を備える。トランジスタ40のベースには、発振回路部12bのトランジスタ23のエミッタがコンデンサ41を介して接続されている。トランジスタ40は、コレクタバイアスは電源電圧Vccが印加され、ベースバイアスは分圧抵抗42,43で分圧したものが印加される。トランジスタ40のエミッタはエミッタバイアス抵抗44及びインダクタンス45を介して直流的に接地されると共に、コンデンサ46を介して高周波的に接地されている。トランジスタ40のコレクタから発振周波数が三角波を描くように変化する高周波送信信号が取り出される。
【0037】
バンドパスフィルタ14は、インダクタ51、コンデンサ52,53からなるπ型ローパスフィルタと、インダクタ51に直列に接続されたコンデンサ54、インダクタ55,56からなるπ型ハイパスフィルタを組み合わせて構成されている。バンドパスフィルタ14の通過帯域は高周波送信信号である発振周波数の可変範囲(三角波の高さ)を含むように設定される。
【0038】
ミキサ回路16は、ショットキーダイオード(Schottky Diode)などの受動素子が持つ非線形特性を利用して周波数変換するパッシブミキサを用いている。例えば、ダブルバランスドミキサ(Double-balanced Mixer)を用いることができる。但し、本発明はダブルバランスドミキサに限定されるものではなく、第1の入力信号と第2の入力信号の周波数が一致している場合は、第1の入力信号と第2の入力信号の合成信号の位相を検波できる位相検波器として機能するものであれば、ダブルバランスドミキサ以外又はバランスドミキサ、シングルエンドミキサであっても適用可能である。
【0039】
ローパスフィルタ17は、一端がミキサ回路16の出力端子に接続されたインダクタ61と、このインダクタ61の他端とグラウンドとの間に接続されたコンデンサ62と、コンデンサ62と並列に接続されたインダクタ63とを有する。ミキサ回路16が位相検波器として動作した時(混合される高周波送信信号と高周波受信信号の周波数が一致)に出力するDCビートを抽出するのに適した周波数特性に設定される。
【0040】
低周波数増幅回路18は、2つのオペアンプ71、72の多段接続で構成されている。各オペアンプ71、72の出力端子と反転入力端子間はコンデンサ73,75と帰還抵抗74,76が接続されている。オペアンプ71、72の反転入力端子と非反転入力端子の電位差は実質的にゼロ(いわゆるイマジナリーショート)となる。オペアンプ71、72は入力端子に印加された入力信号(DCビート)を低周波増幅して出力端子に出力する。
【0041】
次に、以上のように構成された本実施の形態の動作について説明する。
周波数制御回路11からRF発振器12の共振回路部12aに三角波の制御電圧信号が印加される。共振回路部12aは三角波の制御電圧信号に対応してバラクタダイオード21の容量が三角波状に変化する。12aと12bで構成された発振回路部が生成したRF共振周波数が三角波に変調され、三角波FM変調RF信号が生成される。このようにして生成された三角波FM変調RF信号が、バッファアンプ13で増幅され、バンドパスフィルタ14を通過してアンテナ15から高周波送信信号として放射される。
【0042】
図3(a)はアンテナ15から放射される高周波送信信号の周波数変化を示す図である。同図において縦軸は周波数であり、横軸は時間を表している。高周波送信信号は、周波数が所定周期tn(2μs)で三角波をなすように直線的に増加と減少を繰り返している。このような三角波的に周波数が変化する高周波送信信号がアンテナ15から放射される。
【0043】
アンテナ15から所定距離だけ離れた場所に対象物Mが存在する場合、当該対象物Mで反射した反射波がアンテナ15で受信される。アンテナ15で受信された反射波は、信号伝搬による時間遅延と振幅の減衰があるが、基本的には高周波送信信号と同じ周期で三角波状に周波数変化している。
【0044】
図3(b)は反射波を受信したアンテナ15から出力される高周波受信信号の周波数変化を示す図である。図3(a)に示す高周波送信信号と時間軸(横軸)を合わせている。高周波受信信号は、信号伝搬による時間遅延により高周波送信信号に比べて時間Taだけ位相がずれる。例えば、アンテナ15から対象物Mまでの距離が1mであれば、往復の時間遅延Taは約6.67nSとなる。対象物Mが停止していれば、ドップラー現象による周波数シフトは生じないので時間遅延(Ta)は一定である。一方、対象物Mが移動(動き)している場合はドップラー現象による周波数シフト及び距離変動が生じるので時間遅延(Ta)が変動する。後述するが、後段信号処理回路19は、ミキサ回路16出力であるDCビートから測定される時間遅延(Ta)の変動から対象物Mの動きの有無を判定する。
【0045】
ミキサ回路16に対してアンテナ15から放射される高周波送信信号の一部が入力されると共に、当該高周波送信信号の反射波である高周波受信信号が入力される。したがって、上記のような位相差が生じている高周波送信信号を第1の入力信号とし、高周波受信信号を第2の入力信号としてミキサ回路16へ入力している。図4はミキサ回路16において第1の入力信号と第2の入力信号とを混合して得られたミキサ出力信号Voをローパスフィルタ17に入力してDC成分(低周波信号)Vo1だけを取り出す様子を模式的に示している。
【0046】
ところで、高周波送信信号の周波数が2.45GHz、対象物Mの移動速度が30m/h程度であれば、ドップラー効果によって高周波受信信号が受ける周波数シフトは百数十Hz程度である。このように、高周波送信信号の周波数に比べてドップラー効果による周波数シフトは極めて小さい変化であるので、従来方法では送信信号周波数に極めて高い精度で固定値の発振周波数を生成する必要があった。すなわち、ミキサにおいて高周波送信信号と周波数シフトした高周波受信信号とを混合して周波数差を検出していたので、数GHz帯の信号を合成して百数十Hz程度の周波数差を検出する精度が要求された。
【0047】
本実施の形態は、図3(a)に示すように周波数が三角波状に増減を繰り返す高周波送信信号としたので、図3(b)に示すように高周波送信信号の反射波である高周波受信信号も高周波送信信号と同様に周波数が三角波状に増減を繰り返す信号波形となる。
【0048】
図5は、ミキサ回路16において混合される高周波送信信号と高周波受信信号を重ねて示している。同図に示すように、高周波送信信号と高周波受信信号は三角波(周波数)であるので、高周波受信信号が遅延(距離)により時間軸方向にシフトすると、必ず1周期毎に高周波送信信号と高周波受信信号とが交差するポイントPが存在する。
【0049】
本発明者は、三角波(周波数)の高周波送信信号と高周波受信信号とが交差するポイントPにおいて、高周波送信信号と高周波受信信号の混合成分を検波すれば、同一周波数である高周波送信信号と高周波受信信号の遅延位相差である残留位相を検出できることに着目した。すなわち、同一周波数である第1の入力信号と第2の入力信号とを信号合成すれば、その信号合成出力は第1の入力信号と第2の入力信号の位相差に対応した信号波形になる。よって、第1の入力信号と第2の入力信号の信号合成出力には両入力信号の位相差情報が含まれる。
【0050】
残留位相は、アンテナ15と対象物Mとの間を往復する信号の往復遅延(往復距離)に関する情報を含んでいる。対象物Mの位置変化があれば残留位相も変化するので、位相検波器出力(位相検波器として動作するミキサ回路16のDCビート)が変動する。
【0051】
直線的に周波数が増加及び減少を繰り返す三角波又は曲線的に周波数が増加及び減少を繰り返す周波数波形を用いれば、高周波送信信号と高周波受信信号とを容易に交差させることができ、簡単かつ確実に高周波送信信号と高周波受信信号とが同一周波数となるポイントを検出することができる。そして、ショットキーダイオド(Schottky Diode)などの非線形受動素子で構成されたミキサは、2つの入力信号が同一周波数であると、位相検波器として動作するので、ミキサ回路16の出力信号をローパスフィルタ17へ入力すれば、ミキサ回路16が位相検波器として動作しているときに出力されるDCビートをローパスフィルタ17で抽出することができる。ローパスフィルタ17のカットオフ周波数は例えば100Hzに設定することができる。
【0052】
ローパスフィルタ17は、ミキサ回路16が位相検波器として動作したときに出力されるDCビートを抽出し、低周波増幅回路18で低周波増幅してから後段処理回路19へ入力する。
【0053】
後段処理回路19では、対象物Mの位置変化と位相検波器(ミキサ回路16)の出力レベル変動が連動するので、位相検波器出力レベルが変動すれば、対象物Mが動いたと判断することができる。
【0054】
また、残留位相は距離の一次関数であるので、後段処理回路19において、位相変移のリニア検出で位置変移のリニア検出を行っても良い。また、距離がλ/2変わるたびに、位相が360度変わるので、λ/2毎に出力電圧でパルスを1個発生させ、パルスカウントして移動距離をλ/2の精度で測定することができる。
【0055】
なお、図5に示すように、高周波送信信号と高周波受信信号とは、周波数一致ポイントP以外では、差分周波数Faが生じる。双方の三角波の頂点(上側及び下側)の間の時間領域を除けば、差分周波数Faは一定の値となるが、この差分周波数Faは信号遅延により生じている。すなわち、予め差分周波数Faと距離との距離対応表を準備できる。
【0056】
差分周波数Faが例えば200kHzであるとすると、ローパスフィルタ17でカットされる。そこで、ミキサ回路16から差分周波数Faに対応して出力される差分周波数信号は、ローパスフィルタ17を迂回した経路で取り出して後段処理回路19へ入力する。後段処理回路19では差分周波数信号から差分周波数を特定し、特定した差分周波数と距離対応表とから距離検出を行うことができる。
【0057】
本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、物体の動き検出や距離検出用の無線センサ装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 送信信号生成手段
11 周波数制御回路
12 RF発振器
12a 共振回路部
12b 発振回路部
13 バッファアンプ
14 バンドパスフィルタ
15 アンテナ
16 ミキサ回路
17 ローパスフィルタ
18 低周波増幅回路
19 後段信号処理回路
20 電源回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信周波数が所定周期で連続的に増加及び減少するように周波数拡散された高周波送信信号を生成する送信信号生成手段と、
前記送信信号生成手段で生成された高周波送信信号を放射する送信アンテナと、
前記送信アンテナから放射された高周波送信信号を受けた対象物からの反射波を受信して周波数拡散された高周波受信信号を出力する受信アンテナと、
前記送信アンテナへ入力した前記高周波送信信号の一部が第1の周波数拡散高周波信号として入力すると共に、前記受信アンテナから出力された前記高周波受信信号が第2の周波数拡散高周波信号として入力し、前記第1の周波数拡散高周波信号と前記第2の周波数拡散高周波信号の周波数が一致したところで位相検波器として動作してDCビート信号を出力するミキサ回路と、
前記ミキサ回路の出力信号から前記DCビート信号を抽出するDC成分抽出回路と、
を具備したことを特徴とする無線センサ装置。
【請求項2】
前記DC成分抽出回路で抽出された前記DCビート信号に基づいて前記対象物までの距離を検出することを特徴とする請求項1記載の無線センサ装置。
【請求項3】
前記DC成分抽出回路で抽出された前記DCビート信号の変動に基づいて前記対象物の動きを検出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の無線センサ装置。
【請求項4】
前記送信信号生成手段は、前記高周波送信信号の周波数が、直線的に増加及び減少して三角波形状の変化を繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の無線センサ装置。
【請求項5】
前記送信信号生成手段は、前記高周波送信信号の周波数が、曲線状に増加及び減少を繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の無線センサ装置。
【請求項6】
前記送信信号生成手段は、所要の高周波送信信号と同一周期で電圧が増加及び減少を繰り返す電圧制御信号を生成する周波数拡散制御回路と、前記周波数拡散制御回路から出力された電圧制御信号が印加され当該電圧制御信号に応じて発振周波数が変化する発振回路と、を具備したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の無線センサ装置。
【請求項7】
前記発振回路は、印加電圧に応じて容量が変化し変化後の容量で発振周波数が決まる可変容量素子を有し、前記可変容量素子に前記電圧制御信号を印加して発振周波数を変化させることを特徴とする請求項6記載の無線センサ装置。
【請求項8】
前記発振回路は、発振素子としてトランジスタを有し、前記トランジスタのベースに前記電圧制御信号を印加して発振周波数を変化させることを特徴とする請求項6記載の無線センサ装置。
【請求項9】
前記送信アンテナと前記受信アンテナとを1つのアンテナで共用したことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の無線センサ装置。
【請求項10】
前記高周波送信信号は、2400MHz〜2483.5MHzの中の周波数であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の無線センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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