説明

無線端末及びその制御方法

【課題】無線基地局と無線中継装置との間で接続先を適切に切り替えることができる無線端末を提供する。
【解決手段】無線基地局と、無線基地局がプリアンブル信号を送信する所定タイミングでプリアンブルマスク信号を送信する無線中継装置とを含む無線通信システムで用いられる無線端末が、無線基地局に接続している場合に、該所定タイミングと、該所定タイミングとは異なるタイミングとの各タイミングで、無線基地局からの受信信号のCINRを測定する(S111)。前記無線端末は、前記所定タイミングでの測定により得られた第1の基地局CINRと、前記異なるタイミングでの測定により得られた第2の基地局CINRとに応じて、無線中継装置に接続先を切り替える(S112、S122)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線基地局又は無線中継装置の何れかに接続して無線通信を行う無線端末及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線基地局と無線端末との間で送受信されるデータを中継する無線中継装置が広く用いられている。無線端末は、無線中継装置を介して無線基地局との通信を行うことで、無線基地局が形成するセル(通信エリア)の範囲外、あるいは、該セルの周縁部分(いわゆるセルフリンジ)に位置していても、無線基地局と通信できる。このような無線中継装置は、無線基地局との無線通信を行うように構成された第1無線通信部と、無線端末との無線通信を行うように構成された第2無線通信部とを有する。
【0003】
また、無線通信システムにおいて双方向通信を実現する一方式として、時分割複信(TDD)方式が知られている。TDD方式では、無線基地局から無線端末への送信が行われる下りリンク期間と、無線端末から無線基地局への送信が行われる上りリンク期間とが、通信フレーム内に時分割で設けられる。
【0004】
TDD方式を採用する無線通信システムで無線中継装置を用いる場合、下りリンク期間においては、無線基地局からの無線信号を第1無線通信部が受信するのと同時に、第2無線通信部から無線端末に無線信号を送信するため、第2無線通信部が送信する無線信号によって第1無線通信部が干渉の影響を受ける。また、上りリンク期間においては、無線端末からの無線信号を第2無線通信部が受信するのと同時に、第1無線通信部から無線基地局に無線信号を送信するため、第1無線通信部が送信する無線信号によって第2無線通信部が干渉の影響を受ける。
【0005】
このような問題を解決するために、第2無線通信部から無線端末に無線信号を送信する期間を下りリンク期間から上りリンク期間にシフトし、第2無線通信部が無線端末からの無線信号を受信する期間を上りリンク期間から下りリンク期間にシフトするように構成された無線中継装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−56711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、無線基地局、及び無線中継装置の第2無線通信部は、下りリンク期間内の所定タイミングで、無線端末によって同期の確立に使用される無線信号である同期信号を送信している。無線端末は、無線通信を開始する際に同期信号を探索(スキャン)し、同期信号を良好に受信できた場合に、同期信号の送信元との同期を確立することで、該同期信号の送信元に接続する。
【0008】
ここで、特許文献1に記載の無線中継装置は、無線信号を送信する期間を下りリンク期間から上りリンク期間にシフトしているため、無線端末は、無線基地局からの同期信号と無線中継装置からの同期信号とを異なるタイミングで受信することになるが、無線基地局に同期している無線端末は、既に同期しているタイミングに近い範囲でのみスキャンを行うことが一般的であるため、特許文献1に記載の無線中継装置に対して同期することが難しいという問題がある。
【0009】
このような問題を解決するためには、無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで、無線中継装置が妨害波信号を送信し、無線基地局から無線端末が受信する同期信号の品質レベルを劣化させて、無線基地局からの同期信号を認識できないようにすることにより、無線端末が無線中継装置に接続する確率を高める手法が考えられる。
【0010】
しかしながら、このような手法において、無線端末が無線中継装置に接続すべきエリア範囲を適切なものにするためには、無線中継装置が設置される位置等に基づいて妨害波信号の送信電力を調整する必要がある。ここで、妨害波信号の送信電力が適切ではない場合には、無線中継装置に接続した方が良好に通信できる無線端末が無線基地局に接続してしまったり、無線基地局に接続した方が良好に通信できる無線端末が無線中継装置に接続してしまったりする問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、無線基地局と無線中継装置との間で接続先を適切に切り替えることができる無線端末及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有している。
【0013】
まず、本発明に係る無線端末の第1の特徴は、無線基地局(無線基地局200)と、前記無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで妨害波信号を送信する無線中継装置(無線中継装置100)とを含む無線通信システム(無線通信システム1)で用いられる無線端末(無線端末300)であって、前記無線基地局又は前記無線中継装置の何れかに接続して無線通信を行うように構成された無線通信部(無線通信部310)と、前記無線通信部を制御する制御部(制御部320)とを有し、前記無線通信部は、受信信号の品質レベルを測定可能に構成されており、前記制御部は、前記無線基地局に接続している場合に、前記所定タイミングと、前記所定タイミングとは異なるタイミングとの各タイミングで、前記無線基地局からの受信信号の品質レベルを測定し、前記所定タイミングでの測定により得られた第1の基地局品質レベルと、前記異なるタイミングでの測定により得られた第2の基地局品質レベルとに応じて、前記無線中継装置に接続先を切り替える、ように前記無線通信部を制御することを要旨とする。
【0014】
このような特徴によれば、無線基地局に接続している無線端末は、無線中継装置が妨害波信号を送信する所定タイミングでの測定により得られた第1の基地局品質レベルと、該所定タイミングとは異なるタイミングでの測定により得られた第2の基地局品質レベルとに応じて、無線中継装置に接続先を切り替える。
【0015】
例えば無線端末の近くに無線中継装置があるような場合には、妨害波信号の影響を受ける第1の基地局品質レベルは、妨害波信号の影響を受けない第2の基地局品質レベルよりも劣化したものになる。従って、無線基地局に接続している無線端末は、第1の基地局品質レベルと第2の基地局品質レベルとを考慮することによって、無線中継装置に接続した方が良好な通信ができるか否かを推定可能になり、無線基地局から無線中継装置に接続先を適切に切り替えることができる。
【0016】
また、無線基地局に接続している無線端末が無線中継装置のスキャンを行う場合には、該スキャンに起因して無線端末と無線基地局との無線通信が中断することになるが、上記特徴に係る無線端末は、無線基地局からの受信信号の品質レベルに基づいて、自端末の近くに無線中継装置があるか否かを推定できるため、そのようなスキャンによる通信中断時間を短縮することができる。
【0017】
本発明に係る無線端末の他の特徴は、上記無線端末の第1の特徴において、前記制御部は、前記第1の基地局品質レベルが前記第2の基地局品質レベルよりも低く、且つ、前記第1の基地局品質レベルと前記第2の基地局品質レベルとの差分が所定閾値よりも大きい場合に、前記無線中継装置に接続先を切り替える、ように前記無線通信部を制御することを要旨とする。
【0018】
このような特徴によれば、無線端末は、第1の基地局品質レベルが第2の基地局品質レベルよりも低く、且つ、第1の基地局品質レベルと第2の基地局品質レベルとの差分が所定閾値よりも大きい場合に、無線中継装置に接続先を切り替える。
【0019】
第1の基地局品質レベルが第2の基地局品質レベルよりも低いということは、無線端末が無線中継装置からの妨害波信号を受信していることを意味する。さらに、第1の基地局品質レベルと第2の基地局品質レベルとの差分が所定閾値よりも大きいということは、妨害波信号の受信電力が大きく、無線端末の近くに無線中継装置があることから、無線中継装置に接続した方が良好に通信できることを意味する。
【0020】
従って、第1の基地局品質レベルが第2の基地局品質レベルよりも低く、且つ、第1の基地局品質レベルと第2の基地局品質レベルとの差分が所定閾値よりも大きい場合に、無線中継装置に接続先を切り替えることにより、無線基地局から無線中継装置に接続先を適切に切り替えることができる。
【0021】
本発明に係る無線端末の第2の特徴は、無線基地局(無線基地局200)と、前記無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで妨害波信号を送信する無線中継装置(無線中継装置100)とを含む無線通信システム(無線通信システム1)で用いられる無線端末(無線端末300)であって、前記無線基地局又は前記無線中継装置の何れかに接続して無線通信を行うように構成された無線通信部(無線通信部310)と、前記無線通信部を制御する制御部(制御部320)とを有し、前記無線通信部は、受信信号の品質レベルを測定可能に構成されており、前記制御部は、前記無線中継装置に接続している場合に、前記所定タイミングで、前記無線基地局からの受信信号の品質レベルを測定し、前記所定タイミングとは異なるタイミングで、前記無線中継装置からの受信信号の品質レベルを測定し、前記所定タイミングでの測定により得られた基地局品質レベルと、前記異なるタイミングでの測定により得られた中継装置品質レベルとに応じて、前記無線基地局に接続先を切り替える、ように前記無線通信部を制御することを要旨とする。
【0022】
このような特徴によれば、無線中継装置に接続している無線端末は、無線中継装置が妨害波信号を送信する所定タイミングでの測定により得られた基地局品質レベルと、該所定タイミングとは異なるタイミングでの測定により得られた中継装置品質レベルとに応じて、無線中継装置に接続先を切り替える。
【0023】
ここで、無線端末は、中継装置品質レベルから、妨害波信号の受信電力を推定することができる。また、妨害波信号の受信電力と、基地局品質レベルとから、妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベル、すなわち無線基地局からの受信電力を推定することができる。従って、無線中継装置に接続している無線端末は、基地局品質レベルと中継装置品質レベルとを考慮することによって、無線基地局に接続した方が良好な通信ができるか否かを推定可能になり、無線中継装置から無線基地局に接続先を適切に切り替えることができる。
【0024】
本発明に係る無線端末の他の特徴は、上記無線端末の第2の特徴において、前記制御部は、前記中継装置品質レベルから、前記妨害波信号の受信電力を推定し、該推定した妨害波信号の受信電力と、前記基地局品質レベルとから、前記妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベルを推定し、該推定した基地局品質レベルが前記中継装置品質レベルよりも高い場合に、前記無線基地局に接続先を切り替える、ように前記無線通信部を制御することを要旨とする。
【0025】
このような特徴によれば、無線端末は、妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベルを推定し、該推定した基地局品質レベルが中継装置品質レベルよりも高い場合に、無線基地局に接続先を切り替える。
【0026】
ここで、中継装置品質レベルは、無線中継装置が妨害波信号を送信する所定タイミングとは異なるタイミングでの測定により得られたものであり、無線中継装置からの妨害波信号以外の受信電力を表している。また、妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベルは、無線基地局からの受信電力を表している。よって、妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベルが中継装置品質レベルよりも高いということは、無線基地局からの受信電力が、無線中継装置からの妨害波信号以外の受信電力よりも高く、無線基地局に接続した方が良好に通信できることを意味する。
【0027】
従って、妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベルを推定し、該推定した基地局品質レベルが中継装置品質レベルよりも高い場合に、無線基地局に接続先を切り替えることにより、無線中継装置から無線基地局に接続先を適切に切り替えることができる。
【0028】
本発明に係る制御方法の第1の特徴は、無線基地局と、前記無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで妨害波信号を送信する無線中継装置とを含む無線通信システムで用いられる無線端末の制御方法であって、前記無線端末が前記無線基地局に接続している場合に、前記所定タイミングと、前記所定タイミングとは異なるタイミングとの各タイミングで、前記無線基地局からの受信信号の品質レベルを測定するステップと、前記所定タイミングでの測定により得られた第1の基地局品質レベルと、前記異なるタイミングでの測定により得られた第2の基地局品質レベルとに応じて、前記無線中継装置に接続先を切り替えるステップと、を有することを要旨とする。
【0029】
本発明に係る制御方法の他の特徴は、上記制御方法の第1の特徴において、前記切り替えるステップでは、前記第1の基地局品質レベルが前記第2の基地局品質レベルよりも低く、且つ、前記第1の基地局品質レベルと前記第2の基地局品質レベルとの差分が所定閾値よりも大きい場合に、前記無線中継装置に接続先を切り替える、ことを要旨とする。
【0030】
本発明に係る制御方法の第2の特徴は、無線基地局と、前記無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで妨害波信号を送信する無線中継装置とを含む無線通信システムで用いられる無線端末の制御方法であって、前記無線端末が前記無線中継装置に接続している場合に、前記所定タイミングで、前記無線基地局からの受信信号の品質レベルを測定し、且つ、前記所定タイミングとは異なるタイミングで、前記無線中継装置からの受信信号の品質レベルを測定するステップと、前記所定タイミングでの測定により得られた基地局品質レベルと、前記異なるタイミングでの測定により得られた中継装置品質レベルとに応じて、前記無線基地局に接続先を切り替えるステップと、を有することを要旨とする。
【0031】
本発明に係る制御方法の他の特徴は、上記制御方法の第2の特徴において、前記中継装置品質レベルから、前記妨害波信号の受信電力を推定するステップと、該推定した妨害波信号の受信電力と、前記基地局品質レベルとから、前記妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベルを推定するステップと、をさらに有し、前記切り替えるステップでは、該推定した基地局品質レベルが前記中継装置品質レベルよりも高い場合に、前記無線基地局に接続先を切り替える、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、無線基地局と無線中継装置との間で接続先を適切に切り替えることができる無線端末及びその制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る無線通信システムの概略構成図である。
【図2】サービス側送受信シフト方式を使用した場合に無線端末が受信する無線信号の状態を示すタイムチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る無線通信システムで使用される通信フレームの構成を示す通信フレーム構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る無線通信システムで利用可能な通信周波数帯の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る無線中継装置の機能ブロック構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施形態に係る無線端末の機能ブロック構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施形態に係る無線中継装置の概略動作を説明するためのタイムチャートである。
【図8】本発明の実施形態に係る無線中継装置の詳細動作を説明するためのタイムチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係る無線端末の概略動作を説明するためのタイムチャートである。
【図10】本発明の実施形態に係る無線端末の動作フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。具体的には、(1)無線通信システムの概要、(2)無線中継装置の構成、(3)無線端末の構成、(4)無線中継装置の動作、(5)無線端末の動作、(6)実施形態の効果、(7)その他の実施形態について説明する。以下の実施形態における図面において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付す。
【0035】
(1)無線通信システムの概要
まず、本実施形態に係る無線通信システムの概要について、(1.1)全体概略構成、(1.2)通信フレームの構成、(1.3)通信周波数帯の構成の順に説明する。
【0036】
(1.1)全体概略構成
図1は、本実施形態に係る無線通信システム1の概略構成図である。無線通信システム1は、WiMAX(IEEE802.16)に基づく構成を有する。すなわち、無線通信システム1には、直交周波数分割多重接続(OFDMA)方式及び時分割複信(TDD)方式が採用されている。
【0037】
OFDMA方式は、互いに直交する多数のサブキャリアを使用して多重接続を実現する。TDD方式は、1つの通信フレーム内において上りリンク通信及び下りリンク通信を時分割で実行することにより、双方向通信を実現する。なお、上りリンク(UL)とは、無線端末から無線基地局への通信方向を意味し、下りリンク(DL)とは、無線基地局から無線端末への通信方向を意味する。
【0038】
無線通信システム1では、1通信フレーム内において、先ず下りリンク通信が実行され、その後上りリンク通信が実行される。以下においては、1通信フレーム内で下りリンク通信が実行される期間を下りリンク期間と称し、1通信フレーム内で上りリンク通信が実行される期間を上りリンク期間と称する。
【0039】
図1に示すように、無線通信システム1は、無線中継装置100、無線基地局200(無線基地局200A,200B)及び無線端末300を有する。
【0040】
無線基地局200A,200Bのそれぞれは、比較的大型のセルを形成する基地局である。無線基地局200A,200Bは、互いに同期して動作する。無線中継装置100は、無線基地局200Aに接続している。
【0041】
無線端末300は、無線基地局200A,200B、又は無線中継装置100に未接続の状態である。本実施形態では、無線端末300は、無線中継装置100に近接した位置にあるとする。
【0042】
無線端末300は、無線中継装置100に接続すると、無線中継装置100を介して無線基地局200Aとの通信を行う。無線端末300は、無線基地局200A又は200Bに接続すると、無線基地局200A又は200Bと直接的に通信を行う。
【0043】
無線中継装置100は、無線基地局200Aとの無線通信に通信周波数帯fAを使用し、無線端末300との無線通信に通信周波数帯fBを使用する。無線基地局200Bは、無線端末300との無線通信に通信周波数帯fBを使用する。
【0044】
無線基地局200A,200B、及び無線中継装置100は、無線端末300によって同期の確立に使用される無線信号であるプリアンブル信号(同期信号)を周期的に送信する。プリアンブル信号は、下りリンク期間の先頭1OFDMシンボルによって構成される。以下においては、無線基地局200A,200Bが送信するプリアンブル信号を適宜「基地局プリアンブル信号」と称し、無線中継装置100が送信するプリアンブル信号を適宜「中継装置プリアンブル信号」と称する。
【0045】
無線端末300は、無線通信を開始する際にプリアンブル信号を探索し、プリアンブル信号を良好に受信できた場合に、プリアンブル信号の送信元との同期を確立することで、該同期信号の送信元に接続する。
【0046】
無線中継装置100は、無線端末300に無線信号を送信する期間を下りリンク期間から上りリンク期間にシフトし、無線端末300からの無線信号を受信する期間を上りリンク期間から下りリンク期間にシフトするように構成される(特許文献1参照)。以下においては、このような方式を「サービス側送受信シフト方式」(あるいはサービス側送受信反転方式)と称する。
【0047】
無線基地局200Aは、下りリンク期間内で、通信周波数帯fAを使用して基地局プリアンブル信号を送信する。無線基地局200Bは、下りリンク期間内で、通信周波数帯fBを使用して基地局プリアンブル信号を送信する。無線中継装置100は、上りリンク期間内で、通信周波数帯fBを使用して中継装置プリアンブル信号を送信する。
【0048】
図2は、サービス側送受信シフト方式を使用した場合に無線端末300が受信する無線信号の状態を示すタイムチャートである。
【0049】
図2に示すように、無線端末300は、下りリンク期間及び上りリンク期間において、同一の通信周波数帯fBを使用した基地局プリアンブル信号及び中継装置プリアンブル信号を受信する。無線中継装置100に近接する無線端末300は、無線中継装置100に接続することで良好な通信状態での無線通信が可能であるが、中継装置プリアンブル信号と同一の通信周波数帯fBを使用した基地局プリアンブル信号を異なるタイミングで受信することで、無線基地局200Bに接続してしまう、あるいは同期先が不確定になり同期を確立できない不具合が生じ得る。
【0050】
そこで、無線中継装置100は、無線基地局200Bが基地局プリアンブル信号を送信する所定タイミング(すなわち下りリンク期間の先頭1OFDMシンボルに相当するタイミング)で、基地局プリアンブル信号を妨害するための無線信号であるプリアンブルマスク信号(妨害波信号)を送信し、基地局プリアンブル信号と干渉を生じさせる。プリアンブルマスク信号としては、例えば、既知の信号系列からなるパイロット信号が使用できる。プリアンブルマスク信号の送信には、通信周波数帯fBが使用される。
【0051】
無線端末300は、基地局プリアンブル信号とプリアンブルマスク信号とを同時に受信することで、無線基地局200Bからの基地局プリアンブル信号を検出不能になる。その結果、無線中継装置100に近接する無線端末300が無線基地局200Bに接続してしまう、あるいは同期先が不確定になり同期を確立できないといった不具合を解消できる。
【0052】
(1.2)通信フレームの構成
図3は、無線通信システム1で使用される通信フレームの構成を示す通信フレーム構成図である。
【0053】
図3に示すように、通信フレームは、下りリンク期間に相当する下りサブフレームSFR1と、上りリンク期間に相当する上りサブフレームSFR2とを有する。下りリンクでは上りリンクよりも大きな通信容量が要求されるため、下りサブフレームSFR1が上りサブフレームSFR2よりも長い上り・下り非対称フレーム構成となっている。下りサブフレームSFR1及び上りサブフレームSFR2は、それぞれ複数のシンボルから構成される。
【0054】
下りサブフレームSFR1の先頭は各種制御データが配置される制御データ領域であり、その後はユーザデータが配置されるバースト領域である。
【0055】
該制御データは、上述したプリアンブルと、FCH(無線基地局から送信されるヘッダ情報)と、上りリンク及び下りリンクのユーザデータに関するリソース割り当て情報であるMAPとを含む。
【0056】
下りサブフレームSFR1と上りサブフレームSFR2との間には、ガードタイム(TTG)が設けられている。
【0057】
(1.3)通信周波数帯の構成
図4は、無線通信システム1で利用可能な通信周波数帯の構成を示す図である。
【0058】
図4に示すように、無線通信システム1においては、例えば30MHzのシステム通信周波数帯を利用可能であり、該システム通信周波数帯は3つの通信周波数帯F1〜F3に等分割されている。
【0059】
通信周波数帯F1〜F3の何れかが、上述した通信周波数帯fAに相当する。残る通信周波数帯の何れかが、上述した通信周波数帯fBに相当する。
【0060】
無線中継装置100は、無線基地局200Aへの接続時に、通信周波数帯F1〜F3の何れかを無線基地局200Aとの無線通信に使用する通信周波数帯として設定する。また、無線中継装置100は、残る通信周波数帯の何れかを無線端末との無線通信に使用する通信周波数帯として設定する。
【0061】
(2)無線中継装置の構成
次に、無線中継装置100の構成を説明する。図5は、無線中継装置100の機能ブロック構成を示すブロック図である。
【0062】
図5に示すように、無線中継装置100は、無線基地局200と通信するためのドナー側通信ユニット110Dと、無線端末300と通信するためのサービス側通信ユニット110Sとを有する。
【0063】
ドナー側通信ユニット110Dは無線端末と同等の通信機能を具備し、サービス側通信ユニット110Sは無線基地局と同等の通信機能を具備する。ドナー側通信ユニット110D及びサービス側通信ユニット110Sは、イーサネット(登録商標)などを利用して有線接続されている。
【0064】
ドナー側通信ユニット110Dは、ドナー側無線通信部120D、ドナー側制御部130D、記憶部172、インタフェース(I/F)部173、及びインジケータ174を有する。本実施形態においてドナー側無線通信部120Dは、第1無線通信部に相当する。
【0065】
ドナー側無線通信部120Dは、OFDMA及びTDD方式を用いて無線基地局200との無線通信を行うように構成される。ドナー側無線通信部120Dは、下りリンク期間において無線基地局200からの無線信号を受信する。
【0066】
ドナー側無線通信部120Dは、ドナーアンテナ161a,161b、送受切り替えスイッチ162a,162b、パワーアンプ(PA)163a,163b、ローノイズアンプ(LNA)164a,164b、及び高周波/ベースバンド(RF/BB)部165a,165bを有する。このように本実施形態では、ドナー側無線通信部120Dにおいて送受信系統を2系統設けることによりダイバーシチ効果を得ている。
【0067】
ドナー側制御部130Dは、例えばCPUなどによって構成され、ドナー側通信ユニット110Dが具備する各種機能を制御する。ドナー側制御部130Dは、ドナー側無線通信部120Dが受信する無線信号の受信電力レベルを示すRSSI(Received Signal Strength Indicator)と、ドナー側無線通信部120Dが受信する無線信号の無線品質を示すSNR(Signal to Noise ratio)とを測定する機能を有する。
【0068】
記憶部172は、例えばメモリによって構成され、ドナー側通信ユニット110Dにおける制御などに用いられる各種情報を記憶する。I/F部173は、サービス側通信ユニット110Sに接続される。インジケータ174は、ドナー側制御部130Dによって制御され、無線基地局200からの受信電力レベルを示す情報を表示する。
【0069】
サービス側通信ユニット110Sは、サービス側無線通信部120S、サービス側制御部130S、記憶部132及びI/F部133を有する。本実施形態においてサービス側無線通信部120Sは、第2無線通信部に相当する。
【0070】
サービス側無線通信部120Sは、OFDMA及びTDD方式を用いて無線端末300との無線通信を行うように構成される。サービス側無線通信部120Sは、上述した中継装置プリアンブル信号を送信する。
【0071】
サービス側無線通信部120Sは、サービスアンテナ121a,121b、送受切り替えスイッチ122a,122b、PA123a,123b、LNA124a,124b、及びRF/BB部125a,125bを有する。このように本実施形態では、サービス側無線通信部120Sにおいて送受信系統を2系統設けることによりダイバーシチ効果を得ている。
【0072】
サービス側制御部130Sは、例えばCPUなどによって構成され、サービス側通信ユニット110Sが具備する各種機能を制御する。記憶部132は、例えばメモリによって構成され、サービス側通信ユニット110Sにおける制御などに用いられる各種情報を記憶する。I/F部133は、ドナー側通信ユニット110Dに接続される。
【0073】
本実施形態では、ドナー側制御部130D、サービス側制御部130S、記憶部172,132、I/F部173,133、及びインジケータ174は、ドナー側無線通信部120D及びサービス側無線通信部120Sを制御する制御部を構成する。
【0074】
制御部130は、無線中継装置100が利用可能な複数の通信周波数帯のうち、ドナー側無線通信部120Dについて測定されたSNR(無線品質)が最も高い通信周波数帯をドナー側無線通信部120Dに対して設定し、ドナー側無線通信部120Dについて測定されたSNRが最も低い通信周波数帯をサービス側無線通信部120Sに対して設定する。
【0075】
制御部130は、プリアンブルマスク信号を、基地局プリアンブル信号の送信タイミング(すなわち下りリンク期間の先頭タイミング)で送信するようサービス側無線通信部120Sを制御する。
【0076】
制御部130は、ドナー側無線通信部120Dへの干渉を考慮して制限された送信電力でプリアンブルマスク信号を送信するようサービス側無線通信部120Sを制御する。例えば、プリアンブルマスク信号の送信電力は、サービス側無線通信部120Sがユーザデータを送信する際の送信電力よりも小さくなるよう制御される(図8(c)参照)。
【0077】
また、制御部130は、サービス側無線通信部120Sに対して設定された通信周波数帯とドナー側無線通信部120Dに対して設定された通信周波数帯との間の周波数間隔に応じて、プリアンブルマスク信号の送信電力を制御する。
【0078】
さらに、制御部130は、ドナー側無線通信部120Dが無線基地局200から受信した無線信号のRSSI(受信電力レベル)に応じて、プリアンブルマスク信号の送信電力を制御する。なお、無線信号のRSSIに応じたプリアンブルマスク信号の送信電力制御は、無線環境の変化を考慮し、無線中継装置100が中継動作を行っている間、実行してもよい。
【0079】
(3)無線端末の構成
次に、無線端末300の構成を説明する。図6は、無線端末300の機能ブロック構成を示すブロック図である。
【0080】
図6に示すように、無線端末300は、無線基地局200又は無線中継装置100の何れかに接続して無線通信を行うように構成された無線通信部310と、無線通信部310を制御する制御部320とを有する。
【0081】
無線通信部310は、OFDMA及びTDD方式を用いて無線通信を行うように構成される。無線通信部310は、アンテナ311、送受切り替えスイッチ312、パワーアンプ(PA)313、ローノイズアンプ(LNA)314、及び高周波/ベースバンド(RF/BB)部315を有する。
【0082】
アンテナ311は、無線信号の送受信に用いられる。送受切り替えスイッチ312は、無線信号の送信と無線信号の受信とを切り替えるように構成される。PA313は、送信する無線信号を増幅して送受切り替えスイッチ312に出力する。LNA314は、受信した無線信号を増幅してRF/BB部315に出力する。RF/BB部315は、制御部320から入力される送信信号をBB帯からRF帯に変換してPA313に出力し、受信信号をRF帯からBB帯に変換して制御部320に出力する。また、RF/BB部315は、送信信号を変調する機能と、受信信号を復調する機能とを有する。
【0083】
RF/BB部315は、受信信号のCINR(Carrier to Interference and Noise Ratio)を測定するためのCINR測定部315aを含む。CINR測定部315aは、制御部320の制御下でCINRを測定し、その測定値を制御部320に出力する。なお、CINRとは、対象とする受信信号の品質レベルを表す指標であり、干渉信号電力及び雑音電力に対して対象信号の搬送波電力がどの程度の値であるかを表す。
【0084】
制御部320は、例えばCPUやメモリを用いて構成されており、無線端末300の各種機能を制御する。
【0085】
制御部320は、無線通信部310が無線基地局200に接続している場合に、無線基地局200がプリアンブル信号を送信する所定タイミングと、該所定タイミングとは異なるタイミングとの各タイミングで、無線基地局200からの受信信号のCINRを測定し、該所定タイミングでの測定により得られた測定値(以下、「第1の基地局CINR」)と、該異なるタイミングでの測定により得られた測定値(以下、「第2の基地局CINR」)とに応じて、無線中継装置100に接続先を切り替える、ように無線通信部310を制御する。
【0086】
また、制御部320は、無線通信部310が無線中継装置100に接続している場合に、無線基地局200がプリアンブル信号を送信する所定タイミングで無線基地局200からの受信信号のCINRを測定し、該所定タイミングとは異なるタイミングで無線中継装置100からの受信信号のCINRを測定し、該所定タイミングでの測定により得られた測定値(以下、「基地局CINR」)と、該異なるタイミングでの測定により得られた測定値(以下、「中継装置CINR」)とに応じて、無線基地局200に接続先を切り替える、ように無線通信部310を制御する。
【0087】
(4)無線中継装置の動作
次に、無線中継装置100の動作について、(4.1)無線中継装置の概略動作、(4.2)無線中継装置の詳細動作の順に説明する。
【0088】
(4.1)無線中継装置の概略動作
図7は、無線中継装置100の概略動作を説明するためのタイムチャートである。
【0089】
図7(a)〜図7(d)は、無線基地局200、無線中継装置100及び無線端末300がサービス側送受信シフト方式に従わずに通信する様子を示している。図7(a’)〜図7(d’)は、無線基地局200、無線中継装置100及び無線端末300がサービス側送受信シフト方式に従って通信する様子を示している。
【0090】
なお、図7(a)及び図7(a’)は無線基地局200における動作を示し、図7(b)及び図7(b’)は無線中継装置100のドナー側無線通信部120Dにおける動作を示し、図7(c)及び図7(c’)は無線中継装置100のサービス側無線通信部120Sにおける動作を示し、図7(d)及び図7(d’)は無線端末300における動作を示している。
【0091】
図7(a)〜図7(d)に示すように、各通信フレーム期間Tnにおいて、下りリンク期間t1及び上りリンク期間t2が時分割で設けられている。図7(b)に示すように、無線中継装置100のドナー側無線通信部120Dは、下りリンク期間t1において無線基地局200から無線信号を受信し、上りリンク期間t2において無線基地局200に無線信号を送信する。
【0092】
サービス側送受信シフト方式に従わない方式では、図7(c)に示すように、無線中継装置100のサービス側無線通信部120Sは、下りリンク期間t1において無線端末300に無線信号を送信し、上りリンク期間t2において無線端末300から無線信号を受信する。このため、下りリンク期間t1においてサービス側無線通信部120Sがドナー側無線通信部120Dに干渉を与え、上りリンク期間t2においてドナー側無線通信部120Dがサービス側無線通信部120Sに干渉を与える。
【0093】
一方、サービス側送受信シフト方式では、図7(c’)に示すように、サービス側通信ユニット110Sのサービス側制御部130Sは、サービス側無線通信部120Sが無線端末300に無線信号を送信するサービス側送信期間P1を上りリンク期間t2にシフトして設定する。また、サービス側制御部130Sは、サービス側無線通信部120Sが無線端末300から無線信号を受信するサービス側受信期間P2を下りリンク期間t1にシフトして設定する。
【0094】
例えば、無線中継装置100は、図7(a’)〜図7(d’)に示すように、通信フレーム期間T1の下りリンク期間t1において無線端末300から受信した無線信号を、通信フレーム期間T1の上りリンク期間t2において無線基地局200に送信する。また、無線中継装置100は、通信フレーム期間T1の下りリンク期間t1において無線基地局200から受信した無線信号を、通信フレーム期間T1の上りリンク期間t2において無線端末300に送信する。これにより、上記の干渉が回避される。
【0095】
下りリンク期間t1の時間長は、上りリンク期間t2の時間長よりも長い。よって、サービス側制御部130Sがサービス側送信期間P1を上りリンク期間t2に設定したことにより、サービス側送信期間P1の一部は上りリンク期間t2を超えて下りリンク期間t1の一部と重なる。以下では、下りリンク期間t1と重なるサービス側送信期間P1の一部分を重複部分Δtと称する。
【0096】
(4.2)無線中継装置の詳細動作
図8は、無線中継装置100の詳細動作を説明するためのタイムチャートである。
【0097】
図8(a)及び(b)に示すように、サービス側制御部130Sは、重複部分Δtのうち、下りリンク期間t1のプリアンブル信号送信タイミングを除く期間において、サービス側無線通信部120Sから無線端末300への送信を停止させる。これにより、重複部分Δtにおいて、サービス側無線通信部120Sがドナー側無線通信部120Dに干渉を与えないようになる。
【0098】
該送信停止期間では、データが送信されないことになるが、再送制御などの仕組みを利用することで該データを無線端末300に伝達可能となる。重複部分Δtには、通信遅延が許容されるデータを配置することが好ましく、音声データなどのリアルタイム性及び要求サービス品質(QoS)の高いデータは重複部分Δtに配置しないことが好ましい。
【0099】
図8(c)に示すように、サービス側制御部130Sは、重複部分Δtのうち、下りリンク期間t1のプリアンブル信号送信タイミング(所定タイミング)において、プリアンブルマスク信号を送信するようサービス側無線通信部120Sを制御する。例えば、サービス側制御部130Sは、サービス側無線通信部120Sからのユーザデータ送信を停止させつつ、パイロット信号の送信を継続させる。
【0100】
プリアンブルマスク信号は、ドナー側無線通信部120Dへの干渉にも繋がることから、ドナー側制御部130D及びサービス側制御部130Sは、ドナー側無線通信部120Dへの干渉の度合いが許容範囲内になるように、プリアンブルマスク信号の送信電力を設定する。これにより、干渉対策用の機構(遮蔽板等)を筐体に設けなくて済み、ドナー側通信ユニット110D及びサービス側通信ユニット110Sをより小型化した筐体に収めることができる。
【0101】
サービス側無線通信部120Sからドナー側無線通信部120Dへの干渉の影響を考えた場合、サービス送信周波数とドナー受信周波数との関係(間隔)により干渉の度合いが変化する。具体的には、サービス送信周波数とドナー受信周波数が隣接する場合と、次隣接以上の周波数間隔の場合とで異なる。よって、ドナー側制御部130D及びサービス側制御部130Sは、そのような周波数関係性に応じて、プリアンブルマスク信号の送信電力を制御してもよい。
【0102】
また、ドナー側無線通信部120Dが無線基地局200から受信する無線信号の状態によりドナー側制御部130Dがサービス側無線通信部120Sから受ける干渉の度合い(割合)が変化する。よって、ドナー側制御部130D及びサービス側制御部130Sは、ドナー側無線通信部120DにおけるRSSIに応じて、プリアンブルマスク信号の送信電力を制御してもよい。
【0103】
(5)無線端末の動作
次に、無線端末300の動作について、(5.1)無線端末の概略動作、(5.2)無線端末の詳細動作の順に説明する。以下においては、無線端末300が接続先の切り替え(いわゆる、ハンドオーバ)を行う際の動作を説明する。
【0104】
(5.1)無線端末の概略動作
図9は、無線端末300の概略動作を説明するための図である。
【0105】
図9に示すように、下りリンク期間t1の基地局プリアンブル信号送信タイミング(所定タイミング)で無線中継装置100がプリアンブルマスク信号を送信する手法において、プリアンブルマスク信号の送信電力が適切ではない場合には、無線中継装置100に接続した方が良好に通信できる無線端末300aが無線基地局200に接続してしまったり、無線基地局200に接続した方が良好に通信できる無線端末300bが無線中継装置100に接続してしまったりする問題がある。
【0106】
このような問題を解決するためには、無線端末300a及び無線端末300bのそれぞれが頻繁にスキャンを行うことによって、無線基地局200及び無線中継装置100の両方を検出可能になるが、スキャンの増大によって通信中断時間が増大してしまう。
【0107】
そこで、本実施形態では、無線基地局200に接続している無線端末300aは、下りリンク期間t1内において、無線基地局200がプリアンブル信号を送信する所定タイミングと、該所定タイミングとは異なるタイミングとの各タイミングで、無線基地局200からの受信信号のCINRを測定する。そして、無線端末300aは、該所定タイミングでの測定により得られた第1の基地局CINRと、該異なるタイミングでの測定により得られた第2の基地局CINRとに応じて、無線中継装置100に接続先を切り替える。
【0108】
例えば無線端末300aの近くに無線中継装置100があるような場合には、プリアンブルマスク信号の影響を受ける第1の基地局CINRは、プリアンブルマスク信号の影響を受けない第2の基地局CINRよりも劣化したものになる。従って、無線端末300aは、第1の基地局CINRと第2の基地局CINRとを考慮することによって、自端末の近くに無線中継装置100があるか否か、すなわち無線中継装置100に接続した方が良好な通信をできるか否かを推定可能になり、無線基地局200から無線中継装置100に接続先を適切に切り替えることができる。
【0109】
また、無線端末300aが無線中継装置100のスキャンを行う場合には、該スキャンに起因して無線基地局200との無線通信が中断することになるが、本実施形態によれば、無線端末300aは、無線基地局200からの受信信号のCINRに基づいて、自端末の近くに無線中継装置100があるか否かを推定できるため、スキャンによる通信中断時間を短縮することができる。
【0110】
無線中継装置100に接続している無線端末300bは、無線中継装置100のサービス側送信期間内において、無線基地局200がプリアンブル信号を送信する所定タイミングで無線基地局200からの受信信号のCINRを測定し、該所定タイミングとは異なるタイミングで無線中継装置100からの受信信号のCINRを測定する。そして、無線端末300bは、該所定タイミングでの測定により得られた基地局CINRと、該異なるタイミングでの測定により得られた中継装置CINRとに応じて、無線基地局200に接続先を切り替える。
【0111】
ここで、無線端末300bは、中継装置CINRから、プリアンブルマスク信号の受信電力を推定することができる。また、プリアンブルマスク信号の受信電力と、基地局CINRとから、プリアンブルマスク信号の影響を除いた基地局CINR、すなわち無線基地局200からの受信電力を推定することができる。
【0112】
従って、無線端末300bは、基地局CINRと中継装置CINRとを考慮することによって、自端末の近くに無線基地局200があるか否か、すなわち無線基地局200に接続した方が良好な通信をできるか否かを推定可能になり、無線中継装置100から無線基地局200に接続先を適切に切り替えることができる。
【0113】
なお、CINR測定の信頼度を上げるために、各タイミングについて繰り返し複数回測定を行い、その平均値を使用してもよい。ここで、複数回の測定は、同一フレーム内であってもよく、複数フレームに跨っていてもよい。
【0114】
(5.2)無線端末の詳細動作
図10は、無線端末300の動作フローを示すフローチャートである。
【0115】
図10に示すように、ステップS101において、無線通信部310は、無線基地局200又は無線中継装置100の何れかに接続して無線通信を行っている。
【0116】
無線基地局200に接続している場合(ステップS102;NO)、制御部320は、処理をステップS111に進める。これに対し、無線中継装置100に接続している場合(ステップS102;YES)、制御部320は、処理をステップS103に進める。
【0117】
ステップS111において、制御部320は、下りリンク期間t1内において、無線基地局200がプリアンブル信号を送信する所定タイミングと、該所定タイミングとは異なるタイミングとの各タイミングで、無線基地局200からの受信信号のCINRを測定するよう無線通信部310を制御する。
【0118】
ステップS112において、制御部320は、該所定タイミングでの測定により得られた第1の基地局CINRと、該異なるタイミングでの測定により得られた第2の基地局CINRとに基づいて、無線中継装置100に接続した方が良好に通信できるか否かを判断する。本実施形態では、制御部320は、第1の基地局CINRが第2の基地局CINRよりも低く、且つ、第1の基地局CINRと第2の基地局CINRとの差分が所定閾値よりも大きいという条件が満たされているかを確認し、該条件が満たされている場合には無線中継装置100に接続した方が良好に通信できると判断する。なお、所定閾値としては、シミュレーションや実験等によって求められた値が予め設定されているものとする。
【0119】
無線中継装置100に接続した方が良好に通信できると判断した場合(ステップS112;YES)、ステップS122において、制御部320は、無線中継装置100が送信するプリアンブル信号のスキャンを行い、無線中継装置100への接続処理(同期処理)を行うように無線通信部310を制御する。その結果、無線基地局200から無線中継装置100への接続先の切り替えが行われる。
【0120】
一方、ステップS103において、制御部320は、無線中継装置100のサービス側送信期間内において、無線基地局200がプリアンブル信号を送信する所定タイミングで無線基地局200からの受信信号のCINRを測定し、該所定タイミングとは異なるタイミングで無線中継装置100からの受信信号のCINRを測定するよう無線通信部310を制御する。
【0121】
ステップS104において、制御部320は、該所定タイミングでの測定により得られた基地局CINRと、該異なるタイミングでの測定により得られた中継装置CINRとに基づいて、無線基地局200に接続した方が良好に通信できるか否かを判断する。本実施形態では、制御部320は、中継装置CINRから、プリアンブルマスク信号の受信電力を推定し、該推定したプリアンブルマスク信号の受信電力と、基地局CINRとから、プリアンブルマスク信号の影響を除いた基地局CINRを推定する。そして、推定した基地局CINRが中継装置CINRよりも高い場合には、無線基地局200に接続した方が良好に通信できると判断する。なお、中継装置CINRとプリアンブルマスク信号の受信電力とを対応付けたテーブルを制御部320に保持させておくことで、中継装置CINRからプリアンブルマスク信号の受信電力を推定できる。また、例えば基地局CINRからプリアンブルマスク信号の受信電力を減じることによって、プリアンブルマスク信号の影響を除いた基地局CINRを推定できる。
【0122】
無線基地局200に接続した方が良好に通信できると判断した場合(ステップS104;YES)、ステップS121において、制御部320は、無線基地局200が送信するプリアンブル信号のスキャンを行い、無線基地局200への接続処理(同期処理)を行うように無線通信部310を制御する。その結果、無線中継装置100から無線基地局200への接続先の切り替えが行われる。
【0123】
(6)実施形態の効果
以上説明したように、無線基地局200に接続している無線端末300aは、第1の基地局CINRが第2の基地局CINRよりも低く、且つ、第1の基地局CINRと第2の基地局CINRとの差分が所定閾値よりも大きい場合に、無線中継装置100に接続先を切り替える。
【0124】
第1の基地局CINRが第2の基地局CINRよりも低いということは、無線端末300aが無線中継装置100からのプリアンブルマスク信号を受信していることを意味する。さらに、第1の基地局CINRと第2の基地局CINRとの差分が所定閾値よりも大きいということは、プリアンブルマスク信号の受信電力が大きく、無線端末300aの近くに無線中継装置100があることから、無線中継装置100に接続した方が良好に通信できることを意味する。
【0125】
従って、第1の基地局CINRが第2の基地局CINRよりも低く、且つ、第1の基地局CINRと第2の基地局CINRとの差分が所定閾値よりも大きい場合に、無線中継装置100に接続先を切り替えることにより、無線基地局200から無線中継装置100に接続先を適切に切り替えることができる。
【0126】
本実施形態では、無線中継装置100に接続している無線端末300は、プリアンブルマスク信号の影響を除いた基地局CINRを推定し、該推定した基地局CINRが中継装置CINRよりも高い場合に、無線基地局200に接続先を切り替える。
【0127】
ここで、中継装置CINRは、無線中継装置100がプリアンブルマスク信号を送信する所定タイミングとは異なるタイミングでの測定により得られたものであり、無線中継装置100からのプリアンブルマスク信号以外の受信電力を表している。また、プリアンブルマスク信号の影響を除いた基地局CINRは、無線基地局200からの受信電力を表している。よって、プリアンブルマスク信号の影響を除いた基地局CINRが中継装置CINRよりも高いということは、無線基地局200からの受信電力が、無線中継装置100からのプリアンブルマスク信号以外の受信電力よりも高く、無線基地局200に接続した方が良好に通信できることを意味する。
【0128】
従って、プリアンブルマスク信号の影響を除いた基地局CINRを推定し、該推定した基地局CINRが中継装置CINRよりも高い場合に、無線基地局200に接続先を切り替えることにより、無線中継装置100から無線基地局200に接続先を適切に切り替えることができる。
【0129】
さらに、本実施形態によれば、プリアンブルマスク信号(妨害波信号)の状態を無線端末300が検出して、無線中継装置100及び無線基地局200への接続切り替えを無線端末300が判定することにより、プリアンブルマスク信号の送信電力の調整によって接続範囲を定める必要がなくなる。また、無線中継装置100への接続を促すために、強い妨害波(プリアンブルマスク信号)を出さなくても無線端末300が無線中継装置100を検出できるため、無線中継装置100の置局設計が容易になる。
【0130】
(7)その他の実施形態
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
【0131】
例えば、上述した実施形態では、無線端末300は、受信信号の品質レベルとしてCINRを測定していたが、CINRに限らず、SNR等を測定してもよい。
【0132】
上述した実施形態では、WiMAX(IEEE802.16)に基づく無線通信システム1について説明したが、WiMAXに限らず、TDD方式を採用する無線通信システムであればよく、例えば3GPP(3rd Generation Partnership Project)で規格化されているLTE(Long Term Evolution)のTDDモード(TDD−LTE)などに対しても本発明を適用可能である。
【0133】
さらに、無線中継装置100は、固定型のものに限らず、例えば車両などに搭載される移動型のものであってもよい。
【0134】
このように本発明は、ここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0135】
1…無線通信システム、100…無線中継装置、110D…ドナー側通信ユニット、110S…サービス側通信ユニット、120D…ドナー側無線通信部、120S…サービス側無線通信部、121a,121b…サービスアンテナ、122a,122b…スイッチ、123a,123b…PA、124a,124b…LNA、125a,125b…RF/BB部、130…制御部、130D…ドナー側制御部、130S…サービス側制御部、132…記憶部、133…I/F部、161a,161b…ドナーアンテナ、162a,162b…スイッチ、165a,165b…RF/BB部、172…記憶部、173…I/F部、174…インジケータ、200,200A,200B…無線基地局、300,300a,300b…無線端末、310…無線通信部、311…アンテナ、312…スイッチ、313…PA、314…LNA、315…RF/BB部、315a…CINR測定部、320…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線基地局と、前記無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで妨害波信号を送信する無線中継装置とを含む無線通信システムで用いられる無線端末であって、
前記無線基地局又は前記無線中継装置の何れかに接続して無線通信を行うように構成された無線通信部と、
前記無線通信部を制御する制御部とを有し、
前記無線通信部は、受信信号の品質レベルを測定可能に構成されており、
前記制御部は、前記無線基地局に接続している場合に、
前記所定タイミングと、前記所定タイミングとは異なるタイミングとの各タイミングで、前記無線基地局からの受信信号の品質レベルを測定し、
前記所定タイミングでの測定により得られた第1の基地局品質レベルと、前記異なるタイミングでの測定により得られた第2の基地局品質レベルとに応じて、前記無線中継装置に接続先を切り替える、
ように前記無線通信部を制御することを特徴とする無線端末。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の基地局品質レベルが前記第2の基地局品質レベルよりも低く、且つ、前記第1の基地局品質レベルと前記第2の基地局品質レベルとの差分が所定閾値よりも大きい場合に、前記無線中継装置に接続先を切り替える、
ように前記無線通信部を制御することを特徴とする請求項1に記載の無線端末。
【請求項3】
無線基地局と、前記無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで妨害波信号を送信する無線中継装置とを含む無線通信システムで用いられる無線端末であって、
前記無線基地局又は前記無線中継装置の何れかに接続して無線通信を行うように構成された無線通信部と、
前記無線通信部を制御する制御部とを有し、
前記無線通信部は、受信信号の品質レベルを測定可能に構成されており、
前記制御部は、前記無線中継装置に接続している場合に、
前記所定タイミングで、前記無線基地局からの受信信号の品質レベルを測定し、
前記所定タイミングとは異なるタイミングで、前記無線中継装置からの受信信号の品質レベルを測定し、
前記所定タイミングでの測定により得られた基地局品質レベルと、前記異なるタイミングでの測定により得られた中継装置品質レベルとに応じて、前記無線基地局に接続先を切り替える、
ように前記無線通信部を制御することを特徴とする無線端末。
【請求項4】
前記制御部は、
前記中継装置品質レベルから、前記妨害波信号の受信電力を推定し、
該推定した妨害波信号の受信電力と、前記基地局品質レベルとから、前記妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベルを推定し、
該推定した基地局品質レベルが前記中継装置品質レベルよりも高い場合に、前記無線基地局に接続先を切り替える、
ように前記無線通信部を制御することを特徴とする請求項3に記載の無線端末。
【請求項5】
無線基地局と、前記無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで妨害波信号を送信する無線中継装置とを含む無線通信システムで用いられる無線端末の制御方法であって、
前記無線端末が前記無線基地局に接続している場合に、前記所定タイミングと、前記所定タイミングとは異なるタイミングとの各タイミングで、前記無線基地局からの受信信号の品質レベルを測定するステップと、
前記所定タイミングでの測定により得られた第1の基地局品質レベルと、前記異なるタイミングでの測定により得られた第2の基地局品質レベルとに応じて、前記無線中継装置に接続先を切り替えるステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項6】
前記切り替えるステップでは、前記第1の基地局品質レベルが前記第2の基地局品質レベルよりも低く、且つ、前記第1の基地局品質レベルと前記第2の基地局品質レベルとの差分が所定閾値よりも大きい場合に、前記無線中継装置に接続先を切り替える、
ことを特徴とする請求項5に記載の制御方法。
【請求項7】
無線基地局と、前記無線基地局が同期信号を送信する所定タイミングで妨害波信号を送信する無線中継装置とを含む無線通信システムで用いられる無線端末の制御方法であって、
前記無線端末が前記無線中継装置に接続している場合に、前記所定タイミングで、前記無線基地局からの受信信号の品質レベルを測定し、且つ、前記所定タイミングとは異なるタイミングで、前記無線中継装置からの受信信号の品質レベルを測定するステップと、
前記所定タイミングでの測定により得られた基地局品質レベルと、前記異なるタイミングでの測定により得られた中継装置品質レベルとに応じて、前記無線基地局に接続先を切り替えるステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項8】
前記中継装置品質レベルから、前記妨害波信号の受信電力を推定するステップと、
該推定した妨害波信号の受信電力と、前記基地局品質レベルとから、前記妨害波信号の影響を除いた基地局品質レベルを推定するステップと、
をさらに有し、
前記切り替えるステップでは、該推定した基地局品質レベルが前記中継装置品質レベルよりも高い場合に、前記無線基地局に接続先を切り替える、
ことを特徴とする請求項7に記載の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−175511(P2012−175511A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36917(P2011−36917)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】