説明

無線端末装置用のアンテナ

【課題】無線端末装置用のアンテナを提供する。
【解決手段】アンテナ100は、グランド素子113と逆L型の放射素子109と励振素子107と逆F型の放射素子111を含む。放射素子109は、スイッチングIC201によりグランド素子との間に、適応する周波数に対応するように選択された容量のコンデンサが接続される。放射素子109は励振素子107により励起される。逆F型の放射素子111は折り返し部111dを備えており、全体の長さにおいて基本周波数の1/4波長で共振しさらに折り返し部までの長さにおいて基本周波数の1/4波長で共振する。放射素子109は低周波側の無線WANの周波数帯に複数のチャネルで適応し、放射素子111は高周波側の無線WANとGPSの周波数帯に適応する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末装置に搭載が可能なように回路基板のパターンに形成した小型のアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ノートブック型携帯式コンピュータ(以下、ノートPCという。)は、Bluetooth、無線LAN、および無線WANなどの無線通信のために多数のアンテナを搭載する。ノートPCでは、携帯電話の通信網を利用して構築された無線WANで音声およびデータの通信をする。北米における携帯電話用の周波数には、3G(3rd Generation)のPCS(Personal Communications Service )バンドとセルラー・バンドが存在する。セルラー・バンドではこれまで800MHz帯として820MHzから960MHzまでの周波数帯を使用していた。
【0003】
さらにセルラー・バンドには4G(4th generation)のLTE(Long Term Evolution)という通信規格に基づく携帯通信サービスが開始されている。米国では、Verizon Wireless社はLTEに基づく無線データ通信サービスをすでに提供している。さらに、AT&T社も同様のサービスを今後提供する予定である。Verizon Wireless社は747MHzから787MHzまでの周波数帯を使用し、AT&T社は704MHzから746MHzまでの周波数帯を使用する予定である。近年さらにヨーロッパでは790MHzから862MHzの周波数帯のLTEのサービスが予定されている。1台のノートPCは、世界中に持ち運ばれて使用されることが多いため、これらの周波数帯に適応するアンテナを装備することが求められている。
【0004】
また、ノートPCには、位置情報を利用して無線モジュールの通信方式を制御したり、アプリケーションが位置情報を利用したりするために、GPS(Global Positioning System)の電波を受信するためのアンテナも実装されている。ノートPCには、狭いスペースの中に相互に接近した状態で多くのアンテナを搭載し、かつ、相互に電波干渉が生じないように配置する必要がある。ここに、無線WANの広い帯域幅の周波数帯に適応するアンテナ素子とGPSに適応するアンテナ素子を1つの基板に形成する必要性が生じてきた。
【0005】
特許文献1は、給電素子と無給電素子で構成される携帯電話機用の小型アンテナを開示する。無給電素子には、コンデンサまたはコイルのようなリアクタンス素子で構成されたた周波数可変部を備えている。周波数可変部はスイッチの切り換えにより無給電素子の共振周波数を切り換えることができる。さらに、一端がグラウンドに接続された逆L型の無給電素子の先端部分とT字型の給電素子の先端の分岐部分が平行に配置された構造を備えている。
【0006】
特許文献2は、励振器と2つの1/4波長アンテナで構成されたデュアル・バンド・アンテナを開示する。励振器は基本周波数および高調波共振周波数で共振するダイポール・アンテナで構成されている。一方の1/4波長アンテナは、基本周波数で共振する逆L型ダイポール・アンテナで、他方の1/4波長アンテナはn次高調波共振周波数で共振する逆L型ダイポール・アンテナで構成されている。
【0007】
特許文献3は、共通導体と2つの異なる長さの水平導体で構成されたT型モノポール構造のマルチ・バンド・アンテナを開示する。このアンテナは、共通導体とそれぞれの水平導体で1/4波長の放射素子を構成し、2つの周波数で共振して直列共振モードで動作する。このアンテナは、低周波側の周波数が800MHz帯に適合することが記載されている。
【0008】
特許文献4は、複数のアンテナの相互間の静電結合を低減させることが可能なマルチ・バンド・アンテナ装置を開示する。支持基材は平面部と平面部に直交する外周端面を備える。同一の給電部から分岐された第1のアンテナ素子を外周端面に沿って配置し、第2のアンテナ素子は平面部において外周端部に沿って設けることで、アンテナ素子の先端同士を直交した状態でかつ対向しない位置に配置する。このアンテナは、低周波側の周波数が800MHz帯に適合することが記載されている。
【0009】
特許文献5は、逆L型の励振素子、第1の放射導体、および第2の放射導体で構成された携帯端末用の多周波共用アンテナを開示する。1つの折り返し部を有する第1の放射導体と、2つの折り返し部を有する第2の放射導体はグラウンドに接続された共通導体から反対方向に分岐している。第1の放射導体は部分的に励振素子の水平部と平行に配置され容量結合している。第2の放射導体は第1の放射導体の一部と部分的に平行に配置され容量結合している。このアンテナは、低周波側の周波数が900MHz帯に適合することが記載されている。
【0010】
非特許文献1には、逆F型アンテナの放射素子を折り曲げて、折り曲げ位置を変えることで3/4波長で共振していた高次モードの共振周波数を低い方にシフトさせたアンテナを開示する。このアンテナでは、放射素子の全体の長さを変えないために基本モードの特性には変化がないが、メアンダの数を増やして高次モードの共振周波数を低周波数側にシフトさせることで、1本の放射素子から基本モードの共振周波数と高調波の共振周波数を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−278219号公報
【特許文献2】特許第4121799号公報
【特許文献3】特開2010−288175号公報
【特許文献4】特開2007−214961号公報
【特許文献5】特開2009−135633号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】1つの放射エレメントで構成した携帯電話用マルチ・バンド・アンテナ、伊藤他著、フジクラ技法第115号、2008 Vol.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
アンテナは共振周波数が低いほど素子が長くなって大型化する。特に、700MHzといった比較的低い周波数に適応し、かつできるだけ広帯域にしようとすれば大型化する傾向になる。また、1つの回路基板に複数の周波数帯に適応するように複数の素子を設けると、電波の干渉を避けるために素子間に間隔を空ける必要があるため大型化の一因になる。
【0014】
また、特許文献1のように放射素子にリアクタンスを接続して適応する周波数帯を変更する方式を採用する場合に、制御用の回路をアンテナの損失を増加させない位置に配置する必要があり全体のパターンの中にそのようなスペースを確保するためにこれも大型化の要因になる。特許文献2に記載されたデュアル・バンド・アンテナでは、アンテナ・パターンの長手方向において2つの1/4波長アンテナの水平部分の長さの合計以上のスペースが必要になる。
【0015】
さらに、非特許文献1のアンテナで基本周波数と第3次高調波の共振周波数を得るように構成すると得られる周波数は基本周波数とその3倍の周波数に限定されるため、その他の周波数帯に適応することはできない。このように複数の周波数帯に適応するアンテナ素子を1つの回路基板に形成するには、電波干渉が生じないような配置および小型化を実現できる配置を工夫する必要がある。さらに無線WANに適応するアンテナを形成するには、各国および各社の提供する周波数帯域に適応できるように低周波側の周波数帯域を広くする必要がある。先行技術文献のアンテナは、それぞれのアンテナが目的とする構造的な特徴を備えているが、本発明が目的とする3つの周波数帯に適応できる小型のアンテナを実現する方法まで示唆していない。
【0016】
そこで本発明の目的は、無線端末装置に搭載が可能で3つの周波数帯に適応するアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、低周波側の無線WANの帯域幅を拡大したアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、隣接するアンテナとの間で電波干渉が少ないアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、放射素子同士の電波干渉が少ないアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、損失が少ないアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的はそのようなアンテナを搭載した無線端末装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、第1の周波数帯と第1の周波数帯より高い第2の周波数帯と第2の周波数帯より高い第3の周波数帯に適応する無線端末装置用のアンテナに関する。アンテナは、主として回路基板の表面に形成されたパターンで形成されている。アンテナは、直線状に延びるグランド素子と、第1の周波数帯に適応する第1の放射素子と、励振素子と、第2の周波数帯と第3の周波数帯に適応する第2の放射素子を含む。第1の放射素子は、グランド素子にほぼ平行に延びる水平部パターンを含む無給電の放射素子とする。励振素子はグランド素子と水平部パターンとの間に配置され第1の放射素子に電磁波エネルギーを供給する。
【0018】
第2の放射素子は、グランド素子と水平部パターンとの間に配置され励振素子に連絡して第2の周波数帯と第3の周波数帯に適応する。以上の構成を備える結果、本発明にかかるアンテナは、第1の放射素子とグランド素子により決定された全体的なサイズの範囲に励振素子と第2の放射素子を納めて、3つの周波数帯に適応しながら小型化を図ることができる。具体的には、第1の放射素子を逆L型のモノポール・アンテナとし、第2の放射素子を逆F型のモノポール・アンテナとすることができる。さらに励振素子を直線型のモノポール・アンテナとすることができる。
【0019】
励振素子は、第1の放射素子が放射する電磁波の波長の高調波で共振するように構成することで、小型化を図ることができる。第2の放射素子が励振素子に連絡する第1の水平部パターンと、折り返し部で励振素子の方向に折り返され開放端を備える第2の水平部パターンを含むように構成することで、第2の放射素子を2つの周波数帯に適応させながら小型化することができる。また、第2の放射素子の開放端が励振素子の方向を向いているので、隣接するアンテナとの間での電波干渉を抑制することができる。
【0020】
水平部パターンは、回路基板の表面と直角に交差する平面上に配置され開放端を備える水平延長部パターンを含むように構成することができる。したがって、同じ構造のアンテナが隣接する場合であっても、水平延長部パターンの開放端は隣接するアンテナの回路基板の表面に配置されたアンテナ素子との間で電波干渉を生じさせない。
【0021】
アンテナには回路基板に、容量の異なる複数のコンデンサと、無線モジュールから指示されて複数のコンデンサの中から選択したコンデンサで第1の放射素子とグランド素子を接続するスイッチ回路を設けることができる。その結果、第1の周波数帯をコンデンサの容量に対応する複数のチャネルに分割して第1の周波数帯の広帯域化を図ることができる。また、コンデンサは、無給電の第1の放射素子とグランド素子との間を接続する位置に配置することができるため、その近辺に配置するスイッチ回路は第1の放射素子および励振素子が形成する強い電界の影響を受けることがなく、アンテナの損失を増加させない。
【0022】
さらに、コンデンサは、励振素子でなく無給電の第1の放射素子に接続されるため、接続するコンデンサを変更しても第2の周波数帯および第3の周波数帯に適応する第2の放射素子に影響を与えない。第1の周波数帯と第3の周波数帯を無線WANに適応させ、第2の周波数帯をGPSに適応させることができる。この場合、第1の周波数帯が704MHzから960MHzで第3の周波数帯が1700MHzから2200MHzとすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、無線端末装置に搭載が可能で3つの周波数帯に適応するアンテナを提供することができた。さらに本発明により、低周波側の無線WANの帯域幅を拡大したアンテナを提供することができた。さらに本発明により、隣接するアンテナとの間で電波干渉が少ないアンテナを提供することができた。さらに本発明により、放射素子同士の電波干渉が少ないアンテナを提供することができた。さらに本発明により、損失が少ないアンテナを提供することができた。さらに本発明によりそのようなアンテナを搭載した無線端末装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施の形態にかかるノートPC用のアンテナの全体的な構造を示す斜視図である。
【図2】低周波側の無線WANの共振周波数をシフトさせる周波数シフト回路を示す図である。
【図3】アンテナのVSWR特性を示す図である。
【図4】ノートPCにアンテナを取り付けた状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本実施の形態にかかるノートPC用のアンテナ(以下、単にアンテナという。)100の全体的な構造を示す斜視図である。アンテナ100は、印刷回路基板に対してフォト・リソグラフィとエッチング処理を行い、誘電体基板101の主体面103に形成したアンテナ・パターンと、主体面103上のアンテナ・パターンにそれぞれ半田で接続される水平延長部パターン109cとグランド・プレーン115の3つの部材で構成している。水平延長部パターン109cが存在する平面は誘電体基板101の主体面103と90度で交差する。
【0026】
誘電体基板101の形状は、アンテナ・パターンを形成する領域を提供する主体面103と、4つの側面105を有する薄板状の直方体となっている。主体面103には、励振素子107、放射素子109、放射素子111、およびグランド素子113のパターンが形成されている。グランド素子113はグランド・プレーン115の1つの直線状の縁に平行に延びる直線状のパターンでグランド・プレーン115を接続する領域を提供する。グランド素子113には、長手方向のほぼ中央部にグランド側の給電部121bが定義されている。
【0027】
アンテナ・パターンは704MHz〜960MHzの範囲で低周波側の無線WANの4つのチャネルに適応する無給電型の放射素子109と、1574MHz〜1576MHzのGPSと1700MHzから2200MHzの高周波側の無線WANの2つの周波数帯に適応する給電型の放射素子111と、放射素子109に静電結合および電磁結合で電磁波エネルギーを供給する励振素子107を含む。
【0028】
放射素子109は、後に説明するようにグランド素子113との間に接続するリアクタンスを変更することで4つのチャネルの周波数帯に適応することができる。一例として、第1チャネルは704MHzから746MHz、第2チャネルは747MHzから787MHz、第3チャネルは790MHzから862MHz、および第4チャネルは860MHzから960MHzとする。
【0029】
励振素子107は、1/4波長で共振する直線状のモノポール・アンテナでグランド素子113に平行に延びている。励振素子107の開放端107aは、放射素子109の垂直部109aから所定の間隔が空くように長さを短くして電波干渉を抑制している。励振素子107は、放射素子109の全体の帯域の中心である基本周波数(832MHz)の3次高調波の1/4波長で共振するように長さが設定されている。なお、本明細書においては、垂直と水平の方向はグランド素子113に対する方向を示すものとする。
【0030】
開放端107aと反対側の位置における励振素子107には、電圧側の給電部121aが定義されている。給電部121a、121bには、アンテナ100に対する唯一の給電点として高周波発振器を含む無線モジュールに接続された同軸ケーブルが接続される。無線モジュールは、ノートPCに設けられ内部のディジタル信号と無線の高周波信号を変換するインターフェースの役割を果たす。
【0031】
グランド素子113の一方の端部の近辺には、垂直に延びる放射素子109の垂直部パターン109aが配置されている。垂直部パターン109aとグランド素子113とは直接連絡しておらず、両者の間にはスイッチングIC201が取り付けられている。スイッチングICの周囲には図2に示すように複数の異なる静電容量のコンデンサが配置されている。スイッチングIC201は、無線モジュールから制御信号を受け取って、垂直部パターン109aとグランド素子113との間を異なる複数のコンデンサのいずれかで接続するための制御をする。
【0032】
垂直部パターン109aには水平部パターン109bが連絡している。水平部パターン109bは、グランド素子113に平行に開放端109dまで延びている。水平部パターン109bは、主体面103に対して90度で交差する平面上に配置された水平延長部パターン109cを含む。なお、交差角度の90度はノートPCに収納する際の最も好ましい例であり、本発明の範囲では、水平延長部パターン109cが主体面103に対して90度より大きな角度で交差する平面上に配置されていてもよい。
【0033】
水平延長部パターン109cは平坦な薄板状の導体で形成され、誘電体基板101の側面105に沿って配置されている。水平延長部パターン109cは、水平部パターン109bに半田で接続されている。水平延長部パターン109cは、グランド素子113に平行に水平部パターン109bの開放端109dよりさらに先にある開放端109eまで延びている。本実施例では別の部材として製作した水平延長部パターン109cと水平部パターン109bを半田で接続しているが、両者を一体化したパターンとして形成してから折り曲げるようにしてもよい。放射素子109はグランド素子113から開放端109eまでのパターンの長さとそのとき接続されるコンデンサの容量に応じた電気長で共振周波数が決まり、逆L型1/4波長モノポール・アンテナとして電磁波を放射または受信する。
【0034】
水平部パターン109bは励振素子107と主体面103上で平行になるように配置されており静電結合および電磁結合をして励振素子107から電磁波エネルギーを受け取る。放射素子109は、励振素子107が共振する3次高調波の周波数で共振する。放射素子109の垂直部パターン109aのグランド素子113側の開放端から水平延長部パターン109cの開放端109eまでの長さは、放射素子109が放射する第4チャネルの基本周波数よりやや高い周波数の波長の1/4波長で共振するように設定されている。そして、接続するコンデンサの容量を増やすことで共振周波数をより低い方向にシフトさせる。
【0035】
グランド素子113にそれぞれ平行な2つのパターンがグランド素子113に対して垂直な方向からみたときに重なりあるように延びていることをオーバーラップしているという。水平部パターン109bと励振素子107は電気的に結合し電磁波エネルギーの送受が可能なように主体面103上にオーバーラップして配置されている。
【0036】
グランド素子113の中央部近辺には放射素子111の短絡パターン111gが連絡している。短絡パターン111gからは、給電部121a側にグランド素子113に垂直に垂直部パターン111bが連絡している。垂直部パターン111bと励振素子107は水平部パターン111aで連絡している。短絡パターン111gからは、励振素子107と反対方向にグランド素子113に平行に水平部パターン111cが延びている。水平部パターン111cは、折り返し部111dで水平部パターン111eに連絡している。
【0037】
水平部パターン111eの開放端111fは、水平延長部パターン109cの開放端109eと主体面103上で対向しないように配置されている。放射素子111は短絡部パターン111gから開放端111fまでの長さにおいて、GPSの基本周波数に1/4波長で共振して逆F型の1/4波長モノポール・アンテナとして動作して電磁波を受信する。さらに放射素子111は、折り返し部111dで水平部パターン111cと水平部パターン111eを流れる電流が逆方向になるため、短絡部パターン111gから折り返し部111dまでの長さにおいて、PCSの基本周波数に1/4波長で共振して逆F型の1/4波長モノポール・アンテナとして動作し電磁波を放射または受信する。
【0038】
つぎに図2を参照して周波数シフト回路を説明する。周波数シフト回路は主として、スイッチングIC201と5個のコンデンサで構成されている。コンデンサ203は、一端が垂直部パターン109aに接続され他端がスイッチングIC201に接続されている。コンデンサ205a〜205dは、それぞれ一端がスイッチングIC201に接続され他端がグランド素子113に接続されている。スイッチングIC201の内部は、コンデンサ203と4つのコンデンサ205a〜205dの中から選択したいずれかのコンデンサを接続するマルチプレクサで構成されている。
【0039】
それぞれのコンデンサの容量は、コンデンサ203は200pF、コンデンサ205aは1.5pF、コンデンサ205bは2.4pF、コンデンサ205cは4.7pF、コンデンサ205dは6.8pFとしている。コンデンサ203は、放射素子109に流れる直流成分を遮断する目的で挿入している。コンデンサ205a〜コンデンサ205dは、放射素子109の容量性のリアクタンスを調整して、共振周波数をシフトさせる。
【0040】
端子205a、205bは無線モジュールの制御回路に接続される。端子205c、205dにはスイッチングIC201を動作させるための直流電源が接続される。端子251a〜251dは、誘電体基板101の図示しない主体面103上のパターンおよびビアで接続された裏面のパターンによりスイッチングIC201およびグランド素子113に接続される。なお、この周波数シフト回路にはさらに抵抗やコンデンサが接続されるが、動作の説明には必要がないため図からは省略している。
【0041】
スイッチングIC201は、端子251a、251bで無線モジュールから受け取った制御信号に基づいて、コンデンサ205a〜205dから選択したいずれかのコンデンサとコンデンサ203を接続する。その結果、垂直部パターン109aとグランド素子113との間はコンデンサ203とコンデンサ205a〜205dのいずれかのコンデンサの直列回路で接続されることになる。
【0042】
コンデンサ205a〜205dは、容量が大きくなるほど放射素子109の共振周波数を低い方にシフトさせる。コンデンサ205aは第4チャネルに対応し、コンデンサ205bは第3チャネルに対応し、コンデンサ205cは第2チャネルに対応し、コンデンサ205dは第1チャネルにそれぞれ対応する。スイッチングIC201は、放射素子109の水平部パターン109bおよび励振素子107の開放端107aなどの電界が強い部分から離れた位置に配置することができるので、アンテナ100の利得を減衰することがない。
【0043】
つぎに、アンテナ100の挙動を説明する。給電点121a、121bに同軸ケーブルを接続して無線モジュールから高周波電圧を給電する。低周波数側の無線WANを利用するときは、無線モジュールがたとえば第1チャネルを選択するための制御信号を端子251a、251bに送る。スイッチングIC201は、垂直部パターン109aをコンデンサ205aでグランド素子113に接続する。
【0044】
無線モジュールは、給電部に第1チャネルの周波数の高周波電圧を給電する。励振素子107では、第1チャネルの周波数の3次高調波が1/4波長で共振し、水平部パターン109bに電磁結合および静電結合で電磁波エネルギーを供給する。放射素子109は、コンデンサ205aから開放端109eまでの電気的な長さにおいて、水平部パターン109bが受け取った電磁波エネルギーにより第1チャネルの基本周波数の1/4波長で共振する。他のチャネルの場合も同様である。このとき、放射素子109の開放端109eは、放射素子111とは異なる平面に存在するために、GPSの電波を受信する放射素子111との間での電波干渉は抑制される。
【0045】
つぎに、高周波側の無線WANまたはGPSを利用する場合を説明する。高周波側の無線WANおよびGPSは、いずれも逆F型アンテナとして動作する放射素子111を利用する。アンテナ100がGPSの電波を受信すると、短絡部パターン111gから開放端111fまでのパターン全体がGPSの基本周波数の1/4波長で共振して無線モジュールに高周波電圧を送る。無線モジュールが給電点121a、121bに高周波側の無線WANの周波数で高周波電圧を給電すると、短絡部パターン111gから折り返し部111dまでの水平部パターン111cが基本周波数の1/4波長で共振して電磁波が放射される。
【0046】
図3は、アンテナ100の電圧定在波比(VSWR)をシミュレーションした結果を示す図である。ライン301、303、305、307はそれぞれコンデンサ205a、205b、205c、205dを接続したときの特性を示す。図3によれば、704MHz〜960MHの低周波の無線WANの周波数帯f1は第1チャネルから第4チャネルまでのそれぞれでVSWRが3以下になっており広い周波数帯域が実現できたことを示している。また、1574MHz〜1576MHzのGPSの周波数帯f2および、1700MHzから2200MHzまでの高周波側の無線WANの周波数帯f3もVSWRが3以下となって良好な特性を示している。
【0047】
図3はまた、コンデンサ205a〜205dのいずれかを選択して低周波側の無線WANのチャネルを設定したときに、GPSおよび高周波側の無線WANの特性が変化しないことを示している。アンテナ100は無給電放射素子である放射素子109にリアクタンス調整用のコンデンサを挿入しているため、コンデンサ205a〜205dを変更しても他の周波数帯の共振周波数に影響がなく、3つの周波数帯のいずれでも安定した動作をする。
【0048】
図4は、ノートPCにアンテナ100を取り付けた状態を示す平面図である。ディスプレイ筐体401は内部に液晶ディスプレイ(LCD)403を収納する。ディスプレイ筐体401の上縁401aとLCD403の間には、長手方向の長さL1と短手方向の長さL2で確保されたスペースに合計5個のアンテナを配置している。アンテナの構造はそれぞれ異なるものとすることができるが、この例では隣接する2個のアンテナとしてアンテナ100が実装されている。アンテナ100は、主体面103上のアンテナ・パターンがディスプレイ筐体401の底面に平行になるように配置され、グランド・プレーン115はLCD403とディスプレイ筐体401の底面の間に配置される。
【0049】
アンテナ100は、主体面103の短手方向の長さがL2に収まるように形成されている。また、ディスプレイ筐体401の長さL1の中に5個のアンテナを配置すると相互間の間隔を十分に確保できないため、電界強度が最大になる放射素子および励振素子の開放端が、隣接するアンテナに近いと電波干渉をもたらす場合がある。しかし、アンテナ100を主アンテナと補助アンテナとして2個並べた場合には、開放端109eは主体面103とは異なる平面上に存在するため、お互いに電波干渉を生ずることがないようになっている。
【0050】
また、放射素子111の開放端111fは、励振素子107の方向に向いているのでこれも隣接するアンテナに対して電波干渉をもたらすことはない。アンテナ100の大きさは、低周波側の無線WANに適応する放射素子109の大きさでほぼ決まり、励振素子107とGPSおよび高周波側の無線WANに適応する放射素子111は、放射素子109とグランド素子113とで囲まれた主体面103上のスペースに収まるため小型化を実現することができる。したがって、アンテナ200は、限られたスペースに複数の周波数帯に適応するアンテナを配置するのに適した構造になっている。
【0051】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0052】
100…アンテナ
101…誘電体基板
103…主体面
107…励振素子
109…低周波側の無線WANに適応する放射素子
111…GPSと高周波側の無線WANに適応する放射素子
113…グランド素子
121a…電圧側の給電部
121b…グランド側の給電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周波数帯と該第1の周波数帯より高い第2の周波数帯と該第2の周波数帯より高い第3の周波数帯に適合する無線端末装置用のアンテナであって、
回路基板の表面を直線状に延びるグランド素子と、
前記回路基板の表面を前記グランド素子にほぼ平行に延びる水平部パターンを含み前記第1の周波数帯に適応する無給電の第1の放射素子と、
前記グランド素子と前記水平部パターンとの間で前記回路基板の表面に配置され前記第1の放射素子に電磁波エネルギーを供給する励振素子と、
前記グランド素子と前記水平部パターンとの間で前記回路基板の表面に配置され前記励振素子に連絡し前記第2の周波数帯と前記第3の周波数帯に適応する第2の放射素子と
を有するアンテナ。
【請求項2】
前記第1の放射素子が逆L型のモノポール・アンテナで前記第2の放射素子が逆F型のモノポール・アンテナである請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記励振素子が直線型のモノポール・アンテナである請求項1または請求項2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記励振素子が前記第1の放射素子が放射する電磁波の波長の高調波で共振する請求項1から請求項3のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項5】
前記第2の放射素子が前記励振素子に連絡する第1の水平部パターンと折り返し部で前記励振素子の方向に折り返され開放端を備える第2の水平部パターンを含む請求項1から請求項4のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項6】
前記第1の放射素子の水平部パターンは前記回路基板の表面と直角に交差する平面上に配置され開放端を備える水平延長部パターンを含む請求項1から請求項5のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項7】
容量の異なる複数のコンデンサと、
無線モジュールから指示されて前記複数のコンデンサの中から選択したコンデンサで前記第1の放射素子と前記グランド素子を接続するスイッチ回路と
を有する請求項1から請求項6のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項8】
前記第1の周波数帯と前記第3の周波数帯が無線WANに適応し、前記第2の周波数帯がGPSに適応する請求項1から請求項7のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項9】
前記第1の周波数帯が704MHzから960MHzで前記第3の周波数帯が1700MHzから2200MHzである請求項8に記載のアンテナ。
【請求項10】
第1の周波数帯と該第1の周波数帯より高い第2の周波数帯と該第2の周波数帯より高い第3の周波数帯に適応する無線端末装置用のアンテナであって、
回路基板の表面に配置されたグランド素子と、
前記回路基板の表面に配置されたパターンと前記回路基板の表面とは異なる平面に配置されたパターンを含み前記第1の周波数帯に適応する無給電の逆L型放射素子と、
前記逆L型放射素子と前記グランド素子に囲まれた前記回路基板上に配置され前記逆L型放射素子に電磁結合および静電結合でエネルギーを供給する励振素子と、
前記逆L型放射素子と前記グランド素子に囲まれた前記回路基板上に配置され折り返し部を含むパターンを備え前記第2の周波数帯と前記第3の周波数帯に適応する逆F型放射素子と
を有するアンテナ。
【請求項11】
前記逆F型の放射素子の開放端が前記励振素子を向いている請求項10に記載のアンテナ。
【請求項12】
前記逆L型放射素子が切り換え可能なリアクタンス素子を経由して前記グランド素子に接続されている請求項10または請求項11に記載のアンテナ。
【請求項13】
第1の周波数帯と該第1の周波数帯より高い第2の周波数帯と該第2の周波数帯より高い第3の周波数帯に適応する無線端末装置用のアンテナであって、
回路基板の表面に配置されたグランド素子と、
前記回路基板の表面に配置されリアクタンス素子で前記グランド素子に接続され前記第1の周波数帯に適応する無給電型の放射素子と、
前記回路基板の表面に配置され前記無給電型の放射素子に電磁波エネルギーを供給する給電素子と、
前記回路基板の表面に配置され前記給電素子に連絡し折り返し部を含み前記第2の周波数帯と前記第3の周波数帯に適応する給電型の放射素子と
を有するアンテナ。
【請求項14】
容量の異なる複数のリアクタンス素子と、
前記複数のリアクタンス素子のいずれかを前記無給電型の放射素子と前記グランド素子との間に接続するスイッチ回路と
を有する請求項13に記載のアンテナ。
【請求項15】
前記リアクタンス素子がコンデンサである請求項14に記載のアンテナ。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれかに記載されたアンテナを備える無線端末装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−244608(P2012−244608A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116272(P2011−116272)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(505205731)レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド (292)
【復代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
【復代理人】
【識別番号】100077584
【弁理士】
【氏名又は名称】守谷 一雄
【Fターム(参考)】