説明

無線通信装置

【課題】 測定装置により測定された生体情報を、所定の端末に転送するにあたり、周囲の電磁環境への影響を抑えつつ、かつ少ない消費電力で実現できるようにする。
【解決手段】 コイル間の電磁結合により無線通信を行う無線通信装置であって、前記コイル303とコンデンサ302とが直列接続された回路部300と、前記回路部300に電圧を印加するとともに、前記無線通信により送信しようとする情報に対応した送信信号を供給することで、前記コイル303に印加される電圧信号を制御する制御部310と、を備え、前記制御部310は、前記回路部300に対して、前記コイル303と前記コンデンサ302とにより定まる固有共振周波数の矩形波を、前記送信信号として供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル間の電磁結合により無線通信を行う無線通信装置に関するものである。特に、電子体温計、電子血圧計、血糖計等の生体情報測定装置により測定された、体温、血圧、血糖等を無線通信する無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療施設では、患者の健康状態を把握する目的で、体温や血圧、血糖値等の各種生体情報の収集ならびに管理を行っている。
【0003】
通常、収集された生体情報はキーボード等を介して測定者が手入力することにより電子データ化され、医療データサーバに格納された後、当該医療データサーバにて管理される。
【0004】
ここで、患者の生体情報を電子データ化するにあたりキーボード等を介して手入力により行ったのでは測定者の作業負荷が大きいことから、最近では、測定した生体情報を無線通信により転送する方法が検討されている。
【0005】
具体的には、体温計や血圧計、血糖計などの生体情報測定装置(以下、単に「測定装置」と称す)により測定された生体情報を所定の端末(例えば、患者のベッドサイドにある端末)に一旦転送し、該端末が、施設内LANを介して当該生体情報を医療データサーバに送信するシステムなどが考えられている。
【0006】
かかるシステムのように、無線通信による生体情報の転送が可能であれば、測定者および患者は測定装置に接続されたであろう配線の煩わしさから解放されるうえ、測定者にとっては作業負荷が減り、かつ作業上のミスも低減できるようになるなど、様々なメリットが得られる。
【0007】
そして、かかるシステムを実現するための無線通信装置として、例えば、電波による無線通信装置や電磁伝送による無線通信装置(RF−ID等)などが考えられる。
【特許文献1】特開2003−76791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電波による無線通信の場合、無線通信装置自身が電源を消費するため、測定のための小型の内部電源しか搭載していない測定装置には不適当であるという問題がある。かかる装置に電波用の無線通信装置を搭載することとすると、測定者は頻繁に電池交換を行ったり、充電を行ったりしなければならず、利便性が悪いからである。
【0009】
一方、電磁伝送による無線通信の場合、外部から電源を供給して通信を行うため、かかる問題を回避できる反面、電源供給にあたり電磁波を用いる必要があり、周囲の電磁環境を乱すという問題がある。特にペースメーカなどは電磁波の影響で誤作動を起こす可能性が指摘されていることから、ベッドサイドでの利用に際して電磁環境が大きく乱れる電源供給方法を適用するのは妥当ではない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、周囲の電磁環境への影響が小さく、かつ消費電力の少ない無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、例えば、本発明に係る無線通信装置は、以下のような構成を備える。即ち、
コイル間の電磁結合により無線通信を行う無線通信装置であって、
前記コイルとコンデンサとが直列接続された回路部と、
前記回路部に電圧を印加するとともに、前記無線通信により送信しようとする情報に対応した送信信号を供給することで、前記コイルに印加される電圧信号を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記回路部に対して、前記コイルと前記コンデンサとにより定まる固有共振周波数の矩形波を、前記送信信号として供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、周囲の電磁環境への影響が小さく、かつ消費電力の少ない無線通信装置を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、必要に応じて添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0014】
1.生体情報収集・管理システムの構成
図1は本発明の一実施形態にかかる無線通信装置を備える測定装置および患者用端末ならびに、該測定装置により測定された生体情報を収集・管理する医療データサーバを備える生体情報収集・管理システム(100)の構成を示す図である。
【0015】
110は測定装置であり、体温計、血圧計、血糖計等、患者の生体情報を測定するための装置の総称である。120は患者用端末であり、測定装置110から転送される患者の生体情報(測定装置により測定されたデータであることから、以下、「測定データ」ともいい、本実施形態では、2値化されたビットデータであるものとする)を一旦受信し、当該生体情報をLAN150等を介して医療データサーバ130に送信する。
【0016】
なお、患者用端末120は、患者のベッドサイドに固定配置された(つまり、患者ごとに割り当てられた)専用端末である。
【0017】
130は医療データサーバであり、受信した測定データを患者IDと対応付けて記憶するための専用アプリケーションを搭載した汎用計算機または専用端末である。
【0018】
2. 測定装置(110)の構成
測定装置110は、サーミスタ・圧力計・フォトセンサ等から得られた電気的情報から測定データ(2値化されたビットデータ)を確定するためのセンサ部111と、測定データや測定装置の状態等、各種情報を表示するためのLCDやLED等の表示部115と、測定データを患者用端末120に転送するための無線通信部(無線通信装置)112と、各部を制御する制御部114と、電源を供給する電源部113とを備える。
【0019】
図2に測定装置110の1つの具体例である体温計の外観構成を示す。体温計200は、LCD等により実現される表示部202を備える。表示部202の中には、体温等の測定データを表示する測定データ表示部204と、測定データを患者用端末120へ転送可能な状態であるか否かを示す転送可否表示部203とを備える。
【0020】
体温計200は、体温測定中等、測定データが定まっていない場合には、患者用端末120への測定データの転送は行わない。測定データの転送を行うことができない場合には、図2のように表示部202の転送可否表示部203を消灯する。これにより測定者は内部状態を容易に判読できる。
【0021】
一方、体温測定が終了し、測定データを患者用端末120に転送可能な状態になると、表示部202の転送可否表示部203が点灯する。さらに、測定データの転送が正常に終了した場合には、再び表示部202の転送可否表示部203を消灯する。これにより測定者は内部状態を容易に判読することができる。
【0022】
3. 患者用端末(120)の構成
患者用端末120は、測定装置110の無線通信部112と無線通信を行い、測定データを受信するための無線通信部122と、測定装置110から受信した測定データと通信装置ID(通信装置ごとに規定されたID)とを医療データサーバ130に送信するための通信部123と、各部を制御する制御部121と、電源を供給する電源部124とを備える。なお、通信部123による通信は、TCP/IPやRS232C等のプロトコルにより実現されるものとする。
【0023】
4.無線通信部の説明
4.1 無線通信部の構成
次に測定装置110および患者用端末120の無線通信部112、122の構成について図3を用いて説明する。図3は無線通信部112、122の構成を示す図である。
【0024】
無線通信部112と122は、電磁結合による双方向の通信を行うよう構成されており、通信方式としてパルス位置変調方式を採用している。
【0025】
具体的な構成としては、回路部300と制御部310とを有し、回路部300は更に送受信コイル303と、コンデンサ302とを備えている。本実施形態において送受信コイル303はコンデンサ302と共振回路を構成する。そして、制御部310より回路部に送信される送信信号(キャリア)は、当該共振回路の固有共振周波数の矩形波である点に特徴がある(詳細は後述)。
【0026】
回路部300は更にロジックバッファ301を備え、矩形波として与えられる送信信号を制御部310より供給される電源電圧のHIGH/LOWレベル信号に変換する。
【0027】
また、回路部300は、抵抗器305を備える。抵抗器305は上記共振回路の共振信号(共振回路に供給される電圧信号)を短期間に減衰させる役割を果たす。通常、共振信号は送受信コイル303およびコンデンサ302に寄生する抵抗成分によって減衰するが、素子の寄生抵抗のばらつきにより減衰時間が回路部ごとにばらついてしまうため、該寄生抵抗より十分に小さい抵抗器305を付加することで該ばらつきを抑え、安定した回路部300を実現している。
【0028】
回路部300は更に、コンパレータ307を備える。コンパレータ307は、通信相手から送られてきた共振信号によって該共振回路に誘起した電圧信号(送受信コイル303周辺の磁界の変化により該共振回路に誘起した電圧信号)を、制御部310より供給される電源電圧のHIGH/LOWレベル信号(受信信号)に変換する。なお、抵抗器304と抵抗器306はコンパレータ307の受信感度を設定する役割を果たす。
【0029】
4.2 無線通信部の送信信号
次に、無線通信部112、122の本実施形態の送信信号について図4Bを用いて説明する。なお、比較のために、図4Aに、一般的な送信信号を示す。
【0030】
はじめに図4Aに示す一般的な送信信号について説明する。図4Aの(a)は、2値化されたビットデータである測定データのうち1ビット分の送信信号の一般的な波形を示している。同図に示すように、一般に、1ビット分の送信信号としては、ステップ状の波形を有する信号401が用いられる。つまり、“HIGHからLOW”又は“LOWからHIGH”に1回だけ状態変化させるものが用いられる。
【0031】
制御部310よりこのような送信信号401が回路部300に入力された場合の、回路部300における共振信号の波形を図4A(b)に示す。図4A(b)は、横軸に時間(秒)を縦軸に電圧(V)をとり、制御部310より3Vの電源が供給された場合の共振信号の波形を示している。図4A(b)に示すように、送信信号401の入力に対して、共振信号402の振幅(最大電圧)は、供給される電圧(3V)とほぼ等しくなる。
【0032】
次に、図4Bを用いて、本実施形態の送信信号について説明する。図4B(a)は、1ビット分の送信信号の波形を示している。同図に示すように、本実施形態では、1ビット分の送信信号として、送受信コイル303とコンデンサ302とで構成される共振回路の固有共振周波数の矩形波が用いられる。つまり、“HIGHからLOW”又は“LOWからHIGH”の状態変化を複数回繰り返す信号が用いられる。なお、本実施形態では、固有共振周波数の矩形波を約3MHzとなるようにコイル303のインダクタンス、コンデンサ302の静電容量を設定している。こうして50mm程度までの通信が可能となっている。
【0033】
制御部310よりこのような送信信号411が回路部300に入力された場合の、回路部300における共振信号の波形を図4B(b)に示す。なお、本実施形態では、固有共振周波数の矩形波を約3MHzとなるようにコイル303のインダクタンス、コンデンサ302の静電容量を設定している。こうして50mm程度までの通信が可能となっている。図4B(b)は、横軸に時間(秒)を縦軸に電圧(v)をとり、制御部310より所定の電圧、例えば3Vの電源が供給された場合の共振信号の波形を示している。図4B(b)に示すように、本実施形態の送信信号によれば、共振信号412の振幅(最大電圧)は、供給される電圧(3V)より大きくなる。
【0034】
つまり、本実施形態のように送信信号の波形を変更することで、同じ電源電圧であっても、従来よりも大きな振幅の共振信号を出力することが可能となる。
【0035】
4.3 共振信号の振幅増大の原理
次に、上述のように、送信信号の波形を変更することで、共振信号の振幅を増大させることができる理由について図5を用いて説明する。
【0036】
図5に示すように、送信信号として矩形波を入力した場合、共振回路では矩形波のそれぞれの立ち上がりと立ち下がりにおいて共振信号が発生する。具体的には、立ち上がり501により共振信号511が、立ち下がり502により共振信号512が、立ち上がり503により共振信号513が、立ち下がり504により共振信号514が、立ち上がり505により共振信号515が、立ち下がり506により共振信号516がそれぞれ発生する。
【0037】
このため、複数の矩形波が連続する場合、最終的に出力される共振信号は、各共振信号を足し合わせたものとなる(511+512+・・・516)。
【0038】
ここで、矩形波の周波数は、固有共振周波数と一致するように制御されているため、それぞれの矩形波の立ち上がりと立ち下がりにおいて発生した共振信号は、相互に強めあうこととなり、結果的に、共振信号の振幅を増大させることとなる(412)。
【0039】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、測定装置110と患者用端末120との間の無線通信において、送信信号(キャリア)を、回路部の固有共振周波数の矩形波とすることで、同じ電源電圧を印加した場合であっても、回路部において発生する共振信号の電圧を高くすることが可能となる。つまり、従来の無線通信と比べて大幅に消費電力を抑えることが可能となる。
【0040】
なお、本実施形態では、測定装置110と患者用端末120との間の生体情報の送信において、電磁結合を用いることとしているが、電磁結合に必要な電源は、自身の内部電源を用いており、RF−IDを用いた場合などのように、電磁波を用いて電源供給を行う必要がないため、患者の電磁環境を乱すおそれがない。
【0041】
また、本実施形態では、通信可能範囲を1m未満とし、電磁結合による患者への影響をも配慮した構成となっている。なお、通信可能範囲を1m未満とするための具体的構成については特に言及しなかったが、例えば、アンテナ輻射効率及び/またはアンテナ受電効率を調整することにより実現してもよい。また、シールドを施すことにより、通信エネルギーの放射率及び/または透過率を制限することにより実現してもよい。
【0042】
また、本実施形態では、測定装置として体温計を例に挙げ、生体情報=体温の場合について説明したが、測定装置としては、体温計に限られず、また、生体情報も体温のほか、血圧、血糖値、血中酸素飽和度、脈拍数、心拍数、呼吸数、運動量等が含まれてもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態にかかる無線通信装置を備える測定装置および患者用端末、ならびに測定装置により測定された生体情報を収集・管理する医療データサーバを備える生体情報収集・管理システム(100)の構成を示す図である。
【図2】測定装置110の1つの具体例である体温計の外観構成を示す。
【図3】無線通信部の構成を示す図である。
【図4A】無線通信部における送信信号の制御方法を説明するための図である。
【図4B】無線通信部における送信信号の制御方法を説明するための図である。
【図5】共振信号の振幅増大のしくみを説明するための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル間の電磁結合により無線通信を行う無線通信装置であって、
前記コイルとコンデンサとが直列接続された回路部と、
前記回路部に電圧を印加するとともに、前記無線通信により送信しようとする情報に対応した送信信号を供給することで、前記コイルに印加される電圧信号を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記回路部に対して、前記コイルと前記コンデンサとにより定まる固有共振周波数の矩形波を、前記送信信号として供給することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記コイル周辺の磁界の変化により該コイルに誘起した電圧が、受信信号として、前記制御部に供給されることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−97461(P2008−97461A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280567(P2006−280567)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】