無線装置
【課題】2の無線装置が互いのアンテナを対向させて行う無線送受信において、アンテナどうしが近接した場合に生じる周波数スプリットを抑える。
【解決手段】携帯通信端末1は基板16、磁性体シート18、アンテナ17及び導電素子19a、19bを有し、筐体の背面に有するマーク15をリーダライタ2のマーク25に合わせるように位置決めしてリーダライタ2に近接、対向させる。携帯通信端末1は導電素子19a、19bを有し、導電素子19a、19bは図の上方からリーダライタ2のアンテナ27を見たとき少なくとも一部がアンテナ27の少なくとも一部に重なって見えるように配設される。
【解決手段】携帯通信端末1は基板16、磁性体シート18、アンテナ17及び導電素子19a、19bを有し、筐体の背面に有するマーク15をリーダライタ2のマーク25に合わせるように位置決めしてリーダライタ2に近接、対向させる。携帯通信端末1は導電素子19a、19bを有し、導電素子19a、19bは図の上方からリーダライタ2のアンテナ27を見たとき少なくとも一部がアンテナ27の少なくとも一部に重なって見えるように配設される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置に係り、特に2の無線装置が対向して無線送受信を行う無線システムを構成する無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線を利用した個体識別(Radio Frequency Identification、以下RFIDと略す。)の技術が、鉄道の自動改札、企業や事務所の出退勤管理、各種の電子マネー等に広く用いられている。RFIDにおいては、リーダライタと呼ばれる装置とカード又はタグと呼ばれる情報媒体との間の無線通信を介して情報がやり取りされる。最近では、携帯電話の一部にもRFIDに対応する機能が搭載されている。当初は携帯電話にカード機能が搭載され、その後リーダライタ機能も搭載されている。
【0003】
RFIDのシステムにおいては、リーダライタの内蔵するアンテナとカードの内蔵するアンテナを非接触状態で対向させて通信可能な状態におくことにより、リーダライタがカードに対して情報を書き込み、またカードから情報を読み取ることができる。RFID用のアンテナとしては、ループ形状をなすコイル型素子が一般に用いられる。
【0004】
この他に、車載又は放送受信等の分野において、素子がループ状に形成されたアンテナが用いられる。これらの用途においては広帯域化が重要な課題とされており、その解決策が提案されている(例えば、特許文献1又は特許文献2参照。)。
【0005】
このうち特許文献1には、1波長ループアンテナ及びこれと異なる周波数の1/2波長サイズの無給電素子を有し、該無給電素子が該ループアンテナの2つの給電接続端子に跨るように配設されて構成されたアンテナが開示されている。また、特許文献2には、サイズの異なる2つのループ素子を並置して、該ループ素子の給電点をほぼ中心とする辺に近接、対向するように無給電素子を配したループアンテナが開示されている。
【0006】
さて、上述したリーダライタの内蔵するループ形状アンテナとカードの内蔵するループ形状アンテナはそれぞれ共振器を構成し、それらの共振周波数は公称値が等しく設定されている(上記の公称値をf0とする。)。ところが、一般に公称共振周波数が等しい2つの共振器を相互に近づけていくと、周波数が徐々に分離してf1、f2(f1<f0<f2)の2つの共振周波数が現れることが知られている(例えば、非特許文献1又は非特許文献2参照。)。
【0007】
上記の現象は周波数スプリットと呼ばれ、磁界を介して無線送受信を行う例えばRFID用のリーダライタ及びカード間でも、電界を介して無線送受信を行う例えばモノポールアンテナ対の間でも、相互の間隔がある程度以下に狭まって結合が強まったときに発生する。物理学上の見地からは、近接した2つの共振器が同一の周波数で共振するとすれば共振器間の可逆的なエネルギー授受が行われて熱力学第2法則に矛盾することから、そのような状態に陥ることなくエネルギー関係の安定を保つために周波数スプリットが発生するものと説明されている。
【0008】
周波数スプリットの値が限度を超えて大きくなると、リーダライタ及びカード間の通信ができなくなる場合がある。この現象は、共振器の共振周波数が公称値からずれると系のQ値および共振周波数で定まる最大出力電圧が通信を行う所望周波数からずれてしまうことにより得られる出力電圧が低下し、かつ、共振器とその後段の増幅器の間の雑音指数の整合関係がくずれて増幅器の内部熱雑音が増大するために生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−67884号公報(第4ページ、図1)
【特許文献2】特開2006−295545号公報(第7ページ、図17)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】河口、小林、馬、「分布定数共振器間電磁結合の等価回路表示に関する研究」、電子情報通信学会技術研究報告EMCJ2003−78/MW2003−175、2003年10月
【非特許文献2】伊藤、峯邑、天野、「HF帯RFIDにおける不感領域と結合係数の関係」、電子情報通信学会総合大会B−1−143、2007年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献1又は特許文献2に開示された従来の技術は、ループアンテナの広帯域化により応用範囲を拡大しようとするものである。しかし、例えばRFIDのリーダライタ及びカードのような無線装置のアンテナどうし(ループ形状素子からなる場合と、それ以外の素子からなる場合がある。)の近接によって生じる周波数スプリットの問題については、考慮されていない。
【0012】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、互いに対向して無線送受信を行う無線装置のアンテナどうしの近接によって生じる周波数スプリットを抑え、無線送受信の安定化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の無線装置は、第1の無線素子を備えた相手方装置に無線結合され得る無線装置において、前記相手方装置に対向させる対向面を有する筐体と、少なくとも一部が前記対向面に略平行であるように前記筐体に設けられた第2の無線素子と、前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、少なくとも一部が前記第1の無線素子の少なくとも一部に重なるように配設された導電素子とを具備することを特徴する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、互いに対向して無線送受信を行う無線装置のアンテナ間の結合を弱める手段を一方の無線装置が持つことにより、周波数スプリットを抑えて無線送受信の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1に係る無線装置(携帯通信端末)の構成を表す斜視図。
【図2】実施例1に係る携帯通信端末の2筐体を閉じた状態を表す斜視図。
【図3】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナの構成及び各構成間の位置関係を表す斜視図。
【図4】実施例1に係る携帯通信端末を外部のリーダライタに対向させる状態を表す図。
【図5】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナの各構成とリーダライタのアンテナの位置関係を図4に表した状態において表す図。
【図6】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ及び導電素子とリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図7】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、4個の導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図8】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、横長に形成された2個の導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図9】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、横長に形成された1個の導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図10】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、一部が開放されたループ状に形成された2個の導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図11】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、円形をなし一部が開放されたループ状に形成された導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図12】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、一部が開放されたループ状に形成された2個の導電素子及びその内側にさらに配設された複数の導電素子並びにリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図13】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナがリーダライタのアンテナに最も近接する2箇所に導電素子を配設した構成の平面的位置関係を例示する図。
【図14】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナがリーダライタのアンテナに最も近接する4箇所に導電素子を配設した構成の平面的位置関係の一例を表す図。
【図15】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナがリーダライタのアンテナに最も近接する4箇所に導電素子を配設した構成の平面的位置関係の他の例を表す図。
【図16】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、別個に給電可能な導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図17】実施例1に係る携帯通信端末に対向するリーダライタのアンテナ単体のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図18】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ単体のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図19】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナとリーダライタを対向させ磁性体シートを省いた場合のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図20】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナとリーダライタを対向させ磁性体シートを設けた場合のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図21】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナとリーダライタを対向させ磁性体シート及び導電素子を設けた場合のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図22】本発明の実施例2に係る携帯通信端末のアンテナの各構成とリーダライタのアンテナの位置関係を表す図。
【図23】実施例2に係る携帯通信端末のアンテナ及び導電素子とリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。なお以下の各図を参照しながら上下左右又は水平、垂直(鉛直)をいうときは、特に断らない限り、図が表された紙面における上下左右又は水平、垂直(鉛直)を意味するものとする。また、各図の間で同一の符号は、同一の構成を表すものとする。
【実施例1】
【0017】
以下、図1ないし図15を参照して、本発明の実施例1を説明する。図1は、本発明の実施例1に係る無線装置である携帯通信端末1の構成を表す斜視図である。携帯通信端末1は、第1筐体11と第2筐体12がヒンジ部13を介して開閉可能に接続されることにより構成されている。図1は、第1筐体11と第2筐体12が相互に開いた状態の使用時において使用者側を向く面を表している。
【0018】
第1筐体11と第2筐体12の開閉の形式は、折りたたみ式、2軸ヒンジ(ダブルスウィーベル)式等が考えられるが、これらに限るものではない。ヒンジ部13は、第1筐体11と第2筐体12の間に位置して相互に開閉可能とする機構を内蔵する部分を指し、図1においては破線の楕円で囲んで表している。図1に矢印付き一点鎖線の弧で示したように、第1筐体11を第2筐体12に対してヒンジ部13の周りに回動させることにより、第1筐体11と第2筐体12を相互に閉じることができる。
【0019】
第1筐体11の正面(図1において使用者側を向く面)側には、例えば液晶デバイスからなる表示部が設けられている(第1筐体11又は第2筐体12の背面をはじめとする他の面に、別の表示部が設けられていてもよい。)。第2筐体12の正面側には、複数の操作キーからなる操作部が設けられている(操作キーの一部は、第1筐体11又は第2筐体12の側面をはじめとする他の面に設けられてもよい。)。
【0020】
図2は、携帯通信端末1の第1筐体11を図1の矢印付き一点鎖線の弧で表したように第2筐体12に対して閉じた状態を、図1と同じ向きに見て表す斜視図である。図2において符号1、11、12を付して表した構成は、図1に同じ符号を付して表した構成にそれぞれ同じとする。第1筐体11の背面(上述した正面の反対側の意匠面)に、マーク15が設けられている。なお、第1筐体11の背面の裏側の面(第1筐体11の内部を向く面)に後で図3を参照して説明する導電素子19a、19bが設けられ、破線で表されている。
【0021】
図3は、携帯通信端末1の第1筐体11に格納された個体無線識別(RFID)用のアンテナの構成と、各構成が第1筐体11の内部において積層された状態に相当する位置関係を、図2と同じ向きに見て表す斜視図である。第1筐体11は、基板16、アンテナ17及び磁性体シート18を内蔵する。換言すると、基板16、アンテナ17及び磁性体シート18は、第1筐体11に設けられている。基板16は、携帯通信端末1の各種の機能(RFID機能を含む。)に対応する回路を搭載している。
【0022】
アンテナ17は、RFID用としてループ形状をなして形成されたもので、両端(接続端)に図示しない集中定数素子が接続されて例えば公称共振周波数13.56メガヘルツ(MHz)の共振回路を構成する。アンテナ17を含む上記の共振回路は、基板16に搭載されたRFID機能に対応する図示しない回路に接続される。なお「ループ形状」の輪郭は、矩形、多角形、円形、楕円形、その他の多様な形状をとり得るものとする。
【0023】
アンテナ17は、例えばフレキシブルプリント基板(FPC)の導体パターンとして形成されるが、他の方法によって形成されてもよい。アンテナ17は、全部又は少なくとも一部が上述した第1筐体11の背面に略平行であるように形成されている。
【0024】
磁性体シート18はアンテナ17と基板16の間に設けられ、アンテナ17が励振されたときに生じる磁界が基板16の導体パターン又は第1筐体11の金属部分に作用して発生する渦電流損を軽減する役割を持つ。
【0025】
図3においてアンテナ17の上側に、図2を参照して説明したマーク15と、導電素子19a、19bが表されている。マーク15は、図2を参照して説明したように、第1筐体11(図3には図示せず。)の背面に設けられたものである。導電素子19a、19bは、導電材料が線状又は面状に形成されたもので、例えば第1筐体11の背面の裏側の面にめっき若しくは貼付されて設けられる。導電素子19a、19bは、他の回路又は素子に接続されていない無給電素子である。
【0026】
なお、導電素子19a、19bを第1筐体11の背面にめっき若しくは貼付してもよい。又は、導電素子19a、19bを例えばFPCの導体パターンとして形成しアンテナ17と磁性体シート18の間に設けてもよい。又は、導電素子19a、19bを例えば磁性体シート18に貼付するようにして形成してもよい。
【0027】
図4は、携帯通信端末1のRFIDカード機能が用いられる場合に、携帯通信端末1を外部のリーダライタに対向させる状態を表す図である。携帯通信端末1は、第1筐体11の背面を下に向けて、リーダライタ2に対向している。
【0028】
このとき携帯通信端末1のリーダライタ2に対する位置決めの目標を与えるため、リーダライタ2の上面側に携帯通信端末1のマーク15に対応するマーク25が設けられている。携帯通信端末1は、図4の矢印付き一点鎖線で表すように、マーク15をリーダライタのマーク25に近づけるようにしてリーダライタ2に近接する。携帯通信端末1が位置決めの補助手段として機構的なガイド(図示せず。)を有し、リーダライタ2に対して所定の位置において近接、対向するようにしてもよい。
【0029】
リーダライタ2は破線で表したアンテナ素子を含むアンテナ27を内蔵し、携帯通信端末1がリーダライタ2に近接した状態でアンテナ27は携帯通信端末1のアンテナ17(図4には図示せず。)との間で電磁誘導を介した無線送受信を行う。
【0030】
アンテナ27のアンテナ素子はループ形状をなして形成されたもので、接続端に図示しない集中定数素子が接続されて例えば公称共振周波数13.56MHzの共振回路を構成し、リーダライタ2に内蔵されたRFID機能に対応する図示しない回路に接続される。
【0031】
アンテナ27のアンテナ素子は、例えばフレキシブルプリント基板(FPC)の導体パターンとして形成されるが、他の方法によって形成されてもよい。アンテナ27は、携帯通信端末1が図4に示したようにリーダライタ2に対向したとき、全部又は少なくとも一部が第1筐体11の背面に略平行であるように形成されている。
【0032】
図5は、図3に表した携帯通信端末1のアンテナの各構成とリーダライタ2のアンテナ27の位置関係を、図4に表したのと同じ状態において表す図である。図5に表した各構成は、図3又は図4に同じ符号を付して表した構成とそれぞれ同じである。
【0033】
図5の上下の向きの一点鎖線で示すように携帯通信端末1のマーク15とリーダライタ2のマーク25を合わせて位置決めすると、同じく上下の向きの一点鎖線で示すように、導電素子19a、19bがアンテナ27の一部に重畳する位置関係になる。したがって、上記のように位置決めして携帯通信端末1をリーダライタ2に近接させると、導電素子19a、19bはそれぞれアンテナ27と電気的に結合することができる。
【0034】
従来のように導電素子19a、19bを設けていない場合には、アンテナ17を含む携帯通信端末1の共振回路とアンテナ27を含むリーダライタ2の共振回路の公称共振周波数が同じであるから、背景技術の項で説明した周波数スプリットにより携帯通信端末1とリーダライタ2の間の無線送受信が妨げられる可能性がある。
【0035】
一方、図5に示した位置関係において導電素子19a、19bがそれぞれアンテナ27と電気的に結合するという条件下では、アンテナ17とアンテナ27の間で電磁誘導を介して授受されるエネルギーの一部は、導電素子19a、19bにおける渦電流損となって失われる。その結果、アンテナ17とアンテナ27の間の結合が弱まり、周波数スプリットを抑制することができる。
【0036】
なお図5においては、図3を参照して説明したのと同じく、アンテナ17と導電素子19a、19bの上下関係は場合により入れ替わってもよい。いずれにしても、導電素子19a、19bはアンテナ27と磁性体シート18の間に位置するように配設される。
【0037】
図6は、図5に表したアンテナ17、導電素子19a、19b及びアンテナ27の位置関係を、図5における基板16の真上の方向から見て(すなわち、アンテナ17の側から第1筐体11の背面に略直交する向きにアンテナ27を見て)平面的に表す図である。アンテナ17とアンテナ27の接続端は、上述したように図示しない集中定数素子を含む共振回路を経て給電される(後掲の図7ないし図16において同じ。)。
【0038】
このとき図6に示すように、導電素子19a、19bはそれぞれ少なくとも一部がアンテナ27に重なって見える。また、導電素子19a、19bはそれぞれ全部又は少なくとも一部がアンテナ17と離間して見える。
【0039】
導電素子19a、19bを上記のようにアンテナ27に重なって見えるように配設することにより、アンテナ27とアンテナ17の間で磁界を介して授受されるエネルギーの一部は導電素子19a、19bの渦電流損として消費されるので、アンテナ27とアンテナ17の間の周波数スプリットの抑制に効果がある。
【0040】
導電素子19a、19bのサイズは、このような渦電流損の有意な値を発生し得る程度に大きいものである必要がある。例えば13MHz帯の周波数を使用するRFID機能を搭載した携帯通信端末の場合には、導電素子19a、19bのサイズが実装上1000分の1波長から100分の1波長程度に限定されるが、そのようなサイズが周波数スプリットの抑制に効果がある程度に有意であるといえるかどうかは、後で実験例を引用して説明する。
【0041】
また、導電素子19a、19bを上記のようにアンテナ17と離間して見えるように配設することにより、アンテナ特性の劣化をカード側(携帯通信端末1)ではなくリーダライタ側(リーダライタ2)に負担させることができる。通常の場合、リーダライタ側はカード側よりも大電力の給電が可能であるから、アンテナ特性の劣化を補うことがより容易である。
【0042】
さらに、導電素子19a、19bがアンテナ27と磁性体シート18の間に位置することにより、導電素子19a、19bのアンテナ27に対する効果が磁性体シート18の磁界遮蔽効果により減殺されてしまう現象を抑えることができる。磁性体シート18は、アンテナ17の性能を維持するために、通常その形やシートの面積の自由度は少ない。アンテナ27がアンテナ17より大きい場合には、アンテナ27の影響を低減するには磁性体シート18をアンテナ17の大きさより大きくしなければならないが、そのようなことはアンテナ17の遠方磁界の発生を妨げ、アンテナ17の通信距離を大きく低下させてしまう。本方式の導電素子19a、19bではそのようなことは発生せず、アンテナ17の通信距離を維持しつつ、アンテナ27との近接時の過大な結合を抑制できるという効果がある。
【0043】
図7は、アンテナ17、4個の導電素子19a、19b、19c及び19d並びにアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19aないし19dは、それぞれ少なくとも一部がアンテナ27に重なって見える。また、導電素子19aないし19dはそれぞれ全部又は少なくとも一部がアンテナ17と離間して見える。
【0044】
図8は、アンテナ17、横長に形成された2個の導電素子19a及び19b並びにアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19a及び19bは、それぞれ少なくとも一部がアンテナ27に重なって見える。また、導電素子19a及び19bはそれぞれ全部又は少なくとも一部がアンテナ17と離間して見える。
【0045】
図9は、アンテナ17、横長に形成された1個の導電素子19a及びアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19aは、少なくとも一部がアンテナ27に重なって見える。また、導電素子19aは全部又は少なくとも一部がアンテナ17と離間して見える。
【0046】
図10は、アンテナ17、一部が開放されたループ状に形成された導電素子19a及び19b並びにアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19a、19bの形成するループの囲む面積が、アンテナ17が形成するループの囲む面積より小さくとられることにより、2つのループが重ならない(離間して見える)ように構成されている。
【0047】
導電素子19a、19bが(給電箇所以外で)途切れずに閉ループを形成すると、アンテナ17が励振されたときにアンテナ27近傍に生じる磁界に対してその効果を打ち消す向きの渦電流が発生し、アンテナ17とアンテナ27間の結合を弱めるにとどまらず、無線送受信を妨げる結果を招く。そのような問題を避けるため、導電素子19a、19bは一部が開放されたループ状に形成されたものである。
【0048】
図11は、アンテナ17、円形をなし一部が開放されたループ状に形成された導電素子19a及びアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19aが閉ループを形成しない理由は、図10の場合と同じである。
【0049】
図12は、図10の構成に対して、導電素子19a、19bの内側にさらに複数の導電素子を配設した構成の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。アンテナ17とアンテナ27の間の結合抑制効果が、各方向にほぼ万遍なく配置された複数の導電素子によってほぼ均一に助長される。
【0050】
図13は、アンテナ17とアンテナ27が最も近接する2箇所に導電素子19a、19bを配設した構成の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。図14は、アンテナ17とアンテナ27が最も近接する4箇所に導電素子19a、19b、19c及び19dを配設した構成の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。図15は、アンテナ17とアンテナ27が最も近接する位置4箇所に導電素子19a、19b、19c及び19dを配設した構成の平面的位置関係の他の例を、図6と同様に表す図である。
【0051】
図16は、図9に表したのと同じ構成において、導電素子19aを給電点20に接続した状態を表す図である。給電点20は携帯通信端末1が内蔵する回路に接続され、導電素子19aをアンテナとして、アンテナ17の共振周波数より高い周波数において励振することができる。
【0052】
図16に示した構成により、アンテナ17の共振周波数における周波数スプリットの抑制効果に対する影響を与えずに、他の周波数において他の機能に携帯通信端末1を用いることができる。なお、図6ないし図15に示したいずれの構成においても、同様に導電素子19a、19b等をアンテナ17の共振周波数より高い周波数において励振するように構成することができる。
【0053】
実施例1の効果を検証するために行った実験の結果について、次に説明する。実験は、各構成を図5及び図6に表したのに近い形に配置して行われた。アンテナ17は、ほぼ縦72ミリメートル(mm)、横47mmの矩形とした。アンテナ27は、ほぼ縦47mm、横22.5mmの矩形とした。磁性体シート18はほぼ縦54mm、横38mmの矩形とし、導電素子19a、19bを表面に貼付した。導電素子19a、19bのサイズは、長手(縦)方向に約50mmとした。なお、比較のため導電素子19a、19bを貼付しない同サイズの磁性体シートも用意した。
【0054】
アンテナ27を含む共振回路を、共振周波数が13.395MHzであるように構成した。図17は、当該共振回路の単体のSパラメータ(S11)の周波数特性の測定例を表す図である。図の横軸は周波数(単位はメガヘルツ(MHz))であって、12MHzから15MHzの範囲を表す。図の縦軸はS11(単位はデシベル(dB))であって、図示した−0.2dBの値を基準に、1目盛り当り0.22dBで表したものである。なお、図17の横軸と縦軸の設定は、以下の図18ないし図21に共通とする。
【0055】
図17においてS11が極小値を示す周波数が、共振周波数である(以下の図18ないし図21において同じ。)。上述の通り共振周波数が13.395MHzであることが、示されている。
【0056】
アンテナ17を含む共振回路を、共振周波数が13.395MHzであるように構成した(上記の導電素子19a、19bのサイズは、この共振周波数に対して約450分の1波長に相当する。)。図18は、当該共振回路の単体のS11の周波数特性の測定例を表す図である。上述の通り共振周波数が13.395MHzであることが、示されている。
【0057】
この条件下で初めに磁性体シート18を省いてアンテナ17をアンテナ27に対向、近接させると、周波数スプリットにより2の共振周波数12.89MHzと14.13MHzが発生した。図19は、その場合のS11の周波数特性の測定例を表す図である。2の共振周波数の差は、1.24MHzである。
【0058】
次に上記の条件下で磁性体シート18(導電素子19a、19bを貼付しないもの)を設けた場合に、磁性体シート18の影響により2の共振周波数がいずれも低下し、12.315MHz及び13.785MHzとなった。図20は、その場合のS11の周波数特性の測定例を表す図である。2の共振周波数の差は、1.47MHzである。
【0059】
さらに上記の条件下で、磁性体シート18に導電素子19a、19bを貼付したものを用いたところ、2の共振周波数は13.035MHz、13.972MHzとなった。図21は、その場合のS11の周波数特性の測定例を表す図である。2の共振周波数の差は0.94MHzにまで縮小した。この実験結果は、サイズが450分の1波長程度の導電素子19a、19bによる周波数スプリットの抑制効果を立証するものである。
【0060】
以上に説明した本発明の実施例1によれば、携帯通信端末がリーダライタに対して位置を合わせて対向、近接するときリーダライタ側アンテナに近接、結合する位置に導電素子を配したことにより、携帯通信端末及びリーダライタの共振回路間の周波数スプリットを抑制することができる。
【実施例2】
【0061】
以下、図22及び図23を参照して、本発明の実施例2を説明する。実施例2に係る無線装置は、実施例1の携帯通信端末1の一部の構成を変更した携帯通信端末3とする。また、携帯通信端末3が対向する相手方装置は、実施例1のリーダライタ2の一部の構成を変更したリーダライタ4とする。
【0062】
携帯通信端末3は、図4に示したように携帯通信端末1をリーダライタ2に対向させるのと同様に、リーダライタ4に対向させて用いられる。なお、携帯通信端末3又はリーダライタ4の構成のうち、携帯通信端末1又はリーダライタ2と共通の構成には、それぞれ同じ符号を付して表す。
【0063】
図22は、携帯通信端末3及びリーダライタ4の主要な部分の構成及び位置関係を、実施例1の図5と同様に表す図である。携帯通信端末3においては、図22に示すように、実施例1の図5においてループ状に形成された携帯通信端末1のアンテナ17を、先端開放モノポール型のアンテナ37に置き換えている。アンテナ37は、携帯通信端末3の給電点38に接続されている。
【0064】
アンテナ37は、例えばフレキシブルプリント基板(FPC)の導体パターンとして形成されるが、他の方法によって形成されてもよい。アンテナ37は、実施例1のアンテナ17と同様に、全部又は少なくとも一部が第1筐体11(図22には図示せず。)の背面に略平行であるように形成されている。
【0065】
例えば第1筐体11の背面の裏側の面に、導電材料が線状又は面状に形成された導電素子39が設けられる。導電素子39は、実施例1の導電素子19a等と同様に、第1筐体11の背面やアンテナ37と磁性体シート18の間等に設けられてもよい。
【0066】
リーダライタ4においては、図22に示すように、実施例1の図5においてループ状に形成されたリーダライタ2のアンテナ27を、先端開放モノポール型のアンテナ47に置き換えている。アンテナ47は、リーダライタ4の給電点48に接続されている。アンテナ47は、携帯通信端末3が図4に示したのと同様にリーダライタ4に対向したとき、全部又は少なくとも一部が携帯通信端末3の第1筐体11の背面に略平行であるように形成されている。
【0067】
なお図22においては、実施例1について説明したのと同じく、アンテナ37と導電素子39の上下関係は場合により入れ替わってもよい。いずれにしても、導電素子39はアンテナ47と磁性体シート18の間に位置するように配設される。
【0068】
図23は、図22に表したアンテナ37、導電素子39及びアンテナ47の位置関係を、図22における基板16の真上の方向から見て(すなわち、アンテナ17の側から第1筐体11の背面に略直交する向きにアンテナ47を見て)平面的に表す図である。このとき図23に示すように、導電素子39は少なくとも一部がアンテナ47に重なって見える。また、導電素子39は全部又は少なくとも一部がアンテナ37と離間して見える。
【0069】
導電素子39を上記のようにアンテナ47に重なって見えるように配設することにより、アンテナ37とアンテナ47の間で電界を介して授受されるエネルギーの一部は導電素子39の共振電力として消費されるので、アンテナ37とアンテナ47の間の周波数スプリットの抑制に効果がある。導電素子39のサイズは、このような共振を発生し得る程度に大きいものである必要があり、アンテナ37、47の共振周波数に対して、微小ループアンテナにおける10分の1波長からダイポールアンテナにおける2分の1波長程度の範囲が想定される。
【0070】
本発明の実施例2によれば、電界を介して無線送受信を行うアンテナ対の間でも、導電素子を用いて結合を弱めることにより、周波数スプリットの抑制効果を得ることができる。
【0071】
以上の実施例の説明において、アンテナのループ形状をはじめとする各構成要素の形状、配置、位置関係等、また実験において設定した条件は一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまな変形が可能である。アンテナ37およびアンテナ47は、いわゆる近距離無線通信、BAN(BodyArea Network)に用いられるアンテナとは限らず、無線LANなどの屋内通信や、セルラー網で使われるアンテナにも適用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 携帯通信端末
11 第1筐体
12 第2筐体
13 ヒンジ部
15、25 マーク
16 基板
17、27、37、47 アンテナ
18 磁性体シート
19a、19b、19c、19d、39 導電素子
2 リーダライタ
20、38、48 給電点
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置に係り、特に2の無線装置が対向して無線送受信を行う無線システムを構成する無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線を利用した個体識別(Radio Frequency Identification、以下RFIDと略す。)の技術が、鉄道の自動改札、企業や事務所の出退勤管理、各種の電子マネー等に広く用いられている。RFIDにおいては、リーダライタと呼ばれる装置とカード又はタグと呼ばれる情報媒体との間の無線通信を介して情報がやり取りされる。最近では、携帯電話の一部にもRFIDに対応する機能が搭載されている。当初は携帯電話にカード機能が搭載され、その後リーダライタ機能も搭載されている。
【0003】
RFIDのシステムにおいては、リーダライタの内蔵するアンテナとカードの内蔵するアンテナを非接触状態で対向させて通信可能な状態におくことにより、リーダライタがカードに対して情報を書き込み、またカードから情報を読み取ることができる。RFID用のアンテナとしては、ループ形状をなすコイル型素子が一般に用いられる。
【0004】
この他に、車載又は放送受信等の分野において、素子がループ状に形成されたアンテナが用いられる。これらの用途においては広帯域化が重要な課題とされており、その解決策が提案されている(例えば、特許文献1又は特許文献2参照。)。
【0005】
このうち特許文献1には、1波長ループアンテナ及びこれと異なる周波数の1/2波長サイズの無給電素子を有し、該無給電素子が該ループアンテナの2つの給電接続端子に跨るように配設されて構成されたアンテナが開示されている。また、特許文献2には、サイズの異なる2つのループ素子を並置して、該ループ素子の給電点をほぼ中心とする辺に近接、対向するように無給電素子を配したループアンテナが開示されている。
【0006】
さて、上述したリーダライタの内蔵するループ形状アンテナとカードの内蔵するループ形状アンテナはそれぞれ共振器を構成し、それらの共振周波数は公称値が等しく設定されている(上記の公称値をf0とする。)。ところが、一般に公称共振周波数が等しい2つの共振器を相互に近づけていくと、周波数が徐々に分離してf1、f2(f1<f0<f2)の2つの共振周波数が現れることが知られている(例えば、非特許文献1又は非特許文献2参照。)。
【0007】
上記の現象は周波数スプリットと呼ばれ、磁界を介して無線送受信を行う例えばRFID用のリーダライタ及びカード間でも、電界を介して無線送受信を行う例えばモノポールアンテナ対の間でも、相互の間隔がある程度以下に狭まって結合が強まったときに発生する。物理学上の見地からは、近接した2つの共振器が同一の周波数で共振するとすれば共振器間の可逆的なエネルギー授受が行われて熱力学第2法則に矛盾することから、そのような状態に陥ることなくエネルギー関係の安定を保つために周波数スプリットが発生するものと説明されている。
【0008】
周波数スプリットの値が限度を超えて大きくなると、リーダライタ及びカード間の通信ができなくなる場合がある。この現象は、共振器の共振周波数が公称値からずれると系のQ値および共振周波数で定まる最大出力電圧が通信を行う所望周波数からずれてしまうことにより得られる出力電圧が低下し、かつ、共振器とその後段の増幅器の間の雑音指数の整合関係がくずれて増幅器の内部熱雑音が増大するために生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−67884号公報(第4ページ、図1)
【特許文献2】特開2006−295545号公報(第7ページ、図17)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】河口、小林、馬、「分布定数共振器間電磁結合の等価回路表示に関する研究」、電子情報通信学会技術研究報告EMCJ2003−78/MW2003−175、2003年10月
【非特許文献2】伊藤、峯邑、天野、「HF帯RFIDにおける不感領域と結合係数の関係」、電子情報通信学会総合大会B−1−143、2007年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献1又は特許文献2に開示された従来の技術は、ループアンテナの広帯域化により応用範囲を拡大しようとするものである。しかし、例えばRFIDのリーダライタ及びカードのような無線装置のアンテナどうし(ループ形状素子からなる場合と、それ以外の素子からなる場合がある。)の近接によって生じる周波数スプリットの問題については、考慮されていない。
【0012】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、互いに対向して無線送受信を行う無線装置のアンテナどうしの近接によって生じる周波数スプリットを抑え、無線送受信の安定化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の無線装置は、第1の無線素子を備えた相手方装置に無線結合され得る無線装置において、前記相手方装置に対向させる対向面を有する筐体と、少なくとも一部が前記対向面に略平行であるように前記筐体に設けられた第2の無線素子と、前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、少なくとも一部が前記第1の無線素子の少なくとも一部に重なるように配設された導電素子とを具備することを特徴する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、互いに対向して無線送受信を行う無線装置のアンテナ間の結合を弱める手段を一方の無線装置が持つことにより、周波数スプリットを抑えて無線送受信の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1に係る無線装置(携帯通信端末)の構成を表す斜視図。
【図2】実施例1に係る携帯通信端末の2筐体を閉じた状態を表す斜視図。
【図3】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナの構成及び各構成間の位置関係を表す斜視図。
【図4】実施例1に係る携帯通信端末を外部のリーダライタに対向させる状態を表す図。
【図5】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナの各構成とリーダライタのアンテナの位置関係を図4に表した状態において表す図。
【図6】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ及び導電素子とリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図7】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、4個の導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図8】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、横長に形成された2個の導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図9】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、横長に形成された1個の導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図10】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、一部が開放されたループ状に形成された2個の導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図11】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、円形をなし一部が開放されたループ状に形成された導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図12】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、一部が開放されたループ状に形成された2個の導電素子及びその内側にさらに配設された複数の導電素子並びにリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図13】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナがリーダライタのアンテナに最も近接する2箇所に導電素子を配設した構成の平面的位置関係を例示する図。
【図14】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナがリーダライタのアンテナに最も近接する4箇所に導電素子を配設した構成の平面的位置関係の一例を表す図。
【図15】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナがリーダライタのアンテナに最も近接する4箇所に導電素子を配設した構成の平面的位置関係の他の例を表す図。
【図16】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ、別個に給電可能な導電素子及びリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【図17】実施例1に係る携帯通信端末に対向するリーダライタのアンテナ単体のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図18】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナ単体のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図19】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナとリーダライタを対向させ磁性体シートを省いた場合のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図20】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナとリーダライタを対向させ磁性体シートを設けた場合のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図21】実施例1に係る携帯通信端末のアンテナとリーダライタを対向させ磁性体シート及び導電素子を設けた場合のSパラメータ周波数特性測定例を表す図。
【図22】本発明の実施例2に係る携帯通信端末のアンテナの各構成とリーダライタのアンテナの位置関係を表す図。
【図23】実施例2に係る携帯通信端末のアンテナ及び導電素子とリーダライタのアンテナの位置関係を表す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。なお以下の各図を参照しながら上下左右又は水平、垂直(鉛直)をいうときは、特に断らない限り、図が表された紙面における上下左右又は水平、垂直(鉛直)を意味するものとする。また、各図の間で同一の符号は、同一の構成を表すものとする。
【実施例1】
【0017】
以下、図1ないし図15を参照して、本発明の実施例1を説明する。図1は、本発明の実施例1に係る無線装置である携帯通信端末1の構成を表す斜視図である。携帯通信端末1は、第1筐体11と第2筐体12がヒンジ部13を介して開閉可能に接続されることにより構成されている。図1は、第1筐体11と第2筐体12が相互に開いた状態の使用時において使用者側を向く面を表している。
【0018】
第1筐体11と第2筐体12の開閉の形式は、折りたたみ式、2軸ヒンジ(ダブルスウィーベル)式等が考えられるが、これらに限るものではない。ヒンジ部13は、第1筐体11と第2筐体12の間に位置して相互に開閉可能とする機構を内蔵する部分を指し、図1においては破線の楕円で囲んで表している。図1に矢印付き一点鎖線の弧で示したように、第1筐体11を第2筐体12に対してヒンジ部13の周りに回動させることにより、第1筐体11と第2筐体12を相互に閉じることができる。
【0019】
第1筐体11の正面(図1において使用者側を向く面)側には、例えば液晶デバイスからなる表示部が設けられている(第1筐体11又は第2筐体12の背面をはじめとする他の面に、別の表示部が設けられていてもよい。)。第2筐体12の正面側には、複数の操作キーからなる操作部が設けられている(操作キーの一部は、第1筐体11又は第2筐体12の側面をはじめとする他の面に設けられてもよい。)。
【0020】
図2は、携帯通信端末1の第1筐体11を図1の矢印付き一点鎖線の弧で表したように第2筐体12に対して閉じた状態を、図1と同じ向きに見て表す斜視図である。図2において符号1、11、12を付して表した構成は、図1に同じ符号を付して表した構成にそれぞれ同じとする。第1筐体11の背面(上述した正面の反対側の意匠面)に、マーク15が設けられている。なお、第1筐体11の背面の裏側の面(第1筐体11の内部を向く面)に後で図3を参照して説明する導電素子19a、19bが設けられ、破線で表されている。
【0021】
図3は、携帯通信端末1の第1筐体11に格納された個体無線識別(RFID)用のアンテナの構成と、各構成が第1筐体11の内部において積層された状態に相当する位置関係を、図2と同じ向きに見て表す斜視図である。第1筐体11は、基板16、アンテナ17及び磁性体シート18を内蔵する。換言すると、基板16、アンテナ17及び磁性体シート18は、第1筐体11に設けられている。基板16は、携帯通信端末1の各種の機能(RFID機能を含む。)に対応する回路を搭載している。
【0022】
アンテナ17は、RFID用としてループ形状をなして形成されたもので、両端(接続端)に図示しない集中定数素子が接続されて例えば公称共振周波数13.56メガヘルツ(MHz)の共振回路を構成する。アンテナ17を含む上記の共振回路は、基板16に搭載されたRFID機能に対応する図示しない回路に接続される。なお「ループ形状」の輪郭は、矩形、多角形、円形、楕円形、その他の多様な形状をとり得るものとする。
【0023】
アンテナ17は、例えばフレキシブルプリント基板(FPC)の導体パターンとして形成されるが、他の方法によって形成されてもよい。アンテナ17は、全部又は少なくとも一部が上述した第1筐体11の背面に略平行であるように形成されている。
【0024】
磁性体シート18はアンテナ17と基板16の間に設けられ、アンテナ17が励振されたときに生じる磁界が基板16の導体パターン又は第1筐体11の金属部分に作用して発生する渦電流損を軽減する役割を持つ。
【0025】
図3においてアンテナ17の上側に、図2を参照して説明したマーク15と、導電素子19a、19bが表されている。マーク15は、図2を参照して説明したように、第1筐体11(図3には図示せず。)の背面に設けられたものである。導電素子19a、19bは、導電材料が線状又は面状に形成されたもので、例えば第1筐体11の背面の裏側の面にめっき若しくは貼付されて設けられる。導電素子19a、19bは、他の回路又は素子に接続されていない無給電素子である。
【0026】
なお、導電素子19a、19bを第1筐体11の背面にめっき若しくは貼付してもよい。又は、導電素子19a、19bを例えばFPCの導体パターンとして形成しアンテナ17と磁性体シート18の間に設けてもよい。又は、導電素子19a、19bを例えば磁性体シート18に貼付するようにして形成してもよい。
【0027】
図4は、携帯通信端末1のRFIDカード機能が用いられる場合に、携帯通信端末1を外部のリーダライタに対向させる状態を表す図である。携帯通信端末1は、第1筐体11の背面を下に向けて、リーダライタ2に対向している。
【0028】
このとき携帯通信端末1のリーダライタ2に対する位置決めの目標を与えるため、リーダライタ2の上面側に携帯通信端末1のマーク15に対応するマーク25が設けられている。携帯通信端末1は、図4の矢印付き一点鎖線で表すように、マーク15をリーダライタのマーク25に近づけるようにしてリーダライタ2に近接する。携帯通信端末1が位置決めの補助手段として機構的なガイド(図示せず。)を有し、リーダライタ2に対して所定の位置において近接、対向するようにしてもよい。
【0029】
リーダライタ2は破線で表したアンテナ素子を含むアンテナ27を内蔵し、携帯通信端末1がリーダライタ2に近接した状態でアンテナ27は携帯通信端末1のアンテナ17(図4には図示せず。)との間で電磁誘導を介した無線送受信を行う。
【0030】
アンテナ27のアンテナ素子はループ形状をなして形成されたもので、接続端に図示しない集中定数素子が接続されて例えば公称共振周波数13.56MHzの共振回路を構成し、リーダライタ2に内蔵されたRFID機能に対応する図示しない回路に接続される。
【0031】
アンテナ27のアンテナ素子は、例えばフレキシブルプリント基板(FPC)の導体パターンとして形成されるが、他の方法によって形成されてもよい。アンテナ27は、携帯通信端末1が図4に示したようにリーダライタ2に対向したとき、全部又は少なくとも一部が第1筐体11の背面に略平行であるように形成されている。
【0032】
図5は、図3に表した携帯通信端末1のアンテナの各構成とリーダライタ2のアンテナ27の位置関係を、図4に表したのと同じ状態において表す図である。図5に表した各構成は、図3又は図4に同じ符号を付して表した構成とそれぞれ同じである。
【0033】
図5の上下の向きの一点鎖線で示すように携帯通信端末1のマーク15とリーダライタ2のマーク25を合わせて位置決めすると、同じく上下の向きの一点鎖線で示すように、導電素子19a、19bがアンテナ27の一部に重畳する位置関係になる。したがって、上記のように位置決めして携帯通信端末1をリーダライタ2に近接させると、導電素子19a、19bはそれぞれアンテナ27と電気的に結合することができる。
【0034】
従来のように導電素子19a、19bを設けていない場合には、アンテナ17を含む携帯通信端末1の共振回路とアンテナ27を含むリーダライタ2の共振回路の公称共振周波数が同じであるから、背景技術の項で説明した周波数スプリットにより携帯通信端末1とリーダライタ2の間の無線送受信が妨げられる可能性がある。
【0035】
一方、図5に示した位置関係において導電素子19a、19bがそれぞれアンテナ27と電気的に結合するという条件下では、アンテナ17とアンテナ27の間で電磁誘導を介して授受されるエネルギーの一部は、導電素子19a、19bにおける渦電流損となって失われる。その結果、アンテナ17とアンテナ27の間の結合が弱まり、周波数スプリットを抑制することができる。
【0036】
なお図5においては、図3を参照して説明したのと同じく、アンテナ17と導電素子19a、19bの上下関係は場合により入れ替わってもよい。いずれにしても、導電素子19a、19bはアンテナ27と磁性体シート18の間に位置するように配設される。
【0037】
図6は、図5に表したアンテナ17、導電素子19a、19b及びアンテナ27の位置関係を、図5における基板16の真上の方向から見て(すなわち、アンテナ17の側から第1筐体11の背面に略直交する向きにアンテナ27を見て)平面的に表す図である。アンテナ17とアンテナ27の接続端は、上述したように図示しない集中定数素子を含む共振回路を経て給電される(後掲の図7ないし図16において同じ。)。
【0038】
このとき図6に示すように、導電素子19a、19bはそれぞれ少なくとも一部がアンテナ27に重なって見える。また、導電素子19a、19bはそれぞれ全部又は少なくとも一部がアンテナ17と離間して見える。
【0039】
導電素子19a、19bを上記のようにアンテナ27に重なって見えるように配設することにより、アンテナ27とアンテナ17の間で磁界を介して授受されるエネルギーの一部は導電素子19a、19bの渦電流損として消費されるので、アンテナ27とアンテナ17の間の周波数スプリットの抑制に効果がある。
【0040】
導電素子19a、19bのサイズは、このような渦電流損の有意な値を発生し得る程度に大きいものである必要がある。例えば13MHz帯の周波数を使用するRFID機能を搭載した携帯通信端末の場合には、導電素子19a、19bのサイズが実装上1000分の1波長から100分の1波長程度に限定されるが、そのようなサイズが周波数スプリットの抑制に効果がある程度に有意であるといえるかどうかは、後で実験例を引用して説明する。
【0041】
また、導電素子19a、19bを上記のようにアンテナ17と離間して見えるように配設することにより、アンテナ特性の劣化をカード側(携帯通信端末1)ではなくリーダライタ側(リーダライタ2)に負担させることができる。通常の場合、リーダライタ側はカード側よりも大電力の給電が可能であるから、アンテナ特性の劣化を補うことがより容易である。
【0042】
さらに、導電素子19a、19bがアンテナ27と磁性体シート18の間に位置することにより、導電素子19a、19bのアンテナ27に対する効果が磁性体シート18の磁界遮蔽効果により減殺されてしまう現象を抑えることができる。磁性体シート18は、アンテナ17の性能を維持するために、通常その形やシートの面積の自由度は少ない。アンテナ27がアンテナ17より大きい場合には、アンテナ27の影響を低減するには磁性体シート18をアンテナ17の大きさより大きくしなければならないが、そのようなことはアンテナ17の遠方磁界の発生を妨げ、アンテナ17の通信距離を大きく低下させてしまう。本方式の導電素子19a、19bではそのようなことは発生せず、アンテナ17の通信距離を維持しつつ、アンテナ27との近接時の過大な結合を抑制できるという効果がある。
【0043】
図7は、アンテナ17、4個の導電素子19a、19b、19c及び19d並びにアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19aないし19dは、それぞれ少なくとも一部がアンテナ27に重なって見える。また、導電素子19aないし19dはそれぞれ全部又は少なくとも一部がアンテナ17と離間して見える。
【0044】
図8は、アンテナ17、横長に形成された2個の導電素子19a及び19b並びにアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19a及び19bは、それぞれ少なくとも一部がアンテナ27に重なって見える。また、導電素子19a及び19bはそれぞれ全部又は少なくとも一部がアンテナ17と離間して見える。
【0045】
図9は、アンテナ17、横長に形成された1個の導電素子19a及びアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19aは、少なくとも一部がアンテナ27に重なって見える。また、導電素子19aは全部又は少なくとも一部がアンテナ17と離間して見える。
【0046】
図10は、アンテナ17、一部が開放されたループ状に形成された導電素子19a及び19b並びにアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19a、19bの形成するループの囲む面積が、アンテナ17が形成するループの囲む面積より小さくとられることにより、2つのループが重ならない(離間して見える)ように構成されている。
【0047】
導電素子19a、19bが(給電箇所以外で)途切れずに閉ループを形成すると、アンテナ17が励振されたときにアンテナ27近傍に生じる磁界に対してその効果を打ち消す向きの渦電流が発生し、アンテナ17とアンテナ27間の結合を弱めるにとどまらず、無線送受信を妨げる結果を招く。そのような問題を避けるため、導電素子19a、19bは一部が開放されたループ状に形成されたものである。
【0048】
図11は、アンテナ17、円形をなし一部が開放されたループ状に形成された導電素子19a及びアンテナ27の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。導電素子19aが閉ループを形成しない理由は、図10の場合と同じである。
【0049】
図12は、図10の構成に対して、導電素子19a、19bの内側にさらに複数の導電素子を配設した構成の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。アンテナ17とアンテナ27の間の結合抑制効果が、各方向にほぼ万遍なく配置された複数の導電素子によってほぼ均一に助長される。
【0050】
図13は、アンテナ17とアンテナ27が最も近接する2箇所に導電素子19a、19bを配設した構成の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。図14は、アンテナ17とアンテナ27が最も近接する4箇所に導電素子19a、19b、19c及び19dを配設した構成の平面的位置関係の一例を、図6と同様に表す図である。図15は、アンテナ17とアンテナ27が最も近接する位置4箇所に導電素子19a、19b、19c及び19dを配設した構成の平面的位置関係の他の例を、図6と同様に表す図である。
【0051】
図16は、図9に表したのと同じ構成において、導電素子19aを給電点20に接続した状態を表す図である。給電点20は携帯通信端末1が内蔵する回路に接続され、導電素子19aをアンテナとして、アンテナ17の共振周波数より高い周波数において励振することができる。
【0052】
図16に示した構成により、アンテナ17の共振周波数における周波数スプリットの抑制効果に対する影響を与えずに、他の周波数において他の機能に携帯通信端末1を用いることができる。なお、図6ないし図15に示したいずれの構成においても、同様に導電素子19a、19b等をアンテナ17の共振周波数より高い周波数において励振するように構成することができる。
【0053】
実施例1の効果を検証するために行った実験の結果について、次に説明する。実験は、各構成を図5及び図6に表したのに近い形に配置して行われた。アンテナ17は、ほぼ縦72ミリメートル(mm)、横47mmの矩形とした。アンテナ27は、ほぼ縦47mm、横22.5mmの矩形とした。磁性体シート18はほぼ縦54mm、横38mmの矩形とし、導電素子19a、19bを表面に貼付した。導電素子19a、19bのサイズは、長手(縦)方向に約50mmとした。なお、比較のため導電素子19a、19bを貼付しない同サイズの磁性体シートも用意した。
【0054】
アンテナ27を含む共振回路を、共振周波数が13.395MHzであるように構成した。図17は、当該共振回路の単体のSパラメータ(S11)の周波数特性の測定例を表す図である。図の横軸は周波数(単位はメガヘルツ(MHz))であって、12MHzから15MHzの範囲を表す。図の縦軸はS11(単位はデシベル(dB))であって、図示した−0.2dBの値を基準に、1目盛り当り0.22dBで表したものである。なお、図17の横軸と縦軸の設定は、以下の図18ないし図21に共通とする。
【0055】
図17においてS11が極小値を示す周波数が、共振周波数である(以下の図18ないし図21において同じ。)。上述の通り共振周波数が13.395MHzであることが、示されている。
【0056】
アンテナ17を含む共振回路を、共振周波数が13.395MHzであるように構成した(上記の導電素子19a、19bのサイズは、この共振周波数に対して約450分の1波長に相当する。)。図18は、当該共振回路の単体のS11の周波数特性の測定例を表す図である。上述の通り共振周波数が13.395MHzであることが、示されている。
【0057】
この条件下で初めに磁性体シート18を省いてアンテナ17をアンテナ27に対向、近接させると、周波数スプリットにより2の共振周波数12.89MHzと14.13MHzが発生した。図19は、その場合のS11の周波数特性の測定例を表す図である。2の共振周波数の差は、1.24MHzである。
【0058】
次に上記の条件下で磁性体シート18(導電素子19a、19bを貼付しないもの)を設けた場合に、磁性体シート18の影響により2の共振周波数がいずれも低下し、12.315MHz及び13.785MHzとなった。図20は、その場合のS11の周波数特性の測定例を表す図である。2の共振周波数の差は、1.47MHzである。
【0059】
さらに上記の条件下で、磁性体シート18に導電素子19a、19bを貼付したものを用いたところ、2の共振周波数は13.035MHz、13.972MHzとなった。図21は、その場合のS11の周波数特性の測定例を表す図である。2の共振周波数の差は0.94MHzにまで縮小した。この実験結果は、サイズが450分の1波長程度の導電素子19a、19bによる周波数スプリットの抑制効果を立証するものである。
【0060】
以上に説明した本発明の実施例1によれば、携帯通信端末がリーダライタに対して位置を合わせて対向、近接するときリーダライタ側アンテナに近接、結合する位置に導電素子を配したことにより、携帯通信端末及びリーダライタの共振回路間の周波数スプリットを抑制することができる。
【実施例2】
【0061】
以下、図22及び図23を参照して、本発明の実施例2を説明する。実施例2に係る無線装置は、実施例1の携帯通信端末1の一部の構成を変更した携帯通信端末3とする。また、携帯通信端末3が対向する相手方装置は、実施例1のリーダライタ2の一部の構成を変更したリーダライタ4とする。
【0062】
携帯通信端末3は、図4に示したように携帯通信端末1をリーダライタ2に対向させるのと同様に、リーダライタ4に対向させて用いられる。なお、携帯通信端末3又はリーダライタ4の構成のうち、携帯通信端末1又はリーダライタ2と共通の構成には、それぞれ同じ符号を付して表す。
【0063】
図22は、携帯通信端末3及びリーダライタ4の主要な部分の構成及び位置関係を、実施例1の図5と同様に表す図である。携帯通信端末3においては、図22に示すように、実施例1の図5においてループ状に形成された携帯通信端末1のアンテナ17を、先端開放モノポール型のアンテナ37に置き換えている。アンテナ37は、携帯通信端末3の給電点38に接続されている。
【0064】
アンテナ37は、例えばフレキシブルプリント基板(FPC)の導体パターンとして形成されるが、他の方法によって形成されてもよい。アンテナ37は、実施例1のアンテナ17と同様に、全部又は少なくとも一部が第1筐体11(図22には図示せず。)の背面に略平行であるように形成されている。
【0065】
例えば第1筐体11の背面の裏側の面に、導電材料が線状又は面状に形成された導電素子39が設けられる。導電素子39は、実施例1の導電素子19a等と同様に、第1筐体11の背面やアンテナ37と磁性体シート18の間等に設けられてもよい。
【0066】
リーダライタ4においては、図22に示すように、実施例1の図5においてループ状に形成されたリーダライタ2のアンテナ27を、先端開放モノポール型のアンテナ47に置き換えている。アンテナ47は、リーダライタ4の給電点48に接続されている。アンテナ47は、携帯通信端末3が図4に示したのと同様にリーダライタ4に対向したとき、全部又は少なくとも一部が携帯通信端末3の第1筐体11の背面に略平行であるように形成されている。
【0067】
なお図22においては、実施例1について説明したのと同じく、アンテナ37と導電素子39の上下関係は場合により入れ替わってもよい。いずれにしても、導電素子39はアンテナ47と磁性体シート18の間に位置するように配設される。
【0068】
図23は、図22に表したアンテナ37、導電素子39及びアンテナ47の位置関係を、図22における基板16の真上の方向から見て(すなわち、アンテナ17の側から第1筐体11の背面に略直交する向きにアンテナ47を見て)平面的に表す図である。このとき図23に示すように、導電素子39は少なくとも一部がアンテナ47に重なって見える。また、導電素子39は全部又は少なくとも一部がアンテナ37と離間して見える。
【0069】
導電素子39を上記のようにアンテナ47に重なって見えるように配設することにより、アンテナ37とアンテナ47の間で電界を介して授受されるエネルギーの一部は導電素子39の共振電力として消費されるので、アンテナ37とアンテナ47の間の周波数スプリットの抑制に効果がある。導電素子39のサイズは、このような共振を発生し得る程度に大きいものである必要があり、アンテナ37、47の共振周波数に対して、微小ループアンテナにおける10分の1波長からダイポールアンテナにおける2分の1波長程度の範囲が想定される。
【0070】
本発明の実施例2によれば、電界を介して無線送受信を行うアンテナ対の間でも、導電素子を用いて結合を弱めることにより、周波数スプリットの抑制効果を得ることができる。
【0071】
以上の実施例の説明において、アンテナのループ形状をはじめとする各構成要素の形状、配置、位置関係等、また実験において設定した条件は一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまな変形が可能である。アンテナ37およびアンテナ47は、いわゆる近距離無線通信、BAN(BodyArea Network)に用いられるアンテナとは限らず、無線LANなどの屋内通信や、セルラー網で使われるアンテナにも適用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 携帯通信端末
11 第1筐体
12 第2筐体
13 ヒンジ部
15、25 マーク
16 基板
17、27、37、47 アンテナ
18 磁性体シート
19a、19b、19c、19d、39 導電素子
2 リーダライタ
20、38、48 給電点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線素子を備えた相手方装置に無線結合され得る無線装置において、
前記相手方装置に対向させる対向面を有する筐体と、
少なくとも一部が前記対向面に略平行であるように前記筐体に設けられた第2の無線素子と、
前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、少なくとも一部が前記第1の無線素子の少なくとも一部に重なるように配設された導電素子と、
を具備する無線装置。
【請求項2】
前記第1、第2の無線素子はアンテナを具備する請求項1記載の無線装置。
【請求項3】
前記第1、第2の無線素子はコイル型素子を具備する請求項1記載の無線装置。
【請求項4】
前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、前記導電素子の少なくとも一部が前記第2の無線素子と離間する位置に配設されたことを特徴とする請求項1に記載の無線装置。
【請求項5】
前記導電素子は、前記筐体の面に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項6】
前記導電素子は、前記相手方装置との間の無線周波数に共振し得る範囲のサイズに形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項7】
前記導電素子は、前記相手方装置との間の無線周波数において有意な渦電流損を発生し得る範囲のサイズに形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項8】
シート状に形成された磁性体をさらに有し、前記導電素子は、前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、前記第1の無線素子と前記磁性体の間に位置するように配設されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項9】
前記相手方装置の無線素子がループ状に形成された場合において、前記第2の無線素子がループ状に形成され、前記導電素子が線状又は面状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項10】
前記第1の無線素子がループ状に形成された場合において、前記第2の無線素子が第1の面積をなすループ状に形成されると共に、前記導電素子が前記第1の面積と異なる第2の面積をなすループ状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項11】
前記相手方装置との間の無線周波数より高い周波数において前記導電素子を励振する手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項12】
前記導電素子は、前記相手方装置に対して前記筐体が所定の位置に位置決めされ、前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、少なくとも一部が前記第1の無線素子の少なくとも一部に重なる、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項13】
前記導電素子は、前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、少なくとも一部が前記第1の無線素子の少なくとも一部に沿って重なる、請求項1乃至請求項4及び請求項12のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項14】
前記相手方装置に対する前記筐体の位置決めを補助する手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項4、請求項12及び13のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項1】
第1の無線素子を備えた相手方装置に無線結合され得る無線装置において、
前記相手方装置に対向させる対向面を有する筐体と、
少なくとも一部が前記対向面に略平行であるように前記筐体に設けられた第2の無線素子と、
前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、少なくとも一部が前記第1の無線素子の少なくとも一部に重なるように配設された導電素子と、
を具備する無線装置。
【請求項2】
前記第1、第2の無線素子はアンテナを具備する請求項1記載の無線装置。
【請求項3】
前記第1、第2の無線素子はコイル型素子を具備する請求項1記載の無線装置。
【請求項4】
前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、前記導電素子の少なくとも一部が前記第2の無線素子と離間する位置に配設されたことを特徴とする請求項1に記載の無線装置。
【請求項5】
前記導電素子は、前記筐体の面に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項6】
前記導電素子は、前記相手方装置との間の無線周波数に共振し得る範囲のサイズに形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項7】
前記導電素子は、前記相手方装置との間の無線周波数において有意な渦電流損を発生し得る範囲のサイズに形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項8】
シート状に形成された磁性体をさらに有し、前記導電素子は、前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、前記第1の無線素子と前記磁性体の間に位置するように配設されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項9】
前記相手方装置の無線素子がループ状に形成された場合において、前記第2の無線素子がループ状に形成され、前記導電素子が線状又は面状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項10】
前記第1の無線素子がループ状に形成された場合において、前記第2の無線素子が第1の面積をなすループ状に形成されると共に、前記導電素子が前記第1の面積と異なる第2の面積をなすループ状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項11】
前記相手方装置との間の無線周波数より高い周波数において前記導電素子を励振する手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項12】
前記導電素子は、前記相手方装置に対して前記筐体が所定の位置に位置決めされ、前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、少なくとも一部が前記第1の無線素子の少なくとも一部に重なる、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項13】
前記導電素子は、前記対向面が前記相手方装置に対向する場合、少なくとも一部が前記第1の無線素子の少なくとも一部に沿って重なる、請求項1乃至請求項4及び請求項12のいずれか一項に記載の無線装置。
【請求項14】
前記相手方装置に対する前記筐体の位置決めを補助する手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項4、請求項12及び13のいずれか一項に記載の無線装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−21697(P2013−21697A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183145(P2012−183145)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【分割の表示】特願2008−224845(P2008−224845)の分割
【原出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【分割の表示】特願2008−224845(P2008−224845)の分割
【原出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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