説明

無線通信システムおよび基地局

【課題】各基地局が構成する通信エリア内の伝搬特性によらず、移動局においてシンボル間干渉の発生を回避可能な無線通信システムを得ること。
【解決手段】基地局1−1、1−2、1−3が同期しており、基地局1−1、1−2、1−3が同一周波数で同一信号を移動局3へ送信する無線通信システムであって、基地局1−1、1−2、1−3は、自局の通信エリア内の移動局3に対して、移動局3の位置において自局との間に発生する伝搬遅延時間に基づいて、移動局3へ送信する信号の送信タイミングを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の基地局を備えた無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信システムでは、一般に複数の基地局が構成する通信エリアからなる広域サービスを実現する場合、通信エリアを重複させ、重複する通信エリアでハンドオーバー処理が必要となる。ハンドオーバー処理を簡素化する方法としては、例えば、複数の通信エリアを単一の周波数で運用する方法がある。しかし、複数の通信エリアを単一の周波数で運用する場合、移動局へ到来する信号について、各基地局からの伝搬時間が異なるため、各基地局から到来する信号間のシンボル間干渉が問題となる。
【0003】
そのため、下記特許文献1では、各基地局から到来する信号間のシンボル間干渉について、基地局から送信信号について、クロック遅延により、送信タイミングを変え、各基地局から移動局へ到来する信号のタイミング差をなくす技術が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、移動局において、各基地局からの到来波にシンボル間干渉が発生しないよう、基地局から移動局への伝搬遅延時間が短い方の基地局の送信タイミングを、基地局間の伝搬遅延時間だけオフセットする技術が開示されている。ここでは、送信タイミングを固定的にオフセットさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−251665号公報
【特許文献2】特開2009−246860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術(特許文献1)によれば、送信タイミングを変える具体的な基準については開示されていない、という問題があった。
【0007】
また、上記従来の技術(特許文献2)によれば、伝播遅延時間の長い基地局より遠方の基地局では伝搬遅延が増大するため、入力信号に対して送信信号はより遅延している。つまり、単一の周波数で構成する通信エリアが広範囲になる程、入力データに対して送信タイミングが遅延する。そのため、遅延させるためのメモリ量が増大する、という問題があった。また、基地局が構成する通信エリアの伝搬遅延が単調増加しない場合、固定的に送信タイミングをオフセットさせる方法では、各基地局からの到来波を移動局で同時に受信することは困難である、という問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、各基地局が構成する通信エリア内の伝搬特性によらず、移動局においてシンボル間干渉の発生を回避可能な無線通信システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、複数の基地局が同期しており、各基地局が同一周波数で同一信号を移動局へ送信する無線通信システムであって、各基地局は、自局の通信エリア内の前記移動局に対して、前記移動局の位置において自局との間に発生する伝搬遅延時間に基づいて、前記移動局へ送信する信号の送信タイミングを制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各基地局が構成する通信エリア内の伝搬特性によらず、移動局においてシンボル間干渉の発生を回避できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、従来の無線通信システムにおける伝播遅延時間を示す図である。
【図2】図2は、基地局通信エリアにおける移動局の位置と伝搬遅延時間との関係を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態1に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【図4】図4は、送信信号の時間長を長くする送信タイミング調整Aを示す図である。
【図5】図5は、送信信号の時間長を短くする送信タイミング調整Bを示す図である。
【図6】図6は、移動局の位置と基地局からの送信信号の送信タイミングの関係を示す図である。
【図7】図7は、基地局からの送信信号の送信タイミングと移動局への到来時間の関係を示す図である。
【図8】図8は、移動局の位置と各基地局からの送信信号の送信タイミングの関係を示す図である。
【図9】図9は、各基地局からの送信信号の送信タイミングと移動局への到来時間の関係を示す図である。
【図10】図10は、基地局の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる無線通信システムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態1.
まず、複数の基地局から構成される従来の無線通信システムについて簡単に説明する。図1は、従来の無線通信システムにおける伝播遅延時間を示す図である。基地局100−1、基地局100−2、基地局100−3は同期しており、各基地局には、送信すべきデータ(送信データD1〜D7)が定期的に入力される。各基地局は、入力された送信データを変調処理し、基地局100−1は送信信号S1−1、S2−1、S3−1、S4−1、…の順に送信し、基地局100−2は送信信号S1−2、S2−2、S3−2、S4−2、…の順に送信し、基地局100−3は送信信号S1−3、S2−3、S3−3、S4−3、…の順に送信する。このとき同一の送信データは、各基地局における変調処理により、同一の送信信号(例えば、送信信号S2−1、S2−2、およびS2−3は、送信データD2を変調処理した信号であり同じ時間信号)として送信されている。
【0014】
各基地局では、変調処理の後に送信する送信信号(例えば、送信信号S2−1、S2−2、およびS2−3)に対して、送信タイミングをオフセットして送信している。具体的には、基地局100−2は、基地局100−1から基地局100−2の伝搬遅延時間だけ基地局100−1に対して送信タイミングを固定的にオフセットして送信している。すなわち、送信信号S2−2は送信信号S2−1に対して伝搬遅延時間だけ送信タイミングが遅い。また、基地局100−3は、基地局100−1から基地局100−3の伝搬遅延時間だけ基地局100−1に対して送信タイミングを固定的にオフセットして送信している。すなわち、送信信号S2−3は送信信号S2−1に対して伝搬遅延時間だけ送信タイミングが遅い。
【0015】
このとき、基地局100−1からみて基地局100−2の先に位置する移動局では、同じ時間信号である送信信号(例えば、送信信号S1−1および送信信号S1−2)を同時に受信し、これらの到来波を合成し、復調処理する。これにより、移動局は、異なる基地局から到来する間にシンボル間干渉を発生させることなく、復調処理することが可能である。
【0016】
しかしながら、従来の無線通信システムでは、基地局100−3では伝搬遅延が増大するため、入力信号に対して、送信信号は基地局100−2よりも遅延している。つまり、単一の周波数で構成する通信エリアが広範囲になる程、入力データに対して送信タイミングが遅延し、遅延させるためのメモリ量が増大する。
【0017】
また、図2に示すように、基地局が構成する通信エリアの伝搬遅延が単調増加しない場合、固定的に送信タイミングをオフセットさせる方法では、各基地局からの到来波を移動局で同時に受信することは困難である。図2は、基地局通信エリアにおける移動局の位置と伝搬遅延時間との関係を示す図である。一般的には、基地局は通信エリア中央(地点b)に位置しており、通信エリア端(地点a、地点c)ほど伝搬遅延時間は大きくなる。すなわち、移動局では、信号を受信するとき、通信エリア端(地点a、地点c)へ行くほど伝搬遅延時間が大きく、通信エリア中央(地点b)へ行くほど伝搬遅延時間が小さくなる。通信エリア端(地点a、地点c)では、最大伝搬遅延時間δとなる。
【0018】
そのため、本実施の形態では、移動局の基地局からの距離(伝搬遅延)に応じて、送信タイミングを動的に調整することにより、各基地局が構成する通信エリア内の伝搬特性によらず、移動局においてシンボル間干渉を発生させない無線通信システムについて説明する。
【0019】
図3は、本実施の形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。無線通信システムは、基地局1−1、1−2、1−3と、移動局3と、各基地局とネットワーク21により接続された上位局20と、から構成される。
【0020】
基地局1−1は、アンテナ2−1を備え、アンテナ2−1で信号を送受信可能な通信エリア10−1を構成する。基地局1−2は、アンテナ2−2を備え、アンテナ2−2で信号を送受信可能な通信エリア10−2を構成する。基地局1−3は、アンテナ2−3を備え、アンテナ2−3で信号を送受信可能な通信エリア10−3を構成する。移動局3は、アンテナ4を備え、図3に示す各通信エリアを移動可能とする。ここでは、基地局1−1、1−2、1−3は、単一または同一の複数の無線周波数を用いて信号を送信する。
【0021】
通信エリア10−1において、地点a−1は通信エリア10−1の通信エリア端であり、地点a−1の伝搬遅延は、図2における地点aの伝搬遅延に対応し、地点b−1は通信エリア10−1の通信エリア中央であり、地点b−1の伝搬遅延は、図2における地点bの伝搬遅延に対応し、地点c−1は通信エリア10−1の通信エリア端であり、地点c−1の伝搬遅延は、図2における地点cの伝搬遅延に対応する。
【0022】
通信エリア10−2において、地点a−2は通信エリア10−2の通信エリア端であり、地点a−2の伝搬遅延は、図2における地点aの伝搬遅延に対応し、地点b−2は通信エリア10−2の通信エリア中央であり、地点b−2の伝搬遅延は、図2における地点bの伝搬遅延に対応し、地点c−2は通信エリア10−2の通信エリア端であり、地点c−2の伝搬遅延は、図2における地点cの伝搬遅延に対応する。
【0023】
通信エリア10−3において、地点a−3は通信エリア10−3の通信エリア端であり、地点a−3の伝搬遅延は、図2における地点aの伝搬遅延に対応し、地点b−3は通信エリア10−3の通信エリア中央であり、地点b−3の伝搬遅延は、図2における地点bの伝搬遅延に対応し、地点c−3は通信エリア10−3の通信エリア端であり、地点c−3の伝搬遅延は、図2における地点cの伝搬遅延に対応する。
【0024】
なお、ここでは、通信エリア端(地点aおよび地点cに対応する地点、以下、各基地局で区別する必要の無いときは、それぞれ通信エリア端a、通信エリア端cとして表す)における伝搬遅延時間は、共に各通信エリア内において最大の伝搬遅延時間を要する。また、通信エリア中央(地点bに対応する地点、以下、各基地局で区別する必要の無いときは通信エリア中央bとして表す)における伝搬遅延時間は、各通信エリア内において最小の伝搬遅延時間であるとする。以下、通信エリア端a、cにおける伝搬遅延時間を、通信エリア中央bとの伝搬遅延時間の差として、最大伝搬遅延時間δとし、通信エリア中央bの伝搬遅延時間は0として考える。ここでは、伝搬遅延時間はそれぞれの基地局と移動局3との距離に比例しているものとする。
【0025】
つぎに、基地局1−1、1−2、1−3が送信する信号タイミングについて、図4、図5を用いて説明する。図4は、送信信号の時間長を長くする送信タイミング調整Aを示す図である。また、図5は、送信信号の時間長を短くする送信タイミング調整Bを示す図である。それぞれ、縦軸が時間または移動局位置を表している。基地局1−1、1−2、1−3には、各基地局が送信すべき一定データ量(送信信号単位)の送信データD(N)、D(N+1)、…、D(N+5)、…、D(M+1)、…、D(M+5)が、ネットワーク21を介して上位局20から入力されている。ここでは、各基地局へ入力されるデータが一定間隔毎に入力されていることとする。
【0026】
なお、各基地局への入力データ間隔は一定でなくとも構わないが、各基地局において、各基地局内の変調処理を行う送信データ処理部(図示せず)への入力は、一定間隔となるように制御する。また、各基地局において、データ量も同様、各基地局内の変調処理を行う送信データ処理部(図示せず)への入力が一定データ量となるように制御する。
【0027】
基地局1−1、1−2、1−3では、入力された送信データを変調処理し、変調された送信信号S(N)、S(N+1)、…、S(N+5)、…、S(M+1)、…、S(M+5)として、それぞれのアンテナ2−1、2−2、2−3から送信する。このとき、送信タイミングを制御する送信信号の単位はフレーム単位やシンボルであることが望ましい。
【0028】
ここで、移動局3が、地点a−1→地点b−1(地点a−2と同位置)→地点c−1(地点b−2、a−3と同位置)→地点c−2(地点b−3と同位置)→地点c−3へ(図3において、左端から右端へ)順次移動する場合を想定する。このとき、基地局1−1、1−2、1−3は同期しているとする。なお、各基地局の同期方法については特定しないが、例えば、各基地局が設置しているGPS(Global Positioning System)受信機で受信したGPS信号を用いる同期や、ネットワーク21を通して同期する等の既存の方法でよい。
【0029】
まず、移動局3が地点a−1から移動を開始するときの、基地局1−1の送信タイミング制御について説明する。移動局3が地点a−1から地点b−1へ移動する部分では、基地局1−1は、図4に示す送信信号の時間長を長くする制御(送信タイミング調整Aとする)を行う。移動局3が地点a−1から地点b−1へ近づくと、例えば、送信信号S(N+1)のように、送信タイミング制御を実施しない送信信号(例えば、S(N))に比べて、送信信号の時間長を長くする調整を行う。さらに、移動局3が地点b−1へ近づくと、同様に送信信号S(N+3)、S(M+1)およびS(M+3)のように送信信号の時間長を長くする調整を行う。このとき、移動局3が地点a−1から地点b−1へ移動する間に送信タイミング制御により長くする合計時間は、通信エリア最大伝搬遅延時間δであることが望ましい。
【0030】
つぎに、送信タイミング調整Aの制御を行う場合の移動局3への送信信号到来の様子について、図6、7を用いて説明する。図6は、移動局の位置と基地局からの送信信号の送信タイミングの関係を示す図である。移動局3の位置が基地局1−1に近いほど、送信タイミングが遅いことを示す。また、図7は、基地局からの送信信号の送信タイミングと移動局への到来時間の関係を示す図である。基地局1−1が送信タイミングを変えて送信した信号を移動局3が実際に受信するタイミングを示す。
【0031】
移動局3が地点a−1から地点b−1へ移動するにつれ、基地局1−1は、送信タイミング調整Aにより送信信号の時間長を長くする制御を行う。そのため、図6の左側に示すように、つぎの送信信号の先頭タイミングが移動局3の位置に従って次第に遅れ、地点b−1で最大伝搬遅延時間δだけ遅延する。すなわち、基地局1−1では、移動局3が近づくことによって移動局3において信号を受信するまでの実際の伝搬遅延時間が短くなる分、信号を送信するタイミングを遅延させている。そのため、図7に示すように、移動局3では、基地局1−1との距離(伝搬時間)によらず、基地局1−1からの伝搬遅延時間が一定であるように受信することができる。
【0032】
このように、基地局1−1は、送信タイミング調整Aにより、移動局3にて一定のタイミングで信号を受信できるように、伝搬遅延を考慮して信号を送信していると考えることができる。具体的に、基地局1−1は、移動局3が地点a−1のときは送信タイミングを早めて送信し、移動局3が地点b−1に近づく(基地局1−1に近づく)につれ、伝搬遅延を考慮して送信タイミングを遅らせて送信している。
【0033】
また、移動局3が地点b−1から地点c−1へ移動する部分では、基地局1−1は、図5に示す送信信号の時間長を短くする制御(送信タイミング調整Bとする)を行う。移動局3が地点b−1から地点c−1へ近づくと、例えば、送信信号S(N+1)のように、送信タイミング制御を実施しない送信信号(例えば、S(N))に比べて、送信信号の時間長を短くする調整を行う。さらに、移動局3が地点c−1へ近づくと、同様に送信信号S(N+3)、S(M+1)およびS(M+3)のように送信信号の時間長を短くする調整を行う。このとき、移動局3が地点b−1から地点c−1へ移動する間に送信タイミング制御により短くする合計時間は、最大伝搬遅延時間δであることが望ましい。
【0034】
移動局3が地点b−1から地点c−1へ移動するにつれ、基地局1−1は、送信タイミング調整Bにより送信信号の時間長を短くする制御を行う。そのため、図6の右側に示すように、つぎの送信信号の先頭タイミングが移動局3の位置に従って次第に前倒しされ、地点c−1で最大伝搬遅延時間δだけ前倒しされる。すなわち、基地局1−1では、移動局3が遠ざかることによって移動局3において信号を受信するまでの実際の伝搬遅延時間が長くなる分、信号を送信するタイミングを前倒しさせている。そのため、図7に示すように、移動局3では、基地局1−1との距離(伝搬時間)によらず、基地局1−1からの伝搬遅延時間が一定であるように受信することができる。ただし、移動局3が地点b−1にある場合には、入力信号(例えばD(N))の送信開始を送信開始遅延時間η≧δだけ遅延させておく。送信開始遅延時間ηは、最大伝搬遅延時間δと等しいことが望ましい。
【0035】
このように、基地局1−1では、送信タイミング調整Bにより、移動局3にて一定のタイミングで信号を受信できるように、伝搬遅延を考慮して信号を送信していると考えることができる。具体的に、基地局1−1は、移動局3が地点b−1のときは送信タイミングを遅らせて送信し、移動局3が地点c−1に近づく(基地局1−1から遠ざかる)につれ、伝搬遅延を考慮して送信タイミングを早めて送信している。また、送信開始遅延時間ηを設けることにより、地点b−1から地点c−1への移動中に送信データが枯渇することを避けることができる。
【0036】
なお、上記の送信タイミング調整A、Bでは、移動局3の位置により一意に伝搬遅延が決まるとしているが、これに限定するものではない。例えば、予め測定した結果に基づいて送信タイミングを制御してもよい。また、各通信エリアの最大伝搬遅延時間は同一であるとして、送信開始遅延時間η=δとしているが、各通信エリアの伝搬時間が異なる場合には、隣接する基地局または次隣接といった基地局に近接する複数の通信エリアの最大伝搬遅延時間により、送信開始遅延時間ηを決定してもよい。例えば、ある基地局は、自局の通信エリアを含む所定の大きさの通信エリアを構成する複数の基地局の中で最も大きい伝搬遅延が発生する基地局の最大遅延伝搬時間を、自局の最大遅延伝播時間とする。所定の通信エリアの大きさについては、対象とする移動局の移動速度や移動経路に基づいて設定可能とする。
【0037】
つぎに、基地局1−2、1−3の送信タイミング制御について、図8、9を用いて説明する。図8は、移動局の位置と各基地局からの送信信号の送信タイミングの関係を示す図である。移動局3の位置が各基地局に近いほど、それぞれの基地局における送信タイミングが遅いことを示す。また、図9は、各基地局からの送信信号の送信タイミングと移動局への到来時間の関係を示す図である。各基地局が送信タイミングを変えて送信した信号を移動局3が実際に受信するタイミングを示す。
【0038】
図8に示すように、基地局1−2、1−3は、基地局1−1と同様、移動局3の位置に基づいて、各通信エリアにおいて通信エリア端aから通信エリア中央bへ移動局3が移動する場合には、送信タイミング調整Aを用い、各通信エリアにおいて通信エリア中央bから通信エリア端cへ移動局3が移動する場合には、送信タイミング調整Bを用いて送信タイミングを制御する。そのため、図9に示すように、移動局3では、各基地局との距離(伝搬時間)によらず、各基地局からの伝搬遅延時間が一定であるように受信することができる。
【0039】
なお、各基地局が移動局3の位置を把握する方法としては、例えば、移動局3がGPSやマーカー等の位置測定手段にて測定した自局の位置を基地局へ送信することによって得る方法がある。また、各基地局が備えるカメラやレーザ測距装置などの測距装置によって得る方法があるが、これらに限定するものではない。
【0040】
また、送信タイミングを制御する際、送信信号がOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)やシングルキャリアFDE(Frequency Domain Equalization)方式のように、ガードインターバルを用いて遅延波を等化するブロック伝送方式の場合には、フレームまたはシンボル単位でガードインターバル数または時間を所望のサンプル数または時間だけ増加(送信タイミング調整Aの場合)させる、またはフレームまたはシンボル単位でガードインターバル数または時間を所望のサンプル数または時間だけ減少(送信タイミング調整Bの場合)させることにより実現することができる。また、シングルキャリア伝送の場合には、所望の時間だけ送信信号を遅延させるためにクロック幅を広くする(送信タイミング調整Aの場合)、または所望の時間だけ送信信号を前倒しさせるためにクロック幅を狭くする(送信タイミング調整Bの場合)ことにより送信タイミング制御を実現することができる。あるいは、変調処理後の信号を高速クロックにて取り扱い、送信タイミング調整Aの場合はサンプルを追加(同一のサンプルを2度送信する)、送信タイミング調整Bの場合はサンプルを除去することによっても実現することが可能である。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態では、無線通信システムを構成する各基地局が、移動局の位置に基づいて、移動局へ送信する信号の送信タイミングを制御する。具体的に、基地局は、移動局が自局から遠い通信エリア端では最大伝搬遅延時間を考慮して信号の送信タイミングを早くし、移動局が自局に近い通信エリア中央では通信エリア端における最大伝搬遅延時間を考慮して信号の送信タイミングを遅くする制御を行う。そして、移動局では、基地局との距離(伝搬遅延)にかかわらず、送信タイミング制御による送信タイミングのオフセットと実際の伝搬遅延時間を合計した時間が等価的に同一の伝搬遅延となることから、各基地局から同タイミングで同一の信号を受信することができることとした。これにより、移動局では、シンボル間干渉を発生させることなく、また、各基地局間のパスダイバシティ効果を得つつ、各基地局からの信号を受信することができる。
【0042】
実施の形態2.
本実施の形態では、無線通信システムを構成する具体的な構成について説明する。図10は、基地局の構成例を示す図である。各基地局は、一定時間間隔毎に基地局へ入力される一定サイズの入力データ(移動局3へ送信するデータ)を保持するメモリ部11と、伝搬遅延決定用データに基づいて伝搬遅延量を決定する伝搬遅延決定部12と、伝搬遅延決定部12の出力する伝搬遅延量から送信タイミングを決定する送信タイミング決定部13と、送信タイミング決定部13が出力する送信タイミングでメモリ部11から読み出した送信データに変調処理を施し、送信タイミング決定部13が出力する送信タイミングに従って送信信号を出力する送信制御部14と、を備える。なお、実施の形態1で説明した制御を行う構成のみを記載しており、一般的な動作を行う構成については省略する。
【0043】
ここで、伝搬遅延決定用データとは、カメラ画像やレーザ測距装置などにより移動局3との相対距離を測定する装置(図示せず)の出力があるが、これに限定するものではない。例えば、移動局3の送信波を基地局において受信した際の基準タイミングとのずれ時間や、移動局3がマーカーやGPS等の位置特定手段により測定した移動局3の位置データなどの情報を用いることができる。
【0044】
伝搬遅延決定部12は、伝搬遅延決定用データに基づいて、基地局が送信する送信信号の伝搬遅延時間を決定する。例えば、伝搬遅延測定用データが位置情報であり、緯度、経度といった移動局3の絶対位置(基地局と移動局3にてあらかじめ定めた基準位置からのオフセット距離の場合を含む)の場合、あらかじめ測定してある基地局絶対位置から相対距離に変換し、伝搬遅延時間を算出する。また、伝搬遅延時間の算出においては、移動局3と基地局間の距離により電波の空間伝搬時間から求めることができ、また、あらかじめ位置と伝搬遅延時間の対応を測定しておくことにより算出することもできる。あるいは、移動局3の送信波を基地局において受信した際の基準タイミングとのずれ時間により算出することもできる。
【0045】
送信タイミング決定部13は、伝搬遅延量に基づいて、送信タイミング調整Aまたは送信タイミング調整Bを行うための送信タイミングを、伝搬遅延量と現在の送信タイミングから決定する。
【0046】
メモリ部11は、基地局が変調処理を施して送信する入力データを、保持し、送信タイミング調整Aまたは送信タイミング調整Bの送信タイミング調整によって入力データが不足することを防止する。また、メモリ部11は、送信タイミング決定部13が出力する送信タイミングに従って、入力データを送信データとして読み出す。
【0047】
ここで、送信タイミング決定部13で決定する送信タイミングの総遅延量に対して、メモリ部11の深さは同値以上であり、送信タイミングの総遅延量は、基地局が構成する通信エリアの最大伝搬遅延時間以上である。送信タイミング決定部13が送信タイミングを決定する際、送信タイミングの総遅延量最大値は基地局が構成する通信エリアの最大伝搬遅延時間であることが望ましい。なぜなら、最大伝搬遅延時間以上を設定する場合、送信タイミング調整Aまたは送信タイミング調整Bを実施した際、移動局3の位置によらず、受信タイミング全体が遅延するためである。
【0048】
送信制御部14は、送信データに変調処理を施し、送信タイミング調整Aまたは送信タイミング調整Bの処理に基づき送信信号の時間長を変化させる。送信信号の時間長を変化させる方法として、送信信号がOFDMの場合、OFDMシンボルの連続性を保つためおよび位相回転を発生させないため、送信制御部14は、送信タイミング調整Aの場合は、ガードインターバルサンプル数またはガードインターバル時間を所望のサンプル数または時間だけ増加させ、送信タイミング調整Bの場合は、ガードインターバル数または時間を所望のサンプル数または時間だけ減少させることが望ましい。また、送信タイミング調整未実施時のガードインターバル先頭において、サンプルの追加または削除することが望ましい。さらに、送信制御部14では、各OFDMシンボル間の不連続による帯域外放射信号を抑圧する為の時間窓を適用し、送信信号として出力する。
【0049】
また、送信制御部14では、送信信号に用いる変調方式がシングルキャリア方式の場合、送信タイミング調整Aまたは送信タイミング調整Bの処理として、変調処理後の信号を高速クロックにて取り扱い、サンプルを除去または追加することにより、またはデジタルPLLによりクロック幅を広げるまたは狭めることにより実現することが可能である。
【0050】
このように、基地局の構成を図10に示す構成にすることにより、実施の形態1の無線通信システムを実現することができ、移動局3では、シンボル間干渉を発生させることなく複数の基地局からの信号を受信することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明にかかる無線通信システムは、複数の基地局を備えたシステムに有用であり、特に、移動局が各基地局の通信エリアを移動する場合に適している。
【符号の説明】
【0052】
1−1、1−2、1−3 基地局
2−1、2−2、2−3 アンテナ
3 移動局
4 アンテナ
11 メモリ部
12 伝搬遅延決定部
13 送信タイミング決定部
14 送信制御部
20 上位局
21 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基地局が同期しており、各基地局が同一周波数で同一信号を移動局へ送信する無線通信システムであって、
各基地局は、自局の通信エリア内の前記移動局に対して、前記移動局と自局との間に発生する伝搬遅延時間に基づいて、前記移動局へ送信する信号の送信タイミングを制御する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記基地局は、前記伝播遅延時間と前記信号の送信タイミングを遅らせた時間との合計時間が同一となる送信タイミングで信号を送信する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記伝搬遅延時間は、前記移動局の位置と自局の位置との相対距離に比例した値とする、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記移動局は、前記移動局が自局からの伝搬遅延時間が最も短い位置にいる場合、自局が構成する無線通信エリアにおける最大遅延伝播時間だけ信号の送信タイミングを遅延させる、
ことを特徴とする請求項1、2または3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記基地局は、自局の通信エリアを含む所定の大きさの通信エリアを構成する基地局の中で最も大きい伝搬遅延が発生する基地局の最大遅延伝搬時間を、自局の最大遅延伝播時間とする、
ことを特徴とする請求項1、2または3に記載の無線通信システム。
【請求項6】
送信信号がOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)変調の場合、
前記基地局は、前記移動局が自局に近づくときはフレームまたはシンボル単位でガードインターバルのサンプル数を増加し、前記移動局が自局から遠ざかるときはフレームまたはシンボル単位でガードインターバルのサンプル数を減少させる、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の無線通信システム。
【請求項7】
送信信号がシングルキャリア変調の場合、
前記基地局は、前記移動局が自局に近づくときはクロック幅を広くし、前記移動局が自局から遠ざかるときはクロック幅を狭める、または前記移動局が自局に近づくときは同一のサンプルを1回以上重複して送信し、前記移動局が自局から遠ざかるときはサンプルを除去する、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の無線通信システム。
【請求項8】
請求項1〜7の無線通信システムを構成する基地局であって、
移動局へ送信する送信データを保持するメモリ手段と、
前記移動局と自局との位置関係を示す伝搬遅延決定用データに基づいて伝搬遅延量を決定する伝搬遅延決定手段と、
前記伝搬遅延量に基づいて送信タイミングを決定する送信タイミング決定手段と、
前記送信タイミングで前記メモリ手段から読み出した送信データに変調処理を施し、前記送信タイミングに従って前記移動局へ送信信号を出力する送信制御手段と、
を備えることを特徴とする基地局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−98783(P2013−98783A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240378(P2011−240378)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】