説明

無線通信基地局

【課題】基地局が、短い時間で送信用のアレイ重みを決めて重み付けすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】端末にパケットを送信するアレイアンテナと、前記パケットの送信順序を決定するパケットスケジューラと、前記パケットに基づいて変調を信号を生成する変調器と、前記パケットに送信用のアレイ重みを乗じて前記アレイアンテナに出力する送信ビーム形成部とを備え、複数の端末に前記パケットを送信する無線通信基地局において、前記送信ビーム形成部は、端末のIDと前記送信用のアレイ重みとを対応付けて記憶するテーブルを備え、前記パケットスケジューラから端末のIDを受信し、前記テーブルを参照することによって、当該端末のIDに基づいて前記送信用のアレイ重みを選択することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイアンテナを有する無線通信基地局に関し、特に高速にアレイアンテナに重み付けを行う基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
基地局が、複数の端末に同一の周波数で同時に信号を送信する空間分割多重(SDM)技術がある。この空間分割多重において、スループットを低下させないようにスケジューリングする方法として、3つの従来技術が知られている。
【0003】
第1の従来技術は、非特許文献1に記載されているスケジューリングの方法である。
【0004】
基地局は、端末から受信した伝搬路情報を使って、スループットを予測し、そのスループットが最大となる端末を第1の端末とする。そして基地局は、第1の端末の指向性パタンを算出する。
【0005】
次に基地局は、任意の端末を1つ選択し、その端末の指向性パタンを算出する。そして基地局は、第1の端末の指向性における選択した端末の方向でのアレイ利得が閾値以下で、且つ選択した端末の指向性における第1の端末の方向でのアレイ利得が閾値以下となる端末を第2の端末の候補とする。基地局は、すべての端末にこの動作を繰り返し、第2の端末の候補を決める。
【0006】
基地局は、第2の端末の候補となった端末からの伝搬路情報からスループットを予測し、予測したスループットが最大となる端末を第2の端末とする。このようにして、基地局が、同一周波数を複数の端末にスケジューリングする技術が知られている。
【0007】
第2の従来技術は、特許文献1に記載されているスケジューリングの方法である。
【0008】
基地局は、通信する端末をいくつかのグループに分ける。このグループは、グループ内で端末同士の干渉が小さくなるように決める。基地局は、端末のスループットの合計をグループごとに計算し、そのスループットの合計が最大となるグループの端末にスケジューリングする技術が知られている。
【0009】
第3の従来技術は、特許文献2に記載されているスケジューリングの方法である。
【0010】
基地局は、前述した第1の従来技術と同じように、スループットが最大となる端末を第1の端末とする。そして基地局は、第1の端末と方位の推定値の差が一定値以上である(角度が離れた)端末を、第2の端末としてスケジューリングする技術が知られている。
【特許文献1】特開2003−110485号公報
【特許文献2】特開2003−110486号公報
【非特許文献1】大藤他、下りリンク高速パケットにおける複数指向性ビーム送信を行うスケジューリング法の検討、2002電子情報通信学会ソサエティ大会B−5−88、2002年9月13日発表
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
FDDシステム(例えば、cdma2000 1xEV-DO方式)では、基地局は、端末から伝搬路情報を1秒間に600回も受信する。よって、基地局は、この頻度でスケジューリングを行っているため、スケジューリングを行ってからパケットを送信するまでの時間は少ない。前述した従来技術では、基地局が、高速に送信用のアレイ重みを決めて重み付けする方法がなかった。よって、基地局は、スケジューリング後に重み付けをしたのでは処理が間に合わない。
【0012】
また、基地局は、スケジューリングにおいて指向性の計算を行っているが、指向性を決定するための計算量は大きいので、パケットを同時に送信可能な端末を短い時間で判定することができない。
【0013】
本発明は、基地局が、短い時間で送信用のアレイ重みを決めることを目的とする。更に、基地局が、スケジューリングの際の計算量を低減することによって、同時に送信可能な端末を短い時間で判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、端末にパケットを送信するアレイアンテナと、前記パケットの送信順序を決定するパケットスケジューラと、前記パケットに基づいて変調を信号を生成する変調器と、前記パケットに送信用のアレイ重みを乗じて前記アレイアンテナに出力する送信ビーム形成部とを備え、複数の端末に前記パケットを送信する無線通信基地局において、前記送信ビーム形成部は、端末のIDと前記送信用のアレイ重みとを対応付けて記憶するテーブルを備え、前記パケットスケジューラから端末のIDを受信し、前記テーブルを参照することによって、当該端末のIDに基づいて前記送信用のアレイ重みを選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基地局は、短い時間で送信用のアレイ重みを決めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
まず、第1の実施の形態として、基地局がNULLを作成しない場合の実施の形態について説明する。ここで、NULLとは、基地局が、他の端末の通信の干渉を低減するため、特定の端末の方向からの信号を除去する、又はその方向へ電波を送信しないことである。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施の形態の基地局及び基地局と通信する端末のシステム構成図である。
【0019】
本実施の形態の無線通信システムは、基地局1、端末2A、端末2B、端末2C、端末2D、端末2E及び端末2Fによって構成される。すべての端末2は、基地局1と通信可能な領域内に存在する。
【0020】
基地局1は、通信領域内に所定のタイミングでパイロット信号を送信する。端末2は、パイロット信号を受信し、受信したパイロット信号から下り(基地局→端末)の伝搬路状況を推定する。そして端末2は、基地局1に伝搬路状況の推定結果(伝搬路情報)を送信する。その頻度は、無線通信方式によって異なるが、例えばcdma2000 1xEV-DO方式で600回/秒、W-CDMA HSDPA方式で500回/秒である。
【0021】
FDDシステムでは、上り(端末→基地局)と下りで使用する周波数が異なるため、基地局1は、受信した上りの信号から下りの伝搬路状況を推定できない。そのため、端末2は、基地局1のパイロット信号から下りの伝搬路状況を推定し、基地局1に伝搬路情報を送信する。
【0022】
基地局1は、受信した伝搬路情報からパケットを送信する端末2を決定するスケジューリングを行う。具体的には、基地局1は、受信したすべての端末2の伝搬路情報を比べて、伝搬路状況の良い端末に優先的にスケジューリングする。更に基地局1は、ある端末2の伝搬路状況が悪くなる時間帯では他の伝搬路状況の良い他の端末2にスケジューリングする。このようにしてフェージングの影響を最小限とし、周波数の利用効率を向上する。
【0023】
基地局1は、スケジューリングに従って端末2にパケットを送信する。基地局1は、端末2に指向性3を向けてパケットを送信する。基地局1は、指向性3を向けてパケットを送信することによって、同一の周波数で同時に複数の端末2に対してパケットを送信することができる。このように、複数の端末2に同一の周波数で同時にパケットを送信する技術を空間分割多重(SDM)という。
【0024】
このとき基地局1は、後述するように、互いの通信の干渉による伝搬路状況の劣化が所定値以下であるか否かを判定する。劣化が所定値以下の場合には、基地局1は、端末2A及び端末2Cに同一周波数で同時にパケットを送信する。
【0025】
図2は、本発明の第1の実施の形態の基地局1のブロック図であり、上りがCDMA方式で、下りがシェアードチャネルを使ったTDMA方式である場合を説明する。
【0026】
まず、上りの信号の流れに従って、基地局1の構成を説明する。
【0027】
アンテナ101は、端末2からの信号を受信又は端末2に信号を送信する。デュプレクサ102は、受信信号をパス検出部103及びフィンガ部104に送り、送信信号をアンテナ101から端末2に送信する。
【0028】
パス検出部103は、マッチドフィルタやスライディング相関器を利用して、コード位相を検出する同期処理を行い、フィンガ部104に検出したコード位相を入力する。パス検出部103は、例えばマッチドフィルタを利用する場合、受信信号と特定のコード位相を持つパイロット信号との相関を演算し、雑音と干渉レベルの和に対して所定の閾値以上となる相関を判定し、その相関が得られたコード位相のタイミングでパスを検出し、同期が確立したとする。
【0029】
パス検出部103は、その内部に受信ビーム形成部105相当の機能を持ち、予め定められた受信用のアレイ重みWRXを乗じて重み付けをした受信信号に、同期処理を行うことによって、パス検出の感度を向上させることも可能である。
【0030】
フィンガ部104は、パス検出部103から入力されたコード位相を使って、端末2からの信号を逆拡散する。そしてフィンガ部104は、受信ビーム形成部105及びビーム形成制御部109に逆拡散した信号を送る。ここで、逆拡散時の拡散利得はGで表される。
【0031】
ビーム形成制御部109は、逆拡散した信号から受信用のアレイ重みWRX及び送信用のアレイ重みWTXを求める。
【0032】
まず、ビーム形成制御部109は、サブスペース法によって、受信用のアレイ重みWRXを求める。フィンガ部104は、ビーム形成制御部109に各アンテナごと及び各パス位相ごとに対応する信号(r(N)あるいはr(N))を入力する。次に入力された信号から相関値rKLを求める。そして、相関値rKLから相関行列が求められる。
【0033】
【数1】

【0034】
ビーム形成制御部109は、ある特定のパス位相について考えると、アンテナの数と同数の信号が入力されるため、相関行列(数式1のR)はアンテナ数分の行と列をもつ行列となる。この相関行列(数式1のR)は逆拡散後の信号から求めているため、希望波の信号サブスペース(数式1のRSS)が支配項であり、比較的少ない加算数で信号サブスペースを抽出することができる。
【0035】
ただし、この信号には干渉成分のサブスペースRNNが混入しているため、取り除く必要がある。そのためにわざとパス位相Gを除いたフィンガ部104の出力R′を、数式2を用いて求める。
【0036】
【数2】

【0037】
さらに、干渉成分のサブスペースRNNを取り除くため、数式3の演算を行う。
【0038】
【数3】

【0039】
これによって得られた希望波の信号サブスペースRSSに対して固有値演算を施すと、受信用のアレイ重みWRXを数式4で得る。ここで、max{eig(X)}は、最大固有値の固有ベクトルを取り出す演算を示す。
【0040】
【数4】

【0041】
本実施の形態では、受信用のアレイ重みWRXをサブスペース法で求めたが、適応制御を行うMMSE/LMSやMMSE/RLS等で求めてもよい。
【0042】
次に、ビーム形成制御部109は、送信用のアレイ重みWTXを求める。本実施の形態はFDDシステムであり、上りと下りとで使用する周波数が異なるので、受信用のアレイ重みWRXと送信用のアレイ重みWTXは異なる。
【0043】
しかし、上りと下りとの周波数の差が比帯域として数%以内で、アンテナ間隔が0.5波長程度であれば、受信用のアレイ重みWRXと送信用のアレイ重みWTXとの差は少ない。よって、送信用のアレイ重みWTXは、受信用のアレイ重みWRXを用いることができる。
【0044】
送信用のアレイ重みWTXは、既知の他の方法を活用して生成してもよい。
【0045】
例えば、電気長において等価となる2系の送信用アンテナ及び受信用アンテナを併設することによって、受信用のアレイ重みWRX及び送信用のアレイ重みWTXに同一の値を用いる技術を適用してもよい。
【0046】
他にも、送信用のアレイ重みWTXは、上りと下りの周波数の差から演算して、受信用のアレイ重みWRXを補正して求めてもよい。
【0047】
ビーム形成制御部109は、受信ビーム形成部105に受信用のアレイ重みWRXを入力し、送信ビーム形成部113及び相関器110に送信用のアレイ重みWTXを入力する。
【0048】
受信ビーム形成部105は、逆拡散した信号に受信用のアレイ重みWRXを乗じて重み付けすることによって、受信ビームを形成する。更に、受信ビーム形成部105は、パスごとの合成(RAKE合成)を行い、復調器106に合成した信号を送る。
【0049】
復調器106は、合成した信号にデインタリーブや伝送路符号等の復調処理を行い、ユーザデータを復調する。そして復調器106は、ネットワークインターフェース部107を介してネットワーク115に復調した信号を送る。以上で上りの通信の処理は完了する。
【0050】
次に、下りの信号の流れに従って、基地局1の構成を説明する。
【0051】
送信キュー部108は、ネットワーク115からネットワークインターフェース部107を介してユーザデータを受信し、蓄積する。そして、送信キュー部108は、ユーザデータを蓄積している端末のIDをパケットスケジューラ111に通知する。送信キュー部108に蓄積されているユーザデータは、パケットスケジューラ111のスケジューリングに従って、変調器112に送る。
【0052】
復調器106は、パケットスケジューラ111に伝搬路情報又はデータ伝送レート入力する。具体的には、例えばcdma2000 1xEV-DOの場合、端末2が、基地局1が送信するパイロット信号を観測し、基地局1にパイロット信号から推定した伝搬路状況の結果(伝搬路情報)又はデータ伝送レートを送信する。端末からの信号を復調した復調器106は、、復調した信号から伝搬路情報又はデータ伝送レートを抽出し、パケットスケジューラ111に入力する。
【0053】
相関器110は、送信用のアレイ重みWTX間の相関(アレイ相関)を計算し、計算したアレイ相関をパケットスケジューラ111に入力する。
【0054】
パケットスケジューラ111は、入力されたすべての情報から後述するような方法でスケジューリングを行う。そしてパケットスケジューラ111が、スケジューリングによってパケットを送信する端末2を決定すると、送信キュー部109に対して、決定した端末2のユーザデータを変調器112に送るように指示する。更に、パケットスケジューラ111は、変調器112に変調方式及び拡散率の情報を通知する。変調方式は、例えばターボ符号化を用いることができる。
【0055】
変調器112は、通知された変調方式でユーザデータによる変調をして、送信ビーム形成部113に入力する。変調器112は一つしか図示していないが、信号を同時に送信する端末の最大数だけの変調器が設けられている。
【0056】
送信ビーム形成部113は、後述するような構成を有し、入力された信号に送信用のアレイ重みWTXを乗じて重み付けをすることによって送信ビームを形成する。ただし、送信ビーム形成部113は、正しく重み付けをするために、ケーブル長の相違等でアンテナ個別に発生した電気長の違いを補償する必要がある。
【0057】
そして、送信ビームは、デュプレクサ102を介してアンテナ101に供給され、電波として端末2に送信される。
【0058】
キャリブレーション手段114は、アンテナ101の端で信号を監視して、予測した通りの位相及び振幅の信号が送信されているか否かを調査する。キャリブレーション手段114は、予測した通りの信号が送信されていない場合には、送信ビーム形成部113に通知する。
【0059】
通知を受けた送信ビーム形成部113は、送信用のアレイ重みWTXの振幅及び位相回転量を調整する。
【0060】
図3の(a)は、本発明の第1の実施の形態の送信ビーム形成部113のブロック図であり、NULLを作成しない場合である。
【0061】
送信ビーム形成部113は、メモリ201、ラッチ回路204、分割器203及び乗算器202から構成される。
【0062】
メモリ201は、図5の(b)のような端末2のIDに対応して送信用のアレイ重みWTXが格納されたテーブルが記憶されている。この送信用のアレイ重みWTXは、ビーム形成制御部109によって、0.1秒から0.5秒程度の比較的ゆっくりした頻度で更新される。
【0063】
メモリ201は、パケットを送信する端末のIDをパケットスケジューラ111から受信する。メモリ201は、テーブルと照合することによって、受信したIDから送信用のアレイ重みWTXを取得し、ラッチ回路204に入力する。
【0064】
ラッチ回路204は、端末2へパケットの送信が終了するまで、入力された送信用のアレイ重みWTXを保持し、パケットの送信のタイミングで乗算器202に送信用のアレイ重みWTXを入力する。
【0065】
分割器203は、変調器112から入力された信号をアンテナの数と同一の数の信号に分割し、乗算器202に分割した信号を入力する。乗算器202は、分割した信号に送信用のアレイ重みWTXを乗じて重み付けをしてビームを形成する。
【0066】
従来、パケットスケジューラ111のアルゴリズムについての技術はあったが、送信ビーム形成部113で、高速にアレイ重みを決めて重み付けをする技術がなかった。
【0067】
本実施の形態の送信ビーム形成部113は、パケットを送信する端末2のIDを受信し、テーブルでそのIDを照合し、予め計算した送信用のアレイ重みWTXを選択して重み付けするだけなので、高速に送信用のアレイ重みWTXを更新することができる。
【0068】
図4は、本発明の第1の実施の形態のパケットスケジューラ111のフローチャートである。
【0069】
まず、パケットスケジューラ111は、基地局1と通信する端末の数Kを1に初期化する(601)。パケットスケジューラ111は、相関器110より送信用のアレイ重みWTX間の相関(アレイ重み相関ρ)を入手する(602)。
【0070】
次にパケットスケジューラ111は、送信キュー部108から送信するユーザデータが蓄積されている端末のIDを取得する(603)。ここで、端末のIDは、少なくとも基地局1の中で一意であればよい。
【0071】
パケットスケジューラは、復調部106より伝搬路情報又はデータ伝送レートを入手する(604)。
【0072】
そして、パケットスケジューラ111は、プロポーショナルフェアネスを使って、第K番目の端末を決定する(605)。プロポーショナルフェアネスとは、スケジュールの対象となっている端末の評価関数を計算し、評価関数の最も高い端末を選択する計算方法である。
【0073】
具体的には、パケットスケジューラ111は、評価関数を数式5で計算する。
【0074】
【数5】

【0075】
DRCは、端末から受信した伝搬路情報に基づくデータ伝送レートである。Raveは、評価関数を求める端末のデータ伝送レートを忘却平均した値である。忘却平均とは、1よりも小さい忘却係数をかけて、過去の保持値と加算する演算であり、IIRフィルタと同様の動作をさす。この評価関数は、端末の送信するデータ伝送レートが、今までのデータ伝送レートの忘却平均値に比べて高いか低いかを評価する。
【0076】
パケットスケジューラ111は、評価関数の最も高い端末を選択することによって、過去のデータ伝送レートに比べて伝搬路状況がよい端末に、優先的にスケジューリングする。このように、パケットスケジューラ111は、プロポーショナルフィアネスを使うことによって、端末ごとの公平性を保ちながらスケジューリングすることが可能となる。
【0077】
次に、第K番目の端末を決定したパケットスケジューラ111は、送信キュー部108に、通信する端末の数K、第K番目の端末のID、変調方式及び拡散率の情報(MCS)を通知する(606)。
【0078】
通知を受けた送信キュー部108は、第K番目の端末に送るユーザデータ及びデータ量を決定する。パケットスケジューラ111は、変調器112にMCS及び通信する端末の数Kを通知する(607)。通知を受けた変調器112は、第K番目の変調器112の変調方式を決定する。第K番目の変調器112は、決定した変調方式で送信キュー部108からのユーザデータによって変調をし、送信ビーム形成部113に送信する。
【0079】
パケットスケジューラ111は、送信ビーム形成部113に第K番目の端末のID及び通信する端末の数Kを通知する(608)。通知を受けた送信ビーム形成部113は、第K番目の変調器112から受信した情報に重み付けする送信用のアレイ重みWTXを選択する。
【0080】
次にパケットスケジューラ111は、Kを1つ増やした時の伝搬路状況(S/I)の劣化を計算する。そしてパケットスケジューラ111は、劣化が閾値以下であれば第K+1番目の端末の追加は可能であると判定し、劣化が閾値より大きければ第K+1番目の端末の追加は不可能であると判定する(609)。
【0081】
追加が不可能であれば、パケットスケジューラ111は、本スロットでの処理は終了する。追加が可能であれば、Kを1つ増やす(610)。
【0082】
パケットスケジューラ111は、後述するようにアレイ重み相関ρを使って、追加することが可能な端末の候補を選択する(611)。候補を選択したパケットスケジューラ111は、第K+1番目の端末を決定するステップ605に戻る。
【0083】
ステップ611における追加が可能な端末の候補の選択は以下の方法によって行う。
【0084】
例えば、パケットスケジュラ111は、第2番目の端末の候補を選択する場合、第1番目の端末と第2番目の端末とのアレイ重み相関ρ12及びρ21が所定の値以下となる端末を候補として選択する。ここで、アレイ重み相関ρXYとは、基地局1と第Y番目の端末との通信によって、第X番目の端末の送信用のアレイ重みWTXに与える影響である。
【0085】
候補を選択したパケットスケジューラ111は、ステップ605に戻り、選択した候補の端末からプロポーショナルフェアネスの評価関数が最大となる端末を第2番目の端末に決定する。
【0086】
パケットスケジューラ111は、第3番目の端末の候補を選択する場合も、同様に、アレイ重み相関ρを使う。具体的には、パケットスケジューラ111は、第1番目の端末のアレイ重み相関の合計ρ1213及び第2番目の端末のアレイ重み相関の合計ρ2123が所定の値以下となる端末を選択する。そして、パケットスケジューラ111は、ステップ605に戻り、第3番目の端末を決定する。
【0087】
パケットスケジューラ111は、同様に第K(K=4、5、・・)番目の端末の候補を選択する。
【0088】
ここで、パケットスケジューラ111が、このようにアレイ重み相関ρを使って、追加する端末の候補を選択できる理由を説明する。
【0089】
基地局1が、第1番目の端末と通信を行っているときに第2番目の端末と通信を行うと、第1番目の端末の通信において干渉が生じる確率が増加する。基地局1と第2番目の端末との通信によって、第1番目の端末の伝搬路状況は、数式6のように劣化する。
【0090】
【数6】

【0091】
よって数式6から、第1番目の端末の伝搬路状況の劣化の度合いは数式7の左辺となる。数式7では、第1番目の端末の伝搬路状況の劣化の度合いが閾値δ以下であれば干渉の影響が問題とならないような閾値δを設定する。閾値δは、1より大きい実数である。
【0092】
【数7】

【0093】
数式7を変換すると、アレイ重み相関ρ12は数式8のようになる。
【0094】
【数8】

【0095】
数式8からアレイ重み相関ρ12がある所定の値(数式7の右辺の値)以下である端末を第2番目の端末とすれば、第1番目の端末の伝搬路状況の劣化は閾値δ以下となる。
【0096】
よって、パケットスケジューラ111は、アレイ重み相関ρだけを使って、伝搬路状況の劣化が判定できるので、干渉の影響の少ない端末の候補を選択することができる。
【0097】
逆に、第1番目の端末の通信は、第2番目の端末の伝搬路状況を劣化させる。第2の端末の伝搬路状況の劣化は、数式7と同様に、数式9で表せる。
【0098】
【数9】

【0099】
数式9を変形すると、アレイ重み相関ρ21は数式10のようになる。
【0100】
【数10】

【0101】
パケットスケジューラ111が、数式8及び数式10を満たすアレイ重み相関ρの端末を第2番目の端末とすれば、同時に同じ周波数で2つの端末と通信しても、干渉による伝搬路状況の劣化の度合いは閾値δ以下となる。
【0102】
また、パケットスケジューラ111は、すべての端末に、追加することが可能な端末の候補を選択する動作(611)を繰り返すことによって、第K+1番目の端末を追加可能か否かの判定(609)も行うことができる。
【0103】
例えば、基地局1からすべての端末への送信電力が同じであるとすれば、パケットスケジューラ111は、数式11によって、第1番目から第n番目の端末に追加が可能か否かを判定できる。
【0104】
【数11】

【0105】
追加が可能か否かの判定(609)では、パケットスケジューラ111は、既に割り当て済みの第1番目から第K番目の端末それぞれに対して、数式11が成立する第K+1番目の端末が存在するか否かを判定する。更に、パケットスケジューラ111は、この判定によって、第K+1番目の端末の候補を選択するステップ611も同時に行うことができる。
【0106】
本実施の形態では、パケットスケジューラ111は、追加が可能な候補をアレイ重み相関ρだけで選択するので、従来の方位角を求めて追加が可能な候補を選択する技術よりも演算量が少ない。一般に、方位角はMUSIC法などで求める必要があり、計算量が多いからである。
【0107】
(第2の実施の形態)
第2の実施形態として、基地局1がNULLを作成する場合の実施の形態について説明する。

基地局の構成は、図2と同様であり、説明は省略する。
【0108】
まず、上りの信号の処理の過程を考えると、送信ビーム形成制御部109が計算する受信用のアレイ重みWRXが異なる。
【0109】
NULLを作成する場合の受信用のアレイ重みWNULLは、干渉成分のサブスペースRNNを取り除く際に、干渉成分のサブスペースRNNを正確に求める必要があり、数式12の演算を行う。
【0110】
【数12】

【0111】
これを使ってNULLを作成する場合の受信用のアレイ重みWNULLは、数式13で得られる。
【0112】
【数13】

【0113】
次に、下りの信号の処理の過程を考えると、送信ビーム形成部113のメモリに記憶されているテーブル及びスケジューラ111から受信する端末のIDが異なる。
【0114】
図5の(a)は、本発明の第2の実施の形態の送信ビーム形成部113のメモリのブロック図であり、NULLを作成する場合である。、本実施の形態のメモリ301は、前述した図3のメモリ201に代わって設けられる。。
【0115】
NULLを作成する場合のメモリ301は、図5の(b)のようなパケットを送信する端末のID及びNULLを作成する端末のIDに対応して、NULLを作成する場合の送信用のアレイ重みWNULLを格納したテーブルが記憶されている。なお、図5の(b)では、NULLを作成する端末は1つだが、テーブルの次元を変化させることによって、任意の数にすることも可能である。
【0116】
NULLを作成する場合の送信用のアレイ重みWNULLは、数式14で求める。ここでRSSはNULLを作成する端末の信号サブスペースである。
【0117】
【数14】

【0118】
メモリ301は、パケットスケジューラ111から、パケットを送信する端末のID(ADDR01)だけではなく、NULLを作成する端末のID(ADDR02)も受信する。
【0119】
IDを受信したメモリ301は、テーブルを参照して、これらのIDに対応した送信用のアレイ重みWNULLを選択する。
【0120】
以降の処理は、第1の実施の形態と同様であり、本発明はNULLを作成する場合でも実施することが可能である。
【0121】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、通信方式がOFDMA方式の場合の実施の形態について説明する。
【0122】
図6は、本発明の第3の実施の形態の基地局1のブロック図であり、OFDMA方式の場合である。
【0123】
OFDMA方式の場合の実施の形態は、前述した第1の実施の形態の図2と処理の流れは同様なので、特に異なる構成について説明する。なお、図2と同じ構成は同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0124】
上りの信号の処理の過程の基地局の構成で第1の実施形態と異なるのは、パス検出部103及びフィンガ部104に代わってFFT部404が設けられたことである。
【0125】
FFT部404は、フーリエ変換演算を行い、入力された信号をサブキャリヤごとの信号に分割し、受信ビーム形成部105及びビーム形成制御部109に入力する。受信ビーム形成装置105は、入力されたサブキャリヤごとの信号に受信用のアレイ重みWRXを乗じて重み付けをして、送信ビームを形成する。これ以外の基地局1の上りの信号の処理は、第1の実施の形態の図2と同様である。
【0126】
下りの信号の処理の過程の基地局の構成で第1の実施の形態と異なるのは、IFFT変換部416が設けられたことである。
【0127】
変調器112は、ユーザデータを複数のサブキャリヤ(例えば、図6では3つのサブキャリヤ)の信号に変調し、送信ビーム形成部113に入力する。送信ビーム形成部113は、すべてのサブキャリヤの信号に送信用のアレイ重みWTXを乗じて重み付けをし、IFFT変換部に送る。
【0128】
IFFT変換部416は、重み付けした信号に逆フーリエ変換演算を行い、送信ビームを広帯域信号に変換する。そして、変換した信号をデュプレクサ102を介してアンテナ101から送信する。これ以外の基地局1の下りの信号の処理は、第1の実施の形態の図2と同様である。
【0129】
このように、本発明は、OFDMA方式にも適用することが可能である。
【0130】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態は、マルチスロット割り当てを適用した場合の実施の形態について説明する。
【0131】
図7は、本発明の第4の実施の形態のマルチスロット割り当てを適用した場合のスケジューリング表であり、横軸が時間(スロット番号)、縦軸が空間を表す。
【0132】
マルチスロット割り当てとは、データ伝送レートを落として複数のスロットを使って情報を送る方法であり、端末が遠方にあるなどの理由で伝搬路状況が悪いときに有効である。
【0133】
マルチスロット割り当てでは、基地局1は、ある端末にスロットS1でパケット501を送信すると、同一の端末にスロットS5でパケット502及びスロットS9でパケット503を送信することが決まる。
【0134】
この場合、基地局1は、スケジューリングを行う前にスロットS5でパケット502の送信が決まっている。よって、パケットスケジューラ111は、第1番目の端末は既に決定しているとして、第2番目の端末を追加可能か否かの判定(609)から動作を始め、以後のステップは図4のスケジューリングの方法と同様である。
【0135】
このようにマルチスロット割り当てを適用した場合でも、本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、無線通信システムにおけるアレイアンテナの指向性の決定に適用することができ、端末から等送信された信号に基づいてアレイアンテナの指向性を決定するシステムに適用すると好適である。また、以上説明した実施の形態ではFDMA及びOFDMA方式について説明したが、他の多重化方式にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の第1の実施の形態の無線通信システムの構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の基地局のブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態の送信ビーム形成部のブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態のパケットスケジューラのフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施の形態の送信ビーム形成部のメモリのブロック図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態の基地局のブロック図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態のスケジューリング表である。
【符号の説明】
【0138】
1 基地局
2 端末
3 指向性
101 アンテナ
102 デュプレクサ
103 パス検出部
104 フィンガ部
105 受信ビーム形成部
106 復調器
107 ネットワークインターフェース部
108 送信キュー部
109 ビーム形成制御部
110 相関器
111 パケットスケジューラ
112 変調器
113 送信ビーム形成部
114 キャリブレーション部
115 ネットワーク
201 メモリ
202 乗算器
203 分配器
204 ラッチ回路
301 メモリ
404 FFT回路
416 IFFT変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末にパケットを送信するアレイアンテナと、
前記パケットの送信順序を決定するパケットスケジューラと、
前記パケットに基づいて変調信号を生成する変調器と、
前記パケットに送信用のアレイ重みを乗じて前記アレイアンテナに送る送信ビーム形成部と、を備え、
複数の端末に前記パケットを送信する無線通信基地局において、
前記送信ビーム形成部は、
端末のIDと前記送信用のアレイ重みとを対応付けて記憶する記憶部を備え、
前記パケットスケジューラから端末のIDを受信し、
前記記憶部を参照することによって、該端末のIDに基づいて前記送信用のアレイ重みを選択することを特徴とする無線通信基地局。
【請求項2】
前記送信ビーム形成部が前記パケットに送信用のアレイ重みを乗ずるより少ない頻度で、前記記憶部に記憶された送信用のアレイ重みを更新するビーム形成制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の無線通信基地局。
【請求項3】
前記送信用のアレイ重み間のアレイ相関を計算する相関器と、端末が推定した伝搬路状況を受信する受信部と、を備え、
前記パケットスケジューラは、前記アレイ相関及び前記伝搬路状況に基づいてパケットの送信順序を決定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信基地局。
【請求項4】
前記送信用のアレイ重み間のアレイ相関を計算する相関器と、端末から制御情報を受信する受信部と、前記制御情報から伝搬路状況を推定する伝搬路推定部と、を備え、
前記パケットスケジューラは、前記アレイ相関及び前記伝搬路状況に基づいてパケットの送信順序を決定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信基地局。
【請求項5】
前記送信ビーム形成部は、パケットの送信宛先の端末のID及びパケットの送信宛先以外の端末のIDに基づいて前記送信用のアレイ重みを選択することを特徴とする請求項1に記載の無線通信基地局。
【請求項6】
複数のサブキャリアの信号を合成して前記アレイアンテナから送信する信号に変換する合成変換部を備え、
前記送信ビーム形成部は、前記変調器によって生成された複数のサブキャリアの変調信号の各々に送信用のアレイ重みを乗じて前記合成変換部に送り、
前記合成変換部は、該信号を合成してアレイアンテナに送ることを特徴とする請求項1に記載の無線通信基地局。
【請求項7】
前記パケットスケジューラは、マルチスロット割り当てによって既にパケットの送信割り当てが決まっている端末がある場合には、該端末の伝搬路状況の劣化と所定値との比較結果に基づいて、他の端末にパケットを送信するか否かを決定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信基地局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−19846(P2006−19846A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193330(P2004−193330)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構「移動通信システムにおける高度無線信号処理技術の研究開発」委託研究、産業活力法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153465)株式会社日立コミュニケーションテクノロジー (770)
【出願人】(000153421)株式会社日立アドバンストシステムズ (9)
【Fターム(参考)】