説明

無線式踏切警報システム

【課題】両踏切12,13が近くても通信負荷が過大にならないようにする。
【解決手段】車上装置51は、列車10の列車位置や列車長を無線で送信し、無線式踏切警報制御装置52は、無線で列車情報を受信して、それに含まれた列車位置に基づいてA踏切12への列車の接近及び通過を判定して踏切警報機23の警報出力を制御するとともに、踏切警報機26の制御に必要な情報(Q又はR)を信号ケーブル57にて提供し、有線式踏切警報制御装置25は、その情報を無線式踏切警報制御装置52から信号ケーブル57経由で取得して踏切警報機26の警報出力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の踏切に設置された踏切警報機の警報出力を制御する踏切警報システムに関し、詳しくは、車上装置から踏切警報制御装置へ列車情報を無線で通知する無線式踏切警報システムに関し、更に詳しくは、近くに設けられた複数の踏切に係る無線式踏切警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般的な踏切警報装置20は有線式のものであり(例えば非特許文献1参照)、その概要構成を模式図で示した図3(a)は、本願発明の踏切警報システムとの対比説明に役立つ部分を描いたものである。簡明化のため、単線の例を図示した。
鉄道の軌道11を横切る踏切12(踏切道)には踏切警報機23が設置され、踏切12から少し離れたところには、踏切12へ進行する列車10を検知する踏切制御子21(列車検知装置)が付設され、それらの間には、踏切制御子21から列車在線情報Q(軌道11のうち検出対象箇所や検出対象区間になっている所に列車が進入しているか否かを示す情報)を入力して列車10の踏切12への接近及び通過に応じて踏切警報機23の警報灯や警報音発生器の警報出力を制御する踏切警報制御装置22が設けられている。なお、踏切警報機23は一対のものが踏切道の両端に分かれて設置されることが多い。
【0003】
これらの踏切制御子21と踏切警報制御装置22と踏切警報機23とが信号ケーブルで接続されて最小構成の踏切警報装置20ができあがるが、踏切12にしゃ断桿を昇降させる遮断機が設置されていれば、踏切警報制御装置22は、警報出力に加えてしゃ断桿の昇降制御も行う踏切制御装置に拡張される。即ち、しゃ断桿の昇降制御を行う踏切制御装置も、踏切警報の出力制御を行えば、踏切警報制御装置に該当する。なお、軌道11において、列車10の踏切接近時に警報を開始すべき位置は踏切警報始動点位置ADCと呼ばれ、列車10の踏切通過直後に警報を停止すべき位置は踏切警報終止点位置BDCと呼ばれ、その後に監視状態を初期化すべき位置は踏切警報リセット点位置CDCと呼ばれる。
【0004】
以上は踏切12が他の踏切から離れている場合に関するものであるが、監視対象の踏切が複数であってそれらが近接して設けられている場合もある。
従来は、軌道11に複数の踏切が設置されていると、両踏切の離隔距離に関わらず、各々の踏切に踏切警報装置20が一組ずつ即ち踏切制御子と踏切警報制御装置と踏切警報機とが一組ずつ付設されていた。これは、両踏切12,13が極めて近い場合も同じであり、例えば(図3(b)参照)、両踏切12,13に係る踏切警報始動点位置ADCから踏切警報リセット点位置CDCまでの範囲が部分的に重なる場合でも同じであり、謂わば、踏切警報装置20,20並設形の踏切警報システムが設置されていた。
【0005】
具体的には、A踏切12については、A踏切12に係る踏切警報始動点位置ADC(A)と踏切警報終止点位置BDC(A)と踏切警報リセット点位置CDC(A)のそれぞれに踏切制御子21が設置されて、それらの出力する列車在線情報に基づいて踏切警報制御装置22がA踏切12の踏切警報機23を制御するようになっている。
また、B踏切13については、B踏切13に係る踏切警報始動点位置ADC(B)と踏切警報終止点位置BDC(B)と踏切警報リセット点位置CDC(B)のそれぞれに踏切制御子24が設置されて、それらの出力する列車在線情報に基づいて踏切警報制御装置25がB踏切13の踏切警報機26を制御するようになっている。
【0006】
なお、踏切制御子24と踏切警報制御装置25と踏切警報機26は、それぞれ、上述した踏切制御子21と踏切警報制御装置22と踏切警報機23と同様のものであり、互いに信号ケーブルで結ばれた有線式なので、設備費が嵩むという不満やケーブル敷設の手間が掛るといった不都合を除けば、踏切制御子21と踏切警報制御装置22と踏切警報機23の組と重複設置されていることに動作上の問題はない。なお、踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDC,踏切警報リセット点位置CDCの図示に際し、A踏切12に係る各位置には(A)を付し、B踏切13に係る各位置には(B)を付している。
【0007】
一方、無線を導入した踏切警報装置や(例えば特許文献1参照)、無線と有線とを併用した踏切制御システムも(例えば非特許文献2参照)、知られている。
これらの無線列車制御システムでは、無線機を列車と地上設備に設置し、地上装置に設置された無線機と伝送が可能となる範囲まで列車の無線機が接近すると、所定の伝送手順に従い通信回線を確立し、情報伝送を開始する。また、地上の踏切制御装置は列車からの無線情報を受信し、踏切警報の開始/終了の制御を行う。さらに、踏切制御装置は列車から「位置や速度」情報を無線受信することで、踏切制御子や関連ケーブルなしで当該踏切の警報開始/終了制御ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−20702号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】鉄道技術者のための電気概論 信号シリーズ8 「踏切保安装置」 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成9年10月30日 4版発行
【非特許文献2】竹内浩一著『無線による列車制御システム(ATACS)』、 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成18年4月発行 「鉄道と電気技術」 第17巻 第4号 24−27頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような従来の無線列車制御システムでは、無線による制御を行うことにより従来の踏切制御に必要であった開電路、閉電路形の踏切制御子や電源、信号ケーブル等を省略できるようになった。
しかし、これを実施するためには、全ての踏切に無線機付きの制御装置を設置することが必要で装置の設置費用が大となる。また、踏切が連続しているような箇所では、列車1台と各踏切間で伝送を行うため、列車と個別踏切の無線伝送が大幅に輻輳し、必要な情報の伝送が遅れたり、伝達できない懸念があった。
そこで、踏切警報システムの無線化に際して、複数の踏切が近接して設置されていても車上装置と各踏切との通信の負荷が過大にならないよう工夫することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の無線式踏切警報システムは、このような課題を解決するために創案されたものであり、列車に搭載されて列車位置を含む列車情報を無線で送信する車上装置と、前記列車の走行する軌道の第1踏切に臨んで設置された第1踏切警報機と、地上側に設置されていて前記車上装置から無線で列車情報を受信するとともに該列車情報に含まれている列車位置に基づき前記第1踏切への前記列車の接近及び通過を判定して前記第1踏切警報機の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置と、前記軌道の第2踏切に臨んで設置された第2踏切警報機と、地上側に設置されていて前記無線式踏切警報制御装置と信号ケーブルにて有線接続されて前記第2踏切警報機の警報出力を制御する有線式踏切警報制御装置とを備えた無線式踏切警報システムであって、前記有線式踏切警報制御装置が前記第2踏切警報機の制御に必要な情報を前記信号ケーブル経由で前記無線式踏切警報制御装置から取得するようになっている。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明の無線式踏切警報システムにあっては、無線式踏切警報制御装置が有線式踏切警報制御装置の無線通信を代行するので、例えば、車上装置が無線式踏切警報制御装置と有線式踏切警報制御装置を合わせて一台の無線式踏切警報制御装置とみなして列車情報の送信を行ったり、あるいは車上装置が無線式踏切警報制御装置への送信情報と有線式踏切警報制御装置への送信情報とを纏めて送信する等のことにより、踏切が連続しているような箇所であっても、列車と個別踏切の無線伝送が過大にならないで済む。また、無線機の設置個数が少なくて済むので、装置の設置費用の増大が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1について、無線式踏切警報システムの構造を示し、(a)が概要模式図、(b)が詳細ブロック図である。
【図2】本発明の実施例2について、(a),(b)いずれも無線式踏切警報システムの構造を示すブロック図である。
【図3】(a)が単一の踏切に係る従来の踏切警報システムの模式図であり、(b)が近い二ヶ所の踏切に係る従来の無線式踏切警報システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
このような本発明の無線式踏切警報システムについて、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜2により説明する。
図1に示した実施例1は、上述した解決手段を具現化したものであり、図2に示した実施例2は、その変形例である。
なお、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それらについて背景技術の欄で述べたことは以下の各実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の無線式踏切警報制御装置および無線式踏切警報システムの実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
ここでも単線の場合を示しており、図1は、(a)が無線式踏切警報システム50の概要模式図、(b)がそれより詳細なブロック図である。
【0016】
なお、踏切警報始動点位置ADC(A),踏切警報終止点位置BDC(A),踏切警報リセット点位置CDC(A),踏切警報始動点位置ADC(B),踏切警報終止点位置BDC(B),踏切警報リセット点位置CDC(B)は、何れも車上データベースや地上データベースの位置データにて規定される仮想のものであり、列車検知用の電流が実際に流れる所ではなくなっているので、図1(a)では点線で図示している。
【0017】
この無線式踏切警報システム50(図1参照)が既述した従来の踏切警報システムのうち踏切警報装置20,20並設形システム(図3(b)参照)と相違するのは、踏切制御子21,24に代えて車上装置51が導入された点と、踏切警報制御装置22に代えて無線式踏切警報制御装置52が導入された点である。
【0018】
無線式踏切警報制御装置52は(図1参照)、踏切警報制御装置22と同じく地上側に設置されて踏切警報機23と有線接続されるとともに、有線式踏切警報制御装置25とも信号ケーブル57にて有線接続されるが、車上装置51は列車10に搭載される。なお、A踏切12(第1踏切)に臨設された踏切警報機23(第1踏切警報機)も、B踏切13(第2踏切)に臨設された踏切警報機26(第2踏切警報機)も、従来品と同じで良く、踏切遮断機が並設されていても良い。踏切警報機23に踏切遮断機が並設されている場合は、無線式踏切警報制御装置52が機能拡張されて踏切制御装置になる。踏切警報機26に踏切遮断機が並設されている場合は、有線式踏切警報制御装置25が機能拡張されて踏切制御装置になる。
【0019】
また、信号ケーブル57を介して無線式踏切警報制御装置52から有線式踏切警報制御装置25へ列車在線情報Qが伝送されることとなる。さらに、列車在線情報Qから警報リレー情報R(警報を出すか否かを指示する情報)を得ることができる論理演算を無線式踏切警報制御装置52に行わせるようにしても良く、そうした場合は、信号ケーブル57を介して無線式踏切警報制御装置52から有線式踏切警報制御装置25へ警報リレー情報Rが伝送されることとなる。この列車在線情報Qや警報リレー情報Rが踏切警報機26の制御に必要な情報の典型例である。
【0020】
車上装置51は、フェールセーフコンピュータに無線機を接続したものからなり、搭載先の列車10の車軸計から列車位置(自列車の先頭位置)を取得するプログラムと、予め設定された搭載先列車10の列車長(自列車の長さ)と各踏切に係る情報とをデータ保持している不揮発性メモリと、自列車の列車位置に列車長と列車識別番号など適宜なデータを加えた列車情報を無線で送信する無線通信プログラムとを具えている。なお、踏切に係る情報としては、線区における踏切12,13の位置や,既述した踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDCなどが、基点からの距離を示す所謂キロ程で規定されている。
【0021】
さらに、車上装置51は、混信等の心配が無ければ列車情報の送信に際して宛先を特定しないで済ませるようにしても良いが、通信の信頼性を高める等のために列車情報の送信に際して宛先を特定する場合は、信号ケーブル57で有線接続された無線式踏切警報制御装置52と有線式踏切警報制御装置25とについては宛先か電文を統合するようになっている。具体的には、送信用には無線式踏切警報制御装置52の宛先と有線式踏切警報制御装置25の宛先とに単一の識別情報を採用して共通化したり、あるいは両装置52,25の送信宛先用の識別情報は異ならせても両装置向けの電文は一つに纏めて送信するようになっている。そのようにしても、両装置への送信情報は大部分が重複しているので、通信負荷が過大になるといった不都合は無い。
【0022】
無線式踏切警報制御装置52も、フェールセーフコンピュータに無線機を接続したものからなり、無線通信可能範囲に進入した列車10の車上装置51から列車情報が送信されて来ると、その受信を試行して正常に受信できたときにはその旨の受信ACKを無線で返信する無線通信プログラムを具えている。この無線通信プログラムは、踏切警報機23だけでなく踏切警報機26についてもその警報出力の制御に関する踏切警報開始や踏切警報停止のイベントを無線で車上装置51へ送信するようにもなっている。無線式踏切警報制御装置52と車上装置51の無線機は、同期式通信であれ非同期通信であれ交信できれば足り、既述した踏切警報装置や踏切制御システムで使用している無線機でも良く、その廉価版でも良く、他の無線機でも良い。
【0023】
また、無線式踏切警報制御装置52は、プログラムメモリに上述の無線通信プログラムと共に踏切警報制御プログラム53がインストールされており、データ保持用の不揮発性メモリには警報対象踏切に係る踏切係属情報56が設定されている。ここで、警報対象踏切には、無線式踏切警報制御装置52と直に有線接続されて制御対象になっている踏切警報機23が臨設されているA踏切12が含まれるだけでなく、信号ケーブル57の先の有線式踏切警報制御装置25を介在させて間接的に有線接続されて制御対象になっている踏切警報機26が臨設されているB踏切13も含まれている。
【0024】
警報対象踏切が一つの場合、警報対象踏切に係る情報としては既述した踏切警報始動点位置ADC,踏切警報終止点位置BDC,踏切警報リセット点位置CDCなどがキロ程で規定されているが、踏切係属情報56には、A踏切12に係るA踏切係属情報56aと、B踏切13に係るB踏切係属情報56bとが、含められている。以下、それらを区別するときには、A踏切係属情報56aの情報には(A)を付けて踏切警報始動点位置ADC(A)や,踏切警報終止点位置BDC(A),踏切警報リセット点位置CDC(A)と呼び、B踏切係属情報56bの情報には(B)を付けて踏切警報始動点位置ADC(B)や,踏切警報終止点位置BDC(B),踏切警報リセット点位置CDC(B)と呼ぶ。
【0025】
踏切警報制御プログラム53は、踏切警報開始前には、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置に基づき、列車の先頭が踏切警報始動点位置ADC(A)に達したか否かに応じて、警報対象のA踏切12への列車10の接近を判定する。また、踏切警報開始後、すなわち踏切警報制御プログラム53が踏切警報機23に警報出力を開始させた後は、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置と列車長とに基づき、列車の後尾が踏切警報終止点位置BDC(A)を過ぎたか否かに応じて、警報対象のA踏切12に係る列車10の通過を判定する。さらに、その後、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置に基づいて列車10が踏切警報リセット点位置CDC(A)に達したと判定したらA踏切12に係る監視状態を初期化するようになっている。
【0026】
また、踏切警報制御プログラム53は、踏切警報開始前には、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置に基づき、列車の先頭が踏切警報始動点位置ADC(B)に達したか否かに応じて、警報対象のB踏切13への列車10の接近を判定する。また、踏切警報開始後、すなわち踏切警報制御プログラム53が有線式踏切警報制御装置25経由で踏切警報機26に警報出力を開始させた後は、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置と列車長とに基づき、列車の後尾が踏切警報終止点位置BDC(B)を過ぎたか否かに応じて、警報対象のB踏切13に係る列車10の通過を判定する。さらに、その後、無線で受信した列車情報に含まれている列車位置に基づいて列車10が踏切警報リセット点位置CDC(B)に達したと判定したらB踏切13に係る監視状態を初期化するようにもなっている。
【0027】
さらに、踏切警報制御プログラム53は、A踏切12に係る判定結果に応じて踏切警報機23の警報出力を直に制御するとともに、B踏切13に係る判定結果を列車在線情報Qか警報リレー情報Rに変換して信号ケーブル57経由で有線式踏切警報制御装置25に送出するようになっている。
【0028】
この実施例1の無線式踏切警報システム50システムについて、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図1(a)は、無線式踏切警報システム50の設置状態図である。
【0029】
列車10の走行する軌道11にA踏切12とB踏切13とが近接して設置されているとして、本発明を適用することが可能な両踏切12,13の近接具合は、A踏切12に係る踏切警報始動点位置ADC(A)から踏切警報リセット点位置CDC(A)までの範囲も、B踏切13に係る踏切警報始動点位置ADC(B)から踏切警報リセット点位置CDC(B)までの範囲も、共に、無線式踏切警報制御装置52と車上装置51との通信可能範囲の中に収まっている、ということである。そのように近い両踏切12,13について、一方のA踏切12に臨んで踏切警報機23が設置され、それに無線式踏切警報制御装置52が有線接続され、他方のB踏切13に臨んで踏切警報機26が設置され、それに有線式踏切警報制御装置25が有線接続され、さらに、有線式踏切警報制御装置25と無線式踏切警報制御装置52とが信号ケーブル57で有線接続されている。
【0030】
そのように地上設備が設置されているところで、車上装置51を搭載した列車10が例えば左から右へ相対的に近いA踏切12に向かって軌道11を走行して来て、車上装置51が無線式踏切警報制御装置52の無線通信可能範囲に入ると、無線通信により列車位置と列車長とが車上装置51から送信されて無線式踏切警報制御装置52に届く。そして、その度に、無線で得た列車位置に基づいてA踏切12への列車10の接近とB踏切13への列車10の接近とが無線式踏切警報制御装置52によって判定され、列車10の先頭が踏切警報始動点位置ADC(A)に達したときには踏切警報機23で踏切警報が開始される。こうして、A踏切12に係る踏切警報開始が適切になされる。なお、踏切警報機23に踏切遮断機が並設されている場合、しゃ断桿が降下してA踏切12が閉められる。
【0031】
列車10が更に走行して踏切警報始動点位置ADC(B)に達すると、そのことを反映した列車在線情報Qか警報リレー情報Rが無線式踏切警報制御装置52から信号ケーブル57を介して有線式踏切警報制御装置25に伝送され、それに応じて有線式踏切警報制御装置25によって踏切警報機26に対して警報出力の開始制御がなされるので、踏切警報機26でも警報灯が点滅するとともに警報音発生器から警報音が発せられる。こうして、B踏切13についても、踏切警報開始が適切になされる。なお、踏切警報機26に踏切遮断機が並設されている場合、しゃ断桿が降下してB踏切13が閉められる。
【0032】
踏切警報の開始後も無線通信により列車位置と列車長とを含む列車情報が車上装置51から送信されて無線式踏切警報制御装置52に届く。そして、踏切警報開始後は、無線式踏切警報制御装置52で、列車情報が届く度に、踏切警報を停止する適切な時期を探るために、列車位置と列車長とから列車の後尾の位置が算出されるとともに、その後尾位置に基づいてA踏切12とB踏切13とに係る列車10の通過判定が行われる。具体的には、列車の後尾が踏切警報終止点位置BDC(A)を過ぎたか否かの判定と、列車の後尾が踏切警報終止点位置BDC(B)を過ぎたか否かの判定とが、行われる。
【0033】
そして、列車10が踏切警報終止点位置BDC(A)を通過したことが判明すると、無線式踏切警報制御装置52の制御によって踏切警報機23では踏切警報が停止する。また、列車10が踏切警報終止点位置BDC(B)を通過したことが判明すると、その判定結果を反映した列車在線情報Qか警報リレー情報Rが無線式踏切警報制御装置52から信号ケーブル57を介して有線式踏切警報制御装置25に伝送され、それに応じて有線式踏切警報制御装置25によって踏切警報機26に対して警報出力の停止制御がなされるので、踏切警報機26でも警報灯が滅灯するとともに警報音発生器が静かになる。こうして、A踏切12についても、B踏切13についても、踏切警報停止が適切になされる。
【0034】
そして、列車10が踏切警報リセット点位置CDC(A)を通過し更に踏切警報リセット点位置CDC(B)をも通過した後に、そのときの列車位置が車上装置51から無線式踏切警報制御装置52に通知されると、無線式踏切警報制御装置52は、通過した列車10の車上装置51との無線通信に基づく監視状態をリセットして、他の列車10の車上装置51が無線通信可能範囲を入って来るのを待つ。
このように、無線式踏切警報システム50にあっては、監視対象のA踏切12とB踏切13とが近接設置されていても、車上装置51と地上側の無線式踏切警報制御装置52との無線通信にて、踏切警報が適切に出力される。
【0035】
しかも、A踏切12に臨んで設置された踏切警報機23の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置52と、B踏切13に臨んで設置された踏切警報機26の警報出力を制御する有線式踏切警報制御装置25とが信号ケーブル57で接続されたうえで、無線式踏切警報制御装置52が、本来の制御対象である踏切警報機23を直に制御するのに加えて、隣接したB踏切13に係る踏切警報機26を信号ケーブル57及び有線式踏切警報制御装置25経由で制御するので、車上装置51と有線式踏切警報制御装置25との無線伝送が省略でき、その結果、地上・車上間の無線伝送トラフィックが緩和されるとともに、情報伝達の遅延も解消される。
【0036】
なお、図示は割愛したが、踏切警報開始や踏切警報停止といったイベントに関する車上装置51への通知も、有線式踏切警報制御装置25の分の無線通信が無線式踏切警報制御装置52によって代行されるとともに、その際に両者の通知タイミングが近い場合は両者の通知情報が纏められて一緒に伝送されるので、踏切警報制御装置52,25から車上装置51への通知に関しても無線通信の負荷が過大になることは無い。
また、車上装置51が受信した踏切警報開始や踏切警報停止の情報と列車位置や保持データとの整合チェックを行うことにより、列車10側の走行がより適切なものとなる。
さらに、この無線式踏切警報システム50では、踏切警報制御プログラム53がA踏切12だけでなくB踏切13の分まで処理するので、その処理結果が列車在線情報Qや警報リレー情報Rとなって無線通信に拘束されない適宜なタイミングで信号ケーブル57を介して無線式踏切警報制御装置52から有線式踏切警報制御装置25へ伝送される。
【実施例2】
【0037】
図2(a)に要部ブロック図を示した無線式踏切警報システム80が上述した実施例1のシステム50と相違するのは、無線式踏切警報制御装置52がプログラム改造にて無線式踏切警報制御装置81になった点と、有線式踏切警報制御装置25に代えて無線式踏切警報制御装置81と同様の演算や制御を行う有線式踏切警報制御装置83が導入された点である。
【0038】
具体的には、無線式踏切警報システム50では無線式踏切警報制御装置52にインストールされていた踏切警報制御プログラム53や踏切係属情報56が、A踏切12に係る部分53(A)+56aと、B踏切13に係る部分53(B)+56bとに分割されて、A踏切12に係る部分53(A)+56aは無線式踏切警報制御装置81に残っているが、B踏切13に係る部分53(B)+56bは有線式踏切警報制御装置83に移設されている。また、それに伴って、無線式踏切警報制御装置81には交信情報転送手段82がインストールされ、有線式踏切警報制御装置83には有線通信手段84がインストールされている。
【0039】
この場合、A踏切12の警報出力制御に供する列車情報は、車上装置51から無線式踏切警報制御装置81へ直に無線送信されて、無線式踏切警報制御装置81においてA踏切12に係る警報出力制御用プログラム部分53(A)によって処理される。また、B踏切13の警報出力制御に供する列車情報は、車上装置51から無線式踏切警報制御装置81へ無線で送信され、更に交信情報転送手段82と有線通信手段84によって信号ケーブル57を介して無線式踏切警報制御装置81から有線式踏切警報制御装置83へ転送されてから、有線式踏切警報制御装置83においてB踏切13に係る警報出力制御用プログラム部分53(B)によって処理される。
【0040】
そのため、無線式踏切警報システム80では、踏切警報機26の制御に必要な情報として有線式踏切警報制御装置83が無線式踏切警報制御装置81から信号ケーブル57経由で取得する情報が、上述した列車在線情報Qや警報リレー情報Rでなく、車上装置51の送出する列車情報そのものとなっている。また、車上装置51が無線式踏切警報制御装置81と有線式踏切警報制御装置83の双方と交信するときには、両装置81,83宛ての列車情報が纏められて一緒に車上装置51から無線式踏切警報制御装置81へ無線で送信され、その列車情報の中から交信情報転送手段82によって有線式踏切警報制御装置83宛ての部分が抽出されて有線式踏切警報制御装置83へ信号ケーブル57経由で転送されるので、無線通信の負荷が増えることもない。
【0041】
一方、踏切警報開始や踏切警報停止といったイベントに関する車上装置51への通知についても、無線式踏切警報制御装置81で発生したものは、無線式踏切警報制御装置81から車上装置51へ直に無線送信され、有線式踏切警報制御装置83で発生したものは、有線式踏切警報制御装置83から無線式踏切警報制御装置81へ信号ケーブル57を介して有線で送信されてから、無線式踏切警報制御装置81によって車上装置51へ無線で転送されるが、この場合も、両者の通知タイミングが近い場合は両者の通知情報が交信情報転送手段82の統合処理によって纏められて一緒に伝送されるので、踏切警報制御装置81,83から車上装置51への通知に関しても無線通信の負荷増大は回避される。
【0042】
また、図2(b)にブロック図を示した無線式踏切警報システム90が上述した実施例1のシステム50と相違するのは、軌道11において近接している踏切が一つ増えて三ヶ所になったことに起因しており、具体的には、左側のA踏切12と中間のB踏切13に加えて右側にC踏切14が設置されたことに応じて、C踏切14に臨んで踏切警報機23と同様の踏切警報機27が設けられた点と、その警報出力を制御するためにもう一台の無線式踏切警報制御装置52が追加された点と、有線式踏切警報制御装置25から出た信号ケーブル57の先に有線式踏切警報制御装置91が接続された点である。なお、無線式踏切警報制御装置52や信号ケーブル57について、A踏切12用なのかB踏切13用なのかC踏切14用なおかを区別するときには、符号の後に(A),(B),(C)を付け足すことで、明確にする。
【0043】
A踏切12の無線式踏切警報制御装置52(A)は、踏切警報機23を制御対象にしていることまで含めて上述したシステム50の装置52と同じであるが、B踏切13の踏切警報機26の制御に必要な情報を有線式踏切警報制御装置25へ直に伝送するのでなく信号ケーブル57(A)経由で有線式踏切警報制御装置91に伝送するようになっている。
C踏切14の無線式踏切警報制御装置52(C)は、制御対象が踏切警報機27になっている点とB踏切13の踏切警報機26の制御に必要な情報を信号ケーブル57(C)経由で有線式踏切警報制御装置91へ伝送する点とを除いて、上述したシステム50の装置52と同じである。
【0044】
有線式踏切警報制御装置91は、信号ケーブル57(A)にて無線式踏切警報制御装置52(A)と接続され、信号ケーブル57(B)にて有線式踏切警報制御装置25と接続され、信号ケーブル57(C)にて無線式踏切警報制御装置52(C)と接続されており、例えばフェールセーフリレードライバ(FS)にて警報リレー情報Rを無線式踏切警報制御装置52(A)と無線式踏切警報制御装置52(C)とから入力して両警報リレー情報R,Rに論理和や論理積といった論理演算を施し、それで統合した警報リレー情報を信号ケーブル57(B)経由で有線式踏切警報制御装置25に伝送するようになっている。
【0045】
この場合、中間の踏切にだけ無線式踏切警報制御装置52を設置して左右の踏切にはそれぞれ有線式踏切警報制御装置25を設置する単純な拡張態様に比べて、左右の踏切12,14それぞれの極近傍に無線機が存在するため、左右の踏切12,14の踏切警報機23,27の警報出力の信頼性が格別に高くなるので、中間の踏切13は例えば遮断機の無い3種踏切で交通量が少ないのに対し左右の踏切12,14は例えば遮断機の付いた1種踏切であって交通量も多いような状況下で特に有益である。なお、有線式踏切警報制御装置91が、両警報リレー情報R,Rを統合する際に、両条件が共に警報出力中のときだけ警報を出力させる論理積をとるようにすれば、B踏切13の開く時間が増えて待ち時間が減るのに対し、両条件の何れか一方または双方が警報出力中のときには警報を出力させる論理和をとるようにすれば、B踏切13の待ち時間は増えるが安全性が高まる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の無線式踏切警報制御装置および無線式踏切警報システムは、上記実施例で示した単線の場合に適用が限られる訳でなく、複線化されたところの踏切や複数路線の並走するところの踏切にも適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10…列車、11…軌道、
12…A踏切(第1踏切)、13…B踏切(第2踏切)、14…C踏切、
20…踏切警報装置(踏切警報システム)、
21…踏切制御子(列車検知装置)、22…踏切警報制御装置、
23…踏切警報機(第1踏切警報機)、24…踏切制御子、
25…有線式踏切警報制御装置、26…踏切警報機(第2踏切警報機)、
50…無線式踏切警報システム、
51…車上装置、52…無線式踏切警報制御装置(踏切制御装置)、
53…踏切警報制御プログラム、56…踏切係属情報、
56a…A踏切係属情報、56b…B踏切係属情報、57…信号ケーブル、
80…無線式踏切警報システム、
81…無線式踏切警報制御装置(踏切制御装置)、82…交信情報転送手段、
83…有線式踏切警報制御装置(踏切制御装置)、84…有線通信手段、
90…無線式踏切警報システム、91…有線式踏切警報制御装置(踏切制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載されて列車位置を含む列車情報を無線で送信する車上装置と、前記列車の走行する軌道の第1踏切に臨んで設置された第1踏切警報機と、地上側に設置されていて前記車上装置から無線で列車情報を受信するとともに該列車情報に含まれている列車位置に基づき前記第1踏切への前記列車の接近及び通過を判定して前記第1踏切警報機の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置と、前記軌道の第2踏切に臨んで設置された第2踏切警報機と、地上側に設置されていて前記無線式踏切警報制御装置と信号ケーブルにて有線接続されて前記第2踏切警報機の警報出力を制御する有線式踏切警報制御装置とを備えた無線式踏切警報システムであって、前記有線式踏切警報制御装置が前記第2踏切警報機の制御に必要な情報を前記信号ケーブル経由で前記無線式踏切警報制御装置から取得するようになっていることを特徴とする無線式踏切警報システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195117(P2011−195117A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66969(P2010−66969)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【Fターム(参考)】