説明

無線受信装置

【課題】急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなくAGC機能を実現した無線受信装置を提供する。
【解決手段】無線受信装置は、シグマ・デルタ方式のADC7と、ADC7の前段に設けられたLNA2、LPF5及びVGA6と、ADC7の後段に設けられ、縦続接続されたデシメーションフィルタ11a,11bと、LNA2及びVGA6の利得を制御するAGC回路12とを備える。デシメーションフィルタ11aは、ADC7から入力されたディジタル信号を1/N1のレート変換比でダウンサンプリングして出力し、デシメーションフィルタ11bは、デシメーションフィルタ11aの出力信号を1/N2のレート変換比でダウンサンプリングして出力する。AGC回路12は、デシメーションフィルタ11aの出力信号に基づいてLNA2及びVGA6の利得を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AMあるいはFM放送波の受信信号をアナログ/ディジタル変換器(ADC)によりディジタル信号に変換し、ディジタル信号処理で復調するよう構成した無線受信装置に関し、特に、シグマ・デルタ(ΣΔ)方式のADCを備えた無線受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ変調されたAM放送波やFM放送波を受信する受信機は、長らくアナログ回路を主体にしたICやディスクリート部品を組み合わせて実現されてきた。近年、半導体プロセスの進化によって、大部分の機能を1チップLSIに集約することが可能となってきた。例えば、非特許文献1には、AMあるいはFM放送波の受信信号に対して、又は当該受信信号から得られた中間周波(IF)信号に対してアナログ/ディジタル変換を行い、ディジタル信号処理で復調するよう構成したラジオチューナICが知られている。
【0003】
また、アナログ/ディジタル変換方法の1つとして、ΣΔ方式のADCがある。ΣΔ方式のADCを用いてアナログ/ディジタル変換を行う無線受信装置の公知技術として、例えば特許文献1〜3に記載の装置が知られている。特許文献1では、ΣΔ方式のADCを用いることが述べられている。特許文献2では、自動利得制御(AGC)機能を有したΣΔ方式のADCを用いることが述べられている。特許文献3では、ΣΔ方式のADCを用いて隣接チャンネル妨害を除去するフィルタ構成に関して述べられている。一般に、ΣΔ方式のADCは、入力されたアナログ信号に対してオーバーサンプリングを行うようにアナログ/ディジタル変換を実行し、ADCの前段には、アナログ/ディジタル変換後に生じるエリアシングを防止するためのアナログのアンチエリアシングフィルタが設けられ、ADCの後段には、オーバーサンプリングされたディジタル信号を所望のサンプリングレートの信号に変換するデシメーションフィルタが設けられる。好ましくは、特許文献2に記載のように、ADCの出力信号の振幅情報に基づいてADCのアナログフロントエンドの利得を制御するAGC回路がさらに設けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1のラジオチューナICは、従来のアナログ回路を主体にしたものに比べれば十分に省コストかつ省消費電力ではあるが、携帯機器で使用するには、さらに省コストかつ省消費電力であることが求められる。前述の非特許文献1では、アナログ/ディジタル変換を行うために、比較的広い通過帯域まで変換するパイプライン方式のADCを用いることが述べられている。パイプライン方式のADCは、広い通過帯域すなわち高いサンプリングレートで変換するADCを作りやすいという特徴があるが、回路面積や消費電力も大きくなる問題がある。
【0005】
一方、特許文献1〜3等に記載のΣΔ方式のADCでは、ADCの後段に設けられたデシメーションフィルタにより信号の通過帯域を制限することができ、所望の受信チャンネルに限定した信号出力が可能となる。しかし、AGCがADCの出力信号の振幅情報に基づいてADCのアナログフロントエンドの利得を適正に制御するためには、デシメーションフィルタの通過帯域とアンチエリアシングフィルタの通過帯域とを合わせる必要があり、従って、アンチエリアシングフィルタは急峻な減衰特性が求められるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決し、ΣΔ方式のADCを備えた無線受信装置であって、急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなく、アナログ/ディジタル変換後のディジタル信号に基づいてアナログ/ディジタル変換前の利得を適正に制御するAGC機能を実現した無線受信装置を提供することを目的とする。本発明はさらに、LSI化に適し、かつ低コストの無線受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る無線受信装置は、
受信されたアナログ信号を、第1のサンプリング周波数を有するディジタル信号に変換するシグマ・デルタ方式のアナログ/ディジタル変換器と、
上記アナログ/ディジタル変換器の前段に設けられ、上記ディジタル信号に折り返し雑音を生じさせないよう上記アナログ信号に対して帯域制限を行うアンチエリアシングフィルタと、
上記アナログ/ディジタル変換器の前段に設けられ、上記アナログ信号の振幅を変化させる増幅器と、
上記アナログ/ディジタル変換器の後段に設けられ、上記ディジタル信号を、上記第1のサンプリング周波数よりも低い第2のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号にダウンサンプリングするデシメーション回路と、
上記増幅器の利得を制御する自動利得制御回路とを備え、
上記デシメーション回路は、縦続接続された第1のデシメーションフィルタと第2のデシメーションフィルタとを備え、上記第1のデシメーションフィルタは、上記アナログ/ディジタル変換器から入力されたディジタル信号を第1のレート変換比でダウンサンプリングして出力し、上記第2のデシメーションフィルタは、上記第1のデシメーションフィルタの出力信号を第2のレート変換比でダウンサンプリングして出力し、
上記第2のデシメーションフィルタの出力信号は、上記第2のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号であり、
上記自動利得制御回路は、上記第1のデシメーションフィルタの出力信号に基づいて上記増幅器の利得を制御することを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の態様に係る無線受信装置は、
受信されたアナログ信号を、第1のサンプリング周波数を有するディジタル信号に変換するシグマ・デルタ方式のアナログ/ディジタル変換器と、
上記アナログ/ディジタル変換器の前段に設けられ、上記ディジタル信号に折り返し雑音を生じさせないよう上記アナログ信号に対して帯域制限を行うアンチエリアシングフィルタと、
上記アナログ/ディジタル変換器の前段に設けられ、上記アナログ信号の振幅を変化させる増幅器と、
上記アナログ/ディジタル変換器の後段に設けられ、上記ディジタル信号を、上記第1のサンプリング周波数よりも低い第2のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号にダウンサンプリングするデシメーション回路と、
上記増幅器の利得を制御する自動利得制御回路とを備え、
上記デシメーション回路は、縦続接続された複数のデシメーションフィルタを備え、上記各デシメーションフィルタは、前段から入力された信号を所定のレート変換比でダウンサンプリングして出力し、上記各デシメーションフィルタの各レート変換比は、上記第1のサンプリング周波数から上記第2のサンプリング周波数への合計レート変換比を因数分解したときの各因数であり、
上記複数のデシメーションフィルタのうちの最後段のデシメーションフィルタの出力信号は、上記第2のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号であり、
上記自動利得制御回路は、上記複数のデシメーションフィルタのうちの最後段ではないいずれか1つのデシメーションフィルタの出力信号に基づいて上記増幅器の利得を制御することを特徴とする。
【0009】
上記無線受信装置において、上記各デシメーションフィルタの各レート変換比は、上記合計レート変換比を素因数分解したときの各素因数であることを特徴とする。
【0010】
また、上記無線受信装置は、受信チャンネルの周波数帯に応じて、上記複数のデシメーションフィルタのうちの最後段ではないいずれか1つのデシメーションフィルタの出力信号を選択するセレクタをさらに備え、
上記自動利得制御回路は、上記選択されたデシメーションフィルタの出力信号に基づいて上記増幅器の利得を制御することを特徴とする。
【0011】
さらに、上記無線受信装置は、
互いに90°異なる位相を有する2つの局部発振信号を用いて上記受信されたアナログ信号からI信号(In Phase信号)及びQ信号(Quadrature信号)をそれぞれ生成する第1及び第2のミキサと、
上記I信号のための増幅器、アンチエリアシングフィルタ、ΔΣADC及びデシメーションフィルタと、
上記Q信号のための増幅器、アンチエリアシングフィルタ、ΔΣADC及びデシメーションフィルタとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無線受信装置は、以上の構成を備えたことにより、ΣΔ方式のADCを備えた無線受信装置において、急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなく、アナログ/ディジタル変換後のディジタル信号に基づいてアナログ/ディジタル変換前の利得を適正に制御するAGC機能を実現することができる。本発明の無線受信装置では、所望の受信チャンネルの帯域より広い通過帯域を持つデシメーションフィルタの出力信号を用いて自動利得制御を行うので、急峻な遮断特性をもつアンチエリアシングフィルタ(アナログのローパスフィルタ)を必要としない。本発明によれば、LSI化に適し、かつ低コストの無線受信装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明の無線受信装置は、ΣΔ方式のADCを備え、かつ複数の周波数帯に対応した無線受信装置において、急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなく、アナログ/ディジタル変換後のディジタル信号に基づいてアナログ/ディジタル変換前の利得を適正に制御するAGC機能を実現することができる。本発明の無線受信装置では、縦続接続された複数のデシメーションフィルタのうちで、所望の受信チャンネルの帯域より広い通過帯域を持つデシメーションフィルタの出力信号を、受信チャンネルの周波数帯に応じて選択し、この選択されたデシメーションフィルタの出力信号を用いて自動利得制御を行うので、受信チャンネルの周波数帯に応じて特性が変化するような急峻な遮断特性をもつアンチエリアシングフィルタを必要としない。本発明によれば、LSI化に適し、かつ低コストの無線受信装置を提供することができる。
【0014】
本発明の無線受信装置は、以上の構成を備えたことにより、ΣΔ方式のADCを備えたディジタル無線受信装置において、急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなく、アナログ/ディジタル変換後のディジタル信号に基づいてアナログ/ディジタル変換前の利得を適正に制御するAGC機能を実現することができる。本発明の無線受信装置では、上述の無線受信装置の特徴を有し、かつディジタル信号処理で復調するのに必要なI信号(In Phase信号)、Q信号(Quadrature信号)が得られるので、急峻な遮断特性をもつアンチエリアシングフィルタを必要としないディジタル無線受信装置を提供することができる。本発明によれば、LSI化に適し、かつ低コストの無線受信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る無線受信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のLPF5の周波数特性を概略的に示すグラフである。
【図3】図1のデシメーションフィルタ11aの周波数特性を概略的に示すグラフである。
【図4】図1のデシメーションフィルタ11bの周波数特性を概略的に示すグラフである。
【図5】図1の無線通信装置に対する比較例の無線通信装置の構成を示すブロック図である。
【図6】図5のLPF5に要求される周波数特性を概略的に示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る無線受信装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る無線受信装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る無線受信装置について説明する。図面を通じて、同様の構成要素には同じ参照番号を付与し、繰り返しての説明は省略する。
【0017】
第1の実施形態.
図1は、本発明の第1の実施形態に係る無線受信装置の構成を示すブロック図である。アンテナ1に到来したAMあるいはFM放送波の受信信号は、低雑音増幅器(LNA)2によって増幅されて、次いでアナログのミキサ3の一方の入力端子に送られる。LNA2の利得は、後述する自動利得制御(AGC)回路12によって制御される。ミキサ3の他方の入力端子には局部発振器(LO)4が接続され、LO4は、コントローラ20の制御下で、所望の受信チャンネルに合わせて所定周波数の局部発振信号を発生する。ミキサ3は、局部発振信号を用いて受信信号を所定の中間周波(IF)信号に低域周波数変換し、変換後のIF信号をローパスフィルタ(LPF)5及びピークホールド回路(又は整流回路:DET)8に送る。LPF5に送られたIF信号は、LPF5によって低域通過ろ波された後、可変利得増幅器(VGA)6によって増幅され、次いでΣΔ方式のアナログ/ディジタル変換器(ADC)7によって所定のサンプリング周波数を有するディジタル信号に変換されて、ディジタル信号プロセッサ(DSP)10に送られる。LPF5はアナログ回路で構成されるローパスフィルタであり、ADC7によりサンプリングを行う際の折り返し雑音を除去するためのアンチエリアシングフィルタとして機能する。VGA6は、ADC7のアナログ/ディジタル変換に必要なダイナミックレンジを確保するように、LPF5から送られた信号を増幅する。VGA6の利得もまた、AGC回路12によって制御される。一方、DET8に送られたIF信号は、DET8によってその振幅のピークが検出されて保持され、検出された振幅は、もう1つのADC9によってディジタル信号に変換されてDSP10に送られる。DSP10において、ADC7から送られたディジタル信号は、デシメーション回路、すなわち縦続接続されたデシメーションフィルタ11a,11bによって所望のサンプリングレートにダウンサンプリングされる。デシメーションフィルタ11aは、ADC7から入力されたディジタル信号のサンプリングレートを「1/N1」(N1は所定の正整数)のレート変換比でダウンサンプリングし、デシメーションフィルタ11bは、デシメーションフィルタ11aから入力されたディジタル信号のサンプリングレートを「1/N2」(N2は所定の正整数)のレート変換比でダウンサンプリングする。デシメーションフィルタ11bの出力信号は、ADC7のサンプリング周波数からダウンサンプリングされた所定のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号として、後段の復調回路(図示せず。)に送られる。さらに、DSP10において、デシメーションフィルタ11aの出力信号と、ADC9から送られたディジタル信号とは、DSP10内のAGC回路12に入力され、AGC回路12は、入力された2つの信号に基づいて、LNA2の利得及びVGA6の利得を制御する。
【0018】
本実施形態の無線受信装置において、AGC回路12へ入力される信号の経路は2系統あり、1つはデシメーションフィルタ11aの出力信号として入力される信号の経路(以下、第1の入力経路という。)であり、もう1つはADC9からのディジタル信号として入力される信号の経路(以下、第2の入力経路という。)である。第1の入力経路は、LPF5を通過して帯域制限された信号を扱い、所望の受信チャンネルの帯域付近における狭帯域信号の振幅を検出するために用いられる。また、第2の入力経路は、帯域制限されていない信号を扱い、所望の受信チャンネルを含む広帯域信号(すなわちミキサ3の出力信号)の振幅を検出するために用いられる。従って、第1の入力経路は狭帯域AGC用の信号経路であり、第2の入力経路は広帯域AGC用の信号経路である。また、別の観点で見ると、AGC回路12は、第1の入力経路の信号に基づいてLNA2の利得及びVGA6の利得を制御し、第2の入力経路の信号に基づいてLNA2の利得を制御する。
【0019】
図2は、図1のLPF5の周波数特性を概略的に示すグラフであり、図3は、図1のデシメーションフィルタ11aの周波数特性を概略的に示すグラフであし、図4は、図1のデシメーションフィルタ11bの周波数特性を概略的に示すグラフである。本実施形態では、IF周波数が数百kHzであるスーパーヘテロダインLow−IF型のアーキテクチャを想定し、後段のIFミキサ(図示せず。)はDSP10内にあるものとする。デシメーションフィルタ11bは、所望の受信チャンネルの信号処理に十分な通過帯域を確保したうえで、その高域側が急峻に減衰する周波数特性を持つ。それに対して、デシメーションフィルタ11aは、所望の受信チャンネルの帯域より広い通過帯域を有する。ΣΔ方式のADC7は、オーバーサンプリングを行うことにより、最終的な所望の出力信号の通過帯域に必要な周波数よりも高いサンプリング周波数を用いるので、LPF5の減衰特性は、図2に示すような、低次数のローパスフィルタで達成できる比較的緩やかな減衰特性で十分である。
【0020】
図5は、図1の無線通信装置に対する比較例の無線通信装置の構成を示すブロック図であり、図6は、図5のLPF5に要求される周波数特性を概略的に示すグラフである。図5の無線受信装置は、本発明の原理を適用していない構成を示す。DSP110において、ADC7から送られたディジタル信号は、単一のデシメーションフィルタ11によって所望のサンプリングレートにダウンサンプリングされ、デシメーションフィルタ11の出力信号が後段の復調回路(図示せず。)に送られる。デシメーションフィルタ11は、入力されたディジタル信号のサンプリングレートを「1/N」(Nは所定の正整数)のレート変換比でダウンサンプリングする。さらに、DSP10において、デシメーションフィルタ11の出力信号と、ADC9から送られたディジタル信号とは、DSP10内のAGC回路12に入力され、AGC回路12は、入力された2つの信号に基づいて、LNA2の利得及びVGA6の利得を制御する。図5の無線受信装置において、例えば所望波の周波数帯域の上限が500kHzであるときに1MHzの妨害波がある場合を想定すると、LPF5において、所望波の周波数帯域内の周波数特性を平坦ししつつ、1MHzの妨害波を十分に減衰させること(すなわち、図6の周波数特性を実現すること)は難しく、減衰量を大きくするためには回路規模(ローパスフィルタの次数)や消費電流が非常に大きくなるなどの問題がある。このため、実際には、図5のLPF5では、所望波の近傍にある妨害波は十分に減衰されることなくADC7及びデシメーションフィルタ11に送られることになる。このとき、デシメーションフィルタ11がその妨害波を除去する結果、AGC回路12は妨害波が存在することを検知できないので、所望波成分だけに基づいてLNA2の利得及びVGA6の利得を制御することになる。従って、所望波の振幅より妨害波の振幅の方が大きい場合は、妨害波の大振幅によりVGA6やADC7の信号が歪んだり、一定電圧に張り付いたりするなど、特性劣化の問題が起こり得る。
【0021】
一方、本実施形態の無線受信装置では、ADC7の後段に縦続接続されたデシメーションフィルタ11a,11bを備え、デシメーションフィルタ11bの出力信号ではなくデシメーションフィルタ11aの出力信号をAGC回路12へ入力することにより、所望波の近傍の妨害波を正しく検出してLNA2の利得及びVGA6の利得を適正に制御することで、VGA6及びADC7を通過する信号レベルを適切に制御し、特性劣化を防止することができる。
【0022】
本実施形態において、ベースバンド信号とは、DSP10及びその後段の復調回路においてディジタル信号処理を行う信号のことを示す。例えばFM放送信号の場合、ベースバンド信号は、キャリア周波数の±200kHz程度の帯域にわたる信号成分として変調されている。このベースバンド信号を含む受信信号を、ミキサ3によりIF信号に変換する。中間周波数が300kHzである場合、IF信号は、300kHzを中心として±200kHzの周波数帯にわたる信号、すなわち500kHz程度の周波数成分をもつ信号になる。ディジタル信号処理を行う上では、ナイキスト周波数(サンプリング周波数の半分)までの信号しか扱うことができないので、上記周波数を用いる場合、ベースバンド信号をサンプリングするためには、少なくとも1MHzのサンプリング周波数が必要となる。例示として、以下、余裕をみて1.5MHzのサンプリング周波数を用いる場合について説明する。ΣΔ方式のADC7は、オーバーサンプリング、例えば40倍オーバーサンプリングによりアナログ/ディジタル変換を行う。従って、この場合、ADC7におけるサンプリング周波数は、1.5×40=60MHzとなる。DSP10は、この60MHzのサンプリング周波数を1/40にダウンサンプリング(デシメーション)する。一般にデシメーションではエリアシング信号が発生するが、これを防止するためにアンチエリアシングフィルタであるLPF5が設けられる。デシメーションは、例えば1/5のレート変換比(デシメーションフィルタ11a)と1/8のレート変換比(デシメーションフィルタ11b)とに分けて実行される。1/5のレート変換比を有するデシメーションフィルタ11aのサンプリング周波数は、60/5=12MHzであり、従って、図2に示すように数MHzの周波数成分をもつ妨害波を扱うことができる。なお、デシメーションフィルタ11aは1/5のレート変換比のデシメーションしか行っていないので、信号品質(SNR)は低いものの、AGC処理を行う上では高SNRは必要ないので実用上では支障はない。
【0023】
図示した無線受信装置の構成は単なる一例であり、例えばミキサ3及びLO4により受信信号をIF信号に変換しなくてもよく、この場合、LPF5、VGA6及びADC7には、受信された無線周波信号がそのまま送られる。また、DET8及びADC9を省略してもよい。また、増幅器としてLNA2及びLPF5の両方を用いることに限定せず、これらのうちの一方のみを用いてもよい。
【0024】
本実施形態の無線受信装置は、以上の構成を備えたことにより、ΣΔ方式のADCを備えた無線受信装置において、急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなく、アナログ/ディジタル変換後のディジタル信号に基づいてアナログ/ディジタル変換前の利得を適正に制御するAGC機能を実現することができる。本実施形態によれば、LSI化に適し、かつ低コストの無線受信装置を提供することができる。
【0025】
第2の実施形態.
図7は、本発明の第2の実施形態に係る無線受信装置の構成を示すブロック図である。本発明の実施形態は、図1に示すように縦続接続された2つのデシメーションフィルタ11a,11bのみではなく、縦続接続された3つ以上のデシメーションフィルタを備えてもよい。本実施形態の無線受信装置は、図1のDSP10及びコントローラ20に代えて、DSP10A及びコントローラ20Aを備え、DSP10Aは、デシメーション回路、すなわち縦続接続されたn個のデシメーションフィルタ11−1,11−2,…,11−nと、AGC回路12と、コントローラ20Aの制御下でデシメーションフィルタ11−1,11−2,…,11−(n―1)のいずれかの出力信号をAGC回路12に送るセレクタ13とを備えて構成される。
【0026】
デシメーションフィルタ11−1は、ADC7から入力されたディジタル信号のサンプリングレートを「1/N1」のレート変換比でダウンサンプリングし、デシメーションフィルタ11−2は、デシメーションフィルタ11−1から入力されたディジタル信号のサンプリングレートを「1/N2」のレート変換比でダウンサンプリングし、以下同様にデシメーションフィルタ11−nまで続き、デシメーションフィルタ11−nは、デシメーションフィルタ11−(n−1)から入力されたディジタル信号のサンプリングレートを「1/Nn」(Nnは所定の正整数)のレート変換比でダウンサンプリングする。各正整数N1,N2,…,Nnは、ADC7のサンプリングレートから最終的なデシメーションフィルタ11−nの出力信号のサンプリングレートにダウンサンプリングする際の合計のレート変換比を因数分解して得られた各因数であり、好ましくは合計のレート変換比を素因数分解して得られた各素因数である。デシメーションフィルタ11−nの出力信号が、ベースバンド信号として、後段の復調回路(図示せず。)に送られる。さらに、DSP10Aにおいて、デシメーションフィルタ11−1,11−2,…,11−(n―1)のいずれかの出力信号と、ADC9から送られたディジタル信号とは、DSP10A内のAGC回路12に入力され、AGC回路12は、入力された2つの信号に基づいて、LNA2の利得及びVGA6の利得を制御する。コントローラ20Aは、所望の受信チャンネルの周波数帯に応じて、デシメーションフィルタ11−1,11−2,…,11−(n―1)のいずれかの出力信号(すなわち、デシメーションフィルタ11−1,11−2,…,11−(n―1)のいずれかのサンプリング周波数)を選択するようにセレクタ13を制御する。
【0027】
本実施形態の無線受信装置は、以上の構成を備えたことにより、ΣΔ方式のADCを備え、かつ複数の周波数帯に対応した無線受信装置において、急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなく、アナログ/ディジタル変換後のディジタル信号に基づいてアナログ/ディジタル変換前の利得を適正に制御するAGC機能を実現することができる。本実施形態の無線受信装置におけるアンチエリアシングフィルタは、受信チャンネルの周波数帯に応じて特性が変化することを必要としない。本実施形態によれば、LSI化に適し、かつ低コストの無線受信装置を提供することができる。
【0028】
第3の実施形態.
図8は、本発明の第3の実施形態に係る無線受信装置の構成を示すブロック図である。本実施形態の無線受信装置は、受信信号からI信号(In Phase信号)及びQ信号(Quadrature信号)を生成して復調するディジタル無線受信装置として構成される。図8において、アンテナ1に到来した受信信号は、LNA2によって増幅されて、次いでミキサ3a,3bのそれぞれの一方の入力端子に送られる。ミキサ3aの他方の入力端子にはLO4が接続され、ミキサ3bの他方の入力端子には90°移相器4aを介してLO4が接続される。ミキサ3aは、受信信号を所定の中間周波数のI信号に低域周波数変換し、変換後のI信号をLPF5a及びDET8aに送る。同様に、ミキサ3bは、受信信号を所定の中間周波数のQ信号に低域周波数変換し、変換後のI信号をLPF5b及びDET8bに送る。I信号を処理するためにVGA5a、ADC6a、ADC7a、DET8a及びADC9aが設けられ、Q信号を処理するためにVGA5b、ADC6b、ADC9b、DET8b及びADC9bが設けられ、これらの構成要素は、図1のVGA5、ADC6、ADC9、DET8及びADC9と同様に構成される。DSP10Bにおいて、ADC7aから送られたディジタル信号は、縦続接続されたデシメーションフィルタ11Ba,11Bbによって所望のサンプリングレートにダウンサンプリングされ、ADC7bから送られたディジタル信号は、縦続接続されたデシメーションフィルタ11Bc,11Bdによって所望のサンプリングレートにダウンサンプリングされる。デシメーションフィルタ11Bbの出力信号が、I出力信号として後段の復調回路(図示せず。)に送られ、デシメーションフィルタ11Bdの出力信号が、Q出力信号として後段の復調回路に送られる。さらに、DSP10Bにおいて、デシメーションフィルタ11Baの出力信号と、ADC9aから送られたディジタル信号と、デシメーションフィルタ11Bcの出力信号と、ADC9bから送られたディジタル信号とは、DSP10B内のAGC回路12Bに入力され、AGC回路12Bは、入力された4つの信号に基づいて、LNA2の利得及びVGA6a,6bの利得を制御する。
【0029】
本実施形態の無線受信装置は、以上の構成を備えたことにより、ΣΔ方式のADCを備えたディジタル無線受信装置において、急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなく、アナログ/ディジタル変換後のディジタル信号に基づいてアナログ/ディジタル変換前の利得を適正に制御するAGC機能を実現することができる。本実施形態によれば、LSI化に適し、かつ低コストの無線受信装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、AMあるいはFM放送波の受信信号をIF信号に変換した後で(又は変換することなく)ΣΔ方式のADCによりディジタル信号に変換し、ディジタル信号処理で復調するよう構成した無線受信装置として有用である。特に、本発明によれば、上記無線受信装置において、急峻な遮断特性を有するアンチエリアシングフィルタを必要とすることなく、アナログ/ディジタル変換後のディジタル信号に基づいてアナログ/ディジタル変換前の利得を適正に制御するAGC機能を実現することができる。本発明は、ディジタル放送又はその他の無線通信のための無線受信装置として有用である。本実施形態によれば、LSI化に適し、かつ低コストの無線受信装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…アンテナ、
2…低雑音増幅器(LNA)、
3,3a,3b…ミキサ、
4…局部発振器(LO)、
4a…90°移相器、
5,5a,5b…ローパスフィルタ(LPF)、
6,6a,6b…可変利得増幅器(VGA)、
7,7a,7b,9,9a,9b…アナログ/ディジタル変換器(ADC)、
8,8a,8b…ピークホールド回路(DET)、
10,10A,10B,110…ディジタル信号プロセッサ(DSP)、
11,11a,11b,11−1,11−2,…,11−n,11Ba,11Bb,11Bc,11Bd…デシメーションフィルタ、
12,12B…自動利得制御(AGC)回路、
13…セレクタ、
20,20A…コントローラ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特表2001−526487号公報。
【特許文献2】特開2000−224041号公報。
【特許文献3】特表2007−528138号公報。
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】トランジスタ技術編集部,「RFワールド」,No.1,CQ出版,85〜103ページ,2008年3月1日。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線受信装置は、
受信されたアナログ信号を、第1のサンプリング周波数を有するディジタル信号に変換するシグマ・デルタ方式のアナログ/ディジタル変換器と、
上記アナログ/ディジタル変換器の前段に設けられ、上記ディジタル信号に折り返し雑音を生じさせないよう上記アナログ信号に対して帯域制限を行うアンチエリアシングフィルタと、
上記アナログ/ディジタル変換器の前段に設けられ、上記アナログ信号の振幅を変化させる増幅器と、
上記アナログ/ディジタル変換器の後段に設けられ、上記ディジタル信号を、上記第1のサンプリング周波数よりも低い第2のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号にダウンサンプリングするデシメーション回路と、
上記増幅器の利得を制御する自動利得制御回路とを備え、
上記デシメーション回路は、縦続接続された第1のデシメーションフィルタと第2のデシメーションフィルタとを備え、上記第1のデシメーションフィルタは、上記アナログ/ディジタル変換器から入力されたディジタル信号を第1のレート変換比でダウンサンプリングして出力し、上記第2のデシメーションフィルタは、上記第1のデシメーションフィルタの出力信号を第2のレート変換比でダウンサンプリングして出力し、
上記第2のデシメーションフィルタの出力信号は、上記第2のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号であり、
上記自動利得制御回路は、上記第1のデシメーションフィルタの出力信号に基づいて上記増幅器の利得を制御することを特徴とする無線受信装置。
【請求項2】
無線受信装置は、
受信されたアナログ信号を、第1のサンプリング周波数を有するディジタル信号に変換するシグマ・デルタ方式のアナログ/ディジタル変換器と、
上記アナログ/ディジタル変換器の前段に設けられ、上記ディジタル信号に折り返し雑音を生じさせないよう上記アナログ信号に対して帯域制限を行うアンチエリアシングフィルタと、
上記アナログ/ディジタル変換器の前段に設けられ、上記アナログ信号の振幅を変化させる増幅器と、
上記アナログ/ディジタル変換器の後段に設けられ、上記ディジタル信号を、上記第1のサンプリング周波数よりも低い第2のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号にダウンサンプリングするデシメーション回路と、
上記増幅器の利得を制御する自動利得制御回路とを備え、
上記デシメーション回路は、縦続接続された複数のデシメーションフィルタを備え、上記各デシメーションフィルタは、前段から入力された信号を所定のレート変換比でダウンサンプリングして出力し、上記各デシメーションフィルタの各レート変換比は、上記第1のサンプリング周波数から上記第2のサンプリング周波数への合計レート変換比を因数分解したときの各因数であり、
上記複数のデシメーションフィルタのうちの最後段のデシメーションフィルタの出力信号は、上記第2のサンプリング周波数でサンプリングされたベースバンド信号であり、
上記自動利得制御回路は、上記複数のデシメーションフィルタのうちの最後段ではないいずれか1つのデシメーションフィルタの出力信号に基づいて上記増幅器の利得を制御することを特徴とする無線受信装置。
【請求項3】
上記各デシメーションフィルタの各レート変換比は、上記合計レート変換比を素因数分解したときの各素因数であることを特徴とする請求項2記載の無線受信装置。
【請求項4】
上記無線受信装置は、受信チャンネルの周波数帯に応じて、上記複数のデシメーションフィルタのうちの最後段ではないいずれか1つのデシメーションフィルタの出力信号を選択するセレクタをさらに備え、
上記自動利得制御回路は、上記選択されたデシメーションフィルタの出力信号に基づいて上記増幅器の利得を制御することを特徴とする請求項2又は3記載の無線受信装置。
【請求項5】
上記無線受信装置は、
互いに90°異なる位相を有する2つの局部発振信号を用いて上記受信されたアナログ信号からI信号(In Phase信号)及びQ信号(Quadrature信号)をそれぞれ生成する第1及び第2のミキサと、
上記I信号のための増幅器、アンチエリアシングフィルタ、ΔΣADC及びデシメーションフィルタと、
上記Q信号のための増幅器、アンチエリアシングフィルタ、ΔΣADC及びデシメーションフィルタとを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の無線受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−61660(P2011−61660A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211473(P2009−211473)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】